説明

高強度溶接鋼管の製造方法

【課題】縦シーム溶接部の継手引張強度が950MPa以上の溶接鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.03〜0.12%、Si:≦0.5%、Mn:1.7〜3.0%、Al:0.01〜0.08%、P≦0.010%、S≦0.002%、Cu:≦0.8%、Ni:0.1〜1.0%、Cr:≦0.8%、Mo:≦0.8%、Ti:0.005〜0.025%、B:≦0.003%、Ca:≦0.01%、REM:≦0.02%、N:0.001〜0.006%、更にNb:0.01〜0.08%、V:≦0.10%、かつ0.06%≦Nb/2+V≦0.14%を満足する鋼を1000〜1200℃に再加熱後、950℃以下で累積圧下量≧67%の熱間圧延を行い、圧延終了後700℃以上の温度域から10〜30℃/sで冷却を開始し、550℃〜650℃の温度域で冷却停止後空冷し、管状に成形した後、縦シーム突合せ部をサブマージアーク溶接し更に拡管する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,引張強度900MPaを超える高強度溶接鋼管の製造方法に関し、特に、縦シーム溶接部の継手引張強度が950MPa以上の高強度溶接鋼管の製造方法に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,天然ガスや原油の輸送用として使用されるラインパイプは,高圧化による輸送効率の向上や薄肉化による現地溶接施工能率の向上のため、年々高強度化されている。
【0003】
これまでに、API規格でX100グレードのラインパイプが実用化されているが、さらに、引張強度900MPaを超えるX120グレードに対する要望が具体化されつつある。
【0004】
このような高強度ラインパイプ用溶接鋼管およびその素材となる高強度厚鋼板の製造方法に関し、例えば特許文献1においては、高価な合金元素添加量を削減しつつ、高強度・高靱性を得るための加速冷却および焼戻し条件に関する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、母材については特許文献1と同様に合金元素添加量を削減し、縦シーム溶接部の溶接金属では高強度・高靱性が得られる成分設計技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002―173710号公報
【特許文献2】特開2000―355729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、母材成分における合金元素量を低く抑え、加速冷却等の手段によって高強度化を進めると、縦シーム溶接部、特に溶接熱影響部(Heat Affected Zone,以降HAZと略す)の強度は溶接条件による冷却速度に依存するため、母材強度と乖離するようになる。
【0007】
この結果、母材部が高強度化されても、例えば水圧試験のような実管試験を行った場合には強度の低いHAZ部で破壊が生じてしまうこととなり、実用に際し安全性に問題が残ることとなる。縦シーム溶接部の溶接金属の高強度化は上述したHAZ軟化部が起因の継手強度不足を補う働きをするが十分とは言い難い。
【0008】
本発明は、API規格でX100グレード以下のラインパイプ製造に用いていた縦シーム溶接方法を大きく変えることなく、縦シーム溶接部の継手強度が母材の強度以上となる引張強度950MPaを超える、API規格X120グレードの高強度溶接鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は溶接鋼管継手部の硬度分布について鋭意検討を行い、以下の知見を得、上記目標を達成するために1)〜4)の基本技術が有効なことを見出した。
【0010】
図1に、母材のPcm=0.19である管厚14mmの鋼を内外面1層サブマージアーク溶接(内面側1層溶接後、外面側を1層溶接)を行った溶接鋼管の外面側の表層下約1mm位置におけるビッカース硬さの分布を示す。
【0011】
HAZにおいて、硬さの低下が認められ、最軟化となる位置は、母材部との境界に近い領域である。最軟化部のミクロ組織観察の結果、外面溶接によってオーステナイト化温度(Ac3点)直上に加熱された領域が最も軟化している。
【0012】
最軟化部の硬さを上昇させる成分設計を行うことにより、溶接時の加熱温度がより高い領域のHAZ硬さも上昇し、継手軟化が大幅に軽減される。
【0013】
また、溶接鋼管におけるHAZ最軟化部の硬さを母材部の約9割以上とするとHAZ軟化による継手強度の低下が生じないことも見いだした。
【0014】
1)目標とする継手強度≧950MPaに必要なHAZ強度を確保し、且つ溶接性や靱性等への悪影響を防止する、Pcm値を用いた母材成分設計と個々の合金元素添加量規制。
【0015】
2)初層溶接の熱影響に加え、さらに2層目の溶接の熱影響による焼戻し軟化を防ぐためのNb、V添加。
【0016】
3)上記母材成分制約下において高強度・高靱性を得るための制御圧延・加速冷却条件の選定。
【0017】
4)更に母材と溶接部の強度マッチングを適正なものにするため、溶接金属への高Mn-Cu-Ni-Cr-Mo添加による溶接金属強度の向上。
本発明は以上の知見をもとに更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.質量%で、
C:0.03〜0.12%
Si:≦0.5%
Mn:1.7〜3.0%
Al:0.01〜0.08%
P≦0.010%
S≦0.002%
Cu:≦0.8%
Ni:0.1〜1.0%
Cr:≦0.8%
Mo:≦0.8%
Ti:0.005〜0.025%
B:≦0.003%
Ca:≦0.01%
REM:≦0.02%
N:0.001〜0.006%
Nb:0.01〜0.08%
V:0.02〜0.10%
を含有し、かつNbとVが
0.06%≦Nb/2+V≦0.14%なる関係を満たし、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
下記式(1)で計算されるPcm値が0.21≦Pcm≦0.30を満足する鋼を1000〜1200℃に再加熱後、950℃以下の温度域での累積圧下量≧67%となるよう熱間圧延を行い、圧延終了後700℃以上の温度域から冷却速度10〜30℃/sで加速冷却を開始し、550℃〜650℃の温度域で冷却停止後空冷し、管状に成形した後、その縦シームのサブマージアーク溶接金属の化学組成が,
質量%で
C:0.05〜0.09%
Si:0.1〜0.4%
Mn:2.0〜3.0%
P:≦0.020%
S:≦0.010%
Al:≦0.015%
Cu:≦0.5%
Ni:≦2.0%
Cr:≦1.0%
Mo:≦1.0%
V:≦0.1%
Ti:0.003〜0.03%
B:≦0.0010%
O:≦0.03%
N:≦0.008%
残部Feおよび不可避的不純物となるようにサブマージアーク溶接し、さらに拡管をおこなうことを特徴とする溶接部強度に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5*B (1)
2.縦シーム突合せ溶接を仮付溶接後に、内外面1層ずつサブマージアーク溶接することを特徴とする請求項1記載の溶接部強度に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水圧試験等をおこなってもシーム溶接部からの破壊が生じない安全性に優れた、引張強度900MPaを超え、縦シーム溶接部の継手引張強度が950MPa以上で、天然ガスや原油の輸送用として使用可能な高強度ラインパイプが得られ産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明における鋼板の成分限定理由を説明する.
C:0.03〜0.12%
Cは低温変態組織においては過飽和固溶することで強度上昇に寄与し,また後述するようにNb, Vの炭化物を形成することでHAZの軟化抵抗をもたらす。
【0020】
これらの効果を得るためには0.03%以上の添加が必要であるが、0.12%を超えて添加すると鋼管の円周溶接部の硬度上昇が著しく、低温割れが発生しやすくなるため,上限を0.12%とする。
【0021】
Si:≦0.5%
Siは変態組織によらず固溶強化するため、母材、HAZの強度上昇に有効である。しかし、0.5%を超えて添加すると靱性が著しく低下するため上限を0.5%とする。
【0022】
Mn:1.7〜3.0%
Mnは焼入性向上元素として作用する。特にHAZにおいて高強度達成に必要な低温変態組織を得るために1.7%以上の添加が必要である。一方、連続鋳造プロセスでは中心偏析部の濃度上昇が著しく、3.0%を超える添加を行うと、中心偏析部での遅れ破壊の原因となるため、上限を3.0%とする。
【0023】
Al:0.01〜0.08%
Alは脱酸元素として作用する。0.01%以上の添加で十分な脱酸効果が得られるが、0.08%を超えて添加すると鋼中の清浄度が低下し、靱性劣化の原因となるため、上限を0.08%とした。
【0024】
Cu:≦0.8%、Cr:≦0.8%、Mo:≦0.8%
Cu、Cr、Moはいずれも焼入性向上元素として作用する。これらはMn添加の代替であり、Mnと同じように低温変態組織を得て母材・HAZの高強度化に寄与するが高価な元素であり、且つそれぞれ0.8%以上添加しても高強度化の効果は飽和するため、上限を0.8%とした。
【0025】
Ni:0.1〜1.0%
Niもまた、焼入性向上元素として作用するが添加しても靱性劣化を起こさないため、有用な元素である。この効果を得るために0.1%以上の添加が必要であるが高価な元素であるため、上限を1.0%とした。
【0026】
Ti:0.005〜0.025%
Tiは窒化物を形成し、鋼中の固溶N量低減に有効であるほか析出したTiNがピンニング効果でオーステナイト粒の粗大化抑制防止をすることで、母材、HAZの靱性向上に寄与する。
【0027】
必要なピンニング効果を得るためには0.005%以上の添加が必要であるが、0.025%を超えて添加すると炭化物を形成するようになり、その析出硬化で靱性が著しく劣化するため、上限を0.025%とする。
【0028】
B:≦0.003%
Bはオーステナイト粒界に偏析し、フェライト変態を抑制することで特にHAZの強度低下防止に寄与する。しかし,0.003%を超えて添加してもその効果は飽和するため、上限を0.003%とする。
【0029】
Ca:≦0.01%
Caは鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、添加することで靱性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、0.01%を超えて添加するとCaO-CaSのクラスターを形成し、靱性を劣化させるようになるので上限を0.01%とする。
【0030】
REM:≦0.02%
REMもまた鋼中の硫化物の形態制御に有効な元素であり、添加することで靱性に有害なMnSの生成を抑制する。しかし、高価な元素であり、且つ0.02%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限を0.02%とする。
【0031】
N:0.001〜0.006%
Nは通常鋼中の不可避的不純物として存在するが、前述の通りTi添加を行うことで,オーステナイト粗大化を抑制するTiNを形成する。必要とするピンニング効果を得るためには0.001%以上鋼中に存在することが必要であるが、0.006%を超える場合、溶接部、特に溶融線近傍で1450℃以上に加熱されてTiNが分解するので固溶Nの悪影響が著しいため、上限を0.006%とする。
【0032】
Nb:0.01〜0.08%、V:0.02〜0.10%
Nb、Vは炭化物を形成して2回以上の溶接熱サイクルを受けるHAZの焼戻し軟化防止に有効で、必要なHAZ強度を得るために添加する。
【0033】
またNbは、熱間圧延時のオーステナイト未再結晶領域を拡大する効果もあり、特に950℃まで未再結晶領域とするためには0.01%以上の添加が必要である。一方、0.08%を超えて添加するとHAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.08%とする。
【0034】
Vは0.02%以上添加することで,HAZ中で炭化物を形成し,その析出硬化によって軟化を防ぐ働きをする.ただし,0.10%を超えて添加すると,HAZの靱性を著しく損ねることから上限を0.10%とする。
【0035】
0.06%≦Nb/2+V≦0.14%
本パラメータは焼戻し軟化を防止するためのもので、溶接管の縦シーム溶接における焼戻し軟化を抑制するため、0.06%以上とする。一方、0.14%を超えた添加を行ってもそれ以上硬さの上昇が認められなかったため、上限を0.14%とする。
【0036】
前述の通り、Nb、Vは、複合添加するとその焼戻し軟化抵抗が著しく上昇する.特にNbはVの約2倍の効果があり,係数を1/2として両者の和で整理する。
【0037】
0.21≦Pcm≦0.30
Pcm(=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5*B)は溶接割れ感受性組成であるが、本発明では継手強度≧950MPaを達成するため下限値を0.21とする。
【0038】
図2に、種々の実験鋼塊に最軟化HAZ硬さを再現するため、最高加熱温度をAc3点直上とした再現熱サイクルを付与し、ビッカース硬さを求め、Pcm値で整理した結果を示す。
【0039】
最軟化HAZ硬さは鋼のPcm値と相関し、継手引張強度950MPaを確保するビッカース硬さ270以上(950MPaのビッカース硬さ換算値300の9割)とするため、Pcmの下限値を0.21とする。
【0040】
一方、鋼のPcm値の増大は鋼管の円周溶接時に問題となる低温割れを助長させる.円周溶接を模擬したy形溶接割れ試験結果より、100℃予熱での低温割れ阻止に必要なPcmの上限は0.30であり、円周溶接部の低温割れを阻止するため、Pcmの上限は0.30とした。
【0041】
P:≦0.010%、S:≦0.002%
P、Sはいずれも鋼中に不可避的不純物として存在する.特に中心偏析部での偏析が著しい元素であり、母材の偏析部起因の靱性低下を抑制するためにそれぞれ上限を0.010%、0.002%とする。
【0042】
次に,鋼板の製造方法の限定理由について説明する.
加熱温度:1000〜1200℃
熱間圧延開始時に、スラブを完全にオーステナイト化するため、下限温度を1000℃とする。一方、1200℃を超える温度まで鋼片を加熱すると、TiNピンニングによってもオーステナイト粒成長が著しく、母材靱性が劣化するため上限温度を1200℃とする。
【0043】
950℃以下での累積圧下量≧67%
熱間圧延では、オーステナイト粒を伸展させ、特に板厚方向で細粒とするためオーステナイト未再結晶域である950℃以下において累積で大圧下を行う。累積圧下量を67%以上とすることでベイナイトの微細化が著しく靱性が飛躍的に向上する。
【0044】
加速冷却の冷却開始温度≧700℃
熱間圧延後,加速冷却を開始する温度が低いと、その空冷過程においてオーステナイト粒界から初析フェライトが生成する。初析フェライトは母材強度低下の原因となるため、加速冷却の冷却開始温度≧700℃として生成を抑制する。
【0045】
加速冷却の冷却速度:10〜30℃/s
熱間圧延後の加速冷却は鋼板のミクロ組織をベイナイト主体の組織とし、目標とする引張強度≧900MPaを達成するために行う。
【0046】
加速冷却の冷却速度が10℃/s未満では,比較的高温でベイナイト変態がおこり,引張強度≧900MPaが得られないため、冷却速度の下限を10℃/sとする。
【0047】
一方、30℃/sを超える冷却速度は所望の温度で冷却停止を安定して実施することができず、また鋼板表面近傍ではマルテンサイト変態が生じ鋼板強度は上昇するものの靱性劣化、特にシャルピー吸収エネルギー低下が著しいため、冷却速度の上限は30℃/sとする。
【0048】
加速冷却の冷却停止温度:550〜650℃
鋼板の強度と靱性のバランスを保つため,本発明ではベイナイト主体の組織とし,マルテンサイト組織の分率は10%と以下とすることが望ましい。
【0049】
加速冷却でマルテンサイト変態を抑制するため,冷却停止温度を550℃以上とする。一方,冷却停止温度が650℃を超えるとベイナイト変態開始温度より高い温度で加速冷却が終わるため,未変態のオーステナイトが一部フェライト変態を起こし,母材強度が低下することから,冷却停止温度の上限を650℃とする。
【0050】
なお、鋼の製鋼方法については特に限定しないが、経済性の観点から転炉法による製鋼プロセスと連続鋳造プロセスにより鋼片の鋳造を行うことが望ましい.
上記方法で製造された鋼板の鋼管への成形方法は特に限定しない。従来から用いられているUOE成形、プレスベンド成形、ロール成形いずれも使用可能である.
次に,溶接金属の成分限定理由を説明する。
【0051】
C:0.05〜0.09%
溶接金属においてもCは鋼の強化元素として重要な元素である。特に、継手部のオーバーマッチングを達成するため、溶接金属部において引張強度≧950MPaとする必要で、0.05%以上とする。
【0052】
一方、0.09%を超えると溶接金属の高温割れが発生しやすくなるため、上限を0.09%とする。
【0053】
Si:0.1〜0.4%
Siは溶接金属の脱酸ならびに良好な作業性を確保するために必要で、0.1%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、0.4%を超えると溶接作業性の劣化を引き起こすため、上限を0.4%とする。
【0054】
Mn:2.0〜3.0%
Mnは溶接金属の高強度化に重要な元素である。特に、引張強度≧950MPaといった超高強度は,従来のアシキュラフェライト組織では達成できず、多量のMnを含有させベイナイト組織とすることで可能となる。
【0055】
この効果を得るためには2.0%以上含有させる必要があるが、3.0%を超えると溶接性が劣化するため、上限を3.0%とする。
【0056】
P:≦0.020%、S:≦0.010%
P、Sは溶接金属中では粒界に偏析しその靱性を劣化させるため、上限をそれぞれ0.020%、0.010%とする。
【0057】
Al:≦0.015%
Alは脱酸元素として作用するが、溶接金属においてはTiによる脱酸が靱性改善効果が大きい。また、Al酸化物系の介在物が多くなると溶接金属のシャルピー吸収エネルギーが低下するため積極的には添加せず、その上限を0.015%とする。
【0058】
Cu:≦0.5%、Ni:≦2.0%、Cr:≦1.0%、Mo:≦1.0%
母材と同様にCu、Ni、Cr、Moは溶接金属においても焼入性を向上させるので、ベイナイト組織とするために含有させる。
【0059】
但し、溶接ワイヤへの添加量が多くなるとワイヤ強度が著しく上昇し、サブマージアーク溶接時のワイヤ送給性に障害が生じるため、含有量の上限をCuは0.5%、Niは2.0%、Crは1.0%、Moは1.0%とする。
【0060】
V:≦0.1%
適量のV添加は靱性・溶接性を劣化させずに強度を高めることから有効な元素である。0.1%を超えると溶接金属の再熱部の靱性が著しく劣化するため、上限を0.1%とする。
【0061】
Ti:0.003〜0.03%
Tiは溶接金属中では脱酸元素として働き、溶接金属中の酸素の低減に有効である。この効果を得るためには0.003%以上の含有が必要であるが、0.03%を超えた場合、余剰となったTiが炭化物を形成し溶接金属の靱性を劣化させるため、上限を0.03%とする。
【0062】
B:≦0.0010%
Bは溶接金属をベイナイト組織とするため含有する。但し、溶接金属中のB量が0.0010%を超えると靱性の低いマルテンサイト組織が生成するため,上限を0.0010%とする。
【0063】
O:≦0.03%
溶接金属中の酸素量を低減すると靱性が改善する。特に0.03%以下とすることで著しく改善されるため、上限を0.03%とする。
【0064】
N:≦0.008%
溶接金属中の固溶N量を低減すると靱性が改善する。特に0.008%以下とすることで著しく改善されるため、上限を0.008%とする。
【0065】
本発明は特に仮付溶接後、内面と外面を1層ずつサブマージアーク溶接する比較的入熱の高い溶接法において特に有効である。
本発明ではサブマージアーク溶接に用いられるフラックスは特に制限はなく溶融型であっても焼成型であってもかまわない。また、溶接部の低温割れ防止の目的で、溶接前に予熱あるいは溶接後熱処理を行っても本願の効果は損なわれない。
【実施例】
【0066】
表1に示す化学組成の鋼を用い、表2に示す熱間圧延・加速冷却条件で鋼板A〜Kを作製した.
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
得られた鋼板について、API-5Lに準拠した全厚引張試験片と板厚中央位置からJIS Z2202(1980改訂版)のVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、強度と靱性を評価した。
【0070】
また、種々の成分組成の溶接ワイヤを用いて鋼板の突合せ溶接を行い、溶接継手を作成した。各継手について溶接金属部より分析試料を採取し、化学分析を行った。表3に溶接方法と溶接金属の分析結果を併せて示す。
【0071】
【表3】

【0072】
溶接部の強度は、API-5Lに準拠した継手引張試験片(余盛付)を用いて試験し、靭性はJIS Z2202(1980改訂版)のVノッチシャルピー衝撃試験片でノッチ位置を溶接金属、HAZとし、試験温度ー30℃でシャルピー衝撃試験を実施した。シャルピー衝撃試験片の採取位置は板厚中央とした。
【0073】
各鋼板について、JIS Z 3158(1993改訂版)に従いy形溶接割れ試験を実施した。試験環境は気温30℃で湿度80%とし、1時間放置した。試験ビードは100kgf級高張力鋼用の手溶接棒を用い、予熱温度100℃とした試験体に溶接した。溶接割れ感受性は試験ビードと直交する断面の観察結果で得られた断面割れ率で評価した。
【0074】
母材の強度・靱性調査結果、溶接継手部の強度・靱性調査結果、および溶接割れ感受性の評価結果をまとめて表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
本発明の鋼板化学組成、圧延条件および溶接金属組成範囲内のNo.1-1〜8は、900MPaを超える母材強度、950MPaを超える継手引張強度を満足し、且つ-30℃でのシャルピー衝撃試験において母材部では150J以上、溶接金属およびHAZでも100Jを超えるシャルピー吸収エネルギー値が得られ、優れた靱性を示した。
【0077】
y形溶接割れ試験においても割れは観察されず溶接性においても優れていることが確認された。
【0078】
一方、溶接金属におけるMn添加量が本発明の下限を下回った比較例No.1-2は溶接金属部でアンダーマッチングとなった結果、母材強度に満たない継手強度となった。
【0079】
また、溶接金属におけるB添加量が本発明の上限を上回った比較例No.5-2は母材強度、継手強度とも高い値を示したが、溶接金属のシャルピー吸収エネルギー値が本発明例と比較すると劣る。
【0080】
熱間圧延時において950℃以下での累積圧下量が本発明の下限を下回った比較例No.9では、母材のシャルピー吸収エネルギー値が劣る。
【0081】
加速冷却の開始温度が本発明の下限を下回った比較例No.10では鋼板ミクロ組織がフェライト主体で、母材強度が900MPaを下回った。加速冷却の停止温度が本発明の下限を下回った比較例No.11では鋼板のミクロ組織がマルテンサイト主体で母材のシャルピー吸収エネルギー値が本発明例と比較すると劣る。
【0082】
鋼板のPcm値が本発明の下限を下回った比較例No.12は、HAZ軟化が著しく、継手強度が母材強度を下回った。Nb,V添加量がNb/2+Vの下限を下回った比較例No.13は、HAZ軟化が生じ、継手強度が母材強度を下回った。
【0083】
一方、鋼板のSi添加量が本発明の上限を上回った比較例No.14は、HAZのシャルピー吸収エネルギー値が本発明例と比較すると劣る。
【0084】
また、鋼板のMn添加量が本発明の上限を上回った比較例No.15では、高い母材強度、継手強度を示したものの、HAZが過剰に硬化し、シャルピー吸収エネルギー値の低下、y形溶接割れ試験での断面割れ率が30%と溶接性が著しく本発明例と比較して劣る。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】内外面1層サブマージアーク溶接を行った溶接鋼管の外面側硬度分布を示す図。
【図2】再現熱サイクル試験で得られた最軟化HAZ硬さとPcm値の相関を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.12%
Si:≦0.5%
Mn:1.7〜3.0%
Al:0.01〜0.08%
P≦0.010%
S≦0.002%
Cu:≦0.8%
Ni:0.1〜1.0%
Cr:≦0.8%
Mo:≦0.8%
Ti:0.005〜0.025%
B:≦0.003%
Ca:≦0.01%
REM:≦0.02%
N:0.001〜0.006%
Nb:0.01〜0.08%
V:0.02〜0.10%
を含有し、かつNbとVが
0.06%≦Nb/2+V≦0.14%なる関係を満たし、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
下記式(1)で計算されるPcm値が0.21≦Pcm≦0.30を満足する鋼を1000〜1200℃に再加熱後、950℃以下の温度域での累積圧下量≧67%となるよう熱間圧延を行い、圧延終了後700℃以上の温度域から冷却速度10〜30℃/sで加速冷却を開始し、550℃〜650℃の温度域で冷却停止後空冷し、管状に成形した後、その縦シームのサブマージアーク溶接金属の化学組成が,
質量%で
C:0.05〜0.09%
Si:0.1〜0.4%
Mn:2.0〜3.0%
P:≦0.020%
S:≦0.010%
Al:≦0.015%
Cu:≦0.5%
Ni:≦2.0%
Cr:≦1.0%
Mo:≦1.0%
V:≦0.1%
Ti:0.003〜0.03%
B:≦0.0010%
O:≦0.03%
N:≦0.008%
残部Feおよび不可避的不純物となるようにサブマージアーク溶接し、さらに拡管をおこなうことを特徴とする溶接部強度に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。
Pcm=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5*B (1)
【請求項2】
縦シーム突合せ溶接を仮付溶接後に、内外面1層ずつサブマージアーク溶接することを特徴とする請求項1記載の溶接部強度に優れた高強度溶接鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−183127(P2006−183127A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381166(P2004−381166)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】