説明

高周波誘導加熱装置および高周波誘導加熱装置の製造方法

【課題】ワークコイルの周囲におけるグロー放電の発生を抑制する。
【解決手段】高周波誘導加熱装置は、ワークコイルの被加熱部と対向する側を除く周囲を導電体で覆と共に、導電体とワークコイルとの空間に熱伝導性の良好な誘電体材料を充填した構成とし、この導電体を接地することで、ワークコイルの電位を静電遮蔽することによって、ワークコイルの周囲におけるグロー放電の発生を抑制し、ワークコイルを覆う誘電体の厚さを薄くする。ワークコイルと導電体との間を、ワークコイルを支持する誘電体ベースと、誘電体ベースとワークコイルとの間を充填する充填材とによって構成し、誘電体材のポッティングすることで充填材を誘電体ベースとワークコイルとの間に充填し、充填した誘電体材内に含まれる気体を減圧による脱泡させることで、ワークコイルと誘電体材との間に隙間無く、高い密着度で、ワークコイルの周囲に誘電体材を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導加熱装置に関し、スパッタリング装置、CVD装置、アッシング装置、エッチング装置、MBE装置、蒸着装置などの装置における基板加熱に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置、CVD装置、アッシング装置、エッチング装置、MBE装置、蒸着装置では、基板を所定温度に加熱する場合がある。この基板を加熱する加熱機構として、ランプヒータ、シーズヒータ等の発熱体を使用するものが知られている。このような発熱体を使用した加熱機構では、被加熱部以外の温度上昇が避けられないという課題がある。
【0003】
また、高周波誘導を利用した加熱機構も知られている。高周波誘導加熱による加熱機構は、高周波電流をワークコイル(加熱コイル)に印加して高周波磁束を発生させ、この高周波磁束によって被加熱部に誘導電流(渦電流)を誘導し、この誘導電流が被加熱部を流れることによるジュール損によって発熱させるものである。加熱機構は、この発熱によって被加熱部を加熱し、さらにこの被加熱部を介して基板等の物体を加熱する。このような高周波誘導を使用した加熱装置としては、例えば特許文献1〜3が知られている。
【0004】
高周波誘導加熱を半導体成膜装置に利用した例として、例えば特許文献4が知られている。この特許文献4に記載される半導体成膜装置では、高周波誘導加熱を利用して固体原料を昇華温度以上まで加熱し、昇華拡散現象を用いて被成膜物上に成膜している。
【0005】
【特許文献1】特開2004−342450号
【特許文献2】特開2004−289012号
【特許文献3】特開平06−151314号
【特許文献4】特開2004−47658号
【特許文献5】特願2007−103885号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高周波誘導加熱は、ワークコイルが発生する磁界が被加熱部を通過するとき、この磁界の通過によって被加熱部に渦電流が流れ、この渦電流によって被加熱部が発熱することを利用するものである。この誘導加熱の効率は、被加熱部と磁束との結合度合いよって定まり、また、被加熱部を通過する磁束量はワークコイルと被加熱部との距離が短いほど大きくなるため、ワークコイルと被加熱部とはできるだけ近接して配置することが望ましい。
【0007】
真空等の減圧環境下において、高周波誘導加熱で被加熱部を加熱する場合には、ワークコイルを大気側とし被加熱部のみを減圧状態とする態様の他に、被加熱部とワークコイルとを共に減圧状態とする態様がある。
【0008】
被加熱部を真空中に配置し、ワークコイルを大気側に配置する場合には、被加熱部側を真空状態に保持させるために、ワークコイルと被加熱部との間に誘電体部材を配置する必要がある。ワークコイルと被加熱部との間の距離は、誘電体部材によって制限されるため、両者を近接配置することが難しい。
【0009】
一方、被加熱部と共にワークコイルを真空中に配置すると、ワークコイル周辺の空間でグロー放電やアーキング(異常放電)が発生する場合がある。グロー放電が発生すると、ワークコイルによる磁界の形成が不十分となり、被加熱部に十分な誘導電流を供給することができず、良好な加熱が困難となるという問題が生じる。
【0010】
例えば、高周波誘導加熱で利用する電源周波数を100kHzから500kHzとする場合、高周波誘導加熱とすることによって無効電力を抑制し、かつ加熱効率を良とすることができる他、電源構成を安価とすることができ、また、給電も比較的容易に行うことができるという利点がある。しかしながら、高周波誘導加熱を真空中で行う場合は、コイル電圧が高いため、高周波誘導による電界成分によって被加熱部や周辺部材との間で容量結合が発生し、グロー放電が発生し易くなる。
【0011】
本発明の出願人は、真空中において、被加熱部とワークコイルとの間に電界シールドを設けることで、被加熱部とワークコイルとの間におけるグロー放電の発生を抑制し、これによって被加熱部とワークコイルとを近接配置する構成を出願している(特許文献5参照)。
【0012】
この特許文献5による構成は、主に被加熱部とワークコイルとの間におけるグロー放電の発生を抑制することを目的とするものであるため、例えば、ワークコイルを保持する部材などの高周波誘導加熱装置の被加熱部以外の部分との間で発生するグロー放電の抑制効果は十分とは言い難い。
【0013】
このワークコイルとワークコイルの周囲との間で発生するグロー放電やアーキングを抑制するために、ワークコイルの周囲を誘電体で覆うことが考えられる。例えば、特許文献2には、ワークコイルを樹脂で覆う構成が示されている。
【0014】
しかしながら、誘電体のみによってグロー放電やアーキングの発生を抑制するには、誘電体の厚さを十分にとる必要があり、高周波誘導加熱装置のサイズが大型となり、また、重量が重くなるという問題が生じる。また、この構成では、ワークコイルを一体構成の樹脂で覆う構成であるため、ワークコイルと樹脂材の間に隙間を形成することなく形成することは困難であるという問題もある。
【0015】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、ワークコイルの周囲におけるグロー放電の発生を抑制することを目的とする。
【0016】
また、ワークコイルの周囲におけるグロー放電の発生を抑制することができる高周波誘導加熱装置を簡易に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の高周波誘導加熱装置は、ワークコイルの被加熱部と対向する側を除く周囲を導電体で覆うと共に、導電体とワークコイルとの空間に熱伝導性の良好な誘電体材料を充填した構成とし、この導電体を接地することで、ワークコイルの電位を静電遮蔽することによって、ワークコイルの周囲におけるグロー放電の発生を抑制する。また、ワークコイルを接地した導電体で覆う構成とすることで、グロー放電を抑制するに要するワークコイルを覆う誘電体の厚さを薄くすることができる。
【0018】
また、本発明は、ワークコイルと導電体との間を、ワークコイルを支持する誘電体ベースと、誘電体ベースとワークコイルとの間を充填する充填材とによって構成し、誘電体材でポッティングすることで充填材を誘電体ベースとワークコイルとの間に充填し、充填した誘電体材内に含まれる気体を減圧による脱泡させることで、ワークコイルと誘電体材との間に隙間無く、高い密着度で、ワークコイルの周囲に誘電体材を設けることができる。
【0019】
本発明は高周波誘導加熱装置の態様と高周波誘導加熱装置の製造方法の態様を備える。
【0020】
本発明の高周波誘導加熱装置は、減圧環境で使用する高周波誘導加熱作用を利用した加熱機構において、高周波電力の供給を受け、この高周波誘導によって被加熱部に誘導電流を流して加熱するワークコイルと、ワークコイルを支持する誘電体ベースと、被加熱部と対向する面を除く誘電体ベースの周囲を覆う導電体箱とを備え、この導電体箱を接地して零電位とし、ワークコイルを静電遮蔽する。
【0021】
誘電体ベースとワークコイルとの間の空間は、熱伝導性の良好な誘電体材から成る充填材を充填する。これによって、導電体箱内においてワークコイルの周囲は、誘電体ベースと充填材との2種類の誘電体材によって隙間が形成されること無く満たされ、グロー放電やアーキングの発生要因となる空間を、簡易に無くすことができる。
【0022】
また、導電体箱と誘電体ベースとの間の空間がある場合には、この空間部分に充填材を充填してもよく、これによって、導電体箱と誘電体ベースとの間でのグロー放電やアーキングの発生を抑制することができる。
【0023】
本発明のワークコイルは、内部に冷却水を通水可能とする例えば銅製のパイプ等の金属管で形成することができ、これによって被加熱部からの輻射熱等で加熱された高周波誘導加熱装置を冷却することができる。
【0024】
また、導電体箱とワークコイルとの空間を熱伝導性の良好な誘電体材で隙間無く充填することによって、誘電体ベース、導電体箱、充填材を同時に効率よく冷却することができる。この構成によれば、高価な高耐熱性材料を用いることなく安価な誘電体材で構成することができる。また、被加熱部からの輻射熱による熱的な損傷を抑制することができる。
【0025】
本発明の誘電体ベースは、ワークコイルを収納する空間を有して所定形状に成形される成形体であり、PET(ポリエチレンテレフタレート)等によって形成することができる。また、充填材は、誘電体ベースの収納空間内に誘電体材をポッティングし、ポッティングした誘電体材内に含まれる気体を減圧により脱泡する。脱泡することで、充填材内でのグロー放電やアーキングの発生を抑制することができる。
【0026】
本発明の導電体箱は、誘電体ベースの外周面に導電性薄板を貼り付けることで構成することができる。この導電体箱を構成する導電性薄板は、分割した複数枚の導電性薄板ユニットで構成することができる。導電性薄板を分割し、分割した複数枚の導電性薄板ユニットを誘電体ベースの周囲に貼り合わせることで、導電体箱を簡易に形成することができる他、誘電体ベースと導電体箱との間に隙間を形成することなく形成することができる。仮に、導電体箱を一体の導電板で構成した場合には、誘電体ベースの外形寸法および外形形状に合わせて形成する必要があるが、本発明のように分割することで、誘電体ベースの外形寸法や外形形状に対する依存性を減らすことができ、簡易に形成することができると共に、誘電体ベースと導電体薄板とに隙間無く容易に貼り付けることができる。
【0027】
また、導電体薄板の厚さを例えば、0.01mm程度で静電遮蔽の効果を奏することができる。導電体薄板を例えばアルミニウムの極薄箔を用いて形成した場合、ワークコイルからの磁界による誘電加熱作用を受けにくいため、より小さな誘電体ベースとして、ワークコイルと導電体箱との距離が短い構成であっても、誘電加熱作用を受けることなく静電遮蔽効果を得ることができる。
【0028】
また、本発明の高周波誘導加熱装置は、ワークコイルの少なくとも高周波電力供給側の一端を覆う絶縁体筒を設け、この絶縁体筒によって誘電体ベースを気密封止する。ワークコイルの少なくとも高周波電力供給側の一端は、誘電体ベースと外部との境界を形成する部分となるが、この部分にワークコイルを覆って絶縁体筒を設けることで、ワークコイルの周囲と誘電体ベースとの間の隙間を無くし、この部分でのグロー放電やアーキングの発生を抑制する。
【0029】
本発明の高周波誘導加熱装置は、ワークコイルの両端部を導電体箱および誘電体ベースに保持するアダプタフランジを備える。このアダプタフランジは、導電体箱と誘電体ベースとが接続された状態において、誘電体ベース内でワークコイルを保持する空間部分と連通する開口部を備える。この開口部は、誘電体ベース内のワークコイルを保持する空間部分に充填材を投入する投入口、および誘電体ベース内の空間を減圧するための排気を行う排気口として用いることができる。
【0030】
また、本発明の高周波誘導加熱装置が備える導電体箱は、ワークコイルから発生する磁束が十分に低減し誘導加熱されない位置に設置する。
【0031】
本発明の高周波誘導加熱装置の製造方法は、高周波電力の供給を受け、高周波誘導によって被加熱部に誘導電流を流して加熱するワークコイルと、ワークコイルを支持する誘電体ベースと、被加熱部と対向する面を除く誘電体ベースの周囲を覆う接地された導電体箱とを備え、誘電体ベースとワークコイルとの間の空間を熱伝導性の良好な誘電体材から成る充填材とを備える高周波誘導加熱装置を製造する製造方法であり、誘電体ベースの開放面を真空密閉するフランジを備え、このフランジは、誘電体ベースの露出面と密着するPTFEからなる第1のフランジと、第1のフランジの他方の面と密着する金属材からなる第2のフランジとを有する。
【0032】
第1のフランジは誘電体ベースの露出面と密着すると共に複数の開口部を有し、第2のフランジは減圧室を構成する。第1のフランジと第2のフランジとを重ね合わせて誘電体ベースに密着させることにより、誘電体ベースとワークコイルとの間の空間を密封状態とし、第1のフランジの開口部を介して第2のフランジの減圧室の減圧によってこの空間を減圧して、空間内に充填した充填材を脱泡する。
【0033】
本発明の高周波誘導加熱装置の製造方法において、誘電体ベースとワークコイルとの間の空間をフランジによって密封状態に保持し、これによって、導電体箱とフランジで囲まれた内部を気密状態とし、容易に内部を減圧状態とすることができる。導電体箱とフランジで囲まれた内部を減圧することによって、内部に充填された充填材中に含まれる気体を脱泡することができる。この脱泡は、高周波誘導加熱装置の全体を減圧室内に導入することなく行うことができるため、減圧のための装置構成を簡易なものとすることができる。
【0034】
密封状態は、誘電体ベースとワークコイルとの間の空間の他に、電体箱と誘電体ベースとの間の空間についても適用することができる。
【0035】
また、高周波誘導加熱装置の全体を減圧室内に導入する場合には排気する容積が多くなるが、本発明の構成によれば、導電体箱とフランジで囲まれた内部の内で、誘電体ベースおよびワークコイルを除く空間で済むため、排気する容積を少なくすることができ、減圧に要する時間を短縮することができる。
【0036】
本発明の構成によれば、誘電体ベースとワークコイルとの間の空間をフランジ等で蓋をすることで簡易に密封状態とし、誘電体ベース内の空間にポッティングで充填した充填材を減圧で脱泡する。
【0037】
フランジによる密封は、フランジと誘電体ベースとの間、重ね合わせるフランジ間の気密で行われ、この気密状態はOリングあるいは平面材パッキングを用いて行うことができる。フランジは第1のフランジと第2のフランジを重ね合わせる構成とすることができる。
【0038】
Oリングによる密封では、第1のフランジ又は誘電体ベースの少なくとも何れか一方、および第1のフランジ又は第2のフランジの少なくとも何れか一方にOリング溝を備え、このOリング溝内にOリングを設ける。これによって、第1のフランジと誘電体ベースとの対向面、および第1のフランジと第2のフランジの対向面は、間にOリングを挟んで重ね合わさることになり、気密性が保持される。
【0039】
平面材パッキングよる密封では、第1のフランジと誘電体ベースとの間、および第1のフランジと第2のフランジとの間に平面パッキンを挿入し、第1のフランジと誘電体ベースの対向面の少なくとも何れか一方の面、および、第1のフランジと第2のフランジの対向面の少なくとも何れか一方の面をシール面とする。これによって、第1のフランジと誘電体ベースとの対向面、および第1のフランジと第2のフランジの対向面は、平面パッキンによるシール面を間に挟んで重ね合わさることになり、気密性が保持される。
【0040】
このフランジで気密状態となる誘電体ベースの空間内に充填材をポッティングし、さらにポッティングした充填材を減圧で脱泡するために、第1のフランジと第2のフランジは、重ね合わせた状態において連通する位置にそれぞれ開口部を備える。この両フランジの開口部を通して充填材の投入し、排気を行う。排気することによって減圧し、充填材を脱泡する。
【0041】
また、第2のフランジに対して、真空装置と接続する接続フランジを備える構成とし、この接続フランジは、第2のフランジと重ね合わせた状態において、第2のフランジが備える開口部と連通する位置に開口部を備え、両開口部を通して充填材の投入および真空排気を行う構成としてもよい。
【0042】
さらに、ワークコイルの両端部を前記導電体箱および誘電体ベースに保持するアダプタフランジを備える構成において、このアダプタフランジは、導電体箱および誘電体ベースを接続した状態において、誘電体ベースとワークコイルとの間に形成される空間と連通する開口部を備える。この開口部を通して充填材の投入、および誘電体ベース内の空間を減圧するための排気を行う。
【0043】
このアダプタフランジの開口部を通して充填材の投入し、排気を行う。排気することによって減圧し、充填材を脱泡する。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、ワークコイルの周囲におけるグロー放電の発生を抑制する高周波誘導加熱装置を簡易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。図1〜図3は、本発明の高周波誘導加熱装置の構成を説明するための図であり、図1、図2は本発明の高周波誘導加熱装置を真空室内に配置して構成を示すブロック図であり、図3は本発明の高周波誘導加熱装置の構成を説明するための断面図である。
【0046】
図1、図2において、本発明の高周波誘導加熱装置1は、ワークコイル20と、基板100を支持する導電性の平板状のサセプタ70(被加熱部)とを備え、高周波電源からワークコイル20に高周波電流を供給することによってサセプタ(被加熱部)70に誘導電流を発生させ、この誘導電流によってサセプタ70を加熱し、サセプタ70上に支持する基板100を加熱する。高周波誘導加熱装置1は例えば1000Pa以下の減圧環境で使用される。
【0047】
ここで、ワークコイル20は、高周波電源22から高周波電流の供給を受ける。高周波電源22から高周波電流を供給する際に、高周波電源22とワークコイル20との間にマッチング回路を介し、これによって入力インピーダンス及び出力インピーダンスを整合し、高周波電源22からワークコイル20への高周波電流の供給効率を向上させることができる。なお、高周波電源22は、例えば、商用電源等の交流電源から取り込む電力を制限する電力制限回路(図示していない)、取り込んだ電力の周波数を例えば、100kHzから500kHzの高周波に高める高周波発生回路により構成することができる(図示していない)。また、サセプタ70は支持部60によって支持される。支持部60は、例えば、誘電体材料からなる3本以上のアーム部材で構成することができる。
【0048】
本発明の高周波誘導加熱装置1は、ワークコイル20と被加熱部を構成するサセプタ70との間に電界シールド40を配置し、ワークコイル20に高周波電流を流すことで発生する電界と磁界の内で、電界をシールドして磁界のみをサセプタ70に導く。電界シールド40を通過した磁界は、サセプタ70に誘導電流を流して加熱を行う。
【0049】
電界シールド40はサセプタ70と共にグラウンドに接地して接地電位とする。電界シールド40はサセプタ70との間に電位差を無くし、電界シールド40とサセプタ70との間の空間部80におけるグロー放電の発生を抑制する。
【0050】
また、電界シールド40に接して熱輻射低減材50を配置する。この熱輻射低減材50は、耐熱ガラスまたは石英ガラスとすることができる。加熱されたサセプタ70からは、輻射によって熱が放出される。熱輻射低減材50は、このサセプタ70から放出されて電界シールド40やワークコイル20に向かう熱輻射を低減し、電界シールド40やワークコイル20が加熱されることを防ぐ。
【0051】
また、この熱輻射低減材50の少なくとも片面には、酸化チタンの白色セラミックスを焼成する。この白色セラミックスは熱輻射を反射し、サセプタ70からワークコイル20に向かう熱輻射を抑制する。
【0052】
図2,図3は、高周波誘導加熱装置1の概略断面図であり、図2は真空室90内に配置して状態を示し、図3は高周波誘導加熱装置1の単体の状態を示している。真空室90は、図示していない排気装置によってチャンバー内を低圧環境とし、低圧環境下において基板100を加熱処理することができる。
【0053】
ワークコイル20のコイル状の形成された部分は、高周波誘導加熱装置1内の誘電体ベース30内に保持される。一方、ワークコイル20の両端部は、高周波シールドボックス21を介して真空室90外に導出され、外部に設けた高周波電源22と接続され、高周波電力の供給を受ける。ワークコイル20の外装部分のコールド側は、高周波誘導加熱装置1および真空室90の外側に配置されると共に接地され、前記したサセプタ70および電界シールド40と同電位とする。また、ワークコイル20の外装部分は冷却管20aによって覆い、内部に冷却水を流すことによってワークコイル20の発熱を冷却することができる。冷却水は、冷却管20aの一端から導入され、ワークコイル20部分を冷却した後、冷却管20aの他端から導出される。
【0054】
このとき、冷却管20aは、その冷却管20aの外周を覆う筒状のフィールドスルー88を介して高周波誘導加熱装置1の誘電体ベース30内に導入される。フィールドスルー88を設けることによって、このワークコイル20を高周波誘導加熱装置1および真空室90に導入する部分でのグロー放電の発生を抑制する。
【0055】
このワークコイル20は、高周波誘導加熱装置1の内部では誘電体ベース30内に保持される。ワークコイル20を囲む誘電体ベース30は、接地されたアルミニウム等の導電体箱(シールドボックス)10によって外周を覆い、誘電体ベース30の周囲でのグロー放電の発生を抑制する。この導電体箱10はワークコイル20が誘起する磁界による誘導加熱作用が起こらない位置に配置される。
【0056】
高周波誘導加熱装置1は、より詳細には、ワークコイル20と、このワークコイル20を支持する誘電体ベース30および誘電体材からなる充填材33と、ワークコイル30の充填材33内での位置を定めるスペーサ32と、ワークコイル20が被加熱部(サセプタ70(図2,図3には示していない))と対向する面に設けた上板51および下板52と、誘電体ベース30の外周部分であって被加熱部と対向する面を除く側部および底部を多く導電体箱(シールドボックス)10と、真空室90に取り付けるためのアダプタフランジ81を備える。上板51は例えばガラス板により構成し、下板52は例えば電界シールドにより構成することができる。
【0057】
ワークコイル20を支持する誘電体は、誘電体ベース30と充填材33とを含む。誘電体ベース30は、例えば渦巻き状に形成されたワークコイル20の一方面が被加熱部と対向するように保持する保持部分を成す部材であり、ワークコイル20に合わせて形状や寸法を設定してPET等によって予め形成しておく。この際、誘電体ベース30の一部に、ワークコイル20を収納する空間31を形成する。ワークコイル20はこの空間31内に収納することによって保持される。
【0058】
ワークコイル20を空間31内に収納した場合には、ワークコイル20と誘電体ベース30との間に隙間が生じ、グロー放電が発生する要因となるおそれがある。充填材33は誘電体材から成り、ワークコイル20と誘電体ベース30との間に隙間を充填する。これによって、ワークコイル20は誘電体ベース30と充填材33の誘電体材によって隙間無く充填される。
【0059】
この充填材33の充填は、ワークコイル20を誘電体ベース30内の空間31に収納した後、充填材をワークコイル20と誘電体ベース30との隙間にポッティングすることで行うことができる。さらに、充填材33をポッティングした後、減圧することで充填材33内に含まれる気体を脱泡する。充填材のポッティングおよび減圧脱泡については、後に図4〜図9を用いて説明する。
【0060】
誘電体ベース30の外周には、ワークコイル20が被加熱部と対向する面を除いて導電体で覆って導電体箱(シールドボックス)10を構成するとともに接地し、ワークコイル20を静電的に遮断する。この導電体箱10は、複数の導電体薄板を貼り合わせた構成とすることができる。導電体箱10を複数の導電体薄板で構成することで、導電体箱10の形成が容易となるという効果を奏する。
【0061】
この導電体薄板の厚さは、例えば、0.01mm程度で静電遮蔽の効果を奏することができる。導電体薄板を例えばアルミニウムの極薄箔を用いて形成した場合には、ワークコイル20からの磁界による誘電加熱作用を受けにくい。そのため、より誘電体ベース30を小さくてワークコイル20と導電体箱10との距離が短い構成とした場合であっても、導電体箱10はワークコイル20からの誘電加熱作用を受けることなく静電遮蔽効果を得ることができる。
【0062】
導電体箱10の外部には、真空室90に取り付けるためのアダプタフランジ81が設けられ、両者が接する面にOリング85を設けることで気密性を保持することができる。また、誘電体ベース30と導電体箱10との間にもOリング86を設けることで気密性を保持することができる。
【0063】
アダプタフランジ81には、ワークコイル20を通すための開口部が形成されているため、ワークコイル20と接触する部分にOリング83,84を設ける。また、Oリング押さえ板87を設けた構成としてもよい。さらに、アダプタフランジ81が真空室90の壁部と接触する面にOリング82を設けることで気密性を保持する。
【0064】
次に、誘電体ベース30内に形成した空間31内にワークコイル20を収納した後、ワークコイル20と誘電体ベース30との間の隙間を埋める充填材33を充填するための構成について、図4〜図9を用いて説明する。図4、図5、図6は、充填材をポッティングし、ポッティングした充填材を減圧脱泡するための高周波誘導加熱装置の構成例を示す図であり、図7は排気部による減圧脱泡を説明するための構成例を示す図であり、図8、図9はポッティングと減圧脱泡の手順を説明するための図である。
【0065】
図4は、充填材のポッティングおよび充填材の減圧脱泡を行うための高周波誘導加熱装置の一構成例を示している。この構成例では、誘電体ベース30の周囲の内で、導電体箱10で覆われていない面をフランジ(第1のフランジ111、第2のフランジ112、および第3のフランジ113)で覆うことによって、誘電体ベース30内の空間31の部分を気密状態とし、この空間31に充填材33を充填すると共に、この気密状態の空間を減圧することによって、充填した充填材33を減圧脱泡する構成であり、誘電体ベースとフランジの間およびフランジ間の気密をOリングによって保持する構成例である。
【0066】
この構成によれば、充填材33を減圧脱泡するために、高周波誘導加熱装置1全体を真空室等に導入することなく、誘電体ベース30内の空間31のみを減圧することで済ませることができる。この誘電体ベース30内の空間31は限定された小さな空間であるため、減圧に要する装置を簡易で小型とすることができ、また、減圧に要する時間についても短縮することができる。
【0067】
図4に示す構成では、誘電体ベース30内の空間31の部分を気密状態するために、誘電体ベース30の導電体箱10で覆われていない面に第1のフランジ111、第2のフランジ112、および第3のフランジ113を重ねて配置する。
【0068】
第1のフランジ111は、脱泡によって充填材33から放出された空気を排気するために、多数の開口部111aを備える。第2のフランジ112は、第1のフランジ111を介して誘電体ベース30の上面と対向する部分に空間112bを備え、排気によって減圧空間を形成する。空間112b内には、負圧による第2のフランジ112の歪みを防ぐために支柱112aを備える。
【0069】
この空間112bを形成することによって、第1のフランジ111に形成した多数の開口部111aを通して誘電体ベース30内の空間31の均一な減圧が行われ、電体ベース30内に充填した充填材33に含まれる空気等のガスの脱泡を十分に均一に行うことができる。空間112bの高さは、実施例では、例えば30mm程度以上することで望ましい結果を得られている。
【0070】
なお、誘電体ベース30内に充填した充填材33の余剰部分は、第1のフランジ111の開口部111a内に侵入してはみ出し部分31aを形成する。このはみ出し部分31aは、脱泡処理が完了した後に第1のフランジ111を取り去ると、誘電体ベース30の上面から突出することになるが、この突出部分は切除することで、誘電体ベース30の上面を平面に形成することができる。
【0071】
ここで、第1のフランジ111が誘電体ベース30と対向する面には、Oリング溝を形成してOリング114を配置することで、第1のフランジ111と誘電体ベース30との間の気密性を保持する。また、第1のフランジ111と第2のフランジ112は、互いに対向する何れかの面に、Oリング溝を形成してOリング115を配置することで、第1のフランジ111と第2のフランジ112との間の気密性を保持する。
【0072】
第1のフランジ111は、排気装置(図4では示していない)と連通する開口部110を備える。この開口部110は第3のフランジ113によって密閉可能としている。第2のフランジ112と第3のフランジ113は、互いに対向する何れかの面に、Oリング溝を形成してOリング116を配置することで気密性を保持する。
【0073】
誘電体ベース30内のワークコイル20を収納した後、第1のフランジ111と第2のフランジ112を取り付けることで、誘電体ベース30の空間31は、空間112bおよび開口部110を通して外部と連通した状態となる。この状態において、第3のフランジ113を開放して開口部110から空間31内に充填材をポッティングする。ポッティングされた充填材は、ワークコイル20と誘電体ベース30との隙間を満たして充填が行われる。隙間を充填材33で満たした後、減圧することによって、充填材33に含まれる気体を脱泡する。充填材33から脱泡した気体は、開口部111a、空間31a、および開口部111を通して、排気装置(図4では示していない)から排気される。
【0074】
図5、図6は、充填材のポッティングおよび充填材の減圧脱泡を行うための高周波誘導加熱装置の他の構成例を示している。この構成例では、図4に示した構成例とほぼ同様であって、誘電体ベースとフランジ間およびフランジ間の気密性の保持を、平面パッキンを用いたシール構造により行う構成例である。
【0075】
以下では、図4の構成と相違する箇所についてのみ示し、共通する構成については説明を省略する。
【0076】
図5に示す高周波誘導加熱装置1は、誘電体ベース30の周囲の内で、導電体箱10で覆われていない面をフランジ(第1のフランジ111、第2のフランジ112、および第3のフランジ113)で覆うことによって、誘電体ベース30内の空間31の部分を気密状態とし、この空間31に充填材33をポッティングすると共に、この気密状態の空間を減圧することによって、ポッティングした充填材33を減圧脱泡する。
【0077】
図5に示す構成では、誘電体ベース30内の空間31の部分を気密状態するために、誘電体ベース30の導電体箱10で覆われていない面に第1のフランジ111、第2のフランジ112、および第3のフランジ113を重ねて配置する。第1のフランジ111が誘電体ベース30と対向する面の間に平面パッキン117を挿入して真空気密可能な平面度を有するシール面を形成することで、第1のフランジ111と誘電体ベース30との間の気密性を保持し、また、第1のフランジ111と第2のフランジ112の間に平面パッキン117を挿入しシール面を形成することで、第1のフランジ111と第2のフランジ112との間の気密性を保持する。
【0078】
第1のフランジ111と第2のフランジ112に設けた開口部110を通して行う充填材33の空間31へのポッティング、およびポッティングした充填材の減圧脱泡は、図4の構成例と同様とすることができる。
【0079】
図4,図5に示す構成は、充填材のポッティングと減圧脱泡を、ワークコイル20が配置される面側において行う構成である。これに対して、図6に示す構成は、充填材のポッティングと減圧脱泡を、誘電体ベース30側から行う構成であり、図4,図5の構成を上下反転させた状態で行う構成である。
【0080】
誘電体ベース30の周囲の内で、導電体箱10で覆われていない面をフランジ(第1のフランジ111、第2のフランジ112、および第3のフランジ113)で覆うことによって、誘電体ベース30内の空間31の部分を気密状態とし、この空間31に充填材33をポッティングすると共に、この気密状態の空間を減圧することによって、ポッティングした充填材33を減圧脱泡する。この充填材33のポッティングと充填材の減圧脱泡とを、誘電体ベース30の下方側から行う。図6では、図4,図5に示す図と上下を反転させて示している。
【0081】
誘電体ベース30は、その下方において、導電体箱10に形成した開口部およびアダプタフランジ81に形成した開口部131を通して外部と連通する。開口部131には、キャップ130が着脱自在に取り付けられる。キャップ130を開放することで、誘電体ベース30の空間31は外部と連通し、一方、キャップ130を閉じることで、誘電体ベース30の空間31は気密状態となる。キャップ130による密閉において、Oリング132を設けることで気密性を高めることができる。
【0082】
第1のフランジ111と第2のフランジ112に設けた開口部110を通して充填材33の空間31へのポッティング、およびポッティングした充填材の減圧脱泡には、図4の構成例と同様とすることができる。
【0083】
誘電体ベース30の空間31内への充填材のポッティングは、キャップ130を開放して誘電体ベース30の空間31を外部と連通させ、開口部131を通して行う。また、ポッティングした充填材の減圧脱泡は、開口部131に真空ポンプ(図示していない)を接続して誘電体ベース30の空間31を減圧することで行う。
【0084】
次に、図7を用いて排気部による減圧脱泡について説明する。図7に示す構成例では、図4に示したフランジ構成によって誘電体ベース30中の空間31を気密状態とし、この空間31にポッティングした充填材を減圧脱泡する例を示している。
【0085】
ここでは、第3のフランジ113に代えてT型フランジ121を取り付け、このT型フランジ121に排気装置120を取り付けることで減圧脱泡を行う。T型フランジ121は、下端に第2のフランジ112と接続する接続フランジ122を有し、上端に充填材を投入する開口部125が形成されたフランジ123およびフランジ124を有し、他端に真空ポンプ129側と接続した真空排気するための真空排気口126が形成されたフランジを有している。真空排気口126が形成されたフランジには排気配管127に接続され、この排気配管127は真空バルブ128aを介して真空ポンプ129と接続されている。また、排気配管127は真空バルブ128bを介して大気側と接続されている。
【0086】
誘電体ベース30の空間31に充填材をポッティングするには、フランジ124を開放してフランジ123の開口部125を通してT型フランジ121内に充填材を投入し、さらに、接続フランジ122の開口部と第1のフランジ111の開口部110、空間31a、および開口部111aを通して空間31内に充填材を投入する。このとき、真空バルブ128bを開放し、真空バルブ128aを閉じることで、T型フランジ121内を大気圧としておく。
【0087】
充填材を投入した後、フランジ124を閉じ、真空バルブ128bを閉じると共に真空バルブ128aを開くことによって、T型フランジ121内、空間31a、および空間31内を排気して減圧する。空間31内の減圧は、空間31aを減圧室とし、多数の孔からなる開口部111aを通して行われる。この所定の容積を有する空間31aの減圧と、多数の開口部111aを介して行う誘電体ベース30の空間31との連通とによって空間31内を均一に減圧し、ポッティングされた充填材内に含まれる気体の十分な脱泡が行われる。
【0088】
次に、図8,図9を用いて充填材のポッティングと減圧脱泡の手順について説明する。図8は図4に示す構成例の場合を示し、図9は図7に示す構成例の場合を示している。
【0089】
図8に示す手順において、はじめに、PET等の誘電体材によって誘電体ベース30を形成する。この誘電体ベース30は、例えばワークコイルの形状や寸法に応じて、その外形や空間31の形状や寸法を定めて形成する(図8(a))。形成して誘電体ベース30の外周に導電体箱10を取り付ける。複数の導電体板を用いて導電体箱10を形成する場合には、誘電体ベース30の外周面に導電体板を貼り付ける。導電体箱10を形成する際には、被加熱部(図示していない)と対向する面は開放面のままとしておく(図8(b))。
【0090】
次に、誘電体ベース30に形成される空間31にワークコイル20を取り付け、また、アダプタフランジ81を導電体箱10に取り付ける。この取り付けにおいて、ワークコイル20の内で被加熱部を加熱する部分を、被加熱部と対向する面に配置する。一方、ワークコイル20の内で高周波電源側および冷却水の供給側(何れも図示していない)は、誘電体ベース30の下方に形成した開口部、導電体箱10に形成した開口部、および導電体箱10に取り付けたアダプタフランジ81に形成した開口部の各開口部を通して外部に取り出される。
【0091】
この状態では、ワークコイル20は誘電体ベース30内の空間31内に収納されているだけであるため、ワークコイル20と誘電体ベース30との間に隙間が存在する。この隙間を誘電体材で埋めるために充填材をポッティングし、充填材から気泡を取り出すために減圧して脱泡させる。このポッティングおよび減圧脱泡の処理において、ワークコイル20に位置ずれが生じる場合がある。特に、被加熱部を加熱する部分でワークコイルのコイル間距離が、充填材の投入によって変化する場合がある。この位置ずれを抑制するために、ワークコイル20のコイルの間にスペーサ32を配置することで、このコイル間距離を一定に保持させることができる(図8(c))。
【0092】
誘電体ベース30および導電体箱10の組み立て体にワークコイル20を配置した後、空間31を気密状態とするために、誘電体ベース30にフランジ(第1のフランジ111,第2のフランジ112)を取り付けると共に、フランジに排気装置120を取り付ける。
【0093】
排気装置120を取り付けた後、真空バルブ128aを閉じ、真空バルブ128bを開放してT型フランジ121を大気圧とし、フランジ124を開放して開口部125を開ける。この開口部125から誘電体ベース30の空間31内に充填材をポッティングし、ワークコイル20と誘電体ベース30との隙間を充填材で満たす(図8(d))。
【0094】
ワークコイル20と誘電体ベース30との隙間を充填材で満たした後、フランジ124を閉じ、真空バルブ128bを閉じ、真空バルブ128aを開放し、真空ポンプ129の排気によってT型フランジ121内を減圧する。この減圧によって、第1のフランジ112の空間112bが減圧され、さらに第1のフランジ112に形成した多数の開口部111aを通して、充填材33側を減圧する。これにより、ポッティングされた充填材33内に含まれる気泡が放出され脱泡が行われる(図8(e))。
【0095】
充填材の減圧脱泡が終了した後、排気装置120およびフランジ(第1のフランジ111,第2のフランジ112)を除去する(図8(f))。
【0096】
フランジを除去した際には、第2のフランジ112の開口部111aに入り込んだ充填材がはみ出して突出している。このはみ出し部分31aは、第2のフランジ112を取り外した後、切除して充填後の露出面を平面とする(図8(g))。
【0097】
図9に示す手順において、はじめに、PET等の誘電体材によって誘電体ベース30を形成する。この誘電体ベース30は、例えばワークコイルの形状や寸法に応じて、その外形や空間31の形状や寸法を定めて形成する(図9(a))。形成して誘電体ベース30の外周に導電体箱10を取り付ける。複数の導電体板を用いて導電体箱10を形成する場合には、誘電体ベース30の外周面に導電体板を貼り付ける。導電体箱10を形成する際には、被加熱部(図示していない)と対向する面は開放面のままとしておく(図9(b))。図9(a)、図9(b)の工程は、前記した図8(a)、図8(b)の工程と同様である。
【0098】
次に、誘電体ベース30に形成される空間31にワークコイル20を取り付け、また、アダプタフランジ81を導電体箱10に取り付けると共に上下位置を反転させる。この取り付けにおいて、ワークコイル20の内で被加熱部を加熱する部分を、被加熱部と対向する面に配置する。一方、ワークコイル20の内で高周波電源側および冷却水の供給側(何れも図示していない)は、誘電体ベース30の下方に形成した開口部、導電体箱10に形成した開口部、および導電体箱10に取り付けたアダプタフランジ81に形成した開口部の各開口部を通して外部に取り出される。
【0099】
この状態において、前記図8(c)と同様に、ワークコイルの位置ずれを抑制するためにスペーサ32を配置し、コイル間距離を一定に保持させる(図9(c))。
【0100】
誘電体ベース30および導電体箱10の組み立て体にワークコイル20を配置した後、空間31を気密状態とするために、誘電体ベース30にフランジ(第1のフランジ111,第2のフランジ112)を取り付ける(図9(d))。
【0101】
キャップ130を開放して、開口部131から空間31内に充填材をポッティングする(図9(e))。充填材をポッティングした後、開口部131部分に排気装置120を取り付ける。排気装置120(図示していない)を取り付けた後、真空バルブ128b(図示していない)を閉じ、真空バルブ128a(図示していない)を開放して、真空ポンプ129(図示していない)の排気によって減圧する。この減圧によって、ポッティングされた充填材33内に含まれる気泡が放出され脱泡が行われる(図9(f))。充填材の減圧脱泡が終了した後、排気装置120を外し、キャップ130で閉鎖する(図9(g))。
【0102】
図10は、本発明の高周波誘導加熱装置を被加熱部側から見た平面図であり、基板を取り付けた状態を示している。
【0103】
サセプタ70は支持部60によって支持され、基板100はこのサセプタ70上に載置される。サセプタ70は下方位置に配置されるワークコイルによって加熱され、載置する基板100を加熱する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の高周波誘導加熱装置は、スパッタリング装置、CVD装置、アッシング装置、エッチング装置、MBE装置、蒸着装置などの基板加熱に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の高周波誘導加熱装置を真空室内に配置して構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の高周波誘導加熱装置を真空室内に配置して構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の高周波誘導加熱装置の構成を説明するための断面図である。
【図4】本発明の高周波誘導加熱装置において充填材を減圧脱泡するための構成例を示す図である。
【図5】本発明の高周波誘導加熱装置において充填材を減圧脱泡するための構成例を示す図である。
【図6】本発明の高周波誘導加熱装置において充填材を減圧脱泡するための構成例を示す図である。
【図7】本発明の高周波誘導加熱装置において排気部による減圧脱泡を説明するための構成例を示す図である。
【図8】本発明の高周波誘導加熱装置においてポッティングと減圧脱泡の手順を説明するための図である。
【図9】本発明の高周波誘導加熱装置においてポッティングと減圧脱泡の手順を説明するための図である。
【図10】本発明の高周波誘導加熱装置を被加熱部側から見た平面図である。
【符号の説明】
【0106】
1…高周波誘導加熱装置、10…導電体箱、20…ワークコイル、21…高周波シールド、22…高周波電源、30…誘電体ベース、31…空間、31a…はみ出し部、32…スペーサ、33…充填材、40…電界シールド、50…熱輻射低減材、51…上板、52…下板、60…支持部、70…サセプタ(被加熱部)、80…支柱、81…アダプタフランジ、82〜86…Oリング、87…Oリング押さえ板、88…フィールドスルー、90…真空室、100…基板、110…開口部、111…第1のフランジ、111a…開口部、112…第2のフランジ、112a…支柱、112b…空間、113…第3のフランジ、114〜116…Oリング、117,118…平面パッキン、120…排気装置、121…T型フランジ、122〜124…フランジ、125…開口部、126…真空排気口、127…排気配管、128a,128b…真空バルブ、129…真空ポンプ、130…キャップ、131…開口部、132…Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧環境で使用する高周波誘導加熱作用を利用した加熱機構において、
高周波電力の供給を受け、高周波誘導によって被加熱部に誘導電流を流して加熱するワークコイルと、
前記ワークコイルを支持する誘電体ベースと、
前記被加熱部と対向する面を除く前記誘電体ベースの周囲を覆う接地された導電体箱とを備え、
および前記誘電体ベースと前記ワークコイルとの間の空間を熱伝導性の良好な誘電体材から成る充填材で充填することを特徴とする、高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
前記ワークコイルは、内部に冷却水を通水可能とする金属管で形成されることを特徴とする、請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
前記誘電体ベースは、PET(ポリエチレンテレフタレート)により前記ワークコイルを収納する空間を有して所定形状に成形される成形体であり、
前記充填材は、前記誘電体ベースの収納空間内に誘電体材をポッティングし、減圧により脱泡することを特徴とする、請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
前記導電体箱は、前記誘電体ベースの外周面に導電性薄板を貼り付けることで構成されることを特徴とする、請求項1又は3に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
前記導電体箱を構成する導電性薄板は、分割した複数枚の導電性薄板ユニットで構成されることを特徴とする、請求項4に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
前記ワークコイルの少なくとも高周波電力供給側の一端を覆って気密封止する絶縁体筒を備えることを特徴とする、請求項1から5の何れか1つに記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項7】
前記ワークコイルの両端部を前記導電体箱および誘電体ベースに保持するアダプタフランジを備え、
当該アダプタフランジは、前記導電体箱と誘電体ベースとが接続された状態において、前記誘電体ベース内で前記ワークコイルを保持する空間部分と連通する開口部を備え、当該開口部を通して充填材の投入、および誘電体ベース内の空間を減圧するための排気を行うことを特徴とする、請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項8】
前記誘電体ベースの開放面を真空密閉するフランジを備え、
前記フランジは、誘電体ベースの露出面と密着すると共に複数の開口部を有するPTFEからなる第1のフランジと、
前記第1のフランジの他方の面と密着する金属材により減圧室を構成する第2のフランジとを有し、
前記第1のフランジと第2のフランジとを重ね合わせて前記誘電体ベースに密着させることにより、前記誘電体ベースと前記ワークコイルとの間の空間を密封状態とし、前記第1のフランジの開口部を介することで、前記第2のフランジの減圧室の減圧によって前記空間を減圧し、当該空間内に充填した充填材を脱泡すること特徴とする、請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項9】
高周波電力の供給を受け、高周波誘導によって被加熱部に誘導電流を流して加熱するワークコイルと、
前記ワークコイルを支持する誘電体ベースと、
前記被加熱部と対向する面を除く前記誘電体ベースの周囲を覆う接地された導電体箱とを備え、
前記誘電体ベースと前記ワークコイルとの間の空間を熱伝導性の良好な誘電体材から成る充填材とを備える高周波誘導加熱装置を製造する製造方法において、
前記誘電体ベースの開放面を真空密閉するフランジを備え、
前記フランジは、誘電体ベースの露出面と密着するPTFEからなる第1のフランジと、
前記第1のフランジの他方の面と密着する金属材からなる第2のフランジとを有し、
前記第1のフランジと第2のフランジとを重ね合わせて前記誘電体ベースに密着させることにより、前記誘電体ベースと前記ワークコイルとの間の空間を密封状態とし、当該空間を減圧することによって、当該空間内に充填した充填材を脱泡することを特徴とする、高周波誘導加熱装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1のフランジ又は誘電体ベースの少なくとも何れか一方、および前記第1のフランジ又は第2のフランジの少なくとも何れか一方にOリング溝を備えることを特徴とする、請求項9に記載の高周波誘導加熱装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1のフランジと誘電体ベースとの間、および前記第1のフランジと第2のフランジとの間に、平面パッキンを挿入し、前記第1のフランジと誘電体ベースの対向面の少なくとも何れか一方の面、および、前記第1のフランジと第2のフランジの対向面の少なくとも何れか一方の面をシール面とすることを特徴とする、請求項9に記載の高周波誘導加熱装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1のフランジと第2のフランジは、重ね合わせた状態において連通する位置にそれぞれ開口部を備え、当該両開口部を通して充填材の投入および真空排気を行うことを特徴とする、請求項9から11の何れか1つに記載の高周波誘導加熱装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2のフランジに対して、真空装置と接続する接続フランジを備え、
当該接続フランジは、第2のフランジと重ね合わせた状態において、第2のフランジが備える開口部と連通する位置に開口部を備え、当該両開口部を通して充填材の投入および排気を行うことを特徴とする、請求項9から11の何れか1つに記載の高周波誘導加熱装置の製造方法。
【請求項14】
前記ワークコイルの両端部を前記導電体箱および誘電体ベースに保持するアダプタフランジを備え、
当該アダプタフランジは、前記導電体箱および誘電体ベースとの接続状態において、前記誘電体ベースと前記ワークコイルとの間に形成される空間と連通する開口部を備え、当該開口部を通して充填材の投入、および誘電体ベース内の空間を減圧するための排気を行うことを特徴とする、請求項9に記載の高周波誘導加熱装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−110729(P2009−110729A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279583(P2007−279583)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】