説明

FRP積層体の成形方法

【課題】UDプリプレグの端材が発生することを防止してFRP積層体のコスト低減に寄与するとともに、擬似等方性を有するFRP積層体を容易に得ることができるFRP積層体の成形方法を提供する。
【解決手段】一定の幅LのUDプリプレグ4を生成する工程と、UDプリプレグ4を裁断して、第一の形状たる一辺の長さLの正方形の基材1を生成する工程と、基材1の四隅を、基材1の隣り合う各辺の中点を結ぶ各線分X1〜X4に沿って折り曲げて、第二の形状たる一辺の長さ(√2)×L/2の正方形の積層基材1aを生成する工程と、一定の幅(√2)×L/2のUDプリプレグ6を生成する工程と、UDプリプレグ6を裁断して、第二の形状たる正方形の基材2を生成する工程と、積層基材1aと、繊維方向の位相を90°ずらして配置した二つの各基材2a・2bと、を積層して、第二の形状たる正方形のFRP積層体11を成形する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似等方性を有するFRP積層体の成形方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;以下、FRPと記載する)は、軽量で、かつ、強度が高いという優れた性質を有しているため、シート状のFRPを積層して板状等に成形した積層体(以下、FRP積層体と呼ぶ)が、様々な用途に広く用いられている。
【0003】
FRP積層体は、繊維方向が一方向に引き揃えられたシート状の基材であるUDプリプレグを積層して成形することによって得ることができるが、基材の繊維方向を一方向に揃えた状態で積層して成形した場合には、そのFRP積層体は異方性を有するものとなる。ここで言う異方性とは、付与する荷重の方向によって、部材の性質(引張り強度・曲げ強度等)が異なる性質をいう。
【0004】
また、UDプリプレグの繊維方向を様々な方向にずらした状態で積層して成形され、擬似的な等方性を有するFRP積層体が知られている。そして、このような擬似等方性を有するFRP積層体としては、基材の繊維方向を、0°、90°、45°、−45°として積層して成形したものが知られており、例えば、以下に示す特許文献1に開示され、公知となっている。ここで言う等方性とは、付与する荷重の方向に関わらず、部材の性質(引張り強度・曲げ強度等)が等しい性質をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−23163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1等に示された従来技術によれば、UDプリプレグの繊維方向を、0°、90°、45°、−45°として積層してFRP積層体を成形することによって、容易に擬似等方性を有するFRP積層体を得ることができる。
しかしながら、特許文献1等に示された従来のFRP積層体の成形方法では、繊維方向を0°、90°、45°、−45°としてずらした状態の積層体から、擬似等方性がある部分を切り出して擬似等方性を有するFRP積層体を成形しているため、切り出した後に残される部分(端材)が発生してしまい、FRP積層体のコストを増大させる要因となっていた。
【0007】
そこで、できる限りUDプリプレグの端材を発生させないように、テープ状のUDプリプレグを使用して、繊維方向を0°、90°、45°、−45°にずらしてFRP積層体を成形する方法が一般的に知られている。
しかしながら、このテープ状のUDプリプレグを使用したFRP積層体の成形方法では、テープ状のUDプリプレグを所定の角度で均一に貼り付ける必要があるため、FRP積層体の成形作業が困難となり、かつ、成形作業に時間を要していた。このため、テープ状のUDプリプレグを使用したFRP積層体の成形方法では、擬似等方性を有するFRP積層体を容易に得ることができなかった。
【0008】
本発明は、係る現状の問題点を鑑みてなされたものであり、UDプリプレグの端材が発生することを防止してFRP積層体のコスト低減に寄与するとともに、擬似等方性を有するFRP積層体を容易に得ることができるFRP積層体の成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、一定の幅Lを有し、長さ方向に連続するシート状の前記長さ方向に繊維方向を揃えた第一のUDプリプレグを生成する工程と、前記第一のUDプリプレグを裁断して、一辺の長さがLの第一の形状たる正方形であって、辺方向に対して繊維方向が平行あるいは直交する第一の基材を生成する工程と、前記第一の基材の四隅を、前記第一の基材の隣り合う各辺の中点を結ぶ線分に沿って、全て同じ面側に向けて折り曲げて、前記第一の基材の形状を、一辺の長さが(√2)×L/2である第二の形状たる正方形とし、該第二の形状たる正方形の辺方向に対する繊維方向の位相が45°となる第一の層と、前記第二の形状たる正方形の辺方向に対する繊維方向の位相が−45°となる第二の層を有する積層基材を生成する工程と、一定の幅(√2)×L/2を有し、長さ方向に連続するシート状の前記長さ方向に繊維方向を揃えた第二のUDプリプレグを生成する工程と前記第二のUDプリプレグを裁断して、一辺の長さが(√2)×L/2である前記第二の形状たる正方形であって、辺方向に対して繊維方向が平行あるいは直交する第二の基材を生成する工程と、前記積層基材と、繊維方向の位相を90°ずらして配置した二つの前記第二の基材と、を積層して、前記第二の形状たる正方形のFRP積層体を成形する工程と、を備えるものである。
【0011】
請求項2においては、前記第一のUDプリプレグを生成する工程は、UDプリプレグを成形するための第一の手段である第一の成形手段によって、前記第一のUDプリプレグを生成し、前記第二のUDプリプレグを生成する工程は、UDプリプレグを成形するための第二の手段である第二の成形手段によって、前記第二のUDプリプレグを生成するものである。
【0012】
請求項3においては、前記第一のUDプリプレグと前記第二のUDプリプレグは、UDプリプレグを成形するための手段である成形手段によって、前記第一のUDプリプレグの幅Lと前記第二のUDプリプレグの幅(√2)×L/2を合わせた一定の幅(L+(√2)×L/2)を有する第三のUDプリプレグを生成する工程と、前記第三のUDプリプレグを幅方向に分断するための手段である分断手段によって、前記第三のUDプリプレグを、幅Lと幅(√2)×L/2に分断して、前記第一のUDプリプレグと前記第二のUDプリプレグを生成する工程と、によって生成するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、擬似等方性を有するFRP積層体を、端材を発生させることなく容易に成形することができる。
【0015】
請求項2においては、所定の形状である正方形の基材を、容易に歩留まり良く生成することができる。
【0016】
請求項3においては、所定の形状である正方形の基材を、より容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において使用する基材を示す模式図、(a)第一の形状たる正方形である第一の基材を示す模式図、(b)第二の形状たる正方形である第二の基材を示す模式図。
【図2】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法における、第一の実施例に係る基材の生成方法を採用する場合の成形工程を示す模式図、(a)FRP積層体の成形工程の流れを示すフロー図、(b)第一および第二の各基材の生成状況を示す模式図。
【図3】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法における、第二の実施例に係る基材の生成方法を採用する場合の成形工程を示す模式図、(a)FRP積層体の成形工程の流れを示すフロー図、(b)第一および第二の各基材の生成状況を示す模式図。
【図4】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法における積層部材の生成方法を示す模式図。
【図5】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法における積層部材の生成方法の別実施例を示す模式図。
【図6】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法における各基材の積層方法を示す模式図。
【図7】本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法により成形したFRP積層体を示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において使用する基材について、図1を用いて説明をする。
尚、本実施例では、図1(a)(b)中に示す座標系によって基材の繊維方向を規定しており、図1中の上方向を0°とし、図1中の右方向を90°として規定している。これにより、図1中の右斜め上45°の繊維方向が45°として規定され、図1中の左斜め上45°の繊維方向が−45°として規定される。また、以後の説明で使用する各図面においても、基材の繊維方向を示す必要がある場合に、同一の座標系を表示するようにしている。
【0019】
本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において使用する基材(後述する基材1・2)は、炭素繊維を一方向に引き揃えて成形したシート状のUDプリプレグを正方形に裁断して生成されるものである。そして、このような炭素繊維からなる基材を使用して本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法によって成形されるFRPは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と呼ばれる。
【0020】
尚、本実施例では、基材として炭素繊維からなるUDプリプレグを使用してCFRP積層体を成形する場合を例示して説明をするが、本発明に係るFRP積層体の成形方法を適用する基材たるUDプリプレグの材質をこれに限定するものではなく、例えば、ガラス繊維・アラミド繊維・ポリエチレン繊維・ボロン繊維等からなるUDプリプレグや、自然由来の植物性繊維からなるUDプリプレグ等に適用することも可能である。
【0021】
また、本発明に係るFRP積層体の成形方法を適用できるUDプリプレグは、含浸されるマトリックス樹脂によっては限定されず、熱可塑性樹脂(PA、PPS、PP、PET等)が含浸されるUDプリプレグを採用したり、あるいは、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等)が含浸されるUDプリプレグを採用することもできる。
【0022】
図1(a)に示す如く、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において使用する第一の基材である基材1は、炭素繊維を一方向に引き揃えて成形したシート状のUDプリプレグを、一辺の長さをLとする正方形(即ち、第一の形状たる正方形)に裁断したシート状の部材であり、基材1自身の形状である正方形の辺方向に対して、繊維方向が0°あるいは90°となるように裁断方向・角度・位置等を設定して裁断したものである。尚、図1(a)では、基材1を、その繊維方向が0°となるように配置した場合を示している。
尚、ここで示すLは任意の正の値であり、所望するFRP積層体の大きさに応じて適宜定められる値である。
【0023】
また、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において使用する第二の基材である基材2は、炭素繊維を一方向に引き揃えて成形したシート状のUDプリプレグを、一辺の長さを(√2)×L/2とする正方形(即ち、第二の形状たる正方形)に裁断したものであり、基材2自身の形状である正方形の辺方向に対して、繊維方向が0°あるいは90°となるように裁断方向・角度・位置等を設定して裁断したものである。尚、図1(b)では、基材2を、その繊維方向が0°となるように配置した場合を示している。
【0024】
そして、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法においては、一つの基材1と二つの基材2を使用して、FRP積層体を成形する。
尚、本実施例では、一つの基材1と二つの基材2を使用して、FRP積層体を成形する場合を例示しているが、本発明に係るFRP積層体の成形方法において使用する各基材1・2に個数を、これに限定するものではない。
【0025】
次に、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法について、図2〜図7を用いて説明をする。
ここではまず、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第一の実施例に係る基材1および基材2の生成方法を採用する場合について、図2を用いて説明をする。
図2(a)(b)に示す如く、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第一実施例に係る基材1および基材2の生成方法を採用する場合には、それぞれの基材1・2を生成するためのUDプリプレグである第一のUDプリプレグであるUDプリプレグ4と第二のUDプリプレグであるUDプリプレグ6を生成する(STEP−1)。
【0026】
図2(b)に示す如く、第一実施例に係る基材1および基材2の生成方法を採用する場合には、UDプリプレグ4とUDプリプレグ6をそれぞれ異なる成形機3・5によって成形するようにしており、成形機3によって、幅がLであるUDプリプレグ4を生成し、成形機5によって、幅が(√2)×L/2であるUDプリプレグ6を生成している。
【0027】
次に、図2(a)(b)に示す如く、第一実施例に係る基材1および基材2の生成方法を採用する場合には、生成したUDプリプレグ4とUDプリプレグ6を所定の長さに裁断する(STEP−2)。
【0028】
図2(b)に示す如く、第一実施例に係る基材1および基材2の生成方法を採用する場合には、UDプリプレグ4とUDプリプレグ6をそれぞれ異なる裁断装置7・8によって裁断するようにしており、裁断装置7によって、幅がLであるUDプリプレグ4を長さLの位置で裁断して、一辺の長さがLである第一の形状たる正方形の基材1・1・・・を連続的に生成する。また同様に、裁断装置8によって、幅が(√2)×L/2であるUDプリプレグ6を長さ(√2)×L/2の位置で裁断して、一辺の長さが(√2)×L/2である第二の形状たる正方形の基材2・2・・・を連続的に生成する。
【0029】
このように、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第一実施例に係る基材1および基材2の生成方法を採用する場合には、二台の成形機3・5を用いて各UDプリプレグ4・6を生成する構成とすることにより、各UDプリプレグ4・6を同時に生成することができ、また、各UDプリプレグ4・6をそれぞれ必要個数だけ歩留まり良く生成することができる。
【0030】
即ち、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第一の基材である基材1を生成する工程は、UDプリプレグを成形するための第一の手段である成形機3によって、UDプリプレグ4を生成する工程を備え、第二の基材である基材2を生成する工程は、UDプリプレグを成形するための第二の手段である成形機5によって、UDプリプレグ6を生成する工程を備えるものである。
このような構成により、所定の形状(即ち、第一あるいは第二の形状)である正方形の基材1・2を、容易に歩留まり良く生成することができる。
【0031】
次に、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合について、図3を用いて説明をする。
図3(a)(b)に示す如く、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、各UDプリプレグ4・6を生成する前に、UDプリプレグ4の幅とUDプリプレグ6の幅を合わせた幅を有する第三のUDプリプレグであるUDプリプレグ9を生成する(STEP−1−1)。
【0032】
つまり、図3(b)に示す如く、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、成形機を一台だけ使用して、例えば成形機3によって、幅が(L+(√2)×L/2)であるUDプリプレグ9を生成する。
【0033】
次に、図3(a)(b)に示す如く、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、生成したUDプリプレグ9を所定の幅に分断する(STEP−1−2)。
【0034】
図3(b)に示す如く、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、UDプリプレグ9を分断装置10によって、分断後のUDプリプレグ9の幅が、それぞれUDプリプレグ4の幅とUDプリプレグ6の幅となるように分断することによって、各UDプリプレグ4・6を生成する構成としている。
【0035】
そして、図3(a)(b)に示す如く、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、生成したUDプリプレグ4とUDプリプレグ6を所定の長さに裁断する(STEP−2)。
【0036】
図3(b)に示す如く、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、UDプリプレグ4とUDプリプレグ6をそれぞれ異なる裁断装置7・8によって裁断するようにしており、裁断装置7によって、幅がLであるUDプリプレグ4を長さLの位置で裁断して、一辺の長さがLである第一の形状たる正方形の基材1・1・・・を連続的に生成する。また同様に、裁断装置8によって、幅が(√2)×L/2であるUDプリプレグ6を長さ(√2)×L/2の位置で裁断して、一辺の長さが(√2)×L/2である第二の形状たる正方形の基材2・2・・・を連続的に生成する。
【0037】
このように、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第二実施例に係る基材1および基材2を生成方法を採用する場合には、一台の成形機3を用いて各UDプリプレグ4・6を生成する構成とすることにより、各UDプリプレグ4・6をより効率良く同時に生成することができる。
【0038】
即ち、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法において、第一の基材である基材1を生成する工程と第二の基材である基材2を生成する工程は、UDプリプレグを成形するための手段である成形機3によって、第一のUDプリプレグであるUDプリプレグ4の幅Lと第二のUDプリプレグであるUDプリプレグ6の幅(√2)×L/2を合わせた一定の幅(L+(√2)×L/2)を有する第三のUDプリプレグであるUDプリプレグ9を生成する工程と、UDプリプレグ9を幅方向に分断するための手段である分断装置10によって、UDプリプレグ9を、幅Lと幅(√2)×L/2に分断して、UDプリプレグ4とUDプリプレグ6を生成する工程と、を備えるものである
このような構成により、所定の形状(即ち、第一あるいは第二の形状)である正方形の基材1・2をより容易に生成することができる。
【0039】
尚、以下に説明する(STEP−3)以降の各工程は、基材1および基材2の生成方法について、第一実施例と第二実施例の各方法を採用した場合で共通しているため、以下まとめて説明をする。
【0040】
次に、図2(a)および図3(a)に示す如く、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法では、生成した基材1を所定の形状に折加工する(STEP−3)。
【0041】
ここで、本工程で行われる折加工について、図4を用いて説明する。
図4に示す如く、基材1に対する折加工をするに際して、まず基材1を、繊維方向が0°となる方向に配置する。
そして、第一の形状たる正方形の隣り合う各辺の中点を結ぶ線分である各線分X1〜X4に沿って、基材1の四隅を同一面側(表面側あるいは裏面側)に折り返す。尚、折り返した後に、折り返した形状を保持するために、適宜仮溶着や仮縫合等を行うことが望ましい。
【0042】
ここで、各線分X1・X3の角度は、基材1の繊維方向に対して45°の角度を成しており、また、各線分X2・X4の角度は、基材1の繊維方向に対して−45°の角度を成している。そして、各線分X1〜X4は、基材1上で第二の形状たる一辺の長さが(√2)×L/2である正方形を形成している。
【0043】
また言い換えれば、第一の形状たる正方形の四隅に形成される端点P・Q・R・Sが、第一の形状たる正方形の中心Oと一致するように、四隅を同一面側(表面側あるいは裏面側)に折り返す、ということもできる。
【0044】
基材1の四隅を折り返すと、基材1の折り返した四隅以外の部位が、繊維方向が0°である第一の層を形成し、折り返した四隅の各部位が、繊維方向が90°である第二の層を形成する。このように基材1に対して折加工を施すことによって、繊維方向が0°と90°である二層を有する積層基材1aを生成することができる。
また、このような折加工によって基材1から積層基材1aを生成すると、基材1を余すところなく使用することができるため、端材が発生せず、UDプリプレグ4が無駄にならない。
【0045】
また、同様の積層基材を生成することができる基材1に対する加工の別実施例について、図5を用いて説明する。
図5に示す如く、基材1の四隅を、第一の形状たる正方形の隣り合う各辺の中点を結ぶ各線分X1〜X4に沿って切り離す。これにより、各線分X1〜X4によって囲まれる一辺の長さが(√2)×L/2である第二の形状たる正方形のピース1cと、長辺(即ち、各線分X1〜X4)の長さが(√2)×L/2である二等辺三角形のピース1d・1d・・・を生成する。
【0046】
そして、ピース1cと各ピース1d・1d・・・の各線分X1〜X4を一致させつつ、各ピース1d・1d・・・の端点P・Q・R・Sが、ピース1cの中心Oと一致するように、各ピース1d・1dをピース1cの同一面(表面あるいは裏面)上に配置して、繊維方向が0°と90°である二層を有する積層基材1bを生成する。
また、このようにして基材1から積層基材1bを生成する場合も、基材1を余すところなく使用することができるため、端材が発生せず、UDプリプレグ4が無駄にならない。
【0047】
次に、図2(a)および図3(a)に示す如く、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法では、生成した積層基材1a(あるいは積層基材1b)と基材2を積層する(STEP−4)。
【0048】
図6に示す如く、一つ目の基材2(以下、基材2aと呼ぶ)は、図1(b)に示す状態から45°反時計回りに回転させて、繊維方向の位相を−45°とした状態で積層基材1aに対して重ね合わせる。また、二つ目の基材2(以下、基材2bと呼ぶ)は、図1(b)に示す状態から45°時計回りに回転させて、繊維方向の位相を45°とした状態で積層基材1aに対して重ね合わせる。
【0049】
そして図7に示す如く、本実施例では、基材2aを最も表面側に配置し、基材2bを最も裏面側に配置して、積層基材1aを各基材2a・2bで挟むようにして、各基材1a・2a・2bを配置している。
【0050】
次に、図2(a)および図3(a)に示す如く、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法では、積層した各基材1a・2a・2bを仮成形する(STEP−5)。
仮成形は、各基材1a・2a・2bの積層状態を保持できるように、最終的な成形条件よりも低い温度・圧力等で仮に各基材1a・2a・2bを溶着したり、あるいは、各基材1a・2a・2bをステッチ糸で仮に縫合したりする等して行われる。尚、熱可塑性樹脂が含浸されるUDプリプレグを使用する場合には、最終的な成形条件(温度・圧力等)で成形しても良い。
そして、各基材1a・2a・2bに対する仮成形を完了することによって、FRP積層体11が成形される。
【0051】
このようにして、FRP積層体11を成形すると、図6および図7に示すように、基材2aと基材2bの繊維方向は位相が90°ずれている。また、基材2aの繊維方向は、積層基材1aの繊維方向に対して45°あるいは−45°ずれている。さらに、基材2bの繊維方向は、積層基材1aの繊維方向に対して45°あるいは−45°ずれている。
つまり、FRP積層体11は、0°、90°、45°、−45°の繊維配向となっており、擬似等方性を有している。
【0052】
尚、本実施例では、表面側から順に、基材2a、積層基材1a、基材2bを積層し、繊維方向が、上の層から順に、−45°、0°、90°、45°となるように積層される態様としているが、本発明に係るFRP積層体の成形方法における、各基材の積層順序および繊維配向状態をこれに限定するものではない。
【0053】
即ち、本発明の一実施例に係るFRP積層体の成形方法は、一定の幅Lを有し、長さ方向に連続するシート状の前記長さ方向に繊維方向を揃えた第一のUDプリプレグであるUDプリプレグ4を生成する工程と、UDプリプレグ4を裁断して、一辺の長さがLの第一の形状たる正方形であって、辺方向に対して繊維方向が平行あるいは直交する第一の基材である基材1を生成する工程と、基材1の四隅を、基材1の隣り合う各辺の中点を結ぶ線分である線分X1〜X4に沿って、全て同じ面側に向けて折り曲げて、基材1の形状を、一辺の長さが(√2)×L/2である第二の形状たる正方形とし、該第二の形状たる正方形の辺方向に対する繊維方向の位相が45°となる第一の層と、第二の形状たる正方形の辺方向に対する繊維方向の位相が−45°となる第二の層を有する積層基材1aを生成する工程と、一定の幅(√2)×L/2を有し、長さ方向に連続するシート状の前記長さ方向に繊維方向を揃えた第二のUDプリプレグであるUDプリプレグ6を生成するとともに、UDプリプレグ6を裁断して、一辺の長さが(√2)×L/2である前記第二の形状たる正方形であって、辺方向に対して繊維方向が平行あるいは直交する第二の基材である基材2を生成する工程と、積層基材1aと、繊維方向の位相を90°ずらして配置した二つの基材2・2である各基材2a・2bと、を積層して、前記第二の形状たる正方形のFRP積層体11を成形する工程と、を備えるものである。
このような構成により、擬似等方性を有するFRP積層体11を、端材を発生させることなく容易に成形することができる。
【0054】
1 基材(第一の形状)
1a 積層基材
2 基材(第二の形状)
2a 基材
2b 基材
3 成形機
4 UDプリプレグ
5 成形機
6 UDプリプレグ
9 UDプリプレグ
10 分断装置
11 FRP積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の幅Lを有し、長さ方向に連続するシート状の前記長さ方向に繊維方向を揃えた第一のUDプリプレグを生成する工程と、
前記第一のUDプリプレグを裁断して、一辺の長さがLの第一の形状たる正方形であって、辺方向に対して繊維方向が平行あるいは直交する第一の基材を生成する工程と、
前記第一の基材の四隅を、前記第一の基材の隣り合う各辺の中点を結ぶ線分に沿って、全て同じ面側に向けて折り曲げて、前記第一の基材の形状を、一辺の長さが(√2)×L/2である第二の形状たる正方形とし、該第二の形状たる正方形の辺方向に対する繊維方向の位相が45°となる第一の層と、前記第二の形状たる正方形の辺方向に対する繊維方向の位相が−45°となる第二の層を有する積層基材を生成する工程と、
一定の幅(√2)×L/2を有し、長さ方向に連続するシート状の前記長さ方向に繊維方向を揃えた第二のUDプリプレグを生成する工程と
前記第二のUDプリプレグを裁断して、一辺の長さが(√2)×L/2である前記第二の形状たる正方形であって、辺方向に対して繊維方向が平行あるいは直交する第二の基材を生成する工程と、
前記積層基材と、
繊維方向の位相を90°ずらして配置した二つの前記第二の基材と、
を積層して、前記第二の形状たる正方形のFRP積層体を成形する工程と、
を備える、
ことを特徴とするFRP積層体の成形方法。
【請求項2】
前記第一のUDプリプレグを生成する工程は、
UDプリプレグを成形するための第一の手段である第一の成形手段によって、前記第一のUDプリプレグを生成し、
前記第二のUDプリプレグを生成する工程は、
UDプリプレグを成形するための第二の手段である第二の成形手段によって、前記第二のUDプリプレグを生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のFRP積層体の成形方法。
【請求項3】
前記第一のUDプリプレグと前記第二のUDプリプレグは、
UDプリプレグを成形するための手段である成形手段によって、
前記第一のUDプリプレグの幅Lと前記第二のUDプリプレグの幅(√2)×L/2を合わせた一定の幅(L+(√2)×L/2)を有する第三のUDプリプレグを生成する工程と、
前記第三のUDプリプレグを幅方向に分断するための手段である分断手段によって、
前記第三のUDプリプレグを、幅Lと幅(√2)×L/2に分断して、前記第一のUDプリプレグと前記第二のUDプリプレグを生成する工程と、
によって生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のFRP積層体の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−84008(P2011−84008A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239735(P2009−239735)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】