説明

高熱伝導性接着シート及びその使用方法

【課題】 発熱体と放熱部材を強い接着力で電気絶縁性を確保しつつ、信頼性よく短時間で貼り合せることができる接着シートとその使用方法を提供する。
【解決手段】 高い熱伝導率と電気絶縁性を有する多孔質セラミックス基板を平坦に研磨して熱可塑性樹脂を薄く均一に塗布してなる高熱伝導性接着シートを、発熱体と放熱部材の間に挟んで、適当な温度、圧力、時間で加熱加圧して接着する。これにより発熱体と放熱部材を低熱抵抗と強い接着力で電気絶縁性を確保しつつ貼り合せることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体と放熱部材を低熱抵抗と強い接着力で電気絶縁性を確保しつつ、信頼性よく短時間で貼り合せることができる接着シートとその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の高密度化、小型化に伴い、単位面積あたりの発熱量は著しく増大し、放熱部材の高性能化の要求がますます高まっている。
放熱が不十分な状態で電子部品を連続使用した場合、温度上昇による抵抗の増加により発熱量が増し、さらに抵抗が増加して発熱量が増すという熱暴走現象を引き起こすため、十分な放熱能力を確保する必要がある。
【0003】
そこで、電子部品からの発熱を効率よく放熱するために、ヒートシンク等のの放熱部材を用いることが多くなっている。通常、放熱部材は発熱体である電子部品と密着もしくは接着させて用いられ、この密着または接着のために、また、グリス、シリコーンゴムシート、接着シートや接着剤などが提案、使用されている。これらの材料には高熱伝導性と共に電気絶縁性が求められる。絶縁が十分でない場合、半導体装置に用いるとリーク電流が発生することがあり、使用に適さないためである。
【0004】
密着にグリスを用いる場合は、密着させる部材の凹凸をグリスが埋めて熱伝導性を確保する。グリスの熱伝導率は低いため、一般に熱伝導率の高い無機物フィラーを高充填して用いられるが、3〜5W/(m・K)が上限である。この場合、グリスと無機物フィラーは絶縁物であるが、使用時にはグリスの厚みが極めて薄くなるために、電気絶縁性を確保することが難しい。より高い放熱性能を要求される場合には、グリスに銀などの金属粒子を充填することもある。この場合は10W/(m・K)程度の熱伝導率を有することができるが、体積抵抗率そのものが小さくなり、電気絶縁性の確保が困難になる。また、グリスを用いる場合、電子部品との固定は、ばね等により行うことが多いが、接着する場合に比べて強度が弱く、外れやすいという欠点を有する。
【0005】
密着にシリコーンゴムシートを用いる場合は、電子部品と放熱部材の間にシリコーンゴムを挟み、圧力を加えてゴムの追随性により密着させる部材の凹凸を埋めて熱伝導性を確保する。シリコーンゴムシートの熱伝導率は熱伝導率の高いフィラーを高充填した場合で10W/(m・K)が上限である。この場合、シリコーンゴムシートは絶縁物であり、ある程度の厚みがあるので電気絶縁性は確保できる。しかし、厚みがグリスの10倍以上になるために使用時の熱抵抗はグリスを使用する場合より大きく、高い放熱性能を要求される場合、放熱性能は不十分という欠点がある。シートの厚みを薄くすることで熱抵抗を減少させることができるが、ハンドリング性を考えると0.5mm以下の厚みでは使用が困難であるほか、極端に薄いシートでは表面の凹凸を埋めて熱伝導性を確保するという本来の目的を果たせなくなるため不適当である。また、電子部品との固定は、ばね等により行うことが多いが、接着する場合に比べて強度が弱く、外れやすいという欠点を有する。
【0006】
接着シートや接着剤を用いる場合、接着シートや接着剤は通常有機物であり、熱伝導性が低い。そのため接着剤層の熱抵抗が大きく、放熱部材が本来の性能を発揮できないことがあり、問題となっている。
【0007】
このような状況下において、電子部品と放熱部材を接着するための熱伝導性接着シートが提案されている。例えば、特許文献1には、半導体素子と放熱部材を接合するために用いる表面が粗面であるセラミックス板とこの両粗面をならすように設けた樹脂層からなる接着層について記載されている。しかし、この方法では、セラミックスの種類や樹脂層の形成状態によって、十分な接着力が得られなかったり、熱抵抗が大きくなったりしてしまうことが多い。また、接着樹脂層として熱硬化性樹脂を用いているので、接着時間が長くなり、作業性に劣る。さらに、該特許文献では熱伝導性の評価について接着層の熱伝導率をレーザーフラッシュ法にて測定した結果が記載されているが、レーザーフラッシュ法での熱伝導率測定は、表面樹脂が熱伝導率を低下させる影響を評価できないことから複合材料の評価には不適当であり、結果の妥当性を欠く。さらに、接着状態での熱伝導性能に関する定量的な記載が無く、接着に供する樹脂の厚みや接着温度が熱伝導性能に与える影響が不明である。
【0008】
特許文献2では多孔質セラミックス基板に表面処理を施した後に樹脂を含浸した熱伝導シートが提案されている。特に樹脂層として熱可塑性樹脂を用いており、作業性が改善されているという特徴を有する。しかし、この方法では、樹脂の含浸状態によっては、十分な接着力が得られなかったり、熱抵抗が大きくなったりしてしまうことが多い。さらに、該特許文献では銅箔接着後の熱伝導率を測定しているが、熱伝導率測定の方法が記載されておらず、結果の妥当性が判断できない。また、接着に供する樹脂の厚みや接着温度が熱伝導性能に与える影響に関する記載が無く、最適な構造と使用方法が明確になっていない。また、接着状態での性能評価について不明瞭な点が多い。
【特許文献1】特開2001−196512
【特許文献2】特開2003−37382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術における上記したような課題を解決し、発熱体と放熱部材を低熱抵抗と強い接着力で電気絶縁性を確保しつつ、信頼性よく短時間で貼り合せることができる接着シートとその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、発熱体と放熱部材を低熱抵抗と強い接着力で電気絶縁性を確保しつつ貼り合せる方法について鋭意研究を重ねた結果、厚みばらつきが小さく電気絶縁性で連続気孔を有する多孔質セラミックス基板の両面に、熱可塑性樹脂層が薄く均一に厚みを厳密に制御して形成された高熱伝導性シートを、発熱体と放熱部材の間に挟み込んで、熱プレスを行なえば、信頼性よく短時間で貼り合せることができることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、厚さが0.1〜3mm、厚みばらつきが10μm以下、熱伝導率20W/(m・K)以上、体積固有抵抗が10Ω・cm以上、かつ、気孔率が5〜70%の連続気孔を有する多孔質セラミックス基板の両面に、厚さ1〜10μmの熱可塑性樹脂層が形成された高熱伝導性接着シートである。ここで、該多孔質セラミックスが、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウム−窒化ホウ素複合体(AlN−h−BN)、窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体(AlN−SiC−h−BN)、アルミナ(Al)またはアルミナ−窒化ホウ素複合体(Al−h−BN)であることであり、該熱可塑性樹脂が、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂またはパラフィン系樹脂である。
【0012】
また、本発明は、熱伝導率20W/(m・K)以上、体積固有抵抗が10Ω・cm以上、かつ、気孔率が5〜70%の連続気孔を有する多孔質セラミックス基板を、厚さが0.1〜3mmで厚みばらつきが10μm以下に平坦に研磨した後、両面に熱可塑性樹脂を厚さ1〜10μmに均一に塗布する高熱伝導性接着シートの製造方法である。
また、本発明は、上記した高熱伝導性接着シートを、発熱体と放熱部材の間に挟み込み加熱加圧することからなる発熱体と放熱部材の接着方法である。そして、該高熱伝導性接着シートが、ポリイミド系樹脂を塗布してなるもののとき、温度170〜300℃、圧力0.1〜1MPa、5分以上の条件で加熱加圧するものであること、該高熱伝導性接着シートが、ポリエステル系樹脂を塗布してなるもののとき、温度60〜200℃、圧力0.1〜1MPa、5分以上の条件で加熱加圧するものであること、該高熱伝導性接着シートが、パラフィン系樹脂を塗布してなるもののとき、温度40〜100℃、圧力0.1〜1MPa、5分以上の条件で加熱加圧するものである発熱体と放熱部材の接着方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高熱伝導性接着シートを用いて発熱体と放熱部材の接着を行うと、発熱体と放熱部材の間の熱抵抗が小さく、かつ、接着力の強い接着物を得ることが可能となる。また、本発明の熱伝導性接着シートは構成部材として絶縁物のみからなるため、高い電気絶縁性を有し、電気絶縁性が必要な半導体チップ用の放熱用途などに好適に使用でき、産業上大変有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成を説明する。
本発明の高熱伝導接着シートに用いるセラミックス基板としては、熱伝導率の高いセラミックスを用いる必要があり、熱伝導率が20W/(m・K)以上のものからを選択される。20W/(m・K)未満では、十分な熱伝導性を確保できないことがある。
また、電気絶縁性の高いセラミックスを用いる必要があり、体積固有抵抗が10Ω・cm以上のものから選択される。10Ω・cm未満では、十分な電気絶縁性を確保できないことがある。
【0015】
この二つの条件を満たすセラミックスとして、具体的には、多孔質の窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウム−窒化ホウ素複合体(AlN−h−BN)、窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体(AlN−SiC−h−BN)、アルミナ(Al)、アルミナ−窒化ホウ素複合体(Al−h−BN)などからなる焼結体が挙げられる。
【0016】
これらのセラミックスは気孔率が5〜70%の連続気孔を有することが必須である。気孔を有すると、接着時に塗布した熱可塑性樹脂等から発生するガス(樹脂の揮発分や残存溶媒)が気孔を通じて外に出ることができるため、大気中、短時間での接着が可能となり、広い温度範囲で大きな接着強度を有することができる。また、軟化した樹脂が気孔内部に押し込まれることで接着後の樹脂厚みが減少し、その結果、熱抵抗を小さくすることができる。気孔率が5%未満では、このガス抜けの効果が不十分となり、接着できなかったり、接着できても接着力が著しく小さかったりすることが多い。接着条件を厳密に設定できれば、まれに、低熱抵抗と強い接着力を両立できることもあるが、その範囲は極めて狭く、実用には適さない。また、真空中でゆっくり昇温、ゆっくり降温しても低熱抵抗と強い接着力を両立できることがあるが、特殊なプレスが必要なだけでなく、時間がかかり生産性に劣る。さらに、気孔率が5%未満では、樹脂押し込みの効果も不十分となり、熱抵抗が大きくなってしまうことがある。気孔率70%を超えるとセラミックスの強度が著しく小さくなり、特に薄く加工するのが難しくなり、生産性やハンドリング性が悪化してしまう。また、セラミックス基板の熱伝導率も著しく低下し、20W/(m・K)以上を維持するのが困難である。
【0017】
一方、熱抵抗を小さくするためには、セラミックス基板の厚みをできるだけ薄くすることが必要であり、0.1mm〜3.0mmの厚みのものが用いられる。0.1mmより薄くなると、セラミックスの強度が著しく小さくなり、生産性やハンドリング性が悪化してしまう。3mmより厚くなると十分な熱伝導性が確保できなくなることがある。また、接着界面に空気層を生じさせないために、セラミックス基板の厚みはできるだけ均一にする必要があり、厚さばらつきは10μm以下にして用いられる。厚さばらつきが10μmを超えると、接着界面に空気層が発生して、熱伝導性を低下させたり、接着強度を低下させたりする。厚み調整は、ラップ研磨または平面研削盤によって行うことが好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂としては、種々の樹脂類が使用可能であるが、塗布の作業性や接着の容易さ、接着強度、使用環境に耐えうる耐熱性等を勘案して選択する。具体的には、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、パラフィン系樹脂などが挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂のうちポリイミド系樹脂やポリエステル系樹脂は、溶剤に溶解させた状態で塗布を行う。用いられる溶剤としては、ポリイミド系樹脂の溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンやテトラヒドロフラン、ポリエステル系樹脂の溶媒としてはメチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0020】
セラミックス基板の前処理として、塗布する樹脂を気孔内にあらかじめ含浸しておいても良い。具体的には、減圧含浸機内にて減圧下で該基板を保持した後に、脱気した樹脂溶液を基板が覆われるまで投入して、含浸に必要な時間保持することで行う。なお、含浸の際に超音波振動を加えることや、加圧することも有効である。含浸、風乾の後、乾燥機にて溶剤の沸点以上の温度で乾燥させることで溶剤を飛散させる。
【0021】
樹脂の塗布は、スピンコート、バーコート、ディップコート、ナイフコート、カーテンコートといった各種塗布方法を用いて行うことができる。スピンコートにおいては、スピンコーターにセラミックス基板をセットし、樹脂溶液を滴下後、テーブルを回転させて樹脂を拡散させる。その後乾燥機にて乾燥して溶媒を飛散させると、樹脂膜を基板上に定着させることができる。樹脂濃度と滴下量、テーブルの回転数を変更することで様々な厚みの樹脂膜をセラミックス上に形成することができる。
【0022】
塗布する樹脂厚みは1〜10μm、より好ましくは2〜3μmにする必要がある。樹脂厚みが薄いほど接着後の熱抵抗を小さくすることができるため好ましいが、2μm以下では接着力が弱くなる場合があり、1μm以下では接着そのものができないため不適当である。また、樹脂厚みが10μm以上ともなると熱抵抗が大きくなったり、樹脂が断面から流れ出して周辺を汚染したりするため不適当である。
【0023】
接着シートと発熱体、放熱部材の接着は、加熱加圧機構を有するプレス機にて行う。接着シートを発熱体と放熱部材の間に挟み込み、あらかじめ接着温度に加熱しておいたプレス機の熱盤間に挿入して、所定の圧力と所定の時間プレスして接着する。これにより、短時間での接着が可能となる。
接着するものの面積が比較的大きい場合は、面内の圧力を均一にするために、適当なクッションを熱盤と被接着物の間に挿入してもよい。通常は常圧下でのプレス機にて接着を行うが、接着界面に空気層が介在すると熱抵抗が増大する可能性があるため、より厳密な接着を行いたい場合は真空下で加熱加圧する機構を有するプレス機を使用することも有効である。また、発熱体と放熱部分の接着面に段差、反りがあると、接着される面積が減少して熱伝導性が低下する恐れがあるため、接着面を平坦にしておくことが望ましい。
【0024】
接着に際しては用いる接着シートの種類と接着温度を発熱体と放熱部材の用途、性能を元に決定する。発熱体の耐熱温度以下の温度で接着でき、ガラス転移点が最高使用温度より高く剥離が生じない樹脂を塗布した接着シートを選定するべきである。例えばパワーデバイス系半導体の放熱に用いる場合、ポリイミド系の樹脂を塗布した接着シートを使用して220℃で接着を行う。
また、加圧圧力は、被接着物を破壊しない程度の圧力範囲に設定するべきである。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を詳しく説明する。
実施例1
セラミックス基板として、大きさ125mm×150mm、厚み0.70mmの窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体(AlN−SiC−h−BN)板を準備した。このセラミックス基板の熱伝導率は33W/(m・K)で、体積固有抵抗は1014Ω・cmで、気孔率は20%であった。
このセラミックス基板を、平面研削盤(岡本工作機械製作所製GRIND−X)を用いて厚み0.60mmに研削した。その後、62.5mm×150mmの大きさに切断した。
【0026】
含浸用の熱可塑性樹脂溶液として、ポリイミド樹脂(商品名:UPA−N221(樹脂分20wt%)宇部興産製)をN−メチル−2−ピロリドンと1:3の割合で混合し、樹脂濃度を5wt%に希釈したものを調製した。
【0027】
アルミ製耐圧容器にセラミックス基板を入れ、真空ポンプにて容器内を30分脱気し、脱気した状態のまま容器内にポリイミド樹脂溶液を投入した。真空を開放した後、容器内に加圧空気を押し込み5気圧に加圧した状態で30分保持して樹脂をセラミックス基板内に含浸した。
【0028】
圧力を開放してアルミ製耐圧容器から樹脂含浸後のセラミックス基板を取り出し、防爆乾燥機にて150℃で30分間乾燥して溶媒を飛散させた後に、平面研削盤を用いてセラミックス基板を厚み0.50mmで厚みばらつき5μmに研削した。
【0029】
塗布用の熱可塑性樹脂溶液として、UPA−N221(樹脂分20wt%)をN−メチル−2−ピロリドンと1:1の割合で混合し、樹脂濃度を10wt%に希釈したものを調製した。
【0030】
セラミックス基板裏面に熱剥離性の両面テープを貼り、塗工装置(テスター産業製 PI−1210)を用いてバーコートにてセラミックス基板に樹脂を塗布した。装置上で10分風乾して樹脂溶液が流れなくなった後、防爆乾燥機にて120℃で30分間乾燥した。乾燥後、裏面の熱剥離性両面テープを剥離した。
裏面も同様にして塗布し、両面に厚み2〜3μmの樹脂膜を有する接着シートを得た。
【0031】
上記接着シートの性能を評価するために、両面に接着温度を変えて銅箔を接着した。上記接着シートをダイシングソーにて10mm×10mmまたは30mm×30mmに切断した後、厚み18μmの銅箔を両面に配し、上下に熱盤を有するエアープレス機にて、熱盤温度を140、170、200、250、300℃に変えて、加圧圧力0.4MPa、加圧時間10分にてそれぞれ熱圧着して、両面銅箔張板を得た。
【0032】
得られた接着シートと両面銅箔張板の(1)熱抵抗と(2)銅箔ピール強度を、以下の方法に従って評価した。
(1)熱抵抗
熱抵抗の測定は、ASTM D5470に記載された手法に準じて、測定対象物の両端に加熱側、冷却側を配した際に流れる熱量と測定対象物両端の温度を測定することで行った。具体的には、断面形状が10mm×10mm、長さ65mmであるアルミ5052製加熱軸と冷却軸に温度測定用の熱電対を一定間隔で複数取り付けた装置を用いた。加熱軸上端にはセラミックヒーターを設置した。冷却軸下端には18℃に制御した冷却水を循環させることで、冷却軸下端の温度が一定となるようにした。
【0033】
測定対象物である接着シートまたは両面銅箔張板は、10mm×10mmのものを用いた。これは加熱軸と冷却軸の間に挟むが、軸と測定対象物の間に空気層が入ると熱抵抗測定の妨げとなるため、加熱軸、冷却軸に熱伝導性グリス(信越化学工業製G747)を塗布した。その後に測定対象物を加熱軸、冷却軸の間に挟み、一定圧力(0.1MPa)をエアシリンダーにて加えた。
【0034】
その状態で、加熱軸上端に設置したセラミックスヒーターに6.4Wの電力を印加し、印加から20分経過した時点の各熱電対の温度を測定した。各熱電対から得られる加熱軸、冷却軸の熱勾配とアルミ5052の熱伝導率から、加熱軸、冷却軸を流れた熱量を計算し、熱量の平均を測定対象物に流れた熱量Qと換算した。また、加熱軸と冷却軸の温度勾配を外挿して、測定物に対する距離がゼロになる点を求め、加熱軸側の温度をTh、冷却軸側の温度をTcとしたとき、熱抵抗は以下の式で算出できる。
熱抵抗(℃/W)=(Th−Tc)/Q
【0035】
この測定にて算出される熱抵抗は熱伝導グリスの熱抵抗を含んでいるが、この測定系における熱伝導グリスの熱抵抗は約0.50(℃/W)であるため、測定対象物の熱抵抗評価の際にはこの値を差し引いた値を使用した。
【0036】
(2)銅箔ピール強度
接着強度の評価は、銅箔を接着した際の銅箔ピール強度の測定にて行った。
具体的には、30mm×30mmにて接着した両面銅箔張板をダイシングソーにて10mm幅に切断し、端部の銅箔を5mmほど剥がした後に、ストログラフE−L(東洋精機製作所製)を用いて剥離試験を行い、銅箔ピール強度を測定した。
【0037】
結果を以下に示した。接着温度140℃では銅箔が接着されておらず、測定不可であったが、170〜300℃では熱抵抗も小さく接着強度も十分に高かった。
【0038】
[表1]
測定対象物 接着シート 両面 両面 両面 両面 両面
単独 銅張板 銅張板 銅張板 銅張板 銅張板
樹脂厚み(μm) 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0
接着温度(℃) − 140 170 200 250 300
熱抵抗(℃/W) 0.76 測定不可 0.52 0.45 0.44 0.51
銅箔ピール強度 − 測定不可 482 871 877 830
(g/cm)
【0039】
比較例1
セラミックス基板の厚みを10mmと厚くした他は同様にして、実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。熱抵抗は4.60(℃/W)、銅箔ピール強度は873(g/cm)であった。接着強度は十分であったが、熱抵抗が大きく、実用には適さなかった。
【0040】
比較例2
セラミックス基板として実施例1と同じ窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体を準備し、平面研削盤にて厚み0.50mmで厚みばらつき5μmに研削した。このセラミックス基板に実施このセラミックス基板に実施例1と同じポリイミド樹脂を実施例1と同様に含浸した接着シートを作製した。表面にポリイミド樹脂の塗布を行なわなかった。この接着シートを用いて実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。銅箔が部分的に接着されておらず、熱抵抗、ピール強度測定は不可であった。樹脂を含浸しただけでは、均一な接着ができなかった。
【0041】
比較例3
ポリイミド樹脂の塗布と乾燥を10回繰り返すことで樹脂厚みを20μmと厚くした他は同様にして、実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。熱抵抗は2.51(℃/W)、銅箔ピール強度は871(g/cm)であった。接着強度は十分であったが、熱抵抗が大きく、実用には適さなかった。
【0042】
比較例4
セラミックス基板として熱伝導率の低いワラストナイト(CaSiO3)(気孔率32%、熱伝導率1.6W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。熱抵抗は3.90(℃/W)、銅箔ピール強度は875(g/cm)であった。接着強度は十分であったが、熱抵抗が大きく、実用には適さなかった。
【0043】
比較例5
セラミックス基板として気孔のないアルミナ(Al2O3)(気孔率0%、熱伝導率24W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。接着面が不均一で熱抵抗は1.81(℃/W)と大きく、銅箔ピール強度は389(g/cm)と低かった。
【0044】
比較例6
セラミックス基板として気孔のない窒化アルミニウム−窒化ホウ素複合体(AlN−BN)(気孔率0%、熱伝導率90W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。銅箔面には膨れが観察され、熱抵抗は1.27(℃/W)、銅箔ピール強度は測定不可であった。
【0045】
比較例7
セラミックス基板として気孔のない窒化アルミニウム(AlN)(気孔率0%、熱伝導率174W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例1に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。熱抵抗は0.99(℃/W)、銅箔ピール強度は389(g/cm)であった。熱抵抗は小さかったが、接着強度が低く、実用には適さなかった。
【0046】
実施例2
セラミックス基板として実施例1と同じ窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体を準備し、平面研削盤にて厚み0.30mmで厚みばらつき5μmに研削した。
熱可塑性樹脂として、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとからのポリイミド樹脂(数平均分子量1万、商品名:リカコートEN−20、新日本理化(株)製)の濃度15%のN−メチル−2−ピロリドン溶液を調製した。
【0047】
スピンコーターに上記セラミックス基板をセットし、上記樹脂溶液5mlを滴下後、ステップ1回転数500rpm/5秒、ステップ2回転数2000rpm/40秒にて樹脂を拡散させ、均一塗布した。その後、防爆乾燥機にて150℃/30分乾燥させて樹脂膜を定着させて、平均厚み5.8μmの樹脂膜を形成した。上記操作を裏面についても同様に行い、両面に樹脂膜を有する接着シートを得た。
【0048】
上記接着シートの性能を評価するために、実施例1に準じて接着温度240℃で両面銅箔張板を作製した。熱抵抗は0.41(℃/W)、銅箔ピール強度は359(g/cm)であった。
【0049】
比較例8
セラミックス基板として気孔のないアルミナ(Al2O3)(気孔率0%、熱伝導率24W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例2に準じて接着温度250℃で両面銅箔張板を作製した。銅箔面には膨れが観察された。
【0050】
実施例3
セラミックス基板として実施例1と同じ窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体を準備し、平面研削盤にて厚み0.30mmで厚みばらつき5μmに研削した。
含浸用の熱可塑性樹脂溶液として、ポリエステル樹脂(商品名:バイロンGK5900、東洋紡績製)とメチルエチルケトンを重量比1:9で混合した溶液を調製した。
【0051】
セラミックス基板をステンレス容器内に入れ、樹脂溶液を基板が十分浸るように投入した。真空ポンプにて容器内を減圧し、超音波を当てながら10分間保持し樹脂を基板内に含浸させた。
含浸後のセラミックス基板を乾燥機にて70℃で30分間乾燥して溶媒を飛散させた。
【0052】
塗布用の熱可塑性樹脂溶液として含浸用樹脂と同じポリエステル樹脂とメチルエチルケトンを重量比1:3で混合した溶液を調製した。
ステンレス容器に樹脂溶液を満たし、基板上部をディップコーター稼動部に挟んで取り付けた後、樹脂溶液に浸漬し、一定速度で引き上げて樹脂を両面に塗布した。この操作により平均厚み3.1μmの樹脂膜を有する接着シートを得た。
【0053】
上記接着シートの性能を評価するために、実施例1に準じて接着温度120℃で両面銅箔張板を作製した。
熱抵抗は0.64(℃/W)、銅箔ピール強度は515(g/cm)であった。
【0054】
比較例9
セラミックス基板として窒化アルミニウム−窒化ホウ素複合体(AlN−h−BN)(気孔率0%、熱伝導率90W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例3に準じて接着温度120℃で両面銅箔張板を作製した。銅箔が接着されておらず、熱抵抗、ピール強度測定は不可であった。
【0055】
実施例4
セラミックス基板として実施例1と同じ窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体を準備し、平面研削盤にて厚み0.30mmで厚みばらつき5μmに研削した。
パラフィン樹脂(商品名:Hi−Mac−1045、日本精鑞製)を乾燥機にて120℃で暖め、アルミナ粉末(商品名:アエロジル(日本アエロジル製))を樹脂に対し4wt%加えて攪拌して熱可塑性樹脂溶液を調製した。
【0056】
120℃に加温した樹脂溶液をセラミックス基板になるべく薄く塗り、基板の両側を円柱状のバーで挟んだ。基板の一端をディップコーターに取り付けた状態で、ドライヤーで温風を基板に当てて表面の樹脂が流れるように溶かし、樹脂が溶けたらディップコーターにて一定速度で基板を引き上げるとともに両端のバーで樹脂をこそぎ落とすと、樹脂が均一に塗布されて両面に平均11μmの樹脂厚を有する接着シートを得た。
上記接着シートの性能を評価するために、実施例1に準じて接着温度60℃で両面銅箔張板を作製した。熱抵抗は0.99(℃/W)、銅箔ピール強度は123(g/cm)であった。
【0057】
比較例10
セラミックス基板として窒化アルミニウム−窒化ホウ素複合体(AlN−h−BN、気孔率0%、熱伝導率90W/(m・K))を用いた他は同様にして、実施例4に準じて接着温度60℃で両面銅箔張板を作製した。銅箔面には膨れが観察された。
【0058】
比較例11
電子部品の放熱用材料として、発熱体とヒートシンクの間に挟んで使用する目的で販売されている熱伝導性ゲルシート(熱伝導率6.5W/(m・K)、厚み1.0mm)を10mm×10mmに切断し、上記方法にて熱抵抗を測定した。なお、該ゲルシートはそれ自体がゲル状で接触物に対して追随性を有することを特徴とするものであるため、熱伝導グリスは塗布せずに測定を行った。その結果、熱抵抗は4.50℃/Wと大きかった。
【0059】
比較例12
電子部品の放熱用材料として、発熱体とヒートシンクの間に挟んで使用する目的で販売されている高熱伝導性シート(熱伝導率10〜14W/(m・K)、厚み0.5mm)を10mm×10mmに切断し、上記方法にて熱抵抗を測定した。なお、該シートは両面に粘着層を有する性質のものであるため、熱伝導グリスは塗布せずに測定を行った。その結果、熱抵抗は1.91℃/Wと大きかった。
【0060】
比較例1〜10より、本発明の熱伝導シートの構成が優れていることは明らかである。また、比較例11〜12より、従来の熱伝導性シートより本発明の熱伝導シートのほうが熱伝導性能に優れていることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.1〜3mm、厚みばらつきが10μm以下、熱伝導率20W/(m・K)以上、体積固有抵抗が10Ω・cm以上、かつ、気孔率が5〜70%の連続気孔を有する多孔質セラミックス基板の両面に、厚さ1〜10μmの熱可塑性樹脂層が形成された高熱伝導性接着シート。
【請求項2】
該多孔質セラミックスが、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウム−窒化ホウ素複合体(AlN−h−BN))、窒化アルミニウム−炭化ケイ素−窒化ホウ素複合体(AlN−SiC−h−BN))、アルミナ(Al)およびアルミナ−窒化ホウ素複合体(Al−h−BN))から選択したものである請求項1記載の高熱伝導性接着シート。
【請求項3】
該熱可塑性樹脂が、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂またはパラフィン系樹脂である請求項1または2記載の高熱伝導性接着シート。
【請求項4】
熱伝導率20W/(m・K)以上、体積固有抵抗が10Ω・cm以上、かつ、気孔率が5〜70%の連続気孔を有する多孔質セラミックス基板を、厚さ0.1〜3mmで厚みばらつきが10μm以下に平坦に研磨した後、両面に熱可塑性樹脂を厚さ1〜10μmに均一に塗布する高熱伝導性接着シートの製造方法。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の高熱伝導性接着シートを、発熱体と放熱部材との間に挟み込み加熱加圧することからなる発熱体と放熱部材の接着方法。
【請求項6】
該高熱伝導性接着シートが、ポリイミド系樹脂を塗布してなり、温度170〜300℃、圧力0.1〜1MPa、5分以上の条件で加熱加圧するものである請求項5記載の接着方法。
【請求項7】
該高熱伝導性接着シートが、ポリエステル系樹脂を塗布してなり、温度60〜200℃、圧力0.1〜1MPa、5分以上の条件で加熱加圧するものである請求項5記載の接着方法。
【請求項8】
該高熱伝導性接着シートが、パラフィン系樹脂を塗布してなり、温度40〜100℃、圧力0.1〜1MPa、5分以上の条件で加熱加圧するものである請求項5記載の接着方法。

【公開番号】特開2007−173338(P2007−173338A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365751(P2005−365751)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】