説明

高清浄鋼の製造方法

【課題】 鋼中の非金属介在物の生成を抑制する一方で、分離除去を促進することで、介在物の極めて少ない高清浄鋼を安定して製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 溶鋼の真空脱ガス処理に際し、被処理溶鋼中に予め可溶性ガスを溶解せしめ、次いで、その溶鋼を減圧処理することにより、このとき発生するガス気泡に該溶鋼中の介在物を帯同させて浮上除去する高清浄鋼の製造方法において、前記可溶性ガスをまず転炉精錬中もしくは精錬完了後の段階で溶解させると共に、転炉からの出鋼時に出鋼流に対してスラグ改質剤を添加し、その後、真空脱ガス処理に先立つ取鍋内溶鋼中に可溶性ガスを再び単独または不活性ガスとともに吹き込む高清浄鋼の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高清浄鋼の製造方法に関し、とくに、真空脱ガス装置において、溶鋼中の介在物を効果的に除去することにより、高清浄鋼を確実に製造するための方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄鋼材料の多くは、高機能化および高品質化に向っており、鋼中の不純物元素を極限まで低減する努力が払われている。ところで、鋼中の不純物元素の1つである酸素は、鋼中に介在物(酸化物)として存在しており、これが鋼材における各種欠陥の原因となることが知られている。そのために、介在物のない高清浄鋼の製造技術が検討されている。そうした高清浄鋼を得るには、介在物原因である酸化物の生成そのものを抑制するか、生成した酸化物を確実に分離除去することが必要になる。
こうした酸化物系介在物生成の要因として、溶鋼上にあるスラグからの再酸化がある。そうした再酸化を抑制する方法の1つとして、スラグを低酸化度のものに改質する方法がある。この方法は、転炉から溶鋼とともに取鍋へ流出した酸化度の高いスラグの全部あるいは一部を除去し、新たに造滓剤を添加して、アーク加熱を行いながら長時間攪拌する方法(LF法)として知られている。
【0003】
また、前記介在物分離除去の他の方法としては、真空脱ガス処理を長時間行う方法がある。その他、二次精錬容器内の溶鋼中に可溶性ガスを溶解させ、その後、容器内を急速に減圧して該溶鋼中に微細なガス気泡を発生させることにより、溶鋼中に浮遊している介在物をこの気泡に捕捉させ、帯同させた状態で浮上させて分離する方法がある。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特許第2718096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記LF法は、スラグ除去の処理が必要で、弱い攪拌処理を長時間を行う必要があるためにアーク加熱が不可欠となり、コストがかかるという問題がある。しかも、長時間の処理になるため、後工程である真空脱ガス処理工程や連続鋳造工程との連繋が悪くなるという問題もあった。さらには、真空脱ガス処理を長時間行うため、溶鋼の温度低下が大きく、転炉での出鋼温度を高くするか、LF処理時に加熱を行わなければならないという問題もあった。
【0005】
また、真空脱ガス法の長時間処理や上記特許文献1に記載の方法では、介在物の分離除去を促進しても、溶鋼上のスラグが転炉から流出したままの状態であることから酸化度が高いため、再酸化によって新たな介在物の生成を招きやすく、分離除去効果が減殺されるという問題を抱えていた。
【0006】
本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題に鑑み、鋼中の非金属介在物の生成を抑制する一方で、分離除去を促進することで、介在物の極めて少ない高清浄鋼を安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために、発明者らは鋭意検討を行った。その検討の過程で発明者らは、まず、低酸化度のスラグを得るためには、転炉から流出したスラグの組成を変える(改質する)必要がある。しかし、単に、改質剤をスラグ上に添加するだけでは、スラグと改質剤の混合、溶融が十分に行われないため、改質が不充分になるということがわかった。そこで、発明者らは、転炉出鋼流の落下エネルギーを利用して、前記改質剤を出鋼流中に添加することとした。しかし、この方法では、熱不足のためにスラグ組成や溶融状態にばらつきを生じることがわかった。そして、その解決のためには、溶鋼からスラグへの熱供給を図りつつ、攪拌することが有効であることを突き止めた。即ち、少なくとも、真空脱ガス処理前の取鍋中に、溶鋼の攪拌に寄与するガス、例えば、溶鋼に可溶性のガスを吹き込むことで、このときに起こるガスバブリング作用によって、スラグの組成、溶融状態の均質化を促すことにした。
【0008】
ただし、上述したように、出鋼流への造滓剤の添加や取鍋内への可溶性ガスの吹き込みは、却って溶鋼中へのスラグの巻き込みを促進し、その一部が介在物としてそのまま溶鋼中へ残留しやすくすることも考えられるので、この場合、介在物の除去処理を促進する手段の採用が必要である。
そこで、本発明では、真空脱ガス装置での介在物の除去を促進する方法として、溶鋼中への可溶性ガスの溶解後、雰囲気を減圧することで該溶鋼中に微細な気泡を発生させ、その気泡に微細な介在物を捕捉させるという方法で、介在物の分離浮上を促進させるようにした。
ただし、可溶性ガスを真空脱ガス処理の過程で添加すると、処理時間が延びてしまうため好ましくない。そこで、転炉および取鍋への可溶性ガスの供給について検討した。その検討結果によると、転炉精錬中もしくは精錬の完了後にのみ、可溶性ガス、あるいは窒素を発生する合金の添加を行ったところ、添加の歩留が安定せず、真空脱ガス処理前の可溶性ガス成分濃度にばらつきが生じ、真空脱ガス処理過程でのバブリングガス発生にばらつきが生じた。一方で、取鍋のみへの可溶性ガスの吹き込みでは、温度低下の懸念があることから長時間の処理ができないため、可溶性ガスの溶解量が少なく、添加効果が不十分になるという結果となった。
【0009】
さらに、発明者らは、1次的に可溶性ガスを転炉の精錬中もしくは精錬完了後の出鋼前に添加すると共に、さらに、2次的に真空脱ガス処理の前にも取鍋に可溶性ガスの吹き込みを行うという2段階のガス吹き込みについて実験した。その結果、確かに出鍋直後の可溶性ガスの成分濃度にばらつきはあったが、取鍋でのガス吹き込み処理後は、可溶性ガス成分濃度はほぼ同程度となり、真空脱ガス装置でのガスバブリングの効果にばらつきを生じさせことなく、均質化することができ、介在物の除去に効果が見られた。
【0010】
本発明は、上述した知見に基づいて開発されたものであって、溶鋼の真空脱ガス処理に際し、被処理溶鋼中に予め可溶性ガスを溶解せしめ、次いで、その溶鋼を減圧処理することにより、このとき発生するガス気泡に該溶鋼中の介在物を捕捉させて浮上除去する高清浄鋼の製造方法において、前記可溶性ガスをまず転炉精錬中もしくは精錬完了後の段階で溶解させると共に、転炉からの出鋼時には出鋼流に対してスラグ改質剤を添加し、その後、真空脱ガス処理に先立つ取鍋内溶鋼中に可溶性ガスを再び単独または不活性ガスとともに吹き込むことを特徴とする高清浄鋼の製造方法である。
【0011】
本発明において、前記可溶性ガスは、鋼成分に応じ、窒素ガス、水素ガスまたは炭化水素系ガスのいずれか1種以上を用いることが有効である。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、木発明によれば、転炉精錬中あるいは精錬完了後と、真空脱ガス処理前との2段階に分けた可溶性ガスの添加と、転炉から取鍋への溶鋼出鋼時に出鋼流に対し、スラグ改質剤を添加するという方法を採用した結果、スラグ組成を低酸素化できると同時に、真空脱ガス処理前の溶鋼中可溶性ガス成分濃度のばらつきをなくすことができ、その結果、溶鋼のスラグによる再酸化が抑制される一方で、真空脱ガス処理段階では微細なガス発生による微細な介在物までも確実に除去することができ、ひいては介在物の極めて少ない高清浄鋼を安定して製造することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施する方法の概略を示す図に基づき、本発明方法の詳細を説明する。
本発明方法の第1の手段は、転炉2の脱炭精錬中あるいは脱炭精錬の完了後に、以下の操作のうちの1つ以上の方法を実施する。
1)上吹きランス3から可溶性ガスを溶鋼1浴面へ吹き付ける
2)底吹き羽口4から可溶性ガスを溶鋼1中へ吹き込む
3)可溶性ガス発生物質5を添加装置(図示せず)にて上方から溶鋼1中へ添加する
なお、可溶性ガスとしては、特に限定されないが、望ましく鋼の成分組成に応じて、窒素、水素、プロパン等の炭化水素系ガスのいずれかを用いる。その他、可溶性ガス発生物質5としても、鋼の成分組成に応じて、例えば、窒化マンガンや窒化アルミニウム等の固体を用いてもよい。
【0014】
本発明の第2の手段は、上記の処理を終えた溶鋼1を取鍋7に出鋼するときに流出した転炉精錬スラグ6の組成を改質することである。そのため本発明では、出鋼流に対し、スラグ改質剤8を添加する。このスラグ改質剤8の組成、添加量は要求される溶鋼の清浄度によって最適化しておくことが好ましい。例えば、取鍋スラグを低融点化してAl23介在物吸収能の高い組成にするため、溶鋼脱酸によるAl23発生量を考慮して、CaO分を添加する方法、あるいはスラグ中SiO2の低減を目的として一定のスラグ量を確保すると共に低融点化を確保するため、CaO−Al23混合フラックスを添加する方法などである。
【0015】
本発明の第3の手段は、出鋼終了後、取鍋7をガスインジェクション設備に移し、ここで取鍋内溶鋼中に可溶性ガスの2次吹き込みを行うことである。ガス吹き込み方法としては、浸漬ランス9からの上吹きか、底吹きが可能な取鍋であれば、底吹き羽口10からの底吹きを行うか、あるいは上吹きを同時に行ってもよい。また、吹き込む可溶性ガスの量、吹込み時間等は、事前に可溶性ガスの溶解速度を実測しておき、その実測値に基づき処理後の可溶性ガス成分濃度が同等になるように調整する。このとき、処理前の可溶性ガス成分濃度を分析しておくことが好ましい。例えば、真空脱ガス装置での可溶性ガスの脱ガス速度と処理時間と可溶性ガス成分の最終目標値により、真空脱ガス処理前の可溶性ガス成分濃度が決まるので、その濃度に応じてガス吹込み条件を変更すればよい。なお、ある一定以上可溶性ガスを吹き込んでも、それ以上可溶性ガス成分濃度が上昇しない見かけの平衡濃度が最大値となるその濃度を狙う場合は、可溶性ガス吹き込み量、時間が多少多くなっても構わない。
上記可溶性ガスの2次吹き込み時に、攪拌が弱く、スラグの混合、溶融が不十分となる場合は、該可溶性ガスにアルゴンガス等の不活性ガスを所要量混合した混合ガスを用いることもよい。
なお、可溶性ガスの1次、2次吹込みに当っては、好ましくは1次吹込み量を多く配合し、2次吹込み量を少なくすることを標準とするが、これには限定されない。例えば、1次:2次=1〜10:1程度とすることが好ましい。
【0016】
なお、本発明では、上記の処理が終ったら、取鍋7を真空脱ガス装置(図示せず)に搬送し、常法の操業条件で減圧処理を行う。その結果、溶鋼中には微細ガス気泡が発生し、その気泡が溶鋼中に浮遊するとくに微細な介在物をも逃がさず捕捉し、この気泡に帯同した状態で速やかに浮上分離する際に、介在物の効果的な除去が行われる。
【0017】
二次精錬後の溶鋼は、連続鋳造設備や普通造塊設備等の鋳造設備に搬出される。
このような一連の処理を行ったものでは、溶鋼1のスラグ6による再酸化が抑制され、また、溶鋼1中の介在物除去も促進されるため、酸化物系介在物等が極めて少ない高清浄鋼を安定して製造することが可能になる。
【実施例】
【0018】
転炉で約200トンの溶鋼を酸素吹錬し、炭素濃度を0.9〜1.0mass%にした後、窒素ガス30m3(標準状態)/minを底吹き羽口内から3分間吹き込んだ。
その後、一次精錬溶鋼を取鍋7に出鋼する際に、溶鋼をアルミニウムで脱酸すると同時に、出鋼流にはスラグ改質剤としてCaOを1トン添加した。
次に、出鋼終了後、取鍋7を、ガスインジェクション設備に搬送し、ガスインジェクションランスを浸漬して、窒素ガス1000IN/min、アルゴンガス500IN/minの混合ガスを4分間吹き込んだ。
【0019】
その後、前記取鍋7は、RH真空脱ガス装置に搬送して140Pa以下での減圧精錬を40分間行った後、連続鋳造機にてブルームに鋳造し、ビレット圧延を経て、棒鋼製品とした。清浄度の評価として、酸化物系介在物総量として棒鋼製品中の全酸素量を、また、より有害な介在物に関しては、視野面積320mm2中の酸化物系介在物の最大径によって評価した。
【0020】
また、比較例として、転炉で窒素ガスを吹き込まなかった場合、取鍋へ窒素ガスを吹き込まなかった場合、スラグ改質剤を添加しなかった場合についても、RH真空脱ガス装置にて減圧精錬を40分間行った後、連続鋳造機にてブルームに鋳造し、ビレット圧延を経て棒鋼製品とし、棒鋼製品中の全酸素量および酸化物系介在物の最大径を調査した。
【0021】
表1に各試験における試験条件及び試験結果を示す。また、図2に各製造法における全酸素量を示し、図3には酸化物系介在物の最大径を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1および図2、図3に示すように、本発明法に従う方法で製造した棒鋼(No.1〜5)は比較例(No.6〜11)で製造したものより全酸素量は少なく、酸化物系介在物最大径も小さくなっており、鋼の清浄性が向上しているこがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る技術は、鋼の高清浄化方法であるが、例えば、軸受材料や電子材料や半導体製造の如き特殊用途鋼などの分野で必要とされる鋼の高清浄化技術であるが、単にそれだけでなく、他の一般的な高品質の鋼材を製造するのに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明方法による転炉から真空脱ガス装置処理までの工程例を示す模式図である。
【図2】真空脱ガス処理中の溶銅中Δ[N]と棒鋼中全酸素量との関係を示すグラフである。
【図3】真空脱ガス処理中の溶鋼中Δ[N]と棒鋼中酸化物系介在物の最大径との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 溶鋼
2 転炉
3 上吹きランス
4 底吹き羽口
5 可溶性ガス発生物質
6 スラグ
7 取鍋
8 スラグ改質剤
9 浸漬ランス
10 取鍋底吹き羽口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼の真空脱ガス処理に際し、被処理溶鋼中に予め可溶性ガスを溶解せしめ、次いで、その溶鋼を減圧処理することにより、このとき発生するガス気泡に該溶鋼中の介在物を捕捉させて浮上除去する高清浄鋼の製造方法において、前記可溶性ガスをまず転炉精錬中もしくは精錬完了後の段階で溶解させると共に、転炉からの出鋼時には出鋼流に対してスラグ改質剤を添加し、その後、真空脱ガス処理に先立つ取鍋内溶鋼中に可溶性ガスを再び単独または不活性ガスとともに吹き込むことを特徴とする高清浄鋼の製造方法。
【請求項2】
前記可溶性ガスとして、鋼成分に応じ、窒素ガス、水素ガスまたは炭化水素系ガスのいずれか1種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の高清浄鋼の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−249551(P2006−249551A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70717(P2005−70717)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】