説明

高温耐性接着剤組成物、基板の接着方法、及び3次元半導体装置

【課題】精密な構造内の接着層として用いることができ、接着された材料が高温で処理された場合にも質量減少が極めて低いと共に、熱応力に対して強い接着性を維持できる高温耐性接着剤組成物を提供する。
【解決手段】環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物を含む縮合物前駆体の単体又は混合物を加水分解・縮合して得たケイ素系高分子化合物であり、かつ該ケイ素系高分子化合物に含まれる全ケイ素原子に対し、前記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子の割合が90モル%以上であるケイ素系高分子化合物を熱硬化性結合剤として含有する高温耐性接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、400℃程度の高温に耐性を要求される、接着された基板の製造に好適に用いられる高温耐性接着剤組成物及びそれを用いた基板の接着方法に関し、特に積層型半導体装置に用いられる基板の接着方法に関する。また、本発明は3次元半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(Large Scale Integrated Circuit)は情報処理速度の向上、情報処理量の増大といった高性能化を追い求めるため、リソグラフィー技術を始めとする多数の技術の開発によって構造の微細化が行われており、その連続した微細化はムーアの法則として知られている。例えばリソグラフィー技術では、ArFエキシマレーザー露光によってすでに65nmノードのものが工業化されてきており、更に液浸露光法を用いることによって更なる微細化がすでにスケジュール化されている。しかし、このような微細化のみによる高性能化は、リソグラフィー技術に留まらず、技術的に又は材料的に限界に到達する可能性があることが指摘されている。
【0003】
もう一つの高集積化又は高速化の方法として、LSIを縦方向にも積層させて集積度を上げ、又は処理速度を上げる方法、いわゆる3次元(3D)半導体集積回路は、セル構造の微細化とは独立に集積度の向上あるいは処理速度の高速化が可能な技術として注目されており、すでに多数の研究が行われている。
【0004】
LSIを縦方向に積層する方法としては、LSIを形成したウェハー同士を張り付けて積層する方法、LSIを形成したウェハー上にLSIチップを張り付けて積層する方法、LSIチップ上にLSIチップを張り付けて積層する方法が検討されているが、いずれの方法においても、LSI同士の接合は一つのキー技術であり、接合は欠陥がないこと、強固であることが求められている。
【0005】
このようなLSI同士の接合には、直接法と間接法がある。直接法は、それぞれの接合面を直接接合してしまう方法であり、シリコンフュージョンボンディング、イオンプラズマボンディングなどが知られている。この直接接合は一般に強い強度で接合が形成でき、不要な第三の材料を原理的に含まないため高い信頼性が得られるという利点があるが、一方で、接合形成のために接合面の高い平坦性と高度に小さな表面ラフネスが求められ、技術的なハードルが高い。また、既にデバイスが形成されたような凹凸のある表面に対しては適応ができない。
【0006】
一方、間接法として、既に比較的限られた範囲では、チップ間を接合して積層された実装技術は実用化されており、例えば特許文献1(特開2007−270125号公報)では、複数のチップを積層するためのチップ間の接合に使用する熱硬化性樹脂による絶縁シートに関する発明が開示されている。
【0007】
また、ウェハー間を接合する例としては、例えば特許文献2(特表2006−522461号公報)では、半導体装置を形成したウェハーを極薄化したものを半導体装置を形成したウェハーに絶縁材料を用いて接合すると共に、積層されたウェハー間に電気的接合部を形成する技術が開示されており、ここでは絶縁材料としてポリイミド系材料が使用されている。
【0008】
なお、本発明に関連する先行文献としては、上記特開2007−270125号公報(特許文献1),特表2006−522461号公報(特許文献2)及び後述する特許文献を含む以下のものが挙げられる。
【特許文献1】特開2007−270125号公報
【特許文献2】特表2006−522461号公報
【特許文献3】特開平2−180965号公報
【特許文献4】特開2008−14716号公報
【特許文献5】特開2008−19423号公報
【特許文献6】WO2005/53009号公報
【特許文献7】特開2004−269693号公報
【特許文献8】特開2007−324283号公報
【特許文献9】特開2007−314778号公報
【特許文献10】米国特許第6,268,457号明細書
【特許文献11】特開平9−71654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、室温ではシリコーン材料は様々な基板に対して良好な付着性を有し、特にガラス(SiO2)、金属に対しては優れた付着特性を示すことはよく知られている。シリコーンゴムは柔軟な構造で、耐熱衝撃性等に優れ、熱膨張率の異なる金属やガラスのつなぎ合わせに有用なものであり、シーラント等に使用されている。比較的高温で使用できるシリコーンゴムとしては、フェニル基等の導入により耐熱性の向上が図られているものの、300℃程度が限界になっている。これは、シリコーンゴムの主要構成成分であるジアルキルシロキサン部分が熱異性化によりジアルキルサイクリックスとなり、分解、希散してしまうためである。一方、ジアルキルシロキサン部位を持たないトリアルコキシシランやテトラアルコキシシランのような3〜4価の加水分解性シランを加水分解・縮合して得たシロキサン、シリカ樹脂は、このような熱による分解劣化はみられないものの、構造が剛直で脆く、基板との熱膨張率に差があると容易にクラックを生じてしまい、熱硬化によって良好なフィルムを形成することは難しい。
【0010】
ところで、上述のような3D半導体装置や3Dセンサー装置等は、より複雑な装置の製造を可能とするために、製造工程において基板を接着層により貼り合わせて作製する構想が持たれている。ところが、その作製工程で、例えばCVD工程のように400℃以上といった高温処理が行われる場合があり、複数基板の接合後に、接着層を持つ接合基板を400℃といった高温で処理すると、多くの有機系接着剤の場合には接着力を失ってしまう。そこで、低い弾性率を持ち高温に耐性を持つ接着剤の開発が期待されている。
【0011】
1,000℃以上で使用できるような極めて高い高温耐性を持つ接着剤は無機系に限られるが、400〜500℃程度の高温で使用される接着剤の一成分として有機シリコーン化合物が用いられることがある。例えば特許文献3(特開平2−180965号公報)では、エンジンの排気ガス管周りで使用する接着剤の一成分として、主たる接着成分である無機材料を結合させる成分としてシリコーン化合物を含有する接着剤を開示している。また、特許文献4(特開2008−14716号公報)は、光ファイバー用の耐熱性接着剤として無機珪酸ナトリウム系の接着剤を使用した場合、加熱時にファイバーに応力がかかりクラックが発生する事故が起こるが、2μmの粒径を持つポリメチルシルセスキオキサン粒子を加えることによって応力を緩和してやることができることを開示している。これらはいずれも半導体装置内部で使用できるような精密な接着剤とはなり得ないが、ポリシロキサン系材料が持つSi−O−Si結合の高温耐性に対する特性を利用したものである。
【0012】
しかし、特開2008−14716号公報(特許文献4)で指摘されているように、高温耐性に優れる無機系の接着剤は硬度が高く、熱応力がかかる場合に問題となり、また半導体のようなナトリウム、カリウムイオンが使用できない系で使用することは難しい。また、マクロ粒子による応力緩和の方法は、薄膜で使用したい場合や、塗布時の高度な平坦性が要求されるような場合には使用しにくい。
【0013】
一方、特開平2−180965号公報(特許文献3)で開示されたような2価のケイ素(1つのケイ素原子が2つの酸素原子と結合を持ったケイ素)を多く含有するシリコーン化合物は、400℃といった環境では、上述の一部で不均化反応が起こり、環状シロキサンの脱離が生じる。このため、そのような材料が接着層の主成分として使用された場合、徐々に接着力が失われたり、発生したガスによって半導体の機能を妨害するといった事故が起こる。
【0014】
本発明は、精密な構造内の接着層として用いることができ、接着された材料が高温で処理された場合にも質量減少が極めて低いと共に、熱応力に対して強い接着性を維持できる接着層を用いた接着法に使用することができる高温耐性接着剤組成物、これを用いた基板の接着方法、及び3次元半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を通常の材料に当てはめると、それぞれの要求間にトレードオフの問題が起こる。すなわち、特開2008−14716号公報(特許文献4)に開示されたようなマクロな機械的効果を使用せずに熱応力に対する緩和効果を得るためには弾性率の低い材料を使う必要がある。一方、熱による質量減少を抑えるためには、ケイ素系高分子化合物を構成するケイ素が、硬化する際に熱安定性の高い架橋による比較的高い架橋度が得られるように原料を選択する必要があるが、常用される材料により高い架橋度を達成すると、一般には弾性率が上がり、熱応力に対する緩和効果は失われる。
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々試行錯誤を行ったところ、ケイ素系高分子化合物の主原料を複数のケイ素原子間を炭素鎖でつないだ加水分解性シラン化合物とすることで、得られた高分子化合物を材料として調製した接着層は、硬化後にも熱質量減少が小さいこと、またそれにも拘わらず要求される熱応力に対する緩和効果に対して弾性率が低いものとできることを見出した。また、接着層前駆体膜を硬化させた後、400℃で60分間加熱した際の質量減少が3%以下で、硬化膜の弾性率が4GPa以下となる特性を持つ材料を選択して用いることにより、該材料を接着層として装置内に持つ半導体装置やセンサー等は、後工程におけるヒートショック等による不良の発生が抑制されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数4又は8の複素環含有基、又は炭素数6〜12の芳香環含有炭化水素基による架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物
を含む縮合物前駆体の単体あるいは混合物を加水分解・縮合して得たケイ素系高分子化合物であり、
かつ該ケイ素系高分子化合物に含まれる全ケイ素原子に対し、前記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子の割合が90モル%以上であるケイ素系高分子化合物を熱硬化性結合剤として含有する高温耐性接着剤組成物である(請求項1)。
上記のような、高分子化合物に含まれる90モル%以上のケイ素原子が炭素との結合による架橋を少なくとも1つ有するケイ素系高分子化合物を、上記のようなケイ素化合物を用いて調製し、熱硬化性結合剤として用いることにより、高温における熱耐性という要求と、ヒートショック等に対する耐性という要求を同時に満たす高温耐性接着剤を得ることができる。
【0018】
上記ケイ素系高分子化合物に含まれる上記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子は、下記一般式(1)
【化1】

(但し、pは1〜4の整数、qは0〜2の整数であると共に、2≦p+q≦4である。Qはそれぞれ独立に上記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による2〜5価の架橋基、Xはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は他のケイ素原子と結合する酸素原子との結合を示す。また、Rは炭素数1〜12の置換基を有していても良い脂肪族又は芳香環を含有する1価炭化水素基である。)
で示される構造を有することが好ましい(請求項2)。
【0019】
更に、上記一般式(1)において、p+q≧3であるケイ素原子数は、一般式(1)に含まれる全ケイ素原子数に対し70モル%以上であることが好ましい(請求項3)。このように、上記ケイ素系高分子化合物に含まれるケイ素原子の架橋度を設計してやることにより、400℃以上での十分な耐熱性が期待できる。
【0020】
上記架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物の好ましい例として、下記一般式(2),(3)又は(4)
【化2】

(但し、aは1〜20の整数、rはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、sは0〜2の整数であり、しかし全てのrが1の時は全てのsが0にはならない。また、bは2〜6の整数であり、tは0〜2の整数であると共に、全てのtが0にはならない。cは1〜4の整数であり、cが1の場合、全てのrは1にはならない。Rは上記一般式(1)における定義と同一であり、Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基から選択され、またZalは置換基を持ってもよい2価の炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基を示し、Zxは炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜12の芳香環含有炭化水素基を示す。)
で示されるシラン化合物を挙げることができる(請求項4)。
【0021】
また、より好ましくは上記一般式(2)〜(4)において、少なくとも1つのrはr≧2であり、少なくとも1つのsはs≧1であり、少なくとも1つのtはt≧1である(請求項5)。このようなシラン化合物を用いることにより、最終的に得られる接着層に400℃以上での十分な耐熱性が期待できる。
【0022】
また、本発明は、上述の高温耐性接着剤組成物を基板上に塗布して接着層前駆体膜を形成し、接着層前駆体膜を挟んで接着を行う基板同士を合わせ、接着層前駆体膜を加熱により硬化させて基板同士の接着を行うことを特徴とする基板の接着方法である(請求項6)。上述の接着剤組成物を接着する基板の一方あるいは双方に塗布し、圧着して加熱することによって接着する基板間に接着層を形成することができるが、このようにして得た接着層は400℃程度の高温に十分な熱耐性を有すると共に、低い弾性率を持つことから、接着後に基板が高温にさらされた場合にも接着力が失われず、またヒートショックによる接着不良を起こしにくい。
【0023】
更に、本発明は、ケイ素系高分子材料を用いて形成した接着層前駆体膜により基板を接着する基板の接着方法において、1μm以上の粒径を持つ粒子を含まず、400℃以下の温度で硬化を行った後に得られる硬化膜の弾性率は4GPa以下であり、かつ該硬化膜を400℃に昇温した後400℃で60分間加熱した際の質量減少が3%以下である接着層前駆体膜を用いて基板同士の接着を行う基板の接着方法である(請求項7)。このような硬化膜を与える接着剤、特に上記高温耐性接着剤組成物(請求項8)を用いて基板を接着することにより、得られた基板を例えばCVDのような400℃程度の高温にさらさざるを得ない工程に用いた場合にも、接着不良等の問題発生を抑制することができる。
【0024】
また、本発明が特に有用に適用し得る基板は、上記接着を行う基板が半導体製造用基板である場合である(請求項9)。3次元に積層された半導体装置を製造する場合、製造中間体を接着したものがヒートショック等による接着不良の心配なく次の加工が行えるのであれば、製造工程設計の高い自由度が得られる。更に、ケイ素系高分子材料による接着層は、シリコン基板と同条件のドライエッチングによって加工可能であるため、接着後の接着された基板間をつなぐホール形成を行う場合にも有利な方法である。
【0025】
更に、本発明は上述の接着方法を用いて製造した3D半導体装置である(請求項10)。上述の接着方法により熱安定性が高く、ヒートショックに強い接着層が得られることから、それにより得られた本発明の3D半導体装置は高い信頼性を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の高温耐性接着剤組成物によれば、精密な構造内の接着層として用いることができ、接着された材料が高温で処理された場合にも質量減少が極めて低いと共に、熱応力に対して強い接着性を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
接着剤の接着メカニズムには種々のものがあるが、接着強度の高い接着方法の一つとして、接着層前駆体膜中の高分子材料が、硬化工程において高分子材料間に架橋を形成することで接着が完成するというものがある。例えば、よく知られているシリコーン系接着剤の場合、接着を行う基板間に接着層前駆体膜を設け、接着する基板同士に挟まれた接着層中のシリコーン樹脂の側鎖と架橋剤とを縮合あるいは付加反応させてやることにより硬化させ、接着を完成する。
【0028】
3価以上(加水分解性基の数が3つ以上)の加水分解性シラン化合物、例えばメチルトリメトキシシランを加水分解・縮合することにより得られるポリシロキサンは、SOG(スピンオングラス)材料として使用されることから知られる通り、該ポリシロキサンを用いて塗布膜を形成した後に該塗布膜を焼結すると、ポリマー間にSi−O−Si架橋が形成されて硬化することが知られている。更に、そのようにして得られたSOG膜は400℃程度の高温条件による処理に十分耐える熱安定性を有していることは、半導体の製造に用いる検討がこれまで行われてきたことからもよく知られている。
【0029】
従って、そのような材料は、特開平2−180965号公報(特許文献3)で開示されているような有機系高分子化合物や特開2008−14716号公報(特許文献4)で開示されているような無機マクロ粒子を含有するような複雑な系でなく、また上述のような一般的なシリコーン接着剤のように架橋剤を別途用いなくても、高温耐性を有する接着剤としての基本機能を有している注目すべき材料であると本発明者らは考えた。
【0030】
しかし、他方、接着剤として機能するためには、接着した基板同士あるいは接着した基板と接着層との間の熱膨張率差などによる熱応力がかかった場合にも接着面及び接着層が破壊してしまわない程度に弾性率が低いことが要求される。この弾性率が低いという物性が必要な場合には、通常、高分子化合物の主たる原料として2価の加水分解性シランを用い、硬化を促進するために一部3価以上の加水分解性シラン化合物を共加水分解・縮合する方法がとられる。特許文献5(特開2008−19423号公報)のような硬化促進を行えば、シロキサン誘導体から得た膜は200℃以下で硬化することができるが、例えば2価の加水分解性シラン化合物を原料として80モル%(原料とした加水分解性シラン混合物全体に対するケイ素基準による%)程度用い、それに3価あるいは4価の加水分解性シラン化合物を共加水分解・縮合を行って得たポリシロキサン化合物を用いて得た膜は、SOG膜と比較した場合かなり低い弾性率を持ったものとなる。ところが、この硬化膜を300℃以上に加熱すると明らかな質量減少が観察された。この質量減少は、連続した2価のシロキサン単位の部分で、高温条件によりシロキサン結合の不均化反応が起こり、環状オリゴマーが生成して、ガスとして脱離するものと考えられる。
【0031】
そこで、本発明者らは熱耐性と低い弾性率を同時に与える膜を得る方法について、特にケイ素系高分子化合物を用いて種々検討したところ、炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数4又は8の複素環含有基、又は炭素数6〜12の芳香環含有炭化水素基による架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物を含む縮合物前駆体の単体あるいは混合物を加水分解・縮合して得たケイ素系高分子化合物であり、かつ該ケイ素系高分子化合物に含まれる全ケイ素原子に対し、前記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子の割合が90モル%以上であるケイ素系高分子化合物を熱硬化性結合剤として含有する高温耐性接着剤組成物を用いた場合には、上述のような高い耐熱性と低い弾性率というトレードオフとなりやすい要求を満たす接着が行えることを見出した。
【0032】
上記水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物とは、一般には水酸基である場合を含めてひとくくりに加水分解性シラン化合物と呼ばれるものであり、水酸基及び/又は加水分解基が3つ以上あるものが使用されることによって、上記ケイ素系高分子化合物は焼結時に高分子化合物間に架橋が形成され、熱硬化されるものである。
【0033】
また、ケイ素系高分子化合物に含まれる90モル%以上のケイ素原子は、脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子であることから、言いかえると、ケイ素系高分子化合物に含まれる90モル%以上のケイ素原子が持つ主鎖あるいは架橋鎖には必ず炭化水素基あるいは複素環含有基による架橋が含まれるというものである。
【0034】
下記本発明者らによる推定は、本発明を何ら限定するものではないが、本発明の接着剤組成物が含む熱硬化性結合剤が上記のような高い耐熱性と低い弾性率という特徴を持つ接着層を与える理由は、下記の通りであると推定している。
【0035】
即ち、上記ケイ素系高分子化合物を焼結して得られる膜は、それに含まれる90モル%以上のケイ素原子が持つ主鎖あるいは架橋鎖には必ず炭化水素基あるいは複素環含有基による架橋が含まれるものであり、単に弾性率を下げようとして2価の加水分解性シランを多量に用いた場合のように不均化を起こすリニアな(ジアルキル置換Si)−O−(ジアルキル置換Si)連続鎖を持たないことから耐熱性が向上する。また、炭素系の架橋と酸素による架橋の総量としては十分な密度を確保することで、熱による部分切断が一時的に起こっても、ガス化するような物質を生成する確率が非常に低くなる。更に、ケイ素1原子が他のケイ素との間の架橋形成に使用している結合の少なくとも1本は、Si−O結合に比較して軌道相互作用が小さく、結合距離も長いSi−C結合によるものであることから、この架橋はSi−O−Si架橋に比較して高い自由度を持ち、弾性率を下げる働きをするというものである。
【0036】
なお、上述の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物の定義において、1対以上のケイ素とは、ケイ素原子2つを持つ、いわゆる2核のシラン化合物であって、2つのケイ素原子の間に上述の炭化水素鎖に架橋を持つもの、また3核のシラン化合物では、中間に2つの炭化水素架橋を挟んで3つのケイ素原子が直鎖状に並んだものでも、1つの炭化水素架橋の両端にケイ素が結合し、架橋鎖の中間に位置する炭素原子に更にケイ素原子が結合する形でもよく、あるいは該中間に位置する炭素原子からアルキレン基を介してケイ素原子が結合するような3つ以上のケイ素が結ばれる架橋でもよい。更に環状の炭化水素骨格に3つのケイ素原子が結合している形でもよく、ケイ素と炭素架橋が交互にあって環状となっていてもよいことを意味する。更に、4核以上のシラン化合物でもよく、4つのケイ素基の取り得る配置は、上述のように全てが末端に配置されても、一部が鎖の中間に配置されても良い。
【0037】
また、上述の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物のケイ素原子に結合する架橋において、架橋となる上記炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基としては、2価のものとして、アルキレン基、アルケニレン基が挙げられ、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン基とその異性体を挙げることができる。環状脂肪族炭化水素基としては、2〜4価のシクロペンタン環やシクロヘキサン環、ノルボルナン環等が挙げられ、更にそれら環構造からアルキレン基を介してケイ素原子と結合するものでもよい。
【0038】
環状脂肪族炭化水素基は多環式のものでもよく、ノルボルナン環やアダマンタン環でもよい。但し、特に多環式構造の場合、弾性率を低くする目的では、上述のようなケイ素原子と環構造の間に1以上のメチレン基を介したものであることが好ましい。また、複素環含有基としては、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環構造を持つものが同様に例示される。
好ましく利用できる芳香族炭化水素基(芳香環含有炭化水素基)としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を持つものが同様に例示される。芳香族炭化水素基の場合、熱安定性を挙げる設計とするためには、芳香環に直接ケイ素原子が結合したものが有利であり、弾性率を低く抑えるためにはケイ素原子と環の間には1以上のメチレン基を介したものであることが好ましいが、熱安定性を考慮した場合には2以上のメチレン基を介したものであることが好ましい。なお、上記例示のものでは、熱安定性と低い弾性率で広くバランスをとりやすいという意味では、多環式のものを除く脂肪族炭化水素基の選択が最も好ましいものである。
【0039】
また、上述のケイ素系高分子化合物中に、全ケイ素原子に対して90モル%以上含まれる、前記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子は、更に下記一般式(1)
【化3】

(但し、pは1〜4の整数、qは0〜2の整数であると共に、2≦p+q≦4である。Qはそれぞれ独立に、上記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋基で、2〜5価、好ましくは2〜3価、特に2価の基である。Xはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は他のケイ素原子に結合する酸素原子との結合を示す。また、Rは炭素数1〜12の置換基を有していてもよい脂肪族あるいは芳香環を含有する1価炭化水素基である。)
で示される構造を有することが好ましい。上記Rで示される基は炭素数1〜12の置換基を有していてもよい脂肪族あるいは芳香環を含有する1価炭化水素基であるが、このRは比較的炭素数の多い直鎖の脂肪族である場合には焼結膜の弾性率をある程度低くする効果はあるものの、重要な効果となるものではない。また、熱安定性の点から見ると、メチル基など分岐のない単鎖のものが優れる。しかし、側鎖の分解自体は接着性に極めて重大な問題を発生させるものではないため、比較的自由に選択しても問題がない。材料の入手と熱安定性の点からバランスがとれているものとしてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基や、フェニル基を挙げることができるが、上記の通り、それに限定されるものではない。
【0040】
上記一般式(1)において、p+qは3又は4である場合には、上述のケイ素系高分子化合物中で、そのケイ素が焼結後に3本以上の架橋(主鎖を含む)を形成するか、あるいは形成能を有することを意味する。そこで、そのような構造を持つケイ素原子の近傍で高温による結合の切断が生じた場合にも、ガス化するような分子量の小さな物質が生成される可能性が極めて低くなる。従って、上述のケイ素系高分子化合物中に含まれる上記一般式(1)で表わされる構造を持つケイ素原子中の70モル%以上がp+q≧3である場合には、400℃以上といった高温での接着層の質量減少が非常に小さくなる。このことは、高温での接着層の高い耐熱性のみならず、半導体の接着に使用した場合には、接着した装置の機能障害等の発生を高い程度で防止できる。
【0041】
上述の架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物として、好ましいより具体的な構造として、下記一般式(2),(3)又は(4)
【化4】

(但し、aは1〜20の整数、rはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、sは0〜2の整数であり、しかし全てのrが1の時は全てのsが0にはならない。また、bは2〜6の整数であり、tは0〜2の整数であると共に、全てのtが0にはならない。cは1〜4の整数であり、cが1の場合、全てのrは1にはならない。Rは一般式(1)における定義と同一であり、Zalは炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の2価の脂肪族炭化水素基であり、またZxは炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の(c+1)価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6〜12の芳香環含有炭化水素基である。Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基のいずれかを示す。)
で示されるシラン類等が例示される。
【0042】
これらのシラン化合物を加水分解・縮合させることによって、得られるケイ素系高分子化合物中に、上記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子を導入することができ、上述の好ましい例を含む、全てのケイ素原子が炭化水素系の架橋と結合を持っている加水分解性シランの単体あるいは混合物の縮合を行えば、全てのケイ素原子が上記炭化水素による架橋との直接の結合をもつケイ素原子であるケイ素系高分子化合物が得られる。または、必要に応じて他の加水分解性あるいは複数のシラノールを有するシランと混合して用いる場合には、混合比を調整することによって、ケイ素系高分子化合物中のケイ素原子の90モル%以上が脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子であるものとすることができる。
【0043】
上記一般式(1)及び(2)中のZalである脂肪族炭化水素基としては、鎖状の好ましく選択されるものとして、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブテン基、ペンテン基、ヘキセン基及びその異性体を挙げることができる。環状の好ましく選択されるものとしては、シクロペンタン環やシクロヘキサン環及び更にシクロペンタン環、シクロヘキサン環にメチレン鎖を介してケイ素原子に結合する架橋基を挙げることができる。また、上記一般式(3)中のZxとして好ましく選択されるものとして、Zalに例示した脂肪族鎖状及び環状の炭化水素基の他、芳香族炭化水素基として、ベンゼン環及びジメチレン鎖を介してベンゼン環とケイ素原子が結合される架橋基を挙げることができる。
【0044】
また、上述した通り、一般式(2)において少なくとも1つのrは2あるいは3であり、かつ少なくとも1つのsが1あるいは2である場合、一般式(3)において2つ以上のtが1あるいは2である場合、一般式(4)において少なくとも1つのrが2あるいは3である場合には、特に高い耐熱性が期待できる。
【0045】
上述のケイ素系高分子化合物を得るため加水分解・縮合を用いる場合に好ましく使用し得る、上記一般式(2)〜(4)で示される加水分解性シラン化合物の具体例を以下に例示する。
【0046】
即ち、上記一般式(2)で示される加水分解性シラン化合物の好ましい具体例としては、1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン、1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン、1,3−ビス(メチルジメトキシシリル)プロパン、1−(メチルジメトキシシリル)−3−(ジメチルメトキシシリル)プロパン、1,4−ビス(メチルジメトキシシリル)ブタン、1−(メチルジメトキシシリル)−4−(トリメトキシシリル)ブタン、1,5−ビス(メチルジメトキシシリル)ペンタン、1−(メチルジメトキシシリル)−5−(トリメトキシシリル)ペンタン、1,6−ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサン、1−(メチルジメトキシシリル)−6−(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等が挙げられる。
【0047】
上記一般式(3)で示される加水分解性シラン化合物の好ましい具体例としては、1,1,4,4−テトラメトキシ−1,4−ジシラシクロヘキサン、1,1,4−トリメトキシ−4−メチル−1,4−ジシラシクロヘキサン、1,1,4,4−テトラエトキシ−1,4−ジシラシクロヘキサン、1,1,4−トリエトキシ−4−メチル−1,4−ジシラシクロヘキサン、1,1,3,3−テトラメトキシ−1,3−ジシラシクロヘキサン、1,1,3−トリメトキシ−3−メチル−1,3−ジシラシクロヘキサン、1,1,3,3−テトラエトキシ−1,3−ジシラシクロヘキサン、1,1,3−トリエトキシ−3−メチル−1,3−ジシラシクロヘキサン、1,3,5−トリメトキシ−1,3,5−トリメチル−1,3,5−トリシラシクロヘキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメトキシ−1,3,5−トリシラシクロヘキサン、1,3,5−トリエトキシ−1,3,5−トリメチル−1,3,5−トリシラシクロヘキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサエトキシ−1,3,5−トリシラシクロヘキサン、1,3,5,7−テトラメトキシ−1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラシラシクロオクタン、1,3,5,7−テトラエトキシ−1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラシラシクロオクタン、1,3,5,7−テトラメトキシ−1,3,5,7−テトラフェニル−1,3,5,7−テトラシラシクロオクタン、1,3,5,7−テトラエトキシ−1,3,5,7−テトラフェニル−1,3,5,7−テトラシラシクロオクタン等が挙げられる。
【0048】
上記一般式(4)で示される加水分解性シラン化合物の好ましい具体例としては、1,3,5−トリス(メチルジメトキシシリル)シクロヘキサン、1,3,5−トリス(ジメチルメトキシシリル)シクロヘキサン、1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)ベンゼン、1,3−ビス(メチルジメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(メチルジメトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メチルジメトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(ジメチルメトキシシリル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ジメチルメトキシシリル)ベンゼン、及び上述のメトキシ基で表示したものをエトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基及びそのアルキル異性体等、又は水素原子としたものを挙げることができる。
【0049】
本発明の接着層に使用するケイ素系高分子化合物は、基本的にはケイ素系高分子化合物中のケイ素原子の90モル%以上が脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子であれば本発明の目的を達成することができ、その設計より外れない範囲であれば、炭素系架橋と結合を持たない加水分解性シランあるいは縮合性シランを縮合物前駆体混合物に加えることができる。好ましく用いることができる炭素系架橋と結合を持たない加水分解性シラン化合物として次の一般式(5)
【化5】

(但し、sはそれぞれ独立に2〜4であり、Yはそれぞれ独立に同一でも異なっていてもよい加水分解性基である。またRは炭素数1〜12の置換基を有していてもよい脂肪族あるいは芳香族炭化水素基である。)
で示されるものを挙げることができる。本成分は主要材料ではないためRは上記要件の中で広く選択することができ、また、Yは好ましくは水素原子、水酸基、あるいは炭素数1〜4のアルコキシ基である。これらのうち、熱耐性を改善したい場合にはsが3あるいは4のものを用いることによって改善効果を得ることができる。
【0050】
更にケイ素系高分子化合物の原料となる縮合物前駆体混合物には、上述の加水分解性あるいは縮合性シラン化合物以外にも、ホウ素化合物、チタン化合物、アルミ化合物等を、それら金属原子のケイ素原子に対する比として、5モル%以下程度であれば含んでいてもよい。
【0051】
上述の縮合物前駆体の加水分解・縮合反応は、上述のような縮合物前駆体の単体あるいは混合物を酸あるいは塩基性触媒を用い、加水分解・縮合することで、上述のケイ素系高分子化合物とすることができる。加水分解性シラン化合物の加水分解・縮合は多数の公知例(例えば特許文献5:特開2008−19423号公報)が知られており、基本的にはいずれの方法を用いてもよい。なお、Si−H結合を加水分解・縮合させるためには、塩基性触媒を用いることが好ましいが、縮合状態をコントロールするために焼結時までSi−Hを保存しておき、焼結時にSi−H結合をSi−O−Si結合に変換するという設計も可能である。この場合、製膜後にリフローさせることが可能に設計することもでき、より平坦性の高い接着層前駆体膜を形成できるメリットがある。
【0052】
例えば酸触媒を用いる場合には、無機酸、例えばフッ酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、リン酸等や、スルホン酸誘導体、例えばメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等、また比較的酸性度の高いシュウ酸やマレイン酸のような有機酸等が使用される。触媒の使用量は、ケイ素モノマー又はそれらの混合物に含まれるケイ素原子1モルに対して10-6モル〜10モル、好ましくは10-5モル〜5モル、より好ましくは10-4モル〜1モルである。
【0053】
上述の縮合物前駆体から加水分解・縮合によりケイ素系高分子化合物を得るときの水の量は、縮合物前駆体に結合している加水分解性置換基1モル当たり0.01〜100モル、より好ましくは0.05〜50モル、更に好ましくは0.1〜30モルを添加することが好ましい。100モルを超える添加は、反応に使用する装置が過大になるだけで不経済である。
【0054】
操作方法として、触媒水溶液に縮合物前駆体を添加して加水分解・縮合反応を開始させる。このとき、触媒水溶液に有機溶剤を加えてもよいし、縮合物前駆体を有機溶剤で希釈しておいてもよいし、両方行ってもよい。反応温度は0〜100℃、好ましくは5〜80℃である。縮合物前駆体の滴下時に5〜80℃に温度を保ち、その後20〜80℃で熟成させる方法が好ましい。
【0055】
触媒水溶液に加えることのできる、又は縮合物前駆体を希釈することのできる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、メチル−2−n−アミルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート、γ−ブチルラクトン及びこれらの混合物等が好ましい。
【0056】
これらの溶剤の中で好ましいものは水可溶性のものである。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール縮合物誘導体、アセトン、4−メチル−2−ペンタノン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。この中で特に好ましいのは、沸点が100℃以下のものである。
【0057】
なお、有機溶剤の使用量は、縮合物前駆体1モルに対して0〜1000ml、特に0〜500mlが好ましい。有機溶剤の使用量が多いと反応容器が過大となり不経済である。
【0058】
一方、塩基性触媒を用いる場合、使用される塩基性触媒は具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン、ヘキサメチレンテトラミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリンハイドロオキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。触媒の使用量は、縮合物前駆体1モルに対して10-6モル〜10モル、好ましくは10-5モル〜5モル、より好ましくは10-4モル〜1モルである。
【0059】
上記縮合物前駆体から加水分解・縮合によりケイ素系高分子化合物を得るときの水の量は、縮合物前駆体に結合している加水分解性置換基1モル当たり0.01〜100モル、より好ましくは0.05〜50モル、更に好ましくは0.1〜30モルを添加することが好ましい。100モルを超える添加は、反応に使用する装置が過大になるだけで不経済である。
【0060】
操作方法として、触媒水溶液に縮合物前駆体を添加して加水分解・縮合反応を開始させる。このとき、触媒水溶液に有機溶剤を加えてもよいし、縮合物前駆体を有機溶剤で希釈しておいてもよいし、両方行ってもよい。反応温度は0〜100℃、好ましくは5〜80℃である。縮合物前駆体の滴下時に5〜80℃に温度を保ち、その後20〜80℃で熟成させる方法が好ましい。
【0061】
触媒水溶液に加えることのできる、又は縮合物前駆体を希釈することのできる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、メチル−2−n−アミルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート、γ−ブチルラクトン及びこれらの混合物等が好ましい。
【0062】
これらの溶剤の中で好ましいものは水可溶性のものである。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール縮合物誘導体、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
この中で特に好ましいのは、沸点が100℃以下のものである。
【0063】
なお、有機溶剤の使用量は、縮合物前駆体1モルに対して0〜1000ml、特に0〜500mlが好ましい。有機溶剤の使用量が多いと反応容器が過大となり不経済である。
【0064】
その後、必要であれば触媒の中和反応を行い、加水分解・縮合反応で生成したアルコールを減圧除去し、反応混合物水溶液を得る。このとき、中和に使用することのできる酸性物質の量は、触媒で使用された塩基に対して0.1〜2当量が好ましい。この酸性物質は水中で酸性を示すものであれば、任意の物質でよい。
【0065】
上述のケイ素系高分子化合物を、水を含んでいてもよい有機溶剤に溶解して接着層前駆体膜形成用組成物とする。ここで使用される有機溶剤は、塗布条件に応じて適度な揮発性を有し、上記ケイ素系高分子化合物を溶解しうるものであればいずれのものも使用できる。好ましく用いることができる溶剤としては、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、2,2,2−トリメチルペンタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、n−アミルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル系溶媒、ジエチルカーボネート、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルなどのエステル系溶媒、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドンなどの含窒素系溶媒、硫化ジメチル、硫化ジエチル、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−プロパンスルトンなどの含硫黄系溶媒等を挙げることができる。
これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
この場合、固形分濃度は塗布方法に応じて適切な粘度が得られるように調整される。これは、接着に用いる接着層前駆体膜の膜厚設計や上述のケイ素系高分子化合物の物性に応じて調整されるものであるが、一般的には0.1〜40質量%であり、より好ましくは0.2〜30質量%である。
また、上記加水分解・縮合により得られるケイ素系高分子化合物の重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、300〜100000、より好ましくは500〜50000であることが好ましい。
【0067】
更に必要に応じて界面活性剤、pH調整剤を始めとする安定化剤や、光酸発生剤や熱酸発生剤のような硬化促進剤のような補助的添加剤を加えて接着層前駆体膜形成用組成物とすることができる。これらの補助的添加物については多数が知られている(例えば特許文献5:特開2008−19423号公報を参照)が、基本的にはいずれのものも使用してもしなくてもよい。
【0068】
複数の基板を接着するためには、互いに接着する基板の間に上記接着層前駆体膜を入れ、加熱硬化を行うことにより接着することができるが、通常の架橋剤を用いるようなシリコーン系接着剤と異なる点は、硬化反応が縮合反応であるため、硬化に伴い水あるいはアルコールのガスが発生する点である。
【0069】
そこで、互いに接着する基板のいずれもがシリコンウェハーのようなガス透過性の全くない材料である場合には、硬化反応を十分に長い時間をかけて行うか、後述のようなガス透過層を接着する少なくとも一方の接着面に予め形成しておくことが好ましい。
【0070】
上記ガス透過層とは、接着層前駆体膜を熱硬化させる接着工程で、該前駆体膜より反応に伴って発生するガスを系外に放出させるための層であり、基本的には極めて微細でもよい空孔を層中に有する膜である。このような空孔としては、メソ孔(1〜10nmの孔径を有するもの)やミクロ孔(1nm以下の孔径を持つもの)であればより好ましく、具体的にはCVD−Low−k材料と呼ばれるもの(例えば特許文献6:WO2005/53009号公報)や、塗布型のLow−k材料(例えば特許文献7:特開2004−269693号公報、特許文献8:特開2007−324283号公報、特許文献9:特開2007−314778号公報)、SOG材料(例えば特許文献10:米国特許第6,268,457号明細書)、塗布型ハードマスク材料(例えば特許文献5:特開2008−19423号公報)のようなものを使用することができる。なお、Si表面の酸化物層や、TEOS−CVDによる通常法で成膜されるような酸化ケイ素膜はガス透過層としては不向きである。
【0071】
基板を接着する工程は、上記のように接着する基板と基板の間に必要に応じて一方あるいは双方の接着面にガス透過層を設けたものを準備し、両基板間に接着層前駆体膜を形成し、更に該前駆体膜を加熱硬化させる。
【0072】
接着層前駆体膜として2μm程度以下といった薄膜のものを使用する場合には、ガス透過層を必要に応じて設けた基板間の一方あるいは双方の接着面に上記接着層前駆体膜形成用組成物を塗布して接着層前駆体膜を形成することが好ましい。塗布方法としては公知のいずれの方法を採ることができるが、特にウェハー同士の接着のような場合には、回転塗布により容易に高平坦性を持った膜が形成でき好ましい。
【0073】
上記のように接着層前駆体膜を塗布法によって成膜する場合、塗布された接着層前駆体膜は、そのまま接着のための加熱硬化工程を行ってもよいが、硬化に伴う多量のガス発生によって接着時にボイドや接着不良が発生することを防止するためには、前駆体膜中のケイ素系高分子化合物間をある程度架橋形成反応を進行させておく、即ちBステージ化しておくことが好ましい。
【0074】
上記Bステージ化の条件は、用いるケイ素系高分子化合物の種類や、溶剤の種類、硬化促進剤の有無によって変化するため、用いる材料によって別途設定してやる必要があるが、目安としては、60〜95モル%の架橋形成性側鎖(シラノール基やアルコキシ基)がSi−O−Si結合となる条件を選択すればよい。また、この条件は、接着層前駆体膜のタックを見ながら、加熱温度、時間を調整する。一般には120〜230℃で30秒〜3分程度の加熱によってBステージ化された接着層前駆体膜が得られるが、硬化が甘すぎると接着した際の膜の均一性が保ちにくくなる一方、硬化が進みすぎると接着力が失われるため、必要に応じて条件を調整する必要がある。
【0075】
ここまでは特定構造を持つケイ素原子が占める割合を目安として設計されたケイ素系高分子化合物を用いた接着層前駆体膜を用いる方法について説明してきたが、上述のような特定構造のケイ素原子が占める割合を目安とする方法とは別に、本発明の接着層前駆体膜形成用組成物用のケイ素系高分子化合物を次の基準を満たすものとすることで、本発明の接着方法を成功させることができる。
【0076】
即ち、接着剤組成物中の熱硬化性高分子結合剤としてケイ素系高分子材料を用い、400℃以下の温度で熱硬化を行った後、得られる硬化膜の弾性率は4GPa以下であり、かつ該硬化膜を400℃に昇温した後400℃で60分間加熱した際の質量減少が3%以下である材料である。
【0077】
硬化膜の弾性率は、弾性率の測定を行うに適当な基板上に上記接着剤組成物を塗布成膜し、膜の硬化に必要な加熱を行って硬化膜を作製し、それを公知の方法によって弾性率を測定することにより行うことができる。例えばシリコンウェハー上に接着剤組成物を塗布し、100〜200℃で約1分間加熱して膜中に残存する過剰の溶剤を除去する。次に窒素雰囲気下焼成炉により350℃で60分間加熱し、該前駆体膜を熱硬化させて検定材料とする。これをナノインデンテーション法によって弾性率の測定を行えばよい。この際4GPa以下の弾性率を持つ材料を用いることによって、基板を接着した後ヒートショック等により応力がかかった場合にも破壊されにくい信頼性の高い接着により積層された基板層を持つ半導体装置を作製することができる。
【0078】
一方、質量損失に関する基準の検定方法であるが、成膜された膜の質量が精密に秤量可能な方法で、接着剤組成物から上記と同様硬化膜前駆体を形成し、それを400℃以下の温度で熱硬化させる。熱硬化後の硬化膜の質量を精密に測定した後、この硬化膜を熱減量試験として400℃で60分間加熱し、再び質量の測定を行って質量減少量を求めればよい。
【0079】
この測定は、例えばTG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)のような装置を用いてこの測定を行うことができる。例えば装置に装着するアルミパンに接着剤組成物を少量滴下し、ホットプレート上で100〜200℃程度の温度で過剰の溶剤を除去する。これを装置に装着し、例えば10℃/秒の昇温で400℃まで昇温させ1分間維持した後加熱を終了し、アルミパン中にある不揮発残分の質量を精密に測定する。次いで再び400℃に昇温し、1時間その温度を維持した後の質量減少を精密に測定する。なお、上記操作中、アルミパンに滴下する量は多すぎると膜厚が厚くなりすぎ、上記加熱条件では溶剤が除去できなくなるおそれがあるため、例えば1μm程度の適度な膜厚となるよう調整する必要がある。
【0080】
質量減少量の測定は、上記のような熱硬化膜の質量が精密に測定可能な方式のものであればどのような方法を用いてもよく、表面がフッ素材料で処理されたような基板上で硬化膜を作製した後、剥離した膜を用いて質量測定を行うような方法でもよい。
【0081】
ここで質量減少量が3%以下であれば、そのような接着層によって接着された基板は、処理工程で400℃程度の熱がかかってしまうCVD処理等を行っても熱による接着不良が起こりにくく、接着以降の工程に用いることができる加工技術が広く選択できるようになる。
【0082】
候補となる接着層前駆体膜を得るために使用する膜形成用組成物の材料となるケイ素系高分子化合物は、上述のような一般式(2)〜(4)で示される加水分解性シラン化合物を始めとする炭化水素系の架橋で結ばれた多核の加水分解性シランの単体あるいは混合物を主成分とし、更に一般式(5)で示される加水分解性シラン、あるいはそれ以外の材料を含有する混合物を加水分解・縮合して得た高分子化合物が重要な候補となる。
【0083】
また、ここでも接着層前駆体膜は、成膜時にBステージ化することが好ましいこと、また接着する基板のガス透過性が低い場合にはガス透過層を基板の接着面に設けることが好ましいことは、上述の説明と同様である。
【0084】
最終的な接着工程は次のようにして行うことができる。すなわち、上述のようにして得た、接着される基板間に必要に応じてガス透過層を挟み、接着層前駆体膜、あるいはBステージ化処理がされた接着層前駆体膜を挟んで基板同士を圧着し、好ましくは雰囲気の減圧を行いながら加熱して接着層前駆体膜を熱硬化して接着層とする。
【0085】
雰囲気の減圧度は低ければ低いほどよいが、一般には500〜5000Paの間で行う。その際基板間を強く密着させることが好ましく、通常1000〜60000ニュートンの荷重をかけて行う。最終的な接着のための硬化温度は使用する材料と補助添加物の有無及び種類に依存するが、通常200〜450℃で1〜120分程度行う。
【実施例】
【0086】
[合成例1]<沈降法 BSE−34 レジンの合成>
濃硝酸0.16gを223gの超純水中に溶解した溶液を室温で撹拌しながら、1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gと4−メチル−2−ペンタノン13gの溶液を添加した。反応液は徐々に発熱し50℃に達したが、30分後には室温に戻った。12時間この状態で撹拌を続けた。この反応液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMEA)300gを加え、低沸点溶媒を減圧で留去した。この間エバポレータのバス温度は30℃以下に保った。得られた残留溶液に酢酸エチル500ml、超純水500mlを加え、分液ロートに移して水層を除去した。有機層は超純水200mlで更に2回洗浄した。得られた有機層にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート300gを加え、エバポレータで溶媒留去した結果210gの溶液が得られ、これを接着剤組成物母液とした。なお、この溶液の不揮発残分は14.7質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、1952であった。
【0087】
[合成例2]
合成例1の1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gの混合物を、1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン102.2gに変更した以外は、合成例1に記述した方法に従って接着剤組成物母液を得た。なお、この溶液の不揮発残分は20.4質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、2092であった。
【0088】
[合成例3]
合成例1の1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gの混合物を、ビス[2−(メチルジメトキシシリル)エチル]ジメトキシシラン146.0g(0.41mol)とメチルトリメトキシシラン13.6g(0.1mol)の混合物に変更した以外は、合成例1に記述した方法に従って接着剤組成物母液を得た。なお、この溶液の不揮発残分は16.2質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、2764であった。
【0089】
[合成例4]
合成例1の1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gの混合物を、1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン71.4g(0.3mol)と1,3,5−トリメトキシ−1,3,5−トリシラシクロヘキサン19.8g(0.075mol)の混合物に変更した以外は、合成例1に記述した方法に従って接着剤組成物母液を得た。なお、この溶液の不揮発残分は18.2質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、2966であった。
【0090】
[合成例5]
合成例1の1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gの混合物を、1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン71.4g(0.3mol)とトリス(2−メトキシジメチルシリルエチル)メチルシラン29.6g(0.075mol)の混合物に変更した以外は、合成例1に記述した方法に従って接着剤組成物母液を得た。なお、この溶液の不揮発残分は15.2質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、3042であった。
【0091】
[比較合成例1]<接着層組成物の合成>
合成例1の1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gの混合物を、メチルトリメトキシシラン116.7gに変更した以外は、合成例1に記述した方法に従って接着剤組成物母液を得た。なお、この溶液の不揮発残分は20.8質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、2062であった。
【0092】
[比較合成例2]
合成例1の1,2−ビス(メチルジメトキシシリル)エタン51.1gと1−(メチルジメトキシシリル)−2−(ジメチルメトキシシリル)エタン47.6gの混合物を、メチルトリメトキシシラン58.6g(0.43mol)とジメチルジメトキシシラン51.7g(0.43mol)に変更した以外は、合成例1に記述した方法に従って接着剤組成物母液を得た。なお、この溶液の不揮発残分は22.2質量%であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりその重量平均分子量を測定したところ、1064であった。
【0093】
[製造例1]ガス透過膜つきシリコンウェハーの製造
エタノール188.4g、超純水93.44g、25%水酸化テトラメチルアンモニウム8.26gを混合した溶液を撹拌しながら60℃に加温した。この溶液中にメチルトリメトキシシラン19.5gとテトラエトキシシラン36.43gの混合液を6時間かけて滴下した。得られた反応液を氷水で冷却して室温にした後、シュウ酸2gとPGMEA200mlを添加し、得られた溶液をエバポレータにより溶媒留去し、残留液が161gになるまで溶媒を留去した。このようにして得られた溶液に酢酸エチル200g、超純水120gを加え、分液ロートで洗浄、静置した。分離した水層を除いてから有機層を更に2回、超純水120mlを用いて水洗した。この様にして得られた有機層にPGMEA120mlを加えた後、エバポレータにより溶媒を留去して208gまで濃縮してガス透過膜形成用組成物母液とした。なお、この溶液の不揮発残分は21.3質量%であった。
この母液を1500r.p.m.の回転速度でシリコンウェハー上に塗布し、これを120℃,2分、230℃,2分のベークを行なった後、425℃,1時間加熱して、約100nmの厚さのガス透過膜を得た。
【0094】
[実施例1]
上記ガス透過膜を成膜したシリコンウェハーに、合成例1で得られた接着剤組成物を1500r.p.m.の回転速度で塗布し、ホットプレートを用いて100℃にて1分間加熱し、溶媒を蒸発させて接着用基板を作製した。この時の接着層前駆体膜の膜厚は約500nmであった。この基板を2枚、接着層を内側にして基板接合装置EVG520(イー・ヴィー・グループ社製)にセットした。接着は10mbarの減圧下、150℃にて行い、5kNの圧力をかけながら、10℃/分で300℃まで加熱し、2分保持後、同じ速度で150℃まで冷却した。
接着後のサンプルの接着力をカミソリテストで測定したところ、接着力は約3J/m2であった。また、日立建機ファインテック製超音波映像装置FS300IIを用いた接着面の観測では、剥がれや欠陥はみられず、良好な接着面が観測された。
【0095】
[実施例2〜5]
実施例1と同様の方法によりに合成例2〜5で得られた接着剤組成物を同様の方法によって用いて接着試験を行ったところ、接着力はそれぞれ、約2、3、1.5、1.5J/m2であり、接着面の観察でも剥がれや欠陥がみられず、良好な接着面が観測された。
【0096】
[比較例1,2]
実施例1と同様の方法により、比較合成例1及び2で得られた接着剤組成物を用いて接着試験を行ったところ、接着力はそれぞれ0.5、1.5J/m2であった。一方、接着面の観察では何れの接着面にも剥がれや欠陥が観測され、良好な接着面とはいえなかった。
【0097】
比較例1では、下記のように、形成された接着層の弾性率が非常に高く、接着処理前後の基板の熱膨張、収縮が原因となって接着面不良を生じたものと考えられる。また、比較例2では、接着処理中に一部接着層の熱分解が生じ、接着面不良を生じたものと考えられる。
【0098】
[実施例6〜10及び比較例3,4](弾性率の測定)
弾性率の測定は上記合成例1〜5及び比較合成例1,2で得た接着剤組成物をそれぞれシリコンウェハー上に塗布、400℃,1時間焼成した膜(膜厚約500nm)に関して薄膜機械的特性評価システム(MTS社製Nano Indenter SA2)を用いて行った。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
表1より、実施例、及びリニアな(ジアルキル置換Si)−O−(ジアルキル置換Si)連続鎖を多数含む比較合成例2の酸化ケイ素系高分子化合物を用いた比較例4では、何れも低い弾性率が得られている一方、ケイ素原子が3つ以上の酸素原子による架橋のみを持つ比較合成例1の酸化ケイ素系高分子化合物を用いた比較例3では、高い弾性率を示すことが示された。
【0101】
[実施例11〜15、比較例5,6](質量減少量の測定)
質量減少量の測定は、Rigaku社製THERMO FLEX TAS300 TG8101Dを用いて窒素気流中で行い、400℃に昇温直後の質量を100%とし、400℃を維持し、1時間経過後の質量減少を測定する手法で行った。結果を表2に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
表2より、実施例、及びケイ素原子が3つ以上の酸素原子による架橋のみを持つ比較合成例1の酸化ケイ素系高分子化合物を用いた比較例5では、質量減少が3%より小さな数値となっており、熱耐性が得られていることが示された。一方、リニアな(ジアルキル置換Si)−O−(ジアルキル置換Si)連続鎖を多数含む比較合成例2の酸化ケイ素系高分子化合物を用いた比較例6では、熱分解による3%以上の質量減少が観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基、炭素数4又は8の複素環含有基、又は炭素数6〜12の芳香環含有炭化水素基による架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物
を含む縮合物前駆体の単体又は混合物を加水分解・縮合して得たケイ素系高分子化合物であり、
かつ該ケイ素系高分子化合物に含まれる全ケイ素原子に対し、前記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子の割合が90モル%以上であるケイ素系高分子化合物を熱硬化性結合剤として含有する高温耐性接着剤組成物。
【請求項2】
上記ケイ素系高分子化合物に含まれる上記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による架橋との直接の結合を持つケイ素原子は、下記一般式(1)
【化1】

(但し、pは1〜4の整数、qは0〜2の整数であると共に、2≦p+q≦4である。Qはそれぞれ独立に上記脂肪族炭化水素基、複素環含有基、又は芳香環含有炭化水素基による2〜5価の架橋基、Xはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は他のケイ素原子と結合する酸素原子との結合を示す。また、Rは炭素数1〜12の置換基を有していても良い脂肪族又は芳香環を含有する1価炭化水素基である。)
で示される構造を有することを特徴とする請求項1記載の高温耐性接着剤組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)において、p+q≧3であるケイ素原子数は、一般式(1)に含まれる全ケイ素原子数に対し70モル%以上である請求項2記載の高温耐性接着剤組成物。
【請求項4】
上記架橋により結ばれた1対以上のケイ素原子を有すると共に、3つ以上の水酸基及び/又は加水分解性基を有するシラン化合物は、下記一般式(2),(3)又は(4)
【化2】

(但し、aは1〜20の整数、rはそれぞれ独立に1〜3の整数であり、sは0〜2の整数であり、しかし全てのrが1の時は全てのsが0にはならない。また、bは2〜6の整数であり、tは0〜2の整数であると共に、全てのtが0にはならない。cは1〜4の整数であり、cが1の場合、全てのrは1にはならない。Rは請求項2記載の定義と同一であり、Yはそれぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基から選択され、またZalは置換基を持ってもよい2価の炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基を示し、Zxは炭素数1〜10の環状構造を含んでいてもよい直鎖状もしくは分岐状、又は環状の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜12の芳香環含有炭化水素基を示す。)
で示されるいずれかを含むものである請求項1乃至3のいずれか1項記載の高温耐性接着剤組成物。
【請求項5】
上記一般式(2)〜(4)において、少なくとも1つのrはr≧2であり、少なくとも1つのsはs≧1であり、少なくとも1つのtはt≧1である請求項4記載の高温耐性接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の高温耐性接着剤組成物を基板上に塗布して接着層前駆体膜を形成し、接着層前駆体膜を挟んで接着を行う基板同士を合わせ、接着層前駆体膜を加熱により硬化させて基板同士の接着を行うことを特徴とする基板の接着方法。
【請求項7】
ケイ素系高分子材料を用いて形成した接着層前駆体膜により基板を接着する基板の接着方法において、1μm以上の粒径を持つ粒子を含まず、400℃以下の温度で硬化を行った後に得られる硬化膜の弾性率は4GPa以下であり、かつ該硬化膜を400℃に昇温した後400℃で60分間加熱した際の質量減少が3%以下である接着層前駆体膜を用いて基板同士の接着を行う基板の接着方法。
【請求項8】
接着層前駆体膜が請求項1乃至5のいずれか1項に記載の高温耐性接着剤組成物から形成されたものである請求項7記載の基板の接着方法。
【請求項9】
上記接着を行う基板は半導体製造用基板である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の基板の接着方法。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか1項に記載の接着方法を用いて製造した3次元半導体装置。

【公開番号】特開2010−43211(P2010−43211A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209197(P2008−209197)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】