説明

顆粒状結合剤、ガラス繊維マットとガラス繊維マットの製造方法、及び自動車用成形天井材

【課題】含水ガラスガラスストランド堆積物上に結合剤を散布され、堆積物に付着せずに再利用される含水状態の結合剤を、未使用の結合剤と高い混合率で使用でき、さらに再生結合剤を単独使用できる顆粒状結合剤と、均等な品位を有するガラス繊維マット及びその製造方法、さらにガラス繊維マットを使用した自動車成形天井材を提供する。
【解決手段】本発明の顆粒状結合剤は、ガラスストランド同士を結合するもので、除電性粉末を0.025質量%以上、1.0質量%以下含有するものである。ガラス繊維マットは本発明の顆粒状結合剤により複数のガラスストランドが相互に結合して一体化されてなる。ガラス繊維マット1の製造方法は、本発明の顆粒状結合剤をガラスストランド堆積物に付着させ、顆粒状結合剤を軟化、溶融後に冷却固化して結合部を形成する。自動車成形天井材は、本発明のガラス繊維マット1を発泡樹脂シートの少なくとも一面側に接着したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顆粒状結合剤とこの結合剤により得られるガラス繊維マットと、その製造方法、及びそのガラス繊維マットを用いた自動車用成形天井材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドや、ガラスコンティニュアスストランドによって構成されたガラス繊維マットは、その高い機械的強度と軽量性、そして加工性等の点で優れた性能を有しており、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂やフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂またはスーパーエンジニアリングプラスチック(略称スーパーエンプラ)のような熱可塑性樹脂などの樹脂材を構造的に補強する強化材として広く利用されている。このようなガラス繊維マットは、例えば自動車の成形天井材や電子機器の構造材等として数多く用いられている。そしてガラス繊維マットは、自動車産業や電子産業の興隆に応じてより高い性能の向上が求められており、そのためこれまでにも多数の発明が行われてきた。例えば特許文献1には、単繊維直径が13.1〜20μmであり、平均ストランド番手が10〜30texのガラスチョップドストランドから構成され、目付が50〜150g/mであるガラスチョップドストランドマットとすることによってプレス成形して所定の寸法の自動車成形天井材に切断した際に、端面に切れ残ったガラスチョップドストランドがなく、端部の補修を必要としないものとなるという発明が開示されている。
【0003】
特許文献2には、マットをロールから引き出した時のマットの損傷防止、自動車成形天井材とした際にアバタ状模様の発生の危険性を低減するために、平均ストランド番手が10〜20texのガラスチョップドストランドから構成され、目付が50〜150g/mであり、JIS R3420(1999)付属書13に従う引張破断試験におけるマット幅方向の引張強さの平均値が150N以下で、その引張強さの標準偏差が50N以下であり、かつマット長手方向の引張強さの平均値が100N以上のガラスチョップドストランドマットとするという発明が開示されている。
【0004】
特許文献3には、マットになった後に剛性を確保でき、また構造部材として使用後の環境問題にも対応できるガラスチョップドストランドマットとするため、シート状に堆積したガラスチョップドストランドを相互に結合する結合剤が熱可塑性を有する変性フェノール樹脂を含有し、この変性フェノール樹脂は植物由来の糖誘導体の含有率が質量百分率表示で20質量%から40質量%とする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277951号公報
【特許文献2】特開2005−350815号公報
【特許文献3】特開2008−308768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したようなガラス繊維マットは、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランド、あるいはその両方を搬送ネットの上に堆積させた後、このストランド堆積物に上から顆粒状の結合剤(バインダ、または2次結合剤、2次バインダなどとも称す)を散布し、次いで加熱炉で加熱溶融した後に冷却固化することにより製造される。この際、ストランド堆積物に散布される結合剤は乾燥した顆粒状であるため、結合剤がストランド堆積物の空隙部や搬送ネットの隙間等から落下してしまい、ストランド堆積物に十分に結合剤を付着させることができないという問題が生じていた。そこで、結合剤を散布する前にストランド堆積物を予め水で湿潤させておき、結合剤がストランド堆積物に付着し易くするという改善が行われた。
【0007】
しかし、水で湿潤された含水ストランド堆積物を用いても、上述と同様に、散布した結合剤の一部は含水したまま、搬送ネットの隙間から落下してしまう。落下した結合剤をそのまま廃棄すると、産業廃棄物が大量に発生することとなり、また経済的な観点からも好ましくはないため、結合剤は、回収されて再利用される。結合剤の再利用を行うには、湿潤状態の結合剤を散布し易い乾燥状態にする必要がある。しかし湿潤状態の結合剤を乾燥する再生作業は、単に乾燥しただけでは適切な結合剤の流動性が失われたままになるという問題があった。このため、再生された結合剤(再生結合剤ともいう)は未使用の結合剤と混合した状態で利用されるが、均一に散布するためには適切な流動性を得る必要がある。なぜなら、流動性の低い再生結合剤は、未使用結合剤と併用する場合、均一性に十分配慮して均一な状態になるまで混合する必要がある。さらに、たとえ均一な混合ができても、再生結合剤の混合比率が大きくなるほど流動性は顕著に悪化するため、未使用結合剤への再生結合剤の混合率は数%程度の僅かなものに抑えねばならない。しかしながら流動性が損なわれた再生結合剤はストランド堆積物上に散布する際にも、均等な落下をしていないことが判明し、この点についての解決が強く望まれている。ストランド堆積物上に均等な結合剤の散布が行われないと、製造されたマットの強度にばらつきが生じ、安定した品位のマットを製造する妨げになるからである。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、含水ストランド堆積物上に結合剤を散布する際に、ストランドに付着することなく落下してしまった含水状態にある結合剤を再生した結合剤で、未使用の結合剤と高い混合率で使用することができる上、均一混合する必要がなく、さらには再生結合剤を単独使用することをも可能とする顆粒状結合剤と、均等な品位を有するガラス繊維マット、その製造方法、及びガラス繊維マットを使用した自動車成形天井材を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ガラス繊維マットの製造品位の向上に関わる研究を重ね、上述した困難な課題の解決を図るべく鋭意努力した結果、再生バインダの流動性の欠如の原因は再生バインダの帯電現象に関連するものであることを究明し、その改善に際して再生バインダの帯電を抑制することのできる添加剤を使用することを見いだし、ここにこの発明の全容を提示するものである。
【0010】
本発明の顆粒状結合剤は、ガラスストランド同士を結合するために用いられる樹脂を主成分とする顆粒状結合剤であって、除電性粉末を0.025質量%以上、1.0質量%以下含有するものであることを特徴とする。
【0011】
顆粒状結合剤は、樹脂を主成分とするものであるが、それ以外に特定の性能を発揮する添加物も含有している。本発明に係る除電性粉末は、顆粒状結合剤と除電性粉末の合量を100質量%とした時に、その含有量が0.025質量%未満では、十分な除電性を得られないため、顆粒状結合剤の帯電性を改善できず、その結果、顆粒状結合剤の十分な流動性を得ることができない。一方、除電性粉末は、顆粒状結合剤と除電性粉末の合量を100質量%とした時に1.0質量%を超える含有量としても、より高い除電性は確保できず経済的でもなく、また顆粒状結合剤のガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドのストランド同士の結合という性能の発揮を阻害することも懸念させるため好ましいことではない。
【0012】
以上のような観点から、本発明に係る顆粒状結合剤に対する除電性粉末の含有量は、より好ましくは顆粒状結合剤と除電性粉末の合量を100質量%とした時に0.05質量%以上0.8質量%以下とすることであり、より好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。
【0013】
以上のような構成であれば、未使用の顆粒状結合剤と再生した顆粒状結合剤とを混合して使用する場合、あるいは再生した顆粒状結合剤のみを使用する場合であっても顆粒状結合剤に発生する帯電現象によって工程内における作業に多くの労力を要することなく、円滑な作業を実現することができる。
【0014】
また本発明の顆粒状結合剤は、上述に加えて平均粒径、すなわち粒径加積曲線における有効粒径であるD50が25nm以上、200μm以下の除電性粉末を、顆粒状結合剤と除電性粉末の合量を100質量%とした場合に0.025質量%以上1.0質量%以下含有したものであるならば、除電性粉末を顆粒状結合剤に添加して、均一な状態になるように混合しやすく、そのため再生した結合剤の帯電性を偏りなく改善することが可能である。また過不足ない適正な添加量であるため、顆粒状結合剤の性能を十分に発揮させるものである。上記平均粒径については、以後平均粒径(D50)と表記する。平均粒径(D50)の計測は、篩分級法やレーザー回折法等を用いる粒度計測方法によって算出すればよい。
【0015】
本発明に係る除電性粉末の平均粒径(D50)は25nm未満となるとその取り扱い作業において、様々な制約が生じ、取り扱い容易性が損なわれるため好ましくない。200μmを超えると、除電性粉末の顆粒状結合剤に対する存在数の比率が低下するものとなり、顆粒状結合剤表面の帯電を十分に除電することができない。
【0016】
本発明に係る除電性粉末は、本発明の顆粒状結合剤の有する性能、すなわち加熱されて軟化し、溶融した後に冷却されると固化し適正な強度をもって、ストランド同士を強固に結合するという性能を阻害するものではなく、さらに顆粒状結合剤よりも帯電性が高いために顆粒状結合剤の除電を容易に行えるものであればどのような粒子であってもよい。
【0017】
本発明の顆粒状結合剤は、上述に加え顆粒状結合剤が樹脂を主成分とし、該樹脂材質が、ビスフェノール系不飽和ポリエステル系樹脂であれば、バインダによって強固に結合されたマットに適度な柔軟性を付与することが可能であるため好ましい。
【0018】
顆粒状結合剤が樹脂を主成分とするというのは、顆粒状結合剤の全質量に対する樹脂材質の質量の百分率表示が少なくとも50%を超える含有量であるということである。本発明に係る顆粒状結合剤は、様々な性能を向上させる目的で、必要に応じて樹脂以外の成分を適量含有してもよい。そして本発明の顆粒状結合剤は、質量百分率表示で5割を超える樹脂材の材質が、ビスフェノール系不飽和ポリエステル系樹脂であるとしており、必要に応じて他の成分を添加してもよい。
【0019】
本発明の顆粒状結合剤は、上述に加え除電性粉末が、Si、Al及びCの何れか一つ以上を含有する物質であれば、経済的に入手が容易で、しかも十分な除電性を発揮するものであるので好ましい。具体的には、Si、Al及びCを含有する無機粒子、有機粒子、有機無機ハイブリッド粒子、セラミックス系粒子、セラミックスハイブリッド系粒子あるいはカーボン系粒子などの構成を有するものが好適である。そして上述した利点を有し、顆粒状結合剤の帯電防止効果を十分に発揮できるものとしては、より具体的には、酸化アルミニウム(Al)、非晶質アルミナ(a−Al)、二酸化ケイ素(SiO)、非晶質シリカ(a−SiO)、カーボン(例えば黒鉛)、含水性樹脂材(例えばポリアクリラマイド)等が好ましい。また界面活性剤等のように、一分子中に正電荷と負電荷とを合わせもつ分子を含有するものについても、本発明に関わるバインダの機能を阻害することなく、ガラス繊維マットになった後の各種性能に悪影響を及ぼさないものであれば使用してよい。
【0020】
本発明のガラス繊維マットは、本発明の顆粒状結合剤により複数のガラスストランドが相互に結合して一体化されてなることを特徴とする。
【0021】
本発明の顆粒状結合剤により複数のガラスストランドが相互に結合して一体化されてなるというのは、除電性粉末を0.025質量%以上、1.0質量%以下含有する顆粒状結合剤によって、互いに堆積した状態で重なり合ったガラスストランドが、夫々架橋されて結合し合い、互いに強固に結合した一体のマットになっているということである。またこの顆粒状結合剤は、樹脂を主成分とし、該樹脂材質が、ビスフェノール系不飽和ポリエステル系樹脂であれば好ましく、除電性粉末が、Si、Al及びCの何れか1以上を含有する粉末であればさらに好ましい。
【0022】
また、本発明のガラス繊維マットは、上述に加えて目付が50g/m以上、200g/m以下の範囲内であれば、柔軟性や機械的強度の安定性、そして軽量性がマット全体に偏りなく具現されることに繋がるため均質なマットが得られ、安定した品位のガラス繊維マットとなる。
【0023】
上記目付について説明すると、目付とは、単位m当たりのマットの質量を表しているが、本発明のガラス繊維マットは、上述の製造方法に従って製造され、JIS R3420(2006)に従う測定法によって得られる目付けが、50g/mから200g/mの範囲内となるものである。
【0024】
ガラス繊維マットの目付が50g/mに満たないものであると、目付が小さすぎるため十分高い機械的強度を有していないため、マットの解舒作業時に断裂などの問題が発生し易くなるので好ましくない。一方、ガラス繊維マットの目付が200g/mを超えると、目付が大きすぎるため、マットを使用した複合材の重量が重くなりすぎてしまうため、用途が限られたものとなり、例えば軽量であることが要求される自動車成形天井材として用いるには不適なものとなる。本発明のガラス繊維マットは、例えば前記含水ストランド堆積物に付着せずに、水で湿潤された状態で落下した含水結合剤の乾燥を含む再生工程にて平均粒径(D50)が25nm以上、200μm以下の除電性粉末を0.025質量%以上1.0質量%以下添加し、その樹脂の材質がビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂である結合剤を使用することによって、均等に偏りなく結合されたガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドが、50g/mから200g/mの範囲内の目付となることで、十分な強度を有し、しかも軽量なフレキシビィティのあるマット材となるものである。
【0025】
本発明のガラス繊維マットは、上述に加えガラス繊維が切断加工されたチョップドストランドであれば、チョップドストランドの長さが所定長に揃っており、ストランドの分布を均等にし易く、またストランドの分布が均等になるので、顆粒状結合剤による結合部の分布も均等にし易い構成である。また用途によってガラスチョップドストランドの長さ寸法を変更することによってマットの性状をも調整することが容易である。
【0026】
連続した繊維外観を呈するガラスストランドからチョップドストランドへの切断加工は、例えば間隔を揃えて放射状に配設された切断刃を有する回転式の切断装置等を使用して切断を行い、揃った長さのチョップドストランドを得ればよい。
【0027】
本発明のガラス繊維マットの製造方法は、本発明の顆粒状結合剤をガラスストランド堆積物に付着させ、該顆粒状結合剤を軟化、溶融後に冷却固化して結合部を形成することを特徴とする。
【0028】
本発明の顆粒状結合剤は、前述したようにガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドのストランド同士を結合するために用いられる樹脂を主成分とする結合剤であって、平均粒径(D50)が25nm以上、200μm以下の除電性粉末が0.025質量%以上1.0質量%以下の含有量となるように添加したものである。顆粒状結合剤は、ストランド上に均等に付着した状態になっている。そしてこの状態で本発明の顆粒状結合剤を軟化、溶融後に冷却固化して結合部を形成するとは、堆積されたガラスストランドの上に顆粒状結合剤が水を介して付着された状態で、その結合剤の軟化温度まで加熱を行い、結合剤を軟化させて溶融状態とし、その後冷却して固結することによって2以上のガラスチョップドストランドのストランド同士、あるいは2以上のガラスコンティニュアスストランドのストランド同士を互いに結合した結合部を形成するということである。
【0029】
顆粒状結合剤を軟化させるために行う加熱手段は、顆粒状結合剤の軟化温度になるように加熱状態を調整することができるものであれば、どのような熱源でも使用可能である。例えば、液体燃料、気体燃料あるいは固体燃料の燃焼によって発生した熱を循環させる等して顆粒状結合剤を軟化させるものでもよく、また赤外線等の電磁波の放射熱源によって加熱を行うものでも、あるいはガラスチョップドストランドやコンティニュアスストランド自体の温度を何らかの手段によって上昇させて、これらのガラス繊維からの熱伝導によって結合剤を軟化するものであってもよい。
【0030】
また軟化、溶融した後に、溶融状態の結合剤を冷却して固化する方法についても、十分な強度を有する結合部が得られる方法であればよい。例えば、前述した加熱源を除くことによって自然に温度が低下するのに任せてもよく、また、より高速な冷却を実現するため、冷却された気流中に曝してもよく、さらにマットの厚みを薄くするためにロール状等の形状の部材を有する冷却装置によってマット厚みの薄肉化処理を行いつつ、室温まで冷却を行うものであってもよい。
【0031】
また上述した加熱工程と冷却工程とは夫々独立した装置内で行うものであっても、連続した装置内で行うものであってもよい。
【0032】
本発明のガラス繊維マットの製造方法は、上述に加えて本発明の顆粒状結合剤を散布するものであれば、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランド上への顆粒状結合剤の均等な付着状態を高い製造効率で経済的に得ることが容易である。
【0033】
顆粒状結合剤の散布の方法は、ガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランド堆積物上への均等な散布ができる方法であれば、特に限定するものではない。
【0034】
顆粒状結合剤の散布は、顆粒結合剤の自由落下によるものを基本とするが、必要に応じて気流の調整や分散装置などの手段を併用してもよい。
【0035】
本発明の自動車用成形天井材は、本発明のガラス繊維マットを発泡樹脂シートの少なくとも一面側に接着したものであることを特徴とする。
【0036】
本発明のガラス繊維マットを発泡樹脂シートの少なくとも一面側に接着したものであるというのは、以下に示すようなものである。例えば、本発明のガラス繊維マットを発泡樹脂シートの一面側に接着した発泡樹脂シートの一形態としては、所定の接着剤を塗布したチョップドストランドマットを表皮、ガラスチョップドストランドマット、発泡ポリウレタンシート、ガラスチョップドストランドマット及び保護シートの順に重ね合わるといった使用方法があり、このようにしてガラス繊維マットを発泡樹脂シートの少なくとも一面側に接着した構成とできる。また上記については、発泡樹脂シートの一面側のみではなく必要に応じて両面に施してもよい。
【0037】
ここで用いられる本発明のガラス繊維マットは、上述したようにガラスチョップドストランド又はガラスコンティニュアスストランドのストランド同士を結合するために用いられる樹脂を主成分とする結合剤であって、結合剤再生時に平均粒径(D50)が25nm以上、200μm以下の除電性粉末が0.025質量%以上、1.0質量%以下の含有量となるように添加された顆粒状結合剤を結合剤の少なくとも一部として使用し、結合剤の軟化、溶融後に冷却固化して結合部を形成することによって得られ、目付が50g/m以上200g/m以下の範囲内にあるものであるため、例えばフェノール系、メラミン系、あるいはイソシアネート系の何れかの接着剤によって発泡樹脂シートの表面あるいは裏面の少なくとも一面側に接着されて構成された自動車成形天井材とすると、軽量でしかも高い剛性を有した自動車成形天井材が製造ロットによる天井材の性能変動を抑制したものとして得られるので好適である。
【0038】
また本発明の自動車成形天井材は、上述に加えてその断面平均厚さが3mm以上、30mm以下の範囲内であるならば、様々な自動車に適用できるものであり、本発明のガラス繊維マットの性能に加えて、軽量性及び剛性を十分に生かした優れた自動車用の天井材となるので好ましい。
【0039】
自動車成形天井材の断面平均厚さが3mm未満であると、高い剛性や吸音性を要求される場合に所望の性能を発揮できなくなる場合があるので好ましくない。一方自動車成形天井材の断面平均厚さが30mmを超えると、天井材の質量が大きくなりすぎて軽量性を要求される場合に、その要求を満足しないものとなるので好ましくない。
【0040】
断面平均厚さの計測は、成形された後に断面平均厚さが同寸法の厚さとなるように設計された自動車成形天井材の任意の10点の断面厚さを校正された計測装置で計測して得た各値の算術平均値であればよい。
【発明の効果】
【0041】
以上のように本発明の顆粒状結合剤は、ガラスストランド同士を結合するために用いられる樹脂を主成分とする結合剤であって、除電性粉末が0.025質量%以上1.0質量%以下含有するように添加されたものであるため、再生結合剤を、未使用の結合剤と高い混合率で使用することができ、さらには再生結合剤を単独使用することをも可能とするものである。
【0042】
本発明のガラス繊維マットは、本発明の顆粒状結合剤により複数のガラスストランドが相互に結合して一体化されてなるため、高い剛性を有し、軽量でしかもそれに加えて様々な変形形状に加工できる柔軟な性能をも有しており、汎用性を有して多くの用途で利用することが可能である。
【0043】
本発明のガラス繊維マットの製造方法は、本発明の顆粒状結合剤をガラスストランド堆積物に付着させ、該顆粒状結合剤を軟化、溶融後に冷却固化して結合部を形成するものであるため、マット内の結合部の分布状態を均等に揃えることが容易であり、安定した強度、偏りのない重量等を有するガラス繊維マットを効率よく製造することができるものである。
【0044】
本発明の自動車用成形天井材は、本発明のガラス繊維マットを発泡樹脂シートの少なくとも一面側に接着したものであるため、安定した強度品位と軽量性とを有しており、多くの車種に適用可能な優れた性能を発揮する自動車用の天井材である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のガラス繊維マットの斜視図である。
【図2】本発明のガラス繊維マットの製造に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、順番に本発明の顆粒状結合剤とこの顆粒状結合剤を使用して得られるガラス繊維マット、そのマットの製造方法、及びガラス繊維マットを使用した自動車成形天井材について説明する。
【実施例1】
【0047】
本発明のガラス繊維マットと、その製造方法について以下説明する。
【0048】
まず自動車成形天井材に用いられるガラスチョップドストランドを堆積して成形された図1に示すようなガラスチョップドストランドマット1を製造する。このガラスチョップドストランドは、例えば以下のような工程で製造される。予め調製したガラス原料をガラス熔融炉にて均質に熔融し、得られた均質な状態のEガラス材質の熔融ガラスを白金製ブッシングへと導く。次いで例えば1200本のノズルを持つ白金製ブッシングから直径11.6μmのガラスフィラメントが、連続的に引き出されて成形される。引き出されたガラスフィラメントの表面に、ポリ酢酸ビニルエマルジョンが固形で5質量%、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが0.3質量%、第4級アンモニウム塩が0.5質量%、イオン交換水が94.2質量%となるように調整した集束剤を、その付着量が0.4質量%となるように塗布する。集束剤が塗布された1200本のガラスフィラメントは、集束されてガラスストランドとなり、カーボン製のシューと呼ばれる分糸機によって18分糸され、分糸後のガラスストランドは67本のガラスフィラメントよりなる18本のガラスストランドとなって、巻き取られてガラスケーキとなる。その後、このガラスケーキは、所定時間乾燥され、集束剤はガラスフィラメントの表面上に定着される。
【0049】
次いで、得られたケーキからガラスチョップドストランドマットを製造する。まず図2に示すように複数のケーキ2からガラスストランド8を連続的に解舒し、所定長、例えば50mm長のガラスチョップドストランド9を得ることになる。その際に、ガラスチョップドストランド9は、ガラスストランド8の切断機を用いて連続的に切断が行われる。この切断機は、装置の天井付近に配設されており、対向する回転方向を有する一対のカッターロール3aとゴムロール3bから構成されている。乾燥工程を終えたケーキ2の内層から連続的に解舒された各ガラスストランド8は、各切断機の回転するカッターロール3aとゴムロール3bの間に順次送り込まれて、カッターロール3aに放射状に配設された切断刃3によって、例えば長さ50mmの寸法に連続的に切断されることになる。
【0050】
こうして得られたガラスチョップドストランド9を用いて、ガラスチョップドストランドマット1の製造が行われる。この製造装置13はベルトコンベヤによって移動する搬送ネット4上のガラスチョップドストランド9に対して各種操作を行うように構成されている。長さ50mmの寸法に切断されたガラスチョップドストランド9は、切断装置の下方に配設された第一搬送コンベヤ4aの上に、均一に分散された状態になるように分散されて積もり、ストランド堆積物10となって第一搬送コンベヤ4aによって切断装置の外へと搬送される。
【0051】
次いで、ストランド堆積物は第二搬送コンベヤ4bに移載され、第二搬送コンベヤ4b上で移動するストランド堆積物10上に散水手段5から水11を散布して湿潤させた状態とする。次いで本発明の顆粒状結合剤12として、その材質がビスフェノール系不飽和ポリエステルの顆粒状結合剤12をバインダ散布装置6によって散布する。この顆粒状結合剤12は、予め平均粒径(D50)が6.5μmの二酸化珪素(非晶質シリカ)粉末を除電粉末として0.15質量%含有する、いわゆる再生された顆粒状結合剤が35%含まれている。この顆粒状結合剤は、ガラスチョップドストランドマット13となった後に所定の付着量(具体的に例示すると10〜14%)になるように散布されている。
【0052】
この再生に関わる回収後の一連の操作等については後述するが、顆粒状結合剤12は上述したような構成であるため、顆粒の帯電量が適切に抑制されたものとなっており、移送、及び散布等の際に流動性に優れ、ガラスチョップドストランド9の表面に偏ることなく均等に付着することになる。そしてベルトコンベヤ4a上に堆積したストランド堆積物10とその上から散布された結合剤12とが付着した状態のままで、これらの堆積物10は第二搬送コンベヤ4bから第三搬送コンベヤ4c上へと移載される。第三搬送コンベヤ4cの途中には、発熱体を有する加熱炉7が配置されており、結合剤12が散布されたガラスチョップドストランド堆積物10が、加熱炉7中に移動して所定温度で加熱されることによって、付着した顆粒状結合剤12が軟化し、ガラスチョップドストランド9の表面上で溶融状態となる。次いでこのストランド堆積物10はベルトコンベヤによって加熱炉7の外部に移動させられ、冷却圧延水冷プレスロール15間を通して冷却、プレスが行われる。ちなみにこの冷却圧延水冷プレスロール15はマット1に対して下方に配された送り方向に回転する水冷プレスロール15aと、反対方向に回転するマット1上方に配された水冷プレスロール15bとの間隙に上記した加熱後のストランド堆積物10を送り方向に挿入して圧延するための装置である。この圧延操作を行うことによって、溶融していた結合剤12が固化されて、その後巻き取り機によって巻き取られて最終的にガラスチョップドストランドマット1(このマット1の目付は107g/mである)の回巻体69が得られる。また、こうして上述の工程によって溶融した顆粒状結合剤12の冷却固化された箇所は、複数のガラスストランド同士を互いに結合する結合部となる。よって顆粒状結合剤12の散布が均等に行われているため、ガラスストランドの結合部も均等にガラスチョップドストランドマット1内に形成されることになる。
【0053】
ちなみに、ここではビスフェノール系不飽和ポリエステルの顆粒状結合剤に添加する除電性粉末として平均粒径(D50)が6.5μmの二酸化珪素(非晶質シリカ)を用いたが、それ以外にも例えば一次粒子の平均粒子径30nmのAEROSIL(登録商標)(ヒュームドシリカ:酸化アルミニウム含有)等を使用してもよい。
【0054】
このようにして得られたガラスチョップドストランドマットの性能に関しては、例えば引張強さに関する評価を行えばよいため、ここでは引張強さの評価を実施した。具体的には、ガラスチョップドストランドマットから巾150mm、長さ325mmのサンプルを巾方向に8枚×5列採取し、その引張強さを日本工業規格、すなわちJIS R3420(2006)に従い、チャック間距離200mm、引張速度200mm/minで測定したところ、平均引張強さは、180Nであり、引張強さの標準偏差は45Nと小さく、高い品位を有するものであることが判明した。
【0055】
また上記の評価に加えて、ガラスチョップドストランドマットの結合部の分布状態について、ガラスチョップドストランドを長年に亘り評価している経験者が目視観察によって確認を行ったところ、接着部の分布に偏りは認められず、均等な接着部の分散を有するガラスチョップドストランドマットが得られたことが明瞭となった。
【実施例2】
【0056】
次いで本発明のガラス繊維マット、及びガラスマットの製造方法で使用した本発明の顆粒状結合剤について、さらに詳細に説明する。
【0057】
本発明の顆粒状結合剤は、上述したように除電性粉末を適正量だけ添加している。除電性粉末の添加は、顆粒状結合剤の帯電性を改善するためのものであるが、その含有量によっては十分な除電効果が得られない場合がある。そこで本発明の顆粒状結合剤に関して、以下に示すような評価を実施した。すなわち、上記したと同様のガラス繊維マットの製造方法を適用して、種々の顆粒状結合剤を使用した場合に、得られたガラスチョップドストランドマットはどのような品位になるのかという評価である。
【0058】
本発明者らは、評価に際して表1に示すような除電性粉末を準備し、これらの除電性粉末を結合剤に添加して評価を行った。得られた顆粒状結合剤の評価と、上述したと同様の工程によって得られたガラスチョップドストランドマットの引張強さの評価を行った。以上の結果を表1にまとめて示す。
【0059】
まず、ここで使用した顆粒状結合剤、前記と同様にビスフェノール系不飽和ポリエステルを主成分とする顆粒状結合剤を使用した。そして、この顆粒状結合剤は、一旦堆積したガラスチョップドストランド上から散布して、水によって湿潤状態となったものを再利用する際に除電性粉末を添加したものである。具体的には、図2に示したように、ガラスチョップドストランド9を堆積した後に、水11で湿潤させた含水ストランド堆積物10に、ビスフェノール系不飽和ポリエステル材質の顆粒状結合剤12を散布した後、前記含水ストランド堆積物10に付着せずに、水で湿潤された状態で落下した含水した顆粒状結合剤12aはコンベヤ4bの下方に設けられた回収槽14で回収される。このように回収される顆粒状結合剤12aの多くは、含水ストランド堆積物10の間隙などを通じて落下したものであるので、水分を含んだ含水状態となっている。回収した含水結合剤12aを再利用するためには、回収した含水状態の顆粒状結合剤12aに平均粒径(D50)が25nm以上、200μm以下の除電性粉末を0.025〜1.0質量%添加し、乾燥させる必要がある。そこで、表1に示した実施例1から実施例3の様々な除電性粉末を添加した。次いで含水状態で除電性粉末が添加された状態の顆粒状結合剤12aは、減圧乾燥を行うため耐圧性容器を有する減圧乾燥装置を用いて減圧乾燥を行う。具体的には、回収槽14に所定量の含水バインダ(結合剤)が回収されると、この回収槽14ごとに減圧乾燥装置へ搬送され、回収槽14内の含水結合剤(1バッチ分、乾燥後約70kg)が、減圧乾燥装置の耐圧性容器内へと投入される。
【0060】
耐圧性容器内に投入された含水状態の顆粒状結合剤は、所定の同条件で減圧乾燥を行う。この際、含水状態の顆粒状結合剤は攪拌されながら乾燥処理が行われる構造となっている。これにより、含水状態の顆粒状結合剤を効率よく乾燥することが可能となる。したがって、含水状態の顆粒状結合剤に含まれる水分を短時間で脱水、乾燥することが可能となるとともに、除電性粉末を均一に混合することにより顆粒状結合剤の帯電性の抑止性能が発現されることになる。こうして所定条件で乾燥された顆粒状結合剤は、以下の評価を行った。
【0061】
まず、顆粒状粉末を乾燥操作終了後の減圧乾燥機の耐圧性容器からフレキシブルコンテナへと充填する際、さまざまな箇所に付着していないかを「充填評価」として評価した。充填作業の実務経験者が判断し、減圧乾燥機の耐圧性容器からの排出とフレキシブルコンテナへの充填が滞りなく円滑に行える場合を「○」と判定した。一方、容器周辺に帯電した顆粒状結合剤が付着するとともに、顆粒状結合剤自体がフロック状に凝集するなどして流動性が著しく劣化したことによって長い作業時間が必要となり、製造工程全体へも悪影響を及ぼすことが顕著である場合を「×」と判定した。以上の結果は、表1にまとめて示す。
【0062】
また顆粒状結合剤の帯電性の評価の一つとして、顆粒状結合剤の静電気の帯電量をシシド静電気株式会社製の静電電位測定器(スタチロン−DZ4)を使用して測定した。測定は顆粒状結合剤の異なる測定点について5回の計測を行いその平均値を、表1にまとめて示す。
【0063】
さらに上記のようにして得られた顆粒状結合剤を、チョップドストランドマットへと散布して支障が生じないか、実務経験者による観察等を参考とし、実際の工程内で評価を実施した。その結果、散布を行う際にまったく偏りが認められない均等な散布状態が得られていると判断できたものを「良好」とし、散布時に様々な付随する問題、例えば顆粒状結合剤の散布装置周辺のノズル付近への付着を取り除く作業が必要になるといった問題などが生じるものを「良好でない」と判定した。また経験者が散布状態を観察すると、明らかに偏った散布が行われていると判断できるものを「悪化」と判定した。
【0064】
さらにこうした上述の工程によって得られたガラスチョップドストランドマットについても、一連の評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0065】
まず、ガラスチョップドストランドマットの結合剤付着量は、JIS R3420(2006)に記載の方法によって計測したガラスチョップドストランドマットの強熱減量からガラスチョップドストランドの製造に使用したケーキの強熱減量を差し引くことにより算出したものである。すなわち、予めケーキの強熱減量を求めることで、このガラス繊維の集束剤の付着量のみをケーキの強熱減量によって知ることができ、その後ガラスチョップドストランドマットについての強熱減量を計測し、マットについての強熱減量からケーキの強熱減量を引くことにより、ガラスチョップドストランドマットに付着している顆粒状結合剤(バインダ)の付着量を算出したものである。
【0066】
ガラスチョップドストランドマット中のストランド番手(tex)は、チョップドストランドマットを620℃で30分間焼却した後、チョップドストランドマットを構成するストランド50本を抜き取り、その平均長さL(mm)を測定した後、感量が0.1mg以下の秤を用いて50本の総質量W(g)を測定し、数1に示した式により算出することにより得た。この式は、ストランド長1000mの重量を表すため、単位をmm(ミリメートル)からm(メートル)に換算するものとなっている。
【0067】
【数1】

【0068】
またガラスチョップドストランドマットの引張強さは、上述したと同様にJIS R3420(2006)に従い、チャック間距離200mm、引張速度200mm/minで測定して得た。この結果についても表1にまとめて示す。
【0069】
【表1】

【0070】
以下に夫々の試作製造番号の実施例に関して、代表的な試料の評価結果を説明する。
【0071】
まず、表1の実施例である試作製造番号1は、前述した平均粒径7μmの非晶質シリカ粒子(表1では「二酸化珪素」と示す)を含有量が0.15質量%含有した顆粒状結合剤を使用するものであり、これを減圧乾燥して得られた再生結合剤について評価を行ったところ、滞りなく効率よい充填操作が可能であった。また静電気の帯電量については、1.5KVと十分に低い値であった。さらに得られた再生結合剤を全量(100%)使用し、すなわち未使用の結合剤の使用率を0%にしてガラスチョップドストランドの上方より散布を行い、その散布性は極めて良好であり「良好」と判定した。そして得られたガラスチョップドストランドマットの評価を行ったところ、ストランド番手は20texでマット目付が107g/m、結合剤付着量は12.0%であった。またこのチョップドストランドマットの引張強さの評価結果は、平均引張強さは180Nであり、引張強さの偏差は45Nと小さく、高い強度性能を有し、再生結合剤、すなわち上記の非晶質シリカ粒子を含み減圧乾燥して得られたもの(以下、再生品と呼ぶ)を35%だけを用いた場合と同等の評価結果が得られた。
【0072】
試作製造番号2は、平均粒径(D50)が30nmの酸化アルミニウムを含有するヒュームドシリカを0.15質量%含有する顆粒状結合剤を使用したものであるが、充填性に関しては試作製造番号1とほぼ同様で、スムーズな充填ができることが確認され十分に良好なものであった。また静電気の帯電量は1.0KVで低く、散布性の評価でも申し分ない結果が得られた。そしてこの顆粒状結合剤についても再生品を100%使用して評価を使用してチョップドストランドマットを製造した。得られたチョップドストランドマットの評価結果としては、まずストランド番手は20texでマット目付が107g/mについて、結合剤付着量は11.8%であった。このチョップドストランドマットの引張強さの評価結果は、平均引張強さは、185Nであり、引張強さの偏差は43Nと小さく、試作製造番号1と同様に高い強度品位を有していた。
【0073】
試作製造番号3は、平均粒径(D50)が7μmの黒鉛粒子を0.15質量%含有する顆粒状結合剤を使用するものである。評価について、まず充填性は、他の実施例と同様に支障の認められるものではなく高速な充填ができ「○」判定であった。また帯電量は3.0KVであって、低い値であった。そして散布性の評価結果も他の実施例と同様に良好な結果を得ることができた。次いでガラスチョップドストランドマットに関しての評価は、以下のようであった。このガラスチョップドストランドマットの番手は19texでマット目付が107g/m、結合剤付着量は12.5%であった。そしてこのチョップドストランドマットの引張強さの評価結果は、平均引張強さは175Nであり、引張強さの偏差は48Nと十分に小さく、試作製造番号1及び2と同様に優れた強度品位を有していた。
【0074】
試作製造番号4は、平均粒径(D50)が4μmの非晶質シリカ粒子(表1では「二酸化珪素」と示す)を含有量が0.45質量%含有した顆粒状結合剤を使用するものである。試作製造番号1と同様に、これを減圧乾燥して得られた再生結合剤について評価を行ったところ、効率よい充填操作が可能であった。また静電気の帯電量については、1.2KVと十分に低い値であった。そしてこの再生品を全量(100%)使用し、ガラスチョップドストランドの上方より散布を行ったところ、その散布性は極めて良好であり「良好」と判定した。そして得られたガラスチョップドストランドマットの評価を行った結果、ストランド番手は20texでマット目付が110g/m、結合剤付着量は12.2%であった。また、このチョップドストランドマットの引張強さの評価結果は、平均引張強さは、183Nであり、引張強さの偏差は43Nと小さく、他の実施例と同様に優れた強度品位を有していた。
【0075】
試作製造番号5は、平均粒径(D50)が11μmの非晶質シリカ粒子(表1では「二酸化珪素」と示す)を含有量が0.03質量%含有した顆粒状結合剤を使用した。試作製造番号1等と同様に、これを減圧乾燥して得られた再生品について評価を行ったところ、効率よい充填操作が可能であった。また静電気の帯電量については、1.5KVと十分に低い値であった。そして試作製造番号1等と同様にこの再生結合剤を全量(100%)使用し、ガラスチョップドストランドの上方より散布を行ったところ、その散布性は極めて良好であり「良好」と判定した。こうして得られたガラスチョップドストランドマットの評価を行ったところ、ストランド番手は20texでマット目付が107g/m、結合剤付着量は11.9%であった。また、このチョップドストランドマットの引張強さの評価結果は、平均引張強さは175Nであり、引張強さの偏差は40Nと小さく、他の実施例と同様に優れた強度品位を有していた。
【0076】
試作製造番号6は、平均粒径(D50)が25μmの非晶質シリカ粒子(表1では「二酸化珪素」と示す)を含有量が0.98質量%含有した顆粒状結合剤を使用したものである。試作製造番号1等と同様に、これを減圧乾燥して得られた再生品について評価を行ったところ、効率よい充填操作ができた。また静電気の帯電量については、1.0KVと十分に低い値であった。そして試作製造番号1等と同様にこの再生結合剤を全量(100%)使用し、ガラスチョップドストランドの上方より散布を行ったところ、その散布性は極めて良好であり「良好」と判定した。こうして得られたガラスチョップドストランドマットの評価を行ったところ、ストランド番手は22texでマット目付が112g/m、結合剤付着量は12.0%であった。また、このチョップドストランドマットの引張強さの評価の結果は、平均引張強さは182Nであり、引張強さの偏差は48Nと十分に小さく、優れた強度品位を有していた。
【0077】
試作製造番号7は、平均粒径(D50)が0.35μmの非晶質シリカ粒子(表1では「二酸化珪素」と示す)を含有量が0.35質量%含有した顆粒状結合剤を使用したものである。試作製造番号1等と同様に、これを減圧乾燥して得られた再生品について評価を行ったところ、効率よい充填操作ができた。また静電気の帯電量については、1.0KVと十分に低い値であった。そして試作製造番号1等と同様にこの再生結合剤を全量(100%)使用し、ガラスチョップドストランドの上方より散布を行ったところ、その散布性は極めて良好であり「良好」と判定した。こうして得られたガラスチョップドストランドマットの評価を行ったところ、ストランド番手は19texでマット目付が110g/m、結合剤付着量は12.1%であった。また、このチョップドストランドマットの引張強さの評価結果は、平均引張強さは、185Nであり、引張強さの偏差は42Nと十分に小さく、優れた強度品位を有していた。
【0078】
試作製造番号8は、ガラスチョップドストランドマットの引張強度まで評価していないため表1に示してはいないが、試作製造番号1と同様の非晶質シリカを0.45質量%含有する以外は、試作製造番号1と同様な条件で製造したものであるが、その結果、充填評価は「○」で、静電気は2.1KVであり、散布性についても同様に「良好」と判断できるものが得られた。
【0079】
試作製造番号9は、試作製造番号8と同様に表1に示してはいないが、試作製造番号1と同様の非晶質シリカを0.1質量%含有する以外は、試作製造番号1と同様な条件で製造したものであるが、その結果、充填評価は「○」で、静電気は2.5KVであり、散布性についても同様に「良好」と判断できるものが得られた。
【0080】
試作製造番号10は、試作製造番号8と同様に表1に示してはいないが、試作製造番号1と同様の非晶質シリカを0.12質量%含有する以外は、試作製造番号1と同様な条件で製造したものであるが、その結果、充填評価は「○」で、静電気は1.8KVであり、散布性についても同様に「良好」と判断できるものが得られた。
【0081】
試作製造番号11は、試作製造番号8と同様に表1に示してはいないが、試作製造番号1と同様の非晶質シリカを0.026質量%含有する以外は、試作製造番号1と同様な条件で製造したものであるが、その結果、充填評価は「○」で、静電気は2.9KVで十分に許容できる値であり、散布性についても他の実施例の試作製造番号と同様に「良好」と判断できるものが得られた。
【0082】
以上のように、試作製造番号8〜11は、マットの評価までは実施しなかったが、散布性などの一連の性能は十分に実用化できる品位であると判断できるものであった。
【0083】
次いで、これらの実施例に対して、本発明の比較例として、試作製造番号21、及び試作製造番号22を実施例同様の製造方法で製造し、評価についても同様の評価を実施した。結果は、実施例と同様に表1にまとめて示す。
【0084】
比較例の試作製造番号21は、試作製造番号1と同様に非晶質シリカ粒子を使用したものであるが、平均粒径(D50)が250μmと大きすぎるため、それ故含有量が1.05%と多くとも除電性を発揮できないことが懸念され、評価結果は、それを裏付けるものとなった。すなわち実施例と同様に充填性の評価を行うと、充填性は「×」と判定されるものであった。また静電気の帯電量については、8.5KVとなって非常に大きく、散布性は全く悪い結果になった。
【0085】
比較例の試作製造番号22は、試作製造番号1と同様に平均粒径(D50)7μmの非晶質シリカ粒子を添加したものであるが、その含有量が0.014質量%と少ない点だけが異なっていた。この評価結果は、総じて十分に除電性粉末の性能を活かせないものであった。すなわち、実施例と同様に充填性の評価を行うと、充填性は「×」と判定されるものであった。また静電気の帯電量については、10KVを超える高い値となって非常に大きく、散布性は非常に悪い結果となった。
【0086】
また、表1には示してないが、比較例の試作製造番号23は、試作製造番号1と同様の非晶質シリカを0.023質量%含有する以外は、試作製造番号1と同様な条件で製造したものである。この試作製造番号23の評価結果は、充填評価は除電性が十分に発揮されず「×」で、静電気は5.1KVと大きく、散布性についても「悪化」と判断されるものであった。試作製造番号23は、ガラスチョップドストランドマットの評価までは行わなかった。
【0087】
以上のように、本発明の一連の実施例と比較例とを参照すると、本発明の顆粒状結合剤は、100%再使用品を用いても、高い流動性を有し、安定した品位のガラスチョップドストランドマットを製造することのできるものであることが明瞭となった。
【実施例3】
【0088】
次いで、本発明の自動車成形天井材について、以下に実施例を説明する。
【0089】
自動車成形天井材については、表1に示した、本発明の実施例である試作製造番号1〜試作製造番号7および比較例である試作製造番号21、及び試作製造番号22、以上の計9種類の試料を作成した。すなわち表1のストランド番手となるEガラス材質の所定の寸法を有し、所定のマット目付となるように調整したガラスチョップドストランドマットにイソシアネート系の接着剤を含浸させた後、表皮(自動車の室内側)、ガラスチョップドストランドマット、発泡ポリウレタンシート、別のガラスチョップドストランドマット及び保護シート(自動車の天井側)の順に重ね合わせてゆく。次いで、この積層物をその周囲に超硬刃を取り付けた成形天井の形状をしたプレス型に入れ、その状態でプレス成形を行う。最後に所定の形状にすると同時にその周囲をトリミングして整えた。
【0090】
本発明の自動車成形天井材の外観に関する評価は、製造した1000枚の自動車成形天井材について、その表皮側に「ヒケ」と呼ばれる成形不良の発生した数量を目視観察によって熟練者が検査を行い、「ヒケ」の認められるものの発生率について、調査件数1000枚を母数とした百分率表示でまとめた。ここで、「ヒケ」は、マットの柔軟性の優劣を示すもので、柔軟性があれば「ヒケ」は発生し難いが、柔軟性がないと発生する外見上の不具合である。以上の結果を表1に表す。
【0091】
以下に自動車成形天井材としての評価結果をまとめる。
【0092】
表1からも明らかなように、実施例の試作製造番号1は、ストランド番手が20texでマット目付が107g/cm、結合剤付着量が12.0%のもので、結合剤に平均粒径(D50)が6.5μmの非晶質シリカを0.15質量%含有し、乾燥処理したものを使用してガラスチョップドストランドマットを製造したものである。このマットの引張強度は、その平均値が180Nで標準偏差が45Nであり、十分に高い引張強度で標準偏差も小さい値を有していたが、自動車成形天井材とするためにこのマットを引き出す操作を行った際にマットは「チギレ」が発生することもなく、また「ヒケ」についても全く認められない品位を有していた。このため「チギレ」については「無」、「ヒケ」については0%の判定となった。
【0093】
実施例の試作製造番号2についても、上述したように本発明としての要件を全て満足する品位であったが、試作製造番号1と同様に自動車成形天井材とするためにこのマットを引き出す操作を行った際にマットは「チギレ」が発生することはなかった。そして「ヒケ」についても全く認められない品位であった。よって試作製造番号1と同様に「チギレ」、について「無」であり、「ヒケ」について0%の判定となった。
【0094】
実施例の試作製造番号3についても、上述した他の実施例同様に本発明としての要件を全て満足する品位であったが、他の実施例と同様に自動車成形天井材とするためにこのマットを引き出す操作を行った際にマットは「チギレ」が発生することはなかった。そして「ヒケ」についても全く認められない品位であった。よって試作製造番号1と同様に「チギレ」について「無」であり、「ヒケ」について0%の判定となった。
【0095】
実施例の試作製造番号4から試作製造番号7についても、同様の評価を行い、いずれのマット、及び自動車成形天井材ともに問題のない結果が得られた。
【0096】
また実施例と同様に試作製造した比較例の自動車成形天井材については、以下のような結果となった。
【0097】
試作製造番号21は、平均粒径(D50)が200μmと大きすぎて除電性に問題のある非晶質シリカ粒子を用いた顆粒状結合剤を用いたものであるが、自動車成形天井材とするためにこのマットを回巻体のロールから引き出す操作を行った際にマットに「チギレ」が認められ、また自動車成形天井材とした後の判定でも8%の「ヒケ」が認められる品位であった。
【0098】
試作製造番号22は、試作製造番号1と同様に平均粒径(D50)が7μmの非晶質シリカ粒子を添加したものであるが、その添加量が0.014質量%と少ない顆粒状結合剤を用いたものであるが、自動車成形天井材とするためにこのマットを回巻体のロールから引き出す操作を行った際にマットに大きな「チギレ」が認められ、また自動車成形天井材とした後の判定でも、実に15%もの「ヒケ」が認められる品位となった。
【0099】
以上のように、本発明の自動車成形天井材は、実施例と比較例とを対比して例示したように、本発明の顆粒状結合剤を用いたガラスチョップドストランドマットによって製造された自動車成形天井材が、極めて優れた外観品位を有していることが明瞭となった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の顆粒状結合剤を用いるガラスチョップドストランドマットの製造方法は、自動車成形天井材に使用されるマットの製造方法として利用することが好ましいものであるが、他にも電子工業等の各種精密ハウジング構成体や建築用材料、工業用途の各種構成部材等、種々の用途に使用されるチョップドストランドマットの製造に利用が可能なものである。
【0101】
さらに、上記の実施形態ではガラスチョップドストランドを使用した場合を例示して説明したが、本発明はガラスコンティニュアスストランドを使用した場合についても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 ガラスチョップドストランドマット
2 ガラスストランド回巻体
3 切断刃
3a カッターロール
3b ゴムロール
4 搬送ネット
4a 第一搬送コンベヤ
4b 第二搬送コンベヤ
4c 第三搬送コンベヤ
5 散水手段
6 バインダ散布手段(バインダ散布装置)
7 加熱炉
8 ガラスストランド
9 ガラスチョップドストランド
10 ストランド堆積物,含水ストランド堆積物
11 水
12 顆粒状結合剤(バインダ)
12a 含水した顆粒状結合剤の回収物
13 ガラス繊維マットの製造装置
14 回収槽
15 冷却圧延プレスロール
15a、15b 水冷プレスロール
69 ガラスチョップドストランドマットの回巻体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスストランド同士を結合するために用いられる顆粒状結合剤であって、
除電性粉末を0.025質量%以上、1.0質量%以下含有することを特徴とする顆粒状結合剤。
【請求項2】
顆粒状結合剤が樹脂を主成分とし、該樹脂材質が、ビスフェノール系不飽和ポリエステル系樹脂である請求項1に記載の顆粒状結合剤。
【請求項3】
除電性粉末が、Si、Al及びCの何れか1以上を含有する粉末であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の顆粒状結合剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の顆粒状結合剤により複数のガラスストランドが相互に結合して一体化されてなることを特徴とするガラス繊維マット。
【請求項5】
目付が50g/m以上、200g/m以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載のガラス繊維マット。
【請求項6】
請求項1から請求項3の何れかに記載の顆粒状結合剤をガラスストランド堆積物に付着させ、該顆粒状結合剤を軟化、溶融後に冷却固化して結合部を形成することを特徴とするガラス繊維マットの製造方法。
【請求項7】
顆粒状結合剤を散布することを特徴とする請求項4に記載のガラス繊維マットの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のガラス繊維マットを発泡樹脂シートの少なくとも一面側に接着したものであることを特徴とする自動車用成形天井材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248682(P2010−248682A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63452(P2010−63452)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】