説明

高調波発生素子

【課題】X板あるいはオフセットX板の薄板に周期分極反転構造を形成し、支持基板と上側基板との間に挟んだ構造の高調波発生素子において、温度サイクルにさらされた後における波長変換効率の低下を防止することである。
【解決手段】高調波発生素子は、支持基板2、強誘電性単結晶のX板またはオフセットX板からなり、周期分極反転構造が設けられた三次元光導波路24を備えている波長変換層3、波長変換層3の底面3dと支持基板2とを接着する下地接着層21、波長変換層3の上面側に設けられている上側基板5、波長変換層3と上側基板1とを接着する上側接着層20、基本波の入射面1a、高調波の出射面、入射面と出射面との間の第一の側面1cおよび第一の側面と対向する第二の側面1dを備えている。第一の側面1cに第一の導電材料10Aが接触しており、第二の側面1dに第二の導電材料10Bが接触しており、導電材料10Aと導電材料10Bとが電気的に導通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似位相整合方式の高調波発生素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム単結晶のような非線形光学結晶は二次の非線形光学定数が高く、これら結晶に周期的な分極反転構造を形成することで、疑似位相整合(Quasi-Phase-Matched :QPM)方式の第二高調波発生(Second-Harmonic-Generation:SHG)デバイスを実現できる。また、この周期分極反転構造内に導波路を形成することで、高効率なSHGデバイスが実現でき、光通信用、医学用、光化学用、各種光計測用等の幅広い応用が可能である。
【0003】
特許文献1に記載の高調波発生素子においては、支持基板上に強誘電性単結晶の薄板を接着し、その上にバッファ層および接着層を介して上側基板を接着しており、薄板中にチャンネル型光導波路を形成している。そして、この光導波路内に周期分極反転構造を形成することによって、光導波路に入射する基本波を高調波に波長変換している。
【特許文献1】WO 2006/ 41172 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SHG発生素子などの高調波発生素子には、環境温度の変化に対して繰り返してさらされても、安定して動作することが求められる。しかし、特許文献1記載のようなタイプの素子において、−40°Cと+80°Cとの間の熱サイクルに対して繰り返して曝露された後に、波長変換効率が劣化する場合のあることが判明した。
【0005】
本発明者が、このような波長変換効率の低下の起こった素子を回収し、観測してみると、周期分極反転構造が劣化していることが判明した。しかも、このような現象は、X板(Y板)やオフセットX板(オフセットY板)では生ずるが、Z板の薄板を用いた場合には生じないことも判明した。更に、このような現象は、特許文献1記載のように、支持基板と上側基板との間に、波長変換を行うための強誘電性薄板をサンドイッチしたタイプの素子に特有であることが判明した。
【0006】
本発明の課題は、X板あるいはオフセットX板の薄板に周期分極反転構造を形成し、支持基板と上側基板との間に挟んだ構造の高調波発生素子において、温度サイクルにさらされた後における波長変換効率の低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
支持基板、
強誘電性単結晶のX板またはオフセットX板からなり、周期分極反転構造が設けられた三次元光導波路を備えている波長変換層、
この波長変換層の底面と支持基板とを接着する下地接着層、
波長変換層の上面側に設けられている上側基板、
波長変換層と上側基板とを接着する上側接着層を備えており、基本波の入射面、高調波の出射面、入射面と出射面との間の第一の側面およびこの第一の側面と対向する第二の側面を備えている高調波発生素子であって、第一の側面に第一の導電材料が接触しており、第二の側面に第二の導電材料が接触しており、第一の導電材料と第二の導電材料とが電気的に導通していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明者は、X板あるいはオフセットX板の薄板に周期分極反転構造を形成し、支持基板と上側基板との間に挟んだ構造の高調波発生素子において、温度サイクルにさらされた後に波長変換効率が低下する原因を検討した。そして、高調波発生素子の薄板をエッチング処理して周期分極反転構造を確認したところ、周期分極反転構造が劣化したり、局所的に消滅したりしていた。これが波長変換効率の低下の原因となっていた。
【0009】
このような周期分極反転構造の劣化の原因について更に検討したところ、素子の両方の側面間における焦電が原因となっていることを発見した。この発見に基づき、高調波発生素子の両側面に対して導電材料をそれぞれ接触させ、これら導電材料を導通させることで、熱サイクルに曝露した後の波長変換効率の低下を防止できることを見いだし、本発明に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1(a)は、本発明を適用可能な高調波発生素子1を模式的に示す斜視図であり、図1(b)は、素子1のチャンネル型光導波路24およびその周辺を示す拡大図である。図2は、図1の素子1を台座8に設置した状態を示す正面図である。
【0011】
図1に示すように、強誘電性単結晶のX板(Y板、またはオフセットX板、オフセットY板)からなる波長変換層3に、一対の細長い溝6A、6Bを設ける。溝6Aと6Bとは互いに平行であり、これらの溝によってリッジ部4が形成されている。リッジ部4および溝6A、6Bによってチャンネル型光導波路24が形成されている。各溝6A、6Bの各外側には延在部7A、7Bが形成されており、薄板を形成している。
【0012】
X板(Y板)の場合には、図1(a)、(b)において横方向がZ方向であり、強誘電性単結晶はZ方向に分極する。X軸(Y軸)は、波長変換層3の上面3aに対して垂直である。オフセットX板、Y板の場合には、X軸(Y)軸が、波長変換層3の主面に対して垂直な面から傾斜する。この傾斜角度は、本発明の観点からは、10 °以下であることが好ましい。
【0013】
チャンネル型光導波路24内では、光の伝搬方向に対して垂直なZ方向に向かって分極しており、分極方向が周期的に反転している。この結果、素子1の入射面1aから入射した基本波は、光導波路24内で波長変換を受け、高調波が出射面1bから出射する。
【0014】
波長変換層3の底面3bは、別体の支持基板2の上面2aに対して下地接着層21によって接着されている。波長変換層3の上面3aは、別体の上側基板5の底面5aに対して上側接着層20によって接着されている。1c、1dは、入射面1aと出射面1bとの間に延びる一対の側面であり、側面1cと1dとは対向している。典型的には、図2に示すように、設置面8bと8aとを有する台座8を設け、台座8に素子1を設置し、外部の線路と結合する。素子1の側面1dを設置面8bに接触させ、素子1の底面2bを台座8の設置面8aに対して接触させる。
【0015】
ここで、本発明者の発見によれば、熱サイクルに曝露した後には、高調波発生素子1の側面1cと1dとの間における焦電が原因で、チャンネル型光導波路24に形成されている周期分極反転構造が劣化していた。このため、各側面1c、1dに対してそれぞれ導電材料を接触させ、各導電材料を電気的に導通させることによって、熱サイクル曝露後の周期分極反転構造の劣化を防止できることを見いだした。
【0016】
導電材料の形態は特に限定されない。好適な実施形態においては、第一の導電材料が導電板であり、第二の導電材料が、高調波発生素子を設置するための台座である。
【0017】
図3は、この実施形態に係る素子を台座8に設置した状態を模式的に示す正面図である。本例で用いる素子は、図1、図2の素子と同じである。ただし、金属板9が台座8上に設置されており、金属板9が素子1の側面1cに対して接触している。そして、素子1の他方の側面1dは導電性の台座8の設置面8bに対して接触している。台座8と金属板9とは電気的に導通している。
【0018】
また、好適な実施形態においては、第一の導電材料および第二の導電材料が導電膜である。図4は、この実施形態に係る素子を模式的に示す斜視図であり、図5は、図4の素子を台座8に設置した状態を模式的に示す正面図である。
【0019】
本例で用いる素子は、図1、図2の素子と同じである。ただし、第一の導電膜10Aが素子の側面1cに形成されており、第二の導電膜10Bが素子の側面1dに形成されている。そして、導電膜10Aと10Bとが導電線などの導電手段18によって短絡されている。この結果、導電膜10Aと10Bとは電気的に導通している。
【0020】
図6は、この実施形態に係る他の素子を模式的に示す斜視図であり、図7は、図6の素子を台座8に設置した状態を模式的に示す正面図である。
【0021】
本例で用いる素子は、図1、図2の素子と同じである。ただし、第一の導電膜10Aが素子の側面1cに形成されており、第二の導電膜10Bが素子の側面1dに形成されている。また、導電膜28が素子1の上面5bに形成されている。導電膜28は導電膜10Aおよび10Bと連続しており、これによって、導電膜10Aと10Bとは電気的に導通している。
【0022】
導電膜の作製方法は限定されず、以下を例示できる。
(1) スパッタ法によって素子の側面に金属薄膜を形成する。
(2) 導電性ペーストを素子の側面に印刷等で塗布し、焼き付ける。
(3) 素子の側面に導電性テープを貼る。
【0023】
本発明の観点からは、導電材料を、素子の側面の面積の80%以上にわたって接触させることが好ましく、90%以上にわたって接触させることが更に好ましい。この上限は特になく、側面の100%にわたって導電材料を接触させることができる。
【0024】
導電材料の材質は特に限定されず、金属、導電性ペーストを例示できる。具体的には、Al、Ti、Ta、Cu、Ag系ペースト、In系ペーストが好ましい。
【0025】
導電膜の厚さは特に限定されないが、本発明の観点からは、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。導電膜の厚さの上限は特にないが、形成しやすさの点からは10μm以下が好ましい。
【0026】
波長変換層に形成されるチャンネル型光導波路は限定されず、リッジ形光導波路や、拡散形光導波路であってよい。拡散形光導波路は、金属拡散(例えばチタン拡散)やプロトン交換によって形成できる。リッジ構造を形成するための加工方法は限定されず、機械加工、イオンミリング、ドライエッチング、レーザーアブレーションなどの方法を用いることができる。
【0027】
波長変換層を形成する強誘電性単結晶は限定されないが、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体、KLiNb15、LaGaSiO14を例示できる。
【0028】
波長変換層を支持基板や上側基板と接着するための接着剤は、無機接着剤であってよく、有機接着剤であってよく、無機接着剤と有機接着剤との組み合わせであってよい。
【0029】
有機接着剤の具体例は特に限定されないが、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、熱硬化型接着剤、紫外線硬化性接着剤、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する材料と比較的近い熱膨張係数を有するアロンセラミックスC(商品名、東亜合成社製)(熱膨張係数13×10−6/K)を例示できる。
【0030】
また無機接着剤としては、低誘電率で接着温度(作業温度)が約600℃以下のものが好ましい。また、加工の際に十分な接着強度が得られるものが好ましい。具体的には、酸化珪素、酸化鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素等の組成を単体もしくは複数組み合わせたガラスが好ましい。また、他の無機接着剤としては、例えば五酸化タンタル、酸化チタン、五酸化ニオブ、酸化亜鉛がある。
【0031】
無機接着層の形成方法は特に限定されず、スパッタ法、蒸着法、スピンコート法、ゾルゲル法などがある。
また、強誘電体層3と支持基体1、上側基板5との間に接着剤のシートを介在させ、接合することができる。好ましくは、熱硬化性、光硬化性あるいは光増粘性の樹脂接着剤からなるシートを、強誘電体層3と支持基体1、上側基板5との間に介在させ、シートを硬化させる。このようなシートとしては、10μm以下のフィルム樹脂が適当である。
【0032】
支持基板、上側基板の具体的材質は特に限定されず,ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、石英ガラスなどのガラスや水晶、Siなどを例示することができる。この場合、熱膨張差の観点では、波長変換層と支持基板、上側基板とを同種の材質とすることが好ましく、ニオブ酸リチウム単結晶が特に好ましい。上側基板の厚さ、支持基板の厚さも特に限定されないが、上記の観点からは100μm以上が好ましい。また、支持基板の厚さ、上側基板の厚さの上限も特にないが、実用的には2mm以下が好ましい。
【実施例】
【0033】
(比較例)
図1、2に示すような素子1を作製した。具体的には、厚さ0.5mmのMgO5%ドープニオブ酸リチウム5度オフカットY基板上に、周期6.6μmの周期分極反転構造を形成した。厚さ0.5mmのノンドープニオブ酸リチウム基板に接着剤(アクリル系接着剤)を塗布した後、前記のMgOドープニオブ酸リチウム基板2と貼り合せ、MgOドープニオブ酸リチウム基板の表面を厚さ3.7μmとなるまで研削、研磨し、薄板を得た。次いで、レーザーアブレーション加工法により、この薄板にリッジ構造4(光導波路24)を形成した。光導波路の形成後、厚さ0.5umのSiOオーバークラッドをスパッタ法によって成膜した。
【0034】
次いで、SiOオーバークラッド上に厚さ500μmのニオブ酸リチウム製の上側基板5をエポキシ系接着剤によって貼り合わせ、素子を得た。ダイサーで長さ9mm、幅1.0mmで素子を切断し、チップ1を得た。次いで、チップ1の入射面1a、出射面1bを研磨し、反射防止膜を施した。
【0035】
Nd-YAGレーザーを使用して、素子の光学特性を測定した。レーザーからの発振出力を500mWに調整し、その基本光をレンズで導波路端面に入力し、200mWのSHG出力が得られた。その際の基本光の波長は1064.3nmであった。
【0036】
本素子を、ー40℃/80℃の熱サイクル試験に供した。500サイクル後に、再度、第二高調波(SHG)出力を測定した結果、SHG出力が70mWに劣化した。
【0037】
(実施例1)
比較例1と同様の素子を作製した。ただし、図6、図7に示すように、アルミニウム膜10A、10B、28を、素子1の上面5b、側面1c、1d上にそれぞれスパッタ法により成膜した。アルミニウム膜の厚さは0.2μmである。アルミニウム膜10A、10Bは、側面1c、1dのそれぞれ100%を被覆するようにした。
【0038】
Nd-YAGレーザーを使用して、素子の光学特性を測定した。レーザーからの発振出力を500mWに調整し、その基本光をレンズで導波路端面に入力し、200mWのSHG出力が得られた。その際の基本光の波長は1064.3nmであった。
【0039】
本素子にてー40℃/80℃の熱サイクル試験を行った。500サイクル後に再度SHG出力を測定した結果、SHG出力の低下は見られなかった。
【0040】
(実施例2)
実施例1と同様の素子を作製した。ただし、アルミニウム膜10A、10Bは、側面1c、1dのそれぞれ80%を被覆するようにした。
【0041】
本素子にてー40℃/80℃の熱サイクル試験を行った。500サイクル後に再度SHG出力を測定した結果、SHG出力の低下は見られなかった。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同様の素子を作製した。ただし、アルミニウム膜10A、10Bは、側面1c、1dのそれぞれ70%を被覆するようにした。
【0043】
本素子にてー40℃/80℃の熱サイクル試験を行った。500サイクル後に再度SHG出力を測定した結果、SHG出力は191mWであった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は、本発明を適用可能な高調波発生素子1を模式的に示す斜視図であり、(b)は、素子1のチャンネル形光導波路24およびその周辺を示す拡大図である。
【図2】図1の素子1を台座8に設置した状態を示す正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係り、素子を台座8に設置した状態を模式的に示す正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る素子を模式的に示す斜視図である。
【図5】図4の素子を台座8に設置した状態を模式的に示す正面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る他の素子を模式的に示す斜視図である。
【図7】図6の素子を台座8に設置した状態を模式的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 高調波発生素子 1a 入射面 1b 出射面 1c、1d 側面 2 支持基板 2a 支持基板の上面 3 波長変換層 4 リッジ構造 5 上側基板 6A、6B リッジ溝 7A、7B 延在部 8 台座 9 金属板 10A 第一の導電膜 10B 第二の導電膜 18 導電線 20 上側接着層 21 下地接着層 24 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板、
強誘電性単結晶のX板またはオフセットX板からなり、周期分極反転構造が設けられたチャンネル型光導波路を備えている波長変換層、
この波長変換層の底面と前記支持基板とを接着する下地接着層、
前記波長変換層の上面側に設けられている上側基板、
前記波長変換層と前記上側基板とを接着する上側接着層を備えており、基本波の入射面、高調波の出射面、前記入射面と前記出射面との間でかつ前記波長変換層を含む第一の側面およびこの第一の側面と対向する第二の側面を備えている高調波発生素子であって、
前記第一の側面に第一の導電材料が接触しており、前記第二の側面に第二の導電材料が接触しており、前記第一の導電材料と前記第二の導電材料とが電気的に導通していることを特徴とする、高調波発生素子。
【請求項2】
前記第一の導電材料および前記第二の導電材料が導電膜であることを特徴とする、請求項1記載の高調波発生素子。
【請求項3】
前記第一の導電材料が導電板であり、前記第二の導電材料が、前記波長変換素子を設置するための台座であることを特徴とする、請求項1記載の高調波発生素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−217009(P2009−217009A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61058(P2008−61058)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】