説明

EA材、その取付用クリップ及び取付構造

【課題】EA材がずれ動いたりねじれたりした場合でもEA材が外れることがないEA材取付用クリップと、このクリップを用いたEA材及びEA材取付構造を提供する。
【解決手段】EA材1の表面部に埋設設置されたクリップ40に対し、トリム2側の突起50,50を挿入し、突起50の張出部52をクリップ40の段部43に係止させる。張出部52の爪部53が段部43の引掛部45に係合することにより、張出部52が段部43から外れることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はEA材(衝撃エネルギー吸収材)の取付構造に係り、特に自動車のトリムに適用するのに好適なEA材の取付構造に関する。また、本発明は、この取付構造に用いられるクリップ及びEA材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドアトリムには、側面衝突(側突)時の衝撃エネルギー吸収(Energy Absorption:EA)のために、硬質ウレタンよりなるEA材を取り付けている。このドアトリムに対し、硬質ウレタン製EA材を取り付ける方法として、特開2001−322507号には、図4,5に示す構造が記載されている。図4は同号公報の図7に記載されたEA材の取付構造を示す断面図、図5(a)はこの構造に用いられている筒状体20の斜視図、図5(b)はこの筒状体20の断面斜視図である。
【0003】
この筒状体20は筒部21及びフランジ部22を一体に備えている。この筒部21の先端からは内向きに鉤部23が設けられている。トリム31から突設されたロッド26の外周面に凹部27が周設されており、鉤部23が該凹部27に係合している。
【0004】
なお、筒部21には先端から筒部21の軸心線と平行方向にスリット24が延設されており、筒部21はその拡径方向に弾性的に変形可能となっている。
【0005】
EA材33をトリム31に取り付けるには、EA材33の取付孔34にロッド26が挿入されるようにEA材33をトリム31の面に沿わせ、次いで筒状体20をロッド26に嵌合させて押し込み、鉤部23を凹部27に係合させる。これにより、フランジ部22はEA材33の取付孔34の周縁部を押さえつける。
【0006】
なお、この筒部21は先細形のテーパ形状となっており、取付孔34に挿入し易いものとなっている。筒状体20をロッド26に装着した状態にあっては、筒部21の外周面が取付孔34の内周面に密着している。
【0007】
このEA材の取付構造にあっては、筒状体20とEA材33とが別体となっているため、EA材をトリム31に取り付けるに際しては、EA材をトリム31に当てがう作業と、その後ロッド26に筒状体20を嵌着させる作業との2作業工程が必要となり、作業に手間がかかる。
【0008】
EA材のトリム等の部材への取り付け作業性が著しく改善されたEA材の取付構造として、図6に記載の構造が考えられている。図6(a)はこのEA材の取付構造を示す略水平方向の断面図、図6(b)はこのEA材の取付構造の係止部の斜視図、図6(c)はこのEA材の取付構造の被係止部の斜視図である。
【0009】
硬質ウレタンフォーム等の合成樹脂よりなるEA材1が部材としてのトリム(例えばドアトリム)2に対し突起8及びクリップ4を介して取り付けられている。クリップ4は該EA材1に設けられており、係止部3は該クリップ4に係合している。
【0010】
突起8は、トリム2から1対、立設されている。この突起8の突出方向の側面には、側方に張り出すように張出部8aが設けられている。この張出部8aは、突起8の基端側を構成する略半円柱部8bに接近するほど側方への張り出し高さが大きくなっている。これにより、突起8,8は後述するクリップ4の開口12に容易に挿入可能である。
【0011】
突起8は、弾性を有した合成樹脂により成形されており、該突起8,8は接近方向に弾性的に変形可能となっている。
【0012】
クリップ4は、筒部6と、該筒部6の後端から外向き鍔状に張り出すアンカー5と、筒部6の先端から外向き鍔状に張り出すフランジ7とを有する。このクリップ4には、フランジ7、筒部6及びアンカー5を貫通する挿入穴12がこれらの軸心線方向に設けられ、この挿入穴12の内周面には周方向に段部13が凹設されている。
【0013】
図6(a)の通り、クリップ4は、その筒部6及びアンカー5がEA材1中に埋設されている。
【0014】
このクリップ4付きのEA材1は、突起8,8を挿入穴12に差し込みながらトリム2に当てがうことにより該トリム2に取り付けられる。EA材1をトリム2に押し付けると、突起8,8が挿入穴12に押し込まれる。張出部8aが挿入穴12の内周面に押し付けられることにより、該突起8,8が接近方向に撓みながら挿入穴12に差し込まれる。そして、張出部8aが段部13に達すると、突起8,8が弾性的に元の形状に復帰しようとし、張出部8aとトリム2とで、段部13の縁部を挟持する。また、突起8,8の略半円柱部8b、8bの外周面がクリップ4の挿入穴12内周面と当接する。
【0015】
このように、クリップ4付きのEA材1をトリム2に重ねるという1作業工程のみでEA材1をトリム2に取り付けることができ、取付作業効率が著しく向上する。また、突起8,8の張出部8a,8aとトリム2とで段部13の縁部を挟持し、かつ略半円柱部8b、8b外周面と挿入穴12内周面とが当接しているので、EA材1がトリム2の面方向及び接離方向のいずれにも拘束される。
【0016】
図6(a)の通り、クリップ4は、そのフランジ7の一部、筒部6及びアンカー5がEA材1中に埋設されている。このようにクリップ4がEA材1を貫通しておらず、クリップ4付近においてもEA材1が十分な厚みを有しているところから、このクリップ4付近においてもEA材1の衝撃吸収特性が良好である。
【特許文献1】特開2001−322507号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記図6のクリップ4と突起8,8によるEA材の取付構造にあっては、張出部8aが段部13に単に重なるようにして係止されているだけであるので、EA材1がトリム2に沿って面方向にずれ動いたり、ねじれるように動いたりした場合、張出部8aが段部13から外れるおそれがある。
【0018】
本発明は、EA材がずれ動いたりしても突起の張出部が外れることのない段部を有したEA材取付用クリップと、このクリップを用いたEA材及びEA材取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のEA材取付用クリップは、部材にEA材を取り付けるためのクリップであって、該部材から突設されたEA材係止用突起が挿入される挿入穴を有しており、該挿入穴の内面には、該突起から側方に張り出した張出部が係合する段部が設けられているクリップにおいて、該段部に、該張出部の離脱防止用の引掛部を設けたことを特徴とするものである。
【0020】
本発明のEA材は、合成樹脂の発泡体よりなるEA材本体と、該EA材本体に一体化された上記本発明のEA材取付用クリップとを備えてなるものである。
【0021】
本発明のEA材の取付構造は、部材にEA材を取り付けたEA材の取付構造において、該EA材は上記本発明のEA材であり、該部材にEA材係止用突起が突設されており、該突起が該クリップ内に差し込まれて該クリップの前記段部に係合しているEA材取付構造であって、該突起の突出方向の側面に張出部が設けられており、該張出部が前記段部に係合すると共に、該張出部が前記引掛部に係合していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、クリップの段部に設けられた引掛部に対し、トリム等の部材から突設された突起の張出部が係合するため、EA材がずれ動いても段部から該張出部が外れることが確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1(a)は本発明の一形態に係るEA材取付用クリップの縦断面図、図1(b)はこのクリップを備えたEA材の部分拡大断面図、図2はこのクリップの分解斜視図、図3(a)は突起の斜視図、図3(b)は突起の先端側の側面図である。
【0025】
このEA材取付用クリップ40は、クリップ本体41と、該クリップ本体の一方の端面(図1の上端面)に取り付けられた封体48とからなる。
【0026】
クリップ本体41は、合成樹脂の射出成形品よりなるものであり、一端面(図の下端面)から他端面(図の上端面)にまで貫通する挿入穴42を有する。この挿入穴42は、この形態では角孔であるが、丸孔、長丸孔であってもよい。この挿入穴42は、入口側と奥側とが大口径部42a、42cとなっており、両者の間が小口径部42bとなっている。この小口径部42bと大口径部42cとの間に段部43が形成されている。この段部43の角縁から引掛部45が奥方向(後述の突起50の挿入方向)に向けて起立するように設けられている。この引掛部45は、図2に示されるように、平板状ではあるが、これに限定されるものではない。
【0027】
クリップ本体41の該他端側に、外向き鍔状のアンカー46が設けられている。一端側にはフランジ部47が設けられている。
【0028】
アンカー46に被さるようにして封体48が取り付けられている。この封体48は挿入穴42を図の上側から塞いでいる。この封体48は合成樹脂の薄板状であり、クリップ本体41とは別体に成形されたものである。封体48はビス、接着剤や超音波溶着などによってクリップ本体41に取り付けられている。封体48は図示よりも小形であってもよい。封体48は破れない厚さを有した合成樹脂フィルム等のシートにて構成されてもよい。
【0029】
このクリップ40は、図1(b)の通り、クリップ本体の該一端側の最先端部分がEA材1から突出し、それ以外はEA材1に埋設されるようにしてEA材1に一体化される。
【0030】
EA材1は図4のものと同様に例えばウレタン等の合成樹脂の発泡体よりなるものである。この合成樹脂の発泡成形時に、成形用金型にクリップ40を取り付けておくことにより、クリップ40付きEA材1が製造される。このクリップ40の挿入穴42は、アンカー44側において封体48によって封じられているので、ウレタンが挿入穴42内に入りこむことはない。
【0031】
このようにEA材1に設けられたクリップ40に対し、トリム等に突設された突起50を挿入して張出部52を段部43に係合させることにより該EA材1がトリム2に取り付けられる。なお、図1(b)の構造は図4と上下逆に図示されている。
【0032】
この突起50は、図3(a)に明示の通り、トリム2から突設された板状の可撓性を有した柱部51と、該柱部51の突出方向先端側(以下、上端側という。)から側方に張り出した張出部52と、該張出部52からトリム2に向う方向(以下、下方という。)へ垂設された爪部53とを有している。
【0033】
張出部52は、上端側ほど張出高さが低くなるように先細形であり、この実施の形態では側面視形状が三角形となっている。爪部53は、この張出部52の下端部であって、且つ柱部51から最も離隔した部分から下方に突設されている。
【0034】
この爪部53は、下方ほど厚みが小さくなる側面視形状が三角形のものである。図3(b)の通り、爪部53は、柱部51とは反対側の斜面53aと、柱部51に対面する垂下面53bとを有している。この斜面53aは、下方ほど柱部51に近づくように傾斜している。この斜面53aを設けることにより、突起50をクリップ40内に挿入し易くなる。
【0035】
垂下面53bと、柱部51との間には、前記引掛部45が入り込む間隙があいている。この垂下面53bは、柱部51と略平行に図示されているが、柱部51に対する垂直線aと垂下面53bの下方への延長線bとの交叉角のうち、柱部51側且つトリム2側の角度θを90°以下例えば80〜90°程度とすることが好ましい。このように角度θを90°以下とした場合、爪部53と柱部51との間に入り込んだ引掛部45が抜けにくいものとなる。
【0036】
この突起50は、トリム2から1対、柱部51,51を平行にして、且つ両者の間に所定の間隔をあけて立設されている。各突起50の張出部52,52は、外向きに、即ち、互いに離反する方向に設けられている。
【0037】
クリップ40付きのEA材1をトリム2に取り付けるには、このEA材1をトリム2に当てがい、突起50,50を該クリップ40内に差し込む。EA材1をトリム2に押し付けると、突起50,50の柱部51,51が接近方向に撓みながらクリップ40内に差し込まれる。張出部52が段部53を通り過ぎると、柱部51,51は元形状に弾性的に復帰する。そして、爪部53が引掛部45よりもクリップ本体41の内面側に近づいた位置をとる。この状態で、EA材1がトリム2からわずかに離反すると、図1(b)の通り、爪部53と柱部51との間に引掛部45が入り込む。
【0038】
図1(b)のように、爪部53が引掛部45に引掛った状態になっていると、EA材1がトリム2に沿って図1(b)の左右方向にずれ動いたり、EA材1がトリム2に沿ってねじれるように動いたりした場合でも、爪部53が引掛部45から外れない。このため、EA材1がトリム2に対ししっかりと保持される。また、EA材1の取り付け作業も容易である。
【0039】
なお、この実施の形態では、クリップ40にアンカー46が設けられているので、EA材1のクリップ40の保持強度も十分に高い。
【0040】
このクリップ40のクリップ本体41は、貫通した挿入穴42を有しているものであり、段部43を形成したものではあっても、アンダーカット部を有してはいない。このため、クリップ本体41は簡易構造の金型を用いた射出成形等により容易に製造することができる。
【0041】
上記形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。例えば、上記の実施の形態では、突起50は板状であるが、図6(b)に示した突起8のように半円柱形とするなど、他の形状としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)図は本発明の一形態に係るクリップの断面図、(b)図はこのクリップを備えたEA材の部分断面図である。
【図2】図1のクリップの分解斜視図である。
【図3】(a)図は突起の斜視図、(b)図は突起の上部の側面図である。
【図4】従来のクリップの説明図である。
【図5】図4のクリップを備えたEA材のトリムへの取付構造を示す断面図である。
【図6】(a)図は別の従来のクリップを有したEA材の断面図、(b)図は突起の斜視図、(c)図はクリップの断面斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
40 クリップ
41 クリップ本体
42 挿入穴
43 段部
45 引掛部
50 突起
51 柱部
52 張出部
53 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材にEA材を取り付けるためのクリップであって、
該部材から突設されたEA材係止用突起が挿入される挿入穴を有しており、
該挿入穴の内面には、該突起から側方に張り出した張出部が係合する段部が設けられているクリップにおいて、
該段部に、該張出部の離脱防止用の引掛部を設けたことを特徴とするEA材取付用クリップ。
【請求項2】
請求項1において、該引掛部は、該段部から前記突起の挿入方向に起立する起立部であることを特徴とするEA材取付用クリップ。
【請求項3】
合成樹脂の発泡体よりなるEA材本体と、該EA材本体に一体化された請求項1又は2に記載のEA材取付用クリップとを備えてなるEA材。
【請求項4】
部材にEA材を取り付けたEA材の取付構造において、
該EA材は請求項3に記載のEA材であり、
該部材にEA材係止用突起が突設されており、
該突起が該クリップ内に差し込まれて該クリップの前記段部に係合しているEA材取付構造であって、
該突起の突出方向の側面に張出部が設けられており、該張出部が前記段部に係合すると共に、該張出部が前記引掛部に係合していることを特徴とするEA材の取付構造。
【請求項5】
請求項4において、該突起の張出部には、前記引掛部に係合した爪部が設けられていることを特徴とするEA材の取付構造。
【請求項6】
請求項5において、前記爪部は、前記張出部から前記突起の挿入方向と反対方向に突設されていることを特徴とするEA材の取付構造。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項において、前記部材は自動車のトリムであることを特徴とするEA材の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−9867(P2006−9867A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185165(P2004−185165)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】