説明

高周波発振源

【課題】位相雑音の劣化を抑制することができる高周波発振源を得ることを目的とする。
【解決手段】所定の周波数で発振する基準発振器1と、その基準発振器の出力波が注入されていない場合の発振周波数が、その基準発振器の出力波の周波数の整数倍に設定されている(または設定される)注入同期発振器とを備え、その基準発振器から注入同期発振器に注入される電力を、注入同期発振器の低離調周波数の位相雑音が基準発振器の位相雑音と(同じ周波数で比較した場合に)等しくなるように、かつ高離調周波数の位相雑音が注入電力がない時の注入同期発振器の位相雑音と(同じ周波数で比較した場合に)等しくなるように適切な注入電力とする電力調整手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位相雑音が低い電波を出力する高周波発振源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、フリーラン状態の高周波数帯の発振器は、安定度が低く、位相雑音が高い。
安定度を高めて、位相雑音を低減することが可能な高周波発振源として、位相同期発振器がある。
以下に、位相同期発振器の動作を簡単に説明する。
【0003】
位相同期発振器を構成する電圧制御発振器(以下、「VCO」と称する)の出力波が、緩衝増幅器を介して負荷に供給される一方、その出力波の一部が分周器に入力され、その分周器で1/Nの低周波数に変換される。
その分周器の出力波は、位相比較器によって、安定度の高い水晶発振器の出力波と比較され、それらの出力波の位相差に応じた直流近傍の電圧がループフィルタ(ローパスフィルタ)に入力される。
そのループフィルタにより平滑化された直流電圧は、上記VCOの制御端子に入力され、そのVCOの発振周波数が水晶発振器の発振周波数のN倍に等しい周波数となるように制御される。
これにより、VCOの発振周波数の安定度は水晶発振器の安定度と等しくなる。
また、ループフィルタで決定される帯域により、VCOの低離調周波数の位相雑音が、水晶発振器、位相比較器及び分周器の位相雑音で決定され、高離調周波数の位相雑音が、フリーラン時のVCOの位相雑音となる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
他の高周波発振源としては、注入同期発振器を用いている発振源がある。
この発振器の動作を簡単に説明する。
安定度が高い低周波数帯の周波数シンセサイザを基準源とし、基準源の2倍の周波数で発振するVCOを注入同期発振器として、その周波数シンセサイザの出力波をVCOに注入する。
周波数シンセサイザの出力波をVCOに注入することで、そのVCOの出力波が、注入された周波数シンセサイザの出力波と同期するため、周波数安定度が周波数シンセサイザの安定度と等しくなる。
このとき、VCOの位相雑音は周波数シンセサイザの位相雑音と同等になる(例えば、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】10GHz Band Compact Phase Locked Oscillator with Low Phase Noise, 20th European Microwave Conference, Vol.2, pp.1766-1771, 1990.
【非特許文献2】Millimeter-wave HBT MMIC Synthesizers using subharmonically Injection-Locked Oscillators, GaAs IC Symposium, Technical Digest 1997, 19th Annual, pp.271-274, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の高周波発振源は以上のように構成されているので、位相同期を用いる場合、低離調周波数の位相雑音が、水晶発振器、位相比較器及び分周器の位相雑音で決定される。このため、その位相比較器と分周器の位相雑音によって、位相雑音が劣化してしまう課題があった。
また、注入同期を用いる場合、注入電力がないときの注入同期発振器の発振周波数が基準発振器の出力周波数のN倍(N=1,2,3・・・)と異なるため、注入同期を確立するには高い注入電力が必要であり、注入同期発振器の位相雑音が全離調周波数帯域に渡って、基準発振器と同じとなる。このため、基準発振器として水晶発振器を用いると高離調周波数の位相雑音が高くなり、基準発振器として周波数シンセサイザを用いると、周波数シンセサイザ自体が位相同期を用いているために、低離調周波数の位相雑音が位相比較器及び分周器によって高くなり、位相雑音が劣化してしまう課題があった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、位相雑音の劣化を抑制することができる高周波発振源を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る高周波発振源は、所定の周波数で発振する基準発振器と、その基準発振器の出力波が注入されていない場合の発振周波数が、その基準発振器の出力波の周波数の整数倍に設定されている(または設定される)注入同期発振器とを備え、その基準発振器から注入同期発振器に注入される電力を、注入同期発振器の低離調周波数の位相雑音が基準発振器の位相雑音と(同じ周波数で比較した場合に)等しくなるように、かつ高離調周波数の位相雑音が注入電力がない時の注入同期発振器の位相雑音と(同じ周波数で比較した場合に)等しくなるように適切な注入電力とする電力調整手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、所定の周波数で発振する基準発振器と、その基準発振器の出力波が注入されてない場合の発振周波数が、その基準発振器の出力波の周波数の整数倍に設定されている(または設定される)注入同期発振器とを備え、その基準発振器から注入同期発振器に注入される電力を適切な注入電力とする電力調整手段を備えた構成としたので、同じ周波数で比較して、注入同期発振器の低離調周波数の位相雑音を基準発振器の位相雑音と等しくし、かつ高離調周波数の位相雑音を注入電力がない時の注入同期発振器の位相雑音と等しくすることが可能となり、位相雑音の劣化を抑制することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1による高周波発振源を示す構成図である。
【図2】注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態2による高周波発振源を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態2による高周波発振源の位相雑音モニタ4の詳細を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態3による高周波発振源を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態3による高周波発振源の周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態3による高周波発振源の周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
【図8】基準発振器1及び注入同期発振器2の発振周波数を示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態4による高周波発振源を示す構成図である。
【図10】この発明の実施の形態4による高周波発振源の位相雑音モニタ4及び周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
【図11】この発明の実施の形態4による高周波発振源の位相雑音モニタ4及び周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
【図12】この発明の実施の形態4による高周波発振源の位相雑音モニタ4及び周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による高周波発振源を示す構成図である。
図1において、基準発振器1は周波数fの電波を出力する発振器であり、出力波の周波数(または発振周波数)が固定の発振器でもよいし、出力波の周波数(または発振周波数)が可変可能な電圧制御発振器や電流制御発振器などであってもよい。
また、基準発振器1は、水晶発振器、SAW発振器、あるいは、周波数シンセサイザなどで構成されていてもよい。
なお、基準発振器1の出力周波数fは発振周波数でもよいし、発振周波数の高調波であってもよい。
【0012】
注入同期発振器2は、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の発振周波数fが、基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)に設定されている。基準発振器1の出力波が電力調整器3を介して注入同期発振器2に注入され、注入同期発振器2はその注入された電波に同期して発振する発振器である。
なお、注入同期発振器2は、発振周波数が固定の発振器でもよいし、発振周波数が可変可能な電圧制御発振器や電流制御発振器などであってもよい。
【0013】
電力調整器3は例えば可変アッテネータ、可変抵抗、トランジスタ、ダイオード、共振回路、結合線路などで構成されており、基準発振器1から注入同期発振器2に注入される電波の電力を調整する電力調整手段である。
電力調整器3は、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音とが(同じ周波数で比較した場合において)一致する離調周波数を境にして、その離調周波数より低い低離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が基準発振器1の位相雑音と等しくなるように、かつ、その離調周波数より高い高離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と等しくなるように、注入同期発振器2への注入電力を制御する。
【0014】
なお、電力調整器3は、図1(b)に示すように、逓倍機能を備えていてもよく、例えば、基準発振器1の出力波の周波数fの逓倍数をM(M=1,2,3・・・)にすることで、周波数M・fの電波を注入同期発振器2に注入し、その周波数M・fのL倍(L=1,2,3・・・)の周波数L・M・fの電波が注入同期発振器2から出力されるようにしてもよい。
この場合も、注入同期発振器2の発振周波数(または出力周波数)は、基準発振器1の出力周波数のN倍(N=1,2,3・・・)になる。
【0015】
次に動作について説明する。
基準発振器1は、安定度が高い発振器であり、周波数fで発振する。
注入同期発振器2は、基準発振器1の出力波が電力調整器3を介して注入され、その注入された電波に同期して発振する。
このとき、注入同期発振器2は、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の発振周波数fが、基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)に設定されており、基準発振器1の出力波が注入された場合、発振周波数fは、基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)を維持する。
【0016】
ここで、図2は同じ周波数で比較した場合の注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音を示す説明図である。
電力調整器3は、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音とが一致する離調周波数(図2では、注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音とが交わっている点に対応する離調周波数)より低い低離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が基準発振器1の位相雑音と等しくなるように、かつ、その離調周波数より高い高離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と等しくなるように、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を制御する。
基本的には低い注入電力とすることで、低離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が基準発振器1の位相雑音と等しくなり、かつ高離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と等しくすることが可能となる。これは、注入同期発振器2におけるアドラー(Adler)の式から分かるように、注入電力が低いときの同調帯域幅が狭いためである。
これにより、図2に示すように、低離調周波数では、基準発振器1の低位相雑音特性が得られ、高離調周波数では、注入同期発振器2の低位相雑音特性が得られるため、全離調周波数にわたって低位相雑音特性が得られる。
【0017】
なお、電力調整器3による注入電力の制御は、手動で行なってもよいし、電圧又は電流などで電子的に行なってもよい。
例えば、電力調整器3が可変抵抗であれば、軸を回すことで抵抗値を変化させることができ、電力調整器3が可変アッテネータであれば、電圧によって減衰量を変化させることができる。
また、電力調整器3がトランジスタであれば、バイアス電圧または電流によって利得を変化させることができ、電力調整器3がダイオードであれば、端子間電圧によって容量を変化させることで結合量(通過量)を変えることができる。
これらにより、注入電力を調整することが可能である。
【0018】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、所定の周波数で発振する基準発振器1と、その基準発振器1の出力波が注入されていない場合の発振周波数が、その基準発振器1の出力波の周波数の整数倍に設定されており、基準発振器1の出力波が注入されることで、その注入された電波に同期して発振する注入同期発振器2とを備え、その基準発振器から注入同期発振器に注入される電力を、注入同期発振器の低離調周波数の位相雑音が基準発振器の位相雑音と(同じ周波数で比較した場合に)等しくなるように、かつ高離調周波数の位相雑音が注入電力がない時の注入同期発振器の位相雑音と(同じ周波数で比較した場合に)等しくなるように適切な注入電力とする電力調整手段を備えるように構成したので、位相雑音の劣化を抑制することができる効果を奏する。
【0019】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2による高周波発振源を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
位相雑音モニタ4は注入同期発振器2の位相雑音及び基準発振器1の位相雑音を監視し、所定の離調周波数において、注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音との差分が所定の閾値より低ければ、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を低くする指令を電力調整器3に出力し、その差分が所定の閾値より高ければ、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を高くする指令を電力調整器3に出力する処理を実施する。なお、位相雑音モニタ4は位相雑音モニタ手段を構成している。
【0020】
上記実施の形態1では、電力調整器3が、低離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が基準発振器1の位相雑音と等しくなるように、かつ、高離調周波数では、注入同期発振器2の位相雑音が、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と等しくなるように、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を制御するものを示したが、位相雑音モニタ4の指令の下で、電力調整器3が注入電力を制御するようにしてもよい。
【0021】
以下、位相雑音モニタ4の処理内容を説明する。
位相雑音モニタ4は、例えば、位相雑音のレベルを測定する測定器などから構成されている場合、その測定器によって、注入同期発振器2の位相雑音のレベルを測定するとともに、基準発振器1の位相雑音のレベルを測定する。
注入同期発振器2の位相雑音レベルと基準発振器1の位相雑音レベルが所定の離調周波数において、差分が小さい場合は注入電力が低くなるように電力調整器3を制御し、差分が大きい場合は注入電力が高くなるように電力調整器3を制御する。

【0022】
これにより、注入同期発振器2における所定の離調周波数未満の位相雑音が基準発振器1の位相雑音と等しくなるように電力調整器3が制御され、所定の離調周波数以上の位相雑音が、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と等しくなるように電力調整器3が制御される。
電力調整器3の制御は、位相雑音モニタ4の結果を見ながら、手動または自動で行っても良い。
【0023】
ここでは、位相雑音モニタ4が、位相雑音のレベルを測定する測定器などから構成されている例を示したが、注入同期発振器2及び基準発振器1の出力波を比較し、その差分に応じた直流の出力電圧を検出し、その出力電圧によって電力調整器3を電子的に制御する位相雑音検出回路などから構成されていてもよい。
注入同期発振器2と基準発振器1は低離調周波数では同期しているため位相雑音はコヒーレントであり、その差分はキャンセルされる。
一方、高離調周波数では同期していないため位相雑音はコヒーレントではなく、位相雑音のレベル差に応じた電力が存在し、どの離調周波数帯まで同期しているかが検出可能である。
【0024】
具体的には、位相雑音モニタ4は、図4に示すように、分周器11(図では「÷N」と表記)、ミクサ12、増幅器13、アナログ−ディジタル変換器14(図では「ADC」と表記)、信号処理部15、電圧比較器16、ディジタル−アナログ変換器17(図では「DAC」と表記)及び積分回路18で構成されていてもよい。
なお、ミクサ12、増幅器13、アナログ−ディジタル変換器14及び信号処理部15から雑音差分検出手段が構成されており、電圧比較器16、ディジタル−アナログ変換器17及び積分回路18から指令出力手段が構成されている。
【0025】
位相雑音モニタ4の分周器11は、注入同期発振器2の出力波をN分周し、N分周後の出力波をミクサ12に入力する。
ミクサ12は、分周器11から出力されたN分周後の出力波と基準発振器1の出力波が入力され、それらの位相雑音の差分に応じた電圧値を増幅器13に入力する。
ミクサ12から出力される電圧値は非常に小さい値であるため、増幅器13は、ミクサ12の出力電圧値を増幅し、増幅後の電圧値をアナログ−ディジタル変換器14に入力する。
アナログ−ディジタル変換器14は、増幅器13から出力された増幅後の電圧値をアナログ値からディジタル値に変換し、そのディジタル値を信号処理部15に入力する。
【0026】
信号処理部15は、アナログ−ディジタル変換器14からディジタル値を受けると、そのディジタル値に対する信号処理(例えば、フーリエ変換処理など)を実施することで、離調周波数に対する位相雑音の差分(注入同期発振器2の位相雑音と、基準発振器1の位相雑音との差分)のレベルを検出する。
電圧比較器16は、信号処理部15が位相雑音の差分レベルを検出すると、その差分レベルと所定の閾値を比較し、その差分レベルが閾値より低ければ、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を低くするために、その差分レベルと閾値の差に相当する電圧値をディジタル−アナログ変換器17に入力する。
一方、その差分レベルが閾値より高ければ、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を高くするために、その差分レベルと閾値の差に相当する電圧値をディジタル−アナログ変換器17に入力する。
【0027】
ディジタル−アナログ変換器17は、電圧比較器16から出力された電圧値をディジタル値からアナログ値に変換し、そのアナログ値を積分回路18に入力する。
積分回路18は、ディジタル−アナログ変換器17から出力されたアナログ値を積分し、その積分値を注入電力の上げ指令又は下げ指令として電力調整器3に入力する。
【0028】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、位相雑音モニタ4が、注入同期発振器2の位相雑音及び基準発振器1の位相雑音を監視し、注入同期発振器2の位相雑音と基準発振器1の位相雑音との差分が所定の閾値より低ければ、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を低くする指令を電力調整器3に入力し、その差分が所定の閾値より高ければ、基準発振器1から注入同期発振器2への注入電力を高くする指令を電力調整器3に入力するように構成したので、注入同期発振器2における所望の離調周波数未満の位相雑音が基準発振器1の位相雑音と等しくなるように、かつ、所望の離調周波数以上の位相雑音が、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の位相雑音と等しくなるように電力調整器3が制御され、その結果、位相雑音の劣化を抑制することができる効果を奏する。
【0029】
実施の形態3.
図5はこの発明の実施の形態3による高周波発振源を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
周波数設定器5は注入同期発振器2の出力波の周波数fを監視し、基準発振器1の出力波が注入同期発振器2へ注入されていないとき、その周波数fが基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)になるように注入同期発振器2を制御する処理を実施する。なお、周波数設定器5は周波数設定手段を構成している。
【0030】
図6はこの発明の実施の形態3による高周波発振源の周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
図6(a)は位相同期確立前の状態を示し、図6(b)は位相同期確立後の状態を示している。
図6において、位相同期回路21は注入同期発振器2の出力波を分周して、分周後の出力波と基準発振器23の出力波との位相を比較し、その位相差に応じた制御電圧を出力して、注入同期発振器2に対して位相同期を確立する処理を実施する。
【0031】
位相同期回路21の分周器22(図では「÷N」と表記)は注入同期発振器2の出力波をN分周し、N分周後の出力波を位相比較器24に入力する処理を実施する。
基準発振器23は周波数fの信号を出力する発振器であり、周波数fの出力波を位相比較器24に入力する。
図6の例では、位相同期回路21が基準発振器23を実装しているが、図7に示すように、基準発振器1の出力波を分配し、その一部の出力波を位相比較器24に入力するようにしてもよい。
【0032】
位相比較器24は分周器22から出力されたN分周後の出力波と基準発振器23(または、基準発振器1)の出力波との位相を比較し、その位相差に応じた電圧値をループフィルタ25(図では「LF」と表記)に入力する処理を実施する。
ループフィルタ25は位相比較器24から出力された電圧値を平滑化し、平滑化後の電圧値(制御電圧)を出力する処理を実施する。
【0033】
電圧源26は位相同期回路21から位相同期の確立時に出力されていた制御電圧と等しい制御電圧を出力する電源である。
スイッチ27は図示せぬ制御回路又は位相同期回路21の制御の下、位相同期が確立するまでの期間中はオン状態であり、位相同期の確立後にオフ状態になる開閉器である。
スイッチ28は図示せぬ制御回路又は位相同期回路21の制御の下、位相同期が確立するまでの期間中はオフ状態であり、位相同期の確立後にオン状態になる開閉器である。
スイッチ27,28によって、位相同期が確立するまでの期間は、位相同期回路21から出力された制御電圧が注入同期発振器2の制御端子に与えられ、位相同期の確立後は電圧源26から出力された制御電圧が注入同期発振器2の制御端子に与えられる。
【0034】
上記実施の形態1では、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の出力波の周波数fが、基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)に設定されているものを示したが、周波数設定器5が、注入同期発振器2の出力波の周波数fを監視し、その出力波の周波数fが基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)になるように注入同期発振器2を制御するようにしてもよい。
【0035】
以下、周波数設定器5の処理内容を説明する。
周波数設定器5の位相同期回路21による位相同期が確立する前は、スイッチ27がオン状態で、スイッチ28がオフ状態である。
位相同期回路21の分周器22は、注入同期発振器2の出力波をN分周し、N分周後の出力波を位相比較器24に入力する。
【0036】
位相比較器24は、分周器22が注入同期発振器2の出力波をN分周すると、N分周後の出力波と基準発振器23(または、基準発振器1)の出力波との位相を比較し、その位相差に応じた電圧値をループフィルタ25に出力する。
ループフィルタ25は、位相比較器24から電圧値を受けると、その電圧値を平滑化して、平滑化後の電圧値を制御電圧として注入同期発振器2の制御端子に与える。
【0037】
位相同期回路21による位相同期が確立すると、スイッチ27がオン状態からオフ状態になり、スイッチ28がオフ状態からオン状態になる。
電圧源26は、位相同期回路21から位相同期の確立時に出力されていた制御電圧と等しい制御電圧を注入同期発振器2の制御端子に与える。
これにより、注入同期発振器2の出力波の周波数fが、図8に示すように、基準発振器23の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)に設定されるようになる。
【0038】
一般的に、位相同期よりも注入同期の方が同期速度は速いが、図6に示すように、位相同期回路21を用いることで、同期速度が制限される。しかし、位相同期のみの場合と比較して、同期速度を高めるためにループ帯域を広げても最終的な位相雑音特性に影響を及ぼさないため高速化が可能である。
【0039】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、周波数設定器5が、注入同期発振器2の出力波の周波数fを監視し、その出力波の周波数fが基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)になるように注入同期発振器2を制御する構成にしたので、基準発振器1の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器2の出力波の周波数fが、確実に、基準発振器1の出力波の周波数fのN倍(N=1,2,3・・・)に設定され、その結果、電力調整器3の制御により位相雑音の劣化を抑制することができる効果を奏する。
【0040】
実施の形態4.
図9はこの発明の実施の形態4による高周波発振源を示す構成図であり、図において、図3及び図5と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
上記実施の形態2では、位相雑音モニタ4が実装され、上記実施の形態3では、周波数設定器5が実装されている高周波発振源を示したが、図9に示すように、位相雑音モニタ4と周波数設定器5が高周波発振源に実装されていてもよい。
なお、位相雑音モニタ4の処理内容は上記実施の形態2と同様であり、周波数設定器5の処理内容は上記実施の形態3と同様である。
図10〜図12は高周波発振源の位相雑音モニタ4及び周波数設定器5の詳細を示す構成図である。
【0041】
この実施の形態4によれば、低離調周波数では、基準発振器1の低位相雑音特性が得られ、高離調周波数では、注入同期発振器2の低位相雑音特性が得られるため、全離調周波数にわたって低位相雑音特性が得られる。
【0042】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 基準発振器、2 注入同期発振器、3 電力調整器、4 位相雑音モニタ(位相雑音モニタ手段)、5 周波数設定器(周波数設定手段)、11 分周器、12 ミクサ(雑音差分検出手段)、13 増幅器(雑音差分検出手段)、14 アナログ−ディジタル変換器(雑音差分検出手段)、15 信号処理部(雑音差分検出手段)、16 電圧比較器(指令出力手段)、17 ディジタル−アナログ変換器(指令出力手段)、18 積分回路(指令出力手段)、21 位相同期回路、22 分周器、23 基準発振器、24 位相比較器、25 ループフィルタ、26 電圧源、27,28 スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で発振する基準発振器と、上記基準発振器の出力波が注入され、上記出力波に同期して発振する注入同期発振器とを備えた高周波発振源において、
上記基準発振器の出力波が注入されていない場合の上記注入同期発振器の出力波の周波数が、上記基準発振器の出力波の周波数の整数倍に設定され、
上記基準発振器から上記注入同期発振器への注入電力を調整する電力調整手段を設けたことを特徴とする高周波発振源。
【請求項2】
電力調整手段は、基準発振器の出力波が注入されていない場合の注入同期発振器の位相雑音と上記基準発振器の位相雑音とが同じ周波数で比較して一致する離調周波数を境にして、上記離調周波数より低い低離調周波数では、上記注入同期発振器の位相雑音が上記基準発振器の位相雑音と同じ周波数で比較して等しくなるように、かつ、上記離調周波数より高い高離調周波数では、上記注入同期発振器の位相雑音が、上記基準発振器の出力波が注入されていない場合の上記注入同期発振器の位相雑音と等しくなるように、上記基準発振器から上記注入同期発振器への注入電力を制御することを特徴とする請求項1記載の高周波発振源。
【請求項3】
注入同期発振器の位相雑音及び基準発振器の位相雑音を監視し、上記注入同期発振器の位相雑音と上記基準発振器の位相雑音の同じ周波数における差分が所定の閾値より低ければ、上記基準発振器から上記注入同期発振器への注入電力を低くする指令を上記電力調整手段に入力し、上記差分が所定の閾値より高ければ、上記基準発振器から上記注入同期発振器への注入電力を高くする指令を上記電力調整手段に入力する位相雑音モニタ手段を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の高周波発振源。
【請求項4】
位相雑音モニタ手段は、注入同期発振器の出力波を分周する分周器と、上記分周器により分周された出力波と基準発振器の出力波の離調周波数に対する位相雑音の差分レベルを検出する雑音差分検出手段と、上記雑音差分検出手段により検出された位相雑音の差分レベルが所定の閾値より低ければ、上記基準発振器から上記注入同期発振器への注入電力を低くする指令を上記電力調整手段に入力し、上記位相雑音の差分レベルが所定の閾値より高ければ、上記基準発振器から上記注入同期発振器への注入電力を高くする指令を上記電力調整手段に入力する指令出力手段とから構成されていることを特徴とする請求項3記載の高周波発振源。
【請求項5】
雑音差分検出手段は、ミクサと、増幅器と、アナログ−ディジタル変換器と、信号処理部とから構成され、
指令出力手段は、電圧比較器と、ディジタル−アナログ変換器と、積分回路とから構成されており、
上記ミクサの第1の入力端子に基準発振器の出力の一部が入力され、
上記ミクサの第2の入力端子に分周器の出力が入力され、
上記ミクサの出力端子は上記増幅器の入力端子に接続され、
上記増幅器の出力端子は上記アナログ−ディジタル変換器の入力端子に接続され、
上記アナログ−ディジタル変換器の出力端子は上記信号処理部の入力端子に接続され、
上記信号処理部の出力端子は上記電圧比較器の入力端子に接続され、
上記電圧比較器の出力端子は上記ディジタル-アナログ変換器の入力端子に接続され、
上記ディジタル-アナログ変換器の出力端子は上記積分回路の入力端子に接続され、
上記積分回路の出力により、
電力調整手段が制御されることを特徴とする請求項4記載の高周波発振源。
【請求項6】
注入同期発振器の出力波の周波数を監視し、基準発振器からの出力波が上記注入同期発振器へ注入されていないときに、上記注入同期発振器の出力波の周波数が上記基準発振器の出力波の周波数の整数倍になるように上記注入同期発振器を制御する周波数設定手段を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の高周波発振源。
【請求項7】
周波数設定手段は、注入同期発振器の出力波を分周して、分周後の出力波と基準発振器または上記基準発振器の代用となる他の基準発振器の出力波との位相を比較し、その位相差に応じた制御電圧を出力して、上記注入同期発振器に対して位相同期を確立する位相同期回路と、上記位相同期回路から位相同期の確立時に出力されていた制御電圧と等しい制御電圧を出力する電圧源と、位相同期が確立するまでの期間は上記位相同期回路から出力された制御電圧を上記注入同期発振器に与え、位相同期の確立後は上記電圧源から出力された制御電圧を上記注入同期発振器に与えるスイッチとから構成されていることを特徴とする請求項6記載の高周波発振源。
【請求項8】
電力調整手段は、基準発振器から注入同期発振器への注入電力を調整する際、上記基準発振器の出力波の周波数をM逓倍(M=1、2、3、...)し、M逓倍後の出力波を上記注入同期発振器に注入することを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1項記載の高周波発振源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−244586(P2012−244586A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116027(P2011−116027)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】