説明

食品の加熱調理方法及び加熱調理装置

【課題】フライ食品のような質感及び食感を有する加熱調理食品を、生産性よく製造できる食品の加熱調理方法及び加熱調理装置を提供する。
【解決手段】食品素材を食用油で被覆させる食用油被覆装置10と、食用油被覆装置10を通過して食用油で被覆された食品素材に、過熱蒸気を当てる過熱蒸気炉20と、過熱蒸気炉20を通過して少なくとも表面が膨化した食品素材を加熱する遠赤外線ヒータ32と、前記遠赤外線ヒータで加熱された食品素材に熱風を噴射する熱風炉40とを備える加熱調理装置100を用いて、食品素材を加熱調理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンフライでありながら、フライ食品のような質感及び食感を有する食品の加熱調理方法及び加熱調理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の加熱調理方法のひとつに、高温の油に食品素材をくぐらせるフライ調理がある。フライ食品として油揚げの製造に例をとると、油揚げは、水分含量が低く固い豆腐(豆腐生地)を約120℃の油で揚げ、豆腐生地中の水分を気化させて膨化させ(伸ばし工程)、次いで約180℃の油で揚げ、膨化した豆腐生地の表面を硬化させて膨化状態を固定する(からし工程)ことによって、従来より製造されている。
【0003】
しかしながら、高温の油に食品素材を浸漬させると、食品素材中に油が浸漬していき易いため、フライ食品は概して油脂含有量が高く、高カロリーなものであった。また、フライ調理では揚げ油は常に高温状態に保持されているが、油は、高温条件下では、酸化や加水分解されて劣化し易という問題があった。このため、揚げ油を頻繁に交換しなくてはならず、交換作業に手間を要し、更に、油を多量に要することから、製造コストがかさむ問題があった。
【0004】
これらの問題を解決する手法として、油が付着した食品素材に過熱蒸気を当てて加熱調理して、フライ食品に近い質感及び食感を有する加熱調理食品を製造することが行われている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、油揚げ原料の表面に食用油を付着させ、該食用油が付着した前記油揚げ原料を105℃以上で160℃未満の低温過熱蒸気で内部温度を高めた後、高温過熱蒸気を当てて内部の水分を急速に気化させて前記油揚げ原料を全体的に発泡させ、更に前記油揚げ原料の表面を着色して油揚げを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−46021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、過熱蒸気はエネルギーコストが高いことから、上記特許文献1のように過熱蒸気のみで加熱調理した場合、製造コストがかさむ問題があった。更に、フライ調理した場合に比べて、膨化状態が不十分で、質感、食感ともに、フライ食品に比べて劣るものであった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、フライ食品のような質感及び食感を有する加熱調理食品を、生産性よく製造できる食品の加熱調理方法及び加熱調理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の食品の加熱調理方法は、食品素材を食用油で被覆させる食用油被覆工程と、前記食用油被覆工程後の食品素材に過熱蒸気を当てて、該食品素材の少なくとも表面を膨化させる伸ばし工程と、前記伸ばし工程後の食品素材に、遠赤外線ヒータの熱を照射して、該食品素材の表面を予備硬化させる予備硬化工程と、前記予備硬化後の食品素材に熱風を当てて、該食品素材の表面を硬化させるからし工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、食品素材を食用油で被覆した後、過熱蒸気を当てることで、食品素材の表面雰囲気を高温の油中に浸漬させた状態に近づけることができる。このため、高温油に浸漬させなくても、食品素材の表面をほぼ均一に加熱してその表面の少なくとも一部を膨化できる。また、食用油被覆工程では、食用油を高温状態に加熱する必要がないので、食用油の劣化が生じにくい。このため、食用油の交換頻度を抑えつつ、常に劣化の少ない食用油で食品素材を被覆できる。そして、少なくとも表面が膨化した食品素材に対し遠赤外線ヒータの熱を照射することで、伸び工程直後の食品素材の表面をゆっくりと硬化させつつ、食品素材の内部の水をも蒸発して放出させることができ、食品素材を十分伸ばすことができる。そして、予備硬化処理された食品素材に対し熱風を当てることで、食品素材の表層にクラック等を生じさせることなく硬化でき、また、表面に焼き色を付けることができる。よって、本発明によれば、従来のフライ食品と同様の質感及び食感を有し、クラック等の表面破損のない外観の良い加熱調理食品を生産性よく得ることができる。
【0011】
本発明の食品の加熱調理方法の前記食用油被覆工程は、食品素材を60℃以下の食用油に浸漬させて行うことが好ましい。この態様によれば、食用油の劣化を抑制しつつ、食品素材の全周に均一に食用油を効率よく被覆できる。
【0012】
本発明の食品の加熱調理方法の前記伸ばし工程は、食品素材に対し、連続的又は一定間隔で振動を与えながら行うことが好ましい。この態様によれば、食品素材に振動を与えることで、食品素材に内包されている水蒸気や気泡などが除去され易くなるので、均一かつより速やかに、食品素材を膨張させることができる。このため、伸ばし工程をより短時間で行うことが可能になるので、過熱蒸気の消費量を低減でき、製造コストをより抑えることができる。
【0013】
本発明の食品の加熱調理方法は、前記食品素材が豆腐生地であって、前記伸ばし工程は、過熱蒸気を当てることにより、豆腐生地の表面温度が80〜180℃となるように3〜7分間行い、前記予備硬化工程は、遠赤外線ヒータの熱により、豆腐生地の表面温度が100〜180℃となるように1〜3分間行い、前記からし工程は、豆腐生地に180〜250℃の熱風を3〜7分吹き付けて行うことが好ましい。豆腐生地を上記条件で加熱調理することで、フライ工程を経て製造した従来の油揚げと遜色がない風味、食感、質感を有し、更には従来の油揚げに比べて、油脂含量が少なく低カロリーの油揚げ様の加熱調理食品を製造できる。
【0014】
また、本発明の加熱調理装置は、食品素材を食用油で被覆させる食用油被覆装置と、前記食用油被覆装置を通過して食用油で被覆された食品素材に、過熱蒸気を当てる過熱蒸気炉と、前記過熱蒸気炉を通過して少なくとも表面が膨化した食品素材を加熱する遠赤外線ヒータを備える遠赤外線加熱炉と、前記遠赤外線加熱炉を通過して表面が予備硬化した食品素材に、熱風を当てる熱風炉とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の加熱調理装置によれば、過熱蒸気炉において、食用油で被覆された食品素材に対し過熱蒸気を当てることで、食品素材の表面雰囲気を高温の油中に浸漬させた状態に近づけることができる。このため、高温油に浸漬させなくても、食品素材の表面をほぼ均一に加熱してその表面の少なくとも一部を膨化できる。そして、遠赤外線加熱炉では、このようにして、少なくとも表面が膨化した食品素材に対し、遠赤外線ヒータの熱を照射することで、伸び工程直後の食品素材の表面をゆっくりと硬化させつつ、食品素材の内部の水をも蒸発させることができ、食品素材を十分伸ばすことができる。そして、熱風炉では、表面が予備硬化処理された食品素材に対し熱風を当てからしを行うので、食品素材の表層にクラック等を生じさせることなく硬化でき、また、表面に焼き色を付けることができる。
【0016】
本発明の加熱調理装置の食用油被覆装置は、食品素材を食用油に浸漬させるドリップ槽と、ドリップ槽から取り出された食品素材に付着した余剰量の油を除去するエアー噴射機とを備えることが好ましい。この態様によれば、食品素材の全周を食用油で均一かつ効率よく被覆できる。
【0017】
本発明の加熱調理装置は、前記過熱蒸気炉は、前記食品素材の載置部が、上下方向及び/又は左右方向に、連続的または間欠的に振動が与えられるように構成されていることが好ましい。この態様によれば、食品素材を上下方向及び/又は左右方向に振動させることで、食品素材に内包されている水蒸気や気泡などが除去され易くなるので、過熱蒸気の消費量を抑えつつ、食品素材を均一かつより速やかに膨張させることができ、製造コストをより低減できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のフライ食品と同様の質感及び食感を有し、クラック等の表面破損のない外観の良い加熱調理食品を、生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の加熱調理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の加熱調理装置について、図1を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の加熱調理装置の概略構成図であって、この加熱調理装置100は、食用油被覆装置10と、食用油被覆装置10に導入された食品素材を搬送する第1搬送ベルト51と、過熱蒸気炉20と、遠赤外線加熱炉30と、熱風炉40と、食品素材を過熱蒸気炉20、遠赤外線加熱炉30、熱風炉40の順に搬送可能な第2搬送ベルト52と、食品素材を装置外に排出する排出ベルト53とで主に構成されている。
【0022】
食用油被覆装置10は、ドリップ槽11と、エアー噴射機12とを備え、第1搬送ベルト51上を移動する食品素材をドリップ槽11に導入させ、ドリップ槽11を通過後の食品素材に対し、エアー噴射機12からの圧縮空気によりエアーブローするように構成されている。ドリップ槽11内には、サラダ油、胡麻油、菜種油などの融点が低く、流動性のある食用油が導入されており、槽内の食用油の温度が、好ましくは30〜60℃、より好ましくは50〜60℃に保たれている。
【0023】
過熱蒸気炉20は、ハウジング21内に配置された過熱蒸気噴射口22を有している。この過熱蒸気噴射口22は、進行方向に沿って流れる側の第2搬送ベルト52aを上下方向に挟み込むように配置された、上部過熱蒸気噴射口22aと下部過熱蒸気噴射口22bとで構成され、第2搬送ベルト52a上を移動する食品素材に対し、上下方向から過熱蒸気を噴射するようになっている。過熱蒸気噴射口22には、特に図示しないが、過熱蒸気発生装置から伸びた配管が接続しており、過熱蒸気発生装置から供給される過熱蒸気が過熱蒸気噴射口22から吐出される。また、この進行方向に沿って流れる側の第2搬送ベルト52aには振動機23が配置され、該第2搬送ベルト52aに対し、上下方向及び/又は左右方向に連続的または間欠的に振動が与えられるように構成されている。振動機23としては、特に限定はないが、ガイドレールに凹凸を設けたものなどが挙げられる。
【0024】
また、ハウジング21内の下部近傍であって、進行方向の逆に流れる側の第2搬送ベルト52bには、洗浄装置24が配置され、食品素材を排出ベルト53から系外に排出後のベルトを洗浄できるように構成されている。上記洗浄装置24としては、特に限定はないが、シャワー、蒸気、エアーブローなどが挙げられる。
【0025】
過熱蒸気炉20の搬送方向に隣接して配置される遠赤外線加熱炉30は、ハウジング31内に、遠赤外線ヒータ32を有している。この遠赤外線ヒータ32は、進行方向に沿って流れる側の第2搬送ベルト52aを上下方向に挟み込むようにして配置された、上部遠赤外線ヒータ32aと下部遠赤外線ヒータ32bとで構成され、第2搬送ベルト52a上を移動する食品素材に対し、上下方向から遠赤外線ヒータの熱を照射するようになっている。
【0026】
遠赤外線加熱炉30の搬送方向に隣接して配置される熱風炉40は、ハウジング41内に、熱風噴射口42を有している。この熱風噴射口42は、進行方向に沿って流れる側の第2搬送ベルト52aを上下方向に挟み込むようにして配置された、上部熱風噴射口42aと下部熱風噴射口42bとで構成され、第2搬送ベルト52a上を移動する食品素材に対し、上下方向から熱風を噴射するようになっている。熱風噴射口42には、特に図示しないが、熱風発生装置から伸びた配管が接続しており、熱風発生装置から供給される熱風が熱風噴射口42から吐出される。
【0027】
上記第1搬送ベルト51、第2搬送ベルト52は、特に限定はないが、ステンレス等耐油性がある素材で構成された、メッシュ状物、網状物、パンチングメタルなどの、上下に貫通する孔を備えた形状をなすものが好ましく用いられる。
【0028】
次に、上記構成の加熱調理装置100を用いた場合を一例に挙げて、本発明の食品の加熱調理方法について説明する。
【0029】
本発明の食品の加熱調理方法において、調理対象となる食品素材としては、特に限定はなく、油揚げ、厚揚げ、がんもなどの油揚げ類の原料となる豆腐生地や、さつま揚げ等の原料となる魚肉練り物などが挙げられる。以下、豆腐生地を用いた場合、特に油揚げを例に挙げて説明する。
【0030】
濃度が約4〜5%の豆乳ににがりを加えて固めたものを圧搾し、水分含量を70〜80%に調整した豆腐生地を、厚み5〜15mmに切り出し、これを、第1搬送ベルト51上の食品素材載置部51aに載置する。
【0031】
第1搬送ベルト51上の食品素材載置部51aに載置された豆腐生地は、第1搬送ベルト51により搬送されて、食用油被覆装置10にて食用油被覆工程が行われる。
【0032】
食用油被覆装置10では、豆腐生地は、まずドリップ槽11に導入される。ドリップ槽11内の食用油は、30〜60℃に維持されていることが好ましく、50〜60℃がより好ましい。食用油が上記温度に維持されていれば、油の劣化を生じさせることなく、食用油の流動性を確保できて、豆腐生地を食用油で被覆させ易くなる。更には、製造直後の豆腐生地は比較的高温であるので、豆腐生地の温度を低下させ難くでき、熱損失を抑え、後の伸ばし工程において、過熱蒸気の消費量を低減できる。
【0033】
そして、ドリップ槽11を通過して油で被覆された豆腐生地に対し、ドリップ槽11の後段に配置されたエアー噴射機12から圧縮空気を噴射してエアーブローを行い、豆腐生地に過剰に付着した食用油を除去して食用油の付着量を調整する。食用油の付着量は、食品素材の種類や、最終製品としての加熱調理食品の種類により異なるので特に限定はしないが、例えば、油揚げ類様の食品を得る場合には、豆腐生地50gに対し、2〜3g付着させることが好ましい。豆腐生地50gに対する食用油の付着量が2g未満であると、豆腐生地を食用油で均一に被覆できない場合があり、食用油の付着量が3gを超えると、最終商品がベタ付いた食感になり易く、更には、油脂含有量が多くなって、高カロリーなものになる。
【0034】
このようにして、食用油に付着量が調整された豆腐生地は、食用油被覆装置10の終端部にて第2搬送ベルト52に移されて、第2搬送ベルト52で搬送されながら、過熱蒸気炉20、遠赤外線加熱炉30、熱風炉40の順に搬送される。
【0035】
過熱蒸気炉20では、第2搬送ベルト52の上下方向から豆腐生地に対して過熱蒸気を当てて、豆腐生地の少なくとも表面を膨張させる伸ばし工程を行う。
【0036】
豆腐生地は食用油で被覆されているので、豆腐生地に過熱蒸気を当てることで、豆腐生地の表面近傍の雰囲気は高温の油中に浸漬させた状態に近づき、また、豆腐生地の内部までほぼ均一に熱が伝わって、内部はほぼ均一に加熱される。これによって、豆腐生地中の水分が蒸気になることにより豆腐生地の体積がほぼ均一に膨張して豆腐生地の少なくとも表面が膨化し、また、豆腐生地の表面に付着している食用油は豆腐生地の表層部に浸透する。このため、高温油にくぐらせてフライ工程を行った場合と同様の加熱効果が得られる。
【0037】
伸ばし工程における処理条件は、豆腐生地に過熱蒸気を当てることにより、豆腐生地の表面温度を80〜180℃に調整して、3〜7分間行うことがより好ましい。特に好ましくは、140〜170℃の過熱蒸気を豆腐生地に当てて、該豆腐生地の表面温度を130〜170℃に調整し、この状態で5〜6分間維持する。これにより、豆腐生地を高温油にくぐらせて伸ばしを行った場合と同様の伸びが得られ、従来の油揚げ類の質感及び食感と遜色のない加熱調理食品が得られる。なお、伸ばし工程における処理条件は、対象となる食品素材の種類や、最終製品としての加熱調理食品の種類などにより異なる。
【0038】
また、伸ばし工程において、豆腐生地に対し、連続的又は一定間隔で振動を与えながら行うことが好ましい。豆腐生地に振動を与えながら豆腐生地に過熱蒸気を当てることで、豆腐生地に内包している水蒸気や気泡などが除去され易くなって、均一かつ速やかに、食品素材を膨張させることができる。このため、過熱蒸気の使用量をより低減でき、エネルギーコストを抑えることができる。
【0039】
過熱蒸気炉20にて伸ばし工程が行われた豆腐生地は、第2搬送ベルト52で搬送されて遠赤外線加熱炉30に導入される。
【0040】
遠赤外線加熱炉30では、豆腐生地に対し、上下方向から遠赤外線ヒータからの熱流を当てて、伸び工程後の豆腐生地の表面を予備乾燥する予備硬化工程を行う。
【0041】
伸び工程後の豆腐生地の表面は、柔らかく、また、内部は、水蒸気が完全に抜け切れていない場合がある。このため、この状態で、熱風などを当てて表層を急激に加熱した場合、表層が急激に収縮してクラック等が発生したり、表層が硬化して、内部にこもった水蒸気が抜けず、豆腐生地の伸びが不十分な場合があったり、冷却後に縮んだりすることがある。更には、熱風は、表面を均一に加熱できないことから、局所的に加熱されて膨れが生じたり、変形したりすることがある。
【0042】
これに対し、伸び工程後の豆腐生地に対し、遠赤外線ヒータからの熱流を当てて加熱することで、表面をゆっくりと乾燥させつつ、豆腐生地の内部から水分を速やかに水蒸気にして除去でき、伸ばしを完全に終えることができる。また、表面の組織を加熱により変質して、皮膜の様なものを形成して表層の強度を向上できるので、後のからし工程において、クラック等の発生を抑制できる。
【0043】
予備硬化工程における処理条件は、豆腐生地の表面温度が、伸ばし工程における表面温度と同じようになるように行うことが好ましく、豆腐生地の表面温度が100〜180℃で、加熱時間が1〜5分の条件で行うことがより好ましく、豆腐生地の表面温度が120〜150℃で、加熱時間が1〜3分の条件で行うことが特に好ましい。これによれば、豆腐生地内部に残存している水分を速やかに水蒸気として放出させ、豆腐生地を十分伸ばすことができると共に、豆腐生地の表面をゆっくりと乾燥して皮膜の様な硬化物を最表層に形成できる。これによって、後段の熱風炉40において、熱風をあてても、クラック等などが生じにくくなる。なお、予備硬化工程における処理条件は、対象となる食品素材の種類や、最終製品としての加熱調理食品の種類などにより異なる。
【0044】
そして、遠赤外線加熱炉30にて予備硬化工程が行われた豆腐生地は、第2搬送ベルト52で搬送されて熱風炉40に導入される。ここでは、豆腐生地に対し上下方向から熱風を噴射して、からし工程を行う。
【0045】
上述したように、伸び工程直後の豆腐生地の表面は、柔らかく、この状態で熱風を吹き付けて乾燥すると、表面が急激に収縮してクラック等が発生することがあるが、遠赤外線ヒータでの加熱によって表面を予備硬化させたことで、からし工程において、豆腐生地に熱風を吹き付けても、豆腐生地表面にクラック等が生じにくくなり、また、豆腐生地の表層部には、食用油が付着しているで、熱風からの熱により、表面が焦げ色に変色する。
【0046】
からし工程における処理条件は、豆腐生地に対し、180〜250℃の熱風を3〜7分噴射して行うことが好ましく、230〜240℃の熱風を6〜7分噴射して行うことがより好ましい。なお、からし工程における処理条件は、対象となる食品素材の種類や、最終製品として得られる加熱調理食品の種類などにより異なる。
【0047】
このようにして得られる加熱調理食品は、従来のようにフライ工程を経て得られた油揚げ類と同様の、質感、食感、外観を有している。また、フライ工程を経ていないので、油脂含有量が少なく、より低カロリーである。
【0048】
そして、加熱炉40にてからし工程が行われた加熱調理食品は、第2搬送ベルト52の終端にて排出ベルト53に移され、冷却工程、包装工程を経て、最終製品となる。
【0049】
また、加熱調理食品を載せていた第2搬送ベルト52は、油カスなどが付着しているが、第2搬送ベルト52を循環する際に、洗浄装置24を通過して油カスなどが洗浄除去されるので、常に清潔な状態が維持される。
【0050】
このように、本発明の食品の加熱調理方法によれば、食品素材を油にくぐらせてフライ調理を行わなくても、フライ食品と同様の質感及び食感を有し、クラック等の表面破損のない外観の良い加熱調理食品を、生産性よく製造できる。
【0051】
なお、上記で説明した食品の加熱調理方法では、油揚げを例に挙げて説明したが、厚揚げ、がんもなどの、油揚げ以外の油揚げ類や、その他の食品同様の方法で製造できる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
水分含量約75%の豆腐生地を、厚み10mm、幅55mm、長さ100mmに切り出し、約55gの豆腐生地に、食用油を2g付着させて、豆腐生地を食用油で被覆した。
この食用油で被覆された豆腐生地に対し、約160℃の過熱蒸気を当てて、豆腐生地の表面温度を約140℃とし、この状態で6分間保持した。次いで、遠赤外線ヒータの熱を照射して、豆腐生地の表面温度を約150℃とし、この状態で1分間保持した。そして、豆腐生地に240℃の熱風を6分間吹き付けた。
このようにして加熱調理して得られた加熱調理食品は、重量が36gで、厚み15mm、幅80mm、長さ150mmであった。また、表面は、膨れやクラック等の破損が無く極めて良好であり、きつね色に着色していた。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、食用油で被覆された豆腐生地に対し、遠赤外線ヒータからの熱を照射して、豆腐生地の表面温度を約120℃とし、この状態で5分間保持した。そして、豆腐生地に240℃の熱風を6分間吹き付けた。
このようにして加熱調理して得られた加熱調理食品は、重量が38gで、厚み12mm、幅65mm、長さ120mmであった。伸びが悪く、表面に膨れなどが見られた。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、食用油で被覆された豆腐生地に対し、約150℃の過熱蒸気を当てて、豆腐生地の表面温度を約140℃とし、この状態で5分間保持した。次いで、豆腐生地に240℃の熱風を6分間吹き付けた。
このようにして加熱調理して得られた加熱調理食品は、重量が36gで、厚み12mm、幅80mm、長さ130mmであった。伸びが悪く、表面にひび割れが見られた。
【0055】
(比較例3)
実施例1において、食用油で被覆された豆腐生地に対し、約160℃の過熱蒸気を当てて、豆腐生地の表面温度を約140℃とし、この状態で6分間保持した。次いで、遠赤外線ヒータからの熱を照射して、豆腐生地の表面温度を約150℃とし、この状態で1分間保持した。
このようにして加熱調理して得られた加熱調理食品は、重量が45gで、厚み12mm、幅70mm、長さ120mmであった。伸びが悪く、表面に膨れなどが見られた。
【0056】
(比較例4)
実施例1において、食用油で被覆された豆腐生地に対し、遠赤外線ヒータからの熱を照射して、豆腐生地の表面温度を約140℃とし、この状態で7分間保持した。
このようにして加熱調理して得られた加熱調理食品は、重量が50gで、厚み11mm、幅60mm、長さ110mmであった。伸びが悪く、表面に膨れなどが見られた。
【0057】
(比較例5)
実施例1において、食用油で被覆された豆腐生地に対し、240℃の熱風を7分間吹き付けた。
このようにして加熱調理して得られた加熱調理食品は、重量が50gで、厚み11mm、幅60mm、長さ110mmであった。伸びが悪く、表面に膨れなどが見られ、また、表面の一部に焦げ目が見られた。
【符号の説明】
【0058】
10:食用油被覆装置
11:ドリップ槽
12:エアー噴射機
20:過熱蒸気炉
21、31、41:ハウジング
22:過熱蒸気噴射口
23:振動機
24:洗浄装置
30:遠赤外線加熱炉
32:遠赤外線ヒータ
40:熱風炉
42:熱風噴射口
52:第1搬送ベルト
52:第2搬送ベルト
53:排出ベルト
100:加熱調理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品素材を食用油で被覆させる食用油被覆工程と、
前記食用油被覆工程後の食品素材に過熱蒸気を当てて、該食品素材の少なくとも表面を膨化させる伸ばし工程と、
前記伸ばし工程後の食品素材に、遠赤外線ヒータの熱を照射して、該食品素材の表面を予備硬化させる予備硬化工程と、
前記予備硬化後の食品素材に熱風を当てて、該食品素材の表面を硬化させるからし工程と、
を含むことを特徴とする食品の加熱調理方法。
【請求項2】
前記食用油被覆工程は、食品素材を60℃以下の食用油に浸漬させて行う、請求項1に記載の食品の加熱調理方法。
【請求項3】
前記伸ばし工程は、食品素材に対し、連続的又は一定間隔で振動を与えながら行う、請求項1又は2に記載の食品の加熱調理方法。
【請求項4】
前記食品素材が豆腐生地であって、
前記伸ばし工程は、過熱蒸気を当てることにより、豆腐生地の表面温度が80〜180℃となるように、3〜7分間行い、
前記予備硬化工程は、遠赤外線ヒータの熱により、豆腐生地の表面温度が100〜180℃となるように、1〜3分間行い、
前記からし工程は、豆腐生地に180〜250℃の熱風を3〜7分吹き付けて行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載の食品の加熱調理方法。
【請求項5】
食品素材を食用油で被覆させる食用油被覆装置と、
前記食用油被覆装置を通過して食用油で被覆された食品素材に、過熱蒸気を当てる過熱蒸気炉と、
前記過熱蒸気炉を通過して少なくとも表面が膨化した食品素材を加熱する遠赤外線ヒータと、
前記遠赤外線ヒータによる加熱により表面が予備硬化した食品素材に、熱風を当てる熱風炉と、
を備えることを特徴とする加熱調理装置。
【請求項6】
食用油被覆装置は、食品素材を食用油に浸漬させるドリップ槽と、ドリップ槽から取り出された食品素材に付着した余剰量の油を除去するエアー噴射機とを備える、請求項4に記載の加熱調理装置。
【請求項7】
前記過熱蒸気炉は、前記食品素材の載置部が、上下方向及び/又は左右方向に、連続的又は間欠的に振動が与えられるように構成されている、請求項5又は6に記載の加熱調理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−239866(P2010−239866A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88778(P2009−88778)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(598036311)相模屋食料株式会社 (2)
【出願人】(399018378)日本ハイコム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】