説明

飽和ノルボルネン樹脂フィルムおよびその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、並びに液晶表示装置

【課題】溶融製膜法で製造した際に見られるタテスジやダンムラを改良した良好な面状を有する飽和ノルボルネン樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】飽和ノルボルネン樹脂に、下記一般式で示されるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を重合させた重合体を0.01〜5質量%添加して溶融製膜する。一般式 CH2=C(R1)−COO−(X)n−Rf(式中、Rfは炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基、または部分フッ素化アルキル基であり、Rfは直鎖状であっても分岐状であってもよく、また酸素原子および/または窒素原子を含む官能基を主鎖中に有するものであってもよい。R1は水素原子、フッ素化されていてもよいアルキル基、塩素原子またはフッ素原子を表し、Xは2価の連結基を表し、nは1〜10の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的均一性の良好な飽和ノルボルネン樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。また、本発明は当該飽和ノルボルネン樹脂フィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
飽和ノルボルネン樹脂フィルムは低い吸水性と透湿性を有することから、従来より光学材料用の基板フィルムとして開発が進められている。さらに近年になり、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示素子の光学補償フィルムとして使用して視野角拡大を図ることが検討されている。
【0003】
このような飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、溶融押し出し状態のままで使用する場合もあるが、さらに押出した原反フィルムを延伸してから使用することも行われている。飽和ノルボルネン樹脂フィルムを延伸する方法として、流延方向(縦または長手方向)に延伸する方法(縦延伸)と横(幅)方向に延伸する方法(横延伸)、あるいは縦方向と横方向に同時に延伸する方法(同時延伸)が挙げられる。これらの内、縦延伸は設備がコンパクトなため、従来から多く用いられてきた。通常縦延伸は、2対以上のニップロールの間で、フィルムをガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、入口側のニップロールの搬送速度より出口側の搬送速度を速くすることにより行っている。この機構を用いた縦延伸法の条件については種々の改良が試みられており、例えば特許文献1には、飽和ノルボルネン樹脂フィルムの延伸中の温度ムラを小さくすることで、Reのばらつきを小さくすることが記載されている。また、特許文献2や特許文献3には、表面形状とダイラインの好ましい領域について記載されている。
【特許文献1】特開2001−42130号公報
【特許文献2】特開2005−55575号公報
【特許文献3】特開2005−55619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されている方法で得られた延伸フィルムは、流延押し出し時の流延方向に形成されたスジ(ダイスジと称する)や、横方向に形成された段状のスジ(ダンムラと称する)が見られ問題であった。特に特許文献1に記載されている方法で得られた延伸フィルムを光学補償フィルムとして使用すると微細な面状ムラを発現し、それを組み込んだ液晶表示装置に微細な表示ムラを生じることから、その改良が望まれていた。また、特許文献2および特許文献3に記載される具体的な解決方法は十分なものではなかった。さらに、飽和ノルボルネン樹脂を溶融製膜する際に、押し出しロールや搬送ロールに汚れ物質が付着するが、そのような汚れ物質の付着量を低減することは困難であった。
【0005】
本発明は、従来の溶融製膜法で製造した際に見られるタテスジやダンムラを改良した良好な面状を有する飽和ノルボルネン樹脂フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は環境条件による光学特性変化が小さい飽和ノルボルネン樹脂フィルムを提供することを目的とする。さらに、本発明はそのような性質を有する飽和ノルボルネン樹脂フィルムを簡便に製造する方法、特に溶融製膜時に押し出しロールや搬送ロールに付着する汚れ物質を低減した製造方法を提供することを目的とする。さらに、環境条件による光学特性の変化の小さい偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置、特に画像上の微細な表示ムラを改良した液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、以下の構成を有する本発明により達成される。
[1] フッ素原子を有する重合体をフィルムの固形分に対して0.01〜5質量%含み、残留溶剤量が0.01質量%以下であることを特徴とする飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
[2] 前記フッ素原子を有する重合体が、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を含む単量体を重合させた重合体であることを特徴とする[1]に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
[3] 前記フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体が、下記一般式(FM−1)で表されることを特徴とする[2]に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
一般式(FM−1) CH2=C(R1)−COO−(X)n−Rf
(式中、Rfは炭素数1〜20のパ−フルオロアルキル基、または部分フッ素化アルキル基であり、Rfは直鎖状であっても分岐状であってもよく、また酸素原子および/または窒素原子を含む官能基を主鎖中に有するものであってもよい。R1は水素原子、フッ素化されていてもよいアルキル基、塩素原子またはフッ素原子を表し、Xは2価の連結基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
[4] 平均一次粒子サイズ0.005〜2μmである微粒子を0.005〜2質量%含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
[5] 可塑剤、紫外線吸収剤および安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を0.05〜5g/m2含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
[6] 面内のレターデーション(Re)が0nm〜500nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が−300nm〜700nmであることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
[7] Reの遅相軸方向および遅相軸と直交する方向の変動がいずれも5%以下であり、かつRthの遅相軸方向および遅相軸と直交する方向の変動がいずれも5%以下であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【0007】
[8] 飽和ノルボルネン樹脂と該飽和ノルボルネン樹脂の固形分に対して0.01〜5質量%のフッ素原子を有する重合体の混合物を溶融製膜する工程を含むことを特徴とする飽和ノルボルネン樹脂フィルムの製造方法。
[9] 溶融製膜したフィルムを流延方向あるいは幅方向の少なくとも一方に0.90〜5倍延伸する工程をさらに有することを特徴とする[8]に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの製造方法。
[10] [8]または[9]に記載の製造方法により製造される飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【0008】
[11] 偏光膜に、[1]〜[7]および[10]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
[12] [1]〜[7]および[10]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを基材に用いた、光学補償フィルム。
[13] [1]〜[7]および[10]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを基材に用いた反射防止フィルム。
[14] [1]〜[7]および[10]のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、従来の溶融製膜法で製造した際に見られるタテスジやダンムラが抑えられており、良好な面状を有している。また、環境条件による光学特性変化が小さいため、安定した光学特性を長期間維持することができる。本発明の製造方法によれば、このような性質を有する飽和ノルボルネン樹脂フィルムを簡便に製造することができ、また、溶融製膜時に押し出しロールや搬送ロールに付着する汚れ物質を低減することができる。本発明の偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置は、環境条件による光学特性の変化が小さく、特に本発明の液晶表示装置は画像上の微細な表示ムラが改良されている。
【発明の詳細な説明】
【0010】
以下において、本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルム等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
<飽和ノルボルネン樹脂フィルム>
《特徴》
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、フッ素原子を有する重合体をフィルムの固形分に対して0.01〜5質量%含み、残留溶剤量が0.01質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
《飽和ノルボルネン樹脂》
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの原料となる飽和ノルボルネン樹脂として、以下に記載する飽和ノルボルネン樹脂−Aと飽和ノルボルネン樹脂−Bを好ましい例として挙げることができる。特に飽和ノルボルネン樹脂−Aは溶融製膜に適しているため好ましい。
【0013】
(飽和ノルボルネン樹脂−A)
飽和ノルボルネン樹脂−Aとして、(1)ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体に対して、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のようなポリマー変性を行ない、その後さらに水素添加して得られた樹脂、(2)ノルボルネン系モノマーを付加型重合させて得られた樹脂、(3)ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーとを付加型共重合させて得られた樹脂などが挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。
【0014】
ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体(例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等)、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体(例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等);シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物;シクロペンタジエンの3〜4量体(例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン)等が挙げられる。これらのノルボルネン系モノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
(飽和ノルボルネン樹脂−B)
飽和ノルボルネン樹脂−Bとして、下記一般式(1)〜(4)で表わされるものを挙げることができる。これらのうち、下記一般式(1)で表されるものが特に好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
一般式(1)〜(4)中、R1〜R12は、各々独立に水素原子または1価の置換基(好ましくは有機基)を示し、これらのうち少なくとも1つは極性基であることが好ましい。これらの飽和ノルボルネン樹脂の質量平均分子量は、通常5,000〜1,000,000が好ましく、より好ましくは8,000〜200,000である。
【0018】
上記の置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、アルキル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基で、例えばメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。)、アルケニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルケニル基で、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる。)、アルキニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキニル基で、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる。)、アリール基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリール基で、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などが挙げられる。)、アミノ基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のアミノ基で、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基で、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシ基で、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環オキシ基で、例えばピリジルオキシ基、ピリミジニルオキシ基、ピリダジニルオキシ基、ベンズイミダゾリルオキシ基などが挙げられる。)、シリルオキシ基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリルオキシ基で、例えばトリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基で、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基で、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアリールオキシカルボニル基で、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルオキシ基で、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルアミノ基で、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基で、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のスルファモイル基で、例えばスルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のカルバモイル基で、例えばカルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルチオ基で、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、アリールチオ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールチオ基で、例えばフェニルチオ基などが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環チオ基で、例えばピリジニルチオ基、ピリミジニルチオ基、ピリダジニルチオ基、ベンズイミダゾリルチオ基、チアジアゾリルチオ基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニル基で、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルフィニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニル基で、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環基で、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、チエニル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリル基で、例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基の水素原子は更に置換されてもよい。また、1分子中に置換基が二つ以上ある場合は、それらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。置換基としてはハロゲン原子、アルキル基、シリル基、アリール基、アルコキシ基及びアリールオキシ基が好ましく、メチル基、トリメチルシリル基、フェニル基およびメトキシ基が特に好ましい。
【0019】
上記の極性基とは、酸素、硫黄、窒素、ハロゲンなど電気陰性度の高い原子によって分極が生じている有機基のことをいう。具体的には、アミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアミノ基で、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基で、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシ基で、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環オキシ基で、例えばピリジニルオキシ基、ピリミジニルオキシ基、ピリダジニルオキシ基、ベンズイミダゾリルオキシ基などが挙げられる。)、シリルオキシ基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリルオキシ基で、例えばトリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基で、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基で、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシカルボニル基で、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルオキシ基で、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルアミノ基で、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15アリールオキシカルボニルアミノ基で、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基で、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のスルファモイル基で、例えばスルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のカルバモイル基で、例えばカルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、ウレイド基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のウレイド基で、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる。)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基などが挙げられる。これらの置換基は、ノルボルネン環に直接連結していてもよく、アルキレン基などで連結されていてもよく、更に置換されてもよい。また、1分子中に置換基が二つ以上ある場合は、それらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。極性基として好ましいものは、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、およびアリールオキシカルボニルアミノ基であり、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基およびアルコキシカルボニルアミノ基がさらに好ましく、アルコキシカルボニル基が特に好ましい。
【0020】
本発明で用いることができる飽和ノルボルネン樹脂としては、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開平2−133413号公報、特開昭63−145324号公報、特開昭63−264626号公報、特開平1−240517号公報、特公昭57−8815号公報などに記載されている樹脂などを挙げることができる。
これらの樹脂の中でも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体を水素添加して得られる水添重合体が特に好ましい。
これらの飽和ノルボルネン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃〜250℃であることが好ましく、より好ましくは110℃〜200℃であり、さらに好ましくは120℃〜180℃である。飽和吸水率は1質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.8質量%以下である。上記一般式(1)〜(4)で表わされる飽和ノルボルネン樹脂のガラス転移温度(Tg)および飽和吸水率は、R1〜R12の種類を選択することにより制御することができる。
【0021】
本発明では、飽和ノルボルネン樹脂として、下記一般式(5)で表わされる少なくとも1種のテトラシクロドデセン誘導体を単独で、あるいは、当該テトラシクロドデセン誘導体と、これと共重合体可能な不飽和環状化合物とをメタセシス重合して得られる重合体を水素添加して得られる水添重合体を用いることもできる。
【0022】
【化2】

【0023】
一般式(5)中、R13〜R16は、各々独立に水素原子または1価の置換基(好ましくは有機基)を示し、これらのうち少なくとも1つは極性基であることが好ましい。ここでいう置換基と極性基の具体例と好ましい範囲については、一般式(1)〜(4)について説明したのと同一である。
上記一般式(5)で表わされるテトラシクロドデセン誘導体において、R13〜R16のうち少なくとも1つが極性基であることにより、他の材料との密着性、耐熱性などに優れた偏光フィルムを得ることができる。さらに、この極性基が−(CH2 nCOOR(ここで、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、nは0〜10の整数を示す。)で表わされる基であることが、最終的に得られる水添重合体(偏光フィルムの基材)が高いガラス転移温度を有するものとなるので好ましい。特に、この−(CH2nCOORで表わされる極性置換基は、一般式(5)のテトラシクロドデセン誘導体の1分子あたりに1個含有されることが吸水率を低下させる点から好ましい。上記極性置換基において、Rで示される炭化水素基の炭素数が多くなるほど得られる水添重合体の吸湿性が小さくなる点では好ましいが、得られる水添重合体のガラス転移温度とのバランスの点から、当該炭化水素基は、炭素数1〜4の鎖状アルキル基または炭素数5以上の(多)環状アルキル基であることが好ましく、特にメチル基、エチル基、シクロヘキシル基であることが好ましい。
【0024】
さらに、−(CH2nCOORで表わされる基が結合した炭素原子に、炭素数1〜10の炭化水素基が置換基として結合されている一般式(5)のテトラシクロドデセン誘導体は、得られる水添重合体の吸湿性が低いものとなるので好ましい。特に、この置換基がメチル基またはエチル基である一般式(5)のテトラシクロドデセン誘導体は、その合成が容易な点で好ましい。具体的には、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エンが好ましい。これらのテトラシクロドデセン誘導体、およびこれと共重合可能な不飽和環状化合物の混合物は、例えば特開平4−77520号公報第4頁右上欄12行〜第6頁右下欄第6行に記載された方法によってメタセシス重合、水素添加することができる。
これらのノルボルネン系樹脂は、クロロホルム中、30℃で測定される固有粘度(ηinh)が、0.1〜1.5dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.4〜1.2dl/gである。また、水添重合体の水素添加率は、60MHz、1H−NMRで測定した値が50%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上である。水素添加率が高いほど、得られる飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、熱や光に対する安定性が優れたものとなる。該水添重合体中に含まれるゲル含有量は5質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0025】
(その他の開環重合可能なシクロオレフィン類)
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲内において、開環重合可能な他のシクロオレフィン類を併用することができる。このようなシクロオレフィンの具体例としては、例えば、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなどのごとき反応性の二重結合を1個有する化合物が例示される。これらの開環重合可能なシクロオレフィン類の含有量は、上記ノルボルネン系モノマーに対して0モル%〜50モル%であることが好ましく、0.1モル%〜30モル%であることがより好ましく、0.3モル%〜10モル%であることが特に好ましい。
【0026】
(フッ素原子を有する重合体)
次に、本発明の飽和ノルボルネン樹脂に含有されるフッ素原子を有する重合体について記述する。フッ素原子を有する重合体としては、例えば、特開2001−269564号公報に記載される重合体を挙げることができる。フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)を必須成分として含有してなる単量体を重合させて得られる重合体である。フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基を有する化合物であれば特に制限はない。好ましくはアクリルエステル基およびその類縁基を含有するものであり、具体的には一般式(FM−1)で表されるフッ素化(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、ここでいう(メタ)アクリレートは、メタクリレート、アクリレート、フルオロアクリレート、塩素化アクリレートを総称するものである。
【0027】
一般式(FM−1) CH2=C(R2)−COO−(X)n2−Rf
式中、Rfは炭素数1〜20のパ−フルオロアルキル基、または部分フッ素化アルキル基であり、Rfは直鎖状であっても分岐状であってもよく、また酸素原子および/または窒素原子を含む官能基を主鎖中に有するものであってもよい。R2は水素原子、フッ素化されていてもよいアルキル基、塩素原子またはフッ素原子を表し、Xは2価の連結基を表し、n2は1〜10の整数を表す。
【0028】
Rfのパ−フルオロアルキル基または部分フッ素化アルキル基の好ましい炭素数は1〜18であり、より好ましくは4〜18であり、さらに好ましくは6〜14であり、最も好ましくは6〜12である。部分フッ素化アルキル基は、その一部にパ−フルオロアルキル基を有するものが好ましく、そのパ−フルオロアルキル基の炭素数の好ましい範囲は上記と同じである。また、主鎖中に有していてもよい酸素原子を含む官能基としては、−SO2−、−C(=O)−、窒素原子を含む官能基としては、−NH−、−N(CH3)−、−N(C25)−、−N(C37)−などを挙げることができる。R2が採りうるフッ素化されていてもよいアルキル基は、無置換のアルキル基、パ−フルオロアルキル基、部分フッ素化アルキル基のいずれであってもよい。好ましいのは、無置換のアルキル基および部分フッ素化アルキル基である。無置換のアルキル基として好ましいのは、メチル基である。
【0029】
Xが採りうる2価の連結基として好ましいものは、−(CH2m−、−CH2CH(OH)−(CH2m−、−(CH2mN(R3)−SO2−、−(CH2mN(R3)−CO−、−CH(CH3)−、−CH(CH2CH3)−、−C(CH32−、−CH(CF3)−、−C(CH3)(CF3)−、−C(CF32−などである。mは1〜10の整数であり、1〜8が好ましく、1〜6がより好ましい。mが2以上であるとき、各Xが表す連結基は同一であっても異なっていてもよい。R3は水素または炭素数1〜6アルキル基である。また、一般式(6)で表される素材もフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A)として好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
一般式(6)において、kは1〜20の整数を表し、kはより好ましくは2〜18であり、さらに好ましくは4〜14であり、最も好ましくは6〜12である。
【0032】
以下に、好ましい単量体であるフッ素化アルキル基含有(メタ)アクリレ−トの具体例を挙げるが、本発明で用いることができるフッ素化アルキル基含有(メタ)アクリレ−トはこれらに限定されるものではない。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)は、1種類だけを用いても構わないし、2種類以上を組み合わせて用いても構わない。フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)におけるフッ素化アルキル基は、離型性(剥離性)の観点からは、その炭素数が6〜18であるものが好ましく、さらには6〜14であるものがより好ましく、6〜12であるものが特に好ましい。本発明において、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(単量体A)の重合体(I)中への導入量に特に制限はないが、10質量%以上重合せしめることが好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。
【0040】
さらに本発明においてはフッ素原子を有する重合体中に、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体(単量体B)を含有させることも可能である。ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体(単量体B)としては、1分子中にポリオキシアルキレン基とエチレン性不飽和基を有する化合物であれば特に制限はない。オキシアルキレン基としてはエチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基が好ましい。またその重合度は通常1〜100であり、5〜50が好ましい。エチレン性不飽和基としては、原料の入手性、各種コーティング組成物中の配合物に対する相溶性、そのような相溶性を制御することの容易性、或いは重合反応性の観点から(メタ)アクリルエステル基およびその類縁基を含有するものが適している。
【0041】
ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体(単量体B)の具体例としては、重合度1〜100の、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコール、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル(以後この表現はアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルの両方を総称するものとする。)、若しくは末端が炭素数1〜6のアルキル基によってキャップされた重合度1〜100の、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。また、市販品としては、新中村化学工業(株)社製NKエステルM−20G、M−40G、M−90G、M−230G、AM−90G、AMP−10G、AMP−20G、AMP−60G、日本油脂(株)社製ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350、PME−100、PME−200、PME−400、PME−4000、PP−1000、PP−500、PP−800、70PEP−350B、55PET−800、50POEP−800B、NKH−5050、AP−400、AE−350等が挙げられる。ポリオキシアルキレン基含有エチレン性不飽和単量体(単量体B)は、1種類だけを用いても構わないし、2種類以上を同時に用いても構わない。
【0042】
さらに、1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)を含有させることも可能である。1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)としては、特に制限はなく、目的とする配合物中のマトリックス樹脂、溶媒等の組成により適宜選択される。エチレン性不飽和基としては原料の入手性、各種コーティング組成物中の配合物に対する相溶性、そのような相溶性を制御することの容易性或いは重合反応性の観点から(メタ)アクリルエステル基およびその類縁基を含有するものが適している。
【0043】
1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)の具体例としては、重合度1〜100のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル、若しくは末端が炭素数1〜6のアルキル基によってキャップされた重合度1〜100のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびそのエチレンオキシド(EO)変性物、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびそのEO変性物、ビスフェノールAジアクリレートおよびそのEO変性物、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、ペンタエリストールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0044】
また、市販品としては、新中村化学工業(株)社製NKエステル1G、2G、3G、4G、9G、14G、23G、BG、HD、NPG、A−200、A−400、A−600、A−HD、A−NPG、APG−200、APG−400、APG−700、A−BPE−4、701A、日本油脂(株)製ブレンマーPDE−50、PDE−100、PDE−150、PDE−200、PDE−400、PDE−600、ADE−200、ADE−400等が挙げられる。
【0045】
本発明で用いることができる化合物は、上記具体例によって何ら制限されるものではない。1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)としては、各配合物に対する相溶性、重合反応制御性の点から、重合度1〜100のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル、若しくは末端が炭素数1〜6のアルキル基によってキャップされた重合度1〜100のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。1分子中に2個以上の不飽和結合を有するエチレン性不飽和単量体(単量体C)は、1種類だけを用いても構わないし、2種類以上を同時に用いても構わない。
【0046】
以上述べてきたような本発明に係わる重合体の重合組成には特に制限はないが、質量割合で(A)/(B)/(C)=10〜90/0〜40/0〜30の範囲にあることが好ましく、さらに好ましい範囲としては(A)/(B)/(C)=15〜70/5〜30/0〜10であり、特に好ましい範囲としては(A)/(B)/(C)=15〜65/5〜20/1〜7である。また、本発明で用いるフッ素原子を有する重合体には、単量体(A)、(B)、(C)以外にも、各種コーティング組成物中の配合物に対する相溶性、重合反応性、コスト等の点で、これら以外のエチレン性不飽和単量体(単量体D)を共重合成分として導入することが可能である。この様なエチレン性不飽和単量体(単量体D)としては、特に制限はなく公知公用の化合物であれば何れでも使用できる。
【0047】
具体的には、例えばスチレン、核置換スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ビニルスルホン酸、酢酸ビニル等の脂肪酸ビニル、またα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、即ちアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の一価ないし二価のカルボン酸、またα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の誘導体として、アルキル基の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、即ち(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、ステアリルエステル等、また(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のヒドロキシアルキルエステル、即ち2−ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシプロピルエステル、ヒドロキシブチルエステル等が挙げられる。
【0048】
また(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアミノアルキルエステル、即ちジメチルアミノエチルエステル、ジエチルアミノエチルエステル、ジエチルアミノプロピルエステル等、また(メタ)アクリル酸の、炭素数が3〜18のエーテル酸素含有アルキルエステル、例えばメトキシエチルエステル、エトキシエチルエステル、メトキシプロピルエステル、メチルカルビルエステル、エチルカルビルエステル、ブチルカルビルエステル等、さらに橋状結合含有モノマーとしては、例えばジシクロペンタニルオキシルエチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシルエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジメチルアダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等、またアルキル炭素数が1〜18のアルキルビニルエーテル、例えばメチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等、(メタ)アクリル酸のグリシジルエステル、即ちグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等、またサートマー社製スチレンマクロモノマー4500、東亜合成(株)社製AA−6、AN−6等の各種マクロモノマーが挙げられる。また、市販品として共栄社化学(株)社製HOA−MS、HOA−MPL、HOA−MPE、HOA−HH、東亞合成(株)社製アロニックス M−5300、M−5400、M−5500、M−5600、M−5700等が挙げられる。
【0049】
さらにγ−メタクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメチキシシラン等のシランカップング基含有単量体、そして分子中に極性基、とりわけアニオン性基や水酸基を含有するモノマーとして、アクリル酸、メタアクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、部分スルホン化スチレン、モノ(アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記エチレン性不飽和単量体(単量体D)は、1種類だけを用いても構わないし、2種類以上を同時に用いても構わない。
【0050】
単量体(単量体D)を導入する場合、その導入割合に特に制限はないが、重合体が配合される組成物中の配合物、目的とする物性のレベル、塗工方法等によって決定される。好ましい導入量は質量割合で、[(単量体A)+(単量体B)+(単量体C)]/(単量体D)=20〜100/0〜80の範囲内であり、さらに好ましい範囲としては[(単量体A)+(単量体B)+(単量体C)]/(単量体D)=50〜97/3〜50、特に好ましい範囲としては[(単量体A)+(単量体B)+(単量体C)]/(単量体D)=60〜95/5〜40である。
【0051】
本発明で用いるフッ素原子を有する重合体の製造方法には何ら制限はなく、公知公用の方法即ちラジカル重合法、カチオン重合法、アニオン重合法等の重合機構に基づき、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、さらに乳化重合法等によって製造できる。また、重合体の構造についても特に制限はなく、上記重合機構に基づいたランダム、交互、ブロック共重合体、各種リビング重合法或いは高分子反応を応用し分子量分布を制御したブロック、グラフト、スター型重合体等を自由に選択可能である。さらに、このような重合体を得た後に、各種高分子反応、放射線、電子線、紫外線等のエネルギー線を応用した方法等により重合体を変性することも可能である。これらの方法の中で、工業的にはラジカル重合法が簡便であり好ましい。この場合重合開始剤としては、当業界公知のものを使用することができ、例えば過酸化ベンゾイル、過酸化ジアシル等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、フェニルアゾトリフェニルメタン等のアゾ化合物、Mn(acac)3等の金属キレート化合物等が挙げられる。
【0052】
また、必要に応じてラウリルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、エチルチオグリコール酸、オクチルチオグリコ−ル酸等の連鎖移動剤や、さらにγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のカップリング基含有チオ−ル化合物を連鎖移動剤と併用することが可能である。また、光増感剤や光開始剤の存在下での光重合、あるいは放射線や熱をエネルギー源とする重合によってもフッ素系重合体を得ることができる。重合は、溶剤の存在下または非存在下のいずれでも実施できるが、作業性の点から溶剤存在下の場合の方が好ましい。
【0053】
溶剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−オキシプロピオン酸ブチル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸ブチル等のモノカルボン酸エステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の極性溶剤、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、エチルセロソルブアセテート等のエーテル類、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコ−ルモノエチルエ−テルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコ−ル類およびそのエステル類、1,1,1−トリクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類、さらにパ−フルオロオクタン、パーフルオロトリ−n−ブチルアミン等のフッ素化イナートリキッド類のいずれも使用できる。
【0054】
本発明における上記フッ素原子を有する重合体の使用量は、飽和ノルボルネン樹脂の固形分に対して0.01〜5質量%であるが、好ましくは0.02〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。特に好ましくは0.05〜1質量%である。
以下に本発明で好ましく用いられるフッ素原子を有する重合体の具体例を表わすが、本発明で用いることができるフッ素原子を有する重合体はこれらに限定されるものではない。
【0055】
PF−1 :A−9/ブチルアクリレート=30/70(モル比、分子量3000)
PF−2 :A−9/2−エチルヘキシルアクリレート=25/75(モル比、分子量5000)
PF−3 :A−8/ブチルアクリレート=20/80(モル比、分子量8000)
PF−4 :A−8/ブチルメクリレート=15/85(モル比、分子量5000)
PF−5 :A−2/ブチルアクリレート=25/75(モル比、分子量8000)
PF−6 :A−2/ブチルメクリレート=20/70(モル比、分子量5000)
PF−7 :A−9/ブチルアクリレート=25/75(モル比、分子量5000)
PF−8 :A−9/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/ブチルアクリレート=30/20/50(モル比、分子量9000)
PF−9 :A−1/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/メチルアクリレート/トリエチレングリコール ジメタクリレート=30/20/30/15/5(モル比、分子量3000)
【0056】
PF−10 :A−8/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンアクリレート/2−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/テトラエチレングリコール ジメタクリレート=30/25/25/15/5(モル比、分子量3500)
PF−11 :A−12/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/テトラエチレングリコール ジメタクリレート=30/25/25/5/5(モル比、分子量6000)
PF−12 :A−34/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート=30/25/25/20(モル比、分子量6000)
PF−13 :A−47/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート=25/25/30/20(モル比、分子量8000)
PF−14 :A−34/ポリ(平均重合度5)オキシエチレンメタクリレート/2−ヘキシルアクリレート/スチレン=30/25/35/10(モル比、分子量9000)
【0057】
(添加剤)
次に、本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、微粒子を含有することが好ましい。その他、必要に応じてさらに種々の添加剤を溶融ペレット化の調製前から調製後のいずれの段階で添加してもよい。本発明の微粒子以外の添加剤としては、紫外線吸収剤、カルシウム、マグネシウムなど2族金属の塩などの(熱)安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などが挙げられる。
【0058】
(微粒子)
まず、本発明における飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、平均一次粒子サイズが0.005〜2μmである微粒子を飽和ノルボルネン樹脂に対して、0 .005〜2 .0質量%含有することが好ましい。該微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。
【0059】
無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましくは、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25であり、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2である。SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。
【0060】
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂も好ましく用いられる。シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。本発明に係る微粒子の平均一次粒子サイズとしては、ヘイズを低く抑えるという観点から平均一次粒子サイズ0.005〜2μmであることが好ましく、さらに好ましくは平均一次粒子サイズが0.005〜0.5μmであり、特に好ましくは平均一次粒子サイズが0.005〜0.1μmである。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズの測定は、飽和ノルボルネン樹脂フィルムを透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察し、その平均値をもって平均一次粒子サイズとした。
【0061】
これら微粒子の添加は、常法によって混練するなどの方法により行なうことができるが、特に好ましくは予め溶媒に分散した微粒子と飽和ノルボルネン樹脂を混合分散させた後、溶媒を揮発させた固形物とし、得られた飽和ノルボルネン樹脂混合物の溶融物を製造過程で用いることが均一な溶融物が得られる点で好ましい。なお、フィルム中に均一に分散する微粒子とするためには、混練機中やあるいは製膜時のダイ(好ましくはT−ダイ)中でのシェアにより、粉体から微粒子化され微細分散化される工程を含むことが好ましい。なお、微粒子と共に場合によりその他の機能性素材(例えば可塑剤および/または紫外線吸収剤)を同時に溶媒に溶解して分散し、混合して使用してもよい。この時、最終的に飽和ノルボルネン樹脂フィルム中での微粒子の平均二次粒子サイズは0.01〜5μmが好ましく、さらには平均二次粒子サイズが0.02〜3μmであり、特には平均二次粒子サイズが0.02〜1μmが好ましい。ここで、微粒子の平均二次粒子サイズの測定は、飽和ノルボルネン樹脂フィルムを透過型電子顕微鏡(倍率10万〜100万倍)で粒子の観察を行い、粒子100個を観察しその平均値をもって平均二次粒子サイズとした。
【0062】
さらに、本発明において無機化合物からなる微粒子(無機微粒子)を用いる場合は、飽和ノルボルネン樹脂フィルム中で安定に存在させるために無機微粒子を表面処理することが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施して用いることも好ましい。表面処理法として、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、カップリング剤の使用が好ましい。カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。無機微粒子(特にSiO2)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。シランカップリング剤としては一般式(11)で表されるオルガノシラン化合物が使用可能である。カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して0.005〜5質量%で使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%が好ましい。
【0063】
一般式(11) RxSi(OR')(4-x)
(式中、RおよびR'は、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、アリル基、フルオロアルキル基を表す。なお、アルキル基は、官能基として、エポキシ基、アミノ基、アクリル基、イソシアネート基、および/またはメルカプト基を有していてもよい。xは0〜3の整数、好ましくは0〜2の整数である。)
【0064】
一般式(11)で表されるオルガノシランの具体例として下記のものを挙げることができるが、本発明で用いることができるオルガノシランはこれらの例示に限定されるものではない。x=0の具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等が挙げられる。x=1の具体例として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、CF3CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。x=2の具体例として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。また硬化膜の硬さおよび脆性の調節や官能基導入の目的で、異なる2種以上のオルガノシランを組み合わせて用いることもできる。
【0065】
カップリング剤は、微粒子への直接処理方法とインテグラルブレンド法によって処理される。直接法では乾式法とスラリー法スプレー法に大きく分類される。直接処理方法で得られた微粒子はバインダー中に添加され微粒子の表面に確実にカップリング剤が修飾できる点で優れている。その中で乾式法は微粒子にシランカップリング剤のアルコール水溶液、有機溶剤または水溶液中で均一に分散させた後乾燥して実施するものであり一般的である。ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レデイミキサー、V型ブレンダー、オープンニーダー等の攪拌機を使用するのが好ましい。これらの攪拌機の中でも特にオープンニーダーが好ましい。微粒子と少量の水、または水を含有する有機溶剤そしてカップリング剤を混合しオープンニーダーで攪拌して水を除去した後、さらに微細分散するのが好ましい。
【0066】
また、スラリー法は微粒子の製造において微粒子をスラリー化する工程がある場合にそのスラリー中にカップリング剤を添加するものであり、製造工程で処理できる利点を有する。スプレー法は微粒子の乾燥工程において微粒子にカップリング剤を添加するものであり、製造工程で処理できる利点を有するが処理の均一性に難点がある。インテグラルブレンド法について述べると、カップリング剤を微粒子とバインダー中に添加する方法であり、良く混練する必要があり簡便である。本発明において微粒子は、飽和ノルボルネン樹脂に対して0.005〜2.0質量%含有させることが好ましい。より好ましくは0.005〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.8質量%であり、特に好ましくは0.02〜1 .0質量%である。
【0067】
(飽和ノルボルネン樹脂へのその他の添加剤)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムには、各調製工程において用途に応じた微粒子以外の種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、光学特性調整剤など)を加えることができる。またその添加する時期は溶融物(ドープ)作製工程の何れの段階で添加してもよいし、ドープ調製工程の最後に添加剤を添加する工程を追加して行ってもよい。
【0068】
(可塑剤)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムに好ましく添加される可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートが含まれる。
【0069】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチルが含まれる。
【0070】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどがある。さらにトリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ジトリメチロールプロパンテトラプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート、イノシトールペンタアセテート、ソルビタンテトラブチレート等も好ましく利用される。
【0071】
中でもトリフェニルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート、トリアセチン、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネート等が好ましい。
【0072】
特にトリフェニルフォスフェート、ジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、ジトリメチロールプロパンテトラアセテート、ソルビトールヘキサアセテート、ソルビトールヘキサプロピオネート、ソルビトールトリアセテートトリプロピオネートが好ましい。これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量は飽和ノルボルネン樹脂に対して2〜30質量%、特に3〜16質量%が好ましい。可塑剤としては、特開平11−124445号公報記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号公報記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号公報記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号公報記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号公報記載の置換フェニルリン酸エステル類なども挙げることができる。
【0073】
(紫外線吸収剤)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムには、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、飽和ノルボルネン樹脂に対する不要な着色が少ないことから、好ましい。
【0074】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどを挙げることができる。
【0075】
特に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が最も好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどのリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、飽和ノルボルネン樹脂に対して質量割合で1ppm〜3.0%が好ましく、10ppm〜2%がさらに好ましい。
【0076】
これらの紫外線吸収剤の市販品として下記のものがあり、本発明において利用することができる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)、スミソーブ340(住友化学)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成)、シーソーブ101(シプロ化成)、シーソーブ101S(シプロ化成)、シーソーブ102(シプロ化成)、シーソーブ103(シプロ化成)、アデカスタイプLA-51(旭電化)、ケミソープ111(ケミプロ化成)、UVINUL D-49(BASF)などが挙げられる。オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)がある。またサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成)やシーソーブ202(シプロ化成)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成)、UVINUL N-539(BASF)がある。
【0077】
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムには、また光学異方性をコントロールするためのレターデーション調整剤が、場合により添加される。これらは、飽和ノルボルネン樹脂フィルムのレターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、飽和ノルボルネン樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、飽和ノルボルネン樹脂100質量部に対して、0.05〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
【0078】
(安定剤)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムには、安定剤を含有させることも好ましく、フェノール系安定剤、リン系(フォスファイト系)安定剤、チオエーテル系安定剤、スズ系安定剤およびアミン系安定剤よりなる群から選択される1種類以上の安定剤を挙げることができる。本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、リン系安定剤の具体例としては、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることができる。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を用いることができる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0079】
上記フェノール系安定剤としては、公知の任意のフェノール系安定剤が使用され得る。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系安定剤の例としては、例えば、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリジアン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス〔メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシ ンナメート)〕メタン、および3,9−ビス{2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニール)プロピオネート]メタン、n-オクタデシル−3−(4’−ヒドロオキシ−3’,5’−ジーt−ブチル−フェニール)プロピオネート、トリス−3,5−ジーt−ブチルー4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル 3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニール)プロピオニルオキシメチル]メタン、トリス[N−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ブチリデン−1,1−ビス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)、トリエチレングリコール ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]が挙げられる。高分子量多環ヒンダードフェノール系酸化防止剤がより好ましい。さらに好ましくは、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンである。
【0080】
これらは、住友化学からスミライザーBHT、スミライザーBP−76、スミライザーBBM−S、スミライザーGA−80として、またチバ・スペシャルティ・ケミカルズからIrganox 1076、Irganox 1000、Irganox 3114、Irganox 245として市販されている。
【0081】
上記リン系安定剤としては、従来公知の任意のリン系安定剤を本発明に用いることができる。好ましいリン系安定剤の例としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ジステアリル・ペンタエリスリトール ジフォスファイト、トリオクタデシル フォスファイト、トリノニルフェニル フォスファイト、トリフェニル フォスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ・10−フォスファ・フェナンスレン−10−オキサイド、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4‘ビフェニレンジフォスファイトが挙げられる。亜リン酸エステル系酸化防止剤がより好ましい。さらに好ましくは、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトである。これらは、旭電化からアデカタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P-EPQとして市販されており入手可能である。
【0082】
チオエーテル系安定剤としては、公知の任意のチオエーテル系安定剤を本発明に用いることができる。好ましいチオエーテル系安定剤の例としては、テトラキス〔メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート〕メタン、3,3‘−チオジプロピオン酸、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネートが挙げられる。これらは、住友化学からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。スズ系安定剤としては、公知の任意のスズ系安定剤が本発明に用いられ得る。好ましいスズ系安定剤の例としては、オクチル錫マレエートポリマー、モノステアリル錫トリス(イソオクチルチオグリコレート)、ジブチル錫ジラウレートが挙げられる。
【0083】
また、アミン系安定剤としては、公知の任意のアミン系安定剤を本発明に用いることができる。好ましいアミン系安定剤の例としては、2,2'−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラート、フェニル−β−ナフチルアミン、N,N‘−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−N‘−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N‘−シクロヘキシル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N‘−フェニル−p−フェニレンジアミン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペラジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケイト、ビス[(1,2,2,6,6、−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチル マロネート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン-テトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタン-テトラカルボキシレート等が挙げられる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャルティ・ケミカルズからTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0084】
さらに、本発明に用いられる安定剤は、高分子量多環ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、リン酸エステル系酸化防止剤の組み合わせが好ましい。さらに好ましくは、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンと、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイトとの組み合わせである。本発明における(C)安定剤の添加量は、飽和ノルボルネン樹脂を基準として、0.01〜3質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.03〜2質量%である。さらに好ましくは、0.05〜1.5質量%である。安定剤の添加量が0.01質量%以上であれば、安定剤の効果が得られやすく着色も抑えやすい。また、安定剤の添加量が3質量%以下であれば、良好な面状が得られやすい。
【0085】
《飽和ノルボルネン樹脂フィルムの性状》
(ReとRth)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムは、光学用途に用いる場合、面内のレターデーション(Re)が0nm〜500nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が−300nm〜700nmであることが好ましい。本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムのReは、より好ましくは0nm〜300nm、さらに好ましくは20nm〜200nm、特に好ましくは40nm〜150nmである。さらにRthは、より好ましくは30nm〜500nm、さらに好ましくは50nm〜400nm、特に好ましくは100nm〜300nmである。さらに、Re≦Rthを満足するものがより好ましく、Re×2≦Rthを満足するものがさらに好ましい。
また、Reの遅相軸方向および遅相軸と直交する方向の変動はいずれも5%以下であることが好ましく、Rthの遅相軸方向および遅相軸と直交する方向の変動もいずれも5%以下であることが好ましい。
【0086】
本明細書において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値等の計3つ以上の方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。
【0087】
これらの測定は、実際にはフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差を測定し、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出させた。特に断らない場合ReおよびRthは、この値をさす。
【0088】
(厚み)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの厚さは、10〜300μmが好ましく、より好ましくは20〜250μm、さらに好ましくは30〜200μmであり、厚み分布は、平均値に対して±8%以内が好ましく、より好ましくは±5%以内、さらに好ましくは±3%以内である。また、1cmあたりの厚みの変動は、通常は5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0089】
(残留溶剤量)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの残留溶剤量は0.01質量%以下(0質量%〜0.01質量%)である。残留溶剤量は、好ましくは0質量%〜0.005質量%、さらに好ましくは0質量%〜0.001質量%である。
ここでいう残留溶剤とは、一般的な有機溶剤であれば特にその種類は限定されるものではない。例えば、炭素数1〜10のハロゲン系有機溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなど)、炭素原子数が3〜12のエステル類(例えば、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、および酢酸ペンチルなど)、炭素原子数が3〜12のケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンなど)、炭素原子数が3〜12のエーテル類(例えば、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールなど)、二種類以上の官能基を有する有機溶媒(例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールなど)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなど)、飽和又は不飽和の炭化水素(例えば、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなど)を挙げることができる。
【0090】
<飽和ノルボルネン樹脂フィルムの製造方法>
《特徴》
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの製造方法は、飽和ノルボルネン樹脂と該飽和ノルボルネン樹脂の固形分に対して0.01〜5質量%のフッ素原子を有する重合体の混合物を溶融製膜する工程を含むことを特徴とする。
【0091】
《溶融製膜》
(1)溶融
上記飽和ノルボルネン樹脂と添加物は溶融製膜に先立ち混合しペレット化するのが好ましい。ペレット化することによって、溶融押し出し機のホッパーでのサージングを抑制し、安定供給が可能となる。好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmであり、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。
この飽和ノルボルネン樹脂のペレットを溶融押出し機に入れ、100℃〜200℃で1分〜10時間脱水した後、混練押出しする。混練は1軸あるいは2軸の押出し機を使用して行うことができる。
【0092】
この飽和ノルボルネン樹脂は押出機の供給口を介してシリンダー内に供給される。図1は、本発明で用いることができる典型的な押出機22の概略図を示したものである。シリンダー32内は供給口40側から順に、供給口から供給した飽和ノルボルネン樹脂を定量輸送する供給部(領域A)と、飽和ノルボルネン樹脂を溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と、溶融混練・圧縮された飽和ノルボルネン樹脂を計量する計量部(領域C)とで構成される。残存する酸素による溶融樹脂の酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は好ましくは2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜70に設定されている。ここでスクリュー圧縮比とは供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち供給部Aの単位長さあたりの容積÷計量部Cの単位長さあたりの容積で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、および計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとはシリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。また、押出温度は好ましくは240〜320℃、より好ましくは250〜310℃、さらに好ましくは260℃〜300℃に設定される。
【0093】
押し出し機の種類として、一般的には設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、フルフライトタイプが好ましい。また、設備コストは効果であるが、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて不要な揮発成分を脱揮させながら押出ができる二軸押出機を用いることが可能である、二軸押し出し機には大きく分類して同方向と異方向のタイプがありどちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプが好ましい。二軸押出機は設備が効果であるが、混練性が高く、樹脂の供給性能が高いため、低温での押出が可能となるため、飽和ノルボルネン樹脂の製膜に適している。ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態での飽和ノルボルネンペレットやパウダーをそのまま使用することも可能である。又、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することもできる。
なお、好ましいスクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によって異なるが、10mm〜300mm、より好ましくは20mm〜250mm、さらに好ましくは30mm〜150mmである。
【0094】
(2)濾過
樹脂中の異物濾過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるために、押し出し機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。またさらに精度高く異物濾過をするために、ギアポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、濾過部を1カ所設けて行うことができ、また複数カ所設けて行う多段濾過でも良い。フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は15μmm〜3μmmが好ましく、さらに好ましくは10μmm〜3μmmである。特に最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合では品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧,フィルターライフの適性を確保するために装填枚数にて調整することが可能である。濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0095】
(3)ギアポンプ
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量の飽和ノルボルネン樹脂を供給することは効果がある。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の樹脂圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。また、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。
【0096】
ギアポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・樹脂温上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dを短縮が期待できる。また、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、ろ圧の上昇と共に、スクリューから供給される樹脂量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。一方、ギアポンプのデメリットとしては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり、注意が必要である。
樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、さらに好ましくは4分〜30分である。
【0097】
ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量および送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生するため、飽和ノルボルネン樹脂の溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、ギアポンプの滞留部分が飽和ノルボルネン樹脂の劣化の原因となるため、滞留のできるだけ少ない構造が好ましい。押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、できるだけ滞留の少ない設計が必要であり、押出圧力安定化のためには、温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。一般的には、ポリマー管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。
【0098】
(4)ダイ
上記の如く構成された押出機によって飽和ノルボルネン樹脂が溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂がダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また、ダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。ダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍が良く、好ましくは1.2〜3倍、さらに好ましくは1.3〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍以上であれば、製膜により面状の良好なシートを得やすいため好ましい。また、リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍以下であれば、シートの厚み精度を高くしやすいため好ましい。ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整が厳密にコントロールできるものが好ましい。通常厚み調整は40〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、さらに好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラのできるだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。
フィルムの製造は設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては機能層を外層に設けために多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0099】
(5)キャスト
上記方法にて、ダイよりシート上に押し出された溶融樹脂をキャスティングドラム上で冷却固化し、フィルムを得る。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。特にエッジピニングと呼ばれる、フィルムの両端部にのみを密着させる方法が取られることも多いが、これに限定されるものではない。
キャスティングドラムは複数本用いて徐冷することがより好ましい、特に一般的には3本の冷却ロールを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。ロールの直径は50mm〜5000mmが好ましく、より好ましくは、100mm〜2000mm、さらに好ましくは150mm〜1000mmである。複数本あるロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、より好ましくは、1mm〜100mm、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
溶融温度は好ましくは200〜320℃、より好ましくは230〜310℃、さらに好ましくは250〜300℃にし、キャスティングドラムの温度は好ましくは80〜170℃、より好ましくは90℃〜160℃、さらに好ましくは100℃〜150℃で流延する。
この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。
【0100】
製膜幅は好ましくは0.7m〜5m、さらに好ましくは1m〜4m、さらに好ましくは1.3m〜3mである。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm〜400μmが好ましく、より好ましくは40μm〜300μm、さらに好ましくは50μm〜200μmである。
製膜した飽和ノルボルネン樹脂フィルムの厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%であり、これらを上述の方法で延伸することにより、本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを得ることができる。
また、いわゆるタッチロール法を用いる場合、タッチロール表面は、ゴム、テフロン(登録商標)等の樹脂でもよく、金属ロールでも良い。さらに、金属ロールの厚みを薄くすることでタッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなりフレキシブルロールと呼ばれる様なロールを用いることも可能である。
タッチロール温度は60℃〜160℃が好ましく、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜140℃である。
【0101】
(6)巻き取り
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等の何れのタイプの物を用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼何れを用いても構わない。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。
また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/幅、より好ましくは2kg/m幅〜40kg/幅、さらに好ましくは3kg/m幅〜20kg/幅である。巻き取り張力が1kg/m幅以上であれば、フィルムを均一に巻き取りやすいため好ましい。また、巻き取り張力が50kg/幅以下であれば、フィルムが堅巻きになることがなく、巻き外観が美しく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びてフィルムの波うちの原因になったりフィルムの伸びによる残留複屈折が生じるようなこともない。巻き取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻き取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には熱膨張により、フィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
巻き取り張力はテンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。
【0102】
《延伸》
溶融製膜で得られたフィルムは、延伸することができる。延伸する場合は、高温で延伸することが好ましい。流延方向の延伸(縦延伸)は、通常は2対以上のニップロールの間で搬送速度を変えることで行うことが多く、一般的には、狭いロール間隔で(即ち飽和ノルボルネン樹脂フィルムの幅(W)に比べ延伸に用いるニップロール間隔(L)が小さく縦横比(L/W)が小さい)、飽和ノルボルネン樹脂フィルムのみならずニップロールも高温にして延伸する。これは短時間で急速に延伸するために、ニップロールからも飽和ノルボルネン樹脂フィルムを急速に加熱するためであり、ニップロールは予熱ロールとしても作用させている。
【0103】
このような延伸により、飽和ノルボルネン樹脂フィルムにRe、Rthを発現させることができるが、ReとRthの関係はRe≦Rthを満足するものがより好ましく、Re×2≦Rthを満足するものがさらに好ましい。このような高Rth、低Reを実現するためには、上述のように縦延伸したものを、横(幅)方向に延伸するのが好ましい。即ち、縦方向と横方向の配向の差が面内のレターデーションの差(Re)となるが、縦方向に加えその直交方向である横方向にも延伸することで、縦横の配向の差を小さくし面配向(Re)を小さくすることができる。一方、縦に加え横にも延伸することで面積倍率は増加するため、厚みは減少する。これに伴い厚み方向の配向は増加し、Rthを増加させることができる。横方向の延伸には、両端をチャックで把持しテンターで拡幅する方法が一般的に用いられている。このような横延伸の倍率は1倍を越え2.5倍以下が好ましく、より好ましくは1.05倍〜2.2倍、さらに好ましくは1.1倍〜2倍である。なおここでいう延伸倍率は以下の式によって求めた値である。
延伸倍率(倍)=(延伸後の長さ)/(延伸前の長さ)
好ましい延伸温度はTg〜(Tg+100℃)、より好ましくは(Tg+2℃)〜(Tg+50℃)、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg−30℃)である。本発明では、延伸により適度なRe、Rthを発現する性質を有する飽和ノルボルネン樹脂フィルムに対して延伸を行うため、延伸ムラが発現しにくく所望のReとRthを実現しやすい。
【0104】
<飽和ノルボルネン樹脂フィルムの加工および使用>
このようにして得た飽和ノルボルネン樹脂フィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板とを組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用しても良い。これらは以下の工程により達成できる。
【0105】
《表面処理》
飽和ノルボルネン樹脂フィルムは表面処理を行うことによって、各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上させることができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。
これらの中でも特に好ましくは、グロー放電処理、コロナ処理、火炎処理である。
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設しても良い。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0106】
《機能層の付与》
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。以下にこれらの好ましい態様について、順に説明する。
【0107】
(イ)偏光膜の付与(偏光板の作成)
(イー1)使用素材
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ基、アミノ基、ヒドロキシル基)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0108】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0109】
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板の厚み(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合しても良く、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与しても良い。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0110】
(イー2)偏光膜の延伸
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなっても良い(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。
【0111】
a)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は好ましくは1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、好ましくは15〜50℃、より好ましくは17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は好ましくは1.2〜3.5倍、より好ましくは1.5〜3.0倍である。この後、50℃〜90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0112】
b)斜め延伸法
これには特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%〜100%、より好ましくは10%〜100%である。
延伸時の温度は40℃〜90℃が好ましく、より好ましくは50℃〜80℃である。相対湿度は50%〜100%が好ましく、より好ましくは70%〜100%、さらに好ましくは80%〜100%である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。
延伸の終了後、好ましくは50℃〜100℃、より好ましくは60℃〜90℃で、好ましくは0.5分〜10分乾燥する。乾燥時間は、より好ましくは1分〜5分である。
このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10度〜80度が好ましく、より好ましくは30度〜60度であり、さらに好ましくは実質的に45度(40度〜50度)である。
【0113】
(イー3)貼り合せ
上記表面処理後の飽和ノルボルネン樹脂フィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、飽和ノルボルネン樹脂フィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45度になるように行うのが好ましい。
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液、エポキシ系接着剤等が挙げられ、中でもPVA系樹脂、エポキシ系接着剤が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後で0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作成することができる。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。
【0114】
(ロ)光学補償層の付与(光学補償シートの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、飽和ノルボルネン樹脂フィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0115】
(ロー1)配向膜
上記表面処理した飽和ノルボルネン樹脂フィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0116】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができし、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0117】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
【0118】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0119】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。が発生することがある。
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行って良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方性層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0120】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
配向膜は、透明支持体上または上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0121】
工業的に実施する場合、搬送している偏光膜のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましく、45°が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0122】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0123】
(ロー2)棒状液晶性分子
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0124】
(ロー3)円盤状液晶性分子
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0125】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]記載の化合物等が挙げられる。
【0126】
光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0127】
(ロー4)光学異方性層の他の組成物
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0128】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0129】
(ロー5)光学異方性層の形成
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0130】
(ロー6)液晶性分子の配向状態の固定
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2,367,661号、同2,367,670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2,448,828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2,722,512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3,046,127号、同2,951,758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3,549,367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4,239,850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4,212,970号明細書記載)が含まれる。
【0131】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0132】
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0133】
(ロー7)液晶表示装置
このような光学補償フィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。
【0134】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0135】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensated Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0136】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0137】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号、特開2004−12731号、特開2004−215620号、特開2002−221726号、特開2002−55341号、特開2003−195333号各公報に記載のものなどを使用できる。
【0138】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードの液晶表示装置に対しては、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0139】
(ハ)反射防止層の付与(反射防止フィルム)
反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体上に設けて成る。
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フィルムも挙げられる。
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムは上記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0140】
(ハー1)塗布型反射防止フィルムの層構成
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。さらには、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなってもよい。
例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0141】
(ハー2)高屈折率層および中屈折率層
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成る。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(特開2001−166104号公報等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1号明細書、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0142】
さらに、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物およびその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0143】
(ハー3)低屈折率層
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001-40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報、特開2003−26732号公報の段落番号[0012]〜[0077]、特開2004−45462号公報の段落番号[0030]〜[0047]等に記載の化合物が挙げられる。
【0144】
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−1あ57582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0145】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0146】
(ハー4)ハードコート層
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。 硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものが挙げられる。
【0147】
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0148】
(ハー5)前方散乱層
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0149】
(ハー6)その他の層
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0150】
(ハー7)塗布方法
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0151】
(ハー8)アンチグレア機能
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を、塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【実施例】
【0152】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0153】
(実施例1)
1−1)飽和ノルボルネン樹脂
(1)飽和ノルボル樹脂−AA(樹脂−AA)
6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレンに、重合触媒としてトリエチルアルミニウムの15%シクロヘキサン溶液10質量部、トリエチルアミン5質量部、および四塩化チタンの20%シクロヘキサン溶液10質量部を添加して、シクロヘキサン中で開環重合し、得られた開環重合体をニッケル触媒で水素添加してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイソプロピルアルコール中で凝固させ、乾燥し、粉末状の樹脂−AAを得た。この樹脂の数平均分子量は40,000、水素添加率は99.8%以上、Tgは139℃であった。Tgは、DSCの測定パンに試料を20mg入れ、これを窒素気流中で10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却し、さらに再度30℃から250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとすることにより求めた(以下同じ)。
【0154】
(2)飽和ノルボル樹脂−BB(樹脂−BB)
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12.5,17.10]−3−ドデセン(特定単量体B)100質量部と、5−(4−ビフェニルカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(特定単量体A)150質量部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18質量部と、トルエン750質量部とを窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウム(1.5モル/l)のトルエン溶液0.62質量部と、t−ブタノールおよびメタノールで変性した六塩化タングステン(t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7質量部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であり、得られた開環重合体について、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh)は0.65dl/gであった。
【0155】
このようにして得られた開環重合体溶液4,000質量部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C6 5 330.48質量部を添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(特定の環状ポリオレフィン系樹脂)を得た(樹脂−BB)。このようにして得られた水素添加重合体について400MHz、1H−NMRを用いてオレフィン性不飽和結合の水素添加率を測定したところ99.9%であった。このTgは110℃であり、GPC法(溶媒:テトラヒドロフラン)によりポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および質量平均分子量(Mw)を測定したところ、数平均分子量(Mn)は39,000、質量平均分子量(Mw)は126,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.23であった。
【0156】
1−2)溶融製膜
(1)ペレット化
上記飽和ノルボルネン樹脂−AAまたは飽和ノルボルネン樹脂−BBを100℃、6時間乾燥し、含水率を0.07質量%にした後に、一次平均粒子サイズ20nmのシリカ微粒子を0.05質量%、可塑剤ビフェニルジフェニルフォスフェートを2質量%、UV剤a{2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン}を0.5質量%、UV剤b{2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール}を0.2質量%、およびUV剤c{2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール}を0.25質量%添加し、また安定剤として、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト0.25質量%、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]〕0.25質量%、およびビス[(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート0.25質量%を添加した。さらに、フッ素原子を有する重合体を表1に従って添加した(上記の各素材の添加量は、飽和ノルボルネン樹脂固形分に対する質量%を示す)。
【0157】
(2)溶融製膜
上記飽和ノルボルネン樹脂−AAまたは飽和ノルボルネン樹脂−BBを、直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットに成形した。これを110℃の真空乾燥機で乾燥し、含水率を0.1%以下とした後、飽和ノルボルネン樹脂のTgより10℃低い温度になるように調整したホッパーに投入した。次に溶融粘度が5000Pa・sとなるように260℃(この時、溶融粘度は5000Pa・s以下であった)に加熱し、さらに5分間かけて1軸混練機を用い溶融した後、溶融温度より10℃高く設定したT−ダイから(Tg−5℃)に設定したキャスティングドラム上に流延し、固化してフィルムとした。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0158】
この時、T−ダイとキャスティングドラム間距離8cm、固化速度30℃/秒、キャスティングドラム温度は第一ロール(上流)(Tg−10℃)で第ニロール(上流)(Tg−11℃)でかつ第三ロール(上流)(Tg−12℃)であり、冷却速度は−15℃/秒であった。そして10分間かけてメルトを溶融押出しした。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、ニップロールを介して、巻き取り張力6kg/cm2で巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、巻き取った。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で500m巻き取った。フィルムの膜厚は80μmを目標として作製した。
【0159】
1−3)評価
(1)評価方法
このようにして得た各飽和ノルボルネン樹脂フィルムに対する測定方法と評価方法ついて以下に記載する。
(ダイスジ)
ダイスジの評価は、流延方向に見られるスジ状のムラを、反射光源のもとで目視観察し、以下に従って実施した。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: ダイスジがはっきりと認められた。
D: ダイスジが全面に著しく認められた。
【0160】
(ダンムラ)
ダンムラの評価は、幅方向に見られる段状のムラを、反射光源のもとで目視観察し、以下に従って実施した。
A: ダンムラは見られなかった。
B: ダンムラが微かに見られた。
C: ダンムラがはっきりと認められた。
D: ダンムラが全面に著しく認められた。
【0161】
(ReおよびRth)
飽和ノルボルネン樹脂フィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、フィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差を測定することにより、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出させた。特に断らない場合ReおよびRthは、この値をさす。
【0162】
(Reムラ、Rthムラ)
MD方向サンプリングは、長手方向に1m間隔で100点、1cm四方の大きさにサンプリングした。また、TD方向サンプリングは製膜全幅にわたり、1cm四方の大きさに5cm等間隔でサンプルングした。それぞれ得られたサンプルの各最大値と最小値の差を求め、Reムラ、Rthムラとした。
(厚みムラ)
MD方向サンプリングは、長手方向に1m間隔で100点、1cm四方の大きさにサンプリングした。また、TD方向サンプリングは製膜全幅にわたり、1cm四方の大きさに5cm等間隔でサンプルングした。それぞれ得られたサンプルの厚みを測定し、厚みの最大値と最小値の差を求めて評価した。
【0163】
(Re湿度依存性およびRth湿度依存性)
さらにこれらの試料を、25℃/相対湿度10%でRe(10%RH)、Rth(10%RH)を求めた。さらにこれらの試料を25℃・相対湿度80%で同様に測定し、Re(80%RH)、Rth(80%RH)を求めた。各試料について、そのReとRthの差を求めてRe湿度依存性およびRth湿度依存性を評価した。
【0164】
(ロール汚れ)
T−ダイから押出しする際に最初のロールのフィルム端部のロール表面の汚れ程度を、反射光源のもとで目視観察し、以下に従って実施した。
A: 汚れは見られなかった。
B: 汚れが微かに見られた。
C: 汚れがはっきりと認められた。
D: 汚れが全面に著しく認められた。
【0165】
(ヘイズ)
試料40mm×80mmを、25℃・相対湿度60%でヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いてJIS K−6714に従って測定した。
【0166】
(透明度)
試料20mm×70mmについて、25℃・相対湿度60%で透明度測定器(AKA光電管比色計、KOTAKI製作所)を用いて可視光(615nm)の透明度を測定した。
【0167】
(分子配向軸)
試料70mm×100mmを、25℃・相対湿度65%で2時間調湿し、自動複屈折計(KOBRA21DH、王子計測(株))を用いて垂直入射における入射角を変化させた時の位相差を測定して分子配向軸を算出した。
【0168】
(軸ズレ)
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて、試料70mm×100mmの軸ズレ角度を測定した。幅方向に全幅にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(軸ズレ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとったものである。
【0169】
(キシミ)
試料100mm×200mmおよび75mm×100mmを、23℃・相対湿度65%で2時間調湿し、テンシロン引張試験機(RTA−100,オリエンテック(株))を用いて、大きいフィルムを台の上に固定し、200gのおもりをつけた小さいフィルムを載せた。おもりを水平方向に引っ張り、動き出した時の力、動いているときの力を測定し、次式に従い静摩擦係数を算出した。
F=μ×W (W:おもりの重さ(kgf))
また、動摩擦(鋼球法)を、試料35mm×100mmを23℃・相対湿度65%で2時間調湿し、動摩擦係数測定器(東洋ボールドウィン)を用いて、測定面を上にして試料を台に固定し、鋼球を試料上におろし、台を送ることにより測定した。
【0170】
(カール値)
試料35mm×3mmを、カール調湿槽(HEIDON(No.YG53−168)、新東科学(株))で相対湿度25%、55%、85%で24時間調湿し、曲率半径をカール板で測定しドライのカール値とした。またウェットでのカールは、水温25℃の水中に30分静置した後に、そのカール値を測定した。
【0171】
(透湿係数)
試料70mmφを25℃・相対湿度95%および40℃・相対湿度95%でそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量(g/m2)を算出した。そして、透湿度を調湿後質量−調湿前質量により求めた。さらに強制的評価として、60℃・相対湿度95%にて24時間調室後に測定し、透湿係数とした。
【0172】
(異物検査)
試料の全幅×1mの範囲に反射光をあて、膜中異物を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で異物(リント)を確認して評価した。
【0173】
(寸法安定性)
寸法安定性は熱収縮率で評価した。試料の縦方向および横方向より30mm幅×120mm長さの試験片を各3枚採取した。試験片の両端に6mmφの穴をパンチで100mm間隔に開けた。これを23±3℃、相対温度65±5%の室内で3時間以上調湿した。自動ピンゲージ(新東科学(株)製)を用いてパンチ間隔の原寸(L1)を最小目盛り/1000mmまで測定した。次に試験片を80℃±1℃の恒温器に吊して3時間熱処理し、23± 3℃、相対湿度65±5%の室内で3時間以上調湿した後、自動ピンゲージで熱処理後のパンチ間隔の寸法(L2)を測定した。そして以下の式により熱収縮率を算出した。
熱収縮率=(L1−L2/L1)×100
【0174】
(輝点異物の測定)
直交状態(クロスニコル)に二枚の偏光板を配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間に各試料を置いた。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で1cm2当たりの直径0.01mm以上の輝点数をカウントした。
【0175】
(2)評価結果
各飽和ノルボルネン樹脂フィルムのダイスジ、ダンムラ、Reムラ、Rthムラ、厚みムラ、Re湿度依存性、Rth湿度依存性、ロール汚れの評価結果を表1にまとめて記載した。
【0176】
【表1】

【0177】
フッ素原子を有する重合体を含有しない比較試料1−1、あるいはフッ素原子を有する重合体の含有量が少ない比較試料1−2は、ダイスジ、ダンムラ、Reムラ、Rthムラ、厚みムラおよびロール汚れが悪かった。これに対して、飽和ノルボルネン樹脂にフッ素原子を有する重合体を含有する本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルム試料1−3〜試料1−11は、ダイスジ、ダンムラが大幅に改善され、Reムラ、Rthムラ、厚みムラも大幅に改善されていることが確認された。さらに驚くべき事に、ロール汚れも大幅に改善されており、予想できなかった効果が得られていることも確認された。さらに、ReおよびRthの湿度依存性は小さくて、本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルム試料では、フッ素原子を有する重合体による悪影響がないことを確認した。
【0178】
これに対して、他の素材を剥離剤として使用した比較試料1−13〜比較試料1−18はダイスジが悪く、Reムラ、Rthムラ、厚みムラ、ロール汚れも悪いものであった。また、フッ素原子を有する重合体を含有するがその含有量が多すぎる比較試料1−12は、フィルム膜が白化して白濁が見られて問題であった。以上から本発明にしたがって飽和ノルボルネン樹脂にフッ素原子を有する重合体を含有させることにより、優れた飽和ノルボルネン樹脂フィルムを作製することができた。
【0179】
なお、本発明の代表としての試料1−3は、Reは5.4nmでありRthは15.1nmであり、ヘイズは0.2%、透明度は93.5%、分子配向軸は0.15%であり、軸ズレは0.2%、キシミ値は静摩擦係数が0.56であり動摩擦係数が0.49であり、カール値はドライが0.1でありウェットが0.15であり、透湿係数は5g/m2・日であり、異物は3個認められ、寸法安定性は0.01%以下であり、輝点異物は0.02mm〜0.05mmが10個/3m未満であり0.05〜0.1mmが4個/3m未満であり、0.1mm以上の輝点異物がないフィルムであることを確認した。その他の本発明の試料も、ほぼ同等な各種の特性を発現するものであり、優れた光学用のフィルム(特に偏光板保護膜として)として適用できるものであった。
【0180】
(実施例2)
本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルム試料1−3に、アクリレート系粘着剤を15μm張り合わせ、その上に市販の偏光膜HLC2−5618(サンリッツ社製)を貼り付けた。得られた飽和ノルボルネン樹脂フィルム試料1−3付の偏光膜は偏光度が99.99%であり、優れた偏光膜特性を有する事が確認された。
【0181】
(実施例3)
実施例1で得られた本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルム試料1−3を、延伸温度158℃、延伸倍率は縦(MD方向)160%、横(TD方向)120%で延伸し、本発明の試料3−1(延伸フィルム)を得た。延伸速度は、1m/分で実施した。得られた延伸フィルム試料3−1についてその特性を表1にて評価したところ、延伸によりReムラ、Rthムラ、厚みムラもさらに小さくなり優れたものであった。なお、Reは60.5nmであり、Rthは213nmであった。
【0182】
(実施例4)
次に、飽和ノルボルネン樹脂フィルムを偏光板に応用した実施例を記載する。
前述の本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルム試料3−1に、アクリレート系粘着剤を15μm張り合わせ、その上に市販の偏光膜HLC2−5618(サンリッツ社製)を貼り付けて偏光板を作製した。この時、偏光板の偏光軸と飽和ノルボルネン樹脂フィルムの長手方向が90度となるように張り合わせた。得られた飽和ノルボルネン樹脂フィルムからなる偏光板を、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込み、目視で色調変化の大小を10段階評価(大きいものほど変化が大きい)で評価し、表示ムラの発生している領域を目視で評価し、それが発生している割合(%)を求めたところ、本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの色調変化は1であり、非常に優れたものであった。また、特開平2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が吸収軸に対して45°の角度となるように延伸した偏光板についても同様に本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを用い作製したが、上記同様良好な結果が得られた。
【0183】
(実施例5)
(1)VAパネルへの実装
本発明の実施例4で作製した偏光板を、視認側偏光板は26”ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。VAモードの液晶TV(ソニー(株)製、KDL−L26RX2)の、表裏の偏光板および位相差板を剥し、裏側に本発明の試料3−1で作製した偏光板を組み合わせで貼り付け、液晶表示装置を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm2で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。プロテクトフィルムを剥した後、測定機(ELDIM社製、EZ−Contrast 160D)を用いて、黒表示および白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80°以上の良好な視野角特性が得られた。さらに、耐久試験による光漏れおよび偏光板剥がれテストを実施し問題がないことを確認した。耐久性テスト条件は以下の通りである。
【0184】
1)60℃・相対湿度90%の環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し24時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
2)80℃ドライの環境に200時間保持し、25℃・相対湿度60%環境に取り出し1時間後に液晶表示装置を黒表示させ、光漏れ強度および偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。なお、ドライとは相対湿度10%以下を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明の製造方法によれば、ダイスジ、厚さムラおよび光学特性のムラを大幅に軽減した飽和ノルボルネン樹脂フィルムを提供することができる。本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを液晶表示装置に組み込めば、従来から問題になっていた表示ムラや湿度による視認性の変化を大幅に抑えることができる。したがって、本発明の飽和ノルボルネン樹脂フィルムは産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】押出機の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0187】
22 押出機
32 シリンダー
40 供給口
A 供給部
B 圧縮部
C 計量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子を有する重合体をフィルムの固形分に対して0.01〜5質量%含み、残留溶剤量が0.01質量%以下であることを特徴とする飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項2】
前記フッ素原子を有する重合体が、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を含む単量体を重合させた重合体であることを特徴とする請求項1に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項3】
前記フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体が、下記一般式(FM−1)で表されることを特徴とする請求項2に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
一般式(FM−1) CH2=C(R1)−COO−(X)n−Rf
(式中、Rfは炭素数1〜20のパ−フルオロアルキル基、または部分フッ素化アルキル基であり、Rfは直鎖状であっても分岐状であってもよく、また酸素原子および/または窒素原子を含む官能基を主鎖中に有するものであってもよい。R1は水素原子、フッ素化されていてもよいアルキル基、塩素原子またはフッ素原子を表し、Xは2価の連結基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【請求項4】
平均一次粒子サイズ0.005〜2μmである微粒子を0.005〜2質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項5】
可塑剤、紫外線吸収剤および安定剤からなる群より選択される少なくとも一種を0.05〜5g/m2含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項6】
面内のレターデーション(Re)が0nm〜500nmであり、厚み方向のレターデーション(Rth)が−300nm〜700nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項7】
Reの遅相軸方向および遅相軸と直交する方向の変動がいずれも5%以下であり、かつRthの遅相軸方向および遅相軸と直交する方向の変動がいずれも5%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項8】
飽和ノルボルネン樹脂と該飽和ノルボルネン樹脂の固形分に対して0.01〜5質量%のフッ素原子を有する重合体の混合物を溶融製膜する工程を含むことを特徴とする飽和ノルボルネン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
溶融製膜したフィルムを流延方向あるいは幅方向の少なくとも一方に0.90〜5倍延伸する工程をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の製造方法により製造される飽和ノルボルネン樹脂フィルム。
【請求項11】
偏光膜に、請求項1〜7および10のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項12】
請求項1〜7および10のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを基材に用いた、光学補償フィルム。
【請求項13】
請求項1〜7および10のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを基材に用いた反射防止フィルム。
【請求項14】
請求項1〜7および10のいずれか一項に記載の飽和ノルボルネン樹脂フィルムを用いた液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348115(P2006−348115A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173956(P2005−173956)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】