説明

2軸式ガスタービンの改造方法

【課題】所定の条件で設計された2軸式ガスタービンを、タービン入口の燃焼ガス流量を異ならしめるような燃料もしくはヒートサイクルに適用する際に、性能の低下を最小限に抑えつつ、信頼性を維持する。
【解決手段】空気を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器6と、燃焼器6で生成された燃焼ガスによって駆動される高圧タービン7と、高圧タービン7を駆動した燃焼ガスにより駆動される低圧タービン9と、圧縮機2と高圧タービン7を接続する第1回転軸8と、低圧タービン9の回転軸である第2回転軸11を有する2軸式ガスタービンを、天然ガスや重油を用いて運転することを想定した基準設計に対して、圧縮機2の環帯面積を縮小させるとともに、低圧タービン9の入口静翼を変更するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2軸式ガスタービンに関するものであり、特にその改造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンにおいて、圧縮機を駆動する高圧タービンと、発電機あるいはポンプなどの負荷を駆動する低圧タービンが別軸構成の2軸式ガスタービンが知られている。
【0003】
特許文献1には、圧縮機で圧縮された空気と前記低圧タービンを駆動した排気の間に熱交換器を設けた2軸再生式ガスタービンにおいて、前記低圧タービン入口に可変静翼を設け、排気温度制御を行うことで性能を向上させる方法が開示されている。
【0004】
一方、圧縮機の吸込空気流量を調節する手段としては、例えば特許文献2に圧縮機の静翼付け根部と動翼先端部を削除して翼長を短くし、環帯面積をそれに合わせて縮小する手法が開示されている。
【0005】
2軸式ガスタービンで負荷配分を調整する手法としては、特許文献3に圧縮機と高圧タービンを連結する第1回転軸に、発電機もしくは負荷を接続する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3730489号公報
【特許文献2】特開2005−155613号公報
【特許文献3】特開2010−65636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した2軸式ガスタービンは、一般的には、天然ガス或いは重油等の所定の燃料を用いて、所定の圧縮機圧力比及びタービン入口空気温度等の運転条件下において、熱効率が最大となり、かつ信頼性が確保できるよう設計されている。しかし、このように所定の燃料向けに設計されたガスタービンにそれ以外の燃料を用いる際には、熱効率や信頼性の低下が懸念される。
【0008】
本発明の目的は、所定の条件で設計された2軸式ガスタービンを、タービン入口の燃焼ガス流量を異ならしめるような燃料もしくはヒートサイクルに適用する際に、性能の低下を最小限に抑えつつ、信頼性を維持することが可能な改造方法または運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスによって駆動される高圧タービンと、該高圧タービンを駆動した燃焼ガスにより駆動される低圧タービンと、該圧縮機と該高圧タービンを接続する第1回転軸と、該低圧タービンの回転軸である第2回転軸を有する2軸式ガスタービンの改造方法または運転方法において、前記圧縮機の環帯面積を縮小させるとともに、前記低圧タービンの入口静翼を変更することを特徴とする2軸式ガスタービンの改造方法または運転方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定の条件で設計された2軸式ガスタービンを、タービン入口の燃焼ガス流量を異ならしめるような燃料もしくはヒートサイクルに適用する際に、性能の低下を最小限に抑えつつ、信頼性を維持することが可能な改造方法または運転方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】高湿分空気利用2軸式ガスタービンの回路図。
【図2】本発明の実施例となる低圧タービン入口静翼の変更方法。
【図3】高湿分空気利用2軸式ガスタービンに本発明を適用した場合の燃焼温度と圧力比。
【図4】低カロリー燃料焚き2軸式ガスタービンの回路図。
【図5】2軸式ガスタービンを低カロリーガス焚きに適用した場合の燃焼温度と圧力比。
【発明を実施するための形態】
【0012】
天然ガスを燃料として設計された2軸式ガスタービンを、タービン入口の燃焼ガス流量が設計時よりも増加するようなヒートサイクルに適用する場合を考える。新しいヒートサイクルに合わせてガスタービンを設計することは当然可能であるが、設計開発には多くの時間とコストが必要となるため、できる限り部品を、特にタービン翼を共通化することが望まれている。転用先のヒートサイクルの例として、高炉ガスや転炉ガスなどの天然ガスよりも発熱量が小さい低カロリーガスを燃料としたガスタービンや、圧縮機吐出空気を加湿し、再生熱交換器を使用して熱効率を高める高湿分空気利用ガスタービンが挙げられる。前者は燃料の発熱量が設計発熱量よりも低いため、同じ燃焼温度を得るのに多量の燃料が必要となり燃焼ガス流量が増加する。後者は圧縮機吐出空気に添加する湿分により燃焼ガス流量が増加する。一般に、タービン入口の燃焼ガス流量が増加すると、タービン入口圧力が上昇する。したがって圧縮機側から見ると、吸込空気流量が同じまま圧力比が上昇することになり、サージ(失速)マージンが減少して信頼性が低下する。また2軸式ガスタービンにおいては、圧縮機の駆動動力(損失を含む)と高圧タービンの出力(損失を含む)が等しくなる。一般にタービンの出力は燃焼ガス流量と燃焼温度で定まり、燃焼ガス流量が多く、燃焼温度が高いほどタービンの出力は増加する。したがって燃焼ガス流量が増加する場合、高圧タービンの出力は圧縮機の動力と等しくなくてはならないため、代わりに燃焼温度が低下し、ヒートサイクルの熱効率が低下する。
【0013】
特許文献1に記載されている発明は、2軸式ガスタービンにおいて、低圧タービン入口の可変静翼によりタービン入口温度および排気温度を制御するものであるが、この発明は部分負荷運転時における熱効率を上昇させるために排気温度を制御することを目的としたものであり、高圧タービンの燃焼ガス流量および圧力比が変化することを想定していない。また、産業用ガスタービンにおいて低圧タービン入口温度は非常に高温になっており、ここに可変静翼を設けるには可変機構の信頼性に対する充分な検証と可変機構の保護が必要となる。
【0014】
特許文献2には静翼付け根部と動翼先端部を削除して翼長を短くし、環帯面積をそれに合わせて縮小する手法が開示されている。しかし、この発明は圧縮機のみに着目したものであり、ヒートサイクルが変化することを考慮していない。
【0015】
特許文献3に記載されている発明は、2軸式ガスタービンの圧縮機と高圧タービンを連結する第1回転軸に発電機を接続することにより高圧タービン出力と負荷をバランスさせるものである。この発明は高圧タービンと低圧タービンの構造を変更せずに仕事と負荷のバランス調整が可能であるが、発電機をひとつ多く設置する必要があるためコスト増となる。また、発電機を2つ設置すると第1回転軸と第2回転軸をともに所定の回転数にする必要があるため制御が複雑になる。
【0016】
以下、実施例を用いて本発明について説明する。
【実施例1】
【0017】
図1に本実施例の高湿分空気利用2軸式ガスタービンの回路図を示す。このガスタービンは、あるサイクル用に設計されたガスタービンを別のサイクル(高湿分空気利用サイクル)に適するように改造した改造後のものである。また、図2に図1の低圧タービン9の入口静翼の模式図を示す。
【0018】
まず、本高湿分空気利用ガスタービンの構成について説明する。
【0019】
本高湿分空気利用ガスタービンは、改造前の2軸式ガスタービンを構成する圧縮機2,燃焼器6,高圧タービン7,低圧タービン9,第1回転軸8,第2回転軸11,発電機10に加えて、噴霧冷却装置1,空気冷却器3,加湿装置4,再生熱交換器5,給水加熱器12,水回収装置13,回収水冷却器16,排気再加熱装置14および煙突15で構成されている。
【0020】
圧縮機2は改造前の2軸式ガスタービンの圧縮機から、作動ガス流路の環帯面積を削減している。また、図2に示すように低圧タービン9の入口静翼のスタッガ角をα1からα2に変更している。これらの効果については後述する。
【0021】
以降の説明で比較の際に、高湿分空気利用ガスタービンでないガスタービンに対して「通常の」2軸式ガスタービンや「通常の」2軸再生式ガスタービンという表現を使用する。例えば、「通常の2軸式ガスタービン」は圧縮機,燃焼器,高圧タービン,低圧タービン,発電機,第1回転軸および第2回転軸で構成されているガスタービンを指し、「通常の2軸再生式ガスタービン」は前述した構成要素に再生熱交換器を加えたものとする。
【0022】
本実施例の高湿分空気利用ガスタービンにおいて、圧縮機2に送り込まれる空気はまず噴霧冷却装置1で液滴を噴霧される。この液滴の一部が噴霧冷却装置1と圧縮機2の間の吸気ダクト内で蒸発し、残りが圧縮機2の内部で蒸発する。
【0023】
吸気ダクト内で噴霧された液滴は蒸発する際に周囲の空気から熱エネルギーを吸収し、圧縮機2に流入する空気の温度を低下させる。吸気ダクトで蒸発しなかった液滴は圧縮機2に入り、圧縮されて温度上昇した空気の熱エネルギーを吸収して蒸発し、空気の温度を低下させる。一般に低温の空気を圧縮する場合、高温の空気を圧縮するよりも少ない動力で圧縮できる。噴霧冷却装置1は吸気ダクトで液滴が蒸発することによる吸気冷却効果と、圧縮機内部で液滴が蒸発することによる中間冷却効果で圧縮機2の動力を低減させている。
【0024】
噴霧冷却装置1で噴霧される液滴は、粒径が小さいほど蒸発時間が短く、圧縮機2の前段側で蒸発が完了する。これは圧縮機の中間冷却効果を大きくするだけでなく、液滴が蒸発することによる後段側の翼負荷の上昇を緩和するので、できる限り微粒化することが望ましい。
【0025】
圧縮機2で圧縮された空気は、空気冷却器3で冷却されたあと加湿装置4に入る。本実施例では加湿方式として増湿塔を採用している。増湿塔は水滴を上部から散布し、空気を下部より流入させて水滴を蒸発させる構造になっている。水滴の蒸発量は機器の体格と空気と水滴の接触面積により定まるため、増湿塔では充填物を使用して空気と水滴の接触面積を増加させ、蒸発を促進させている。
【0026】
他の加湿方式としては、加湿をスプレイノズルで行う加湿管が挙げられる。これはスプレイノズルで微粒化した水滴を散布して蒸発させる方式である。この方式は増湿塔と比べて充填物を使用しないため低コストであるが、空気と湿分の接触面積が増湿塔よりも少ないため、同一体積で比較すると加湿量が少なくなる。加湿管における空気と水滴の接触面積は散布する水滴の表面積に依存するため、水滴を微粒化するほど単位体積あたりの表面積は大きくなり、加湿管の体格を小さくすることが可能となる。
【0027】
一般に、加湿に使用する水は温度が高いほど蒸発量が増加するため、本実施例では空気冷却器3と給水加熱器12を使用して散布する水滴の温度を上昇させている。
【0028】
加湿装置4により増湿された空気は、再生熱交換器5でガスタービンの排気から熱を回収する。通常の再生式ガスタービンでは、再生熱交換器5は圧縮機の吐出空気と排気との間で熱交換を行う。したがって、排気から回収する熱量を増加させるには排気温度を上昇させ、圧縮機の吐出温度を低下させる必要がある。これには圧縮機の圧力比を下げる必要があり、ガスタービンの効率低下に繋がるため、再生サイクルの課題となっている。高湿分空気利用ガスタービンにおいては、再生熱交換器5に圧縮機吐出空気ではなく高湿分空気が流入する。この高湿分空気に関しては、加湿装置4における水滴の蒸発により圧縮機吐出空気よりも温度が低くなっている。これにより通常の再生式ガスタービンよりも交換熱量を増加させ、システムの熱効率を向上させている。
【0029】
再生熱交換器5で高温となった高湿分空気は燃焼器6に導かれ、ここで燃料と混合して燃焼する。このとき燃焼器6は湿分を多く含んだ空気で燃焼可能なように設計されている。
【0030】
燃焼器6により高温高圧となった燃焼ガスは高圧タービン7および低圧タービン9で仕事をする。高圧タービン7の仕事は主に圧縮機2を回転させるための動力として使用され、低圧タービン9の仕事は発電機の出力となる。
【0031】
低圧タービン9を出た排気は再生熱交換器5で前述した高湿分空気を加熱した後、給水加熱器12に流入する。この排気の熱エネルギーは再生熱交換器5と給水加熱器12で回収される。給水加熱器12から出る排気の温度は低いほど熱効率は高くなるが、低すぎると給水加熱器12の内部で排気の凝縮が始まる。給水加熱器12の内部で排気が凝縮すると給水加熱器12の金属腐食による劣化が促進されるため、排気の露点温度から所定の温度だけ高くなるように設計される。
【0032】
給水加熱器12を出た排気は水回収装置13で湿分を回収された後、排気再加熱装置14を経由した後煙突15より大気に放出される。水回収装置13では、水を散布することにより排気の温度を下げ、露点温度以下にすることで水蒸気を凝縮させる。このとき凝縮熱により水温が上昇するため、回収水冷却器16を用いて水温を低下させる。水温は低いほど水の回収量が増加し、水回収装置13の体格も小さくなるが、下げすぎると回収水冷却器16の体格が大きくなる。また、システムを循環する水の温度が低下し、熱効率も低下するため適切な温度になるよう設計される。
【0033】
水回収装置13を出た排気は飽和温度となっているため、そのまま煙突から放出すると空気中で凝縮し白煙を生じる可能性がある。そのため排気再加熱装置14で温度を上昇させた後煙突15から放出する。
【0034】
ここで2軸式ガスタービンに特有の第1回転軸8に作用する仕事のバランスについて説明する。
【0035】
高圧タービン7の出力が圧縮機2の動力より大きい場合、圧縮機2の回転数が上昇して吸込空気流量が増加する。吸込空気流量が増加すると圧縮機2の動力と高圧タービン7の出力はともに増大するが、本実施例では圧縮機2の必要動力の増加量が高圧タービン7の出力の増加量よりも大きいため、ある程度吸込空気流量が増加すると圧縮機2の動力と高圧タービン7の出力が等しくなる。圧縮機2に入口案内翼を採用し、これを用いて第1回転軸8の回転数が一定となるよう制御した場合においても、同様に入口案内翼が開いて吸込空気流量が増加する。
【0036】
一般に産業用の2軸式ガスタービンにおいては、圧縮機翼やタービン翼の共振を回避するため、圧縮機2と高圧タービン7が連結されている第1回転軸8の回転数は一定とすることが望ましい。このために圧縮機2は回転数を変えずに吸込空気流量を変えられるよう入口から数段の静翼を可変静翼としている場合が多い。
【0037】
この第1回転軸8における圧縮機動力と高圧タービン出力は常にバランスしている。高圧タービン7の出力は燃焼温度を上昇させると増加するため、第1回転軸8に作用する仕事のバランスは燃焼温度に影響する。圧縮機動力が増加すると、第1回転軸8の回転数を一定に保つ、すなわちバランスをとるためには、高圧タービン出力を増加させる必要があり、したがって燃焼温度が上昇する。逆に圧縮機動力が減少する場合には燃焼温度は低下する。例えば、圧縮機2の入口案内翼を開いたとすると、吸込空気流量が増加することにより圧縮機動力が増加するため、燃焼温度は上昇する。
【0038】
これによって、例えば1軸式ガスタービンに排熱回収ボイラと蒸気タービンを設置したコンバインドサイクルで実施していたような部分負荷時に圧縮機の入口案内翼を閉めて燃焼温度を維持し、熱効率を高くするような制御は難しくなる。これは圧縮機の入口案内翼を閉めた場合、吸込空気流量の減少とともに圧縮機動力も減少し、低い燃焼温度で第1回転軸8に作用する仕事がバランスするためである。このように2軸式ガスタービンにおいては燃焼温度と吸込空気流量を独立に設定できない。
【0039】
図3に本実施例の加湿装置4における加湿量と燃焼温度および圧力比の関係を示す。以下、図1の回路図と図3のグラフを用いて説明する。まず燃焼温度に関して、燃焼温度がT0となるよう設計された2軸式ガスタービンでは、吸気部の噴霧冷却装置1で液滴を噴霧すると、吸気冷却効果と中間冷却効果のため圧縮機動力が低下する。圧縮機動力が低下すると、高圧タービン出力も低下させる必要があるため、燃焼温度がT0からT1に低下する。また加湿量が増加すると高圧タービン出力も増加するため、燃焼温度T1からT2に下げて圧縮機動力と高圧タービン出力を等しくする。ガスタービンにおいて、燃焼温度の低下は熱効率の低下に繋がるため、燃焼温度を高くすることが求められる。
【0040】
一方、圧力比については高湿分空気利用ガスタービンは再生式ガスタービンの一種であるため、空気配管と再生熱交換器5の圧力損失により圧縮機2の圧力比がπ0からπ1に上昇する。さらに加湿装置4により湿分を添加すると、高圧タービン7および低圧タービン9の流量が増加するため圧力比はπ1からπ2にさらに上昇する。
【0041】
このような2軸式ガスタービンに改造を施し、本実施例のガスタービンとすることについて説明する。まず圧縮機の作動ガス流路の環帯面積を縮小すれば吸込空気流量が減少する。これによって高圧タービン7の燃焼ガス流量が減少するため、圧力比がπ2からπ0まで低下する。環帯面積を削減する方法としては例えば特許文献2に開示されている方法が挙げられる。
【0042】
環帯面積の縮小量は添加する水分量に応じて選択可能だが、おおよそ添加する湿分量と同等程度とするのがよい。図1に示す高湿分空気利用ガスタービンでは、添加する湿分によりタービン入口の燃焼ガス流量が約20%増加する。したがって環帯面積の削減量も20%程度となる。実際は湿分を添加したことにより燃焼ガスの組成が変化するため、環帯面積の縮小量の評価は別途必要となる。
【0043】
また、環帯面積の削減と同時に、低圧タービン9の入口静翼のスタッガ角を変更することで高圧タービン7と低圧タービン9の負荷配分を変更できる。負荷配分の変更は低圧タービン9の入口静翼を使用する。燃焼温度が低下する場合には燃焼温度が高くなるよう、高圧タービン7の出力が小さく、低圧タービン9の出力が大きくなるよう低圧タービン9の入口静翼のスタッガ角を変更する。
【0044】
この改造により、環帯面積の削減による圧縮機2の動力の低下量と、負荷配分の変更による高圧タービン7の出力の低下量を等しくすることができる。そうすると、改造前の設計時と同じ圧力比、燃焼温度で高湿分空気利用ガスタービンを運用することが可能となる。
【0045】
ここで具体的な低圧タービン入口静翼の改造方法について述べる。図2に低圧タービン9の入口静翼の変更方法の一例を示す。静翼のスタッガ角をα1からα2に変化させると、静翼のスロート面積がA1からA2に小さくなる。一般に、入口静翼のスロート面積を縮小すると圧力比が上昇するため、この場合は低圧タービン9の圧力比が上昇する。同様に、全体の圧力比は高圧タービン7の入口静翼のスロート面積で定まるが、本実施例では高圧タービン7を変更していないため、全体の圧力比はあまり変化しない。すなわち、高圧タービン7の圧力比が相対的に低下することになるため、全体の圧力比を変えずに高圧タービン7と低圧タービン9の間の負荷配分を変更することが可能となる。
【0046】
スタッガ角の変化量Δαを増加させると、低圧タービン9の圧力比が上昇して負荷が低圧タービン9の側に移動する。しかしながら、変化量が増加したことにより静翼におけるインシデンス角(設計流入角と実流入角の差)が増大する。インシデンス角は翼における損失と流れの剥離に大きく影響するため、スタッガ角の変化量はある範囲に留める必要がある。これはスタッガ角を変えた静翼の直後の動翼も同様であり、Δαが増加することでこの動翼のインシデンス角も大きくなる。
【0047】
低圧タービン9の負荷を制限範囲よりも大きくしたい場合は、静翼を再設計し、剥離を起こさない翼形にする必要がある。このとき、静翼のスタッガ角を変更するよりもコストは増大するが、スタッガ角を変更するよりも効率の低下を抑えることができ、信頼性を維持することが可能となる。また、静翼の直後の動翼の場合も同様に、剥離が起きる可能性がある場合は再設計する必要がある。
【0048】
低圧タービン入口静翼のスタッガ角を決めるにあたっては、燃焼温度ではなく排気温度を元に定めてもよい。排気温度を上昇させると必然的に燃焼温度も上がり、後方に設置されている熱交換器で回収できる熱量も増加するためである。本実施例の改造では燃焼温度を下げずに効率を向上させることが目的であるため、熱回収量を増加させることにより効率を向上させることは目的に反さない。
【0049】
環帯面積と低圧タービン9の入口静翼のスタッガ角の変化量の決定に関して、実際は低圧タービン9の入口静翼を変更すると圧力比も変化するため、両方を調整しながら変化量を決定する必要がある。スタッガ角の変化量は噴霧冷却装置1での液滴の噴霧量,加湿装置4での加湿量、および圧縮機2の出口から高圧タービン7の入口までの圧力損失により変化する。例えば高圧タービン7の燃焼ガス流量が10%増加するとき、圧力比も設計点から約10%増加するため、圧縮機の信頼性をかなり低下させる。これに対し、環帯面積を10%削減すると、スタッガ角を約3°変化させることにより圧力比と燃焼温度を同等に保ち、信頼性と性能を維持することができる。高圧タービン7の燃焼ガス流量が10%以上増加するときは環帯面積も10%以上削減させ、スタッガ角も3%以上変化させることで信頼性と性能を維持することができる。
【0050】
このように、本実施例の圧縮機の環帯面積の削減と低圧タービン入口静翼の改造は、圧縮機とタービンの運転状態が著しく異なる高湿分空気利用ガスタービンにおいても、信頼性を維持したまま既存の2軸式ガスタービンが転用可能となる。このとき、タービンの効率は、スタッガ角を変更した低圧タービン入口静翼と、その直後の動翼のインシデンス角が増加することによる損失増のみとなるため、最小限の効率低下に抑えることができる。またコストの面から見た場合、新規に設計となるのは低圧タービン入口の静翼のみであり、またその静翼も翼形は同じであるため、開発費用を低く抑えることができる。
【0051】
本実施例では負荷配分を低圧タービン9の側に移動させているが、このとき高圧タービン7の圧力比が低下する。これにより低圧タービン9の入口静翼の熱負荷が大きくなるため、前段側のタービン翼と同様に翼に冷却構造を追加して冷却空気を流すことで、信頼性を向上させることができる。実際に冷却空気を流すかどうかは、負荷配分を変更したことにより低圧タービン9の入口温度がどの程度上昇するかで判断する。
【0052】
この静翼の冷却空気には、通常のガスタービンと同様に圧縮機2の吐出空気もしくは中間段の抽気空気21を使用するが、高湿分空気利用ガスタービンにおいては加湿装置4の出口空気22を使用することも可能である。加湿装置4の出口空気22は圧縮機の抽気空気21に比べて温度が低いため、少ない冷却空気流量で目標の冷却性能を達成できる。
【実施例2】
【0053】
図4に本発明の第2の実施例である低カロリー燃料焚き2軸式ガスタービンの回路図を示す。
【0054】
本ヒートサイクルは通常の2軸式ガスタービンに加えて、製鉄所等から供給される高炉ガスおよびコークス炉ガスを圧縮する燃料圧縮機17を備えている。高炉ガスの成分は窒素,一酸化炭素および二酸化炭素を主成分としたガスであり、コークス炉ガスは炭化水素と水素を主成分としたガスである。これらの副生ガスは発熱量が低いものの、製鉄所を運転する際に必ず発生するため、エネルギー消費量を削減のため発電用燃料として使用されている。
【0055】
図5に低カロリー燃料焚き2軸式ガスタービンの燃焼温度および圧力比の関係を示す。以下、図4の回路図と図5のグラフを用いて説明する。天然ガスと高炉ガスを比較した場合、天然ガスの標準発熱量は44MJ/m3−Nであるのに対し、高炉ガスの標準発熱量は3.4MJ/m3−Nであるため、高炉ガスのみで同じ入熱量を得ようとする約13倍の燃料が必要となる。天然ガス焚きのガスタービンの場合、燃料流量は吸込空気流量の約2%であるが、代わりに高炉ガスを使用したとすると、燃料流量が吸込空気流量の約26%まで増加することになる。したがって図6より、天然ガス焚きで設計した2軸式ガスタービンに低カロリー燃料を使用すると、燃料流量が増加することにより圧力比が上昇し、燃焼温度が低下してしまう。これは燃料と湿分の違いはあるが、タービン入口の燃焼ガス流量が設計時より増加したことが原因であるため、実施例1で説明したガスタービンの改造と同様、圧縮機の環帯面積の削減と、低圧タービン入口静翼の変更で対処することが可能である。
【0056】
以上説明した各実施例は、空気を圧縮する圧縮機2と、圧縮機2で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器6と、燃焼器6で生成された燃焼ガスによって駆動される高圧タービン7と、高圧タービン7を駆動した燃焼ガスにより駆動される低圧タービン9と、圧縮機2と高圧タービン7を接続する第1回転軸8と、低圧タービン9の回転軸である第2回転軸11を有する2軸式ガスタービンの改造に関するものである。このような2軸式ガスタービンを、天然ガスや重油を用いて運転することを想定した基準設計に対して、圧縮機2の環帯面積を縮小させるとともに、低圧タービン9の入口静翼を変更するようにしている。このように改造すること、またはこのように変更して運転することで、性能の低下を最小限に抑えつつ、信頼性を維持することが可能となる。この変更後の2軸ガスタービンは、圧縮機で圧縮された空気に湿分を添加する加湿装置を設置して高湿分空気利用ガスタービンとして運用したり、燃料として高炉ガスまたはコークス炉ガスを利用して運用したりすることが有効である。低圧タービン9の入口静翼の変更手法としては、入口静翼のスタッガ角を変更することが挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
1 噴霧冷却装置
2 圧縮機
3 空気冷却器
4 加湿装置
5 再生熱交換器
6 燃焼器
7 高圧タービン
8 第1回転軸
9 低圧タービン
10 発電機
11 第2回転軸
12 給水加熱器
13 水回収装置
14 排気再加熱装置
15 煙突
16 回収水冷却器
17 燃料圧縮機
21 抽気空気
22 出口空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスによって駆動される高圧タービンと、該高圧タービンを駆動した燃焼ガスにより駆動される低圧タービンと、該圧縮機と該高圧タービンを接続する第1回転軸と、該低圧タービンの回転軸である第2回転軸を有する2軸式ガスタービンの改造方法において、
前記圧縮機の環帯面積を縮小させるとともに、前記低圧タービンの入口静翼を変更することを特徴とする2軸式ガスタービンの改造方法。
【請求項2】
請求項1に記載される2軸式ガスタービンの改造方法において、前記低圧タービン入口静翼の変更部分が該静翼のスタッガ角であることを特徴とする2軸式ガスタービンの改造方法。
【請求項3】
請求項2に記載される2軸式ガスタービンの改造方法において、前記圧縮機の環帯面積の縮小量が10%以上であり、かつ前記低圧タービン入口静翼のスタッガ角の変化量が3°以上であることを特徴とする2軸式ガスタービンの改造方法。
【請求項4】
請求項3に記載される2軸式ガスタービンの改造方法において、前記低圧タービン入口静翼に冷却構造を追加することを特徴とする2軸式ガスタービンの改造方法。
【請求項5】
空気を圧縮する圧縮機と、該圧縮機で圧縮された空気と燃料とを混合燃焼させる燃焼器と、該燃焼器で生成された燃焼ガスによって駆動される高圧タービンと、該高圧タービンを駆動した燃焼ガスにより駆動される低圧タービンと、該圧縮機と該高圧タービンを接続する第1回転軸と、該低圧タービンの回転軸である第2回転軸を有する2軸式ガスタービンの運転方法において、
基準設計に比べて前記圧縮機の環帯面積を縮小させるとともに、前記低圧タービンの入口静翼を変更して運転することを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。
【請求項6】
請求項5の2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記圧縮機で圧縮された空気に湿分を添加する加湿装置を設置して運転することを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。
【請求項7】
請求項5の2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記燃料が高炉ガスまたはコークス炉ガスであることを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。
【請求項8】
請求項5−7の何れかの2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記低圧タービンの入口翼を、燃焼温度が高くなるように変更することを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。
【請求項9】
請求項5−8の何れかの2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記低圧タービン入口静翼の変更部分が該静翼のスタッガ角であることを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。
【請求項10】
請求項5−9の何れかの2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記圧縮機の環帯面積の縮小量が10%以上であり、かつ前記低圧タービン入口静翼のスタッガ角の変化量が3°以上であることを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。
【請求項11】
請求項5−10の何れかの2軸式ガスタービンの運転方法において、
前記低圧タービン入口静翼に冷却構造を追加することを特徴とする2軸式ガスタービンの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172587(P2012−172587A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35297(P2011−35297)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】