説明

非接触IC媒体およびその製造方法

【課題】 非接触IC媒体の基体に設けられたアンテナ回路とICチップの間において、両者間に十分な間隔を確保するとともに、周囲の封止樹脂と高い密着性を有するスタッドバンプによる電気的接続方法を提供する。
【解決手段】 非接触IC媒体の基体17上の、アンテナ回路18の端子部位に設けられた電極19と、ICチップ11の電気接点12とを電気的に接続するために、金線によりスタッドバンプ13を形成して加熱加圧接合を行い、その後に封止樹脂20を用いて充填固定する。この際に、スタッドバンプ13を複数の小バンプを順に重ねて形成するとともに、重ねる際に前記小バンプの断面積を順に大きくしていき、全体としてスタッドバンプ13がキノコ型の形状をなすようにする。これによりスタッドバンプ13に対して封止樹脂20がくさび形に食い込む形状となるために表記の課題を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触ICカードや非接触ICタグなどの、ICチップとアンテナ回路を有する非接触IC媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触ICカードや非接触ICタグのように、非接触状態で相手と電気的にデータを送受信することで人や物品、情報の管理を行う、いわゆるRF−IDの用途に用いられる非接触IC媒体は、一般にフィルム状やシート状の基材にアンテナ回路やICチップを配置することで構成される。この中でアンテナ回路は、アルミ箔もしくは銅箔を接着したシートをエッチングすることにより形成される。
【0003】
またICチップとアンテナ回路の導通を図るための方法としては、ワイヤーボンディング方式とフリップチップ方式が一般的に用いられている。このうちワイヤーボンディング方式では、ICチップの端子部からアンテナ回路の接点まで金の細線による配線により接続する方法が用いられるが、近年では配線のインダクタンスや抵抗による損失の低減や、曲げ応力などの外力に対する耐久性を考慮して、フリップチップ方式が用いられることが多い。フリップチップ方式はICチップにバンプを形成する方式であり、ICチップの端子部に予めバンプと呼ばれる金属による小さな塊状の突起を形成しておき、基材に設置されたアンテナ回路上のチップ実装位置に設けられた一対の接点に、前記バンプを加熱もしくは加圧により接続固定して導通を図ることになる。この方式ではICチップの端子部からアンテナ回路上の接点までの接続距離が短くなるが、このことはアンテナを通じて送受信される電気信号の強度や駆動電力が低い非接触IC媒体では有利である。
【0004】
そのような非接触IC媒体の従来例の構成について図4に示す。図4は特許文献1に記載された非接触ICカードの組立図である。シート状の基材である樹脂製の基板フィルム43に、アンテナとして用いられるコイル42がエッチングや印刷などにより形成されており、その上方にICチップ41が設置されて封止樹脂44により封止固定されている。前記基板フィルム43の上方にはICチップ用孔47が設けられたコアフィルム46および保護フィルム48が積層され、接着剤45によって全体が接着固定される。これらの固定は非接触ICカードの上下をプレス板49によって挟み、全体を加熱もしくは加圧することにより実施される。封止樹脂44としては熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂が用いられ、また接着剤45としてはホットメルトや紫外線硬化型接着剤が使用される。ICチップ41の端子部にはバンプが設けられ、コイル42の接点と電気的に接続されている。
【0005】
アンテナ回路であるコイル42は一般にアルミまたは銅にエッチングを行って形成される。また全体の加熱もしくは加圧には熱圧着装置(フリップチップボンダ)が使用され、バンプによるICチップ41とコイル42との電気的接続を確保している。この接続の際にもし封止樹脂44を用いずに接続をバンプの圧着のみとするならば、ICチップ41を確実に固定するために圧着強度を大きくする必要がある。しかしその場合には圧着応力の影響によりアンテナ回路であるコイル42が変形し、接触不良や回路短絡などの問題が発生しやすいという問題があった。またこの場合には非接触IC媒体の使用時に基体に曲げなどの外力が加わるとICチップ41が外れることがあり、アンテナ回路への接続に対して十分な信頼性を確保できないという問題もあった。このため封止樹脂44の使用は不可欠であり、以下に記すバンプ側面とこの樹脂との密着の問題の解決が必要である。
【0006】
フリップチップ方式に用いられるバンプには複数の方式があり、めっきにより形成された柱状タイプのバンブを用いる場合や、電気接点の上にはんだなどのバンプを置いてリフローにより接続固定する方法、電気接点に金などによるバンプを超音波接合して凸形状のスタッドバンプを形成し、熱圧着により接続固定する方法などが知られている。これらの方式によりICチップからの電気的接続が確保された後に、バンプの周囲に樹脂を流入させることで、ICチップや基体を含む素子全体の固定と封止を行っている。ところが、金属からなるバンプと周囲に充填される封止用の樹脂との材質の違いのために両者の密着は必ずしも良好ではなく、経年使用によりバンプと樹脂との接合面に隙間が生じて気密性の劣化や素子全体の破損に至る場合があるという問題があった。ICチップの電気的接続にスタッドバンプを用いる場合について、特許文献2および特許文献3をもとに、この従来の問題の解決方法の例を示す。
【0007】
最初に特許文献2に記載された半導体チップにおけるスタッドバンプの形状について図5をもとに説明する。まず、先端にボール状の金属塊が形成された金線を、ICチップ51に設けられた電気接点52にキャピラリなどの治具を用いて押し付けて、超音波振動あるいは熱印加によって金による凸形状のスタッドバンプを形成する。必要なスタッドバンプの形成が終わった後に、図の下方から押圧治具(図示せず)を押し当てて前記スタッドバンプの先端部を変形させ、図5に示したように中央部がくびれた形状のスタッドバンプ53を形成する。このスタッドバンプ53は上端部56の直径(d2)および下端部54の直径(d1)よりも中央部55の直径(D)が小さくなるように形成されており、D<d2≦d1の関係を満たしている。このようにスタッドバンプ53の中央部55にくびれを形成することによって、ICチップ51と下方のリード57との間を充填する樹脂58とスタッドバンプ53との密着性を高めることができ、両者の界面における剥離の発生を回避することができる。なお特許文献2に記載の半導体チップは非接触IC媒体に用いられるものではない。
【0008】
一方図6は、非接触ICチップモジュールを、アンテナを有するカード本体に電気的に接続する場合のスタッドバンプの形状に関する従来例について説明するものであり、特許文献3に記載された技術である。図6において、ICチップモジュールに設けられた電気接点61上にスタッドバンプ62が形成されており、前記スタッドバンプ62は複数のスタッドバンプを同じ位置に重ねて形成したもので、そのため重ねもち状の形状となっている。スタッドバンプ62の下方に突き出した頭部は、この下部に設けられた粉末状もしくはペースト状の導電性手段(図示せず)内に埋設固定されて電気的に接続されており、またスタッドバンプ62の周囲はこの接続固定後に有機結合材(図示せず)により固定される。前記の有機結合材としてはホットメルトが好適に使用される。スタッドバンプ62の周囲の凹凸により、この固定の強度を高めている。
【0009】
【特許文献1】特開平11−91275号公報
【特許文献2】特開2000−277553号公報
【特許文献3】特開2005−251199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
スタッドバンプと封止樹脂との密着性を向上させるためには、スタッドバンプの側面の形状を工夫して大きな凹凸を形成することにより、スタッドバンプの表面と封止樹脂とが互いに相手に食い込む構成とすることが必要である。しかし特許文献2に記載された従来のスタッドバンプの場合は、実際には提示された方法ではスタッドバンプの側面に凹凸の大きな形状を形成することが困難であった。図5に記載した上端部と下端部が太く、中央部が細いスタッドバンプ53は、まず先端にボール状の金属塊が形成された金線を電気接点52に押し付けて下端部を形成しつつ接続し、その後に図の下方から押圧治具を押し当てて下端部を押し広げるよう変形させたものである。しかしこの工程では単にスタッドバンプに熱や圧力を加えるだけであるので、下端部のみを押し広げ、中央部のみを細いままに残す加工は困難であり、一般には中央部の直径もかなり広げられてしまう。そのためスタッドバンプの側面に形成される凹凸は必ずしも大きくはならず、結果としてスタッドバンプと封止樹脂の食い込みが不十分となる場合がある。スタッドバンプの中央部の直径を広げない加工を実現する作業条件の範囲は狭く、条件出しや適切な条件の維持は困難であった。
【0011】
またスタッドバンプと押圧治具との加熱加圧加工の後の引き離しの際に、前記押圧治具の剥離特性が良好ではない場合がある。この場合はせっかく太く加工した下端部が剥離の際に再び引き伸ばされてしまい、そのため細く変形することがある。さらに、スタッドバンプに押圧治具を押し当てて加熱加圧する過程でスタッドバンプの高さが縮むために、結果としてICチップとアンテナ回路間の間隔が極めて狭くなってしまう。一般に両者の距離が20〜50μmもしくはそれ以下の場合は、高周波帯域での回路動作の場合にICチップとアンテナ回路間の静電容量が無視できない大きさとなり、非接触IC媒体の回路動作に影響を及ぼす可能性が生じる。
【0012】
一方特許文献3に記載された従来のスタッドバンプの場合には、小バンプを複数個積み重ねてスタッドバンプを形成している。この場合には図6に示すように電気接点61に形成したスタッドバンプ62の形状が重ねもち状になるので、その側面は例えば蛇腹状に凹凸を有することになる。しかし特許文献3にはスタッドバンプ62の上下方向での直径の変化については特に言及されておらず、従ってスタッドバンプと封止樹脂の間の食い込みを増加させる要素は前記の側面の凹凸以外にはとくに規定されていない。
【0013】
従って、本発明の目的は、ICチップとアンテナ回路を有する非接触IC媒体に関し、前記ICチップとアンテナ回路を互いに十分な間隔を設けて電気的に接続し、かつ周囲の封止樹脂と高い密着性を有する信頼性の高いスタッドバンプの形状の提案と、そのような形状を有するタッドバンプを容易に形成しうる非接触IC媒体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明において形成するスタッドバンプは電気接点の直上で断面積が小さく、上方に向かうにつれて順に断面積が大きくなる形状とする。このようなキノコ状の形状とすることで周囲の封止樹脂との密着性を高めるとともに、接続されるICチップとアンテナ回路との間隔を十分保つことのできるだけの高さを有するように構成する。
【0015】
上記スタッドバンプの製造は以下の方法にて実施する。ICチップに設けられた電気接点に対し、まず先端にボール状の金属塊が形成された金属ワイヤを押し付けて圧着した後に引き上げ、第1の小バンプを形成する。次いで前記第1の小バンプの上に、前記の形成時よりも大きな金属塊が形成された金属ワイヤを再度押し付けて、同様に圧着した後に引き上げ、第2の小バンプを形成する。この方法により形成されるスタッドバンプはICチップの電気接点側において断面積が小さく、逆側では断面積が大きいキノコ型の形状となる。なお必要な場合には前記第2の小バンプの上に、さらに断面積が大きい第3の小バンプを形成してもよい。このように複数の小バンプを順に形成することで、前記ICチップとアンテナ回路との必要な間隔を保つことができ、かつキノコ型の形状のスタッドバンプが周囲の封止樹脂の間にくさび状に侵入する形状となり、両者が互いに食い込み合うことで、十分な密着性を備えることが可能である。
【0016】
即ち、本発明は、アンテナ回路が形成されてなる基体、およびICチップを有し、非接触にてデータの送信および/または受信を行う機能を有する非接触IC媒体において、前記基体には前記アンテナ回路に電気的に接続された複数の電極が設けられており、前記ICチップには複数の電気接点が形成されており、前記電気接点には導電性金属材料からなるバンプが接続固着されており、前記バンプは複数の小バンプを前記電気接点の側から順に重ねて構成されるとともに、かつ前記複数の小バンプは前記電気接点の側から逆側の端部に向けて順により大きな断面積を有する構成であって、前記バンプの前記電気接点とは逆側の端部が前記基体上に設けられた前記電極に接続されており、前記バンプの周囲は樹脂層により覆われていることを特徴とする非接触IC媒体である。
【0017】
また、本発明は、前記樹脂層が有機接着剤よりなることを特徴とする非接触IC媒体である。
【0018】
さらに、本発明は、アンテナ回路が形成されてなる基体、およびICチップを有し、非接触にてデータの送信および/または受信を行う機能を有する非接触IC媒体の製造方法において、前記基体に前記アンテナ回路に電気的に接続されてなる複数の電極を設け、前記ICチップに複数の電気接点を形成し、前記電気接点上に、導電性金属材料からなり先端部にボール状の領域を有する第1のワイヤを押し付けて圧着し、前記第1のワイヤを引き上げることにより第1の小バンプを形成し、前記第1の小バンプ上に、前記ワイヤよりも大きなボール状の領域を先端部に有する第2のワイヤを押し付けて圧着し、前記第2のワイヤを引き上げることにより前記第1の小バンプよりも断面積の大きな第2の小バンプを形成し、前記第2の小バンプの端部と前記基体上に設けられた前記電極とを互いに押し付けて圧着し、前記各小バンプの周囲に樹脂を流入して覆うことを特徴とする非接触IC媒体の製造方法である。
【0019】
さらに、本発明は、前記第2の小バンプの上に、1つもしくは複数のさらに断面積の大きな小バンプを順に重ねて形成することを特徴とする非接触IC媒体の製造方法である。
【0020】
さらに、本発明は、前記樹脂は有機接着剤よりなることを特徴とする非接触IC媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、非接触IC媒体のICチップとアンテナ回路の間の接続を、複数の小バンプを順に断面積を拡大しつつ積み重ねてなるスタッドバンプにて行うことにより、前記スタッドバンプが周囲の封止樹脂の間にくさび状に食い込む構成となって、前記ICチップとアンテナ回路間の間隔を確保しつつ、封止樹脂である接着剤とスタッドバンプとの十分な密着性を備えることが可能である。またこの際に形成されるキノコ形の形状のスタッドバンプは、金属ワイヤの先端に作製するボール状の金属塊の大きさを順に大きくしていくだけで形成可能であるので、そのための製造工程は比較的容易である。これにより物理的な衝撃や振動によるICチップとアンテナ回路の間の電気的接続の遮断や、実装後のICチップ自体の剥離といった従来の問題を解決すると同時に、ICチップとアンテナ回路の間の静電容量を小さくすることで高周波帯域での回路動作を可能とする。またアンテナ回路を有する基体上へのICチップの実装工程も実施が容易なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態に係る非接触IC媒体およびその製造方法を、図1〜図3に基づいて以下に説明する。
【0023】
図1は、本発明の非接触IC媒体におけるICチップの実装方法を説明する断面図である。非接触IC媒体の基体17には、一般にはエッチングにより作製されるアンテナ回路18が形成されており、前記アンテナ回路18の端子部位に電極19が設けられている。一方ICチップ11には電気接点12が設けられており、前記電極19と前記電気接点12との間がスタッドバンプ13により電気的に接続されている。前記スタッドバンプ13は第1および第2の小バンプ14、15より構成され、第2の小バンプ15は第1の小バンプ14よりもその断面積が大きくなっていて、全体として図の上方が小さく下方が大きい、上下反転したキノコ型の形状となっている。また前記電極19と前記電気接点12の間には一定の間隔が設けられている。最後にICチップ11とアンテナ回路18の間は封止樹脂20により充填固定されている。この封止樹脂には有機接着剤が好適に用いられる。なお図1にはスタッドバンプを1ヵ所しか記載していないが、実際の非接触IC媒体には複数ヵ所のスタッドバンプが設けられている。
【0024】
非接触IC媒体を構成する前記基体17には、ガラス繊維、アルミナ繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、紙などの無機もしくは有機繊維からなる織布、不織布、マットあるいはこれらを組み合わせてなる基材、もしくはこれらの素材に樹脂ワニスを含浸させて成形した複合基材、およびポリアミド系樹脂基材、ポリエステル樹脂基材、エチレン・ビニルアルコール共重合体基材などのプラスチック基材から選択された基材が用いられる。またこれら基材の表面にマット処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、電子線照射処理あるいは各種の易接着処理などの表面処理を施した基体はより好適である。
【0025】
また、前記基体17上へのアンテナ回路18の形成は、導電ペーストのスクリーン印刷、被覆もしくは非被覆金属線の貼り付け、金属箔を貼り付けてエッチング、金属の直接蒸着、金属蒸着膜の転写などの方法が好適である。また、これらの方法で形成した複数のアンテナ回路を組み合わせた複合アンテナとしてもよい。さらに、本発明において使用するICチップ11の厚さは前記アンテナ回路18の端子部位に設けられた電極19の厚さと同等程度であることが望ましく、10〜300μmであればよい。最も好適なICチップの厚さは100μm程度である。
【0026】
図1に示した前記ICチップと基体とをスタッドバンプを用いて接続する、実装工程における手順について、図2(a)〜図2(h)に基づいて説明する。なお説明の都合上、図2では図1における非接触IC媒体の上下を逆転させて表示している。まず図2(a)に示すように、ICチップ21上の電気接点22に、金属線からなるワイヤ26を接近させる。ワイヤ26としては金線が好適であり、治具であるキャピラリ24およびクランパ25によって支持されている。ワイヤ26の先端部には、例えば電気トーチを用いた放電加工により第1のボール状金属塊231が形成されている。
【0027】
次いで図2(b)に示すようにキャピラリ24を電気接点22の位置まで降ろし、前記第1のボール状金属塊231を電気接点22に押圧する。この際にキャピラリ24によって超音波振動や熱を印加し、図中の第1の押圧された金属塊232のように変形させて前記電気接点22に接合させる。その後で図2(c)に示すようにクランパ25を引き上げることで第1の押圧された金属塊232をワイヤ26から分離させ、次いでキャピラリ24も引き上げて、電気接点22上に第1の小バンプ233を形成する。前記第1の小バンプ233は一般に半球状もしくは潰れた半球状で、頂部にワイヤ26の残片を有する形状である。
【0028】
次いで第2の小バンプ236を形成する手順を説明する。まず図2(d)に示すように、ワイヤ26の先端に第2のボール状金属塊234を形成する。金属塊の形成方法は前記第1のボール状金属塊231の場合と同様であるが、金属塊の体積が第1のボール状金属塊231よりも大きくなるようにする必要があり、2〜10倍程度が好適である。次に図2(e)に示すように、キャピラリ24およびクランパ25を再び降ろして前記第1の小バンプ233に接触させて押圧する。この際にキャピラリ24によって超音波振動や熱を印加して変形させ、第2の押圧された金属塊235を形成して第1の小バンプ233に固着させる。両者はこれら加熱、加圧、超音波接合により強固に接合される。
【0029】
その後、図2(f)に示すようにクランパ25を再び引き上げて前記第2の押圧された金属塊235をワイヤ26から分離させ、次いでキャピラリ24も引き上げて第2の小バンプ236を形成する。前記第2の小バンプ236は一般に半球状もしくは潰れた半球状で、頂部にワイヤ26の残片を有する形状であり、下部は第1の小バンプ233と一体化している。またその断面積の最大値は前記第1の小バンプ233よりも大きくなっており、好適には前記第1の小バンプ233の1.5〜3倍程度である。このため両者が一体化したスタッドバンプ23は図中でキノコ型の形状となる。なお接合後のスタッドバンプ23の断面積は、前記電極29および電気接点22のいずれにおいても各接点部が有する面積より小さくなるよう形成する必要がある。また両接点間の距離は、ICチップ21とアンテナ回路28間の静電容量が非接触IC媒体の回路動作に影響を及ぼさない程度に保つ必要があり、50μm程度以上とすることが好適である。
【0030】
最後に前記スタッドバンプ23を、アンテナ回路28を設けた基体27上の電極29に対して接合させる工程の手順を説明する。図2(g)において、アンテナ回路28上に設けられた電極29に前記スタッドバンプ23を接触させて押圧し、加熱もしくは超音波接合を行うことで固着させる。このときに第2の小バンプ236の頂部は変形して広がり、電極29に対して強固に接合して両者を電気的に導通させる。その後に図2(h)に示すように、ICチップ21の電気接点22とアンテナ回路28に設けた電極29の隙間に封止樹脂30を流入させて固化させる。この際に、スタッドバンプ23が、電気接点22側の底部の断面積が小さく上部が大きいキノコ型の形状をしているために、この隙間に封止樹脂30が流入してくさび状に固化し、このために強固な接合強度と固定の信頼性を得ることができる。前記封止樹脂30は、基体27とICチップ21を強固に接合して前記ICチップ21を被覆保護することによって、物理的もしくは化学的な変化に対する耐久性を与えるために被覆した接合部に使用されるものであり、熱硬化性樹脂やホットメルトなどの接着剤が好適に使用される。
【0031】
図3は、図1に示した例とは異なる本発明の非接触IC媒体におけるICチップの実装方法を説明する断面図である。スタッドバンプ33は第1の小バンプ34、第2の小バンプ35、第3の小バンプ36の3つの小バンプからなり、各小バンプはICチップ31に設けられた電気接点32の側からこの順に配置されている。各小バンプは図の下方に行くほど断面積が大きくなっており、スタッドバンプ33は3段重ねの上下反転したキノコ型の形状をなしている。キノコ型の形状の傘の部分に当たる第3の小バンプ36は、基体37上のアンテナ回路38に設けられた電極39に接合固化されている。以上の電気的な接続部の周囲は封止樹脂40により充填固定されるとともに、前記封止樹脂40はスタッドバンプ33の隙間にくさび状に食い込むことで互いに強固に固定されている。図3の例の場合は小バンプを3段重ねとすることによって、ICチップ31とアンテナ回路38の間の距離を図1に示した実施例の場合よりもさらに大きくとることが可能であり、高周波帯域にて使用した場合の電気的な信頼性をさらに向上させることができる。
【0032】
以上示したように、本発明により、非接触IC媒体において、熱衝撃、物理的な衝撃や振動、化学的な経年変化などに対して耐久性を有する、アンテナ回路とICチップ間の電気的な接続固定を実施することができる。またこのときの前記スタッドバンプとICチップの間、およびアンテナ回路の間の各接合部の接触抵抗はともに低い状態に保つことができるため、ICチップをアンテナ回路に信頼性高く固定するICチップの実装方法の提供が可能である。
【0033】
なお、上記実施の形態の説明は、本発明の実施例に係るアンテナ回路を含む基体とICチップの間の接合について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、あるいは請求の範囲を減縮するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の非接触IC媒体におけるICチップの実装方法を示す断面図。
【図2】図1に示す本発明の非接触IC媒体におけるICチップの組立実装図。図2(a)〜図2(h)はICチップの組立実装工程を順に示す図。
【図3】本発明の非接触IC媒体におけるICチップの異なる実装方法を示す断面図。
【図4】特許文献1に記載された従来の非接触ICカードの組立図。
【図5】特許文献2に記載された従来の半導体チップにおけるスタッドバンプ部分の断面図。
【図6】特許文献3に記載された従来の非接触ICカードモジュールおけるスタッドバンプの概略断面図。
【符号の説明】
【0035】
11,21,31 ICチップ
12,22,32 電気接点
13,23,33 スタッドバンプ
14,233,34 第1の小バンプ
15,236,35 第2の小バンプ
17,27,37 基体
18,28,38 アンテナ回路
19,29,39 電極
20,30,40 封止樹脂
231 第1のボール状金属塊
232 第1の押圧された金属塊
234 第2のボール状金属塊
235 第2の押圧された金属塊
24 キャピラリ
25 クランパ
26 ワイヤ
36 第3の小バンプ
41,51 ICチップ
42 コイル
43 基板フィルム
44 封止樹脂
45 接着剤
46 コアフィルム
47 ICチップ用孔
48 保護フィルム
49 プレス板
52,61 電気接点
53,62 スタッドバンプ
54 下端部
55 中央部
56 上端部
57 リード
58 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ回路が形成されてなる基体、およびICチップを有し、非接触にてデータの送信および/または受信を行う機能を有する非接触IC媒体において、
前記基体には前記アンテナ回路に電気的に接続された複数の電極が設けられており、
前記ICチップには複数の電気接点が形成されており、
前記電気接点には導電性金属材料からなるバンプが接続固着されており、
前記バンプは複数の小バンプを前記電気接点の側から順に重ねて構成されるとともに、かつ前記複数の小バンプは前記電気接点の側から逆側の端部に向けて順により大きな断面積を有する構成であって、
前記バンプの前記電気接点とは逆側の端部が前記基体上に設けられた前記電極に接続されており、前記バンプの周囲は樹脂層により覆われていることを特徴とする非接触IC媒体。
【請求項2】
前記樹脂層が有機接着剤よりなることを特徴とする請求項1に記載の非接触IC媒体。
【請求項3】
アンテナ回路が形成されてなる基体、およびICチップを有し、非接触にてデータの送信および/または受信を行う機能を有する非接触IC媒体の製造方法において、
前記基体に前記アンテナ回路に電気的に接続されてなる複数の電極を設け、
前記ICチップに複数の電気接点を形成し、
前記電気接点上に、導電性金属材料からなり先端部にボール状の領域を有する第1のワイヤを押し付けて圧着し、前記第1のワイヤを引き上げることにより第1の小バンプを形成し、
前記第1の小バンプ上に、前記ワイヤよりも大きなボール状の領域を先端部に有する第2のワイヤを押し付けて圧着し、前記第2のワイヤを引き上げることにより前記第1の小バンプよりも断面積の大きな第2の小バンプを形成し、
前記第2の小バンプの端部と前記基体上に設けられた前記電極とを互いに押し付けて圧着し、前記各小バンプの周囲に樹脂を流入して覆うことを特徴とする非接触IC媒体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の小バンプの上に、1つもしくは複数のさらに断面積の大きな小バンプを順に重ねて形成することを特徴とする請求項3に記載の非接触IC媒体の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂は有機接着剤よりなることを特徴とする、請求項3または4のいずれか1項に記載の非接触IC媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−66363(P2008−66363A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239868(P2006−239868)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】