説明

高分子乳化剤、及びこれを用いたポリオレフィン系樹脂エマルジョン

【課題】乳化安定性に加え、エマルジョンの低温造膜性、乾燥皮膜の低温接着性及び透明性を維持し、かつ、親水性有機溶剤やイオン性を持った添加剤を添加して、機械的剪断をかけても、凝集、粘度上昇の生じないエマルジョンを得ることを目的とする。
【解決手段】重合性二重結合と親水性基とを、その両者間に4〜16個の原子を介在させて結合した構造を有する重合性単量体由来の構造単位を、共重合成分として、5〜20モル%含有し、かつ、ノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体由来の構造単位を、共重合成分として1〜20モル%含有し、かつ、その共重合体のフローテスターによる1/2法温度が40℃以上140℃以下である高分子乳化剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乾燥皮膜が低温造膜性及び透明性に優れた高分子乳化剤、並びにこれを用いたポリオレフィン系樹脂エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、汎用性、強度、物性、成形のし易さ、耐溶剤性、外観等の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が、日用品、自動車用部品、建材等に使用されている。
【0003】
それらのポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂自体の極性の低さから、接着が困難であった。そのため、これらのポリオレフィン系樹脂の接着には、塩素化ポリプロピレン等の接着付与成分を、有機溶剤に溶解させて用いる必要があった。
【0004】
しかし、近年、環境保全および安全衛生のため、塗料の無溶剤化が強く要望されており、従来の溶剤型塗料の水系化が行なわれつつある(特許文献1、特許文献2参照)。また、塩素化ポリオレフィン系樹脂は、焼却廃棄時に、毒性の高いダイオキシンが発生するおそれがあるという指摘もあった。
【0005】
樹脂を水系化させる一般的な方法として、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体の場合は、先ず、エチレン・酢酸ビニル共重合体を加熱溶融し、次いで、アニオン系やノニオン系の乳化剤を添加撹拌し、その後、熱水を添加して、ホモミキサー等の機械剪断力を用いて乳化することにより得られる方法があげられる(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、上記のアニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いた場合、得られた製品の使用時において、ブリードアウトするおそれがある。これに対し、乳化安定性などを改良した特定のアクリル系共重合体の中和物を、アニオン系水溶性高分子分散剤として用いるポリマー水性分散液の製造方法が知られている(特許文献4参照)。
【0007】
しかし、このアニオン系水溶性高分子分散剤は、分散安定性を改良することができるが、得られたポリマー分散液から水、揮発性塩基等が蒸発する際に、この高分子分散剤中のカルボキシル基が分子内又は分子間での会合を起こして、溶融粘度が上昇し、エマルジョン樹脂粒子の融着を妨げてしまい、低温での造膜性が悪化したり、得られた乾燥皮膜の低温接着性、透明性が劣ったりすることがあり、その用途が限定されることがあった。
【0008】
これに対し、低温造膜性に優れる特定のアクリル系共重合体の中和物をカチオン系水溶性高分子分散剤として用いるポリマー水性分散液の製造方法が知られている(特許文献5参照)。
【0009】
しかし、このカチオン系水溶性高分子分散剤を用いて得られる乾燥皮膜は、低温造膜性、低温接着性、透明性は改良されたものの、汎用的に使用されているアニオン系水性分散液と混合使用することが困難になるという制約がある。
【0010】
この改良方法として、特願2006−195891号に、(メタ)アクリル酸を主成分とするアニオン性単量体と、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等を主成分とするカチオン性単量体とを含有する単量体混合物を重合して得られる両性の高分子乳化剤を用いる方法が検討されている。
【0011】
【特許文献1】特開平06−336568号公報
【特許文献2】特開平11−106600号公報
【特許文献3】特開昭57−61035号公報
【特許文献4】特開昭58−127752号公報
【特許文献5】特開昭58−118843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の両性の高分子乳化剤を用いた場合、この両性の高分子乳化剤が有するカルボキシル基が造膜時に、水素結合形成による粒子間障壁が生じ、造膜に悪影響を及ぼし、薄膜の表面平滑性が不十分となる場合がある。
【0013】
また、上記の両性の高分子乳化剤を用いたエマルジョンを塗料化、接着剤化するために、親水性有機溶剤や顔料等を添加するが、親水性有機溶剤を加えて希釈したり、イオン性を有する添加剤を添加することにより、上記高分子乳化剤の乳化安定能が低下して、凝集体を発生させることがある。塗料や接着剤に凝集体が発生すると、塗面に筋、ブツが発生し、商品価値を低下させる問題があった。さらに、機械的剪断がかかる塗工機等を用いた場合、エマルジョン粒子の凝集を促進させたり、粘度が上昇したりする問題を生じる場合があった。
【0014】
そこで、この発明は、かかる問題点を解決し、乳化安定性はもちろんのこと、エマルジョンの低温造膜性、乾燥皮膜の低温接着性及び透明性を維持し、かつ、親水性有機溶剤やイオン性を持った添加剤を添加して、機械的剪断をかけても、凝集、粘度上昇の生じないエマルジョンを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、重合性二重結合と親水性基とを、その両者間に4〜16個の原子を介在させて結合した構造を有する重合性単量体((A)成分)由来の構造単位を、共重合成分として、5〜20モル%含有し、かつ、ノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体((B)成分)由来の構造単位を、共重合成分として1〜20モル%含有し、かつ、その共重合体のフローテスターによる1/2法温度が40℃以上140℃以下である高分子乳化剤を得ることにより、上記課題を解決したのである。
そして、上記(B)成分のノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体として、下記式(1)で示されるノニオン性単量体を用いることができる。
−(C2nO)−R …(1)
(式中、R1は、(メタ)アクリロイルオキシ基及び(メタ)アクリロイルオキシエトキシ基から選ばれる基を示し、R2は、H又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜3の整数を示し、mは4〜25の整数を示す。)
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、重合性二重結合と親水性基との間の原子数を所定範囲としたので、親水性基とポリマー主鎖との距離を十分に確保できる。このため、造膜時に、水素結合形成による粒子間障壁が生じるのを抑制し、造膜を向上させ、また、薄膜の表面平滑性を向上させることができる。そして、透明性も向上させることができる。
【0017】
さらに、カルボン酸等のアニオン性基を有する熱可塑性樹脂は、本発明で用いられる高分子乳化剤の構成成分である(D)成分等のカチオン性基との親和性により、乳化安定効果がさらに増大するという特徴を発揮することができる。
【0018】
さらにまた、(B)成分であるノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体を用いるので、親水性有機溶剤やイオン性を持った添加剤を添加しても、機械的剪断による乳化安定効果を維持することができるという特徴を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかる高分子乳化剤は、特定の重合性単量体由来の構造単位、かつ、ノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体を共重合性成分として有する共重合体を含有する乳化剤をいう。
【0020】
[(A)成分]
上記の特定の重合性単量体(以下、「(A)成分」と称する。)とは、重合性二重結合と親水性基とを、その両者間に、最短で4〜16個の原子を介在させて結合した構造を有する重合性単量体をいう。
【0021】
上記重合性二重結合とは、ラジカル重合を生じ得る二重結合をいい、(メタ)アクリロイル基の二重結合、スチレン類の二重結合等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」は、「アクリロイル又はメタクリロイル」、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0022】
上記親水性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、酸性リン酸エステル基等が挙げられ、これらのうち少なくとも1種が用いられる。
【0023】
上記の重合性二重結合と親水性基との間に、介在する原子数は、4個以上であり、6個以上が好ましい。一方、上記原子数の上限は、16個であり、8個が好ましい。介在する原子数を上記の所定範囲内とすると、この介在する原子によって構成される原子鎖が、この(A)成分を共重合成分として含む共重合体中のソフトセグメントとして作用し、この共重合体のフローテスターによる1/2法温度を低下させることができる。
【0024】
上記の重合性二重結合と親水性基との間に、介在する原子数が4個より少ないと、上記の重合性二重結合と親水性基とが接近しすぎ、この発明にかかる高分子乳化剤を用いて得られるエマルジョンを用いて造膜するとき、上記親水性基によって生じる水素結合によって粒子間に障壁が生じ、造膜性に影響を与えるおそれがある。一方、16個より多いと、親水基と疎水基とのバランスが悪化して、乳化力が低下することがある。
【0025】
ところで、上記の重合性二重結合と親水性基との間に介在する原子数とは、上記の重合性二重結合と親水性基とを結ぶ原子鎖のうち、最短の原子鎖の原子数をいう。これは、この原子鎖が1本である場合は問題ないが、この原子鎖が環状の場合、上記の重合性二重結合と親水性基との間に介在する原子鎖は、2本存在することとなる。この場合、原子数の短い方の原子鎖、すなわち、最短の原子鎖の原子数としたのである。これは、上記したように、上記の重合性二重結合と親水性基との間に介在する原子鎖は、(A)成分を共重合成分として含む共重合体中のソフトセグメントとして作用するのであるが、その作用は、当該原子鎖の原子数の少ない鎖の方が、原子数の多い鎖より大きく影響を与えるからである。
【0026】
上記親水性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸基、酸性リン酸エステル基などが挙げられ、これらのうち少なくとも1種類が用いられる。カルボキシル基含有単量体の例としては、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸(介在原子数:8)、β−カルボキシエチルアクリレート(介在原子数:8)、ω−カルボキシ−ポリカプロラクタムモノアクリレート(介在原子数:14)、2−メタクリロイルオキシエチルヒドロフタル酸(介在原子数:8)等が挙げられる。スルホン酸基含有単量体として、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(介在原子数:4)等が挙げられる。また、酸性リン酸エステル基含有単量体として、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(介在原子数:4)等が挙げられる。これらの成分は、2種類以上を併用しても構わない。特に、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸(介在原子数:8)が好ましい。
【0027】
[B成分]
上記のノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体、すなわち(B)成分とは、下記に示すような、式(1)で示される化合物をいう。
−(C2nO)−R …(1)
なお、式中、R1は、下記の2種類の基(a)及び(b)から選ばれる基を示し、R2は、H又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜3の整数を示し、mは4〜25の整数を示す。
(a)(メタ)アクリロイルオキシ基
(CH=CH−COO− 又は CH=C(CH)−COO−)
(b)(メタ)アクリロイルオキシエトキシ基
(CH=CH−COO−CH−CH−O−
又は CH=C(CH)−COO−CH−CH−O−)
【0028】
上記(B)成分の具体例としては、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等があげられる。これらの中でも、ポリエチレングリコール基の繰り返し単位が2から25までのポリエチレングリコール基を有するものが好ましく、繰り返し単位が4から22までのポリエチレングリコール基を有するものがさらに好ましい。繰り返し単位が2より小さい場合には、有機溶剤混和性を良好にする効果を十分に発揮することが困難となる場合がある。一方、繰り返し単位が25より大きい場合には、通常の温度において、親水鎖が固体化してしまうため、十分な乳化安定効果を発揮することは困難となる場合がある。
【0029】
[(C)成分〜(E)成分]
この発明にかかる高分子乳化剤を構成する共重合体は、上記(A)成分及び(B)成分由来の構造単位を有するが、この共重合体の原料となる共重合成分は、この(A)成分及び(B)成分以外に、カルボキシル基含有モノマー(以下、「(C)成分」と称する。)、アミノ基含有モノマー(以下、「(D)成分と称する。)、及び炭素数1〜22の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(以下、「(E)成分」と称する。)を用いてもよい。
【0030】
上記(C)成分は、親水基を有する成分として、高分子乳化剤の乳化能力を発現させるために用いられる。この(C)成分の例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。
【0031】
上記(D)成分は、造膜性及び基材の密着性を発現するために用いられる。この(D)成分の例としては、(メタ)アクリル酸アルキルアミノエステル類や、N−アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
【0032】
また、上記(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルのアルキルアミノ基で置換されるアルキル基は、炭素原子数が1〜6のアルキル基がよい。
【0033】
このような(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルの例としては、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノ−2−アミノエチル等が挙げられる。また、上記の(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル以外のカチオン性単量体としては、N−アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。
【0034】
上記(E)成分は、疎水性基を有する成分として、高分子乳化剤の乳化能力を発現させるために用いられる。この(E)成分の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。また、熱流動性及び乳化力を改良するために、これらの成分を2種以上混合して用いてもよい。
【0035】
[各成分の含有割合]
この発明にかかる高分子乳化剤を構成する共重合体における、上記(A)成分由来の構造単位の含有割合は、共重合性成分として5モル%以上が必要で、10モル%以上が好ましい。5モル%より少ないと、高分子乳化剤の乳化能力が低下する傾向がある。一方、含有割合の上限は、20モル%がよく、15モル%が好ましい。20モル%より多いと、高分子乳化剤の乳化能力が低下する傾向、及び得られる水性分散液の造膜温度が高くなり、得られる皮膜の低温接着性や透明性を悪化させることがある。
【0036】
また、この発明にかかる高分子乳化剤を構成する共重合体における、上記(B)成分由来の構造単位の含有割合は、共重合性成分として1モル%以上が必要で、2モル%以上が好ましい。1モル%より少ないと、エマルジョンの機械安定性が低下する傾向がある。一方、含有割合の上限は、20モル%がよく、15モル%が好ましい。20モル%より多いと、安定した乳化物が得られない傾向がある。
【0037】
また、上記の(A)成分と(C)成分との合計量、及び(D)成分の比率(((A)+(C))/(D))は、モル比で、1.0以上がよく、1.1以上が好ましい。1.0より小さいと、カチオン性が強くなり、汎用的に用いられているアニオン性乳化剤を用いたエマルジョンとの併用が難しくなる傾向がある。一方、モル比の上限は、2.0がよく、1.9が好ましい。2.0より大きいと、得られる水性分散液の造膜温度が高くなり、得られる皮膜の低温接着性や透明性を悪化させることがあり、その用途が限定されることとなる傾向がある。
【0038】
次に、上記共重合体(A)成分〜(E)成分を用いる場合、各成分の構成比率は、全ての合計量を100モル%としたとき、モル比で、(A)/(B)/(C)/(D)/(E)=5〜20/1〜20/10〜40/5〜40/10〜50がよく、5〜15/1〜15/15〜30/15〜35/20〜40が好ましい。
【0039】
それぞれの成分が、上記の好適範囲を外れた場合、本願発明の所期の効果が十分に得られないことがある。
【0040】
[共重合体の製造方法]
この発明にかかる高分子乳化剤を構成する共重合体は、下記の方法で製造することができる。
まず、上記の(A)成分〜(E)成分を所定の混合比率でそれぞれ秤量する。次に、重合器に各成分を別々に添加して重合するか、又は各単量体をあらかじめ混合した上で重合器に添加して重合する。これにより、共重合体を製造することができる。
【0041】
上記共重合は、上記各単量体を重合開始剤の存在下に0〜180℃、好ましくは40〜120℃で0.5〜20時間、好ましくは2〜10時間の条件下で行われる。この共重合はエタノール、イソプロパノール、セロソルブ等の親水性溶媒や水の存在下で行うのが好ましい。
【0042】
上記重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩からなる開始剤、上記過硫酸塩に亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、あるいはこれらと鉄(II)塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩の還元剤等を併用したレドックス系開始剤、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ系化合物、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキセン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。この重合開始剤の使用量は、使用される単量体全量に対して、0.01〜10重量%が好ましい。
【0043】
なお、熱流動特性を改良するために、連鎖移動剤等を用いて分子量を低減することも可能である。その際には、重合度調節のため、公知の連鎖移動剤であるメルカプタン類を使用することができる。
【0044】
ところで、上記の(A)成分及び(C)成分には、酸性の親水性基が含まれる。そこで、この酸性の親水性基の少なくとも一部が、塩基性物質によって中和されることが好ましい。少なくとも一部を中和することにより、水への溶解性が改良されて、得られるポリマー粒子径が小さくなって、水中への分散状態が安定化されるという特徴を発揮することができる。
【0045】
上記の中和の程度、すなわち、中和度は、50モル%以上がよく、100モル%以上が好ましい。50モル%より小さいと、得られる共重合体の水への溶解性が不十分となりやすい。一方、中和度の上限は、200モル%がよく、150モル%が好ましい。200モル%より大きいと、耐水性が不足しやすい傾向がある。
【0046】
上記塩基性物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルキルアミン類、アルカノールアミン類、モルホリン等の塩基性化合物が挙げられる。上記アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、アルキルアミン類の具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン等が挙げられ、アルカノールアミン類の具体例としては、2−アミノ−2−メチルプロパノール等が挙げられる。これらの中でも、低温乾燥時に揮発性を有するアンモニアを用いた場合は、得られる皮膜の耐水性を向上させるために好ましい。また、乳化力をあげるために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0047】
中和反応は、上記共重合体と塩基性化合物を、20〜100℃で0.1〜3時間反応させることにより行われる。
【0048】
また、予め、(A)成分や(C)成分を塩基性化合物で中和しておいて、共重合に用いてもよい。
【0049】
また、上記高分子乳化剤でポリオレフィン等を乳化させた乳化物機械安定性を改良するため、ノニオン性高分子乳化剤の存在下で、共重合を行うのがよい。このノニオン性高分子乳化剤の存在場所としては、重合開始前の重合溶媒中や単量体中があげられる。また、重合途上に、このノニオン性高分子乳化剤を存在させてもよい。さらにまた、重合終了後、中和反応時にノニオン性高分子乳化剤を存在させてもよい。
【0050】
上記ノニオン性高分子乳化剤としては、ポリオキシアルキルエーテル系高分子乳化剤が好ましく、例えば、ポリオキシエチレン系、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドのブロック共重合体系、ポリプロピレンオキサイドとポリブチレンオキサイドのブロック共重合体系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系高分子乳化剤、ポリオキシエチレン系シリコン系高分子乳化剤、ポリオキシエチレン脂肪酸モノもしくはポリグリセリンエステル系高分子乳化剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系高分子乳化剤、ポリエチレングリコール脂肪酸系高分子乳化剤、脂肪酸モノもしくはポリグリセリンエステル系高分子乳化剤、フッ素系ノニオン性高分子乳化剤等があげられる。特にポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドのブロック共重合体系高分子乳化剤、ポリオキシエチレン系高分子乳化剤が好ましい。
【0051】
上記ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドのブロック共重合体系高分子乳化剤は、直鎖構造ありは、分子中に分岐構造を有するものであってもよいが、好ましくは、プロピレンオキサイド部分の両端にポリエチレンオキサイド部が結合しており、かつ、分子の両末端が水酸基である、直鎖構造を有する化合物(一般に「プルロニック型非イオン高分子乳化剤」と称される。)が用いられる。
【0052】
さらに、このブロック共重合体の重量平均分子量は、1000〜6000が好ましく、1200〜4000がより好ましい。重量平均分子量が小さすぎると、エマルジョンの機械剪断安定性が得られなくなるおそれがある。一方、重量平均分子量が6000より大きすぎると、水に溶解しにくくなるため、エマルジョンの安定性を低下させる可能性がある。
【0053】
上記ノニオン性高分子乳化剤の添加量(固形分)は、上記(A)成分〜(E)成分単量体合計重量に対して、1重量%以上が好ましく、2重量%以上がより好ましい。1重量%より少ないと、乳化物機械安定性の改良が不十分となりやすい。一方、添加量の上限は、20重量%であり、15重量%が好ましい。20重量%より多いと、耐水性が悪化することがある。
【0054】
[溶融温度]
このようにして得られた共重合体の溶融温度は、フローテスターによる溶融粘度測定において、1/2法温度が40℃以上であり、50℃以上が好ましく、60℃以上がさらに好ましい。40℃より低いと、高分子乳化剤の乾燥皮膜がブロッキングしやすくなる傾向がある。一方、1/2法温度の上限は、140℃がよく、130℃が好ましい。140℃より高いと、低温造膜性が低下する傾向にある。
【0055】
上記の方法で得られた共重合体は、そのままで、又はこの発明の効果を阻害しない範囲で、防カビ剤、酸化防止剤、UV吸収剤等の添加物を添加することにより、高分子乳化剤となる。
【0056】
この高分子乳化剤は、高分子物質を乳化するための乳化剤として用いることができ、乳化した高分子物質を造膜したとき、低温造膜性、透明性、及び表面平滑性が良好な乾燥皮膜を得やすくなる。また、2種類以上の高分子物質の混練において、相溶化剤として使用することもできる。
【0057】
そのような高分子物質としては、一般の熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、上記の溶融温度測定項目にも述べたように、フローテスターによる溶融粘度測定において、1/2法温度が、140℃以下が好ましい。140℃より高いと、本発明の高分子乳化剤の低温造膜性効果が発揮できないことがある。
【0058】
上記の1/2法温度が140℃以下の熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン等のエチレン、プロピレン等のポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体及びエステルあるいはその塩、エチレン・メタクリル酸共重合体あるいはその塩、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体あるいはその塩、エチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体等のいわゆるエチレンを主体としたエチレン系共重合体、プロピレン・ヘキセン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体等のプロピレンを主体としたプロピレン系共重合体、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、カルナバワックス、フィッシャートロプスワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス及びそれらの酸化物、低分子量ポリアミド、脂肪酸アミド等のアミド化合物、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン、ゴム物質等が挙げられる。
【0059】
上記熱可塑性樹脂をポリオレフィン系樹脂用の塗料もしくは接着剤などとして使用する場合は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂を、上記高分子乳化剤を用いて乳化して、ポリオレフィン系樹脂エマルジョンを得ることが好ましい。
【0060】
これらは、従来、エマルジョンとするのが困難な物質で、有機溶剤に溶解させて用いられたものであり、ポリオレフィン系樹脂用の塗料もしくは接着剤などとして効果が高かったものであるので、上記高分子乳化剤を用いることにより、脱溶剤化が可能となり、環境負荷の小さいポリオレフィン系樹脂用塗料もしくは接着剤を製造することが可能となる。
【0061】
本発明の高分子乳化剤を用いて、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂のエマルジョンを製造する方法としては、溶融したポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂を、上記高分子乳化剤又はその中和物を含有する水中に添加し、ホモミキサーにより均一に撹拌する方法があげられる。最も好ましい態様は、スクリューを2本以上ケーシング内に有する多軸押出機を用い、この多軸押出機のホッパー、あるいは中途供給口より、ポリオレフィン系樹脂を連続的に供給し、これを加熱溶融混練し、さらに、この多軸押出機の圧縮ゾーン、計量ゾーン、脱気ゾーンに設けられた少なくとも1個の供給口より、上記高分子乳化剤又はその中和物を含む水溶液を加圧供給し、これと上記溶融ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂とをスクリューで混練することにより、ダイから、連続的にエマルジョンを押出製造することができる。
【0062】
上記の水の使用量は、得られるエマルジョンの固形分濃度が20〜65重量%となるように用いるのが好ましい。
【0063】
このようにして製造されたエマルジョンは、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂の粒子が、平均粒径5μm以下、粒径が1μm以下のものが10重量%以上、好ましくは20重量%以上の状態で、水に分散しており、25℃における粘度が10〜10,000mPa・s、好ましくは、50〜5,000mPa・sのものである。さらに好ましい粘度は、50〜2,000mPa・sである。
【0064】
このエマルジョンは、用いるポリオレフィン系樹脂の種類にもよるが、塗料、粘着剤、インクのバインダー、接着剤、エマルジョンの改質剤として使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明する。まず、評価方法及び使用した原材料について説明する。
【0066】
<評価方法>
[不揮発分]
各製造例で得られた高分子乳化剤サンプル、又は実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプル約1gを精秤し熱風循環乾燥機105℃×3時間乾燥させた後、デシケーターの中で放冷しその重量測定した。そして、下記の式にしたがい、不揮発分を算出した。
不揮発分[%]=(乾燥後の試料の重量/乾燥前の試料の重量)×100
【0067】
[GPCによる重量平均分子量(Mw)の測定]
サンプルを室温乾燥24時間後、常温減圧下(真空乾燥機LHV−122(タバイエスペック(株)製)を使用)で5時間以上乾燥し、クロロホルム及びメタノールを加え、次にエステル化剤(トリメチルシリルジアゾメタンヘキサン溶液)を室温にて攪拌し溶解するまで放置した(48〜72時間)。その後、室温乾燥させた。
乾燥したサンプルをテトラヒドロフラン(THF)にて0.2%に調整し、これを試料とした。
上記試料を島津製作所(株)製:GPC−6Aを使用し、下記条件にて測定した。
・流速:1ml/min
・カラム:PLゲル10μmミックスB(ポリマー・ラボラトリー社製)
・標準試料:単分散PS(ポリマー・ラボラトリー社製)
・リファレンス:Sumilizer BHT(住友化学(株)製)
・検出器:RI,UV
【0068】
[粘度]
実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプルを500mlのビーカーに取り、VISCOMETER TV−10M(東機産業(株)製、ローターNo.1)を使用し、回転数30rpm、液温25℃の条件下で測定した。
【0069】
[pH]
各製造例で得られた高分子乳化剤サンプル、又は実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプルをガラス電極式水素イオン濃度計 HM−14P(東亜電波工業(株)製)を使用し、試料を液温25℃に調整後、測定した。
【0070】
[粒子径]
実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプルをレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2100(島津製作所(株)製)にて下記条件にて測定した。
・屈折率1.50−0.20i
・体積分布(メディアン径)
【0071】
[溶融温度(1/2法温度)]
各製造例で得られた高分子乳化剤サンプルを室温下で24時間放置した後、室温下で真空乾燥を5時間実施し、これを約1g秤量して試料とし、高架式フローテスター(島津製作所(株)製:CFT−500)を用いて、1/2法温度を測定した。
具体的には、図1に示す高架式フローテスターを用いた。これは、垂直に立てたシリンダ2、このシリンダ2内部を上下動自在のプランジャー(ピストン)1,上記シリンダ2の下端に配されたダイ4、及びこのダイ4を固定するダイ押さえ5からなり、シリンダ2内のプランジャー1の先端面の面積Aは、1cmであり、また、ダイ4に設けられたノズル(排出孔)は、直径1mm、長さ1mmである。
まず、シリンダ2内に上記の秤量された試料3を入れ、プランジャー1をシリンダ2内に挿入する。次いで、プランジャー1の上部に荷重Pとして、10kgfの荷重をかけ、この装置を昇温速度6.0℃/minとなるように加温する。
そして、温度とプランジャー1の降下量とを測定し、両者の関係をグラフ化した。その結果は、図2のプランジャー降下量−温度曲線(フローテスター流出曲線)に示すとおりである。この図2において、試料3がダイ4のノズルより流出する時点の温度を流出開始点(流動開始温度)とし、この流出開始点と、得られたS字曲線の最高点との間の高さをhとしたとき、h/2のときの温度を1/2法温度とした。
【0072】
[造膜性]
実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプルをOPPフィルム(グンゼ(株)製:膜厚50μm)のコロナ処理面にバーコーターにて膜厚10μmになるように塗布し、熱風循環乾燥機にて乾燥した。
80℃×5分間、又は120℃×5分間乾燥させたときのフィルム透明性を、下記の基準で、目視で判断した。
◎:透明性あり,△やや透明性あり,×:透明性なし
【0073】
[接着性評価]
実施例及び比較例で得られた各種エマルジョンサンプルを、ポリプロピレン板(肉厚5mm)上に、乾燥後の皮膜の厚さが10μmとなるように、バーコーターNo.16を用いて塗布した。これを80℃オーブンで5分間加熱乾燥して、皮膜を得た。
得られた皮膜を、JIS−K5400(碁盤目剥離テープ法試験)に準拠し、すきま間隔5mmの碁盤目状の切り傷を付けた後、塗膜上にセロハンテープ(商品名、ニチバン(株)製)を貼り付けた。次いで、このセロハンテープを貼り付けてから1〜2分後、テープの一方の端を持って、直角に引き剥がし、下記の基準で接着性を評価した。
○:切り傷の交点と正方形の一目一目に、剥がれがなかった。
△:剥がれの面積は、正方形面積の65%未満であった。
×:剥がれの面積は、正方形面積の65%以上であった。
【0074】
[機械乳化安定性試験]
実施例および比較例で得られた各種エマルジョンサンプル100gを250mlのポリ瓶に入れ、及びイソプロパノール30gを添加して、撹拌子サイズが2.5cmのマグネチックスターラーで10分間攪拌した。
その後、25℃の恒温槽に3時間放置して、サンプル温度を25℃に設定し、ホモジナイザー((株)日音医理科器械製作所製)のジェネレーターをサンプル液内に漬け、2000rpmの回転数で10分間処理を実施した。処理後のサンプルの外観観察、及びサンプルをガラス板上に1g程度のせて、ガラス棒で引き延ばし、凝集物の有無を確認した。その結果を、下記の基準で評価した。
◎…変化は見られなかった
○…粘度がやや増大した
△…少量の凝集物または粘度が上昇した
×…凝集物発生またはクリーム状になった
【0075】
<原材料>
[(A)成分]
・2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸…共栄社化学(株)製:ライトエステルHO−MS、以下「HOMS」と略する。
・ω−カルボキシ−ポリカプロラクタムモノアクリレート(nはほぼ2)…第一工業製薬(株)製:アロニックスM−5300、以下、「M−5300」と略する。
・アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸…東亜合成化学工業(株)製:ATBS、以下、「ATBS」と略する。
【0076】
[(B)成分]
・メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイド鎖9個)…共栄社化学(株)製:ライトエステル130MA、以下「130MA」と略する。
・メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイド鎖4個)…日本油脂(株)製:ブレンマーPME−200、以下「PME200」と略する。
・メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイド鎖13個)…日本油脂(株)製:ブレンマーPME−550、以下「PME550」と略する。
【0077】
[(C)成分]
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下「AA」と略する。
【0078】
[(D)成分]
・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート…三洋化成工業(株)製:メタクリレートDMA、以下「DMA」と略する。
【0079】
[(E)成分]
・メチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・ラウリルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「SLMA」と略する。
【0080】
[ノニオン性高分子乳化剤]
・ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドブロック共重合体…第一工業製薬(株)、U108、以下「U108」と略する。
【0081】
[熱可塑性樹脂]
・エチレン・酢酸ビニル共重合体…三井・デュポンポリケミカル(株)製、酢酸ビニル含有量:28重量%、融点:74℃、190℃におけるMI(メルトインデックス、荷重:2.16kg):150g/10分、以下「EVA」と略する。
・マレイン化ポリエチレン…エチレン・エチルアクリレート・無水マレイン酸共重合体、住友化学工業(株)製:ボンダインHX8210、無水マレイン酸含量:4重量%、MI:200g/10分、以下「MAH−PE」と略する。
・ポリプロピレン系樹脂…三井化学(株)製、タフマーXM−7070、以下「XM7070」と略する。
【0082】
[その他]
・イソプロパノール…(株)トクヤマ製、以下、「IPA」と略する。
【0083】
<高分子乳化剤の製造>
(製造例1)
[モノマー調整]
50LのステンレスバケツにIPAを添加(添加量は、単量体合計量に対して、5重量%)、攪拌しつつ、氷浴にて冷却を開始した。続いて表1記載の量のMMA、SLMAを添加した。更に、表1記載の量のAA、130MA、HOMSの混合液を添加した。さらに表1記載量のDMAを温度が25℃を超えないように徐々に滴下して、モノマー混合液を作成した。
【0084】
<重合反応>
冷却管、窒素導入管、攪拌機及び滴下ロート及び加熱用ジャケットを装置した100L反応器に、IPA30Kgとイオン交換水20Kgを仕込み、攪拌しながら内温を80℃に調整した。反応容器を窒素置換後、上記モノマー混合溶液4Kgを一括投入した。さらに、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製、以下「AIBN」と略する。)を0.4Kg添加し、重合を開始した。更に残りのモノマー混合液16Kgを4時間かけて滴下して重合を行った。4時間モノマー混合液の滴下を継続する途中で1時間おきに上記重合開始剤を4回、0.12Kgずつ添加した。モノマー混合液滴下終了後、2時間熟成した。
内温80から83℃まで上昇し、IPAを留去しながら水を添加して置換し、25%のアンモニア水(AA、130MA、HOMSの合計量の表1記載の中和度に相当にするように)中和した後、最終的に粘ちょうなアクリル共重合体の中和物の水溶液を得た。(収率97%)。
以下得られた高分子乳化剤を「高分子乳化剤1」と称する。
【0085】
(製造例2〜11)
表1に記載の量の各単量体を用いた以外は、製造例1と同様の方法を用いて、高分子乳化剤2〜11を得た。なお、U108を用いる場合は、モノマー混合溶液を投入した後に、表1に記載の量のU108を投入した。
【0086】
【表1】

【0087】
(実施例1)
[ニーダーによるエマルジョンの製造]
EVA110gを異方向回転非噛合型2軸ニーダー((株)入江商会製:PBV-03型)に100℃溶融させ上記高分子乳化剤1を23g投入5分間混合に、さらにイオン交換水110gを投入し10分間混合し、得られた乳白色のエマルジョンを用いて評価を行った。その結果を表2に示す。
【0088】
(実施例2〜9、比較例1〜2)
高分子乳化剤1の代わりに、高分子乳化剤2〜11を用いた以外は、実施例1と同様の操作を実施して、それぞれの乳白色のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンを用いて、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
(実施例10)
[スクリュー押出機(TEX−30)によるエマルジョンの製造]
EVA83g/minを同方向回転噛合型二軸スクリュー押出機((株)日本製鋼所製:TEX−30、2条ネジ深溝型、L/D=32)のホッパーより連続的に供給した。
また、同押出機のベント部に設けた供給口より、18g/minの高分子乳化剤3で連続的に供給し、同じ場所に101g/minの温水をプランジャーポンプで連続的に供給しながら、加熱温度(シリンダー温度、以下同じ)110〜130℃で連続的に押出し(スクリューの回転数300rpm)、乳白色のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンを用いて、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0091】
(実施例11〜21)
高分子乳化剤3の代わりに、高分子乳化剤5,6,9を用い、樹脂をMAH−PE、XM7070に変更した以外は、実施例10と同等の操作を実施して、それぞれの乳白色のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンを用いて、評価を行った。その結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】1/2法温度の測定に用いるフローテスターの例を示す模式図
【図2】プランジャー降下量−温度曲線
【符号の説明】
【0094】
1 プランジャー
2 シリンダ
3 試料
4 ダイ
5 ダイ押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性二重結合と親水性基とを、その両者間に4〜16個の原子を介在させて結合した構造を有する重合性単量体((A)成分)由来の構造単位を、共重合成分として、5〜20モル%含有し、かつ、ノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体((B)成分)由来の構造単位を、共重合成分として1〜20モル%含有し、かつ、その共重合体のフローテスターによる1/2法温度が40℃以上140℃以下である高分子乳化剤。
【請求項2】
上記の重合性二重結合が、(メタ)アクリロイル基の二重結合である請求項1に記載の高分子乳化剤。
【請求項3】
上記の親水性基が、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、及び酸性リン酸エステル基から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の高分子乳化剤。
【請求項4】
上記(B)成分のノニオン性界面活性基を有するノニオン性単量体が、下記式(1)で示されるノニオン性単量体である請求項1乃至3のいずれかに記載の高分子乳化剤。
−(C2nO)−R …(1)
(式中、R1は、(メタ)アクリロイルオキシ基及び(メタ)アクリロイルオキシエトキシ基から選ばれる基を示し、R2は、H又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜3の整数を示し、mは4〜25の整数を示す。)
【請求項5】
上記(A)成分及び(B)成分以外の共重合成分として、カルボキシル基含有モノマーからなる(C)成分、アミノ基含有モノマーからなる(D)成分、炭素数1〜22の脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルからなる(E)成分を用いる請求項1乃至4の何れかに記載の高分子乳化剤。
【請求項6】
上記の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の各成分の構成比率が、モル比で、(A)/(B)/(C)/(D)/(E)=5〜20/1〜20/10〜40/5〜40/10〜50(但し、全ての合計量を100とする。)である請求項5に記載の高分子乳化剤。
【請求項7】
上記の(A)成分と(C)成分との合計量、及び(D)成分の比率が、モル比で、((A)+(C))/(D)=1.0〜2.0である請求項5又は6に記載の高分子乳化剤。
【請求項8】
上記の(A)成分及び(C)成分に含まれる酸性の親水性基の少なくとも一部が、塩基性物質によって中和されてなる請求項5乃至7のいずれかに記載の高分子乳化剤。
【請求項9】
ノニオン性高分子乳化剤の存在下で、重合して得られる、請求項1乃至8のいずれかに記載の高分子乳化剤。
【請求項10】
上記ノニオン性高分子乳化剤が、ポリオキシアルキルエーテル系高分子乳化剤である請求項9に記載の高分子乳化剤。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の高分子乳化剤を用いポリオレフィン系樹脂を乳化してなるポリオレフィン系樹脂エマルジョン。
【請求項12】
塗料用バインダー又は接着剤に使用される、請求項11に記載のポリオレフィン系樹脂エマルジョン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−172503(P2009−172503A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12799(P2008−12799)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】