説明

駆動システムおよびこれを搭載する車両並びに駆動システムの制御方法

【課題】エンジンの燃料噴射制御をより適正なものとする。
【解決手段】動力源としてエンジンとモータとを備えエンジンの始動を伴わずに駆動システムの起動が可能なハイブリッド車において、システムの起動に伴って上限ガード設定処理ルーチンによりサブ燃料噴射制御ルーチンで設定される学習値Agに対する上限ガードAmaxを設定してRAM24cの所定領域に格納しておき、その後にエンジン22が始動されてサブ燃料噴射制御ルーチンが実行されたときに格納しておいた上限ガードAmaxを読み込むと共に読み込んだ上限ガードAmaxで酸素センサ135bの出力に基づいて設定される空燃比に関する学習値Agを上限ガードする。これにより、システムの起動タイミングとエンジン22の始動タイミングとが異なるときであっても、上限ガードAmaxを適切な値に設定することができる。この結果、エンジン22の燃料噴射制御をより適正に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムおよびこれを搭載する車両並びに駆動システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動システムとしては、内燃機関の排気通路に設けられた触媒装置の上流側に排気中の酸素濃度を検出する上流側排気センサが、下流側に排気中の酸素濃度を検出する下流側排気センサがそれぞれ取り付けられたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、内燃機関が運転されているときに、上流側排気センサからの検出信号に基づいてフィードバック制御により基本燃料噴射量に対する補正量を算出すると共に算出した補正量を下流側排気センサからの検出信号に基づいてフィードバック制御により一定量ずつ修正(サブフィードバック制御)し、この修正した補正量で内燃機関の回転数や負荷に応じた基本燃料噴射量を補正して燃料噴射制御を行なうものとしている。サブフィードバック制御では、基本燃料噴射量に対する補正量の修正と共に修正値に関する学習を行なっており、学習結果としての学習値を内燃機関の始動直後における修正値の初期値として用いている。
【特許文献1】特開2005−188331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
こうしたサブフィードバック制御では、何らかの原因により誤学習により誤った学習値が設定されると、これにより基本燃料噴射量が補正されて内燃機関の燃料噴射制御が行なわれることから、通常設定され得る範囲を超える値が学習値として設定されないようガード値を設定することが望ましく、このガード値をサブフィードバック制御において作成することが考えられる。しかしながら、サブフィードバック制御は通常内燃機関の始動に伴って実行されるから、走行用の動力源として内燃機関と電動機とを備えるハイブリッドシステムのようにエンジンの始動を伴わずにシステムを起動することができるものでは、システムの起動時にガード値が本来設定すべき値とは異なる値(例えば値0)に初期化される。このため、その後に内燃機関が始動されてサブフィードバック制御が実行されると、学習値が誤ったガード値でガードされる場合が生じ、この場合、内燃機関の空燃比制御を適正に行なうことができなくなってしまう。
【0004】
本発明の駆動システムおよびこれを搭載する車両並び駆動システムの制御方法は、内燃機関の始動を伴わずにシステムを起動することができるものにおいて、内燃機関の空燃比制御をより適正に行なえるようにすることを目的の一つとする。また、本発明の駆動システムおよびこれを搭載する車両並びに駆動システムの制御方法は、内燃機関の始動を伴わずにシステムを起動することができるものにおいて、内燃機関の空燃比制御に反映させる学習値に不適切な値が設定されるのを抑制することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の駆動システムおよびこれを搭載する車両並び駆動システムの制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の駆動システムは、
動力源として内燃機関および電動機を有し、前記内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムであって、
前記内燃機関の排気系に設けられた浄化触媒の上流側に取り付けられた上流側排気センサと、
前記浄化触媒の下流側に取り付けられた下流側排気センサと、
所定データを記憶する記憶手段と、
前記システムが起動されたとき、所定のタイミングで前記内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して前記記憶手段に記憶する学習値制限設定手段と、
前記内燃機関が始動されたときには、前記記憶された学習値制限を読み込むと共に該読み込んだ学習値制限の範囲内で前記下流側排気センサからの信号に基づいて前記空燃比に関する学習値を設定する学習値設定手段と、
前記学習値設定手段により設定された学習値を反映して前記上流側排気センサからの信号に基づいて前記内燃機関の燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0007】
この本発明の駆動システムでは、内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムにおいて、システムが起動されたとき、所定のタイミングで内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して記憶手段に記憶し、内燃機関が始動されたときには記憶された学習値制限を読み込むと共に読み込んだ学習値制限の範囲内で下流側排気センサからの信号に基づいて空燃比に関する学習値を設定し、設定された学習値を反映して上流側排気センサからの信号に基づいて内燃機関の燃料噴射制御を行なう。したがって、システムが起動されたときに所定のタイミングで学習値制限を設定して記憶手段に記憶しておくことにより、その後に内燃機関が始動されたときでも適正な値の学習値制限により学習値をガードすることができる。この結果、内燃機関の空燃比制御に反映させる学習値に不適切な値が設定されるのを抑制することができ、内燃機関の空燃比制御をより適正に行なうことができる。
【0008】
こうした本発明の駆動システムにおいて、前記学習値制限設定手段は、前記システム起動時のタイミングで実行される手段であるものとすることができる。こうすれば、より適切なタイミングで学習値制限を設定することができる。
【0009】
本発明の車両は、
上述した本発明の駆動システム、即ち、基本的には、動力源として内燃機関および電動機を有し前記内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムであって、前記内燃機関の排気系に設けられた浄化触媒の上流側に取り付けらた上流側排気センサと、前記浄化触媒の下流側に取り付けらた下流側排気センサと、所定データを記憶する記憶手段と、前記システムが起動されたとき所定のタイミングで前記内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して前記記憶手段に記憶する学習値制限設定手段と、前記内燃機関が始動されたときには前記記憶された学習値制限を読み込むと共に該読み込んだ学習値制限の範囲内で前記下流側排気センサからの信号に基づいて前記空燃比に関する学習値を設定する学習値設定手段と、前記学習値設定手段により設定された学習値を反映して前記上流側排気センサからの信号に基づいて前記内燃機関の燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御手段と、を備える駆動システムを搭載することを要旨とする。
【0010】
この本発明の車両によれば、上述した本発明の駆動システムを搭載するから、本発明の駆動システムが奏する効果と同様の効果、例えば、内燃機関の空燃比制御に反映させる学習値に不適切な値が設定されるのを抑制することができる効果や内燃機関の空燃比制御をより適正に行なうことができる効果などを奏することができる。
【0011】
本発明の駆動システムの制御方法は、
動力源としての内燃機関および電動機と、前記内燃機関の排気系に設けられた浄化触媒の上流側に取り付けらた上流側排気センサと、前記浄化触媒の下流側に取り付けらた下流側排気センサと、所定データを記憶する記憶手段とを備え、前記内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムの制御方法であって、
(a)前記システムが起動されたとき、所定のタイミングで前記内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して前記記憶手段に記憶し、
(b)前記内燃機関が始動されたときには、前記記憶された学習値制限を読み込むと共に該読み込んだ学習値制限の範囲内で前記下流側排気センサからの信号に基づいて前記空燃比に関する学習値を設定し、
(c)前記ステップ(b)により設定された学習値を反映して前記上流側排気センサからの信号に基づいて前記内燃機関の燃料噴射制御を行なう
ことを要旨とする。
【0012】
この本発明の駆動システムの制御方法によれば、内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムにおいて、システムが起動されたとき、所定のタイミングで内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して記憶手段に記憶し、内燃機関が始動されたときには記憶された学習値制限を読み込むと共に読み込んだ学習値制限の範囲内で下流側排気センサからの信号に基づいて空燃比に関する学習値を設定し、設定された学習値を反映して上流側排気センサからの信号に基づいて内燃機関の燃料噴射制御を行なう。したがって、システムが起動されたときに所定のタイミングで学習値制限を設定して記憶手段に記憶しておくことにより、その後に内燃機関が始動されたときでも適正な値の学習値制限により学習値をガードすることができる。この結果、内燃機関の空燃比制御に反映させる学習値に不適切な値が設定されるのを抑制することができ、内燃機関の空燃比制御をより適正に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例である駆動システムを搭載したハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、車両の駆動システム全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70と、ハイブリッド用電子制御ユニット70と共にシステムの起動を司る電源ECU90とを備える。
【0015】
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な内燃機関として構成されており、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入する共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト23の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)134を介して外気へ排出される。
【0016】
エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により制御されている。エンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、不揮発性メモリとしてのEEPROM24dと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、例えば、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジション,スロットルバルブ124の開度を検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットルポジション,吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からのエアフローメータ信号AF,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温,空燃比センサ135aからの空燃比Vaf,酸素センサ135bからの酸素信号Voなどが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。
【0017】
空燃比センサ135aは、排気管における浄化装置134の上流側に設置されており、空燃比に応じて出力値が略リニアに変化する全領域空燃比センサとして構成されている。また、酸素センサ135bは、排気管における浄化装置134の下流側に設置されており、理論空燃比を境として空燃比がリッチかリーンかに応じて出力値が急激に変化するセンサとして構成されている。空燃比センサ135aの出力特性の一例を図3に、酸素センサ135bの出力特性の一例を図4に示す。
【0018】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0019】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0020】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0021】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0022】
電源ECU90は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。この電源ECU90には、運転席の前面パネルに配置されたパワースイッチ92からのプッシュ信号やブレーキペダル85の踏み込みを検出する図示しないブレーキスイッチからのブレーキ信号などが入力ポートを介して入力されており、電源ECU90からは、電力ライン54(高電圧系)への電源の投入や遮断を行なうリレーへのオンオフ信号や補機などへの給電に用いられる低電圧系への電源の投入や遮断を行なうリレーへのオンオフ信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電源ECU90もハイブリッド用電子制御ユニット70と通信ポートを介して接続されており、各種信号のやり取りを行なっている。この電源ECU90は、ブレーキペダル85が踏み込まれた状態でパワースイッチ92がオン操作されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70にイグニッション信号(IG信号)とスタート信号(ST信号)をオン出力する。ST信号を入力したハイブリッド用電子制御ユニット70は、システムが起動可能な状態であるのを確認(システムチェック)した後に電源ECU90に起動状態であることを示すレディ信号(RDY信号)をオン出力すると共にエンジン22の冷却水温やバッテリ50の残容量SOCに基づいて必要に応じてエンジン22を始動する。したがって、エンジン22の冷却水温が適正温度にあり且つバッテリ50の残容量SOCも適正範囲内にあるときにはシステムが起動されても直ちにエンジン22が始動されることはなく、その後に始動条件が成立したときにエンジン22が始動される。
【0023】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0024】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、エンジンECU24によるエンジン22の燃料噴射制御について説明する。まず、システムが起動したときのエンジンECU24の動作について説明し、次に、エンジン22が始動された以降のエンジンECU24の動作について説明する。図5は、システムの起動に伴ってエンジンECU24により実行される上限ガード設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジンECU24がハイブリッド用電子制御ユニット70からシステムを起動した旨の信号を受信したときに実行される。
【0025】
上限ガード設定処理ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、酸素センサ135bの状態を確認し(ステップS100)、エンジン22の始動に伴って実行される後述するサブ燃料噴射制御ルーチンで用いられる上限ガードAmaxを設定すると共に(ステップS110)、設定した上限ガードAmaxをRAM24cの所定領域に格納して(ステップS120)、本ルーチンを終了する。このように、システムが起動されたときに上限ガードAmaxを設定してRAM24cに格納しておくのは、実施例のハイブリッド自動車20では前述したようにエンジン22の始動を伴わずにシステムが起動される場合があるから、この場合に上限ガードAmaxとして本来設定すべき値とは異なる値(例えば値0)に初期化されるのを防止するためである。上限ガードAmaxは、サブ燃料噴射制御ルーチンで設定されるエンジン22の空燃比に関する学習値Agの上限を定めるものであり、実施例では、酸素センサ135bの状態が正常に機能しうる状態にあるときには通常時の値A1(例えば、0.3V)を、酸素センサ135bの状態が正常に機能できない状態にあるときには非通常時の値A2(例えば、0.04V)を上限ガードAmaxとして設定するものとした。これにより、酸素センサ135bの状態に応じた上限ガードAmaxを設定することができる。
【0026】
次に、システムが起動した以降に始動条件が成立してエンジン22が始動されたときのエンジンECU24によるエンジン22の運転制御について説明する。エンジン22の運転制御は、ハイブリッド用電子制御ユニット70がアクセル開度Accや車速Vなどに基づいてエンジン22が運転すべき目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定すると共に設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを通信によりエンジンECU24に送信し、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とにより示される運転ポイントでエンジン22が運転されるよう吸入空気量調節制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行することにより行なわれる。以下、エンジン22の燃料噴射制御について詳細に説明する。
【0027】
図6は、エンジンECU24により実行されるメイン燃料噴射制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、エンジン22が始動されたときに所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。メイン燃料噴射制御ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、エアフローメータ148からのエアフローメータ信号AFに基づいて理論空燃比を実現する基本燃料噴射量Fbを設定し(ステップS200)、空燃比センサ135aからの空燃比AFに基づいて空燃比フィードバック制御を行なう空燃比フィードバック条件が成立しているか否かを判定する(ステップS210)。ここで、空燃比フィードバック条件としては、エンジン22の冷却水温が所定温度以上であることやエンジン22を始動している最中にないこと、エンジン22を始動した直後の燃料増量中にないことなどを挙げることができ、これらの条件のすべてを満たしているときには空燃比フィードバック条件が成立するものとし、いずれかの条件を満たしていないときには空燃比フィードバック条件は成立しない。空燃比フィードバック条件が成立していないと判定されると、空燃比センサ135aからの空燃比AFに基づくフィードバック制御を実行せずにオープンループ制御を実行すると共に(ステップS220)、その他の必要な補正係数を基本燃料噴射量Fbに乗じて目標燃料噴射量F*を設定し(ステップS270)、設定した目標燃料噴射量F*に基づいて燃料噴射弁126を制御して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。オープンループ制御では、例えば、値1の補正係数を設定することができる。一方、空燃比フィードバック条件が成立していると判定されると、空燃比センサ135aからの空燃比AFを入力し(ステップS230)、入力した空燃比AFが理論空燃比となるようフィードバック制御における関係式を用いて空燃比フィードバック補正量Asetを設定し(ステップS240)、空燃比フィードバック補正量Asetの調整量Aadjを入力し(ステップS250)、設定した空燃比フィードバック補正量Asetに入力した調整量Aadjを加えたものを新たな空燃比フィードバック補正量Asetとして設定し(ステップS260)、設定した空燃比フィードバック補正量Asetやその他の必要な補正係数を基本燃料噴射量F*に乗じて目標燃料噴射量F*を設定し(ステップS270)、設定した目標燃料噴射量F*に基づいて燃料噴射弁126を制御して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。ここで、調整量Aadjは、エンジン22が始動されたときにメイン燃料噴射制御ルーチンと並行して実行されるサブ燃料噴射制御ルーチンにより設定されRAM24cの所定領域に格納されたものを読み込むことにより入力するものとした。以下、サブ燃料噴射制御ルーチンの詳細について説明する。
【0028】
図7は、エンジンECU24により実行されるサブ燃料噴射制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このサブ燃料噴射制御ルーチンが実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、メイン燃料噴射制御ルーチンのステップS200と同様の空燃比フィードバック条件が成立しているか否かを判定し(ステップS300)、空燃比フィードバック条件が成立していないと判定されると、何もせずに本ルーチンを終了する。空燃比フィードバック条件が成立していると判定されると、サブ燃料噴射制御ルーチンの実行が初期(初回)のときには(ステップS310)、EEPROM24dの所定領域に格納されている学習値Agを読み込むと共にこの読み込んだ学習値Agを空燃比フィードバック補正量Asetの調整量Aadjに設定して(ステップS320)、本ルーチンを終了する。一方、サブ燃料噴射制御ルーチンの実行が初期でないときには(ステップS310)、酸素センサ135bからの酸素信号Voや前述した上限ガード設定処理ルーチンにより設定されRAM24cの所定領域に格納された上限ガードAmaxを入力し(ステップS330)、入力した酸素信号Voと理論空燃比付近の目標値Vo*(図4参照)との偏差ΔVo(=Vo*−Vo)を計算し(ステップS340)、計算した偏差ΔVoに基づいて次式(1)により空燃比フィードバック補正量Asetの調整量Aadjを計算する(ステップS350)。ここで、式(1)は、酸素センサ135bにより検出される酸素信号Voを目標値Vo*に近づけるためのフィードバック制御における関係式であり、式(1)中、「前回Adj」は前回このルーチンで設定された調整量Aadjを示す。また、「kp」は比例項におけるゲインを示し、「ki」は積分項におけるゲインを示す。
【0029】
Aadj=前回Adj+kp(ΔVo)+ki∫(ΔVo)dt (1)
【0030】
こうして空燃比フィードバック補正量Asetの調整量Aadjを計算すると、次式(2)により調整量Aadjを時間積分したものに補正係数kを乗じることにより学習値Agを計算し(ステップS360)、前述した上限ガード設定処理ルーチンにより設定されRAM24cの所定領域に格納された上限ガードAmaxを読み込むと共に読み込んだ上限ガードAmaxと学習値Agとを比較し(ステップS370)、学習値Agが上限ガードAmaxよりも大きいときには学習値Agを上限ガードAmaxにより上限ガードし(ステップS380)、上限ガードして得られた学習値AgをEEPROM24dの所定領域に格納して(ステップS390)、本ルーチンを終了する。EEPROM24dに格納された学習値Agは、システムが停止されても消えることはなく、次回のサブ空燃比制御ルーチンの実行時に調整量Aadjの初期値として用いられる。なお、学習値Agは、式(2)を用いるものに限られず他の如何なる手法を用いるものとしてもよい。
【0031】
Ag=kΣAadj (2)
【0032】
図8に、システム起動とエンジン始動と上限ガード設定と空燃比制御の実行タイミングの一例を示す。図示するように、時刻T1にシステムが起動されると、これに伴って上限ガード設定処理ルーチンが起動されて上限ガードAmaxが設定されると共に設定された上限ガードAmaxがRAM24cの所定領域に格納される。そして、時刻T2に始動条件が成立してエンジン22が始動されると、メイン空燃比制御ルーチンと共にサブ空燃比制御ルーチンが起動されてRAM24cに格納された上限ガードAmaxが読み込まれると共に読み込まれた上限ガードAmaxを上限として学習値Agが設定される。
【0033】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、システムの起動に伴って上限ガード設定処理ルーチンによりサブ燃料噴射制御ルーチンで設定される学習値Agに対する上限ガードAmaxを設定してRAM24cの所定領域に格納しておき、その後にエンジン22が始動されてサブ燃料噴射制御ルーチンが実行されたときに格納しておいた上限ガードAmaxを読み込むと共に読み込んだ上限ガードAmaxで酸素センサ135bの出力に基づいて設定される学習値Agを上限ガードするから、システムの起動タイミングとエンジン22の始動タイミングとが異なるときであっても、上限ガードAmaxを適切な値に設定することができる。この結果、システムの起動に伴って上限ガードAmaxに不適切な値(例えば値0)で初期化されてサブ燃料噴射制御ルーチンで設定される学習値Agの上限ガードが適正に行なわれなくなるのを抑制することができ、エンジン22の燃料噴射制御をより適正に行なうことができる。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、図3の上限ガード設定処理ルーチンをシステムが起動されたタイミングで実行するものとしたが、エンジン22が始動されたタイミングで実行するものとしてもよい。
【0035】
実施例では、本発明をエンジン22と動力分配統合機構30とモータMG1,MG2とを備えるハイブリッド自動車に適用して説明したが、エンジンの始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムを搭載するものであれば、他の構成のハイブリッド自動車や自動車以外の車両に搭載するものとしてもよいし、車両以外の船舶や航空機などの移動体に搭載するものとしてもよいし、建設設備などの移動しない設備などに組み込むものとしてもよい。
【0036】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両や駆動システムの製造産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】空燃比センサ135aの出力特性の一例を示す説明図である。
【図4】酸素センサ135bの出力特性の一例を示す説明図である。
【図5】上限ガード設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】メイン燃料噴射制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】サブ燃料噴射制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】システム起動とエンジン始動と上限ガード設定と空燃比制御の実行タイミングの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、24d EEPROM、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 電源ECU、 92 パワースイッチ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、135a 空燃比センサ、135b 酸素センサ、136,スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関および電動機を有し、前記内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムであって、
前記内燃機関の排気系に設けられた浄化触媒の上流側に取り付けられた上流側排気センサと、
前記浄化触媒の下流側に取り付けられた下流側排気センサと、
所定データを記憶する記憶手段と、
前記システムが起動されたとき、所定のタイミングで前記内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して前記記憶手段に記憶する学習値制限設定手段と、
前記内燃機関が始動されたときには、前記記憶された学習値制限を読み込むと共に該読み込んだ学習値制限の範囲内で前記下流側排気センサからの信号に基づいて前記空燃比に関する学習値を設定する学習値設定手段と、
前記学習値設定手段により設定された学習値を反映して前記上流側排気センサからの信号に基づいて前記内燃機関の燃料噴射制御を行なう燃料噴射制御手段と、
を備える駆動システム。
【請求項2】
前記学習値制限設定手段は、前記システム起動時のタイミングで実行される手段である請求項1記載の駆動システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の駆動システムを搭載する車両。
【請求項4】
動力源としての内燃機関および電動機と、前記内燃機関の排気系に設けられた浄化触媒の上流側に取り付けられた上流側排気センサと、前記浄化触媒の下流側に取り付けられた下流側排気センサと、所定データを記憶する記憶手段とを備え、前記内燃機関の始動を伴わずにシステムの起動が可能な駆動システムの制御方法であって、
(a)前記システムが起動されたとき、所定のタイミングで前記内燃機関の空燃比に関する学習結果としての学習値に対して制限を行なう学習値制限を設定して前記記憶手段に記憶し、
(b)前記内燃機関が始動されたときには、前記記憶された学習値制限を読み込むと共に該読み込んだ学習値制限の範囲内で前記下流側排気センサからの信号に基づいて前記空燃比に関する学習値を設定し、
(c)前記ステップ(b)により設定された学習値を反映して前記上流側排気センサからの信号に基づいて前記内燃機関の燃料噴射制御を行なう
駆動システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−216783(P2007−216783A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38073(P2006−38073)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】