説明

FRP構造要素およびそれを用いたパネル構造体

【課題】構造体の各部を形成する構造要素という概念に着目し、該構造要素に特別の工夫を加えることで、FRP構造体全体として高い設計の自由度を持って容易に所望の形状に成形可能とし、かつ、構造要素単体としてもその集合体としてもFRPが有する優れた特性を容易に発現させることが可能なFRP構造要素、およびそれを用いたパネル構造体を提供する。
【解決手段】平面形状が5角形または6角形の多角形に形成された繊維強化樹脂成形体からなり、該多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造に構成され、該閉ループ形状の内側が面構造に構成されていることを特徴とするFRP構造要素、およびそれを用いたパネル構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用パネル等に好適に適用可能なFRP構造要素(FRP:Fiber Reinforced Plastic)およびそれを用いたパネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP、中でもCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、軽量で高強度、高剛性を発現できることから、各種産業分野で幅広く展開されている。例えば自動車の分野では、軽量化による燃費改善や、車体構造体の一体成形等による製造の容易化、高強度、高剛性化等のために、各部のFRP化が検討されつつある。ただし、現状の金属製自動車用構造体は、基本的にはフレームとパネルが井桁状の構造に組み上げられているため、その形状を踏襲してFRP化することは難しい場合が多い。すなわち、従来形状をそのまま踏襲してFRP化すると、分岐形状部が多くなってFRP成形が難しい箇所が生じたり、応力集中の生じやすい箇所が形成されてFRPの特性を活かすことが難しくなったり、強化繊維の配向方向等にとくに高い強度、剛性を発現可能なFRPの特性を荷重伝達経路中でうまく利用できなかったりすることがある。
【0003】
一方、自動車用構造体のFRP化を検討する場合、構造体の形状としてはFRPで成形可能な形状に設計する必要があり、そのためには、既存の金属製の構造体の形態には拘束されず、設計の自由度が高いことが望ましい。この点、とくに電気自動車や燃料電池車、ハイブリッドカー等では、車両走行用の動力源に電気モータの使用が可能であり、電気モータは車両搭載位置上の自由度が高いことから、車体設計の自由度が大幅に向上する。そのため、例えば、車室を構成するための車室構造体の形状や構造の自由度も大きく増大する。したがって、このような電気自動車等には、FRP構造体の採用が比較的容易になる。また、このような車両走行用の動力源に電気モータの使用を可能とした自動車は、総合的にみて二酸化炭素の排出量が少なく、地球環境適応型の車両として注目されている。とくに近年、LCA(Life Cycle Assessment)の考え方も取り入れられ、材料も含めた車両製造段階から車両使用時、廃車までのライフ全体での二酸化炭素排出量の低減が評価されつつある。
【0004】
一方で、自動車には、基本的な要求仕様として、衝突時等の乗員の安全性を確保するための構成が求められ、併せて、上記の如き燃費改善等のための車体の軽量化と、優れた量産性や製造コスト低減等が求められる。乗員の安全性向上のための構造としては、例えば、乗員の居空間である車室に対しては極力変形を抑制可能な剛構造とし、車室構造部に連なる車両前部部分や後部部分に対しては、衝突時(前突および後突時等)などにおける外部からの衝撃を効果的に吸収し車室内への影響を最小限に抑えるために柔構造(クラッシャブル構造とも呼ばれる)とすることが好ましいとする設計思想も注目されている。
【0005】
車体の軽量化を含めて衝突時等の乗員の安全性を確保するための構成として、例えば車体骨格部を繊維強化樹脂で構成した構造が提案されている(例えば、特許文献1)。この特許文献1に開示されている構造は、車体の下部を構成する車体骨格部と車室部を独立に形成し、車体骨格部を繊維強化複合材料で形成してその部分に衝撃エネルギー吸収性能を持たせるようにしたものである。
【0006】
この特許文献1に開示されている構造では、とくに形状的にFRP成形上の問題の少ない車体骨格部にFRP化構造が採用され、湾曲形状部等が多く、通常FRP成形が行いづらいと考えられる車室構成部については、車体骨格部とは独立に形成される構成を採用している。車体骨格部と車室構成部が独立に形成される構成であるため、生産性、とくに量産性の改善には限界があり、製造コスト低減上は格別有利な構成とはなっていない。また、車室部の下部に位置する車体骨格部に対しては、衝撃エネルギー吸収等のための構造上の工夫が加えられているものの、車室部に対しては、乗員の安全性向上のための、極力変形を抑制可能な剛構造構成などの工夫は格別には配慮されていない。すなわち、車室内の乗員に対しては、車体骨格部による衝撃エネルギー吸収によって安全性を確保する配慮はなされているものの、車室の変形の抑制によって乗員の安全性を確保するという面からは、十分に配慮された構造とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−23706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来金属等で構成されていた部位や部材の、例えば上述したような自動車用構造体のFRP化を検討する場合、高い設計の自由度を持ちつつ、湾曲部等を有する形状に対してもFRP成形を容易に行うことができるようにするとともに、FRPが有する強度、剛性等の特性を最大限活かすことができる構成とすることが望まれる。
【0009】
そこで本発明の課題は、FRP構造体を設計、製造するに際し、該構造体の各部を形成する構造要素という概念に着目し、該構造要素に特別の工夫を加えることで、FRP構造体全体として高い設計の自由度を持って容易に所望の形状に成形可能とし、かつ、構造要素単体としてもその集合体としてもFRPが有する優れた特性を容易に発現させることが可能な、しかも、上述したような自動車用構造体に限らず一般的な構造体にまで容易に展開可能な、FRP構造要素およびそれを用いたパネル構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るFRP構造要素は、平面形状が5角形または6角形の多角形に形成された繊維強化樹脂成形体からなり、該多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造に構成され、該閉ループ形状の内側が面構造に構成されていることを特徴とするものからなる。
【0011】
ここで、上記スチフナの横断面形状、つまり、上記稜の横断面形状としては、各種形状を採り得、例えば、ハット形、三角形、矩形、台形、6角形等の多角形、C形、I形、T形、Z形、H形、逆L形、逆U形など、さらには、単に立ち壁状のリブ形状など、各種断面形状を例示できる。また、スチフナの横断面形態としても、中実、中空、発泡材等からなるコア材を介在させたサンドイッチ構造も採用可能である。さらに、閉ループ形状の内側の面構造としては、代表的には比較的厚みの小さい繊維強化樹脂板(スキン板)構造が採用されるが、スキン板間に発泡材等からなるコア材を介在させたサンドイッチ構造、スキン板間を空間に形成した構造等も採り得る。
【0012】
このような本発明に係るFRP構造要素においては、FRP構造要素の外郭を形成する多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成され閉ループ稜構造に構成されているので、該閉ループ稜構造のスチフナにより構造要素全体として十分に高い強度、剛性が実現される。また、閉ループ形状の内側が面構造に構成されているので、FRP構造要素全体としてパネル要素の形態を確保しつつ、スチフナ部よりは強度、剛性の低い面構造部に、面内荷重の伝達機能やスチフナ部からの伝達荷重の吸収機能等を持たせることが可能になる。たとえば、曲げ荷重に対しては主にスチフナ部が、引張荷重に対してはスチフナ部と面構造部の両方が、圧縮荷重に対してはスチフナ部または座屈をスチフナ部で抑制される状態で面構造部が支える構造をなすことができる。したがって、一つのFRP構造要素に、材質がFRPであることによるFRP特有の高強度、高剛性特性を持たせつつ、パネル要素として必要な形態や機能を持たせることが可能になり、しかも構造要素全体としての軽量性も確保できる。そして、FRP構造要素の平面形状が5角形または6角形の多角形に形成されるので、同種の多角形同士により、あるいは5角形または6角形の多角形を組み合わせて、容易に連接することが可能になり、該連接により、必要な面積や形状のパネル構造体を作製することが可能となる。さらに、面構造部の座屈挙動を利用すれば、大きな衝撃荷重等が加わった際に、FRP構造要素全体が一気に破壊するのではなく、破壊が部分的に順次進行するような構造の実現も可能になる。
【0013】
上記本発明に係るFRP構造要素においては、上記多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられている、または折り曲げ可能に構成されている構造とすることが可能である。すなわち、平面形状が5角形のFRP構造要素であれば5つの対角線が存在し、平面形状が6角形のFRP構造要素であれば9つの対角線が存在するが、これら対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられることにより、FRP構造要素はその対角線の両側にまたがって屈曲あるいは湾曲することが可能になる。このようなFRP構造要素を用いて複数のFRP構造要素を連接すれば、連接構造体として湾曲した形状や折れ曲がった形状に形成することが可能になり、本発明に係るFRP構造要素をより大型のより複雑な形状を有する構造体の構造要素として用いることが可能になる。
【0014】
FRP構造要素を連接してより大型の構造体を形成する場合、上記閉ループ稜構造を構成するスチフナが、隣接する別のFRP構造要素の閉ループ稜構造を構成するスチフナと、一体に成形されている、あるいは、一体的に接合可能に構成されている構造とすることも可能である。このような構造においては、FRP構造要素として構成される構造体全体の強度、剛性がより高められるとともに、該構造体中のスチフナ部分のボリュームを必要最小限に抑えることも可能となり、構造体全体の材料使用量の低減や軽量化に寄与することが可能になる。
【0015】
このような本発明に係るFRP構造要素において、上記繊維強化樹脂成形体の強化繊維としては、特に限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等の各種強化繊維を使用可能であり、さらにはこれらの強化繊維を組み合わせたハイブリッド構成も採用可能であるが、高い強度、剛性を実現しつつ、良好な成形性、生産性を達成するためには、炭素繊維を含んでいることが好ましい。
【0016】
上記繊維強化樹脂成形体のマトリックス樹脂としても、とくに限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。使用可能な熱硬化性樹脂として、代表的にはエポキシ樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂を用いる場合の成形には、RTM(Resin Transfer Molding)やプリプレグを用いたプレス成形等の成形方法の適用が可能である。熱可塑性樹脂の場合には、上記成形法に加えて、射出成形の適用も可能である。使用可能な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。これらの混合物でもよい。また、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。さらに得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくことができる。
【0017】
本発明に係るパネル構造体は、上記のようなFRP構造要素が複数連接された集合体から構成されていることを特徴とする。上述したように、FRP構造要素は平面形状が5角形または6角形の多角形に形成されているので、同種の多角形のFRP構造要素同士による接合により、あるいは5角形または6角形の多角形のFRP構造要素を組み合わせた状態での接合により、容易に所望の連接を行うことが可能であり、該連接により、必要な面積や形状のパネル構造体を作製することが可能となる。連接に際しては、隣接するFRP構造要素形状やサイズを適宜変更することも可能であり、FRP構造要素の連接ピッチを適宜変更あるいは変化させることも可能である。このように形状やサイズ、連接ピッチを適宜変更することにより、パネル構造体の特性、例えば強度や剛性等の機械特性を部分的に変化させることが可能になり、パネル構造体の各部にそれぞれ最適な特性を付与することが可能になる。また、パネル構造体中のある面積を有する部位に、部分的に等方的な特性を持たせることも可能である。もちろん、パネル構造体全体にわたって実質的に均一な特性を持たせることも可能である。さらに、パネル構造体を、部分的に湾曲や屈曲させやすい形態とすることも可能になり、より容易に、パネル構造体全体を所望の形態にすることが可能になる。
【0018】
とくに、上記多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられたFRP構造要素を用いると、さらに容易に、パネル構造体の湾曲部を構成することが可能になる。また、互いに隣接するFRP構造要素の閉ループ稜構造を構成するスチフナ同士が、一体に成形されている、あるいは、一体的に接合されている構造とすることにより、パネル構造体全体として、さらに望ましい高強度、高剛性特性を持たせることが可能になる。
【0019】
また、上記パネル構造体中において、上記FRP構造要素の閉ループ稜構造を構成するスチフナの配設密度に相対的な高低が付与されている構造とすることも可能である。スチフナの配設密度に相対的な高低を付与するには、サイズや形状の異なるFRP構造要素を組み合わせたり、FRP構造要素の配設ピッチを変更したり、さらにはスチフナ自体のサイズや形状を変更したりすることで達成できる。必要に応じてスチフナの配設密度を部分的に高めることにより、その部分の強度や剛性を適切に高めることが可能になり、スチフナの配設密度を部分的にかつ相対的に低くすることにより、パネル構造体全体としての材料使用量を必要最小限に抑えることが可能になり、全体の軽量化やコストダウンに貢献することが可能になる。
【0020】
このような本発明に係るパネル構造体は、各種分野に適用できるが、とくに自動車用パネル構造体として好適なものである。中でも、前述したように、比較的構造体の設計の自由度が高い、電気自動車や燃料電池車、ハイブリッドカー等の、車両走行用の動力源に電気モータを使用する自動車用のパネル構造体として好適なものである。
【0021】
例えば、本発明に係るパネル構造体としては、上記自動車用パネル構造体が車室を構成するための構造体に構成されているとともに、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造に構成されており、該構造体の前部側および/または後部側に、後部側および/または前部側に向かって開口する椀状構造部を有し、該椀状構造部の湾曲部が、前記多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられたFRP構造要素を用いて形成されているパネル構造体として構成できる。なお、上記椀状構造部とは、半開ドーム形状や角型椀状形状などの、構造体の前後方向(自動車の前後方向)に向かって開口するあらゆる形状の椀状構造部を含む概念である。
【0022】
このように、本発明に係るFRP構造要素を適切に組み合わせて連接することにより、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造の車室構造体を作製することが可能になる。すなわち、車室構造体に椀状構造部を設けておくことで、車室を構成するための主要構造部の全体をモノコック構造として繊維強化樹脂で一体に構成することが可能になる。したがって、前述の特許文献1に記載されているような従来構造に比べると、自動車の車室構成部分とその下部に位置する車両ベース部分まで含めた部位が一体に形成された自動車用車室構造体の形態となり、これらの部分が全て一体に形成されている点で、従来技術とは基本的に異なる新しいコンセプトの構造体形態である。通常のセダン型の自動車に対しては、上記椀状構造部としては、後部側に向かって開口する前部椀状構造部と前部側に向かって開口する後部椀状構造部の両方が設けられるが、ハッチバック型などの一部の車種に対しては、前部椀状構造部のみとする構造も可能である。このような椀状構造部は、成形時の型の抜き構造さえ確保されていれば、車室構造体全体を一体に成形することが可能になる。繊維強化樹脂で形成された車室構造体の全体がモノコック構造とされることで、軽量化を達成しつつ、車室構成部全体にわたって必要とされる剛性を容易に確保できるようになり、車室の必要な剛構造が達成されて乗員に対する安全性が向上される。また、このモノコック構造の少なくとも一部が繊維強化樹脂をスキンとするサンドイッチ構造である場合には、より軽量化と剛構造が得られる。そしてこのような車室構造体は車室の下部に位置する車両ベース部分まで含めたモノコック構造に構成可能であるから、全体を一体成形することが可能になり、部品点数が極めて少なくなって、製造が容易化され、優れた生産性、とくに優れた量産性が得られるとともに、製造コストの低減が可能になる。さらに前述したように、動力源に電気モータの使用を可能とした自動車においては車体設計の自由度が大きく増大し、この利点はモノコック構造の自由度にも反映させることができ、それによってモノコック構造の簡素化、単純形状化、成形の際の脱型の容易化等も可能になり、一層生産性等の向上をはかることも可能である。
【0023】
また、上記のような車室構造体においては、上記椀状構造部が、構造体の前後方向に上記椀状構造部の外側に隣接配置された車両構造部から伝達される荷重の支持部に構成されている構造とすることが可能である。上記のような車室構造体は、車室の主要構造部を構成するものであるから、その前側には、自動車の車室よりも前側の部分、つまり、車両のフロント部分を、その後側には、自動車の車室よりも後側の部分、つまり、車両のリヤ部分を、それぞれ配置することが可能である。これらフロント部分やリヤ部分には、前突や後突によって構造体の椀状構造部に衝撃等の荷重が加わる可能性があるので、その際の荷重を、剛構造を有する車室構造体で受けられるようにしておくのである。それによって、車室内の乗員の安全性がより確実に確保される。また、このとき、車両のフロント部分やリヤ部分をクラッシャブル構造に構成しておけば、衝突等による衝撃をクラッシャブル構造で適切に吸収しつつ、車室内に伝達されようとする荷重を、車室構造体の剛構造で食い止めるという、乗員の安全性確保にとって理想的な全体構成を実現可能となる。また、これらフロント部分やリヤ部分には、車輪や車軸、サスペンションといった駆動系部品の取り付け構造を有する場合もある。その場合には、これら駆動系部品から駆動に関わる荷重がフロント部分やリヤ部分から車室構造体の椀状構造部に伝わる可能性があるので、その際の荷重を、剛構造を有する車室構造体で受けられるようにしておくのである。それによって、駆動系部品の支持構造としての機能を車室構造体が取り込むことが可能となり、より一層の製造コストの低減が可能な自動車用車室構造体を実現可能となる。とくに本発明では、このような望ましい車室構造体が本発明に係るFRP構造要素の集合体からなるパネル構造体として実現されることになる。
【発明の効果】
【0024】
このように、本発明に係るFRP構造要素によれば、繊維強化樹脂からなる構造要素を、優れた強度、剛性を備え連接可能な特定の形態に構成することで、高い設計の自由度を持って所望の全体形状の構造体の形成に供することが可能になる。本発明に係るパネル構造体は、このようなFRP構造要素を連接していくことで容易に低コストで製造可能であり、FRPが有する優れた軽量性、機械特性を発現させつつ、パネル構造体全体として望ましい荷重伝達特性や強度、剛性を持たせることが可能になり、とくに自動車用パネル構造体、中でも車室構造体として、望ましい形態、特性の構造体を、優れた量産性をもって低コストで得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施態様に係るFRP構造要素の斜視図である。
【図2】本発明の別の実施態様に係るFRP構造要素の斜視図である。
【図3】本発明の一実施態様に係るパネル構造体の斜視図である。
【図4】図3と同等のパネル構造体の平面図である。
【図5】図3のA−A線に沿う部分断面図であって、スチフナの各種断面形状例を示す部分断面図である。
【図6】本発明の別の実施態様に係るパネル構造体の平面図であって、スチフナの配設密度に高低を付与した例を示す平面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施態様に係るパネル構造体の部分平面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施態様に係るFRP構造要素の折り曲げ形態の各種例を示す概略斜視図である。
【図9】本発明のさらに別の実施態様に係るパネル構造体としての車室構造体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るFRP構造要素を示している。本実施態様では、FRP構造要素1は、平面形状が6角形の多角形に形成され、構造要素全体が繊維強化樹脂の成形体として、とくに炭素繊維強化樹脂の成形体として形成されている。この6角形の形状の全辺部に、スチフナ2が閉ループ形状に(折れ線状に延びる閉ループ形状に)形成されて閉ループ稜構造部3に構成され、該閉ループ形状の内側が(閉ループ稜構造部3の内側部分が)、平面状に広がる面構造部4に構成されている。閉ループ稜構造部3を構成するスチフナ2は、隣接する別のFRP構造要素(6角形または5角形のFRP構造要素)の閉ループ稜構造部を構成するスチフナと、一体に成形可能に、あるいは、一体的に接合可能に構成することが可能になっている。
【0027】
また、FRP構造要素1は、多角形の対角線の少なくとも1つに沿って、つまり、6角形の場合、合計9つの対角線が存在するが、そのうちの少なくとも1つに沿って、折り曲げ可能に構成されている。折り曲げ形態の例については、後述する。
【0028】
図2は、本発明の別の実施態様に係るFRP構造要素を示しており、本実施態様では、FRP構造要素6は、平面形状が5角形の多角形に形成され、構造要素全体が繊維強化樹脂の成形体として、とくに炭素繊維強化樹脂の成形体として形成されている。この5角形の形状の全辺部に、スチフナ7が閉ループ形状に(折れ線状に延びる閉ループ形状に)形成されて閉ループ稜構造部8に構成され、該閉ループ形状の内側が(閉ループ稜構造部8の内側部分が)、平面状に広がる面構造部9に構成されている。閉ループ稜構造部8を構成するスチフナ7も、隣接する別のFRP構造要素(5角形または6角形のFRP構造要素)の閉ループ稜構造部を構成するスチフナと、一体に成形可能に、あるいは、一体的に接合可能に構成することが可能になっている。この5角形のFRP構造要素6の場合には、合計5つの対角線が存在するが、そのうちの少なくとも1つに沿って、折り曲げ可能に構成されている。
【0029】
上記のようなFRP構造要素1、6は、複数連接された集合体とすることにより、例えば、図3、図4に示すような平板状のパネル構造体11、21や、後述の図9に示すような自動車の車室を構成するための車室構造体としてのパネル構造体を形成することができる。FRP構造要素1、6の連接は、互いに隣接するFRP構造要素の閉ループ稜構造部を構成するスチフナ同士を一体成形することによって、あるいは、スチフナ同士を一体的に接合(接着や融着) することによって、行うことができる。
【0030】
具体的には、例えば図3、図4に示すように、平板状のパネル構造体11、21を、6角形FRP構造要素12と5角形FRP構造要素13を適宜組み合わせて形成し、必要に応じて4角形FRP構造要素14も組み合わせる。このような平板状のパネル構造体11、21は、あらゆる分野に適用可能なものである。各FRP構造要素は、スチフナの閉ループ稜構造を有し、そのスチフナ部で連接されるので、FRP構造要素単体部は勿論のこと、パネル構造体全体として高い強度、剛性を発現できる。また、スチフナの閉ループ稜構造部の内側は、軽量な面構造部に構成され、それら面構造部が各スチフナ部を介してパネル構造体の面方向に広がることになるので、パネル構造体全体の軽量化が達成されつつ、パネル構造体全体の所望の形態が確保される。
【0031】
FRP構造要素およびパネル構造体におけるスチフナの横断面形状は、とくに限定されず、前述したような各種形状を採り得る。例えば、図4のA−A線に沿って見た断面形態にて、図5に例示するような各種形態を採り得る。図5(A)に示す形態では、横断面形状が6角形の中空のスチフナ部31に形成され、スチフナ部31間に面構造部32が形成されている。図5(B)に示す形態では、横断面形状が4角形のスチフナ部33に形成され、スチフナ部33間に面構造部34が形成されている。図5(C)に示す形態では、横断面形状が円形のスチフナ部35に形成され、スチフナ部35間に面構造部36が形成されている。図5(D)に示す形態では、横断面形状がI形のスチフナ部37に形成され、スチフナ部37間に面構造部38が形成されている。図5(E)に示す形態では、横断面形状が6角形のスチフナ部39に形成されるが、繊維強化樹脂からなる6角形のスチフナ部39内に、コア材40(例えば、発泡樹脂等からなるコア材)が充填されてスチフナ部が構成され、これらスチフナ部間に面構造部41が形成されている。図5(F)に示す形態では、横断面形状が6角形の中空のスチフナ部42に形成されるが、スチフナ部42の中空部内を面構造部43が貫通して延びる形態とされている。図5(G)に示す形態では、横断面形状が台形状の4角形の中空のスチフナ部44(上記6角形の中空のスチフナ部の半分の形態)に形成され、スチフナ部44が面構造部45の片面側のみに配置された形態とされている。図示例以外にも、各種の形態を採り得る。どのようなスチフナ断面形状を選択するかは、パネル構造体に要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定すればよい。
【0032】
従来の井桁構造のスチフナからなるパネル構造体は、縦と横のスチフナが直角に交差する。これに対し、本発明に係るFRP構造要素を連接してなるパネル構造体では、スチフナ部の交差角度を直角よりも大きくすることができる。その結果、荷重を伝達する際のスチフナ部の交差部分の応力集中を低下させることができるようになるので、本発明に係るFRP構造要素からなるパネル構造体はその構造強度を高くすることができる。
【0033】
また、従来の井桁構造のスチフナからなるパネル構造体では一方向に延設されたスチフナがその方向に荷重を伝達するのに対し、本発明に係るFRP構造要素からなるパネル構造体はスチフナ部が荷重を複数方向に分岐させながら伝達することになるので、パネル構造全体として荷重を効率良く支えることができる。
【0034】
たとえば、この構造を自動車のフロアパネルに適用した場合、正面衝突や側面衝突時の荷重をフロアパネル全体で効率良く支えることができるのはもちろんであるが、オフセット正面衝突や、側面ポール衝突のようにフロアパネルの一部に局所的に衝撃が作用する時であっても、上述したように、本発明に係るFRP構造要素は致命的な応力集中を回避しながら、かつ荷重を分散しながら伝達することができるので、構造強度の高いフロアパネルを得ることができるのである。
【0035】
また、前述したように、本発明のパネル構造体においては、パネル構造体中において、FRP構造要素の閉ループ稜構造を構成しているスチフナの配設密度に相対的な高低を付与することも可能である。例えば、図6(A)、(B)に示すように、パネル構造体51、52中において、スチフナ配設密度の高い箇所53、54を適宜設けることができる。スチフナ配設密度の高い箇所をどのように設けるかは、パネル構造体全体の軽量化を考慮しつつ、パネル構造体に部分的に要求される機能や機械的特性等に応じて適宜決定すればよい。
【0036】
たとえば、この構造を自動車のフロアパネルに適用した場合、車両の前側に当たる部分のスチフナ配設密度を高くすることで、車両の前側に配置されるエンジンやサスペンションの取り付け部品をフロアと堅固に取り付けることが可能となる。また、フロアパネルの中央部分のスチフナ密度を高くすることで、側面衝突時の荷重を効率良く支える構造とすることが可能となる。
【0037】
また、上述したような6角形FRP構造要素等を連接してパネル構造体を形成する場合、連接途中で異種の(異なる形態の)FRP構造要素を介在させることによって、例えば、連接される6角形FRP構造要素の軸線方向を途中で変更するようなことも可能である。例えば図7に示すように、軸線方向Xの6角形FRP構造要素61を連接するとともに軸線方向Yの6角形FRP構造要素62を連接する場合、両連接領域間に、凹形態の6角形FRP構造要素63や5角形FRP構造要素64を介在させることにより、6角形FRP構造要素の軸線方向をX方向、Y方向間で変更することが可能である。強度や剛性に異方性を持たせ、その方向を途中で変更したい場合等に有効な構造であり、必要に応じて適宜採用すればよい。
【0038】
また、本発明に係るFRP構造要素は、多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられた形態に構成可能である。例えば図8(A)〜(D)に示すように、稜線を形成する多角形に構成される(図示例では6角形)スチフナ71a、71b、71c、71dと、面構造部72a、72b、72c、72dからなるFRP構造要素において、多角形におけるいずれかの対角線を折り曲げ軸73a、73b、73c、73d、73e(図8(D)に示す形態では、2つの折り曲げ軸(折り曲げ軸(1)73d、折り曲げ軸(2)73e))に沿って折り曲げることができる。このような折り曲げられた形態のFRP構造要素を使用することにより、湾曲部等の比較的複雑なパネル形状部の形成も可能になる。
【0039】
各種形態のFRP構造要素を組み合わせることにより、例えば、図9に示すような形状の車室構造体としてのパネル構造体81を一体的に形成することも可能となる。一体化構造を得るためには、それらFRP構造要素を複数一体的に接合することでも可能であり、また、全体形状によっては、このパネル構造体81を一体成形により形成することも可能となる。車室構造体としてのパネル構造体81は、その構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造に構成されている。パネル構造体81の車両前後方向前部側および後部側には、後部側に向かって開口する前部椀状構造部82と前部側に向かって開口する後部椀状構造部83が形成されている。これら椀状構造部82、83の湾曲部が、前述したような、多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられたFRP構造要素を用いて形成されている。
【0040】
このような車室構造体としてのパネル構造体81においては、例えば、前述のような閉ループ稜構造部3、8に構成されるスチフナ2、7と、面構造部4、9とからなるFRP構造要素1、6を複数連接した構造とすることにより、主としてスチフナ2、7の連接構造によってパネル構造体81全体としての高い剛性、強度(とくに曲げ剛性、強度)が確保され、併せて、面構造部4、9を介してパネル構造体81全体としての所望の形状や面形態が確保される。とくに、前後の椀状構造部82、83を高強度、高剛性に構成できることから、前突や後突時等に加わる大きな衝撃荷重に対し、乗員の安全性を大幅に向上することが可能になる。また、例えば、縦曲げに対しては床部の幅全体で支えることができ、捩りに対しては、斜め方向(車両前後方向に対して斜めの方向)に延びるスチフナ部分で高剛性が確保される。また、前後方向圧縮荷重に対しては、床幅一杯で支えることができ、車両側面からの荷重(例えば、側突による衝撃荷重)に対しては、その荷重を床幅一杯に分散させて支えることが可能になる。さらに、パネル構造体81のとくに床部全体にわたって等方的な機械特性を持たせることも可能であり、例えば、床部全体を6角形のFRP構造要素1の連接形態とすることにより、このような等方的な機械特性の実現が可能である。また、部分的に剛性分布を持たせたいような場合には、例えば、5角形のFRP構造要素6と6角形のFRP構造要素1を適切に組み合わせることにより、さらには、折り曲げられた形態のFRP構造要素を適切に組み合わせることにより、達成が可能である。
【0041】
さらに、6角形のFRP構造要素1や5角形のFRP構造要素6の連接ピッチを部分的に変更したりすることにより(具体的は、サイズの異なるFRP構造要素1,6を適宜組み込むことにより)、パネル構造体81のある特定の部位について部分的に特性を変更したりすることも可能である。さらにまた、面構造部4、9の座屈挙動をうまく利用することにより、大きな衝撃荷重が加わった場合等において、パネル構造体81が広い範囲にわたって一気に破壊するのではなく、面構造部4、9の座屈挙動を通して部分的な破壊が順次進行するような構造設計も可能となり、破壊まで考慮した車室構造体としてのパネル構造体11をより望ましい仕様に設計することも可能となる。
【0042】
このような椀状構造部82、83を備えた一体化車室構造体81によって、車室の剛構造が効果的に達成され、併せて、繊維強化樹脂製であることにより軽量性が確保され、さらに全体を一体成形すれば、良好な生産性、とくに量産性と、コストダウンが達成される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るFRP構造要素およびそれを用いたパネル構造体は、あらゆる分野に展開可能であり、とくに自動車用の車室構造体等のパネル構造体、中でも車両走行用動力源の搭載位置の自由度が高い電気自動車や燃料電池車、ハイブリッドカー等にとくに好適なものである。
【符号の説明】
【0044】
1、6 FRP構造要素
2、7 スチフナ
3、8 閉ループ稜構造部
4、9 面構造部
11、21 パネル構造体
12 6角形FRP構造要素
13 5角形FRP構造要素
14 4角形FRP構造要素
31、33、35、37、39、42、44 スチフナ部
32、34、36、38、41、43、45 面構造部
40 コア材
51、52 パネル構造体
53、54 スチフナ配設密度の高い箇所
61、62 6角形FRP構造要素
63 凹形態の6角形FRP構造要素
64 5角形FRP構造要素
71a、71b、71c、71d スチフナ
72a、72b、72c、72d 面構造部
73a、73b、73c、73d、73e 折り曲げ軸
81 車室構造体としてのパネル構造体
82、83 椀状構造部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が5角形または6角形の多角形に形成された繊維強化樹脂成形体からなり、該多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造に構成され、該閉ループ形状の内側が面構造に構成されていることを特徴とするFRP構造要素。
【請求項2】
前記多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられている、または折り曲げ可能に構成されている、請求項1に記載のFRP構造要素。
【請求項3】
前記閉ループ稜構造を構成するスチフナが、隣接する別のFRP構造要素の閉ループ稜構造を構成するスチフナと、一体に成形されている、あるいは、一体的に接合可能に構成されている、請求項1または2に記載のFRP構造要素。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂成形体の強化繊維に炭素繊維を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のFRP構造要素。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のFRP構造要素が複数連接された集合体から構成されていることを特徴とするパネル構造体。
【請求項6】
前記多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられたFRP構造要素を用いて、パネル構造体の湾曲部が構成されている、請求項5に記載のパネル構造体。
【請求項7】
互いに隣接するFRP構造要素の閉ループ稜構造を構成するスチフナ同士が、一体に成形されている、あるいは、一体的に接合されている、請求項5または6に記載のパネル構造体。
【請求項8】
パネル構造体中において、前記FRP構造要素の閉ループ稜構造を構成するスチフナの配設密度に相対的な高低が付与されている、請求項5〜7のいずれかに記載のパネル構造体。
【請求項9】
自動車用パネル構造体に構成されている、請求項5〜8のいずれかに記載のパネル構造体。
【請求項10】
前記自動車用パネル構造体が車室を構成するための構造体に構成されているとともに、車室の前部側から後部側までの構造体全体が繊維強化樹脂で一体に構成されたモノコック構造に構成されており、該構造体の前部側および/または後部側に、後部側および/または前部側に向かって開口する椀状構造部を有し、該椀状構造部の湾曲部が、前記多角形の対角線の少なくとも1つに沿って折り曲げられたFRP構造要素を用いて形成されている、請求項9に記載のパネル構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−86592(P2012−86592A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232509(P2010−232509)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】