説明

PLL回路およびディスク再生装置

【課題】簡易な演算処理にて、適時かつ迅速に、周波数誤差を検出でき、これにより、サンプリングクロックの位相誤差を円滑に補正できるPLL回路を提供する。
【解決手段】再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量が、遅延回路115と減算回路116に供給される。減算回路116は、供給された位相誤差量と一回前に供給された位相誤差量(遅延回路115からの出力)とを減算する。この減算結果をもとに、時間軸上における位相誤差量の傾き値Kp(周波数誤差)が傾き値算出回路117にて算出される。同様に、再生信号の立ち下がり時に検出された位相誤差量から傾き値Knが傾き値算出回路120にて算出される。制御回路121は、傾き値Kp,Knの何れかが閾値を超えると制御信号を出力する。セレクタ111は、制御信号が入力されると位相誤差量に替えてグランド信号をLPF112に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ信号に同期したサンプリングクロックを、前記アナログ信号に対するサンプルデータの取得タイミングとして供給するPLL回路および当該PLL回路を備えるディスク再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アナログ再生信号を処理して再生データを生成出力する処理回路では、アナログ再生信号をデジタル信号に変換した上で、復調やデコード等の処理が行われる。たとえば、DVD(Digital Versatile Didc)等の高密度ディスク媒体を再生する光ディスク装置では、光ピックアップを介してディスクから取得した再生信号を、AD(Analog-Digital)変換回路にてデジタル信号(サンプルデータ)に変換し、このデジタル信号にPRML復調処理等を施して、再生データが取得される。この場合、再生信号に同期したサンプリングクロックが、たとえばAD変換回路に供給される。AD変換回路は、このサンプリングクロックに応じて再生信号をサンプリングし、デジタル信号(サンプルデータ)を生成出力する。
【0003】
ここで、サンプリングクロックは、たとえば、図8に示す構成のPLL(Phase Locked Loop)回路によって生成される。図において、AD変換回路11は、サンプリングクロックに応じて再生信号をサンプリングし、サンプルデータを生成出力する。生成されたサンプルデータは、再生処理系に供給され、同時に、位相比較器12に供給される。
【0004】
位相比較器12は、供給されたサンプルデータに基づいて、再生信号に対するサンプリングクロックの位相誤差量(ΔP)(大きさ/極性)を検出する。ここで、位相誤差量(ΔP)は、たとえば、図9に示すように、再生信号がゼロレベルにクロスするタイミング(エッジ)と、サンプリングクロックによる前記AD変換回路のサンプリングタイミングとの間のずれをもとに検出され、たとえば、エッジに最も近いサンプリングタイミングとエッジとの間のずれをもとに、位相誤差量(ΔP)が検出される。この場合、サンプリングタイミングとエッジとが一致するときに位相誤差量(ΔP)がゼロとなる。
【0005】
こうして検出された位相誤差量(ΔP)は、図8のLPF(ループフィルタ)13に供給される。LPF13は、供給された位相誤差量(ΔP)を順次積分し、これをVCO14に出力する。VCO14は、LPF13から供給された信号をもとに、位相誤差を解消する方向に、サンプリングクロックの位相を調整する。そして、調整したサンプリングクロックをAD変換回路11に供給する。
【0006】
しかし、この構成において、再生信号の周波数がVCO14の基準周波数から大きく外れると、位相比較器12にて検出された位相誤差量(ΔP)だけでは、サンプリングクロックを適正に調整し難くなる。これに対し、以下の特許文献1では、時間軸上における位相誤差の推移(傾き)から再生信号に対するサンプリングクロックの周波数誤差を検出し、この周波数誤差をもとに、サンプリングクロックに対する位相調整処理を補正するようにしている。
【0007】
図10(a)は、再生信号に対するサンプリングクロックの周波数が適正である場合の状態を示し、図10(b)は、再生信号に対するサンプリングクロックの周波数が遅い場合の状態を示している。同図中、塗りつぶされた丸は、再生信号がゼロレベルにクロスするタイミング(エッジ)に最も近いサンプリングタイミングのサンプルデータを模式的に示すものである。
【0008】
同図(b)の場合、位相比較器12にて検出される位相誤差は、時間の経過とともに、たとえば、図11(a)のように変化する。図中、T、2Tにおいて位相誤差量がプラス側からマイナス側に急激に変化しているのは、このタイミングにおいて、図9のエッジに最も近いサンプリングタイミングがエッジの前後において入れ替わるためである。
【0009】
ここで、再生信号に対するサンプリングクロックの周波数が図10(b)の場合よりもさらに遅れると、位相比較器12にて検出される位相誤差の推移は、たとえば、図11(b)のように変化する。この場合、位相誤差量を結ぶ直線の傾き(α2)は、同図(a)における傾き(α1)よりも大きくなる。
【0010】
このように、再生信号に対するサンプリングクロックの周波数誤差が大きくなるに伴って、位相誤差量を結ぶ直線の傾きが大きくなる。上記特許文献1では、この傾きをもとにサンプリングクロックの周波数誤差を検出し、検出した周波数誤差をもとに、サンプリングクロックに対する位相調整を補正するようにしている。
【特許文献1】特開2000−243042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、たとえば、光ディスクを再生するような場合には、記録条件との関係から、時間軸上において位相誤差量が、上記図11に示すように直線状に並ばないことが起こり得る。たとえば、ディスクに対して比較的高いパワーで記録が行われたような場合には、記録マークの形成状態に起因して、再生信号の立ち上がりが、立ち下がりに比べてかなり急峻となり、これにより、立ち上がり時のエッジと立下り時のエッジとの間に位相のずれが生じることが起こり得る。この場合、位相誤差量は、時間軸上において、図12のように離散的に現れることとなる。
【0012】
これに対し、上記特許文献1では、連続する2つの位相誤差量をもとに上記傾きを算出して周波数誤差を検出している。しかし、図12(a)の場合に、最初の2つの位相誤差量をもとに傾きを求めると、求めた傾きαmは、正規の傾きに対して大きく相違することとなってしまう。同様に、図12(b)の如く、次の2つの位相誤差量をもとに傾きを求める場合にも、求めた傾きαnは、正規の傾きよりもかなり小さくなってしまう。
【0013】
このように、何らかの要因によって再生信号の立ち上がり傾向と立下り傾向が相違するような場合には、連続する2つの位相誤差量からは上記傾きを適正に取得することができず、精度良く傾きを取得するには、ある程度長い期間に渡る位相誤差量から総合的に傾きを算出する必要がある。しかし、こうすると、適時かつ迅速に周波数誤差を検出できず、また、周波数誤差検出のための演算処理が増大するとの問題が生じる。
【0014】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、簡易な演算処理にて、適時かつ迅速に、周波数誤差を検出でき、これにより、サンプリングクロックの位相誤差を円滑に補正できるPLL回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様は、アナログ信号に同期したサンプリングクロックを、前記アナログ信号に対するサンプルデータの取得タイミングとして供給するPLL回路において、前記アナログ信号がゼロレベルにクロスするゼロクロスタイミングと前記サンプリングクロックによる前記サンプルデータの取得タイミングとに基づいて、前記アナログ信号に対する前記サンプリングクロックの位相誤差を検出する位相誤差検出回路と、前記位相誤差検出回路によって検出された位相誤差に基づいて前記サンプリングクロックの位相を調整する位相調整回路と、時間軸上における前記位相誤差の推移から前記サンプリングクロックの周波数誤差を検出する周波数誤差検出回路と、前記周波数誤差検出回路によって検出された周波数誤差に基づいて前記位相調整回路における位相調整を補正する位相補正回路とを備える。そして、前記周波数誤差検出回路は、前記アナログ信号の立ち上がり時における前記ゼロクロスタイミングについて検出された前記位相誤差から前記周波数誤差を検出する第1の周波数誤差検出部と、前記アナログ信号の立ち下がり時における前記ゼロクロスタイミングについて検出された前記位相誤差から前記周波数誤差を検出する第2の周波数誤差検出部の双方または何れか一方を備える。
【0016】
この態様によれば、アナログ信号(再生信号)に対するサンプリングクロックの位相誤差の他、周波数誤差をも加味して、サンプリングクロックに対する位相制御が行われるため、サンプリングクロックの位相補正を円滑に行うことができる。
【0017】
さらに、この態様では、位相誤差がアナログ信号(再生信号)の立ち上がり時と立ち下がり時の何れにおいて検出されたものであるかを区分し、同じ区分系統に属する位相誤差群から周波数誤差が検出されるため、アナログ信号(再生信号)の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違するような場合にも、周波数誤差を精度良く算出することができる。
【0018】
また、このように同じ区分系統に属する位相誤差群から周波数誤差が検出されるため、たとえば、前後2つの位相誤差を用いた簡易な演算処理によっても、精度良く、周波数誤差を算出することができ、適時かつ迅速に、精度の高い周波数誤差を取得することができる。
【0019】
よって、この態様によれば、精度の高い周波数誤差に基づいてサンプリングクロックの位相補正を行うことができ、結果的に、広い周波数引き込み範囲において、迅速に、サンプリングクロックの位相補正を行うことができる。
【0020】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るPLL回路において、前記位相補正回路は、前記周波数誤差検出回路にて検出された周波数誤差が所定の閾値を超える場合に、前記位相調整回路に対する前記位相誤差の供給を遮断することを特徴とする。
【0021】
この態様によれば、たとえば位相反転時等に生じる不安定な位相誤差量が位相調整回路に供給されるのを回避することができ、かかる不安定な位相誤差量によって位相制御に乱れが生じるのを防ぐことができる。その結果、サンプリングクロックの安定化を図ることができる。
【0022】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るPLL回路において、前記位相補正回路は、前記周波数誤差検出回路にて検出された周波数誤差を抑制するための位相調整信号を生成して前記位相調整回路に供給し、前記位相調整回路は、前記位相誤差検出回路によって検出された位相誤差と前記位相補正回路にて生成された前記位相調整信号とに基づいて、前記サンプリングクロックの位相を調整することを特徴とする。
【0023】
この態様によれば、周波数誤差に応じた位相調整信号が位相調整回路に供給されてサンプリングクロックの位相が調整されるため、サンプリングクロックを所定の周波数に迅速かつ円滑に引き込むことができる。
【0024】
本発明の第4の態様は、第3の態様に係るPLL回路において、前記位相補正回路は、前記周波数誤差検出回路にて検出された周波数誤差が所定の閾値を超える場合に、前記位相調整回路に対する前記位相調整信号の供給を遮断することを特徴とする。
【0025】
この態様によれば、たとえば位相反転時等に生じる不安定な位相誤差量から生成された位相調整信号が位相調整回路に供給されるのを回避することができ、かかる不安定な位相調整信号によって位相制御に乱れが生じるのを防ぐことができる。その結果、サンプリングクロックの安定化と円滑な周波数引き込みを実現することができる。
【0026】
本発明の第5の態様に係る光ディスク装置は、上記第1ないし第4の態様の何れかに係るPLL回路と、ディスクから信号を読み出すピックアップ装置と、前記信号を演算処理して再生信号を生成する演算回路と、前記再生信号を前記サンプリングクロックに応じてサンプリングしてデジタル信号を出力するAD変換回路とを備える。本態様によれば、上記第1ないし第4の態様と同様の効果が奏され得る。
【発明の効果】
【0027】
以上のとおり本発明によれば、簡易な演算処理にて、適時かつ迅速に、周波数誤差を検出でき、これにより、サンプリングクロックの位相誤差を円滑に補正できるPLL回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。本実施の形態は、光ディスク装置に搭載されるPLL回路に本発明を適用したものである。
【0029】
図1に、本実施の形態に係るPLL回路の構成を示す。なお、同図には、PLL回路の他、ディスクの再生に関連する回路部が併せて図示されている。本実施の形態に係るPLL回路は、位相比較器110と、セレクタ111と、LPF(ループフィルタ)112と、VCO113と、スイッチング回路114と、遅延回路115、118と、減算回路116、119と、傾き値算出回路117、120と、制御回路121とを備えている。この他、光ディスク装置は、再生系として、光ピックアップ101と、信号演算回路102と、AD変換回路103と、イコライザ104と、ビタビデコーダ105とを備えている。
【0030】
光ピックアップ101は、ディスクにレーザ光を照射するとともに、ディスクからの反射光を受光してデータの読み取りを行う。信号演算回路102は、光ピックアップ101から供給される検出信号(センサ信号)を演算処理して再生信号(再生RF信号)を生成し、生成した再生信号をAD変換回路103に出力する。AD変換回路103は、VCOから供給されるサンプリングクロックに応じたタイミングにて再生RF信号をサンプリングし、サンプル値をデジタルデータ(サンプルデータ)に変換してイコライザ104と位相比較器110に出力する。
【0031】
イコライザ104は、ADC103から供給されるデータに対して波形等化処理を施してビタビデコーダ105に出力する。ビタビデコーダ105は、イコライザ104から入力されるデジタルデータにビタビ復号処理を施して1、0の2値化データを生成出力する。生成された2値化データは、後段回路にて復調および誤り訂正処理され再生データとされる。
【0032】
位相比較器110は、AD変換回路103から供給されたサンプルデータに基づいて、上記図9を参照して説明した如く、再生信号に対するサンプリングクロックの位相誤差量(ΔP)を検出し、検出した位相誤差量(ΔP)をセレクタ111とスイッチング回路114に出力する。また、位相比較器110は、たとえば、エッジを挟む前後のサンプルデータの極性に基づいて、位相誤差量(ΔP)が、再生信号の立ち上がり時と立下り時の何れにおいて検出したものであるかを示す信号をスイッチング回路114に出力する。
【0033】
セレクタ111は、制御回路121から制御信号が印加されていないときは、位相比較回路110から入力される位相誤差量(ΔP)をLPF112に出力し、制御回路121から制御信号が印加されたときは、グランド電位に対応する信号をLPF112に出力する。LPF112は、セレクタ111から入力された位相誤差量(ΔP)またはグランド電位を積分し、積分値をVCO113に出力する。VCO113は、LPF112から供給された積分値に応じて、位相誤差量(ΔP)を補償するようサンプリングクロックの周期を調整し、調整後のサンプリングクロックをAD変換回路103に供給する。
【0034】
スイッチング回路114は、2つの切り替えスイッチ114a、114bを備える。スイッチング114は、位相比較器110から入力された位相誤差量(ΔP)が再生信号の立ち上がり時によって検出されたものであるときは、当該位相誤差量(ΔP)を、切り替えスイッチ114aを介して遅延回路115と減算回路116に供給し、入力された位相誤差量(ΔP)が再生信号の立ち下がり時によって検出されたものであるときは、当該位相誤差量(ΔP)を、切り替えスイッチ114bを介して遅延回路118と減算回路120に供給する。
【0035】
減算回路116は、切り替えスイッチ114aから入力された位相誤差量(ΔP)と、当該位相誤差量(ΔP)よりも1回前に切り替えスイッチ114aから入力された位相誤差量(ΔP)、すなわち、遅延回路115から入力される遅延誤差量(ΔP)とを減算し、減算結果を傾き値算出回路117に出力する。傾き値算出回路117は、入力された減算結果をもとに、図11を参照して説明した如くして、時間軸上における位相誤差量(ΔP)の変化傾向を示す傾きKpを算出する。
【0036】
減算回路119は、切り替えスイッチ114bから入力された位相誤差量(ΔP)と、当該位相誤差量(ΔP)よりも1回前に切り替えスイッチ114bから入力された位相誤差量(ΔP)、すなわち、遅延回路118から入力される遅延誤差量(ΔP)とを減算し、減算結果を傾き値算出回路120に出力する。傾き値算出回路120は、入力された減算結果をもとに、図11を参照して説明した如くして、時間軸上における位相誤差量(ΔP)の変化傾向を示す傾きKnを算出する。
【0037】
図2は、上記傾きKp、Knの算出例を示す図である。なお、同図には、便宜上、上記図12の場合と同様、ディスクに対する記録条件との関係から時間軸上において位相誤差量が離散的に現れた場合の傾き値Kp、Knの算出例が示されている。
【0038】
上記の如く、傾き値Kpは、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)について算出される。このため、傾き値Kpは、同図(a)に示す如く、位相比較器110から出力される一連の位相誤差量(ΔP)のうち、時間軸上に一つ置きに現れる位相誤差量(ΔP)を結ぶ直線の傾きとなる。なお、同図(a)において、塗りつぶされた丸は、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)を示しており、破線の丸は、再生信号の立ち下がり時に検出された位相誤差量(ΔP)を示している。すなわち、傾き値Kpは、再生信号の立ち上がり時に検出された2つの位相誤差量(ΔP)を結ぶ直線の傾きとなる。
【0039】
同様に、傾き値Knもまた、同図(b)に示す如く、時間軸上に一つ置きに現れる位相誤差量(ΔP)を結ぶ直線の傾きとして算出される。同図(b)において、塗りつぶされた丸は、再生信号の立ち下がり時に検出された位相誤差量(ΔP)を示しており、破線の丸は、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)を示している。すなわち、傾き値Knは、再生信号の立ち下がり時に検出された2つの位相誤差量(ΔP)を結ぶ直線の傾きとなる。
【0040】
こうして求めた傾き値Kp、Knは、以下のとおり、サンプリングクロックの周波数誤差に略対応するものとなる。
【0041】
ディスクに対して比較的高いパワーで記録が行われたような場合には、記録マークの形成状態に起因して、再生信号の立ち上がりが、立ち下がりに比べてかなり急峻となる。この場合、立ち上がり時に再生信号がゼロレベルとクロスするタイミング(エッジ)と立下り時に再生信号がゼロレベルとクロスするタイミング(エッジ)との間には、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向の相違に起因して位相ずれが生じる。このため、連続する2つの位相誤差量(ΔP)、すなわち、立ち上がり時の位相誤差量と立下り時の位相誤差量から傾きを求めると、求めた傾きは、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向の相違に起因する位相ずれを含むものとなり、結果、図12(a)、(b)に示すように不適正なものとなる。
【0042】
これに対し、図2(a)のように、立ち上がり時に検出された2つの位相誤差量(ΔP)から傾き値Kpを求めると、これら位相誤差量には、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向の相違に起因する位相ずれが含まれることはないため、求めた傾き値Kpは、サンプリングクロックの周波数誤差(図中の傾き値K0)に略対応するものとなる。同様に、図2(b)のように、立ち下がり時に検出された2つの位相誤差量(ΔP)から傾き値Knを求める場合も、これら位相誤差量には、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向の相違に起因する位相ずれが含まれないため、求めた傾き値Kpは、サンプリングクロックの周波数誤差(図中の傾き値K0)に略対応するものとなる。
【0043】
以上の理由から、傾き値算出回路117、120にて算出された傾き値Kp、Knは、サンプリングクロックの周波数誤差に略対応するものとなる。
【0044】
図1に戻り、制御回路121は、傾き値算出回路117、120から入力された傾き値Kp、Knに基づいて、セレクタ111を制御する。図3は、制御回路121の構成を示す図である。制御回路121は、絶対値算出回路121a、121cと、比較回路121b、121dと、OR回路121eを備えている。
【0045】
絶対値算出回路121a、121cは、傾き値算出回路117、120にて算出された傾き値Kp、Knの絶対値を求める。比較回路121b、121dは、絶対値算出回路121a、121cから入力された傾き値Kp、Knの絶対値と閾値Ks1、Ks2を比較し、傾き値Kp、Knの絶対値が閾値Ks1、Ks2を超えたときに検出信号を出力する。OR回路121eは、比較回路121b、121dの少なくとも何れか一方から検出信号が入力されたときセレクタ111に制御信号を出力する。
【0046】
こうして、制御回路121は、傾き値Kp、Ksのうち、少なくとも何れか一方の絶対値が閾値Ks1,Ks2を超えるまで大きくなったとき、すなわち傾き値Kp、Ksが異常な大きさになったときに、制御信号をセレクタ111に出力する。セレクタ111は、かかる制御信号の入力に応じて、位相比較器110からの位相誤差量(ΔP)がLPF112に入力されるのを遮断し、これに替えて、グランド電位に対応する信号をLPF112に供給する。
【0047】
このように制御することにより、たとえば、図2のT、2Tのタイミング、すなわち位相反転時の不安定な位相誤差量がLPF112に入力されるのが回避される。したがって、傾き値Kp、Ksが異常な大きさにあるときの不安定な位相誤差量によってVCO113が過度応答するのが回避され、安定したサンプリングクロックがVCO113からAD変換回路103に供給される。
【0048】
以上のとおり、本実施の形態によれば、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)に基づいて検出された傾き値Kp(周波数誤差)と再生信号の立ち下がり時に検出された位相誤差量(ΔP)に基づいて検出された傾き値Kn(周波数誤差)の何れか一方が異常であるときは、LPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給が遮断されるため、安定したサンプリングクロックをAD変換回路103に供給することができる。
【0049】
しかも、傾き値Kp(周波数誤差)は、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)に基づいて算出され、また、傾き値Kn(周波数誤差)は、再生信号の立ち下がり時に検出された位相誤差量(ΔP)に基づいて算出されるため、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違するような場合にも、傾き値Kp、Knを精度良く算出することができる。
【0050】
よって、本実施の形態によれば、精度の高い傾き値(周波数誤差)に基づいてサンプリングクロックの位相誤差補正を行うことができ、結果的に、広い周波数引き込み範囲において、迅速に、サンプリングクロックの位相補正を行うことができる。
【0051】
<変更例1>
上記実施の形態では、傾き値Kp、Knに基づいてLPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給を制御するようにしたが、これに加えて、図4のように、傾き値Kp、Kn(周波数誤差)に基づいて、周波数誤差を調整するため制御量Cp、Cnを生成し、これら制御量Cp、Cnをもとに、サンプリングクロックの位相を調整するようにしても良い。
【0052】
すなわち、図4の構成では、図1の構成に比べて、制御量生成回路131、132と、ゲート回路133と、セレクタ134と、LPF(ループフィルタ)135と、加算回路136を備えている。
【0053】
制御量生成回路131、132は、傾き値算出回路117、120から入力された傾き値Kp、Knをもとに周波数誤差量(ΔF)を求め、求めた周波数誤差量(ΔF)に応じた制御量(位相調整量)Cp、Cnをそれぞれゲート回路133に出力する。ゲート回路133は、入力された制御量(位相調整量)Cp、Cnをセレクタ134に出力する。セレクタ134は、制御回路121から制御信号が印加されていないときは、ゲート回路133から入力される制御量(位相調整量)Cp、CnをLPF135に出力し、制御回路121から制御信号が印加されたときは、グランド電位に対応する信号をLPF135に出力する。
【0054】
LPF135は、セレクタ134から入力された制御量(位相調整量)Cp、Cnまたはグランド電位を積分し、積分値を加算回路136に出力する。加算回路136は、LPF112、135から入力されたそれぞれの積分値を加算してVCO113に供給する。VCO113は、加算回路136から供給された積分値に応じて、周波数誤差量(ΔF)と位相誤差量(ΔP)を補償するようサンプリングクロックの周期を調整し、調整後のサンプリングクロックをAD変換回路103に供給する。
【0055】
この変更例によれば、周波数誤差に応じてサンプリングクロックの位相が補正されるため、サンプリングクロックを所定の周波数に迅速に引き込むことができる。
【0056】
さらに、この変更例では、制御回路121からの制御信号に応じて、セレクタ134により、LPF135に対する制御量Cp、Cnの供給/遮断が制御されるため、たとえば、図2のT、2Tのタイミング、すなわち位相反転時の不安定な位相誤差量に基づく制御量Cp、CnがLPF135に入力されるのが回避される。したがって、傾き値Kp、Ksが異常な大きさにあるときの不安定な制御量Cp,CnによってVCO113が過度応答するのが回避され、結果、サンプリングクロックを所定の周波数に円滑に引き込むことができ、また、VCO113からAD変換回路103に供給されるサンプリングクロックを安定化させることができる。
【0057】
<変更例2>
上記実施の形態では、再生信号の立ち上がり時に検出された傾き値Kpと立ち下がり時に検出された傾き値Knの両方に基づいて、LPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給/遮断を制御するようにしたが、傾き値Kp、Knの何れか一方のみに基づいてLPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給/遮断を制御するようにしても良い。
【0058】
図5は、傾き値Kpのみに基づいてLPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給/遮断を制御する場合の構成を示す図である。この場合、制御回路141は、図3中、傾き値Kpに関する部分、すなわち、絶対値算出回路121aと比較回路121bから構成され、比較回路121bからの信号がセレクタ111に供給される。
【0059】
この構成においても、傾き値Kp(周波数誤差)は、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)に基づいて算出されるため、上記実施の形態と同様、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違するような場合にも、傾き値Kpを精度良く算出することができ、よって、精度の高い傾き値(周波数誤差)に基づいてサンプリングクロックの位相誤差補正を行うことができる。
【0060】
なお、図5では、傾き値Kpのみに基づいてLPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給/遮断を制御するようにしたが、同様に、傾き値Knのみに基づいてLPF112に対する位相誤差量(ΔP)の供給/遮断を制御するように構成することもできる。この場合も、図5の場合と同様、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違するような場合にも、傾き値Kpを精度良く算出することができ、サンプリングクロックの位相誤差補正を円滑かつ適正に行うことができる。
【0061】
<変更例3>
上記変更例2(図5)では、再生信号の立ち上がり時に検出された傾き値Kpと立ち下がり時に検出された傾き値Knの両方からそれぞれ制御量Cp、Cnを求め、これら制御量Cp、Cnに基づいて、サンプリングクロックの周波数補正を行うようにしたが、傾き値Kp、Knの何れか一方のみに基づいて、サンプリングクロックの周波数補正を行うようにしても良い。
【0062】
図6は、傾き値Kpのみから制御量Cpを生成し、この制御量Cpに基づいて、サンプリングクロックの周波数補正を行う場合の構成を示す図である。この場合も、変更例2と同様、制御回路141は、図3中、傾き値Kpに関する部分、すなわち、絶対値算出回路121aと比較回路121bから構成され、比較回路121bからの信号がセレクタ111、134に供給される。
【0063】
この構成においても、傾き値Kp(周波数誤差)は、再生信号の立ち上がり時に検出された位相誤差量(ΔP)に基づいて算出されるため、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違するような場合にも、傾き値Kpを精度良く算出することができ、よって、制御量Cpも精度の高いものとすることができる。その結果、サンプリングクロックの周波数引き込みを円滑かつ適正に行うことができる。
【0064】
なお、図6では、傾き値Kpと制御量Cpを求める回路系(切り替えスイッチ114a〜傾き値算出回路117、制御量算出回路131)のみを有する構成としたが、図4の構成において、傾き値Kpと制御量Cpを求める回路系(切り替えスイッチ114a〜傾き値算出回路117、制御量算出回路131)を省略し、傾き値Knと制御量Cnを求める回路系(切り替えスイッチ114b〜傾き値算出回路120、制御量算出回路132)の方を有する構成とすることもできる。この場合も、図6の場合と同様、再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違するような場合にも、傾き値Knと制御量Cnを精度良く算出することができ、サンプリングクロックの位相誤差補正および周波数補正を円滑かつ適正に行うことができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態および変更例について説明したが、本発明は、これらに何ら制限されるものではなく、また、本発明の実施形態も、上記以外に種々の変更が可能である。
【0066】
たとえば、上記実施の形態では、光ディスク装置に搭載されるPLL回路に本発明を適用したものであったが、光磁気ディスク装置や磁気ディスク装置等、他の再生装置に本発明を適用することも勿論可能である。
【0067】
また、上記実施の形態では、たとえば図9に示すように、サンプリングタイミングとエッジとの間のずれを位相差(ΔP)としたが、たとえば、図7に示すように、2つのサンプルタイミングの中間のタイミング(中間タイミング)とエッジとの間のずれから位相差(ΔP)を求める場合にも本発明を適用可能である。図7の場合、中間タイミングとエッジとが一致するときに位相誤差量(ΔP)がゼロとなる。
【0068】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態に係るPLL回路の構成を示す図
【図2】実施の形態に係る傾き値Kp、Knの算出例を示す図
【図3】実施の形態に係る制御回路の構成例を示す図
【図4】変更例1に係るPLL回路の構成を示す図
【図5】変更例2に係るPLL回路の構成を示す図
【図6】変更例3に係るPLL回路の構成を示す図
【図7】PLL回路における位相差の求め方の一例を示す図
【図8】PLL回路の一般的な構成例を示す図
【図9】PLL回路における位相差の求め方の一例を示す図
【図10】サンプルデータと周波数誤差の関係を模式的に示す図
【図11】位相誤差と周波数誤差の関係を模式的に示す図
【図12】再生信号の立ち上がり傾向と立ち下がり傾向が相違する場合の問題を説明する図
【符号の説明】
【0070】
101 光ピックアップ
102 信号演算回路
103 ADコンバータ
110 位相比較器
111 セレクタ
112 LPF
113 VCO
114 スイッチング回路
115 遅延回路
116 減算回路
117 傾き値算出回路
118 遅延回路
119 減算回路
120 傾き値算出回路
121 制御回路
131 制御量算出回路
132 制御量算出回路
133 ゲート回路
134 セレクタ
135 LPF
136 加算回路
141 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号に同期したサンプリングクロックを、前記アナログ信号に対するサンプルデータの取得タイミングとして供給するPLL回路において、
前記アナログ信号がゼロレベルにクロスするゼロクロスタイミングと前記サンプリングクロックによる前記サンプルデータの取得タイミングとに基づいて、前記アナログ信号に対する前記サンプリングクロックの位相誤差を検出する位相誤差検出回路と、
前記位相誤差検出回路によって検出された位相誤差に基づいて前記サンプリングクロックの位相を調整する位相調整回路と、
時間軸上における前記位相誤差の推移から前記サンプリングクロックの周波数誤差を検出する周波数誤差検出回路と、
前記周波数誤差検出回路によって検出された周波数誤差に基づいて前記位相調整回路における位相調整を補正する位相補正回路とを備え、
前記周波数誤差検出回路は、
前記アナログ信号の立ち上がり時における前記ゼロクロスタイミングについて検出された前記位相誤差から前記周波数誤差を検出する第1の周波数誤差検出部と、前記アナログ信号の立ち下がり時における前記ゼロクロスタイミングについて検出された前記位相誤差から前記周波数誤差を検出する第2の周波数誤差検出部の双方または何れか一方を備える、
ことを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記位相補正回路は、前記周波数誤差検出回路にて検出された周波数誤差が所定の閾値を超える場合に、前記位相調整回路に対する前記位相誤差の供給を遮断する、
ことを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記位相補正回路は、前記周波数誤差検出回路にて検出された周波数誤差を抑制するための位相調整信号を生成して前記位相調整回路に供給し、
前記位相調整回路は、前記位相誤差検出回路によって検出された位相誤差と前記位相補正回路にて生成された前記位相調整信号とに基づいて、前記サンプリングクロックの位相を調整する、
ことを特徴とするPLL回路。
【請求項4】
請求項3において、
前記位相補正回路は、前記周波数誤差検出回路にて検出された周波数誤差が所定の閾値を超える場合に、前記位相調整回路に対する前記位相調整信号の供給を遮断する、
ことを特徴とするPLL回路。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載のPLL回路と、
ディスクから信号を読み出すピックアップ装置と、
前記信号を演算処理して再生信号を生成する演算回路と、
前記再生信号を前記サンプリングクロックに応じてサンプリングしてデジタル信号を出力するAD変換回路と、
を備えるディスク再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−245468(P2009−245468A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87057(P2008−87057)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】