説明

静電気放電保護回路

【課題】ESDによる半導体内部回路の破壊を防止し、かつミリ波・準ミリ波帯のような高周波領域において当該半導体内部回路の高周波特性が劣化しないESD保護回路を提供する。
【解決手段】本発明の静電気放電保護回路は、半導体集積回路に接続され、静電気放電から前記半導体集積回路を保護する静電気放電保護回路であって、導電性半導体基板10と、前記導電性半導体基板10の上方に形成された誘電体層13bと、前記誘電体層13bの表面上に形成されている第2の配線層15とを備え、前記第2の配線層15は、一端がパッドに接続され、他端が前記半導体集積回路に接続された第1の信号線17と、一端が前記第1の信号線17に接続され、他端が接地された第2の信号線18とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種通信機器やレーダ等の高周波半導体装置内のMMIC( Monolithic Microwave Integrated Circuit)チップに搭載される静電気放電保護回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Si系半導体デバイスの微細化が進み、65nmCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の量産も実現している。CMOS技術の微細化により、トランジスタの使用可能周波数も次第に大きくなり、車載レーダやHDMI(High−Definition Multimedia Interface)無線システムなどの準ミリ波・ミリ波帯でのアプリケーションに向けて研究開発が進められている。
【0003】
ところで、静電気を帯電した物体が他の物体と接触し、それらの物体間に起こる放電現象はESD(Electron Static Discharge)と呼ばれ、ESDにより発生するサージ(ESDサージ)が半導体集積回路に入力されると、半導体集積回路を構成するトランジスタ等の素子が破壊される恐れがある。代表的なESDのモデルとしては、帯電した人体から半導体素子への放電をモデル化したHBM(Human Body Model)、帯電した装置から半導体素子への放電をモデル化したMM(Machine Model)、半導体自身に帯電した電荷が接地された物体に放電される様子をモデル化したCDM(Charge Device Model)の3種類がある。具体的には、HBMにより発生するESDサージは6〜7MHz、MMにより発生するESDサージは30MHz、CDMにより発生するESDサージは1GHz程度の周波数を持ち、これらはいずれもミリ波・準ミリ波帯の高周波領域に比べると比較的低周波領域で発生する信号といえる。
【0004】
ESDは、高電流が短時間の間に半導体素子に印加されるため、熱的破壊を起こすとともに、特にMOSトランジスタなどの場合は、ゲート酸化膜にESDによる高電界が印加されることにより絶縁破壊が起こり、デバイスの信頼性の面において大きな課題となっている。
【0005】
このようなESDによる半導体素子の破壊を防止するため、半導体集積回路の直前にESD保護回路とキャパシタとを用いる構成が知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
図8は、保護ダイオードを用いた従来のESD保護回路とキャパシタとの構成を示す回路図である。ESD保護回路103は、高周波信号線と電源電圧パッドとの間に接続されるESD保護ダイオード104と、高周波信号線とGNDとの間に接続されるESD保護ダイオード105とを備え、高周波信号入出力パッド101から入力されたESDサージを除去する。
【0007】
高周波信号入出力パッドから入力されたESDサージのうち、プラスに帯電したESDサージはESD保護ダイオード104を通り、またマイナスに帯電したESDサージはESD保護ダイオード105を通る。したがって、いずれに帯電したESDサージも外部へと放出されるので、半導体内部回路102へは入力されない。一方、高周波信号入出力パッドから入力された高周波信号の電圧振幅は小さいので、ダイオードがONにならない。よって、高周波信号入出力パッドから入力された高周波信号は外部には放出されず、半導体内部回路へと入力される。しかし、ESD保護ダイオード104及び105の容量により、高周波信号の損失が大きいという問題点がある。
【0008】
ここで、ESD保護回路103に加えてさらに、ESD保護回路103と半導体内部回路102との間にMIM(Metal−Insulator−Metal)容量素子などのキャパシタ106を挿入することにより、高周波信号の損失を低減する。このキャパシタ106は、まず直流信号カットの役割を持つ。さらに、キャパシタ106が半導体内部回路102の前段に配置されることにより、半導体内部回路102の絶縁破壊電圧が著しく増加し、さらに半導体内部回路102初段の負荷容量の増大効果も加わり、ESDサージ許容電流が著しく増大する。したがって、ESD耐性が一層改善され、ESD保護回路103の電流駆動能力を大きく削減することが可能となる。したがって、高周波信号入出力パッド101から入力されたESDサージ電流をESD保護回路103で完全に分岐する必要がなくなるため、ESD保護ダイオード104及び105のサイズを小さくできるので、ESD保護ダイオード104及び105の容量が小さくなる。
【0009】
このように、キャパシタ106を備えることで、ESD保護回路103による容量を低減することができ、高周波特性の劣化を防止し、かつESDによる半導体内部回路102の破壊も防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−197754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のESD保護回路では、キャパシタ106を半導体内部回路102前に挿入することにより、ESD保護ダイオード104及び105の容量を小さくすることができ、それによりESD保護回路による高周波特性の劣化を抑制するという対策を講じていた。このように、数GHz程度の高周波信号では、ESD保護ダイオード104及び105の容量を小さくすれば高周波特性の劣化を抑制することが可能である。
【0012】
しかしながら、準ミリ波、あるいは50GHzを超えるようなミリ波帯の高周波信号を扱う場合、図8に示したようにESD保護ダイオード104及び105が挿入され、わずかでも容量が付加されると、高周波特性が劣化するという問題点がある。
【0013】
図9は、ESD保護回路103の容量成分による損失の発生を示す図である。
【0014】
図9(a)は、ESD保護回路103に発生する容量を模式的に示した図である。同図において、キャパシタ111の容量値はESD保護ダイオード104の容量値、キャパシタ112の容量値はESD保護ダイオード105の容量値とする。なお、図9において図8と同じ構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0015】
図9(b)は、キャパシタ111及び112の容量値を変化させた場合のゲインを示すグラフである。同図では、キャパシタ111及び112を簡単のため理想的なキャパシタ素子としてシミュレーションを行い、高周波特性を確認している。また、半導体内部回路102は入出力50Ω整合1段アンプを使用しており、キャパシタ111及び112のキャパシタを接続していない場合は、例えば60GHz帯でのゲインは4.4dBである。
【0016】
キャパシタ111及び112の容量値は全く同じであり、その容量値を変動させたときの半導体内部回路102である1段アンプのゲインの変化を示している。縦軸は、高周波信号入出力パッド101に入力された信号に対する半導体内部回路102内の1段アンプのゲイン、横軸はキャパシタ111及び112それぞれの容量である。なお、このときの周波数は、60GHz帯である。
【0017】
この結果、キャパシタ111及び112の容量が30fF程度で特性が著しく劣化していることが確認される。
【0018】
本発明は、上記の問題点を鑑みて、ESDによる半導体内部回路の破壊を防止し、かつミリ波・準ミリ波帯のような高周波領域において当該半導体内部回路の高周波特性の劣化が発生しないESD保護回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の静電気放電保護回路は、半導体集積回路に接続され、静電気放電から前記半導体集積回路を保護する静電気放電保護回路であって、半導体基板と、前記半導体基板の上方に形成された第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の表面上に形成されている配線層とを備え、前記配線層は、一端がパッドに接続され、他端が前記半導体回路に接続された第1の信号線と、一端が前記第1の信号線に接続され、他端が接地された第2の信号線とを含む。
【0020】
これにより、第2の信号線の線路長に応じた周波数成分以外が、第1の信号線に発生する信号から除去される。静電気放電による信号は1GHz以下の低周波信号であるので、この構成により、第2の信号線を介して接地電位へと流れる。言い換えると、静電気放電による信号は半導体集積回路へは入力されない。その結果、静電気放電による半導体集積回路の破壊を防止できる。
【0021】
また、第2の信号線の線路長を、半導体集積回路の入出力信号の周波数に対応する長さにすることで、静電気放電保護回路において半導体集積回路の高周波特性の劣化を防止できる。
【0022】
また、さらに、前記誘電体層の裏面上に形成されている第1の接地電極層を備えてもよい。
【0023】
また、前記第1の接地電極層は、前記第1の誘電体層の前記半導体基板側に形成されてもよい。
【0024】
これにより、第1の信号線を伝達する高周波信号の半導体基板への漏れを防止するので、高周波信号の損失を低減できる。また、導電性基板に回路が形成されている場合、第1の接地電極層により当該回路からの影響を遮断できるので、静電気放電保護回路は、当該回路からの影響を受けにくくなる。
【0025】
また、前記静電気放電保護回路はさらに、前記第1の接地電極層と配線層とを前記第1の誘電体層を介して電気的に接続するコンタクトを備え、前記第2の信号線の他端は、前記コンタクトを介して前記第1の接地電極層に電気的に接続されてもよい。
【0026】
また、さらに、前記配線層上に形成されている第2の誘電体層と、前記第2の誘電体層上に形成されている第2の接地電極層とを備えてもよい。
【0027】
これにより、半導体集積回路をフリップチップ実装する場合に、フリップチップ実装基板及びアンダーフィル樹脂から半導体集積回路の入出力信号への影響を低減できる。
【0028】
また、前記第1の誘電体層及び前記第2の誘電体層のうち、前記第1の信号線又は前記第2の信号線と接している箇所は、第1の材料からなる粒子が第2の材料中に分散されたナノコンポジット膜を含んでもよい。
【0029】
誘電率の高いナノコンポジット膜を用いることで、第1の信号線及び第2の信号線の線路長を短くできる。したがって、ESD保護回路が小型化できる。
【0030】
また、前記第1の材料の粒径は1nm以上かつ200nm以下であってもよい。また、前記第1の材料はセラミクスであってもよい。この場合において、セラミクスはチタン酸ストロンチウムまたはチタン酸バリウムストロンチウムであってもよい。
【0031】
また、前記第2の材料は、ベンゾシクロブテン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリフェニレンオキシドであってもよい。
【0032】
また、前記第2の信号線は、線路長に応じた周波数成分以外を前記第1の信号線に発生する信号から除去し、前記線路長に応じた周波数成分は、20GHz以上のいずれかの周波数であってもよい。
【0033】
これにより、静電気放電によって発生する周波数が1GHz以下の信号が半導体集積回路に入力することを完全に遮断できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の静電気放電保護回路によれば、ESDによる半導体内部回路の破壊を防止し、かつミリ波・準ミリ波帯のような高周波領域において当該半導体内部回路の高周波特性が劣化しない静電気放電保護回路を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ESD保護回路の構成を示す断面図である。
【図2】ESD保護回路の構成の一例を示す図である。
【図3】ESD保護回路の回路構成を模式的に示す図である。
【図4】ESD保護回路及び入出力50Ω整合1段アンプの特性評価結果を示す図である。
【図5】ESD保護回路の回路構成の他の一例を模式的に示す図である。
【図6】変形例のESD保護回路の構成を示す断面図である。
【図7】変形例のESD保護回路の他の一例の構成を示す断面図である。
【図8】従来のESD保護回路とキャパシタとの構成を示す回路図である。
【図9】従来のESD保護回路の容量成分による損失の発生を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の静電気放電保護回路は、半導体集積回路に接続され、静電気放電から前記半導体集積回路を保護する静電気放電保護回路であって、半導体基板と、前記半導体基板の上方に形成された第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層の表面上に形成されている配線層とを備え、前記第2の配線層は、一端がパッドに接続され、他端が前記半導体回路に接続された第1の信号線と、一端が前記第1の信号線に接続され、他端が接地された第2の信号線とを含む。また、静電気放電保護回路はさらに、第1の誘電体層の裏面上に形成されている第1の接地電極層を備え、その第1の接地電極層は、第1の誘電体層の半導体基板側に形成されている。
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0038】
図1は実施形態に係るESD保護回路の構成を示す断面図である。図1において、ESD保護回路100は、例えばシリコン(Si)などの導電性半導体基板10と、誘電体層13a〜13c(以降、特に区別しない場合は誘電体層13)、第1の配線層14と、第2の配線層15と、第3の配線層16とを有する。なお、導電性半導体基板10は、導電性半導体基板部11と、導電性半導体配線部12とを有する。
【0039】
導電性半導体基板10は、例えばSi基板とSi基板上に形成された回路素子及び配線層とから構成される。
【0040】
誘電体層13は、樹脂が用いられ、具体的には、比誘電率及び誘電体損失が低い材料(例えばBCB(ベンゾシクロブテン))である。ただし、誘電体層13は、比誘電率及び誘電損失が低い材料であればよく、BCBに代えて、ポリイミド、テトラフルオロエチレンまたはポリフェニレンオキシド等を用いても構わない。誘電体層13のうち、誘電体層13b及び誘電体層13cは、第1の配線層14、第2の配線層15及び第3の配線層16とともにストリップライン構造を構成する誘電体に相当する。
【0041】
第1の配線層14は、誘電体層13a上に形成されている第1の接地電極層であり、ストリップライン構造を構成するグランド層に相当し、例えば、Al、Cu、Au、あるいはそれらを含む合金等で形成された膜である。第1の配線層14が接地されていることで、第2の配線層15に発生する電界が導電性半導体基板10内に進入して第2の配線層15を伝達する信号に損失が発生することを防止できる。
【0042】
第2の配線層15は、誘電体層13b上に形成され、信号を伝送する信号線であり、例えばAl又はCu等である。この第2の配線層15は、ストリップライン構造を構成する信号線に相当する。また、第2の配線層15は、主プロセスで導電性半導体基板10を形成した後のポストプロセスで形成されているので、第2の配線層15で構成された信号線は低損失な配線となる。具体的には、ポストプロセスで形成されることにより、第2の配線層15の積層方向の厚みを、例えば3〜10μmや4〜6μmなど厚くすることができ、その結果、信号線は低抵抗となる。この第2の配線層15は、第1の配線層14と10μm以上離間されて形成されている。なお、15μm以上離間されて形成されていることが好ましい。
【0043】
第3の配線層16は、誘電体層13c上に形成されている第2の接地電極層であり、第1の配線層14と同様にストリップライン構造を構成するグランド層に相当し、例えば、Al、Cu、Au、あるいはそれらを含む合金等で形成された膜である。第3の配線層16がグランド層となっていることで、ESD保護回路100をフリップチップ実装する際、実装基板やアンダーフィル樹脂などの影響を受けないようにできる。この第3の配線層16は、第2の配線層15と10μm以上離間されて形成されている。なお、15μm以上離間されて形成されていることが好ましい。
【0044】
なお、第3の配線層16は、グランド層としなくてもよい。この場合、第2の配線層15は、第1の配線層14と、誘電体層13bとともに、マイクロストリップライン構造となる。また、この場合、第3の配線層16を除去しても構わない。
【0045】
図2は、ESD保護回路100の構成の一例を示す図である。同図に示すように、第2の配線層15は、第1の信号線17と3つの第2の信号線18とを含む。
【0046】
第1の信号線17は、一端がパッドに接続され、他端が半導体内部回路に接続され、半導体内部回路とパッドとの間で、高周波信号を伝送する。
【0047】
第2の信号線18はそれぞれ、一端が第1の信号線17に接続され、他端がコンタクト19を介して第1の配線層14及び第3の配線層16に接続されている。この第2の信号線18は、線路長(図中のx方向の長さ)に応じた周波数以外を、第1の信号線17から除去する。
【0048】
図3は、ESD保護回路100の回路構成を模式的に示す図である。図3において、図8と同じ構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0049】
ESD保護回路100は、第1のストリップライン21と、第2のストリップライン22とを有する。なお、同図に示す第1のストリップライン21を全て合わせたものが有する特性(例えば、容量値、インダクタンス及び伝送損失など)は、図2に示した第1の信号線17を信号線とするストリップライン構造が有する特性に対応する。また、第2のストリップライン22それぞれが有する特性は、図2に示した第2の信号線18を信号線とするストリップライン構造が有する特性に対応する。
【0050】
なお、同図においては、コンタクト19に発生する寄生容量及び寄生インダクタンスはないものとし、さらに、コンタクト19の長さもないものとしている。
【0051】
第2のストリップライン22は、ショートスタブとして用いられる。具体的には、第1のストリップライン21は第2のストリップライン22を介してグランドに接続されているので、第1のストリップライン21を伝送する信号のうち、低周波信号は全て外部に放出される。
【0052】
また、第2のストリップライン22の長さを、例えば60GHzの高周波信号に対しては、第1のストリップライン21と第2のストリップライン22との接続点において、第2のストリップライン22側がオープンに見えるように調整する。言い換えると、第2の信号線18の長さを調節する。これにより、第1のストリップライン21を伝送する信号のうち60GHzの高周波信号は、第1のストリップライン21と第2のストリップライン22との接続点で損失することなく半導体内部回路102に入力される。
【0053】
このように、第2のストリップライン22は、第1のストリップライン21に発生している信号のうち、線路長に応じた周波数帯及びその周波数帯付近の周波数以外を、当該信号の進行方向に対して第2のストリップライン22の接続点以降の第1のストリップライン21から除去する。言い換えると、第2のストリップライン22は、第2の信号線18の線路長に応じた周波数帯及びその周波数帯付近以外の周波数のみを接続点以降の第1のストリップライン21へ通過させる。
【0054】
次に、上記のような構成を有するESD保護回路100を、60GHz帯の入出力50Ω整合1段アンプに挿入した場合の特性について説明する。
【0055】
図4は、ESD保護回路100及び入出力50Ω整合1段アンプの特性評価結果を示す図である。
【0056】
図4(a)は、従来のESD保護ダイオード104及び105を有するESD保護回路103を用いた場合の特性を示す表である。なお、このESD保護ダイオード104及び105は導電性半導体基板10を形成する主プロセスにおいて形成されている。図4(b)は、本発明のESD保護回路100を用いた場合の特性を示す表である。
【0057】
具体的には、図4(a)及び図4(b)は、ESD保護回路103又は100を、例えば60GHz帯の入出力50Ω整合1段アンプに挿入し、ESD保護回路103又は100を含む50Ω整合1段アンプの60GHzにおける利得を示す表である。ここで、図4(b)に示す入出力整合回路をポストプロセス配線にて構成した50Ω整合1段アンプの60GHz帯でのゲインは5.6dBである。この50Ω整合1段アンプのゲインが、従来例にて示した図9の入出力整合回路が主プロセスで形成された50Ω整合1段アンプの60GHz帯でのゲイン(4.4dB)より向上しているのは、50Ω整合1段アンプ内の配線(入出力整合回路を含む)も、ポストプロセスで形成されたので、50Ω整合1段アンプ内で生じる損失が低減したからである。
【0058】
図4(a)から、60GHzにおいて、従来のESD保護回路103を用いた場合の損失は0.7dBである。これに対し、図4(b)から、ESD保護回路100を挿入した際の60GHzでのゲインは5.5dBとなり、ESD保護回路100での損失は約0.1dBである。このように、ESD保護回路100は、高周波特性の劣化を著しく抑制することができた。
【0059】
図4(c)は、本発明のESD保護回路100の周波数特性を示すグラフであり、周波数に対するESD保護回路100を含む1段アンプのゲインが示されている。同図より、1GHz以下の低周波領域でのゲインが抑制されていることが確認できる。つまり、ESDにより発生した信号は、ESD保護回路100において十分に除去されている。
【0060】
このように、本発明のESD保護回路100は、第2の信号線18の長さを、半導体内部回路102の入出力信号の周波数帯及びその周波数帯付近の周波数に対応する長さにすることで、半導体内部回路102の入出力信号の周波数帯及びその周波数帯付近の周波数以外の周波数を除去できる。これにより、ESDにより発生した低周波信号が半導体内部回路102に入力されてESDが破壊されることを防止する。
【0061】
また、導電性半導体基板10と第2の配線層15との間にグランド層である第1の配線層14があるので、第1の信号線17を伝達する高周波信号が導電性半導体基板10に漏れることを防止でき、高周波信号の損失を低減できる。
【0062】
なお、本実施形態のESD保護回路100が備えるショートスタブ、すなわち第2のストリップライン22は3段構成としているが、この第2のストリップライン22は何段連ねても構わない。図5のように第2のストリップライン22を1段構成とするESD保護回路100’であっても、ESD保護回路100’での損失はほぼ発生しない。しかし、段数を連ねると、より確実にESDを外部に除去することが可能となる。
【0063】
(変形例)
本変形例のESD保護回路は、誘電体層13b及び誘電体層13cのうち、第1の信号線17又は第2の信号線18と接している箇所は、第1の材料からなる粒子が第2の材料中に分散されたナノコンポジット膜を含む。
【0064】
図6は、本変形例のESD保護回路の構成を示す断面図である。図6において、図1と同じ構成要素には同一の符号を附すことにより説明を省略する。
【0065】
同図に示すように本変形例のESD保護回路200Aにおいて、第2の配線層15の周囲にはナノコンポジット膜31が形成されている。具体的には、ナノコンポジット膜31は、第2の配線層15と第1の配線層14との間と、第2の配線層15と第3の配線層16との間に形成されており、第2の配線層15を囲んでいることが好ましい。ここでいうナノコンポジット膜31は、比誘電率が大きい第1の材料からなる微細粒子が、比誘電率及び誘電損失が小さい第2の材料中に分散した材料からなる膜である。
【0066】
本変形例では、第1の材料にチタン酸ストロンチウム(STO)を用い、第2の材料にBCBを用いた例について説明する。ナノコンポジット膜31の比誘電率は、BCB膜中に分散させる微細粒子の比誘電率及び散量によって制御することができる。このため、比誘電率を数10〜数1000の範囲で自由に設定することができる。
【0067】
さらに、ナノコンポジット膜31は、ベースがBCB膜であるため、BCB膜と同様にスピンコート法により容易に形成することができる。このため、従来の製造工程を変更することなく用いることが可能である。また、ナノコンポジット膜31は、BCB膜にSTOを分散させて形成するため、特定の領域を選択して形成することも可能である。ナノコンポジット膜31の厚さは、例えば5μm以上又は10μm以上であり、幅は、例えば5μm〜60μm又は20μm〜40μmである。なお、ナノコンポジット膜31の幅は、他の配線に影響が出ないならさらに長くても良い。
【0068】
図1では、高周波信号線として使用する第2の配線層15の周囲の誘電体層13b及び13cが比誘電率が低いBCBを使用しているため、第1の信号線17及び第2の信号線18の線路長が長くなり、ESD保護回路100のサイズが大きくなる。図6のようにESD保護回路200Aを構成する第2の配線層15で形成された第1の信号線17及び第2の信号線18の周りを選択的に比誘電率の高いナノコンポジット膜31とすることにより、ESD保護回路200Aのサイズを小さくすることが可能である。
【0069】
なお、本変形例において、ナノコンポジット膜31に用いる第1の材料にSTOを用いたが、比誘電率が大きく、微細粒子に加工できるものであればどのようなものでも良い。例えば、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)またはチタン酸バリウム(BTO)等を用いることができ、その他にも比誘電率が数10から数100程度のセラミクス等を用いることができる。また、比誘電率が異なる複数の材料を用いても良い。
【0070】
また、第1の材料の粒径は、第2の材料中に練りこみ分散させることができればよく、粒径が小さいほど好ましい。具体的には、1μm以下が好ましく、1nm〜200nm程度の範囲であれば特に良好な特性を得ることができる。
【0071】
また、第1の材料の濃度は、必要とする比誘電率により選択すればよいが、例えばSTOとBCBとの組み合わせの場合には90%程度まで高くすることができる。
【0072】
また、本変形例において、ナノコンポジット膜31は、第1の信号線17及び第2の信号線18の周りを囲んでいるとしたが、第1の信号線17及び第2の信号線18と第1の配線層14との間と、第1の信号線17及び第2の信号線18と第3の配線層16との間とに形成されているだけでもよい。つまり、ナノコンポジット膜31は、誘電体層13と第2の配線層15とが接する箇所のうち、第1の配線層14または第3の配線層16と対向する第2の配線層15の面の周囲にのみ形成されていてもよい。
【0073】
また、図7に示すように、ナノコンポジット膜31が第1の配線層14及び第3の配線層16に接していてもよい。
【0074】
なお、本発明は、半導体内部回路102が、例えば20GHz以上の高周波で動作している場合に効果を奏するが、特に50GHz以上の高周波においては効果が顕著である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係るESD保護回路によれば、寄生容量が付加するような素子を使用することなく、低損失の伝送線路を用いることで、半導体内部回路をESDから高周波特性を劣化させることなく保護することができ、各種通信機器やレーダ装置などの半導体装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 導電性半導体基板
11 導電性半導体基板部
12 導電性半導体配線部
13、13a、13b、13c 誘電体層
14 第1の配線層
15 第2の配線層
16 第3の配線層
17 第1の信号線
18 第2の信号線
19 コンタクト
21 第1のストリップライン
22 第2のストリップライン
31 ナノコンポジット膜
100、100’、103、200A、200B ESD保護回路
101 高周波信号入出力パッド
102 半導体内部回路
104、105 ESD保護ダイオード
106、111、112 キャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路に接続され、静電気放電から前記半導体集積回路を保護する静電気放電保護回路であって、
半導体基板と、
前記半導体基板の上方に形成された第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層の表面上に形成されている配線層とを備え、
前記配線層は、
一端がパッドに接続され、他端が前記半導体集積回路に接続された第1の信号線と、
一端が前記第1の信号線に接続され、他端が接地された第2の信号線とを含む
静電気放電保護回路。
【請求項2】
さらに、前記誘電体層の裏面上に形成されている第1の接地電極層を備える
請求項1記載の静電気放電保護回路。
【請求項3】
前記第1の接地電極層は、前記第1の誘電体層の前記半導体基板側に形成されている
請求項1記載の静電気放電保護回路。
【請求項4】
前記静電気放電保護回路はさらに、前記第1の接地電極層と前記配線層とを前記第1の誘電体層を介して電気的に接続するコンタクトを備え、
前記第2の信号線の他端は、前記コンタクトを介して前記第1の接地電極層に電気的に接続される
請求項2または3に記載の静電気放電保護回路。
【請求項5】
さらに、前記配線層上に形成されている第2の誘電体層と、
前記第2の誘電体層上に形成されている第2の接地電極層とを備える
請求項2〜4のいずれか1項に記載の静電気放電保護回路。
【請求項6】
前記第1の誘電体層及び前記第2の誘電体層のうち、前記第1の信号線又は前記第2の信号線と接している箇所は、第1の材料からなる粒子が第2の材料中に分散されたナノコンポジット膜を含む
請求項5記載の静電気放電保護回路。
【請求項7】
前記第1の材料の粒径は、1nm以上かつ200nm以下である
請求項6記載の静電気放電保護回路。
【請求項8】
前記第1の材料はセラミクスである
請求項7記載の静電気放電保護回路。
【請求項9】
前記セラミクスは、チタン酸ストロンチウムまたはチタン酸バリウムストロンチウムである
請求項8記載の静電気放電保護回路。
【請求項10】
前記第2の材料は、ベンゾシクロブテン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリフェニレンオキシドである
請求項6〜9のいずれか1項に記載の静電気放電保護回路。
【請求項11】
前記第2の信号線は、線路長に応じた周波数帯及びその周波数帯付近の周波数以外を前記第1の信号線に発生する信号から除去し、
前記線路長に応じた周波数帯及びその周波数帯付近の周波数は、20GHz以上のいずれかの周波数である
請求項1〜10のいずれか1項に記載の静電気放電保護回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−251669(P2010−251669A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102351(P2009−102351)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】