説明

III−V族半導体層を作製する方法、量子井戸構造を作製する方法、及び、窒素源装置

【課題】窒素フラックスの調整が可能な、III−V族半導体層を作製する方法と、量子井戸構造を作製する方法と、窒素源装置とを提供すること。
【解決手段】アパーチャ26a等のうち開口されたアパーチャを介して窒素フラックスを供給し他の原料フラックスを供給して、第1のIII−V族半導体層を基板上に堆積する第1の工程と、開口されるアパーチャの数を変更する第2の工程と、第2の工程後に開口されているアパーチャを介して窒素フラックスを供給し他の原料フラックスを供給して、第2のIII−V族半導体層を第1のIII−V族半導体層上に堆積する第3の工程とを備え、第1のIII−V族半導体層の窒素組成は第2のIII−V族半導体層の窒素組成と異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族半導体層を作製する方法と、量子井戸構造を作製する方法と、窒素源装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、GaNAs半導体の障壁層とGaInNAs半導体の井戸層とを有するIII−V族半導体のヘテロ構造(量子井戸構造)が開示されている。そして、室温における波長1.308μmのレーザ光の出力に要する電流密度の閾値は、このようなGaNAs半導体の障壁層を有するヘテロ構造の場合に非常に低く、570A/cmである、と報告されている。
【非特許文献1】H. Shimizu, et al., “Low Threshold GaInNAsSb Quantum Well Lasers”,Novel In-Plane Semiconductor Lasers, Jerry R. Meyer, Claire G. Gmachl, Editors,Proceedings of SPIE, p.26, Vol.4651(2002), DECEMBER 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなヘテロ構造を作製する場合、窒素ラジカルガンの搭載された窒素源装置を備えるMBE装置(MBE:Molecular Beam Epitaxy)が用いられる。従来の窒素源装置の構造によれば、窒素源装置内におけるプラズマの安定化のために窒素源装置への窒素ガスの流量を一定とするので、窒素源装置からの窒素フラックスも一定となる。しかし、例えば、GaNAs半導体の障壁層の形成後に、この障壁層とは窒素組成の異なるGaInNAs半導体の井戸層の形成を行う場合には窒素フラックスの変更が必要となる。この場合、窒素源装置への窒素ガスの流量を変更する必要があり、この変更の度に窒素源装置内のプラズマが安定するのを待たなくてはならない。
【0004】
そこで本発明の目的は、窒素フラックスの調整が可能な、III−V族半導体層を作製する方法と、量子井戸構造を作製する方法と、窒素源装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、互いに窒素組成の異なる複数のIII−V族半導体層を作製する方法であって、窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、基板を搭載するステージと窒素ラジカルガンとの間に設けられた開閉可能な複数のアパーチャのうち開口された一又は複数のアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第1のIII−V族半導体層を前記基板上に堆積する第1の工程と、前記第1の工程の後、開口するアパーチャの数を変更する第2の工程と、窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、前記第2の工程後に開口されたアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第2のIII−V族半導体層を前記第1のIII−V族半導体層上に堆積する第3の工程とを備え、前記第1のIII−V族半導体層の窒素組成は前記第2のIII−V族半導体層の窒素組成と異なる、ことを特徴とする。
【0006】
本発明の別の側面は、互いに窒素組成の異なる複数のIII−V族半導体層を含む量子井戸構造を作製する方法であって、窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、基板を搭載するステージと窒素ラジカルガンとの間に設けられた開閉可能な複数のアパーチャのうち開口された一又は複数のアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第1の半導体層を前記基板上に堆積する第1の工程と、前記第1の工程の後、開口するアパーチャの数を変更する第2の工程と、窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、前記第2の工程後に開口されたアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第2の半導体層を前記第1の半導体層上に堆積する第3の工程とを備え、前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層の一方は、GaInNAs井戸層であり、他方は、GaNAs障壁層である、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の別の側面は、III−V族半導体の成長に用いる窒素源装置であって、窒素ラジカルを発生するための窒素ラジカルガンと、前記窒素ラジカルガンを収容するハウジングと、前記窒素ラジカルガンの有する窒素ラジカルの出射口に設けられており、複数のアパーチャを有するアパーチャ部材と、前記アパーチャ部材上に設けられており、前記複数のアパーチャのうち少なくとも一のアパーチャを開閉するための開閉シャッタとを備える、ことを特徴とする。
【0008】
従って、開口するアパーチャの数を変更することにより、窒素ガスの流量を変更することなく窒素フラックスの調整が可能となる。窒素ガスの流量を変更した場合、プラズマの安定化のための時間が必要となるが、本発明によれば、窒素ガスの流量は変更されないので、このような時間が不要となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒素フラックスの調整が可能な、III−V族半導体層を作製する方法と、量子井戸構造を作製する方法と、窒素源装置とが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、可能な場合には、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図1及び図2を参照して、実施形態に係る分子線結晶成長装置11の構成と窒素源装置17の構成とを説明する。分子線結晶成長装置11は、成長室13と、一又は複数の粒子ビーム源15と、窒素源装置17とを備えるMBE装置である。成長室13は、III−V族半導体を成長するために用いられる。各粒子ビーム源15は、成長室13に接続されており、III−V族半導体を成長するための構成元素を提供する。窒素源装置17は、成長室13に接続されている。
【0011】
窒素源装置17は、窒素ラジカルガン19、ハウジング23、ワイヤ24a、駆動装置24b、アパーチャ部材25a、開閉シャッタ25b及びゲートバルブ39を含む。ハウジング23は、分子線結晶成長装置11の成長室13に設けられた開口21に接続可能であり、また窒素ラジカルガン19を収容する。窒素ラジカルガン19は、PBNチャンバ(PBN:Pyrolitic Boron Nitride)を有しており、このPBNチャンバにおいて窒素ラジカルを発生する。
【0012】
アパーチャ部材25aは、PBNから成り、窒素ラジカルを出射するための窒素ラジカルガン19の出射口19aに設けられており、窒素ラジカルガン19の筐体に支持されている。アパーチャ部材25aは、円板状であり、出射口19aを覆う。アパーチャ部材25aは、アパーチャ部材25aを貫通し窒素ラジカルガン19の内外に通じる複数のアパーチャ(図3(B)に示す7個のアパーチャ26a〜アパーチャ26g)を有する。窒素ラジカルガン19の出射口19aから出射される窒素ラジカルは、アパーチャ部材25aのアパーチャ26a〜アパーチャ26gを介して窒素フラックスとなる。
【0013】
開閉シャッタ25bは、アパーチャ部材25aと同様の円板状であり、アパーチャ部材25a上に設けられている。開閉シャッタ25bは、アパーチャ部材25aを覆う。開閉シャッタ25bは、開閉シャッタ25bを貫通する複数の開口(図3(C)に示す7個の開口27a〜開口27g)を有する。開閉シャッタ25bのこれらの開口27a〜開口27gは、アパーチャ26a〜アパーチャ26gを開口可能である。すなわち、開口27a〜開口27gによって開口される(窒素ラジカルガン19の内外に通じる)アパーチャ26a〜アパーチャ26gは、アパーチャ部材25aと開閉シャッタ25bとの重なり具合により決まる。この窒素源装置17では、窒素ラジカルガン19に供給される窒素ガスの流量を変更することなく、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されるアパーチャの数を変更することによって窒素フラックスを調整する。
【0014】
なお、開閉シャッタ25bは、アパーチャ部材25a上を移動可能である。開閉シャッタ25bには、ワイヤ24aの一端が接続されており、ワイヤ24aの他端は、駆動装置24bに接続されている。駆動装置24bは、ワイヤ24aを介して、開閉シャッタ25bを移動する。駆動装置24bは、ワイヤ24aの調整を、マグネットカップリングを用いて行う。これにより、ハウジング23の外部からワイヤ24aの操作と開閉シャッタ25bの移動とが可能となる。
【0015】
窒素源装置17は、窒素ラジカルガン19を収容するハウジング23を有する。ハウジング23は、開口23a及び開口23bを有する。開口23aは、配管29a及びバルブ29bを介して原料ボンベ30に接続されている。開口23bは、ゲートバルブ31を介して真空排気装置33に接続されている。真空排気装置33は、例えばターボ分子ポンプ35及び粗引きポンプ37に接続されている。開口23aからの窒素ガスは、窒素ラジカルガン19に提供される。窒素ラジカルガン19は、窒素ガスから窒素ラジカルを生成する。ハウジング23内の真空度は、ゲートバルブ31及び真空排気装置33を用いて調整される。これにより、ハウジング23内に、原料ガスのプラズマを生成できる。ハウジング23内の真空度は、成長室13の真空度とは独立して変更できる。
【0016】
ゲートバルブ39は、ハウジング23に取り付けられている。ゲートバルブ39は、ハウジング23端部の開口に設けられている。ゲートバルブ39は、アパーチャ26a〜アパーチャ26gからの窒素フラックスをハウジング23内から成長室13内に導く。
【0017】
成長室13内には、GaAsウエハといった基板を搭載するステージ41が設けられている。成長室13の内部を真空排気するために、真空排気ポンプ43がゲートバルブ45を介して成長室13に接続されている。成長室13には、複数の粒子ビーム源15a〜粒子ビーム源15cが設けられている。粒子ビーム源15a〜粒子ビーム源15cには、分子線を出射するための出射口がそれぞれ設けられており、各出射口はステージ41に向けられている。窒素源装置17のゲートバルブ39(窒素源装置17の出射口)も同様にステージ41に向けられている。
【0018】
粒子ビーム源15a〜粒子ビーム源15cの出射口には、シャッタ板47a〜シャッタ板47cが設けられており、シャッタ板47a〜シャッタ板47cが開口すると、その開口からビームが出射される。また、粒子ビーム源15a〜粒子ビーム源15cは固体原料を加熱するためのヒータが設けられており、このヒータによって粒子ビーム源15a〜粒子ビーム源15c内の原料が蒸発又は昇華する。このように気化された原料のビームが、粒子ビーム源15a〜粒子ビーム源15cから出射される。
【0019】
窒素源装置17は、窒素ラジカルガン19に設けられた高周波コイルを有する。原料ボンベ30からの気体原料が、ハウジング23のキャビティに供給され、その気体原料は、この高周波コイルから放出される高周波エネルギにより励起され、窒素ラジカルが生成される。この窒素ラジカルは、アパーチャ26a〜アパーチャ26g及びゲートバルブ39を介して窒素フラックスとして出射される。
【0020】
次に、図3(A)〜図3(C)を参照してアパーチャ部材25a及び開閉シャッタ25bの構成を説明する。アパーチャ部材25a及び開閉シャッタ25bは、同形状(例えば、円板状)を有している。アパーチャ26a〜アパーチャ26gは何れも同形状(例えば、円形)であり、アパーチャ部材25aの表面において略均一に配置されている。
【0021】
開閉シャッタ25bの開口27a〜開口27dは、何れもアパーチャ26a〜アパーチャ26dと同様の形状(例えば、円形)を有している。開口27a〜開口27dの開閉シャッタ25bにおける配置と、アパーチャ26a〜アパーチャ26dのアパーチャ部材25aにおける配置とは同様である。このため、開口27a〜開口27dとアパーチャ26a〜アパーチャ26dとは重なり合うことが可能である。すなわち、開口27a〜開口27dは、アパーチャ26a〜アパーチャ26dを開口可能である。
【0022】
開口27e〜開口27gは、アパーチャ26e〜アパーチャ26gよりも大きな形状を有している。開口27e〜開口27gのそれぞれは、同様の例えば楕円形状を有しており、この楕円形状の長軸に沿って二つのアパーチャ(アパーチャ26a〜アパーチャ26gと同形状のアパーチャ)を含み得る大きさを有している。開口27e〜開口27gの長軸(又は短軸)の向きは、全て同じである。
【0023】
開口27e〜開口27gは、開口27a〜開口27dとアパーチャ26a〜アパーチャ26dとが重なり合うようにアパーチャ部材25aと開閉シャッタ25bとが配置されている場合に、アパーチャ26e〜アパーチャ26gを開口する。よって、開口27a〜開口27dとアパーチャ26a〜アパーチャ26dとが重なり合うようにアパーチャ部材25aと開閉シャッタ25bとが配置されている場合、アパーチャ26a〜アパーチャ26gの全てが開口される。
【0024】
次に、図4(A)及び図4(B)を参照して、開口されるアパーチャの数の変更方法を説明する。まず、アパーチャ26a〜アパーチャ26dと、開口27a〜開口27dとが重なり合っている状態、すなわち、アパーチャ26a〜アパーチャ26gが全て開口されている状態であるとする(図4(A))。次に、この状態において、ワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて、開閉シャッタ25bを、開口27e〜開口27gの長軸方向に(図中符号A1に示す向きに)移動する(図4(B))。この場合、ワイヤ24a及び駆動装置24bは、開閉シャッタ25bを、開口27e〜開口27gの長軸方向に(図中符号A1に示す向きに)移動できる構成となっている。
【0025】
開閉シャッタ25bの移動量は、アパーチャ26a〜アパーチャ26gの直径程度である。この移動により、アパーチャ26a〜アパーチャ26dは、開閉シャッタ25bにより閉口される。これに対し、アパーチャ26e〜アパーチャ26gは、開口27e〜開口27g内をそれぞれ移動するだけであり、開閉シャッタ25bの移動前と同様に開口されている。以上のようにして、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されるアパーチャの数が開閉シャッタ25bを用いて変更できる。
【0026】
なお、開閉シャッタ25bに替えて、図5(A)に示す開閉シャッタ25cを窒素源装置17に設けてもよい。図5(A)を参照して、開閉シャッタ25cの構成を説明する。開閉シャッタ25cは、開閉シャッタ25cを貫通する開口28a〜開口28gを有する。開口28a〜開口28dは、何れもアパーチャ26a〜アパーチャ26dと同様の形状(例えば、円形)を有している。開口28a〜開口28dの開閉シャッタ25cにおける配置と、アパーチャ26a〜アパーチャ26dのアパーチャ部材25aにおける配置とは同様である。このため、開口28a〜開口28dとアパーチャ26a〜アパーチャ26dとは重なり合うことが可能となる。すなわち、開口28a〜開口28dは、アパーチャ26a〜アパーチャ26dを開口可能である。
【0027】
開口28e〜開口28gは、アパーチャ26e〜アパーチャ26gよりも大きな形状を有している。開口28e〜開口28gのそれぞれは、同様の例えば楕円形状を有しており、この楕円形状の長軸に沿って二つのアパーチャ(アパーチャ26a〜アパーチャ26gと同形状のアパーチャ)を含み得る大きさを有している。開口28e〜開口27gの長軸は、開閉シャッタ25cの側面22(円形の淵)に沿って延びている。
【0028】
開口28e〜開口28gは、開口28a〜開口28dとアパーチャ26a〜アパーチャ26dとが重なり合うようにアパーチャ部材25aと開閉シャッタ25cとが配置されている場合に、アパーチャ26e〜アパーチャ26gを開口する。よって、開口28a〜開口28dとアパーチャ26a〜アパーチャ26dとが重なり合うようにアパーチャ部材25aと開閉シャッタ25cとが配置されている場合、アパーチャ26a〜アパーチャ26gの全てが開口される。
【0029】
次に、図5(B)及び図5(C)を参照して、開閉シャッタ25cを用いて行われる開口されるアパーチャ数の変更方法を説明する。まず、アパーチャ26a〜アパーチャ26dと、開口28a〜開口28dとが重なり合っている状態、すなわち、アパーチャ26a〜アパーチャ26gが全て開口されている状態であるとする(図5(B))。次に、この状態においてワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて、開閉シャッタ25cを、開閉シャッタ25cの中心軸の周りに(図中符号A2に示す向きに)回転移動する(図5(C))。この中心軸は、開閉シャッタ25cに対し垂直に延びる軸である。
【0030】
また、この場合、ワイヤ24a及び駆動装置24bは、開閉シャッタ25cを、開閉シャッタ25cの中心軸の周りに(図中符号A2に示す向きに)回転移動できる構成となっている。この開閉シャッタ25cの回転による移動量は、アパーチャ26a〜アパーチャ26gの直径程度である。この移動により、アパーチャ26a〜アパーチャ26dは、開閉シャッタ25cにより閉口される。これに対し、アパーチャ26e〜アパーチャ26gは、開口28e〜開口28g内をそれぞれ移動するだけであり、開閉シャッタ25cの移動前と同様に開口されている。以上のようにして、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されるアパーチャの数が開閉シャッタ25cを用いて変更できる。
【0031】
次に、分子線結晶成長装置11を用いた半導体レーザの作成方法を説明する。以下、図6(A)に示す半導体レーザ70を、分子線結晶成長装置11を用いて作製する場合について説明する。まず、第1導電型の半導体ウエハ61上に、第1導電型のバッファ膜63を堆積する。バッファ膜63上に、第1導電型のクラッド膜65を堆積する。クラッド膜65上に、活性領域67を形成する。活性領域67は、複数の窒化物半導体の層(例えば、図6(B)に示すud−GaAs半導体67a〜ud−GaAs半導体67f)から成る量子井戸構造を有する。活性領域67の作製方法については、後に詳述する。
【0032】
活性領域67上に、第2導電型のクラッド膜69を堆積する。クラッド膜69上に、第2導電型のコンタクト膜71を堆積する。これらの工程により、半導体レーザ70の結晶成長工程が完了する。この結晶成長工程の後、アノード電極及びカソード電極を形成する。半導体レーザ70の構造の一例は下記のものである。
半導体ウエハ61:n型GaAsウエハ
バッファ膜63:n型GaAs
クラッド膜65:n型AlGaAs
活性領域67:GaAs光閉じ込め層を含む量子井戸構造
クラッド膜69:p型AlGaAs
コンタクト膜71:p型GaAs
【0033】
次に、図6及び図7を参照して、分子線結晶成長装置11を用いた活性領域67の作製方法を説明する。活性領域67は、V族として窒素を含むIII−V族半導体の層を有するヘテロ構造(多重量子井戸構造)を有する。まず、開閉シャッタ25b(又は開閉シャッタ25c)とワイヤ24a及び駆動装置24bとを用いて、アパーチャ26a〜アパーチャ26gの全てを閉口する。なお、以下においては、開閉シャッタ25bが用いられている場合について説明するが、開閉シャッタ25cが用いられている場合であっても同様である。そして、所定の時刻t1において窒素源装置17のゲートバルブ39を開く。なお、以下に示す時刻t1から時刻t7に至る期間中、原料ボンベ30から窒素源装置17に供給する窒素ガスの流量は一定に保持される。
【0034】
時刻t1から時刻t2に至る期間において、粒子ビーム源15から原料フラックスを供給し、ud−GaAs半導体67aといった化合物半導体層をクラッド膜65上に100nm程度成長する。時刻t2において、ワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて、アパーチャ部材25a上において開閉シャッタ25bを移動し、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうちN1個のアパーチャを開口する。
【0035】
時刻t2から時刻t3に至る期間において、開口されたN1個のアパーチャを介して窒素フラックスを供給すると共に粒子ビーム源15から他の原料フラックスを供給し、GaInNAs半導体67bといった第1のIII−V窒化合物半導体層をud−GaAs半導体67aといった化合物半導体層上に7nm程度成長する(ステップS1、第1の工程)。時刻t3において、ワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて、アパーチャ部材25a上において開閉シャッタ25bを移動し、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されるアパーチャ数をN1個からN2個に変更する(ステップS2、第2の工程)。時刻t3から時刻t4に至る期間において、開口されたN2個のアパーチャを介して窒素フラックスを供給すると共に粒子ビーム源15から他の原料フラックスを供給し、ud−GaNAs半導体67cといった第2のIII−V族半導体層をGaInNAs半導体67bといった第1のIII−V窒化合物半導体層上に10nm程度成長する(ステップS3、第3の工程)。
【0036】
時刻t4において、ワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて、アパーチャ部材25a上において開閉シャッタ25bを移動し、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されるアパーチャ数をN2個からN1個に変更する。時刻t4から時刻t5に至る期間において、ステップS1と同様の処理により、GaInNAs半導体67dといったIII−V族半導体層を、ud−GaNAs半導体67cといった第2のIII−V族半導体層上に7nm程度成長する。時刻t5において、ステップS2と同様の処理により、アパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されるアパーチャ数をN1個からN2個に変更する。時刻t5から時刻t6に至る期間において、ステップS3と同様の処理により、ud−GaNAs半導体67eといったIII−V族半導体層を、GaInNAs半導体67dといったIII−V族半導体層上に10nm程度成長する。
【0037】
時刻t6において、ワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて、アパーチャ部材25a上において開閉シャッタ25bを移動し、アパーチャ26a〜アパーチャ26gの全てを閉口する。時刻t6から時刻t7に至る期間において、粒子ビーム源15から原料フラックスを供給し、ud−GaAs半導体67fといった化合物半導体層を、ud−GaNAs半導体67eといったIII−V族半導体層上に100nm程度成長する。以上の工程では、ヘテロ構造(多重量子井戸構造)を有する活性領域67が形成される。
【0038】
以上の工程において、窒素源装置17に供給する窒素ガスの流量を変更することなく、開閉シャッタ25bを用いて、開口されるアパーチャの数を変更することにより、窒素フラックスの調整が可能となる。開閉シャッタ25bの移動は、ワイヤ24a及び駆動装置24bを用いて比較的短時間(数秒程度)で行えるので結晶の成長中断が不要となり、この結果、活性領域67のヘテロ構造の界面は急峻に且つ制御性良く窒素組成が制御される。よって、良好なヘテロ構造の界面が形成される。そして、歪補償や変調特性等に応じて量子井戸のバンド構造を比較的自由に設計可能となる。このように、分子線結晶成長装置11を用いて作製された半導体レーザの特性は向上される。
【0039】
次に、開口されたアパーチャの数と、III−V族半導体中の窒素組成との関係について説明する。例えば、RFパワーが300W、窒素ガスの流量が0.2sccm、GaAs半導体の成長速度が1.4μm/hという条件のもとで、アパーチャ部材25a及び開閉シャッタ25bを用いてGaNAs半導体を成長させた場合について説明する。図4(A)に示すようにアパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されたアパーチャの数が「7」の場合、成長後のGaNAs半導体における窒素組成は0.36%であり、図4(B)に示すようにアパーチャ26a〜アパーチャ26gのうち開口されたアパーチャの数が「3」の場合、成長後のGaNAs半導体における窒素組成は0.2%であった。このように、開口されたアパーチャの数を変更することにより、窒素組成の変更が可能となり、窒素組成(%)は、開口されたアパーチャの数に概ね比例する。
【0040】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。例えば、アパーチャ26a等の数及び形状は、図3等に示すものに限らない。また、開口27e〜開口27g及び開口28a〜開口28gの形状は、楕円形としたが、他の形状であってもよい。このように、開閉シャッタ25bや開閉シャッタ25cの開口の数や形状を工夫することによって、開閉シャッタ25bや開閉シャッタ25cにより開閉されるアパーチャの数を種々に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態に係る分子線結晶成長装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態に係る窒素源装置の構成を示す図である。
【図3】実施形態に係るアパーチャ部材及び開閉シャッタの構成を示す図である。
【図4】実施形態に係る開口されるアパーチャの数の変更方法を説明するための図である。
【図5】実施形態に係る他の開閉シャッタの構成を示す図である。
【図6】実施形態に係る製造方法により製造される半導体レーザの構成を示す図である。
【図7】実施形態に係る製造方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
11…分子線結晶成長装置、13…成長室、15,15a,15b,15c…粒子ビーム源、17…窒素源装置、19…窒素ラジカルガン、19a…出射口、21,23a,23b…開口、22…側面、23…ハウジング、24a…ワイヤ、24b…駆動装置、25a…アパーチャ部材、25b,25c…開閉シャッタ、26a,26b,26c,26d,26e,26f,26g…アパーチャ、27a,27b,27c,27d,27e,27f,27g,28a,28b,28c,28d,28e,28f,28g、51a…開口、29a…配管、29b…バルブ、30…原料ボンベ、31…ゲートバルブ、33…真空排気装置、35…ターボ分子ポンプ、37…粗引きポンプ、39…ゲートバルブ、41…ステージ、43…真空排気ポンプ、45…ゲートバルブ、47a,47b,47c…シャッタ板、51…ベース、61…半導体ウエハ、63…バッファ膜、65…クラッド膜、67…活性領域、67e…ud−GaNAs半導体、67f…ud−GaAs半導体、67a…ud−GaAs半導体、67c…ud−GaNAs半導体、67d…GaInNAs半導体、67b…GaInNAs半導体、69…クラッド膜、70…半導体レーザ、71…コンタクト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに窒素組成の異なる複数のIII−V族半導体層を作製する方法であって、
窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、基板を搭載するステージと窒素ラジカルガンとの間に設けられた開閉可能な複数のアパーチャのうち開口された一又は複数のアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第1のIII−V族半導体層を前記基板上に堆積する第1の工程と、
前記第1の工程の後、開口するアパーチャの数を変更する第2の工程と、
窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、前記第2の工程後に開口されたアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第2のIII−V族半導体層を前記第1のIII−V族半導体層上に堆積する第3の工程と
を備え、
前記第1のIII−V族半導体層の窒素組成は前記第2のIII−V族半導体層の窒素組成と異なる、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
互いに窒素組成の異なる複数のIII−V族半導体層を含む量子井戸構造を作製する方法であって、
窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、基板を搭載するステージと窒素ラジカルガンとの間に設けられた開閉可能な複数のアパーチャのうち開口された一又は複数のアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第1の半導体層を前記基板上に堆積する第1の工程と、
前記第1の工程の後、開口するアパーチャの数を変更する第2の工程と、
窒素と異なる原料フラックスを供給すると共に、前記第2の工程後に開口されたアパーチャを介して窒素フラックスを供給して、第2の半導体層を前記第1の半導体層上に堆積する第3の工程と
を備え、
前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層の一方は、GaInNAs井戸層であり、他方は、GaNAs障壁層である、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
III−V族半導体の成長に用いる窒素源装置であって、
窒素ラジカルを発生するための窒素ラジカルガンと、
前記窒素ラジカルガンを収容するハウジングと、
前記窒素ラジカルガンの有する窒素ラジカルの出射口に設けられており、複数のアパーチャを有するアパーチャ部材と、
前記アパーチャ部材上に設けられており、前記複数のアパーチャのうち少なくとも一のアパーチャを開閉するための開閉シャッタと
を備える、ことを特徴とする窒素源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−10217(P2009−10217A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170916(P2007−170916)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】