説明

3レベルPWM電力変換装置

【課題】入力電流検出値Isの極性に基づいて中性点電位制御を行っているため、入力電流のリプル、検出遅れ等の影響により、中性点電位制御が逆の動作をし、平滑コンデンサ6、7の電圧差をさらに拡大させてしまう恐れがある。また、入力電流が小さく、制御不能状態となり、平滑コンデンサ6、7の電圧の均衡を図ることができない恐れがある。
【解決手段】本発明は、交流電気車においては、その入力側の力率が1.0または-1.0となるように運転されることに着目し、入力電流検出値に代えて、変換器の運転指令(力行/回生)に基づき極性切替えを行い、中性点電位制御を行うことで、入力電流のリプル、検出遅れ等の影響を受けることなく、また入力電流が小さい場合でも、平滑コンデンサ6、7の電圧の均衡を図ることができるようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3レベルの電圧を出力する電力変換装置に関し、特に中性点電位制御方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に3レベル電力変換装置の従来例を示す。これは交流電気車に適用した例であり、特許文献1に記載されているものである。
図6において、4はその交流側がトランス2およびリアクトル3を介して単相交流電源1に接続された3レベルPWM整流器であり、その直流側に接続された平滑コンデンサ6と平滑コンデンサ7の電圧の和が規定電圧となるように、整流動作または回生動作をする。5はその直流側が平滑コンデンサ6、7に接続された3レベルインバータであり、力行時においてインバータ動作し、平滑コンデンサ6、7の直流電力を交流電力に変換して誘導機8に電力を供給する。また、ブレーキ時(回生時)において回生動作し、誘導機8の回転エネルギーを直流電力に変換し、平滑コンデンサ6、7に供給している。
平滑コンデンサ6、7の端子電圧Edp、Ednは理想的には等しくなるが、電力変換器を構成している半導体スイッチ素子の特性のバラツキなどにより、平滑コンデンサ電圧Edp、Ednに不均衡が生じる。これにより、インバータ5の出力電圧の正負にアンバランスが生じ、所望の電圧を出力できなくなるだけでなく、平滑コンデンサ6、7のどちらか一方が過電圧となり、装置の破損に至る恐れがある。そこで、平滑コンデンサ電圧Edp、Ednを均等にする中性点電位制御を行っている。以下に、中性点電位制御を行っている3レベルPWM整流器4の回路構成および制御装置について述べる。
【0003】
3レベルPWM整流器4は図7に示すように、U相レグ100、V相レグ200で構成されている。U相レグは半導体スイッチ101a、101b、101c、101dと、これらと逆並列に接続されたダイオード102a、102b、102c、102dと、平滑コンデンサ6、7の接続点(以下、中性点と称する)z1とダイオード102bのカソード側との間に接続されたダイオード103aと、中性点z1とダイオード102cのアノード側に接続されたダイオード103bからなり、V相レグも同様に、半導体スイッチ201a、201b、201c、201dと、これらと逆並列に接続されたダイオード202a、202b、202c、202dと、中性点z1とダイオード202bのカソード側との間に接続されたダイオード203aと、中性点z1とダイオード202cのアノード側に接続されたダイオード203bからなる。半導体スイッチ101a、101b、101c、101d、および201a、201b、201c、201dは、制御装置20から出力される各相のゲート信号PWMU、PWMVに基づきオン・オフ動作し、入力電圧への対向電圧Vcを出力することで、平滑コンデンサ電圧Edp、Ednの和を規定電圧に維持する。
【0004】
制御装置20は電圧指令演算部21、加算器22、減算器23、24、極性反転器25、ゲート信号生成部26、および中性点電位制御部30で構成されている。加算器22では、電圧検出器12、13で検出した平滑コンデンサ6、7の端子電圧EdpとEdnを加算し、その結果を一括の直流電圧Edとして電圧指令演算部21に出力する。電圧指令演算部21は、電圧検出器10で検出した入力電圧Vs、電流検出器11で検出した入力電流Is、および直流電圧Edに基づき、直流電圧Edを規定電圧に一致させる出力電圧指令vcsolを出力する。そして、出力電圧指令vcsolに対し、減算器24にて中性点電位制御による補正処理を行い、これをU相電圧指令vusolとすると共に、極性反転器25にて出力電圧指令vcsolの極性を反転し、これをV相電圧指令vvsolとしている。ゲート信号生成部26U、26Vでは、U相、V相電圧指令vusol、vvsolに基づき、PWM整流器4に対し、ゲート信号PWMU、PWMVを出力し、各半導体スイッチをオン・オフさせている。
【0005】
中性点電位制御部30は、電圧指令補正量演算部31、極性判定器32、および乗算器33で構成されている。電圧指令補正量演算部31は比例調節器などであり、減算器23で算出した平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの差電圧△Edに応じた電圧指令補正量vccmpを出力する。極性判定器32は、入力電流検出値Isに基づき、その極性が正である場合(単相交流電源からPWM整流器に流れる方向を正)、電流極性信号Issignとして「1」を出力し、その極性が負である場合、「-1」を出力する。そして、乗算器33により電圧指令補正量vccmpと電流極性信号Issignを乗算し、その結果を電圧指令補正量vccmp1として減算器24に出力する。減算器24は出力電圧指令vcsolから電圧補正量vccmp1を減算し、その結果をU相電圧指令vusolとして出力する。
これにより、例えば、力行時において平滑コンデンサ6、7の差電圧△Edが正(Edp>Edn)で、かつ入力電流が正の場合、電圧指令補正量vccmp1は正の値となり、U相電圧指令は負側にバイアスされ、U相の上アームがオンする期間は短くなる。その結果、平滑コンデンサ6の充電期間が短くなり、その端子電圧Edpは低下し、平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの均衡を図ることができる。また、差電圧△Edが正(Edp>Edn)でかつ入力電流が負の場合は、U相電圧指令を正側にバイアスすることにより、差電圧△Edが負(Edp<Edn)でかつ入力電流が正の場合は、U相電圧指令を正側にバイアスすることにより、差電圧△Edが負(Edp<Edn)でかつ入力電流が負の場合は、U相電圧指令を負側にバイアスすることにより、平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの均衡を図ることができる。なお、回生時における中性点電位制御の動作は、力行時と逆の動作となる。
【特許文献1】再公表WO97/25766(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来例では、入力電流検出値Isの極性に基づいて中性点電位制御を行っているため、入力電流のリプル、検出遅れ等の影響により、実際の電流値と検出値にずれが生じた場合、中性点電位制御が逆の動作をし、平滑コンデンサ6、7の電圧差をさらに拡大させてしまう恐れがある。また、入力電流が小さく、その極性の判定ができない場合、制御不能状態となり、平滑コンデンサ6、7の電圧の均衡を図ることができない恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
中性点電位制御が本来とは逆の動作をして、平滑コンデンサ6、7の電圧差を拡大させたり、制御不能状態に陥る原因は、入力電流の検出値に基づき極性を判定し、制御を行っているためである。
本発明は、交流電気車においては、その入力側の力率が1.0または-1.0となるように運転されることに着目し、入力電流検出値に代えて、変換器の運転指令(力行/回生)に基づき極性切替えを行い、中性点電位制御を行うことで、入力電流のリプル、検出遅れ等の影響を受けることなく、また入力電流が小さい場合でも、平滑コンデンサ6、7の電圧の均衡を図ることができるようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、入力電流のリプル、検出遅れ等の影響を受けることなく、また、入力電流が小さい場合においても、安定に中性点電位制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
力行時(力率1.0運転)で、かつ差電圧△Edが正(Edp>Edn)の場合、U相電圧指令を負側にバイアスすることで、入力電圧、電流が共に正の期間においては、図1に示す経路(交流入力U→ダイオード102b→ダイオード102a→平滑コンデンサ6→ダイオード203a→半導体スイッチ201b→交流入力V)で平滑コンデンサ6を充電する期間が短くなり、入力電圧、電流が共に負の期間においては、図2に示す経路(交流入力V→半導体スイッチ201c→ダイオード203b→平滑コンデンサ7→ダイオード102d→ダイオード102c→交流入力U)で平滑コンデンサ7を充電する期間が長くなり、平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの均衡を図ることができる。差電圧△Edが負(Edp<Edn)の場合は、U相電圧指令を正側にバイアスすることで、平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの均衡を図ることができる。
また、回生時(力率-1.0)で、かつ差電圧△Edが正(Edp>Edn)の場合、U相電圧指令を正側にバイアスすることで、入力電圧が正で、電流が負の期間においては、図3に示す経路(交流入力V→半導体スイッチ201c→ダイード203b→平滑コンデンサ6→半導体スイッチ101a→半導体スイッチ101b→交流入力U)で平滑コンデンサ6を放電する期間が長くなり、入力電圧が負で、電流が正の期間においては、図4に示す経路(交流入力U→半導体スイッチ101c→半導体スイッチ101d→平滑コンデンサ7→ダイオード203a→半導体スイッチ201b→交流入力V)で平滑コンデンサ7を放電する期間が短くなり、平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの均衡を図ることができる。差電圧△Edが負(Edp<Edn)の場合は、U相電圧指令を負側にバイアスすることで、平滑コンデンサ電圧EdpとEdnの均衡を図ることができる。このように、差電圧△Edと運転モードにより、中性点電位制御を行うことができる。
【実施例1】
【0010】
図5に第1の実施例を示す。これは本発明を交流電気車の3レベル電力変換装置に適用し
た例である。本発明と図6に示す従来の3レベル電力変換装置の構成で異なる点は、図6に示す中性点電位制御部30に代えて、図5に示す中性点電位制御部40により中性点電位制御を行う点である。中性点電位制御部40内で、図6と同一部品は同一符号を付して、その説明を省略する。
中性点電位制御部40は、電圧指令補正量演算部31、乗算器33、および切替スイッチ41で構成されている。切替スイッチ41は、運転指令が力行である場合は運転モードフラグrmodeとして「1」を出力し、運転指令が回生である場合は「-1」を出力する。そして、乗算器33により電圧指令補正量vccmpと運転モードフラグrmodeを乗算し、その結果を電圧指令補正量vccmp1として減算器24に出力する。このように、入力電流検出値に代えて、運転指令(力行/回生)に基づき極性を切替えることにより、中性点電位制御を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0011】
マルチレベルコンバータ/インバータシステムにおいては、中性点電圧を確実に制御することは装置の出力性能の確保や素子への印加電圧の均等化の課題解決には重要である。特に従来のように電流の零点を検知して極性判別する方式に比べ、確実に中性点電圧を制御できるので、車両搭載用変換器の他、産業用のインバータなどに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】力行時、入力電圧/入力電流が正極性の時の電流Isの経路を示す図である。
【図2】力行時、入力電圧/入力電流が負極性の時の電流Isの経路を示す図である。
【図3】回生時、入力電圧が正極性/入力電流が負極性の時の電流Isの経路を示す図である。
【図4】回生時、入力電圧が負極性/入力電流が正極性の時の電流Isの経路を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例を示す回路図である。
【図6】3レベル電力変換装置の従来例を示す回路図である。
【図7】3レベルPWM整流器4の詳細である。
【符号の説明】
【0013】
1・・・単相交流電源 2・・・トランス 3・・・リアクトル
4・・・PWM整流器 5・・・3レベルインバータ
6、7・・・平滑コンデンサ 8・・・誘導機 10・・・電圧検出器
11・・・電流検出器 12、13・・・電圧検出器 20・・・制御装置
21・・・電圧指令演算器 22・・・加算器 23、24・・・減算器
25・・・極性反転器 26・・・ゲート信号生成部
30・・・中性点電位制御部 31・・・電圧指令補正量演算部
32・・・極性判定器 33・・・乗算器 40・・・中性点電位制御部
41・・・切替スイッチ
100・・・U相レグ 200・・・V相レグ
101a、101b、101c、101d、201a、201b、201c、201d・・・半導体スイッチ
102a、102b、102c、102d、202a、202b、202c、202d、103a、103b、203a、203b・・・ダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流側に、第1の直流平滑コンデンサと第2の直流平滑コンデンサの直列回路が、交流側
にリアクトルを介して交流電源が、それぞれ接続された3レベル電力変換装置において、
前記2つの直流平滑コンデンサ電圧の差電圧と運転状態指令とに基づき、前記3レベル電力変換装置の出力電圧指令を補正する手段を備えたことを特徴とする3レベル電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3レベル電力変換装置において、運転状態指令として、力行指令または回生指令を用いることを特徴とする3レベル電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−191743(P2006−191743A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1476(P2005−1476)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】