説明

ADS−B地上局

【課題】装置規模の増大を抑えつつ、取得したADS−B監視情報の信頼性を向上させたADS−B地上局を得る。
【解決手段】受信したADS−B信号に基づきトラック情報を新たに作成した航空機に対して、このトラック情報の作成直後にDBCを要求するモードS個別質問を行ない、その応答信号を受信解読後、この新たに作成したトラック情報内とモードS個別応答内のそれぞれのDBC、及び距離情報が合致するか否かを判定する。そして、これらが合致した場合には、ADS−B信号を発した航空機とモードS個別質問に応答した航空機とが同一の航空機であるとしてこれを実ターゲットとして扱い、この新たに作成したトラック情報を継続して保持する。一方、これらが合致しない場合には誤ターゲットとし、この新たに作成したトラック情報を棄却して誤ターゲットの混在を減らす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行中の航空機から発せられる放送型自動従属監視(ADS−B)信号に基づき、地上にてこれら航空機の監視情報を取得する放送型自動従属監視(ADS−B)地上局に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行中の航空機が自己の位置情報等を定期的に送信し、地上側ではこの情報を受信解読して航空機を実時間かつ連続的に監視する、放送型自動従属監視(Automatic Dependent Surveillance − Broadcast、以下、ADS−Bと表す)が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。このADS−Bでは、航空機側から、自機の識別情報、GPS等により取得した位置情報、機上搭載の各種航法器材により取得した針路や速度などの航法情報等を含む、いわゆるADSデータと総称されるデータが、ADS−B信号として放送型のデータ通信手段を用いて定期的に送信され、地上側では、このADS−B信号を受信解読するだけで飛行中の航空機を監視するのに必要な位置情報等の各種情報を取得している。
【0003】
また、機上からADS−B信号の送信に用いられる放送型のデータ通信手段としては、拡張スキッタ、VDL−4(VHF Digital Link mode4)、UAT(Universal Access Transceiver)といった方式が国際的に提案されているが、中でも拡張スキッタ方式が有望視されている(例えば、非特許文献2参照。)。これは、拡張スキッタ方式がSSR(Secondary Surveillance Radar)モードSと同一の周波数及び信号形式を用いるものであるため、すでに大型航空機に搭載されているモードSトランスポンダに機能付加することによって、このモードSトランスポンダを共用できることによる。
【0004】
従って、航空機側は拡張スキッタ方式に対応したモードSトランスポンダを用い、地上局側は受信及び解読のための比較的簡易な機器構成で、従来の航空管制レーダと同様な運用を実現できる可能性が見込まれることから、ADS−Bを用いたシステムは、増大する航空交通量に対処し航行の安全性を高めるための監視システムのひとつとして開発評価が進められている。
【0005】
航空機からのADS−B信号を地上側で受信し解読するADS−B地上局の事例を図6に示す。図6は、従来のADS−B地上局の構成の一例を示すブロック図である。
【0006】
図6に示した事例では、このADS−B地上局は、航空機からのADS−B信号を受信する無指向性アンテナ61、受信したADS−B信号を受信処理する受信部62、受信処理後の信号からADS−Bデータを解読しその結果をADS−Bメッセージとして出力する信号処理部63、これらADS−Bメッセージを所定の形式に組み立て編集を行なって監視情報としてのADS−Bレポートを作成するメッセージ処理部64から構成されている。そして、航空機から送信されたADS−B信号は、このADS−B地上局で受信され、受信処理や解読処理等、一連の信号処理を経た後、監視用のADS−Bレポートに組み立てられ、例えば表示装置(図示せず)に表示、あるいは後段の機器に送出される。なお、このような従来のADS−B地上局の事例は、例えば特許文献1等に開示されている。
【0007】
また、この特許文献1には、近年開発が進められているマルチラテレーション機能を持たせたADS−B地上局の事例も記述されている。マルチラテレーションにおいては、航空機からの信号を3箇所以上の地上局で同時に受信し、各局における受信時刻の差から航空機の位置情報を算出する。従って、マルチラテレーション機能を持たせたADS−B地上局では、上述したADS−Bレポートのみならず、機上からのデータに頼ることなく地上側にて独立に算出した航空機の位置情報も監視情報に加えられる。
【0008】
なお、マルチラテレーションに関する調査・検討等については、例えば非特許文献3に示されている。
【非特許文献1】Radio Technical Commission for Aeronautics(RTCA)、‘Minimum Operational Performance Standards for 1090Mhz Automatic Dependent Surveillance − Broadcast’、DO−260A、April 10、2003
【非特許文献2】International Civil Aviation Organization(ICAO)、Aeronautical telecommunications ANNEX10 Volume4、July 1998
【非特許文献3】Eurocontrol、NLR−CR−2004−472 Wide Area Multilateration Report on EATMP TRS 131/04Version1.1、August 2005
【特許文献1】特開2006−162324号公報(第12ページ、図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図6のように構成された従来のADS−B地上局では、監視のための情報入力は、すべて航空機から放送型データリンクで送信されるADS−B信号に頼っている。また、受信されたADS−B信号は、すべて飛行中の航空機から発せられた信号であるとして処理される。
【0010】
しかしながら、受信された信号の中には、実際の航空機から発せられたものではないADS−B信号が含まれるおそれがある。すなわち、上記した放送型データリンクの仕様は国際的に標準化され、かつ一般に公開されているため、例えば虚偽の放送(スプーフィング)等を含む誤ったADS−B信号が発せられ、これを受信・解読処理してしまうという危険性を内在していた。
【0011】
そして、このような誤ったADS−B信号が処理されてしまうと、この誤ターゲットと実ターゲットとが混在することになり、航空管制業務に甚大な混乱・被害をきたすことが予想される。このため、地上局側で取得したADS−B監視情報の信頼性をより向上させることが望まれていた。
【0012】
一方、マルチラテレーション機能を持たせることによって、上述したように、すべてを機上からのデータに頼ることなく監視情報を取得することも可能である。しかしながら、この場合には、少なくとも3局以上のADS−B地上局で構成することが必須であり、加えて各局間の正確な時刻同期に基づくリアルタイム処理や高品質な通信回線等も必要となる。このため、局数の増加に伴って全体の設備規模が大きくなりコスト負担も増大することはもちろん、各地上局単局内においてもその構成が複雑化することが見込まれ、比較的簡易な設備構成により地上局を実現することが困難であった。
【0013】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、装置規模の増大を抑えつつ、取得したADS−B監視情報の信頼性を向上させたADS−B地上局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のADS−B地上局は、航空機からの放送型自動従属監視(Automatic Dependent Surveillance − Broadcast、以下、ADS−Bと表す)信号を地上にて受信し、この受信したADS−B信号から前記航空機に対する監視情報を取得するADS−B地上局において、前記航空機からのADS−B信号を受信しその解読結果に基づき前記航空機の識別情報及び位置情報を含むADS−Bレポートを作成するADS−Bレポート作成手段と、このADS−Bレポートに基づき、自局の監視覆域への新たな進入機に対しては時系列の位置情報を含むトラック情報を新たに作成しながら前記航空機毎に作成された当該機のトラック情報を更新するとともに、これら新たな進入機を含みトラック情報を作成済みの航空機に対して、自局から送信するモードS個別質問の送信実行時刻に達しているか否かの判定を行なうトラック情報管理手段と、このトラック情報管理手段での判定の結果、前記送信実行時刻に達している該当機がある場合には、この該当機の前記トラック情報に基づきこの該当機への所定のモードS個別質問を作成し所定の送信タイミングで送信するモードS質問送信手段と、このモードS個別質問に対する前記該当機からの応答をこの質問送信後の所定の時間幅内に受信してモードS応答メッセージを得るとともに、その受信タイミング及び前記送信タイミングに基づき前記該当機の距離情報を得るモードS応答処理手段と、前記トラック情報管理手段からの前記該当機のトラック情報と、前記モードS応答処理手段からの前記該当機のモードS応答メッセージ及びその距離情報とを比較し、両者が所定の条件で合致しない場合に前記該当機のトラック情報を棄却する比較判定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、装置規模の増大を抑えつつADS−B監視情報の信頼性を向上させたADS−B地上局を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明に係るADS−B地上局を実施するための最良の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明に係るADS−B地上局の第1の実施例の構成を示すブロック図である。本実施例においては、自局の監視覆域へ新たに進入した航空機があった場合の動作を中心に説明する。図1に例示したように、このADS−B地上局は、空中線部11、サーキュレータ12、受信部13、ADS−B信号処理部14、モードS信号処理部15、メッセージ処理部16、トラック情報管理部17、モードS質問作成部18、送信タイミング制御部19、送信部20、及び比較判定部21から構成されている。
【0018】
空中線部11は、例えば無指向性の空中線であり、ADS−B信号ならびにモードS個別質問信号及び応答信号を所定の周波数の高周波信号で航空機と授受する。サーキュレータ12は、空中線部11で受信した信号を受信部13に通過させるとともに、送信部20からの送信信号を空中線部11に通過させる。
【0019】
受信部13は、空中線部11で受信した航空機からのADS−B信号及びモードS個別応答信号に対して増幅、周波数変換、検波等の受信処理を施す。なお、ADS−B信号が拡張スキッタ方式の場合には、ADS−B信号とモードS個別応答信号とは同一の周波数及び信号形式を有しているので、これら2つの信号は、いずれもこの受信部13で共通に受信処理することができる。
【0020】
ADS−B信号処理部14は、受信処理後のADS−B信号からADS−Bデータを解読し、その結果をADS−Bメッセージとして出力する。また、モードS信号処理部15は、受信処理後のモードS個別応答信号を解読しその結果をモードS応答メッセージとして出力する。加えて、モードS個別質問信号の送信タイミング及びその応答としてのモードS個別応答信号の受信タイミングに基づき、自局と対象機との距離情報としてのレンジ情報を取得する。質問送信後の所定の時間内にモードS個別応答信号が受信されなかった場合は、これらモードS応答メッセージ及びレンジ情報の内容は、その旨を示すものとしている。
【0021】
メッセージ処理部16は、ADS−B信号処理部14からのADSメッセージを所定の形式に組み立て編集を行ない、ADSレポートを作成する。作成されるADS−Bレポートの一例を図2に示す。この図2に示した事例では、1件のADSレポートは、ADS−B信号を受信した受信時刻、航空機の識別情報としてのディスクリート・ビーコン・コード(Discrete Beacon Code、以下、DBCと表す)、モードSアドレス、位置情報(3次元)としての緯度、経度、及び高度、飛行方位、ならびに飛行速度から構成されている。
【0022】
トラック情報管理部17は、メッセージ処理部16からのADS−Bレポートに基づいて、該当機のトラック情報を作成または更新する。トラック情報は、航空機毎に作成されてトラック情報管理部17内に保持されている。トラック情報の保持されていない航空機のADS−Bレポートを受けとった場合には、この航空機を自局の監視覆域への新たな進入機として、この機に対するトラック情報を新たに作成する。
【0023】
このトラック情報には、航空機毎の位置情報が時系列に保存されており、その一例を図3に示す。この図3に示した事例では、トラック情報30は、ヘッダ部31及びトラック部32から構成されている。ヘッダ部31は、各トラック情報を識別するためのトラック番号に航空機のモードSアドレス及びDBCを対応づけ、これらに、自局からこの航空機に向けて送信するモードS個別質問の送信実行時刻である、モードS個別質問実行時刻を含めた構成としている。トラック部32には、ADS−Bレポート内の受信時刻と位置情報とが対をなして時系列に複数保存されている。
【0024】
また、トラック情報管理部17は、各トラック情報のヘッダ部31内のモードS個別質問実行時刻の判定を行ない、質問送信の実行時刻に達している航空機があれば、そのトラック情報をモードS質問作成部18、及び比較判定部21に通知するとともに、通知後にモードS個別質問実行時刻を更新する。本実施例においては、上記のトラック情報を新たに作成した進入機に対しては、その作成直後にモードS個別質問の送信実行時刻に達していると判定するものとしている。さらに、トラック情報管理部17は、後述する比較判定部21からの判定結果に基づき、保持しているトラック情報の中から該当するトラック情報を棄却する。
【0025】
モードS質問作成部18は、トラック情報管理部17から通知されたトラック情報に基づき、対象の航空機に向けた所定のモードS個別質問を作成する。本実施例においては、モードS個別質問として、対象機の識別情報としてのDBCを要求する個別質問(UF=5)を所定の質問フォーマットに従って作成する。送信タイミング制御部19は、このモードS個別質問の送信スケジューリングを行ない、所定の送信タイミングで送信部20に送出するとともに、その送信タイミングをモードS信号処理部15に通知する。送信部20は、これを高周波の送信信号に変換し、サーキュレータ12経由で空中線部11に送出する。
【0026】
比較判定部21は、トラック情報管理部17からモードS個別質問送信時刻に達している航空機のトラック情報を、またモードS信号処理部15からこの機のモードS応答メッセージ及びレンジ情報をそれぞれ受けとって、両者を比較する。そして、所定の条件で両者が合致するか否かを判定し、その結果をトラック情報管理部17に通知する。本実施例においては、両者が合致していると判定する条件を、トラック情報ヘッダ部31内のDBCとモードS応答メッセージ内のDBCとが一致し、かつトラック部32内の最新の位置情報に基づき算出した対象機までの距離情報とモードS信号処理部15からのレンジ情報との差が、例えば観測誤差程度以内であることとしている。
【0027】
なお、図1において、ADS−Bレポート作成手段には、空中線部11、サーキュレータ12、受信部13、ADS−B信号処理部14、及びメッセージ処理部16が該当する。トラック情報管理手段には、トラック情報管理部17が該当する。モードS質問送信手段には、モードS質問作成部18、送信タイミング制御部19、送信部20、サーキュレータ12、及び空中線部11が該当する。モードS応答処理手段には、空中線部11、サーキュレータ12、受信部13、及びモードS信号処理部15が該当する。比較判定手段には、比較判定部21及びトラック情報管理部17が該当する。
【0028】
次に、前出の図1乃至図3、及び図4のフローチャートを参照して、上述のように構成された本実施例のADS−B地上局の動作について説明する。なお、以下の説明においては、自局の監視覆域への新たな進入機があった場合の動作を中心に取りあげている。
【0029】
図4は、本実施例の動作を説明するためのフローチャートである。まず、航空機からADS−B信号が送信されると(ST401)、このADS−B信号は空中線部11で受信され、サーキュレータ12を経由して受信部13に送られる。受信部13は、このADS−B信号に対して増幅、周波数変換、検波等の受信処理を施す。受信処理後の信号は、ADS−B信号処理部14に送出される(ST402)。
【0030】
ADS−B信号処理部14は、受信処理後のADS−B信号を解読しその結果をADS−Bメッセージとしてメッセージ処理部16に送り、メッセージ処理部16はこれを編集し、図2に例示したADS−Bレポートを作成する。作成されたADS−Bレポートは、トラック情報管理部17に送出される(ST403)。
【0031】
トラック情報管理部17は、このADS−Bレポートを受けとると、受けとったADS−Bレポート内のモードSアドレス及びDBCを有するトラック情報が既に保持されているか否かを検定する(ST404)。その結果、保持されている場合には、このADS−Bレポートは新たな進入機からのものではないと判定し(ST404のN)、既に図3に例示した形式で保持されているトラック情報30内のトラック部32に、所定内容を追記することによって該当するトラック情報を更新し、このADS−Bレポートを後段に出力する(ST405)。
【0032】
一方、保持されていない場合には、このADS−Bレポートを自局の監視覆域へ新たに進入した航空機からのものと判定し(ST404のY)、このADS−Bレポートに基づき図3に例示した形式の新たなトラック情報30を作成する。すなわち、この新たなトラック情報は、ヘッダ部31内に新たなトラック番号を有し、モードSアドレス及びDBC、ならびにトラック部32にはADS−Bレポート内の該当する内容が書き込まれる(ST406)。
【0033】
さらに、トラック情報管理部17は、このような新たな進入機に対しては、ヘッダ部31内のモードS個別質問実行時刻に、例えば現在時刻を設定するなど、自局からこの航空機に向けたモードS個別質問の送信実行時刻に達している旨の判定が行える時刻の設定を行なうことによって自ら実行時刻に達していると判定し、モードS個別質問の実行対象機とする。そして、対象となった航空機(この場合は新たな進入機)のトラック情報がモードS質問作成部18に通知されるとともに、後の判定に備えて比較判定部21にも通知される(S407)。
【0034】
モードS質問作成部18は、トラック情報管理部17からトラック情報が通知されると、このトラック情報内に保持されているモードSアドレスを有する航空機に対してDBCを要求するモードS個別質問(UF=5)を、所定の質問フォーマットに従い作成する(ST408)。作成された個別質問は、送信タイミング制御部19に送られ、送信スケジューリングされた後、所定のタイミングで送信部20から高周波のモードS個別質問信号となって、空中線部11から放射される(ST409)。
【0035】
この後、モードS個別質問信号を受信した対象機から、モードS個別応答信号が送信される(S410)。このモードS個別応答信号は空中線部11で受信され、ST402のステップと同様に受信部13にて受信処理され、モードS信号処理部15に送出される(ST411)。モードS信号処理部15は、まず、このモードS個別応答信号が、質問送信リトライ時間を含む所定の時間内の応答であることを判定後、次の信号処理を行なう(ST412のY)。
【0036】
すなわち、モードS個別応答信号は、所定のフォーマットにコード化されており、モードS信号処理部15は、受信部13から受信処理後のモードS個別応答信号をデコードし、モードS応答メッセージを得る。本実施例においては、対象機に対してDBCを要求するモードS個別質問(UF=5)行ない、その応答信号(DF=5)を処理しているので、処理後のモードS応答メッセージ中には、対象機のDBCが含まれる。加えて、送信タイミング制御部19からのモードS個別質問信号の送信タイミングとこのモードS個別応答信号の受信タイミングとの時間差に基づいて、自局と対象機とのレンジ情報を取得する。そして、上記したDBCを含むモードS応答メッセージ及びレンジ情報は、比較判定部21に送出される(ST413)。
【0037】
比較判定部21は、モードS信号処理部15からのこれらモードS応答メッセージ及びレンジ情報と、ST407のステップにおいてトラック情報管理部17から通知されたトラック情報とを比較し、両者が合致するか否かを判定する。すなわち、この判定により、新たなトラック情報を作成する源となったADS−B信号を発した航空機と、モードS個別質問に応答した航空機とが同一の実ターゲットであるか否かが判定される。
【0038】
本実施例においては、この判定にあたって、まず、モードS応答メッセージ内のDBCとトラック情報のヘッダ部31内のDBCとを比較し、一致するか否かを判定する。次に、トラック情報のトラック部32内に保存された最新の航空機の位置情報に基づいて、自局からこの航空機までの距離を算出し、その算出結果とモードS信号処理部15からのレンジ情報とが、例えば処理時間と観測誤差に起因する程度の所定範囲内の差で一致するか否かを判定する。(ST414)。
【0039】
これら2つの判定の結果、いずれもが真である場合に、上記した両者が合致したものとする。すなわち、ADS−B信号を発した航空機とモードS個別質問に応答した航空機とが同一の実ターゲットであると判定される。そして、その判定結果は、比較判定部21からトラック情報管理部17に通知される(ST414のY)。
【0040】
トラック情報管理部17は、この比較判定部21からの通知を受けとると、ST406のステップで新たに作成したトラック情報が、実ターゲットと判定された新たな進入機のものであるとして、このトラック情報を引き続き内部に保持し更新に備えるとともに、当該ADS−Bレポートを後段の機器等に出力する(ST415)。そして、これ以降、あらかじめ設定された、例えば数分間隔程度の所定の時間間隔毎にこの航空機に対してモードS個別質問が発せられるように、トラック情報のヘッダ部31内にあるモードS個別質問実行時刻を更新する(ST416)。
【0041】
一方、ST414のステップでの2つの判定の結果、いずれか一方が真でない場合は実ターゲットが存在するとは判定されない(ST414のN)。加えて、自局からのモードS個別質問信号に対して、無応答の場合も含めて所定の時間内に応答がない場合も(ST412のN)、実ターゲットが存在するとは判定されない。従って、トラック情報管理部17は、これらの判定結果を比較判定部21から受けとった場合には、ST406のステップで新たに作成したトラック情報及び当該ADS−Bレポートを棄却する(ST417)。
【0042】
このようにして取得されたトラック情報及びADS−Bレポートは、監視情報として、例えば自局内の表示装置(図示せず)に表示、あるいは後段の機器に送出される。そして、上述した一連の動作は、動作の終了が指示されるまで継続される(ST418)。
【0043】
以上説明したように、本実施例においては、受信したADS−B信号に基づきトラック情報を新たに作成した航空機に対して、このトラック情報の作成直後にDBCを要求するモードS個別質問を行ない、その応答信号を受信解読後、この新たに作成したトラック情報内とモードS個別応答内のそれぞれのDBC、及び距離情報が合致するか否かを判定している。そして、これらが合致した場合には、ADS−B信号を発した航空機とモードS個別質問に応答した航空機とが同一の航空機であるとしてこれを実ターゲットとして扱い、ADS−Bレポートを後段の機器に出力するとともにこの新たに作成したトラック情報を継続して保持している。一方、これらが合致しない場合には誤ターゲットとし、この新たに作成したトラック情報及びADS−Bレポートを棄却している。
【0044】
従って、自局の監視覆域への進入機のADS−B監視情報を取得するにあたり、誤ターゲットからと判断されたものを棄却し、実ターゲットからと判断されたADS−B監視情報を継続して保持しているので、誤ターゲットの混在を減らすことができ、取得したADS−B監視情報の信頼性及び安全性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施例においてはモードSを用いた質問及び応答処理を行なっているので、そのための送受信系及び空中線系を必要とするが、モードS個別質問とその応答のみの利用である。このため、例えばモードSレーダのような、大型の指向性アンテナやサイドローブ抑圧送信系等を必要としない。さらに、拡張スキッタ方式を用いることによって、ADS−B信号の受信処理とモードS応答信号の受信処理とを共通化することができるので、装置の規模を増大させることなく、比較的簡易な装置構成で実現することができる。
【実施例2】
【0046】
図5は、本発明のADS−B地上局の第2の実施例の動作を説明するためのフローチャートである。この第2の実施例について、図1乃至図4に示す第1の実施例の各部と同一の部分は同一の符号で示し、その説明は省略する。この第2の実施例が第1の実施例と異なる点は、トラック情報管理部17にてトラック情報を管理する中で、モードS個別質問を行なう対象の航空機を、第1の実施例では、新たにトラック情報が作成された航空機とし、またその質問送信タイミングをトラック情報が新たに作成された直後としたのに対し、第2の実施例では、既にトラック情報が作成されている航空機を対象として所定の時間間隔でモードS個別質問を送信するようにした点である。以下、図1乃至図5を参照してその相違点のみを説明する。
【0047】
この第2の実施例のADS−B地上局も、第1の実施例と同様に、図1に例示したブロック図により構成される。
【0048】
次に、図5のフローチャートを参照して、その動作を説明する。まず、航空機からのADS−B信号により対応するトラック情報が時系列に更新されるとともに、ADS−Bレポートが後段の機器等に出力される。この動作は、例えば、第1の実施例の図4におけるST401〜ST405のステップの一連の動作と同様のものである(ST51)。トラック情報管理部17は、内部に保持している作成済みの各トラック情報内のモードS個別質問実行時刻を参照し(ST52)、質問送信の実行時刻に達している航空機があるか否かを判定する(ST53)。
【0049】
判定の結果、該当する航空機がない場合には、ST51のステップからの動作が繰り返される(ST53のN)。一方、実行時刻に達している航空機がある場合には、トラック情報管理部17は、対象の航空機のトラック情報をモードS質問作成部18、及び比較判定部21に通知する(ST53のY)。
【0050】
この後は、図4におけるST408〜ST414のステップと同様の一連の動作を行なう。すなわち、DBCを要求するモードS個別質問(UF=5)を作成して対象機へ送信し、所定の応答時間幅の中で対象機からモードS個別応答信号(DF=5)を受信してそのモードSメッセージ及びレンジ情報を得る(ST408〜ST413)。
【0051】
これに続けて、比較判定部21は、これらモードSメッセージ及びレンジ情報と、ST53のYのステップでトラック情報管理部17から通知されたトラック情報とを比較し、両者が合致するか否かを判定する。本実施例においては、第1の実施例と同様にDBCの一致の判定を行なうとともに、距離情報については、トラック情報から算出した航空機までの最新の距離情報とST413のステップで得たレンジ情報とが、これらを算出・取得した時刻の差及び観測誤差に起因する程度の所定範囲内の差で一致するかを判定する(ST54)。
【0052】
これら2つの判定がいずれも真である場合には、該当するトラック情報とモードS応答及びレンジ情報とが合致したものとする。すなわち、このステップで比較の対象としたトラック情報に対応する実ターゲットが存在し移動中であると判定され、その判定結果がトラック情報管理部17に通知される(ST54のY)。
【0053】
トラック情報管理部17は、この比較判定部21からの通知を受けとると、該当するトラック情報が実ターゲットに対応しているものとして引き続き保持するとともに、以降もこの航空機に対して所定の時間間隔でモードS個別質問が発せられるように、トラック情報のヘッダ部31内にあるモードS個別質問実行時刻を更新し、当該ADS−Bレポートを後段の機器等に出力する(ST55)。
【0054】
一方、ST54のステップでの2つの判定の結果、いずれか一方が真でない場合、及びST411のステップでモードS個別質問信号に対して所定の時間内に応答がない場合は、該当のトラック情報に対応する実ターゲットが存在するとは判定されない(ST54のN及びST411のN)。従って、トラック情報管理部17は、比較判定部21からこのような判定結果を受けとった場合には、該当するトラック情報の保持をやめてADS−Bレポートとともに棄却し、この旨を後段の機器等に通知する(ST56)。
【0055】
以上説明したように、本実施例においては、受信したADS−B信号に基づきトラック情報を作成済みの航空機に対して所定の時間間隔でDBCを要求するモードS個別質問を行ない、その応答信号を受信解読後、トラック情報内とモードS個別応答内のそれぞれのDBC、及び距離情報が合致するか否かを判定している。そして、これらが合致した場合には、対象の航空機が移動中の実ターゲットとして扱い、トラック情報を継続して保持するとともに、モードS個別質問の実行時刻を更新している。一方、これらが合致しない場合には誤ターゲットとし、該当するトラック情報を棄却している。
【0056】
従って、自局の監視覆域の航空機のADS−B監視情報を取得するにあたり、誤ターゲットと判断されたものを棄却し、実ターゲットかつ移動中と判断されたADS−B監視情報を継続して保持しているので、誤ターゲットの混在を減らすことができ、ADS−B監視情報の信頼性及び安全性を向上させることができる。
【0057】
また、第1の実施例と同様の装置構成により実現することができ、装置の規模を増大させることなく、比較的簡易な装置構成とすることができる。
【0058】
なお、本発明は、上述した実施例のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素及びそれらの組み合わせを種々に変形して具体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るADS−B地上局の第1の実施例の構成を示すブロック図。
【図2】ADSレポートの一例を示す図。
【図3】トラック情報の一例を示す図。
【図4】本発明の第1の実施例の動作を説明するためのフローチャート。
【図5】本発明の第2の実施例の動作を説明するためのフローチャート。
【図6】従来のADS−B地上局の構成の一例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0060】
11 空中線部
12 サーキュレータ
13 受信部
14 ADS−B信号処理部
15 モードS信号処理部
16 メッセージ処理部
17 トラック情報管理部
18 モードS質問作成部
19 送信タイミング制御部
20 送信部
21 比較判定部
30 トラック情報
31 ヘッダ部
32 トラック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機からの放送型自動従属監視(Automatic Dependent Surveillance − Broadcast、以下、ADS−Bと表す)信号を地上にて受信し、この受信したADS−B信号から前記航空機に対する監視情報を取得するADS−B地上局において、
前記航空機からのADS−B信号を受信しその解読結果に基づき前記航空機の識別情報及び位置情報を含むADS−Bレポートを作成するADS−Bレポート作成手段と、
このADS−Bレポートに基づき、自局の監視覆域への新たな進入機に対しては時系列の位置情報を含むトラック情報を新たに作成しながら前記航空機毎に作成された当該機のトラック情報を更新するとともに、これら新たな進入機を含みトラック情報を作成済みの航空機に対して、自局から送信するモードS個別質問の送信実行時刻に達しているか否かの判定を行なうトラック情報管理手段と、
このトラック情報管理手段での判定の結果、前記送信実行時刻に達している該当機がある場合には、この該当機の前記トラック情報に基づきこの該当機への所定のモードS個別質問を作成し所定の送信タイミングで送信するモードS質問送信手段と、
このモードS個別質問に対する前記該当機からの応答をこの質問送信後の所定の時間幅内に受信してモードS応答メッセージを得るとともに、その受信タイミング及び前記送信タイミングに基づき前記該当機の距離情報を得るモードS応答処理手段と、
前記トラック情報管理手段からの前記該当機のトラック情報と、前記モードS応答処理手段からの前記該当機のモードS応答メッセージ及びその距離情報とを比較し、両者が所定の条件で合致しない場合に前記該当機のトラック情報を棄却する比較判定手段と
を備えたことを特徴とするADS−B地上局。
【請求項2】
前記トラック情報管理手段は、前記トラック情報を新たに作成した進入機に対しては、その作成直後に前記モードS個別質問の送信実行時刻に達していると判定することを特徴とする請求項1に記載のADS−B地上局。
【請求項3】
前記トラック情報管理手段は、新たな進入機を除き前記トラック情報を作成済みの航空機に対しては、あらかじめ設定された所定の時間間隔毎に前記モードS個別質問の送信実行時刻に達していると判定することを特徴とする請求項1に記載のADS−B地上局。
【請求項4】
前記モードS質問送信手段において作成する所定のモードS個別質問は、前記該当機の識別情報を要求する質問とし、
前記比較判定手段における所定の条件は、前記該当機のトラック情報内の識別情報と、前記該当機からのモードS応答メッセージ内の識別情報とが一致し、かつ
前記該当機のトラック情報内の最新の位置情報に基づき算出した自局から前記該当機までの距離情報と前記モードS応答処理手段からの距離情報との差が所定の範囲以内としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のADS−B地上局。
【請求項5】
さらに、前記トラック情報を更新及び棄却した際に、前記トラック情報管理手段は、その結果を出力することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のADS−B地上局。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−146450(P2008−146450A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334397(P2006−334397)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】