説明

非分離型アンギュラ玉軸受

【課題】組立時の加熱温度が低くて作業が容易であり、組立時に玉に傷が入らず、取扱時に外輪または内輪が分離せず、かつ、使用時の軸受寿命が長い、非分離型アンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】本発明の非分離型アンギュラ玉軸受1は、玉4を内輪3に寄せたときに玉の配列する外接円の半径、または、外輪2の軌道面の最大半径、(外輪の加熱温度−組立時の室温)、外輪の材料の熱膨張係数、および、ラジアル内部隙間に応じて、かかり代の上下限値を適切に設定するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪を加熱することによって内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てる非分離型アンギュラ玉軸受に関し、特にかかり代を特定した非分離型アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
アンギュラ玉軸受は、転動体に玉を用いたアンギュラ接触型のラジアル軸受であり、それを構成する内輪または外輪の少なくとも一方において、軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成されている(例えば、特許文献1を参照)。
そして、非分離型アンギュラ玉軸受では、かかり代(以下、半径分の値を示す)の寸法が設定されている。具体的には、外輪にカウンターボアが形成された非分離型アンギュラ玉軸受の場合では、玉を内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径と外輪のカウンターボアの最小半径との差を、内輪にカウンターボアが形成された非分離型アンギュラ玉軸受の場合では、内輪のカウンターボアの最大半径と玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径との差を、かかり代と呼ぶ。組立の際、非分離型アンギュラ玉軸受では、外輪が加熱されて熱膨張して玉がかかり代を乗り越えることによって、内外輪の軌道面間に玉が組み込まれる。そして、組立後の取扱時において、かかり代の存在によって、外輪あるいは内輪が外れにくくなって、非分離型アンギュラ玉軸受が実現される。
従来、外輪にカウンターボアを形成した非分離型アンギュラ玉軸受において、かかり代:W(mm)を、0.005Dw≦W≦0.030Dw、とすることが提案されている(特許文献2を参照)。ここで、Dwは玉の直径である。また、組立時の外輪の加熱温度として、100℃程度の温度が推奨されている。
【特許文献1】実用登録2069438(第6図、第7図)
【特許文献2】特開2005−009643
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、非分離型アンギュラ玉軸受において、かかり代が小さい場合、組立時の外輪の加熱温度を低くできるために、軸受の組立は容易であるが、取扱時に外輪あるいは内輪が外れ易いとい問題がある。反対に、かかり代が大きい場合、組立時の外輪の加熱温度を高くする必要があるために、軸受の組立が困難であり、加熱温度が不足した際には、玉に傷が入るという問題がある。
そして、従来技術(特開2005−009643)の問題点を、呼び番号7906Aの外輪にカウンターボアを形成したアンギュラ玉軸受の場合で、図1を用いて説明する。図では、内輪の中心軸と外輪の中心軸を重ねている。図1において、1は軸受、2は外輪、3は内輪、4は玉である。なお、保持器は省略した。
7906Aの外形寸法は、内径×外径×幅=30mm×47mm×9mm、玉の直径:Dw=4.763mm、接触角30度に対応するラジアル内部隙間:Δr=0.0574mmである。玉の直径から、かかり代Wの推奨値は、0.024mm≦W≦0.143mmと計算される。
【0004】
ここで、推奨されるかかり代の最大値であるW=0.143mmの場合において、外輪を100℃に加熱した際のかかり代Hを計算する。軸受の材料は軸受鋼(SUJ2)とする。加熱前の諸寸法は次のとおりである。
・軸受の外周と内周の中央半径:R=(30+47)/4=19.250mm
・玉を内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径
:R=R+Dw/2−Δr/4=21.617mm
・外輪のカウンターボアの最小半径:R=R−W=21.474mm
室温を20℃、軸受の材料(SUJ2)の線膨張係数:α=12.5×10−6(℃−1)とすると、
・100℃における外輪のカウンターボアの最小半径
:R=R×(1+α×(100−20))=21.495mm
従って、
100℃に加熱した際のかかり代:H=R−R=0.122mm
となる。0.122mmのかかり代(H)は大きな値であり、100℃の加熱温度では、軸受の組立は容易ではなく、無理に組み立てると玉の傷の発生は避けられないとい問題がある。仮に、かかり代W0.143mmの外輪において、加熱時のかかり代Hを0mmとするためには、約550℃に加熱する必要があり、現実的には組立は不可能であるという問題もある。
【0005】
また、100℃加熱時のかかり代(H)を0mmとするためには、かかり代Wは0.021mmとする必要があるが、この値は、従来技術(特開2005−009643)が示すかかり代Wの最小値0.024mmを下回ることとなって、かかり代が実現しないという問題もある。
更に、従来技術(特開2005−009643)におけるかかり代Wの最小値0.024mmを検討する。組立後における軸受の状態は図1のとおりである。図示しない軸受の下半分にも、ラジアル内部隙間の半分の値である0.0287mmが存在する。そのため、軸受を実際に取り扱う際には、図1において、軸受の内輪は、0.0287mm下に下がり、玉の配列する外接円も0.0287mm下に移動する。そのため、玉の配列する外接円の位置は、外輪におけるカウンターボアの最小半径の位置より、下側に位置することとなり、外輪が外れ易いという問題もある。
【0006】
このように、従来技術の非分離型アンギュラ玉軸受では、加熱温度が低くて作業が容易であること、組立時に玉に傷が発生しないこと、取扱時に分離しないことを完全に満足できないという問題がある。
そして、玉に固体潤滑膜が形成された非分離型アンギュラ玉軸受においては、組立時に固体潤滑膜が損傷し、使用時の軸受寿命が短くなるという問題がある。また、固体潤滑膜が玉に形成されておらず、内輪および外輪の軌道面に形成された非分離型アンギュラ玉軸受においても、組立時に玉が損傷した場合は、玉の傷が内輪および外輪の軌道面に形成された固体潤滑膜を損傷させ、使用時の軸受寿命が短くなるという問題がある。更に、組立時の外輪の加熱温度が高くなるほど、加熱時に固体潤滑膜が酸化劣化して、使用時の軸受寿命が短くなるという問題がある。このため、玉の表面、内輪の軌道面、外輪の軌道面のいずれか一カ所以上に固体潤滑膜を形成した従来の非分離型アンギュラ玉軸受においては、組立時に固体潤滑膜が損傷したり、酸化劣化したりすることによって、固体潤滑膜の寿命が低下して使用時の軸受寿命が短くなるという問題がある。
このように、従来の非分離型アンギュラ玉軸受は、かかり代が適切に設計されていないため、組立時の加熱温度が高くて作業が困難である、組立時に玉に傷が入る、取扱時に外輪または内輪が分離する、そして、使用時の軸受寿命が短い、という問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、かかり代を適切に設計することによって、組立時の加熱温度が低くて作業が容易である、組立時に玉に傷が入らない、取扱時に外輪または内輪が分離しない、そして、使用時の軸受寿命が長い、という非分離型アンギュラ玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は次のように構成したものである。
なお、以下に記載の半径、直径、かかり代、隙間などの寸法の単位はmmである。
請求項1に記載の発明は、軸受鋼からなる外輪の内側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、
前記玉を前記内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径Rと前記外輪のカウンターボアの最小半径との差であるかかり代を0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.25×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたものである。
請求項2に記載の発明は、軸受鋼からなる外輪と対向する内輪の外側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって前記内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、前記外輪の軌道面の最大半径をRとするときに、前記内輪のカウンターボアの最大半径と前記玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径との差であるかかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.25×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたものである。
請求項3に記載の発明は、マルテンサイトステンレス鋼からなる外輪の内側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって前記内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、前記玉を前記内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径Rと前記外輪のカウンターボアの最小半径との差であるかかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.01×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたものである。
請求項4に記載の発明は、マルテンサイトステンレス鋼からなる外輪と対向する内輪の外側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって前記内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、前記外輪の軌道面の最大半径をRとするときに、前記内輪のカウンターボアの最大半径と前記玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径との差であるかかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.01×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたものである。
請求項5に記載の発明は、外輪の加熱温度と組立時の室温との差を、150℃以下としたものである。
請求項6に記載の発明は、前記玉の表面、前記内輪および外輪の軌道面のいずれか一カ所以上に固体潤滑膜を形成したものである。
【発明の効果】
【0009】
まず、かかり代の上限値に関する効果を説明する。玉に固体潤滑膜を形成したアンギュラ玉軸受の実験から、かかり代が0.010mm以下であれば、固体潤滑膜に傷が発生することがないことを見出した。これに基づくと、
請求項1および3に記載の発明おいては、外輪を加熱した際にかかり代の熱膨張変化を生じせしめる「外輪のカウンターボアの最小半径」の寸法に近しい寸法である「玉を内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径」に着目し、(外輪の加熱温度−組立時の室温)および外輪の材料の線膨張係数に応じたかかり代を設定したので、加熱時のかかり代が0.010mm以下となり、組立の際に、玉に傷が発生することはない。
また、請求項2および4に記載の発明おいては、外輪を加熱した際にかかり代の熱膨張変化を生じせしめる「外輪の軌道溝の最大半径」の寸法に着目し、(外輪の加熱温度−組立時の室温)および外輪の材料の線膨張係数に応じたかかり代を設定したので、加熱時のかかり代が0.010mm以下となり、組立の際に、玉に傷が発生することはない。
次に、かかり代の下限値に関する効果を説明する。まず、玉に固体潤滑膜を形成したアンギュラ玉軸受の実験から、かかり代が0.0125mm以上であれば、軸受が分離しにくいことを見出した。しかし、かかり代が0.0125mm以上であっても、ラジアル内部隙間の半分の値が0.0125mmより大きい場合は、軸受が分離し易いことも見出した。
この結果から、請求項1から4に記載の発明おいては、かかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値、のいずれか大きい数値以上に設定したので、組立後の取扱の際に、軸受が分離しにくくなる。
請求項5に記載の発明おいては、外輪の加熱温度と組立時の室温との差を150℃以下としたことによって、前記の効果に加えて、加熱温度が低くなって更に組立作業が容易となる。
請求項6に記載の発明おいては、玉の表面、内輪の軌道面、外輪の軌道面のいずれか一カ所以上に固体潤滑膜を形成した非分離型アンギュラ軸受において、組立時の加熱の際に、固体潤滑膜の傷の発生が避けられると共に、固体潤滑膜の酸化劣化が軽減されるために、使用時の軸受寿命が長くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の方法の具体的実施例について、図、表に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の非分離型アンギュラ玉軸受の中から、外輪の内側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成された第1の実施例について、その断面図を図1に示す。図において、1は非分離型アンギュラ玉軸受、2は外輪、3は内輪、4は玉、5は外輪2のカウンターボアである。
外輪2の回転中心軸と内輪3の回転中心軸を重なっており、保持器の図示は省略してある。Rは、軸受1の外周と内周の中央半径、Rは、玉4を内輪3に寄せたときに玉4の配列する外接円の半径、Rは、外輪2のカウンターボア5の最小半径である。また、ラジアル内部隙間をΔrとすると、玉4と外輪2との間には、Δr/2の隙間が存在し、玉4の中心は、ピッチ円半径RからΔr/4だけ下がった所に位置する。そして、Wは、玉4を内輪3に寄せたときに玉4の配列する外接円の半径Rと外輪2のカウンターボア5の最小半径Rとの差であるかかり代である。
軸受1の組立は次のように行う。内輪3に玉4を寄せた状態において、高周波誘導加熱装置等によって所定温度に加熱した外輪2を、カウンターボア5から挿入して組み立てる。外輪2を加熱することによって、外輪2のカウンターボア5の最小半径はRに膨張し、RとRとの差が、加熱時のかかり代Hとなる。なお、RとHは図示しない。加熱時のかかり代Hは、マイナスの値も存在する。
通常、加熱時のかかり代Hは、0mm以下であれば、組立時に玉に傷が入ることはないと考えられ。しかし、加熱時のかかり代Hを不必要にマイナス側の大きな数値にすることは、加熱温度が高くなり組立が困難になること、または、組立後のかかり代Wが小さくなって、軸受が分離し易くなるという恐れがある。
【0012】
ここで、玉に固体潤滑膜を形成したアンギュラ玉軸受を用いて非加熱での組立実験を行った。その結果、非加熱時のかかり代Wが、0.010mm以下であれば、玉に形成した固体潤滑膜に傷が入らないことを見出した。Wが若干のプラス側の数値まで許容される理由は、実際の組立時に内輪あるいは外輪が傾いて、図1の状態からずれることによって生じると考えられる。この結果から、加熱時のかかり代Hが、0.010mm以下であれば、玉に形成した固体潤滑膜に傷が入らないと推測される。
そこで、請求項1および3に記載の発明おいては、外輪を加熱した際にかかり代の熱膨張変化を生じせしめる「外輪のカウンターボアの最小半径」の寸法に近しい寸法である「玉を内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径:R」に着目し、外輪の材料別に、(外輪の加熱温度−組立時の室温):ΔT(℃)とRに対して、かかり代の最大値を次式で示す値とした。
【0013】
・軸受鋼の場合:1.25×10−5×R×ΔT+0.010
・マルテンサイトステンレス鋼の場合:1.01×10−5×R×ΔT+0.010
従来技術の説明の際に使用した#7906の場合で、かかり代の数値を検討する。軸受の材料が軸受鋼(SUJ2)で、組立室の室温を20℃、加熱温度を200℃として、前述したRの数値:21.617mmを用いると、かかり代:Wは、
1.25×10−5×21.617×180+0.010=0.0586mmとなる。
そして、外輪のカウンターボアの最小半径:R=R−W=21.558mmとなる。室温を20℃、軸受鋼(SUJ2)の線膨張係数:α=12.5×10−6(℃−1)とすると、200℃における外輪のカウンターボアの最小半径:Rは、
×(1+α×(200−20))=21.607mm
となり、200℃に加熱した際のかかり代:H=R−R=0.010mm
となる。従って、組立時に玉に傷が入ることがない。更に、加熱温度を150℃に下げる場合は、かかり代を0.0452mmに設定すればよく、加熱温度が下がることで組立作業が容易となる。
【0014】
次に、かかり代の下限値の設定について説明する。我々は、玉に固体潤滑膜を形成したアンギュラ玉軸受を用いて非加熱での組立実験を行った。その結果、非加熱時のかかり代Wが、0.0125mm以上であれば、軸受が分離しにくいことを見出した。同時に、かかり代が0.0125mm以上であっても、ラジアル内部隙間の半分の値より大きい場合は、軸受が分離し易いことも見出した。組立後における軸受の状態は図1のとおりである。図示しない軸受の下半分にも、ラジアル内部隙間の半分の値が存在する。そのため、軸受を実際に取り扱う際に、図1において、軸受の内輪は、ラジアル内部隙間の半分の値だけ下に下がり、玉の配列する外接円も同じ寸法だけ移動する。そのため、かかり代が0.0125mm以上の場合であっても、ラジアル内部隙間の半分の値が0.0125mmより大きい場合は、軸受が分離し易いことになる。
従って、かかり代の下限値を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値、のいずれか大きい数値に設定したので、組立後の取扱の際に、軸受が分離しにくくなる。
【実施例2】
【0015】
図2は、本発明の第2の実施例を示す断面図である。
本実施例は、非分離型アンギュラ玉軸受の中から、内輪の外側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成された例である。図において、1は非分離型アンギュラ玉軸受、2は外輪、3は内輪、4は玉、6は内輪3のカウンターボアである。図において、外輪2の回転中心軸と内輪3の回転中心軸を重なっており、保持器の図示は省略してある。Rは、軸受1の外周と内周の中央半径、Rは、内輪3のカウンターボア6の最大半径、Rは、玉4を外輪2に寄せたときに玉4の配列する内接円の半径、Rは、外輪2の軌道溝の最大半径である。また、ラジアル内部隙間をΔrとすると、玉4と内輪3との間には、Δr/2の隙間が存在し、玉4の中心は、ピッチ円半径RからΔr/4上がった所に位置する。そして、Wは、玉4を外輪2に寄せたときに玉4の配列する内接円の半径Rと内輪3のカウンターボア6の最大半径Rとの差であるかかり代である。
軸受1の組立は次のように行う。外輪2に玉4を寄せた状態において、高周波誘導加熱装置等によって所定温度に外輪2を加熱し、そこに内輪3をカウンターボア6側から挿入して組み立てる。外輪2を加熱することによって、外輪2の軌道溝の最大半径Rが膨張し、その結果、玉4が図の上側に移動して、玉4を外輪2に寄せたときに玉4の配列する内接円の半径がRに大きくなる。そして、内輪3のカウンターボア6の最大半径RとRとの差が、加熱時のかかり代Hとなる。なお、RとHは図示しない。加熱時のかかり代Hは、マイナスの値も存在する。
【0016】
通常、加熱時のかかり代Hは、0mm以下であれば、組立時に玉に傷が入ることはないと考えられ。しかし、加熱時のかかり代Hを不必要にマイナス側の大きな数値にすることは、加熱温度が高くなり組立が困難になること、または、組立後のかかり代Wが小さくなって、軸受が分離し易くなるという恐れがある。
ここで、玉に固体潤滑膜を形成したアンギュラ玉軸受を用いて非加熱での組立実験を行った結果、非加熱時のかかり代Wが、0.010mm以下であれば、玉に形成した固体潤滑膜に傷が入らないことを見出した。Wが若干のプラス側の数値まで許容される理由は、実際の組立時に内輪あるいは外輪が傾いて、図1の状態からずれることによって生じると考えられる。この結果から、加熱時のかかり代Hが、0.010mm以下であれば、玉に形成した固体潤滑膜に傷が入らないと推測される。
そこで、請求項2および4に記載の発明おいては、外輪を加熱した際にかかり代の熱膨張変化を生じせしめる「外輪の軌道溝の最大半径R」に着目し、外輪の材料別に、(外輪の加熱温度−組立時の室温):ΔT(単位℃)とRに対して、かかり代の最大値を次式で示す値とした。
【0017】
・軸受鋼の場合:1.25×10−5×R×ΔT+0.010
・マルテンサイトステンレス鋼の場合:1.01×10−5×R×ΔT+0.010
従来技術の説明の際に使用した#7906の場合で、かかり代の数値を検討する。軸受の材料が軸受鋼(SUJ2)で、組立室の室温を20℃、加熱温度を200℃とした。玉の直径をDw、ラジアル内部隙間をΔrとすると加熱前の諸寸法は次のとおりである。
・軸受の外周と内周の中央半径:R=(30+47)/4=19.250mm
・玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径
:R=R−Dw/2+Δr/4=16.883mm
・外輪の軌道溝の最大半径
:R=R+Dw/2+Δr/4=21.646mm
これより、かかり代:Wは、
1.25×10−5×21.646×180+0.010=0.0587mmとなる。
そして、内輪のカウンターボアの最大半径:R=R+W=16.942mmとなる。室温を20℃、軸受鋼(SUJ2)の線膨張係数:α=12.5×10−6(℃−1)とすると、200℃における玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径Rは、
+(R×α×(200−20))=16.932mm
となり、200℃に加熱した際のかかり代:H=R−R=0.010mm
となる。従って、組立時に玉に傷が入ることがない。更に、加熱温度を150℃に下げる場合は、かかり代を0.0452mmに設定すればよく、加熱温度がさがることで組立作業が容易となる。
【0018】
次に、かかり代の下限値の設定について説明する。我々は、玉に固体潤滑膜を形成したアンギュラ玉軸受を用いて非加熱での組立実験を行った。その結果、非加熱時のかかり代Wが、0.0125mm以上であれば、軸受が分離しにくいことを見出した。同時に、かかり代が0.0125mm以上であっても、ラジアル内部隙間の半分の値より大きい場合は、軸受が分離し易いことも見出した。組立後における軸受の状態は図1のとおりである。図示しない軸受の下半分にも、ラジアル内部隙間の半分の値が存在する。そのため、軸受を実際に取り扱う際に、図1において、軸受の内輪は、ラジアル内部隙間の半分の値だけ下に下がり、玉の配列する外接円も同じ寸法だけ移動する。そのため、かかり代が0.0125mm以上の場合であっても、ラジアル内部隙間の半分の値が0.0125mmより大きい場合は、軸受が分離し易いことになる。
従って、かかり代の下限値を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間(単位mm)の半分の値、のいずれか大きい数値に設定したので、組立後の取扱の際に、軸受が分離しにくくなる。
そして、玉の表面、内輪の軌道面、外輪の軌道面のいずれか一カ所以上に固体潤滑膜を形成した非分離型アンギュラ軸受においては、組立時の加熱の際に、固体潤滑膜の傷の発生が避けられると共に、固体潤滑膜の酸化劣化が軽減されるために、使用時の軸受寿命が長くなる。
【0019】
以上に述べたように、外輪を加熱することによって内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てる非分離型アンギュラ玉軸受において、玉を内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径、または、外輪の軌道面の最大半径、(外輪の加熱温度−組立時の室温)、外輪の材料の熱膨張係数、それから、ラジアル内部隙間に応じて、かかり代を適切に設計することによって、組立時の加熱温度が低くて作業が容易である、組立時に玉に傷が入らない、そして、取扱時に外輪または内輪が分離しない、という非分離型アンギュラ玉軸受を提供することができる。
特に、玉の表面、内輪の軌道面、外輪の軌道面のいずれか一カ所以上に固体潤滑膜を形成した非分離型アンギュラ玉軸受においては、上記の方策によって、組立時の加熱温度が低くて作業が容易である、組立時に玉に傷が入らない、取扱時に外輪または内輪が分離しない、そして、使用時の軸受寿命が長い、という非分離型アンギュラ玉軸受を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
今回の実施例は、潤滑油や潤滑用グリースで潤滑される非分離型アンギュラ玉軸受に適している。そして、固体潤滑膜で潤滑される非分離型アンギュラ玉軸受に対して、さらに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例を示す非分離型アンギュラ玉軸受の断面図
【図2】本発明の第2の実施例を示す非分離型アンギュラ玉軸受の断面図
【符号の説明】
【0022】
1 非分離型アンギュラ玉軸受
2 外輪
3 内輪
4 玉
5 外輪のカウンターボア
6 内輪のカウンターボア
軸受の外周と内周の中央半径
玉を内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径
外輪のカウンターボアの最小半径
内輪のカウンターボアの最大半径
玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径
外輪の軌道面の最大半径
W かかり代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受鋼からなる外輪の内側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、
前記玉を前記内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径Rと前記外輪のカウンターボアの最小半径との差であるかかり代を0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.25×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたことを特徴とする非分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
軸受鋼からなる外輪と対向する内輪の外側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって前記内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、
前記外輪の軌道面の最大半径をRとするときに、前記内輪のカウンターボアの最大半径と前記玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径との差であるかかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.25×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたことを特徴とする非分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項3】
マルテンサイトステンレス鋼からなる外輪の内側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって前記内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、
前記玉を前記内輪に寄せたときに玉の配列する外接円の半径Rと前記外輪のカウンターボアの最小半径との差であるかかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.01×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたことを特徴とする非分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項4】
マルテンサイトステンレス鋼からなる外輪と対向する内輪の外側の軌道面に隣接する肩部の軸方向の片側が削られてカウンターボアが形成され、前記外輪を加熱することによって前記内輪と外輪の間に玉を組み込んで組み立てられる非分離型アンギュラ玉軸受において、
前記外輪の軌道面の最大半径をRとするときに、前記内輪のカウンターボアの最大半径と前記玉を外輪に寄せたときに玉の配列する内接円の半径との差であるかかり代を、0.0125mm、もしくは、ラジアル内部隙間の半分の値のいずれか大きい数値から、1.01×10−5×R×(外輪の加熱温度−組立時の室温)+0.010mmの範囲にしたことを特徴とする非分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記外輪の加熱温度と組立時の室温との差を、150℃以下としたことを特徴とする請求項1〜4に記載の非分離型アンギュラ玉軸受。
【請求項6】
前記玉の表面、前記内輪および外輪の軌道面のいずれか一カ所以上に固体潤滑膜を形成したことを特徴とする請求項1〜5に記載の非分離型アンギュラ玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−192049(P2009−192049A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36072(P2008−36072)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】