説明

In−Ga−Zn−Sn系酸化物焼結体、及び物理成膜用ターゲット

【課題】スパッタリング時に、異常放電を低減できる物理成膜用ターゲット、及び耐PAN性の高い酸化物半導体膜を提供する。
【解決手段】インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、GaInSn16又は(Ga,In)で表される化合物を含むこと特徴とする酸化物焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物焼結体及び酸化物焼結体からなる物理成膜用ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの金属複合酸化物からなる酸化物半導体膜はキャリヤーの高移動度性と可視光透過性を有しているので、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置、電気泳動方式表示装置、粉末移動方式表示装置等のスイッチング素子や駆動回路素子等、多岐に亘る用途に使用されている。
このような金属複合酸化物からなる酸化物半導体膜の中で最も普及しているものは、IGZOと呼ばれている酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛からなる酸化物半導体膜である。この他に、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)、酸化錫に酸化亜鉛を添加したもの(ZTO)、又は酸化インジウム−酸化亜鉛−酸化スズに酸化ガリウムを添加したもの等が知られている。これらは、製造の容易さ、価格、特性等それぞれ異なるので、その用途に応じて適宜使用されている。
【0003】
この中で、In、Ga及びZnの酸化物(IGZO)又はこれらを主成分とする酸化物半導体膜は、アモルファスシリコン膜よりもキャリアの移動度が大きいという利点があるために、各用途にて注目を集めている(例えば、特許文献1−7参照。)。
【0004】
一般に、このような酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛からなる酸化物半導体膜形成に使用するスパッタリングターゲットは、原料粉末を混合した後、仮焼、粉砕、造粒、成形、焼結及び還元という各工程を経て製造されている。このように製造工程が多いため、生産性が悪くコスト増となる欠点を有している。また、還元によりターゲットのバルク抵抗を低減しているが、還元後の導電性はせいぜい90S/cm(バルク比抵抗:0.011Ωcm)であり、十分に低抵抗のターゲットを得ることが出来なかった。
従って、上記工程を1つでも省略することが望ましいが、今まで工程の改善がなされておらず、従来通りの製造工程が踏襲されているのが現状である。
【0005】
ところで、IGZOスパッタリングターゲットは、InGaO(ZnO)m(mは1〜20の整数)で表される化合物が主成分であることが知られている。また、InGaO(ZnO)、InGaO(ZnO)、InGaO(ZnO)、InGaO(ZnO)又はInGaO(ZnO)である化合物及びその製造法が知られている。
【0006】
しかしながら、これら製法に使用されている原料粉末については、その粒径が10μm以下であることが特に好ましいと記載されているのみであり、また、各化合物の生成は確認されているもののバルクの比抵抗値については記載がなく、スパッタリングターゲットに用いるには課題があった。
また、IGZOスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング(例えばDCスパッタリング)をする場合に、InGaO(ZnO)mで表される化合物が異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生する問題があった。
さらに、得られた酸化物膜は耐薬品性が低く、金属配線のエッチング等に用いるPAN(リン酸−酢酸−硝酸)系エッチング液に溶解する。その結果、半導体膜を用いて薄膜トランジスタ等を作製する際に、構造やプロセスの制限を受けるという問題があった。
【特許文献1】特開2006−165527号公報
【特許文献2】特開2006−165528号公報
【特許文献3】特開2006−165529号公報
【特許文献4】特開2006−165530号公報
【特許文献5】特開2006−165531号公報
【特許文献6】特開2006−165532号公報
【特許文献7】特開2006−173580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、スパッタリング時に、異常放電を低減できる物理成膜用ターゲットを提供すること、及び耐PAN性の高い酸化物半導体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究した結果、物理成膜用ターゲットを構成する酸化物焼結体が、所定の化合物(結晶成分)を含む場合に、ターゲットの抵抗を低減でき、スパッタリング時の異常放電の発生を低減でき、また、得られる酸化物半導体膜の耐PAN性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下の酸化物焼結体等が提供される。
1.インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、GaInSn16又は(Ga,In)で表される化合物を含むこと特徴とする酸化物焼結体。
2.インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、GaInSn16で表される化合物、及びInで表される化合物を含むことを特徴とする酸化物焼結体。
3.インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、GaInSn16で表される化合物、及びInGaZnOで表される化合物を含むことを特徴とする酸化物焼結体。
4.インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、Ga2.4In5.6Sn16で表される化合物を主成分とすること特徴とする酸化物焼結体。
5.前記インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)の合計(In+Ga+Zn+Sn)に対する、各元素の原子比が下記の関係を満たすことを特徴とする1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
0.15<In/(In+Ga+Zn+Sn)<0.8
0.05<Ga/(In+Ga+Zn+Sn)<0.5
0.05<Zn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.6
0.05<Sn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.7
6.上記1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体からなることを特徴とする物理成膜用ターゲット。
7.スパッタリングターゲットであり、バルク抵抗が20mΩcm未満であることを特徴とする6に記載の物理成膜用ターゲット。
8. 上記7に記載のターゲットをスパッタリングして形成されたことを特徴とする酸化物半導体膜。
9.上記8に記載の酸化物半導体膜を活性層として含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できる酸化物焼結体及び物理成膜用ターゲットが提供できる。
また、耐PAN性を有する酸化物半導体膜が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の酸化物焼結体は、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、以下(1)〜(4)のいずれかの条件を満たすことを特徴とする。
(1)GaInSn16及び/又は(Ga,In)で表される化合物を含む
(2)GaInSn16で表される化合物、及びInで表される化合物を含む
(3)GaInSn16で表される化合物、及びInGaZnOで表される化合物を含む
(4)Ga2.4In5.6Sn16で表される化合物を主成分として含む
【0012】
酸化物焼結体が上記(1)〜(4)のいずれかの条件を満たす場合に、スパッタリング時の異常放電の発生を低減でき、また、得られた酸化物半導体膜の耐PAN性が向上する。
各化合物が酸化物焼結体に含まれているかは、X線回折分析によって確認できる。また、本発明の酸化物焼結体は、上記(1)〜(4)に示した化合物以外のものを含んでいてもよい。例えば、上記(3)では、InGaZnO及びGaInSn16の他に、InやZnGaを含んでいてもよい。
【0013】
ここで、上記(1)の(Ga,In)は、その構造が明確に解析されていないが、JCPDSカードナンバー14−0564に示されたXRDパターン又はこれに類似したパターンを示す構造のものを意味する(図7参照)。
また、上記(4)の「主成分とする」とは、X線回折分析(XRD)のチャートを解析した際に複数の結晶成分が観測された場合、各成分のうちで最も強いピーク強度を示す結晶成分を「主成分」とみなすという意味である。具体的には、各成分のJCPDSカードナンバーで同定されたXRDパターンの最大ピークを比較し、最大ピークが最も強いものを主成分とみなす。
【0014】
本発明の酸化物焼結体では、ZnGa、GaInSn12又はGaInSn16が主成分でないことが好ましい。これらの化合物を含むとバルク抵抗が高くなり、ターゲットとして使用した場合にDCスパッタリングが困難となるおそれがある。具体的には、XRDのピーク強度が主成分のピーク強度の2分の1以下であることが好ましく、さらに3分の1以下であることが好ましい。
XRDでみた主成分は、GaInSn16、Ga2.4In5.6Sn16、又は(Ga,In)のいずれかであることが好ましい。
【0015】
本発明の酸化物焼結体において、上述した各化合物は、例えば、原料である酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛及び酸化錫の各粉体の配合比や原料粉体の粒径、純度、昇温時間、焼結温度、焼結時間、焼結雰囲気、降温時間を調整することにより得られる。
【0016】
酸化物焼結体中における各化合物の粒径は、それぞれ20μm以下が好ましく、10μm以下がさらに好ましい。尚、粒径は電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)で測定した平均粒径である。化合物の粒径は、例えば、原料である酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛及び酸化錫の各粉体の配合比や原料粉体の粒径、純度、昇温時間、焼結温度、焼結時間、焼結雰囲気、降温時間を調整することにより得られる。
【0017】
本発明の酸化物焼結体では、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)の合計(In+Ga+Zn+Sn)に対する、各元素(X)の原子比[X/(In+Ga+Zn+Sn)]が下記の関係を満たすことが好ましい。
0.15<In/(In+Ga+Zn+Sn)<0.8
0.05<Ga/(In+Ga+Zn+Sn)<0.5
0.05<Zn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.6
0.05<Sn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.7
【0018】
インジウム元素の原子比が0.15以下の場合、焼結体のバルク抵抗が十分に低下しないおそれがあり、一方、0.8以上では焼結体を用いて作製した薄膜の導電性が高くなり、半導体用途に使用できないおそれがある。
ガリウム元素の原子比が0.05以下の場合、焼結体を用いて作製した薄膜の導電性が高くなり半導体用途に使用できないおそれがあり、一方、0.5以上では焼結体のバルク抵抗が十分に低下しないおそれがある。また、0.5以上では、ガリウムの散乱により薄膜の移動度が低下し、薄膜トランジスタとして場合に電界効果移動度が低くなるおそれがある。
亜鉛元素の原子比が0.05以下の場合、焼結体を用いて作製した薄膜の導電性が高くなり半導体用途に使用できないおそれがあり、一方、0.6以上では焼結体のバルク抵抗を下げられないおそれがある。
錫元素の原子比が0.05以下の場合、焼結体を用いて作製した薄膜の導電性が高くなり半導体用途に使用できないおそれがあり、一方、0.7以上では焼結体のバルク抵抗を下げられないおそれがある。
【0019】
各元素の原子比は下記であることがより好ましい。
0.2 ≦In/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.6
0.08≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.4
0.08≦Zn/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.5
0.08≦Sn/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.4
さらに好ましくは以下のとおりである。
0.25≦In/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.6
0.1 ≦Ga/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.3
0.1 ≦Zn/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.4
0.1 ≦Sn/(In+Ga+Zn+Sn)≦0.3
【0020】
尚、SnとZnの原子比(Sn/Zn)は、通常3以下、好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下、特に好ましくは0.7以下である。3より大きいと成膜時にノジュールが発生し、異常放電の原因となるおそれがある。
【0021】
本発明の酸化物焼結体は、例えば、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛及び酸化錫の各粉体を混合し、この混合物を粉砕、焼結することにより製造できる。
原料粉について、酸化インジウム粉の比表面積を8〜10m/g、酸化ガリウム粉の比表面積を5〜10m/g、酸化亜鉛粉の比表面積を2〜4m/g、酸化錫粉の比表面積を8〜10m/gとすることが好ましい。又は、酸化インジウム粉のメジアン径を1〜2μm、酸化ガリウム粉のメジアン径を1〜2μm、酸化亜鉛粉のメジアン径を0.8〜1.6μm、酸化錫粉のメジアン径を1〜2μmとすることが好ましい。
尚、酸化インジウム粉の比表面積と酸化ガリウム粉の比表面積が、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の差を5m/g以下にすることが好ましい。比表面積が違いすぎると、効率的な粉砕混合が出来ず、焼結体中に酸化ガリウム粒子が残る場合がある。
【0022】
原料粉において、酸化インジウム粉、酸化ガリウム粉、酸化亜鉛粉及び酸化錫粉の配合比(酸化インジウム粉:酸化ガリウム粉:酸化亜鉛粉:酸化錫粉)は、各元素の原子比が上述した割合となるように調製すればよいが、例えば、重量比で、ほぼ51:15:17:17となるように秤量することが好ましい。
尚、酸化インジウム粉、酸化ガリウム粉、酸化亜鉛粉及び酸化錫粉を含有する混合粉体を使用する限り、焼結体の特性を改善する他の成分を添加してもよい。
【0023】
混合粉体を、例えば、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕する。このとき、粉砕後の比表面積が原料混合粉体の比表面積より1.5〜2.5m/g増加する程度か、又は粉砕後の平均メジアン径が0.6〜1μmとなる程度に粉砕することが好ましい。このように調整した原料粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の酸化物焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。
尚、原料混合粉体の比表面積の増加分が1.0m/g未満又は粉砕後の原料混合粉の平均メジアン径が1μmを超えると、焼結密度が十分に大きくならない場合がある。一方、原料混合粉体の比表面積の増加分が3.0m/gを超える場合又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm未満にすると、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加する場合がある。
【0024】
ここで、各粉体の比表面積はBET法で測定した値である。各粉体の粒度分布のメジアン径は、粒度分布計で測定した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
【0025】
粉砕工程後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧が採用できる。
【0026】
次いで、得られた成形物を焼結して焼結体を得る。焼結は、1400〜1600℃で2〜20時間焼結することが好ましい。これによって、密度が6.0g/cm以上である焼結体を得ることができる。1400℃未満では、密度が向上せず、また、1600℃を超えると亜鉛が蒸散し、焼結体の組成が変化したり、蒸散により焼結体中にボイド(空隙)が発生したりする場合がある。
また、焼結は酸素を流通することにより酸素雰囲気中で焼結するか、加圧下にて焼結するのがよい。これにより亜鉛の蒸散を抑えることができ、ボイド(空隙)にない焼結体が得られる。
このようにして製造した焼結体は、密度が6.0g/cm以上と高いため、使用時におけるノジュールやパーティクルの発生が少ないことから、膜特性に優れた酸化物半導体膜を作製することができる。
得られた焼結体中には、GaInSn16が主に生成している。
【0027】
本発明の酸化物焼結体は、研磨等の加工を施すことにより物理成膜用ターゲットとなる。具体的には、焼結体を、例えば、平面研削盤で研削して表面粗さRaを5μm以下とする。さらに、ターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが1000オングストローム以下としてもよい。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、すでに知られている研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法には特に制限はない。
得られた物理成膜用ターゲットをバッキングプレートへボンディングすることにより、各種装置に装着して使用できる。物理成膜法としては、例えば、スパッタリング法、PLD(パルスレーザーディポジション)法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0028】
尚、物理成膜用ターゲットの清浄処理には、エアーブローや流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。
エアーブローや流水洗浄の他に、超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄では、周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのがよい。
【0029】
尚、物理成膜用ターゲットをスパッタリングターゲットとして使用する場合、ターゲットのバルク抵抗は、20mΩcm未満であることが好ましく、10mΩcm未満がより好ましく、5mΩcm未満がさらに好ましく、2mΩcm未満が特に好ましい。20mΩcm以上の場合、長い時間DCスパッタリングを続けたときに、異常放電によりスパークが発生し、ターゲットが割れたり、スパークにより飛び出した粒子が成膜基板に付着し、酸化物半導体膜としての性能を低下させたりする場合がある。また、放電時にターゲットが割れるおそれもある。
尚、バルク抵抗は抵抗率計を使用し、四探針法により測定した値である。
【0030】
物理成膜用ターゲットを用いてスパッタリング等の製膜法を行うことにより、基板等の対象物に、In、Ga、Zn及びSnの酸化物を主成分とする酸化物半導体膜を形成することができる。この酸化物半導体膜は非晶質であり、安定した半導体特性と良好な耐PAN性を示す。従って、薄膜トランジスタ(TFT)の半導体層(活性層)を構成する材料として好適である。本発明の酸化物半導体膜を使用することにより、エッチング剤の選択が広がるため、TFTの構造や製造工程の自由度を高めることができる。
尚、本発明のTFTでは、上述した酸化物半導体膜を活性層として含んでいればよく、その他の部材(例えば、絶縁膜、電極等)や構造については、TFT分野における公知の部材、構造を採用できる。
【0031】
本発明の薄膜トランジスタでは、活性層の厚さは、通常、0.5〜500nmであり、好ましくは1〜150nmであり、より好ましくは3〜80nmであり、特に好ましくは10〜60nmである。この理由は、0.5nmより薄いと工業的に均一に成膜することが難しいからである。一方、500nmより厚いと成膜時間が長くなり工業的に採用できないからである。また、3〜80nmの範囲内にあると、移動度やon−off比等TFT特性が特に良好である。
【0032】
薄膜トランジスタのチャンネル幅Wとチャンネル長Lの比W/Lは、通常、0.1〜100であり、好ましくは1〜20であり、特に好ましくは2〜8である。この理由は、W/Lが100を越えると漏れ電流が増えたり、on−off比が低下したりするおそれがあるからである。また、0.1より小さいと電界効果移動度が低下したり、ピンチオフが不明瞭になったりするおそれがあるからである。
【0033】
チャンネル長Lは通常0.1〜1000μmであり、好ましくは1〜100μmであり、さらに好ましくは2〜10μmである。この理由は、0.1μm以下では工業的に製造が難しく、また、ショートチャンネル効果が現れたり、漏れ電流が大きくなるおそれがあるからである。また、1000μm以上では素子が大きくなりすぎたり、駆動電圧が大きくなる等好ましくないからである。
【0034】
薄膜トランジスタのゲート絶縁膜の材料は、特に制限がなく、本発明の効果を失わない範囲で、一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO,SiNx,Al,Ta,TiO,MgO,ZrO,CeO,KO,LiO,NaO,RbO,Sc,Y,Hf,CaHfO,PbTi3,BaTa26,SrTiO3,AlN、SiON等の酸化物を用いることができる。これらのなかでも、SiO,SiNx,Al,Y,Hf,CaHfOを用いるのが好ましく、より好ましくはSiO,SiNx,Y,Hf,CaHfOであり、特に好ましくはYである。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiOでもSiOxでもよい)。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
【0035】
ソース電極やドレイン電極の材料は、特に制限がなく、本実施形態の発明の効果を失わない範囲で、一般に用いられている、金属やその合金、あるいは、酸化物導電体材料等を任意に選択できる。
【0036】
活性層を成膜する際、スパッタ法としては、DCスパッタ法、DCマグネトロンスパッタ法、ACスパッタ法、ACマグネトロンスパッタ法、RFスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法、対向ターゲットスパッタ法、シリンドリカルターゲットスパッタ法、ECRスパッタ法等を利用することができる。また、真空蒸着法としては、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、パルスレーザーデポジション(PLD)法等を利用することができる。さらに、イオンプレーティング法としては、ARE法、HDPE法を利用することができる。また、CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法が利用できる。
これらの中でも、工業的には放電が安定し安価で大型化が容易なDCマグネトロンスパッタ法、あるいはACマグネトロンスパッタ法が好ましく、DCマグネトロンスパッタ法が特に好ましい。また、コスパッタ、反応性スパッタ、DC/RF重畳スパッタを利用してもよい。
【0037】
スパッタ法を用いる場合、到達圧力を、通常5×10−2Pa以下とする。この理由は、5×10−2Paより大きいと、雰囲気ガス中の不純物により移動度が低下するおそれがあるからである。
このような不具合をより有効に回避するためには、到達圧力は、好ましくは5×10−3Pa以下、より好ましくは5×10−4Pa以下、さらに好ましくは1×10−4Pa以下であり、5×10−5Pa以下であるのが特に好ましい。
また、雰囲気ガス中の酸素分圧は、通常40×10−3Pa以下とする。雰囲気ガス中の酸素分圧が40×10−3Paより大きいと、移動度が低下したり、キャリア濃度が不安定となったりするおそれがある。また、ウェットエッチング時に残渣が発生するおそれがある。
このような不具合をより有効に回避するためには、雰囲気ガス中の酸素分圧は、好ましくは15×10−3Pa以下、より好ましくは7×10−3Pa以下であり、1×10−3Pa以下であるのが特に好ましい。
【0038】
また、スパッタ時の基板・ターゲット間距離(S−T距離)は、通常150mm以下、好ましくは110mm、特に好ましくは80mm以下である。この理由は、S−T距離が短いとスパッタ時に基板がプラズマに曝されることにより、酸素の活性化が期待できるからである。また、150mmより長いと、成膜速度が遅くなり工業化に適さなくなるおそれがあるからである。
【0039】
通常、基板温度250℃以下で物理成膜する。基板温度が250℃より高いと後処理の効果が十分に発揮されず、低キャリア濃度、高移動度に制御することが困難となるおそれがある。このような不具合をより有効に回避するためには、基板温度は、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは50℃以下である。
【実施例】
【0040】
続いて、本発明を実施例と比較例を対比しながら説明する。尚、本実施例は本発明の好適例を示すものであり、本発明が実施例に制限されるものではない。従って、本発明には技術思想に基づく変形又は他の実施例が包含される。
【0041】
実施例1
(1)酸化物焼結体
原料粉として比表面積が6m/gである酸化インジウム粉と比表面積が6m/gである酸化ガリウム粉と比表面積が3m/gである酸化亜鉛粉と比表面積が6m/gである酸化錫粉を、重量比で51:15:17:17(金属原子の原子比:0.43:0.19:0.25:0.13)となるように秤量し、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕した。媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。
粉砕後の比表面積を原料混合粉の比表面積より2m/g増加させた後、スプレードライヤーで乾燥させた。
この混合粉を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し、さらに酸素を流通させながら酸素雰囲気中1450°Cの高温で8時間焼結した。
【0042】
これによって、仮焼工程を行うことなく、密度が6.23g/cmである酸化物焼結体を得た。焼結体の密度は、一定の大きさに切り出した焼結体の重量と外形寸法より算出した。
この焼結体を、X線回折により分析した。図1は焼結体のX線回折チャートである。この図から焼結体中には、GaInSn16で表される化合物を主成分とし、InGaZnO及びInで表される化合物が存在することが確認できた。
尚、ターゲットのX線回折測定(XRD)の測定条件は以下の通りであった。
・装置:(株)リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
焼結体のバルク抵抗を、抵抗率計(三菱油化製、ロレスタ)を使用し四探針法により測定した結果、0.95mΩcmであった。
【0043】
(2)スパッタリングターゲット
(1)で作製した焼結体を研磨等の加工を施してスパッタリングターゲットを作製した。
このターゲットを、スパッタリング法の一つであるRFマグネトロンスパッタリング成膜装置(神港精機(株)製)に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に酸化物半導体膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;5×10−4Pa、雰囲気ガス;Ar98%、酸素2%、スパッタ圧力(全圧);1×10−1Pa、投入電力100W、成膜時間25分間、S−T距離100mmとした。
【0044】
この結果、ガラス基板上に膜厚が約100nmの透明な導電性の酸化物半導体膜が形成された透明導電ガラスを得た。
尚、酸化物半導体膜の成膜時には、ほとんど異常放電が発生しなかった。理由は明確ではないが、GaInSn16がInGaZnOの異常成長を抑制したためと思われる。
【0045】
また、ターゲットをDCスパッタリング成膜装置(神港精機(株)製)に装着し、RFスパッタリング成膜装置と同様にしてガラス基板上に酸化物半導体膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;5×10−4Pa、雰囲気ガス;Ar97%、酸素3%、スパッタ圧力(全圧);3×10−1Pa、投入電力200W、成膜時間15分間、S−T距離90mmとした。
その結果、酸化物半導体膜の成膜時には、ほとんど異常放電が発生せず、ノジュールもほとんどなかった。
【0046】
酸化物半導体膜について、耐PAN性を評価した。具体的には、約30℃のPANエッチング液(リン酸約91.4wt%、硝酸約3.3wt%、酢酸約5.3wt%)にてエッチング処理し、その際のエッチング速度を評価した。
その結果、エッチング速度は10nm/分以下であり、PAN耐性があると評価した。
また、ACホール測定機(東洋テクニカ(株)製)で測定した電子キャリア密度が5×1015cm−3、移動度が4cm/Vsであった。
酸化物焼結体の原料比、金属元素の原子比、結晶構造、バルク抵抗、スパッタリング時の性能を表1に示す。
尚、焼結体の結晶型(XRD)は、XRDで主成分と判断したものを◎、主成分ではないが確認できたものを○とした。
また、異常放電、ノジュールの発生については、◎:ほとんど無、○:若干あり、△:有り、×:多発、−:成膜不可とした。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2
酸化インジウム粉、酸化ガリウム粉、酸化亜鉛粉及び酸化錫粉を、重量比で42:30:14:14となるようにした他は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を得た。
この焼結体を、X線回折により分析した。図2は焼結体のX線回折チャートである。この図から焼結体中には、GaInSn16で表される化合物を主成分とし、In、Ga等が存在することが確認できた。
また、この焼結体のバルク抵抗は、4mΩcmであった。
【0049】
得られた焼結体について、実施例1と同様にターゲット加工し、RFマグネトロンスパッタリング成膜装置を使用して、酸化物半導体膜を成膜した。製膜条件は実施例1と同じとし、膜厚が約100nmの酸化物半導体膜をガラス基板上に形成した。尚、本例においても、成膜時にはほとんど異常放電が発生しなかった。
【0050】
得られた酸化物半導体膜について、実施例1と同様にして耐PAN性を評価した結果、エッチング速度は10nm/分以下であり、PAN耐性があると評価した。
【0051】
比較例1
原料粉として比表面積が6m/gである酸化インジウム粉と、比表面積が6m/gである酸化ガリウム粉と、比表面積が3m/gである酸化亜鉛粉を、重量比で45:30:25となるようにした他は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製した。
これによって、密度が5.97g/cmである酸化物焼結体を得た。この焼結体中には、InGaZnOが存在することが確認できたが、ZnGaOのピークが若干確認できた他はInGaZnO以外の金属酸化物のピークがほとんど観察されなかった(図8参照)。従って、この焼結体はInGaZnOを主成分とすることが確認できた。
この焼結体のバルク抵抗は、50mΩcmであった。
【0052】
得られた焼結体について、実施例1と同様にターゲット加工し、RFマグネトロンスパッタリング成膜装置を使用して、酸化物半導体膜を成膜した。製膜条件は実施例1と同じとし、膜厚が約100nmの酸化物半導体膜をガラス基板上に形成した。尚、本例においては、成膜時に時折異常放電が発生した。
【0053】
得られた酸化物半導体膜について、実施例1と同様にして耐PAN性を評価した結果、エッチング速度は100nm/分であり、PAN耐性は認められなかった。
【0054】
実施例3−8 比較例2−4
原料粉の配合比を表1に示すように変更した他は、実施例1と同様にして酸化物焼結体を作製し、結晶構造、バルク抵抗、スパッタリング時の性能を評価した。結果を表1に示す。また、図3−11に実施例3−7及び比較例1−4のX線回折チャートを示す。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の酸化物焼結体は、物理成膜用ターゲットの材料として使用できる。
また、本発明の物理成膜用ターゲットを使用して製造した酸化物半導体膜は、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置、電気泳動方式表示装置、粉末移動方式表示装置等のスイッチング素子や駆動回路素子等を構成する半導体層として好適である。特に、TFTの活性層として好適である。また、RRAM(抵抗変化型不揮発性メモリー)にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図2】実施例2で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図3】実施例3で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図4】実施例4で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図5】実施例5で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図6】実施例6で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図7】実施例7で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図8】比較例1で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図9】比較例2で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図10】比較例3で製造した焼結体のX線回折チャートである。
【図11】比較例4で製造した焼結体のX線回折チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、
GaInSn16又は(Ga,In)で表される化合物を含むこと特徴とする酸化物焼結体。
【請求項2】
インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、
GaInSn16で表される化合物、及びInで表される化合物を含むことを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項3】
インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、
GaInSn16で表される化合物、及びInGaZnOで表される化合物を含むことを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項4】
インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)を含み、
Ga2.4In5.6Sn16で表される化合物を主成分とすること特徴とする酸化物焼結体。
【請求項5】
前記インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び錫元素(Sn)の合計(In+Ga+Zn+Sn)に対する、各元素の原子比が下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
0.15<In/(In+Ga+Zn+Sn)<0.8
0.05<Ga/(In+Ga+Zn+Sn)<0.5
0.05<Zn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.6
0.05<Sn/(In+Ga+Zn+Sn)<0.7
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体からなることを特徴とする物理成膜用ターゲット。
【請求項7】
スパッタリングターゲットであり、バルク抵抗が20mΩcm未満であることを特徴とする請求項6に記載の物理成膜用ターゲット。
【請求項8】
請求項7に記載のターゲットをスパッタリングして形成されたことを特徴とする酸化物半導体膜。
【請求項9】
請求項8に記載の酸化物半導体膜を活性層として含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−280216(P2008−280216A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126525(P2007−126525)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】