説明

MICR用トナーとそれを用いた画像形成方法

【課題】 画像形成を繰り返しても薄膜型のアモルファスシリコン感光層が短期間で絶縁破壊されず、より長期に亘って安定して、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好なMICR用の識別マークを形成し続けることができるMICR用トナーと、それを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】 MICR用トナーは、体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmである磁性粉をトナー粒子中に配合した。画像形成方法は、上記MICR用トナーと、感光層の膜厚が30μm以下であるアモルファスシリコン感光体とを用いて、磁性1成分ジャンピング現像方法によってMICR用の識別マークを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気インク文字認証(MICR:Magnetic Ink Character Recognition)システムに用いるMICR用トナーと、それを用いた画像形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、小切手、各種有価証券類、各種チケット類等の偽造や変造を防止するために、磁気インクを用いて、MICRフォントと呼ばれる特殊な書体の文字や数字等の文字列からなる識別マークを印刷し、それを専用の読取装置で読み取って小切手等の真偽を判別する磁気インク文字認証(MICR:Magnetic Ink Character Recognition)システムがある。このMICRシステムにおいては、識別マークを専用の読取装置で読み取ることで、正確な真偽の判定が可能であるだけでなく、識別マークは、上記のように文字や数字の情報でもあるため、バーコード等と違って、それを人の目で見て簡易かつ迅速に判別できるという利点もある。
【0003】
識別マークの印刷方法としては、従来、磁性体を含む液状の磁気インクを用いたスクリーン印刷法やグラビア印刷法等が一般的であったが、近時、より迅速かつ簡易な印刷方法として、例えば、バインダ樹脂からなるトナー粒子中に磁性粉を分散した構造を有するトナー(磁性トナー)を用いて、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等を利用したレーザープリンタにより、識別マークを印刷することが検討されている。
【0004】
上記電子写真法等においては、まず、潜像保持体の表面を帯電手段によって一様に帯電させ、次いで、半導体レーザ、発光ダイオード等の露光手段によって露光して静電潜像を形成した後、この静電潜像を、現像手段によって現像または反転現像してトナー像に顕像化する。次に、このトナー像を、転写手段によって紙などの被印刷物の表面に転写した後、定着手段によって定着させることで、一連の画像形成の工程が完了する。
【0005】
静電潜像をトナー像に現像するための現像方法としては種々あるが、特に、磁性トナーを用いた乾式の現像方法としては、磁性1成分現像方法が採用される。
磁性1成分現像方法においては、磁性トナーを、固定磁石を組み込んだ現像剤保持体上に薄層化しながら供給し、次いで、この薄層化した磁性トナーにより、潜像保持体上の静電潜像をトナー像に現像することが行われる。また、磁性1成分現像方法としては、導電性を有する磁性トナーを用いる現像方法と、絶縁性の磁性トナーを用いる、磁性1成分ジャンピング現像方法と呼ばれる現像方法(特許文献1参照)とがある。
【0006】
このうち後者の、磁性1成分ジャンピング現像方法においては、まず、磁性トナーを、固定磁石を内蔵して回転する現像剤保持体と、当該現像剤保持体に近接させて配設した磁性ブレードとの隙間を通過させることによって摩擦帯電させながら、現像剤保持体の表面に供給して、内蔵した固定磁石の磁力によって保持させることで、現像剤保持体の表面に、磁性トナーの薄層を形成する。
【0007】
次いで、形成した薄層と接触しないように間隙を保持して対峙させた、静電潜像を保持する潜像保持体と、現像剤保持体との間に交流あるいは直流のバイアス電圧を印加することによって、薄層から、帯電した磁性トナーを、潜像保持体の表面に飛翔させて、静電潜像をトナー像に顕像化する。
この現像方法では、絶縁性の磁性トナーを用いていることから、導電性の磁性トナーを用いた場合には不可能であった、形成したトナー像を、電界を利用して紙等の被印刷物の表面に転写することが可能となる。また、潜像保持体が電気的リークによって破壊されるのを防止することもできる。
【0008】
また、絶縁性の磁性トナーは帯電させやすいこと、磁力によってトナーを保持した状態で、現像剤保持体と十分に摩擦できること、磁力によってトナーを保持しつつ、静電潜像と非接触の状態で静電潜像を現像できることから、形成画像の非印字部分や余白部分にトナーが付着する地カブリの発生を防止して、画質の優れた画像を形成できるという利点もある。さらに、この現像方法においては、2成分現像法などの他の現像方法と比べて、現像器を非常に小さく、かつ簡単な構造にできるという利点もある。
【0009】
上記磁性1成分ジャンピング現像方法に用いる潜像保持体としては、他の現像方法の場合と同様に、有機および無機の種々の電子写真感光体が挙げられるが、特にその耐久性等を考慮すると、導電性基体上にアモルファスシリコン感光層を形成したアモルファスシリコン感光体が好適に使用される。アモルファスシリコン感光体は、例えば、バインダ樹脂中に顔料や電荷輸送剤等を含有させた有機の感光層を有する有機感光体と比べて、画像形成枚数で表しておよそ10倍以上という高い耐久性を有している。これは、被印刷物や次に述べる弾性ブレード等と摺擦されることによって摩耗して感光層の厚みが減少する速度が、アモルファスシリコン感光層の場合、有機感光層のおよそ1/100以下であり、摩耗しにくいことが主な原因である。
【0010】
また、潜像保持体の表面に形成したトナー像を紙等の被印刷物の表面に転写した後、潜像保持体の表面に残留するトナーを除去するためのクリーニング手段としては、可動部分を極力少なくして画像形成装置のコンパクト化、機構の簡素化等を図ることを考慮すると、潜像保持体の表面に圧接させた弾性ブレードが好適に使用される(特許文献2参照)。
アモルファスシリコン感光体の最大のデメリットは、その生産性の低さにある。すなわちアモルファスシリコン感光体は、導電性基体の表面に、例えばCVD法等の気相成長法によってアモルファスシリコン感光層を成膜することで製造されるが、かかる気相成長法では、バインダ樹脂等を含む塗布液を導電性基体上に塗布して乾燥させるだけで形成される有機感光層に比べて、所定の厚みを有する感光層を形成するために要する時間が著しく長くかかる上、気相成長法はバッチ式であって連続的な生産ができないため、どうしても生産性が低くなってしまう。
【0011】
そこで、前記のようにアモルファスシリコン感光層が有機感光層に比べて摩耗しにくいことを利用して、その厚みをこれまでよりも小さくして、アモルファスシリコン感光体の生産性を向上することが一般化しつつある。すなわち、これまでは30〜60μm程度あったアモルファスシリコン感光層の厚みを30μm以下にした、薄膜型のアモルファスシリコン感光体が普及し始めている。薄膜型のアモルファスシリコン感光体の主なメリットは、言うまでもなく、従来のものに比べて生産性に優れることであるが、さらに、薄膜化した方が形成画像の解像度が向上するというメリットもある。
【特許文献1】特開昭55−18656号公報(特許請求の範囲、第11頁左上欄第23行〜同頁左下欄第25行、第8図)
【特許文献2】特許第2713716号公報(特許請求の範囲、第3欄第10行〜同欄第33行、第12欄第45行〜第13欄第4行、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
トナー像を被印刷物の表面に転写させた後、アモルファスシリコン感光体の表面に残留するトナーの大半は、弾性ブレードによって感光体の表面から掻き取られて除去されるが、その一部、すなわちトナー粒子やその破片、あるいは流動性、帯電性等を改善するためトナーに外添されるシリカ等の外添剤の一部は、弾性ブレードの先端部分、すなわちアモルファスシリコン感光体への当接部分に滞留する。そして、これらの滞留物が、弾性ブレードおよびアモルファスシリコン感光体と長期間に亘って摩擦されて過帯電を生じ、その帯電量が限界値、すなわち感光層の耐圧値を超えると、感光体の極微小領域に向かって放電(一点放電)して感光層を絶縁破壊させて、修復不能な欠陥を生じさせる場合がある。放電は、主に弾性ブレードの先端部分の稜線部で発生する。
【0013】
アモルファスシリコン感光体は、本来的に絶縁破壊に弱いため、上記の絶縁破壊を生じやすい上、特に薄膜型とした場合には通常よりも耐圧値が低くなるため、さらに、絶縁破壊を生じやすい。つまり絶縁破壊による感光層の欠陥の発生は、感光体の針耐圧(V)に依存するところが大きく、感光層の膜厚が小さければ小さいほど、絶縁破壊による欠陥が発生しやすくなる。
【0014】
そのため、かかる薄膜型のアモルファスシリコン感光体と、弾性ブレードと、MICR用トナーとを用いて、磁性1成分ジャンピング現像法によって、MICRシステム用の識別マークの形成を繰り返すと、短期間で、上記のメカニズムによって異常放電(一点放電、火花放電)が発生し、アモルファスシリコン感光層が絶縁破壊されて、欠陥を生じるおそれがある。
【0015】
そして、欠陥を生じたアモルファスシリコン感光体を用いて画像形成を続けると、当該欠陥の部分は感光層がなく、帯電工程で帯電させることができないため、形成した識別マークに、誤認識や、あるいはリジェクトと呼ばれる読み取りエラーの原因となる黒点を生じて、読取装置により読み取りの精度が低下するという問題がある。
本発明の目的は、画像形成を繰り返しても薄膜型のアモルファスシリコン感光層が短期間で絶縁破壊されず、より長期に亘って安定して、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好なMICR用の識別マークを形成し続けることができるMICR用トナーと、それを用いた画像形成方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、潜像保持体として、感光層の膜厚が30μm以下であるアモルファスシリコン感光体を用いて、磁気インク文字認証システム用の識別マークを形成するためのMICR用トナーであって、体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmである磁性粉を含むことを特徴とするMICR用トナーである。
請求項2記載の発明は、静電潜像を保持する潜像保持体と、固定磁石を内蔵して回転し、その表面に、MICR用トナーの薄層が形成される現像剤保持体とを、薄層と潜像保持体とが接触しないように間隔を保持して対峙させた状態で、薄層から、MICR用トナーを潜像保持体の表面に飛翔させて、静電潜像をトナー像に現像する工程と、現像したトナー像を被印刷物の表面に転写する工程と、転写後、潜像保持体の表面に残留したトナーをクリーニング除去する工程とを含み、被印刷物の表面に、MICR用トナーによって、磁気インク文字認証システム用の識別マークを形成するための画像形成方法であって、潜像保持体として、感光層の膜厚が30μm以下であるアモルファスシリコン感光体を用いると共に、MICR用トナーとして請求項1記載のMICR用トナーを用いることを特徴とする画像形成方法である。
【0017】
請求項3記載の発明は、トナーをクリーニング除去するために、アモルファスシリコン感光体の表面に圧接させた弾性ブレードを用いる請求項2記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0018】
前記課題を解決するため、発明者は、MICR用トナーが弾性ブレードの先端部分に滞留して過帯電しても、薄膜型のアモルファスシリコン感光層が絶縁破壊を起こす前に、その帯電電荷を、トナー表面の磁性粉を通して流すことで、つまりトナー粒子が過剰に帯電しないようにすることで、感光層の絶縁破壊を防止することを検討した。すなわち、磁性粉の体積固有抵抗を低くすると、過帯電を生じた際に、その帯電が、トナー表面の磁性粉を通して空気中ないし感光層の表面においてコロナ放電されるため、感光層が絶縁破壊されるのを防止することができるのである。
【0019】
しかし、そのために磁性粉の体積固有抵抗を低くしすぎると、MICR用トナーの帯電特性が低下するため、識別マークの画質が低下したり欠陥が生じたりする結果、却って、読取装置による読み取りの精度が低下することが判明した。そこで、発明者は、MICR用トナーの帯電特性を良好な範囲に維持しながら、なおかつ、過帯電による絶縁破壊の発生を確実に防止しうる磁性粉の体積固有抵抗の範囲について検討した結果、前記のように、磁性粉の体積固有抵抗を6×10〜1×10Ω・cmの範囲内に調整すればよいことを見出した。
【0020】
したがって、本発明によれば、過帯電による絶縁破壊の発生を確実に防止しながら、画像形成初期から長期間に亘って安定して、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好なMICR用の識別マークを形成し続けることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を説明する。
《MICR用トナー》
本発明のMICR用トナーは、体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmである磁性粉を含むことを特徴とするものである。その具体的な構成としては、バインダ樹脂からなるトナー粒子中に、磁性粉を含有させた構造を有するものなどが挙げられる。
【0022】
〈磁性粉〉
磁性粉としては、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性を示す金属やその合金、またはこれらの元素を含む化合物、あるいは、強磁性元素を含まないが適当な熱処理を施すことによって強磁性を示すようになる合金、もしくは二酸化クロム等を挙げることができ、特にフェライト、マグネタイトが好ましい。磁性粉の平均粒径は、トナー粒子中に均一に分散させることを考慮すると、0.1〜1μmであるのが好ましく、0.1〜0.5μmであるのがさらに好ましい。また、磁性粉は、分散性を向上するために、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、各種脂肪酸などの表面処理剤で表面処理を施してもよい。
【0023】
磁性粉の体積固有抵抗は、前記のように6×10〜1×10Ω・cmである必要がある。磁性粉の体積固有抵抗が6×10Ω・cm未満では、磁性粉の抵抗値が低すぎるため、帯電の抜けが生じて、トナーの帯電特性が低下する。そして、画像濃度が不安定化すると共に地カブリを生じやすくなったり、環境安定性が低下したりし、それに伴って識別マークの画質が低下したり欠陥が生じたりする結果、読取装置による読み取りの精度が低下する。
【0024】
また、体積固有抵抗が1×10Ω・cmを超える場合には、磁性粉の抵抗値が高すぎるため、弾性ブレードの先端部分に滞留して過帯電した際に、その帯電を、トナー表面の磁性粉を通して空気中ないし感光層の表面において良好にコロナ放電させることができない。したがって、膜厚が30μm以下である薄膜型のアモルファスシリコン感光層が絶縁破壊されるのを防止することができず、絶縁破壊によって欠陥が生じる。そして、感光層に欠陥が生じた状態で画像形成を続けると、識別マークに、誤認識や読み取りエラーの原因となる黒点を生じる結果、読取装置により読み取りの精度が低下する。
【0025】
このため、このいずれの場合においても、画像形成初期から長期間に亘って安定して、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好な識別マークを形成し続けることができない。なお、過帯電による絶縁破壊の発生を防止しつつ、トナーの帯電特性を向上することを考慮すると、磁性粉の体積固有抵抗は、上記の範囲内でも特に、1×10〜1×10Ω・cmであるのが好ましい。
【0026】
磁性粉の体積固有抵抗を調整するためには、磁性粉の形状(球形、6面体、8面体等)を変化させたり、前記表面処理剤の種類や処理量を変化させたり、あるいは磁性粉の表面に、スズ、アンチモン等からなる導電性の被覆層を形成したりすればよい。
なお、磁性粉の体積固有抵抗は、(株)アドバンテスト社製の「R8340A ULTRA HIGH RESISTANCE METER」を用いて、試料である所定量の磁性粉に1kgの荷重をかけた状態で、直流10Vの電圧を印加して測定した値とする。
【0027】
体積固有抵抗が任意の値に調整された磁性粉の製造方法の一例を以下に示す。
すなわち、純水に水酸化ナトリウムを添加してpHを11に調整した状態で、磁性粉のもとになる金属磁性粒子を加え、かく拌して解膠させ、さらに連続式粉砕・分級機〔特殊機化工業(株)製の商品名ホモミックラインミル〕を通して粉砕、分散する作業を複数回(3回程度)、繰り返してスラリーを得る。次に、このスラリーに水を加えて濃度を調整後、かく拌しながら60℃まで加熱した状態で、所定量のアルミン酸ナトリウム水溶液を加えて一定時間、保持した後、酢酸を加えてpHを8.5に調整する。そして、さらに一定時間、保持した後、ろ過し、水洗し、窒素ガスをパージした状態で乾燥、粉砕すると、表面がアルミニウムの水酸化物によって被覆されて、体積固有抵抗が任意の値に調整された磁性粉が製造される。上記の工程においてアルミン酸ナトリウム水溶液の添加量を調整することによって、体積固有抵抗を制御することができる。
【0028】
磁性粉のその他の物性は特に限定されないが、その残留磁化は、15〜40Am/kgであるのが好ましい。残留磁化が15Am/kg未満では、トナーの残留磁化が低すぎて、トナーを被印刷物の表面に転写し、定着手段によって加熱、加圧して定着させて形成した識別マークにおける残留磁化が低くなって、読取装置によって読み取る際の精度が低下するおそれがある。逆に、40Am/kgを超える場合には、トナーの残留磁化が高くなりすぎて、画像形成を繰り返すうちに、現像器内のトナーの帯電量分布がブロードになって、形成画像の画像濃度が低下したり、上記地カブリを生じるようになったりする結果、却って読み取りエラーを生じやすくなって、読み取り精度が低下するおそれがある。なお、画像形成初期から長期間に亘って安定して、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好な識別マークを形成し続けることを考慮すると、磁性粉の残留磁化は、上記の範囲内でも特に、20〜35Am/kgであるのが好ましい。
【0029】
なお残留磁化は、磁性粉に795.8kA/m(10kOe)の磁場を印加して磁化させた後、磁場が0のときの磁気メモリー量(残留磁化)を測定した値である。
本発明のMICR用トナーにおける、磁性粉の含有割合は特に限定されないが、トナー粒子を形成するバインダ樹脂100重量部に対して30〜60重量部であるのが好ましく、45〜55重量部であるのがさらに好ましい。磁性粉の含有割合がこの範囲未満では、現像剤保持体に内蔵した固定磁石の磁力によって、当該現像剤保持体の表面にトナーの薄層を保持する効果が低下するため、特に画像形成を繰り返した際に地カブリが発生するおそれがある。また、上記の範囲を超える場合には、逆に、現像剤保持体の表面にトナーの薄層を保持する効果が強くなり過ぎるため、画像濃度が低下するおそれがある。また、相対的にバインダ樹脂の含有割合が低下するため、トナーの、紙等の被印刷物の表面への定着性が低下したり、耐久性が低下したりするおそれもある。
【0030】
〈バインダ樹脂〉
バインダ樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂等が挙げられ、特にポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0031】
ポリスチレン系樹脂としては、スチレンの単独重合体の他、スチレンと他の単量体との2元もしくは3元以上の共重合体が挙げられる。スチレンと共重合させることができる他の単量体としては、例えばp−クロルスチレン;ビニルナフタレン;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのエチレン不飽和モノオレフイン類;塩化ビニル、臭化ビニル、弗化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ドテシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどの他のアクリル酸誘導体;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、メチルイソプロペニルケトンなどのビニルケトン類;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニル化合物類などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用することもできるし、あるいは2種以上を組み合わせてスチレンと共重合させることもできる。
【0032】
また、ポリエステル系樹脂としては、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合または共縮重合させて得られる種々のポリエステル系樹脂が挙げられる。このうち、アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5ーペンタンジオール、1,4−シクロへキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,6−へキサンジオール、1,8−オクタンジオール等のジオール類;
ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールA等のビスフェノール類;
ソルビトール、1,2,3,6−へキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエルスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセリン、ジグリセリン、2−メチルプロバントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等の3価以上のアルコール類などが挙げられる。
【0033】
また、カルボン酸成分としては、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、アルキルコハク酸(n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸等)、アルケニルコハク酸(n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸等)など2価のカルボン酸類;
1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−へキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロへキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール3量体酸などの3価以上のカルボン酸類などが挙げられる。
【0034】
通常の画像形成装置において用いる熱定着手段によって、紙等の被印刷物の表面に良好に定着させることを考慮すると、ポリエステル系樹脂の軟化点は、80〜150℃であるのが好ましく、90〜140℃であるのがさらに好ましい。
バインダ樹脂は、その一部が架橋構造を有しているのが好ましい。一部に架橋構造を導入することによって、定着性を低下させることなく、磁性1成分トナーの保存安定性や形態保持性、耐久性等を向上させることができる。バインダ樹脂の一部を架橋構造とするためには、架橋剤を添加して樹脂を架橋させたり、熱硬化性樹脂を配合したりすればよい。
【0035】
熱硬化性樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂や、シアネート樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
バインダ樹脂のガラス転移温度Tgは、50〜65℃であるのが好ましく、50〜60℃であるのがさらに好ましい。ガラス転移温度がこの範囲未満では、トナー粒子同士が融着しやすくなって保存安定性が低下するおそれがある。また、樹脂の強度が低いため、潜像保持体の表面に付着して離れなくなるトナー付着を生じるおそれもある。また、逆にガラス転移温度がこの範囲を超える場合には、紙等の被印刷物の表面への定着性が低下するおそれがある。なお、バインダ樹脂のガラス転移温度は、例えば示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した吸熱曲線における、比熱の変化点から求めることができる。
【0036】
本発明の磁性1成分トナーには、例えば着色剤、電荷制御剤、ワックス等の、従来公知の種々の添加剤を含有させることもできる。このうち着色剤としては、色調を調整するためにカーボンブラック等の顔料や、アシッドバイオレット等の染料が挙げられる。着色剤の含有割合は、バインダ樹脂100重量部に対して1〜10重量部程度であるのが好ましい。
【0037】
〈電荷制御剤〉
電荷制御剤は、トナーの帯電レベルや帯電立ち上がり特性(短時間で、一定の電荷レベルに帯電するかの指標)を向上させると共に、耐久性や安定性を向上させるために配合される。電荷制御剤には、正帯電性のものと負帯電性のものとがあり、トナーの帯電極性に合わせて、そのいずれか一方が配合される。
【0038】
正帯電性の電荷制御剤としては、例えばピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトオキサジン、メタオキサジン、パラオキサジン、オルトチアジン、メタチアジン、パラチアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等のアジン化合物類;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリーンBH/C、アジンディープブラックEW、アジンディープブラック3RL等の亜ジン化合物からなる直接染料類;ニグロシン、ニグロシン塩、ニグロシン誘導体等のニグロシン化合物類;ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZ等のニグロシン化合物からなる酸性染料類;ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩類;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;べンジルメチルへキシルデシルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類などの1種または2種以上が挙げられる。特にニグロシン化合物は、より迅速な帯電の立ち上がり特性が得られることから、正帯電性トナーとして好適である。
【0039】
また、正帯電性の電荷制御剤としては、4級アンモニウム塩を有する樹脂またはオリゴマー、カルボン酸塩を有する樹脂またはオリゴマー、カルボキシル基を有する樹脂またはオリゴマー等を使用することもできる。具体的には、4級アンモニウム塩を有するポリスチレン系樹脂、4級アンモニウム塩を有するアクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するスチレン−アクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するポリエステル系樹脂、カルボン酸塩を有するポリスチレン系樹脂、カルボン酸塩を有するアクリル系樹脂、カルボン酸塩を有するスチレン−アクリル系樹脂、カルボン酸塩を有するポリエステル系樹脂、カルボキシル基を有するポリスチレン系樹脂、カルボキシル基を有するアクリル系樹脂、カルボキシル基を有するスチレン−アクリル系樹脂、カルボキシル基を有するポリエステル系樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
【0040】
特に、4級アンモニウム塩、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を官能基として有するスチレン−アクリル系樹脂(スチレン−アクリル系共重合体)は、帯電量を所望の範囲内の値に容易に調節することができる点で好適である。また、スチレンと共にスチレン−アクリル系樹脂を構成するアクリル系単量体としてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類が挙げられる。
【0041】
さらに、4級アンモニウム塩化合物としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートから第4級化の工程を経て誘導される単位が用いられる。誘導されるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジ(低級アルキル)アミノエチル(メタ)アクリレート類;ジメチルメタクリルアミド;ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドが好適である。また、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシ基含有重合性モノマーを重合時に併用することもできる。
【0042】
負帯電性の電荷制御剤としては、例えば、有機金属錯体やキレート化合物が有効であり、中でもアセチルアセトン金属錯体、サリチル酸系金属錯体または塩が好ましく、特にサリチル酸系金属錯体または塩が好ましい。このうち、アセチルアセトン金属錯体としては、例えばアルミニウムアセチルアセトナート、鉄(II)アセチルアセトナート等が挙げられる。またサリチル酸系金属錯体または塩としては、例えば3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸クロム等が挙げられる。
【0043】
電荷制御剤の含有割合は、トナーを形成する固形分の総量中の1.5〜15.0重量部であるのが好ましく、2.0〜8.0重量部であるのがさらに好ましく、3.0〜7.0重量部であるのが特に好ましい。含有割合がこの範囲未満では、トナーに安定した帯電特性を付与することが困難となり、画像濃度が低くなったり、耐久性が低下したりするおそれがある。また、バインダ樹脂に対する分散不良が起こりやすいことから、地カブリの原因となったり、分散されずに凝集した電荷制御剤が感光体を汚染したりするおそれもある。一方、含有割合が上記の範囲を超える場合には、トナーの耐環境性、特に高温高湿下での帯電不良、画像不良を生じやすい上、過剰の電荷制御剤が感光体を汚染するおそれもある。
【0044】
〈ワックス〉
ワックスは、トナーの、紙等の被印刷物の表面への定着性を向上させたり、定着時のトナーが、画像形成装置の定着ローラ等に付着するオフセットを防止して、耐オフセット性を向上させたり、定着ローラ等に付着したトナーが、被印刷物の表面に再付着して画像を汚す、像スミアリングを防止したりするために配合される。
【0045】
ワックスとしては、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のオレフイン系ワックス類;カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス等の植物系ワックス類;モンタンワックス等の鉱物系ワックス類;石炭及び天然ガス等からフィッシャー・トロプシュ法により作製されるフィッシャー・トロプシュワックス類;パラフインワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス類;エステル系ワックス類;テフロン(登録商標)系ワックス類等の中から1種または2種以上を選択して使用することができる。
【0046】
中でも、一酸化炭素の接触水素化反応であるフィッシャー・トロプシュ法によって作製され、イソ(iso)構造分子や側鎖が少ない直鎖炭化水素化合物であるフィッシャー・トロプシュワックス類が好ましく、特に、重量平均分子量が1000以上で、かつ示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した吸熱曲線において、100〜120℃の範囲に吸熱ボトムピークを有するフィッシャー・トロプシュワックス類が好ましい。かかるフィッシャー・トロプシュワックス類としては、例えばサゾール社製のサゾールワックスH1〔吸熱ボトムピーク:106.9℃〕、サゾールワックスC1〔サゾールワックスH1の結晶化による高分子量グレード、吸熱ボトムピーク:106.5℃〕、サゾールワックスC105〔サゾールワックスC1の分留法による精製品、吸熱ボトムピーク:102.1℃〕、サゾールワックスSPRAY〔サゾールワックスC105の微粒子品、吸熱ボトムピーク:102.1℃〕等が挙げられる。
【0047】
ワックスの含有割合は、トナーを形成する固形分の総量中の1〜5重量%であるのが好ましい。含有割合がこの範囲未満では、トナーの対オフセット性を向上させたり、像スミアリングを防止したりする効果が不十分になるおそれがあり、逆にこの範囲を超える場合には、トナー同士が融着しやすくなって、保存安定性が低下するおそれがある。
〈MICR用トナーの製造〉
本発明のMICR用トナーは、上記の各成分を、ヘンシェルミキサー等のかく拌混合機を使用して混合し、次いで押出機等の混練機を用いて混練したのち、冷却し、さらに粉砕すると共に、必要に応じて分級することで製造される。また上記の各成分を湿式混合してもよい。
【0048】
かくして製造される本発明のMICR用トナーの残留磁化は、7〜20Am/kgであるのが好ましい。トナーの残留磁化が7Am/kg未満では、トナーを被印刷物の表面に転写し、定着手段によって加熱、加圧して定着させて形成した識別マークにおける残留磁化が低くなって、読取装置によって読み取る際の精度が低下するおそれがある。逆に、20Am/kgを超える場合には、画像形成を繰り返すうちに、現像器内のトナーの帯電量分布がブロードになって、形成画像の画像濃度が低下したり、上記地カブリを生じるようになったりする結果、却って読み取りエラーを生じやすくなって、読み取り精度が低下するおそれがある。なお、画像形成初期から長期間に亘って安定して、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好な識別マークを形成し続けることを考慮すると、トナーの残留磁化は、上記の範囲内でも特に、10〜18Am/kgであるのが好ましい。
【0049】
トナーの残留磁化は、磁性粉の残留磁化と同様に、トナーに795.8kA/m(10kOe)の磁場を印加して磁化させた後、磁場が0のときの磁気メモリー量(残留磁化)を測定した値である。
また、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好な識別マークを形成することを考慮すると、本発明のMICR用トナーの、体積基準の中心粒径は5〜12μmであるのが好ましい。
【0050】
また、本発明のMICR用トナーは、流動性や保存安定性、潜像保持体の表面からのクリーニング除去しやすさを示すクリーニング性等を向上させるため、その表面を、必要に応じて、例えばコロイダルシリカ、疎水性シリカ、アルミナ、酸化チタン等の微粒子(外添剤、通常は、平均粒径が1.0μm以下)によって処理してもよい。外添剤の添加量は、トナー100重量部に対して0.2〜10.0重量部であるのが好ましい。表面処理は、トナーと外添剤とを乾式混合するのが好ましく、特に外添剤がトナー粒子の表面に埋め込まれるのを防止するために、ヘンシェルミキサーやナウターミキサー等を使用して混合するのが好ましい。
【0051】
なお、外添剤としては、高抵抗の無機金属微粒子を少なくとも1種、外添するのが好ましい。なぜなら、前記のように体積固有抵抗の低い磁性粉を配合することで、過帯電による感光層の絶縁破壊を防止する効果が得られるものの、トナーの帯電量が適正値よりも若干、低下する可能性があり、特に高温高湿環境下で画像濃度が若干、低下することが予測されるためである。これに対し、外添剤として高抵抗の無機金属微粒子を外添すれば、トナーの帯電量をより適正な範囲に調整して、高温高湿環境下でも耐久性に優れた高画質の識別マークを形成することが可能となる。
【0052】
《画像形成方法》
本発明の画像形成方法は、磁性1成分ジャンピング現像方法により、静電潜像を保持する潜像保持体と、固定磁石を内蔵して回転し、その表面に、磁性トナーの薄層が形成される現像剤保持体とを、薄層と潜像保持体とが接触しないように間隔を保持して対峙させた状態で、薄層から、磁性トナーを潜像保持体の表面に飛翔させて、静電潜像をトナー像に現像する工程と、現像したトナー像を被印刷物の表面に転写する工程と、転写後、潜像保持体の表面に残留したトナーをクリーニング除去する工程とを含み、被印刷物の表面に、磁性トナーによって、磁気インク文字認証システム用の識別マークを形成するに際し、潜像保持体として、感光層の膜厚が30μm以下であるアモルファスシリコン感光体を用いると共に、磁性トナーとして本発明のMICR用トナーを用いることを特徴とするものである。
【0053】
〈アモルファスシリコン感光体〉
アモルファスシリコン感光体としては、例えばドラム状などの所定の形状に形成した導電性基体の表面にアモルファスシリコン系の感光層を形成してなり、なおかつ、その感光層の膜厚が30μm以下である、薄膜型のアモルファスシリコン感光体が用いられる。なお、後述するようにアモルファスシリコン系の感光層は、実際に感光層として機能する単層もしくは2層以上の層の他に、キャリア阻止層や表面保護層等を有していてもよく、これら多層構造の感光層の場合には、そのトータルの膜厚が、30μm以下である必要がある。
【0054】
かかる薄膜型のアモルファスシリコン感光体は、先に説明したように生産性に優れる上、解像度の高い画像を形成できることから、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好なMICR用の識別マークを形成するために適している。
詳しく説明すると、感光層の膜厚が30μmを超える場合には、熱キャリアの移動速度が速くなるため暗減衰特性が低下し、感光層の、厚み方向と直交する面方向への潜像流れが発生しやすくなるため、解像度が低下する。また、気相成長法による成膜時間が長くなることと、それによって異物等が付着する確率が高くなって歩留まりが悪くなることから、感光体の生産性が低下する。これに対し、膜厚が30μm以下であれば、潜像流れの発生が抑制されるため、解像度の高い画像を形成することができる。また、成膜時間が短くなり、かつ歩留まりがよくなることから、感光体の生産性が向上する。
【0055】
なお、感光層の膜厚は、10μm以上であるのが好ましい。膜厚が10μm未満では、感光体としての帯電能が十分に得られないおそれがある上、導電性基体の表面において、露光のためのレーザー光が乱反射して、ハーフパターンにおいて干渉縞が発生するおそれもある。
アモルファスシリコン系の感光層は、例えばグロー放電分解法、スパッタリング法、ECR法、蒸着法などの気相成長法によって形成することができ、その形成にあたっては、Hやハロゲン元素を含有させることもできる。また感光体の特性を調整するためにC、N、O等の元素を含有させたり、周期表(長周期型)の13族元素や15族元素を含有させたりしてもよい。
【0056】
具体的には、感光層は、例えばa−Siの他、a−SiC、a−SiO、a−SiONなどのアモルファスシリコン系の、光導電性を有する種々の材料にて形成することができる。特に、a−SiCを用いるのが好ましく、その場合はSi1−xのxの値を0<x≦0.5、好ましくは0.05≦x≦0.45に設定するのがよい。この範囲であればa−SiC層を、良好なキャリアの輸送を維持しつつa−Si層よりも高抵抗にして、感光体の光感度特性を向上することができる。13族元素や15族元素としては、それぞれBやPが、共有結合性に優れ、半導体特性を敏感に変え得る点で、また優れた光感度が得られるという点で望ましい。
【0057】
さらに、アモルファスシリコン系の感光層を、光キャリア発生の機能を高めた層領域(光励起層領域)と、キャリア輸送の機能を持たせた層領域(キャリア輸送層領域)とを積層したものとすると、感光体の光感度と耐電圧特性とをともに高めることができる。この際、光励起層領域は光キャリアの生成効率を高めるため、成膜条件のうち、(1) 成膜速度を低めに設定する、(2) 成膜成分の、HやHeでの希釈率を高める、(3) ドープする元素の量を、キャリア輸送層領域よりも多くする、等の対策を施しつつ成膜するのが好ましい。
【0058】
また、キャリア輸送層領域は、主に感光層の耐圧を高めるとともに、光励起層領域から注入されたキャリアを導電性基体にスムースに輸送する役割を持つが、この層領域においても、光励起層領域を透過してきた光によりキャリア生成が行われるため、感光体の光感度の向上に寄与する。
アモルファスシリコン系の感光層の厚みは、前記のように30μm以下に限定されるが、その中でも特に、露光波長の光に対するこの層の吸収係数から求まる光吸収の深さに対して、さらに0.1〜2.0μmを加えた厚みとするのが好ましい。また、感光層を、上記のように光励起層領域とキャリア輸送層領域とを積層したものとする場合には、光励起層領域の厚みを、上記光吸収の深さにほぼ等しく設定するのが好ましい。
【0059】
感光層と導電性基体との間には、キャリア阻止層を介在させるのが好ましい。キャリア阻止層は、現像時に感光体の表面がバイアス電圧を印加されつつトナーと接触した際に、導電性基体から感光層へのキャリアの注入を阻止することにより、露光部と非露光部との静電コントラストを高めて画像の濃度を向上させるとともに、地肌カブリを低減する機能を有する。キャリア阻止層としては、それぞれ絶縁性であるa−SiC、a−SiO、a−SiN、a−SiON、a−SiCONなどにて形成した無機絶縁層や、あるいはポリエチレンテレフタレート、パリレン(登録商標)、ポリ四フッ化エチレン、ポリイミド、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、酢酸セルローズ樹脂その他によって形成した有機絶縁層等を用いるのが好ましい。
【0060】
また、キャリア阻止層には、絶縁性とともに、導電性基体やアモルファスシリコン系感光層との密着性が良く、かつ感光層を形成する際の加熱等にも大きな変質を起こさないといった特性が求められる。かかる特性を考慮すると、キャリア阻止層もa−SiCにて形成するのが好ましい。キャリア阻止層を形成するa−SiCを絶縁性とするためには、キャリア阻止層に含まれるCの量を、感光層の場合に比べて多くすればよい。キャリア阻止層の厚みは0.01〜5μmであるのが好ましく、0.1〜3μmであるのがさらに好ましい。
【0061】
また感光層の表面は、有機もしくは無機の絶縁材料からなる表面保護層によって被覆して保護するのが好ましい。これにより、帯電手段などによる放電時に感光層の表面が酸化されて、放電生成物や水分子などを吸着しやすい酸化物被膜が形成されるのを防止することができる。また絶縁耐圧を向上したり、繰り返し使用した際の耐磨耗性を向上したりすることもできる。中でも、a−SiC、a−SiN、a−SiO、a−SiCO、a−SiNOなどのa−Si系の絶縁材料からなる層を用いるのがよく、これらは感光層と同様の薄膜形成方法によって形成することができ、特にa−SiCにて形成するのが好ましい。
【0062】
表面保護層にa−SiCを用いる場合は、絶縁性を付与するため、キャリア阻止層の場合と同様に、含まれるCの量を感光層に比べて多くすればよい。具体的には、Si1−xのx値を0.3≦x<1.0、特に0.5≦x≦0.95とするのが好ましい。かかるa−SiCからなる表面保護層は、1012〜1013Ω・cmという高い体積固有抵抗を有しているため、感光体は、表面保護層の面方向における電位の流れが少ないため静電潜像の維持能力が高い上、耐湿性にも優れており、吸水による画像流れの発生を抑制する効果に優れたものとなる。
【0063】
また、かかる高抵抗の表面保護層は、トナーを通してのバイアスによる電荷の注入を阻止し、露光部と非露光部との電位コントラストを高めて、その表面に、より多くのトナーを引き付けてトナー像の濃度を増し、画像濃度を十分に高める機能も有する。また、地肌カブリを抑制することもできる。さらに感光体の絶縁耐圧を高めることもできる。
また、a−SiC以外の他の絶縁材料にて形成した表面保護層は、画像形成後にも光キャリアがトラップされ続けてしまい、通常の除電工程では残留電位を確実に消去できないおそれがある。しかしa−SiCにて形成した表面保護層は、表面からの正電荷は有効に阻止するが、導電性基体からの負電荷は比較的通し易いという性質を持つため、画像形成後の残留電位を、通常の除電工程によって効果的に消去でき、連続して画像形成を行えるという利点もある。
【0064】
しかも、a−SiCにて形成した表面保護層は、a−SiC等のアモルファスシリコン系の感光層との密着性が良好であるとともに、耐磨耗性、耐環境性等にも優れるため、長期にわたって安定した画像形成を行えるという利点もある。a−SiCにて形成した表面保護層は、その層内で、Cの量に厚み方向の勾配を形成してもよいし、CとともにN、O、Geなどの元素を含有させて耐湿性をさらに高めることもできる。
【0065】
表面保護層の厚みは5000〜20000Å以下であるのが好ましく、5000〜15000Åであるのがさらに好ましい。厚みが5000Å未満では、特にトナー像の転写時に、転写手段からの負電流の流れ込みに対する耐圧性能が低下して、早期に、表面保護層が劣化するおそれがある。また、20000Åを超える場合には成膜時間が長くなって感光体の生産性が低下するおそれがある。
【0066】
画像形成する際の、アモルファスシリコン感光体の帯電電位は特に限定されないが、表面電位が+200〜+500Vとなるように帯電させるのが好ましい。表面電位が+200V未満では現像電界が不十分となるため、十分に高い画像濃度を有し、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好な識別マークを形成できないおそれがある。また、表面電位が+500Vを超える場合には、感光層の膜厚によっては帯電能力が不足する上、絶縁破壊による黒点が発生しやすくなるため、やはり、読取装置によって読み取る際の精度に優れた良好な識別マークを形成できないおそれがある。また、オゾンの発生量が増加するという問題も生じる。なお、現像性と帯電能力とのバランスを考慮すると、表面電位は、上記の範囲内でも特に+200〜+300Vであるのが好ましい。
【0067】
〈クリーニング手段〉
アモルファスシリコン感光体の表面に残留したトナーをクリーニング除去するためのクリーニング手段としては、アモルファスシリコン感光体の表面に圧接させた弾性ブレードを用いるのが好ましい。
弾性ブレードとしては、ゴムや軟質の樹脂等からなる、従来公知の種々の弾性ブレードを採用することができる。具体的には、例えばシリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ウレタン樹脂等からなる弾性ブレードが挙げられる。弾性ブレードは、トナーを良好にクリーニング除去すると共に、アモルファスシリコン感光体の表面に圧接痕等を生じないことを考慮すると、10〜50g/cmの線圧で圧接させるのが好ましい。
【0068】
〈現像剤保持体〉
現像剤保持体は、表面の十点平均粗さRzが2.0〜6.0μmであるのが好ましい。すなわち、十点平均粗さRzがこの範囲未満である現像剤保持体は、表面の平滑性が高すぎることからトナーの搬送性が不十分であり、その表面に、十分な厚みを有する薄層を形成することができない。このため、形成画像の画像濃度が低下するおそれがある。
【0069】
一方、十点平均粗さRzがこの範囲を超える現像剤保持体は、表面の平滑性が低すぎて、大きな凹凸を有するため、その表面には、厚みが均一で欠陥等のないきれいな薄層を形成することができない。このため、形成画像の画質が低下するおそれがある。また、現像剤保持体の表面の凹凸のうち、突起の部分で潜像保持体への電位のリークが発生しやすく、リークが発生すると、形成画像の、リークした部分に微小黒点を生じるおそれもある。
【0070】
したがって、現像剤保持体の、表面の十点平均粗さRzは2.0〜6.0μmであるのが好ましい。なお、現像剤保持体の、表面の十点平均粗さRzは、表面粗さ測定器〔例えば(株)小坂研究所製のサーフコーダSE−30D等〕を用いて測定することができる。
現像剤保持体は、例えばアルミニウムやステンレス鋼等によって形成することができる。このうち、ステンレス鋼としては、例えばSUS303、SUS304、SUS305、SUS316等に分類されるステンレス鋼が挙げられ、特に磁性が弱くかつ加工しやすいことから、SUS305が好ましい。
【0071】
〈その他〉
アモルファスシリコン感光体の表面に静電潜像を保持させるためには、従来同様に、スコロトロン帯電器等を用いてアモルファスシリコン感光体の表面を一様に帯電させた後、半導体レーザ、発光ダイオード等の露光手段によって露光して、露光部分の電荷を除去すればよい。
【0072】
また、アモルファスシリコン感光体の表面に形成されたトナー像を被印刷物の表面に転写させるためには、例えばコロナ帯電器、鋸歯状電極、転写ローラ等が用いられ、特に転写ローラが好ましい。
転写ローラとしては、例えば発泡EPDM等の軟質の発泡体からなるローラが好ましい。転写ローラとして発泡体のローラを使用した場合には、紙詰まり等が発生した際に転写ローラに付着したトナーが発泡体の気泡中に入り込むことによって、運転再開時における被印刷物の裏汚れ等を防止することができる。したがって、転写ローラのクリーニングが不要になって、イニシャルコストおよびランニングコストを低減することができる。
【0073】
また、軟質の発泡体からなる転写ローラの硬さは、アスカーC硬さで表して30〜40°であるのが好ましい。転写ローラがこの範囲より軟らかい場合には、転写不良が発生するおそれがあり、逆にこの範囲より硬い場合には、感光体との間のニップが小さくなって、被印刷物の搬送力が低下するおそれがある。
転写ローラは、アモルファスシリコン感光体の表面に接触させた状態で、感光体の表面に対して3〜5%の線速差をつけて回転させるのが好ましい。線速差が3%未満では、トナー像の転写性が低下して、文字の中抜け等を生じるおそれがあり、5%を超える場合には、感光体表面に対するスリップ量が大きくなって、転写像のずれ、いわゆるジッタが大きくなるおそれがある。
【実施例】
【0074】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
《MICR用トナー》
実施例1:
バインダ樹脂として、重量平均分子量Mwが47,000で、かつ分子量5,000と931,000に分子量分布のピークを有すると共に、分子量の分散Mw/Mnが29.0、テトラヒドロフラン不溶分が5%、ガラス転移温度Tgが58℃であるスチレン−アクリル系共重合体を用いた。
【0075】
そして、このバインダ樹脂54重量部と、磁性粉〔平均粒径:0.22μm、体積固有抵抗:6×10Ω・cm〕40重量部と、離型剤としてのフィッシャー・トロプシュワックス〔サゾール社製のサゾールワックスH1〕3重量部と、正電荷制御剤としての4級アンモニウム塩〔オリエント化学(株)製のボントロンP−51〕3重量部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、2軸押出機を用いて混練し、冷却した後、ハンマーミルを用いて粗粉砕した。次いで、機械式粉砕機を用いて微粉砕した後、気流式分級機を用いて分級して、体積基準の中心粒径が8.0μmであるMICR用トナーを製造した。
【0076】
実施例2〜4、比較例1〜3:
磁性粉として、表1に示す体積固有抵抗を有するものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、MICR用トナーを製造した。
なお、磁性粉の体積固有抵抗(Ω・cm)は、磁性粉0.5gを計り取り、KBr錠剤成形器〔(株)島津製作所製〕を用いて、1.37×10Paの圧力を加えて加圧成形して作成した円柱状の測定試料を、温度25℃、相対湿度60%の環境下で12時間以上、静置した後、円柱の両端を一対のステンレス電極で挟んで、電気抵抗測定装置〔横河北辰電気(株)製のモデル4329A〕を用いて、直流15Vの電圧を印加して測定した抵抗値R(Ω)と、測定試料の円柱の端面の面積A(cm)と、円柱の高さH(cm)とから式(1):
体積固有抵抗(Ω・cm)=(A/H)×R (1)
によって求めた。また、表中の符号は下記の分類を示している。
〈○〉:体積固有抵抗が、請求項1で規定した磁性粉の体積固有抵抗の範囲内にある。
〈↓〉:体積固有抵抗が、請求項1で規定した磁性粉の体積固有抵抗の範囲未満である。
〈↑〉:体積固有抵抗が、請求項1で規定した磁性粉の体積固有抵抗の範囲を超えている。
【0077】
【表1】

【0078】
帯電量測定:
上記各実施例、比較例のMICR用トナー100重量部に、シリカ〔日本アエロジル工業(株)製のRA−200H〕1.0重量部と、酸化チタン〔チタン工業(株)製のST−100〕2.0重量部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、この混合物4重量部と、フェライトキャリア〔パウダーテック(株)製のFK−150〕100重量部とを混合し、500mlのポリエチレン製容器に入れて、温度20℃、相対湿度65%RHの常温、常湿環境中に8時間、静置して状態を安定させた。次いで容器を密栓し、ロッキンミキサを用いて10分間、かく拌して摩擦帯電させた後、そのうちトナー約100mgの帯電量を、帯電量測定装置〔トレック(TREK)社製のQ/M meter 210HS〕を用いて測定し、その際の質量変化から帯電量(μC/g)を求めた。
【0079】
実機試験:
上記各実施例、比較例のMICR用トナー100重量部に、シリカ〔日本アエロジル工業(株)製のRA−200H〕1.0重量部と、酸化チタン〔チタン工業(株)製のST−100〕2.0重量部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて混合した後、潜像保持体としてアモルファスシリコン感光体を搭載した、磁性1成分ジャンピング現像方式のページプリンタ〔京セラ(株)製のFS−3800〕に使用して画像形成した際の、下記の各特性を評価した。
【0080】
なお、アモルファスシリコン感光体としては、感光層の総膜厚が20μmであるものを使用した。画像形成する際の、アモルファスシリコン感光体の帯電電位は275Vとした。また、クリーニング手段としてはウレタンゴム製の弾性ブレードを用いた。さらに、現像剤保持体としては、表面の十点平均粗さRzが5.0μmである、SUS305製のものを用いた。評価は、上記のページプリンタを、温度20℃、相対湿度65%RHの常温、常湿環境中に8時間、静置して状態を安定させた後、同じ常温、常湿環境中で実施した。
(1) 黒点数:
上記ページプリンタを作動させて、5万枚のA4用紙に連続的に、ISO4%原稿を画像形成した後に白紙画像を出力し、この白紙画像について、ドットアナライザー〔王子計測器(株)製のDA−5000S〕を用いて黒点数を測定した。黒点の測定範囲は、A4横方向の5mm×210mmの範囲とした。
(2) 読み取り精度:
上記ページプリンタを作動させて、30万枚のA4用紙に連続的に、ISO4%原稿を画像形成した後、5000枚の小切手用紙の表面に連続的に、MICRシステム用の識別マークを画像形成した。そして、それをMICR用の読取装置〔RMD社製のQualifier〕に通した際に、読み取りエラーが発生した割合(拒絶率%)を記録して、読み取り精度を評価した。拒絶率が小さいほど、読み取り精度は良好である。
(3) 画像濃度:
上記ページプリンタを作動させて黒ベタ画像を形成し、次いで30万枚のA4用紙に連続的に、ISO4%原稿を画像形成した後、再び黒ベタ画像を形成した。そして連続画像形成前の黒ベタ画像(初期画像)の画像濃度と、連続画像形生後の黒ベタ画像(耐久後画像)の画像濃度とを、それぞれマクベス反射濃度計〔グレタグ・マクベス社製のRD914〕を用いて測定した。測定は、画像の9ポイントで行い、その平均値を求めた。画像濃度は、1.30以上を合格〈○〉、それ未満を不合格〈×〉とした。
(4) 画像濃度の均一性:
上記(3)で形成した初期画像および耐久後画像を観察して、その均一性を下記の基準で評価した。
【0081】
○:均一性良好。
△:ややムラがある。
×:ムラがひどい。
(2) 地カブリ
上記(4)で形成した初期画像および耐久後画像の余白部分を観察して、地カブリの有無を、下記の基準で評価した。
【0082】
○:地カブリは全く見られなかった。
△:やや地カブリがある。
×:地カブリがひどい。
以上の結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表より明らかなように、磁性粉の体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmの範囲未満であった比較例1のMICR用トナーは帯電量が低すぎる上、実機試験において、耐久後に画像濃度が×になった。また、画像濃度の均一性および地カブリの評価は、いずれも初期の段階で既に△であり、耐久後に×になった。そして、これらのことから、比較例1のMICR用トナーは帯電特性が不十分であるため、画像形成を繰り返すうちに薄層に乱れを生じて、良好な識別マークを形成できなくなることがわかった。
【0085】
また、磁性粉の体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmの範囲を超える比較例2のMICR用トナーは、帯電量が高すぎる上、実機試験において多数の黒点を生じた。また、読取装置による読み取り試験の結果から、比較例2のMICR用トナーを用いて形成した識別マークは、読み取り精度が低いことが判った。また、実機試験において、耐久後に画像濃度が×になった。また、画像濃度の均一性および地カブリの評価は、いずれも初期の段階で既に△であり、耐久後に×になった。そして、これらのことから、比較例2のMICR用トナーは画像形成を繰り返すうちにチャージアップして、絶縁破壊によりアモルファスシリコン感光体の感光層に欠陥を生じさせると共に、帯電量が現像適正範囲を逸脱してしまい、薄層に乱れを生じる結果、良好な識別マークを形成できないことがわかった。
【0086】
さらに、磁性粉の体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmの範囲を大きく上回る比較例3のMICR用トナーは、比較例2のものよりもさらに帯電量が高い上、実機試験において、初期の段階でドラムへのリーク放電が発生してさらに多数の黒点を生じた。また、読取装置による読み取り試験の結果から、比較例3のMICR用トナーを用いて形成した識別マークは、読み取り精度が低いことが判った。また、上記のように初期の段階で黒点が多数発生したため、画像評価は初期の画像濃度の測定のみとし、その他の試験は行わなかった。そして、これらのことから、比較例3のMICR用トナーは比較例2のものよりもさらにチャージアップしやすく、初期の段階で、絶縁破壊によりアモルファスシリコン感光体の感光層に欠陥を生じさせると共に、帯電量が現像適正範囲を逸脱して薄層に乱れを生じる結果、良好な識別マークを形成できないことがわかった。
【0087】
これに対し、実施例1〜4のMICR用トナーは、いずれも、適度な帯電量を有している上、実機試験において全く黒点を生じなかった。また、読取装置による読み取り試験の結果から、実施例1〜4のMICR用トナーを用いて形成した識別マークは、読み取り精度が極めて高いことが判った。また、実機試験において、画像濃度、均一性および地カブリの評価は、いずれも、初期および耐久後共に○でった。そして、これらのことから、実施例1〜4のMICR用トナーは、いずれも、帯電の抜けやチャージアップ等を生じない良好な帯電特性を有しており、絶縁破壊によりアモルファスシリコン感光体の感光層に欠陥を生じさせるおそれがない上、常に、厚みが均一で、欠陥やむらのない薄層を形成して、画像形成初期から長期間にわたって、良好な識別マークを形成できることが確認された。
【0088】
実施例1〜4のMICR用トナーが良好な帯電特性を有していることは、以下の事実からも明らかである。すなわち、30万枚の連続画像形成を行った際に、1枚目と30万枚目の画像形成時、およびその間の任意の時点で、下記の、薄層におけるトナーの帯電量測定を行って帯電量の推移を観察したところ、実施例1〜4のMICRトナーを用いた場合、その帯電量はいずれも2〜6μC/gの範囲内で安定していた。そして、このことから、実施例1〜4のMICRトナーはいずれも、チャージアップや帯電量不足を生じない良好な帯電特性を有していることが確認された。
【0089】
薄層におけるトナーの帯電量測定:
画像形成時に、現像剤保持体の表面に形成されたトナーの薄層におけるトナーの帯電量μC/gを、帯電量測定装置〔トレック(TREK)社製のQ/M meter 210HS〕を用いて測定した。詳細には、現像剤担持体の表面に形成されたトナーの薄層の、当該現像剤担持体の長手方向に沿う15箇所のトナーを、帯電量測定装置を用いて吸引した際に、測定装置に表示された帯電量(μC)と、測定装置に吸引されたトナー量(g)とから、トナーの帯電量(μC/g)を求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜像保持体として、感光層の膜厚が30μm以下であるアモルファスシリコン感光体を用いて、磁気インク文字認証システム用の識別マークを形成するためのMICR用トナーであって、体積固有抵抗が6×10〜1×10Ω・cmである磁性粉を含むことを特徴とするMICR用トナー。
【請求項2】
静電潜像を保持する潜像保持体と、固定磁石を内蔵して回転し、その表面に、MICR用トナーの薄層が形成される現像剤保持体とを、薄層と潜像保持体とが接触しないように間隔を保持して対峙させた状態で、薄層から、MICR用トナーを潜像保持体の表面に飛翔させて、静電潜像をトナー像に現像する工程と、現像したトナー像を被印刷物の表面に転写する工程と、転写後、潜像保持体の表面に残留したトナーをクリーニング除去する工程とを含み、被印刷物の表面に、MICR用トナーによって、磁気インク文字認証システム用の識別マークを形成するための画像形成方法であって、潜像保持体として、感光層の膜厚が30μm以下であるアモルファスシリコン感光体を用いると共に、MICR用トナーとして請求項1記載のMICR用トナーを用いることを特徴とする画像形成方法。
【請求項3】
トナーをクリーニング除去するために、アモルファスシリコン感光体の表面に圧接させた弾性ブレードを用いる請求項2記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2006−11157(P2006−11157A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189983(P2004−189983)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】