説明

顕微鏡対物レンズおよび拡大撮像装置

【課題】より広い範囲で均一かつ信頼性の高い測定が可能となる顕微鏡対物レンズを提供する。
【解決手段】補正環(2、3、4、G3、G4)と可変開口絞り(5、6、7)とを備え、前記補正環は前記可変開口絞りよりも物体側に配置することによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡の対物レンズの技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡の対物レンズは一般にカバーガラス越しに標本を観察する。そして、対物レンズはこのカバーガラスに起因する収差の影響も含めて光学設計されている。ところが、一般に流通しているカバーガラスは製造誤差が大きく、厚みが設計値と異なるものも少なくない。
【0003】
このカバーガラスは製造誤差に対処するために、対物レンズの内部に移動群を用意し、カバーガラスの製造誤差に起因する収差を補正する技術が知られている。一般にこの技術では、この移動群とそれを駆動する機構を含めて補正環と呼ばれている。補正環は比較的に高開口数(NA)の乾燥系対物レンズや、相当に広範囲にわたり異なる厚さのカバーガラスやプラスチック容器を使用することを想定した対物レンズに用いられる。このような補正環つきの対物レンズの一例が特許文献1に開示されている。
【0004】
一方、顕微鏡における対物レンズの開口数(NA)は、顕微鏡の解像能力や焦点深度及び周辺光量などの顕微鏡の性能を決める大きな要因であり、これを調節したいという要望がある。一般に顕微鏡の対物レンズは複数枚のレンズによって構成され、これらの内の何れかのレンズの有効径によって開口数が決まっている。これをレンズの有効径で決めるのではなく、可変開口絞りを配置して、この絞り径により開口数を定める構成が知られている。この構成では可変絞りの絞り径を変化させることによって、開口数を可変とすることが出来る。例えば、特許文献2では対物レンズの後側焦点位置をリレー光学系によって対物レンズの外にリレーして、そこに可変絞りを配置する技術について開示している。
【特許文献1】特開2003−161887号公報
【特許文献2】特開平10−206741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、補正環を備えた顕微鏡と可変開口絞りを備えた顕微鏡が知られていたのだが、これらの両方の機能を備えた対物レンズは存在しなかった。また、顕微鏡の対物レンズは45mmという制限の下に光学系を配置するので、補正環と可変開口絞りの両方をその中に備えることは難しかった。
【0006】
一方で、顕微鏡対物レンズを流用した観察装置では、可変開口絞りと補正環の両方を備えることによる技術的需要がある。
本発明では、より広い範囲で均一かつ良好な結像性能を発揮し、信頼性の高い測定が可能となる顕微鏡対物レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は、補正環と可変開口絞りとを備え、前記補正環は前記可変開口絞りよりも物体側に配置することによって解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より広い範囲で均一かつ良好な結像性能を発揮し、信頼性の高い測定が可能となる顕微鏡対物レンズ及びそれを含む拡大撮像装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態を図面に基づきながら説明する。
図1は、補正環と可変開口絞りとを備え、補正環は可変開口絞りよりも物体側に配置される顕微鏡対物レンズの実施形態を表す断面図である。なお、本実施形態の顕微鏡対物レンズは9mmの焦点距離をもつ。また、本実施形態の顕微鏡対物レンズが許容する観察可能範囲は直径1.1mmである。
【0010】
図1に示された顕微鏡対物レンズはカバーガラス1を通して標本を観察することを想定した対物レンズであり、8つのレンズ群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8によって構成されている。図1に示された顕微鏡対物レンズは無限遠補正型の対物レンズであるので、カバーガラス1を透過した標本からの光線は8つのレンズ群G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8によって平行光束になって射出される。
【0011】
本実施形態の顕微鏡対物レンズは補正環駆動リング2を備えている。補正環駆動リング2は補正環カム23と、ピン3とバネ4によって2つのレンズ群G4とG5を光軸方向に駆動することが出来る。この構成によって、カバーガラス1が規定値から外れることによって発生する球面収差を、2つのレンズ群G4とG5を光軸方向に駆動することによって発生する球面収差で補償する。
【0012】
このとき、補正環駆動リング2とその周囲には目盛りが刻印されており、カバーガラス1の厚さが予め解っているときには、この目盛りを使って収差補正をすることが可能である。しかし、予めカバーガラスの厚さが正確に解っていることは稀であり、その場合は、観察結果から試行錯誤によって補正環駆動リング2を駆動して収差補正をする。
【0013】
本実施形態の顕微鏡対物レンズは可変開口絞り駆動リング5を備えている。可変開口絞り駆動リング5は開口絞りカムピン6を通じて可変開口絞り7を駆動する構成となっている。可変開口絞り7は複数の絞り羽根が互いに重なりあって一つの開口を形作る。開口絞りカムピン6は可変開口絞り7の絞り羽根の重なり方を変化させることによって、開口の径を可変にする。
【0014】
可変開口絞り7は対物レンズの瞳位置の近傍に配置される。すなわち、軸外の主光線が光軸と交わる位置の近傍に配置される。そしてこの位置の絞りによって開口数(NA)が規定される。
【0015】
本実施形態の顕微鏡対物レンズでは、可変開口絞り7を開閉することによって、開口数(NA)を0.68から0.6程度にまで変化させることが出来る。なお、開口数(NA)が0.68のとき最周辺の開口率が93%であり、前記の可変開口絞り7にて、開口数(NA)を0.60まで変化させたときの開口率は99%以上である。これにより、観察範囲の最周辺部においても、中心部と同じ像の明るさを得ることができる。つまり、観察範囲内の場所に依存せず、安定した明るさのデータを取得する事が可能となる。
【0016】
本実施形態の顕微鏡対物レンズでは、補正環駆動リング2は可変開口絞り駆動リング5よりも物体側に配置されている。さらに、補正環駆動リング2の駆動に伴う補正環カム23と、ピン3と移動群G4−G5の移動は、バネ4によって制御されている。このとき、バネ4は可変開口絞り7の駆動部品と干渉しないように、対物レンズの物体側から移動群G4−G5に押し圧を掛けるように構成されている。
【0017】
また、バネ4を移動群G4−G5よりも物体側に配置するために、レンズ群G2、G3を保持する鏡枠Fr2、Fr3にも工夫をしてある。一般に顕微鏡対物レンズの物体側に側に近いレンズ群は像側の光学面の外周部を鏡枠に当て付けて固着することが多い。実際、本実施形態のレンズ群G1でも、鏡枠Fr1の当接突起に像側の光学面を当て付けて固着している。しかし、移動群G4−G5の物体側にはバネ4を配置するためのスペースを確保しなければいけないので、本実施形態では、レンズ群G2、G3の物体側の光学面をそれぞれ鏡枠Fr2、Fr3の当接突起に当て付けて固着している。この構成が、移動群G4−G5の物体側にバネ4を配置するスペースの確保に大きく寄与している。
【0018】
図2は、図1で説明された構成の顕微鏡対物レンズを備えた拡大撮像装置の構成の実施形態である。すなわち、本実施形態の拡大撮像装置は直径1.1mmの範囲が観察可能であり、最大開口数が0.68である。なお、ここで拡大撮像装置とは一般的な顕微鏡から、より特定の測定に特化した測定装置のようなものまで含む装置としてここでは利用されている。
【0019】
図2に示されるように本実施形態の拡大撮像装置は、ステージ8上の標本から放射される観察光を顕微鏡対物レンズ9によって平行光束に変換して射出し、結像レンズ10によって1次像位置11に中間像を結ぶ。その後、リレー光学系12a、12bによって1次像位置11の中間像を2次像位置13にリレーする。本実施形態の拡大撮像装置では、さらに2次像位置13の中間像を、変倍光学系14を使って変倍して、撮像素子15の受光面上に投影する。ここで、撮像素子15としてはCCDのようなイメージングセンサーを用いることも可能であり、観察または測定手法によってはラインセンサーのような検出器を配置しても良い。標本から放射される観察光を定量的に測定する測定手段であれば適切に利用することが可能である。
【0020】
本実施形態の拡大撮像装置では、図1で示された構成の顕微鏡対物レンズを利用しているので、補正環と可変開口絞りを対物レンズ9の内部に備えている。とくに、補正環は可変開口絞りよりも物体側に配置されている。すなわち、これらを駆動するための補正環駆動リング2は可変開口絞り駆動リング5よりも物体側に配置されている。
【0021】
本実施形態の拡大撮像装置では、リレー光学系12aと12bの間に光路分離ユニット16を配置することによって、照明光路と観察光路を結合している。光路分離ユニット16も観察または測定手法によって適切に選択されるべきユニットである。つまり、光路分離ユニット16は挿脱可能な構成が好ましい。例えば蛍光観察においては、光路分離ユニット16はいわゆる蛍光キューブを利用することが好ましく、すなわち、ダイクロイックミラーと励起フィルターと吸収フィルターを組み合わせて用いることが好ましい。また、明視野の落射照明をする場合には、光路分離ユニット16としてハーフミラーを用いることが考えられ、偏光を利用した測定方法では偏光ビームスプリッターを利用する構成も考えられる。
【0022】
本実施形態の光路分離ユニット16は、リレー光学系12aと12bの間であって特に瞳位置と共役である位置に配置している。つまり、顕微鏡対物レンズ9の内部にある瞳位置と共役な位置に光路分離ユニット16を配置している。本実施形態の顕微鏡対物レンズ9はその内部の瞳位置に可変開口絞り7を配置しているので、本構成を光路分離ユニット16は可変開口絞り7と共役な位置に配置されていると特徴付けることも可能である。
【0023】
なお、光路分離ユニット16をリレー光学系12aと12bの間の瞳位置と共役である位置に配置する理由は、平行光束中で、光束径が最も小さくなる位置であり、ダイクロイックミラーや吸収フィルターフィルターによる、光線のケラレが最も出にくい位置である、或いはフィルターの径を最も小さく設計できる位置であるためである。
【0024】
本実施形態の拡大撮像装置の照明光路は光源17と照明光学系18を備える。光源17はキセノンランプなどのアーク光源やハロゲンランプ等の光源を利用することが考えられる。照明光学系18はコレクタレンズやフライアイレンズなどを備え、光源17からの照明光を光路分割ユニット16の近傍に投影する。本実施形態の拡大撮像装置では光路分割ユニット16が対物レンズ9の瞳と共役な位置に配置されているので、光路分割ユニット16の近傍に光源17の像を投影することによってケーラー照明が実現される。
【0025】
本実施形態の拡大撮像装置は、補正環駆動リング2と可変開口絞り駆動リング5とステージ8と変倍光学系14を制御する制御装置19を備える。制御装置19は拡大装置と独立して筐体化されたコンピュータである構成でも良く、拡大撮像装置に一体化されて備える構成でも良い。制御装置19は撮像素子15によって取得された観察光による信号を処理する機能を兼ね備える構成をしている。本構成によって、補正環駆動リング2と可変開口絞り駆動リング5、可変開口絞り駆動リング5とステージ8、可変開口絞り駆動リング5と変倍光学系14等の組み合わせで連動制御が実現される。
【0026】
制御装置19が補正環駆動リング2と可変開口絞り駆動リング5を駆動する方法としては、補正環駆動リング2と可変開口絞り駆動リング5にそれぞれアクチュエータを備え、制御装置19からの電気信号によって制御する。あるいは補正環の対応する移動群や可変絞りの絞りバネにアクチュエータを備えることにより直接的に制御することも可能である。
【0027】
制御装置19が変倍光学系14を制御する方法も同様である。変倍光学系は複数のレンズ群で構成され、それらの移動群の間隔を変化させることによって変倍する。このとき複数のレンズ群を連動して適切な位置に移動させるためにカム構造を利用することが多い。このカム構造にアクチュエータなどを備え、制御装置19からの電気信号によって変倍光学系14を制御することが出来る。
【0028】
制御装置19はステージ8の位置を制御することが出来る。ステージ8を光軸方向に駆動することによって、ステージ8上の標本と対物レンズの相対的距離を変化させることが出来る。すなわち、制御装置19は合焦機構の制御を行うことが可能である。さらに、ステージ8を光軸と垂直な平面で駆動することも可能である。このことによって、ステージ8上の観察位置を変更することができる。
【0029】
本実施形態の拡大撮像装置は補正環と可変開口絞りと変倍光学系を連動して制御する。以下ではその制御方法について説明する。
図3は上述の拡大撮像装置を利用した測定準備における基本動作のフローチャートである。以下の説明では上述の拡大撮像装置の実施例を基に説明を行うが、本発明の実施にはこの拡大撮像装置に限らず、補正環と可変開口絞りとを有する対物レンズと、これらの補正環と可変開口絞りを制御する制御手段を備える拡大撮像装置、あるいはさらに制御手段によって制御される変倍光学系と合焦機構をさらに備える拡大撮像装置において適切に実施可能である。
【0030】
図3に示される測定準備は、まず標本のセッティングのサブルーチン(STEP1)を行う。この標本のセッティングの手順については、標本を装置にセットすることや、標本の位置合わせや、倍率を変更することによって測定範囲を調節するなどの手順を組み合わせて実行する。これらの手順は顕微鏡測定などでは一般的であり、これらの組み合わせ方には多くの自由度も持っているので、ここでは詳述を省略する。
【0031】
次に可変開口絞りが開放状態であるかを判断する(STEP2)。もし、可変開口絞りが開放状態ではない場合は、次の手順で開口絞りを開放化する(STEP3)。もし、開口絞りが開放状態である場合は、次の手順STEP3をバイパスする。
【0032】
その後、補正環による収差補正と合焦機構によるピント合わせのサブルーチンを実行する(STEP4)。このサブルーチンSTEP4は、補正環による収差補正のみを行う場合と、合焦機構によるピント合わせのみを行う場合と、補正環による収差補正と合焦機構によるピント合わせの両方を行う場合が考えられる。
【0033】
補正環による収差補正と合焦機構によるピント合わせの両方を行う場合としては、収差補正と合焦動作が独立に行える場合が相当する。また、補正環の駆動によって焦点位置が変化しない対物レンズを利用している場合も実質的にこの場合に含まれる。この場合、撮像素子(例えば図2の符番15)などのセンサーによって、最もコントラストが高くなる状態へ補正環を駆動する。つまり、いわゆるパッシブ法によって補正環による収差補正をすることが出来る。
【0034】
合焦機構によるピント合わせのみを行う場合としては、カバーガラスの厚みが予め解っている場合や2回目の測定などの既に収差補正が完了している場合が相当する。この場合は、一般的なオートフォーカス方式を利用することが可能である。つまり、アクティブ法による合焦でも、パッシブ法による合焦でも構わない。
【0035】
補正環による収差補正と合焦機構によるピント合わせの両方を行う場合がより一般的である。一般的な補正環付き対物レンズは、補正環の駆動によって焦点位置が変化してしまうので、補正環を駆動するごとに合焦作業を繰り返さなければいけない。例えばパッシブ法によってサブルーチンSTEP4を実現しようとする場合には、補正環の駆動に関するコントラスト値の山登り法のループの中に、合焦に関するコントラスト値の山登り法をネストする。
【0036】
これら上述の補正環による収差補正と合焦機構によるピント合わせのサブルーチンSTEP4を実行した後に、測定準備の最後に適切な大きさに可変開口絞りを絞る(STEP5)。
【0037】
ここで、本実施形態のフローを、変倍光学系を備えた拡大撮像装置において実施する場合、この手順STEP5で行う可変開口絞りの絞り量は、変倍光学系の状態(倍率)に応じて調節する。つまり、測定視野の範囲に応じて可変開口絞りの絞り量を調節する。
【0038】
このために、本実施形態のフローを変倍光学系を備えた拡大撮像装置において実施する場合には、標本セッティングのサブルーチンSTEP1において、変倍光学系の状態(倍率)を記録しておく。そして、制御装置内に予め記憶されてあるデータテーブル等を参照することによって可変開口絞りの絞り量を決定する。変倍光学系の状態に応じて絞り量を変化させることが望ましい理由は後に詳述する。
【0039】
次に、本実施形態の対物レンズにおいて、補正環が可変開口絞りよりも物体側に配置される理由について説明する。
上述の様に、可変開口絞りに関する最終操作は、測定準備段階の最後(STEP5)に行なわれる。このため、補正環及び可変開口絞りを手動操作する場合、補正環の調整を完了した後に行われる可変開口絞りの操作時には、補正環駆動リング2に不意に触れて補正環の調整状態を崩さないように注意しなければならない。特に、使用者からは対物レンズが直接的に見えない倒立型顕微鏡や同様の構成を採る装置では、補正環の操作部位(補正環駆動リング2)及び可変開口絞りの操作部位(可変開口絞り駆動リング7)を手探りで操作することとなるため、さらに注意が必要となる。
【0040】
また、観察操作では標本と対物レンズとの位置関係についても変わらない様に、すなわち、観察位置が変わらない様に注意しなければならない。このため、対物レンズにある各種操作部位(補正環駆動リング2や可変開口絞り駆動リング7等)のうち、標本に近い側から遠い側に向かって順に手を触れて操作することが望ましい。
【0041】
従って、測定準備段階の最後に行なう操作の操作部位である可変開口絞りの操作部位(可変開口絞り駆動リング7)は、補正環の操作部位(補正環駆動リング2)に比べて標本より遠い側に配置する。このような構成をとることにより、先に調整を完了した補正環の操作部位(補正環駆動リング2)を不意に触れる可能性は大きく低下することになる。つまり、図1で例示される本実施形態の対物レンズのように、補正環の操作部位(補正環駆動リング2)を可変開口絞りの操作部位(可変開口絞り駆動リング7)よりも物体側に配置することが最適な配置となる。
【0042】
図1で例示されるように、通常、補正環の操作部位(補正環駆動リング2)と可変開口絞りの操作部位(可変開口絞り駆動リング7)の相対的な位置関係は、補正環と可変開口絞りの位置関係と同様となる。以上の理由から、補正環は可変開口絞りよりも物体側に配置される。
【0043】
なお、本実施形態のフローを蛍光観察において行う場合には、蛍光の褪色を抑えるために、準備フローの前後に励起光の照射(シャッターの開放)と励起光の遮断(シャッターを閉じる)などの手順を含むことは言うまでもない。
【0044】
上述した本実施形態のフローの一つの特徴として、可変開口絞りを開放状態へ駆動する開絞ステップ(STEP2からSTEP3)と、可変開口絞りを開放状態から適切な絞り量へ駆動する閉絞ステップ(STEP5)との間に補正環を駆動する(STEP4)ことが挙げられる。あるいはこれをほぼ同義に表現して、補正環を駆動する時には可変開口絞りを開放状態であるように制御することと表現することも出来る。
【0045】
補正環が補正する球面収差は、一般的に開口数に依存する収差である。すなわち、可変開口絞りを開放状態にした場合は、球面収差量が最も大きく発生しやすい。このことは測定段階においてはマイナス要因であるが、測定準備段階ではプラス要因である。つまり、球面収差量が大きく発生するので、補正環の駆動による球面収差の補正が、より正確に行えるのである。
【0046】
一方で、可変開口絞りを開放状態にした状態ではビネッティング(口径食)が発生していて観察範囲の周辺では光量の低下が生じ、観察範囲の中心部と同じ測定値を得ることが出来ない。そこで、測定準備が終了した時点で可変開口絞りを適切に絞ることによってビネッティングの発生を抑える。また、標本のセッティング(STEP1)での標本の位置合わせは、球面収差補正に好ましい標本上の部位を視野の中心に合わせる等の工夫をすることが好ましい。
【0047】
上述した本実施形態のフローの異なる特徴として、可変開口絞りを開放状態へ駆動する開絞ステップ(STEP2からSTEP3)と、可変開口絞りを開放状態から適切な絞り量へ駆動する閉絞ステップ(STEP5)との間に合焦機構を駆動する(STEP4)ことが挙げられる。あるいはこれをほぼ同義に表現して、合焦機構を駆動する時には可変開口絞りを開放状態であるように制御することと表現することも出来る。
【0048】
光軸方向に関してピントが合っている範囲を焦点深度と呼ぶ。この焦点深度は開口数が大きくなることに応じて狭くなるものである。つまり、可変開口絞りを開放状態にしている状態の方が合焦精度が高いのである。本実施形態では、合焦精度が高くなる可変開口絞りが開放状態で合焦機構を駆動している。そして、この場合も測定準備が終了した時点で可変開口絞りを適切に絞ることによってビネッティングの発生を抑える。また、標本のセッティング(STEP1)での標本の位置合わせは、合焦に好ましい標本上の部位を視野の中心に合わせる等の工夫をすることが好ましい。
【0049】
上述のように、補正環の駆動時も合焦機構の駆動時も可変開口絞りが開放状態であることが好ましい。また、一般に補正環の駆動と合焦機構の駆動は交互に連動させて駆動する。その理由は、一般的な補正環付き対物レンズでは、補正環の駆動により焦点位置が変化してしまうからである。
【0050】
そこで、本実施の形態では補正環の駆動と合焦機構の駆動を一つのサブルーチンとみなして、その前後で可変開口絞りの開閉を実行している。
次に、図4と図5を参照しながら、視野範囲に応じて可変開口絞りの絞り量を変化させることが望ましい理由を説明する。
【0051】
図4は、図1で説明した顕微鏡対物レンズにおけるカバーガラス1とレンズ群G1とレンズ群G2の部分を抜き出し、光軸上の点20から射出した主光線とマージナル光線(実線)、軸外のある点21から射出した主光線とマージナル光線(一点鎖線)、最軸外の点22から射出した主光線とマージナル光線(二点鎖線)を可変開口絞りが開放状態で光線追跡した光線図である。
【0052】
図4から読み取れるように、軸外の点21から射出したマージナル光線と最軸外の点22から射出したマージナル光線は途中で交わっている。このことは、軸外の点21から射出したマージナル光線と最軸外の点22から射出したマージナル光線は異なる角度で射出されていることを意味する。また、軸外の点21と最軸外の点22では開口率が異なっているという表現も出来る。このような現象が起きてしまう理由は、最軸外の点22から射出された光線はレンズの外径等によってケラレが生じてしまっているからである。これがすなわちビネッティングである。
【0053】
一方、光軸上の点20から射出したマージナル光線と軸外の点21から射出したマージナル光線を比較した場合は状況が異なっている。図4からも読み取れるように、光軸上の点22から射出したマージナル光線と軸外の点21から射出したマージナル光線は交わることもなく、ほぼ平行関係を保ったままの軌跡を持つ。このことは軸外の点21ではビネッティングが発生していないことを意味する。
【0054】
以上の議論から、対物レンズの後段に変倍光学系を備え、その変倍によって対物レンズ自身が許容する視野範囲の一部だけが観察される場合には、可変開口絞りを開放状態にしたままでもビネッティングが発生せずに、観察範囲の全体を均質に観察できる状態があることが解る。
【0055】
図5は、光軸上の点20から射出した主光線とマージナル光線(実線)、軸外のある点21から射出した主光線とマージナル光線(一点鎖線)、最軸外の点22から射出した主光線とマージナル光線(二点鎖線)を可変開口絞りが絞られた状態で光線追跡した光線図である。
【0056】
図5から読み取れるように、光軸上の点20から射出した主光線とマージナル光線(実線)、軸外のある点21から射出した主光線とマージナル光線(一点鎖線)、最軸外の点22から射出した主光線とマージナル光線(二点鎖線)はすべてほぼ平行関係を保ったままの軌跡を持つ。このことは、対物レンズの最軸外においてもビネッティングが発生せずに、対物レンズ自体の許容する観察範囲の全体を均質に観察することが可能であることが解る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】補正環と可変開口絞りを備えた顕微鏡対物レンズの断面図。
【図2】補正環と可変開口絞りを備えた対物レンズを用いた拡大撮像装置の概略図。
【図3】測定準備の手順を表すフローチャート。
【図4】可変開口絞りが開放状態での対物レンズ先端付近の光線図。
【図5】可変開口絞りが絞られた状態での対物レンズ先端付近の光線図。
【符号の説明】
【0058】
1・・・カバーガラス
2・・・補正環駆動リング
3・・・ピン
4・・・バネ
5・・・可変開口絞り駆動リング
6・・・開口絞りカムピン
7・・・可変開口絞り
8・・・ステージ
9・・・対物レンズ
10・・・結像レンズ
11・・・1次像位置
12a、12b・・・リレー光学系
13・・・2次像位置
14・・・変倍光学系
15・・・撮像素子
16・・・光路分離ユニット
17・・・光源
18・・・照明光学系
19・・・制御装置
20・・・光軸上の点
21・・・軸外のある点
22・・・最軸外の点
23・・・補正環カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補正環と可変開口絞りとを備え、前記補正環は前記可変開口絞りよりも物体側に配置されることを特徴とする顕微鏡対物レンズ。
【請求項2】
前記開口絞りが開放時に開口数が0.6以上であり、観察範囲が1mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡対物レンズ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の顕微鏡対物レンズを備えた拡大撮像装置。
【請求項4】
1mm以上の範囲が観察可能でかつ対物レンズの最大開口数が0.6以上である拡大撮像装置において、
補正環と可変開口絞りとを備えたことを特徴とする拡大撮像装置。
【請求項5】
前記補正環と前記可変開口絞りとは前記対物レンズの内部に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の拡大撮像装置。
【請求項6】
前記補正環は前記可変開口絞りよりも物体側に配置されることを特徴とする請求項5に記載の拡大撮像装置。
【請求項7】
励起光を照射するための照明装置と、
標本内の蛍光物質から放射された蛍光を定量的に測定する測定手段と、
前記励起光と前記蛍光とを分離する分離手段をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の拡大撮像装置。
【請求項8】
前記対物レンズによって拡大された前記蛍光を結像する結像レンズと、
前記結像レンズによって結像された1次像をリレーするリレー光学系とをさらに備え、
前記分離手段は、前記リレー光学系内に存在する瞳位置の近傍に配置されることを特徴とする請求項7に記載の拡大撮像装置。
【請求項9】
前記リレー光学系によって作られる2次像を変倍する変倍光学系を備え、
前記変倍光学系と前記可変開口絞りを関連付けて制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の拡大撮像装置。
【請求項10】
補正環と可変開口絞りとを有する対物レンズを備えた拡大撮像装置の制御方法において、
前記拡大装置は前記補正環と前記可変開口絞りを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記補正環を駆動する時には前記可変開口絞りを開放状態であるように制御することを特徴とする拡大撮像装置の制御方法。
【請求項11】
前記制御手段は前記対物レンズの合焦を行う合焦手段を含み、
前記前記対物レンズの合焦の時には前記可変開口絞りが開放状態であるように制御することを特徴とする請求項10に拡大撮像装置の制御方法。
【請求項12】
前記可変開口絞りを開放状態へ駆動する開絞ステップと、
前記可変開口絞りを開放状態から駆動する閉絞ステップと、を含み、
前記開絞ステップと前記閉絞ステップとの間に前記補正環を駆動することを特徴とする請求項10に記載の拡大撮像装置の制御方法。
【請求項13】
補正環と可変開口絞りとを有する対物レンズと変倍光学系とを備えた拡大撮像装置の制御方法において、
前記拡大撮像装置は前記補正環と前記可変開口絞りと前記変倍光学系とを制御する制御手段を備え、
前記変倍光学系の状態に応じて前記開口絞りの開口径を調節することを特徴とする拡大撮像装置の制御方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−48841(P2010−48841A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210317(P2008−210317)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】