説明

HIV感染症を治療するためのN−ヒドロキシベンズアミドの誘導体

本発明は、HIV感染患者の治療方法に用いられる、ジエチル−[6−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニル−カルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライド;4−(2−(S)−ベンゾイルアミノ−3−ナフタレン−2−イル−プロピオニルアミノ)−N−ヒドロキシ−ベンズアミド;および/またはベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸[1(S)−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイル)−2−ナフタレン−2−イル−エチル]−アミドなどのN−ヒドロキシ−ベンズアミドを基剤とするヒストン脱アセチル化酵素阻害剤に係る。このヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、50から200mg/日、好ましくは100から200mg/日の範囲の用量で投与され、125から250nMの間の血中濃度が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しているヒトの治療への、N−ヒドロキシ−ベンズアミドを基剤とするヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の使用に関する。特に、HIV感染症の排除を目的として、持続性の潜在HIVによるT CD4+細胞の感染を有する患者への治療に、高活性抗レトロウイルス剤療法(highly active antiretroviral therapy)(HAART)と併用する。
【背景技術】
【0002】
10年余り前に高活性抗レトロウイルス剤療法(HAART)が導入されて以来、HIV−1感染症を効率的に制御し、HIV−1ウイルス血症(HIV−1 viremia)を検出可能な値未満に維持することはできる。しかし、長期のHAART療法によるHIV−1感染症の排除はまだ可能ではない。HAARTを中断すると、典型的には2週間後にウイルス血症のリバウンドが起こる(非特許文献1参照)。
【0003】
ウイルスリバウンドの原因は、長期の細胞プールであり、十中八九、メモリーT細胞リザーバーといえる。メモリーT細胞リザーバーは、比較的感染が遅く、HIV−1が組み込まれたプロウイルスDNAの宿主である。潜在性細胞プールを数値化するための統合技術が使用可能であり、1人のHIV−1陽性患者のメモリー細胞100万個のうち1つが複製可能な組込みプロウイルスを1つ保有すると計算されている。
【0004】
静止細胞中でプロウイルスDNAを転写不活性に保持するメカニズムは知られている。しかし、このメカニズムは、クロマチンに関連する調節を伴うと長い間考えられてきた(非特許文献2参照)。潜在性細胞中では、組込みプロウイルスDNAは、ヌクレオソームに高密度で組織化されている。プロモーター配列およびエンハンサー配列を含むHIV−1の5’末端反復配列(long terminal repeat)(LTR)は、多数の転写因子の結合の標的であり、2つのヌクレオソーム(nuc−0およびnuc−1)に組織化されている。NFκB p50ホモ二量体は、AP−4、YY1およびLSF1と同様、LTRにヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を補充し、それが次に局所ヒストンを脱アセチル化し、クロマチンを圧縮し、RNAポリメラーゼIIの結合を防止する。
【0005】
新たな一群の合成化合物であるHDAC阻害剤(HDACi)は、HDACの酵素活性およびHIV−1遺伝子発現の相対的な抑制を無効にし得る。さらにまた、IL−2、OKT3またはTNFαのようなNFκB細胞活性化因子とは逆に、HDACiは、T細胞を全体的に活性化することなく、遺伝子発現を促進し得る。
【0006】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、ヒストンのN末端部分または他のタンパク質中の、リジン残基に結合しているアセチル基を除去することができる酵素である。
【0007】
HDACは、構造相同性によって4つのクラスに分けることができる。クラスI HDAC(HDAC 1、2、3および8)は、RPD3酵母タンパク質に類似し、細胞核に見られる。クラスII HDAC(HDAC 4、5、6、7、9および10)は、HDA1酵母タンパク質と類似し、核と細胞質のいずれにも見られる。クラスIII HDACは、SIR2酵母タンパク質と相関するNAD依存性酵素の構造的に別個の形態である。クラスIV(HDAC 11)は一般に、特定の構造特性を有する単一酵素からなる。クラスI、クラスIIおよびクラスIVのHDACは、亜鉛を含む酵素であり、種々の分子クラス:ヒドロキサム酸誘導体、環状テトラペプチド、短鎖脂肪酸、アミノベンズアミド、求電子性ケトン誘導体などによって阻害され得る。クラスIII HDACは、ヒドロキサム酸によって阻害されず、それらの阻害剤は、他のクラスの阻害剤とは異なる構造特性を有する。
【0008】
本発明のために、「ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤」という表現は、クラスI、IIまたはIVのヒストン脱アセチル化酵素として分類される少なくとも1種の酵素の活性を阻害できる、天然由来、組換え型または合成の任意の分子を示すことを意図している。
【0009】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、抗腫瘍活性および抗炎症活性を有する一群の分子である。
【0010】
腫瘍細胞において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、細胞増殖を阻害し、細胞の死および分化を誘導する(非特許文献3参照)。
【0011】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はまた、免疫担当細胞によるサイトカインおよび他の炎症誘発性因子の産生を調整でき、インビボで抗炎症性を有することが証明されている(非特許文献4および非特許文献5参照)。
【0012】
腫瘍疾患および炎症性疾患の両者に種々の阻害剤を用いる多数の臨床試験が現在進捗中であり、それらの進捗段階は様々である(非特許文献6参照)。
【0013】
参照によりともに本明細書に組み込まれる特許文献1(無水型)および特許文献2(一水和物結晶型)に記載されている、ジエチル−[6−(−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライドは、良好な抗炎症活性を有するHDAC阻害剤であり、このような活性成分の一水和物結晶型は、ITF2357および/またはGivinostatとしても知られている。
【0014】
HDAC酵素を阻害できる他の4−アミノ−N−ヒドロキシ−ヒドロキシベンズアミド誘導体は、参照によりともに本明細書に組み込まれている特許文献3および特許文献4に開示されている。
【0015】
種々のHDAC阻害剤が、潜伏感染した細胞株からのHIV−1遺伝子発現を誘導し得ることがわかったが、他方において、誘導の実施に必要な濃度における阻害剤の毒性作用の可能性に対する懸念がもち上がり(非特許文献7参照)、これに関して、選択的なクラスI HDAC阻害剤は、細胞毒性が比較的低い強力なHIV誘導物質となり得ることが最近提案された(非特許文献8参照)。
【0016】
痙攣性および精神性障害に対して処方される、カルボン酸HDACiのバルプロ酸(VPA)は、一部の臨床試験でHAARTと併用されたが、潜在性リザーバーをかなり縮小するには至らなかった(非特許文献9参照)。したがって、VPAを用いたこれらの試験では、HDACiのウイルスを排除する潜在能力が明らかにならなかった。
【0017】
HIV感染症の治療へのSAHAの使用が開示されている(特許文献5参照)。SAHAは、N−ヒドロキシ−ベンズアミド構造を有していないHDACiであり、VorinostatまたはZolinzaとして市販されている。SAHAは、ACH−2細胞株においてEC50 0.632μMでHIV−1遺伝子発現を誘導することが示されている(特許文献5の実施例2および図1を参照)。
【0018】
Zolinzaの添付文書は、皮膚T細胞リンパ腫に冒されている患者の治療に有効と考えられるSAHAの血中濃度が、400mg/日の用量で得られることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第97/43251号
【特許文献2】国際公開第2004/065355号
【特許文献3】国際公開第2004/063146号
【特許文献4】国際公開第2006/003068号
【特許文献5】国際公開第2008/097654号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Imamichi H. et al. J Infect. Dis. 183, 36 (2001)
【非特許文献2】Quivy V. et al. Subcell Biochem. 41, 371 (2007)
【非特許文献3】Gaofeng Bi and Guosheng Jiang, Cellular & Molecular Immunology 3, 285-290 (2006)
【非特許文献4】Frederic Blanchard and Celine Chipoy, Drug Discovery Today 10, 197 -204 (2005)
【非特許文献5】IM Adcock, British Journal of Pharmacology 150, 829-831 (2007)
【非特許文献6】Marielle Paris et al., Journal of Medicinal Chemistry 51, 1505-1529 (2008)
【非特許文献7】Shehu-Xhilaga, M. et al. AIDS 23, 2047 (2009)
【非特許文献8】Archin, NM et al. AIDS 23, 1799 (2009)
【非特許文献9】Lehrman G et al. Lancet 366 (9485), 549 (2005)
【非特許文献10】Monzani, VM et al., EUROTOX 2007, 44th Congress of toxicology, poster G33
【非特許文献11】Vojinovic, J. et al., The 72nd annual meeting of the American College of Rheumatology, San Francisco, California, 29 October 2008
【非特許文献12】Nold M.F. et al. J. Immunol. 181, 557 (2008)
【非特許文献13】Jones P. et al. Bioorg Med Chem Lett. 18, 3456 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、この用量のSAHAは、下痢、疲労感、吐き気、血小板減少、食欲不振および味覚異常などの多数の重篤な副作用を引き起こす可能性がある。さらにまた、Zolinzaの添付文書の情報によれば、SAHAは、細菌復帰突然変異アッセイ(bacterial back−mutation assay)(Ames試験)においてインビトロで変異原性であり、チャイニーズハムスター卵巣(Chinese Hamster Ovary)(CHO)細胞中にインビトロで染色体異常を引き起こし、マウスへの投与時(マウス小核アッセイ)に小核赤血球の出現率を増加させる。
【0022】
したがって、HIV−1遺伝子発現の誘導に有効であることが既に知られているHDAC阻害剤より活性であり且つ低毒性である、好ましくは、それより活性でありしかも低毒性である新規HIV−1発現誘導剤、おそらくはHDAC阻害剤に対する必要が生じることは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
ジエチル−[6−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライドが、好ましくは一水和物型、より好ましくは一水和物結晶型(ITF2357、Givinostat)で、ACH−2細胞株において好ましくは125〜250nMの間の濃度でHIV−1遺伝子発現を誘導できることをこのたび発見した。これは本発明の一態様を構成する。
【0024】
ITF2357は、非変異原性であることが明らかにされており(非特許文献10参照);臨床治療においては、ITF2357を50〜200mg投与することによって、125〜250nMの間の治療血中濃度を容易に得ることができる。この範囲内の用量が多数の臨床試験で使用され、検出された毒性作用は極めて低かった。全身型若年性特発性関節炎(systemic onset juvenile idiopathic arthritis)(SOJIA)の小児には1.5mg/kg/日の等価用量が投与され、期待の持てる結果が得られ、毒性作用が検出されなかった(非特許文献11参照)。
【0025】
したがって、4−アミノ−N−ヒドロキシ−ベンズアミド誘導体である一部のHDAC阻害剤(ITF2357を含む)が、かなりの毒性を全く示さない濃度においてHIV遺伝子発現の誘導に極めて有効となり得ることを発見した。これは本発明の第2の態様である。この発見は、HIV遺伝子誘導および毒性の2つの作用が同じ構造的理由および/またはメカニズム上の理由によって決まる可能性があることを示唆する以前の見解(非特許文献7参照)とは対照的であると思われる。
【0026】
さらに、HDAC酵素を阻害できるこのような4−アミノ−N−ヒドロキシ−ベンズアミド誘導体のいくつかが、ACH−2細胞株において125から250nMの間の濃度で、ITF2357よりもHIV−1遺伝子発現の誘導にさらに強力であることを発見した。これが本発明の第3の態様である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
単なる例として、4−(2(S)−ベンゾイルアミノ−3−ナフタレン−2−イル−プロピオニルアミノ)−N−ヒドロキシ−ベンズアミド(化合物g)およびベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸[1(S)−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイル)−2−ナフタレン−2−イル−エチル]−アミド(化合物t)(いずれも、前記特許文献4の実施例2を参照)は、ACH−2細胞において250nMで、HIV発現を30倍増加させる。これに対して、同一濃度のITF2357で得られるのは、15倍の増加である。
【0028】
ジエチル−[6−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライド;
4−(2−(S)−ベンゾイルアミノ−3−ナフタレン−2−イル−プロピオニルアミノ)−N−ヒドロキシ−ベンズアミド(化合物g);および
ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸[1(S)−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイル)−2−ナフタレン−2−イル−エチル]−アミド(化合物t)
の化学構造を以下に示す。
【0029】
【化1】

【0030】
ジエチル−[6−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライド
【0031】
【化2】

【0032】
したがって、本発明の目的は、HIV感染症、好ましくはHIV−1感染症の治療用の一般式Iの化合物によって代表され、
【0033】
【化3】

【0034】
式中、
Xは、O、CHであるかまたは存在せず;
Arは、アリール、または飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系もしくは三環系炭素環式残基、またはN、SおよびOから選択される1つもしくは複数のヘテロ原子を含む飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系もしくは三環系複素環式残基であり;前記炭素環式または複素環式アリール残基が、1つまたは複数の同一または異なるハロゲン、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシル、C1〜C4ハロアルキル、アルキルスルホニル、シクロアルキル、(シクロアルキル)アルキル、アルカノイル、アミノ、(C1〜C4)モノアルキルアミノもしくは(C1〜C4)ジアルキルアミノ、C1〜C4アルキルで一置換もしくは二置換されている(C1〜C4)アミノアルキル、カルボキシ、C1〜C4アルコキシルカルボニル、メルカプトアルコキシ、メルカプトフェノキシ、ニトロ、シアノ、オキソ、ペルフルオロアルコキシ、ペルフルオロアルキル、フェニル、フェノキシ、フェニルアルコキシ、ベンゾイルオキシ、フェニルアルキル、ベンゾイル、フェニルスルホニルおよびヒドロキシで任意選択で置換されており;
Rは、存在しないかまたはR1−CO−NH−残基であり、
[式中、R1は、アリール、アリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル、または飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系もしくは三環系炭素環式残基、またはN、SおよびOから選択される1つもしくは複数のヘテロ原子を含む飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系もしくは三環系複素環式残基であり;前記アリール、アリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル、炭素環式または複素環式残基は、ハロゲン、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシル、C1〜C4ハロアルキル、アルキルスルホニル、シクロアルキル、(シクロアルキル)アルキル、アルカノイル、アミノ、(C1〜C4)モノアルキルアミノもしくは(C1〜C4)ジアルキルアミノ、C1〜C4アルキルで一置換もしくは二置換されている(C1〜C4)アミノアルキル、カルボキシ、C1〜C4アルコキシルカルボニル、メルカプトアルコキシ、メルカプトフェノキシ、ニトロ、シアノ、オキソ、ペルフルオロアルコキシ、ペルフルオロアルキル、フェニル、フェノキシ、フェニルアルコキシ、ベンゾイルオキシ、フェニルアルキル、ベンゾイル、フェニルスルホニルおよびヒドロキシから選択される、互いに同一または異なる1つもしくは複数の残基を任意選択で有する]である。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、
Xは、OまたはCHであり、
Arは、6−ジエチルアミノメチル−ナフタレン−2−イルまたはナフタレン−2−イルである。
【0036】
最も好ましい化合物は、
好ましくは一水和物型、より好ましくは一水和物結晶型のジエチル−[6−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニル−カルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライド;
4−(2−(S)−ベンゾイルアミノ−3−ナフタレン−2−イル−プロピオニルアミノ)−N−ヒドロキシ−ベンズアミド;および/または
ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸[1(S)−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイル)−2−ナフタレン−2−イル−エチル]−アミド
である。
【0037】
式Iの化合物は主に、ヒトに投与し、好ましくは125から250nMの間の血中濃度を得ることを目的とし;好ましくは、このような化合物は50から200mg/日、より好ましくは100から200mg/日の範囲の用量で投与する。
【0038】
一実施形態によれば、式Iの化合物は、50mg1日2回から200mg1日1回の範囲の用量で投与する。
【0039】
別の実施形態によれば、式Iの化合物は、少なくとも1種の抗レトロウイルス剤と組み合わせておよび/または少なくとも1種の抗レトロウイルス剤と近い時間内に投与する。好ましい抗レトロウイルス剤としては、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、融合阻害剤(fusion inhibitor)、侵入阻害剤(entry inhibitor)、インテグラーゼ阻害剤、共同受容体拮抗剤、ウイルス吸着阻害剤、ウイルス特異的転写阻害剤および/またはサイクリン依存性キナーゼ阻害剤が挙げられ;最も好ましい抗レトロウイルス剤は、エファビレンツ、硫酸インジナビルおよび/またはラルテグラビルカリウムである。
【実施例1】
【0040】
ACH−2細胞株におけるHIV−1発現の誘導
ACH2細胞は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)、国立アレルギー感染病研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)、エイズ部門(Division of AIDS)のAIDS Research and Reference Reagent Program(メリーランド州ベセズダ)から入手した。細胞をフラスコ中で培養し、RPMIで洗浄し、RPMI/10%FCS中に細胞2×106個/mLの濃度で再懸濁させた。細胞250μL、培地200μLおよび0.01%DMSOを含む種々の濃度(0から250nM)のHDAC阻害剤溶液50μLを、48ウェルポリスチレン組織培養プレート(Falcon,Lincoln Park,NJ)中で一定分量に分割した。37℃/5%CO2において24時間インキュベーション後、乳酸脱水素酵素(LDH)の細胞毒性アッセイのために上清50μLを取り出し、各培養物にTriton−X−100(最終濃度0.5%vol/vol)を加えた。直ちに、溶解産物のp24アッセイを実施した。
【0041】
24時間後のLDH活性によって決定した場合の細胞死は、無処置細胞と比較して、HDAC阻害剤に曝露された細胞においてさほどの相違がなかった。
【0042】
既に記載された方法(非特許文献12参照)で磁気ビーズ上に固定された特異抗体を用いて、p24を測定した。HDAC阻害剤を用いない各実験のp24のレベルを1.0に固定し、各実験および各類似体(analogous)に関する増加値(倍数)を計算した。結果を、下記表に示す。
【0043】
【表1】

【実施例2】
【0044】
ヒストン脱アセチル化酵素イソ型の阻害
組換えヒト酵素は、BPS Biosciences(CA、USA)から入手した。イソ型のクラスI HDAC1、2、3;クラスIIbIbのHDAC6、10およびクラスIV HDAC11を、Fluor−de−Lys蛍光発生合成基質(Enzo Life Sciences、Plymouth Meeting、PA)を用いて試験した。イソ型のクラスIIa HDAC4、7、9を、これらの酵素の特異的基質として記載されている(非特許文献13参照)、Boc−L−Lys(Tfa)−MCA(TFAL)誘導体を用いて試験した。組換えヒトHDAC8アッセイは、HDAC8 Fluorimetric Drug Discovery Kit(Enzo)を使用して製造業者の使用説明書に従って実施した。各阻害剤をDMSOに溶解し、次いでアッセイ緩衝液で希釈した。0.5%未満のDMSO濃度は、アッセイの活性に影響を及ぼさない。アッセイは、各酵素を阻害剤と共に37℃において15分間プレインキュベートすることによって実施した。基質を37℃において添加することによって反応を開始させ、60分間進行させた。トリコスタチンA 4μMを含む2倍濃縮顕色剤溶液(developer solution)2(Enzo)を50μL添加することによって、蛍光シグナルを発生させた。発生した螢光を、355nm(励起)および460nm(発光)の波長で検出した。
【0045】
結果を、IC50(酵素活性を50%低下させるのに必要な濃度)として表し、下記表に示す(SAHA値も測定した。これを表中に示す)。
【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV感染症治療用の一般式I
【化1】

の化合物であって、
式中、
Xは、O、CHであるかまたは存在せず;
Arは、アリール、または飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系もしくは三環系炭素環式残基、またはN、SおよびOから選択される1つもしくは複数のヘテロ原子を含む飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系もしくは三環系複素環式残基であり;
前記炭素環式または複素環式アリール残基は、1つまたは複数の同一または異なるハロゲン、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシル、C1〜C4ハロアルキル、アルキルスルホニル、シクロアルキル、(シクロアルキル)アルキル、アルカノイル、アミノ、(C1〜C4)モノアルキルアミノもしくは(C1〜C4)ジアルキルアミノ、C1〜C4アルキルで一置換もしくは二置換されている(C1〜C4)アミノアルキル、カルボキシ、C1〜C4アルコキシルカルボニル、メルカプトアルコキシ、メルカプトフェノキシ、ニトロ、シアノ、オキソ、ペルフルオロアルコキシ、ペルフルオロアルキル、フェニル、フェノキシ、フェニルアルコキシ、ベンゾイルオキシ、フェニルアルキル、ベンゾイル、フェニルスルホニルおよびヒドロキシで任意に置換されており;
Rは、存在しないか、またはR1−CO−NH−残基であり、
[式中、
1は、アリール、アリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル、または飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系、三環系炭素環式残基、またはN、SおよびOから選択される1つもしくは複数のヘテロ原子を含む飽和、不飽和もしくは部分的に不飽和の単環系、二環系、三環系複素環式残基であり;
前記アリール、アリールアルキル、直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル、炭素環式または複素環式アリール残基は、ハロゲン、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシル、C1〜C4ハロアルキル、アルキルスルホニル、シクロアルキル、(シクロアルキル)アルキル、アルカノイル、アミノ、(C1〜C4)モノアルキルアミノもしくは(C1〜C4)ジアルキルアミノ、C1〜C4アルキルで一置換もしくは二置換されている(C1〜C4)アミノアルキル、カルボキシ、C1〜C4アルコキシルカルボニル、メルカプトアルコキシ、メルカプトフェノキシ、ニトロ、シアノ、オキソ、ペルフルオロアルコキシ、ペルフルオロアルキル、フェニル、フェノキシ、フェニルアルコキシ、ベンゾイルオキシ、フェニルアルキル、ベンゾイル、フェニルスルホニルおよびヒドロキシから選択される、互いに同一または異なる1つもしくは複数の残基を任意に有する]
ことを特徴とする化合物。
【請求項2】
Xは、OまたはCHであり、
Arは、6−ジエチルアミノメチル−ナフタレン−2−イルまたはナフタレン−2−イルである、
ことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
ジエチル−[6−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニル−カルバモイルオキシメチル)−ナフタレン−2−イル−メチル]−アンモニウムクロライドであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
一水和物型、好ましくは一水和物結晶型であることを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
4−(2(S)−ベンゾイルアミノ−3−ナフタレン−2−イル−プロピオニルアミノ)−N−ヒドロキシ−ベンズアミドであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸[1(S)−(4−ヒドロキシカルバモイル−フェニルカルバモイル)−2−ナフタレン−2−イル−エチル]−アミドであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記HIV感染症は、HIV−1感染症であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
ヒトに投与されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
50から200mg/日、好ましくは100から200mg/日の範囲の用量で投与されることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
50mg1日2回から200mg1日1回の範囲の用量で投与されることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項12】
前記ヒトにおけるその血中濃度は125から250nMの間であることを特徴とする請求項9に記載の化合物。
【請求項13】
少なくとも1種の抗レトロウイルス剤と組み合わせておよび/または少なくとも1種の抗レトロウイルス剤の時間的近傍で投与されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
前記少なくとも1種の抗レトロウイルス剤は、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、融合阻害剤、侵入阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、共同受容体拮抗剤、ウイルス吸着阻害剤、ウイルス特異的転写阻害剤および/またはサイクリン依存性キナーゼ阻害剤から選択されることを特徴とする請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
前記抗レトロウイルス剤は、エファビレンツ、硫酸インジナビルおよび/またはラルテグラビルカリウムから選択されることを特徴とする請求項14に記載の化合物。

【公表番号】特表2013−508349(P2013−508349A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534798(P2012−534798)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054139
【国際公開番号】WO2011/048514
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(591279294)イタルファルマコ ソシエタ ペル アチオニ (8)
【氏名又は名称原語表記】ITALFARMACO SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】