説明

C型肝炎ウイルスNS5Bポリメラーゼインヒビター結合ポケット

HCV NS5Bポリメラーゼは、特定のインヒビターと複合体を形成するとき、アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ領域が移動して、一般的にアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503によって定義される結合ポケットを露出する立体配置を採択する。この新しく露出した結合ポケットは、HCV NS5Bに結合してHCV NS5Bのポリメラーゼ活性を調節、好ましくは阻害しうるさらなる化学エンティティーの検索における新しい標的を定義する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、C型肝炎ウイルスNS5Bポリメラーゼ(HCV NS5B)、特に新規なHCV NS5Bインヒビター結合ポケットに関する。この新規なインヒビター結合ポケットを定義する座標及びインヒビタースクリーニング用3次元モデルを含むHCV NS5Bの結晶構造を提供する。この結晶構造とインヒビター結合情報を利用するNS5Bインヒビターの設計方法及びスクリーニング方法も提供する。
【0002】
(発明の背景)
C型肝炎ウイルス(HCV)は、世界中で輸血後肝炎及び院外感染性非A型、非B型肝炎の主要な病原学的物質である。世界中で2億を超える人がこのウイルスに感染していると推定される。高割合の保菌者が慢性的に感染するようになり、多くの人々が慢性肝疾患、いわゆる慢性C型肝炎に進行する。この群は、順次肝硬変、肝細胞癌及び死につながる末期肝疾患のような重篤な肝疾患の高いリスクがある。
HCVがウイルスの持続性を確立して高率の慢性肝疾患を引き起こす機構は完全には解明されていない。HCVがどうやって宿主免疫系と相互作用し、かつその免疫系をどうやって切り抜けるかは分からない。さらに、HCV感染及びHCV疾患の予防における細胞性及び体液性免疫反応の役割を確立しなければならない。
【0003】
HCVは、フラビウイルス科のエンベロープ型の正鎖RNAウイルスである。一本鎖HCV RNAゲノムは正極性のゲノムであり、約3010個のアミノ酸の線状ポリタンパク質をコードする1つの約9600ヌクレオチド長のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。感染した細胞では、このポリタンパク質が細胞プロテアーゼ及びウイルスプロテアーゼによって複数部位で切断されて構造タンパク質及び非構造(NS)タンパク質を生成する。構造タンパク質(C、E1、E2及びE2-p7)は、ウイルス粒子を構成するポリタンパク質を含む。非構造タンパク質(NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A、NS5B)は、前記HCV RNAゲノムの複製を触媒かつ調節する構造又は補助因子をコードする。構造タンパク質のプロセシングは宿主細胞プロテアーゼによって触媒される。成熟非構造タンパク質の生成は2つのウイルス的にコードされたプロテアーゼによって触媒される。第1プロテアーゼは、ポリタンパク質からのNS3タンパク質の放出を自己触媒するNS2/3亜鉛依存性メタロプロテアーゼである。放出されたNS3タンパク質はN-末端セリンプロテアーゼドメインを含み、ポリタンパク質からの残りの切断を触媒する。放出されたNS4Aタンパク質は少なくとも2つの役割を有する。第1の役割は、NS3タンパク質との安定した複合体を形成すること及び該NS3/NS4A複合体の膜局在化で補助することであり;第2の役割はNS3プロテアーゼ活性の補助因子として作用することである。この膜関連複合体は、順次ポリタンパク質の残存部位の切断を触媒することによって、NS4B、NS5A及びNS5Bの放出を果たす。NS3タンパク質のC-末端セグメントもヌクレオシドトリホスファターゼとRNAヘリカーゼ活性を内部にもっている。タンパク質NS4Bの機能は未知である。NS5Aは高度にリン酸化したタンパク質であり、種々のHCV遺伝子型のインターフェロン耐性の原因であると考えられる。NS5Bは、HCVの複製に関与するRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)である。
HCV RNAゲノムのオープンリーディングフレームは、その5'末端に約340個のヌクレオチドの非翻訳領域(NTR)(内部リポソームエントリー部位(IRES)として機能する)が隣接し、かつその3'末端に約230個のヌクレオチドのNTRが隣接している。5'及び3'の両NTRはRNAゲノムの複製で重要である。ゲノム配列の分散はゲノムにわたって均一に分布しておらず、5'NTRと3'NTRの一部が最も高度に保存された部分である。
【0004】
将来の抗ウィルス療法の適切な標的に関して、HCVゲノムのクローン化かつ特徴づけされた部分配列及び完全配列が解析されている。以下の4つのウイルス酵素活性が、可能性のある標的を提供する:(1)NS2/3プロテアーゼ;(2)NS3/4Aプロテアーゼ複合体、(3)NS3ヘリカーゼ及び(4)NS5B RNA-依存性RNAポリメラーゼ(NS5B RdRp)。NS5B RNA依存性RNAポリメラーゼも結晶化され、閉鎖活性部位を有する他の核酸ポリメラーゼの構造的暗示を明らかにした(Ago et al. 1999; Bressanelli et al. 1999; Lesburg et al. 1999)。
複製に必須のウイルス特有の機能は薬物開発で最も魅力的な標的である。哺乳類にRNA依存性RNAポリメラーゼが存在しないことと、この酵素がウイルス複製に必須のようであるという事実は、HCV NS5Bポリメラーゼが抗HCV治療薬の理想的標的であることを示唆するだろう。最近、チンパンジーモデルにおいて、NS5B活性を破壊する突然変異がHCV RNAの感染性を撤廃することが実証された(Kolykhalov, A.A. et al. 2000)。ウイルスRNA複製の初期段階は、NS5B(RdRp)によるRNA鋳型の3'-末端の認識であり、これは直接的又は細胞タンパク質の助けによって間接的に起こりうる(Lai, 1998; Strauss et al., 1999)。 HCVポリメラーゼが着手してこの鋳型を伸長して相補性RNA産物を形成する。
【0005】
数グループがHCV NS5Bポリメラーゼの結晶構造について記載している(Ago et al. 1999(前出);Bressanelli et al. 1999(前出); Lesburg et al. 1999(前出))。それは、寸法が約70Å×60Å×40Åの扁平な球に似ている。ポリペプチド鎖が活性部位を取り囲み、分子中心にキャビティを形成し、結果として他のU型ポリメラーゼとは非常に異なる形態になる。NS5Bのドメイン構成は、フィンガー、パーム(palm)及びサム(thumb)ドメイン(パームドメイン、すなわち残基188〜225及び287〜370は保存されている)に細分されるという点で他のポリメラーゼと一致する。他のポリメラーゼと対照的に、広いサムドメインとフィンガードメインの接触の結果、球形HCVポリメラーゼとなる。この接触は、部分的にフィンガードメインからサムドメインに伸長するループによって媒介される。NS5Bの結晶構造の知識は、構造に基づいた薬物設計で有用であり、実際にNS5Bポリメラーゼ/インヒビター複合体の構造が最近報告された(Wang et al. 2003; Love et al, 2003; EP 1 256 628)。非ヌクレオシド類似体インヒビターは、ポリメラーゼサムドメインのC-末端近傍にある疎水性結合ポケットに、くさび様形式で結合することが分かった。この研究では、この酵素が酵素/インヒビター複合体のほんのわずかなコンホメーションの変化を受けることが判った。NS5Bについて少なくとも2つのNTP結合部位、1つはパームドメイン上の活性部位内であり、可能性のある2つ目はサムドメイン上のアロステリック部位である(O'Farrell et al. 2003; Bressanelli et al. 2002)。
【0006】
興味深いことに、Labonteら(2002)は、NS5BのN-末端フィンガーループの突然変異がそのポリメラーゼ活性に影響を及ぼし、Leu30突然変異体の構造の局部変化がこの活性の減少の原因であると推測すると報告した。しかし、この著者らは、その天然状態ではフィンガーループで“マスク”され、かつLeu30残基の突然変異又は置換によって露出するようになる結合ポケットの存在については沈黙している。この独特の結合ポケットの発見が本発明の主題である。
従って、HCV感染に対する有効な治療を開発する努力は、HCV複製に重要な酵素、最も顕著にはNS5Bポリメラーゼの構造の知識を増やすことによって楽にすることができる。酵素の構造、特に特有のインヒビターと複合したときの酵素構造の知識の増加は、酵素内の結合部位のみならず、酵素/インヒビター複合体のコンホメーション及び酵素内の感受性残基を同定する手段につながり、各知識は薬物の設計及び最適化のプロセスに重要である。
【0007】
(発明の概要)
HCVポリメラーゼが特定のインヒビターと複合体を形成するとき、アミノ酸残基18〜35で定義されるフィンガーループ領域が移動(displace)して、一般的にアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503によって定義される結合ポケットを露出(expose)するコンホメーションを採択することを見いだした。これは、アミノ酸残基18〜35で定義されるフィンガーループがその天然状態でこの結合ポケットを隠すという先行技術で開示されているNS5B結晶構造とは異なる。この新しく“露出した”結合ポケットは、HCV NS5Bに結合してHCV NS5Bのポリメラーゼ活性を調節、好ましくは阻害しうるさらなる化学エンティティーの検索における新しい標的を定義する。
従って、一局面では、本発明は、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5Bインヒビター結合ポケットを含む単離かつ精製ポリペプチドを提供する。ここで、前記結合ポケットは、少なくともアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動によって露出され、かつ前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置(functional configuration)を保持する。
本発明の第2局面では、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケットを含む単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチド類似体が提供される。ここで、前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持し、かつ前記結合ポケットは露出しうる。
さらなる局面では、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケットから成る単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチドが提供される。ここで、前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する。
別の局面では、HCV NS5Bのアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ内に少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含むHCV NS5Bポリペプチド変異体が提供される。ここで、前記突然変異が前記フィンガーループの移動を引き起こして、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって本質的に定義される結合ポケットを露出させ、かつ前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する。
本発明の別の局面では、アミノ酸残基18〜35の移動を特徴とするHCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体が提供される。
本発明の別の局面では、少なくともアミノ酸残基18〜35が欠失している、HCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体が提供される。
本発明の別の局面では、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503の構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義される結合ポケットを含むHCV NS5B結晶構造が提供される。ここで、少なくともアミノ酸18〜35の構造座標によって定義される天然のフィンガーループ鎖が移動して前記結合ポケットを露出する。
本発明の別の局面では、上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体と、前記HCV NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体内の結合ポケットと会合する化合物とを含む複合体が提供される。ここで、前記結合ポケットは、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義される。
【0008】
本発明のさらなる局面では、上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体と、前記ポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体に結合する化合物とを含む結晶化HCV NS5B複合体(前記化合物は、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケットと会合する)の製造方法が提供される。この方法は、以下の工程を含む:
a)結晶化緩衝液内で精製HCV NS5Bポリペプチドをインキュベートして、結晶化NS5Bポリペプチドを得る工程;
b)前記化合物を可溶化する工程;及び
c)前記結晶化NS5Bポリペプチドと前記可溶化化合物を浸漬緩衝液に適切な浸漬時間浸漬してHCV NS5B複合体を得る工程。
上記定義どおりの結晶化HCV NS5B複合体の代替製造方法では、前記化合物を結晶化HCV NS5Bを含有する結晶化緩衝液に加える。
上記定義どおりの結晶化HCV NS5B複合体の別の代替製造方法は、以下の工程を含む:
a)精製HCV NS5Bポリペプチドを前記可溶化形態の化合物と化合(combine)させてNS5B複合体を形成する工程;及び
b)前記複合体を結晶化緩衝液内で結晶化する工程。
【0009】
本発明の別の局面では、上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体と、前記NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体内の結合ポケットと会合する化合物(ここで、前記結合ポケットは、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義される)とを含む複合体のX線結晶構造座標が提供される。
本発明の別の局面では、コンピューター読取り可能記憶媒体であって、その媒体上に、上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体と、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503の構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義されるNS5B結合ポケットと会合する化合物とを含む複合体の結晶構造モデルを記憶しているコンピューター読取り可能記憶媒体が提供される。
【0010】
本発明のさらなる局面では、HCV NS5Bに結合しうる化合物の同定方法であって、以下の工程を含む方法が提供される。
a)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503の構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義されるHCV NS5B結合ポケットの構造座標に3次元分子モデリングアルゴリズムを適用して、前記HCV NS5B結合ポケットの空間座標を決定する工程;及び
b)前記HCV NS5B結合ポケットの前記空間座標に対して、前記化合物の記憶されている空間座標を電子的にスクリーニングして、前記化合物が前記HCV NS5B結合ポケット内で結合しうるかを決定する工程。
【0011】
本発明の別の局面では、可能性のあるHCVインヒビターを同定するための仮想的スクリーニング方法であって、以下の工程を含む方法が提供される。
a)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503の構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義されるHCV NS5B結合ポケットのコンピューターモデルを構築する工程;
b)評価する化合物のコンピューターモデルと前記NS5B結合ポケットとの間のフィッティングプログラム演算を行うための計算手段を使用して、前記結合ポケット内における前記化合物のエネルギー最小化立体配置を与える工程;及び
c)前記フィッティング演算の結果を評価して前記化合物と前記結合ポケットとの間の会合を数量化する工程(ここで、前記結合ポケットと会合して低エネルギーの安定した複合体を与える化合物はNS5Bインヒビターの可能性がある)。
【0012】
本発明のさらに別の局面では、候補HCV NS5Bインヒビター化合物のスクリーニング方法であって、以下の工程を含む方法が提供される。
a)上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体を、結合に好適な条件下で候補インヒビター化合物とインキュベートする工程;及び
b)前記候補インヒビター化合物が前記ポリペプチドに結合するか否かを決定する工程(ここで、前記ポリペプチドに結合する化合物はHCV NS5Bインヒビターの可能性がある)。
本発明の別の局面では、上記定義どおりのNS5Bポリペプチド、ポリペプチド変異体又はポリペプチド類似体に結合する化合物を設計する方法であって、以下の工程:前記化合物と、前記NS5Bポリペプチド内の、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義される結合ポケットとの相補性、すなわち“フィット”を評価する工程を含む方法が提供される。
本発明の別の局面では、HCV NS5BのRNA複製活性を阻害する薬物の製造方法であって、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケット内にフィットする化合物を同定又は設計する工程(ここで、前記結合ポケットは、少なくともアミノ残残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動によって露出する)を含む方法が提供される。
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の局面及び実施態様をさらに詳述する。
(発明の詳細な説明)
(定義)
特に定義しない限り、本明細書で使用する科学用語や技術用語及び命名法は、この発明が属する当業者によって普通に理解されるのと同一の意味を有する。一般的に、細胞培養法、感染法、分子生物学的方法などは当業者に周知である。このような標準的技術は、例えば、Sambrookら(1989)及びAusubelら(1994)のような参考マニュアルで見いだすことができる。
用語“HCV NS5B”は、HCVの複製に関与するC型肝炎ウイルス(HCV)のRNA依存性RNAポリメラーゼを指す。当業者には周知なように、用語HCVは、多くの異なる株、アイソレート及びサブタイプを含むウイルスファミリーを包含する。さらに、このファミリーの各メンバーのNS5Bポリメラーゼは、機能的に等価かつ構造的に高い相同性であるが、アミノ酸配列が幾分異なるだろう。あるHCV NS5Bポリメラーゼのアミノ酸配列、HCV遺伝子型1b由来のNS5Bを配列番号1に示す。他の単離HCV NS5Bポリメラーゼの配列は、公に入手可能な配列データベースでアクセスしうる。
本明細書では、用語“結合ポケット”は、その立体配置の結果として、同一分子若しくは分子複合体のエンティティー若しくは領域、又は異なる分子、分子複合体、化合物若しくは他の化合物のエンティティー若しくは領域と有利に会合し、或いは前記エンティティー又は領域によって有利に占有される、分子若しくは分子複合体の領域を指す。本発明により、本明細書で定義されるNS5B結合ポケットは、残基18〜35のフィンガーループドメインの置換によって露出するようになり、それによってNS5B活性に作用しうる、例えばNS5B活性を阻害しうる化合物の結合を可能にする。典型的に、結合ポケット、又は少なくともその一部は、同一又は異なる分子のエンティティーと相互作用する部位であるキャビティを含む。当業者には明かなように、結合ポケット内のキャビティの性質は分子毎に異なるだろう。
本発明のポリペプチドについて本明細書で使用する場合、用語“単離かつ精製”は、実質的に他の成分がないポリペプチドを指す。
本発明の結合ポケットのアミノ酸配列について本明細書で使用する場合、用語“天然HCV NS5B”は、与えられたHCV NS5B内の結合ポケットの天然のアミノ酸配列を指す。
本発明の結合ポケットについて使用する場合、用語“天然の機能的立体配置”は、特定の化合物/エンティティーと会合又は特定の化合物/エンティティーによって占有されうるポケットを形成するアミノ酸の空間配置を含む天然の配置を指す。
【0014】
本明細書では、“複合体”は少なくとも1つはタンパク質又は酵素である2つ以上のエンティティーの組合せを指す。特に、本発明の複合体は、NS5Bタンパク質(アミノ酸の置換、トランケーション又は挿入を含みうるその類似体を含む)と別の化合物との間で形成される。化合物又は化学エンティティーとタンパク質との組合せ又は“複合体形成”は、化合物又は化学エンティティーとタンパク質との会合/結合の性質を指す。複合体の成分間の会合は成分間の近接状態であり、かつ事実上非共有結合性でよく(前記近位はエネルギー的に水素結合、ファンデルワールス力又は静電相互作用に有利である)、或いは共有結合性でよい。
本明細書では、分子化合物について、用語“類似体”は、アミノ酸の天然配列の生物学的活性(機能的又は構造的)を保持するアミノ酸の天然又は自然配列から変化したアミノ酸配列を表す。この類似体は同種又は異種由来でよく、かつ天然類似体でよく、又は合成的に調製されうる。このような類似体には、そのタンパク質の生物学的活性が保存されるという条件で1個以上のアミノ酸の置換、欠失、又は付加を有するアミノ酸配列が含まれる。特に、用語“保存的類似体”は、生物学的活性を保持するアミノ酸変化を有する類似体を表す。アミノ酸置換を含む類似体は、下記“アミノ酸類似性の表”で定義されるような強いか又は弱い類似性を有する置換を含みうる(例えば、Dayhoff, M.O., (1978), Atlas of Protein Sequence and Structure, 5, suppl. 3, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C.参照)。
【0015】
【表1】

【0016】
本発明の結合ポケットポリペプチドについて本明細書で使用する場合、用語“機能等価類似体”は、結合ポケットの1個以上のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を指す。置換は、例えば、適切な保存性アミノ酸又は保存性合成アミノ酸類似体で上述したように為されうる。本質的に、用語“類似体”は前記定義と一致する。フレーズ“機能的に等価”は、天然分子の生物学的活性を保持する類似体を表す。
アミノ酸又はアミノ酸残基に関する用語“側鎖”は、α-アミノ酸のα-炭素原子に結合される基を意味する。例えば、グリシンのR-基側鎖は水素、アラニンではメチル、バリンではイソプロピルである。α-アミノ酸の特異的R-基又は側鎖については、A.L. Lehninger's text on Biochemistryを参照されたい(チャプター4参照)。
用語“トランケーション”は、分子のいずれの短縮され又は省略されたセグメントをも指し、本発明の目的では、その生物学的活性を保持するセグメントを意味する。トランケーションは天然タンパク質分子の短縮体、又はその類似体を指すこともある。
用語“二乗平均平方根偏差”又は“rms偏差”又は“rmsd”は、平均からの偏差の二乗の算術平均の平方根を意味する。原子対象の文脈では、この数値はオングストローム(Å)で与えられる。この用語は、傾向又は対象からの偏差又は変異を表現する手段である。
【0017】
本明細書では以下の略号を使用する。
DLB:微分線広幅化;
DMSO:ジメチルスルホキシド;
DTT:ジチオスレイトール;
EDTA:エチレンジアミン四酢酸;
FID:自由誘導減衰;
IPTG:イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド;
HEPES:4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸;
MES:2-(N-モルフォリン)エタンスルホン酸;
MPD:2-メチル-2,4-ペンタンジオール
NMR:核磁気共鳴;
NOESY:核オーバーハウザー効果分光法(Nuclear Overhauser Effect Spectroscopy)
PEG:ポリエチレングリコール;
PEG5k mme:モノメチルエーテルポリエチレングリコール5000;
Tris:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン;
TSP:3-トリメチルシリルテトラジューテリオ(deuterio)プロピオン酸ナトリウム。
【0018】
(好ましい実施態様)
(HCV NS5Bポリペプチド)
第1局面では、本発明は、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ以上)によって定義される機能的HCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットは、少なくともアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動によって露出され、かつ前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)を含む単離かつ精製ポリペプチドを提供する。
本発明のこの局面内で、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ以上)によって定義される露出したHCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットは、その天然の機能的立体配置を保持する)から成る単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチドも提供される。
本発明のこの局面では、本ポリペプチドが、その天然の立体配置、すなわち天然HCV NS5Bポリメラーゼで想定される自然の立体配置を想定する結合ポケットを組み入れて、本ポリペプチドが天然の結合ポケットを正確に模倣して有用なHCV NS5Bインヒビタースクリーニングツールになることが重要である。
さらに、本ポリペプチドが、HCV NS5Bインヒビタースクリーニングツールとして効率的に機能するため、インヒビターが結合ポケットにアクセスできるように、インヒビター結合ポケットが露出され、又は少なくとも露出しうることも重要である。HCV NS5Bでは、本発明者らは、NS5Bフィンガーループ鎖の少なくともアミノ酸残基18〜35が移動すると、本明細書で定義される結合ポケットが露出すると決定した。従って、この局面では、結合ポケットが露出した立体配置のポリペプチドが提供される。
【0019】
本発明の結合ポケットは、あるHCV遺伝子型又は株から別のHCV遺伝子型又は株で予測される配列類似性に起因するHCV NS5Bタンパク質内のアミノ酸の位置でアミノ酸について定義される。移動したフィンガーループ領域又は移動しうるフィンガーループ領域もアミノ酸位置、すなわちアミノ酸18〜35について定義される。すべてのHCV NS5Bのアミノ酸のナンバリングは、アミノ酸の挿入又は欠失のため本明細書で例示したHCV NS5Bのナンバリングとわずかに異なりうることが当業者には容易に分かるだろう。本明細書で提示したアミノ酸ナンバリングは、配列番号1に示されるような天然HCV 1b NS5Bポリメラーゼ配列に基づく。しかし、アミノ酸配列の目視検査により、又はVector NTI(InfoMax Inc.提供)のような市販の相同性ソフトウェアプログラムを用いて、他のHCV NS5Bの対応するアミノ酸を同定することができる。この点に関し、NS5Bタンパク質を同定するため、HCV NS5B配列の最初の4個のアミノ酸が典型的に、-SMSY-(配列番号2)であり、ある変種から次の変種に保存されていることが注目に値する。
【0020】
本発明の一実施態様では、結合ポケットは以下のようなアミノ酸配列によって定義される。
(37)* 392-393 395-396 399 424-425 428-429 492-495 (496)* 500 503
(V) L-A A-A T I-L H-F L-G-V-P (P) W R
(配列番号3)
*(括弧は任意のアミノ酸残基を同一に扱う)
或いは、代わりに、
(V37)、L392、A393、A395、A396、T399、I424、L425、H428、F429、L492、G493、V494、P495、(P496)、W500及びR503。
【0021】
当業者には明かなように、本ポリペプチドの機能等価類似体も本発明のこの局面内である。本ポリペプチドの1個以上のアミノ酸残基は、結合ポケット内又は結合ポケットドメインの外側で、機能的に等価なアミノ酸、一般的に上記‘アミノ酸類似性の表’に示したような保存的アミノ酸置換、その合成アミノ酸類似体又は他のHCV遺伝子型に見られるような天然に存在するアミノ酸置換によって置換されうるが、それでもなお機能的形態又は立体配置でその結合ポケットを保持している。本ポリペプチドにアミノ酸の欠失及び/又は挿入が引き起こされてもよい。このようなアミノ酸置換、挿入又は欠失は、スクリーニングアッセイでさらに実用的なポリペプチド、又はさらに調製しやすいポリペプチドを与える。異なるHCV遺伝子型の中の結合ポケット内の天然に存在するアミノ酸置換の通り一遍の例として以下のもの:HCV遺伝子型1b NS5BはT499V置換を有し;HCV遺伝子型1a NS5BはM36L、I424V及びT499A置換を有し;HCV遺伝子型3a NS5Bは M36L、I424V、L425M、及びV494C置換を有し;HCV遺伝子型2b NS5BはM36K、L392I、A393S、I424V、L425I及びV494A置換を有し;HCV遺伝子型は2a、2k、6bはV494A置換を有し;HCV遺伝子型3bはV494I置換を有し;HCV遺伝子型6aはP495L置換を有し;HCV遺伝子型4aはA396V置換を有する;が挙げられるが、いかなる場合にもこれらに限定されない。
【0022】
結合ポケットは、通常、ポリペプチド、例えばNS5Bのいずれかのアミノ酸の原子、すなわち、あるインヒビターが該ポリペプチドと複合体形成するとき、そのインヒビターのいずれかの原子の5Å内にある原子によって定義されることは注目すべきである。種々の計算解析を用いて、本明細書で定義するような結合ポケットを含むポリペプチドが、機能的であるように上述したHCV NS5B結合ポケットに十分に類似しているかを決定することができる。このような解析は周知のソフトウェアアプリケーション、例えばQUANTA[Molecular Simulations Inc, San Diego, Calif.]、Sybyl[Tripos Associates, St. Louis, Mo.]、InsightII[Accelrys]、及びMOE[Chemical Computing Group Inc., Montreal, Quebec, Canada]の分子類似性アプリケーションで行うことができる。
本発明のこの局面から生じる多くの実施態様がある。例えば、本発明の結合ポケットを定義するために上述したアミノ酸に加え、結合ポケットは、HCV NS5Bの1個以上のアミノ酸残基36、426、498又は499をさらに含みうる。好ましくは、これら各位置は以下のように占有される:M36、M426、R498及びT/V499。
この局面の別の実施態様では、本ポリペプチドは、HCV NS5Bの残基36と37のアミノ酸クラスターをその天然の立体配置で含有しうる。位置36及び37は以下のアミノ酸:M36、及びV37によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列M-Vを有する。
別の実施態様では、本ポリペプチドは、HCV NS5Bの残基392〜399のアミノ酸クラスターをその天然の立体配置で含有しうる。位置392〜399は以下のアミノ酸:L392、A393、R394、A395、A396、W397、E398及びT399によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列L-A-R-A-A-W-E-T(配列番号4)を有する。
別の実施態様では、本ポリペプチドは、HCV NS5Bの残基424〜429のアミノ酸クラスターをその天然の立体配置で含有しうる。位置424〜429は以下のアミノ酸:I424、L425、M426、T427、H428及びF429によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列I-L-M-T-H-F(配列番号5)を有する。
別の実施態様では、本ポリペプチドは、HCV NS5Bの残基492〜503のアミノ酸クラスターをその天然のNS5B立体配置で含有しうる。位置492〜503は以下のアミノ酸:L492、G493、V494、P495、P496、L497、R498、T499、W500、R501、H502及びR503によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列L-G-V-P-P-L-R-T-W-R-H-R(配列番号6)を有する。
【0023】
(HCV NS5Bポリペプチド類似体)
第2局面では、本発明は、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持し、かつ前記結合ポケットは露出しうる)を含む単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチド類似体を提供する。
本明細書で開示される天然の結合ポケットの機能的立体配置を保持する上記定義どおりのNS5Bポリペプチド類似体は、有利なことに天然のNS5Bポリペプチドの模擬品を提供し、インヒビタースクリーニングアッセイで使うための天然NS5Bポリペプチドより優れたNS5Bポリペプチドを設計することができる。例えば、より容易に作製かつ使用できるように、或いはより安定するようにポリペプチド類似体を設計することができる。より簡単にアクセスしうる結合ポケットを与えるように設計することもできる。
上記定義、特に用語“類似体”の定義で詳述したようなアミノ酸の置換、欠失又は挿入によってNS5Bポリペプチドを変えてNS5Bポリペプチド類似体を提供しうる。この点に関し、アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖を修飾して、より簡単に移動して本発明の結合ポケットを露出するフィンガーループ鎖を与えるか、或いは移動又は欠失して前記結合ポケットを露出するフィンガーループ鎖を与えることが特に望ましい。
【0024】
上述したように、本HCV NS5B結合ポケットは、NS5Bフィンガーループ鎖の少なくともアミノ酸残基18〜35が移動すると露出される。特定の化合物は、フィンガーループを移動して結合ポケットにアクセスできることも判った。従って、結合ポケットが露出しうる、すなわち、天然のNS5Bタンパク質のセグメント(例えば、アミノ酸18〜35によって定義されるフィンガーループ)によってその天然のNS5B立体配置では隠れている、ポリペプチド類似体が提供される。前記セグメントは、例えば、結合ポケット性向のある化合物によって移動させられて結合ポケットを露出することができる。
本発明のこの局面から生じる多くの実施態様がある。例えば、本発明の結合ポケットを定義するために上述したアミノ酸に加え、結合ポケットは、HCV NS5Bの1個以上のアミノ酸残基36、426、498又は199をさらに含みうる。好ましくは、結合ポケットはこれらすべての残基を含む。さらに好ましくは、これら各位置は以下のように占有される:M36、M426、R498及びT/V499。
この局面の別の実施態様では、本ポリペプチドの結合ポケットは、HCV NS5Bのアミノ酸残基36と37をその天然の立体配置で含有しうる。位置36及び37が以下のアミノ酸:M36、及びV37で占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列M-Vを有する。
この局面の別の実施態様では、本ポリペプチドの結合ポケットは、HCV NS5Bの残基392〜399のアミノ酸残基をその天然の立体配置で含有しうる。位置392〜399は以下のアミノ酸:L392、A393、R394、A395、A396、W397、E398及びT399によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列L-A-R-A-A-W-E-T(配列番号4)を有する。
別の実施態様では、ポリペプチドの結合ポケットは、HCV NS5Bの残基424〜429のアミノ酸残基ーをその天然の立体配置で含有しうる。位置424〜429は以下のアミノ酸:I424、L425、M426、T427、H428及びF429によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列I-L-M-T-H-F(配列番号5)を有する。
別の実施態様では、本ポリペプチドの結合ポケットは、HCV NS5Bの残基492〜503のアミノ酸残基をその天然のNS5B立体配置で含有しうる。位置492〜503は以下のアミノ酸:L492、G493、V494、P495、P496、L497、R498、T499、W500、R501、H502及びR503によって占有されることが好ましく、つまりアミノ酸配列L-G-V-P-P-L-R-T-W-R-H-R(配列番号6)を有する。
さらなる実施態様では、結合ポケット残基の好ましい配列は配列番号1で示される配列に従う。
【0025】
上述したように、結合ポケット及び移動しうる/移動したフィンガーループ領域は、本明細書では、配列番号1で示されるHCV遺伝子型1b NS5B配列に基づき、そのHCV遺伝子型間に存在する高レベルの配列相同性によって、アミノ酸位置で定義される。しかし、当業者は、結合ポケット又はフィンガーループの1個以上のアミノ酸残基の位置にわずかな変化、例えば、ポケット内の1又は2個までの各アミノ酸位置のシフト(1個以上のN-末端アミノ酸の挿入又は欠失によって起こりうる)又はNS5Bタンパク質内のどこか(例えば、結合ポケットの立体配置に影響のない領域)の単一のアミノ酸のシフトがあっても、本発明の結合ポケット及び該結合ポケットを露出するように作用するフィンガーループが得られることが分かるだろう。従って、このような位置の不一致は本発明の範囲内である。
【0026】
(HCV NS5Bポリペプチド変異体)
別の局面では、アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ内に少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含むHCV NS5Bポリペプチド変異体が提供される。ここで、前記突然変異が、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって基本的に定義される結合ポケットを露出するための前記フィンガーループの移動を引き起こし、前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する。
本発明のこの局面のNS5B変異体は、アミノ酸18〜35によって定義されるフィンガーループを移動させるいずれの突然変異をも含みうる。例えば、本明細書で定義されるような結合ポケット内の1個以上の残基と会合を形成するアミノ酸の突然変異は、このような会合を妨げ、それによってフィンガーループの移動又は“開放”を誘発して結合ポケットを露出しうる。
本発明の一実施態様では、HCV NS5Bの位置30及び31のアミノ酸残基の少なくとも1個が突然変異してフィンガーループの移動を引き起こす。好ましい実施態様では、アミノ酸残基31がロイシン以外のアミノ酸残基に突然変異する。さらに好ましくは、アミノ酸残基30が以下のアミノ酸残基から選択される:P、F、W、M、G、S、T、C、Y、N、Q、D、E、K、R及びH。
結合ポケットに関する実施態様、及び結合ポケットを構成しうるさらなるアミノ酸残基、並びにポケット残基の特有の配列は、NS5Bポリペプチド及び類似体について上述した。
本発明の別の局面では、アミノ酸残基18〜35の移動を特徴とするHCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体が提供される。
本発明の別の局面では、少なくともアミノ酸残基18〜35が欠失しているHCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体が提供される。
既に述べたように、アミノ酸残基18〜35の移動又は欠失が、HCV治療薬の開発で重要性のある、本明細書で定義される新規な結合ポケットを露出する。
【0027】
(HCV NS5B結晶構造)
本発明のさらなる局面では、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)の構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義される結合ポケットを含むHCV NS5B結晶構造が提供される。ここで、少なくともアミノ酸残基18〜35の構造座標によって定義される天然フィンガーループ鎖が移動して前記結合ポケットを露出する。好ましくは、前記構造座標は図4、5又は6のいずれか1つに示される。
インヒビター結合ポケットが露出する構造は候補NS5Bインヒビターの設計と開発のための有用なツールである。なぜならば、この構造は、結合ポケットの立体配置及び全体的な性質、すなわち治療薬NS5Bインヒビターの開発を導くために極めて重要な知識をさらに明白に理解する手段を提供するからである。
好ましい実施態様では、結合ポケットがアミノ酸残基36、426、498及び499によってさらに定義されるHCV NS5B結晶構造が提供される。さらなる好ましい実施態様では、結合ポケットがアミノ酸残基36〜37、392〜399、424〜429及び492〜503のクラスターによって定義されるHCV NS5B結晶構造が提供される。
【0028】
(HCV NS5B複合体)
本発明の別の局面では、HCV NS5Bポリペプチドと、前記NS5Bポリペプチド内の、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義される結合ポケットと会合する化合物とを含む複合体が提供される。
本発明のNS5Bインヒビター結合ポケットは、アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ領域の移動によって露出される。結合ポケット自体は、HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)によって定義される。しかし、アミノ酸残基36、426、498及び499の1個以上を加えて結合ポケット自体をさらに定義することができ、さらに以下のアミノ酸残基のクラスター:36〜37、392〜399、424〜429及び492〜503によっても定義することができる。
【0029】
従って、本発明のこの局面によれば、本HCV NS5Bポリペプチドは、天然HCV NS5Bポリペプチドでよく、或いは以下のポリペプチドから成る群より選択されるHCV NS5Bポリペプチド、変異体又は類似体でよい:
i)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義される機能的HCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットは、少なくともアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動で露出され、かつ前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)を含む単離かつ精製ポリペプチド;
ii)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)から成る単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチド;
iii)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持し、かつ前記結合ポケットは露出しうる)を含む単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチド類似体;
iv)アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ内に少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含むHCV NS5Bポリペプチド変異体(前記突然変異が前記フィンガーループの移動を引き起こして、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって基本的に定義される結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)を露出する);
v)アミノ酸残基18〜35の移動を特徴とするHCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体;及び
vi)少なくともアミノ酸残基18〜35が欠失している、HCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体。
【0030】
この局面の好ましい実施態様では、複合体は、以下の特許文献に記載されている化合物ファミリーから選択される化合物と会合する、上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、類似体又は変異体を含む:WO 01/047883、WO 02/004425、WO 03/000254、WO 03/007945、WO 03/010140、WO 03/010141及びWO 03/026587。この局面の好ましい代替実施態様では、複合体は、米国同時係属出願10/755,256、10/755,544及び60/546,213に記載されている化合物ファミリーから選択される化合物と会合する、上記定義どおりのHCV NS5Bポリペプチド、類似体又は変異体を含む。このような化合物が、NS5Bの本発明で請求する結合ポケットと会合して本発明のNS5B複合体を形成することは以前には示されていなかった。
【0031】
さらに好ましい実施態様では、HCV NS5B複合体は、以下に概要を述べるような化合物A、B又はCの1つと会合したNS5Bポリペプチド、類似体又は変異体を含む。
【化1】

【化2】

【化3】

【0032】
図4、5及び6は、それぞれ化合物A、B及びCと複合体を形成した配列番号1のHCV NS5Bの構造座標を示す。これら構造座標を得る方法、その座標の解釈及びそのタンパク質構造、特に本明細書で述べるような結合ポケットの理解における用途は、当業者には理解されるだろう。この点に関してさらなる指導を提供する標準テキスト(例えばCrystal Structure Analysis, Jenny Pickworth Glusker and Kenneth N. Trueblood, 2nd Ed. Oxford University Press, 1985, New York; and Principles of Protein Structure, G. E. Schulz and R. H. Schirmer, Springer-Verlag, 1985, New York)も参照することができる。
さらに、当業者には明かなように、図4、5及び6に示されるような酵素-複合体の1セットの構造座標は、3次元形状を定義する点の相対的セットである。従って、完全に異なるセットの座標が類似又は同一形状、すなわち天然のNS5B結合ポケットの機能等価類似体を定義することもあり、これも本発明の範囲内である。さらに、個々の座標のわずかな変化は全体的形状にほとんど影響しないだろう。結合ポケットに関しては、これら変化は当該ポケットと会合しうる化合物の性質を有意に変えることはないと予想される。
アミノ酸の突然変異、付加、置換、及び/又は欠失、或いは結晶を構成するいずれかの成分の他の変化による結晶構造の変異が構造座標の変化をも説明できることにも注意すべきである。このような変化が、結合ポケットを構成するα炭素について元の座標と比較してrmsd<1.0Åのような許容しうる標準的エラー内である場合、その結果の3次元形状は同一とみなされる。従って、例えば、本明細書で述べるNS5Bの活性部位結合ポケットに結合される化合物は、その構造座標が許容しうるエラー範囲内である形状を定義する別の結合ポケットにも結合すると予測されるだろう。
【0033】
(結晶化方法)
本発明の別の局面では、HCV NS5Bポリペプチドと、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケット内で会合を形成する化合物とを含む結晶化HCV NS5B複合体の製造方法が提供される。
好ましい結晶化方法は以下の工程を含む:
a)結晶化緩衝液内で精製HCV NS5Bポリペプチドをインキュベートして、結晶化NS5Bポリペプチドを得る工程;
b)前記化合物を可溶化する工程;及び
c)前記結晶化NS5Bポリペプチドと前記可溶化化合物を浸漬緩衝液に適切な浸漬時間浸漬して結晶化NS5B複合体を得る工程。
上記定義どおりの結晶化HCV NS5B複合体の代替製造方法では、前記化合物を結晶化HCV NS5Bを含有する結晶化緩衝液に直接加える。
別の代替方法では、NS5Bタンパク質を化合物と一緒に結晶化することによって、上記定義どおりの結晶化HCV NS5B複合体を調製する。この方法は以下の工程を含む:
a)精製HCV NS5Bポリペプチドを前記可溶化形態の化合物と化合させてNS5B複合体を形成する工程;及び
b)前記複合体を結晶化緩衝液内で結晶化する工程。
【0034】
この局面の好ましい態様では、上で同定した化合物ファミリーから選択される化合物とNS5Bを複合化する。さらに好ましくは、化合物は上述したような化合物A、B若しくはC、又はその関連化合物の1つから選択される。上述したように、結晶化方法は、結晶化HCV NS5Bを含有する結晶化緩衝液への化合物の直接添加、又は精製HCV NS5Bポリペプチドを可溶化形態の化合物と化合させることを含みうる。可溶化形態の化合物を使用する場合、化合物は好ましくは約25mMの濃度で100%DMSOに可溶化している。
NS5Bを約5mg/mL〜約15mg/mLの濃度の精製緩衝液と混合する。好ましくは、NS5Bはその精製緩衝液中で約7〜約10mg/mLの濃度で使用する。精製緩衝液(その性質は一般に技術的に周知であり、HCV NS5Bを可溶化するために塩及び/又はグリセロールを含みうる)は約6〜約9のpHで使用する。精製緩衝液の好ましいpHは約7.5である。限定するものではないが、Tris-HCl、HEPES又はビス-Trisのような緩衝液を約0mM〜約50mMの濃度で使用することができる。好ましくは、緩衝液は約20mMの濃度のTris-HClである。
HCV NS5Bを安定化するため、NaCl、(NH4)2SO4、又はKClのような塩を約200mM〜約800mMの濃度で緩衝液に添加することができる。好ましくは、塩は300mMの濃度のNaClである。 さらにHCV NS5Bを安定化するため、グリセロールを約0%〜約30%の濃度で添加することができる。好ましくは、グリセロールは約10%の濃度である。
さらに好ましくは、精製緩衝液は約pH7.5で、約20mM濃度のTris-HCl、約10%濃度のグリセロール、約5mM濃度のDTT、及び約300mM濃度のNaClを含む。
【0035】
NS5Bポリペプチドは、技術的に周知の種々のいずれの技術を用いても結晶化することができ、例えば、油下のバッチ結晶化、懸滴蒸気拡散法又は座滴蒸気拡散法(sitting drop vapor diffusion techniques)が挙げられる。本発明の目的ではMcPhersonらによって記載されているような(Preparation and Analysis of Protein Crystals, Krieger Pub. 1989)懸滴蒸気拡散法が好ましい結晶化方法である。要するに、この結晶化法は、レザバー溶液上に、結晶化緩衝液中に精製NS5Bを含有する液滴を置くことを含む。この液滴からの蒸気拡散がタンパク質濃度を高め、ひいては結晶化を促進する。
使用する結晶化緩衝液は、この目的に適した当業者に周知の多数の緩衝液のいずれからも選択することができ、限定するものではないが、約50mM〜約0.2MのMES、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム又はコハク酸ナトリウムが挙げられる。好ましくは、結晶化緩衝液は、約0.1MのMESである。
結晶化緩衝液のpHは、典型的に約4.5〜約6.5であり、好ましくは結晶化緩衝液は約5.4のpHで使用する。
結晶化緩衝液は、NS5Bの結晶化を促進する少なくとも1種の沈殿剤をさらに含みうる。適切な沈殿剤の例として、限定するものではないが、PEG、PEG5K mme(モノメチルエーテルポリエチレングリコール5000)、硫酸アンモニウム、MPD、イソプロパノール、エタノール、又は三級ブタノールが挙げられる。沈殿剤は、一般的に約30%〜約40%の濃度で使用する。好ましい実施態様では、沈殿剤は約21%濃度のPEG5K mme及び約0.4mM濃度の硫酸アンモニウムである。
NS5Bの結晶化は、標準的な結晶化条件下で行う。例えば、約0℃〜約22℃の温度で結晶化を行う。結晶化を行う好ましい温度は約4℃〜約11℃である。
好ましい結晶化法では、可溶化化合物を浸漬緩衝液の存在下で結晶化NS5Bポリペプチドに浸漬する。浸漬緩衝液は多くの標準的緩衝液のいずれをも含でよく、限定するものではないが、約50mM〜約0.2Mの濃度のMES、Tris、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びコハク酸ナトリウムが挙げられる。好ましくは、浸漬緩衝液は約0.1Mの濃度で使用する。M浸漬緩衝液のpHは典型的に約5〜約8であり、好ましくは浸漬緩衝液は約7.0のpHで使用する。
浸漬緩衝液のタンパク質含量は、いずれかの適切なタンパク質を添加して約10mg/mLまでの濃度に補充する。添加するタンパク質として、限定するものではないがリゾチーム、BSA又は追加のNS5Bが挙げられる。
浸漬緩衝液は、NS5B安定剤として作用する添加剤を含みうる。NaCl、(NH4)2SO4又はKClのような1種以上の塩を緩衝液に約100mM〜約500mMの濃度で添加することができる。好ましくは、約150mM〜約300nMの濃度で塩を添加する。さらに好ましくは、NaCl及び(NH4)2SO4の両者を、それぞれ約210mM及び約280mMの濃度で添加する。
さらにHCV NS5Bを安定化するため、グリセロールを約10〜約20%の濃度で浸漬緩衝液に添加することができる。好ましくは、約14%の濃度でグリセロールを添加する。
浸漬緩衝液は、結晶化を促進する少なくとも1種の沈殿剤をさらに含みうる。適切な沈殿剤の例として、限定するものではないが、PEG、PEG5K mme(モノメチルエーテルポリエチレングリコール5000)、硫酸アンモニウム、MPD、イソプロパノール、エタノール、又は三級ブタノールが挙げられる。沈殿剤は、一般的に約10%〜約18%の濃度で使用する。好ましい実施態様では、沈殿剤は約14%濃度のPEG5K mme及び約0.4mM濃度の硫酸アンモニウムである。
約1〜約12時間、好ましくは約3〜8時間、最も好ましくは約5〜約6時間の適切な浸漬時間、浸漬緩衝液に結晶化NS5Bを可溶化化合物と共に浸漬する。浸漬は約5〜約15℃の温度、好ましくは約11℃の温度で行う。
【0036】
1つの代替結晶化法では、結晶化NS5Bを含有する結晶化緩衝液に化合物を添加する。この方法では、単に化合物を緩衝液上に振りかけ、適宜の時間インキュベーション後可溶化かつ結晶化させる。
別の代替結晶化法では、NS5B単独について上述したような結晶化緩衝液内でNS5Bと化合物を一緒に結晶化する。この方法では、NS5Bと可溶化化合物を結晶化緩衝液内で混ぜ合わせ、上述したような結晶化条件下で結晶させる。
本発明によれば、結晶化NS5B複合体がX線結晶学に適用できることが重要である。X線結晶解析を用いると、得られたNS5B複合体の結晶は、単位胞寸法a=105.1、b=106.6及びc=133.5の空間群P2(1)2(1)2(1)に属し、非対称単位毎に2個の分子を含む。R-軸IV++イメージプレート領域検出器を備えた(Rigaku, Japan)MicroMax007ホームソースX線生成器を用いて回折データを測定した。好ましくは、2.8Åの解像度に対するデータを複合体の単一結晶について収集した。
【0037】
(X線座標)
なお別の局面により、上述したようなNS5B複合体のX線結晶構造座標が提供される。なおさらに好ましくは、NS5B複合体の構造座標のセットが図4、図5及び図6の1つに従って定義される。
この発明のNS5B複合体の3次元構造は、図4、図5及び図6のいずれか1つに示されるような1セットの構造座標によって定義される。用語“構造座標”は、結晶形態の複合体原子(散乱中心)によるX線の単色ビームの回折に基づいて得られたパターンに関連する数学的演算から誘導されるデカルト座標を指す。回折データを用いて結晶の反復単位の電子密度マップを計算する。この電子密度マップを用いて、構造座標として知られる結合ポケットの個々の原子の位置を立証する。
当業者は、タンパク質若しくはタンパク質-インヒビター複合体又はその一部の1セットの構造座標が3次元の形状を定義する点の相対的なセットであることが分かるだろう。従って、全体的に異なるセットの座標が類似又は同一形状を定義する可能性もある。
座標の変化は構造座標の数学的操作によって生じうる。例えば、図4、5又は6に示される構造座標は、その構造座標の結晶学的順序の交換、構造座標セットに対するフラクショナリゼーション若しくはマトリックス演算又は上記のいすれかの組合せによって操作することができる。
分子若しくは分子複合体又はその一部が本明細書で述べたHCV NS5Bタンパク質又はNS5B複合体のすべて又は部分に等価とみなすのに十分類似であるかを決定するためには種々の計算解析が必要である。このような解析は、QUANTA[Molecular Simulations Inc, San Diego, Calif.]、Sybyl[Tripos Associates, St. Louis, Mo.]、InsightII[Accelrys]、及びMOE[Chemical Computing Group Inc., Montreal, Quebec, Canada]の分子類似性アプリケーションのような現在のソフトウェアアプリケーションを用いて行うことができる。
分子類似性アプリケーションは異なる構造、同一構造の異なるコンホメーション、及び同一構造の異なる部分間の比較を可能にする。分子類似性で構造を比較するために用いる手順は以下の4つの工程に分けられる:1)比較すべき構造をロードする;2)これら構造の原子等価性を定義する;3)フィッティング(重ね合わせ)演算を実行する;及び結果を解析する。
【0038】
(コンピューター読取り可能記憶媒体)
さらに、本発明の別の局面では、コンピューター読取り可能記憶媒体であって、HCV NS5Bポリペプチドと、図4、5及び6に示されるような天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)の構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義されるNS5B結合ポケットと会合する化合物とを含むHCV NS5B複合体の結晶構造モデルを記憶しているコンピューター読取り可能記憶媒体が提供される。
コンピューター読取り可能記憶媒体は当業者に周知であり、例えば、ハードディスク、CD-ROM、ディスケット(“フロッピーディスク”)及びDVDが挙げられる。
本発明のこの局面により、NS5B複合体、及びその部分の構造座標を機械読取り可能記憶媒体に記憶させることができる。このようなデータは、創薬及びタンパク質結晶のX線結晶解析のような種々の目的で使用することができる。
この局面の好ましい実施態様では、HCV NS5B複合体は、上で同定した化合物ファミリーの化合物と複合体形成したNS5Bを含む。さらに好ましくは、NS5B複合体は、化合物A、B又はCの1つと複合体形成したNS5Bを含む。
既に述べたように、結合ポケットは、36、426、498及び499から選択される1個以上のアミノ酸残基を加えてさらに定義することができ、或いはなおさらにアミノ酸クラスター36〜37、392〜399、424〜429及び492〜503によって定義しうる。
【0039】
図4、5及び6に示される座標データのようなNS5B複合体の座標データは、ソフトウェアでプログラムしたコンピューターと共に用いてそれら座標を3次元構造に翻訳すると、種々の目的、特に創薬に関する目的で使用しうる。このような3次元グラフ図を生成するためのソフトウェアは周知であり、かつ市販されている。例として、Quanta及びWebLite Viewerが挙げられる。座標データを即使用するためにはコンピューター読取り可能形式で記憶させる必要がある。従って、本発明により、3次元構造として表示することができるデータがコンピューター読取り可能記憶媒体に記憶されており、この記憶媒体は、前記データの使用説明書によってプログラムした機械で使用すると、本明細書で定義したとおりのHCV NS5B結合ポケットのHCV NS5B複合体の3次元グラフ図を表示することができる。
HCV NS5BのX線座標データは、NS5B阻害活性の可能性のある化合物のスクリーニングに役立つ。例えば、このデータによってコードされるポリペプチドNS5B結合ポケット構造は、与えれた化合物と会合又は結合するその能力についてコンピューターで評価することができる。あるタイプの会合又は結合を介して本明細書で定義した結合ポケットに“フィット”することが判った化合物は、HCV NS5Bポリメラーゼの生物学的活性も妨害しうるので、可能性のある薬物候補に相当しうる。さらに、データをコンピューターのスクリーン上に3次元グラフ図で表示することができ、HCV NS5B結合ポケット及びNS5B複合体の結合ポケット内の化合物の会合を目視検査することができる。
【0040】
(HCV NS5Bと会合/結合する化合物を同定する仮想的方法)
さらなる局面では、本発明は、HCV NS5Bと複合体形成する化合物の可能性を評価するために仮想的方法を提供する。これら方法は、本発明の結合ポケットに会合又は結合しうる化合物の検索、最終的には、HCV感染をもたらす結合ポケットとの会合/結合による治療効果を有する化合物の検索における第1スクリーンという意味をもつ。
従って、本発明のさらなる局面では、可能性のあるHCVインヒビターを同定するための仮想スクリーニング方法であって、以下の工程を含む方法が提供される。
a)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体の構造座標によって定義されるHCV NS5B結合ポケットのコンピューターモデルを構築する工程;
b)評価する化合物のコンピューターモデルと前記NS5B結合ポケットとの間のフィッティングプログラム演算を行うための計算手段を使用して、前記結合ポケット内における前記化合物のエネルギー最小化立体配置を得る工程;及び
c)前記フィッティング演算の結果を評価して、前記化合物と前記結合ポケットとの間の会合を数量化する工程(ここで、前記結合ポケットと会合して低エネルギーの安定した複合体を生じさせる化合物は、NS5Bインヒビターの可能性がある)。
【0041】
さらに、本発明は、HCV NS5Bに結合しうる化合物を同定する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
a)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)によって定義されるHCV NS5B結合ポケットの構造座標に3次元分子モデリングアルゴリズムを適用して、前記HCV NS5Bの結合ポケットの空間座標を決定する工程;及び
b)前記HCV NS5B結合ポケットの空間座標に対する候補化合物の記憶されている空間座標を電子的にスクリーニングして、前記HCV NS5B結合ポケット内で結合しうる化合物を同定する工程。
本発明のこの局面の好ましい実施態様では、前記結合ポケットはアミノ酸残基36、426、498及び499から選択される1個以上のアミノ酸残基によってさらに定義することができ、或いはアミノ酸残基36〜37、392〜399、424〜429及び492〜503によって定義される1個以上のアミノ酸クラスターによって定義しうる。
本発明の別の好ましい実施態様では、結合ポケットの構造座標が図4、5及び6のいずれか1つに示される当該座標、或いは当業者に明かなような機能的に等価な構造座標である。
【0042】
本発明のこの局面により、いずれの与えられた化合物も本明細書で定義されるHCV NS5B結合ポケットと会合するその能力についてコンピューターで評価し、ひいてはそのNS5Bインヒビターとしての可能性を決定することができる。上記で暗示されるように、QUANTA[Molecular Simulations Inc, San Diego, Calif.]、Sybyl[Tripos Associates, St. Louis, Mo.]、InsightII[Accelrys]、MOE[Chemical Computing Group Inc., Montreal, Quebec, Canada]のような周知のソフトウェアを用いて、本明細書で定義されるようなHCV NS5B結合ポケットから成るポリペプチドのコンピューターモデルを構築する。評価すべく選択した化合物を結合ポケット内で種々の配向で位置づけ、つまりドックする(docked)。ドッキング(docking)は、GRID、DOCK、AUTODOCK、FlexX、及びGOLDのようなソフトウェアを用いて達成することができる。化合物を結合ポケット内でドックしてNS5B複合体の“仮想”表現を形成すると、さらに計算手段を使用して複合体の定量マップ及び定性マップを生成することができる。この定量マップ及び定性マップとして、例えば、QUANTA、Sybyl、InsightII、及びMOEのようなソフトウェアを用いるファーマコフォア(pharmacophore)マップ、表面特性マップ(コノリー(Conolly)、ガウシアン(Gaussian)及びファンデルワールス表面をマップする)及び確率的受容体可能性のマップが挙げられる。
【0043】
選択した化合物が本HCV NS5B結合ポケットに結合する効率をコンピューターによる評価で試験かつ最適化することができる。NS5B結合ポケット内の与えられた化合物のフィットの質は、例えば、目視検査で定性的に決定され、或いはLUDI、PLP、PMF、SCORE、GOLD及びFlexXのようなスコアリング関数を用いて定量的に決定されるような形状、大きさ及び静電相補性によって評価することができる。これら定性的及び定量的評価の方法は、別個に用い、或いは例えばコンセンサススコアリング様式におけるように併用することができる。
代わりに、化合物とHCV NS5Bの結合又は会合によって形成される複合体の相互作用エネルギーに基づいて結合効率を決定することができる。例えば、本明細書で述べる様式で“低エネルギーの安定した複合体”をNS5Bと形成することが判った化合物は、可能性のあるNS5Bインヒビターとしてさらなる分析を請け合う。本明細書では、用語“低エネルギーの安定した複合体”は、ファンデルワールス相互作用エネルギー値、すなわち化合物とNS5Bとの相互作用のファンデルワールスエネルギーが約8000kcal/mol未満であるNS5B複合体と定義する。ファンデルワールス相互作用エネルギー値は、ソフトウェアMOEを用いて決定することができ、それはMFF94力場に基づく。従って、約8000kcal/mol未満のファンデルワールス相互作用エネルギー値を有する複合体を形成することが判った化合物は、NS5Bインヒビターの可能性がある。好ましくは、本発明の低エネルギーの安定した複合体は、約6000kcal/mol未満、さらに好ましくは約4000kcal/mol未満のファンデルワールス相互作用エネルギー値を有する。
【0044】
(本発明のNS5Bポリペプチド変異体/類似体の使用方法)
一度、上述したような仮想的方法を用いて一連の化合物をスクリーニングすると、HCVインヒビターの可能性があると判った化合物をさらに評価して、各化合物が本発明の結合ポケットと相互作用し、かつHCVを阻害する実際の性向を決定することができる。
従って、本発明のさらに別の局面では、候補HCV NS5Bインヒビター化合物のスクリーニング方法であって、以下の工程を含む方法が提供される。
a)候補インヒビター化合物を、以下のポリペプチド:
i)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義される機能的HCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットは、少なくともアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動で露出され、かつ前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)を含む単離かつ精製ポリペプチド;
ii)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)から成る単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチド;
iii)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持し、かつ前記結合ポケットは露出しうる)を含む単離かつ精製HCV NS5Bポリペプチド類似体;
iv)アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ内に少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含むHCV NS5Bポリペプチド変異体(前記突然変異が前記フィンガーループの移動を引き起こして、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって基本的に定義される結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)を露出する);
v)アミノ酸残基18〜35の移動を特徴とするHCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体;及び
vi)少なくともアミノ酸残基18〜35が欠失している、HCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体;
から成る群より選択されるポリペプチドと結合するのに適した条件下でインキュベートする工程;及び
b)前記候補インヒビター化合物が前記ポリペプチドに結合するか否かを決定する工程(ここで、前記化合物に結合する化合物はHCV NS5Bインヒビターの可能性がある)。
定義したHCV NS5B結合ポケット内の候補化合物の結合は、技術的によく確立されている方法で決定することができる。例えば、候補化合物を本発明のNS5B結合ポケットを含有するポリペプチドに、会合又は結合が起このに適した条件下で露出させる結合アッセイを使用することができる。例えば、NMR又は他の周知の検出技術を用いて結合について評価する。
【0045】
(HCV NS5Bインヒビターの設計方法)
本発明のさらなる局面では、本明細書で定義されるNS5B結合ポケットと会合する化合物の設計方法が提供される。従って、本発明は、分子設計法を用いて、NS5B内の新規結合ポケットの構造に基づいてHCV NS5Bの可能性のあるインヒビターを同定、選択又は設計する機会を提供する。このような予測モデルは、HCV NS5Bタンパク質に結合しうるか又は結合しえない多種多様な化合物の調製及び試験に付随する高コストに照らして有益である。
この発明により、可能性のあるNS5Bインヒビターを実際に合成かつ試験する前に、本明細書で定義されるようなNS5B結合ポケットと結合するその能力について評価することができる。提案した化合物が結合ポケットと不十分な相互作用又は会合を有すると予測された場合、その化合物の調製と試験は取り除かれる。しかし、コンピューターモデリングが強い相互作用を示す場合、化合物を得てその結合する能力について物理的に試験することができる。結合を確認する試験は、当業者の理解範囲内の通常のアッセイを用いて達成することができる。
この点に関し、上記定義どおりのNS5Bポリペプチドに結合する化合物を設計する方法であって、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるNS5Bポリペプチド内における前記化合物と結合ポケットとの間の相補性、すなわち“フィット”を評価する工程を含む方法が提供される。
同様に、HCV NS5BのRNA複製活性を阻害する薬物の製造方法であって、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503(及び任意に、アミノ酸残基37と496の1つ)、又はその機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケット(ここで、前記結合ポケットは、少なくともアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動で露出される)にフィットする化合物を同定又は設計する工程を含む方法が提供される。
【0046】
初めて、本発明は、構造に基づいた又は合理的な薬物設計法を用いて、本明細書で定義される新規なNS5B結合ポケットにフィットし及び/又は前記結合ポケットと結合しうる化学エンティティー(阻害化合物を含む)を設計、選択、及び合成することを可能にする。
この発明で可能になる1つの特に有用な薬物設計法は、反復性薬物設計である。反復性薬物設計は、連続セットのタンパク質/化合物複合体の3次元構造を決定及び評価することによって、タンパク質と化合物との会合を最適化する方法である。
当業者は、天然リガンド又は基質のその対応する受容体又は酵素の結合ポケットとの会合は、作用の多くの生物学的機構の基礎であることを認識しているだろう。同様に、多くの薬物は、受容体及び酵素の結合キャビティとの会合を通じてその生物学的効果を発揮する。このような会合は、結合ポケットのすべての部分又はいずれかの部分と起こりうる。このような会合を理解することは、薬物の標的受容体又は酵素とのさらに好ましい会合、ひいては改良された生物学的効果を有する薬物の設計をもたらす助けになる。従って、この情報は、HCV NS5B様ポリペプチド、さらに重要には、HCV NS5Bのインヒビターのような受容体又は酵素の可能性のあるリガンド又はインヒビターの設計で有益である。
反復性薬物設計では、一連のタンパク質/化合物複合体の結晶を得てから各複合体の3次元構造を解析する。このようなアプローチは、各複合体のタンパク質と化合物との間の会合への洞察を与える。これは阻害活性を有する化合物を選択し、この新規タンパク質/化合物複合体の結晶を得、この複合体の3次元構造を解析し、かつその新規タンパク質/化合物複合体及び以前に解析されているタンパク質/化合物複合体間の会合を比較することによって達成される。化合物の変化がどのようにタンパク質/化合物複合体に影響しているかを観察することによって、これらの会合を最適化することができる。
以下、特有の実施例で本発明の実施態様について説明するが、これら実施例は限定と解釈すべきでない。
【0047】
(実施例)
実施例1−HCV NS5Bの発現及び精製
成熟NS5Bで通常見られるC-末端の21個のアミノ酸を欠く変異体の発現によって、組換えHCV遺伝子型1b(J4株)NS5Bポリメラーゼ(配列番号1に示されるアミノ酸配列)を可溶性形態で生成した。本発明の目的では、このNS5BΔ21をC-末端のヘキサ-ヒスチジン配列で発現させた。大腸菌株JM109(DE3)中pETベクターからのNS5Bの発現は、3時間24℃にて0.4mM IPTGで誘発した。細胞を収集し(25mM Tris pH7.5、10%グリセロール、1mM EDTA、500 mM NaCl、2mM 2-メルカプトエタノール及びプロテアーゼインヒビターの混液(Roche Biochemicals Inc.から購入しうる標準的混液)中、微小流動化装置内で可溶化した。遠心分離後(30,000X)、ライセートを以下の連続クロマトグラフ処理に従って精製した:(i)Ni-NTA樹脂(Qiagen)及びイミダゾールの濃度を増やす(10mM〜500mM)緩衝液による溶出を用いる金属アフィニティー;(ii)DEAE-セファロース(Sepharose)クロマトグラフィー(NS5Bが300mM NaClを含有する緩衝化溶液中カラムを通じて流れる);(iii)ヘパリンセファロースクロマトグラフィー(NS5Bは200mM NaClを有する緩衝化溶液中にあり、次いで、結合したNS5Bを1Mまでの勾配のNaClを含有する緩衝液で溶出した)。NS5Bタンパク質に富む溶出フラクションをResource Sカラム上で濃縮し、20mM Tris-HCl pH 7.5、10%グリセロール、5mM DTT、300mM NaCl中のSuperdex 200カラムに適用した。高純度のHis-タグNS5Bを含有するピークフフラクションを使用するまで-80℃で貯蔵した。
【0048】
実施例2−HCV NS5Bの結晶化
実施例1で詳述したとおりに得たHCVポリメラーゼNS5B株1b/J4(配列番号1)を、沈殿剤としてモノメチルエーテルポリエチレングリコール5000(PEG5Kmme)を用いてそのアポ型で結晶化した。懸滴蒸気拡散法(McPherson,前出)で大きい単結晶を得た。特に、1μLのNS5B(7.66mg/mL、20mM Tris、pH 7.3、300mM NaCl、10%グリセロールを含有する精製緩衝液中)を21%PEG5Kmme、0.1M MES、pH 5.4、10%グリセロール及び0.4Mの硫酸アンモニウムで調製した溶液1μLに加えた。結果の2μLの液滴を21% PEG5Kmme、0.1M MES pH 5.4、20%グリセロール及び0.4Mの硫酸アンモニウムのレザバー溶液1mL上で懸濁させた。得られたNS5B複合体の結晶は、単位胞寸法a=105.1、b=106.6及びc=133.5で、非対称単位毎に2個の分子を含有する空間群P2(1)2(1)2(1)に属する。等軸回転対陰極源からのX線を用いて2Åまでの解像度に回折することが分かった。
【0049】
実施例3−インヒビター化合物A、B及びCの調製
インヒビター化合物Aは、2004年1月12日提出の同時係属米国出願10/755,256に詳述されているとおりに調製した。
インヒビター化合物Bは、2004年1月12日提出の同時係属米国出願10/755,256に詳述されているとおりに調製した。
インヒビター化合物Aは、2003年1月22日公開のWO 03/007945に詳述されているとおりに調製した。
【0050】
実施例4−NS5B-インヒビター複合体の形成
(インヒビター浸漬)
14% PEG5Kmme、14mM Tris pH 7.5、70mM MES pH 7.0、14%グリセロール、210mM NaCl、10mg/mLリゾチーム及び280mMの硫酸アンモニウムで調製した浸漬溶液の5μLの液滴中に結晶を移した。インヒビター分子を25mM濃度にDMSOに溶かした。インヒビター溶液(0.2μL)を5μLのNS5B結晶液滴に加え、5〜6時間11℃でインキュベートした。インキュベーション後、NS5B-インヒビター複合体の結晶をクリオループ(cryoloop)(Hampton Research, California, USA)で溶液から移し、液体窒素内でクリオ-冷却した。化合物A及びBを用いてNS5B複合体を調製した。
(データ収集)
Raxis-IV++イメージプレート検出器を備えたMicroMax-007回転対陰極X線生成器(Rigaku/MSC, Texas, USA)で回折データを収集した。化合物A及びBで調製したNS5B複合体について、-180℃でクリオ-冷却した単結晶に関する2.8Åまでの解像度に対するデータを収集した。
【0051】
(フェージング(Phasing)、モデルの構築と精製)
HCV NS5Bの公に入手可能な構造(pdbコード:1C2J)を用いて分子置換(MR)によって回折データをフェージングした。回転及び翻訳検索はプログラムCNX(Accelrys)を用いて行った。モデルの構築はソフトウェアO(Alwyn Jones, Upsala University, Sweden)で行い、モデル精製はCNXソフトウェア(Accelrys)で達成した。望ましい結果が得られるまでモデル構築とモデル精製の手続を繰り返してモデルを改良した。各場合の最終モデルは、NS5B A及びNS5B B(すなわち残基A1〜A149、A154〜A563、B1〜B17、B36〜B148及びB153〜B563)として同定される2分子のNS5Bと、NS5B分子Bと会合した1分子の化合物A又はBを含んでいた。結果の化合物A-NS5B複合体及び化合物B-NS5B複合体の原子構造座標は、それぞれ図4及び図5に示される。
2.8Åの解像度に対する最終的なNS5B-化合物A複合体の結晶学的R係数は21.9%であり、Rフリー係数は28.0%だった。NS5B-化合物B複合体では、2.7Åの解像度に対する最終的な結晶学的R係数は21.9%であり、Rフリー係数は25.7%だった。
【0052】
実施例5−NMR結合コンホメーションに基づいたNS5B-化合物C複合体のモデル
本明細書で詳述される数工程でHCVポリメラーゼ上の化合物Cの結合部位を決定した。まず、NMR分光法(転移NOESY)を適用してHCVポリメラーゼに結合しているときの化合物Cの構造を決定した。別のNMR法、微分広幅化(differential line-broadening)(DLB)は、結合状態でさらされる溶媒である化合物Cのセグメントに対して、該ポリペプチドと接触するようになる化合物Cのセグメントを同定する助けをした。結合した構造をNS5B-化合物A複合体のX線誘導構造上にドックした。ドッキング手順は、化合物A及び化合物Cのインドール及びベンズイミダゾール骨格鎖の5/6芳香族環の共通の特徴を重ねることで始めた。すべての微分線広幅化データを明らかにし、MOEで複合体をエネルギー最小化した。
転移NOESY及びDLBデータは以下のように得た。DMSO-d6(0.31mgの化合物Cを含有)中の濃縮溶液15μLを20mM Tris-d11、2mM DTT-d10、1mM EDTA-d12、300mM NaCl、及びTSP-2,2,3,3-d4でスパイクした10%(v/v)のD2Oで構成される緩衝水溶液に加えて、化合物Cを含有する標本管(5mm)を調製した。緩衝液を加えて最終体積600μLにし、pHを6.0に調整した。フリーな化合物Cのスペクトルを取った。HCVポリメラーゼの濃縮原液をNMR管に2回加え、スペクトルを得た。濃縮原液は、20mM Tris-d11、2mM DTT-d10、1mM EDTA-d12、300mM NaCl、及び10%(v/v)のグリセロール-d8から成る緩衝液中、21.7mg/mLのHCVポリメラーゼ(NS5BΔ21C-His6)を含んでいた。
NMRスペクトルは、Bruker AVANCE 600及び800MHz NMR分光器で22及び27℃にて得た。プレ-飽和の使用又はデータ獲得前に3-9-19 WATERGATEモジュールを挿入することによって溶媒シグナルの抑制を達成した。DLB比較のため両標本管について1次元スペクトルを収集し、各スペクトルについて128回のスキャンを収集した。ポリメラーゼを含有しない標本管についてのNOESY実験の結果、予想どおりに有意なクロス-ピークのないことが観察された。他方、ポリメラーゼを含有する標本管についてのNOESYスペクトルは、インヒビターCがHCVポリメラーゼに結合しているときの有益な水素間距離情報を含む多くのクロス-ピークが観察された。75、100、150、200及び300msecを含む一連のNOESYミキシング時間(600及び800MHz磁場で)を記録した。典型的に、t2で2048点、t1で512点の2次元データセットを得た。NOESY FIDでは128回のスキャンが平均だった。Bruker's XWinNMR及びWinNMRソフトウェア(Bruker Canada, 555 Steeles Ave. East, Milton, Ontario)でデータを処理かつ解析した。移相サインベルウィンドウ関数(phase-shifted sinebell window function)を用いて変換後の2048の実点でゼロ充填して2048のデータセットを得た。
MOE分子モデリングプログラム(CCG, Montreal, Qc, Canada)を実行するカスタムシミュレートアニーリングプロトコロルで化合物Cの構造を計算した。すべての計算は、MOEバージョン2202.03で実行されるようなmmff94力場を用いて行った。NMR-誘導平底抑制は一連のNOESYデータから生成した。NOESYクロス-ピークの相対強度を3つのカテゴリーに分け、抑制として強(1.8〜2.7Å)、中(1.8〜3.5Å)又は弱(1.8〜5.0Å)を用いた。NMR-誘導平底抑制の力定数は、冷却段階の間に徐々に増加した。単一の高温非抑制ダイナミックランを727℃(1000K)で行い、10psec間隔で100構造を収集してコンホメーションの開始セットを生成した。以下のシミュレートアニーリングプロトコロルを用いて各構造を冷却かつ最小化した。シミュレーションの間、温度及び抑制重はそれぞれ727℃(1000K)から227℃(500K)、1/1000000から20に変化した。最終構造をエネルギー最小化し、全エネルギーを計算し、抑制エネルギーを計算し、抑制違反を決定した。NMR-一致構造を単離し、2ファミリーの構造を同定した。
各ファミリーのNMR誘導構造から1つの代表をNS5B-化合物A複合体のX線誘導構造上にドックした。ドッキング手順は、化合物A及び化合物Cのインドール及びベンズイミダゾール骨格鎖の共通の5/6芳香族環を重ねることで始めた。化合物Cの1つの構造だけが、結合ポケットのDLBデータ及び形状とシミュレーション的に一致した。この複合体では、化合物Cの右手側がPro 495及びPro 496の近傍上又はその近傍内に位置する。MOE分子モデリングプログラムを用いて、位置503、498、及び499のアミノ酸の側鎖の向きをわずかに再調整してインヒビター-ポリメラーゼフィットを高めた。His428及び512はプロトン化された。最急降下法、抱合勾配及びトランケーテッド(truncated)ニュートンアルゴリズムを併用して複合体のエネルギーを最小化し、構造にわずかなマイナーチェンジをもたらした。インヒビターと該インヒビターの6Å以内のポリメラーゼ残基は最小化の際に移動できるが、他の残基はすべて固定されるようにプロトコルを設定し、9.5〜10Åの長範囲力のカットオフを用いた。MOE分子モデリングプログラムバージョン2002.03で実行されるとおりのmmff94s力場を、溶媒和を含む計算に適用した。複合体の可視化は、MOE分子モデリングプログラムを用いて行った。
最後の最小化からNS5B-化合物C複合体の構造座標を生成し、図6に示した。
【0053】
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【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1A】NS5Bアポ酵素構造(化合物なし)を示す。
【図1B】NS5Bに結合した化合物A(アミノ酸18〜35は移動して構造内に見えない)を示す。
【図1C】本発明の結合ポケットの溶媒アクセス可能表面提示内に結合した化合物Aを示す。
【図2】本発明の結合ポケットの溶媒アクセス可能表面提示内に結合した化合物Bを示す。
【図3】本発明の結合ポケットの溶媒アクセス可能表面提示内に結合した化合物CのNMR誘導結合コンホメーションのドックトモデルを示す。
【図4】化合物Aと複合体形成した配列番号1のHCV NS5Bの原子構造座標を示す。
【図5】化合物Bと複合体形成した配列番号1のHCV NS5Bの原子構造座標を示す。
【図6】化合物Cと複合体形成した配列番号1のHCV NS5Bの原子構造座標を示す。
【図1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のポリペプチドから成る群より選択される単離かつ精製されたポリペプチド:
i)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5Bインヒビター結合ポケットを含むポリペプチド(前記結合ポケットは、少なくともアミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動で露出され、かつ前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する);
ii)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケットを含むHCV NS5Bポリペプチド類似体(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持し、かつ前記結合ポケットは露出しうる);
iii)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって定義されるHCV NS5B結合ポケットから成るHCV NS5Bポリペプチド(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する);
iv)アミノ酸残基18〜35によって定義されるフィンガーループ内に少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含むHCV NS5Bポリペプチド変異体(前記突然変異が前記フィンガーループの移動を引き起こして、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、又はその機能等価類似体によって基本的に定義される結合ポケット(前記結合ポケットはその天然の機能的立体配置を保持する)を露出する)。
【請求項2】
前記結合ポケットが、アミノ酸残基37及び496から選択される1個以上のさらなるアミノ酸残基によって定義される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記結合ポケットが、アミノ酸残基36、426、498及び499から選択される1個以上のさらなるアミノ酸残基によって定義される、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記結合ポケットが、アミノ酸残基36〜37、392〜399、424〜429及び492〜503から成る群より選択される1つ以上のアミノ酸クラスターによってさらに定義される、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記結合ポケットが、アミノ酸配列V37、L392、A393、A395、A396、T399、I424、L425、H428、F429、L492、G493、V494、P495、P496、W500及びR503を有する、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記さらなるアミノ酸が、アミノ酸配列、M36、M426、R498及びT499を有する、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記アミノ酸クラスター36〜37がアミノ酸配列M-Vを有し、前記アミノ酸クラスター392〜399がアミノ酸配列L-A-R-A-A-W-E-Tを有し、前記アミノ酸クラスター424〜429がアミノ酸配列I-L-M-T-H-Fを有し、かつ前記アミノ酸クラスター492〜503がアミノ酸配列L-G-V-P-P-L-R-T-W-R-H-Rを有する、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項8】
前記HCV NS5Bポリペプチド変異体の位置30及び31のアミノ酸残基の少なくとも1つが突然変異している、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記位置30のアミノ酸残基が突然変異している、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記位置30のアミノ酸残基が、P、F、W、M、G、S、T、C、Y、N、Q、D、E、K、R及びHから成る群より選択されるアミノ酸に突然変異している、請求項9に記載のポリペプチド。
【請求項11】
アミノ酸残基18〜35の移動を特徴とする、HCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体。
【請求項12】
少なくともアミノ酸残基18〜35が欠失している、HCV NS5Bポリペプチド、又はその機能等価類似体。
【請求項13】
天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つの構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義される結合ポケットを含むHCV NS5B結晶構造(ここで、少なくともアミノ酸残基18〜35の構造座標によって定義される天然フィンガーループ鎖が移動して前記結合ポケットを露出する)。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドと、前記NS5Bポリペプチド内の、天然HCV NS5Bのアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つ、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体によって定義される結合ポケットと会合する化合物とを含むNS5B複合体。
【請求項15】
前記化合物が下記式(A)を有する、請求項14に記載の複合体。
【化1】

【請求項16】
前記化合物が下記式(B)を有する、請求項14に記載の複合体。
【化2】

【請求項17】
前記化合物が下記式(C)を有する、請求項14に記載の複合体。
【化3】

【請求項18】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドと、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つ、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケットと会合する化合物とを含む結晶化HCV NS5B複合体の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
a)結晶化緩衝液内で精製HCV NS5Bポリペプチドをインキュベートして、結晶化NS5Bポリペプチドを得る工程;
b)前記化合物を可溶化する工程;及び
c)前記結晶化NS5Bポリペプチドと前記可溶化化合物を浸漬緩衝液に適切な浸漬時間浸漬して結晶化NS5B複合体を得る工程。
【請求項19】
前記結晶化緩衝液が、MES、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム及びコハク酸ナトリウムから成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記結晶化緩衝液を約50mM〜約0.2Mの濃度で使用する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記結晶化緩衝液が約0.1Mの濃度のMESである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記結晶化緩衝液が少なくとも1種の沈殿剤をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記沈殿剤が、PEG、PEG5Kmme、硫酸アンモニウム、MPD、イソプロパノール、エタノール、及び三級ブタノールから成る群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記沈殿剤を約30%〜約40%の濃度で使用する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記沈殿剤が約21%の濃度のPEG5Kmme及び約0.4mMの濃度の硫酸アンモニウムである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記浸漬緩衝液が、MES、Tris、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びコハク酸ナトリウムから成る群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記浸漬緩衝液を約50mM〜約0.2Mの濃度で使用する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記浸漬緩衝液が約10mg/mLまでのタンパク質を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記浸漬緩衝液が、NaCl、(NH4)2SO4、及びKClから成る群より選択される1種以上の塩をさらに含有する、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記塩が、約100mM〜約500mMの濃度で前記浸漬緩衝液中に存在する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記浸漬緩衝液がNaCl及び(NH4)2SO4を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記浸漬緩衝液が、約210mMの濃度のNaCl及び約280mMの濃度の(NH4)2SO4を含有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記浸漬緩衝液が、約10〜約20%の濃度のグリセロールをさらに含有する、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
前記浸漬緩衝液が、少なくとも1種の沈殿剤をさらに含有する、請求項18に記載の方法。
【請求項35】
前記沈殿剤が、PEG、PEG5Kmme、硫酸アンモニウム、MPD、イソプロパノール、エタノール及び三級ブタノールから成る群より選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記沈殿剤が約10%〜約18%の濃度で存在する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記浸漬緩衝液が、約14%の濃度の沈殿剤PEG5Kmme(モノメチルエーテルポリエチレングリコール5000)及び約0.4mMの濃度の硫酸アンモニウムを含有する、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記浸漬時間が約3〜約8時間である、請求項18に記載の方法。
【請求項39】
前記浸漬時間が約5〜約6時間である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドと、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つ、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケットと会合する化合物とを含む結晶化HCV NS5B複合体の製造方法であって、結晶化HCV NS5Bを含有する結晶化緩衝液に前記化合物を添加する工程を含む方法。
【請求項41】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドと、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つ、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケットと会合する化合物とを含む結晶化HCV NS5B複合体の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
a)精製HCV NS5Bを、可溶化形態の前記化合物と化合させてNS5B複合体を形成する工程;及び
b)前記複合体を結晶化緩衝液内で結晶化する工程。
【請求項42】
請求項14に記載のHCV NS5B複合体の1セットのX線結晶構造座標。
【請求項43】
請求項15に記載のHCV NS5B複合体の1セットのX線結晶構造座標。
【請求項44】
図4に示されるとおりの請求項43に記載の座標。
【請求項45】
請求項16に記載のHCV NS5B複合体の1セットのX線結晶構造座標。
【請求項46】
図5に示されるとおりの請求項45に記載の座標。
【請求項47】
請求項17に記載のHCV NS5B複合体の1セットのX線結晶構造座標。
【請求項48】
図6に示されるとおりの請求項47に記載の座標。
【請求項49】
請求項14に記載のHCV NS5B複合体の結晶構造の構造座標を記憶している、コンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項50】
請求項15に記載のHCV NS5B複合体の結晶構造の構造座標を記憶している、コンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項51】
図4に示されるとおりの構造座標を記憶している、請求項50に記載のコンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項52】
請求項16に記載のHCV NS5B複合体の結晶構造の構造座標を記憶している、コンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項53】
図5に示されるとおりの構造座標を記憶している、請求項52に記載のコンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項54】
請求項17に記載のHCV NS5B複合体の結晶構造の構造座標を記憶している、コンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項55】
図6に示されるとおりの構造座標を記憶している、請求項54に記載のコンピューター読取り可能記憶媒体。
【請求項56】
HCV NS5Bに結合しうる化合物の同定方法であって、以下の工程を含む方法:
a)天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503の構造座標、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つの構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義されるHCV NS5B結合ポケットの構造座標に3次元分子モデリングアルゴリズムを適用して、前記HCV NS5B結合ポケットの空間座標を決定する工程;及び
b)前記HCV NS5B結合ポケットの前記空間座標に対して、前記化合物の記憶されている空間座標を電子的にスクリーニングして、前記化合物が前記HCV NS5B結合ポケット内で結合するかを決定する工程。
【請求項57】
可能性のあるHCVインヒビターを同定するための仮想的スクリーニング方法であって、以下の工程を含む方法:
a)HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つの構造座標、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体の構造座標によって定義されるHCV NS5B結合ポケットのコンピューターモデルを構築する工程;
b)評価する化合物のコンピューターモデルと前記NS5B結合ポケットとの間のフィッティングプログラム演算を行うための計算手段を使用して、前記結合ポケット内における前記化合物のエネルギー最小化立体配置を与える工程;及び
c)前記フィッティング演算の結果を評価して、前記化合物と前記結合ポケットとの間の会合を数量化する工程(ここで、前記結合ポケットと会合して低エネルギーの安定した複合体を与える化合物はNS5Bインヒビターの可能性がある)。
【請求項58】
前記複合体が、約8000kcal/mol未満のファンデルワールス相互作用エネルギー値を有する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記複合体が、約6000kcal/mol未満のファンデルワールス相互作用エネルギー値を有する、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記複合体が、約4000kcal/mol未満のファンデルワールス相互作用エネルギー値を有する、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
候補HCV NS5Bインヒビター化合物のスクリーニング方法であって、以下の工程を含む方法:
a)請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリペプチドを、結合に適した条件下で候補インヒビター化合物とインキュベートする工程;及び
b)前記候補インヒビター化合物が前記ポリペプチドに結合するか否かを決定する工程(ここで、前記ポリペプチドに結合する化合物はHCV NS5Bインヒビターの可能性がある)。
【請求項62】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のNS5Bポリペプチドに結合する化合物を設計する方法であって、前記化合物と、前記NS5Bポリペプチド内の、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つ、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体によって定義される結合ポケットとの間の相補性を評価する工程を含む方法。
【請求項63】
HCV NS5BのRNA複製活性を阻害する薬物の製造方法であって、天然HCV NS5Bの少なくともアミノ酸残基392、393、395、396、399、424、425、428、429、492、493、494、495、500及び503、並びに任意にアミノ酸残基37及び496の1つ、又は前記アミノ酸残基の機能等価類似体によって定義されるNS5B結合ポケット内にフィットする化合物を同定又は設計する工程(ここで、前記結合ポケットは、少なくともアミノ残残基18〜35によって定義されるフィンガーループ鎖の移動によって露出される)を含む方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−534292(P2007−534292A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500449(P2006−500449)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000676
【国際公開番号】WO2004/099241
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】