説明

顕微鏡接続用分光器

【課題】本発明の目的は、試料の画像モニタおよびスペクトル測定を良好に行うことのできる顕微鏡接続用分光器を提供することにある。
【解決手段】顕微鏡16からの光14の結像位置に設けられ、スリット20aのサイズが二次元受光面サイズと一次元サイズとの間で変えられる入射スリット20と、前段レンズ22と、回折格子26と、該前段レンズ22よりも明るいF値の後段レンズ28と、二次元受光面30aを含む二次元検出器30と、画像モニタ用光路とスペクトル測定用光路とを切換える光路切換機構32と、を備え、二次元受光面サイズの入射スリット20を通った光である二次元像を回折格子26を外して二次元検出器30まで導光して撮像し、一次元サイズの入射スリット20を通った光である一次元像を回折格子26を通して二次元検出器30まで導光してスペクトル測定を行うことを特徴とする顕微鏡接続用分光器10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡接続用分光器、特に顕微鏡に接続して試料の画像モニタ及びスペクトル測定を行うのに適した分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の微小な部位を拡大観察できると共に、様々な測定が行いうる顕微鏡は、鉱物や生体を扱う学術や研究分野のみならず、高分子材料や無機材料、電気、電子材料などの産業分野でも用いられるなど、非常に広範囲で利用されている。
このような顕微鏡は、ステージ上に試料が載置され、試料の観察部位の観察像はその画像がテレビカメラなどで取り込まれ、テレビモニタ上で観察されるのが一般的である(例えば特許文献1)。
ところで、このような顕微鏡では、テレビモニタ上で観察した試料の観察部位のスペクトル測定を行うことが考えられる。このために従来は、顕微鏡からの観察光を出力するポートに、一般的な分光器をそのまま接続することが考えられる。
【特許文献1】特開2002−350733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来方式、つまり顕微鏡に一般的な分光器をそのまま接続したのでは、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を良好に行うのが困難であった。
このため、従来は、試料の画像モニタ時とスペクトル測定時とでは、別々の検出器を用いていたが、画像モニタ時の観察部位をスペクトル測定しているとは必ずしも言えなかった。
したがって、顕微鏡を利用する種々の分野では、一台で、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を良好に行うことのできる技術の開発が望まれていたが、従来は、これを解決することのできる適切な技術が存在しなかった。
本発明は前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、一台で、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を良好に行うことのできる顕微鏡接続用分光器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明にかかる顕微鏡接続用分光器は、試料を観察して得られた光を出力する顕微鏡に接続され、該顕微鏡からの光の二次元像撮像及び該顕微鏡からの光のスペクトル測定を行うための顕微鏡接続用分光器であって、
入射スリットと、前段レンズと、回折格子と、後段レンズと、二次元検出器と、光路切換機構と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記入射スリットは、前記顕微鏡からの光の結像位置に設けられ、該光を通すスリットのサイズが、少なくとも二次元検出器の二次元受光面と同等の二次元サイズと、スペクトル測定を行うための一次元サイズとの間で、変えられる。
また、前記前段レンズは、前記入射スリットを通った光を平行光とする。
前記回折格子は、スペクトル測定時のみに、前記前段レンズからの平行光を受けて波長に応じた角度で光を出力する。
前記後段レンズは、前記前段レンズよりも明るいF値を有し、スペクトル測定時に前記回折格子を通した光を集光し、画像モニタ時に該回折格子を通さない光を集光する。
前記二次元検出器は、前記後段レンズにより集光された光が結像される前記二次元受光面を有する。
前記光路切換機構は、前記顕微鏡からの光の二次元像を撮像するための画像モニタ用光路と、該顕微鏡からの光のスペクトル測定を行うためのスペクトル測定用光路とを切換える。
【0005】
前記画像モニタ用光路は、前記顕微鏡からの光が、前記入射スリット、前記前段レンズ及び前記後段レンズを通して、前記二次元検出器に至るものを対象としている。
また、前記スペクトル測定用光路は、前記顕微鏡からの光が、前記入射スリット、前記前段レンズ、前記回折格子および前記後段レンズを通して、前記二次元検出器に至るものを対象としている。
【0006】
前記画像モニタ時に、前記入射スリットのスリットを二次元サイズとし、かつ前記光路切換機構により前記画像モニタ用光路とすることにより、該入射スリットを通った光である二次元像を、該回折格子を通すことなく該二次元検出器まで導光して撮像する。
前記スペクトル測定時、前記入射スリットを一次元サイズとし、かつ光路切換機構により前記スペクトル測定用光路とすることにより、該入射スリットを通った光である一次元像を該回折格子を通して該二次元検出器まで導光してスペクトル測定を行う。
【0007】
なお、本発明において、前記後段レンズのF値は、1.2〜1.4であることが好適である。
すなわち、前記後段レンズのF値が、前記範囲を外れると、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を良好に行うことができないことがあるからである。
【0008】
また、本発明においては、前記光路切換機構が、切換鏡を備えることが好適である。
ここで、前記切換鏡は、前記入射スリットを通した光の光路中に挿入及び退避自在に設けられ、鏡面が平面のものとする。
そして、前記画像モニタ時、前記切換鏡の挿入により、前記前段レンズからの光を前記回折格子を通すことなく前記後段レンズに導光することにより、前記入射スリットを通した光の光路を前記画像モニタ用光路とする。
また、前記スペクトル測定時、前記切換鏡の退避により、前記前段レンズからの光を前記回折格子に導光することにより、前記入射スリットを通した光の光路を前記スペクトル測定用光路とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる顕微鏡接続用分光器によれば、スリットのサイズが二次元受光面サイズと一次元サイズとの間で変えられる入射スリットと、前段レンズよりもF値の明るい後段レンズと、二次元検出器と、回折格子を動かすことなく回折格子を外した画像モニタ用光路と回折格子を通したスペクトル測定用光路との切換えを行うための光路切換機構とを組合せることとした。この結果、本発明においては、一台の検出器で、顕微鏡にセットされた試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を良好に行うことができる。
【0010】
本発明においては、後段レンズのF値を1.2〜1.4とすることにより、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を、より良好に行うことができる。
本発明においては、前記光路切換機構が、前記切換鏡を含むことにより、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を、より良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施形態について説明する。
図1には本発明の一実施形態にかかる顕微鏡接続用分光器の概略構成が示されている。
同図に示す顕微鏡接続用分光器10は、試料12を観察して得られた光14を出力する顕微鏡16に接続され、顕微鏡16からの光14の二次元像撮像(画像モニタ)、及び該顕微鏡16からの光14のスペクトル測定を行う。
このために顕微鏡接続用分光器10は、入射スリット20と、コリメータレンズ(前段レンズ)22と、平面鏡24と、回折格子26と、カメラレンズ(後段レンズ)28と、二次元検出器30と、光路切換機構32とを備える。
【0012】
ここで、入射スリット20は、顕微鏡16のモニタ用検出器受光面位置(顕微鏡からの光の結像位置)に設けられている。入射スリット20には、顕微鏡16による試料12の観察部位の画像が集光している。入射スリット20は、顕微鏡16からの光14を通すスリット20aの幅(サイズ)が、少なくとも二次元検出器30の二次元受光面30aと同等の二次元サイズと、スペクトル測定を行うための一次元サイズとの間で、変えられる。
また、コリメータレンズ22は、入射スリット20を通った光を平行光とする。
回折格子26は、スペクトル測定時のみに、コリメータレンズ22からの平行光を受けて、波長に応じた角度で光を出力する。
カメラレンズ28は、コリメータレンズ22よりも明るいF値1.2を有し、スペクトル測定時にのみ回折格子26を通した光を集光し、画像モニタ時に回折格子26を通さない光を集光する。
二次元検出器30は、カメラレンズ28により集光された光が結像される二次元受光面30aを有する。二次元検出器30により撮像された画像は、テレビモニタ34上に写される。
光路切換機構32は、顕微鏡16からの光14の二次元像を撮像するための画像モニタ用光路と、顕微鏡16からの光14のスペクトル測定を行うためのスペクトル測定用光路とを切換える。
【0013】
ここで、画像モニタ用光路は、顕微鏡16からの光14が、入射スリット20、コリメータレンズ22及びカメラレンズ28を通して、二次元検出器30に至るものを対象としている。
また、スペクトル測定用光路は、顕微鏡16からの光14が、入射スリット20、コリメータレンズ22、回折格子26およびカメラレンズ28を通して、二次元検出器30に至るものを対象としている。
【0014】
本実施形態にかかる顕微鏡接続用分光器10によれば、前述した手段を組合せることとしたので、一台の二次元検出器30で、顕微鏡16にセットされた試料12の画像モニタとスペクトル測定との双方を良好に行うことができる。
【0015】
すなわち、画像モニタ時に、入射スリット20のスリット20aを二次元サイズとし、かつ光路切換機構32により、顕微鏡16からの光14の光路を画像モニタ用光路とする。これにより、入射スリット20を通った光である二次元像を、回折格子26を通すことなく二次元検出器30まで導光して撮像する。この結果、明瞭な画像を得ることができる。
【0016】
また、スペクトル測定時、入射スリット20のスリット20aを一次元サイズとし、かつ光路切換機構32により、顕微鏡16からの光14の光路をスペクトル測定用光路とする。すなわち、入射スリット20を通った光である一次元像を回折格子26を通して二次元検出器30まで導光してスペクトル測定を行うことができる。これにより画像モニタ時に確認した観察部位を確実にスペクトル測定することができる。
【0017】
<顕微鏡>
なお、本実施形態において、顕微鏡16は、試料12を観察するため、光源40と、対物レンズ42と、結像レンズ44とを含む。
また、顕微鏡16は、試料12の観察部位を走査するため、試料12が載置されるステージ46と、ステージ移動手段48とを含む。
この結果、顕微鏡16は、ステージ移動手段48により、ステージ46を試料面方向に移動することにより、試料12の観察部位を試料面方向に走査することができる。
【0018】
<光路切換機構>
また、本実施形態において、画像モニタとスペクトル測定との両立を、より確実なものとするためには、光路切換機構32として、下記のものを用いることが特に好ましい。
同図に示す光路切換機構32は、第一平面鏡(切換鏡)50及び第二平面鏡(切換鏡)52と、第一回転手段54及び第二回転手段56と、リンク手段58と、回転ツマミ60と、ツマミ駆動手段62とを備える。
【0019】
ここで、第一平面鏡50及び第二平面鏡52は、入射スリット20を通した光の光路中に挿入及び退避自在に設けられ、鏡面が平面のものとする。
第一回転手段54及び第二回転手段56は、第一平面鏡50及び第二平面鏡52が入射スリット20を通した光の光路中に挿入及び退避されるように、第一平面鏡50及び第二平面鏡52を回転自在に保持する。
ツマミ駆動手段62は、回転ツマミ60を回転し、第一回転手段54及び第二回転手段56を回転することにより、第一平面鏡50及び第二平面鏡52を、コリメータレンズ22と平面鏡24との間の光路中に挿入、退避する。
第一平面鏡50及び第二平面鏡52の、コリメータレンズ22と平面鏡24との間の光路中への挿入、退避は、リンク手段58によりリンクしている。
【0020】
すなわち、画像モニタ時、第一平面鏡50及び第二平面鏡52により、コリメータレンズ22からの光を回折格子26を通すことなくカメラレンズ28に導光することにより、入射スリット20を通した光の光路を、画像モニタ用光路とする。
また、スペクトル測定時、第一平面鏡50及び第二平面鏡52により、コリメータレンズ22からの光を回折格子26に導光することにより、入射スリット20を通した光の光路を、スペクトル測定用光路とする。
【0021】
このように第二平面鏡50と第二平面鏡52はそれぞれ回転手段54,56に搭載されており、各回転手段54,56はベルト等のリンク手段58によりリンクされている。これにより、分光器10上部の回転ツマミ60(第二回転機構56の上部)を回転することにより、第一平面鏡50及び第二平面鏡52の光路への挿入及び退避が確実に行える。また、このような切換をワンタッチで容易に行うことができるので、顕微鏡16にセットされた試料12の画像モニタとスペクトル測定との双方を容易に行うことができる。
【0022】
<容易化>
また、本実施形態においては、画像モニタとスペクトル測定とを、より容易に行うため、前記光路の切換えと共に、スリット幅の変更も自動に行うことも好適である。このために本実施形態においては、スリット駆動手段70と、同期手段72とを備えることも好適である。
ここで、スリット駆動手段70は、入射スリット20のスリット22aの幅を、二次元受光面サイズと一次元サイズとの間で自動に変える。
また、同期手段72は、スリット駆動手段70の動作とツマミ駆動手段62の動作とを同期させる。
すなわち、同期手段72は、画像モニタ時に、スリット駆動手段70の動作を制御することにより入射スリット20のスリット20aの幅を二次元サイズとし、かつツマミ駆動手段62の動作を制御することにより光路を画像モニタ用光路とする。また、同期手段72は、スペクトル測定時に、スリット駆動手段70の動作を制御することにより入射スリット20のスリット20aの幅を一次元サイズとし、かつツマミ駆動手段62の動作を制御することにより光路をスペクトル測定用光路とする。
【0023】
この結果、画像モニタとスペクトル測定との切換時に必要な、スリット幅の切換え及び光路の切換えを容易に行うことができるので、顕微鏡16にセットされた試料12の画像モニタとスペクトル測定とを、より容易に行える。
【0024】
次に本実施形態において特徴的な測定状態について説明する。
すなわち、図2(A)に示されるような画像モニタ時では、第一平面鏡50と第二平面鏡52を光路へ挿入しており、その光路は、入射スリット20と、入射スリット20を通過した光を平行光とするコリメータレンズ22と、コリメータレンズ22からの平行光を受けて、第二平面鏡52へ反射させる第一平面鏡50と、第二平面鏡52にて反射した平行光を受けて集光させるカメラレンズ28と、カメラレンズ28で集光された光が結像される二次元受光面30aとなる。
【0025】
このようにコリメータレンズ22と回折格子26へ挿入する平面鏡24との間に第一平面鏡50を、回折格子26とカメラレンズ28との間に第二平面鏡52を挿入しているので、回折格子26を正反射位置に回転させて波長0次光で画像をモニタするものに比較し、画像を鮮明に捉えることができる。さらに回折格子26とは独立して第一平面鏡50、第二平面鏡52を挿入することができるので、回折格子26を切換えず(波長を切換えず)に画像モニタを行うことができる。
【0026】
一方、同図(B)に示されるようなスペクトル測定時では、第一平面鏡50と第二平面鏡52が光路から退避されている。この結果、スペクトル測定時の光路は、入射スリット20と、コリメータレンズ22と、平面鏡24と、回折格子26と、カメラレンズ28と、カメラレンズ28で集光された光が結像される二次元受光面30aとなる。
【0027】
このため、入射スリット20を通過した光は、コリメータレンズ22により平行光とされ、平面鏡24により反射されて回折格子26に向かう。回折格子26へ入射した平行光は、波長に応じた角度で出射し、カメラレンズ28により二次元検出器30の二次元受光面30aに集光される。二次元受光面30aに結像した波長分散された入射スリット像を、二次元検出器30にて検出することで、入射スリット20へ入射した光=結像した画像のスペクトル測定を行っている。二次元受光面30aに結像した波長分散された入射スリット像を、二次元検出器30にて検出することで、入射スリット20へ入射した光=結像した画像のスペクトル測定を行っている。
このように入射スリット20を通った光である一次元像を回折格子26を通して二次元検出器30まで導光してスペクトル測定を行うことができる。これにより画像モニタ時に確認した観察部位を確実にスペクトル測定することができる。
【0028】
分光器性能試験
次に本実施形態にかかる分光器の性能の試験を行った。
図3に入射スリット20のスリット20aの幅を8mmに可変し、第一平面鏡50と第二平面鏡52を挿入して観察した試料12の画像を示す。
図4に入射スリット20のスリット20aの幅を4mmに可変し、第一平面鏡50と第二平面鏡52を挿入して観察した試料12の画像を示す。
図5に入射スリット20のスリット20aの幅を0.05mmに可変し、第一平面鏡50と第二平面鏡52を挿入して観察した試料12の画像を示す。このような画像上で試料12の観察部位を確認し、スペクトル測定モードに切り換え、スペクトル測定を行う。
図6に入射スリット20のスリット20aの幅を0.05mmに可変し、第一平面鏡50と第二平面鏡52を外し、中心波長500nmにし、スペクトル測定を行った結果を示す。なお、同図(A)は横軸に波長を展開し、縦軸にスリット高さをとったものである。同図(B)は同図(A)のカーソル位置でのスリット高さと強度情報との関係を示し、同図(C)はカーソル位置での波長と強度情報との関係を示すものである。
【0029】
これらの図からも明らかなように、本実施形態にかかる顕微鏡接続用分光器10によれば、視野も十分に広く確認できると共に、画質も鮮明に確認することができる。これにより、試料12の画像モニタおよびスペクトル測定を良好に行うことができる。
【0030】
また、試料の二次元像撮像により、全部の色の試料面画像を得ることができるが、スペクトル測定により特定の色の試料面画像を得ることもできる。すなわち、スペクトル測定において、波長を特定波長に固定した上で、試料をステージ移動手段により水平方向にスリット幅分ごとに移動させながら、試料上の各ラインのスペクトル測定を行う。得られた各ラインのデータを繋ぎ合わせることにより、特定の色の試料面画像を得ることもできる。
【0031】
以上のように本実施形態にかかる顕微鏡接続用分光器によれば、前記入射スリットと、前記カメラレンズと、前記二次元検出器と、前記光路切換機構とを組合せることによりはじめて、一台の検出器で、試料の画像モニタおよびスペクトル測定の双方を良好に行うことができる。
【0032】
以下に、本実施形態のF値の選択、光路切換機構の重要性について説明する。
<F値>
本実施形態において、画像モニタとスペクトル測定との双方を良好に行うためには、コリメータレンズ22及びカメラレンズ28のF値の選択も非常に重要である。
次に本実施形態において特徴的なF値の選択について説明する。F値の計算には、図7に示される光学系構成部材のサイズ(mm)、光路長(mm)の条件下で求めた。同図(A)はスペクトル測定用光路、同図(B)は画像モニタ用光路である。同図(A)において、平面鏡24のサイズは(縦25mm,横20mm)とし、回折格子26のサイズは(縦30mm,横22mm)とした。また、同図(B)において、第一平面鏡50のサイズは(縦18mm,横25mm)とし、第二平面鏡52のサイズは(縦25mm,横32mm)とした。
【0033】

すなわち、顕微鏡16のF値は、100倍の対物レンズ42を使用すると、
100倍対物レンズ42の仕様は、NA=0.95
NA=sinθ
θ=((d/2)/f)tan−1
F値=f/d
より、
NAsin−1=((d/2)/f)tan−1
tan(NAsin−1)=((d/2)/f)
d/f=2(tan(NAsin−1))
f/d=1/2(tan(NAsin−1))
よって、
F=0.164
100倍なので、分光器10の入射側F値は
F=0.164×100
=16.4
【0034】
ただし、NA:開口数
θ:光軸上の物体または像からレンズの有効径をのぞき込んだ半角
f:焦点距離
d:有効口径
【0035】
上記より、コリメータレンズ22は、f50mm、F16のものを使用した。
入射スリット20での試料12の画像の大きさは、二次元検出器30の二次元受光面30aの大きさに合わせて、縦8mm、横8mmである。
本実施形態において、カメラレンズ28は、F値1.2のものを使用した。
この結果、本実施形態は、従来方式、つまりF値の考慮のないものに比較し、明るい画像を得ることができる。
【0036】
F値を考慮した場合と考慮しない場合との作用効果の違いについて、図8を参照しつつ説明する。
同図にはF値を考慮しない場合(同図(A))と、F値を考慮した場合(同図(B))との光路の比較説明図が示されている。
なお、同図(A)ではF値を考慮しないカメラレンズサイズ(F16)28´を示し、同図(B)ではF値を考慮したカメラレンズサイズ(F1.2)28を示している。
【0037】
今、画像モニタを行うとする。入射スリット20のスリット20aの幅を、二次元受光検出器受光面30aの大きさと同等の8mmに可変すると(スリット20aの縦幅は8mm)、コリメータレンズ22から出力される平行光は、その集まり画角の分だけ広がりを生じる。
【0038】
ここで、同図(A)に示されるようにF値を考慮しない場合、つまり同じF値(スリット幅値)のコリメータレンズ22とカメラレンズ28´を使用した場合、コリメータレンズ22から出力される画角による平行光の集まりの広がりは、カメラレンズ28´より大きくなり、全て二次元受光面30aに集光することができない。
このため、得られる画像も、中心は明るいが、周辺が暗く歪が生じたものとなる。このため、得られた画像の明るさ補正をソフトウェア的に行う必要もあるので、満足のゆく画像が得られなかった。
【0039】
そこで、本発明においては、カメラレンズ28のF値を、1.2〜1.4とすることが非常に好ましい。このために本実施形態においては、コリメータレンズ22にはf50mm、F16のものを使用し、カメラレンズ28にはコリメータレンズ22よりも明るいf50mm、F1.2のものを使用している。
この結果、同図(B)に示されるようにカメラレンズ28のF値を1.2とした場合は、コリメータレンズ22から出力される画角による平行光も、本実施形態のカメラレンズ28により、全て二次元受光面30aに集光することができる。
【0040】
このようなF値の考慮の違いは、本実施形態は、明るさ補正をすることなく、明瞭な画像を得ることができるので、試料の画像モニタとスペクトル測定との双方を良好に行うことができるのに対し、このような考慮のないものは、明瞭な画像を得ることが困難であるので、これらを良好に行うことが困難であるという作用効果の違いをもたらしている。
【0041】
<光路切換機構>
次に、本実施形態の光路切換機構の重要性について図9を参照しつつ説明する。
同図に示されるように本発明の光路切換機構を考慮しない場合、顕微鏡にセットされた試料の画像モニタを行うには、回折格子26を正反射位置に回転させて波長0次光を二次元検出器30にて検出することが考えられる。
また、回折格子26の裏面に平面鏡80を設け、回折格子26と平面鏡80との裏表を切換えることにより、スペクトル測定と画像モニタとを切り換えて行うことも考えられる。
【0042】
しかしながら、回折格子26を正反射位置に回転させて波長0次光を二次元検出器30にて検出した場合に、回折格子素子面には溝があるため、光の散乱が生じ、検出した画像が鮮明であるとは言えなかった。また、コリメータレンズ22からカメラレンズ28までの光路長が長いために、入射スリット20のスリット20aの幅を二次元受光面30aの幅と同等にした場合、コリメータレンズ22から出射された光が画角の関係でカメラレンズ28よりも大きくなってしまい、顕微鏡にセットされた試料の視野が狭くなってしまう。検出した画像を鮮明にするため、回折格子26と平面鏡80とを切換えたときも同様に、視野が狭くなってしまう。また、回折格子26を一度切換えるので、波長が変わってしまう。
このため、本実施形態の光路切換機構を採用しないと、顕微鏡にセットされた試料の画像モニタとスペクトル測定との双方を良好に行うのが困難である。
【0043】
これに対し、本実施形態は、前述のように第一平面鏡50及び第二平面鏡52を用いた光路切換機構32により、回折格子26を動かすことなく、光路の切換えを行えるので、顕微鏡にセットされた試料の画像モニタとスペクトル測定との双方を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態にかかる顕微鏡接続用分光器の概略構成の説明図である。
【図2】図1に示した顕微鏡接続用分光器のとりうる画像モニタ用光路とスペクトル測定用光路の説明図である。
【図3】図1に示した顕微鏡接続用分光器においてスリット幅を8mmに可変し、第一平面鏡と第二平面鏡を挿入して観察した試料の画像である。
【図4】図1に示した顕微鏡接続用分光器においてスリット幅を4mmに可変し、第一平面鏡と第二平面鏡を挿入して観察した試料の画像である。
【図5】図1に示した顕微鏡接続用分光器においてスリット幅を0.05mmに可変し、第一平面鏡と第二平面鏡を挿入して観察した試料の画像である。
【図6】図1に示した顕微鏡接続用分光器においてスリット幅を0.05mmに可変し、第一平面鏡と第二平面鏡を外した時の分散スペクトルである。
【図7】本実施形態において特徴的なF値の計算に用いた光学系構成部材の説明図である。
【図8】本実施形態のF値選択の重要性の説明図である。
【図9】本実施形態の光路切換機構の重要性の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10 顕微鏡接続用分光器
20 入射スリット
20a スリット
22 コリメータレンズ(前段レンズ)
26 回折格子
28 カメラレンズ(後段レンズ)
30 二次元検出器
30a 二次元受光面
32 光路切換機構
50 第一平面鏡(切換鏡)
52 第二平面鏡(切換鏡)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を観察して得られた光を出力する顕微鏡に接続され、該顕微鏡からの光の二次元像撮像及び該顕微鏡からの光のスペクトル測定を行うための顕微鏡接続用分光器であって、
前記顕微鏡からの光の結像位置に設けられ、該光を通すスリットのサイズが、少なくとも二次元検出器の二次元受光面と同等の二次元サイズと、スペクトル測定を行うための一次元サイズとの間で、変えられる入射スリットと、
前記入射スリットを通った光を平行光とする前段レンズと、
スペクトル測定時のみに、前記前段レンズからの平行光を受けて波長に応じた角度で光を出力する回折格子と、
前記前段レンズよりも明るいF値を有し、スペクトル測定時に前記回折格子を通した光を集光し、画像モニタ時に該回折格子を通さない光を集光する後段レンズと、
前記後段レンズにより集光された光が結像される前記二次元受光面を有する前記二次元検出器と、
前記顕微鏡からの光の二次元像を撮像するための画像モニタ用光路と、該顕微鏡からの光のスペクトル測定を行うためのスペクトル測定用光路とを切換える光路切換機構と、
を備え、
前記画像モニタ用光路は、前記顕微鏡からの光が、前記入射スリット、前記前段レンズ及び前記後段レンズを通して、前記二次元検出器に至るものを対象としており、
また、前記スペクトル測定用光路は、前記顕微鏡からの光が、前記入射スリット、前記前段レンズ、前記回折格子および前記後段レンズを通して、前記二次元検出器に至るものを対象としており、
前記画像モニタ時に、前記入射スリットのスリットを二次元サイズとし、かつ前記光路切換機構により前記画像モニタ用光路とすることにより、該入射スリットを通った光である二次元像を、該回折格子を通すことなく該二次元検出器まで導光して撮像し、
前記スペクトル測定時、前記入射スリットを一次元サイズとし、かつ光路切換機構により前記スペクトル測定用光路とすることにより、該入射スリットを通った光である一次元像を該回折格子を通して該二次元検出器まで導光してスペクトル測定を行うことを特徴とする顕微鏡接続用分光器。
【請求項2】
請求項1記載の顕微鏡接続用分光器において、
前記後段レンズのF値は、1.2〜1.4であることを特徴とする顕微鏡接続用分光器。
【請求項3】
請求項1又は2記載の顕微鏡接続用分光器において、
前記光路切換機構は、前記入射スリットを通した光の光路中に挿入及び退避自在に設けられ、鏡面が平面の切換鏡を備え、
前記画像モニタ時、前記切換鏡の挿入により、前記前段レンズからの光を前記回折格子を通すことなく前記後段レンズに導光することにより、前記入射スリットを通した光の光路を前記画像モニタ用光路とし、
また、前記スペクトル測定時、前記切換鏡の退避により、前記前段レンズからの光を前記回折格子に導光することにより、前記入射スリットを通した光の光路を前記スペクトル測定用光路とすることを特徴とする顕微鏡接続用分光器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−249945(P2008−249945A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90610(P2007−90610)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(501194123)分光計器株式会社 (6)
【Fターム(参考)】