説明

GPS受信機を用いた測位装置

【課題】 マルチパスの影響を受けやすいGPS衛星の信号を使用しないようにして測位精度を向上させる。
【解決手段】複数のGPS衛星からのGPS信号は、アンテナ21を介してGPS受信機22に入力される。GPS受信機で特定の座標データを算出し、測位データ取得部23と衛星位置情報取得部24に入力し、取得された測位データと位置情報は演算部25に入力される。演算部25には測位環境データ記憶部26から測位環境データが入力される。測位データ取得部23、衛星位置情報取得部24及び演算部25は、マイクロコンピュータ27から構成される。測位は測位データ取得部23で行い、その結果と、衛星位置情報取得部24で取得した情報及び測位環境データ記憶部26のデータによって演算部25で最適な測位を行い、結果をGPS受信機22に戻し、仰角マスク、DOP値のマスクを適正な値に調整して測位精度を上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS受信機を用いた測位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSを利用した位置情報取得システムは、近年、様々な形態で利用されている。GPSは、通常3個以上(2次元座標は3個以上、3次元座標は4個以上)の衛星から送られてくる電波を受信機によって受信し、その時間差と衛星の位置から座標を特定するシステムである。衛星は、地球上を一定の速度で飛行しており、衛星の位置が常に変化しているため、位置精度も時々刻々変化する。また、受信機の位置も測位環境により変化するため、樹木の枝葉による電波の減衰、天候、電離層の状態による遅延の変化などにも影響される。
【0003】
その中で、特に建築物による電波の反射による影響が顕著に位置精度を劣化させる原因となっている。例えば、図8に示すように、GPS受信機RXの上空の衛星A,B,Cから直接電波がGPS受信機RXに到達する場合には、精度良く位置情報が算出可能である。
【0004】
しかし、図9に示すように、GPS衛星Aからの直接波が建築物BD1に遮られて、建築物BD2による反射波が受信機RXに到達すると、電波の波長が短いため、その反射波の強度は強く、直接波は弱くなって受信機RXに到達される。
【特許文献1】特開平7−091976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、GPSでは電波の到達時間が直接的に精度に影響を与えるため、上記のように反射波の影響(このことをマルチパスの影響と称している)があると大きく精度を落とす問題がある。
【0006】
この発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、マルチパスの影響を受ける可能性のある環境を検出し、マルチパスの影響を受けやすいGPS衛星の信号を使用しないようにして、測位精度の向上を図るようにしたGPS受信機を用いた測位装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の課題を達成するために、第1発明は、複数のGPS衛星から電波を受信するGPS受信機と、このGPS受信機からの測位データを取得する測位データ取得部と、前記GPS受信機からの衛星位置情報を取得する衛星位置情報取得部と、構造物、木立などの測位環境に影響を与えるデータが予め記憶された測位環境データ記憶部と、前記両取得部の出力と測位環境データ記憶部の出力がそれぞれ入力されて演算され、目的のGPS衛星を選択する信号を得て、その信号をGPS衛星に与える演算部とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
第2発明は、前記演算部にGPS衛星の軌道情報を軌道情報記憶部から与えたことを特徴とするものである。
【0009】
第3発明は、前記演算部に通信機を設け、この通信機にインターネットを介して測位環境データや衛星軌道情報を有するサーバが接続されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、この発明によれば、マルチパスの影響を受ける可能性のある環境を検出し、マルチパスの影響を受けやすいGPS衛星の信号を使用しないようにして、測位精度を向上させることができるようにした。また、地図情報として建築物の高さや体積を持たせることができるため、GPSモジュールに簡単な設定を行うだけで測位精度の向上を図ることができる。さらに、地図情報や衛星軌道情報をサーバで支援することにより、GPS受信機の処理を軽くすることができる。この他、サーバにより地図情報や衛星情報を更新することにより、データの更新が容易になり、建築物情報の変化があっても柔軟変更が可能になるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下この発明の実施の形態を図面に基づいて説明するに、まず、GPS受信機の概略構成図を図1により述べる。
【0012】
図1において、複数のGPS衛星からのGPS信号は、アンテナ11から入力されて、受信部12を経て複数の信号復調器1〜nから構成される信号復調部13に入力される。複数のGPS衛星からのGPS信号は、CDMA変調されており、各衛星のGPS信号に同調する相関器(図示せず)に入力されると、高い相関を示すことを利用してGPS信号の識別を行う。
【0013】
信号復調部13には、全ての衛星の内どれかに同調することのできる相関器が含まれており、通常、GPS受信機には、複数チャネルの相関器を有していて、同時に複数の衛星信号を選別して同時に復調することが可能となっている。
【0014】
前記信号復調部13で再生された信号は、ディジタル信号処理部14でディジタル処理された後、演算部15に入力され、ここで、GPS衛星からのGPS信号の伝搬時間を計測し、三角法によりその時間から特定の座標が算出される。
【0015】
従って、3次元の座標を計算するには、最低4個のGPS衛星からのGPS信号を同時に捕捉する必要があるため、信号復調部13内の信号復調器の個数は、最低4チャネルが必要であるが、GPS衛星からのGPS信号は時々刻々変化していくため、通常、信号復調器は8個以上を装備して、状態の良いGPS信号を取捨選択して用いるのが一般的である。なお、信号復調器1〜nは、設定により有効/無効とすることができるように構成されている。
【0016】
上記のように構成されたGPS受信機において、GPS衛星の位置は、軌道情報により仰角や位置が既知であるため、時刻さえ判明すれば容易に推定できる。このため、例えば、構造物の多い場所では、ある程度低い仰角にあるGPS衛星のGPS信号は使用しないようにする。
【0017】
そして、GPS衛星とGPS受信機の幾何学的位置関係の善し悪しを表すDOP値により、DOP値が適正な値になるようにGPS衛星を取捨選択し、マルチパスの影響が発生しないようにする。そのような機能は、仰角マスク、DOP値のマスク等と呼ばれ、GPS受信機には、既に搭載されている。
【0018】
なお、DOP値とは、図2に示すように、GPS衛星A,B,CとGPS受信機の三角錐(2次元の場合)の体積の逆数を表すパラメータであり、その値が大きいと体積が小さいことを表し、測位に適切でないことを示す。つまり、衛星が同一方向に固まっている等の条件は、測位精度を低下させることになる。
【0019】
図3は、この発明の実施の第1形態を示すブロック構成図で、複数のGPS衛星からのGPS信号は、アンテナ21を介して図1に示したGPS受信機22に入力される。
【0020】
このGPS受信機22で上記のようにして算出された特定の座標データは、測位データ取得部23と衛星位置情報取得部24に入力され、この取得部23,24で取得された測位データと位置情報は演算部25に入力される。演算部25には、建造物などの構造物の位置データが予め記憶された測位環境データ記憶部26からの測位環境データが入力される。なお、測位データ取得部23、衛星位置情報取得部24及び演算部25は、マイクロコンピュータ27などから構成される。
【0021】
上記のように構成された第1形態では、最初に測位データ取得部23で測位を行い、その結果と、衛星位置情報取得部24で取得した情報及び測位環境データ記憶部26の測位環境データによって演算部25で最適な測位を行い、その結果をGPS受信機22に戻して、仰角マスク、DOP値のマスク等を適正な値に調整することにより、測位精度の向上を図るようにした。
【0022】
これにより、図4に示すような、構造物Aや樹木BによりGPS衛星からのGPS信号が遮られる場合においても、測位精度の向上が図れるようになる。測位環境データを表すパラメータとしては、建築物の高さを表すパラメータ、樹木の密集部分を表すパラメータや建築物の体積を表すパラメータなどである。
【0023】
本来、GPS衛星から発せられた電波は、直線上の最短距離を通ってGPS受信機22にて受信されることが精度の高い測位をする上で重要である。なぜなら、伝搬時間を計測することによって距離に換算するからである。
【0024】
ところが、図4に示すように電波の経路上に工場のような構造物Aがあったり、木立Bがあったりすると、GPS衛星の電波が減衰して弱められたり、反射によって直線上では無い経路を通ったりすることが考えられる。
【0025】
このような経路を通った電波の受信状態は、座標計算上の誤差要因を増加するため、できるだけ使用すべきでない。従って、他に使用可能な衛星が配置されている場合は、この衛星の情報を使用しないことにより精度を向上することができる。衛星情報の使用/不使用は、前述の信号復調部13のチャネルを取捨選択することにより、容易に実現することができる。
【0026】
図5は、この発明の実施の第2形態を示すブロック構成図で、この図5は、図1、図3に示す第1形態を移動体端末30に構成したものである。
【0027】
この移動体端末30には、受信機22、マイクロコンピュータ27、測位環境データ記憶部26の他に、衛星の軌道情報記憶部31を持たせる。なお、32は表示器、33は電源である。
【0028】
上記のように構成したことにより、最初に測位した位置情報により受信機22の位置から見た衛星の方向と仰角情報を予測し、特定の方角に存在するであろう構造物Aの高さや体積により、影響を受けやすい(すなわち、衛星が直視できる)方向に構造物Aがないかどうかを判断する。
【0029】
この判断結果により、その衛星を測位に使用する/しないかの選択を行うことによって、マルチパスの影響を排除して測位精度を向上させる。なお、衛星の軌道情報は、衛星から得ることができる。
【0030】
図6は、この発明の実施の第3形態を示すブロック構成図で、この図6は第2形態に示す移動体端末30から測位環境データ記憶部26と軌道情報記憶部31を省いて、通信機34を設けた移動体端末40に構成したものである。
【0031】
この移動体端末40においては、通信機34にマイクロコンピュータ27を接続するとともに、この通信機34には、インターネット35を経由して測位環境データ等である建築物地図情報を有するサーバ36を接続する。
【0032】
図7は、上記移動体端末40を自動車等の移動体41に搭載し、移動体端末40とサーバ36との間で通信が可能なGPSシステムのシステム構成図である。この図7のシステム構成図では、移動体端末40の通信機34としては、携帯電話機を使用して、携帯基地局37からインターネット35を経由してサーバ36に接続する例を示してある。
【0033】
図7に示すGPSシステム構成図において、現在のGPS受信機22の位置を測位するには、その受信機22の位置の測位環境をGPS衛星3A、3B、3Cに通知すると、GPS受信機22は、サーバ36から測位環境データを取得するとともに、衛星仰角マスク値やDOP値および受信信号強度を調整することによりマルチパスの影響を排除して、測位環境を向上させることができる。
【0034】
図6、図7において、サーバ36には、建築物地図情報の他に衛星の位置情報を持たせることにより、測位精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】GPS受信機の概略構成図。
【図2】DOP値を説明するための図。
【図3】この発明の実施の第1形態を示すブロック構成図。
【図4】GPS衛星の電波経路上に構造物や木立があるときの説明図。
【図5】この発明の実施の第2形態を示すブロック構成図。
【図6】この発明の実施の第2形態を示すブロック構成図。
【図7】GPSシステムのシステム構成図。
【図8】GPS衛星を用いて位置情報が精度良く算出可能ときの説明図。
【図9】GPS衛星を用いて位置情報が精度良く算出できないときの説明図。
【符号の説明】
【0036】
12…受信部
13…信号復調部
14…ディジタル信号処理部
15…演算部
21…アンテナ
22…受信機
23…測位データ取得部
24…衛星位置取得部
25…演算部
26…測位環境データ記憶部
27…マイクロコンピュータ
31…軌道情報記憶部
32…表示器
34…通信機
36…サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGPS衛星から電波を受信するGPS受信機と、
このGPS受信機からの測位データを取得する測位データ取得部と、
前記GPS受信機からの衛星位置情報を取得する衛星位置情報取得部と、
構造物、木立などの測位環境に影響を与えるデータが予め記憶された測位環境データ記憶部と、
前記両取得部の出力と測位環境データ記憶部の出力がそれぞれ入力されて演算され、目的のGPS衛星を選択する信号を得て、その信号をGPS衛星に与える演算部とを備えたことを特徴とするGPS受信機を用いた測位装置。
【請求項2】
前記演算部にGPS衛星の軌道情報を軌道情報記憶部から与えたことを特徴とする請求項1記載のGPS受信機を用いた測位装置。
【請求項3】
前記演算部に通信機を設け、この通信機にインターネットを介して測位環境データや衛星軌道情報を有するサーバが接続されたことを特徴とする請求項1記載のGPS受信機を用いた測位装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−191117(P2008−191117A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28660(P2007−28660)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】