説明

非水電解質二次電池用負極活物質及びその製造方法

【課題】 珪素の高い初期効率と電池容量を維持しつつ、サイクル特性に優れ、充放電時の体積変化を減少させた非水電解質二次電池の負極用として有効な活物質としての珪素粒子からなる負極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】 非水電解質を用いる二次電池用の負極活物質の製造方法であって、金属珪素を原料とした電子線蒸着法により、温度を800−1100℃に制御した基板上に、1kg/hrを超える蒸着速度で、蒸着膜厚が2−30mmの範囲で珪素を堆積させる工程と、該堆積させた珪素を粉砕・分級して、前記負極活物質を得る工程とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池用の負極材に用いる活物質に関するものであり、特に負極活物質として非常に有用な珪素粒子とその製造方法に関するものである。また、本発明は、この負極材を用いた非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が強く要望されている。
【0003】
珪素は現在実用化されている炭素材料の理論容量372mAh/gより遙かに高い理論容量4200mAh/gを示すことから、電池の小型化と高容量化において最も期待される材料である。
【0004】
珪素はその製法により結晶構造の異なった種々の形態が知られている。例えば、特許文献1では単結晶珪素を負極活物質の支持体として使用したリチウムイオン二次電池を開示している。また、特許文献2では単結晶珪素、多結晶珪素及び非晶質珪素のLiSi(但し、xは0〜5)なるリチウム合金を使用したリチウムイオン二次電池を開示しており、特に非晶質珪素を用いたLiSiが好ましく、モノシランをプラズマ分解した非晶質珪素で被覆した結晶性珪素の粉砕物が例示されている。しかしながら、この場合においては、実施例にあるように珪素分は30部、導電剤としてのグラファイトを55部使用しており、珪素の電池容量を十分発揮させることができなかった。
【0005】
また、特許文献3〜5では、蒸着法により電極集電体に非晶質珪素薄膜を堆積させ、負極として利用する方法が開示されている。この集電体に直接珪素を気相成長させる方法において、成長方向を制御することで体積膨張によるサイクル特性の低下を抑制する方法も開示されている(特許文献6参照)。この方法によれば高容量かつサイクル特性の良い負極が製造可能であるとしているが、生産速度が限られるためコストが高く、また珪素薄膜の厚膜化が困難であり、更に負極集電体である銅が珪素中に拡散するという問題があった。
【0006】
このため近年では、珪素粒子を用いながら、珪素の電池容量利用率を制限して体積膨張を抑制する方法(特許文献7〜9等参照)、あるいは多結晶粒子の粒界を体積変化の緩衝帯とする方法としてアルミナを添加した珪素融液を急冷(特許文献10参照)、α,β−FeSiの混相多結晶体からなる多結晶粒子(特許文献11参照)、単結晶珪素インゴットの高温塑性加工法(特許文献12参照)が開示されている。
【0007】
以上のように、珪素を活物質として利用するために、種々の結晶構造を持つ金属珪素や珪素合金が提案されているが、そのいずれもがコスト的に不利であり、安価に大量合成が可能な製造方法を提案するに至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2964732号公報
【特許文献2】特許第3079343号公報
【特許文献3】特許第3702223号公報
【特許文献4】特許第3702224号公報
【特許文献5】特許第4183488号公報
【特許文献6】特開2006−338996号公報
【特許文献7】特開2000−173596号公報
【特許文献8】特許第3291260号公報
【特許文献9】特開2005−317309号公報
【特許文献10】特開2003−109590号公報
【特許文献11】特開2004−185991号公報
【特許文献12】特開2004−303593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、20kW以下の電子線蒸着装置による蒸着速度は一時間あたり数g〜数十gであることが一般的である。この場合、蒸着物質の膜厚は数ミクロン(μm)程度であり、蒸着板は100〜300℃程度である。しかしながら、リチウムイオン二次電池負極材として利用するためには負極活物質が安価にかつ大量に生産されることが求められており、蒸着速度としては1kg/hr以上、特に5kg/hr程度必要である。上記のように非常に高い蒸着速度で蒸着する場合に、蒸着板温度が従来並みに低いと蒸着膜内に細孔が生じ、比表面積が増加するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、珪素の高い初期効率と電池容量を維持しつつ、サイクル特性に優れ、充放電時の体積変化を減少させた非水電解質二次電池の負極用として有効な活物質としての珪素粒子からなる負極活物質の安価な製造方法と負極活物質、並びにこの負極活物質を用いた非水電解質二次電池用負極材や負極を提供し、更に新規な非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、非水電解質を用いる二次電池用の負極活物質の製造方法であって、金属珪素を原料とした電子線蒸着法により、温度を800−1100℃に制御した基板上に、1kg/hrを超える蒸着速度で、蒸着膜厚が2−30mmの範囲で珪素を堆積させる工程と、該堆積させた珪素を粉砕・分級して、前記負極活物質を得る工程とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【0012】
このような製造方法によって得られた多結晶珪素粒子を、非水電解質を用いる二次電池用の負極活物質に用いることにより、珪素の高い初期効率と電池容量が維持されつつも、サイクル特性に優れ、充放電時の体積変化を減少させた非水電解質二次電池が得られる。また、安価な金属珪素を原料にして、優れた電池特性を有する負極活物質に好適な多結晶珪素粒子を大量に製造することができ、従来に比べて製造コストの大幅な削減が可能となる。また、本発明では800−1100℃に制御した基板上に蒸着により金属珪素を堆積させることで、BET比表面積の極めて小さい珪素粒子を得ることができる。
【0013】
この場合、前記金属珪素を原料として前記基板上に珪素を蒸着させる際に、ホウ素、アルミニウム、リン、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、ヒ素、スズ、タンタル、タングステンから選択される一種又は二種以上のドーパントを前記堆積させる珪素にドープすることが好ましい。
【0014】
このように、珪素を基板上に蒸着させる際に上記ドーパントをドープすることによって、得られた負極活物質のバルク導電性をより向上させることができ、よりサイクル特性に優れた二次電池とすることができる負極活物質が得られる。
【0015】
また、前記粉砕・分級は、前記非水電解質二次電池用負極活物質の粒子径がレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均値D50で1μm以上20μm以下となるように行うことが好ましい。
【0016】
50を1μm以上とすることによって、比表面積が大きく、負極膜密度が小さくなる危険性を極力低くすることができる。また、D50を20μm以下とすることによって、負極膜を貫通してショートする原因となるおそれを最小限に抑えることができるとともに、電極の形成が難しくなることもなく、集電体からの剥離の可能性を十分に低いものとすることができる。
【0017】
また、前記基板は、珪素堆積時に珪素と合金化しない材料からなるものを用いることが好ましい。
【0018】
このように、珪素堆積時に珪素と合金化しない材料からなる基板に金属珪素を原料として蒸着させることによって、不必要な金属不純物の拡散を防ぐとともに、堆積させた珪素を粉砕・分級する際に、堆積させた珪素を基板から剥がしやすく、粉砕・分級に容易に取り掛かることができる。よって、生産性を高くすることができ、より安価な負極活物質の製造方法とすることができる。
【0019】
また、本発明は、非水電解質二次電池用負極活物質であって、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法によって製造されたものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を提供する。
【0020】
本発明の負極活物質の製造方法によって得られた多結晶珪素粒子からなる負極活物質は、上述のように、従来の負極活物質に比べて安価でありながら、珪素の高い初期効率と電池容量を維持しつつ、サイクル特性に優れ、充放電時の大きな体積変化を減少させた非水電解質二次電池に好適なものである。
【0021】
この非水電解質二次電池用負極活物質は、真密度が2.250g/cmより高く2.330g/cm未満、BET比表面積が0.1−2.0m/g、粒子の圧縮強度が400MPaを超え800MPaより小さい多結晶珪素からなり、該多結晶中の珪素粒子は、結晶粒径がX線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値が20nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0022】
このような多結晶珪素からなる負極活物質は、真密度が2.250g/cmより高く2.330g/cm未満と金属珪素(2.33g/cm)に比べて低く、粒子の圧縮強度も単結晶珪素(400MPa)と比較して約100MPa高く、体積膨張による歪みに耐えられる結晶組織となっている。すなわち、充電による体積膨張が一般的な金属珪素や多結晶珪素と比較して1/2〜1/3となる。よって、体積膨張の非常に少ないこのような多結晶珪素粒子からなる負極活物質を負極に用いると、高容量で、かつ充電時の電極密度を0.4〜0.9g/cmとすることができ、体積当たりの電池容量を増加させることができる。また、BET比表面積も0.1−2.0m/gであり、表面での電解液の分解が少なく、また多くの結着材を必要とすることもない。さらに、多結晶中の珪素粒子は、結晶粒径がX線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値が20nm以上100nm以下であり、初回効率、容量やサイクル特性が低下することが防止されたものとなっているものである。すなわち、初期効率と電池容量に優れた珪素の特性は維持され、従来の珪素の弱点であったサイクル特性や充放電時の体積変化が大幅に改善された非水電解質二次電池用の負極活物質とすることができる。
【0023】
また、本発明では、非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質からなるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材を提供する。
【0024】
このように、本発明の負極活物質からなる負極材は、珪素の初期効率と電池容量に優れた面を有し、かつサイクル特性や体積変化率の小さな多結晶珪素粒子から主になるものであり、従来に比べサイクル特性や充放電特性等の電池特性に優れた非水電解質二次電池の負極に適した負極材となっているものである。
【0025】
ここで、本発明の負極材は、更に、結着剤を含有するものであることが好ましい。
【0026】
このように、本発明の負極材が結着剤を含有することにより、充放電による膨張・収縮が繰り返されても負極材の破壊・粉化が確実かつ容易に防止され、電極自体の導電性を高いものとすることができる。
【0027】
また、前記結着剤が、ポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0028】
このように、結着剤がポリイミド樹脂であれば、銅箔等の集電体との密着性に優れ、また初期充放電効率が高く、充放電時の体積変化を緩和することができ、繰り返しによるサイクル特性及びサイクル効率がより良好な非水電解質二次電池の負極材となる。
【0029】
また、本発明の負極材は、更に、導電剤を含むものであって、前記非水電解質二次電池用負極材に対する前記非水電解質二次電池用負極活物質の割合が60〜97質量%、前記結着剤の割合が3〜20質量%、前記導電剤の割合が0〜37質量%であることが好ましい。
【0030】
このように、本発明の負極材が導電剤を含むものであり、また負極活物質・結着剤・導電剤の配合割合が上記の範囲であれば、充放電による膨張・収縮が繰り返されても負極材の破壊・粉化を確実かつ容易に防止でき、また、負極材の導電性をより高いものとすることができ、よりサイクル特性に優れた非水電解質二次電池の負極材となる。
【0031】
また、前記導電剤は、水または溶剤に導電物質が分散された分散液からなるものであり、前記導電物質の割合が前記非水電解質二次電池用負極材に対して1〜37質量%であることが好ましい。
【0032】
このような割合で上記態様の導電剤を含むことによって、負極材の導電性を十分に高いものとすることができ、初期抵抗を十分に低く抑えることができる。また、電池容量の低下も確実に防ぐことができ、好適である。
【0033】
また、本発明では、本発明の非水電解質二次電池用負極材を含む負極であって、充電前後の膜厚変化が3倍を超えないものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0034】
上述のように、本発明の非水電解質二次電池用負極材は、充電による体積膨張が一般的な金属珪素や多結晶珪素と比較して小さく、また電池容量やサイクル特性にも優れた負極材である。従って、このような非水電解質二次電池用負極材を用いた負極は、充電前後の体積膨張が従来に比べて抑制されて小さなものであり、充電前後の膜厚変化が3倍を超えず、また電池特性にも優れたものである。
【0035】
更に、本発明は、非水電解質二次電池であって、少なくとも、本発明の非水電解質二次電池用負極を用いた負極成型体と、正極成型体と、セパレーターと、非水電解質とからなるものであることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0036】
上述のように、本発明の非水電解質二次電池用負極は、電池の変形や容量低下が小さく、サイクル特性や充放電特性にも非常に優れた二次電池に好適な負極である。従って、このような負極を用いて形成された負極形成体を有する非水電解質二次電池も、サイクル特性や充放電特性に非常に優れた二次電池である。
【0037】
ここで、前記非水電解質二次電池が、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0038】
上述のように、本発明の非水電解質二次電池は、電池の変形や容量低下が小さな、サイクル特性に非常に優れた二次電池である。従って近年の高エネルギー密度化の要望が強いリチウムイオン二次電池として非常に好適なものである。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、安価な金属珪素を原料にして、珪素の高い初期効率と電池容量を維持しつつ、サイクル特性に優れ、充放電時の体積変化を減少させた非水電解質二次電池の負極用として有効な活物質としての多結晶珪素粒子を大量かつ安価に製造・提供することができる。また、そのような多結晶珪素粒子からなる負極活物質が用いられた負極材や負極、更には集電体との密着性に優れ、初期効率が高く、充放電時の体積変化が緩和されて繰り返しによるサイクル特性及び充放電効率が良好な非水電解質二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
【0041】
本発明者らは、体積当たりの電池容量が炭素材料の844mAh/ccを超え、なおかつこれまでに開示されたSi合金系負極活物質に期待されている1500mAh/ccを超える珪素系の活物質や、その安価な製造方法について鋭意検討を重ねた。
【0042】
その結果、温度を800−1100℃に制御した基板に金属珪素を原料として蒸着させ、この蒸着させた珪素を公知の方法等で粉砕・分級することによって、真密度が2.250g/cmより高く2.330g/cm未満、BET比表面積が0.1−2.0m/g、粒子の圧縮強度が単結晶珪素(400MPa)と比較して約100MPa高い多結晶珪素からなり、該多結晶中の珪素粒子が、結晶粒径がX線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値が20nm以上100nm以下である多結晶珪素粒子が得られる。このような多結晶珪素粒子は1500mAh/ccを超えるような珪素の高い初期効率と電池容量を備え、その上サイクル特性に優れ、充放電時の体積変化が抑制された非水電解質二次電池の負極用として有効な活物質であり、しかも安価な金属珪素を原料とすることができるため、製造コストも従来に比べて大幅に削減できることを見出した。
【0043】
さらに、このような負極活物質を用いた負極材・負極、並びにこれらを用いた非水電解質二次電池は、初期効率や電池容量、サイクル特性などの電池特性に優れ、しかも安価なものとすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0044】
本発明の非水電解質を用いる二次電池用の負極活物質の製造方法は、金属珪素を原料とした電子線蒸着法により、温度を800−1100℃に制御した基板上に、1kg/hrを超える蒸着速度で、蒸着膜厚が2−30mmの範囲で珪素を堆積させる工程と、該堆積させた珪素を粉砕・分級して、前記負極活物質を得る工程とを含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法である。
【0045】
また、このような負極活物質の製造方法により製造される非水電解質二次電池用負極活物質は、真密度が2.250g/cmより高く2.330g/cm未満、BET比表面積が0.1−2.0m/g、粒子の圧縮強度が400MPaを超え800MPaより小さい多結晶珪素からなり、該多結晶中の珪素粒子は、結晶粒径がX線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値が20nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0046】
本発明に係る負極活物質(多結晶珪素粒子)は、真密度が単結晶珪素の2.33g/cmと比較して、2.250g/cmより高く2.330g/cm未満と低い値を示しながら、粒子径をレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均値D50で1μm以上20μm以下とした時のBET比表面積は0.1−2.0m/gと単結晶珪素のBET比表面積と同等の値を示すという特徴がある。
【0047】
本発明に係る負極活物質は、粒子の真密度が小さく、一方でBET比表面積が小さいことから結晶組織がアモルファスに近い乱雑な形態をとっており、多孔質構造をとっていない多結晶珪素粒子であることが特徴である。このような結晶組織を有することから、粒子の圧縮強度が単結晶珪素と比較して100MPa増加するという特徴も持つ。
【0048】
本発明に係る負極活物質は、結晶粒径がX線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値で20nm以上100nm以下の結晶粒の集合体である。
【0049】
本発明に係る負極活物質(多結晶珪素粒子)は、ナノサイズの結晶粒の結晶粒界の体積膨張緩和効果によって、充放電による体積膨張が一般的な金属珪素や多結晶珪素と比較して小さく、1/2〜1/3程度に抑えられたものとなる。そのため、この多結晶珪素粒子を非水電解質二次電池の負極に用いることによって、充放電による体積膨張変化の応力に耐えることができ、高容量で体積当たりの電池容量を増加させることができる。
【0050】
本発明に係る負極活物質は、BET比表面積が小さいことから、表面での電解液の分解が少なく、負極材中の結着剤を減量することが可能であり、不可逆容量の増加を最小限とすることが可能である。また、本発明に係る負極活物質は、20nm以上100nm以下の結晶粒の集合体であることから、充放電による体積変化による粒子のひずみが小さく、初回効率や容量、サイクル特性が低下することが防止されるのに適した範囲となっているものである。
【0051】
従って、本発明に係る負極活物質は、初期効率と電池容量に優れた珪素の特性は維持され、しかも珪素の弱点であったサイクル特性や充放電時の体積変化が大幅に改善されたものとなり、電池特性の改善に役立つ負極活物質となっている。
【0052】
次に、本発明に係る非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法や、その負極活物質からなる負極材、負極、非水電解質二次電池について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、まず、金属珪素を原料とした電子線蒸着法により、温度を800−1100℃に制御した基板上に、1kg/hrを超える蒸着速度で、蒸着膜厚が2−30mmの範囲で珪素を堆積させる。
【0054】
ここで、珪素には結晶性の違いにより単結晶珪素、多結晶珪素、非晶質珪素あるいは純度の違いにより金属珪素と呼ばれるケミカルグレード珪素、冶金グレード珪素が知られている。
【0055】
このうち多結晶珪素は、部分的な規則性を持っている結晶である。一方、非晶質珪素は、Si原子がほとんど規則性をもたない配列をしており、網目構造をとっている点で異なる。また、多結晶珪素は配向の異なった比較的大きな結晶粒からなり、それぞれの結晶粒の間に結晶粒界が存在する。
【0056】
このような多結晶珪素は、例えば無機化学全書第XII−2巻ケイ素(丸善(株))184頁に記載されているように、モノシランあるいはトリクロロシランから気相堆積法により合成することができる。しかしながら、シランガスを用いた気相堆積法では、高純度の多結晶珪素を得る上で有効な製造方法であるが、純度の高い高価なシランガスを使用するため、得られた多結晶珪素も高価となり、必然的に非水電解質二次電池も高価となる。
【0057】
また、公知の方法(例えば特許文献3−5等参照)である銅集電体に蒸着する方法では、基板温度を300℃未満に制御して、かつ数ミクロン程度の膜厚にて非晶質珪素を得るものであるが、この場合には、非晶質珪素を回収して粉砕・分級工程については記載されておらず、回収することは困難である。
【0058】
一方、本発明では、蒸着法によって蒸着させる原料として、シランガスではなく直接金属珪素を用いる。このような金属珪素としては、上記のように冶金グレードあるいはケミカルグレードと呼ばれる安価な金属珪素を用いることができる。
【0059】
珪素の蒸着方法は加熱方法の違いによって種々あるが、本発明に係る非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、誘導加熱法よりも熱効率が良く、有利な電子線加熱法を用いる。電子線加熱法による珪素の蒸着方法は、例えば、金属珪素からなる原料を銅製のハースに収容し、チャンバーを減圧する。減圧度は一般的に1×10−5〜1×10−2Paとすることができる。1×10−5Pa以下の減圧度では蒸着量の増大が見込まれるものの減圧装置の負荷が多大であり、高コストの装置となりやすい。一方、1×10−2Pa以上では電子銃の出力が安定せず電子線による加熱が困難となる。金属珪素に電子ビームを照射して蒸着させる場合の条件としては、チャンバーの減圧度のほかに電子銃の出力が挙げられる。概ね20kg以下の熔湯量であれば100−300kWとすることが良く、概ね150−250kWにて安定した蒸着が可能である。
【0060】
基板を800−1100℃に温度制御する方法は特に限定されず、例えば蒸着基板に熱線を埋め込む方法、赤外線ヒーターなどによる間接加熱方法などが挙げられ、蒸着基板を円筒状とする場合は、上記埋め込みヒーターのほかに熱媒体を用いても良い。また、蒸着中に溶湯の輻射熱により蒸着基板が所望の温度より上昇することがあることから、加熱用熱媒体と同様に冷却用の冷媒を使用できることが望ましい。なお、蒸着基板の温度制御はシース熱電対や白金測温抵抗体などによる直接方式と放射温度計あるいは光高温計による非接触方式を採用してよい。
【0061】
本発明の負極活物質の製造方法では、蒸着膜の厚みは2−30mmに成長させる。本発明のように、800−1100℃の高温に制御した基板上に珪素膜を堆積させると、珪素膜を高温で保持することにより珪素膜の結晶性が増大する。結晶性が増大すると、非水電解質二次電池負極材の体積膨張の増大を促進することから、蒸着膜厚が2−30mmの範囲で珪素を堆積させることが必要である。また、800℃未満の蒸着板温度で2mm未満の膜厚では、BET比表面積が増加する傾向を示し、BET比表面積を減少させるために追加の加熱工程が必要であり、経済的に好ましくない。また、30mmを超える膜厚では蒸着板からの落下が顕著となり、熔湯面が波立つことから電子線の吸収が妨げられ、エネルギー効率が低下する。
【0062】
このように基板温度を800−1100℃に制御することによって、後に粉砕・分級して作製する負極活物質のBET比表面積を0.1−2.0m/gの範囲内に収めることができる。このBET比表面積は、0.5−1.5m/gとなるようにすることがより望ましい。特に、基板温度を900−1000℃に制御すると、BET比表面積が小さい上に、結晶粒径が小さな多結晶珪素を得ることができる。
【0063】
この基板としては、珪素堆積時に珪素と合金化しない材料からなるものを用いることが望ましい。ここで珪素堆積時に珪素と合金化しないとは、珪素を堆積させる際に珪素が固着せず合金化しにくく、蒸着後に珪素を剥がしやすいことを意味するものであり、このような材料としては、例えばステンレス鋼あるいはステンレス鋼の表面をメッキしたものも使用できる。また、表面を鏡面仕上げしても良い。
【0064】
このように、蒸着基板を珪素堆積時に珪素と合金化しない材料からなるものとすることによって、基板から堆積させた珪素を基板から容易に剥がすことができ、粉砕・分級を容易に行うことができる。よって、生産性を高くすることができ、より安価に負極活物質を製造することができる。
【0065】
本発明の負極活物質の製造方法では、1kg/hrを超える蒸着速度で蒸着を行う。現在、負極活物質が安価にかつ大量に生産されることが求められており、蒸着速度としては1kg/hr以上が必要である。本発明の負極活物質の製造方法であれば、そのような非常に高い蒸着速度で蒸着する場合にも、基板温度を800−1100℃に制御することによって、蒸着膜内に細孔が生じることによる比表面積の増加を抑えることができ、上記のようにBET比表面積を0.1−2.0m/gの範囲内に収めることができる。本発明の負極活物質の製造方法であれば、特に、5kg/hr以上の蒸着速度とすることもできる。
【0066】
堆積させた珪素は、引き続き300−1100℃の不活性雰囲気あるいは減圧下にて加熱処理を行うことで、さらにBET比表面積を低下させることができる。加熱処理は堆積後の珪素塊の状態で行っても粉砕・分級後に行っても良く、概ね1〜5時間程度で行うことが好ましく、特に800−1000℃にて1−3時間で処理することが好ましい。加熱処理によって堆積粒子の内部歪みが緩和されるとともに、BET比表面積を低下させる効果がある。堆積粒子の内部歪みが緩和されることから、充放電時の体積膨張による割れが抑制される。
【0067】
多結晶珪素の結晶粒の物理的な尺度としては、粉末X線回折による測定が有効である。本発明においては、結晶粒径はNIST製X線回折標準試料であるSRM640c(単結晶珪素)を使用したX線回折パターンの分析において、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値で、20〜100nm(特には20〜80nmがよい)となるものである。
【0068】
これに対し、金属珪素や一方向凝固法、急冷法、高温塑性加工法などの従来の方法により製造された多結晶珪素の結晶子サイズは、500〜700nmであって、非水電解質二次電池には不適当である。
【0069】
更に、本発明の金属珪素からの直接蒸着法により製造された多結晶珪素の真密度は2.250g/cmより高く2.330g/cm未満を示し、単結晶珪素と比較して低い値を示す。この値は、金属珪素の真密度は2.33g/cmであって、この本発明の多結晶珪素の真密度は、金属珪素に比べて著しい相違を示す。
【0070】
また、多結晶珪素の結晶粒の機械的な尺度としては、粒子の圧縮強度が有効である。
【0071】
ここで、合金系の活物質の特徴としてリチウムの吸蔵放出過程による体積変化が大きい点が挙げられる。黒鉛系の活物質では体積膨張が1〜1.2倍程度であるのに対し、珪素径活物質では最大で4倍程度になることが知られている。したがって、充電により体積膨張した際にひずみに耐えられずサイクル経過につれて粒子が粉砕される問題を抑制することが必要である。
【0072】
粒子の圧縮強度を微少圧縮試験機(島津製作所製)にて測定すると単結晶珪素は400MPaを示すが、蒸着基板温度を300℃以下として非晶質珪素を作製すると100MPaを示す粒子が観察される。このような脆い粒子はサイクル経過に伴い微粉化し、負極の破壊の要因となる。
【0073】
したがって、圧縮強度において少なくとも400MPaより高く、800MPa未満であることが好ましく、600MPa以下であることが更に望ましい。800MPa以上の粒子強度では粉砕過程で長時間の粉砕が必要となり、望ましくない場合がある。
【0074】
本発明に係る非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、金属珪素原料を用いて基板上に蒸着させる際に、ホウ素、アルミニウム、リン、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、ヒ素、スズ、タンタル、タングステンなどから選択される一種又は二種以上のドーパントを堆積させる珪素にドープすることができる。
【0075】
金属珪素を原料として基板上に蒸着させて得られる多結晶珪素粒子からなる負極活物質は、ホウ素、リン、酸素、アルミニウム、鉄、カルシウムなどの不純物をもとから含有する冶金グレードの金属珪素に比べてバルクの導電性が劣る。しかし、このように、金属珪素を原料として基板上に蒸着させる際に、ホウ素、アルミニウム、リン、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、ヒ素、スズ、タンタル、タングステンなどから選択される一種又は二種以上のドーパントをドープすることによって、得られた多結晶珪素粒子からなる負極活物質のバルク導電性を向上させることができ、よりサイクル特性に優れた二次電池を製造することができる負極活物質が得られる。
【0076】
このように、電子線蒸着法によって堆積させ、基板から回収した珪素を、所定の粒子径とするために、公知の方法によって粉砕・分級する。
【0077】
このうち粉砕機は、例えば、ボール、ビーズなどの粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルや、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミル、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミル、ハンマー、ブレード、ピンなどを固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミル、剪断力を利用するコロイドミルや高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」などを用いることができる。粉砕方法は、湿式、乾式共に用いることができる。
【0078】
また、粒度分布を整えるために、粉砕後に乾式分級や湿式分級もしくはふるい分け分級が行われる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次もしくは同時に行われ、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の流れの乱れ、速度分布、静電気の影響などで分級効率を低下させないように、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度などの調整)を行うか、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して行うことができる。また、乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。
【0079】
この粉砕・分級は、非水電解質二次電池用負極活物質の粒子径がレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均値D50(即ち、累積体積が50%となる時の粒子径又はメジアン径)で、1μm以上20μm以下となるように行うことができる。D50を1μm以上のものとすることによって、嵩密度が低下し、単位体積あたりの充放電容量が低下する危険性を極力低くすることができる。また、D50を20μm以下とすることによって、負極膜を貫通してショートする原因となるおそれを最小限に抑えることができるとともに、電極の形成が難しくなることもなく、集電体からの剥離の可能性を十分に低いものとすることができる。
【0080】
更に、予め所定の粒度まで粉砕した上記多結晶珪素粒子を、常圧下又は減圧下で600〜1,200℃(好ましくは800〜1,000℃)の温度で、可能な限り短時間で炭化水素系化合物ガス及び/又は蒸気を導入して熱化学蒸着処理を施すことにより、多結晶珪素表面にカーボン膜を形成して、導電性の更なる改善を図っても良い。
【0081】
このような本発明の方法で製造された多結晶珪素粒子からなる負極活物質は、非水電解質二次電池用負極の負極活物質として用いることができ、現行のグラファイトなどと比較して高容量であり、酸化珪素及び酸化珪素を原料にした材料(例えば、酸化珪素を不均化して得られる(珪素/二酸化珪素)分散複合体)と比較しても不可逆容量が小さい。更に、金属珪素そのものと比較しても、充放電に伴う体積変化が小さくコントロールされ、粒子と結着剤間の接着性も優れるなど、サイクル特性の優れた非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池を製造することができるものである。
【0082】
また、安価な金属珪素を原料にして製造できるので、優れた電池特性を有する負極活物質でありながら非常に安価であるという利点も有しており、非水電解質二次電池の製造コストの削減も可能である。
【0083】
また、本発明の多結晶珪素粒子を含む活物質から負極材を作製する場合、結着剤を含むものとすることができ、この結着剤としては特にポリイミド樹脂を用いることができる。またポリイミド樹脂の他にも、ポリアミド樹脂、特に芳香族ポリイミド樹脂も採用し得る。例えば芳香族ポリイミド樹脂は耐溶剤性に優れ、充放電による体積膨張に追随した集電体からの剥離や活物質の分離の発生を抑制することができる。
【0084】
ところで、芳香族ポリイミド樹脂は一般に有機溶剤に対して難溶性であり、特に電解液に対して膨潤あるいは溶解しないことが必要である。このため一般的に高沸点の有機溶剤、例えばクレゾールなどに溶解するのみであることから、電極ペーストの作製にはポリイミドの前駆体であって、種々の有機溶剤、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキソランに比較的易溶であるポリアミック酸の状態で添加し、300℃以上の温度で長時間加熱処理することにより、脱水、イミド化させて結着剤とすることが望ましい。
【0085】
この場合、芳香族ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンより構成される基本骨格を有するが、具体例としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられる。
【0086】
また、ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,3−ジアミノナフタレン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0087】
また、ポリアミック酸中間体の合成方法としては、通常は溶液重合法が好適に用いられる。この溶液重合法に使用される溶剤としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド及びブチロラクトン等が挙げられる。これらは単独でも又は混合して使用してもよい。
【0088】
このときの反応温度は、通常、−20〜150℃の範囲内であるが、特に−5〜100℃の範囲が望ましい。
【0089】
更に、ポリアミック酸中間体をポリイミド樹脂に転化するには、通常は、加熱により脱水閉環する方法がとられる。この加熱脱水閉環温度は140〜400℃、好ましくは150〜250℃の任意の温度を選択できる。この脱水閉環に要する時間は、上記反応温度にもよるが30秒間〜10時間、好ましくは5分間〜5時間が適当である。
【0090】
このようなポリイミド樹脂としては、ポリイミド樹脂粉末のほか、ポリイミド前駆体のN−メチルピロリドン溶液などが入手できるが、例えばU−ワニスA、U−ワニスS、UIP−R、UIP−S(宇部興産(株)製)やKAYAFLEX KPI−121(日本化薬(株)製)、リカコートSN−20、PN−20、EN−20(新日本理化(株)製)が挙げられる。
【0091】
本発明の負極材中の負極活物質と結着剤の配合量は、負極活物質の配合量は60〜97質量%(特に70〜95質量%、とりわけ75〜95質量%)とすることができる。なお、後述する導電剤を負極材中に配合した場合は、負極活物質の配合量の上限は96質量%以下(94質量%以下、特には93質量%以下)とすることがよい。
【0092】
また、上記負極材中の結着剤の配合量は、活物質全体中に対して3〜20質量%(より望ましくは5〜15質量%)の割合が良い。この結着剤の配合量を上記範囲とすることによって、負極活物質が分離してしまう危険性を極力低くすることができ、また空隙率が減少して絶縁膜が厚くなり、Liイオンの移動を阻害する危険性を極力低くすることができる。
【0093】
活物質としての上記多結晶珪素粒子と結着剤としてのポリイミド樹脂等を用いて負極材を作製する場合、これらに加えて、黒鉛等の導電剤を添加することができる。
【0094】
この場合、導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛などを用いることができる。
【0095】
また、これらの導電剤は、予め水あるいはN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤の分散物を作製し、添加することで、多結晶珪素粒子に均一に付着・分散した電極ペーストを作製することができることから、上記溶剤分散物として添加することがよい。なお、導電剤は上記溶剤に公知の界面活性剤を用いて分散を行うこともできる。また、導電剤に用いる溶剤は、結着剤に用いる溶剤と同一のものであることが望ましい。
【0096】
導電剤を用いる場合、その添加量は、負極材全体中に0〜37質量%(更には1〜37%)であり、また水や溶剤に導電剤を配合する場合は、配合量は1〜37質量%(更には1〜20質量%、特には2〜10質量%)がよい。
【0097】
この導電剤の添加量・配合量を上記範囲とすることによって、負極材の導電性が乏しくなって、初期抵抗が高くなることを確実に抑制することができる。また、導電剤量が増加して、電池容量の低下につながるおそれも無くすことができる。
【0098】
また、上記ポリイミド樹脂結着剤の他に、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、その他のアクリル系ポリマーあるいは脂肪酸エステル等を添加してもよい。
【0099】
上記の本発明の非水電解質二次電池用の負極材は、例えば以下のように負極とすることができる。即ち、上記負極活物質と、導電剤と、結着剤と、その他の添加剤とからなる負極材に、N−メチルピロリドンあるいは水などの結着剤の溶解、分散に適した溶剤を混練してペースト状の合剤とし、該合剤を集電体にシート状に塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔など、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0100】
このような非水電解質二次電池用負極材を含む負極は、充放電での体積変化が従来の珪素粒子に比べて大幅に小さい多結晶珪素粒子からなる負極活物質から主に構成されており、充電前後の膜厚変化が3倍(特には2.5倍)を超えないものとなっている。
【0101】
このようにして得られた負極を用いた負極成型体を用いることにより、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池を製造することができる。この場合、非水電解質二次電池は、上記負極成型体を用いる点に特徴を有し、その他の正極(成型体)、セパレーター、電解液、非水電解質などの材料及び電池形状などは特に限定されない。
【0102】
例えば正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び離脱することが可能な酸化物あるいは硫化物等が挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上が用いられる。具体的には、TiS、MoS、NbS、ZrS、VSあるいはV、MoO及びMg(V等のリチウムを含有しない金属硫化物もしくは酸化物、又はリチウム及びリチウムを含有するリチウム複合酸化物が挙げられ、また、NbSe等の複合金属、オリビン酸鉄も挙げられる。中でも、エネルギー密度を高くするには、LiMetOを主体とするリチウム複合酸化物が望ましい。なお、Metは、コバルト、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの少なくとも1種が良く、pは、通常、0.05≦p≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、層構造を持つLiCoO、LiNiO、LiFeO、LiNiCo1−r(但し、q及びrの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0<q<1、0.7<r≦1)、スピネル構造のLiMn及び斜方晶LiMnOが挙げられる。更に高電圧対応型として置換スピネルマンガン化合物としてLiMetMn1−s(0<s<1)も使用されており、この場合のMetはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛等が挙げられる。
【0103】
なお、上記のリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムの炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物とを所望の組成に応じて粉砕混合し、酸素雰囲気中において600〜1,000℃の範囲内の温度で焼成することにより調製することができる。
【0104】
更に、正極活物質としては有機物も使用することができる。例示すると、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセン、ポリスルフィド化合物等である。
【0105】
以上の正極活物質は負極合材に使用した導電剤や結着剤と共に混練して集電体に塗布され、公知の方法により正極成型体とすることができる。
【0106】
また、正極と負極の間に用いられるセパレーターは、電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びこれらの共重合体やアラミド樹脂などの多孔質シート又は不織布が挙げられる。これらは単層あるいは多層に重ね合わせて使用してもよく、表面に金属酸化物等のセラミックスを積層してもよい。また、多孔質ガラス、セラミックス等も使用される。
【0107】
本発明に使用される非水電解質二次電池用溶媒としては、非水電解液として使用できるものであれば特に制限はない。一般にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、メチルアセテート等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF、PF、(CFSO等が挙げられる。イオン液体は前述の非水電解液溶媒と混合して使用することが可能である。
【0108】
非水電解質として固体電解質やゲル電解質を用いる場合には、シリコーンゲル、シリコーンポリエーテルゲル、アクリルゲル、シリコーンアクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリ(ビニリデンフルオライド)等を高分子材料として含有することが可能である。なお、これらは予め重合していてもよく、注液後重合してもよい。これらは単独もしくは混合物として使用可能である。
【0109】
また、電解質塩としては、例えば、軽金属塩が挙げられる。軽金属塩にはリチウム塩、ナトリウム塩、あるいはカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はマグネシウム塩あるいはカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、又はアルミニウム塩などがあり、目的に応じて1種又は複数種が選択される。例えば、リチウム塩であれば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、CFSOLi、(CFSONLi、CSOLi、CFCOLi、(CFCONLi、CSOLi、C17SOLi、(CSONLi、(CSO)(CFSO)NLi、(FSO)(CFSO)NLi、((CFCHOSONLi、(CFSOCLi、(3,5−(CFBLi、LiCF、LiAlClあるいはCBOLiが挙げられ、これらのうちのいずれか1種又は2種以上が混合して用いられる。
【0110】
非水電解液の電解質塩の濃度は、電気伝導度の点から、0.5〜2.0mol/Lが望ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/cm以上であることが望ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0111】
更に、非水電解液中には必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4−ビニルエチレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0112】
非水電解質二次電池の形状は任意であり、特に制限はない。一般的にはコイン形状に打ち抜いた電極とセパレーターを積層したコインタイプ、電極シートとセパレーターをスパイラル状に捲回した角型あるいは円筒型等の電池が挙げられる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記の例において%は質量%を示し、平均粒子径はレーザー光回折法による粒度分布測定における累積体積50%径D50(又はメジアン径)により測定した値を示す。
【0114】
(実施例1)
油拡散ポンプ、メカニカルブースターポンプ及び油回転真空ポンプからなる排気装置を有した真空チャンバー内部に銅坩堝を設置し、0.2%のコバルトを含有する金属珪素塊20kgを銅坩堝に投入してチャンバー内を減圧とした。2時間後の到達圧力は2×10−4Paであった。
【0115】
次に、チャンバーに設置した直進型電子銃によって金属珪素塊の溶解を開始し、金属珪素塊の溶解後、出力220kWにて蒸着を2時間継続した。蒸着中、ステンレス鋼からなる蒸着基板温度を800℃に制御した。
【0116】
その後、チャンバーを開放して1%のコバルトを含有する蒸着珪素2.5kgを得た。すなわち、蒸着速度は2.5kg/2hr=1.25kg/hrである。また、蒸着膜厚は18mmであった。
【0117】
製造した蒸着珪素をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7,200rpmにて粉砕した後、分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級し、D50=10.0μmの多結晶珪素からなる珪素粒子を得た。
【0118】
この多結晶珪素中の珪素粒子のX線回折線の半値全幅よりScherrer法で結晶子サイズが60nmであることを確認した。また、真密度は2.312g/cmであり、圧縮強度は528MPaであった。また、BET比表面積は0.98m/gであった。
【0119】
(実施例2)
実施例1において、0.2%のコバルトを含有する金属珪素塊に代えて純度98.5%の金属珪素塊を使用し、ステンレスからなる蒸着基板温度を1100℃に制御した以外は同様の方法により多結晶珪素粒子2.5kgを得た。蒸着速度は2.5kg/2hr=1.25kg/hrである。
【0120】
この多結晶珪素粒子は、D50=9.8μmであり、X線回折線の半値全幅よりScherrer法で結晶子サイズが85nmであることを確認した。また、真密度は2.315g/cmであり、圧縮強度は550MPaであった。また、BET比表面積は0.94m/gであった。
【0121】
(比較例1)
実施例2において、金属珪素原料を蒸着させる基板の温度を300℃とした以外は同様の方法により多結晶珪素粒子2.5kgを得た。蒸着速度は2.5kg/2hr=1.25kg/hrである。
【0122】
この多結晶珪素は、D50=10.0μmであり、X線回折線の半値全幅よりScherrer法で結晶子サイズが20nmであることを確認した。また、真密度は2.291g/cmであり、圧縮強度は388MPaであった。また、BET比表面積は5.2m/gであった。
【0123】
(比較例2)
比較例1において得られた多結晶珪素粒子をアルゴン雰囲気下1000℃にて3時間加熱処理を行った。
【0124】
この多結晶珪素は、D50=10.0μmであり、X線回折線の半値全幅よりScherrer法で結晶子サイズが50nmであることを確認した。また、真密度は2.318g/cmであり、圧縮強度は485MPaであった。BET比表面積は2.8m/gであった。従って、熱処理によるBET比表面積低減効果が認められるものの依然として高い値を示した。
【0125】
(比較例3)
実施例2において、金属珪素原料を蒸着させる基板の温度を900℃とし、蒸着時間を20分とした以外は同様の方法により多結晶珪素粒子0.4kgを得た。蒸着速度は0.4kg/20min=1.20kg/hrである。
【0126】
この多結晶珪素粒子は、D50=10.1μmであり、X線回折線の半値全幅よりScherrer法で結晶子サイズが75nmであることを確認した。また、真密度は2.324g/cmであり、圧縮強度は400MPaであった。BET比表面積は2.3m/gであった。
【0127】
(比較例4)
実施例2において、金属珪素原料を蒸着させる基板の温度を1000℃とし蒸着時間を4時間とした以外は同様の方法により多結晶珪素粒子4.5kgを得た。蒸着速度は4.5kg/4hr=1.13kg/hrである。
【0128】
この多結晶珪素粒子は、D50=9.9μmであり、X線回折線の半値全幅よりScherrer法で結晶子サイズが180nmであることを確認した。また、真密度は2.331g/cmであり、圧縮強度は500MPaであった。BET比表面積は1.3m/gであった。
【0129】
実施例1、2、比較例1−4の製造方法によって得られた多結晶珪素の珪素結晶粒径、真密度、圧縮強度、BET比表面積、比抵抗、D50の結果を、珪素を基板上に堆積させる際の基板温度及び蒸着膜厚と併せて、表1にまとめて示す。なお、多結晶珪素の真密度はヘリウムガスを用いたガス吸着法(ピクノメーター)により測定した。また、比抵抗は四端子を用いたACインピーダンス法により測定した。
【0130】
【表1】

【0131】
表1に示すように、金属珪素を原料として蒸着させる基板温度を800−1100℃の範囲内のいずれかの温度に制御した実施例1及び2の負極活物質は、珪素の結晶粒径が20−100nmの範囲内、真密度が2.250を超えて2.330g/cm未満の範囲内、圧縮強度が400MPaを超えて800MPaより小さく、BET比表面積が0.1−2.0m/gの範囲内であり、いずれも本発明の負極活物質の範囲を満たす負極活物質となっていることが判った。
【0132】
これに対し、基板温度を300℃未満に制御した比較例1及び2、蒸着物の膜厚を1.1あるいは33mmとした比較例3及び4の負極活物質は、珪素結晶粒径、真密度、圧縮強度、BET比表面積の少なくとも1つ以上が本発明の負極活物質の範囲外であった。
【0133】
また、表1に示すように、比抵抗の比較を行うと、実施例1の負極活物質は、コバルトをドープしたことによって、実施例2の負極活物質に比べてバルク抵抗が低下しており、導電性に優れていることが判った。
【0134】
<電池特性の評価>
実施例1及び2、比較例1−4の製造方法で得られた負極活物質の有用性を確認するため、以下のように、電池特性の評価を行った。
【0135】
負極活物質を81%、導電剤として人造黒鉛(平均粒子径D50=3μm)を9%、アセチレンブラックのN−メチルピロリドン分散物(固形分17.5%)固形分で2.5%との混合物をN−メチルピロリドンで希釈した。これに結着剤として宇部興産(株)製ポリイミド樹脂(商標名:U−ワニスA、固形分18%)固形分換算で7.5%を加え、スラリーとした。
【0136】
このスラリーを厚さ12μmの銅箔に50μmのドクターブレードを使用して塗布し、200℃で2時間乾燥後、60℃のローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cmに打ち抜き、負極成型体とした。
【0137】
得られた負極成型体を、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を各4個作製した。
【0138】
このように作製したリチウムイオン二次電池を一晩室温でエージングし、この内2個を解体して、負極の厚み測定を行い、電解液膨潤状態での初期重量に基づく電極密度を算出した。なお、電解液及び充電によるリチウム増加量は含まないものとした。
【0139】
また、2個を二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.15cの定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。その後、電流値が0.02cを下回った時点で充電を終了し、充電容量を算出した。なお、cは負極の理論容量を1時間で充電する電流値である。
【0140】
充電終了後、これらの評価用リチウムイオン二次電池を解体し、負極の厚みを測定した。算出した厚みから同様にして電極密度を算出し、充電時の体積当たり充電容量を求めた。その結果を表2に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
表2に示すように、基板温度を800−1100℃の範囲内のいずれかの温度に制御して、結晶粒径、真密度、圧縮強度、BET比表面積のいずれも本発明の負極活物質の範囲内となっている実施例1及び2の負極活物質を用いた負極成型体では、エージング後の電極密度、体積変化倍率、充電後電極密度のいずれも優れた値となっており、充電容量も1500mAh/ccを上回っており、充放電容量に優れていることが判った。
【0143】
これに対し、アモルファス状のため結晶粒径が観察不能であり、真密度の小さい比較例1の負極活物質を用いた場合、BET比表面積が大きいことから結着剤量が不足するために体積膨張が大きく、また、結晶粒径が100nmを超える比較例4の負極活物質を用いた負極材も、比較例1と同様に体積膨張が激しく、従って体積当たりの電池容量が増加しないことが判った。
【0144】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質を用いる二次電池用の負極活物質の製造方法であって、
金属珪素を原料とした電子線蒸着法により、温度を800−1100℃に制御した基板上に、1kg/hrを超える蒸着速度で、蒸着膜厚が2−30mmの範囲で珪素を堆積させる工程と、
該堆積させた珪素を粉砕・分級して、前記負極活物質を得る工程と
を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記金属珪素を原料として前記基板上に珪素を蒸着させる際に、ホウ素、アルミニウム、リン、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、ヒ素、スズ、タンタル、タングステンから選択される一種又は二種以上のドーパントを前記堆積させる珪素にドープすることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕・分級は、前記非水電解質二次電池用負極活物質の粒子径がレーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積平均値D50で1μm以上20μm以下となるように行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記基板は、珪素堆積時に珪素と合金化しない材料からなるものを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
非水電解質二次電池用負極活物質であって、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法によって製造されたものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項6】
請求項5に記載の非水電解質二次電池用負極活物質であって、
真密度が2.250g/cmより高く2.330g/cm未満、BET比表面積が0.1−2.0m/g、粒子の圧縮強度が400MPaを超え800MPaより小さい多結晶珪素からなり、
該多結晶中の珪素粒子は、結晶粒径がX線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる値が20nm以上100nm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質。
【請求項7】
非水電解質を用いる二次電池用の負極材であって、少なくとも、
請求項6に記載の非水電解質二次電池用負極活物質からなるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極材。
【請求項8】
更に、結着剤を含有するものであることを特徴とする請求項7に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項9】
前記結着剤が、ポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項10】
更に、導電剤を含むものであって、前記非水電解質二次電池用負極材に対する前記非水電解質二次電池用負極活物質の割合が60〜97質量%、前記結着剤の割合が3〜20質量%、前記導電剤の割合が0〜37質量%であることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項11】
前記導電剤は、水または溶剤に導電物質が分散された分散液からなるものであり、前記導電物質の割合が前記非水電解質二次電池用負極材に対して1〜37質量%であることを特徴とする請求項10に記載の非水電解質二次電池用負極材。
【請求項12】
請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材を含む負極であって、充電前後の膜厚変化が3倍を超えないものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項13】
非水電解質二次電池であって、少なくとも、請求項12に記載の非水電解質二次電池用負極を用いた負極成型体と、正極成型体と、セパレーターと、非水電解質とからなるものであることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項14】
前記非水電解質二次電池が、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項13に記載の非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2013−98058(P2013−98058A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240680(P2011−240680)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】