説明

非水系二次電池用負極活物質および非水系二次電池

【課題】本発明が解決しようとする課題は、非水系二次電池用負極活物質、および、非水系二次電池において、負極活物質1次粒子の体積変化による構造崩壊を抑制し、これによって寿命向上を図る。
【解決手段】本発明の非水系二次電池用負極は、シリコンないしスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなり、かつ、1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を設け、かつ、前記空孔内部に導電性材料が導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系二次電池用負極活物質、および、非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水系二次電池として、非水系電解液を用い、リチウムイオンを充放電反応に用いるリチウムイオン二次電池が実用化されている。リチウムイオン二次電池はニッケル水素電池などと比べエネルギー密度が大きく、携帯電子機器電源用二次電池として用いられている。しかし、近年の携帯電子機器の高性能化,小型化に伴い、電源であるリチウムイオン二次電池のさらなる高容量化,小型化が求められている。これを実現するためには、負極に用いる負極活物質の高容量化が不可欠である。
【0003】
現在、負極活物質には炭素系材料が用いられており、リチウムイオンをグラフェン層間にインターカレーション/デインターカレーションすることによりリチウムイオンを吸蔵/放出し、その理論容量は372Ah/kgである。しかし、炭素系材料は理論容量に近い実容量が実現されており飛躍的な高容量化は期待できない。そのため、炭素系材料の代替材料の探索が盛んに行われており、高容量が期待できる、xLi++M+xe-⇔LixM(Mは金属)の式に示されるような合金化/脱合金化反応により充放電反応を行う合金負極(あるいは金属負極)に高い関心が寄せられている。例えばシリコンの理論容量は4200Ah/kg、スズの理論容量は990Ah/kgと炭素系材料の理論容量の数倍〜10倍の理論容量を有している。
【0004】
しかし、この合金負極は充放電に伴う体積変化が炭素材料よりも大きく、リチウムイオン挿入時にシリコンでは420%、スズでは360%に膨張することが知られており、このような充放電に伴う大きな体積変化により生じる応力により電極構造を維持することができず、炭素系材料に比べサイクル特性が悪く、改善する必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1などにリチウムイオンと反応しないマトリックス成分との合金化により構造を維持しサイクル特性を向上させることが提案されているが、サイクル特性が悪く実用に供することができなかった。
【0006】
特許文献2では導電性粒子の周囲に空隙が生じるように導電性粒子間が結合してなる導電性層を集電体上に備え、前記空隙に活物質を存在させることで活物質を効率よく分散させる方法が提案されている。また、特許文献3では活物質粒子と金属酸化物層を備え、粒子表面を金属材料で被覆し、被覆された粒子同士の間に空隙を有することにより体積変化を緩和し、構造崩壊を抑制する方法が提案されている。しかし、いずれの方法においても負極活物質1次粒子自体の体積膨張を抑制することができず充放電により微粉化しサイクル特性が悪化する恐れがある。
【0007】
さらに、特許文献4では活物質層と集電体間に気孔を有する導電性物質を備えることにより集電体と活物質層の密着性の悪化を防ぐ方法が提案されているが、活物質層の体積膨張を抑制することができず電極構造を維持することができない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−32644号公報
【特許文献2】特開2007−194024号公報
【特許文献3】特開2009−277509号公報
【特許文献4】特開2008−77993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、非水系二次電池用負極活物質、および、非水系二次電池において、負極活物質1次粒子自体の体積変化を抑制し、体積変化により生じる応力により発生する負極活物質1次粒子の亀裂の伸展を阻止し、かつ、体積変化により負極活物質1次粒子構造の一部が崩壊しても導電性ネットワークを維持し、これによってサイクル特性の向上を図るという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の非水系二次電池用負極は、負極活物質がシリコンないしスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなり、かつ、1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有し、かつ、前記空孔内部に導電性材料が導入されていることを特徴とする。図1に示すように、内核部と外周部のいずれもが、シリコンないしスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなり、リチウムと反応しない元素が構造維持を担う成分とし機能し構造崩壊を防止しできる。また、1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有することにより、充放電反応による体積変化を空孔が吸収して1次粒子全体で緩和することができ、かつ、空孔が亀裂伸展を阻止し構造崩壊を防止する。さらに、空孔内部に導電性材料が導入されていることにより、構造の一部が崩壊しても、導電性材料が崩壊により分離された部分同士を繋ぐことにより導電性ネットワークを維持することができ、抵抗の上昇を抑制できる。これらによりサイクル特性が向上する。
【0011】
また、本発明は、前記導電性材料が遷移金属であることを特徴とする。導電性材料が遷移金属であることにより、良電性となり好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記導電性材料が銅,ニッケル,銀のいずれかであることを特徴とする。導電性材料を銅,ニッケル,銀とすることでより良電性となりより好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記導電性材料をメッキ法により導入したことを特徴とする。メッキ法を用いることにより空孔内部に導電性材料を導入できる。また、導電性材料と1次粒子表面の熱拡散による合金化を抑制でき、導電性の悪化を防げ、好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記導電性材料が20重量%以上導入されていることを特徴とする。導電性材料が20重量%以上導入されることにより、充放電後においても負極の直流抵抗値の上昇を防げる。また、50重量%を超えると活物質の量が相対的に少なくなり、容量が低下する。
【0015】
また、本発明は、前記空孔の重心間距離の標準偏差を前記空孔の重心間距離の平均で割った値である分散度が1以下であることを特徴とする。亀裂伸展を阻止する空孔が負極活物質内に均一に配置されるため、構造崩壊を抑制できる。また、空孔の分布が均一であることにより応力の偏在を回避できる。
【0016】
また、本発明は、前記負極活物質1次粒子の平均粒子径が50μm以下であることを特徴とする。平均粒子径を50μm以下とすることにより、体積変化の絶対量を抑制することができる。また、1μm以上であると非表面積が過大になり過ぎず、電解液との反応を抑制できるので好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記空孔の平均空孔径が1μm以下であることを特徴とする。平均空孔径を1μm以下とすることにより亀裂伸展を阻止する空孔数を増やすことができる。また、0.1μm以上ないと導電性材料の導入が困難になり好ましくない。
【0018】
また、本発明は、前記空孔の空孔率が5%以上であることを特徴とする。空孔率が5%より小さいと体積変化を抑制することができない。また、80%を超えると体積変化以上となり、効果が変わらず、逆に容量が低下する。
【0019】
また、本発明は、負極活物質のシリコンおよびスズの平均結晶子径が5μm以下であることを特徴とする。空孔径と同等の結晶子径とすることにより、結晶子の膨張を空孔で吸収することができ、体積膨張をより抑制でき好ましい。
【0020】
また、本発明は、負極活物質の平均空孔間距離が3μm以下であることを特徴とする。平均空孔間距離を3μm以下とすることで亀裂伸展を阻止でき好ましい。また、0.01μm以下となると、シリコンないしスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる部分が空孔と比較し細くなり過ぎ、負極活物質1次粒子の強度が低下し好ましくない。
【0021】
また、本発明は、負極活物質に含まれるシリコンまたはスズが10重量%以上含まれることを特徴とする。シリコンまたはスズの含有量が10重量%より少なくなると容量が低くなり好ましくない。また、95重量%以上となると、構造維持に寄与する成分が低下する。
【0022】
また、本発明は、前記リチウムと反応しない元素がバナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛,銀,金,インジウム,チタン,ジルコニウムのいずれかの元素であることを特徴とする。バナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛,銀,金,インジウム,チタン,ジルコニウムを用いることにより負極活物質が良導電性となり好ましい。
【0023】
また、本発明は、1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有する粒子を溶湯急冷法により作製し、前記1次粒子の空孔に導電性材料を導入することにより作製したことを特徴とする。溶湯急冷法を用い作製することにより空孔が形成される。また、結晶子径が微細化し好ましい。
【0024】
また、本発明は、前記1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有する粒子を単ロール法で作製したことを特徴とする。単ロール法を用いることにより超急冷することができ、結晶子径および空孔径が微細化し好ましい。
【0025】
また、本発明は、前記の負極活物質を用い作製した負極の10サイクル後の直流抵抗値の上昇率が初期状態における直流抵抗値に対し20%以下であることを特徴とする。直流抵抗値の上昇率を20%以下とすることで長寿命化する。
【0026】
また、本発明の非水系二次電池は、前記の非水系二次電池用負極活物質を用いることを特徴とする。本発明の非水系二次電池用負極活物質を用いることにより、高容量かつ長寿命な二次電池が提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の非水系二次電池用負極は、負極活物質1次粒子内部に空孔を有するので、充放電によりシリコンないしスズの体積が大きく変化しても、空孔により体積変化を吸収でき、かつ、内核部と外周部のいずれにも空孔を有するため、体積変化が局在化することを回避でき構造崩壊を抑制できる。また、空孔が亀裂伸展を阻止することにより構造崩壊を抑制できる。さらに、空孔内部に導電性材料が導入されていることにより、構造の一部が崩壊しても導電性ネットワークを維持することができ、抵抗の上昇を抑制でき、サイクル特性を向上する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の負極活物質の概念図である。
【図2】本発明の実施例1の断面走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例2の断面走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の比較例1の断面走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例1の断面のニッケル元素のマッピング図である。
【図6】本発明の実施例2の断面のニッケル元素のマッピング図である。
【図7】本発明の比較例1の断面のニッケル元素のマッピング図である。
【図8】本発明の非水系二次電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
(負極活物質)
負極活物質はシリコンまたはスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる。シリコンとスズの両方を含んでいても構わない。シリコンまたはスズを含んでいれば構わないが、高容量が得られるためシリコンであれば10重量%以上、スズであれば50重量%以上含まれることが好ましい。シリコンとスズの両方を含んでいる時は、シリコンとスズの合計の重量が10重量%以上であることが好ましい。また、95重量%以上となると、構造維持に寄与する成分が低下し好ましくない。さらに、リチウムイオンの拡散速度が速く、導電性も高いスズを用いることが好ましい。
【0031】
リチウムと反応しない元素とは、全くリチウムと反応しない元素を用いることができるのは勿論のこと、シリコンおよびスズと比較しリチウムとの反応性が劣る元素であれば構わない。リチウムと反応しない元素は良電性であることが好ましく、遷移金属元素であることが好ましい。例えば、バナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛,銀,金,インジウム,チタン,ジルコニウムが挙げられる。特に、鉄,ニッケル,銅,コバルト,マンガン,銀,金は、導電性が高く好ましい。
【0032】
負極活物質1次粒子の平均粒子径は50μm以下であることが好ましい。50μmより大きいと充放電による体積変化の絶対量が大きくなり好ましくない。また、1μm以上であると非表面積が過大になり過ぎず、電解液との反応を抑制できるので好ましい。ここで1次粒子とは連続する固体であり、例えば、金属結合により結合している多結晶体であり、単に粉末粒子がファンデルワース力によって凝集したものは2次粒子として定義する。なお、平均粒子径は、超音波を印加することにより凝集解いた状態でレーザ回折型粒子径分布測定器により測定したメジアン径D50値である。
【0033】
シリコンおよびスズの結晶子径は5μm以下であることが好ましい。5μm以下であることにより充放電時の体積変化により生じる応力の局在化を回避でき好ましい。さらに応力が均一化し、最大応力を抑制できることから1μm以下であることがさらに好ましい。結晶子径は走査型電子顕微鏡や、透過型電子顕微鏡で観察して平均結晶子径を測定する。試料の電子顕微鏡写真を撮影し、写真内で任意の面積内に観察された結晶子の粒子径を測定し、その平均値を結晶子径として求める。測定結晶子の数が少なくとも20個以上になるようにして、平均値を得ることが望ましい。また、断面が円形でない場合には最大長さと最小長さの平均値をその結晶子の粒子径と見なす。
【0034】
負極活物質1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有する。空孔の形状は特に限定しないが、球状、円柱状,円錐状,立方体状,長方体状などの形状が挙げられる。なお、内核部とは1次粒子の重心を中心とし、1次粒子の粒子径の50%の長さの直径を有する球の内部であり、外周部とはその外側である。1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有することにより、負極活物質の体積変化を均一に抑制できる。また、空孔の重心間距離の標準偏差を空孔の重心間距離の平均で割った値である分散度が1以下であることが好ましい。空孔が1次粒子内部で均一に分散していることにより、亀裂伸展を抑制できる。空孔の重心間距離の平均値および空孔の重心間距離の標準偏差は例えば負極活物質断面の電子顕微鏡写真を撮影し、画像解析により求めることができる。
【0035】
空孔径の平均値は1μm以下であると、空孔の数が増え空孔が粒子内に偏りなく存在することができる。また、亀裂伸展を阻止する空孔の数が増え構造崩壊を抑制でき好ましい。0.5μm以下であると空孔の数がさらに増え空孔の偏りがさらになくなり、また、亀裂伸展を阻止する空孔の数がさらに増え、サイクル特性が向上しより好ましい。一方、0.1μm以上ないと導電性材料の導入が困難になり好ましくない。空孔径の平均値は負極活物質の断面の電子顕微鏡写真を撮影し画像解析により求めた平均円相当径の値である。
【0036】
平均空孔間距離は、3μm以下であると、亀裂伸展をさらに阻止でき構造崩壊を抑制でき好ましい。また、0.01μm以下となると、シリコンないしスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる部分が空孔と比較し細くなり過ぎ、負極活物質1次粒子の強度が低下し好ましくない。平均空孔間距離は、空孔の平均重心間距離から平均空孔径を引いた値である。
【0037】
空孔率は5%以上であることが好ましい。空孔率を5%以上とすることにより充放電に伴う体積変化を緩和することができる。また、80%を超えると体積変化以上となり、効果が変わらず、逆に容量が低下する。空孔率は負極活物質の電子顕微鏡写真を撮影し、写真内の空孔が占める面積の割合である。
【0038】
負極活物質1次粒子内部の空孔の内部に導電性材料が導入されている。1次粒子内部の空孔の内部に導電性材料を導入することにより、体積膨張により活物質構造の一部が崩壊しても導電性ネットワークが維持できる。導入とは、空孔内部に導電性材料が存在すればどのような形体でも構わない。また、空孔全てに導電性材料が導入されていても構わないし、空孔の一部に導電性材料が導入されていても構わない。なお、空孔表面が導電性材料で被覆されていても構わないのは言うまでもない。また、導電性材料は粒子表面に被覆されていても構わない。被覆は、表面全てを被覆していても構わないし、一部分を被覆していても構わない。
【0039】
導電性材料は負極活物質1次粒子に用いている合金より導電性が高いことが好ましい。より導電性ネットワークを維持できる。導電性材料としては、導電性が良好である遷移金属が好ましい。また、銅,ニッケル,銀は導電性が良好でありより好ましい。
【0040】
導電性材料は負極活物質の20重量%以上導入されていることが好ましい。導電性材料が20重量%以上導入されていることにより充放電による負極の抵抗上昇を抑制でき好ましい。導電性材料を30重量%以上導入されていることがより好ましい。導電性材料が30重量%以上導入されていることにより充放電による負極の抵抗上昇をより抑制できより好ましい。さらに、50重量%を超えると活物質の量が相対的に少なくなり、容量が低下し好ましくない。
【0041】
1次粒子の製造方法には、溶湯急冷法を用いることができる。溶湯急冷法を用いることにより結晶子径を微細化できる。溶湯急冷法として、例えば、単ロール法,双ロール法,遠心法(縦型),遠心法(横型),遊星ロール付単ロール法,ガン法,ピストン・アンビル法,トーション・カタパルト法,水流中紡糸法,回転液中紡糸法,ガラス被覆紡糸法,ガスアトマイズ法,水アトマイズ法がある。また、急冷速度が速い単ロール法を用いると結晶子径が微細化しより好ましく、冷却基板と接触する面と、接触しない面とで急冷速度が異なり、冷却中に温度勾配が発生するため空孔が形成するという観点でも好ましい。
【0042】
1次粒子への導電性材料の導入方法は、メッキ法を用いることができる。メッキ法を用いることにより空孔内に導電性材料を導入できる。また、過度な加熱を必要としないため導電性材料と1次粒子表面との合金化を防げ、導電性材料の合金化による電導性低下を防げる。また、電解メッキ法,無電解メッキ法のいずれも用いることができるが、粉体に簡便に導電性材料を導入できるため無電解メッキ法が好ましい。
【0043】
(負極)
本発明の非水系二次電池用負極活物質を用いることにより、長寿命の非水系二次電池用負極を作製することができる。前記負極は10サイクル後の直流抵抗値の上昇率が、初期状態における直流抵抗値に対し20%以下であることが好ましい。直流抵抗値の上昇率を20%以下とすることでサイクル特性が向上する。
【0044】
(二次電池)
本発明の非水系二次電池用負極を用いることにより、長寿命の非水系二次電池を作製することができる。
【0045】
以下、本発明に係る実施例を詳細に説明する。ただし、これら実施例によって必ずしも本発明が限定されるわけではない。
【0046】
〔実施例〕
(実施例1)
スズを80重量部とコバルトを20重量部混合し、アルゴン雰囲気下でアーク溶解法により溶解し冷却することにより合金を得た。
【0047】
得た合金を5mm〜10mm角の大きさに粉砕し、アルゴン雰囲気下で高周波加熱法により溶解し、単ロール法により急冷することにより、リボン状の急冷合金を得た。このリボン状の急冷合金を乳鉢により粉砕し、目開き45μmの篩いを通過させることにより分級し1次粒子を得た。
【0048】
1次粒子断面の平均結晶子径を走査型電子顕微鏡写真より測定し0.5μmであった。また、1次粒子断面の走査型電子顕微鏡写真を画像解析ソフト(A像くん、旭化成エンジニアリング株式会社製)により解析し空孔率,平均空孔径,分散度および平均重心間距離を求めた。その結果、空孔率が23.7%、平均空孔径(円相当径)は0.38μm、分散度は0.42、平均重心間距離は2.9μmであった。
【0049】
得た1次粒子を60℃に加熱したニッケルメッキ液(トップケミアロイ66,奥野製薬社製)に加え30分間撹拌することによりメッキを行い、負極活物質を得た。得られた負極活物質の高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)での元素分析の結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
撹拌時間を60分とした以外は実施例1と同様の方法で作製した。得られた負極活物質の高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)での元素分析の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
(比較例1)
ニッケルメッキを行っていない以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0053】
(組織観察)
実施例1,2および比較例1の負極活物質の断面を走査型電子顕微鏡による観察を行った。その結果を図2〜図4に示す。また、エネルギー分散型X線分析によりニッケル元素マッピングを行った。その結果を図5〜図7に示す。
【0054】
図2〜図4に示すように、実施例1,2および比較例1の負極活物質は、1次粒子内部の内核部および外周部のいずれにも空孔を有していることがわかる。また、図5,図6に示すように実施例1および2の負極活物質の空孔内および1次粒子表面にニッケル(導電性材料)が導入されていることがわかる。一方、図7のように、比較例1の負極活物質は導電性材料が導入されていないことがわかる。
【0055】
(電極特性評価方法)
実施例1,2および比較例1の負極活物質をそれぞれ、導電剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解した溶液を混錬しスラリーを作製した。得られたスラリーを銅箔上に塗布機を用いて均一に塗布した。大気中にて乾燥後、加圧した。その後、真空中にて乾燥させた。電解液にはエチレンカーボネート,ジメチルカーボネート,エチルメチルカーボネートの混合溶媒にビニレンカーボネートを添加した溶媒に、1MLiPF6を添加した溶液を用いた。対極にはリチウム金属を用いた。
【0056】
充放電試験は、0.01V(vs.Li/Li+)となるまで定電流定電圧充電とし、放電は2V(vs.Li/Li+)となるまで定電流放電とした。初期クーロン効率と容量維持率を表2に示す。
【0057】
また、初期状態および10サイクル後の充電状態(SOC)50%、0.1CAにおける電流印加5秒後の直流抵抗値を測定し、10サイクル後の直流抵抗値の初期状態の直流抵抗値に対する上昇率を求め、その結果を表2に示す。なお、10サイクル後の直流抵抗値が初期状態の直流抵抗値より減少している場合は直流抵抗値上昇率0%とみなす。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように実施例1および2の負極活物質は比較例1の負極活物質と比較し、クーロン効率,容量維持率ともに高い。つまり、1次粒子内に導電性材料を導入することにより初期クーロン効率,サイクル特性が向上し、本発明の非水系二次電池用負極活物質は長寿命であることが示された。
【0060】
また、表2に示すように実施例1および2の負極活物質を用い作製した負極は比較例1の負極活物質を用い作製した負極と比較し、直流抵抗上昇率が顕著に抑制されていることがわかる。つまり、1次粒子内に導電性材料を導入した本発明の負極活物質を用い負極を作成することにより充放電後も導電ネットワークが維持されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明で得られた非水系二次電池用負極活物質は、容量に優れた大型リチウムイオン二次電池を必要とされる移動体や定置型電力貯蔵の電源への適用が期待できる。
【符号の説明】
【0062】
1 負極活物質
2 導電剤
3 結着剤
4 集電体
5 空孔
6 導電性材料
7 内核部
8 外周部
9 内核部の空孔
10 外周部の空孔
11 正極板
12 負極板
13 セパレータ
14 正極リード
15 負極リード
16 電池缶
17 パッキン
18 絶縁板
19 密閉蓋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンないしスズのいずれかと、リチウムと反応しない元素から選ばれた少なくとも1種の元素とからなり、かつ、1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有し、かつ、前記空孔内部に導電性材料が導入されていることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記導電性材料が遷移金属であることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項3】
請求項1ないし2に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記導電性材料が銅,ニッケル,銀のいずれかであることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記導電性材料をメッキ法により導入したことを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記導電性材料が20重量%以上導入されていることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の非水系二次電池用活物質において、前記空孔の重心間距離の平均偏差を前記空孔の重心間距離の平均で割った値である分散度が1以下であることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記1次粒子の平均粒子径が50μm以下であることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記空孔の平均空孔径が1μm以下であることを特徴とする非水系二次電池用活物質。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記空孔の空孔率が5%以上であることを特徴とする非水系二次電池用活物質。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記シリコンまたはスズの平均結晶子径が5μm以下であることを特徴とする非水系二次電池用活物質。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記空孔の平均空孔間距離が3μm以下であることを特徴とする非水系二次電池用活物質。
【請求項12】
請求項1〜11に記載の非水系二次電池用負極活物質において、シリコンまたはスズが10重量%以上含まれることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記リチウムと反応しない元素がバナジウム,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅,亜鉛,銀,金,インジウム,チタン,ジルコニウムから選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項14】
請求項1〜13に記載の非水系二次電池用負極活物質において、1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有する粒子を溶湯急冷法により作製し、前記粒子の空孔に導電性物質を導入することにより作製したことを特徴とする非水系二次電池用負極物質。
【請求項15】
請求項1〜14に記載の非水系二次電池用負極活物質において、前記1次粒子内部の内核部と外周部のいずれにも空孔を有する粒子を単ロール法で作製したことを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項16】
請求項1〜15に記載の非水系二次電池用活物質において、前記活物質を用い作製した負極の10サイクル後の直流抵抗値の上昇率が、初期状態における直流抵抗値に対し20%以下であることを特徴とする非水系二次電池用負極活物質。
【請求項17】
正極と負極とセパレータと電解液を含み、前記負極の負極活物質として請求項1〜16に記載の非水系二次電池用負極活物質を用いることを特徴とする非水系二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−94364(P2012−94364A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240249(P2010−240249)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】