説明

PTO軸回転数制御装置

【課題】PTO軸の上限回転数が予め設定しておいた所望の回転数に制限されるように構成し、PTO軸の回転数が回転上限値に達したとき、連動駆動しているエンジンの回転数がアクセルペダルをさらに踏み込んでもそのときの回転数以上に上昇しないよう制限するPTO軸回転数制御装置を提案するものである。
【解決手段】機体にPTO軸11を備え、エンジン4からの動力をPTO軸11に伝えて作業機を駆動可能に構成し、エンジン4の回転数を設定する手段と、該設定手段で設定した回転数となるように制御するコントローラ20を備えたPTO軸回転数制御装置であって、PTO軸11の回転数の上限値を設定するPTO軸回転数設定手段と、エンジン4の出力軸の回転数を検知する手段とを備え、エンジン4の回転数を設定する手段をPTO軸11の回転数の上限値を越える操作をしても、PTO軸11は上限値を越えないようにエンジン4を制御した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両、特に、農用作業車や建設作業車等の機体に備えられたPTO(動力取出)軸の回転数を設定した最高回転数に制限する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農業用トラクタや建設機械等の作業車両では、車体の後部または前部に作業機を装着し、該車体に搭載したエンジンの回転をPTO軸へ伝え、該PTO軸を介して前記作業機へ動力伝達可能にしている技術は公知となっている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、農業用トラクタにて圃場を耕耘する際は、車体の後部にリンク機構にてロータリ耕耘装置を連結し、ユニバーサルジョイントを介してPTO軸の回転をロータリ耕耘装置へ伝達する構成となっている。
【特許文献1】特開2000−87773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のトラクタでは、PTO軸がエンジンの出力軸と直結またはPTO変速装置を介して連結しているため、PTO軸の回転数はエンジンの回転数に比例して増減していた。そのため、それに起因する問題としては、薬剤散布機や播種機や収穫機等の作業機を装着したトラクタではPTO軸からの動力で該作業機を駆動し薬剤散布や作物の種子を播いたり、収穫等の作業を行うが、作業開始時に誤っていきなりトラクタのアクセルレバーを最高位置まで回動したり、作業時に誤ってアクセルペダルを踏み込んだりすると、エンジンの出力回転も最高回転まで回転してPTO軸も高速で回転することになり、圃場に過剰の薬剤を散布したり、播種したりし、また、誤ってアクセルレバーやアクセルペダルを操作した場合には、その操作した圃場の部分だけ種子や薬剤等が集中散布してしまい圃場上に散布のムラができたり、収穫物を高速で搬送して傷めたりし、又、エンジンが高速で回転したことにより、同調してPTO軸が高速で回転して作業機に過剰に負荷がかかり作業機の耐久性が下がる等といった問題があった。
【0005】
以上の不具合を解決すべく、本発明は、PTO軸の上限回転数が予め設定しておいた所望の回転数に制限されるように構成し、PTO軸の回転数が回転上限値に達したとき、連動駆動しているエンジンの回転数がアクセルペダルをさらに踏み込んでもそのときの回転数以上に上昇しないよう制限するPTO軸回転数制御装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、機体にPTO軸を備え、エンジンからの動力をPTO軸に伝えて作業機を駆動可能に構成し、エンジンの回転数を設定する手段と、該設定手段で設定した回転数となるように制御するコントローラを備えたPTO軸回転数制御装置であって、PTO軸の回転数の上限値を設定するPTO軸回転数設定手段と、エンジンの出力軸の回転数を検知する手段とを備え、エンジンの回転数を設定する手段をPTO軸の回転数の上限値を越える操作をしても、PTO軸は上限値を越えないようにエンジンを制御したものである。
【0008】
請求項2においては、前記PTO軸の回転数を制限する(制限モード)か制限しないかを切り換える手段を設けたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、PTO軸の上限回転数が予め設定しておいた所望の回転数(例えば、540rpm)に制限できるので、作業時に誤って操作手段にふれても、PTO軸は設定回転数以上に回転することがなく、正確な作業ができるようになり、また、PTO軸の回転数の増加により過負荷が掛かって作業機を傷めることもなくすことができる。
【0011】
請求項2においては、作業の種類に応じて、PTO軸の回転数の上限を設定したり、設定しないように任意に切り換えて選択できる。具体的には、播種作業や散布作業等の一定回転で作業機を駆動してムラなく播種や散布したいときには、PTO軸の回転数の上限を設定し、除雪作業等では制限を設けることなくアクセルペダル等の操作に比例した回転数が得られるようにしたい場合には、切換手段を切り換えて制限をOFFとして作業することができ、容易に切り換え選択できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図、図2はPTO軸回転数制御系のブロック図、図3は本発明に係るPTO軸回転数制御装置が行う一連の処理の一例を示したフローチャートである。
【0013】
図1を用いて、本発明の一実施例に係るトラクタ1の全体的な構成について説明する。
トラクタ1の車体の前後には、前輪2・2および後輪3・3をそれぞれ配置し、車体の前部にエンジン4を内蔵するボンネット8が配置され、車体の後部にキャビン5が配置される。
キャビン5内には、ステアリングハンドル6を設けて、該ステアリングハンドル6の後方にはシート7を配設している。
エンジン4の後方にはクラッチハウジング9を配置し、該クラッチハウジング9の後方にトランスミッションケース(以下ミッションケース)10を連結し、エンジン4からの動力を後輪3に伝達して駆動している。
【0014】
また、エンジン4の駆動力は、ミッションケース10後端から突出したPTO軸(動力取出し軸)11に伝達されるように構成されており、該PTO軸11の回転により、機体後端にユニバーサルジョイントや伝動軸などを介して接続した作業機(不図示)を駆動するように構成している。但し、PTO軸は機体前方に突出したり、前輪と後輪との間に突出したりすることも可能であり、PTO軸の配設位置は限定するものではない。
【0015】
図2はPTO軸回転数制御装置のブロック図である。
前記キャビン5内の操縦部には、エンジン4の回転数を設定する手段となるアクセルペダル21とアクセルレバー22、PTO軸回転数設定手段となるPTO軸回転数設定ダイヤル23、PTO軸11の回転数を制限する(制限モード)か制限しないかを切り換える手段となる制限スイッチ24、主変速レバー、副変速レバー、PTO変速レバー28等が配設され、該アクセルペダル21とアクセルレバー22の回動量はポテンショメータ等の回動量検出手段29により検出され、該回動量検出手段29は制御手段であるコントローラ20と接続されている。また、作業等に合わせてPTO軸11の最高(上限)回転数をPTO軸回転数設定ダイヤル23により設定可能としており、ステアリングハンドル6前部に配置した表示パネル31で設定回転数を表示できるようにするとともに、PTO軸回転数設定ダイヤル23で設定した値はコントローラ20に入力される。PTO軸回転数制限モードの制限スイッチ24はPTO軸11の最高回転数を制限するかどうかを設定するスイッチであり、コントローラ20と接続されている。
【0016】
また、前記PTO変速レバー28の操作による変速位置を検知するために、PTO変速レバー28の回動基部にはPTO変速位置検知手段27が設けられ、コントローラ20と接続されている。そして更に、エンジン4の出力回転をエンジン回転数センサ26で検知し、該エンジン4の出力回転に比例するPTO軸11の回転数を検知できるようにして、コントローラ20に入力するようにしている。つまり、PTO軸11の回転数はエンジン4の出力回転とPTO変速装置の変速位置により算出することができる。
そして、コントローラ20にはエンジンコントローラ30と接続され、コントローラ20に入力されたこれらの信号に基づき、エンジン4の回転数を制御してPTO軸11の最高回転数を制御できるようにしている。
【0017】
前記エンジン4とPTO軸11との間には歯車等により構成されるPTO変速装置が配設され、前記PTO変速レバー28の操作により変速可能としている。本発明においては、詳細は後述するが、予めPTO軸回転数設定ダイヤル23で所望の上限回転数を設定しておくことで、そのPTO軸11の上限回転数に応じてエンジン4の回転数が制御される。
【0018】
次に、本発明に係るPTO軸11の回転数の上限を制限する制御、即ち、PTO軸回転数制御について、PTO軸回転数制御装置が行う一連の処理の一例を示した図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0019】
通常トラクタ1では、PTO軸11の回転数はエンジン4の回転数に比例するように構成している。そのため、肥料散布機や播種機等の作業を行う時に、誤ってアクセルペダル21を踏み込んで最高位置の回転数で作業すると、エンジン4から駆動伝達しているPTO軸11も高速で回転し過剰な散布や播種を行ってしまい播種ムラや散布ムラができてしまう。又、エンジン4が高速で回転したことにより、同調してPTO軸11も高速で回転し、作業機に過剰に負荷がかかり作業機の耐久性が下がる等といった問題があった。
【0020】
そこで、本発明は、作業時において、アクセルレバー22またはアクセルペダル21を設定回転数からさらに回転数増加側へ回動しても、PTO軸11の上限回転数が予め設定しておいた所望の回転数(例えば、540rpm)に制限されるように構成し、PTO軸11の回転数が回転上限値に達したとき、連動駆動しているエンジン4の回転数がアクセルペダル21(またはアクセルレバー22)をさらに踏み込んでもそのときの回転数以上に上昇しないよう制御するようにしている。
【0021】
まず、作業を開始する時に、作業の種類によってPTO軸11の最高設定回転数(制限モード)が必要かどうかを設定するための制限スイッチ24のON/OFFを判断する(S10)。つまり、播種作業や散布作業等を行う時には、制限スイッチ24をONとして、コントローラ20は表示パネル31に制限モードあることを表示し、制限スイッチ24がOFFの場合は制限モードに入らない。表示パネル31には制限モードでないことを表示してもかまわない。
ここでいう「制限モード」とは、本発明に係るPTO軸回転制御装置、即ち、PTO軸11の上限回転数が予め設定しておいた所望の回転数(例えば、540rpm)に制限されるように構成し、PTO軸11の回転数が回転上限値に達したとき、連動駆動しているエンジン4の回転数がアクセルペダル21をさらに踏み込んでもそのときの回転数以上に上昇しないように、PTO軸11の回転数を制限するモードのことである。
【0022】
制限スイッチ24がONとされ、制限モードにあると判断された(S10)場合には、PTO軸回転数設定ダイヤル23で入力された値を読み込みコントローラ20のメモリに記憶する。そして、PTO軸11の実回転数をエンジン4の回転数とPTO変速装置の変速段から演算してコントローラ20のメモリに読み込む。つまり、エンジン回転数はエンジン回転数センサ26により取得でき、PTO変速段は変速位置検知手段27より取得でき、エンジン回転数と変速比よりPTO回転数を算出できるのである。(S20)。但し、PTO軸回転数設定ダイヤル23で入力された値は表示パネル31で表示することにより、容易にPTO軸の上限回転数を設定できる。なお、PTO軸回転数設定時において、PTO変速装置の変速段を変更することにより設定できる範囲も変更される。
【0023】
そして、PTO軸11の回転数と回転数の上限設定値とを比較して、PTO軸11の回転数が上限設定値以下であるかどうかを、判断する(S30)。
このステップS30の判断において、PTO軸11の回転数が上限設定値以下であると判断された場合には前記システムの処理はステップS40へ移行し、他方、PTO軸11の回転数が上限設定値を越えていると判断された場合はステップS50へ移行する。
【0024】
PTO軸11の回転数がステップS20で設定した上限設定値以下の場合には、アクセルレバー22またはアクセルペダル21により設定した回転数を回動量検知手段29で検知してコントローラ20に入力し、該コントローラ20よりエンジンコントローラ30に出力してエンジン4をアクセルレバー22またはアクセルペダル21により設定した回転数となるように制御する。つまり、PTO軸11の回転数が上限設定値となるまでエンジン4の回転数を上昇させることができる。
【0025】
他方、ステップS30の判断において、PTO軸11の回転が制限モードにあり(S10)、且つ、PTO軸11の回転数が前記PTO軸回転数設定ダイヤル23で設定した上限設定値を越えたと判断された(S30)場合には、コントローラ20は、アクセルレバー22を更に回動しても、または、アクセルペダル21をさらに踏み込んでもエンジン4の回転数がそれ以上上昇しないように該エンジン4の回転数の上昇を制限する(S50)。
【0026】
具体的には、アクセルレバー22の回動量またはアクセルペダル21の踏み込み量は回動量検出手段29により検知されており、該回動量検出手段29の検出値から演算したPTO回転数がPTO軸回転数設定ダイヤル23で設定した上限設定値を越える値となれば、PTO軸回転数設定ダイヤル23で設定した上限設定値となるエンジン回転数で上昇を停止して、回動量検出手段29の検出値の如何に関わらずエンジン回転数は一定回転(PTO上限設定回転数となるエンジン回転数)となる。つまり、アクセルペダル21をそれ以上踏み込んでもエンジン4の回転数が増加しないように構成されている。
【0027】
以上のように、PTO軸11の回転数が回転上限値に達したとき、連動駆動しているエンジン4の回転数がアクセルペダル21をさらに踏み込んでもそのときの回転数以上に上昇しないよう制限する構成にしたことにより、誤って高速でPTO軸11が回転することに起因していた作業機への過剰負荷等の問題を防ぐことができる。
【0028】
逆に、アクセルレバー22を最高位置から設定位置まではPTO軸回転数設定ダイヤル23で設定した上限設定値となるまで回転数の変化はなく、PTO軸回転数設定ダイヤル23で設定した上限設定値以下では、アクセルレバー22で設定した回転数とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係るトラクタの全体的な構成を示した側面図。
【図2】PTO軸回転数制御系のブロック図。
【図3】本発明に係るPTO軸回転数制御装置が行う一連の処理の一例を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0030】
4 エンジン
11 PTO軸
20 コントローラ
23 PTO軸回転数設定ダイヤル
24 制限スイッチ
26 エンジン回転数センサ
27 PTO軸変速位置検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体にPTO軸を備え、エンジンからの動力をPTO軸に伝えて作業機を駆動可能に構成し、エンジンの回転数を設定する手段と、該設定手段で設定した回転数となるように制御するコントローラを備えたPTO軸回転数制御装置であって、PTO軸の回転数の上限値を設定するPTO軸回転数設定手段と、エンジンの出力軸の回転数を検知する手段とを備え、エンジンの回転数を設定する手段をPTO軸の回転数の上限値を越える操作をしても、PTO軸は上限値を越えないようにエンジンを制御したことを特徴とするPTO軸回転数制御装置。
【請求項2】
前記PTO軸の回転数を制限する(制限モード)か制限しないかを切り換える手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のPTO軸回転数制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−299902(P2006−299902A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122258(P2005−122258)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】