AlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LED
【課題】高い特性を維持するとともに、コストを低減できるAlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDを提供する
【解決手段】本発明のAlGaAs基板10は、主表面11aと、主表面11aと反対側の裏面11bとを有するAlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)と、裏面11bに形成されたGaAs基板13とを備える。AlxGa(1-x)As層において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低い。GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。
【解決手段】本発明のAlGaAs基板10は、主表面11aと、主表面11aと反対側の裏面11bとを有するAlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)と、裏面11bに形成されたGaAs基板13とを備える。AlxGa(1-x)As層において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低い。GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDに関する。
【背景技術】
【0002】
AlaGa(1-a)As(0≦a≦1)(以下、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)とも言う。)を利用したLED(発光ダイオード:Light Emitting Diode)は、赤外の光源として広く用いられている。赤外の光源としての赤外LEDは、光通信、空間伝送、投光機などに使用されており、伝送するデ−タの大容量化、伝送距離、照明距離の長距離化に伴い、出力の向上が要求されている。
【0003】
このようなAlGaAsを利用した赤外LEDは、たとえば特開2002−26380号公報(特許文献1)、特開平8−293622号公報(特許文献2)、特開平5−175549号公報(特許文献3)などに開示されている。
【0004】
特許文献1には、GaAs(ガリウム砒素)基板上に、第1のGaAlAs層、第2のGaAlAs層、n型GaAlAsクラッド層、p型GaAlAs活性層およびp型GaAlAsクラッド層を順次成長させた後に、GaAs基板を選択的に除去する赤外発光素子用のエピタキシャルウエハおよび赤外発光素子が開示されている。
【0005】
特許文献2には、GaAs基板が除去されており、p型のAlbGa(1-b)As(0.15≦b≦0.35)クラッド層、p型AlbGa(1-b)As(0≦b≦0.1)活性層およびn型AlaGa(1-a)As(0.15≦b≦0.35)クラッド層の少なくとも3層からなる赤外LEDが開示されている。
【0006】
特許文献3には、GaAs基板上にn型AlGaAsエピタキシャル層およびp型AlGaAsエピタキシャル層を連続的に成長させた後、GaAs基板を除去したLEDの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−26380号公報
【特許文献2】特開平8−293622号公報
【特許文献3】特開平5−175549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GaAs基板は波長が870nm以下の光を吸収することが知られている。このため、特性を向上した赤外LEDを作製する場合には、上記特許文献1〜3に開示のように、GaAs基板を除去することが技術常識であった。しかし、GaAs基板を除去するので、コストが増加するという問題があった。ここで、上記波長での光吸収の影響は、急峻なものではない点に注意が必要である。これは、上記波長以長であっても、GaAs基板内部では不純物による吸収等がおき、吸収係数が上記波長の前後でなだらかに変化をするためである。また、LEDの発光ピーク自体が上記波長以長にあっても、発光スペクトル成分のうち、上記波長以下の部分が、光吸収としてロスが発生するためである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高い特性を維持するとともに、コストを低減できるAlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、AlGaAs層を備えた赤外LEDを作製する際にGaAs基板を除去するという技術常識に反して、GaAs基板を除去せずに高い特性を維持できる技術について鋭意研究した結果、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明のAlGaAs基板は、主表面と、主表面と反対側の裏面とを有するAlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)と、裏面に形成されたGaAs基板とを備える。AlxGa(1-x)As層において、主表面のAlの組成比xは、裏面のAlの組成比xよりも低い。GaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。
【0012】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層の厚みが全体の厚みに対して0%を超えて30%未満である。
【0013】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層は、1層からなる。
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最小値が0以上である。
【0014】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最大値が0.5以下である。
【0015】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、2点の厚みの差(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下である。
【0016】
本発明の赤外LED用のエピタキシャルウエハは、上記いずれかに記載のAlGaAs基板と、AlxGa(1-x)As層の主表面上に形成され、かつ活性層を含むエピタキシャル層とを備えている。
【0017】
上記赤外LED用のエピタキシャルウエハにおいて好ましくは、エピタキシャル層上に形成された透明導電膜をさらに備えている。
【0018】
本発明の赤外LEDは、上記いずれかに記載の赤外LED用のエピタキシャルウエハと、エピタキシャルウエハに形成された第1および第2の電極とを備えている。
【0019】
上記赤外LEDにおいて好ましくは、AlxGa(1-x)As層の厚みがAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して4%以上である。
【0020】
上記赤外LEDにおいて好ましくは、第1の電極は、エピタキシャル層上に形成され、第2の電極は、GaAs基板上に形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明のAlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDによれば、高い特性を維持するとともに、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs基板を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態1におけるGaAs基板を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハを概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハの製造方法を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態3における赤外LEDを概略的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3における赤外LEDの製造方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態4における赤外LEDを概略的に示す断面図である。
【図14】本発明例1におけるAlGaAs層のAlの組成比を示す図である。
【図15】本発明例1におけるAlGaAs層の△Al/△tを示す図である。
【図16】本発明例5におけるAlGaAs層のAlの組成比を示す図である。
【図17】本発明例5におけるAlGaAs層の△Al/△tを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0024】
(実施の形態1)
まず、図1を参照して、本実施の形態におけるAlGaAs基板10について説明する。図1に示すように、AlGaAs基板10は、GaAs基板13と、GaAs基板13上に形成されたAlGaAs層(AlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)11とを備えている。
【0025】
GaAs基板13は、主表面13aと、この主表面13aと反対側の裏面13bとを有している。GaAs基板13の主表面13aは、AlGaAs層11の裏面11bと接している。
【0026】
GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。GaAs基板13は、5×1016cm-3以上1×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有することが好ましい。
【0027】
GaAs基板13の導電型はp型であってもn型であっても半絶縁型であってもよいが、AlGaAs層11と同じ導電型であることが好ましい。
【0028】
ここで、キャリア濃度とは、導電性不純物(ドーパント)の濃度であり、たとえばSIMS(2次イオン質量分析)法により測定される。GaAs基板13の導電性不純物は特に限定されないが、たとえば亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、炭素(C)などのp型ドーパント、セレン(Se)、硫黄(S)、テルル(Te)、シリコン(Si)などのn型ドーパントなどを用いることができる。
【0029】
GaAs基板13は、オフ角を有していても、有していなくてもよく、たとえば{100}面、または、{100}から0°を超え15.8°以下傾斜した主表面を有している。GaAs基板13は、{100}面、または、{100}から0°を超え2°以下傾斜した主表面を有していることが好ましい。GaAs基板13の表面は鏡面であっても粗面であってもよい。なお、{}は、集合面を示す。
【0030】
GaAs基板13はたとえば平面形状が円形であり、その直径は1インチ以上6インチ以下であることが好ましい。GaAs基板13は、たとえば200μm以上500μm以下の厚みH13を有する。より好ましくは、GaAs基板13は、200μm以上350μm以下の厚みH13を有する。
【0031】
AlGaAs層11は主表面11aと、この主表面11aと反対側の裏面11bとを有している。主表面11aとは、GaAs基板13と接触している面と反対側の面である。裏面11bとは、GaAs基板13と接触している面である。
【0032】
AlGaAs層11は、AlxGa(1-x)As(0≦x≦1)で表される。このAlGaAs層11において、裏面11bのAlの組成比xは、主表面11aのAlの組成比xよりも高い。なお、組成比xは、Alのモル比である。組成比(1−x)は、Gaのモル比である。
【0033】
AlGaAs層11において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低い。なお、組成比xは、Alのモル比である。組成比(1−x)は、Gaのモル比である。
【0034】
ここで、AlGaAs層11のモル比について図2〜図5を参照して説明する。図2〜図5中、縦軸は、AlGaAs層11の裏面11bから主表面11aにかけて厚み方向の位置を示し、横軸は、各位置でのAlの組成比xを示す。
【0035】
図2に示すように、AlGaAs層11は、裏面11bから主表面11aにかけて、Alの組成比xが単調減少している。単調減少とは、AlGaAs層11の裏面11bから主表面11aに向けて(成長方向に向けて)、組成比xが常に同じまたは減少しており、かつ裏面11bの組成比xよりも主表面11aの組成比xが低いことを意味する。つまり、単調減少とは、この成長方向に向けて組成比xが増加している部分が含まれていない。
【0036】
図3〜図5に示すように、AlGaAs層11は、複数の層(図3〜5では2層)を含んでいてもよい。図3に示すAlGaAs層11は、それぞれの層において裏面11b側から主表面11a側にかけて、Alの組成比xが単調減少している。また、図4に示すAlGaAs層11のそれぞれの層のAlの組成比xは均一で、かつ裏面11b側の層は主表面11a側のAlの組成比xよりも高い。また、図5に示すAlGaAs層11の裏面11b側の層のAlの組成比xは均一で、かつ主表面11a側の層のAlの組成比xは単調減少し、かつ裏面11b側の層は主表面11a側のAlの組成比xよりも高い。つまり、図4および図5に示すAlGaAs層11は、全体としてAlの組成比xが単調減少している。
【0037】
なお、AlGaAs層11のAlの組成比xは、主表面11aのAlの組成比xが裏面11bのAlの組成比xよりも低ければ、上述した1層または2層を含む場合に限定されず、3層以上の層を含んでいてもよい。コスト低減の観点から、AlGaAs層11は1層であることが好ましい。
【0038】
ここで、AlGaAs層11が複数の層を有している場合の各層の界面は、Alの組成比および不純物濃度の少なくとも一方が不連続に変わる界面を意味する。AlGaAs層11が徐冷法や温度差法などのLPE法で形成される場合、各々の方法で、温度条件や成長槽が変わる場合に、Alの組成比および不純物濃度の少なくとも一方が不連続に変わる。この界面で区切られる層を1層と定義する。ただし、LPE法では、界面が急峻ではないため、たとえば、Al組成比xが0.1以上、膜厚方向に変わる場合、1層が形成されたと定義できる。
【0039】
AlGaAs層11の不純物は、特に限定されないが、たとえばZn、Mg、Cなどのp型ドーパント、Se、S、Te、Siなどのn型ドーパントなどを用いることができる。AlGaAs層11のドーパントは、シリコン、亜鉛、セレン、テルルからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質であることが好ましい。
【0040】
AlGaAs層11のAlの組成比xの最小値が0以上であることが好ましい。AlGaAs層11の裏面11bの組成比xが0以上であることがより好ましい。
【0041】
AlGaAs層11のAlの組成比xの最大値が0.5以下であることが好ましい。AlGaAs層11の主表面11aの組成比xが0.5以下であることが好ましい。
【0042】
また、AlGaAs層11の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、2点の厚みの差(2点の厚み方向の距離)(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下であることが好ましく、1×10-3/μm以上6×10-3/μm以下であることがより好ましい。
【0043】
△Al/△tは、AlGaAs層11の主表面11aから裏面11bにかけてたとえば1μmごとにEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)およびSIMSで△Alを測定することにより得られる。△Al/△tは、AlGaAs層11の任意の位置で測定され得る。
【0044】
AlGaAs層11の厚みH11が全体の厚みH10に対して(H11/H10が)0%を超えて30%未満であることが好ましく、0%を超えて9%以下であることがより好ましい。
【0045】
ここで、全体の厚みH10は、GaAs基板13上にAlGaAs層11を成長した後のGaAs基板13とAlGaAs層11との合計の厚みを意味する。ただし、AlGaAs層11の前後の工程で付加的に成長したエピ層、あるいは、後工程での除去(エッチング、研磨等)等の途中工程、最終工程での形態を含む。
【0046】
また、AlGaAs層11が複数の層を有している場合のAlGaAs層11の厚みH11は、複数の層を合計したAlGaAs層の厚みを意味する。また、反り防止の観点から、AlGaAs基板10がGaAs基板13の裏面11bに形成されたAlGaAs層をさらに含む場合には、AlGaAs層11の厚みH11は、GaAs基板13の主表面13a側(エピタキシャル層をその上に形成する側)のAlGaAs層の厚みを意味し、全体の厚みH10は、GaAs基板13と、GaAs基板13の主表面13a側のAlGaAs層11と、GaAs基板13の裏面11b側のAlGaAs層との合計の厚みを意味する。
【0047】
AlGaAs層11の厚みH11は100μm未満であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。この場合、コストを低減することができる。
【0048】
なお、上記AlGaAs層11の厚みH11およびGaAs基板13の厚みH13とは、厚み方向において平均的な厚みである。
【0049】
続いて、図1〜図8を参照して、本実施の形態におけるAlGaAs基板10の製造方法について説明する。
【0050】
図6および図7に示すように、まず、GaAs基板13を準備する(ステップS1)。準備するGaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。このようなGaAs基板13は、たとえばキャリア濃度を制御したVB(Vertical Boat:垂直ボート)法、VGF法(Vertical Gradient Freeze:垂直温度傾斜凝固)法などの垂直ボート法、HB法(Horizontal bridgeman)などの水平ブリッジマン法により、実現できる。
【0051】
図6および図8に示すように、次に、GaAs基板13上に、LPE(液相成長法:Liquid Phase Epitaxy)法により主表面11aを有するAlGaAs層11を成長させる(ステップS2)。このAlGaAs層11を成長させるステップS2では、GaAs基板13との界面(裏面11b)のAlの組成比xが、主表面11aのAlの組成比xよりも高いAlGaAs層11を成長させる。
【0052】
LPE法は特に限定されず、徐冷法、温度差法などを用いることができる。なお、LPE法とは、液相からAlxGa(1-x)As(0≦x≦1)結晶を成長させる方法をいう。徐冷法とは、原料の溶液の温度を徐々に下げてAlxGa(1-x)As結晶を成長させる方法である。温度差法とは、原料の溶液に温度勾配をつくり、AlxGa(1-x)As結晶を成長させる方法をいう。AlGaAs層11をLPE法で形成することにより、安価に厚みの大きいAlGaAs層11を形成することができる。このため、製造コストを低減することができる。
【0053】
AlGaAs層11においてAlの組成比xが一定の層を成長させる場合には温度差法および徐冷法を用い、Alの組成比xが上方(成長方向)に向けて減少している層を成長させる場合には徐冷法を用いることが好ましい。量産性および低コストに優れているため、徐冷法を用いることが特に好ましい。またそれらを組み合わせてもよい。
【0054】
また、ステップS2では、たとえばZn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)、C(炭素)などのp型ドーパントSe(セレン)、S(硫黄)、Te(テルル)、Si(シリコン)などのn型ドーパントを含むようにAlGaAs層11を成長させてもよい。
【0055】
このようにLPE法でAlGaAs層11を成長させると、図8に示すように、AlGaAs層11の主表面11aには凹凸が生じる。
【0056】
次に、AlGaAs層11の主表面11aを洗浄する(ステップS3)。このステップS3では、アルカリ系溶液を用いて洗浄することが好ましい。なお、リン酸や硫酸などの酸化溶液などを用いてもよい。アルカリ系溶液は、アンモニアと過酸化水素とを含むことが好ましい。アンモニアと過酸化水素とを含むアルカリ系溶液で洗浄すると、主表面11aがエッチングされるので、空気に触れることにより主表面11aに付着した不純物を除去できる。なお、この主表面11aを洗浄するステップS3は省略されてもよい。
【0057】
次に、アルコールでGaAs基板13およびAlGaAs層11を乾燥する。なお、この乾燥するステップは省略されてもよい。
【0058】
次に、AlGaAs層11の主表面11aを研磨する(ステップS4)。研磨する方法は、特に限定されず、機械的研磨、化学機械研磨法、電界研磨法、化学研磨法などを用いることができ、研磨の容易性から機械的研磨または化学的研磨が好ましい。
【0059】
次に、AlGaAs層11の主表面11aを洗浄する(ステップS5)。この主表面11aを洗浄するステップS5は、研磨するステップS4前の主表面11aを洗浄するステップS3と同様であるので、その説明を繰り返さない。なお、この洗浄するステップS5は省略されてもよい。
【0060】
上記ステップS1〜S5を実施することにより、図1に示す本実施の形態におけるAlGaAs基板10を製造することができる。
【0061】
続いて、本実施の形態におけるAlGaAs基板10の効果を、第1〜第3の比較例と対比して説明する。
【0062】
まず、第1の比較例としてのGaAs基板において、その上に活性層を含むエピタキシャル層を形成することで、赤外LEDが作製される。この場合、GaAs基板には光吸収があるので、出力が低くなる。
【0063】
第2の比較例としてのGaAs基板と、このGaAs基板上に形成されたAlGaAs層とを備えたAlGaAs基板において、AlGaAs層上にエピタキシャル層を形成する前または後にGaAs基板を除去することで、赤外LEDが作製される。この場合、第1の従来例に比べて出力を向上することができる。しかし、Al組成比が高いAlGaAs層の裏面側に電極を形成すると、動作電圧(VF)が高くなる。この第2の比較例は、上記特許文献1〜3に開示のGaAs基板を除去した構造に類似する。
【0064】
光吸収があるGaAs基板がある場合、AlGaAs層の厚みを大きくすること、すなわち、AlGaAs層の厚み比率を高くすると、光吸収があるGaAs基板の比率が下がり、GaAs基板の除去と同等の効果を奏すると推定できる。このため、第3の比較例として、GaAs基板と、このGaAs基板上に形成された厚みの大きいAlGaAs層とを備えたAlGaAs基板において、AlGaAs層上にエピタキシャル層を形成することで、赤外LEDが作製される。この場合、AlGaAs層を厚く形成する必要があるので、コストが増加する。
【0065】
一方、本実施の形態におけるAlGaAs基板10は、主表面11aと、主表面11aと反対側の裏面11bとを有するAlGaAs層11と、裏面11bに形成されたGaAs基板13とを備え、AlGaAs層11において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低く、GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。本発明者は、上記キャリア濃度のGaAs基板13および上記Al組成比xのAlGaAs層を有するAlGaAs基板10を用いることにより、このAlGaAs基板10上にエピタキシャル層を形成して赤外LEDを作製すると、GaAs基板上に直接エピタキシャル層を形成する第1の比較例と比較して、3倍以上と、飛躍的に高い出力が得られることを見い出した。特に、本実施の形態では、AlGaAs層11が非常に薄い場合でも、AlGaAs層11の層数が少ない場合でも、GaAs基板13を除去する第2の比較例およびAlGaAs層の厚みが大きい第3の比較例と同等の効果を奏し、低コスト化と高い特性とが実現できることを新たに見出した。
【0066】
さらに、本実施の形態では、電極の形成が容易なGaAs基板13に接するように電極の形成ができるため、直列抵抗を低く抑えることができる。このように本実施の形態では良好な接触抵抗が得られるため、本実施の形態のAlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDの動作電圧を低くすることができる。動作電圧の点からも、本実施の形態では、高い特性を実現できる。
【0067】
以上より、本実施の形態におけるAlGaAs基板10によれば、高出力、低動作電圧などの高特性を維持するとともに、コストを低減することができる。
【0068】
さらに、本実施の形態のAlGaAs基板10は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有するGaAs基板13を備えている。2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度のような高濃度のキャリア濃度をGaAs基板13が有していても、AlGaAs層11により、高い出力を維持できる。5×1016cm-3以上のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上のp型キャリア濃度を有していても、GaAs基板13に電極を形成することで良好な動作電圧を維持できる。
【0069】
またAlGaAs層11において、主表面11aのAl組成比xは、裏面11bのAl組成比xよりも低い。このため、酸化されやすい性質を有するAlが主表面11aに存在することを抑制でき、かつ、主表面11a以外の部分ではAl組成比xを高くできるため、AlGaAs基板10全体での透過率を高く保つことができる。これにより、AlGaAs基板10の表面(本実施の形態ではAlGaAs層11の主表面11a)に絶縁性の酸化層が形成されることを抑制できる。このため、このAlGaAs基板10上にエピタキシャル層を形成すると、このエピタキシャル層に欠陥が導入されることを抑制することができる。このエピタキシャル層を用いて赤外LEDを作製すると、動作電圧が高くなることを抑制できる。一方で、AlGaAs基板10の透過性が高いため、光出力を高くすることができる。
【0070】
さらに、本実施の形態では液相法でAlGaAs層11を形成している。液相法では、エピ成長直前に液体ガリウム中で、GaAs基板表面を部分的に溶解することができる。この部分溶解の工程(メルトバック工程)の後、AlGaAs層を成長することができるため、AlGaAs層とGaAs基板との界面の酸化層を低減できる。これにより、動作電圧(VF)が高くなることを抑制できる。
【0071】
また、AlGaAs層11は厚みが小さくても高い出力が得られる。この点について、AlGaAs基板10はGaAs基板13を含んでいるので、AlGaAs層11だけでなく、GaAs基板13によりAlGaAs基板10全体の厚みを厚く設計できるので、チップ作製工程での割れ発生を抑制することができる。
【0072】
本実施の形態のAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11の厚みH11がAlGaAs基板10の全体の厚みH10(=H11+H13)に対して0%を超えて30%未満である。AlGaAs層11の厚みH11が全体の厚みH10に対して30%未満の場合であっても、このAlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDの高い特性を維持できることを本発明者は鋭意研究の結果見い出した。このため、AlGaAs層11を上記範囲まで薄くすることによって、コストをより低減することができる。それに加えて、一般にチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の関係の制約がある。そのため、AlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、AlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDは、チップでの特性とともに、LEDランプ作製時、および、LEDランプでの優れた特性をあわせて持たせることができる。つまり、作成した赤外LEDから、LEDランプを作成する場合には、厚み方向の寸法が縦方向、横方向の寸法に対し薄すぎる場合、われ、かけ等の問題がおきる。また、厚すぎる場合には、ハンドリングの問題がおきる。さらに、LEDランプ作製時にチップの周囲を樹脂で覆い封止するが、厚み方向の寸法が厚すぎる場合には、縦方向、横方向の応力をうけ、信頼性の問題が発生する。これらによりチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の寸法に制約があり、このなかでのAlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、高信頼性のLEDランプが実現できる。
【0073】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11は1層からなる。AlGaAs層11が1層であっても、このAlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDの高い特性を維持できることを本発明者は鋭意研究の結果見い出した。このため、AlGaAs基板10を容易に製造できるので、コストをより低減することができる。
【0074】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11のAlの組成比xの最小値が0以上である。これにより、動作電圧をより安定化できるので、赤外LEDを作製すると特性をより向上できる。
【0075】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11のAlの組成比xの最大値が0.5以下である。これにより、光出力をより向上できるので、赤外LEDを作製すると特性をより向上できる。
【0076】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、2点の厚みの差(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下である。
【0077】
これにより、AlGaAs層11において、主表面11a側で欠陥が導入されることを抑制するようにAlの組成比xを低くし、裏面11b側で透過特性を向上するようにAlの組成比xを高くすることができる。したがって、赤外LEDを作製した場合、特性をより向上することができる。
【0078】
(実施の形態2)
図9を参照して、本実施の形態におけるエピタキシャルウエハ20を説明する。図9に示すように、エピタキシャルウエハ20は、実施の形態1のAlGaAs基板10と、AlGaAs層11の主表面11a上に形成されたエピタキシャル層21と、エピタキシャル層21上に形成された透明導電膜26とを備えている。
【0079】
エピタキシャル層21は、活性層を含む。活性層は、AlGaAs層11よりもバンドギャップが小さいことが望ましい。ただし、Al組成比が勾配を有するため、一部で大小関係が逆転する場合もある。
【0080】
活性層は、井戸層と、井戸層よりもバンドギャップの大きなバリア層とが交互に積層された多重量子井戸構造(MQW構造)を有していることが好ましい。井戸層の材料は、バリア層よりもバンドギャップが小さければ特に限定されないが、たとえばGaAs、AlGaAs、InGaAs(インジウムガリウム砒素)、AlInGaAs(アルミニウムインジウムガリウム砒素)、InGaAsP(インジウムガリウム砒素リン)などを用いることができる。これらの材料は、AlGaAs層11との格子整合度が適合する赤外発光の材料である。ただし、格子整合がずれている場合でも、完全に、あるいは、一部で歪が緩和していなければよい。バリア層の材料は、井戸層よりもバンドギャップが大きければ特に限定されないが、たとえばAlGaAs、GaAsP(ガリウム砒素リン)、AlGaAsP(アルミニウムガリウム砒素リン)、InGaP(インジウムガリウムリン)、AlInGaP(アルミニウムインジウムガリウムリン)、InGaAsPなどを用いることできる。これらの材料は、AlGaAs層11との格子整合度が適合する材料である。また、井戸層と同じく、格子整合がずれている場合でも、完全に、あるいは、一部で歪が緩和していなければよい。
【0081】
なお、活性層は、多重量子井戸構造に特に限定されず、1層よりなっていてもよく、ダブルへテロ構造を有していてもよい。
【0082】
また、本実施の形態ではエピタキシャル層21は活性層を含んでいる場合について説明したが、エピタキシャル層21は他の層を含んでいてもよい。他の層を含むエピタキシャル層21は、たとえば、n型バッファ層と、n型バッファ層上に形成されたn型クラッド層と、n型クラッド層上に形成された活性層と、活性層上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層上に形成されたp型窓層と、p型窓層上に形成されたp型コンタクト層とを含む。なお、上記構成において、他の層の少なくとも1層は省略されてもよいし、p型とn型とが反対であってもよい。
【0083】
エピタキシャル層の厚みH21は、たとえば1μm以上10μm以下である。
透明導電膜26は、エピタキシャルウエハ20を用いて赤外LEDを作製したときに、チップ上面において、全面(図9において横方向)に電流を広がらせる効果を有する。これにより、チップ全面に渡り活性層に電流が注入され、発光が起き、高出力化が可能となる。
【0084】
透明導電膜26は、高い透過性と低い抵抗率とを有する。このような透明導電膜26は、たとえば波長が850nm以上1000nm以下での透過率は85%以上であり、たとえば厚みH26が300nmのときの抵抗率が5mΩcm以下である。
【0085】
このような透明導電膜26として、たとえばスズ(Sn)がドープされた酸化インジウム(In2O3)であるITO、酸化インジウム(In2O3)、フッ素(F)がドープされたIn2O3であるIFO、酸化スズ(SnO2)、アンチモン(Sb)がドープされたSnO2であるATO、FがドープされたSnO2であるFTO、カドミウム(Cd)がドープされたSnO2であるCTO、アルミニウム(Al)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)であるAZO、InがドープされたZnOであるIZO、GaがドープされたZnOであるGZOなどが挙げられる。特に、透明性と導電性とをバランスよく保持できるため、透明導電膜26はITOであることが好ましい。
【0086】
また透明導電膜26の厚みH26は、たとえば0.1μm以上1μm以下である。この場合、電流の拡散を促進することができる。
【0087】
なお、透明導電膜26は、上記の材料に特に限定されず、たとえば、光が透過するように厚みH26を50nm以下にした金属膜を用いてもよい。このような金属膜としては、たとえば、厚みが15nm以下の金(Au)、Alなどを用いることができる。また、透明導電膜26は省略されてもよい。
【0088】
続いて、図9および図10を参照して、本実施の形態におけるエピタキシャルウエハ20の製造方法について説明する。
【0089】
まず、図10に示すように、実施の形態1におけるAlGaAs基板10の製造方法にしたがって、AlGaAs基板10を製造する(ステップS1〜S5)。
【0090】
次に、このAlGaAs基板10のAlGaAs層11の主表面11a上に、OMVPE(Organo Metallic Vapor Phase Epitaxy:有機金属気相成長)法またはMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法により活性層を含むエピタキシャル層21を形成する。この工程では、AlGaAs層11上に、上述したような活性層を含むエピタキシャル層21を成長させる。
【0091】
OMVPE法は原料ガスがAlGaAs層11上で熱分解反応することにより活性層を成長させ、MBE法は非平衡系で化学反応過程を介さない方法で活性層を成長させるので、OMVPE法およびMBE法は活性層の厚みを容易に制御できる。このため、2層以上の井戸層を複数有する活性層を容易に成長できる。
【0092】
また、AlGaAs基板10のAlGaAs層11の主表面11aが平坦なので、AlGaAs層11の主表面11a上に活性層を含むエピタキシャル層21を形成する際に、エピタキシャル層21の異常成長を抑制することができる。
【0093】
次に、エピタキシャル層21上に、透明導電膜26を形成する。透明導電膜26の形成方法は特に限定されないが、たとえば電子ビーム蒸着法、スパッタ法などを採用できる。
【0094】
以上の工程(ステップS1〜S6)を実施することにより、図9に示すエピタキシャルウエハ20を製造できる。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20は、実施の形態1のAlGaAs基板10と、AlGaAs層11の主表面11a上に形成され、かつ活性層を含むエピタキシャル層21とを備えている。
【0096】
本実施の形態における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20によれば、AlGaAs層11において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低く、GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有するAlGaAs基板10上にエピタキシャル層21を形成している。このため、このエピタキシャルウエハ20を用いて赤外LEDを作製したときに高い特性を維持するとともに、コストを低減することができる。
【0097】
本実施の形態における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20において好ましくは、エピタキシャル層21上に形成された透明導電膜26をさらに備えている。
【0098】
透明導電膜26により、エピタキシャル層21の厚みが小さい場合でも、電流の拡散を促進することができるので、光をチップ全面に広げることができる。したがって、このエピタキシャルウエハ20を用いて作製した赤外LEDの出力をより向上することができる。
【0099】
(実施の形態3)
図11を参照して、本実施の形態における赤外LED30aを説明する。図11に示すように、本実施の形態における赤外LED30aは、エピタキシャルウエハ20と、このエピタキシャルウエハ20にそれぞれ形成された第1および第2の電極31、32とを備えている。本実施の形態における赤外LED30aは、第1および第2の電極31、32の、一方から他方へと電流が流れる、縦型構造を有している。
【0100】
赤外LED30aを構成するエピタキシャルウエハ20は、基本的には実施の形態2と同様である。しかし、AlGaAs基板10を構成するGaAs基板13の厚みは、実施の形態1および2のGaAs基板よりも薄くてもよい。この場合、たとえばAlGaAs層11の厚みH11がAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11+H13+H21)に対して4%以上であることが好ましく、5%以上85%以下であることがより好ましい。なお、チップ状態(赤外LED30a)でのAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11+H13+H21)は、GaAs基板13の裏面13bでの研磨除去後等の厚みを意味する。
【0101】
第1の電極31は、エピタキシャル層21上に形成されている。本実施の形態では、第1の電極31は、透明導電膜26に接するように形成され、かつ光を取り出すために、エピタキシャルウエハ20の表面の一部のみを覆い、残部を露出させている。
【0102】
第2の電極32は、エピタキシャルウエハ20の裏面であるGaAs基板13上に形成されている。第2の電極32は、エピタキシャルウエハ20の裏面の全面を覆ってもよく、一部を覆ってもよい。一部を覆う場合には、たとえばドット状、格子状またはストライプ状に形成できる。
【0103】
エピタキシャル層21において透明導電膜26と接する層がp型の場合、第1の電極31は、たとえばAu(金)とZn(亜鉛)との合金よりなるp型電極であり、AlGaAs基板10下に形成された第2の電極32は、たとえばAuとGe(ゲルマニウム)との合金よりなるn型電極である。
【0104】
続いて、図11および図12を参照して、本実施の形態における赤外LED30aの製造方法について説明する。まず、実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20の製造方法により、エピタキシャルウエハ20を製造する(ステップS1〜S6)。
【0105】
次に、エピタキシャルウエハ20のGaAs基板13の一部を除去する。たとえば、GaAs基板13の裏面13b側を研磨する。研磨は、ダイヤモンド砥石を持つ研削設備などで、アルミナ、コロイダルシリカ、ダイヤモンドなどの研磨剤を用いてGaAs基板13の一部を機械的に削り取ることをいう。なお、この工程は、省略されてもよい。
【0106】
次に、赤外LED用のエピタキシャルウエハ20の主表面および裏面に第1および第2の電極31、32を形成する(ステップS7)。具体的には、たとえば蒸着法により、主表面上にAuとZnとを蒸着して、また、裏面上にAuとGeとを蒸着した後、合金化を施して、第1および第2の電極31、32を形成する。
【0107】
上記工程(ステップS1〜S7)を実施することにより、図11に示す赤外LED30aを製造することができる。
【0108】
以上説明したように、本実施の形態における赤外LED30aは、実施の形態1におけるエピタキシャルウエハ20と、エピタキシャルウエハ20に形成された第1および第2の電極31、32とを備えている。
【0109】
本実施の形態における赤外LED30aによれば、実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20を用いているので、高い特性を維持するとともに、コストを低減することができる。
【0110】
本実施の形態における赤外LED30aにおいて好ましくは、AlGaAs層11の厚みH11がAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11+H13+H21)に対して4%以上である。これにより、基板を除去したもの(第2の比較例)と同様の高い出力特性、基板を残したもの(第1および第3の比較例)と同様の高い動作電圧特性を維持できるとともに、AlGaAs層11の厚みを低減できるのでコストを低減できる。それに加えて、一般にチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の関係の制約がある。そのため、AlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、AlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDは、チップでの特性とともに、LEDランプ作製時、および、LEDランプでの優れた特性をあわせて持たせることができる。つまり、作成した赤外LEDから、LEDランプを作成する場合には、厚み方向の寸法が縦方向、横方向の寸法に対し薄すぎる場合、われ、かけ等の問題がおきる。また、厚すぎる場合には、ハンドリングの問題がおきる。さらに、LEDランプ作製時にチップの周囲を樹脂で覆い封止するが、厚み方向の寸法が厚すぎる場合には、縦方向、横方向の応力をうけ、信頼性の問題が発生する。これらによりチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の寸法に制約があり、このなかでのAlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、高信頼性のLEDランプが実現できる。
【0111】
本実施の形態における赤外LED30aにおいて好ましくは、第1の電極31はエピタキシャル層21上に形成され、第2の電極32はGaAs基板13上に形成されている。これにより、第2の電極32の接触面はGaAs基板13となる。GaAs基板13を完全に除去した場合と比較して、第2の電極32の接触面がGaAsとAlGaAsとの違いから接触抵抗が半減以下になり、赤外LED30aの動作時の発熱、長期通電後の劣化が抑制され、高信頼性のLEDランプが実現できる。また、同一出力を得るためには、低IF電流ですむため、より発熱が抑えられ、信頼性が高くなるという利点がある。このように、GaAs基板13のキャリア濃度を制御することにより、高い特性を維持するとともにコストを低減した縦型の赤外LED30aを実現できる。
【0112】
(実施の形態4)
図13を参照して、本実施の形態における赤外LED30bについて説明する。本実施の形態における赤外LED30bは、基本的には実施の形態3の赤外LED30aと同様の構成を備えているが、エピタキシャル層21がエッチングストップ層28を有する点および第1および第2の電極31、32の配置において異なる。
【0113】
具体的には、本実施の形態における赤外LED30bは、実施の形態1のAlGaAs基板10と、AlGaAs基板10上に形成されたエピタキシャル層21と、エピタキシャル層21側に形成された第1および第2の電極31、32とを備えている。本実施の形態では、エピタキシャル層21は、エッチングストップ層28と、このエッチングストップ層28上に形成され、かつ活性層を含む層22とを含む。この活性層を含む層22上に透明導電膜26が形成されている。透明導電膜26上に第1の電極31が形成されている。
【0114】
エピタキシャル層21を貫通し、かつAlGaAs層11の主表面11aまで達する開口部が形成されている。つまり、AlGaAs層11が露出するように開口部が形成されている。この露出面に接するように、第2の電極32が形成されている。つまり、本実施の形態における赤外LED30bは、第1の電極31および第2の電極32の、一方から他方へと電流が流れる、横型構造を有する。言い換えると、赤外LED30bは、エピタキシャルウエハの上面に第1および第2の電極31、32が形成された上面2電極(上部2端子)構造を有する。
【0115】
ここで、赤外LED30bの材料の一例を挙げる。活性層を含む層22がAlGaAs系の活性層を含む場合のエッチングストップ層28は、たとえばAlGaInP、InGaP、InAlPであることが好ましい。活性層を含む層22がAlGaInP系の活性層を含む場合のエッチングストップ層28は、たとえばAlGaAs、GaAsであることが好ましい。
【0116】
エピタキシャル層21においてAlGaAs層11と接する面と反対側の表面に位置する層がp型で、かつ露出したAlGaAs層11において第2の電極と接する露出面に位置する層がn型である場合、第1の電極31がp型電極で、第2の電極32がn型電極である。この場合、第1の電極31は、p型透明電極であることが好ましい。透明電極は、酸化インジウムと酸化スズとの混合物、アルミニウム原子を含む酸化亜鉛、フッ素原子を含む酸化スズ、酸化亜鉛、セレン化亜鉛および酸化ガリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む材質から構成されることが好ましい。第2の電極32は、たとえばAuとGe(ゲルマニウム)との合金よりなる。
【0117】
本実施の形態における赤外LED30bの製造方法は、基本的には実施の形態3における赤外LED30aの製造方法と同様であるが、エピタキシャル層21を形成する工程がエッチングストップ層28を形成する工程と開口部を形成する工程とを含む点、および第2の電極32を形成する位置において異なる。
【0118】
具体的には、実施の形態1と同様に、AlGaAs基板10を製造する。次に、AlGaAs基板10上にエッチングストップ層28を形成し、その後エッチングストップ層28上に活性層を含む層22を形成する。これにより、エピタキシャル層21を形成できる。次いで、この活性層を含む層22上に、透明導電膜26を形成する。これにより、エピタキシャルウエハを製造できる。
【0119】
次に、エピタキシャルウエハ上に、開口部を形成するべき領域以外の領域にマスク層を形成した状態で、ドライエッチングやウエットエッチングにより開口部を形成する。この時、エッチングストップ層28を利用して、エッチングストップ層28上の活性層を含む層22および透明導電膜26に開口部を形成できる。その後、露出しているエッチングストップ層28を除去する。これにより、AlGaAs層11の主表面11aを露出させたエピタキシャルウエハを製造できる。
【0120】
次に、透明導電膜26上に第1の電極31を形成し、露出させたAlGaAs層11の主表面11aに第2の電極32を形成する。これにより、図21に示す赤外LED30bを製造できる。
【0121】
ここで、本実施の形態では、第2の電極32をAlGaAs層11の主表面11aに形成したが、第2の電極32の配置は特に限定されない。たとえばAlGaAs層11の一部にまで貫通する開口部を形成することで露出した露出面に第2の電極32を配置してもよい。また、エッチングストップ層28を除去せずに、エッチングストップ層28上に第2の電極32を形成してもよい。またエッチングストップ層28を形成せずに、エピタキシャル層21、または、AlGaAs層11の一部にまで貫通する開口部を形成することで露出した露出面(主表面11aを含む)に、第2の電極32を形成してもよい。
【0122】
以上説明したように、本実施の形態における赤外LED30bは、エピタキシャルウエハの一方側の面に第1および第2の電極31、32を形成している。
【0123】
エピタキシャル層21側の面に、一方側から他方側へ電流が流れる第1および第2の電極31、32を形成した横型の赤外LEDを作製した場合であっても、GaAs基板13は光吸収を抑制できる条件を満たしているので、高い特性を維持することができるとともに、AlGaAs層11の厚みを小さくできるので、コストを低減できる。
【0124】
また本実施の形態における赤外LED30bにおいて好ましくは、第2の電極32と接するAlGaAs層11の露出面(本実施の形態ではAlGaAs層11の主表面11a)のキャリア濃度は1×1017cm-3以上である。これにより、赤外LED30bの動作電圧を低減できる。一例を挙げると、電流(IF)を20mA流すと、第2の電極32と接続されるコンタクト面の不純物濃度が1×1016cm-3の動作電圧は2.0Vであり、5×1016cm-3の動作電圧は1.9Vであり、1×1017cm-3の動作電圧は1.4Vであり、5×1017cm-3の動作電圧は1.4Vであり、1×1018cm-3の動作電圧は1.4Vである。
【実施例】
【0125】
本実施例では、AlxGa(1-x)As層において、主表面のAlの組成比xは裏面のAlの組成比xよりも低く、かつGaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有することによる効果について調べた。
【0126】
(本発明例1)
本発明例1は、実施の形態1にしたがってAlGaAs基板を製造し、次に実施の形態2にしたがってエピタキシャルウエハを製造し、次に実施の形態3にしたがって赤外LEDを製造した。
【0127】
具体的には、まず、50mmの直径と260μmの厚みとを有するGaAs基板13を準備した。このGaAs基板13はSiがドープされ、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有していた。
【0128】
次に、このGaAs基板13上に、920℃〜室温間の温度条件による徐冷法で1層からなるAlGaAs層11を成長させた。AlGaAs層11は50μmの厚みを有していた。ドーパントとしてテルルをドーピングし、AlGaAs層11において裏面11b側のキャリア濃度は1×1017cm-3で、主表面11a側のキャリア濃度は1×1018cm-3で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に増加していた。
【0129】
AlGaAs層11は、図14に示すAlの組成比xを有していた。具体的には、AlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.20で、主表面11a側のAlの組成比が0.02で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0130】
図14に示すAlの組成比xを測定した本発明例1のAlGaAs層について、Alの組成比の傾き(図14における縦軸で示されるAl組成比の勾配)である△Al/△t(単位:組成差/μm)を求めた。その結果を図15に示す。図15に示すように、本発明例1の△Al/△tは、1×10-3/μm以上6×10-3/μm以下であった。なお、図14および図15において、AlGaAs層11の主表面11aに位置する主表面を深さ0としている。
【0131】
また本発明例1のAlGaAs基板において、AlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して16.1%(=50/310×100)であった。
【0132】
以上の工程により、本発明例1のAlGaAs基板10を製造した。次に、OMVPE法により、AlGaAs基板10上に、活性層を含むエピタキシャル層21を形成した。
【0133】
具体的には、AlGaAs層11の主表面11a上に、n型バッファ層、n型クラッド層、活性層、p型クラッド層、p型窓層およびp型コンタクト層をこの順で成長した。各層の成長温度は、760℃であった。n型バッファ層は0.5μmの厚みを有し、SiがドープされたAl0.15Ga0.85Asよりなり、5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。n型クラッド層は1.0μmの厚みを有し、SiがドープされたAl0.35Ga0.65Asよりなり、5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。p型クラッド層は1.0μmの厚みを有し、ZnがドープされたAl0.35Ga0.65Asよりなり5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。p型窓層は3.5μmの厚みを有し、ZnがドープされたAl0.20Ga0.80Asよりなり、5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。p型コンタクト層は0.2μmの厚みを有し、ZnがドープされたGaAsよりなり、4×1019cm-3のキャリア濃度を有していた。また、活性層は、発光波長940nmとし、5nmの厚みを有し、In0.25Ga0.75Asよりなる井戸層と、15nmの厚みを有し、Al0.30Ga0.70Asよりなるバリア層とを、それぞれ3層有している多重量子井戸構造(MQW)であった。上記エピタキシャル層の厚みは6.7μmであった。
【0134】
次に、エピタキシャル層21において、AlGaAs基板10と接する面と反対側の面上に、電子ビーム蒸着法により、真空炉内で、酸素雰囲気中で、300℃の温度で、透明導電膜26を形成した。透明導電膜26は、300nmの厚みを有するITOとした。
【0135】
以上の工程により、本発明例1のエピタキシャルウエハ20を製造した。このエピタキシャルウエハ20において、AlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みは316.7μmであり、AlGaAs層は50μmであった。
【0136】
次に、GaAs基板13の一部を、ラップにより裏面13b側から除去した。これにより、AlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みを225μmにした。つまり、赤外LEDにおけるAlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して22.2%(=50/225×100)とした。
【0137】
次に、GaAs基板13の裏面13b上に、第2の電極32として、n型電極を形成した。第2の電極32は、ドット状とし、材料をAuGe合金とし、厚みを1μmとした。次に、透明導電膜26上に、第1の電極31として、p型電極を形成した。第1の電極31のパッド径は120μmとし、電極材料をAuとし、合計の厚みを1μmとした。その後、チップ寸法が220μm角または350μm角となるようにスクライブを行なった。以上の工程により、本発明例1の赤外LEDを製造した。
【0138】
(本発明例2)
本発明例2のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs基板10を構成するAlGaAs層11のAlの組成比が異なっていた。具体的には、本発明例2のAlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.35で、主表面11a側のAlの組成比が0.05で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0139】
(本発明例3)
本発明例3のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs基板10を構成するAlGaAs層11のAlの組成比および厚みが異なっていた。具体的には、本発明例3のAlGaAs層11において、AlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.15で、主表面11a側のAlの組成比が0.10で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。またAlGaAs層11の厚みは10μmであり、AlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して3.7%(=10/270×100)であった。
【0140】
また赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して4.4%(=10/225×100)であった。
【0141】
(本発明例4)
本発明例4のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs基板10が異なっていた。
【0142】
具体的には、本発明例4のGaAs基板13は、76mmの直径と230μmの厚みとを有していた。このGaAs基板13はSiがドープされ、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有していた。
【0143】
AlGaAs層11は、49μmの厚みを有する2層からなっており、全体として98μmの厚みを有していた。AlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して29.8%(=98/328×100)であった。
【0144】
またAlGaAs層11の各層において、裏面11b側のAlの組成比が0.40で、主表面11a側のAlの組成比が0.15で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0145】
また赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みの厚みに対して43.6%(=98/225×100)であった。
【0146】
(本発明例5)
本発明例5のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様の構成を備えていたが、AlGaAs基板において異なっていた。
【0147】
具体的には、本発明例5のAlGaAs基板は、GaAs基板13と、GaAs基板13の主表面13aに形成されたAlGaAs層11と、GaAs基板13の裏面13bに形成された裏面AlGaAs層とを備えていた。
【0148】
GaAs基板13は、本発明例4のGaAs基板13と同様であった。GaAs基板13の主表面13aに形成されたAlGaAs層11は、36μmの厚みを有する1層構造であった。図16に示すように、このAlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.49で、主表面11a側のAlの組成比が0.02で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0149】
図16に示すAlの組成比xを測定した本発明例5のAlGaAs層について、Alの組成比の傾き(図16における縦軸で示されるAl組成比の勾配)である△Al/△t(単位:組成差/μm)を求めた。その結果を図17に示す。図17に示すように、本発明例5の△Al/△tは、4×10-3/μm以上2×10-2/μm以下であった。なお、図16および図17において、AlGaAs層11の主表面11aに位置する主表面を深さ0としている。
【0150】
GaAs基板13の裏面13bに形成された裏面AlGaAs層は、36μmの厚みを有していた。この裏面AlGaAs層は、GaAs基板13との界面のAlの組成比が0.49で、界面と反対側の面のAlの組成比が0.02であり、界面から反対側の面に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0151】
AlGaAs層11および裏面AlGaAs層の厚みは、鏡面研磨後の厚みであり、AlGaAs基板におけるAlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して11.9%(=36/302×100)であった。
【0152】
また赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して16.0%(=36/225×100)であった。
【0153】
(本発明例6〜10)
本発明例6〜10の各々は、基本的には本発明例1〜5と同様の構成を備えていたが、エピタキシャルウエハを製造した後にGaAs基板13の一部を除去して、AlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みを120μmにした点において異なっていた。つまり、本発明例6および7の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して41.7%(=50/120×100)であった。本発明例8の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して8.3%(=10/120×100)であった。本発明例9の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して81.7%(=98/120×100)であった。本発明例10の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して30.0%(=36/120×100)であった。
【0154】
(比較例1)
比較例1のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs層を備えていない点において異なっていた。つまり、比較例1のAlGaAs基板はGaAs基板からなり、比較例1のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDはGaAs基板上にエピタキシャル層が形成されていた。
【0155】
(比較例2)
比較例2のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs層の厚みを150μmとした点およびエピタキシャル層形成後に、GaAs基板全体を除去する工程をさらに実施した点において異なっていた。つまり、比較例2のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、GaAs基板を備えていなかった。また比較例2の赤外LEDにおいてAlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11(=0)+H13+H21)に対して96%(=150/156.7×100)であった。なお、比較例2のエピタキシャル層の厚みは6.7μmであった。
【0156】
(比較例3)
比較例3のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs層においてAlの組成比が0.35で一定であった点において異なっていた。
【0157】
(比較例4)
比較例4のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、GaAs基板のn型キャリア濃度が5×1016cm-3未満であった点において異なっていた。
【0158】
(比較例5)
比較例5のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、GaAs基板のn型キャリア濃度が2×1018cm-3を超えていた点において異なっていた。
【0159】
(評価結果)
本発明例1〜10および比較例1〜5の赤外LEDについて、光出力および動作電圧をそれぞれ測定した。この場合のチップ寸法は、220μm角であった。光出力は、定電流源と光出力測定器(積分球)とにより、電流(IF)を20mA流した時の波長が940nmの出力を測定した。動作電圧は、パラメータアナライザを用い、赤外LEDの2電極を介した2端子で測定した。これらの結果を下記の表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
表1に示すように、AlxGa(1-x)As層において主表面のAlの組成比xが裏面のAlの組成比xよりも低く、かつGaAs基板が5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有する本発明例1〜10は、GaAs基板を完全に除去した比較例2の赤外LEDと同程度の光出力を維持できるとともに、低い動作電圧を維持できた。このように、GaAs基板を残していても、本発明例1〜10のAlGaAs基板およびエピタキシャルウエハを用いて形成した赤外LEDの高い特性を維持できた。それに加えて、本発明例1〜10ではAlGaAs層の厚みおよびその比率を小さくすることができるので、コストを低減することができることがわかった。
【0162】
また、AlGaAs層11を備えていなかった比較例1は、本発明例1〜10よりも出力が大幅に低かった。GaAs基板13を備えていなかった比較例2は、AlGaAs層に電極を形成したので、本発明例1〜10よりも動作電圧が高かった。Al組成比が一定であったAlGaAs層を備えていた比較例3は、本発明例1〜10よりも動作電圧が大幅に高かった。n型キャリア濃度が5×1016cm-3未満であった比較例4は、本発明例1〜10よりも動作電圧が高かった。n型キャリア濃度が2×1018cm-3を超えていた比較例5は、本発明例1〜10よりも出力が低かった。
【0163】
ここで、本実施例では、n型キャリア濃度を有するGaAs基板について記載したが、p型キャリア濃度を5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下にすることで同様の効果を有するという知見を本発明者は得ている。また、活性層の構造のみをかえて、波長850nmとした場合でも、本発明例と比較例の出力の大小関係は波長940nmの場合と変わらないという結果が確認され、また、チップ寸法が350μmの場合でも、220μmと同様の傾向が確認され、本構造の設計の差異の効果が確認された。
【0164】
以上より、本実施例によれば、AlxGa(1-x)As層において、主表面のAlの組成比xは、裏面のAlの組成比xよりも低く、かつGaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有することにより、高い特性を維持できるとともに、コストを低減できることが確認できた。
【0165】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0166】
10 AlGaAs基板、11 AlGaAs層、11a,13a 主表面、11b,13b 裏面、13 GaAs基板、20 エピタキシャルウエハ、20 エピタキシャル層、22 活性層を含む層、26 透明導電膜、28 エッチングストップ層、30a,30b 赤外LED、31 第1の電極、32 第2の電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDに関する。
【背景技術】
【0002】
AlaGa(1-a)As(0≦a≦1)(以下、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)とも言う。)を利用したLED(発光ダイオード:Light Emitting Diode)は、赤外の光源として広く用いられている。赤外の光源としての赤外LEDは、光通信、空間伝送、投光機などに使用されており、伝送するデ−タの大容量化、伝送距離、照明距離の長距離化に伴い、出力の向上が要求されている。
【0003】
このようなAlGaAsを利用した赤外LEDは、たとえば特開2002−26380号公報(特許文献1)、特開平8−293622号公報(特許文献2)、特開平5−175549号公報(特許文献3)などに開示されている。
【0004】
特許文献1には、GaAs(ガリウム砒素)基板上に、第1のGaAlAs層、第2のGaAlAs層、n型GaAlAsクラッド層、p型GaAlAs活性層およびp型GaAlAsクラッド層を順次成長させた後に、GaAs基板を選択的に除去する赤外発光素子用のエピタキシャルウエハおよび赤外発光素子が開示されている。
【0005】
特許文献2には、GaAs基板が除去されており、p型のAlbGa(1-b)As(0.15≦b≦0.35)クラッド層、p型AlbGa(1-b)As(0≦b≦0.1)活性層およびn型AlaGa(1-a)As(0.15≦b≦0.35)クラッド層の少なくとも3層からなる赤外LEDが開示されている。
【0006】
特許文献3には、GaAs基板上にn型AlGaAsエピタキシャル層およびp型AlGaAsエピタキシャル層を連続的に成長させた後、GaAs基板を除去したLEDの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−26380号公報
【特許文献2】特開平8−293622号公報
【特許文献3】特開平5−175549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GaAs基板は波長が870nm以下の光を吸収することが知られている。このため、特性を向上した赤外LEDを作製する場合には、上記特許文献1〜3に開示のように、GaAs基板を除去することが技術常識であった。しかし、GaAs基板を除去するので、コストが増加するという問題があった。ここで、上記波長での光吸収の影響は、急峻なものではない点に注意が必要である。これは、上記波長以長であっても、GaAs基板内部では不純物による吸収等がおき、吸収係数が上記波長の前後でなだらかに変化をするためである。また、LEDの発光ピーク自体が上記波長以長にあっても、発光スペクトル成分のうち、上記波長以下の部分が、光吸収としてロスが発生するためである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高い特性を維持するとともに、コストを低減できるAlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、AlGaAs層を備えた赤外LEDを作製する際にGaAs基板を除去するという技術常識に反して、GaAs基板を除去せずに高い特性を維持できる技術について鋭意研究した結果、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明のAlGaAs基板は、主表面と、主表面と反対側の裏面とを有するAlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)と、裏面に形成されたGaAs基板とを備える。AlxGa(1-x)As層において、主表面のAlの組成比xは、裏面のAlの組成比xよりも低い。GaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。
【0012】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層の厚みが全体の厚みに対して0%を超えて30%未満である。
【0013】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層は、1層からなる。
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最小値が0以上である。
【0014】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最大値が0.5以下である。
【0015】
上記AlGaAs基板において好ましくは、AlxGa(1-x)As層の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、2点の厚みの差(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下である。
【0016】
本発明の赤外LED用のエピタキシャルウエハは、上記いずれかに記載のAlGaAs基板と、AlxGa(1-x)As層の主表面上に形成され、かつ活性層を含むエピタキシャル層とを備えている。
【0017】
上記赤外LED用のエピタキシャルウエハにおいて好ましくは、エピタキシャル層上に形成された透明導電膜をさらに備えている。
【0018】
本発明の赤外LEDは、上記いずれかに記載の赤外LED用のエピタキシャルウエハと、エピタキシャルウエハに形成された第1および第2の電極とを備えている。
【0019】
上記赤外LEDにおいて好ましくは、AlxGa(1-x)As層の厚みがAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して4%以上である。
【0020】
上記赤外LEDにおいて好ましくは、第1の電極は、エピタキシャル層上に形成され、第2の電極は、GaAs基板上に形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明のAlGaAs基板、赤外LED用のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDによれば、高い特性を維持するとともに、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs基板を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層のAlの組成比xを説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs基板の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態1におけるGaAs基板を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1におけるAlGaAs層を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハを概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハの製造方法を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態3における赤外LEDを概略的に示す断面図である。
【図12】本発明の実施の形態3における赤外LEDの製造方法を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態4における赤外LEDを概略的に示す断面図である。
【図14】本発明例1におけるAlGaAs層のAlの組成比を示す図である。
【図15】本発明例1におけるAlGaAs層の△Al/△tを示す図である。
【図16】本発明例5におけるAlGaAs層のAlの組成比を示す図である。
【図17】本発明例5におけるAlGaAs層の△Al/△tを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0024】
(実施の形態1)
まず、図1を参照して、本実施の形態におけるAlGaAs基板10について説明する。図1に示すように、AlGaAs基板10は、GaAs基板13と、GaAs基板13上に形成されたAlGaAs層(AlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)11とを備えている。
【0025】
GaAs基板13は、主表面13aと、この主表面13aと反対側の裏面13bとを有している。GaAs基板13の主表面13aは、AlGaAs層11の裏面11bと接している。
【0026】
GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。GaAs基板13は、5×1016cm-3以上1×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有することが好ましい。
【0027】
GaAs基板13の導電型はp型であってもn型であっても半絶縁型であってもよいが、AlGaAs層11と同じ導電型であることが好ましい。
【0028】
ここで、キャリア濃度とは、導電性不純物(ドーパント)の濃度であり、たとえばSIMS(2次イオン質量分析)法により測定される。GaAs基板13の導電性不純物は特に限定されないが、たとえば亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、炭素(C)などのp型ドーパント、セレン(Se)、硫黄(S)、テルル(Te)、シリコン(Si)などのn型ドーパントなどを用いることができる。
【0029】
GaAs基板13は、オフ角を有していても、有していなくてもよく、たとえば{100}面、または、{100}から0°を超え15.8°以下傾斜した主表面を有している。GaAs基板13は、{100}面、または、{100}から0°を超え2°以下傾斜した主表面を有していることが好ましい。GaAs基板13の表面は鏡面であっても粗面であってもよい。なお、{}は、集合面を示す。
【0030】
GaAs基板13はたとえば平面形状が円形であり、その直径は1インチ以上6インチ以下であることが好ましい。GaAs基板13は、たとえば200μm以上500μm以下の厚みH13を有する。より好ましくは、GaAs基板13は、200μm以上350μm以下の厚みH13を有する。
【0031】
AlGaAs層11は主表面11aと、この主表面11aと反対側の裏面11bとを有している。主表面11aとは、GaAs基板13と接触している面と反対側の面である。裏面11bとは、GaAs基板13と接触している面である。
【0032】
AlGaAs層11は、AlxGa(1-x)As(0≦x≦1)で表される。このAlGaAs層11において、裏面11bのAlの組成比xは、主表面11aのAlの組成比xよりも高い。なお、組成比xは、Alのモル比である。組成比(1−x)は、Gaのモル比である。
【0033】
AlGaAs層11において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低い。なお、組成比xは、Alのモル比である。組成比(1−x)は、Gaのモル比である。
【0034】
ここで、AlGaAs層11のモル比について図2〜図5を参照して説明する。図2〜図5中、縦軸は、AlGaAs層11の裏面11bから主表面11aにかけて厚み方向の位置を示し、横軸は、各位置でのAlの組成比xを示す。
【0035】
図2に示すように、AlGaAs層11は、裏面11bから主表面11aにかけて、Alの組成比xが単調減少している。単調減少とは、AlGaAs層11の裏面11bから主表面11aに向けて(成長方向に向けて)、組成比xが常に同じまたは減少しており、かつ裏面11bの組成比xよりも主表面11aの組成比xが低いことを意味する。つまり、単調減少とは、この成長方向に向けて組成比xが増加している部分が含まれていない。
【0036】
図3〜図5に示すように、AlGaAs層11は、複数の層(図3〜5では2層)を含んでいてもよい。図3に示すAlGaAs層11は、それぞれの層において裏面11b側から主表面11a側にかけて、Alの組成比xが単調減少している。また、図4に示すAlGaAs層11のそれぞれの層のAlの組成比xは均一で、かつ裏面11b側の層は主表面11a側のAlの組成比xよりも高い。また、図5に示すAlGaAs層11の裏面11b側の層のAlの組成比xは均一で、かつ主表面11a側の層のAlの組成比xは単調減少し、かつ裏面11b側の層は主表面11a側のAlの組成比xよりも高い。つまり、図4および図5に示すAlGaAs層11は、全体としてAlの組成比xが単調減少している。
【0037】
なお、AlGaAs層11のAlの組成比xは、主表面11aのAlの組成比xが裏面11bのAlの組成比xよりも低ければ、上述した1層または2層を含む場合に限定されず、3層以上の層を含んでいてもよい。コスト低減の観点から、AlGaAs層11は1層であることが好ましい。
【0038】
ここで、AlGaAs層11が複数の層を有している場合の各層の界面は、Alの組成比および不純物濃度の少なくとも一方が不連続に変わる界面を意味する。AlGaAs層11が徐冷法や温度差法などのLPE法で形成される場合、各々の方法で、温度条件や成長槽が変わる場合に、Alの組成比および不純物濃度の少なくとも一方が不連続に変わる。この界面で区切られる層を1層と定義する。ただし、LPE法では、界面が急峻ではないため、たとえば、Al組成比xが0.1以上、膜厚方向に変わる場合、1層が形成されたと定義できる。
【0039】
AlGaAs層11の不純物は、特に限定されないが、たとえばZn、Mg、Cなどのp型ドーパント、Se、S、Te、Siなどのn型ドーパントなどを用いることができる。AlGaAs層11のドーパントは、シリコン、亜鉛、セレン、テルルからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質であることが好ましい。
【0040】
AlGaAs層11のAlの組成比xの最小値が0以上であることが好ましい。AlGaAs層11の裏面11bの組成比xが0以上であることがより好ましい。
【0041】
AlGaAs層11のAlの組成比xの最大値が0.5以下であることが好ましい。AlGaAs層11の主表面11aの組成比xが0.5以下であることが好ましい。
【0042】
また、AlGaAs層11の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、2点の厚みの差(2点の厚み方向の距離)(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下であることが好ましく、1×10-3/μm以上6×10-3/μm以下であることがより好ましい。
【0043】
△Al/△tは、AlGaAs層11の主表面11aから裏面11bにかけてたとえば1μmごとにEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)およびSIMSで△Alを測定することにより得られる。△Al/△tは、AlGaAs層11の任意の位置で測定され得る。
【0044】
AlGaAs層11の厚みH11が全体の厚みH10に対して(H11/H10が)0%を超えて30%未満であることが好ましく、0%を超えて9%以下であることがより好ましい。
【0045】
ここで、全体の厚みH10は、GaAs基板13上にAlGaAs層11を成長した後のGaAs基板13とAlGaAs層11との合計の厚みを意味する。ただし、AlGaAs層11の前後の工程で付加的に成長したエピ層、あるいは、後工程での除去(エッチング、研磨等)等の途中工程、最終工程での形態を含む。
【0046】
また、AlGaAs層11が複数の層を有している場合のAlGaAs層11の厚みH11は、複数の層を合計したAlGaAs層の厚みを意味する。また、反り防止の観点から、AlGaAs基板10がGaAs基板13の裏面11bに形成されたAlGaAs層をさらに含む場合には、AlGaAs層11の厚みH11は、GaAs基板13の主表面13a側(エピタキシャル層をその上に形成する側)のAlGaAs層の厚みを意味し、全体の厚みH10は、GaAs基板13と、GaAs基板13の主表面13a側のAlGaAs層11と、GaAs基板13の裏面11b側のAlGaAs層との合計の厚みを意味する。
【0047】
AlGaAs層11の厚みH11は100μm未満であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。この場合、コストを低減することができる。
【0048】
なお、上記AlGaAs層11の厚みH11およびGaAs基板13の厚みH13とは、厚み方向において平均的な厚みである。
【0049】
続いて、図1〜図8を参照して、本実施の形態におけるAlGaAs基板10の製造方法について説明する。
【0050】
図6および図7に示すように、まず、GaAs基板13を準備する(ステップS1)。準備するGaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。このようなGaAs基板13は、たとえばキャリア濃度を制御したVB(Vertical Boat:垂直ボート)法、VGF法(Vertical Gradient Freeze:垂直温度傾斜凝固)法などの垂直ボート法、HB法(Horizontal bridgeman)などの水平ブリッジマン法により、実現できる。
【0051】
図6および図8に示すように、次に、GaAs基板13上に、LPE(液相成長法:Liquid Phase Epitaxy)法により主表面11aを有するAlGaAs層11を成長させる(ステップS2)。このAlGaAs層11を成長させるステップS2では、GaAs基板13との界面(裏面11b)のAlの組成比xが、主表面11aのAlの組成比xよりも高いAlGaAs層11を成長させる。
【0052】
LPE法は特に限定されず、徐冷法、温度差法などを用いることができる。なお、LPE法とは、液相からAlxGa(1-x)As(0≦x≦1)結晶を成長させる方法をいう。徐冷法とは、原料の溶液の温度を徐々に下げてAlxGa(1-x)As結晶を成長させる方法である。温度差法とは、原料の溶液に温度勾配をつくり、AlxGa(1-x)As結晶を成長させる方法をいう。AlGaAs層11をLPE法で形成することにより、安価に厚みの大きいAlGaAs層11を形成することができる。このため、製造コストを低減することができる。
【0053】
AlGaAs層11においてAlの組成比xが一定の層を成長させる場合には温度差法および徐冷法を用い、Alの組成比xが上方(成長方向)に向けて減少している層を成長させる場合には徐冷法を用いることが好ましい。量産性および低コストに優れているため、徐冷法を用いることが特に好ましい。またそれらを組み合わせてもよい。
【0054】
また、ステップS2では、たとえばZn(亜鉛)、Mg(マグネシウム)、C(炭素)などのp型ドーパントSe(セレン)、S(硫黄)、Te(テルル)、Si(シリコン)などのn型ドーパントを含むようにAlGaAs層11を成長させてもよい。
【0055】
このようにLPE法でAlGaAs層11を成長させると、図8に示すように、AlGaAs層11の主表面11aには凹凸が生じる。
【0056】
次に、AlGaAs層11の主表面11aを洗浄する(ステップS3)。このステップS3では、アルカリ系溶液を用いて洗浄することが好ましい。なお、リン酸や硫酸などの酸化溶液などを用いてもよい。アルカリ系溶液は、アンモニアと過酸化水素とを含むことが好ましい。アンモニアと過酸化水素とを含むアルカリ系溶液で洗浄すると、主表面11aがエッチングされるので、空気に触れることにより主表面11aに付着した不純物を除去できる。なお、この主表面11aを洗浄するステップS3は省略されてもよい。
【0057】
次に、アルコールでGaAs基板13およびAlGaAs層11を乾燥する。なお、この乾燥するステップは省略されてもよい。
【0058】
次に、AlGaAs層11の主表面11aを研磨する(ステップS4)。研磨する方法は、特に限定されず、機械的研磨、化学機械研磨法、電界研磨法、化学研磨法などを用いることができ、研磨の容易性から機械的研磨または化学的研磨が好ましい。
【0059】
次に、AlGaAs層11の主表面11aを洗浄する(ステップS5)。この主表面11aを洗浄するステップS5は、研磨するステップS4前の主表面11aを洗浄するステップS3と同様であるので、その説明を繰り返さない。なお、この洗浄するステップS5は省略されてもよい。
【0060】
上記ステップS1〜S5を実施することにより、図1に示す本実施の形態におけるAlGaAs基板10を製造することができる。
【0061】
続いて、本実施の形態におけるAlGaAs基板10の効果を、第1〜第3の比較例と対比して説明する。
【0062】
まず、第1の比較例としてのGaAs基板において、その上に活性層を含むエピタキシャル層を形成することで、赤外LEDが作製される。この場合、GaAs基板には光吸収があるので、出力が低くなる。
【0063】
第2の比較例としてのGaAs基板と、このGaAs基板上に形成されたAlGaAs層とを備えたAlGaAs基板において、AlGaAs層上にエピタキシャル層を形成する前または後にGaAs基板を除去することで、赤外LEDが作製される。この場合、第1の従来例に比べて出力を向上することができる。しかし、Al組成比が高いAlGaAs層の裏面側に電極を形成すると、動作電圧(VF)が高くなる。この第2の比較例は、上記特許文献1〜3に開示のGaAs基板を除去した構造に類似する。
【0064】
光吸収があるGaAs基板がある場合、AlGaAs層の厚みを大きくすること、すなわち、AlGaAs層の厚み比率を高くすると、光吸収があるGaAs基板の比率が下がり、GaAs基板の除去と同等の効果を奏すると推定できる。このため、第3の比較例として、GaAs基板と、このGaAs基板上に形成された厚みの大きいAlGaAs層とを備えたAlGaAs基板において、AlGaAs層上にエピタキシャル層を形成することで、赤外LEDが作製される。この場合、AlGaAs層を厚く形成する必要があるので、コストが増加する。
【0065】
一方、本実施の形態におけるAlGaAs基板10は、主表面11aと、主表面11aと反対側の裏面11bとを有するAlGaAs層11と、裏面11bに形成されたGaAs基板13とを備え、AlGaAs層11において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低く、GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する。本発明者は、上記キャリア濃度のGaAs基板13および上記Al組成比xのAlGaAs層を有するAlGaAs基板10を用いることにより、このAlGaAs基板10上にエピタキシャル層を形成して赤外LEDを作製すると、GaAs基板上に直接エピタキシャル層を形成する第1の比較例と比較して、3倍以上と、飛躍的に高い出力が得られることを見い出した。特に、本実施の形態では、AlGaAs層11が非常に薄い場合でも、AlGaAs層11の層数が少ない場合でも、GaAs基板13を除去する第2の比較例およびAlGaAs層の厚みが大きい第3の比較例と同等の効果を奏し、低コスト化と高い特性とが実現できることを新たに見出した。
【0066】
さらに、本実施の形態では、電極の形成が容易なGaAs基板13に接するように電極の形成ができるため、直列抵抗を低く抑えることができる。このように本実施の形態では良好な接触抵抗が得られるため、本実施の形態のAlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDの動作電圧を低くすることができる。動作電圧の点からも、本実施の形態では、高い特性を実現できる。
【0067】
以上より、本実施の形態におけるAlGaAs基板10によれば、高出力、低動作電圧などの高特性を維持するとともに、コストを低減することができる。
【0068】
さらに、本実施の形態のAlGaAs基板10は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有するGaAs基板13を備えている。2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度のような高濃度のキャリア濃度をGaAs基板13が有していても、AlGaAs層11により、高い出力を維持できる。5×1016cm-3以上のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上のp型キャリア濃度を有していても、GaAs基板13に電極を形成することで良好な動作電圧を維持できる。
【0069】
またAlGaAs層11において、主表面11aのAl組成比xは、裏面11bのAl組成比xよりも低い。このため、酸化されやすい性質を有するAlが主表面11aに存在することを抑制でき、かつ、主表面11a以外の部分ではAl組成比xを高くできるため、AlGaAs基板10全体での透過率を高く保つことができる。これにより、AlGaAs基板10の表面(本実施の形態ではAlGaAs層11の主表面11a)に絶縁性の酸化層が形成されることを抑制できる。このため、このAlGaAs基板10上にエピタキシャル層を形成すると、このエピタキシャル層に欠陥が導入されることを抑制することができる。このエピタキシャル層を用いて赤外LEDを作製すると、動作電圧が高くなることを抑制できる。一方で、AlGaAs基板10の透過性が高いため、光出力を高くすることができる。
【0070】
さらに、本実施の形態では液相法でAlGaAs層11を形成している。液相法では、エピ成長直前に液体ガリウム中で、GaAs基板表面を部分的に溶解することができる。この部分溶解の工程(メルトバック工程)の後、AlGaAs層を成長することができるため、AlGaAs層とGaAs基板との界面の酸化層を低減できる。これにより、動作電圧(VF)が高くなることを抑制できる。
【0071】
また、AlGaAs層11は厚みが小さくても高い出力が得られる。この点について、AlGaAs基板10はGaAs基板13を含んでいるので、AlGaAs層11だけでなく、GaAs基板13によりAlGaAs基板10全体の厚みを厚く設計できるので、チップ作製工程での割れ発生を抑制することができる。
【0072】
本実施の形態のAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11の厚みH11がAlGaAs基板10の全体の厚みH10(=H11+H13)に対して0%を超えて30%未満である。AlGaAs層11の厚みH11が全体の厚みH10に対して30%未満の場合であっても、このAlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDの高い特性を維持できることを本発明者は鋭意研究の結果見い出した。このため、AlGaAs層11を上記範囲まで薄くすることによって、コストをより低減することができる。それに加えて、一般にチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の関係の制約がある。そのため、AlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、AlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDは、チップでの特性とともに、LEDランプ作製時、および、LEDランプでの優れた特性をあわせて持たせることができる。つまり、作成した赤外LEDから、LEDランプを作成する場合には、厚み方向の寸法が縦方向、横方向の寸法に対し薄すぎる場合、われ、かけ等の問題がおきる。また、厚すぎる場合には、ハンドリングの問題がおきる。さらに、LEDランプ作製時にチップの周囲を樹脂で覆い封止するが、厚み方向の寸法が厚すぎる場合には、縦方向、横方向の応力をうけ、信頼性の問題が発生する。これらによりチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の寸法に制約があり、このなかでのAlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、高信頼性のLEDランプが実現できる。
【0073】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11は1層からなる。AlGaAs層11が1層であっても、このAlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDの高い特性を維持できることを本発明者は鋭意研究の結果見い出した。このため、AlGaAs基板10を容易に製造できるので、コストをより低減することができる。
【0074】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11のAlの組成比xの最小値が0以上である。これにより、動作電圧をより安定化できるので、赤外LEDを作製すると特性をより向上できる。
【0075】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11のAlの組成比xの最大値が0.5以下である。これにより、光出力をより向上できるので、赤外LEDを作製すると特性をより向上できる。
【0076】
本実施の形態におけるAlGaAs基板10において好ましくは、AlGaAs層11の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、2点の厚みの差(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下である。
【0077】
これにより、AlGaAs層11において、主表面11a側で欠陥が導入されることを抑制するようにAlの組成比xを低くし、裏面11b側で透過特性を向上するようにAlの組成比xを高くすることができる。したがって、赤外LEDを作製した場合、特性をより向上することができる。
【0078】
(実施の形態2)
図9を参照して、本実施の形態におけるエピタキシャルウエハ20を説明する。図9に示すように、エピタキシャルウエハ20は、実施の形態1のAlGaAs基板10と、AlGaAs層11の主表面11a上に形成されたエピタキシャル層21と、エピタキシャル層21上に形成された透明導電膜26とを備えている。
【0079】
エピタキシャル層21は、活性層を含む。活性層は、AlGaAs層11よりもバンドギャップが小さいことが望ましい。ただし、Al組成比が勾配を有するため、一部で大小関係が逆転する場合もある。
【0080】
活性層は、井戸層と、井戸層よりもバンドギャップの大きなバリア層とが交互に積層された多重量子井戸構造(MQW構造)を有していることが好ましい。井戸層の材料は、バリア層よりもバンドギャップが小さければ特に限定されないが、たとえばGaAs、AlGaAs、InGaAs(インジウムガリウム砒素)、AlInGaAs(アルミニウムインジウムガリウム砒素)、InGaAsP(インジウムガリウム砒素リン)などを用いることができる。これらの材料は、AlGaAs層11との格子整合度が適合する赤外発光の材料である。ただし、格子整合がずれている場合でも、完全に、あるいは、一部で歪が緩和していなければよい。バリア層の材料は、井戸層よりもバンドギャップが大きければ特に限定されないが、たとえばAlGaAs、GaAsP(ガリウム砒素リン)、AlGaAsP(アルミニウムガリウム砒素リン)、InGaP(インジウムガリウムリン)、AlInGaP(アルミニウムインジウムガリウムリン)、InGaAsPなどを用いることできる。これらの材料は、AlGaAs層11との格子整合度が適合する材料である。また、井戸層と同じく、格子整合がずれている場合でも、完全に、あるいは、一部で歪が緩和していなければよい。
【0081】
なお、活性層は、多重量子井戸構造に特に限定されず、1層よりなっていてもよく、ダブルへテロ構造を有していてもよい。
【0082】
また、本実施の形態ではエピタキシャル層21は活性層を含んでいる場合について説明したが、エピタキシャル層21は他の層を含んでいてもよい。他の層を含むエピタキシャル層21は、たとえば、n型バッファ層と、n型バッファ層上に形成されたn型クラッド層と、n型クラッド層上に形成された活性層と、活性層上に形成されたp型クラッド層と、p型クラッド層上に形成されたp型窓層と、p型窓層上に形成されたp型コンタクト層とを含む。なお、上記構成において、他の層の少なくとも1層は省略されてもよいし、p型とn型とが反対であってもよい。
【0083】
エピタキシャル層の厚みH21は、たとえば1μm以上10μm以下である。
透明導電膜26は、エピタキシャルウエハ20を用いて赤外LEDを作製したときに、チップ上面において、全面(図9において横方向)に電流を広がらせる効果を有する。これにより、チップ全面に渡り活性層に電流が注入され、発光が起き、高出力化が可能となる。
【0084】
透明導電膜26は、高い透過性と低い抵抗率とを有する。このような透明導電膜26は、たとえば波長が850nm以上1000nm以下での透過率は85%以上であり、たとえば厚みH26が300nmのときの抵抗率が5mΩcm以下である。
【0085】
このような透明導電膜26として、たとえばスズ(Sn)がドープされた酸化インジウム(In2O3)であるITO、酸化インジウム(In2O3)、フッ素(F)がドープされたIn2O3であるIFO、酸化スズ(SnO2)、アンチモン(Sb)がドープされたSnO2であるATO、FがドープされたSnO2であるFTO、カドミウム(Cd)がドープされたSnO2であるCTO、アルミニウム(Al)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)であるAZO、InがドープされたZnOであるIZO、GaがドープされたZnOであるGZOなどが挙げられる。特に、透明性と導電性とをバランスよく保持できるため、透明導電膜26はITOであることが好ましい。
【0086】
また透明導電膜26の厚みH26は、たとえば0.1μm以上1μm以下である。この場合、電流の拡散を促進することができる。
【0087】
なお、透明導電膜26は、上記の材料に特に限定されず、たとえば、光が透過するように厚みH26を50nm以下にした金属膜を用いてもよい。このような金属膜としては、たとえば、厚みが15nm以下の金(Au)、Alなどを用いることができる。また、透明導電膜26は省略されてもよい。
【0088】
続いて、図9および図10を参照して、本実施の形態におけるエピタキシャルウエハ20の製造方法について説明する。
【0089】
まず、図10に示すように、実施の形態1におけるAlGaAs基板10の製造方法にしたがって、AlGaAs基板10を製造する(ステップS1〜S5)。
【0090】
次に、このAlGaAs基板10のAlGaAs層11の主表面11a上に、OMVPE(Organo Metallic Vapor Phase Epitaxy:有機金属気相成長)法またはMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法により活性層を含むエピタキシャル層21を形成する。この工程では、AlGaAs層11上に、上述したような活性層を含むエピタキシャル層21を成長させる。
【0091】
OMVPE法は原料ガスがAlGaAs層11上で熱分解反応することにより活性層を成長させ、MBE法は非平衡系で化学反応過程を介さない方法で活性層を成長させるので、OMVPE法およびMBE法は活性層の厚みを容易に制御できる。このため、2層以上の井戸層を複数有する活性層を容易に成長できる。
【0092】
また、AlGaAs基板10のAlGaAs層11の主表面11aが平坦なので、AlGaAs層11の主表面11a上に活性層を含むエピタキシャル層21を形成する際に、エピタキシャル層21の異常成長を抑制することができる。
【0093】
次に、エピタキシャル層21上に、透明導電膜26を形成する。透明導電膜26の形成方法は特に限定されないが、たとえば電子ビーム蒸着法、スパッタ法などを採用できる。
【0094】
以上の工程(ステップS1〜S6)を実施することにより、図9に示すエピタキシャルウエハ20を製造できる。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20は、実施の形態1のAlGaAs基板10と、AlGaAs層11の主表面11a上に形成され、かつ活性層を含むエピタキシャル層21とを備えている。
【0096】
本実施の形態における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20によれば、AlGaAs層11において、主表面11aのAlの組成比xは、裏面11bのAlの組成比xよりも低く、GaAs基板13は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有するAlGaAs基板10上にエピタキシャル層21を形成している。このため、このエピタキシャルウエハ20を用いて赤外LEDを作製したときに高い特性を維持するとともに、コストを低減することができる。
【0097】
本実施の形態における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20において好ましくは、エピタキシャル層21上に形成された透明導電膜26をさらに備えている。
【0098】
透明導電膜26により、エピタキシャル層21の厚みが小さい場合でも、電流の拡散を促進することができるので、光をチップ全面に広げることができる。したがって、このエピタキシャルウエハ20を用いて作製した赤外LEDの出力をより向上することができる。
【0099】
(実施の形態3)
図11を参照して、本実施の形態における赤外LED30aを説明する。図11に示すように、本実施の形態における赤外LED30aは、エピタキシャルウエハ20と、このエピタキシャルウエハ20にそれぞれ形成された第1および第2の電極31、32とを備えている。本実施の形態における赤外LED30aは、第1および第2の電極31、32の、一方から他方へと電流が流れる、縦型構造を有している。
【0100】
赤外LED30aを構成するエピタキシャルウエハ20は、基本的には実施の形態2と同様である。しかし、AlGaAs基板10を構成するGaAs基板13の厚みは、実施の形態1および2のGaAs基板よりも薄くてもよい。この場合、たとえばAlGaAs層11の厚みH11がAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11+H13+H21)に対して4%以上であることが好ましく、5%以上85%以下であることがより好ましい。なお、チップ状態(赤外LED30a)でのAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11+H13+H21)は、GaAs基板13の裏面13bでの研磨除去後等の厚みを意味する。
【0101】
第1の電極31は、エピタキシャル層21上に形成されている。本実施の形態では、第1の電極31は、透明導電膜26に接するように形成され、かつ光を取り出すために、エピタキシャルウエハ20の表面の一部のみを覆い、残部を露出させている。
【0102】
第2の電極32は、エピタキシャルウエハ20の裏面であるGaAs基板13上に形成されている。第2の電極32は、エピタキシャルウエハ20の裏面の全面を覆ってもよく、一部を覆ってもよい。一部を覆う場合には、たとえばドット状、格子状またはストライプ状に形成できる。
【0103】
エピタキシャル層21において透明導電膜26と接する層がp型の場合、第1の電極31は、たとえばAu(金)とZn(亜鉛)との合金よりなるp型電極であり、AlGaAs基板10下に形成された第2の電極32は、たとえばAuとGe(ゲルマニウム)との合金よりなるn型電極である。
【0104】
続いて、図11および図12を参照して、本実施の形態における赤外LED30aの製造方法について説明する。まず、実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20の製造方法により、エピタキシャルウエハ20を製造する(ステップS1〜S6)。
【0105】
次に、エピタキシャルウエハ20のGaAs基板13の一部を除去する。たとえば、GaAs基板13の裏面13b側を研磨する。研磨は、ダイヤモンド砥石を持つ研削設備などで、アルミナ、コロイダルシリカ、ダイヤモンドなどの研磨剤を用いてGaAs基板13の一部を機械的に削り取ることをいう。なお、この工程は、省略されてもよい。
【0106】
次に、赤外LED用のエピタキシャルウエハ20の主表面および裏面に第1および第2の電極31、32を形成する(ステップS7)。具体的には、たとえば蒸着法により、主表面上にAuとZnとを蒸着して、また、裏面上にAuとGeとを蒸着した後、合金化を施して、第1および第2の電極31、32を形成する。
【0107】
上記工程(ステップS1〜S7)を実施することにより、図11に示す赤外LED30aを製造することができる。
【0108】
以上説明したように、本実施の形態における赤外LED30aは、実施の形態1におけるエピタキシャルウエハ20と、エピタキシャルウエハ20に形成された第1および第2の電極31、32とを備えている。
【0109】
本実施の形態における赤外LED30aによれば、実施の形態2における赤外LED用のエピタキシャルウエハ20を用いているので、高い特性を維持するとともに、コストを低減することができる。
【0110】
本実施の形態における赤外LED30aにおいて好ましくは、AlGaAs層11の厚みH11がAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11+H13+H21)に対して4%以上である。これにより、基板を除去したもの(第2の比較例)と同様の高い出力特性、基板を残したもの(第1および第3の比較例)と同様の高い動作電圧特性を維持できるとともに、AlGaAs層11の厚みを低減できるのでコストを低減できる。それに加えて、一般にチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の関係の制約がある。そのため、AlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、AlGaAs基板10を用いて作製した赤外LEDは、チップでの特性とともに、LEDランプ作製時、および、LEDランプでの優れた特性をあわせて持たせることができる。つまり、作成した赤外LEDから、LEDランプを作成する場合には、厚み方向の寸法が縦方向、横方向の寸法に対し薄すぎる場合、われ、かけ等の問題がおきる。また、厚すぎる場合には、ハンドリングの問題がおきる。さらに、LEDランプ作製時にチップの周囲を樹脂で覆い封止するが、厚み方向の寸法が厚すぎる場合には、縦方向、横方向の応力をうけ、信頼性の問題が発生する。これらによりチップ形状の点から、チップ上面、下面での縦方向、横方向の寸法に対する、厚み方向の寸法に制約があり、このなかでのAlGaAs層11の厚み比率を上記範囲内にすることにより、高信頼性のLEDランプが実現できる。
【0111】
本実施の形態における赤外LED30aにおいて好ましくは、第1の電極31はエピタキシャル層21上に形成され、第2の電極32はGaAs基板13上に形成されている。これにより、第2の電極32の接触面はGaAs基板13となる。GaAs基板13を完全に除去した場合と比較して、第2の電極32の接触面がGaAsとAlGaAsとの違いから接触抵抗が半減以下になり、赤外LED30aの動作時の発熱、長期通電後の劣化が抑制され、高信頼性のLEDランプが実現できる。また、同一出力を得るためには、低IF電流ですむため、より発熱が抑えられ、信頼性が高くなるという利点がある。このように、GaAs基板13のキャリア濃度を制御することにより、高い特性を維持するとともにコストを低減した縦型の赤外LED30aを実現できる。
【0112】
(実施の形態4)
図13を参照して、本実施の形態における赤外LED30bについて説明する。本実施の形態における赤外LED30bは、基本的には実施の形態3の赤外LED30aと同様の構成を備えているが、エピタキシャル層21がエッチングストップ層28を有する点および第1および第2の電極31、32の配置において異なる。
【0113】
具体的には、本実施の形態における赤外LED30bは、実施の形態1のAlGaAs基板10と、AlGaAs基板10上に形成されたエピタキシャル層21と、エピタキシャル層21側に形成された第1および第2の電極31、32とを備えている。本実施の形態では、エピタキシャル層21は、エッチングストップ層28と、このエッチングストップ層28上に形成され、かつ活性層を含む層22とを含む。この活性層を含む層22上に透明導電膜26が形成されている。透明導電膜26上に第1の電極31が形成されている。
【0114】
エピタキシャル層21を貫通し、かつAlGaAs層11の主表面11aまで達する開口部が形成されている。つまり、AlGaAs層11が露出するように開口部が形成されている。この露出面に接するように、第2の電極32が形成されている。つまり、本実施の形態における赤外LED30bは、第1の電極31および第2の電極32の、一方から他方へと電流が流れる、横型構造を有する。言い換えると、赤外LED30bは、エピタキシャルウエハの上面に第1および第2の電極31、32が形成された上面2電極(上部2端子)構造を有する。
【0115】
ここで、赤外LED30bの材料の一例を挙げる。活性層を含む層22がAlGaAs系の活性層を含む場合のエッチングストップ層28は、たとえばAlGaInP、InGaP、InAlPであることが好ましい。活性層を含む層22がAlGaInP系の活性層を含む場合のエッチングストップ層28は、たとえばAlGaAs、GaAsであることが好ましい。
【0116】
エピタキシャル層21においてAlGaAs層11と接する面と反対側の表面に位置する層がp型で、かつ露出したAlGaAs層11において第2の電極と接する露出面に位置する層がn型である場合、第1の電極31がp型電極で、第2の電極32がn型電極である。この場合、第1の電極31は、p型透明電極であることが好ましい。透明電極は、酸化インジウムと酸化スズとの混合物、アルミニウム原子を含む酸化亜鉛、フッ素原子を含む酸化スズ、酸化亜鉛、セレン化亜鉛および酸化ガリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む材質から構成されることが好ましい。第2の電極32は、たとえばAuとGe(ゲルマニウム)との合金よりなる。
【0117】
本実施の形態における赤外LED30bの製造方法は、基本的には実施の形態3における赤外LED30aの製造方法と同様であるが、エピタキシャル層21を形成する工程がエッチングストップ層28を形成する工程と開口部を形成する工程とを含む点、および第2の電極32を形成する位置において異なる。
【0118】
具体的には、実施の形態1と同様に、AlGaAs基板10を製造する。次に、AlGaAs基板10上にエッチングストップ層28を形成し、その後エッチングストップ層28上に活性層を含む層22を形成する。これにより、エピタキシャル層21を形成できる。次いで、この活性層を含む層22上に、透明導電膜26を形成する。これにより、エピタキシャルウエハを製造できる。
【0119】
次に、エピタキシャルウエハ上に、開口部を形成するべき領域以外の領域にマスク層を形成した状態で、ドライエッチングやウエットエッチングにより開口部を形成する。この時、エッチングストップ層28を利用して、エッチングストップ層28上の活性層を含む層22および透明導電膜26に開口部を形成できる。その後、露出しているエッチングストップ層28を除去する。これにより、AlGaAs層11の主表面11aを露出させたエピタキシャルウエハを製造できる。
【0120】
次に、透明導電膜26上に第1の電極31を形成し、露出させたAlGaAs層11の主表面11aに第2の電極32を形成する。これにより、図21に示す赤外LED30bを製造できる。
【0121】
ここで、本実施の形態では、第2の電極32をAlGaAs層11の主表面11aに形成したが、第2の電極32の配置は特に限定されない。たとえばAlGaAs層11の一部にまで貫通する開口部を形成することで露出した露出面に第2の電極32を配置してもよい。また、エッチングストップ層28を除去せずに、エッチングストップ層28上に第2の電極32を形成してもよい。またエッチングストップ層28を形成せずに、エピタキシャル層21、または、AlGaAs層11の一部にまで貫通する開口部を形成することで露出した露出面(主表面11aを含む)に、第2の電極32を形成してもよい。
【0122】
以上説明したように、本実施の形態における赤外LED30bは、エピタキシャルウエハの一方側の面に第1および第2の電極31、32を形成している。
【0123】
エピタキシャル層21側の面に、一方側から他方側へ電流が流れる第1および第2の電極31、32を形成した横型の赤外LEDを作製した場合であっても、GaAs基板13は光吸収を抑制できる条件を満たしているので、高い特性を維持することができるとともに、AlGaAs層11の厚みを小さくできるので、コストを低減できる。
【0124】
また本実施の形態における赤外LED30bにおいて好ましくは、第2の電極32と接するAlGaAs層11の露出面(本実施の形態ではAlGaAs層11の主表面11a)のキャリア濃度は1×1017cm-3以上である。これにより、赤外LED30bの動作電圧を低減できる。一例を挙げると、電流(IF)を20mA流すと、第2の電極32と接続されるコンタクト面の不純物濃度が1×1016cm-3の動作電圧は2.0Vであり、5×1016cm-3の動作電圧は1.9Vであり、1×1017cm-3の動作電圧は1.4Vであり、5×1017cm-3の動作電圧は1.4Vであり、1×1018cm-3の動作電圧は1.4Vである。
【実施例】
【0125】
本実施例では、AlxGa(1-x)As層において、主表面のAlの組成比xは裏面のAlの組成比xよりも低く、かつGaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有することによる効果について調べた。
【0126】
(本発明例1)
本発明例1は、実施の形態1にしたがってAlGaAs基板を製造し、次に実施の形態2にしたがってエピタキシャルウエハを製造し、次に実施の形態3にしたがって赤外LEDを製造した。
【0127】
具体的には、まず、50mmの直径と260μmの厚みとを有するGaAs基板13を準備した。このGaAs基板13はSiがドープされ、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有していた。
【0128】
次に、このGaAs基板13上に、920℃〜室温間の温度条件による徐冷法で1層からなるAlGaAs層11を成長させた。AlGaAs層11は50μmの厚みを有していた。ドーパントとしてテルルをドーピングし、AlGaAs層11において裏面11b側のキャリア濃度は1×1017cm-3で、主表面11a側のキャリア濃度は1×1018cm-3で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に増加していた。
【0129】
AlGaAs層11は、図14に示すAlの組成比xを有していた。具体的には、AlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.20で、主表面11a側のAlの組成比が0.02で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0130】
図14に示すAlの組成比xを測定した本発明例1のAlGaAs層について、Alの組成比の傾き(図14における縦軸で示されるAl組成比の勾配)である△Al/△t(単位:組成差/μm)を求めた。その結果を図15に示す。図15に示すように、本発明例1の△Al/△tは、1×10-3/μm以上6×10-3/μm以下であった。なお、図14および図15において、AlGaAs層11の主表面11aに位置する主表面を深さ0としている。
【0131】
また本発明例1のAlGaAs基板において、AlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して16.1%(=50/310×100)であった。
【0132】
以上の工程により、本発明例1のAlGaAs基板10を製造した。次に、OMVPE法により、AlGaAs基板10上に、活性層を含むエピタキシャル層21を形成した。
【0133】
具体的には、AlGaAs層11の主表面11a上に、n型バッファ層、n型クラッド層、活性層、p型クラッド層、p型窓層およびp型コンタクト層をこの順で成長した。各層の成長温度は、760℃であった。n型バッファ層は0.5μmの厚みを有し、SiがドープされたAl0.15Ga0.85Asよりなり、5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。n型クラッド層は1.0μmの厚みを有し、SiがドープされたAl0.35Ga0.65Asよりなり、5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。p型クラッド層は1.0μmの厚みを有し、ZnがドープされたAl0.35Ga0.65Asよりなり5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。p型窓層は3.5μmの厚みを有し、ZnがドープされたAl0.20Ga0.80Asよりなり、5×1017cm-3のキャリア濃度を有していた。p型コンタクト層は0.2μmの厚みを有し、ZnがドープされたGaAsよりなり、4×1019cm-3のキャリア濃度を有していた。また、活性層は、発光波長940nmとし、5nmの厚みを有し、In0.25Ga0.75Asよりなる井戸層と、15nmの厚みを有し、Al0.30Ga0.70Asよりなるバリア層とを、それぞれ3層有している多重量子井戸構造(MQW)であった。上記エピタキシャル層の厚みは6.7μmであった。
【0134】
次に、エピタキシャル層21において、AlGaAs基板10と接する面と反対側の面上に、電子ビーム蒸着法により、真空炉内で、酸素雰囲気中で、300℃の温度で、透明導電膜26を形成した。透明導電膜26は、300nmの厚みを有するITOとした。
【0135】
以上の工程により、本発明例1のエピタキシャルウエハ20を製造した。このエピタキシャルウエハ20において、AlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みは316.7μmであり、AlGaAs層は50μmであった。
【0136】
次に、GaAs基板13の一部を、ラップにより裏面13b側から除去した。これにより、AlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みを225μmにした。つまり、赤外LEDにおけるAlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して22.2%(=50/225×100)とした。
【0137】
次に、GaAs基板13の裏面13b上に、第2の電極32として、n型電極を形成した。第2の電極32は、ドット状とし、材料をAuGe合金とし、厚みを1μmとした。次に、透明導電膜26上に、第1の電極31として、p型電極を形成した。第1の電極31のパッド径は120μmとし、電極材料をAuとし、合計の厚みを1μmとした。その後、チップ寸法が220μm角または350μm角となるようにスクライブを行なった。以上の工程により、本発明例1の赤外LEDを製造した。
【0138】
(本発明例2)
本発明例2のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs基板10を構成するAlGaAs層11のAlの組成比が異なっていた。具体的には、本発明例2のAlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.35で、主表面11a側のAlの組成比が0.05で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0139】
(本発明例3)
本発明例3のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs基板10を構成するAlGaAs層11のAlの組成比および厚みが異なっていた。具体的には、本発明例3のAlGaAs層11において、AlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.15で、主表面11a側のAlの組成比が0.10で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。またAlGaAs層11の厚みは10μmであり、AlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して3.7%(=10/270×100)であった。
【0140】
また赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して4.4%(=10/225×100)であった。
【0141】
(本発明例4)
本発明例4のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs基板10が異なっていた。
【0142】
具体的には、本発明例4のGaAs基板13は、76mmの直径と230μmの厚みとを有していた。このGaAs基板13はSiがドープされ、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有していた。
【0143】
AlGaAs層11は、49μmの厚みを有する2層からなっており、全体として98μmの厚みを有していた。AlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して29.8%(=98/328×100)であった。
【0144】
またAlGaAs層11の各層において、裏面11b側のAlの組成比が0.40で、主表面11a側のAlの組成比が0.15で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0145】
また赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みの厚みに対して43.6%(=98/225×100)であった。
【0146】
(本発明例5)
本発明例5のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様の構成を備えていたが、AlGaAs基板において異なっていた。
【0147】
具体的には、本発明例5のAlGaAs基板は、GaAs基板13と、GaAs基板13の主表面13aに形成されたAlGaAs層11と、GaAs基板13の裏面13bに形成された裏面AlGaAs層とを備えていた。
【0148】
GaAs基板13は、本発明例4のGaAs基板13と同様であった。GaAs基板13の主表面13aに形成されたAlGaAs層11は、36μmの厚みを有する1層構造であった。図16に示すように、このAlGaAs層11において、裏面11b側のAlの組成比が0.49で、主表面11a側のAlの組成比が0.02で、裏面11b側から主表面11a側に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0149】
図16に示すAlの組成比xを測定した本発明例5のAlGaAs層について、Alの組成比の傾き(図16における縦軸で示されるAl組成比の勾配)である△Al/△t(単位:組成差/μm)を求めた。その結果を図17に示す。図17に示すように、本発明例5の△Al/△tは、4×10-3/μm以上2×10-2/μm以下であった。なお、図16および図17において、AlGaAs層11の主表面11aに位置する主表面を深さ0としている。
【0150】
GaAs基板13の裏面13bに形成された裏面AlGaAs層は、36μmの厚みを有していた。この裏面AlGaAs層は、GaAs基板13との界面のAlの組成比が0.49で、界面と反対側の面のAlの組成比が0.02であり、界面から反対側の面に向けてAlの組成比は常に減少していた。
【0151】
AlGaAs層11および裏面AlGaAs層の厚みは、鏡面研磨後の厚みであり、AlGaAs基板におけるAlGaAs層11の厚みは全体の厚みに対して11.9%(=36/302×100)であった。
【0152】
また赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して16.0%(=36/225×100)であった。
【0153】
(本発明例6〜10)
本発明例6〜10の各々は、基本的には本発明例1〜5と同様の構成を備えていたが、エピタキシャルウエハを製造した後にGaAs基板13の一部を除去して、AlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みを120μmにした点において異なっていた。つまり、本発明例6および7の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して41.7%(=50/120×100)であった。本発明例8の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して8.3%(=10/120×100)であった。本発明例9の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して81.7%(=98/120×100)であった。本発明例10の赤外LEDにおいて、AlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板とエピタキシャル層との合計の厚みに対して30.0%(=36/120×100)であった。
【0154】
(比較例1)
比較例1のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs層を備えていない点において異なっていた。つまり、比較例1のAlGaAs基板はGaAs基板からなり、比較例1のエピタキシャルウエハおよび赤外LEDはGaAs基板上にエピタキシャル層が形成されていた。
【0155】
(比較例2)
比較例2のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs層の厚みを150μmとした点およびエピタキシャル層形成後に、GaAs基板全体を除去する工程をさらに実施した点において異なっていた。つまり、比較例2のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、GaAs基板を備えていなかった。また比較例2の赤外LEDにおいてAlGaAs層11の厚みはAlGaAs基板10とエピタキシャル層21との合計の厚み(H11(=0)+H13+H21)に対して96%(=150/156.7×100)であった。なお、比較例2のエピタキシャル層の厚みは6.7μmであった。
【0156】
(比較例3)
比較例3のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、AlGaAs層においてAlの組成比が0.35で一定であった点において異なっていた。
【0157】
(比較例4)
比較例4のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、GaAs基板のn型キャリア濃度が5×1016cm-3未満であった点において異なっていた。
【0158】
(比較例5)
比較例5のAlGaAs基板、エピタキシャルウエハおよび赤外LEDは、基本的には本発明例1と同様であったが、GaAs基板のn型キャリア濃度が2×1018cm-3を超えていた点において異なっていた。
【0159】
(評価結果)
本発明例1〜10および比較例1〜5の赤外LEDについて、光出力および動作電圧をそれぞれ測定した。この場合のチップ寸法は、220μm角であった。光出力は、定電流源と光出力測定器(積分球)とにより、電流(IF)を20mA流した時の波長が940nmの出力を測定した。動作電圧は、パラメータアナライザを用い、赤外LEDの2電極を介した2端子で測定した。これらの結果を下記の表1に示す。
【0160】
【表1】
【0161】
表1に示すように、AlxGa(1-x)As層において主表面のAlの組成比xが裏面のAlの組成比xよりも低く、かつGaAs基板が5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度を有する本発明例1〜10は、GaAs基板を完全に除去した比較例2の赤外LEDと同程度の光出力を維持できるとともに、低い動作電圧を維持できた。このように、GaAs基板を残していても、本発明例1〜10のAlGaAs基板およびエピタキシャルウエハを用いて形成した赤外LEDの高い特性を維持できた。それに加えて、本発明例1〜10ではAlGaAs層の厚みおよびその比率を小さくすることができるので、コストを低減することができることがわかった。
【0162】
また、AlGaAs層11を備えていなかった比較例1は、本発明例1〜10よりも出力が大幅に低かった。GaAs基板13を備えていなかった比較例2は、AlGaAs層に電極を形成したので、本発明例1〜10よりも動作電圧が高かった。Al組成比が一定であったAlGaAs層を備えていた比較例3は、本発明例1〜10よりも動作電圧が大幅に高かった。n型キャリア濃度が5×1016cm-3未満であった比較例4は、本発明例1〜10よりも動作電圧が高かった。n型キャリア濃度が2×1018cm-3を超えていた比較例5は、本発明例1〜10よりも出力が低かった。
【0163】
ここで、本実施例では、n型キャリア濃度を有するGaAs基板について記載したが、p型キャリア濃度を5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下にすることで同様の効果を有するという知見を本発明者は得ている。また、活性層の構造のみをかえて、波長850nmとした場合でも、本発明例と比較例の出力の大小関係は波長940nmの場合と変わらないという結果が確認され、また、チップ寸法が350μmの場合でも、220μmと同様の傾向が確認され、本構造の設計の差異の効果が確認された。
【0164】
以上より、本実施例によれば、AlxGa(1-x)As層において、主表面のAlの組成比xは、裏面のAlの組成比xよりも低く、かつGaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有することにより、高い特性を維持できるとともに、コストを低減できることが確認できた。
【0165】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0166】
10 AlGaAs基板、11 AlGaAs層、11a,13a 主表面、11b,13b 裏面、13 GaAs基板、20 エピタキシャルウエハ、20 エピタキシャル層、22 活性層を含む層、26 透明導電膜、28 エッチングストップ層、30a,30b 赤外LED、31 第1の電極、32 第2の電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面と、前記主表面と反対側の裏面とを有するAlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)と、
前記裏面に形成されたGaAs基板とを備え、
前記AlxGa(1-x)As層において、前記主表面のAlの組成比xは、前記裏面のAlの組成比xよりも低く、
前記GaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する、AlGaAs基板。
【請求項2】
前記AlxGa(1-x)As層の厚みが全体の厚みに対して0%を超えて30%未満である、請求項1に記載のAlGaAs基板。
【請求項3】
前記AlxGa(1-x)As層は、1層からなる、請求項1または2に記載のAlGaAs基板。
【請求項4】
前記AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最小値が0以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のAlGaAs基板。
【請求項5】
前記AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最大値が0.5以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のAlGaAs基板。
【請求項6】
前記AlxGa(1-x)As層の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、前記2点の厚みの差(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のAlGaAs基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のAlGaAs基板と、
前記AlxGa(1-x)As層の前記主表面上に形成され、かつ活性層を含むエピタキシャル層とを備えた、赤外LED用のエピタキシャルウエハ。
【請求項8】
前記エピタキシャル層上に形成された透明導電膜をさらに備えた、請求項7に記載の赤外LED用のエピタキシャルウエハ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の赤外LED用のエピタキシャルウエハと、
前記エピタキシャルウエハに形成された第1および第2の電極とを備えた、赤外LED。
【請求項10】
前記AlxGa(1-x)As層の厚みが前記AlGaAs基板と前記エピタキシャル層との合計の厚みに対して4%以上である、請求項9に記載の赤外LED。
【請求項11】
前記第1の電極は、前記エピタキシャル層上に形成され、
前記第2の電極は、前記GaAs基板上に形成された、請求項9または10に記載の赤外LED。
【請求項1】
主表面と、前記主表面と反対側の裏面とを有するAlxGa(1-x)As層(0≦x≦1)と、
前記裏面に形成されたGaAs基板とを備え、
前記AlxGa(1-x)As層において、前記主表面のAlの組成比xは、前記裏面のAlの組成比xよりも低く、
前記GaAs基板は、5×1016cm-3以上2×1018cm-3以下のn型キャリア濃度または5×1018cm-3以上3×1019cm-3以下のp型キャリア濃度を有する、AlGaAs基板。
【請求項2】
前記AlxGa(1-x)As層の厚みが全体の厚みに対して0%を超えて30%未満である、請求項1に記載のAlGaAs基板。
【請求項3】
前記AlxGa(1-x)As層は、1層からなる、請求項1または2に記載のAlGaAs基板。
【請求項4】
前記AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最小値が0以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のAlGaAs基板。
【請求項5】
前記AlxGa(1-x)As層のAlの組成比xの最大値が0.5以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のAlGaAs基板。
【請求項6】
前記AlxGa(1-x)As層の厚み方向の異なる2点のAlの組成比xの差を△Alとし、前記2点の厚みの差(μm)を△tとした場合に、△Al/△tが1×10-3/μm以上2×10-2/μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のAlGaAs基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のAlGaAs基板と、
前記AlxGa(1-x)As層の前記主表面上に形成され、かつ活性層を含むエピタキシャル層とを備えた、赤外LED用のエピタキシャルウエハ。
【請求項8】
前記エピタキシャル層上に形成された透明導電膜をさらに備えた、請求項7に記載の赤外LED用のエピタキシャルウエハ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の赤外LED用のエピタキシャルウエハと、
前記エピタキシャルウエハに形成された第1および第2の電極とを備えた、赤外LED。
【請求項10】
前記AlxGa(1-x)As層の厚みが前記AlGaAs基板と前記エピタキシャル層との合計の厚みに対して4%以上である、請求項9に記載の赤外LED。
【請求項11】
前記第1の電極は、前記エピタキシャル層上に形成され、
前記第2の電極は、前記GaAs基板上に形成された、請求項9または10に記載の赤外LED。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図17】
【公開番号】特開2012−15394(P2012−15394A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151862(P2010−151862)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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