説明

2つの部材の接合方法、および接合体

【課題】経時的に安定な2つの部材の接合体を得る技術を提供する。
【解決手段】第1の部材の接合面上にSiO2薄膜を適宜の薄膜形成手法にて10nm以上10μm以下の厚みに成長させたうえで、該SiO2薄膜を酸溶液またはアルカリ溶液中に浸漬させ、該酸溶液またはアルカリ溶液中で、SiO2薄膜の表面に第2の基材を貼り合わせて貼り合わせ体を形成する。その後、該貼り合わせ体を所定の温度および雰囲気圧力にて所定時間保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同種又は異種の2つの部材の接合体を形成する技術、特に、同種または異種の2つの平板状部材の接合体を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
同種又は異種の2つの部材を接合する場合、接合対象とされる部材の種類に応じて適切な手法が選択される。例えば、フルオレン骨格を有するエポキシあるいはアクリレート樹脂組成物からなる接着剤を接着層の形成に用いることで、厚みが10μm以下という薄層の基材と他の基材との接合体を得る手法(例えば、特許文献1参照)や、バルクのガラスあるいは他の素材にバルクガラスを直接にアルカリ接合する手法(例えば、特許文献2)などが公知である。
【0003】
また、電極膜、および指示膜を形成した圧電性セラミックス基板の成膜面を、接着剤によってもう一方の圧電性セラミック基板と貼り合わせる工程を含む、圧電薄膜デバイスの製造方法も公知である(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−337274号公報
【特許文献2】特開2007−63055号公報
【特許文献3】特開2007−228319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)およびタンタル酸リチウム(LiTaO3)の基材同士を接合する場合が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、圧電性セラミックス基板として、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li247)、酸化亜鉛(ZnO)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、ランガサイト(La3Ga3SiO14)などが例示され、デバイス製造過程において、一方の基板の薄膜形成面に他方の基板をエポキシ接着剤やアクリル接着剤にて貼り合わせる旨が述べられている。
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献3に開示のように接着剤にて貼り合わせを行った場合、接着剤にて形成された接着層の厚みは必ずしも均一とはならず、接着面の面内方向に分布を持ち得る。係る厚み分布の存在は、特許文献3に開示されているような機能デバイスに、不要な電界分布、誘電率分布、振動数分布などを生じさせ、デバイス特性を劣化させる要因となり、好ましくない。
【0008】
一方、特許文献2に開示されているのは、少なくともマイクロチップを形成しうる程度のサイズを有するバルクのガラスを他の部材と接合する手法であり、双方がバルクのガラスではない2つの部材の接合、および間に接合層を介在させて接合体を形成する態様に関しては、特許文献2には何ら開示されてはいない。
【0009】
また、2つの部材を接合することによって接合体を形成した場合、一般的・普遍的要請として、その接合が経時的に安定であることが望まれる。なお、特許文献2に開示の方法で作製したガラス接合体については、時間が経過するにつれて、経時劣化が生じることが、本発明の発明者によって確認されている。具体的には、接合強度が低下しはく離しやすくなること、および保管温度が高いほど接合強度の低下とはく離とが起こりやすいことが、確認されている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、経時的に安定な2つの部材の接合体を得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、2つの部材を接合する方法であって、第1の部材の接合面上にSiO2薄膜を成長させるSiO2薄膜形成工程と、前記SiO2薄膜を酸溶液またはアルカリ溶液中に浸漬させる浸漬工程と、前記酸溶液またはアルカリ溶液中で、SiO2薄膜の表面に第2の基材を貼り合わせて貼り合わせ体を形成する貼り合わせ工程と、前記貼り合わせ体を所定の温度および雰囲気圧力にて保持する保持工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の接合方法であって、前記SiO2薄膜が結晶性薄膜である、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の接合方法であって、前記SiO2薄膜が10nm以上10μm以下の厚みに形成される、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3に記載の接合方法であって、前記SiO2薄膜が100nm以上1μm以下の厚みに形成される、ことを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接合方法であって、前記第1の部材の前記接合面上に金属薄膜層が形成されてなり、前記SiO2薄膜形成工程においては、前記金属薄膜層の上に前記SiO2薄膜を形成する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5に記載の接合方法であって、前記金属薄膜層がパターニングされてなり、前記SiO2薄膜形成工程においては、前記金属薄膜層の非形成部分を含め前記第1の部材の前記接合面上に前記SiO2薄膜を形成する、ことを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の接合方法であって、前記第1と第2の部材の少なくとも一方が平板状部材である、ことを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の接合方法であって、前記第1と第2の部材の少なくとも一方が、セラミックス単結晶基板、ガラス基板、あるいはシリコン単結晶基板のいずれかである、ことを特徴とする。
【0019】
請求項9の発明は、2つの部材が接合層によって接合された接合体であって、前記接合層が第1の部材の接合面上に成長したSiO2薄膜であり、第2の部材の接合面と前記SiO2薄膜とが直接接合されてなる、ことを特徴とする。
【0020】
請求項10の発明は、請求項9に記載の接合体であって、前記SiO2薄膜が結晶性薄膜である、ことを特徴とする。
【0021】
請求項11の発明は、請求項9または請求項10に記載の接合体であって、前記SiO2薄膜が10nm以上10μm以下の厚みに形成されてなる、ことを特徴とする。
【0022】
請求項12の発明は、請求項11に記載の接合体であって、前記SiO2薄膜が100nm以上1μm以下の厚みに形成されてなる、ことを特徴とする。
【0023】
請求項13の発明は、請求項9ないし請求項12のいずれかに記載の接合体であって、前記第1の部材の前記一主面上に金属薄膜層が形成されてなり、前記金属薄膜層の上に前記SiO2薄膜が形成されてなる、ことを特徴とする。
【0024】
請求項14の発明は、請求項13に記載の接合体であって、前記金属薄膜層がパターニングされてなり、前記金属薄膜層の非形成部分を含め前記第1の部材の前記一主面上に前記SiO2薄膜が形成されてなる、ことを特徴とする。
【0025】
請求項15の発明は、請求項9ないし請求項14のいずれかに記載の接合体であって、前記第1と第2の部材の少なくとも一方が平板状部材である、ことを特徴とする。
【0026】
請求項16の発明は、請求項9ないし請求項15のいずれかに記載の接合体であって、前記第1と第2の部材の少なくとも一方が、セラミックス単結晶基板、ガラス基板、あるいはシリコン単結晶基板のいずれかである、ことを特徴とする。
【0027】
請求項17の発明は、2つの部材の接合体が、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の接合方法によって作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1ないし請求項17の発明によれば、同種または異種の2つの部材の接合体を形成する場合に、両者を接合する接合層としてのSiO2薄膜を薄膜形成法により一方の部材の接合面上に形成するとともに、他方の部材とSiO2膜とを直接接合することにより、接合強度の経時的安定性に優れた接合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<第1の実施の形態>
<接合体の構成および作製方法>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る方法にて作製される接合体10Aの構造を示す断面図である。なお、図1および以降の図における基材や接合層の大きさの比率は、実際のものを反映したものではない。
【0030】
図1に示す接合体10Aは、いずれも平板状部材Sである第1基材1と第2基材2とが、二酸化ケイ素(SiO2)からなる薄膜層である接合層3によって接合された構造を有している。
【0031】
図2は、接合体10Aの作製方法について、その流れを示す図である。
【0032】
まず、第1基材1および第2基材2となる2枚の平板状部材Sを用意する(ステップS1)。
【0033】
平板状部材Sとしては、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、四ホウ酸リチウム(Li247)、酸化亜鉛(ZnO)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)、ランガサイト(La3Ga3SiO14)などの種々の単結晶基板や、石英ガラス基板や、シリコン単結晶基板などを用いることができる。
【0034】
なお、第1基材1に用いる平板状部材Sと第2基材2に用いる平板状部材Sとは、同種の材料からなるものである必要はなく、相異なる材料のものを第1基材1と第2基材2とに用いる態様であってもよい。
【0035】
また、第1基材1と第2基材2の厚みには、接合体10Aを実質的に形成可能であれば特段の制限はないが、取り扱いの便宜上、数百μm〜数mm程度の厚みをするのが好適である。また、第1基材1と第2基材2の厚みは同じである必要はなく、また、接合体10Aの形成後にいずれか一方または両方を研磨やエッチングなどによって薄層化し、数μm程度の厚み、あるいはさらに小さいサブミクロンオーダーの厚みを有するようにする態様であってもよい。
【0036】
十分な接合強度を確保するという観点からは、第1基材1および第2基材2として用いる平板状部材Sは、その接合面(接合層3と接する面)が、実質的に原子レベルの平坦性を有するものとされてなるのが好ましい。例えば、該接合面について、AFM(原子間力顕微鏡)にて測定した表面粗さRaの値が、0.1nm〜50nmの範囲にあるのが好適である。
【0037】
2枚の平板状部材Sが用意できると、そのうちの一方の、第1基材1として用いる平板状部材Sの一主面(接合面)の上に、接合体10Aを形成後に接合層3となるSiO2膜を成長させる(ステップS2)。SiO2膜の厚みは、接合体10Aを使用する際に必要とされる接合強度や、第1基材1および第2基材2として用いる部材の種類、および接合層3自身の強度などを勘案して、適宜に定めればよい。例えば、10nm以上10μm以下の厚みを有するように形成されるのが好適である。この範囲より厚みが小さい場合は、SiO2膜自体の強度の確保が難しい。また、上記範囲を超えて、SiO2膜を形成することは、接着層3としての機能の確保に必要とされる以上のSiO2膜を形成することになり、コスト面等を考えると好ましくない。あるいは、接合体10Aが機能デバイスとして利用される場合などに、必要以上の厚みを有するSiO2膜の存在がデバイス特性に悪影響を与えるおそれなども考えられる。より好ましくは、SiO2膜、100nm以上1μm以下の厚みを有するように形成される。なお、完成した接合体10Aにおける接合層3の厚みは、形成したSiO2膜の厚みとほぼ同程度である。
【0038】
SiO2膜の形成手法としては、蒸着法、CVD法、ゾルゲル法、スパッタ法など、種々の薄膜形成手法を適用することができる。ただし、アルカリ元素などの不純物元素がSiO2膜中に混入することは、接合強度劣化の要因となるので、係る混入ができるだけ生じない手法にてSiO2膜を形成するようにする。
【0039】
また、いずれの薄膜形成手法を用いる場合においても、SiO2膜は結晶性の膜として形成されるのが好適であるが、接合強度の劣化要因となる不純物の混入が十分に抑制されるのであれば、アモルファス膜として形成される態様であってもよい。
【0040】
このようにしてSiO2膜の形成が終了すると、このSiO2膜が形成された平板状部材S(第1基材1)を、酸溶液またはアルカリ溶液中に浸漬して保持する(ステップS3)。酸溶液としてはフッ酸(HF)水溶液などを、アルカリ溶液としては水酸化カリウム(KOH)水溶液などを、用いることができる。水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いる場合であれば、5wt%〜40wt%程度の濃度のものを用いるのが好適である。係る浸漬は、SiO2膜を軟化させて接着性を発現させる目的で行う。従って、係る浸漬は、SiO2膜に十分な接着性が発現するのに必要な時間範囲で、行うようにすればよい。なお、SiO2膜が十分に酸溶液またはアルカリ溶液に浸漬される状態が実現されるのであれば、必ずしも第1基材1全体が酸溶液またはアルカリ溶液中に浸漬される必要はなく、少なくともSiO2膜が酸溶液またはアルカリ溶液中に浸漬された状態が実現されていればよい。
【0041】
所定の浸漬時間が経過した後、酸溶液またはアルカリ溶液中において、第1基材1に形成されたSiO2膜の表面に、第2基材2となる平板状部材Sの一主面(接合面)を重ねる態様にて、第1基材1と第2基材2とを貼り合わせ、貼り合わせ体を形成する(ステップS4)。
【0042】
そして、この貼り合わせ状態を維持したまま、貼り合わせ体を酸溶液またはアルカリ溶液から引き上げて、60℃〜150℃の温度、および0.6MPa〜2MPaの雰囲気圧力の下で、4時間〜15時間保持することで、乾燥させる(ステップS5)。
【0043】
これにより、SiO2膜と第2基材2との直接接合が実現され、結果として、SiO2膜が接合層3となって第1基材1と第2基材2とが接合された接合体10Aが作製される。
【0044】
<接合体の接合強度の経時的安定性>
以上の手順により得られた接合体10Aは、接合強度の経時的な安定性が良好に得られるものとなっている。このことは例えば、作製後、所定時間が経過した接合体10Aに対して、引きはがし試験を行うことで、確認することができる。一例として、一方の基材をLiNbO3単結晶基板とし、他方の基材を石英ガラス基板とした接合体について、作製後24時間が経過した後に引きはがし試験を行った場合に、接合界面におけるはく離は生じず、第1基材1または第2基材2を構成する平板状部材Sが破壊される母材破壊が生じるということが、本発明の発明者によって確認されている(実施例1参照)。すなわち、薄膜形成手法によって形成した第1の基材1としての平板状部材SとSiO2膜との接合、およびSiO2膜と第2の基材2としての平板状部材Sとの直接接合のいずれもが、十分な接合強度を有するものとして、接合体10Aは作製されてなる。
【0045】
また、これまで説明しているように、本実施の形態において作製される接合体10Aは、2つの平板状部材Sの間に接合層を介在させてなるものであり、しかも、一方の平板状部材の主面上に、接合層となるSiO2膜を成長させたうえで該SiO2膜に対し一方の平板状部材Sを直接接合したものである。よって、特許文献2に開示されているような、バルクガラスを他の部材とアルカリ接合することで得られる接合体とは異なる構造を有してなる。特許文献2に係る技術で作製される接合体の場合に、本実施の形態に係る接合体10A(例えば上述のように、LiNbO3単結晶基板と石英ガラス基板とを基材とし、かつSiO2薄膜を接合層として設けた接合体)と同程度の十分な経時的安定性を得ることは難しい。
【0046】
なぜならば、バルクガラスには通常、不純物元素としてアルカリ元素等が相当量含まれており、バルクガラスを他の部材と直接にアルカリ接合した接合体においては、該不純物元素がバルクガラス中を拡散して接合界面に徐々に偏析し、その結果、時間が経過するにつれて接合界面の強度が低下するからである。これに対して、上述のような薄膜形成手法にて形成されるSiO2膜を接合層3として有する本実施の形態に係る接合体10Aにおいては、そのような不純物元素の混入はほとんど生じることはないので、係る不純物元素の混入を原因とする接合強度の劣化が引き起こされることはない。
【0047】
換言すれば、本実施の形態においては、不純物元素が含まれないSiO2薄膜を直接接合に用いることで、十分な経時的安定性が確保されているともいえる。
【0048】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、同種または異種の平板状部材の接合体を形成する場合に、両者を接合する接合層としてのSiO2膜を薄膜形成法により一方の平板状部材の主面上に形成したうえで、他方の平板状部材とSiO2膜との直接接合を行うことにより、接合強度の経時的安定性に優れた接合体を得ることができる。
【0049】
<第2の実施の形態>
第1の実施の形態においては、2つの基材の双方が平板状部材Sである接合体を対象として説明しているが、SiO2薄膜を接合層として用いる態様はこれに限られるものではない。なお、以降の説明においては、第1の実施の形態に係る接合体10Aの構成要素と同じ構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る方法にて作製される2種類の接合体の構造を示す図である。
【0051】
図3(a)は、一方の接合体10Bの構造を示す断面図である。接合体10Bは、平板状部材Sの上に薄膜層Fが形成された第1基材1と、平板状部材Sからなる第2基材2とが、薄膜層Fを両基材の間に介在させる態様にて接合層3によって接合された構成を有する。
【0052】
図3(b)は、他方の接合体10Cの構造を示す断面図である。接合体10Cは、平板状部材Sの上にパターニングされた薄膜層Fが形成された第1基材1と、平板状部材Sからなる第2基材2とが、薄膜層Fを両基材の間に介在させる態様にて、しかも、薄膜層Fのパターニングに対応させて形成された接合層3によって接合された構成を有する。薄膜層Fは、例えば、アルミニウム(Al)などからなる金属薄膜である。
【0053】
すなわち、接合体10Bおよび10Cはともに、第1基材1が平板状部材Sに薄膜層Fを設けたものであるという点で共通し、薄膜層Fがパターニングされたものであるか否かという点で相違するものである。
【0054】
図4は、接合体10Bおよび接合体10Cの作製方法について、その流れを示す図である。
【0055】
本実施の形態においても、2枚の平板状部材Sを用意する点は第1の実施の形態と同様であるが(ステップS1)、一方の平板状部材Sに対して、薄膜層Fを形成することで第1基材1を得る(ステップS1β)点で、第1の実施の形態とは異なる。
【0056】
薄膜層Fは、接合体10Bおよび接合体10Cにおけるその機能・用途に応じて適宜の厚みで形成される。例えば、20nm〜1μm程度の厚みに形成される。
【0057】
薄膜層Fの形成手法としては、スパッタ法、蒸着法、CVD法、など、種々の薄膜形成手法を適用することができる。なお、接合体10Cのようにパターニングを行う場合には、公知のフォトリソグラフィープロセスを用いることができる。
【0058】
このようにして薄膜層Fが形成された第1基材1が得られると、第1基材1の薄膜層Fが形成された面の上に、第1の実施の形態と同様にSiO2膜を形成する(ステップS2)。なお、接合体10Cを形成する場合、得られたSiO2膜の上面に薄膜層Fのパターニングに由来する段差が生じることがあるが、この場合には、係る段差が解消されるように、SiO2膜を上面側から所定の厚みだけ研磨しておくのが好ましい。より好ましくは、SiO2膜の上面が、実質的に原子レベルの平坦性を有するものとされる。例えば、AFM(原子間力顕微鏡)にて測定した表面粗さRaの値が、0.1nm〜50nmの範囲にあるように、研磨が行われるのが好適である。
【0059】
SiO2膜が形成(および研磨)された以降は、第1の実施の形態に係る接合体10Aの作製方法と同様に、酸溶液またはアルカリ溶液への浸漬(ステップS3)、液中での貼り合わせ(ステップS4)、および貼り合わせ体の所定温度および雰囲気圧力下での保持・乾燥(ステップS5)を順次に行えばよい。
【0060】
以上の手順より、接合体10Bおよび接合体10Cが作製される。
【0061】
このようにして作製した接合体10Bおよび接合体10Cにおいても、接合強度の経時的な安定性が良好に得られるものとなっている。このことは、第1の実施の形態と同様に、作製後、所定時間が経過した接合体10Bおよび接合体10Cに対して、引きはがし試験を行うことで、確認することができる。すなわち、第1の基材1における薄膜層Fと平板状部材との接合、薄膜層FとSiO2膜との接合、SiO2膜と第2の基材2としての平板状部材との接合のいずれにおいても、十分な接合強度を有するように、接合体10Bおよび接合体10Cは作製されている。
【0062】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、一方の基材の表面に薄膜層が形成されている場合であっても、接合層としてSiO2膜を薄膜形成法により一方の基材に形成し、直接接合を行うことにより、接合強度の経時的安定性に優れた、セラミックス単結晶基板の接合体を得ることができる。
【0063】
<変形例>
上述の各実施の形態においては、接合体の形成に用いる部材が平板状である場合を対象に説明しているが、接合面が接合可能な程度の平坦性を有していれば、部材の形状は、平板状でなくてもよい。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
本実施例では、第1の実施の形態に係る接合体10Aを作製した。平板状部材Sとしては、いずれも直径3インチ、厚さ0.5mmであるLiNbO3単結晶基板と石英ガラス基板とを用意した。それぞれについて、接合面を表面粗さRaが2nmとなるまで研磨した。
【0065】
LiNbO3単結晶基板を第1基材1とし、その接合面に、SiO2膜をスパッタ法にて500nmの厚みに形成した後、濃度が5wt%の水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した。
【0066】
5分経過後、水酸化カリウム水溶液中において、第1基材1に形成されたSiO2膜の上に、第2基材2としての石英ガラス基板の接合面を貼り合わせた。この仮貼り合わせ状態のものを、水酸化カリウム水溶液中から引き上げ、65℃、0.6Mpaの条件で12時間保持することで、接合体10Aを得た。
【0067】
得られた接合体10Aについて、引きはがし試験を行なった。その結果、母材破壊が生じ、接合面での破壊は生じなかった。
【0068】
また、同じ条件で作製した接合体10Aについて、さらに温度120℃の高温保持試験を2000時間行い、その後に同様の引きはがし試験を行なった場合も、同様の結果であった。
【0069】
(実施例2)
本実施例では、第2の実施の形態に係る接合体10Bを作製した。平板状部材Sとしては、いずれも直径3インチ、厚さ0.5mmである2枚のLiTaO3単結晶基板を用意した。それぞれについて、接合面を表面粗さRaが2nmとなるまで研磨した。
【0070】
一方のLiTaO3単結晶基板に、薄膜層Fとしてのルテニウム膜をスパッタ法にて200nmの厚みに形成することによって、第1基材1を得た上で、該ルテニウム上にCVD法にてSiO2膜を500nmの厚みに形成した。
【0071】
以降は、実施例1と同様の手順で、接合体10Bを得た。
【0072】
得られた接合体10Bについて、引きはがし試験を行なった結果、母材破壊が生じ、接合面での破壊は生じなかった。
【0073】
また、同じ条件で作製した接合体10Bについて、さらに温度120℃の高温保持試験を2000時間行い、その後に同様の引きはがし試験を行なった場合も、同様の結果であった。
【0074】
(実施例3)
本実施例では、第2の実施の形態に係る接合体10Cを作製した。平板状部材Sとしては、いずれも直径3インチ、厚さ0.5mmであるSi単結晶基板と水晶単結晶基板とを用意した。Si単結晶基板について、接合面を表面粗さRaが2nmとなるまで研磨した。
【0075】
水晶単結晶基板の表面全面に薄膜層Fとしてのルテニウム膜をスパッタ法にて200nmの厚みに形成した後、フォトリソグラフィーにてパターニングを施すことによって第1基材1を得た上で、該ルテニウム上にゾルゲル法にてSiO2膜を1000nmの厚みに形成した。
【0076】
SiO2膜を表面側から500nm研磨し、薄膜層Fのパターン輪郭の段差を無くすとともに、SiO2膜の表面粗さRaを2nmとした。
【0077】
以降は、実施例1と同様の手順で、接合体10Cを得た。
【0078】
得られた接合体10Cについて、引きはがし試験を行なった結果、母材破壊が生じ、接合面での破壊は生じなかった。
【0079】
また、同じ条件で作製した接合体10Cについて、さらに温度120℃の高温保持試験を2000時間行い、その後に同様の引きはがし試験を行なった場合も、同様の結果であった。
【0080】
(比較例1)
本比較例では、特許文献1に開示された方法と同様の手法で、LiTaO3基板とシリコン基板との接合体を得た。
【0081】
具体的には、まず、15mm角に切り出した1mm厚のLiTaO3基板を用意し、20mm角に切り出した1mm厚のシリコン基板を用意するとともに、接着剤として用いる、フルオレン骨格を有するアクリレート樹脂(以下、単に樹脂と称する)として、新日鐵化学株式会社製のカルド型アクリレート樹脂(V−259PA)を用意した。当該樹脂は、粘度が70cpsとなるように調製した。
【0082】
LiTaO3基板とシリコン基板とを洗浄した後、シリコン基板の主面上に樹脂を滴下し、LiTaO3基板を重ねて加圧することにより貼り合わせを行った。得られた貼り合わせ体を、100℃で1時間加熱することで樹脂を仮硬化させた後、さらに200℃で1時間加熱することで、樹脂を硬化させ、接着体を得た。なお、接着剤層の厚さは0.2μmであった。
【0083】
図5は、得られた接着体についてレーザー干渉計により観察を行った結果を示す図である。図5に示す観察結果からは、接着剤層が鞍型形状に厚さ分布を持つことが確認される。すなわち、本比較例に係る手法で接着を行った場合には、接着剤層の厚みが不均一となることが確認された。
【0084】
また、接着体を、高温保持試験に投入し、接合性を評価した。条件は、温度を120℃、試験時間を200時間とした。
【0085】
試験後の接合体を目視したところ、接合面に白濁が見出された。また、図6は、試験前後の接着体の断面についての観察像を示す図である。図6(a)は試験前、図6(b)は試験後の像である。図6(b)に示す像から、試験後の接着体の接着剤層にはく離が生じていることが確認された。
【0086】
この結果は、特許文献1に係る方法で作製した接合体には、接合強度に経時劣化が生じることを指し示している。
【0087】
(比較例2)
本比較例においては、特許文献2に開示された方法と同様の手法で、ガラス同士の接合体を得た。本比較例では、平板状部材として、いずれも直径3インチ、厚さ0.5mmである2枚の石英ガラス基板を用意した。それぞれについて、接合面を表面粗さRaが2nmとなるまで研磨した。
【0088】
2枚の石英ガラス基板を、濃度が5wt%の水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した。
【0089】
5分経過後、水酸化カリウム水溶液中において、石英ガラス基板の接合面を貼り合わせた。この仮貼り合わせ状態のものを、水酸化カリウム水溶液中から引き上げ、65℃、0.6Mpaの条件で12時間保持することで、接合体を得た。
【0090】
本接合体を保持温度および保持時間を複数に変えた条件で高温保持試験を行い、試験後の接合強度試験を行なった。
【0091】
接合体の接合強度試験として、ブレードテストを実施した。本試験は、接合体の接合面端部にナイフエッジを挿入し、該端部からはく離が伸展した距離を測定することで接合強度を評価する手法である。はく離伸展距離が短いほど接合強度が強く、はく離伸展距離が長いほど接合強度が弱いと評価できる。
【0092】
図7は、本比較例に係る接合体についてのブレードテストの結果を示す図である。図7に高温保持時間とはく離伸展距離の関係を示す。保持温度120℃の接合体は、保持時間160時間において、はく離伸展距離は15.5mmであったが、接合体のハンドリング時に簡単に基板がはがれてしまい、ほとんど接合強度を維持しておらず、完全にはく離した状態に至っていた。同様に保持時間100℃の場合保持時間240時間、保持温度80℃の場合保持時間400時間で完全はく離に至った。この結果から、高温保持試験による保持時間が長くなるに従って次第に接合強度が低下し、最終的にははく離に至ること、試験温度が高くなるほど強度低下とはく離とが早く起きることが判る。係る結果は、本比較例に係る接合体は、上述の各実施例に係る接合体のような十分な接合強度を有していないことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】第1の実施の形態に係る方法にて作製される接合体10Aの構造を示す断面図である。
【図2】接合体10Aの作製方法について、その流れを示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る方法にて作製される2種類の接合体の構造を示す図である。
【図4】接合体10Bおよび接合体10Cの作製方法について、その流れを示す図である。
【図5】比較例1に係る接着体についてレーザー干渉計により観察を行った結果を示す図である。
【図6】比較例1に係る接着体について、HAST試験前後の接着体の断面についての観察像を示す図である。
【図7】比較例2に係る接合体についてのブレードテストの結果を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1 第1基材
2 第2基材
3 接合層
10A、10B、10C 接合体
F 薄膜層
S 平板状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材を接合する方法であって、
第1の部材の接合面上にSiO2薄膜を成長させるSiO2薄膜形成工程と、
前記SiO2薄膜を酸溶液またはアルカリ溶液中に浸漬させる浸漬工程と、
前記酸溶液またはアルカリ溶液中で、SiO2薄膜の表面に第2の基材を貼り合わせて貼り合わせ体を形成する貼り合わせ工程と、
前記貼り合わせ体を所定の温度および雰囲気圧力にて保持する保持工程と、
を備えることを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の接合方法であって、
前記SiO2薄膜が結晶性薄膜である、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合方法であって、
前記SiO2薄膜が10nm以上10μm以下の厚みに形成される、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項4】
請求項3に記載の接合方法であって、
前記SiO2薄膜が100nm以上1μm以下の厚みに形成される、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接合方法であって、
前記第1の部材の前記接合面上に金属薄膜層が形成されてなり、
前記SiO2薄膜形成工程においては、前記金属薄膜層の上に前記SiO2薄膜を形成する、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項6】
請求項5に記載の接合方法であって、
前記金属薄膜層がパターニングされてなり、
前記SiO2薄膜形成工程においては、前記金属薄膜層の非形成部分を含め前記第1の部材の前記接合面上に前記SiO2薄膜を形成する、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の接合方法であって、
前記第1と第2の部材の少なくとも一方が平板状部材である、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の接合方法であって、
前記第1と第2の部材の少なくとも一方が、セラミックス単結晶基板、ガラス基板、あるいはシリコン単結晶基板のいずれかである、
ことを特徴とする2つの部材の接合方法。
【請求項9】
2つの部材が接合層によって接合された接合体であって、
前記接合層が第1の部材の接合面上に成長したSiO2薄膜であり、
第2の部材の接合面と前記SiO2薄膜とが直接接合されてなる、
ことを特徴とする2つの部材の接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の接合体であって、
前記SiO2薄膜が結晶性薄膜である、
ことを特徴とする接合体。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の接合体であって、
前記SiO2薄膜が10nm以上10μm以下の厚みに形成されてなる、
ことを特徴とする接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の接合体であって、
前記SiO2薄膜が100nm以上1μm以下の厚みに形成されてなる、
ことを特徴とする接合体。
【請求項13】
請求項9ないし請求項12のいずれかに記載の接合体であって、
前記第1の部材の前記一主面上に金属薄膜層が形成されてなり、
前記金属薄膜層の上に前記SiO2薄膜が形成されてなる、
ことを特徴とする接合体。
【請求項14】
請求項13に記載の接合体であって、
前記金属薄膜層がパターニングされてなり、
前記金属薄膜層の非形成部分を含め前記第1の部材の前記一主面上に前記SiO2薄膜が形成されてなる、
ことを特徴とする接合体。
【請求項15】
請求項9ないし請求項14のいずれかに記載の接合体であって、
前記第1と第2の部材の少なくとも一方が平板状部材である、
ことを特徴とする2つの部材の接合体。
【請求項16】
請求項9ないし請求項15のいずれかに記載の接合体であって、
前記第1と第2の部材の少なくとも一方が、セラミックス単結晶基板、ガラス基板、あるいはシリコン単結晶基板のいずれかである、
ことを特徴とする2つの部材の接合体。
【請求項17】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の接合方法によって作製されたことを特徴とする、2つの部材の接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−89993(P2010−89993A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261607(P2008−261607)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】