説明

高放熱・高信頼性メタルコア配線板

【課題】メタルコア多層配線板において、放熱効果を向上し、配線板の繰返し熱応力による歪を抑制して信頼性を向上する。
【解決手段】メタルコアに複数の信号接続・放熱用スルーホールの形成領域に応じた開口を複数設けると共に該開口に充填した樹脂層を貫通して複数の放熱用及び/又は信号接続用スルーホールとこれに容量結合するアース用スルーホールを上記充填樹脂層を貫通して設け、これらのスルーホール内壁に導電層を形成して、該配線板の表裏及び内部の配線層と接続する。
開口を充填する樹脂は、予め無機フィラーを混合し熱膨張率を半分以下に低減し、配線層を形成したコア材を積層する前に硬化しておくことにより、充填樹脂の熱膨張によるメタルコアとの剥離、内部配線層の断線やクラック発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高放熱、高信頼性メタルコア配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー電源装置、車両のエンジン制御等用いられる配線板や熱サイクル評価等に使用されるウエハのテスター検査機等に用いられる配線板においては、高度な情報処理に対応する回路の多層化や多層回路間を接続するスルーホール形成などの基板構造の複雑化に加えて、半導体装置の高速化、大容量化に伴う信号伝送の歪抑制などの電気的特性への高度の要求や発熱量の著しい増大に伴い、高いレベルの信頼性、安定性が要求され、また放熱性と共に優れた耐熱性への要請に応えてメタルコア配線板が使用されるようになってきている。
【0003】
銅やアルミニウムなどの熱伝導性のよい金属に配線層を積層して多層配線板としたメタルコア配線板は、放熱性及び基板の剛性を向上してデバイスを搭載する基板として安定した特性、信頼性を有している。
このようなメタルコア配線板の特性を利用したものとして、配線基板表面に搭載した電子部品からの熱伝導及び放熱面として導体パターンを利用することが考えられ、電子部品搭載箇所の導体パターンと基板裏面側の導体パターン及び積層した配線層のアース層をスルーホール内壁面に形成した導電層に接続して熱伝導及び放熱することが提案されている〈特許文献1〉。
【0004】
また、このような多層配線板の積層した導体間を接続するスルーホールとして、予め穴を開けた樹脂含浸プリプレグコア材を積層し、両面を銅箔で挟んでプレスすることにより、該穴を樹脂含浸プリプレグから浸みだした樹脂で充填させ、固化した該樹脂層に穿孔することによって上記の孔より小径の微小のスルーホールを形成すること(特許文献2)、さらに、メタルコア配線板として、スルーホールより大径の逃げ穴を設けた金属板をプリプレグで挟んで加熱プレスすることにより、該穴をプリプレグから滲み出した樹脂で充填する多層配線板において、この金属板に形成した穴を発泡ガラスなどの無機粉末で充填しておき、プリプレグから滲みだした樹脂と混合させてこれらの内部や表面の残存空気によって比重を調整して先穴に流入する樹脂と均一に混合させると共にキュアー時の収縮によるクラックの発生等を回避することが提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、配線板に搭載するデバイスが高速化するにつれて高周波特性も重要となり、多層配線板に形成した信号用配線線のスルーホールに接続するコネクタに対してインピーダンス整合させるため接続用のスルーホールを導電層で囲む同軸構造として伝送信号の波形歪を低減することが行われている。このようなコネクタに接続するスルーホールの同軸構造は、多層配線板を貫通するスルーホールの内壁面にめっきなどにより導電層を形成すると共に、さらにその外周に絶縁層を介して二重に導電層を形成して容量結合を持たせるもので、構造が複雑となると共に加工工程が多くなり、コスト増を来たす。
これに対して、信号線に接続するスルーホールを円環状に囲んで内壁面に導電層を形成したスルーホールを設けて、これらの導電層を多層配線のアース配線層に接続することによって、同様の効果を発揮することが提案されている(特許文献4)。
この提案によれば、これらのスルーホールは同時に形成できるため、工程数は抑えられるが、信号配線に接続するスルーホールに対して、円環状に配列するアース配線用スルーホールはその容量結合特性を高めるためには、相互に隣接して高密度に配置することが必要となる。
【0006】
しかしながらこれ等のうち、特許文献1記載の方法においては、電子機器の搭載箇所に形成した多数の放熱用スルーホールを介して電子機器からの発熱をアース配線層に伝導するが、限られた数の放熱用スルーホールではアース配線層に対する熱伝導効果が充分ではなく、基板内部の温度上昇によって熱変形を生じることとなる。
また、特許文献2記載のものではコア材両面をプリプレグで挟んで加熱プレスし、コア材の穴を樹脂で充填する際に穴内の空気が残存して空隙となる。このため、この穴を充填した樹脂層にスルーホールを形成するため穿孔すると、この空隙と連通して欠陥となり、その後銅めっきする際にメッキ液が侵入する等の不良原因となる。
さらに、特許文献3記載のものにおいても、スルーホール形成用のメタルコア貫通孔内を充填した樹脂に含まれるガラス質の無機発泡体やこれらの粒子状の充填物質間の気泡などは、充填樹脂中で均等に分散されて積層配線板の樹脂層のキュアー時の収縮を緩和して貫通孔内の樹脂のクラック発生を抑制しているものの、キュアー前のプリプレグから滲み出した樹脂によってこれ等の貫通孔内を均一に満たすことは困難であり、空隙や残存空気によりこれらの貫通孔と積層された配線層との間では、その熱膨張係数の差により、その使用環境下での繰り返し熱応力による歪を受けて配線板の変形を生じたり、あるいはこれ等の変形により電気的性質が変化するなど信頼性が維持できない。
さらに、特許文献4記載のように信号接続用スルーホールに対してインピーダンス整合を図るため、アース用スルーホールを多数形成する場合、これらのスルーホールを相互に近接して高密度に配置すると共に、これらのスルーホールの貫通孔にドリリング加工のバリや変形があるとインピーダンスに影響するため、貫通孔の形状は精確に形成される必要がある。
【0007】
このような先行技術における典型的なメタルコア配線板におけるスルーホール形成工程を図4に示す。
図4において、メタルコア1に配線接続用及び放熱用などのスルーホールを設けるため夫々貫通孔2を形成する(1)。
次いで、表裏面に配線層6を形成したコア材4をプリプレグ5を介して該メタルコア表裏面に積層し、加熱、加圧して接着する(2)。このとき、プリプレグに含浸した樹脂が染み出して先にメタルコアに形成した貫通孔を充填する3‘と共に、メタルコアとコア材とを接着する。(3)
所定数のコア材を積層した多層配線板の配線層6からメタルコアの前記貫通孔を通って配線板裏面側に至る貫通孔2を形成し(4)、さらに、これ等の貫通孔内壁面にめっきなどにより導電層9を形成して、配線板表裏面及び内部のコア材表裏面の配線層に接続すると共に、配線板表裏面を貫通する信号接続用や放熱用スルーホールとする。
【0008】
近年、配線板に搭載した電子機器の容量増大や動作の高速化に伴って多量の熱が配線板に伝導され、配線板の温度上昇が著しいことから、これ等の配線板内部の熱を速やかに放熱すること、及び配線板がこれらの繰り返し熱応力によって変形せず、安定した基板として使用できることが要請されている。
これらの要請に応えて、メタルコア配線板のメタルコアを厚くし、また、信号回路を回避した位置を放熱領域として小径の放熱用スルーホールを多数形成することが行われている。これらのスルーホールも他の信号接続用スルーホールなどと同様に形成されるが、メタルコアとスルーホール内壁の導電層を絶縁するため、メタルコアの貫通孔と導電層を内壁に形成したスルーホールとの間にこれらの充填樹脂を間に介して一定のクリアランスが設けられている(図5(A))。
【0009】
放熱効果を向上・増進するためこれらのスルーホールの配置密度を上げようとすると、メタルコアに設けられた隣接する貫通孔同士が相互に境界を接するようになり、その境界領域では貫通孔同士が境界を破って相互に連通するようになり、充填樹脂も相互に入り込むようになる。これらの貫通孔の境界では穿孔ドリルなどの加工により、バリができたり、また、スルーホール間の領域が抜け落ちたり、接続壁境界が不均一になりやすい。また、これらの内部に充填される樹脂の流動条件も一定とならないため、貫通孔内部の充填樹脂に気泡などが残存する原因となる。
そして、このような状態となると、信号配線に接続されたスルーホールに近接するアース用スルーホールとの間でインピーダンスなどの電気的な特性に影響が生じるようになり、好ましくない。特に、メタルコア配線板の剛性を向上し、また、熱安定性を持たせるためにメタルコアの厚さを大きくする場合、これ等の影響がより大きくなりやすく、このようなメタルコアの厚さを必要とするメタルコア配線板において課題とされてきた。
【0010】
このように、多層配線層とメタルコアに対してスルーホールを高密度で形成することには厳しい制約がある。これらのスルーホールを個別に形成するには、メタルコアや多層配線板を構成するコア材層には、まず、スルーホールからメタルコアや配線層に対して絶縁するためのクリアランスを設けた貫通孔を形成しなければならないが、そのため、互いに近接して形成するとこれ等の貫通孔同士が連通してしまい、板状の構造が維持できず、部分的な連通などで導電層の分布などが不連続となってインピーダンスなどの電気的特性に影響する。
また、メタルコアに大きな開口を形成してその領域内これらのスルーホールを形成すれば、コア材は絶縁体であるから多層配線層との間で必要なクリアランスをとればよいが、メタルコアにこのような大きな開口を形成することは、前記したスルーホールを形成するための貫通孔において生じていた問題が解消されなければならない。
すなわち、このような広い開口を形成するには、これ等の開口を充填する樹脂を必要とするが、前記の各文献記載のようにキュアー前のプリプレグを含浸する樹脂をメタルコア上に圧着積層して、これらの樹脂を滲みださせるのみでは、十分ではなく、また、メタルコアの厚さが厚くなり、開口が広くなると樹脂の流れが不均一となることは避けられない。さらに、これらの広い開口を設けることに対応して、配線板の強度、剛性を維持するためにメタルコアの厚さを増す必要があるが、そのためにはこれらの開口を樹脂で充填することはますます困難となる。
前記した特許文献3記載の方法は、発泡ガラス粒などの比重を調整したフィラーを予め貫通孔内に充填して置き、流入する樹脂との均一な混合効果を図るが、プリプレグの圧着に伴う樹脂の流入作用では十分な充填作用が確保できない。
【0011】
さらに、これらに共通する問題として、開口に充填された樹脂とメタルコア及びメタルコアに積層されたコア材やコア材に形成された配線層との間で、使用環境下での温度上昇を受けてこれらの熱膨張差による繰り返し熱応力を受けることがある。
メタルコアは、配線層に平行なX−Y軸方向及びそれに垂直なZ軸方向のいずれも熱膨張率は変わらないが、繊維強化樹脂からなるコア材やプリプレグは、強化繊維によってその面に平行なX−Y軸方向の熱膨張は拘束されるが、その面に垂直なZ軸方向に対してはその拘束作用が働かないため、Z軸方向における熱膨張はX-Y軸方向に比べて著しく大きい。
強化繊維は、ガラス繊維を用いる場合のほか、アラミド樹脂などの繊維材であっても延伸加工によってその長さ方向の熱膨張は低いものとなっているため、一般にこれらの繊維強化材のX−Y軸方向の熱膨張率はZ軸方向に対して一桁以上大きい。
このため、メタルコア配線板においては、Z軸方向においてはこれらの熱膨張はこれらコア材などの面が平行移動するのみであるのに対して、X-Y軸方向ではメタルコアと配線層を形成したコア材との間の熱膨張差がX-Y軸方向でずれるように働くが、メタルコアの熱膨張に対してX-Y軸方向の熱膨張を強化繊維によって抑制されたことによって、これ等の熱膨張差による影響はあまり問題とはならなかった。
ところが、スルーホールを形成した貫通穴周りにおいては、これ等の熱膨張差は配線板の信頼性において大きな問題となる。
該貫通穴に充填された樹脂層は、配線板の温度が上昇するとX-Y軸方向及びZ軸方向に膨張し、その熱膨張率はメタルコアやコア材のX-Y軸方向の熱膨張率よりもはるかに大きい。このため、これ等の貫通穴の開口部分では、充填された樹脂層とメタルコア及びこれに接するコア材の配線層と、さらにスルーホールの導電層との間でクラックや断線が発生する。
例えば、Z軸方向では樹脂層の熱膨張率がメタルコア材よりも高いため、樹脂層とメタルコアとの間で剥離が生じ、また、X-Y軸方向では樹脂層の著しい膨張のために開口の樹脂層が隆起するなどしてこれに接するコア材の配線層と、さらにスルーホールの導電層との間でクラックや断線が生じる。
また、これらの貫通穴に充填した樹脂は、そのキュアー時に加圧と加熱がされるために樹脂中に収縮応力が残留し、ドリリング等によって穿孔するとその箇所の残留応力が開放されてクラックが発生する原因となり、さらにこれらの樹脂は粘性が高いためドリリング等の穿孔時の切削抵抗のため、精度を維持しがたい。
これらの問題は、多数のスルーホールを形成するためにメタルコアに広い開口を設け、また、近年要請されるように配線板の剛性を維持するためメタルコアの厚さを大きくするとその影響はより大きなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61−058297号公報
【特許文献2】特開平08−172264号公報
【特許文献3】特開平02−246298号公報
【特許文献4】特開2000−216510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願発明は、これらの問題に鑑み、メタルコア配線板において、
メタルコアを貫通するスルーホールにおける、充填樹脂の空隙や残存気泡などの欠陥を解消し、放熱用スルーホール、信号用スルーホール、及び信号用スルーホールと容量結合するアース用スルーホールを多数、高い密度で形成可能とすると共に、これらスルーホール周りにおいて生じていた貫通穴を充填する樹脂の熱膨張に伴う繰り返し熱応力による劣化や断線を解消して、電気的特性、信頼性を向上することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、メタルコアに複数の放熱用及び/又はアース用スルーホール及びそれと容量結合した信号接続用スルーホールの形成領域に対応してこれ等の領域を含む開口を形成し、該開口に熱膨張を抑制する無機フィラーを混合した樹脂で充填して硬化し、該領域にメタルコア多層配線板を貫通する複数の放熱用及び/又はアース用スルーホールとそれと容量結合する信号接続用スルーホールを設けた、ことを特徴とするメタルコア配線板である。
これらメタルコアの開口に充填する樹脂に混合した無機フィラーは、それ自体が低熱膨張率であってそれによって充填した樹脂層の熱膨張を低減するが、それのみではなく、一定量以上混合することによって、樹脂層の熱膨張を拘束して抑制する強化材としての作用を発揮する。この作用は、繊維強化材やメタル含浸セラミックスなどの複合材料で知られている強化原理であるが、混合された強化材料が繊維状でなくともマトリックスとなる樹脂の変形を拘束して、抑制することができるのであり、それによって該開口内の充填樹脂層を強化してメタルコアの強度、剛性を維持すると共に、熱膨張を抑制して、メタルコアや積層されたコア材の配線層と、さらにスルーホールの導電層との間の繰り返し応力を低減して、その変形や劣化及びスルーホールと配線層間の導通不良を抑制する。
【0015】
また、本発明は、上記放熱用スルーホールが多数均等なピッチ間隔で設けられたメタルコア配線板であり、さらに、上記放熱用及び/又はアース用スルーホールとそれと容量結合する信号接続用スルーホールは、その内壁面に形成した導電層により、多層配線基板両面及び多層配線板内のコア材に形成された配線層に接続されていることを特徴とする、メタルコア配線板である。
さらに、本発明は上記のメタルコア配線板の製造工程にかかるその製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のメタルコア配線板は、
メタルコアに複数の放熱用及び/又はアース用スルーホール及びそれと容量結合した信号接続用スルーホールの形成領域に対応する開口を形成し
この広い開口に熱収縮及び熱膨張を抑制する無機フィラーを混合した樹脂で充填して硬化した樹脂層とすることにより、充填した樹脂中の空隙や残存気泡を解消すると共に、キュアー時及び使用時における熱収縮や膨張等の繰り返し熱応力の影響を抑制して、配線板のゆがみや特性の劣化を抑制し、スルーホールの導電層と配線板の配線層との導通不良の発生を防止する。
これらの構造により、微細な放熱用スルーホールを多数形成して放熱領域として配線板の放熱と温度の均一化、信号接続用スルーホールに対するアース用スルーホールの配置によるインピーダンス特性を向上し、そのためのコネクタ構造を容易に加工、形成することができ、これらの効果により、前記したパワー電源装置などを搭載したメタルコア配線板として高い信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明のメタルコアに設けた開口内を充填した樹脂層にスルーホールを設けたメタルコア配線板の模式的平面図(A)及び該開口領域に多数の放熱用スルーホールを配列して形成した状態を示す実施例図(B)である。
【図2】図2(1)〜(5)は、本発明のメタルコア開口に樹脂層を充填したメタルコア配線板の製造工程を示す図である。
【図3】図3は、本発明のメタルコア開口に充填した樹脂層にアース用スルーホール及びそれと容量結合した信号接続用スルーホールを形成した構造を示し、(A)は(B)に示すメタルコアの開口を含む水平面で切断した左半切図とその上方のコア材を含む水平面で切断した半切面を示す。
【図4】図4(1)〜(5)は、従来技術によるメタルコア配線板の製造工程を示す図である。
【図5】図5は、従来技術によるメタルコア配線板における放熱用スルーホールを形成した状態を示す模式的平面図(A)及び放熱用スルーホールを高密度で設けた状態を示す(B)模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照して本発明のメタルコア配線板の具体的態様及びその製造方法を説明する。
図1(A)に示す本発明に係るメタルコア配線板は、配線層を形成したコア材をシート状プリプレグを介してメタルコア両面に積層した多層配線板であって、メタルコアには配線板に配置するアース用スルーホールとそれと容量結合する信号接続用スルーホール、及び複数の放熱用スルーホールを配置する領域面積に対応する大きさの開口を複数設けて、該開口に充填して硬化した樹脂層を貫通して複数の放熱用及び/又はアース用スルーホールとそれと容量結合する信号接続用スルーホールを設け、これらのスルーホール内壁に形成した導電層により、該配線板の表裏面から内部配線層にいたる配線間の信号接続を行うと共に、配線板を貫通する熱伝導層を構成する。
上記放熱用スルーホールは、前記開口の領域に均等な分布配列で多数設けることにより、その領域の多層配線板内の熱をスルーホール内壁の熱伝導層を経て表面に導くと共にスルーホール内に流通する空気により効果的に放熱することができ、搭載した電子機器や内部の回路から発生した熱が多層配線板内にこもることを防止して、その温度上昇やその結果生じる配線板の繰り返し熱応力による歪の発生などを防止する。
また、信号接続用スルーホールは、その周囲にこれと容量結合するアース用スルーホールを配置しており、これらがメタルコアに形成した開口内の樹脂層を貫通して設けられていることにより、インピーダンス整合を容易に調整することができる。
これ等の構造において、メタルコアの開口を充填する樹脂層は、予め熱膨張率の低い無機フィラーを混合してその熱膨張率を調整して充填し、キュアー後に配線層を形成したコア材を積層するため、開口に充填した樹脂のキュアーに伴う収縮の影響を受けず、さらに、その熱膨張率を低減しているため、使用環境における繰り返し受ける温度変化に対して、開口に充填された硬化樹脂の膨張、収縮が著しく低減され、積層された配線層に対する繰り返し熱応力による配線層の接続不良などが回避され、信頼性を維持することができる。
【実施例1】
【0019】
図1及び2において、メタルコア1は、熱伝導性及び電気伝導性の良好な銅やアルミニウムもしくはそれらを主成分とする合金等の金属からなる板材である。
本発明のメタルコア配線板において、好適な実施例を挙げれば次のとおりである。
メタルコアの厚さは、2.5〜5.0mm、信号接続・放熱用開口2は最大径6.2mm、内部配線層等を形成したコア材4は、厚さが0.6〜1.2mm、最表裏面信号層11、及び内部配線層6の厚さは0.012〜0.24mm、またコア材やメタルコア間の接着層及び絶縁層となるプリプレグの厚さは0.06〜0.3mmである。
【0020】
信号接続用スルーホールとそれに容量結合するアース用スルーホール及び、図1(B)に示す放熱用スルーホール8の最小径0.2mmに対してクリアランスは、0.5mm、穴数60、信号接続用スルーホール7及び放熱用スルーホール8の内壁面に形成された導電層9の厚さは20〜80μmで形成することができた。
本発明においては、これらのスルーホールは、信号接続・放熱用開口2内の樹脂層を貫通して形成されるため、メタルコア及びスルーホール相互間に充分なクリアランスを設けて形成することが可能となり、放熱用スルーホールを高密度で形成することが容易であり、同様にして信号接続用スルーホールに近接して高密度で配列されたアース用スルーホールについてもインピーダンスなどの電気的な特性の劣化も回避できる。
これらの信号接続用スルーホール7及び放熱用スルーホール8などの内壁面に形成された導電層9の厚さは20〜80μmである。
【0021】
信号接続・放熱用開口8に充填する樹脂として、これらの開口内を気泡を発生することなく完全に充填することができるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などの流動性を有する樹脂が挙げられる。
また、無機フィラーとして、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム等が挙げられる。
この中でも、水酸化アルミニウムやシリカが好適に使用される。添加フィラーの添加量は、樹脂100質量部に対して10〜60質量部である。
これらの添加フィラーの添加量は、10質量部未満では、硬化時又は穿孔時にクラックが生じ、一方、60質量部を超えると接着力が低下し、硬化した樹脂が脆くなる傾向がある。
これらの無機フィラーを添加することによって、開口内に充填した樹脂層のドリリング時の粘性抵抗が減少し、また、予め開口内に充填した樹脂を硬化してから配線層を形成したコア材を積層するため、これ等の樹脂層に加圧と加熱に伴う応力が残留せず、ドリリング時のクラック発生も回避される。
充填用樹脂の熱膨張率は、XYZ軸方向に対して均等に40〜100ppmに調整されたものが好適に使用される。
これに対するメタルコア(アルミニウム)の熱膨張率は、24ppmであり、1.7〜4倍程度であるから、樹脂自体の熱膨張率200ppmに比較すると、充填するフィラーの量によって異なるが凡そ半分以下である。
【0022】
プリプレグは、繊維材として紙、ガラス繊維、ガラス繊維不織布、アラミド繊維、アラミド繊維不織布に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、BT〈ビスマレイド/トリアジン〉レジン、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等の樹脂を含浸させ、乾燥、樹脂をBステージ状態にさせたものが好適に使用される。
プリプレグの熱膨張率は、これらの樹脂に比べて熱膨張率の低い繊維材がプリプレグの面方向の熱膨張を抑制するため、XY軸方向に対して12〜17ppmであるが、Z軸方向に対して50〜300ppmである材料が好適に使用される。
【0023】
コア材は、プリプレグに導電層や熱伝導層となる銅箔が片面又は両面に積層され、Cステージ状態にされたものであり、熱膨張率は、上記と同じくXY軸方向に対して12〜17ppmであり、Z軸方向に対して50〜300ppmである材料が好適に使用される。
【0024】
メタルコアへの信号接続・放熱開口、メタルコア配線板の信号接続用スルーホール、及び放熱用スルーホール用の貫通孔を設ける方法は、穴径や材質に応じてドリリング、パンチング、レーザー加工などの任意の方法が使用される。
【0025】
メタルコア配線板の信号接続用スルーホール及び放熱用スルーホールの内壁面に形成された導電層は、無電解めっき、無電解と電解めっきの併用等任意の方法が使用される。めっきの種類としては、銅が用いられるが、また、銅の酸化防止という観点で、銅めっき層上にニッケルの電解又は無電解めっきと、ニッケルめっき上に金の電解又は無無電解めっきがよく、費用対硬化の点からは銅めっきのみがよい。電解めっきには硫酸銅の電解浴が好適に使用される。
【0026】
〔本発明のメタルコア配線板の製造方法〕
以下、図2を参照して本発明のメタルコア配線板の具体的な製造方法を説明する。
(1) メタルコアとなるアルミニウム板1に対して、配線板の信号接続用スルーホール及び放熱用スルーホールによる放熱領域に対応する広い面積の開口2を、ドリリングなどにより形成する。
この開口は、アース用スルーホールを伴う信号接続用スルーホールのみでなく、配線板の放熱領域として多数の放熱用スルーホールを配置するため、これらの放熱領域としての容量から寸法が定められ、一定ではないが前記したように通常の信号接続用スルーホールの10〜数十倍程度となる。
また、この開口の形状は、円、方形、あるいは楕円であってもよく、格別制約はないが加工や放熱用スルーホールを形成する便宜から、円形が適当である。
(2) メタルコアの一方の側(裏面)にフィルムシート14を貼り合せて、真空中で充填樹脂を充填して大気中で硬化させ、次いでフィルムシートを剥離する。フイルムシートを剥離後、メタルコアの表面と充填した樹脂表面とが面一の平面となるように研磨する。
本発明においては、この充填樹脂をプリプレグに含浸された樹脂からプレスによって押し出されたものをメタルコアの貫通孔に流入させるのではなく、別途無機フィラーを混合して熱膨張率を、例えば60ppm程度に抑制した樹脂をメタルコアに充填するため、厚さのあるメタルコアに設けた広い開口に対して気泡や空隙のない、樹脂層を形成することができ、さらにその低減された熱膨張率は樹脂のキュアー時の収縮を低減するのみでなく、その後配線層が積層された配線板として使用される間に充填樹脂層と積層された配線層との間の熱膨張差による劣化やスルーホールにおける配線層、導電層間の接続の信頼性を維持する。
本発明においては、この充填樹脂を配線層を形成したコア材などの積層前に予め硬化処理を行い、さらに樹脂層とメタルコア表面を研磨して平滑な平面としておくことにより、その後のコア材とプリプレグを積層して加熱、加圧する際の充填樹脂の厚さ方向(Z軸方向)の熱膨張差による影響が最小限に抑制される。
(3) 予め銅箔などを張り合わせて導電層6を形成したコア材4をプリプレグ5を介してメタルコアに張り合わせて積層し、加熱加圧して樹脂を硬化させる。
【0027】
(4) 最表層のコア材表面の配線層11をエッチングにより信号回路などの配線パターンやスルーホールと接続するアースパターンを形成する。信号接続用、放熱用やアース用のパターンは前記領域開口の箇所に対応して形成される。
さらに、配線板の信号接続箇所、放熱用やアース用のパターンに夫々所定孔径のスルーホールとなる貫通孔を穿孔する。
放熱用スルーホールやアース用スルーホールは、前記したように極めて小径でアスペクト比の高いものであって、これらのスルーホールを従来のように、それぞれ個別にメタルコアを貫通して形成すると、メタルコアの貫通孔と該貫通孔を充填する樹脂層を貫通するスルーホールとの間に余裕がなく、また、これらのスルーホールを高密度に形成しようとすると、メタルコアの隣接する貫通孔同士が接してしまい、微小径のドリリングによるバリのため、隣接する貫通孔が相互に開口して境界が不連続となって配線板の回路インピーダンスに影響する。
本発明においては、これらの多数の放熱用などのスルーホールをメタルコアに形成した配線板の放熱領域などに対応する開口内に充填した樹脂層を貫通して形成するため、これらの開口内で必要なクリアランスをとって、設置するスルーホールの数、孔径、配置を任意に定めることができ、樹脂を充填した放熱開口内に略均等な間隔、分布となるように多数高密度で形成することができ(図1(B)参照)るため、放熱効果を向上する。
【0028】
(5) 穿孔した信号接続用スルーホール用とそれに容量結合するアース用スルーホール、及び放熱用スルーホール用の貫通孔を形成した配線板をめっきにより貫通孔内壁面に導電層9を形成し、信号接続用スルーホールを配線板表裏面の信号回路導電層11及び内部配線層6に接続し、これと容量結合するアース用スルーホールはアース導電層と接続し、放熱用スルーホール8も同様に内壁面の導電層9によりアース用導電層と接続して配線板の表裏面に貫通開口する放熱路を形成する。
本発明の放熱用スルーホールを形成したメタルコア配線板におけるスルーホールの模式的な配列を図1(A)に示す。
図に示すようにメタルコア1の放熱領域に複数の放熱用スルーホール及び信号接続用スルーホールを配置する開口を形成して、その開口を充填する樹脂層3を貫通してこれらのスルーホールを設けることにより、これらの多数の高密度のスルーホールとメタルコア間のクリアランスを充分にとることができると共に、図示されるように(従来例の図5(A)、及び(B)と比較して)各スルーホール間及びメタルコアに対するクリアランスは充填樹脂層を介して設ければよく、従来例のように隣接するスルーホール間のメタルコア穿孔壁面の境界で生じる不連続なバリなどの影響を回避して放熱用スルーホールを高密度で形成することが可能であり、同図(B)に示すようにこれらの放熱領域に60の微小なスルーホールを均一な間隔ピッチで配列して配置することができる。
無論、これらの領域に形成するスルーホールは、放熱用スルーホールに限らず、信号接続用スルーホールや電子部品を搭載するためのアース用スルーホールなどに対応するものであってもよく、また同じ領域にこれらのスルーホールを共に形成することもできる。
【0029】
図3に本発明の他の実施例として、信号接続用スルーホール7の周囲にアース配線に接続されて容量結合するアース用スルーホール10を配置した例を示す。アース用スルーホールを近接して配列することが可能となり、また、これらのスルーホールを貫通した開口2内の樹脂の熱膨張を抑制できるため、この開口面積を十分に広くとっても、それらの熱膨張差による繰り返し応力の影響を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の多層配線板は、配線板自体の放熱作用により、搭載した電子機器や回路内の発熱による温度上昇を抑制することができるとともに、使用環境における繰り返し熱応力に対して高い信頼性を確保でき、また、その構造が単純で製造工程を簡素化することができるため、高容量化、高速動作の求められる電子機器の搭載基板として有用であり、また、加工性、生産性に優れていることから普及が期待される。
【符号の説明】
【0031】
1 メタルコア
2 信号接続・放熱用領域メタルコア開口
3,3’ 緩衝層(硬化樹脂層)
4 コア材
5 接着層(プリプレグ)
6 内部配線層(表裏面の信号配線層、アース配線層)
7 信号接続用スルーホール
8 放熱用スルーホール
9 スルーホールの導電層
10 アース用スルーホール
11 最表裏面の配線層
14 フィルムシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルコアに配線層を形成したコア材を積層して形成した配線板において、
該メタルコアに複数の放熱用及び/又はアース用スルーホール及びそれと容量結合した信号接続用スルーホールの形成領域に対応する開口を形成し、
該開口内に無機フィラーを混合して熱膨張を抑制した樹脂を充填して硬化した樹脂層を設け、
上記複数の放熱用及び/又はアース用スルーホール及びそれと容量結合した信号接続用スルーホールを
該配線層及び該メタルコアの該開口内の樹脂層を貫通して設けた、ことを特徴とするメタルコア配線板。
【請求項2】
上記メタルコアの開口内で上記放熱用スルーホールが多数均等なピッチ間隔で設けられたことを特徴とする請求項1記載のメタルコア配線板。
【請求項3】
上記メタルコアの開口内で上記信号接続用スルーホールに対してアース用スルーホールが同心円状に配置されたことを特徴とする請求項1又は2記載のメタルコア配線板。
【請求項4】
上記アース用スルーホールは、その内壁面に形成した導電層により多層配線板の表裏面及び内部のアース配線層に接続されたことを特徴とする請求項1乃至3記載のメタルコア配線板。
【請求項5】
上記放熱用及び/又は信号接続用スルーホールは、その内壁面に形成した導電層により、多層配線板の表裏面及び内部の配線層に接続されたことを特徴とする請求項1乃至4記載のメタルコア配線板。
【請求項6】
上記アース用スルーホール及び放熱用スルーホールは、メタルコア配線板の表裏面及び内部のアース配線層に接続し、信号接続用スルーホールはメタルコア配線板の表裏面及び内部の信号配線層に接続されていることを特徴とする請求項1乃至4記載のメタルコア配線板。
【請求項7】
メタルコアに配線層を形成したコア材を積層して形成する配線板の製造方法において、
該メタルコアに複数の放熱用及び/又はアース用スルーホール及びそれと容量結合した信号接続用スルーホールの形成領域に対応する開口を形成し、
該開口内に無機フィラーを混合して熱膨張を抑制した樹脂を充填して硬化し、
該樹脂層を充填したメタルコアに接着層としてのプリプレグ及び配線層を形成したコア材を積層して硬化し、
上記開口に充填した樹脂層を貫通して、複数の放熱用及び/又はアース用スルーホール用及びそれと容量結合した信号接続用スルーホール用貫通孔を形成し、
これらの貫通孔内壁面にめっきにより導電層を形成して、コア材に形成した配線層と接続する、
ことを特徴とするメタルコア配線板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138528(P2012−138528A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291342(P2010−291342)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】