説明

SAWフィルタおよびFSK受信機

【課題】複数の通過帯域を備えたSAWフィルタを提供する。また、このSAWフィルタを備えたFSK受信機を提供する。
【解決手段】SAWフィルタ10は、複数の電極指の基端を接続した第1櫛部161と第2櫛部162を有し、第1櫛部161の電極指間に第2櫛部162の電極指を配設した第1IDT14と、この第1IDT14を挟み込む位置に配設した第1反射器24と、バスバー403の両辺403a,403bに複数の電極指を接続した第3櫛部343と、複数の電極指の基端を接続した複数の第4櫛部344(344a,344b)とを有し、このバスバー403の一方の辺403aと他方の辺403bのそれぞれに第4櫛部344を対向させ、第3櫛部343の電極指間に第4櫛部344の電極指を配設した第2IDT32と、この第2IDT32を挟み込む位置に配設した第2反射器42とを圧電基板11に設けた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAWフィルタおよびFSK受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周波数シフトキーイング(FSK)は、少なくとも2種類の周波数を利用して信号を変調しているので、これの受信機にはそれぞれの周波数に応じた通過帯域を備えたフィルタが必要になる。そして特許文献1は、圧電基板の一端側に中心周波数f0の弾性表面波(SAW)を受信するすだれ状電極(IDT)と、他端側に中心周波数f1のSAWを受信するIDTとを配設し、これらのIDTの間にSAWを励振するIDTとを配設したSAW素子について開示している。このようなSAW素子の前段にアンテナ等を接続するとともに、SAW素子の後段に2系統の検波器等と、これを合成するデコーダとを接続することで、FSK受信機を構成している。
【0003】
また特許文献2は、縦モード結合型の2つのフィルタを横モードに音響的または電気的に結合して、両フィルタの特性を周波数軸上で合成し、広帯域化したSAWフィルタについて開示している。なお特許文献2については、解決しようとする課題が本願発明と異なっている。また特許文献3は、切替回路によってSAW共振子に異なるモードを発振させることについて開示している。なお特許文献3については、構造および用途が本願発明と異なっている。
【特許文献1】特開平10−13476号公報(段落0017)
【特許文献2】特開平6−232687号公報
【特許文献3】特開2005−303359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたSAW素子はトランスバーサル型SAWフィルタのため、励振されたSAWが圧電基板の両端へ伝搬して行き、伝搬消失するエネルギによりQ値を高くすることができない。そしてQ値が低いために、圧電基板を伝搬してきたSAW(周波数)を選別することができず、周波数精度が悪くなってしまう。これによりノイズの除去ができなくなるので、妨害波や熱雑音等の抑圧が不十分になり、受信機の感度が悪くなってしまう。また周波数精度が悪いので、2つの周波数を識別するには周波数の差が十分に離れていなければならない。したがって比較的制約の緩やかな微弱無線の範囲でしか用いることができない。
【0005】
本発明は、複数の通過帯域を備えたSAWフィルタを提供することを目的とする。また本発明は、このSAWフィルタを備えたFSK受信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るSAWフィルタは、圧電基板と、弾性表面波の伝搬方向に配置された第1入力IDTおよび第1出力IDTと、第1入力IDTおよび第1出力IDTを挟むように圧電基板上に形成された一対の反射器とを圧電基板上に有する第1フィルタと、弾性表面波の伝搬方向に配置された第2入力IDTおよび第2出力IDTと、第2入力IDTおよび第2出力IDTを挟むように圧電基板上に形成された一対の反射器とを圧電体基板上に有する第2フィルタと、を有するSAWフィルタであって、第2入力IDTは、2つの分割入力IDTを有し、2つの分割入力IDTの電極指は、互いに励振位相が180°異なるように配置され、第2出力IDTは、2つの分割出力IDTを有し、2つの分割出力IDTの電極指は、互いに励振位相が180°異なるように配置されていることを特徴としている。
【0007】
これにより第1IDTは、横方向(伝搬方向と直交する方向)に関して同位相の振動が励起されるために横モードの対称モードを励振できる。他方、第2IDTは、伝搬方向の所定の位置で、電極指の電極符号が互いに反転している電極指を有している。よって横方向に対して反対称な振動分布をもつ横モードの反対称モードを励振できる。したがって、このSAWフィルタを、通過帯域の異なる2つの狭帯域フィルタとして使用できる。またそれぞれの狭帯域フィルタは、SAWのエネルギを反射器で閉じ込めできるので、Q値の高い共振系を得る。このため各狭帯域フィルタで精度良く周波数を選別できるので、SAWフィルタの周波数精度を高くできる。そして入力される信号から雑音を除去できる。また各狭帯域フィルタの周波数差、すなわちFSK信号の周波数偏移を小さくできる。
【0008】
本発明に係るSAWフィルタは、複数の電極指の基端を接続した第1櫛部と第2櫛部とを有し、この第1櫛部の電極指間に第2櫛部の電極指を配設した第1IDTと、第1IDTを挟み込む位置に配設した第1反射器と、バスバーの両辺に複数の電極指を接続した第3櫛部と、複数の電極指の基端を接続した複数の第4櫛部とを有し、バスバーの各辺に第4櫛部を対向させ、第3櫛部の電極指間に第4櫛部の電極指を配設した第2IDTと、第2IDTを挟み込む位置に配設した第2反射器とを圧電基板に設けたことを特徴としている。
【0009】
これにより第1IDTに対称モードを励振でき、第2IDTに反対称モードを励振できるから、SAWフィルタは、通過帯域の異なる2つの狭帯域フィルタを得る。またそれぞれの狭帯域フィルタは、SAWのエネルギを反射器で閉じ込めできるので、Q値の高い共振系を得る。このため各狭帯域フィルタで精度良く周波数を選別できるので、SAWフィルタの周波数精度を高くできる。そして入力される信号から雑音を除去できる。また各狭帯域フィルタの周波数差、すなわちFSK信号の周波数偏移を小さくできる。
【0010】
また前述した第1IDTは、電気信号を入力してSAWを励振する第1入力IDTと、SAWを受信して電気信号に変換し出力する第1出力IDTとを備え、第2IDTは、電気信号を入力してSAWを励振する第2入力IDTと、SAWを受信して電気信号に変換し出力する第2出力IDTとを備えたことを特徴としている。これにより前述した特徴を有する2ポートのSAWフィルタを得る。
【0011】
また本発明に係るSAWフィルタは、第1入力IDTの第1櫛部と、第2入力IDTの第4櫛部とを導通したことを特徴としている。第1IDTと第2IDTとの形状の違いによって、第1IDTに対称モードを励振でき、第2IDTに反対称モードを励振できる。このため第1入力IDTおよび第2入力IDTに信号が同時に入力しても、この信号の周波数を選別して出力できる。
【0012】
また本発明に係るSAWフィルタは、複数のIDTを並列に配置した電気信号の入力IDTと、複数のIDTを並列に配置した電気信号の出力IDTと、入力IDTおよび出力IDTを挟み込む位置に配置した反射器とを圧電基板に設け、入力IDTを構成する1つのIDTと、出力IDTを構成する1つのIDTとに、それぞれのIDTの極性を連動して切り替えるスイッチ部を接続したことを特徴としている。
【0013】
IDTの極性を反転させることにより、SAWフィルタに対称モードまたは反対称モードを励振できる。すなわち1つのSAWフィルタで、中心周波数の異なる狭帯域フィルタが複数得られる。またスイッチ部によってIDTの極性を反転できるから、SAWフィルタの出力を1系統にでき、この後段に接続する回路の構成を簡単にできる。さらにSAWフィルタは、SAWのエネルギを反射器で閉じ込めできるので、Q値の高い共振系を得る。このため各狭帯域フィルタで精度良く周波数を選別できるので、SAWフィルタの周波数精度を高くできる。そして入力される信号から雑音を除去できる。また各狭帯域フィルタの周波数差、すなわちFSK信号の周波数偏移を小さくできる。
【0014】
また本発明に係るSAWフィルタは、複数のIDTを並列に配置した電気信号の入力IDTと、複数のIDTを並列に配置した電気信号の出力IDTと、入力IDTおよび出力IDTを挟み込む位置に配置した反射器とを圧電基板に設け、出力IDTを構成する1つのIDTに極性を切り替えるスイッチ部を接続したことを特徴としている。
【0015】
出力IDTを構成するIDTのみにスイッチ部を接続したので、スイッチの切り替えを行う時の電力を低減できるとともに、SAWフィルタの回路構成を簡単にできる。またIDTの極性を反転させることにより、SAWフィルタに対称モードまたは反対称モードを励振できる。すなわち1つのSAWフィルタで、中心周波数の異なる狭帯域フィルタが複数得られる。またスイッチ部によってIDTの極性を反転できるから、SAWフィルタの出力を1系統にでき、この後段に接続する回路の構成を簡単にできる。またSAWフィルタは、SAWのエネルギを反射器で閉じ込めできるので、Q値の高い共振系を得る。このため各狭帯域フィルタで精度良く周波数を選別できるので、SAWフィルタの周波数精度を高くできる。そして入力される信号から雑音を除去できる。また各狭帯域フィルタの周波数差、すなわちFSK信号の周波数偏移を小さくできる。
【0016】
また本発明に係るSAWフィルタは、前述した入力IDTを構成する1つのIDTを、複数のストリップ電極で形成したことを特徴としている。このような構成のSAWフィルタであっても、前述した効果を得ることができる。
【0017】
また本発明に係るFSK受信機は、前述したSAWフィルタを備えており、アンテナ、アンプ、SAWフィルタ、複数の検波器およびデコーダを直列に接続したことを特徴としている。
【0018】
FSK受信機はダイレクト検波方式を取ることができる。またFSK受信機は、SAWフィルタから出力した信号を構成の簡単な回路で検波できる。またFSK受信機に用いるSAWフィルタは、前述したようにQ値が高いものであるから周波数精度が向上しており、周波数偏移を小さくできる。このためFSK受信機は、微弱無線以外の用途に使用することができる。さらにFSK受信機は、感度も向上している。
【0019】
また本発明に係るSAWフィルタは、前述したSAWフィルタを備えており、アンテナ、アンプ、SAWフィルタ、検波器およびデコーダを直列に接続し、切り替え信号に同期して、SAWフィルタのスイッチ部の切り替え、およびデコーダにおいて入力信号の判定を行うことを特徴としている。
【0020】
これによりSAWフィルタの出力が1系統になるから、検波器を1系統にのみ設ければよい。このためSAWフィルタの後段の回路構成が簡単になり、電力消費を低減できる。またスイッチ部を出力IDTのみに接続すれば、さらに電力消費を低減できる。またFSK受信機はダイレクト検波方式を取ることができる。またFSK受信機は、SAWフィルタから出力した信号を構成の簡単な回路で検波できる。またFSK受信機に用いるSAWフィルタは、前述したようにQ値が高いものであるから周波数精度が向上しており、周波数偏移を小さくできる。このためFSK受信機は、微弱無線以外の用途に使用することができる。またFSK受信機は、感度も向上している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係るSAWフィルタおよびFSK受信機の実施形態について説明する。まず第1の実施形態について説明する。図1は第1の実施形態に係るSAWフィルタの説明図である。ここで図1(A)はSAWフィルタの概略平面図、図1(B)は第1入力IDTの概略平面図、図1(C)は第2入力IDTの概略平面図である。第1の実施形態に係るSAWフィルタ10は、横モードの対称モードを励振する第1SAWフィルタ12と、横モードの反対称モードを励振する第2SAWフィルタ30を備えている。
【0022】
第1SAWフィルタ12は第1IDT14と、この第1IDT14で励振されたSAWの伝搬方向において第1IDT14を挟み込むように配置した第1反射器24とを圧電基板11に設けた構成である。第1IDT14は、電気信号を入力して圧電基板11にSAWに励振する第1入力IDT16と、伝搬してきたSAWを受信し電気信号に変換して出力する第1出力IDT18とを備えている。第1入力IDT16は、1対の櫛部を噛み合せることで形成してある。すなわち第1入力IDT16は、複数の電極指20の基端をバスバー22で接続してなる櫛部(第1櫛部161および第2櫛部162)を有しており、第1櫛部161の電極指201の間に第2櫛部162の電極指202を配置することで形成してある。また第1出力IDT18は、第1入力IDT16と同じ形状になっている。第1入力IDT16および第1出力IDT18に幾何学的反転、回転等を施し、さらに電気的に等価な接続に変更可能である。第1入力IDT16と第1出力IDT18の電極指本数を数%程度異なる構成とすることが可能である。
【0023】
第2SAWフィルタ30は第2IDT32と、この第2IDT32で励振されたSAWの伝搬方向において第2IDT32を挟み込むように配置した第2反射器42とを圧電基板11に設けた構成である。第2IDT32は、電気信号を入力して圧電基板11にSAWに励振する第2入力IDT34(2つの分割入力IDT)と、伝搬してきたSAWを受信し電気信号に変換して出力する第2出力IDT36(2つの分割出力IDT)とを備えている。この第2出力IDT36は、第2入力IDT34と同じ形状になっている。第2入力IDT34および第2出力IDT36に幾何学的反転、回転等を施し、さらに電気的に等価な接続に変更可能である。第2入力IDT34と第2出力IDT36の電極指本数を数%程度異なる構成とすることが可能である。
【0024】
第2入力IDT34は、少なくとも3つの櫛部(少なくとも1つの第3櫛部343と、少なくとも2つの第4櫛部344(344a,344b))を有している。この第3櫛部343は複数の電極指383を有しており、バスバー403の一方の辺403aに電極指383aの基端を接続するとともに、他方の辺403bに電極指383bの基端を接続したものである。また第4櫛部344は、複数の電極指384の基端をバスバー404で接続したものである。そして第2入力IDT34は、第4櫛部344aと第4櫛部344bとの間に第3櫛部343を配置するとともに、第4櫛部344a,344bの電極指384の間に第3櫛部343の電極指383(383a,383b)を配置することで形成してある。換言すると第2入力IDT34は、第3櫛部343を構成するバスバー403の一方の辺403aに設けた電極指383aの間に第4櫛部344aの電極指384を配置するとともに、第3櫛部343を構成するバスバー403の他方の辺403bに設けた電極指383bの間に第4櫛部344bの電極指384を配置することで形成してある。
【0025】
そして第2IDT32おいて、1つの第4櫛部344(第4櫛部344aまたは第4櫛部344b)に設けられている電極指384と、これに対向している第3櫛部343の電極指383とが交差している部分の幅(交差幅)をW2とするとともに、第1IDT14において第1櫛部161の電極指201と第2櫛部162の電極指202の交差幅をW1とすると、図1に示す場合ではW2<W1の関係になっている。
【0026】
第1反射器24および第2反射器42は、第1櫛部161の電極指201等に沿った導体ストリップ48を有し、その両端を接続した構成である。なお図1では、第1反射器24と第2反射器42をそれぞれ圧電基板11に配設しているが、実施形態によっては隣接する第1反射器24の導体ストリップ48と第2反射器42の導体ストリップ48を接続することもできる。すなわち第1IDT14と第2IDT32を1対の反射器で挟み込む形態であってもよい。
【0027】
そして前述した第1IDT14および第2IDT32には、電気信号を入力するための信号線(入力信号線50)および電気信号を出力するための信号線(出力信号線52)が接続している。具体的には、入力信号線50は、第1入力IDT16の第1櫛部161に接続するとともに、途中で分岐して第2入力IDT34の各第4櫛部344に接続している。すなわち第1入力IDT16の第1櫛部161と、第2入力IDT34の各第4櫛部344a,344bは、入力信号線50を介して導通している。
【0028】
また出力信号線52のうちの1つは、第1出力IDT18の第1櫛部181に接続するとともに、他は、第2出力IDT36の第4櫛部364に接続している。そして第2出力IDT36の各第4櫛部364に接続した出力信号線52は、途中で接続している。なお第1出力IDT18の第1櫛部181と第2出力IDT36の第4櫛部364は、出力信号線52を介して導通していない。
【0029】
また第1IDT14の第2櫛部162,182と第2IDT32の第3櫛部343,363は接地している。
【0030】
なお第1SAWフィルタ12と第2SAWフィルタ30は、それぞれで励振されるSAWが結合しない距離を保って圧電基板11に配設されている。
【0031】
次に、第1の実施形態に係るSAWフィルタ10の作用について説明する。まずSAWフィルタ10は、入力信号線50を介して電気信号を入力する。この電気信号は、第1入力IDT16および第2入力IDT34のそれぞれに入力する。すると第1,2入力IDT16,34は、圧電基板11にSAWを励振する。そして第1入力IDT16で励振されたSAWは、第1SAWフィルタ12内を伝搬して第1反射器24で反射される。これにより第1反射器24の間に定在波が生じる。第1IDT14は、横方向(伝搬方向と直交する方向)に電極指20が連続しているため、横方向に関して同位相の振動が励起され横モードの対称モードを励振できる。なお、この第1SAWフィルタ12の中心周波数はf1となっている。
【0032】
また第2入力IDT34で励振されたSAWは第2反射器42の間に閉じ込められるので、第2反射器42の間に定在波が生じる。このとき第2IDT32は、第4櫛部344,364の間に第3櫛部343,363を有している。そして第2IDT32は伝搬方向に同一位置の電極指38の電極符号が上下の電極指(383,384)で反転する(180°位相が異なる)ような幾何学構造および電極的接続となっているために、横方向に対して反対称な振動分布をもつ横モードの反対称モードを励振できる。なお、この第2SAWフィルタ30の中心周波数はf2になっている。なお第1IDT14を横方向(伝搬方向と直交する方向)に分割して中央にバスバーを設け、対称モードが励振可能なように電極指符号、電気的接続を変更可能である。また第3櫛部343のバスバー403を上下の電極用に分割して、反対称モードが励振可能なように電極指符号、電気的接続を変更可能である。
【0033】
そして第1,2出力IDT18,36は、それぞれSAWを受信して電気信号に変換する。第1出力IDT18で変換された電気信号は、出力信号線52を介して出力される。また第2出力IDT36で変換された電気信号は、出力信号線52を介して出力される。なお出力される電気信号は、第1,2SAWフィルタ12,30でそれぞれ濾波されているので、ノイズが除去されている。
【0034】
ここで圧電基板11としてSTカット水晶基板を用いた場合には、反対称モードのSAWの周波数が対称モードのSAWの周波数よりも高くなる。すなわち第2SAWフィルタ30の中心周波数f2は、第1SAWフィルタ12の中心周波数f1よりも高くなる。これに対し、圧電基板11を他の圧電材料で形成した場合には、反対称モードのSAWの周波数が対称モードのSAWの周波数よりも低くなることもある。
これによりSAWフィルタ10は、異なる周波数の電気信号、例えば周波数f1とf2の電気信号を出力する。
【0035】
以上のように、SAWフィルタ10は、圧電基板11に励振される横モードが異なっている中心周波数f1の第1SAWフィルタ12(狭帯域フィルタ)と、中心周波数f2の第2SAWフィルタ30(狭帯域フィルタ)を有している。この第1SAWフィルタ12および第2SAWフィルタ30は、それぞれ第1反射器24と第2反射器42でSAWを閉じ込めているので、Q値の高い共振系を得る。このため第1SAWフィルタ12および第2SAWフィルタ30のそれぞれでSAW(周波数)の選別を精度良くできるので、SAWフィルタ10の周波数精度を高くできる。
【0036】
またQ値の向上により、SAWフィルタ10に入力される電気信号に含まれる雑音も除去できるので、妨害波や熱雑音等の抑圧を十分にでき、SAWフィルタ10を用いたFSK受信機の感度を高くできる。また周波数精度の向上により、2つの周波数を識別するのに周波数の差が十分に離れている必要はない。
【0037】
またSAWフィルタ10は、第1SAWフィルタ12と第2SAWフィルタ30を1つの圧電基板11の上に設けているので、製造バラツキによってFSKの重要な特性値である周波数差、すなわちf1とf2の差に変動が生じることを防止できる。すなわち第1SAWフィルタと第2SAWフィルタをそれぞれ別の圧電基板上に形成すると、IDTや反射器(電極パターン)の膜厚に違いが生じたり、エッチング時において電極パターンの抜け方(形状)に違いが出たりするので、周波数がSAWフィルタ間で別々に変動してしまう。これに対し本実施形態のように、第1SAWフィルタ12と第2SAWフィルタ30を近接させた状態で製造すると、電極パターンの膜厚や形状に大きな違いが出ないので、製造バラツキによる周波数差を小さくすることができる。よってSAWフィルタ10は、中心周波数f1と中心周波数f2の差(周波数偏移)にバラツキを生じ難くできる。またf1とf2を同時に周波数調整することで、周波数調整が容易に行える。
【0038】
次に、第2の実施形態について説明する。図2は第2の実施形態に係るSAWフィルタの概略平面図である。第2の実施形態に係るSAWフィルタ60は複数のIDT68と、このIDT68で励振されたSAWの伝搬方向においてIDT68を挟み込むように配置した反射器76とを圧電基板11に設けた構成である。
【0039】
複数のIDT68は、電気信号を入力して圧電基板11にSAWに励振する入力IDT64と、伝搬してきたSAWを受信し電気信号に変換して出力する出力IDT66を備えている。入力IDT64は、1対の櫛部74を噛み合せることで形成されるIDT68を複数有している。すなわちIDT68は、複数の電極指70の基端をバスバー72で接続してなる櫛部74を有しており、一方の櫛部74の電極指70の間に他方の櫛部74の電極指70を配置することで形成してある。そして入力IDT64は、励振されたSAWの伝搬方向に対して直交する方向に複数のIDT68を並列に配置したものである。また出力IDT66は、入力IDT64と同じ形状になっている。入力IDT64および出力IDT66に幾何学的反転、回転等を施し、さらに電気的に等価な接続に変更可能である。入力IDT64と出力IDT66の電極指本数を数%程度異なる構成とすることが可能である。
【0040】
反射器76は、IDT68の電極指70に沿った導体ストリップ48を有しており、その両端を接続した構成である。
【0041】
そして入力IDT64に入力信号線50が接続しており、出力IDT66に出力信号線52が接続している。具体的には、入力信号線50は、入力IDT64を構成している一方のIDT68a(図2では上方のIDT68a)の一方の櫛部741に接続している。また入力信号線50は途中で分岐して入力側の第1スイッチ部80aを介した後、他方のIDT68b(図2では下方のIDT68b)における一方の櫛部743と他方の櫛部744に接続している。また他方のIDT68bは、入力側の第2スイッチ部80bを介して接地部78に接続している。この入力側の第1スイッチ部80aと第2スイッチ部80bは、連動して切り替わる。
【0042】
すなわち入力側の第1スイッチ部80aの切り替えによって、他方のIDT68bにおける一方の櫛部743と一方のIDT68aにおける一方の櫛部741が導通すると、第2スイッチ部80bも連動して切り替わり、他方のIDT68bにおける他方の櫛部744が接地する。また入力側の第1スイッチ部80aの切り替えによって、他方のIDT68bにおける他方の櫛部744と一方のIDT68aにおける一方の櫛部741が導通すると、第2スイッチ部80bも連動して切り替わり、他方のIDT68bにおける一方の櫛部743が接地する。
【0043】
また出力信号線52は、出力IDT66を構成している一方のIDT68c(図2では上方のIDT68c)の一方の櫛部745に接続している。さらに出力信号線52は途中で分岐して出力側の第1スイッチ部80cを介した後、他方のIDT68d(図2では下方のIDT68d)における一方の櫛部747と他方の櫛部748に接続している。また他方のIDT68dは、出力側の第2スイッチ部80dを介して接地部78に接続している。この出力側の第1スイッチ部80cと第2スイッチ部80dは連動して切り替わるとともに、入力側の第1スイッチ部80aおよび第2スイッチ部80bとも連動して切り替わる。
【0044】
すなわち入力側の第1,2スイッチ部80a,80bの切り替えに連動して出力側の第1スイッチ部80cが切り替わると、他方のIDT68dにおける一方の櫛部747と一方のIDT68cにおける一方の櫛部745が導通するとともに、第2スイッチ部80dも連動して切り替わり、他方のIDT68dにおける他方の櫛部748が接地する。なお、このときは図2に示すように、入力側の第1スイッチ部80aは、入力側の他方のIDT68bにおける一方の櫛部743を選択し、入力側の第2スイッチ部80bは他方の櫛部744を選択している。
【0045】
また出力側の第1スイッチ部80cの切り替えによって、他方のIDT68dにおける他方の櫛部748と一方のIDT68cにおける一方の櫛部745が導通すると、第2スイッチ部80dも連動して切り替わり、他方のIDT68dにおける一方の櫛部747が接地する。なお、このときは、入力側の第1スイッチ部80aは、入力側の他方のIDT68bにおける他方の櫛部744を選択し、入力側の第2スイッチ部80bは一方の櫛部743を選択している。
【0046】
また入力IDT64および出力IDT66を構成しているそれぞれの一方のIDT68a,68cにおいて、他方の櫛部742,746は接地している。
【0047】
次に、第2の実施形態に係るSAWフィルタ60の作用について説明する。まず入力側および出力側の第1スイッチ部80a,80cがそれぞれ一方の櫛部743,747を選択し、入力側および出力側の第2スイッチ部80b,80dがそれぞれ他方の櫛部744,748を選択している場合(図2に示す場合)は、次のようになる。
【0048】
SAWフィルタ60は、入力信号線50を介して入力IDT64に電気信号を入力する。入力IDT64では、一方のIDT68aにおける一方の櫛部741と、他方のIDT68bにおける一方の櫛部743とに電気信号を入力する。すると入力IDT64は、圧電基板11にSAWを励振する。そしてSAWはSAWフィルタ60内を伝搬するが、このとき入力側の一方のIDT68aで励振されたSAWと他方のIDT68bで励振されたSAWが同位相で駆動される。結合する。このSAWは反射器76の間に閉じ込められるので反射器76の間に定在波が生じ、横モードの対称モードを得る。なお、このSAWフィルタ60の中心周波数はf1となっている。
【0049】
そして出力IDT66は、SAWを受信して電気信号に変換する。出力IDT66で変換された電気信号は、出力信号線52を介して出力される。なおこの電気信号は、SAWフィルタ60で濾波されているので、ノイズが除去されている。
【0050】
また入力側および出力側の第1スイッチ部80a,80cがそれぞれ他方の櫛部744,748を選択し、入力側および出力側の第2スイッチ部80b,80dがそれぞれ一方の櫛部743,747を選択している場合は、次のようになる。SAWフィルタ60は、入力信号線50を介して入力IDT64に電気信号を入力すると、前述した形態と同様に圧電基板11にSAWを励振して、反射器76の間に定在波を生じる。このとき一方のIDT68aの一方の櫛部741と、他方のIDT68bの他方の櫛部744に電気信号が供給されているので、SAWが逆位相で駆動されることにより、横モードの反対称モードを得る。なお、このSAWフィルタ60の中心周波数はf2となっている。そして出力IDT66は、SAWを受信して電気信号に変換する。出力IDT66で変換された電気信号は、出力信号線52を介して出力される。なおこの電気信号は、SAWフィルタ60で濾波されているので、ノイズが除去されている。
【0051】
以上のように、入力側の第1,2スイッチ部80a,80bと出力側の第1,2スイッチ部80c,80dを連動して切り替えることにより、SAWフィルタ60に横モードの対称モードまたは反対称モードを励振できる。この横モードの違いによって、1つのSAWフィルタ60で通過帯域の異なる狭帯域フィルタ、すなわち中心周波数f1の狭帯域フィルタと中心周波数f2の狭帯域フィルタを得る。また複数のスイッチ部80(80a〜80d)を設けて切り替えを行うことにより、SAWフィルタ60の出力を1系統にできる。よってSAWフィルタ60の後段に接続する回路の構成を簡単にできる。
【0052】
またSAWフィルタ60は反射器76でSAWを閉じ込めているので、Q値の高い共振系を得る。このためSAW(周波数)の選別を精度良くできるので、SAWフィルタ60の周波数精度を高くできる。またQ値の向上により、SAWフィルタ60に入力される電気信号に含まれる雑音も除去できるので、妨害波や熱雑音等の抑圧を十分にでき、SAWフィルタ60を用いたFSK受信機の感度を高くできる。また周波数精度の向上により、2つの周波数を識別するのに周波数の差が十分に離れている必要はない。
【0053】
またSAWフィルタ60は、通過帯域の異なる複数の狭帯域フィルタを1つの圧電基板11で得るので、製造バラツキによってFSKの重要なパラメータである周波数差、すなわちf1とf2との差に変動を与えることを防止できる。すなわち通過帯域の異なるSAWフィルタをそれぞれ別の圧電基板上に形成すると、IDTや反射器(電極パターン)の膜厚に違いが生じたり、エッチング時において電極パターンの抜け方(形状)に違いが出たりするので、周波数がSAWフィルタ間で別々に変動してしまう。これに対し本実施形態のように、1つのSAWフィルタ60では、電極パターンの膜厚や形状に大きな違いが出ないので、製造バラツキによる周波数差を小さくすることができる。よってSAWフィルタ60は、中心周波数f1と中心周波数f2の差(周波数偏移)にバラツキを生じ難くできる。またf1とf2を同時に周波数調整することで、周波数調整が容易に行える。
【0054】
次に、第3の実施形態について説明する。図3は第3の実施形態に係るSAWフィルタの概略平面図である。第3の実施形態に係るSAWフィルタ60は、第2の実施形態に係るSAWフィルタと同形状であるが、入力信号線50の接続パターンが異なっている。このため以下では、入力信号線50について説明する。入力信号線50は、入力IDT64の一方のIDT68aにおける一方の櫛部741に接続している。そして一方のIDT68aにおける他方の櫛部742は接地している。また入力IDT64の他方のIDT68bは何処にも接続してなく、ノンコネクトになっている。なお出力信号線52は、第2の実施形態と同じ形態で出力IDT66に接続している。
【0055】
次に、第3の実施形態に係るSAWフィルタ60の作用について説明する。SAWフィルタ60は、入力信号線50を介して入力IDT64の一方のIDT68aに電気信号を入力する。すると一方IDT68aは、圧電基板11にSAWを励振する。そしてSAWは、SAWフィルタ60内を伝搬して反射器76で反射される。これにより反射器76の間に定在波が生じる。そして出力IDT66は、SAWを受信して電気信号に変換する。このとき図3に示すように、出力側の第1スイッチ部80cが一方の櫛部747を選択し、第2スイッチ部80dが他方の櫛部748を選択している場合、出力IDT66は、対称モードのSAWを受信して電気信号に変換する。なお、このときのSAWフィルタ60の中心周波数はf1になっている。
【0056】
これに対し、出力側の第1スイッチ部80cが他方の櫛部748を選択し、第2スイッチ部80dが一方の櫛部747を選択している場合、出力IDT66は、反対称モードのSAWを受信して電気信号に変換する。なお、このときのSAWフィルタ60の中心周波数はf2になっている。
【0057】
そして出力IDT66で変換された電気信号は、出力信号線52を介して出力する。なおこの電気信号は、SAWフィルタ60で濾波されているので、ノイズが除去されている。
【0058】
以上のようにSAWフィルタ60は、出力側の第1,2スイッチ部80c,80dを連動して切り替えることにより、横モードの対称モードまたは反対称モードの違いによって、1つのSAWフィルタ60で通過帯域の異なる狭帯域フィルタ、すなわち中心周波数f1の狭帯域フィルタと中心周波数f2の狭帯域フィルタを得る。
【0059】
またSAWフィルタ60の出力側にのみスイッチ部80c,80dを設けているので、スイッチ部80の動作に必要な電力を削減できる。また出力側の第1,2スイッチ部80c,80dを設けて切り替えを行うことにより、SAWフィルタ60の出力を1系統にできる。よってSAWフィルタ60の後段に接続する回路の構成を簡単にできる。なお入力側のみにスイッチを設けた構成にすることもできる。
【0060】
またこれらの効果以外にも、第2の実施形態のSAWフィルタと同様の効果を奏することができる。
【0061】
なお第3の実施形態は、図3に示すSAWフィルタ自体の形態ばかりでなく、図4に示す形態を適用することもできる。なお図4では、SAWフィルタ自体の概略平面図のみを示し、入力信号線や出力信号線の記載を省略している。図4に示すSAWフィルタ60は、図3に示すSAWフィルタと比較すると、入力IDT64における他方のIDT68bの形態が異なっている。すなわち、この変形例に係る他方のIDT68bは、複数のグレーティング電極84によって形成してある。このグレーティング電極84は、一方のIDT68aを構成している電極指70等の向きに沿って設けられている。そして図4に示すように、グレーティング電極84の両端をバスバー86で接続してあってもよい。このようなSAWフィルタ60を用いても、前述した第3の実施形態と同様の作用、効果を奏することができる。
【0062】
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態では、前述したSAWフィルタを用いたFSK受信機について説明する。図5はFSK受信機の説明図である。ここで図5(A)は、第1の実施形態で説明したSAWフィルタを用いたFSK受信機のブロック図である。また図5(B)は、第2,3の実施形態で説明したSAWフィルタを用いたFSK受信機のブロック図である。さらに図5(C)は、切り替え信号をSAWフィルタに入力するタイミングを説明する図である。
【0063】
まず図5(A)に示すFSK受信機90は、アンテナ92と増幅器94が入力信号線50を介してSAWフィルタ10の前段に接続するとともに、検波器96とデコーダ98がSAWフィルタの後段に接続している。そしてSAWフィルタの出力(出力信号線52)は、図1に示すように第1出力IDT18の第1櫛部181に接続した系統と、第2出力IDT36の第4櫛部364に接続した系統の2系統を有している。すなわちSAWフィルタ10の出力は、中心周波数f1の通過帯域を通った信号の出力系統と、中心周波数f2の通過帯域を通った信号の出力系統とを有している。そして各系統に検波器96が設けられており、各検波器96の後段にデコーダ98が接続している。
【0064】
このようなFSK受信機90は、FSK送信機(図示せず)から2値の信号が送信されてくると、この信号をアンテナ92で受信する。そしてこの信号(電気信号)は、増幅器94で増幅された後、SAWフィルタ10に入力する。SAWフィルタ10は、第1の実施形態で説明したように、中心周波数f1の通過帯域を有する第1SAWフィルタ12で信号を濾波し、または中心周波数f2の通過帯域を有する第2SAWフィルタ30で信号を濾波する。この後、各検波器96は、SAWフィルタ10から出力した信号を検波した後、デコーダ98に出力する。デコーダ98は、各検波器96から入力した検波後の信号を合成して、復調を完了する。
【0065】
また図5(B)に示すFSK受信機90は、アンテナ92と増幅器94が入力信号線50を介してSAWフィルタ60の前段に接続するとともに、SAWフィルタ60の後段に出力信号線52を介して検波器96とデコーダ98が接続している。そしてSAWフィルタ60は、中心周波数f1の通過帯域を通った信号と、中心周波数f2の通過帯域を通った信号とを同じ出力信号線52を用いて出力している。このためSAWフィルタ60の出力は1系統になっている。またSAWフィルタ60は、図2や図3に示すスイッチ部80(80a〜80d)を連動して切り替えるために、切り替え信号を入力している。デコーダ98にも切り替え信号を入力して同期して信号の判定を行う。
【0066】
このようなFSK受信機90は、FSK送信機(図示せず)から2値の信号(「0」と「1」の信号)が送信されてくると、この信号をアンテナ92で受信する。そしてこの信号は、増幅器94で増幅された後、SAWフィルタ60に入力する。
【0067】
SAWフィルタ60は、図5(C)に示すように、入力する2値の信号の変調間隔(変調速度)、すなわち「0」と「1」が切り替わる間隔よりも細かい間隔で切り替え信号を入力して、各スイッチ80を切り替えている。具体的には、1つの「1」信号または「0」信号のパルスを入力する間に、少なくとも2回切り替え信号をSAWフィルタ60に入力して、各スイッチ部80を連動して切り替える。これによりSAWフィルタ60は、1つの信号パルス中で、第2,3の実施形態で説明したように中心周波数f1の通過帯域の狭帯域フィルタと中心周波数f2の通過帯域の狭帯域フィルタを切り替えることができる。
【0068】
なお図5(C)に示す場合では、実線で示す切り替え信号をSAWフィルタ60に入力した場合と、破線で示す切り替え信号を入力した場合とで異なる中心周波数を選択している。一例としては、実線の切り替え信号をSAWフィルタ60が入力して各スイッチ部80を切り替えることで中心周波数f1の狭帯域フィルタを選択し、破線の切り替え信号をSAWフィルタ60に入力して各スイッチ部80を切り替えることで中心周波数f2の狭帯域フィルタを選択している。そしてSAWフィルタ60は、1つの信号パルスあたり切り替え信号を4回入力している。ここでFSKの変調速度は設計の段階で決められる、すなわち前記FSK送信機を製作するときに決められるから、FSK受信機90の製作時にこの設計仕様を得て、この変調速度よりも十分に速くスイッチングをするように設計すればよい。
【0069】
このようにSAWフィルタ60が動作することによって、中心周波数f1の通過帯域を通った信号、または中心周波数f2の通過帯域を通った信号がSAWフィルタ60から出力する。この後、検波器96でレベル検出を行う。デコーダ98は、SAWフィルタ60の各スイッチ部80の切り替えに同期させて、SAWフィルタ60から出力した信号の周波数判定を行い、復調を完了する。なお図5(B)に示すFSK受信機90では、検波器96の後段に安定回路を接続してもよい。この安定回路は、SAWフィルタ60の各スイッチ部80を切り替えることによって信号が不安定になるのが、これを安定化できる。
【0070】
以上のように、第1ないし3の実施形態で説明したSAWフィルタ10,60をFSK受信機90に用いることにより、FSK受信機90はダイレクト検波方式を取ることができる。またFSK受信機90は、SAWフィルタ10,60から出力した信号をAM(振幅変調)検波できるので簡単な回路構成にでき、また消費電力を低減できる。
【0071】
またFSK受信機90に用いるSAWフィルタ10,60は、前述したようにQ値が高いものであるから周波数精度が向上しており、周波数偏移を小さくできる。このためFSK受信機90は、微弱無線以外の用途に使用できる。さらにFSK受信機90は、感度も向上している。
【0072】
また図5(B)に示すFSK受信機90では、同相・逆相の合成を各スイッチ部80の切り替えによって実現でき、周波数の選択を可能にしている。そして各スイッチ部80の切り替えを、変調速度よりも速い速度で行っている。このためSAWフィルタ60の後段に接続する回路を共通化、すなわち1系統にできるので、より低消費電力にできる。さらに図5(B)のFSK受信機90に、第3の実施形態に係るSAWフィルタ60を用いると、SAWフィルタ60の入力側にスイッチ部を設ける必要がない。これによりSAWフィルタ60を簡素化でき、さらに低消費電力にできる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】第1の実施形態に係るSAWフィルタの説明図である。
【図2】第2の実施形態に係るSAWフィルタの概略平面図である。
【図3】第3の実施形態に係るSAWフィルタの概略平面図である。
【図4】変形例に係るSAWフィルタの概略平面図である。
【図5】FSK受信機の説明図である。
【符号の説明】
【0074】
10………SAWフィルタ、11………圧電基板、14………第1IDT、16………第1入力IDT、161………第1櫛部、162………第2櫛部、18………第1出力IDT、24………第1反射器、32………第2IDT、34………第2入力IDT、343………第3櫛部、344………第4櫛部、36………第2出力IDT、42………第2反射器、60………SAWフィルタ、64………入力IDT、66………出力IDT、68………IDT、76………反射器、80(80a〜80d)………スイッチ部、90………FSK受信機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
弾性表面波の伝搬方向に配置された第1入力IDTおよび第1出力IDTと、前記第1入力IDTおよび前記第1出力IDTを挟むように形成された一対の反射器とを前記圧電基板上に有する第1フィルタと、
弾性表面波の伝搬方向に配置された第2入力IDTおよび第2出力IDTと、前記第2入力IDTおよび前記第2出力IDTを挟むように形成された一対の反射器とを前記圧電体基板上に有する第2フィルタと、
を有するSAWフィルタであって、
前記第2入力IDTは、2つの分割入力IDTを有し、前記2つの分割入力IDTの電極指は、互いに励振位相が180°異なるように配置され、
前記第2出力IDTは、2つの分割出力IDTを有し、前記2つの分割出力IDTの電極指は、互いに励振位相が180°異なるように配置されていることを特徴とするSAWフィルタ。
【請求項2】
複数の電極指の基端を接続した第1櫛部と第2櫛部とを有し、前記第1櫛部の電極指間に前記第2櫛部の電極指を配設した第1IDTと、
前記第1IDTを挟み込む位置に配設した第1反射器と、
バスバーの両辺に複数の電極指を接続した第3櫛部と、複数の電極指の基端を接続した複数の第4櫛部とを有し、前記バスバーの各辺に前記第4櫛部を対向させ、前記第3櫛部の電極指間に前記第4櫛部の電極指を配設した第2IDTと、
前記第2IDTを挟み込む位置に配設した第2反射器と、
を圧電基板に設けたことを特徴とするSAWフィルタ。
【請求項3】
前記第1IDTは、電気信号を入力してSAWを励振する第1入力IDTと、SAWを受信して電気信号に変換し出力する第1出力IDTとを備え、
前記第2IDTは、電気信号を入力してSAWを励振する第2入力IDTと、SAWを受信して電気信号に変換し出力する第2出力IDTとを備えた
ことを特徴とする請求項2に記載のSAWフィルタ。
【請求項4】
前記第1入力IDTの前記第1櫛部と、前記第2入力IDTの前記第4櫛部とを導通したことを特徴とする請求項3に記載のSAWフィルタ。
【請求項5】
複数のIDTを並列に配置した電気信号の入力IDTと、
複数のIDTを並列に配置した電気信号の出力IDTと、
前記入力IDTおよび前記出力IDTを挟み込む位置に配置した反射器とを圧電基板に設け、
前記入力IDTを構成する1つのIDTと、前記出力IDTを構成する1つのIDTとに、それぞれのIDTの極性を連動して切り替えるスイッチ部を接続した、
ことを特徴とするSAWフィルタ。
【請求項6】
複数のIDTを並列に配置した電気信号の入力IDTと、
複数のIDTを並列に配置した電気信号の出力IDTと、
前記入力IDTおよび前記出力IDTを挟み込む位置に配置した反射器とを圧電基板に設け、
前記出力IDTを構成する1つのIDTに極性を切り替えるスイッチ部を接続した、
ことを特徴とするSAWフィルタ。
【請求項7】
前記入力IDTを構成する1つのIDTを、複数のストリップ電極で形成したことを特徴とする請求項6に記載のSAWフィルタ。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載のSAWフィルタを備えたFSK受信機であって、
アンテナ、アンプ、前記SAWフィルタ、複数の検波器およびデコーダを直列に接続したことを特徴とするFSK受信機。
【請求項9】
請求項5ないし7のいずれかに記載のSAWフィルタを備えたFSK受信機であって、
アンテナ、アンプ、前記SAWフィルタ、検波器およびデコーダを直列に接続し、
切り替え信号に同期して、前記SAWフィルタの前記スイッチ部の切り替え、および前記デコーダにおいて入力信号の判定を行う、
ことを特徴とするFSK受信機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−28733(P2008−28733A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199598(P2006−199598)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】