PLL回路及びそれを用いた周波数設定回路
【課題】ループフィルタ出力での基準周波数成分を十分に落とせ、かつ、PLLループ内の位相余裕を確保できるPLL回路の提供。
【解決手段】本発明のPLL回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(VCOまたはICO)13からの出力信号が高域通過フィルタ(HPF)14を介して位相検波器11の一方の入力端子に入力され、位相比較器11の他方の入力端子には基準周波数が入力され、前記位相比較器11の出力信号はループフィルタ12を介して、その直流成分を前記電気信号として周波数発振器13を制御する。
【解決手段】本発明のPLL回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(VCOまたはICO)13からの出力信号が高域通過フィルタ(HPF)14を介して位相検波器11の一方の入力端子に入力され、位相比較器11の他方の入力端子には基準周波数が入力され、前記位相比較器11の出力信号はループフィルタ12を介して、その直流成分を前記電気信号として周波数発振器13を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路とそれを用いたフィルタ回路の周波数設定回路に関し、特に、半導体集積回路上に形成されるPLL回路とそれを用いたOTA(operational transcondactance amplifier)と容量から構成されるgm−Cフィルタ回路の周波数設定回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来のPLL回路を示す。典型的なPLL回路は、3つのファンクション・ブロックから構成される。すなわち、電圧制御周波数発振器(VCO:voltage-controlled oscillator)203、位相検波器(PD:phase detector)201、ループフィルタ(LP:loop filter)202である。
【0003】
位相検波器(PD)201は電圧制御周波数発振器(VCO)203の出力と入力信号の位相差を検出し、位相誤差に比例する信号を生成する。位相検波器(PD:phase detector)は、位相検出器あるいは位相比較器ともいう。
【0004】
位相検波器(PD)201の出力には直流成分と交流成分が含まれる。ここで直流成分は蓄積され、交流成分はループフィルタ(LP)202で取り除かれる。
【0005】
ループフィルタ(LP)202の出力は直流信号に近く、電圧制御周波数発振器(VCO)203に供給される。このほぼ直流制御電圧が、VCO203と入力信号間の位相誤差を減らす方向にVCO203の発振周波数を変化させる。
【0006】
線形PLL回路モデルは、図2のように示される。
【0007】
図2において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は次式(1)のように定義される。
【0008】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
【0009】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数He(s)は次式(2)のように定義される。
【0010】
従来、この種の電圧制御周波数発振器(VCO)、あるいは電流制御周波数発振器(ICO)を用いたPLL回路においては、電圧制御周波数発振器(VCO)、あるいは電流制御周波数発振器(ICO)で位相が90°遅れ、さらに、位相検出器の出力に挿入されるループフィルタでも位相が遅れるために、安定なPLL回路を実現するために、ループフィルタには、ラグリード(lag lead)フィルタを用いてループ内の位相余裕を持たせていた。
【0011】
PLLループは、負帰還回路であるために、ループ内での位相のズレは、−180°から180°の間に収まる必要がある。この範囲を超えると、負帰還が正帰還に変わり、PLLが組めなくなるからである。
【0012】
あるいは、ラグリード(lag lead)フィルタを、パッシブタイプ(図3(a))をアクティブタイプ(図3(b))や、あるいはアクティブPI(比例積分)フィルタ(図3(c))に変更する程度の選択しかなかった。
【0013】
しかし、実用上は交流成分を取り除きたいために、制御電圧の信号路とグランド間にループフィルタのラグリード(lag lead)フィルタに用いた容量値よりも十分に小さな容量値を追加している場合も多く見受けられる。
【0014】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0015】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、Ka=C1/C2である。
【0016】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0017】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合に、(1)式と(3)式から、H(s)は
【0018】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合に、(2)式と(3)式から、He(s)は
【0019】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(8)式と(9)式と表わされる。
【0020】
【0021】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にH(s)は
【0022】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にHe(s)は
【0023】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(12)式と(13)式と表わされる。
【0024】
【0025】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にH(s)は
【0026】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にHe(s)は
【0027】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(16)式と(17)式と表わされる。
【0028】
【0029】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0030】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0031】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであれば、(6)式、(10)式は次式で近似される。また、時定数が大きな値であり、1<<τ1であれば(14)式も次式で近似される。
【0032】
図4に、(14)式と、(6)式、(10)式の高利得ループ時の近似式である(18)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。特性(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、ダンピングファクタζの値が0.1、0.25、0.5、0.7071、1の閉ループ伝達関数H(s)の振幅特性である。なお、横軸は規格化周波数ω/ωn、縦軸は振幅値である。
【0033】
ダンピングファクタζを0.1から1まで変化されても、ω/ωn=√2 の時に、オーバーシュートしていた振幅値が全て1となっており、ω/ωn>√2の範囲では振幅値が1より小さくなっていく。
【0034】
しかし、高利得ループであっても、パッシブラグリードフィルタ、アクティブラグリードフィルタ、アクティブPIフィルタのいずれの場合においても、(7)式、(11)式、(15)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を
と近似する必要はないかもしれない。
【0035】
(7)式、(11)式、(15)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母には、s2の項の他にsの項が含まれている。
【0036】
このsの項を無視した場合に、(7)式、(11)式、(15)式で示された位相誤差伝達関数He(s) は(19)式になる。
【0037】
τ1、τ1+τ2の値が大きな値(1<<τ1、1<<τ1+τ2)であれば、sの項は無視できて(19)式で近似されるが、τ1、τ1+τ2の値が小さな値であっても、(19)式からズレるだけである。
【0038】
参考までに、図5に、(19)式で示される近似式を、位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。
【0039】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。
【0040】
また、良く知られているように、(18)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF(low pass filter)特性を持ち、(7)式、(11)式は(15)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|や(19)式で示される位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|は2次HPF(high pass filter)特性を持つ。
【0041】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。
【0042】
高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0043】
次に、従来のVCF(voltage-controlled filter)を用いたPLL回路について説明する。
【0044】
ただし、これまでVCFを用いたPLL回路の動作原理の説明が記載されたテキストを見たことはあるが、どうしてもその記載されたようには動かない。
【0045】
実際の動作に照らし合わせて、本明細書で改めて、VCFを用いたPLL回路を詳しく説明することとする(以下は本発明者による解析結果である)。
【0046】
これまでのVCFを用いたPLL回路は、図6に示される。実際には、図6において、位相器に用いている1次LPF(Phase Shifter)204は、制御電圧で周波数特性、具体的にはカットオフ周波数が可変されるから、図1に示したVCO回路と同様に、VCFを用いたPLL回路の線形モデルは、図7のように示される。
【0047】
したがって、図2の場合と同様に考えて良い。すなわち、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0048】
ここで、
Kd[V/rad]はPDの利得であり、
F(s)はループフィルタの伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はフィルタのゲインファクタである。
ただし、1次LPF204の伝達関数はK0/(s+ω0)としている。
【0049】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次式(22)のように定義される。
【0050】
従来、この種の電圧制御1次ローパスフィルタ(VCF)、あるいは電流制御1次ローパスフィルタ(ICF)を用いたPLL回路においては、電圧制御1次ローパスフィルタ(VCF)、あるいは電流制御1次ローパスフィルタ(ICF)で位相が90°遅れ、さらに、位相検出器(PD)の出力に挿入されるループフィルタ(LP)でも位相が遅れるために、安定なPLL回路を実現するために、ループフィルタにはラグリード(lag lead)フィルタを用いてループ内の位相余裕を持たせていた。
【0051】
PLLループは負帰還回路であるために、ループ内での位相のズレは−180°から180°の間に収まる必要がある。この範囲を超えると負帰還が正帰還に変わり、PLLが組めなくなるからである。
【0052】
あるいは、ラグリード(lag lead)フィルタを、パッシブタイプ(図3(a))をアクティブタイプ(図3(b))や、あるいはアクティブPIフィルタ(図3(c))に変更する程度の選択しかなかった。
【0053】
しかし、実用上は交流成分を取り除きたいために、制御電圧の信号路とグランド間にループフィルタのラグリード(lag lead)フィルタに用いた容量値よりも十分に小さな容量値を追加している場合も多く見受けられる。
【0054】
また、位相が1次ローパスフィルタで必ず0°〜90°遅れるから、0°〜90°の間の位相遅れでロックが掛かるように、PLLループを設定する必要がある。
【0055】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0056】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、Ka=C1/C2である。
【0057】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0058】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にH(s)は
【0059】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にHe(s)は
【0060】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、
と表わされる。
【0061】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にH(s)は
【0062】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にHe(s)は
【0063】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ、
と表わされる。
【0064】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にH(s)は
【0065】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にHe(s)は
【0066】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、
と表わされる。
【0067】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0068】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0069】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。
【0070】
高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(26)式、(30)式、(34)式は次式で近似される。
【0071】
図8に、(26)式、(30)式、(34)式の高利得ループ時の近似式である(38)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0072】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグリードフィルタ、アクティブラグリードフィルタ、アクティブPIフィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を
と近似することができる。
【0073】
(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0074】
このsの項を無視した場合に、(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(s) は(39)式になる。
【0075】
時定数τ1、τ1+τ2の値が大きな値(1<<τ1、1<<τ1+τ2)であれば、sの項は無視できて(39)式で近似されるが、τ1、τ1+τ2の値が小さな値であっても、(39)式からズレるだけである。
【0076】
参考までに、図9に、(39)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。
【0077】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。
【0078】
また、良く知られているように、(38)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|や(39)式で示される位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0079】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。
【0080】
高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、−3dBカットオフ周波数ω-3dBは
と求められる。
【0081】
従来、この種のPLL回路とそれを用いたgm−Cフィルタ回路の周波数設定回路は、例えば、非特許文献1(F. Krummenacher and N. Joehl, "A 4-MHz CMOS Continuous-Time Filters with On-Chip Automatic Tuning." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 750-758, June 1988.)の記載が参照される。
【0082】
非特許文献1の回路は、図10に示すように、OTAと容量で構成されたgm−Cマスタフィルタ回路301をVCO回路(gm−C VCO)としてPLL回路を組み、PD303、LPF304を介してVCO回路の出力と基準周波数fREFとの位相差に応じた直流電圧である制御電圧VCONを得て、基準周波数fREFとVCO発振周波数とが等しくなるように、VCO回路内のgm−Cマスタフィルタ回路を構成しているOTAのトランスコンダクタンスgm値を制御し、同一の制御電圧VCONでgm−Cスレーブフィルタ回路302を構成しているOTAのトランスコンダクタンスgm値を制御し、もって所定の周波数特性となるように設定している。このチューニングシステムは良く用いられている。
【0083】
図10において、VCO回路(gm−C VCO)は、2次BPF(band pass filter)回路を用いてBPF出力信号をBPF入力信号に帰還させている。したがって、VCO回路の発振周波数はBPFの中心周波数となるが、安定に発振する条件が必要であり、負性抵抗−Rを実現するための非線形抵抗を備える必要がある。
【0084】
また、条件のばらつきで発振周波数が変化することにもなり、一般にはばらつき範囲が広くなる。
【0085】
元々、gm−Cマスタフィルタ回路(gm−C VCO)301でのオシレーション機能と、gm−Cスレーブフィルタ回路(gm−Cフィルタ)302でのフィルタリング機能とは異なった現象であり、両者において一致性が高まるとは考え難い。
【0086】
したがって、gm−Cマスタフィルタ回路(gm−C VCO)301とgm−Cスレーブフィルタ回路302とをそれぞれフィルタリング機能としたら、両者における一致性が高まると考えられる。
【0087】
すなわち、非特許文献2(V. Gopinathan, Y. P. Tsividis, K.-S. Tan, and R. K. Hester, " Design Considerations for High-Frequency Continuous-Time Filters and Implementation of an Antialiasing Filter for Digital Video." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. 25, No. 6, pp. 1368-1378, Dec. 1990.) に記載されているように、PLL回路にVCFを用いるやり方である。
【0088】
その具体的な回路例として、図11に示したPLL回路を用いて、OTAと容量で構成されたgm−Cマスタフィルタ回路101を1次LPF(1次gm−C LPF)とした0°〜90°位相器として用い、XNOR(排他的否定論理和)回路105を位相検出器として、ループフィルタ(1次LPF)107を介して2つの入力信号の位相差に応じた直流電圧を得、制御電圧を可変してOTAのgm(トランスコンダクタンス)値を可変し、入力される基準周波数との位相差が0°〜90°内の設定値、例えば、本発明者と同一発明者による特許文献1(特開2005−328272号公報)では、45°とすることで、gm−Cフィルタ回路102のカットオフ周波数を所定の値に設定していた。
【0089】
これまでの従来文献においては、1次LPFを90°位相器とする記載が多く見受けられるが、良く知られているように、1次LPFでは、位相差θが理論的には90°まで至ることはなく、0°<θ<90°であるから、1次LPFを90°位相器として用いることはできないことになる。
【0090】
位相検出器を2つの入力信号の位相差に応じた信号を出力するものとする。具体的には、位相検出器を2つの入力信号の積を出力するものとすれば、乗算器を用いることもできる。しかしながら、図11に示したように、簡単なディジタル回路であるXNOR回路やXOR回路を用いることもできる。
【0091】
このように、乗算器やXOR回路やXNOR回路を用いた位相比較器の場合には、最も簡単なフェーズロックドループ(PLL)が構成でき、テキストにも載っているように、2つの入力信号の位相差が90°(π/2)の場合に、ループが引き込まれロックがかかる。
【0092】
例えば、位相比較器にXOR回路を用いた場合には、2つの入力信号の位相差が90°(π/2)となった場合に、出力信号の直流電圧がVDD/2となり、ループが引き込まれロックがかかる。
【0093】
この時には、出力信号の周波数は、2つの入力信号の周波数(互いに位相は90°違うが)の丁度2倍になっている。すなわち、位相比較器にXOR回路を用いた最も簡単なフェーズロックドループ(PLL)では、ロック時には、基準周波数との位相差は90°(π/2)だけ異なっている。
【0094】
このように、位相が90°異なるようにPLLを組む場合には、VCO回路を用いる他にも、位相が90°だけ進んだり遅れたりする位相可変素子、例えば、微分器や積分器、あるいはフィルタ等を用いることができることがわかる。
【0095】
しかし、図11においては、上述したように、1次LPF(1次gm−C LPF)101を位相器に用いているために、90°位相差を実現できない。
【0096】
したがって、OP amp(演算増幅器)108を介してループフィルタ107の出力信号を受け、OP amp108の基準電圧としては設定された位相差45°に相当する基準電圧VDD/4を印加している。
【0097】
あるいは、位相差を90°に設定したのであれば、OP ampの基準電圧としては設定された位相差90°に相当する基準電圧VDD/2を印加すべきであり、一般的なテキストにはそのように載っていることがあるが、現実には、PLLループの位相遅れが180°の範囲に入るようにすることは不可能である。
【0098】
すなわち、PLLループの位相遅れが180°を超えてしまい、負帰還ループを構成できなくなる。したがって、PLL回路を組めなくなるという不都合が生じてしまう。
【0099】
これを回避するために、本発明者と同一発明者による特許文献1(特開2005−328272号公報)では、入力される基準周波数との位相差が0°〜90°内の設定値を45°とし、位相差45°に相当する基準電圧VDD/4を印加している訳である。
【0100】
このようにすることで、図11のgm−Cフィルタ回路102のカットオフ周波数を所定の値に設定していた。
【0101】
この場合においても、gm−Cマスタフィルタ回路101を1次LPFとしているために、位相が0°〜90°だけ遅れる。
【0102】
したがって、PLLループの位相余裕を考慮すると、ループフィルタ107はラグリード(lag lead)フィルタとして、位相遅れが90°よりも小さくなるように設定せざるを得ない。
【0103】
このようにして位相余裕は確保されるが、振幅値で言えば、ループフィルタ107をラグリード(lag lead)フィルタとしているために高域での減衰量は2つの抵抗R1、R2(図3(a)参照)の抵抗比で決まり、基準周波数成分を十分な値まで落とすことができなかった。
【0104】
【特許文献1】特開2005−328272号公報
【特許文献2】特開2005−223439号公報
【非特許文献1】F. Krummenacher and N. Joehl, "A 4-MHz CMOS Continuous-Time Filters with On-Chip Automatic Tuning." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 750-758, June 1988.
【非特許文献2】V. Gopinathan, Y. P. Tsividis, K.-S. Tan, and R. K. Hester, "Design Considerations for High-Frequency Continuous-Time Filters and Implementation of an Antialiasing Filter for Digital Video." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. 25, No. 6, pp. 1368-1378, Dec. 1990.
【非特許文献3】K. Bult and H. W. Wallinga, "A CMOS Analog Continuous-Time Delay Line with Adaptive Delay-Time Control." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 759-766, June 1988.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0105】
上記した従来の回路は、下記記載の問題点を有している。
【0106】
第1の問題点は、基準周波数成分を十分な値まで落とすことができなかった。
【0107】
その理由は、ラグリード(lag lead)フィルタを用いていたためである。
【0108】
第2の問題点は、PLLループ内の位相余裕が少なかった。
【0109】
その理由は、VCOや位相器でそれぞれ90°づつ位相が廻ってしまうからである。
【0110】
本発明はこれに鑑み、ループフィルタ出力での基準周波数成分を十分に落とせ、かつ、PLLループ内の位相余裕を確保できる、PLL回路とそれを用いた周波数設定回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0111】
本発明によるPLL回路及びそれを用いた周波数設定回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(VCOまたはICO)からの出力信号が高域通過フィルタ(HPF)を介して位相検波器の一方の入力端子に入力され、前記位相比較器の他方の入力端子には基準周波数が入力され、前記位相比較器の出力信号はループフィルタを介して、その直流成分を前記電気信号として前記周波数発振器を制御する。
【0112】
あるいは、本発明においては、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(VCOまたはICO)からの出力信号の逆相が生成され、さらに遅延回路を介して位相比較器の一方の入力端子に入力され、前記位相検波器の他方の入力端子には基準周波数が入力され、前記位相比較器の出力信号はループフィルタを介して、その直流成分を前記電気信号として前記周波数発振器を制御する。
【0113】
あるいは、本発明においては、前記周波数発振器と前記位相検波器との間に分周回路が挿入される。
【0114】
あるいは、本発明においては、前記周波数発振器が複数個のOTAと容量から構成される。
【0115】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0116】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧を増幅する増幅器を介して出力電圧を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0117】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧がV-I変換器により電圧が電流に変換され、前記V-I変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0118】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧を増幅する増幅器を介してV-I変換器により電圧が電流に変換され、前記V-I変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0119】
あるいは、本発明においては、位相器は2次の高域通過フィルタ(HPF)からなる。
【0120】
あるいは、本発明においては、位相器は1次の高域通過フィルタ(HPF)からなる。
【0121】
あるいは、本発明においては、ループフィルタがRC1次低域通過フィルタ(LPF)から構成される。あるいは、本発明においては、ループフィルタがラグリードフィルタとRC1次低域通過フィルタ(LPF)がカスケード接続された2次LPFから構成される。
【0122】
あるいは、本発明においては、前記PLL回路からの制御信号により共通に制御されるOTAを有するgm−Cフィルタを持つ。
【発明の効果】
【0123】
本発明の第1の効果は、基準周波数成分を十分に取り除くことができる、ということである。その理由は、本発明においては、ラグリードフィルタを用いなくて良いからである。
【0124】
本発明の第2の効果は、ループが安定である、ということである。その理由は、本発明においては、90°分の位相遅れを相殺しているためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0125】
上記した本発明についてさらに詳細に説述すべく添付図面を参照して説明する。本発明の1つのアスペクト(側面)においてPLL回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(13)と、該周波数発振器からの出力信号を入力する高域通過フィルタ(HPF)(1次HPF14/2次HPF15)と、該高域通過フィルタ(HPF)の出力(u0(t))を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数(ui(t))を入力する位相比較器(位相検波器)(11)と、該位相比較器の出力信号(ud(t))を入力するループフィルタ(12)と、該ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として該周波数発振器(13)に供給される(図12/図17参照)。
【0126】
本発明の他のアスペクトにおいてPLL回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(13)と、該周波数発振器からの出力信号の逆相信号を遅延させる遅延回路(17)と、該遅延回路の出力を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数を入力する位相比較器(11)と、該位相比較器の出力信号を入力するループフィルタ(12)と、該ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として周波数発振器(13)に供給される(図22参照)。
【0127】
本発明においては、周波数発振器(13)と位相比較器(11)との間に分周回路(18)を備えている(図23参照)。
【0128】
本発明の他のアスペクトにおいてPLL回路は、複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器(phase shifter)(23/24)と、該位相器(23/24)への入力信号と該位相器(23/24)からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器(21)と、該位相比較器(21)の出力信号を入力するループフィルタ(22)と、を有し、該ループフィルタの出力信号の直流電圧を制御信号として位相器(23/24)を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで位相器(23/24)での位相差が一定値になるように制御し、位相器(23/24)での位相が進む(図25/図29参照)。
【0129】
本発明の他のアスペクトにおいて、PLL回路は、複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器(51)と、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器(53、54、55、56)と、前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタ(57)と、を備え、前記ループフィルタからの直流電圧を増幅する増幅器(58)を介して出力電圧を制御信号として、前記位相器(51)を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、前記位相器(51)での位相が進む(図35参照)。前記ループフィルタからの直流電圧は、電圧−電流(V−I)変換器により電流に変換し、前記電圧−電流変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有する構成としてもよい。
【0130】
本発明のPLL回路とそれを用いた周波数設定回路によれば、ループフィルタ出力での基準周波数成分を十分に落とせ、かつ、PLLループ内の位相余裕を確保できる。位相器として用いる1次gm−Cハイパスフィルタの位相量がトランジスタの製造バラツキや温度特性、容量値の製造バラツキがあっても一定値となり、結果、位相器として用いる1次gm−Cハイパスフィルタのカットオフ周波数を一定周波数に設定でき、同一の制御信号で制御することでgm−Cフィルタのカットオフ周波数もトランジスタの製造バラツキや温度特性、容量値の製造バラツキがあっても一定となる。
【実施例】
【0131】
<実施例1>
図12を参照すると、本発明の実施の形態は、VCO回路13の出力に1次HPF14を挿入している。VCO回路13においては、発振周波数はほぼ正弦波となっている。なぜなら、発振器においては発振周波数のスペクトラムが単一になるように高Q化されており、出力波には小さな値の高調波成分しか含まれない。
【0132】
したがって、正弦波であれば1次HPF14を通して微分してもパルス成分が現れる訳でもなく、位相が90°進んだ正弦波となる。
【0133】
この後に矩形波として、矩形波化された基準周波数とで位相を比較しても、位相比較器11の2つの入力端子には区別が付かないから、従来回路で用いた位相比較器をそのまま用いることができる。
【0134】
ただし、VCO13では位相が90°遅れるから、VCO出力に1次HPF14を挿入することでこの位相遅れを相殺できる。
【0135】
この時に、VCO13と1次HPF14を一体化された発振器と見なせば、位相が90°進む発振波を出力していることになる。
【0136】
すなわち、PLLループとしてはループフィルタ12での位相遅れだけになる。
【0137】
したがって、ループフィルタ12を1次LPF(RCフィルタ)として90°の位相遅れが生じても、−180°〜180°の位相範囲内に止めることができる。すなわち、ラグリードフィルタにする必要がない。
【0138】
図12において、位相検波器(PD:Phase detector)11には、基準周波数ui(t)と1次HPF14の出力u0(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)はループフィルタ12に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力される。VCO13の出力は1次HPF14に入力され、1次HPF14からu0(t)が出力される。
【0139】
本実施例の動作を説明する。図12において、位相検波器(Phase detector)11には基準周波数ui(t)と1次HPF14の出力u0(t)が入力され、両者の位相差が検出される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)には位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ12に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力され、VCO13の発振周波数と基準周波数の位相が等しくなるように制御される。
【0140】
さらに、VCO13の出力は1次HPF14に入力され、位相が90°進んだu0(t)として出力される。例えば、1次HPF14は、簡単には容量Cと抵抗Rとで実現できる。例えば1次HPF14は、図14(a)において、抵抗Rと容量Cとを入れ替えることで構成される。
【0141】
図12に示したPLL回路は、図13に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図13において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0142】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPFの伝達関数である。
【0143】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次のように定義される。
【0144】
ここで、挿入される1次HPFの伝達関数G(s)は
となる。
【0145】
本実施例では、ループフィルタ12にはRC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0146】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0147】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0148】
図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0149】
位相誤差伝達関数He(s)は、
【0150】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(49)、(50)と表わされる。
【0151】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にH(s)は
【0152】
He(s)は
【0153】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(53)、(554)と表わされる。
【0154】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にH(s)は
【0155】
He(s)は
【0156】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(57)、(58)と表わされる。
【0157】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0158】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0159】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(47)式、(51)式は(55)式に近似され、いずれの場合においても、次式で近似される。
【0160】
図15に、(47)式、(51)式、(55)式の時定数が大きい場合の近似式である(59)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0161】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、ω0<<τであるから、(48)式、(51)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を(55)式に近似することができ、次式で示される。
【0162】
(48)式、(51)式、(55)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0163】
参考までに、図16に、(60)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0164】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(59)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(47)式、(51)式、(55)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|や(60)式で示される位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0165】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0166】
ここで留意すべき点は、PLLが高利得ループであっても低利得ループであっても、PLL回路の閉ループ伝達関数も位相誤差伝達関数も変化しないということである。したがって、PLLは追従性を良くするために十分なだけの高利得ループであれば良い。
【0167】
ここで留意すべき点は、(55)式で示されるアクティブ反転積分型フィルタをループフィルタに用いた場合の閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(56)式で示されるアクティブ反転積分型フィルタをループフィルタに用いた場合の位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合(ループフィルタにアクティブPIフィルタを用いた場合)の関係と逆転していることである。
【0168】
さらに付け加えると、従来のVCOを用いたPLL回路の場合には、位相誤差伝達関数の分母にはsの項が存在していたから、減衰域ではバラついて、その振幅特性は、図5に示したそれよりも、図15に示した方に近いこともあり得る。
【0169】
また、ダンピングファクタζの値は従来のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=0.7071(=1/√2)であったが、本実施例のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=5に設定すると、ω/ωnが0.6を超えると制御電圧の誤差は±1%以下に収まるようになる。
【0170】
ただし、ダンピングファクタζの値を大きな値に設定しても制御電圧の最大の値が所定の値を多少とも超え、制御電圧の最大の値が所定の値より小さな値を取ることはない。すなわち、本発明のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζをこれまでのダンピングファクタとして定義することは不適当である。
【0171】
<実施例2>
負帰還ループが維持されるためには、−180°〜180°の位相範囲に入っていれば良い訳であるから、−180°〜0°の位相範囲を活用して、VCOの出力に2次HPFを挿入することも考えられる。寄生容量等の影響では信号の位相は遅れる方向にしか現れないであろうから、2次HPFを挿入しても−180°に対する位相余裕は確保できよう。
【0172】
図17は、本発明の第2の実施例として、VCO13の出力に2次HPF15を挿入した構成のPLL回路を示している。
【0173】
図17において、位相検波器(Phase detector)11には基準周波数ui(t)と2次HPF15の出力u0(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)はループフィルタ12に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力される。VCO13の出力は2次HPF15に入力され、2次HPF15からu0(t)が出力される。
【0174】
本実施例の動作を説明する。図17において、位相検波器(Phase detector)11には基準周波数Ui(t)と2次HPF15の出力u0(t)が入力され、両者の位相差が検出される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)には位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ12に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力され、VCO13の発振周波数と基準周波数の位相が等しくなるように制御される。
【0175】
さらに、VCO13の出力は2次HPF15に入力され、位相が180°進んだu0(t)として出力される。
【0176】
図17に示したPLL回路は、図18に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図18において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0177】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPFの伝達関数である。
【0178】
HPFが1次HPFの場合に、伝達関数G(s)は
となる。
【0179】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数He(s)は次のように定義される。
【0180】
本実施例ではループフィルタ12には、RC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0181】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0182】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0183】
図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0184】
(68)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0185】
同様に、He(s)は
【0186】
(70)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0187】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(72)、(73)式と表わされる。
【0188】
【0189】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0190】
(74)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0191】
同様に、He(s)は
【0192】
(76)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0193】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(78)、(79)式と表わされる。
【0194】
【0195】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0196】
He(s)は
【0197】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(78)、(79)式と表わされる。
【0198】
【0199】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0200】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(69)式、(75)式、(80)式は次式で近似される。
【0201】
図19に、(69)式、(75)式、(80)式の時定数が大きい場合の近似式である(84)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0202】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、ω0<<τであるから、(71)式、(77)式、(81)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を次式に近似することができる。
【0203】
(71)式、(77)式、(81)式、及び、近似式である(85)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0204】
参考までに、図20に、(85)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0205】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(84)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(85)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0206】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0207】
ここで留意すべき点は、(84)式で近似される閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(85)式で近似される位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合の関係と逆転していることである。
【0208】
<実施例3>
前記実施例1及び前記実施例2では、ループフィルタに1次LPFを用いていた。しかし、PLLループとしては位相余裕が90°残っているから、1次LPFを1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続として置き換えることができる。この場合に用いるループフィルタは図21に示される。
【0209】
図21(a)の場合には
と表わされ、
となっている。
【0210】
ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0211】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ1+τ2である。
【0212】
(90)式は、前記実施例1及び前記実施例2において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0213】
同様に、図21(b)の場合には
と表わされ、
となっている。
【0214】
ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C3、Ka=C2/C3である。
【0215】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。
【0216】
ただし、τ0=τ2である。
【0217】
(94)式は、前記実施例1及び前記実施例2においてループフィルタ12(図12、図17参照)にRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0218】
同様に、図21(c)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0219】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ2である。
【0220】
(98)式は、前記実施例1及び前記実施例2において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0221】
したがって、前記実施例1及び前記実施例2において、ループフィルタ12を、1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続とすることができる。
【0222】
PLLループ内の位相を進める方法として、ループ内に1次HPFか2次HPFを挿入する方法を詳しく説明した。
【0223】
位相検波器(PD)への入力信号は矩形波で良いから、こうした方法以外にも、VCOの出力を矩形化し、逆相にして遅延回路で遅らせることでも、等価的に−180°までに相当する位相を進めることができる。
【0224】
<実施例4>
図22は、本発明の実施例4のPLL回路の構成を示す図である。図22に示すPLL回路においては、VCO13の出力を1段のインバータ回路16を介して矩形化し、さらに遅延(delay)回路17によって矩形信号を遅らせる。このことにより、等価的に−180°までに相当する位相を進めたことに相当する。
【0225】
図22において、VCO13の出力には、1段のインバータ回路16が接続され、インバータ回路16の出力信号は遅延(delay)回路17に入力され、矩形信号が遅れる。遅延(delay)回路17からの信号(矩形信号)と入力信号とが位相検波器(PD)11に入力されている。位相検波器(PD)11の出力はループフィルタ12に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力される。
【0226】
図22に示すPLL回路においては、位相検波器(PD)11の入力信号は矩形波でも動作するから、VCO13の出力を1段のインバータ回路16を介して矩形化し、さらに遅延(delay)回路17によって矩形信号を遅らせる。
【0227】
このことにより、等価的に−180°までに相当する位相を進めたことに相当する。挿入された遅延(delay)回路17の遅延(delay)量が位相余裕に相当する。
【0228】
したがって、遅延(delay)回路17の遅延(delay)量の設定は位相に換算した場合に180°を超えてはならない。遅延(delay)Dは位相θの角速度ωでの微分係数として表される。
【0229】
図22に示す例では、インバータ回路16の後段に遅延(delay)回路17を挿入しているが、挿入順は逆に、遅延(delay)回路の後段にインバータ回路を設けても良い。
【0230】
あるいは、インバータ回路16は逆相増幅器でも良い。インバータ回路16の前段に遅延(delay)回路を挿入する場合には、遅延(delay)回路はディジタル回路ではなくアナログ回路でも良いことになる。
【0231】
ディジタルの遅延(delay)回路の従来技術としては、フリップフロップを用いる例を始め多くある。アナログの遅延(delay)回路の従来技術としては、例えば、非特許文献3(K. Bult and H. W. Wallinga, "A CMOS Analog Continuous-Time Delay Line with Adaptive Delay-Time Control." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 759-766, June 1988.)に詳しい。
【0232】
<本発明の別の実施の形態>
これまでの実施例1〜4で説明したPLL回路において、位相検波器(PD)の入力に分周器を挿入することで入力信号の周波数を下げられる。
【0233】
<実施例5>
図23は、本発明の実施例5の構成を示す図である。本発明のVCOを用いたPLL回路において、分周器18を挿入すると図23のようになる。図23において、VCO13の出力に挿入される1次HPF14または2次HPF15の後に、1/n分周器18を挿入してVCO13から出力された周波数信号を分周している。この分周信号が位相検波器(PD)11の一方の入力信号となっている。したがって、位相検波器(PD)11の他方の入力信号の周波数を1/nに下げることができる。
【0234】
<実施例6>
図24は、本発明の実施例6の構成を示す図である。図22に示したVCOを用いたPLL回路において、分周器18を挿入すると図24のようになる。図24において、VCO13の出力に挿入されるインバータ16と遅延(delay)回路17の後に1/n分周器18を挿入してVCO13から出力された周波数信号を1/nに分周している。この分周信号が位相検波器(PD)11の一方の入力信号となっている。したがって、位相検波器(PD)11の他方の入力信号の周波数を1/nに下げることができる。
【0235】
図24では、インバータ回路16の後段に遅延(delay)回路17を挿入し、さらに分周器18を挿入しているが、挿入の順は、遅延(delay)回路、インバータ回路、分周器は任意に設定しても良い。インバータ回路は逆相増幅器であっても良い。また、インバータ回路の前段に遅延(delay)回路を挿入する場合には遅延(delay)回路はディジタル回路ではなくアナログ回路であっても良いことになる。
【0236】
以上は、本発明のVCOを用いたPLL回路について説明した。この本発明のVCOを用いたPLL回路のアプリケーション例として、gm−Cフィルタのチューニングシステムについて更に説明を加えたい。この従来技術としては、非特許文献1(F. Krummenacher and N. Joehl, "A 4-MHz CMOS Continuous-Time Filters with On-Chip Automatic Tuning." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 750-758, June 1988.)に詳しい。
【0237】
同様に、VCO回路の代わりにフィルタ(VCF)を用いたPLL回路においてもHPFを用いることで、ループフィルタのラグリードフィルタをRCフィルタに変更できる。
【0238】
<実施例7>
図25を参照すると、本実施例は、VCF回路を用いたPLL回路において、フィルタ回路に1次HPF23を用いている。
【0239】
1次HPF23では、位相が90°進むから、PLLループとしては、ループフィルタ22での位相遅れだけになる。
【0240】
したがって、ループフィルタ22を1次LPF(RCフィルタ)23として90°の位相遅れが生じても、−180°〜180°の位相範囲内に止めることができる。すなわち、ラグリードフィルタにする必要がない。
【0241】
図25に示したPLL回路は、図26に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。
【0242】
図25おいて、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φin(t)と1次HPF(VCF)23の出力φout(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)21の出力はループフィルタ22に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧として1次HPF(VCF)23に入力される。
【0243】
図25において、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φin(t)と1次HPF(VCF)23の出力φout(t)が入力され、両者の位相差が検出される。
【0244】
位相検波器(Phase detector)21の出力には、位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ22に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧として1次HPF(VCF)23に入力され、1次HPF(VCF)23の出力と基準周波数の位相差が一定になるように制御される。
【0245】
図25に示したPLL回路は、図26に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図26において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0246】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタの伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPFの伝達関数である。
【0247】
ただし、本実施例では、VCFに1次HPFを用いるからG(s)の伝達関数は
となる。
【0248】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次のように定義される。
【0249】
本実施例では、ループフィルタ22にはRC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0250】
ループフィルタ22が図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0251】
ループフィルタ22が図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0252】
ループフィルタ22が図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は、
【0253】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0254】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(108)、(109)式と表わされる。
【0255】
【0256】
ループフィルタ22が、図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0257】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0258】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(112)、(113)式と表わされる。
【0259】
【0260】
ループフィルタ22が図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0261】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0262】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(116)、(117)式と表わされる。
【0263】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0264】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。
【0265】
高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τであるから、(106)式、(110)式は(114)式に近似され、次式のように表される。
【0266】
図27に、(106)式、(110)式の時定数が大きい場合の近似式である(118)式に示された閉ループ伝達関数と(114)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0267】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、KdK1<<τ、ω0<<τであるから、(107)式、(111)式は(115)式で示された位相誤差伝達関数He(s)に近似することができ、次式と表わされる。
【0268】
(107)式、(111)式、(115)式、及び、近似式である(119)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0269】
参考までに、図28に、(119)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0270】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(118)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(119)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0271】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0272】
ここで留意すべき点は、(118)式で近似される閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(119)式で近似される位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合の関係と逆転していることである。
【0273】
さらに付け加えると、従来のVCOを用いたPLL回路の場合には位相誤差伝達関数の分母にはsの項が存在していたから、減衰域ではバラついて、その振幅特性は図5に示したそれよりも図28に示した方に近いこともあり得る。
【0274】
また、ダンピングファクタζの値は、従来のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=0.7071(=1/√2)であったが、本発明のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=5に設定すると、ω/ωnが0.6を超えると制御電圧の誤差は±1%以下に収まるようになる。
【0275】
ただし、ダンピングファクタζの値を大きな値に設定しても、制御電圧の最大の値が所定の値を多少とも超え、制御電圧の最大の値が所定の値より小さな値を取ることはない。すなわち、本発明のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζをこれまでのダンピングファクタとして定義することは不適当である。
【0276】
<実施例8>
負帰還ループが維持されるためには、−180°〜180°の位相範囲に入っていれば良い訳であるから、−180°〜0°の位相範囲を活用して、VCO出力に2次HPFを挿入することも考えられる。寄生容量等の影響では信号の位相は遅れる方向にしか現れないであろうから、2次HPFを挿入しても−180°に対する位相余裕は確保できよう。
【0277】
図29に、実施例8として、VCO23の出力に2次HPF24を挿入したPLL回路の構成を示す。
【0278】
図29において、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φin(t)と2次HPF24の出力φOUT(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)21の出力はループフィルタ22に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCOに入力される。ループフィルタ22の出力は2次HPF24に入力され、φOUT(t)が出力される。
【0279】
図29において、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φOUT(t)と2次HPF24の出力φOUT(t)が入力され、両者の位相差が検出される。位相検波器(Phase detector)21の出力には位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ22に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧として、2次HPF24に入力される。2次HPF24は、位相が180°進んだφOUT(t)として出力される。
【0280】
図29に示したPLL回路は、図30に示すような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図30において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0281】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]は、2次HPFのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPF24の伝達関数である。
【0282】
本実施例では挿入するHPFに2次HPFを用いるから、伝達関数G(s)は
となる。
【0283】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次のように定義される。
【0284】
本実施例では、ループフィルタ22にはRC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0285】
ループフィルタ22が図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、そのF(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0286】
ループフィルタ22が、図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、そのF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0287】
ループフィルタ22が図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0288】
(127)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0289】
同様に、位相誤差伝達関数He(s)は
【0290】
(129)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0291】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(131)、(132)式と表わされる。
【0292】
【0293】
ループフィルタ22が図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0294】
(133)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0295】
同様に、位相誤差伝達関数He(s)は
【0296】
(135)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0297】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(137)、(138)式と表わされる。
【0298】
【0299】
ループフィルタ22が図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0300】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0301】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(141)、(142)式と表わされる。
【0302】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0303】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(128)式、(134)式、(139)式は次式で近似される。
【0304】
図31に、(128)式、(134)式、(139)式の時定数が大きい場合の近似式である(143)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0305】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、ω0<<τであるから、(130)式、(136)式、(140)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を次式に近似することができる。
【0306】
(130)式、(136)式、(140)式、及び、近似式である(143)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0307】
参考までに、図32に、(144)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0308】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(143)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(144)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0309】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0310】
ここで留意すべき点は、(143)式で近似される閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(144)式で近似される位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合の関係と逆転していることである。
【0311】
<実施例9>
実施例7と実施例8ではループフィルタに1次LPFを用いていた。しかし、PLLループとしては位相余裕が90°残っているから、1次LPFを1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続として置き換えることができる。本実施例の場合に、用いるループフィルタは図21に示される。
【0312】
図21(a)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0313】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ1+τ2である。
【0314】
(149)式は、実施例7、及び、実施例8においてループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0315】
同様に、図21(b)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C3、Ka=C2/C3である。
【0316】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ2である。
【0317】
(153)式は、前記実施例7及び前記実施例8において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0318】
同様に、図21(c)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0319】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ2である。
【0320】
(157)式は、前記実施例7及び前記実施例8において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0321】
したがって、前記実施例7及び前記実施例8において、ループフィルタを1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続とすることができる。
【0322】
<実施例10>
次に、本発明のPLL回路を用いた周波数設定回路の実施例を説明する。図33は、本発明のVCOを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第1の実施例の構成例を示す図である。図33においては、gm−Cで構成されたVCO回路31と位相検波器(PD)33との間にHPF35を挿入している。本実施例は、図10のgm−C VCO301とPD303の間にHPFを挿入した構成に対応する。
【0323】
<実施例11>
図34は、本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第1の実施例の構成を示す図である。図34においては、gm−Cで構成された2次HPF41(2次gm−C HPF)をVCF回路に用いている。ここでは、基準周波数とVCF出力間の位相差が90°となっている。図36に、複数のOTAと容量からなる差動型の2次HPF41(2次gm−C HPF)の一例を示す(特許文献2参照)。図36を参照すると、2個のOTA1、OTA2からなる等価R151と、2個の容量C1と、OTA3、OTA4からなる等価L152と、容量C2と、OTA5からなる終端抵抗153と、を有する。OTAは、例えば図38の構成とされる。図38に示す例では、差動対M1、M2のデジェネレーション抵抗のかわりに、線形動作領域のトランジスタM3を備え、トランジスタM3のゲート電圧を可変させることで等価的にデジェネレーション抵抗を可変させ、OTAのトランス(相互)コンダクタンスgmを可変させる。図36のOTA1〜OTA5を図38の構成とし、制御電圧VCON(直流電圧)を、OTAのトランジスタM3のゲート電圧として供給するようにしてもよい。
【0324】
あるいは、制御電圧VCONを電圧−電流(V−I)変換器で電流に変換し、V−I変換器の出力電流に基づきOTAの駆動電流を制御し、OTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させるようにしてもよい。図39に、V−I変換器にて制御電圧VCONを電流に変換しOTAの駆動電流を可変させる構成の一例を示す。図39を参照すると、ソースが接地され制御電圧VCONをゲートに入力するn-channel MOSトランジスタM11と、トランジスタM11のドレインと電源VDD間に縦積みされたp-channel MOSトランジスタM12〜M15と、グランドと電源間に接続されたnMOSトランジスタM16〜M19及びpMOSトランジスタM20、M21を備えている。さらに、図38のOTAの電流源I0に対応する電流源としてそれぞれ、n-channel MOSトランジスタ(M22、M23)、n-channel MOSトランジスタ(M24、M25)、p-channel MOSトランジスタ(M26、M27)、p-channel MOSトランジスタ(M28、M29)を備え、トランジスタ(M26、M27)、トランジスタ(M28、M29)はそれぞれ第1のカスコードカレントミラー回路の出力側をなし、またトランジスタ(M22、M23)、トランジスタ(M24、M25)は、第1のカスコードカレントミラー回路の出力電流(トランジスタM20の出力電流)を受ける第2のカスコードカレントミラー回路の出力側を構成しており、制御電圧VCONに対応するトランジスタM11のドレイン電流に対応する電流が、第1及び第2のカスコードカレントミラー回路を介してOTAに供給される。
【0325】
図35は、本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第2の実施例の構成を示す図である。図35においては、gm−Cで構成された1次HPF51をVCF回路に用いており、RC1次LPF57の後段に電源電圧VDDの1/4を基準電圧とする演算増幅器(OP amp)58を挿入している。したがって、基準周波数と1次gm−C HPF51の出力間の位相差は45°となる。図37に、複数のOTAと容量からなる差動型の1次HPF51(1次gm−C HPF)の一例を示す(特許文献1参照)。特に制限されないが、OTA1、OTA2は、例えば図38の構成とされる。演算増幅器(OP amp)58から出力される制御電圧VCON(直流電圧)を、OTAのトランジスタM3のゲート端子に供給するようにしてもよい。あるいは、演算増幅器(OP amp)58から出力される制御電圧VCONを、図39に示したように、電圧−電流変換し、OTAの駆動電流を変化させ、OTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0326】
本発明の活用例として、通常の無線機に用いられるローカル(LO)周波数を生成するPLL回路やクロック生成に係わるPLL回路は勿論のこと、集積回路上に形成されるgm−Cフィルタのチューニング用制御回路のPLL回路に用いることができる。
【0327】
なお、上記の特許文献、非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0328】
【図1】従来のVCOを用いたPLL回路の構成を示す図である。
【図2】従来のVCOを用いた線形PLL回路モデルを示す図である。
【図3】従来のPLL回路に用いるループフィルタの回路構成を示す図である。
【図4】従来のVCOを用いたPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図5】従来のVCOを用いたPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図6】従来のVCFを用いたPLL回路の構成を示す図である。
【図7】従来のVCFを用いた線形PLL回路モデルを示す図である。
【図8】従来のVCFを用いたPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図9】従来のVCFを用いたPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図10】従来のVCOを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタ回路の構成を示す図である。
【図11】従来のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタ回路の構成を示す図である。
【図12】本発明のVCOを用いた第1のPLL回路の構成を示す図である。
【図13】本発明のVCOを用いた第1の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図14】本発明のPLL回路に用いるループフィルタの回路の構成を示す図である。
【図15】本発明のVCOを用いた第1のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図16】本発明のVCOを用いた第1のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図17】本発明のVCOを用いた第2のPLL回路の構成を示す図である。
【図18】本発明のVCOを用いた第2の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図19】本発明のVCOを用いた第2のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図20】本発明のVCOを用いた第2のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図21】本発明のPLL回路に用いるループフィルタ(2次LPF)の回路の構成をを示す図である。
【図22】本発明のVCOとインバータと遅延回路を用いた第3のPLL回路の構成をを示す図である。
【図23】本発明のVCOと分周器を用いた第4のPLL回路の構成をを示す図である。
【図24】本発明のVCOとインバータと遅延回路と分周器を用いた第5のPLL回路の構成を示す図である。
【図25】本発明のVCFを用いた第1のPLL回路の構成を示す図である。
【図26】本発明のVCFを用いた第1の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図27】本発明のVCFを用いた第1のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図28】本発明のVCFを用いた第1のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図29】本発明のVCFを用いた第2のPLL回路の構成を示す図である。
【図30】本発明のVCFを用いた第2の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図31】本発明のVCFを用いた第2のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図32】本発明のVCFを用いた第2のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図33】本発明のVCOを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の実施例を示す図である。
【図34】本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第1の実施例を示す図である。
【図35】本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第2の実施例を示す図である。
【図36】2次gm−C HPFの一例を示す図である。
【図37】1次gm−C HPFの一例を示す図である。
【図38】OTAの一例を示す図である。
【図39】制御電圧を電圧−電流変換しOTAを制御する構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0329】
11 位相検波器
12 ループフィルタ
13 VCO
14 1次HPF
15 2次HPF
16 インバータ回路
17 遅延回路
18 分周器
21 位相検波器
22 ループフィルタ
23 1次HPF
24 2次HPF
31 gm−C VCO
32 gm−Cフィルタ
33 位相検波器
34 ループフィルタ
35 HPF
41 2次gm−C HPF
42 gm−Cフィルタ
43、44 インタフェース回路
45 XNOR
46 インバータ回路
47 ループフィルタ
51 1次gm−C HPF
52 gm−Cフィルタ
53、44 インタフェース回路
55 XNOR
56 インバータ回路
57 ループフィルタ
58 演算増幅器
101 1次gm−C LPF
102 gm−Cフィルタ
103、104 インタフェース回路
105 XNOR
106 インバータ回路
107 ループフィルタ
108 差動増幅器
151 等価R
152 等価L
153 終端抵抗
201 位相検波器
202 ループフィルタ
203 VCO
204 1次LPF
301 gm−C VCO
302 gm−Cフィルタ
303 位相検波器
304 ループフィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路とそれを用いたフィルタ回路の周波数設定回路に関し、特に、半導体集積回路上に形成されるPLL回路とそれを用いたOTA(operational transcondactance amplifier)と容量から構成されるgm−Cフィルタ回路の周波数設定回路に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来のPLL回路を示す。典型的なPLL回路は、3つのファンクション・ブロックから構成される。すなわち、電圧制御周波数発振器(VCO:voltage-controlled oscillator)203、位相検波器(PD:phase detector)201、ループフィルタ(LP:loop filter)202である。
【0003】
位相検波器(PD)201は電圧制御周波数発振器(VCO)203の出力と入力信号の位相差を検出し、位相誤差に比例する信号を生成する。位相検波器(PD:phase detector)は、位相検出器あるいは位相比較器ともいう。
【0004】
位相検波器(PD)201の出力には直流成分と交流成分が含まれる。ここで直流成分は蓄積され、交流成分はループフィルタ(LP)202で取り除かれる。
【0005】
ループフィルタ(LP)202の出力は直流信号に近く、電圧制御周波数発振器(VCO)203に供給される。このほぼ直流制御電圧が、VCO203と入力信号間の位相誤差を減らす方向にVCO203の発振周波数を変化させる。
【0006】
線形PLL回路モデルは、図2のように示される。
【0007】
図2において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は次式(1)のように定義される。
【0008】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
【0009】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数He(s)は次式(2)のように定義される。
【0010】
従来、この種の電圧制御周波数発振器(VCO)、あるいは電流制御周波数発振器(ICO)を用いたPLL回路においては、電圧制御周波数発振器(VCO)、あるいは電流制御周波数発振器(ICO)で位相が90°遅れ、さらに、位相検出器の出力に挿入されるループフィルタでも位相が遅れるために、安定なPLL回路を実現するために、ループフィルタには、ラグリード(lag lead)フィルタを用いてループ内の位相余裕を持たせていた。
【0011】
PLLループは、負帰還回路であるために、ループ内での位相のズレは、−180°から180°の間に収まる必要がある。この範囲を超えると、負帰還が正帰還に変わり、PLLが組めなくなるからである。
【0012】
あるいは、ラグリード(lag lead)フィルタを、パッシブタイプ(図3(a))をアクティブタイプ(図3(b))や、あるいはアクティブPI(比例積分)フィルタ(図3(c))に変更する程度の選択しかなかった。
【0013】
しかし、実用上は交流成分を取り除きたいために、制御電圧の信号路とグランド間にループフィルタのラグリード(lag lead)フィルタに用いた容量値よりも十分に小さな容量値を追加している場合も多く見受けられる。
【0014】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0015】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、Ka=C1/C2である。
【0016】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0017】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合に、(1)式と(3)式から、H(s)は
【0018】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合に、(2)式と(3)式から、He(s)は
【0019】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(8)式と(9)式と表わされる。
【0020】
【0021】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にH(s)は
【0022】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にHe(s)は
【0023】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(12)式と(13)式と表わされる。
【0024】
【0025】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にH(s)は
【0026】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にHe(s)は
【0027】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(16)式と(17)式と表わされる。
【0028】
【0029】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0030】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0031】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであれば、(6)式、(10)式は次式で近似される。また、時定数が大きな値であり、1<<τ1であれば(14)式も次式で近似される。
【0032】
図4に、(14)式と、(6)式、(10)式の高利得ループ時の近似式である(18)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。特性(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、それぞれ、ダンピングファクタζの値が0.1、0.25、0.5、0.7071、1の閉ループ伝達関数H(s)の振幅特性である。なお、横軸は規格化周波数ω/ωn、縦軸は振幅値である。
【0033】
ダンピングファクタζを0.1から1まで変化されても、ω/ωn=√2 の時に、オーバーシュートしていた振幅値が全て1となっており、ω/ωn>√2の範囲では振幅値が1より小さくなっていく。
【0034】
しかし、高利得ループであっても、パッシブラグリードフィルタ、アクティブラグリードフィルタ、アクティブPIフィルタのいずれの場合においても、(7)式、(11)式、(15)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を
と近似する必要はないかもしれない。
【0035】
(7)式、(11)式、(15)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母には、s2の項の他にsの項が含まれている。
【0036】
このsの項を無視した場合に、(7)式、(11)式、(15)式で示された位相誤差伝達関数He(s) は(19)式になる。
【0037】
τ1、τ1+τ2の値が大きな値(1<<τ1、1<<τ1+τ2)であれば、sの項は無視できて(19)式で近似されるが、τ1、τ1+τ2の値が小さな値であっても、(19)式からズレるだけである。
【0038】
参考までに、図5に、(19)式で示される近似式を、位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。
【0039】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。
【0040】
また、良く知られているように、(18)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF(low pass filter)特性を持ち、(7)式、(11)式は(15)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|や(19)式で示される位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|は2次HPF(high pass filter)特性を持つ。
【0041】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。
【0042】
高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0043】
次に、従来のVCF(voltage-controlled filter)を用いたPLL回路について説明する。
【0044】
ただし、これまでVCFを用いたPLL回路の動作原理の説明が記載されたテキストを見たことはあるが、どうしてもその記載されたようには動かない。
【0045】
実際の動作に照らし合わせて、本明細書で改めて、VCFを用いたPLL回路を詳しく説明することとする(以下は本発明者による解析結果である)。
【0046】
これまでのVCFを用いたPLL回路は、図6に示される。実際には、図6において、位相器に用いている1次LPF(Phase Shifter)204は、制御電圧で周波数特性、具体的にはカットオフ周波数が可変されるから、図1に示したVCO回路と同様に、VCFを用いたPLL回路の線形モデルは、図7のように示される。
【0047】
したがって、図2の場合と同様に考えて良い。すなわち、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0048】
ここで、
Kd[V/rad]はPDの利得であり、
F(s)はループフィルタの伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はフィルタのゲインファクタである。
ただし、1次LPF204の伝達関数はK0/(s+ω0)としている。
【0049】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次式(22)のように定義される。
【0050】
従来、この種の電圧制御1次ローパスフィルタ(VCF)、あるいは電流制御1次ローパスフィルタ(ICF)を用いたPLL回路においては、電圧制御1次ローパスフィルタ(VCF)、あるいは電流制御1次ローパスフィルタ(ICF)で位相が90°遅れ、さらに、位相検出器(PD)の出力に挿入されるループフィルタ(LP)でも位相が遅れるために、安定なPLL回路を実現するために、ループフィルタにはラグリード(lag lead)フィルタを用いてループ内の位相余裕を持たせていた。
【0051】
PLLループは負帰還回路であるために、ループ内での位相のズレは−180°から180°の間に収まる必要がある。この範囲を超えると負帰還が正帰還に変わり、PLLが組めなくなるからである。
【0052】
あるいは、ラグリード(lag lead)フィルタを、パッシブタイプ(図3(a))をアクティブタイプ(図3(b))や、あるいはアクティブPIフィルタ(図3(c))に変更する程度の選択しかなかった。
【0053】
しかし、実用上は交流成分を取り除きたいために、制御電圧の信号路とグランド間にループフィルタのラグリード(lag lead)フィルタに用いた容量値よりも十分に小さな容量値を追加している場合も多く見受けられる。
【0054】
また、位相が1次ローパスフィルタで必ず0°〜90°遅れるから、0°〜90°の間の位相遅れでロックが掛かるように、PLLループを設定する必要がある。
【0055】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0056】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、Ka=C1/C2である。
【0057】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ1=R1C、τ2=R2Cである。
【0058】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にH(s)は
【0059】
図3(a)に示したパッシブラグリードフィルタの場合にHe(s)は
【0060】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、
と表わされる。
【0061】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にH(s)は
【0062】
図3(b)に示したアクティブラグリードフィルタの場合にHe(s)は
【0063】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ、
と表わされる。
【0064】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にH(s)は
【0065】
図3(c)に示したアクティブPIフィルタの場合にHe(s)は
【0066】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、
と表わされる。
【0067】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0068】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0069】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。
【0070】
高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(26)式、(30)式、(34)式は次式で近似される。
【0071】
図8に、(26)式、(30)式、(34)式の高利得ループ時の近似式である(38)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0072】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグリードフィルタ、アクティブラグリードフィルタ、アクティブPIフィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を
と近似することができる。
【0073】
(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0074】
このsの項を無視した場合に、(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(s) は(39)式になる。
【0075】
時定数τ1、τ1+τ2の値が大きな値(1<<τ1、1<<τ1+τ2)であれば、sの項は無視できて(39)式で近似されるが、τ1、τ1+τ2の値が小さな値であっても、(39)式からズレるだけである。
【0076】
参考までに、図9に、(39)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。
【0077】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。
【0078】
また、良く知られているように、(38)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(27)式、(31)式、(35)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|や(39)式で示される位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0079】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。
【0080】
高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、−3dBカットオフ周波数ω-3dBは
と求められる。
【0081】
従来、この種のPLL回路とそれを用いたgm−Cフィルタ回路の周波数設定回路は、例えば、非特許文献1(F. Krummenacher and N. Joehl, "A 4-MHz CMOS Continuous-Time Filters with On-Chip Automatic Tuning." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 750-758, June 1988.)の記載が参照される。
【0082】
非特許文献1の回路は、図10に示すように、OTAと容量で構成されたgm−Cマスタフィルタ回路301をVCO回路(gm−C VCO)としてPLL回路を組み、PD303、LPF304を介してVCO回路の出力と基準周波数fREFとの位相差に応じた直流電圧である制御電圧VCONを得て、基準周波数fREFとVCO発振周波数とが等しくなるように、VCO回路内のgm−Cマスタフィルタ回路を構成しているOTAのトランスコンダクタンスgm値を制御し、同一の制御電圧VCONでgm−Cスレーブフィルタ回路302を構成しているOTAのトランスコンダクタンスgm値を制御し、もって所定の周波数特性となるように設定している。このチューニングシステムは良く用いられている。
【0083】
図10において、VCO回路(gm−C VCO)は、2次BPF(band pass filter)回路を用いてBPF出力信号をBPF入力信号に帰還させている。したがって、VCO回路の発振周波数はBPFの中心周波数となるが、安定に発振する条件が必要であり、負性抵抗−Rを実現するための非線形抵抗を備える必要がある。
【0084】
また、条件のばらつきで発振周波数が変化することにもなり、一般にはばらつき範囲が広くなる。
【0085】
元々、gm−Cマスタフィルタ回路(gm−C VCO)301でのオシレーション機能と、gm−Cスレーブフィルタ回路(gm−Cフィルタ)302でのフィルタリング機能とは異なった現象であり、両者において一致性が高まるとは考え難い。
【0086】
したがって、gm−Cマスタフィルタ回路(gm−C VCO)301とgm−Cスレーブフィルタ回路302とをそれぞれフィルタリング機能としたら、両者における一致性が高まると考えられる。
【0087】
すなわち、非特許文献2(V. Gopinathan, Y. P. Tsividis, K.-S. Tan, and R. K. Hester, " Design Considerations for High-Frequency Continuous-Time Filters and Implementation of an Antialiasing Filter for Digital Video." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. 25, No. 6, pp. 1368-1378, Dec. 1990.) に記載されているように、PLL回路にVCFを用いるやり方である。
【0088】
その具体的な回路例として、図11に示したPLL回路を用いて、OTAと容量で構成されたgm−Cマスタフィルタ回路101を1次LPF(1次gm−C LPF)とした0°〜90°位相器として用い、XNOR(排他的否定論理和)回路105を位相検出器として、ループフィルタ(1次LPF)107を介して2つの入力信号の位相差に応じた直流電圧を得、制御電圧を可変してOTAのgm(トランスコンダクタンス)値を可変し、入力される基準周波数との位相差が0°〜90°内の設定値、例えば、本発明者と同一発明者による特許文献1(特開2005−328272号公報)では、45°とすることで、gm−Cフィルタ回路102のカットオフ周波数を所定の値に設定していた。
【0089】
これまでの従来文献においては、1次LPFを90°位相器とする記載が多く見受けられるが、良く知られているように、1次LPFでは、位相差θが理論的には90°まで至ることはなく、0°<θ<90°であるから、1次LPFを90°位相器として用いることはできないことになる。
【0090】
位相検出器を2つの入力信号の位相差に応じた信号を出力するものとする。具体的には、位相検出器を2つの入力信号の積を出力するものとすれば、乗算器を用いることもできる。しかしながら、図11に示したように、簡単なディジタル回路であるXNOR回路やXOR回路を用いることもできる。
【0091】
このように、乗算器やXOR回路やXNOR回路を用いた位相比較器の場合には、最も簡単なフェーズロックドループ(PLL)が構成でき、テキストにも載っているように、2つの入力信号の位相差が90°(π/2)の場合に、ループが引き込まれロックがかかる。
【0092】
例えば、位相比較器にXOR回路を用いた場合には、2つの入力信号の位相差が90°(π/2)となった場合に、出力信号の直流電圧がVDD/2となり、ループが引き込まれロックがかかる。
【0093】
この時には、出力信号の周波数は、2つの入力信号の周波数(互いに位相は90°違うが)の丁度2倍になっている。すなわち、位相比較器にXOR回路を用いた最も簡単なフェーズロックドループ(PLL)では、ロック時には、基準周波数との位相差は90°(π/2)だけ異なっている。
【0094】
このように、位相が90°異なるようにPLLを組む場合には、VCO回路を用いる他にも、位相が90°だけ進んだり遅れたりする位相可変素子、例えば、微分器や積分器、あるいはフィルタ等を用いることができることがわかる。
【0095】
しかし、図11においては、上述したように、1次LPF(1次gm−C LPF)101を位相器に用いているために、90°位相差を実現できない。
【0096】
したがって、OP amp(演算増幅器)108を介してループフィルタ107の出力信号を受け、OP amp108の基準電圧としては設定された位相差45°に相当する基準電圧VDD/4を印加している。
【0097】
あるいは、位相差を90°に設定したのであれば、OP ampの基準電圧としては設定された位相差90°に相当する基準電圧VDD/2を印加すべきであり、一般的なテキストにはそのように載っていることがあるが、現実には、PLLループの位相遅れが180°の範囲に入るようにすることは不可能である。
【0098】
すなわち、PLLループの位相遅れが180°を超えてしまい、負帰還ループを構成できなくなる。したがって、PLL回路を組めなくなるという不都合が生じてしまう。
【0099】
これを回避するために、本発明者と同一発明者による特許文献1(特開2005−328272号公報)では、入力される基準周波数との位相差が0°〜90°内の設定値を45°とし、位相差45°に相当する基準電圧VDD/4を印加している訳である。
【0100】
このようにすることで、図11のgm−Cフィルタ回路102のカットオフ周波数を所定の値に設定していた。
【0101】
この場合においても、gm−Cマスタフィルタ回路101を1次LPFとしているために、位相が0°〜90°だけ遅れる。
【0102】
したがって、PLLループの位相余裕を考慮すると、ループフィルタ107はラグリード(lag lead)フィルタとして、位相遅れが90°よりも小さくなるように設定せざるを得ない。
【0103】
このようにして位相余裕は確保されるが、振幅値で言えば、ループフィルタ107をラグリード(lag lead)フィルタとしているために高域での減衰量は2つの抵抗R1、R2(図3(a)参照)の抵抗比で決まり、基準周波数成分を十分な値まで落とすことができなかった。
【0104】
【特許文献1】特開2005−328272号公報
【特許文献2】特開2005−223439号公報
【非特許文献1】F. Krummenacher and N. Joehl, "A 4-MHz CMOS Continuous-Time Filters with On-Chip Automatic Tuning." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 750-758, June 1988.
【非特許文献2】V. Gopinathan, Y. P. Tsividis, K.-S. Tan, and R. K. Hester, "Design Considerations for High-Frequency Continuous-Time Filters and Implementation of an Antialiasing Filter for Digital Video." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. 25, No. 6, pp. 1368-1378, Dec. 1990.
【非特許文献3】K. Bult and H. W. Wallinga, "A CMOS Analog Continuous-Time Delay Line with Adaptive Delay-Time Control." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 759-766, June 1988.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0105】
上記した従来の回路は、下記記載の問題点を有している。
【0106】
第1の問題点は、基準周波数成分を十分な値まで落とすことができなかった。
【0107】
その理由は、ラグリード(lag lead)フィルタを用いていたためである。
【0108】
第2の問題点は、PLLループ内の位相余裕が少なかった。
【0109】
その理由は、VCOや位相器でそれぞれ90°づつ位相が廻ってしまうからである。
【0110】
本発明はこれに鑑み、ループフィルタ出力での基準周波数成分を十分に落とせ、かつ、PLLループ内の位相余裕を確保できる、PLL回路とそれを用いた周波数設定回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0111】
本発明によるPLL回路及びそれを用いた周波数設定回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(VCOまたはICO)からの出力信号が高域通過フィルタ(HPF)を介して位相検波器の一方の入力端子に入力され、前記位相比較器の他方の入力端子には基準周波数が入力され、前記位相比較器の出力信号はループフィルタを介して、その直流成分を前記電気信号として前記周波数発振器を制御する。
【0112】
あるいは、本発明においては、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(VCOまたはICO)からの出力信号の逆相が生成され、さらに遅延回路を介して位相比較器の一方の入力端子に入力され、前記位相検波器の他方の入力端子には基準周波数が入力され、前記位相比較器の出力信号はループフィルタを介して、その直流成分を前記電気信号として前記周波数発振器を制御する。
【0113】
あるいは、本発明においては、前記周波数発振器と前記位相検波器との間に分周回路が挿入される。
【0114】
あるいは、本発明においては、前記周波数発振器が複数個のOTAと容量から構成される。
【0115】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0116】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧を増幅する増幅器を介して出力電圧を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0117】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧がV-I変換器により電圧が電流に変換され、前記V-I変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0118】
あるいは、本発明においては、所定の周波数の交流信号が複数個のOTAと容量から構成される位相器に入力され、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とする位相比較器が入力信号間の位相差に応じた信号を出力し、前記位相器の出力信号の直流電圧を増幅する増幅器を介してV-I変換器により電圧が電流に変換され、前記V-I変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくても1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を持つPLL回路において、前記位相器での位相が進む。
【0119】
あるいは、本発明においては、位相器は2次の高域通過フィルタ(HPF)からなる。
【0120】
あるいは、本発明においては、位相器は1次の高域通過フィルタ(HPF)からなる。
【0121】
あるいは、本発明においては、ループフィルタがRC1次低域通過フィルタ(LPF)から構成される。あるいは、本発明においては、ループフィルタがラグリードフィルタとRC1次低域通過フィルタ(LPF)がカスケード接続された2次LPFから構成される。
【0122】
あるいは、本発明においては、前記PLL回路からの制御信号により共通に制御されるOTAを有するgm−Cフィルタを持つ。
【発明の効果】
【0123】
本発明の第1の効果は、基準周波数成分を十分に取り除くことができる、ということである。その理由は、本発明においては、ラグリードフィルタを用いなくて良いからである。
【0124】
本発明の第2の効果は、ループが安定である、ということである。その理由は、本発明においては、90°分の位相遅れを相殺しているためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0125】
上記した本発明についてさらに詳細に説述すべく添付図面を参照して説明する。本発明の1つのアスペクト(側面)においてPLL回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(13)と、該周波数発振器からの出力信号を入力する高域通過フィルタ(HPF)(1次HPF14/2次HPF15)と、該高域通過フィルタ(HPF)の出力(u0(t))を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数(ui(t))を入力する位相比較器(位相検波器)(11)と、該位相比較器の出力信号(ud(t))を入力するループフィルタ(12)と、該ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として該周波数発振器(13)に供給される(図12/図17参照)。
【0126】
本発明の他のアスペクトにおいてPLL回路は、電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器(13)と、該周波数発振器からの出力信号の逆相信号を遅延させる遅延回路(17)と、該遅延回路の出力を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数を入力する位相比較器(11)と、該位相比較器の出力信号を入力するループフィルタ(12)と、該ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として周波数発振器(13)に供給される(図22参照)。
【0127】
本発明においては、周波数発振器(13)と位相比較器(11)との間に分周回路(18)を備えている(図23参照)。
【0128】
本発明の他のアスペクトにおいてPLL回路は、複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器(phase shifter)(23/24)と、該位相器(23/24)への入力信号と該位相器(23/24)からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器(21)と、該位相比較器(21)の出力信号を入力するループフィルタ(22)と、を有し、該ループフィルタの出力信号の直流電圧を制御信号として位相器(23/24)を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで位相器(23/24)での位相差が一定値になるように制御し、位相器(23/24)での位相が進む(図25/図29参照)。
【0129】
本発明の他のアスペクトにおいて、PLL回路は、複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器(51)と、前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器(53、54、55、56)と、前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタ(57)と、を備え、前記ループフィルタからの直流電圧を増幅する増幅器(58)を介して出力電圧を制御信号として、前記位相器(51)を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、前記位相器(51)での位相が進む(図35参照)。前記ループフィルタからの直流電圧は、電圧−電流(V−I)変換器により電流に変換し、前記電圧−電流変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有する構成としてもよい。
【0130】
本発明のPLL回路とそれを用いた周波数設定回路によれば、ループフィルタ出力での基準周波数成分を十分に落とせ、かつ、PLLループ内の位相余裕を確保できる。位相器として用いる1次gm−Cハイパスフィルタの位相量がトランジスタの製造バラツキや温度特性、容量値の製造バラツキがあっても一定値となり、結果、位相器として用いる1次gm−Cハイパスフィルタのカットオフ周波数を一定周波数に設定でき、同一の制御信号で制御することでgm−Cフィルタのカットオフ周波数もトランジスタの製造バラツキや温度特性、容量値の製造バラツキがあっても一定となる。
【実施例】
【0131】
<実施例1>
図12を参照すると、本発明の実施の形態は、VCO回路13の出力に1次HPF14を挿入している。VCO回路13においては、発振周波数はほぼ正弦波となっている。なぜなら、発振器においては発振周波数のスペクトラムが単一になるように高Q化されており、出力波には小さな値の高調波成分しか含まれない。
【0132】
したがって、正弦波であれば1次HPF14を通して微分してもパルス成分が現れる訳でもなく、位相が90°進んだ正弦波となる。
【0133】
この後に矩形波として、矩形波化された基準周波数とで位相を比較しても、位相比較器11の2つの入力端子には区別が付かないから、従来回路で用いた位相比較器をそのまま用いることができる。
【0134】
ただし、VCO13では位相が90°遅れるから、VCO出力に1次HPF14を挿入することでこの位相遅れを相殺できる。
【0135】
この時に、VCO13と1次HPF14を一体化された発振器と見なせば、位相が90°進む発振波を出力していることになる。
【0136】
すなわち、PLLループとしてはループフィルタ12での位相遅れだけになる。
【0137】
したがって、ループフィルタ12を1次LPF(RCフィルタ)として90°の位相遅れが生じても、−180°〜180°の位相範囲内に止めることができる。すなわち、ラグリードフィルタにする必要がない。
【0138】
図12において、位相検波器(PD:Phase detector)11には、基準周波数ui(t)と1次HPF14の出力u0(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)はループフィルタ12に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力される。VCO13の出力は1次HPF14に入力され、1次HPF14からu0(t)が出力される。
【0139】
本実施例の動作を説明する。図12において、位相検波器(Phase detector)11には基準周波数ui(t)と1次HPF14の出力u0(t)が入力され、両者の位相差が検出される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)には位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ12に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力され、VCO13の発振周波数と基準周波数の位相が等しくなるように制御される。
【0140】
さらに、VCO13の出力は1次HPF14に入力され、位相が90°進んだu0(t)として出力される。例えば、1次HPF14は、簡単には容量Cと抵抗Rとで実現できる。例えば1次HPF14は、図14(a)において、抵抗Rと容量Cとを入れ替えることで構成される。
【0141】
図12に示したPLL回路は、図13に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図13において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0142】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPFの伝達関数である。
【0143】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次のように定義される。
【0144】
ここで、挿入される1次HPFの伝達関数G(s)は
となる。
【0145】
本実施例では、ループフィルタ12にはRC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0146】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0147】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0148】
図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0149】
位相誤差伝達関数He(s)は、
【0150】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(49)、(50)と表わされる。
【0151】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にH(s)は
【0152】
He(s)は
【0153】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(53)、(554)と表わされる。
【0154】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にH(s)は
【0155】
He(s)は
【0156】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(57)、(58)と表わされる。
【0157】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0158】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0159】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(47)式、(51)式は(55)式に近似され、いずれの場合においても、次式で近似される。
【0160】
図15に、(47)式、(51)式、(55)式の時定数が大きい場合の近似式である(59)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0161】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、ω0<<τであるから、(48)式、(51)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を(55)式に近似することができ、次式で示される。
【0162】
(48)式、(51)式、(55)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0163】
参考までに、図16に、(60)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0164】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(59)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(47)式、(51)式、(55)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|や(60)式で示される位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0165】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0166】
ここで留意すべき点は、PLLが高利得ループであっても低利得ループであっても、PLL回路の閉ループ伝達関数も位相誤差伝達関数も変化しないということである。したがって、PLLは追従性を良くするために十分なだけの高利得ループであれば良い。
【0167】
ここで留意すべき点は、(55)式で示されるアクティブ反転積分型フィルタをループフィルタに用いた場合の閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(56)式で示されるアクティブ反転積分型フィルタをループフィルタに用いた場合の位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合(ループフィルタにアクティブPIフィルタを用いた場合)の関係と逆転していることである。
【0168】
さらに付け加えると、従来のVCOを用いたPLL回路の場合には、位相誤差伝達関数の分母にはsの項が存在していたから、減衰域ではバラついて、その振幅特性は、図5に示したそれよりも、図15に示した方に近いこともあり得る。
【0169】
また、ダンピングファクタζの値は従来のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=0.7071(=1/√2)であったが、本実施例のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=5に設定すると、ω/ωnが0.6を超えると制御電圧の誤差は±1%以下に収まるようになる。
【0170】
ただし、ダンピングファクタζの値を大きな値に設定しても制御電圧の最大の値が所定の値を多少とも超え、制御電圧の最大の値が所定の値より小さな値を取ることはない。すなわち、本発明のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζをこれまでのダンピングファクタとして定義することは不適当である。
【0171】
<実施例2>
負帰還ループが維持されるためには、−180°〜180°の位相範囲に入っていれば良い訳であるから、−180°〜0°の位相範囲を活用して、VCOの出力に2次HPFを挿入することも考えられる。寄生容量等の影響では信号の位相は遅れる方向にしか現れないであろうから、2次HPFを挿入しても−180°に対する位相余裕は確保できよう。
【0172】
図17は、本発明の第2の実施例として、VCO13の出力に2次HPF15を挿入した構成のPLL回路を示している。
【0173】
図17において、位相検波器(Phase detector)11には基準周波数ui(t)と2次HPF15の出力u0(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)はループフィルタ12に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力される。VCO13の出力は2次HPF15に入力され、2次HPF15からu0(t)が出力される。
【0174】
本実施例の動作を説明する。図17において、位相検波器(Phase detector)11には基準周波数Ui(t)と2次HPF15の出力u0(t)が入力され、両者の位相差が検出される。位相検波器(Phase detector)11の出力ud(t)には位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ12に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力され、VCO13の発振周波数と基準周波数の位相が等しくなるように制御される。
【0175】
さらに、VCO13の出力は2次HPF15に入力され、位相が180°進んだu0(t)として出力される。
【0176】
図17に示したPLL回路は、図18に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図18において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0177】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPFの伝達関数である。
【0178】
HPFが1次HPFの場合に、伝達関数G(s)は
となる。
【0179】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数He(s)は次のように定義される。
【0180】
本実施例ではループフィルタ12には、RC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0181】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0182】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0183】
図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0184】
(68)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0185】
同様に、He(s)は
【0186】
(70)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0187】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(72)、(73)式と表わされる。
【0188】
【0189】
図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0190】
(74)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0191】
同様に、He(s)は
【0192】
(76)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0193】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(78)、(79)式と表わされる。
【0194】
【0195】
図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0196】
He(s)は
【0197】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(78)、(79)式と表わされる。
【0198】
【0199】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0200】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(69)式、(75)式、(80)式は次式で近似される。
【0201】
図19に、(69)式、(75)式、(80)式の時定数が大きい場合の近似式である(84)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0202】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、ω0<<τであるから、(71)式、(77)式、(81)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を次式に近似することができる。
【0203】
(71)式、(77)式、(81)式、及び、近似式である(85)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0204】
参考までに、図20に、(85)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0205】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(84)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(85)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0206】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0207】
ここで留意すべき点は、(84)式で近似される閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(85)式で近似される位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合の関係と逆転していることである。
【0208】
<実施例3>
前記実施例1及び前記実施例2では、ループフィルタに1次LPFを用いていた。しかし、PLLループとしては位相余裕が90°残っているから、1次LPFを1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続として置き換えることができる。この場合に用いるループフィルタは図21に示される。
【0209】
図21(a)の場合には
と表わされ、
となっている。
【0210】
ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0211】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ1+τ2である。
【0212】
(90)式は、前記実施例1及び前記実施例2において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0213】
同様に、図21(b)の場合には
と表わされ、
となっている。
【0214】
ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C3、Ka=C2/C3である。
【0215】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。
【0216】
ただし、τ0=τ2である。
【0217】
(94)式は、前記実施例1及び前記実施例2においてループフィルタ12(図12、図17参照)にRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0218】
同様に、図21(c)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0219】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ2である。
【0220】
(98)式は、前記実施例1及び前記実施例2において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0221】
したがって、前記実施例1及び前記実施例2において、ループフィルタ12を、1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続とすることができる。
【0222】
PLLループ内の位相を進める方法として、ループ内に1次HPFか2次HPFを挿入する方法を詳しく説明した。
【0223】
位相検波器(PD)への入力信号は矩形波で良いから、こうした方法以外にも、VCOの出力を矩形化し、逆相にして遅延回路で遅らせることでも、等価的に−180°までに相当する位相を進めることができる。
【0224】
<実施例4>
図22は、本発明の実施例4のPLL回路の構成を示す図である。図22に示すPLL回路においては、VCO13の出力を1段のインバータ回路16を介して矩形化し、さらに遅延(delay)回路17によって矩形信号を遅らせる。このことにより、等価的に−180°までに相当する位相を進めたことに相当する。
【0225】
図22において、VCO13の出力には、1段のインバータ回路16が接続され、インバータ回路16の出力信号は遅延(delay)回路17に入力され、矩形信号が遅れる。遅延(delay)回路17からの信号(矩形信号)と入力信号とが位相検波器(PD)11に入力されている。位相検波器(PD)11の出力はループフィルタ12に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCO13に入力される。
【0226】
図22に示すPLL回路においては、位相検波器(PD)11の入力信号は矩形波でも動作するから、VCO13の出力を1段のインバータ回路16を介して矩形化し、さらに遅延(delay)回路17によって矩形信号を遅らせる。
【0227】
このことにより、等価的に−180°までに相当する位相を進めたことに相当する。挿入された遅延(delay)回路17の遅延(delay)量が位相余裕に相当する。
【0228】
したがって、遅延(delay)回路17の遅延(delay)量の設定は位相に換算した場合に180°を超えてはならない。遅延(delay)Dは位相θの角速度ωでの微分係数として表される。
【0229】
図22に示す例では、インバータ回路16の後段に遅延(delay)回路17を挿入しているが、挿入順は逆に、遅延(delay)回路の後段にインバータ回路を設けても良い。
【0230】
あるいは、インバータ回路16は逆相増幅器でも良い。インバータ回路16の前段に遅延(delay)回路を挿入する場合には、遅延(delay)回路はディジタル回路ではなくアナログ回路でも良いことになる。
【0231】
ディジタルの遅延(delay)回路の従来技術としては、フリップフロップを用いる例を始め多くある。アナログの遅延(delay)回路の従来技術としては、例えば、非特許文献3(K. Bult and H. W. Wallinga, "A CMOS Analog Continuous-Time Delay Line with Adaptive Delay-Time Control." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 759-766, June 1988.)に詳しい。
【0232】
<本発明の別の実施の形態>
これまでの実施例1〜4で説明したPLL回路において、位相検波器(PD)の入力に分周器を挿入することで入力信号の周波数を下げられる。
【0233】
<実施例5>
図23は、本発明の実施例5の構成を示す図である。本発明のVCOを用いたPLL回路において、分周器18を挿入すると図23のようになる。図23において、VCO13の出力に挿入される1次HPF14または2次HPF15の後に、1/n分周器18を挿入してVCO13から出力された周波数信号を分周している。この分周信号が位相検波器(PD)11の一方の入力信号となっている。したがって、位相検波器(PD)11の他方の入力信号の周波数を1/nに下げることができる。
【0234】
<実施例6>
図24は、本発明の実施例6の構成を示す図である。図22に示したVCOを用いたPLL回路において、分周器18を挿入すると図24のようになる。図24において、VCO13の出力に挿入されるインバータ16と遅延(delay)回路17の後に1/n分周器18を挿入してVCO13から出力された周波数信号を1/nに分周している。この分周信号が位相検波器(PD)11の一方の入力信号となっている。したがって、位相検波器(PD)11の他方の入力信号の周波数を1/nに下げることができる。
【0235】
図24では、インバータ回路16の後段に遅延(delay)回路17を挿入し、さらに分周器18を挿入しているが、挿入の順は、遅延(delay)回路、インバータ回路、分周器は任意に設定しても良い。インバータ回路は逆相増幅器であっても良い。また、インバータ回路の前段に遅延(delay)回路を挿入する場合には遅延(delay)回路はディジタル回路ではなくアナログ回路であっても良いことになる。
【0236】
以上は、本発明のVCOを用いたPLL回路について説明した。この本発明のVCOを用いたPLL回路のアプリケーション例として、gm−Cフィルタのチューニングシステムについて更に説明を加えたい。この従来技術としては、非特許文献1(F. Krummenacher and N. Joehl, "A 4-MHz CMOS Continuous-Time Filters with On-Chip Automatic Tuning." IEEE J. Solid-State Circuits, Vol. SC-23, No. 3, pp. 750-758, June 1988.)に詳しい。
【0237】
同様に、VCO回路の代わりにフィルタ(VCF)を用いたPLL回路においてもHPFを用いることで、ループフィルタのラグリードフィルタをRCフィルタに変更できる。
【0238】
<実施例7>
図25を参照すると、本実施例は、VCF回路を用いたPLL回路において、フィルタ回路に1次HPF23を用いている。
【0239】
1次HPF23では、位相が90°進むから、PLLループとしては、ループフィルタ22での位相遅れだけになる。
【0240】
したがって、ループフィルタ22を1次LPF(RCフィルタ)23として90°の位相遅れが生じても、−180°〜180°の位相範囲内に止めることができる。すなわち、ラグリードフィルタにする必要がない。
【0241】
図25に示したPLL回路は、図26に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。
【0242】
図25おいて、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φin(t)と1次HPF(VCF)23の出力φout(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)21の出力はループフィルタ22に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧として1次HPF(VCF)23に入力される。
【0243】
図25において、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φin(t)と1次HPF(VCF)23の出力φout(t)が入力され、両者の位相差が検出される。
【0244】
位相検波器(Phase detector)21の出力には、位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ22に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧として1次HPF(VCF)23に入力され、1次HPF(VCF)23の出力と基準周波数の位相差が一定になるように制御される。
【0245】
図25に示したPLL回路は、図26に示したような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図26において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0246】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタの伝達関数であり、
K0[rad/s-V]はVCOのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPFの伝達関数である。
【0247】
ただし、本実施例では、VCFに1次HPFを用いるからG(s)の伝達関数は
となる。
【0248】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次のように定義される。
【0249】
本実施例では、ループフィルタ22にはRC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0250】
ループフィルタ22が図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0251】
ループフィルタ22が図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合にその伝達関数F(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0252】
ループフィルタ22が図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は、
【0253】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0254】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(108)、(109)式と表わされる。
【0255】
【0256】
ループフィルタ22が、図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0257】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0258】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(112)、(113)式と表わされる。
【0259】
【0260】
ループフィルタ22が図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0261】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0262】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(116)、(117)式と表わされる。
【0263】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。
【0264】
もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。
【0265】
高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τであるから、(106)式、(110)式は(114)式に近似され、次式のように表される。
【0266】
図27に、(106)式、(110)式の時定数が大きい場合の近似式である(118)式に示された閉ループ伝達関数と(114)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0267】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、KdK1<<τ、ω0<<τであるから、(107)式、(111)式は(115)式で示された位相誤差伝達関数He(s)に近似することができ、次式と表わされる。
【0268】
(107)式、(111)式、(115)式、及び、近似式である(119)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0269】
参考までに、図28に、(119)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0270】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(118)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(119)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0271】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0272】
ここで留意すべき点は、(118)式で近似される閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(119)式で近似される位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合の関係と逆転していることである。
【0273】
さらに付け加えると、従来のVCOを用いたPLL回路の場合には位相誤差伝達関数の分母にはsの項が存在していたから、減衰域ではバラついて、その振幅特性は図5に示したそれよりも図28に示した方に近いこともあり得る。
【0274】
また、ダンピングファクタζの値は、従来のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=0.7071(=1/√2)であったが、本発明のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζ=5に設定すると、ω/ωnが0.6を超えると制御電圧の誤差は±1%以下に収まるようになる。
【0275】
ただし、ダンピングファクタζの値を大きな値に設定しても、制御電圧の最大の値が所定の値を多少とも超え、制御電圧の最大の値が所定の値より小さな値を取ることはない。すなわち、本発明のVCOを用いたPLL回路の場合には、ζをこれまでのダンピングファクタとして定義することは不適当である。
【0276】
<実施例8>
負帰還ループが維持されるためには、−180°〜180°の位相範囲に入っていれば良い訳であるから、−180°〜0°の位相範囲を活用して、VCO出力に2次HPFを挿入することも考えられる。寄生容量等の影響では信号の位相は遅れる方向にしか現れないであろうから、2次HPFを挿入しても−180°に対する位相余裕は確保できよう。
【0277】
図29に、実施例8として、VCO23の出力に2次HPF24を挿入したPLL回路の構成を示す。
【0278】
図29において、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φin(t)と2次HPF24の出力φOUT(t)が入力される。位相検波器(Phase detector)21の出力はループフィルタ22に入力され、交流成分が除去され、直流成分が制御電圧としてVCOに入力される。ループフィルタ22の出力は2次HPF24に入力され、φOUT(t)が出力される。
【0279】
図29において、位相検波器(Phase detector)21には基準周波数φOUT(t)と2次HPF24の出力φOUT(t)が入力され、両者の位相差が検出される。位相検波器(Phase detector)21の出力には位相誤差信号として直流成分と交流成分が含まれ、ループフィルタ22に入力されることで交流成分が除去され、直流成分が制御電圧として、2次HPF24に入力される。2次HPF24は、位相が180°進んだφOUT(t)として出力される。
【0280】
図29に示したPLL回路は、図30に示すような線形PLL回路モデルに書き換えることができる。図30において、制御理論に基づくと、PLL回路の閉ループ伝達関数は次のように定義される。
【0281】
ここで、
Kd[V/rad]は位相検波器(PD)の利得であり、
F(s)はループフィルタ(LP)の伝達関数であり、
K0[rad/s-V]は、2次HPFのゲインファクタである。
また、G(s)は挿入したHPF24の伝達関数である。
【0282】
本実施例では挿入するHPFに2次HPFを用いるから、伝達関数G(s)は
となる。
【0283】
さらに、位相伝達関数を追加して、位相誤差伝達関数は次のように定義される。
【0284】
本実施例では、ループフィルタ22にはRC1次LPFを用いるから、図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合にF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0285】
ループフィルタ22が図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、そのF(s)は
となる。ただし、τ=RC1、Ka=C1/C2である。
【0286】
ループフィルタ22が、図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、そのF(s)は
となる。ただし、τ=RCである。
【0287】
ループフィルタ22が図14(a)に示したパッシブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0288】
(127)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0289】
同様に、位相誤差伝達関数He(s)は
【0290】
(129)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0291】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(131)、(132)式と表わされる。
【0292】
【0293】
ループフィルタ22が図14(b)に示したアクティブRCフィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0294】
(133)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0295】
同様に、位相誤差伝達関数He(s)は
【0296】
(135)式は分母がs3になっておりsの2次式を超えている。しかし、KdK0K1Ka<<τ2に設定すれば、次式で近似できる。
【0297】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(137)、(138)式と表わされる。
【0298】
【0299】
ループフィルタ22が図14(c)に示したアクティブ反転積分型フィルタの場合に、PLL回路の閉ループ伝達関数H(s)は
【0300】
位相誤差伝達関数He(s)は
【0301】
ただし、ωnは自然周波数であり、ζはダンピングファクタであり、それぞれ(141)、(142)式と表わされる。
【0302】
ここで、ωnとζはPLL回路の特性を決める重要なパラメータである。もし、KdK0>>ωn、あるいはKdKaK0>>ωnであるならば、このPLLシステムは高利得ループであると言われる。
【0303】
最も一般的なPLLは追従性を良くするために高利得ループである。高利得ループであっても、低利得ループであっても、ωn>>ω0、また、時定数が大きな値であり、1<<τ1、1<<τ1+τ2であるから、(128)式、(134)式、(139)式は次式で近似される。
【0304】
図31に、(128)式、(134)式、(139)式の時定数が大きい場合の近似式である(143)式に示された閉ループ伝達関数の振幅特性を示す。
【0305】
また、高利得ループであっても、低利得ループであっても、パッシブラグRCフィルタ、アクティブRCフィルタ、アクティブ反転積分型フィルタのいずれの場合においても、時定数が大きな値であり、ω0<<τであるから、(130)式、(136)式、(140)式で示された位相誤差伝達関数He(s)を次式に近似することができる。
【0306】
(130)式、(136)式、(140)式、及び、近似式である(143)式で示された位相誤差伝達関数He(s)のそれぞれの分母にはs2の項の他にsの項が含まれている。
【0307】
参考までに、図32に、(144)式で示される近似式を位相誤差伝達関数He(s)の代わりとしてその振幅特性を示す。ダンピングファクタζを0.1から1まで変化させても、ω/ωn=1/√2 の時に、振幅値が全て1となっており、ω/ωn>1/√2の範囲では振幅値が1より大きくなってオーバーシュートしていく。
【0308】
伝達関数の分母のsの最高次数は2であるから、2次ループとして知られている。また、良く知られているように、(143)式で示されるループ伝達関数H(jω)の振幅特性|H(jω)|は2次LPF特性を持ち、(144)式で示された位相誤差伝達関数He(jω) の振幅特性|He(jω)|の振幅特性|He(jω)|は2次HPF特性を持つ。
【0309】
したがって、伝達関数H(s)は−3dBカットオフ周波数ω-3dBを持つ。ω-3dBはPLL回路の閉ループ帯域を表わす。高利得ループにおいて、
に設定し、ωについて解くと、
と求められる。
【0310】
ここで留意すべき点は、(143)式で近似される閉ループ伝達関数は2次LPFの伝達関数そのものであり、(144)式で近似される位相誤差伝達関数は2次HPF特性に近い特性であり、丁度、従来のVCOを用いたPLL回路の場合の関係と逆転していることである。
【0311】
<実施例9>
実施例7と実施例8ではループフィルタに1次LPFを用いていた。しかし、PLLループとしては位相余裕が90°残っているから、1次LPFを1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続として置き換えることができる。本実施例の場合に、用いるループフィルタは図21に示される。
【0312】
図21(a)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0313】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ1+τ2である。
【0314】
(149)式は、実施例7、及び、実施例8においてループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0315】
同様に、図21(b)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C3、Ka=C2/C3である。
【0316】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ2である。
【0317】
(153)式は、前記実施例7及び前記実施例8において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0318】
同様に、図21(c)の場合には
と表わされ、
となっている。ただし、τ1=R1C1、τ2=R2C2、τ3=R3C2である。
【0319】
ここで、簡単化するために、τ1=τ3に設定すれば、
となる。ただし、τ0=τ2である。
【0320】
(157)式は、前記実施例7及び前記実施例8において、ループフィルタにRC1次LPFを用い、その伝達関数F(s)において、τをτ0と置いた場合と等価である。
【0321】
したがって、前記実施例7及び前記実施例8において、ループフィルタを1次LPFとラグリ−ドフィルタをカスケード接続とすることができる。
【0322】
<実施例10>
次に、本発明のPLL回路を用いた周波数設定回路の実施例を説明する。図33は、本発明のVCOを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第1の実施例の構成例を示す図である。図33においては、gm−Cで構成されたVCO回路31と位相検波器(PD)33との間にHPF35を挿入している。本実施例は、図10のgm−C VCO301とPD303の間にHPFを挿入した構成に対応する。
【0323】
<実施例11>
図34は、本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第1の実施例の構成を示す図である。図34においては、gm−Cで構成された2次HPF41(2次gm−C HPF)をVCF回路に用いている。ここでは、基準周波数とVCF出力間の位相差が90°となっている。図36に、複数のOTAと容量からなる差動型の2次HPF41(2次gm−C HPF)の一例を示す(特許文献2参照)。図36を参照すると、2個のOTA1、OTA2からなる等価R151と、2個の容量C1と、OTA3、OTA4からなる等価L152と、容量C2と、OTA5からなる終端抵抗153と、を有する。OTAは、例えば図38の構成とされる。図38に示す例では、差動対M1、M2のデジェネレーション抵抗のかわりに、線形動作領域のトランジスタM3を備え、トランジスタM3のゲート電圧を可変させることで等価的にデジェネレーション抵抗を可変させ、OTAのトランス(相互)コンダクタンスgmを可変させる。図36のOTA1〜OTA5を図38の構成とし、制御電圧VCON(直流電圧)を、OTAのトランジスタM3のゲート電圧として供給するようにしてもよい。
【0324】
あるいは、制御電圧VCONを電圧−電流(V−I)変換器で電流に変換し、V−I変換器の出力電流に基づきOTAの駆動電流を制御し、OTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させるようにしてもよい。図39に、V−I変換器にて制御電圧VCONを電流に変換しOTAの駆動電流を可変させる構成の一例を示す。図39を参照すると、ソースが接地され制御電圧VCONをゲートに入力するn-channel MOSトランジスタM11と、トランジスタM11のドレインと電源VDD間に縦積みされたp-channel MOSトランジスタM12〜M15と、グランドと電源間に接続されたnMOSトランジスタM16〜M19及びpMOSトランジスタM20、M21を備えている。さらに、図38のOTAの電流源I0に対応する電流源としてそれぞれ、n-channel MOSトランジスタ(M22、M23)、n-channel MOSトランジスタ(M24、M25)、p-channel MOSトランジスタ(M26、M27)、p-channel MOSトランジスタ(M28、M29)を備え、トランジスタ(M26、M27)、トランジスタ(M28、M29)はそれぞれ第1のカスコードカレントミラー回路の出力側をなし、またトランジスタ(M22、M23)、トランジスタ(M24、M25)は、第1のカスコードカレントミラー回路の出力電流(トランジスタM20の出力電流)を受ける第2のカスコードカレントミラー回路の出力側を構成しており、制御電圧VCONに対応するトランジスタM11のドレイン電流に対応する電流が、第1及び第2のカスコードカレントミラー回路を介してOTAに供給される。
【0325】
図35は、本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第2の実施例の構成を示す図である。図35においては、gm−Cで構成された1次HPF51をVCF回路に用いており、RC1次LPF57の後段に電源電圧VDDの1/4を基準電圧とする演算増幅器(OP amp)58を挿入している。したがって、基準周波数と1次gm−C HPF51の出力間の位相差は45°となる。図37に、複数のOTAと容量からなる差動型の1次HPF51(1次gm−C HPF)の一例を示す(特許文献1参照)。特に制限されないが、OTA1、OTA2は、例えば図38の構成とされる。演算増幅器(OP amp)58から出力される制御電圧VCON(直流電圧)を、OTAのトランジスタM3のゲート端子に供給するようにしてもよい。あるいは、演算増幅器(OP amp)58から出力される制御電圧VCONを、図39に示したように、電圧−電流変換し、OTAの駆動電流を変化させ、OTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0326】
本発明の活用例として、通常の無線機に用いられるローカル(LO)周波数を生成するPLL回路やクロック生成に係わるPLL回路は勿論のこと、集積回路上に形成されるgm−Cフィルタのチューニング用制御回路のPLL回路に用いることができる。
【0327】
なお、上記の特許文献、非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0328】
【図1】従来のVCOを用いたPLL回路の構成を示す図である。
【図2】従来のVCOを用いた線形PLL回路モデルを示す図である。
【図3】従来のPLL回路に用いるループフィルタの回路構成を示す図である。
【図4】従来のVCOを用いたPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図5】従来のVCOを用いたPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図6】従来のVCFを用いたPLL回路の構成を示す図である。
【図7】従来のVCFを用いた線形PLL回路モデルを示す図である。
【図8】従来のVCFを用いたPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図9】従来のVCFを用いたPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図10】従来のVCOを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタ回路の構成を示す図である。
【図11】従来のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタ回路の構成を示す図である。
【図12】本発明のVCOを用いた第1のPLL回路の構成を示す図である。
【図13】本発明のVCOを用いた第1の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図14】本発明のPLL回路に用いるループフィルタの回路の構成を示す図である。
【図15】本発明のVCOを用いた第1のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図16】本発明のVCOを用いた第1のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図17】本発明のVCOを用いた第2のPLL回路の構成を示す図である。
【図18】本発明のVCOを用いた第2の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図19】本発明のVCOを用いた第2のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図20】本発明のVCOを用いた第2のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図21】本発明のPLL回路に用いるループフィルタ(2次LPF)の回路の構成をを示す図である。
【図22】本発明のVCOとインバータと遅延回路を用いた第3のPLL回路の構成をを示す図である。
【図23】本発明のVCOと分周器を用いた第4のPLL回路の構成をを示す図である。
【図24】本発明のVCOとインバータと遅延回路と分周器を用いた第5のPLL回路の構成を示す図である。
【図25】本発明のVCFを用いた第1のPLL回路の構成を示す図である。
【図26】本発明のVCFを用いた第1の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図27】本発明のVCFを用いた第1のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図28】本発明のVCFを用いた第1のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図29】本発明のVCFを用いた第2のPLL回路の構成を示す図である。
【図30】本発明のVCFを用いた第2の線形PLL回路モデルを示す図である。
【図31】本発明のVCFを用いた第2のPLL回路の閉ループ伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図32】本発明のVCFを用いた第2のPLL回路の位相誤差伝達関数の振幅特性を示す図である。
【図33】本発明のVCOを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の実施例を示す図である。
【図34】本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第1の実施例を示す図である。
【図35】本発明のVCFを用いたPLL回路を制御回路に用いたgm−Cフィルタの周波数設定回路の第2の実施例を示す図である。
【図36】2次gm−C HPFの一例を示す図である。
【図37】1次gm−C HPFの一例を示す図である。
【図38】OTAの一例を示す図である。
【図39】制御電圧を電圧−電流変換しOTAを制御する構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0329】
11 位相検波器
12 ループフィルタ
13 VCO
14 1次HPF
15 2次HPF
16 インバータ回路
17 遅延回路
18 分周器
21 位相検波器
22 ループフィルタ
23 1次HPF
24 2次HPF
31 gm−C VCO
32 gm−Cフィルタ
33 位相検波器
34 ループフィルタ
35 HPF
41 2次gm−C HPF
42 gm−Cフィルタ
43、44 インタフェース回路
45 XNOR
46 インバータ回路
47 ループフィルタ
51 1次gm−C HPF
52 gm−Cフィルタ
53、44 インタフェース回路
55 XNOR
56 インバータ回路
57 ループフィルタ
58 演算増幅器
101 1次gm−C LPF
102 gm−Cフィルタ
103、104 インタフェース回路
105 XNOR
106 インバータ回路
107 ループフィルタ
108 差動増幅器
151 等価R
152 等価L
153 終端抵抗
201 位相検波器
202 ループフィルタ
203 VCO
204 1次LPF
301 gm−C VCO
302 gm−Cフィルタ
303 位相検波器
304 ループフィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器と、
前記周波数発振器からの出力信号を入力する高域通過フィルタ(HPF)と、
高域通過フィルタ(HPF)の出力を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数を入力する位相検波器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として前記周波数発振器に供給される、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器と、
前記周波数発振器からの出力信号の逆相信号を遅延させる遅延回路と、
前記遅延回路の出力を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数を入力する位相検波器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として前記周波数発振器に供給される、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
前記周波数発振器と前記位相検波器との間に挿入された分周回路を備えている、ことを特徴とする請求項1または2記載のPLL回路。
【請求項4】
前記周波数発振器が、複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備えている、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項5】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器と、
前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流成分を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記位相器での位相が進む、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項6】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器と、
前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流電圧を増幅する増幅器を介して出力電圧を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記位相器での位相が進む、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項7】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器と、
前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流電圧は、電圧−電流(V−I)変換器により、電流に変換され、
前記電圧−電流変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記位相器での位相が進む、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項8】
前記位相比較器の出力信号の直流電圧を増幅する増幅器を介して前記電圧−電流変換器により電圧が電流に変換される、ことを特徴とする請求項7記載のPLL回路。
【請求項9】
前記位相器は、2次の高域通過フィルタ(HPF)を含む、ことを特徴とする請求項4または6記載のPLL回路。
【請求項10】
前記位相器は、1次の高域通過フィルタ(HPF)を含む、ことを特徴とする請求項5または7記載のPLL回路。
【請求項11】
前記ループフィルタは、RC1次低域通過フィルタ(LPF)を含む、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一記載のPLL回路。
【請求項12】
前記ループフィルタが、ラグリードフィルタと、RC1次低域通過フィルタ(LPF)がカスケード接続された2次低域通過フィルタ(LPF)を含む、ことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一記載のPLL回路。
【請求項13】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を含み、所定の周波数の交流信号を入力信号として入力し前記入力信号を所定量位相シフトした信号を出力し、前記制御信号により位相のシフト量が制御される高域通過フィルタ(HPF)からなる位相器と、
前記位相器への前記入力信号と、前記位相器から出力される信号とを入力とし、入力した信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を受け直流電圧を出力するループフィルタと、
前記ループフィルタの出力電圧と、入力される基準電圧とを差動増幅する差動増幅器と、
を備え、
前記差動増幅器の出力電圧を制御信号として、前記位相器に帰還入力し、
前記制御信号により、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を可変させ前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記基準電圧は、電源電圧の半分以下の電圧とされる、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一に記載の前記PLL回路からの制御信号により共通に制御される複数のOTAを含むgm−Cフィルタを有する、ことを特徴とする周波数設定回路。
【請求項1】
電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器と、
前記周波数発振器からの出力信号を入力する高域通過フィルタ(HPF)と、
高域通過フィルタ(HPF)の出力を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数を入力する位相検波器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として前記周波数発振器に供給される、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
電気信号により発振周波数が制御される周波数発振器と、
前記周波数発振器からの出力信号の逆相信号を遅延させる遅延回路と、
前記遅延回路の出力を一方の入力端子に入力し、他方の入力端子には基準周波数を入力する位相検波器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流成分が、前記電気信号として前記周波数発振器に供給される、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項3】
前記周波数発振器と前記位相検波器との間に挿入された分周回路を備えている、ことを特徴とする請求項1または2記載のPLL回路。
【請求項4】
前記周波数発振器が、複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備えている、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項5】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器と、
前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流成分を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記位相器での位相が進む、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項6】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器と、
前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流電圧を増幅する増幅器を介して出力電圧を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記位相器での位相が進む、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項7】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を備え、所定の周波数の交流信号を入力する位相器と、
前記位相器への入力信号と前記位相器からの出力信号を入力とし、入力信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を入力するループフィルタと、
を備え、前記ループフィルタからの直流電圧は、電圧−電流(V−I)変換器により、電流に変換され、
前記電圧−電流変換器の出力電流を制御信号として、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を変化させることで、前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記位相器での位相が進む、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項8】
前記位相比較器の出力信号の直流電圧を増幅する増幅器を介して前記電圧−電流変換器により電圧が電流に変換される、ことを特徴とする請求項7記載のPLL回路。
【請求項9】
前記位相器は、2次の高域通過フィルタ(HPF)を含む、ことを特徴とする請求項4または6記載のPLL回路。
【請求項10】
前記位相器は、1次の高域通過フィルタ(HPF)を含む、ことを特徴とする請求項5または7記載のPLL回路。
【請求項11】
前記ループフィルタは、RC1次低域通過フィルタ(LPF)を含む、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一記載のPLL回路。
【請求項12】
前記ループフィルタが、ラグリードフィルタと、RC1次低域通過フィルタ(LPF)がカスケード接続された2次低域通過フィルタ(LPF)を含む、ことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか一記載のPLL回路。
【請求項13】
複数のOTA(operational transconductance amplifier)と容量を含み、所定の周波数の交流信号を入力信号として入力し前記入力信号を所定量位相シフトした信号を出力し、前記制御信号により位相のシフト量が制御される高域通過フィルタ(HPF)からなる位相器と、
前記位相器への前記入力信号と、前記位相器から出力される信号とを入力とし、入力した信号間の位相差に応じた信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器の出力信号を受け直流電圧を出力するループフィルタと、
前記ループフィルタの出力電圧と、入力される基準電圧とを差動増幅する差動増幅器と、
を備え、
前記差動増幅器の出力電圧を制御信号として、前記位相器に帰還入力し、
前記制御信号により、前記位相器を構成する少なくとも1つのOTAのトランスコンダクタンス(gm)を可変させ前記位相器での位相差が一定値になるように制御するフェーズロックドループ(PLL)を有し、
前記基準電圧は、電源電圧の半分以下の電圧とされる、ことを特徴とするPLL回路。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一に記載の前記PLL回路からの制御信号により共通に制御される複数のOTAを含むgm−Cフィルタを有する、ことを特徴とする周波数設定回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公開番号】特開2008−278016(P2008−278016A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117319(P2007−117319)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】
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