説明

MgB2超電導導体およびその製造方法

【課題】本発明は、MgBを良好な結晶配向性を維持しつつ成膜させることで、臨界電流密度が高く超電導特性の良好な超電導導体を提供することを第一の目的とする。また、本発明は安定してMgBの結晶配向を制御し、高い超電導特性を有するMgB超電導導体の製造方法を提供することを第二の目的とする。
【解決手段】本発明の超電導導体10は、金属基材11と、金属基材11上に、イオンビームアシスト(IBAD)法により形成された3回対称MgO(111)層13と、MgB層14とが積層された積層体よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導導体とその製造方法に係り、より詳細には、良好な結晶配向性が維持されたMgB層を有する超電導導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見された超伝導体としての2ホウ化マグネシウム(MgB)は、臨界温度Tcが39Kと従来の金属超電導体よりも20K程度高い温度で超電導性を示すことが知られている(非特許文献1を参照)。MgBは従来公知の超電導体とは異なり、構成物質が希土類や毒性物質を含まず、低コストで扱いやすい金属化合物であることから、これを線材に加工して電力供給用の導体として実用化することが注目を集めている。
MgBは臨界温度Tc=39Kであり、液体ヘリウムを用いなくとも20K程度まで冷却できる冷凍機により超電導状態とすることが可能である。したがって、MgBを用いて超電導線材を製造できるならば、高価な液体ヘリウムを使用することなく利用できるので、金属系超電導線材よりも安価に使用することができ、超電導マグネット等の応用に利用可能となる。
【0003】
MgBを線材に加工するための方法としては、金属管にMgBの粉末あるいはMgとBの混合粉末を詰めたものを伸線又はロール圧延し、さらに熱処理を施して、線材内部のMgB粉末を焼結することによりMgB超電導線を形成する方法が検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
また、他の方法として、MgO基板の(111)面上にスパッタリング法によりMgB膜をエピタキシャル成膜し、薄膜状のMgB超電導層を形成し、このMgB超電導層を利用して超電導線材を形成する手段も考えられる(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−310600号公報
【特許文献2】特開2008−226501号公報
【特許文献3】特開2002−274841号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature,410(2001),63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のMgB線材は焼結法により作成されているため、金属管の内部に生成されているMgBの微結晶が互いに接している面積が小さいため、臨界温度Tcや臨界電流密度Jcが単結晶の超伝導体に比べ低くなるという問題があった。また、高い超電導特性を発現することの出来る長尺のMgB超電導導体は今のところ開発されていない。
【0007】
ところで、本発明者らは、酸化物超電導体にあっては、その結晶配向状態により超電導特性が左右されることを知見し研究を重ねている。例えば、酸化物系の超電導体において、その結晶自体は結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいという電気的異方性を有している。従って、基材上に超電導体を形成する場合には、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要がある。
しかしながら、金属基材自体は非結晶もしくは多結晶体であり、その結晶構造も超電導体と大きく異なるために、基材上に上記のような結晶配向性の良好な超電導体膜を形成することは困難である。また、基材と超電導体との間には熱膨張率及び格子定数の差があるため、超電導臨界温度までの冷却の過程で、超電導体に歪みが生じたり、酸化物超電導体膜が基板から剥離する等の問題もある。
そこで、上記のような問題を解決するために、まず金属基板上に熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基板と超電導体との中間的な値を示すMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SrTiO等の材料から成る中間層(バッファー層)を形成し、この中間層の上に超電導体膜を形成することについて研究している。
この中間層は基板面に対して直角にc軸が配向するものの、基板面内でa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向しないため、この上に形成される超電導層もa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向せず、臨界電流密度Jcが向上しないという問題がある。
【0008】
イオンビームアシスト法(IBAD法:Ion Beam Assisted Deposition)は、この問題を解決する技術であり、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオン銃から発生されたアルゴンイオンと酸素イオン等を同時に斜め方向(例えば、45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基材上の成膜面に対して、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有する中間層が得られる。
図5及び図6は、前記IBAD法により、中間層をなす多結晶薄膜を基材上に形成した一例を示すものであり、図5において100は板状の基材、110は基材100の上面に形成された多結晶薄膜を示している。
【0009】
多結晶薄膜110は、立方晶系の結晶構造を有する微細な結晶粒120が、多数、結晶粒界を介して接合一体化されてなり、各結晶粒120の結晶軸のc軸は基材100の上面(成膜面)に対して直角に向けられ、各結晶粒120の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。また、各結晶粒120のc軸が基材100の(上面)成膜面に対して直角に配向されている。そして、各結晶粒120のa軸(あるいはb軸)どうしは、それらのなす角度(図6に示す粒界傾角K)を30度以内にして接合一体化されている。
【0010】
IBAD法は、線材の機械的特性が優れる、安定した高特性が得られ易い等、実用性の高い製法であると言われており、本発明者らは種々の酸化物超電導導体に対してのIBAD法の応用について精力的に開発研究を進めている。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、MgBを良好な結晶配向性を維持しつつ成膜させることで、臨界電流密度が高く超電導特性の良好な超電導導体を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、安定してMgBの結晶配向を制御し、高い超電導特性を有するMgB超電導導体の製造することができる方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体は、金属基材と、該金属基材上にイオンビームアシスト(IBAD)法により形成された3回対称MgO(111)層と、MgB層とが積層された積層体よりなることを特徴とする。
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体は、前記金属基材と前記MgO(111)層との間に、拡散防止層が介在されてなることを特徴とする。
本発明の超電導導体において、前記MgB層の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)は16°以下であることを特徴とする。
本発明の超電導導体において、前記イオンビームアシスト法(IBAD)法により形成された前記3回対称MgO(111)層上に、他の成膜法によりエピタキシャル成長させることにより形成された3回対称MgO(111)層を介して前記MgB層が積層されてなることが好ましい。
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体の製造方法は、金属基材上に、3回対称MgO(111)層をイオンビームアシスト(IBAD)法により形成し、この後に、成膜法によりMgB層を形成することを特徴とする。
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体の製造方法は、前記金属基材上に拡散防止層を形成した後、該拡散防止層上に前記MgO(111)層と前記MgB層を形成することを特徴とする。
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体の製造方法は、面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)が16°以下となるように前記MgB層を形成することを特徴とする。
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体の製造方法は、イオンビームアシスト法(IBAD)法により形成した前記3回対称MgO(111)層上に、他の成膜法によりエピタキシャル成長させることにより3回対称MgO(111)層を形成することを特徴とする。
上記の課題を解決するため、本発明の超電導導体の製造方法は、前記成膜法によりエピタキシャル成長させることにより前記3回対称MgO(111)層を形成する際、成膜温度を200〜600℃とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超電導導体では、MgO(111)が基材法線方向に向いた3回対称MgO(111)層上に、MgB層を形成することにより、MgBを良好な結晶配向性で結晶化し、積層することができる。3回対称MgO(111)面のMg面とMgB(001)面のMg面は同じ三角格子であり、Mg原子間距離もほぼ等しいためにエピタキシャル成膜が可能となる。これにより、臨界電流密度が高く、超電導特性の良好な超電導導体を提供することが出来る。
また、本発明によれば、結晶配向状態が良好な2軸配向された3回対称MgO(111)層上に、MgB層を形成することにより、MgB層の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を16°以下とすることができる。これにより、超電導層であるMgB層の結晶配向状態が良好となり、臨界電流密度が高く、超電導特性の良好な超電導導体を提供することができる。
更に、本発明の超電導導体の製造方法では、MgO(111)層をイオンビームアシスト(IBAD)法により形成し、MgB層を成膜法により形成することにより、結晶配向性が安定して維持され、超電導特性の良好なMgB超電導導体の製造方法を提供することが出来る。
また、本発明によれば、金属基材上に、イオンビームアシスト(IBAD)法により形成された3回対称MgO(111)層を設けていることにより、MgO(111)層上にMgB層を良好な結晶配向状態で形成することができる。イオンビームアシスト(IBAD)法は、金属基板を長尺化した場合も適応可能であり、MgB層はMgO(111)層上では安定した結晶配向状態を保つことができるため、本発明の金属基材として長尺の金属基材を使用すれば、長尺のMgB超電導導体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る超電導導体の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明に係る超電導導体の他の一例を模式的に示す図である。
【図3】IBAD法による成膜装置を模式的に示す図である。
【図4】図3に示す成膜装置が備えるイオンガンを模式的に示す図である。
【図5】従来の多結晶薄膜の一例を模式的に示す図である。
【図6】従来の多結晶薄膜の一例を模式的に示す図である。
【図7】Al膜上に形成したMgO膜の(110)正極点図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一の実施形態>
図1は、本発明に係る超電導導体10の一例を模式的に示す図である。
本発明の超電導導体10は、金属基材11上に順に、拡散防止層12を介して、3回対称MgO(111)層13とMgB層14とが積層された積層構造を有し、3回対称MgO(111)層13はイオンビームアシスト(IBAD)法により形成されることを特徴とする。
【0017】
MgO(111)層13をIBAD法で作製するには、MgOあるいはMg等をターゲットとして用い、イオンビームを入射角40〜60°などで入射させながら、必要に応じて成膜雰囲気中に酸素ガスを供給して成膜すればよい。IBAD法により成膜することにより2軸配向された3回対称のMgO(111)を、面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を25°以下、より好ましくは20°以下とすることにより、MgO(111)層13上に積層されるMgB層14を高い配向性で整合するようにエピタキシャル成長させることができる。
また、MgO(111)層13は所望の厚さとするために、IBAD法のみで成膜しても良いが、この構造のMgOは良好な結晶配向性を保持したまま成膜される特徴があるため、初期にIBAD法によりMgO(111)の薄膜(IBAD−MgO(111))を形成後、この薄膜上に他の成膜法によりMgOをエピタキシャル成長させることによって厚膜のMgO(111)層13を形成することも可能である。IBAD法による成膜は、無配向の金属基材(金属テープ)上でイオンビーム衝撃によって結晶配向制御を行う関係で、蒸着速度が遅くなるという問題があるが、IBAD法による成膜と、一般的な他の成膜法による成膜を組み合わせることにより、成膜時間の短縮が可能となる。
【0018】
IBAD−MgO(111)層上にMgOをエピタキシャル成長させるためには通常の成膜法で成膜することができ、例えば、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、その他のスパッタ法、PLD法、CVD(化学蒸着)等により成膜することができる。
IBAD−MgO(111)層上にMgOをエピタキシャル成長する際の金属基材11の温度は、形成されるMgO(111)層の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)が25°以下となるため、200℃〜600℃の温度範囲とすることが好ましく、400℃〜500℃の温度範囲とすることがより好ましい。
【0019】
MgO(111)層13の厚さは、5〜500nmの範囲にすることができる。MgO(111)層の厚さが5nm未満だと、膜厚を安定に維持しにくくなって膜厚にばらつきが生じる虞がある。
一方、MgO(111)層13の厚さが500nmを超えると、MgO(111)層13の内部応力が増大し、これにより超電導導体10全体の内部応力が大きくなり、拡散防止層12、MgO(111)層13及びMgB層14が金属基材11から剥離しやすくなる。また、500nmを超えると表面粗さが大きくなり、臨界電流密度が低下する。MgO(111)層13の膜厚は、金属基材11の送出速度を調整することにより増減させることができる。
【0020】
MgB層14は、通常の成膜法によって成膜することができ、例えば、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、その他のスパッタ法、PLD法、CVD法等で成膜することができる。MgB層を形成する際のターゲットとしては、MgB粉末やMgとBの混合粉末及びこれらをペレット状や板状にしたものなど、成膜法によりMgB層14を形成することができる材料であれば、特に限定されない。MgB層を形成する際の温度は特に限定されるものではなく、例えば、200〜600℃の範囲が挙げられる。
【0021】
ここで前述のように、良好な配向性を有するMgO(111)層13上にMgB層14を形成すると、MgB層14もMgO(111)層13の配合性に整合するように結晶化する。MgBはAlB型結晶構造の6回対称構造であるため、3回対称のMgO(111)層13の(111)面のMg面とMgBの(001)面のMg面は同じ三角格子であり、また、Mg原子間距離がほぼ等しいために、MgBは2軸配向でエピタキシャル成長することができる。このため、MgO(111)層13の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を25°以下とすることにより、MgB層14の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)を16°以下とすることができる。従って、得られたMgB層14は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆ど無いので、金属基材11の長さ方向に電流を流しやすくなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0022】
また、前述したように、MgB層14は2軸配向しているため、微細結晶粒間の接する面積が増大し、高特性の超電導層となる。さらに、MgBは従来公知の超電導材料に比べて、磁気異方性が小さいため、MgB粉末等を焼結法で加熱処理したような結晶配向性が低い条件においても、超電導特性を示すことが知られているが、本発明によれば、MgB層14を配向性良好に形成することができるため、より高い超電導特性を発現することのできる超電導導体10を提供することができる。
【0023】
MgB層14の厚さは、0.5〜5μmの範囲が好ましい。MgB層14の厚さが0.5μm未満だと、超電導特性を発現できない虞がある。一方、MgB層14の厚さが5μmを超えると、MgB層14の内部応力が増大し、これにより超電導導体10全体の内部応力が大きくなり、拡散防止層12、MgO(111)層13及びMgB層14が金属基材11から剥離しやすくなる。MgB層14の厚さは、金属基材11の送出速度を調整することにより増減させることができる。
【0024】
金属基材11は、本実施形態ではテープ状のものを用いているが、これに限定されず、例えば板材、線材、条体等の種々の形状のものを用いることができ、例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくは各種金属材料上に各種セラミックスを配したもの、等が挙げられる。また、金属基材11として、強度が強く、耐熱性もあり、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工したものを用いることにより、長尺のMgB超電導導体とすることができる。
【0025】
拡散防止層12は、金属基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。拡散防止膜12の厚さが10nm未満になると、金属基材11の構成元素の拡散を十分に防止できない虞がある。一方、拡散防止層12の厚さが400nmを超えると、拡散防止層12の内部応力が増大し、これにより超電導導体10全体の内部応力が大きくなり、拡散防止層12、MgO(111)層13及びMgB層14が金属基材11から剥離しやすくなる虞がある。
また、拡散防止層12を構成する希土類金属酸化物層として、GdZr層を用いることができる。この場合の拡散防止層12は、結晶配向性は特別に問われないので、通常のスパッタ法などの成膜法により形成すれば良い。特に拡散防止層12として、GdZr層を用いるならば、第二の実施形態で後述する拡散防止層12とベッド層9の2層構造に近い拡散防止効果が得られ、その上に形成される超電導層であるMgB
14の超電導特性が向上するので有利である。
なお、拡散防止層12について結晶配向性を整えるためにIBAD法などの特別な成膜法を採用すると、成膜レートが低くなり、成膜に時間がかかるが、MgO(111)層13の下地としての拡散防止層12であるならば、結晶配向性は問われないので、成膜レートの高い通常のスパッタ法などを選択して用いることができ、拡散防止層12の成膜により製造時間を必要以上に長くするおそれは少ない。
【0026】
本実施形態の超電導導体10によれば、3回対称MgO(111)層13上に直接、超電導層であるMgB層14を結晶配向性良好に成膜することができ、従来公知の酸化物超電導層を積層する際に必要とされていたキャップ層を省略することができる。これにより、従来の超電導導体に比べて薄膜化が可能となり、内部応力が低減されるので、基材の反り返りという従来の問題を解決することができる。さらに、薄膜化により製造速度高めることができ、また、MgBは従来の希土類元素が含まれた超電導材料に比べて非常に安価であるため、製造コストの低減を図ることができる。
【0027】
<第二の実施形態>
次に、本発明の超電導導体の第二の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、上述した第一実施形態と異なる部分について主に説明し、同様の部分については、その説明を省略する。
図2は、本発明に係る超電導導体20の一例を模式的に示す図である。図2において、図1に示した超電導導体10と同じ構成要素には同一の符号を付した。
【0028】
本実施形態の超電導導体20は、金属基材11上に、拡散防止層12とベッド層9とを介して、MgO(111)層13とMgB層14とが積層された積層構造を有すること特徴とする。この第二実施形態の構造において第一実施形態の構造と異なっているのは、ベッド層9を追加した構造である。
【0029】
ベッド層9は、耐熱性が高く、界面反応性をより低減するためのものであり、その上に配される被膜の配向性を得るために機能する。このようなベッド層9は、必要に応じて配され、例えば、希土類酸化物層を用いることができ、例えば希土類酸化物として、組成式(α2x(β(1−X)で示されるものが挙げられる。ここで、αとβは希土類元素で0≦x≦1に属するものを指す。より具体的には、Y、CeO、 Dy、Er、Eu、Ho、La、Lu、Nd、Pr11、Sc、Sm、Tb、Tm、Ybなどを例示することができる。
このベッド層9は、例えばスパッタリング法等により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
拡散防止層12とベッド層9の2層構造とする場合、拡散防止層12をアルミナから構成し、ベッド層9をYで形成する構造を例示できる。
【0030】
本実施形態の如く拡散防止層12とベッド層9の2層構造とするのは、ベッド層9の上に前述の実施形態で説明した如くMgO(111)層13や超電導層であるMgB層14を形成する場合に、必然的に加熱されたり熱処理される結果として熱履歴を受ける場合、金属基材11の構成元素の一部が拡散防止層12とベッド層9を介して超電導層側に拡散することを抑制するためであり、拡散防止層12とベッド層9の2層構造とすることで金属基材11側からの元素拡散を効果的に抑制することができる。
また、これらの拡散防止層12とベッド層9の結晶配向性は特には問われないので、通常のスパッタ法などの成膜法により形成すれば良い。
【0031】
以上、本発明の超電導導体について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変更が可能である。例えば、本発明の実施形態の例で挙げたMgO(111)層、MgB層、拡散防止層、ベッド層等の他に、従来公知の超電導導体に適用することの出来る材料を適宜組み合わせることが可能である。
【0032】
本発明の超電導導体は、MgBが良好な結晶配向性で積層されているため、従来の焼結法により作成されたMgB超電導導体に比べて、高い超電導特性を発現することが出来る。
また、本発明の超電導導体は、金属基材上に、イオンビームアシスト(IBAD)法により形成された3回対称MgO(111)層を設けていることにより、MgO(111)層上にMgB層を良好な結晶配向状態で形成することが出来る。イオンビームアシスト(IBAD)法は、金属基板を長尺化した場合も適応可能であり、MgB層はMgO(111)層上では安定した結晶配向状態を保つことができるため、本発明の金属基材として長尺の金属基材を使用すれば、長尺ので良好な超電導特性のMgB超電導導体を提供することが出来る。
さらに、本発明の超電導導体は、超電導層としてMgB層を採用しているため、構成物質が希土類や毒性物質を含まず、低コストで扱いやすい超電導導体を提供することが出来る。
また、本発明の超電導導体を構成するMgB層は、臨界温度Tcが39Kであるため、液体ヘリウムによる冷却の必要性が無く、コストを削減できるため、超電導線材以外にも、超電導マグネット等の種々の分野に応用が可能である。
【実施例】
【0033】
まず、本実施例で用いた、IBAD法による成膜装置について説明する。
図3は、多結晶薄膜を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置は、スパッタ装置にイオンビームアシスト用のイオンガンを設けた構成となっている。
この成膜装置は、基材Aを水平に保持する基材ホルダ51と、この基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向配置された板状のターゲット52と、基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって対向され、かつ、ターゲット52と離間して配置されたイオンガン53と、ターゲット52の下方においてターゲット52の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置54を主体として構成されている。また、図中符号55は、ターゲット52を保持したターゲットホルダを示している。
また、前記装置は図示略の真空容器に収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持できるようになっている。更に前記真空容器には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
【0034】
なお、基材Aとして長尺の金属テープを用いる場合は、真空容器の内部に金属テープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ51に基材Aを送り出し、続いて巻取装置で巻き取ることでテープ状の基材上に多結晶薄膜を連続成膜することができるように構成することが好ましい。
基材ホルダ51は内部に加熱ヒータを備え、基材ホルダ51の上に位置された基材Aを所用の温度に加熱できるようになっている。また、基材ホルダ51の底部には、基材ホルダ51の水平角度を調整できる角度調整機構が付設されている。なお、角度調整機構をイオンガン53に取り付けてイオンガン53の傾斜角度を調整し、イオンの照射角度を調整するようにしても良い。
【0035】
ターゲット52は、目的とするMgO層を形成するためのものであり、具体的には、MgOあるいはMgを用い、必要に応じて成膜雰囲気中に酸素ガスを供給して成膜すればよい。
イオンガン53は、容器の内部に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。ガスをイオン化するには高周波励起方式、フィラメント式等の種々のものがある。フィラメント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス分子と衝突させてイオン化する方法である。また、高周波励起方式は、高真空中のガス分子を高周波電界で分極させてイオン化するものである。
本実施例においては、図4に示す構成の内部構造のイオンガン53を用いる。このイオンガン53は、筒状の容器56の内部に、引出電極57とフィラメント58とArガス等の導入管59とを備えて構成され、容器56の先端からイオンをビーム状に平行に照射できるものである。
【0036】
イオンガン53は、図3に示すようにその中心軸を基材Aの上面(成膜面)に対して傾斜角度θでもって傾斜させて対向されている。この傾斜角度θは30〜60度の範囲が好ましいが、MgOの場合に特に45度前後が好ましい。従ってイオンガン53は基材Aの上面に対して傾斜角θでもってイオンを照射できるように配置されている。なお、イオンガン53によって基材Aに照射するイオンは、He+、Ne+、Ar+、Xe+、Kr+ 等の希ガスのイオン、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオン等で良い。
スパッタビーム照射装置54は、イオンガン53と同等の構成をなし、ターゲット52に対してイオンを照射してターゲット52の構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、本発明装置ではターゲット53の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、ターゲット52に高周波コイル等で電圧を印可してターゲット52の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、スパッタビーム照射装置54を省略しても良い。
【0037】
次に前記構成の装置を用いて基材A上に多結晶薄膜を形成する場合について説明する。
基材A上に多結晶薄膜を形成するには、所定のターゲットを用いるとともに、角度調整機構を調節してイオンガン53から照射されるイオンを基材ホルダ51の上面に45度前後の角度で照射できるようにする。次に基材を収納している容器の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン53とスパッタビーム照射装置54を作動させる。
【0038】
スパッタビーム照射装置54からターゲット52にイオンを照射すると、ターゲット52の構成粒子が叩き出されて基材A上に飛来する。そして、基材A上に、ターゲット52から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン53からArイオンと酸素イオンの混合イオンを照射する。このイオン照射する際の照射角度θは、たとえばMgOを形成する際には、40〜60度の範囲が好適である。
【0039】
「製造例1」
金属基材として、表面を研磨した10mm幅のハステロイテープを使用した。この金属基材上に、拡散防止層としてAl膜(200〜300nm)をスパッタリング法により形成した後、IBAD法によってMgO層(10〜30nm)を形成した。このときのMgO層は、300℃の基材温度で、Ar等の希ガスイオンビームによるイオンアシストビームを基材に対して55°に入射させながら作製した。
次いで、IBAD−MgO層上に、イオンビームスパッタ法によりMgOをエピタキシャル成長させてMgO層(約300nm)を積層形成した。このときのMgO層は200〜600℃で作製した。このように作製したMgO層のMgO[110]正極点図を図7に示す。
【0040】
更に、MgO層上に、PLD法によってMgBを300℃にてエピタキシャル成長させることによりMgB層(約1μm)を積層形成し、超電導導体を得た。このようにして得られた超電導導体のMgO層、MgB層について、面内方向の結晶軸分散の半値幅を測定した。その結果を表1に示す(実施例1〜5)。
また、得られた超電導導体の20Kにおける臨界電流密度Jc、臨界電流Icを測定した。結果を表1に併せて示す。
【0041】
(比較例1)
イオンビームスパッタ法によりMgO層をエピタキシャル成長させる温度を100℃とした以外は、上記製造例1と同様にして超電導導体を作製した。得られた超電導導体のMgO層およびMgB層の面内方向の結晶軸分散の半値幅、20Kにおける臨界電流密度Jc、臨界電流Icの測定結果を表1に併記した。
【0042】
(比較例2)
上記製造例1と同様にしてIBAD−MgO層を作製した後、700℃にてイオンビームスパッタ法によりMgO層を成膜したが、MgO層はエピタキシャル成長せず、3回対称MgO(111)層は得られなかった。
【0043】
【表1】

【0044】
図7および表1の結果より、適切な成膜条件下において、基材に垂直に(111)軸が配向し、イオンビーム方向に(100)軸が配向し、面内方向の結晶軸分散の半値幅が25度以内となる3回対称MgO(111)層が形成される。この構造の薄膜は、広い条件下で同様の構造を持って成膜される特徴があり、膜厚は5〜100nm程度まで変更することができる。また、MgO層をエピタキシャル成長させる際の温度は、200〜600℃の範囲に設定することにより、面内方向の結晶軸分散の半値幅が25度以内の3回対称MgO(111)層が形成される。さらに、3回対称MgO(111)層は所望の厚さとするために、IBAD法のみにより形成することもできるが、この構造のMgOは良好な結晶配向性を保ったまま成膜される特徴があるため、本製造例に示すように、初めにIBAD法により3回対称MgO(111)の薄膜を形成後、この薄膜上に成膜法によりMgOをエピタキシャル成長させることより厚膜の3回対称MgO(111)層を形成することもできる。これにより、成膜作業時間の短縮が可能となる。
【0045】
更に、3回対称MgO(111)層上に、PLD法によって積層形成されたMgB層において、面内方向の結晶軸分散の半値幅が16度以下とすることに成功した。これは、MgBはAlB型結晶構造の6回対称構造であるため、MgOの(111)面のMg面とMgBの(001)面のMg面は同じ三角格子であり、また、Mg原子間距離がほぼ等しいために、MgBは2軸配向でエピタキシャル成長することができるためである。また、前述したように、MgBは2軸配向しているため、微細結晶粒間の接する面積が増大し、高特性の超電導層となる。
これまで、超電導層MgBを成膜法により、良好な結晶配向構造が整合して作製された例はなく、本発明により安定して高性能膜を高速合成する道が開けた。
【0046】
また、実施例1〜5の超電導導体はいずれも、20Kにおいて、臨界電流密度Jcが0.7MA/cm以上、臨界電流Icが70A以上となり、比較例1の超電導導体よりも、高い超電導特性が得られていることが確認された。また、これらの値は、従来公知のMgB粉を焼結して作製した超電導導体(例えば、特許文献1を参照)よりも優れた超電導特性を発揮している。
【0047】
また、本発明によれば、3回対称MgO(111)層上に直接、超電導層であるMgB層を結晶配向性良好に成膜することができる。さらに、薄膜化により製造速度を飛躍的に高めることができ、また、MgBは従来の希土類元素が含まれた超電導材料に比べて非常に安価である為、製造コストの低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0048】
9…ベッド層、10、20…超電導導体、11…金属基材、12…拡散防止層、13…MgO(111)層、14…MgB層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、該金属基材上にイオンビームアシスト(IBAD)法により形成された3回対称MgO(111)層と、MgB層とが積層された積層体よりなることを特徴とする超電導導体。
【請求項2】
前記金属基材上と前記MgO(111)層との間に、拡散防止層が介在されてなることを特徴とする請求項1に記載の超電導導体。
【請求項3】
前記MgB層の面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)が16°以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導導体。
【請求項4】
前記イオンビームアシスト法(IBAD)法により形成された前記3回対称MgO(111)層上に、他の成膜法によりエピタキシャル成長させることにより形成された3回対称MgO(111)層を介して前記MgB層が積層されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超電導導体。
【請求項5】
金属基材上に、3回対称MgO(111)層をイオンビームアシスト(IBAD)法により形成し、この後に、成膜法によりMgB層を形成することを特徴とする超電導導体の製造方法。
【請求項6】
前記金属基材上に、拡散防止層を形成した後、該拡散防止層上に前記MgO(111)層と前記MgB層を形成することを特徴とする請求項5に記載の超電導導体の製造方法。
【請求項7】
面内方向の結晶軸分散の半値幅(ΔΦ)が16°以下となるように前記MgB層を形成することを特徴とする請求項5または6に記載の超電導導体の製造方法。
【請求項8】
イオンビームアシスト法(IBAD)法により形成した前記3回対称MgO(111)層上に、他の成膜法によりエピタキシャル成長させることにより3回対称MgO(111)層を形成することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の超電導導体の製造方法。
【請求項9】
前記成膜法によりエピタキシャル成長させることにより前記3回対称MgO(111)層を形成する際、成膜温度を200〜600℃とすることを特徴とする請求項8に記載の超電導導体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−287475(P2010−287475A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141154(P2009−141154)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】