説明

高合金管の製造方法

【課題】油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた高合金管を、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって製造する方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.3〜1.0%、Ni:25〜40%、Cr:20〜30%、Mo:0〜4%、Cu:0〜3%、N:0.05〜0.30%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する高合金素管を熱間加工によりあるいはさらに固溶化熱処理することにより作製した後、冷間引抜加工によって高合金管を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス腐食環境や応力腐食環境においても優れた耐食性を発揮すると共に高い強度をも兼ね備えた高合金管の製造方法に関する。本発明によって製造される高合金管は、例えば油井やガス井(以下、合わせて、「油井」と称する。)に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
深井戸や湿潤な炭酸ガス(CO),硫化水素(HS),塩素イオン(Cl)等の腐食性物質を含む過酷な腐食環境で使用される油井に使用される高合金管として、従来から、高Cr−高Ni合金からなる高合金管が使用されている。ところが、近年、油井は深井戸化する傾向が著しく、従来よりも過酷な環境での使用を目的として、特に110〜140ksiグレード(最低降伏強度が757.3〜963.8MPa)と高強度であって、かつ耐食性を有する高強度合金管が要求されている。
【0003】
特許文献1〜4には、高Cr−高Ni合金を熱間加工および溶体化処理後10〜60%の肉厚減少率で冷間加工して高強度の高合金油井管を得る方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献5には、硫化水素環境での耐食性に優れたオーステナイト合金を得るために、La、Al、Ca、S、Oのそれぞれを特定の関係で含有させて介在物の形状を制御して冷間加工することが開示されている。ここでの冷間加工は強度付加のため行うが、耐食性の観点で30%以下の肉厚減少加工を行っている。
【0005】
さらに、特許文献6には、CuとMoの含有量を調整して硫化水素環境での耐SCC性を改善した高Cr−高Ni合金が開示されており、熱間加工後にさらに加工度30%以下の冷間加工で強度を調整するのが好ましいことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭58−6927号公報
【特許文献2】特開昭58−9922号公報
【特許文献3】特開昭58−11735号公報
【特許文献4】米国特許4421571号明細書
【特許文献5】特開昭63−274743号公報
【特許文献6】特開平11−302801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の文献には、冷間加工により高強度とすることができることは開示されているが、高合金管の組成を考慮した冷間加工による高強度化についての具体的な検討はされておらず、目標とする強度、特に降伏強度を得るための適切な成分設計や冷間加工条件については、いずれも、なんら示唆するところがない。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた高合金管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の化学組成を有する高合金材について、最終の冷間引抜加工度を種々に変化させて高合金管を製造し、その引張強度を確認する実験を行った結果、次の(a)〜(g)に示す知見を得た。
【0010】
(a) 深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井に使用される高合金管には、耐食性が要求される。高合金管の基本的な化学組成を、(20〜30%)Cr−(25〜40%)Niとすると、耐食性の観点からはC含有量を下げる必要がある。
【0011】
(b) C含有量を下げると、そのままでは強度が不足することになるが、熱間加工あるいはさらに固溶化熱処理によって形成された高合金素管は、その後の冷間引抜加工により、その強度を向上させることができる。ただし、その際の加工度が断面減少率で40%を超えると、高強度を有するが、加工硬化が発生するため延性や靱性が低下する。また、その際の加工度が断面減少率で10%を下回ると所望の高強度を得ることができない。したがって、冷間引抜加工の際の加工度は断面減少率で10〜40%とする必要がある。
【0012】
(c) そして、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdが断面減少率で10〜40%の範囲においては、(20〜30%)Cr−(25〜40%)Niを基本的な化学組成とする高合金管では、最終の冷間引抜加工での加工度Rdが大きいほど高い降伏強度YSを得られ、その加工度Rdと降伏強度YSが直線関係で表されることが分かった。
【0013】
さらに、高合金管の強度にはN含有量の影響が大きく、高N材ほどより高強度の高合金管を得ることができることも分かった。これは、Nをより多く含有させると、Nによる固溶強化がより多く発現されて、強度が向上するためであると考えられる。
【0014】
図1は、後述する実施例において用いた種々の化学組成を有する高合金管について、断面減少率での加工度Rd(%)と引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)とをプロットしたものである。高N材(N含有量:0.1960質量%)と低N材(N含有量:0.0738〜0.0916質量%)の両方とも、それぞれ、断面減少率での加工度Rdと降伏強度YSが直線関係にあることが示されている。そして、高N材は低N材よりも大きい降伏強度YSが得られることが示されており、N含有量を多くすることによって、より高強度の高合金管を得ることができることが判る。
【0015】
(d) 次に、本発明者らは、高合金管の降伏強度が、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdと高合金管の化学組成に依存するのであれば、この高合金管の目標とする降伏強度を得るために、管加工条件に関連づけた適切な成分設計手法を確立することが可能となると考えた。すなわち、この高合金管の目標とする降伏強度を得るために、高合金管の化学組成による微調整でなく、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdによる微調整が可能となるので、強度レベル毎に合金組成を変更して多種類の高合金を溶製する必要がなくなり、したがって、材料ビレットの在庫を抑制できる。
【0016】
このように、管加工条件に関連づけた適切な成分設計手法が確立できれば、目標とする強度を有する高合金管を得るために、素材の合金組成をその都度変化させなくても、素材の合金組成を考慮して求められる目標とする冷間引抜加工条件、すなわち、目標とする加工度Rdまたはそれ以上の加工度でもって冷間引抜加工をすればよい。
【0017】
(e) このような着想の下で、高合金管の降伏強度と冷間引抜加工を行う際の加工度Rdと高合金管の化学組成との間の相関関係について、鋭意検討と実験を重ねた結果、(20〜30%)Cr−(25〜40%)Niを基本的な化学組成とする高合金管は、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdが断面減少率で10〜40%の範囲においては、降伏強度YS(MPa)は、冷間引抜加工を行う際の加工度Rdと、高合金管の化学組成のうちのCrとMoとNの各成分の含有量に基づいて、次の(2)式に基づいて計算することができることを知見した。
YS=11×(Rd+1.3×Cr+2×Mo+90×N)+83 ・・・・(2)
但し、式中のYSおよびRdはそれぞれ降伏強度(MPa)および断面減少率での加工度(%)を意味し、そして、Cr、MoおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
【0018】
図2は、後述する実施例において用いた種々の高合金管について、化学組成とその断面減少率での加工度Rd(%)を上記(2)式の右辺に代入して得られた値をX軸にとり、そして、実際に引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)をY軸にとって、プロットしたものである。(20〜30%)Cr−(25〜40%)Niを基本的な化学組成とする高合金管であれば、(2)式によって、その化学組成とその断面減少率での加工度Rd(%)から降伏強度を精度良く求めることでできることが示されている。
【0019】
(f) したがって、目標とする強度を有する高合金管を得るためには、素材の合金成分、すなわち、Cr、MoおよびNの含有量で発現される降伏強度を除いた分を冷間引抜加工によって発現すればよいことになる。そして、目標とする降伏強度MYS(110〜140ksiグレード(最低降伏強度が757.3〜963.8MPa))を得るには、高合金管の化学組成を選定した後、上記(2)式から得られる加工度Rd(%)またはそれ以上の加工度でもって最終の冷間引抜加工をすればよいから、最終の冷間引抜加工工程における断面減少率での加工度Rdが10〜40%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工すればよいことになる。
Rd(%)≧(MYS−83)/11−(1.3×Cr+2×Mo+90×N) ・・・・(1)
但し、式中のRdおよびMYSはそれぞれ断面減少率での加工度(%)および目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
【0020】
(g) このように、(20〜30%)Cr−(25〜40%)Niを基本的な化学組成とする高合金管について、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって目標とする降伏強度を得ることができるので、材料コストの低減を図ることができる。さらに、素材の合金組成に合わせて冷間加工条件を選択することで目標とする強度を有する高合金管を得ることができるため、強度レベル毎に合金組成を変更して多種類の高合金を溶製する必要がなくなり、したがって、材料ビレットの在庫を抑制できる。
【0021】
本発明はこのような新たな知見のもとに完成したものであり、その要旨は次に示すとおりである。
【0022】
質量%で、C:0.03%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.3〜1.0%、Ni:25〜40%、Cr:20〜30%、Mo:0〜4%、Cu:0〜3%、N:0.05〜0.30%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する高合金素管を熱間加工によりあるいはさらに固溶化熱処理することにより作製した後、冷間引抜加工によって高合金管を製造する方法であって、最終の冷間引抜加工工程における断面減少率での加工度Rdが10〜40%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工することを特徴とする高合金管の製造方法。
Rd(%)≧(MYS−83)/11−(1.3×Cr+2×Mo+90×N) ・・・・(1)
但し、式中のRdおよびMYSはそれぞれ断面減少率での加工度(%)および目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた高合金管を、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明に係る高合金管の製造方法において用いる高合金鋼の化学組成の限定理由について述べる。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を表す。
【0025】
C:0.03%以下
Cは、その含有量が0.03%を超えると結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での応力腐食割れ感受性が増大する。このため、その上限を0.03%とした。好ましい上限は0.02%である。
【0026】
Si:0.5%以下
Siは、合金の脱酸剤として有効な元素であり、必要に応じて含有させることができる。脱酸剤としての効果は0.05%以上の含有量で得られる。しかしながら、その含有量が0.5%を超えると熱間加工性が低下するため、Si含有量は0.5%以下とした。好ましい範囲は、0.4%以下である。
【0027】
Mn:0.3〜1.0%
Mnは、上記のSiと同様に、合金の脱酸剤として有効な元素であり、オーステナイト相の安定に有効な元素である。その効果は0.3%以上の含有量で得られる。しかし、その含有量が1.0%を超えると熱間加工性が低下する。このため、Mn含有量は0.3〜1.0%とした。好ましい範囲は、0.4〜0.8%である。
【0028】
Ni:25〜40%
Niは、オーステナイト相を安定させ耐食性を維持するために重要な元素である。しかし、その含有量が25%未満では、合金の外表面にNi硫化物皮膜が十分に生成しないので、Niを含有させる効果が得られない。一方、40%を超えて含有させてもその効果は飽和し、合金の価格上昇を招いて経済性を損なうことになる。したがって、Ni含有量は25〜40%とした。好ましい範囲は29〜37%である。
【0029】
Cr:20〜30%
Crは、Niとの共存下で耐応力腐食割れ性に代表される耐硫化水素腐食性を向上させ、固溶強化により高強度化を図るのに有効な成分である。しかし、その含有量が20%未満ではその効果が得られない。一方、その含有量が30%を超えるとその効果は飽和し、熱間加工性の観点からも好ましくない。したがってCr含有量は20〜30%とした。好ましい範囲は23〜27%である。
【0030】
Mo:0〜4%(無添加も含む)
Moは、Ni及びCrとの共存下において、耐応力腐食割れ性を改善させる作用を有するとともに固溶強化により強度向上に寄与するのに有効な成分であるので、必要に応じて含有させることができる。この効果を得たい場合には、0.01%以上含有させるのが好ましい。一方、その含有量が4%以上ではその効果は飽和し、過度の含有は熱間加工性を低下させる。このため、Mo含有量は0.01〜4%とするのが好ましい。より優れた耐応力腐食割れ性を得るには下限を1.5%とするのが好ましい。
【0031】
Cu:0〜3%(無添加も含む)
Cuは、硫化水素環境下での耐硫化水素腐食性を著しく向上させる作用があり、必要に応じて含有させることができる。この効果を得たい場合には、0.1%以上含有させるのが好ましい。しかし、含有量が3%を超えるとその効果は飽和し、逆に熱間加工性が低下する。このため、Cuを含有させる場合には、その含有量は0.1〜3%とするのが好ましい。より好ましくは0.5〜2%である。
【0032】
N:0.05〜0.30%
本発明の高合金は、耐食性の観点からC含有量を下げる必要がある。そのため、Nを積極的に含有させて、耐食性を劣化させることなく、固溶強化により高強度化を図る。また、Nを積極的に含有させることによって、固溶化熱処理後においてより高強度な高合金管を得ることができる。それにより、冷間加工を行う際の加工度(断面減少率)をむやみに高めることなく低加工度でも所望とする強度を確保できるため、高加工度による延性低下を抑制することができる。その効果を得るには0.05%以上の含有が必要である。一方、0.30%を超えると熱間加工性が低下する。そのため、N含有量は0.05〜0.30%以下とした。好ましい範囲は0.06〜0.22%である。なお、より高強度を得たい場合は、N含有量を0.15%以上とするのが好ましい。
【0033】
さらに、不純物として含有される、P,S,Oは下記の理由により、P:0.03%以下、S:0.03%以下、O:0.010%以下に制限するのが好ましい。
【0034】
P:0.03%以下
Pは、不純物として含有されるが、その含有量が0.03%を超えると硫化水素環境での応力腐食割れ感受性が増大する。このため、その上限を0.03%以下とするのが好ましい。さらに好ましい上限は0.025%である。
【0035】
S:0.03%以下
Sは、上記のPと同様に、不純物として含有されるが、その含有量が0.03%を超えると熱間加工性が著しく低下する。このため、その上限値を0.03%とするのが好ましい。さらに好ましい上限は0.005%である。
【0036】
O:0.010%以下
本発明ではN含有量を0.05%〜0.3%以下と多量に含有させるため、熱間加工性が劣化し易い。Oの含有量が0.010%を超えると熱間加工性を劣化させる。そのため、O含有量は0.010%以下とするのが好ましい。
【0037】
本発明に係る高合金鋼は、上記の合金元素の他に、さらにCa、Mgおよび希土類元素(REM)のうちの1種または2種以上を含有してもよい。これらの元素の含有させてもよい理由とそのときの含有量は、次の通りである。
【0038】
Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下および希土類元素:0.2%以下の1種または2種以上
これらの成分は、必要に応じて含有させることができる。いずれも、含有させれば、熱間加工性を阻害するSを硫化物として固着し、熱間加工性を向上させる効果がある。しかしながら、CaおよびMgについてはいずれも0.01%を超えると、そして、REMについては0.2%を超えると、粗大な酸化物が生成し、かえって熱間加工性の低下を招くので、それらの上限は、CaおよびMgについては0.01%、そして、REMについては0.2%とする。なお、この熱間加工性の向上効果を確実に発現させるためには、CaおよびMgについては0.0005%以上、そして、REMについては0.001%以上、含有させるのが好ましい。なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素を意味する。
【0039】
本発明の高合金管は、上記の必須元素あるいはさらに上記の任意元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなるものであり、通常商業的な生産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、合金の溶製は、電気炉、Ar−O混合ガス底吹き脱炭炉(AOD炉)や真空脱炭炉(VOD炉)などを利用することができる。溶製された溶湯は、インゴットに鋳造してもよいし、連続鋳造法で棒状のビレットなどに鋳造してもよい。これらのビレットを用いて、ユジーンセジュルネ法などの押し出し製管法またはマンネスマン製管法などの熱間加工によって、高合金の冷間加工用素管を製造することができる。そして、熱間加工後の素管は、冷間引抜などの冷間加工により所望の強度を有する製品管とする
【0040】
また、本発明では、最終の冷間加工の際の加工度を規定しており、熱間加工で得た冷間加工用素管を、必要により固溶化熱処理を行った後、管表面のスケール除去のデスケーリングを行い、1回の冷間加工で所望の強度を有する高合金管を製造してもよいし、最終の冷間加工の前に1回または複数回の途中の冷間加工を行って固溶化熱処理を行い、デスケーリング後に最終の冷間加工を行ってもよい。途中に冷間加工を行うことで、最終の冷間引抜加工での加工度を調整しやすいと同時に、熱間加工のままで冷間加工を行う場合と比べて、最終の冷間加工でより精度の高い管寸法を有する管を得ることができる。
【実施例1】
【0041】
まず、表1に示す化学組成を有する合金を、電気炉で溶解し、目標の化学組成にほぼ成分調整した後、AOD炉を用いて脱炭および脱硫処理を行う方法で溶製した。得られた溶湯は、重さ1500kg、直径500mmのインゴットに鋳造した。そして、長さ1000mmに切断して押し出し製管用ビレットを得た。次に、このビレットを用いてユジーンセジュルネ法による熱間押出製管法で冷間加工用素管に成形した。
【0042】
【表1】

【0043】
得られた冷間加工用素管を途中抽伸した後、1100℃で2分以上保持後に水冷する条件の溶体化熱処理を施した後、さらに、断面減少率での加工度Rd(%)を表2に示すとおり、種々変更して、プラグとダイスを用いた引抜法による最終の冷間加工を行って、高合金を得た。なお、冷間引抜加工を行う前には、管に対してショットブラストを行い、表面のスケールを除去しておいた。最終冷間加工の前後の管寸法(外径mm×肉厚mm)を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
その後、得られた高合金管から、管軸方向の弧状引張試験片を採取し、引張試験を行った。その結果の実測値を、引張試験での降伏強度(0.2%耐力)YS(Mpa)および引張強度TS(MPa)を、(2)式の右辺の数値とともに表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のとおりであるから、本発明によれば、深井戸や過酷な腐食環境で使用される油井管に要求される耐食性だけでなく、目標とする強度をも兼ね備えた高合金管を、過度に合金成分を添加することもなく、冷間加工条件を選択することによって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】高合金管について、断面減少率での加工度Rd(%)と引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)とをプロットしたものである。
【図2】高合金管について、その化学組成と断面減少率での加工度Rd(%)を上記(2)式の右辺に代入して得られた値をX軸にとり、そして、引張試験で得られた降伏強度YS(MPa)をY軸にとって、プロットしたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.3〜1.0%、Ni:25〜40%、Cr:20〜30%、Mo:0〜4%、Cu:0〜3%、N:0.05〜0.30%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する高合金素管を熱間加工によりあるいはさらに固溶化熱処理することにより作製した後、冷間引抜加工によって高合金管を製造する方法であって、最終の冷間引抜加工工程における断面減少率での加工度Rdが10〜40%の範囲内であってかつ下記(1)式を満足する条件で冷間引抜加工することを特徴とする高合金管の製造方法。
Rd(%)≧(MYS−83)/11−(1.3×Cr+2×Mo+90×N) ・・・・(1)
但し、式中のRdおよびMYSはそれぞれ断面減少率での加工度(%)および目標降伏強度(MPa)を意味し、そして、Cr、MoおよびNはそれぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−24231(P2009−24231A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189540(P2007−189540)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】