説明

高周波誘導熱プラズマ装置

【課題】 プラズマが不安定に成らない様にする。
【解決手段】 絶縁性物質で形成された円筒部材2と、プラズマガスを円筒部材2内に供給するためのガスリング3と、粉末材料とキャリアガスを円筒部材2内に供給するためのパイプQ´が挿入されており、ガスリング3の中心軸に沿って設けられたプローブ11´と、円筒部材2の外側に巻かれた誘導コイル4を備えており、誘導コイル4に高周波電力を供給することによって円筒部材2内に高周波誘導熱プラズマを発生させる様に成っている。パイプQ´の少なくとも先端部分とプローブ11´の中心孔H内の少なくとも先端部分のそれぞれに係脱可能な係合部を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ中で成膜材料を蒸発させたり溶融し、該蒸発、溶融材料によって基板上に成膜等を行う高周波誘導熱プラズマ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の高周波誘導熱プラズマ装置を示している。
【0003】
図中1はプラズマ発生用のトーチであり、該トーチは円筒部材2、該円筒部材の上部に取り付けられたガスリング3、該円筒部材の外側に配置された誘導コイル4等から形成されている。
【0004】
前記円筒部材2は二重管構造に形成されており、その内側管は、例えば、セラミックスで形成され、その外側管は石英管で形成されている。
該円筒部材は上部フランジ5aと下部フランジ5bとの間に取り付けられており、これらのフランジ5a、5bは支持棒6にネジ7により固定されている。
前記上部フランジ5aと下部フランジ5bとの間にはイグニションコイルの如き高電圧発生装置8が接続されている。
前記上部フランジ5aには冷却水の出口通路9が設けられ、下部フランジ5bには冷却水の入口通路10が設けられており、前記円筒部材2の二重管内部には該入口通路から冷却水が供給され、前記出口通路9から冷却水が排出される様に成っている。
【0005】
前記ガスリング3の中央部分にはプローブ11が設けられている。該プローブの中心部にはその長手方向に孔H(以後、プローブ中心孔と称す)が穿たれており、該孔内にパイプQが挿入されている。このパイプを介して前記円筒部材2内に図示していない粉末供給部から粉末材料がキャリアガスと共に供給される様に成っている。
又、図示していないプラズマガス源からプラズマガスが前記ガスリング3の供給路17から前記円筒部材2内部に供給される様に成っている。
又、前記プローブ11内には冷却水の通路が設けられており、その冷却水は入口12から入り、出口13から排出される様になっている。
又、前記ガスリング3の内部にも冷却水路14が設けられ、該水路内に冷却水が供給される様に成っている。
【0006】
尚、前記誘導コイル4には、図示していないが高周波電源からの高周波電力が供給されるように構成される様に成っている。
前記トーチ1の下部にはチャンバー12が配置されている。該チャンバー内は図示していない真空排気系により真空に排気されるように構成されている。
この様な構成の高周波誘導熱プラズマ装置の動作を次に説明する。
前記トーチ1のガスリング3を介して円筒部材2内にプラズマガス(例えば、アルゴンガス)を供給すると共に、前記誘導コイル4に高周波電力を供給する。この状態で、前記高電圧発生装置8から高電圧を上部フランジ5aと下部フランジ5bの間に印加すると、該上部フランジと下部フランジとの間でコロナ放電が生起し、この放電が引き金となって前記トーチ1内にプラズマPが発生(着火)する。そして、2分子ガス(酸素や窒素)を混入しながら徐々に高周波電力を上昇させて該プラズマPを安定化させる。そして、前記ガスリング3の中心に位置するプローブ中心孔H内のパイプQを介して、蒸着すべき粉末材料をキャリアガス(例えば、アルゴンガス)と共に該プラズマPの中心部に供給する。
すると、該粉末材料は、1万度程度の熱プラズマによって蒸発したり溶融され、更に、同時に供給されている2分子ガス等によって酸化或いは窒化などの化学反応を生じた後、プラズマフレーム下部に位置した前記チャンバー15内に配置された基板(図示せず)上に蒸着され、その結果、該基板上には高品質の蒸着膜が生成される。
【0007】
【特許文献1】特開2003−311146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、前記トーチ1内の熱プラズマは1万度前後にも達するため、該プローブの先端部が極めて高温に加熱されてしまう。そこで、前記した様に、該プローブ内には冷却水通路が設けられ、該プローブは該冷却水により冷却されている。
【0009】
一方、該プローブ中心孔H内に挿入されている前記パイプQの先端部は前記熱プラズマにより極めて高温に加熱され漸次損傷が進むので、時々新しいパイプに交換しなければならない。この際、この交換がスムーズに行われる様に、パイプQの外形は前記プローブ中心孔H内の径より可成り小さく成っており、該パイプは該孔内面に接触せずに挿入されている。この非接触により該パイプは前記プローブ11内を流れる冷却水による冷却効果が望めないので、前記プローブ中心孔内に挿入する場合には、図2に示す様に、前記プローブ先端面から反熱プラズマP側(熱プラズマPが形成されている側と反対の側)に遠く離している。尚、図2において、16は前記プローブ11内に設けられた冷却水通路を示す。
【0010】
しかしながら、前記パイプQを通過して来た粉末材料を含むキャリアガスが該パイプ先端を出て該プローブ中心孔に差し掛かると、該プローブ中心孔の径は前記パイプ内径より可成り大きいので、前記粉末材料を含むキャリアガスが急に拡散する。この拡散により、前記プローブ11先端から前記チャンバー15の上部辺りにかけて形成されるプラズマPが不安定な状態(プラズマの形状が歪む状態、プラズマ化が妨げられる状態等)になる。その為、粉末材料の溶融に斑が発生する等の問題が発生する。
【0011】
本発明は、この様な問題を解決する新規な高周波誘導熱プラズマ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高周波誘導熱プラズマ装置は、絶縁性物質で形成された管と、該管の一端に設けられ、プラズマガスを該管内に供給するためのガスリングと、被加熱材料とキャリアガスを前記管内に供給するためのパイプが挿入されて、前記ガスリングの中心軸に沿って設けられたプローブと、該プローブを冷却する冷却機構と、前記管の外側に巻かれた誘導コイルとを備え、該誘導コイルに高周波電力を供給することによって前記管内に高周波誘導熱プラズマを発生させる様に成した高周波誘導熱プラズマ装置において、前記プローブの挿入孔内の少なくとも先端部分に係合部を、前記パイプの少なくとも先端部分に前記係合部に対して係脱可能な被係合部をそれぞれ形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
例えば、粉末材料の如き被加熱物質を含むキャリアガスを円筒部材内に供給するためのパイプの先端がプローブの先端と面一に成る様に該パイプを該プローブ中心孔に係合させることが出来るので、前記パイプ内の被加熱物質を含むキャリアガスは少なくとも前記プローブ内で拡散することなく、前記円筒部材内のプラズマの中心部に供給される。従って、プラズマが不安定な状態になることはなく、その為、粉末材料の溶融に斑が発生する等の問題は発生しない。
【0014】
又、前記パイプの先端部が前記プローブ中心孔Hの先端部に接触しているので、該プローブ内を通る冷却水により該パイプの先端が冷却され、その結果、熱プラズマによる前記パイプ先端部分の加熱の影響を緩和することが出来、該パイプの交換サイクルを長くすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に従って本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図3は本発明の高周波誘導熱プラズマ装置の主要部を成すトーチの構成要素であるプローブ11´の概略を示す。図中、図2で使用した記号と同一記号の付されたものは同一構成要素を示す。プローブ11´以外の構成は、図1に示された高周波誘導熱プラズマ装置と同じである。
【0017】
図3に示すプローブ11´が図2に示すプローブ11と構造上で異なる所は次の通りである。
【0018】
例えば、プローブ中心孔H内面の先端部には雌ねじが切られており、該プローブ中心孔に挿入されるパイプQ´の先端部が該プローブ中心孔に接触する程度の外径を有する様に形成されており、且つ、該パイプ外面の先端部には雄ねじが切られている。そして、該パイプQ´を該プローブ中心孔Hに挿入し、該プローブ中心孔に切られた雌ねじにパイプ先端に切られた雄ねじが螺合し、該パイプ先端が該プローブ先端と面一となる様にねじ込む。図3はこの様なねじ込みを行った状態を示している。
【0019】
この様なプローブ11´を図1に示す如き高周波誘導熱プラズマ装置に取り付けた場合の動作は次の通りである。
【0020】
前記トーチ1のガスリング3を介して円筒部材2内にプラズマガス(例えば、アルゴンガス)を供給すると共に、前記誘導コイル4に高周波電力を供給する。この状態で、前記高電圧発生装置8から高電圧を上部フランジ5aと下部フランジ5bの間に印加すると、該上部フランジと下部フランジとの間でコロナ放電が生起し、この放電が引き金となってトーチ1内にプラズマPが発生(着火)する。
【0021】
そして、2分子ガス(酸素や窒素)を混入しながら徐々に高周波電力を上昇させて該プラズマPを安定化させる。
【0022】
そして、前記プローブ中心孔H内のパイプQ´を介して蒸着すべき粉末材料をキャリアガス(例えば、アルゴンガス)と共に該プラズマPの中心部に供給する。
【0023】
すると、該粉末材料は、1万度程度の熱プラズマによって蒸発したり溶融され、更に、同時に供給されている2分子ガス等によって酸化或いは窒化などの化学反応を生じた後、プラズマフレーム下部に位置した前記チャンバー15内に配置された基板(図示せず)上に蒸着され、その結果、該基板上には高品質の蒸着膜が生成される。
【0024】
さて、前記プローブ中心孔H内のパイプQ´を介して、蒸着すべき粉末材料をキャリアガス(例えば、アルゴンガス)と共に該プラズマPの中心部に供給する際、前記パイプQ´はその先端が前記プローブの先端と面一に成る様に該プローブ中心孔Hと係合状態にあるので、該パイプ内の粉末材料を含むキャリアガスは少なくともプローブ11´内で拡散することなく、前記プラズマPの中心部に供給される。従って、該プラズマが不安定な状態になることはなく、その為、粉末材料の溶融に斑が発生する等の問題は発生しない。
【0025】
又、前記パイプQ´の先端部が前記プローブ中心孔Hの先端部に接触しているので、該プローブ内に循環している冷却水により該パイプの先端が冷却される。その結果、前記熱プラズマによる前記パイプ先端部分の加熱の影響を緩和することが出来、パイプの交換サイクルを長くすることが出来る。
【0026】
尚、前記例では、前記パイプ外面の先端部分全体に雄ねじを形成し、前記プローブのパイプ挿入孔内面の先端部分全体に雌ねじを形成する様にしたが、前記パイプ外面先端部分の一部に雄ねじを形成し、前記パイプ挿入孔内面先端部分の一部に雌ねじを形成する様にしても良いし、又、前記パイプ外面全体に雄ねじを形成し、前記パイプ挿入孔内面全体に雌ねじを形成しても良い。
又、前記例では、前記プローブの挿入孔内面の少なくとも先端部分に雄ねじの如き係合部を形成し、前記パイプ外面の少なくとも先端部分に前記係合部に対して係脱可能な雌ねじの如き被係合部をそれぞれ形成したが、この様な構造に限定されない。例えば、前記プローブの挿入孔内面の少なくとも先端部分に凸部若しくは凹部の如き係合部を形成し、前記パイプ外面の少なくとも先端部分に前記係合部に対して係脱可能な凹部若しくは凸部の如き被係合部をそれぞれ形成する様にしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の高周波誘導熱プラズマ装置を示している。
【図2】従来の高周波誘導熱プラズマ装置の主要部を成すトーチの構成要素であるプローブの概略を示す。
【図3】本発明の高周波誘導熱プラズマ装置の主要部を成すトーチの構成要素であるプローブの概略を示す。
【符号の説明】
【0028】
1…トーチ
2…円筒部材
3…ガスリング
4…誘導コイル
5a…上部フランジ
5b…下部フランジ
6…支持棒
7…ネジ
8…高電圧発生装置
9…出口通路
10…入口通路
11、11´…プローブ
12…入口
13…出口
14…冷却水路
15…チャンバー
16…冷却水通路
17…供給路
P…プラズマ
Q、Q´…パイプ
H…プローブ中心孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性物質で形成された管と、該管の一端に設けられ、プラズマガスを該管内に供給するためのガスリングと、被加熱材料とキャリアガスを前記管内に供給するためのパイプが挿入されて、前記ガスリングの中心軸に沿って設けられたプローブと、該プローブを冷却する冷却機構と、前記管の外側に巻かれた誘導コイルを備え、該誘導コイルに高周波電力を供給することによって前記管内に高周波誘導熱プラズマを発生させる様に成した高周波誘導熱プラズマ装置において、前記プローブのパイプ挿入孔内の少なくとも先端部分に係合部を、前記パイプの少なくとも先端部分に前記係合部に対して係脱可能な被係合部をそれぞれ形成したことを特徴とする高周波誘導熱プラズマ装置。
【請求項2】
前記プローブのパイプ挿入孔内に形成されている係合部は雌ねじから成り、前記パイプに形成されている被係合部は雄ねじから成ることを特徴とする請求項1記載の高周波誘導熱プラズマ装置。
【請求項3】
前記プローブのパイプ挿入孔内に形成されている係合部は凹状体又は凸状体から成り、前記パイプに形成されている被係合部は凸状体又は凹状体から成ることを特徴とする請求項1記載の高周波誘導熱プラズマ装置。
【請求項4】
前記パイプの先端が前記プローブの先端と面一と成る様に前記パイプの被係合部が前記プローブのパイプ挿入孔内の係合部に係合されていることを特徴とする請求項1記載の高周波誘導熱プラズマ装置。
【請求項5】
前記パイプの先端が前記プローブの先端と面一と成る様に前記パイプが前記プローブのパイプ挿入孔内にねじ込まれていることを特徴とする請求項2記載の高周波誘導熱プラズマ装置。
【請求項6】
前記パイプの先端が前記プローブの先端と面一と成る様に前記パイプが前記プローブのパイプ挿入孔内に嵌め込まれていることを特徴とする請求項3記載の高周波誘導熱プラズマ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−140697(P2010−140697A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314068(P2008−314068)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】