説明

TiAl金属間化合物基合金の成型方法、及び、当該成型方法により成型した成型物

【課題】酸化による損耗を招くことなく、酸化層や母材変質層の除去並びに軟化熱処理を必要とせず、ニアネット成型が可能なTiAl合金の成型方法を提供する。
【解決手段】TiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、Mn(マンガン)又はV(バナジウム)を含有する板状のTiAl金属間化合物基合金を真空又は不活性雰囲気下にて1150℃以上1250℃以下に所定の時間保持した状態でホットプレス装置により型材を用いてホットプレスして凹状に成型することを特徴とするTiAl金属間化合物基合金の成型方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiAl金属間化合物基合金の成型方法、及び、当該成型方法により成型した成型物に関し、詳しくは、ホットプレス装置を用いて真空中または不活性雰囲気下のホットプレスによりTiAl金属間化合物基合金を成型する方法、及び、当該成型方法によって成型した成型物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
TiAl(チタンアルミナイド)金属間化合物を主相とするTiAl金属間化合物基合金(以下、“TiAl合金”と呼ぶ。)は、軽量でかつ高温強度に優れていることから、特に航空宇宙用の構造部材として有望である。これらの航空宇宙用などの構造部材の製品は、通常、平板ではなく中空の半球や円錐などの凹形状の種々の形状をしている。そのため、TiAl合金でこれらの製品を製造するためにはTiAl合金の平板を塑性加工によって成型する必要がある。しかし、TiAl合金は温室近傍では延性が非常に乏しいため、TiAl合金の塑性加工による成型作業は、TiAl合金に十分な延性が発現する高温において実施する必要がある。なお、TiAl合金を航空宇宙用構造部材などに適用する場合、対象の部材のサイズ、厚みなどが大きいほど当該部材をTiAl合金で製造した場合の重量減少量が大きくなり大きな効果が得られる。したがって、大型で厚肉の成型品であるほどTiAl合金である必要性は大きいといえる。そして、従来より、TiAl合金の大型で厚肉の成型品の塑性加工による製造方法として、大気炉の中で加熱した素材を炉外に取り出して鍛造しながら成型する熱間鍛造などが提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−316743号公報
【非特許文献1】Toshimitsu Tetsui, Kentaro Shindo, Satoshi Kaji, Satoru Kobayashi, Masao Takeyama ”Fabrication of TiAl components by means of hot forging and machining”Intermetallics 13 (2005) 971-987.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、熱間鍛造では大気中で1300°から1350°程度に加熱する必要があるがTiAl合金は1100°以上における耐酸化性が低い。そのため、TiAl合金を熱間鍛造した場合には多量の酸化層が生成するため、酸化による損耗が著しくなるという問題がある。また、熱間鍛造後のTiAl合金の製品の表面には厚い酸化層と母材変質層が生成されている。そのため、酸化層と母材変質層を機械加工により除去する作業が必要となり、材料が無駄になるとともに、作業工数が大きくなるという問題がある。さらに、TiAl合金は急冷すると硬化する性質があるが、熱間鍛造では炉外に取り出して鍛造作業するためTiAl合金の冷却速度が非常に速くなる。そのため、TiAl合金の成型品が非常に硬くなるので後工程のために軟化熱処理が別途必要になるという問題がある。また、熱間鍛造では、作業中にTiAl合金の温度が急激に低下するため十分な延性が発現して成型作業が可能な時間は短時間であり、また、多量に発生する酸化層が外部表面に付着する。そのため、型に素材を充填させるニアネット成型は困難であり、最終形体よりも大き目の成型品を作らざるを得ないので後工程の機械加工の工数が大きくなり、また、加工して除去する無駄な部分が大きくなるので素材の利用効率が悪くなるという問題がある。
【0004】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、酸化による損耗を招くことなく、酸化層や母材変質層の除去作業並びに軟化熱処理を必要とせず、ニアネット成型が可能なTiAl合金の成型方法、及び、当該成型方法によって成型した成型物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、TiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、Mn又はVを含有する板状のTiAl金属間化合物基合金を真空又は不活性雰囲気下にて1150℃以上1250℃以下に0.5時間以上保持した状態でホットプレス装置により、カーボン製の型材を用いてホットプレスして凹状に成型することを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、成型前の前記TiAl金属間化合物基合金は、サイズが500×500×t30mm以上1300×1300×t80mm以下であることを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1又は2に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記ホットプレス装置によるホットプレスにおけるプレスのストロークは50mm以上800mm以下であることを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記ホットプレス装置によるホットプレスでは、5mm/min以上10mm/min以下の速度でプレスすることを特徴としている。
【0009】
請求項5に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記ホットプレス装置によるホットプレスにより前記TiAl金属間化合物基合金を最も薄い部分で厚さが10mm以上60mm以下となるようにプレスすることを特徴としている。
【0010】
請求項6に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記型材は、凹形状を有するカーボン製の下型と前記下型の凹形状に対応する凸形状を有するカーボン製の上型とからなることを特徴としている。
【0011】
請求項7に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1乃至6のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記カーボン製の下型のサイズは最大で1500×1500×1000mm程度であることを特徴としている。
【0012】
請求項8に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項6又は7のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記TiAl金属間化合物基合金の成型後に成型品を構成せず取り除かれる部分に設けられた貫通孔を介して、前記下型の前記TiAl金属間化合物基合金の前記貫通孔に対応する部分に設けられた窪み状の孔に棒状のピンを差し込むことによって、前記TiAl金属間化合物基合金を前記下型に固定して前記ホットプレス装置によってホットプレスを行うことを特徴としている。
【0013】
請求項9に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項8に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、前記ピンはTZM(チタン、ジルコニウムを添加したモリブデン合金)合金製であることを特徴としている。
【0014】
請求項10に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法は、請求項1乃至9のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、成型前の前記TiAl金属間化合物基合金を900℃以上1050℃未満で0.5時間以上5.0時間未満の間だけ大気中で酸化処理して酸化被膜を前記TiAl金属間化合物基合金の表面に形成した後に、カーボン製の前記型材を用いて前記ホットプレス装置によりホットプレスして成型することを特徴としている。
【0015】
請求項11に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型物は、請求項1乃至10のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法により成型されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、ホットプレス装置を用いたホットプレスによって真空又は不活性雰囲気下にて1150℃以上1250℃以下の温度でMn又はVを含有する板状のTiAl金属間化合物基合金を成型する。したがって、TiAl金属間化合物基合金の表面に厚い酸化層や母材変質層が形成されることがないので、酸化による損耗が発生せず、厚い酸化層や母材変質層を除去するための加工作業に大きな工数を必要としないし、ニアネット形成が可能である。また、ホットプレスでは成型完了後にホットプレス装置の内部で冷却することから冷却速度が遅くなり、TiAl金属間化合物基合金の硬化の程度が低く軟化熱処理を必要としない。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、成型前のTiAl金属間化合物基合金のサイズが500×500×t30mm以上1300×1300×t80mm以下であるので、大型で厚肉のTiAl金属間化合物基合金をホットプレスによって成型することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、ホットプレスにおけるプレスのストローク、つまり、ラムの移動量は50mm以上800mm以下であるので、大型で奥行きのある成型品をホットプレスによって成型することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、5mm/min以上10mm/min以下の速度でラムを移動させてプレスをするので、TiAl金属間化合物基合金を好適に成型することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、TiAl金属間化合物基合金を最も薄い部分で厚さが10mm以上60mm以下となるようにプレスするので、厚肉のTiAl金属間化合物基合金の成型品を成型することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、型材は、凹形状を有するカーボン製の下型と前記下型の凹形状に対応する凸形状を有するカーボン製の上型とからなるので、下型と上型との間に板状のTiAl金属間化合物基合金を配置して、ホットプレスによって上型を下型に押し込むことによってTiAl金属間化合物基合金を凹状に好適に成型することができる。
【0022】
請求項7の発明によれば、型材の材質として、軽量で高温強度が高く、かつ比較的安価に大型素材が提供可能なカーボンを用いるため、下型のサイズは最大で1500×1500×1000mm程度にすることができ、ホットプレスによってTiAl金属間化合物基合金を大型の成型品に成型することができる。なお、従来の1200℃以上の高温で使用する型材であるMo合金(例えばTZM合金)では、上記のような大型サイズの素材は存在しない。従って、大型のTiAl金属間化合物基合金の成型に使用することはできない。
【0023】
請求項8の発明によれば、棒状のピンを用いてTiAl金属間化合物基合金を下型に固定するので、ホットプレスの際に、TiAl金属間化合物基合金の外周部分が下型の凹形状部分に向けて引き込まれることを防止することができるので所定の形状の成型作業が可能となる。
【0024】
請求項9の発明によれば、ピンはTZM合金製であり1150℃以上1250℃以下においても高い強度を備えているのでピンのサイズを小さくすることができる。したがって、TiAl金属間化合物基合金に設ける貫通孔のサイズも小さくすることができ、TiAl金属間化合物基合金の成型後に取り除かれる貫通孔を有する部分を小さくできるので、TiAl金属間化合物基合金の素材の無駄がなく効率的である。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、TiAl金属間化合物基合金素材の表面に予め酸化被膜を形成するのでホットプレス装置によってホットプレスを行った場合に、この酸化被膜がカーボン製の型との離型剤として機能して、TiAl金属間化合物基合金とカーボン製の型との反応を防止することができる。
【0026】
請求項11に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型物は、請求項1乃至10のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法により成型されているので、酸化層や母材変質層の除去作業のために大きな工数が必要でなく、また、ニアネット形成が可能であり、さらに、軟加熱処理を必要としないので製造コストを低く抑えることができる。また、TiAl金属間化合物基合金とカーボン製の型とが反応しないので歩留まりが良く、カーボン製の型を繰り返し使用できるので製造コストを低く抑えることができる。さらに、TiAl金属間化合物基合金を用いて大型で厚肉の成型品をホットプレスによって好適な条件で成型することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係るTiAl金属間化合物基合金(以下、“TiAl合金”と呼ぶ。)の成型方法について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係るTiAl合金の成型方法は、ホットプレス装置を用いたホットプレスによってTiAl合金を成型するものである。従来のホットプレス装置100は、図5に示すように、ヒータ101で加熱した真空状態であるか又は不活性ガスを充填した状態である高温の炉102のなかで、供試体200を平面的な治具103a,103bで挟み、上側の治具103aの上からラム104で圧下することによって供試体200を一軸で治具103bに押し込む装置である。従来、ホットプレス装置100は、金属粉体の加圧焼結や金属部材の蝋付けに用いられており、その際のラムの移動量(ストローク)は、平面的な治具で可能となるせいぜい数十mm程度であった。ただし、ホットプレス装置の性能上は数百mmのストロークを有している。本願の発明者は、平板状の治具の代わりに立体的な凹凸の構造を持つ型材を用いることで、数百mmのラムの移動が可能となり、またその移動量を利用することで、ホットプレス装置を用いて平板を凹型に成型加工ができるという着想に想到した。
【0028】
ホットプレスによってTiAl合金の成型を行うためには、ホットプレス装置で成型する際の温度である1150℃以上1250℃以下において成型のために十分な塑性変形能を有するTiAl合金を選定する必要がある。また、TiAl合金の組織は、高温での塑性変形能、および室温から高温までの強度ならびに延性を確保するために、β相、γ相及びα相の3相組織であることが好ましい。これらの条件に適合するTiAl合金として、Mn(マンガン)又はV(バナジウム)を含有するTiAl合金が挙げられ、例えば、Ti−42Al−5Mn(at%:原子濃度)及びTi−42Al−10V(at%:原子濃度)を選定する。ホットプレス装置で成型する際の温度が1150℃以上1250℃以下であるという条件は、ホットプレスに用いる型材の耐久性、TiAl合金と型材との反応防止、TiAl合金の塑性変形能の観点から決まるものである。なお、TiAl合金は、上述の具体例に限らず、ホットプレス装置で成型する際の温度である1150℃以上1250℃以下で成型のために十分な塑性変形能を有するものであればどのようなものであってもよい。
【0029】
型材としては軽量化や低コスト化の観点からカーボン製のものを利用する。このカーボン製の型材は、1250℃以上では耐久性が低くなりホットプレスに用いた際の損傷が大きくなり繰り返して使用することができない。また、1250℃以上では、仮に反応防止策を施したとしてもホットプレスを行った際に型材とTiAl合金とが反応を起こして互いに接合してしまう。さらに、TiAl合金としては種々の合金が存在するが、いずれの合金も成型加工に十分な塑性変形能が発現するのは1150℃以上であることから、1150℃以上の加熱が必要である。
【0030】
なお、ホットプレスによって成型する成型品は板状のTiAl合金の中央部を型材により押し込んだものであり、その形状は図1の(a)及び(b)に示すように、左右対称で、押し込まれた中央部が曲面をもち、押し込まれた部分の周辺に成型前の平板形状を保持しているものである。成型前のTiAl合金の平板は、例えば、サイズが500×500×t30mm以上1300×1300×t80mm以下であり、重量が30kg以上540kg以下である大型で厚肉のものである。このようなTiAl合金の平板は、ホットプレスによって50mm以上800mm以下だけ型材により押し込まれて成型され、成型後の厚さは最も薄い部分で10mm以上60mm以下である。このように大型で厚肉のTiAl合金は、既存のガス圧成型や恒温鍛造では成型することは不可能である。その理由として、ガス圧成型ではガスを圧力媒体として加圧するため、圧力に限界がある。従って、せいぜい厚さ数mm程度の製品の成型しかできない。また、恒温鍛造では通常Mo合金の型材を使用するが、前述したようにこのような大きな成型品が成型できるMo合金製の型は存在しないし、仮に存在したとしても非常に高価なものになるため工業的に使用することに適さない。
【0031】
次に、ホットプレス装置を用いたホットプレスによって成型される素材の製造について説明する。まず、TiAl合金のインゴットを熱間鍛造して不定形の厚い平板を作製する。或いは、TiAl合金の粉末をHIP(Hot Isostatic Press:熱間静水圧加圧)などで焼結して不定形の厚い平板を作製する。こうして得られた不定形の厚い平板をウォータージェット切断やワイヤカット切断などによって円盤などの所定の形状に切断する。そして、切断して得られた厚い平板のTiAl合金の上面と下面とをフライス盤などで切削加工して所定の厚さにする。
【0032】
このようにして製造されたTiAl合金を真空中または不活性雰囲気下でそのままホットプレス装置によってホットプレスすると、TiAl合金とカーボン製の型材が反応を起こして互いに接合してしまう。そのため、反応による接合を防止するための措置が必要になる。従来より、BN(ボロンナイトライド)スプレーなどの離型剤が存在し、この離型剤をTiAl合金とカーボン型の表面に塗布することによって反応を防止することも考えられる。しかし、本発明に係わるホットプレスでの成型作業では、その成型過程において、TiAl合金がカーボン型の側面の表面を擦りながら引き伸ばされることになる。そのため、両者の表面に塗布された離型剤が摩擦によって容易に剥離するので離型剤の効力は十分に発揮されない。
【0033】
このようにBNスプレーなどの通常の離型剤は効果が期待できない。そこで、成型前のTiAl合金に大気酸化処理を施してTiAl合金の表面に緻密な主にアルミナ膜からなる酸化被膜を形成する。そして、この酸化被膜を離型剤とすることによってTiAl合金とカーボン型との反応を防止する。この酸化被膜はカーボンに対して安定な酸化物であるのでカーボンと反応することがなく離型剤に適している。また、この酸化被膜はTiAl合金を大気酸化した際に、TiAl合金の表面全体に自然に形成されるものであるので、TiAl合金に対する密着性と追随性が良く、TiAl合金がカーボン型の表面を擦りながら引き伸ばされても離型剤として機能する。この酸化被膜は、TiAl合金を900℃以上1050℃以下で0.5時間以上5.0時間以下だけ大気中で酸化処理することによって形成する。酸化処理する温度が900℃以下では緻密は酸化被膜が形成されないし、1050℃以上では酸化被膜が厚くなりすぎて酸化被膜がTiAl合金から容易に剥離してしまう。また、酸化処理する時間が0.5時間以下では緻密な酸化被膜が形成されないし、5.0時間以上では酸化被膜が厚くなりすぎて容易に剥離してしまう。
【0034】
本発明は、熱間鍛造におけるTiAl合金の酸化による損耗などの問題をも解決するものである。したがって、酸化は避けるべきものではある。熱間鍛造では最終的な製品形状に成型するまでに、1300℃以上の炉からの出し入れを数十回繰り返し、その都度再加熱するため、合計10時間程度加熱されることになる。そのため成型作業中に剥離した酸化層として損耗する素材量が多くなるとともに、最終的に素材に固着して除去しなければならない酸化層や母材変質層の量が非常に多くなり除去作業にかかる工数も増大する。一方、本発明における上述した離型剤としての酸化被膜は1000℃程度で2.0時間程度だけ酸化することによって形成するので、ほとんど剥離することがなく、また素材に固着して除去しなければならない酸化被膜や母材変質層の量も少なくなる。また、酸化被膜は非常に薄い膜なのでニアネット成型の障害になることもない。
【0035】
次に、図2を用いて酸化被膜が形成されたTiAl合金1000のホットプレス装置1による成型について説明する。TiAl合金1000のホットプレスに用いるホットプレス装置1は、図2に示すように、炉2と炉2内を加熱する複数のヒータ3とプレスするためのラム4とを備えている。ホットプレス装置1は前述の従来のホットプレス装置100と構成が同じである。このホットプレス装置1を用いてTiAl合金1000を成型する際には、炉2の内部に、例えば、先端が略半球状となった円錐形状の窪みを有するカーボン製の下型(型材)10が設置される。下型10のサイズは最大でおよそ1500×1500×1000mm程度である。そして、下型10の窪みの開口部には、開口部の周辺部分10aでTiAl合金1000を支持するように、円盤形状のTiAl合金1000が配置される。さらに、下型10の上部には、下型10の窪みの開口部に配置されたTiAl合金1000を下型10の窪みに押し込むためのカーボン製の上型11がTiAl合金1000を介して配置される。上型11は、先端が略半球状となった円錐形状である。上型11の円錐は下型10の窪みの円錐とほぼ相似形であり、上型11の円錐は下型10の円錐よりも所定量だけ小さくなっている。
【0036】
また、下型10の上部には、ラム4によって押し下げられる上型11の軸がブレないように支持する円筒形状のガイド12が設けられる。ガイド12の内径の大部分は上型11の最大径と略同一であるが下端部分の内径はTiAl合金1000の外径と略同一である。そのため、ガイド12の内径の大径部分と小径部分との境目には段形状部分12aが形成されている。そして、円盤形状のTiAl合金1000は、ガイド12の下方の段形状部分12a、ガイド12の下端部分の小径の部分、及び、下型10の窪みの開口部の周辺部分10aによってその位置が固定される。
【0037】
こうして炉2の内部の配置物の準備ができると、炉2の内部を真空引きして真空状態にする。また、炉2の内部を真空引きした後に炉2の内部に不活性ガスを充填してもよい。そして、ヒータ3によって、炉2の内部を1150℃以上1250℃以下、好適には1175℃以上1225℃以下、例えば、1200℃に加熱する。そして、TiAl合金1000がおよそ1200℃に達すると、およそ0.5時間だけその温度を保持してTiAl合金1000の温度を均一化させる。なお、このとき炉2の内部は真空状態であるか又は不活性ガスが満たされた状態であるので、加熱によってTiAl合金1000が酸化されるおそれがない。その後、ホットプレス装置1のラム4を降下させて、上型11をTiAl合金1000を介して下型10の窪みに押し込む。ラムの降下速度は、5mm/min以上10mm/min以下程度が最適である。5mm/min以下では高温に保持する作業時間が長くなりすぎ、TiAl合金の特性が低下するとともに作業効率が悪い。また、10mm/min以上では変形速度が大きすぎ、皺等が発生することでニアネットに成型できない可能性がある。この上型11の下型10の窪みへの押し込みによりTiAl合金1000の平板は、曲げのみならず塑性変形されるので厚みが減少する。上型11を完全に下型10の窪みに押し込むことによってTiAl合金1000が所定の形状に成型される。
【0038】
成型後のTiAl合金1000の形状は、下型10と上型11との隙間の空間の形状である。このホットプレス装置1を用いたホットプレスの荷重は成型の最終段階で最も大きくなり、最大でおよそ300トンである。成型の完了後は、ラム4を上昇させてプレス荷重を取り除いてホットプレス装置1の全体の温度を自然冷却によって低速で降温させる。炉2の内部の温度が約200℃以下付近になると、TiAl合金1000を下型10、上型11、及びガイド12とともにホットプレス装置1の内部から取り出し、TiAl合金1000を下型10,及び上型11から離型させる。こうして図3に示すような中空で略円錐形状のTiAl合金の成型品1000が得られる。
【0039】
なお、特に図1に示したような、外周全体が下型の上に残らない形状の製品を成型する場合、上型11を下型10の窪みに押し込む際、塑性変形するTiAl合金1000の周辺部分が下型10の窪みの方向に引き込まれるおそれがある。この引き込まれを防止するために、図4に示すように、TiAl合金1000の成型後に製品とならないTiAl合金1000の周辺部分に数箇所程度の貫通孔1000aを設けるとともに、下型10の当該貫通孔1000aに対応する部分に孔(窪み)10bを設け、図4に示すように、当該貫通孔1000aを介して当該孔(窪み)10bにTZM(チタン、ジルコニウムを添加したモリブデン合金)合金製で棒状のピン300を挿入することによってTiAl合金1000を下型10に固定してもよい。TZM合金は1150℃以上1250℃以下においても強度が非常に高いので、TZM合金製のピン300は小さくすることができる。したがって、ピン300を挿入するTiAl合金1000の貫通孔1000aの大きさが小さくてすむので、TiAl合金1000の成型後に製品とならない周辺部分の大きさも小さくてすみTiAl合金1000が無駄にならない。
【実施例】
【0040】
<実施例>
Al42原子%、Mn5原子%、残部Ti及び不可避の不純物からなる直径380mm、長さ800mmのTiAl合金インゴットを熱間鍛造して直径1050mm以上1250mm以下程度で厚さ75mm以上85mm以下程度の厚い平板を形成した。こうして得た不定形の厚い平板のTiAl合金1000をウォータージェット切断によって直径1000mmの円盤状に切断し、さらにこの円盤状のTiAl合金1000の上面と下面とをフライス盤により切削加工して厚さ60mmとした。
【0041】
次に、得られたTiAl合金1000の円盤を大気中において1000℃に加熱して1時間だけ大気酸化させることによって、TiAl合金の円盤の表面に厚さ50μm程度の主にアルミナ膜からなる酸化膜を形成した。
【0042】
このようなTiAl合金1000を用いて、図2に示すように、ホットプレス装置1の炉2の内部に下型10、TiAl合金1000、上型11、及び、ガイド12を設置した後に、炉2の内部を真空引きして不活性ガスであるArガスを充填した。次に、ヒータ3によって炉2の内部のTiAl合金1000を約1200℃に加熱してこの温度を0.5時間だけ保持した。そして、約1200℃の温度のもとでラム4を8mm/minの速さで500mm程度降下させて上型11を、TiAl合金1000を介して下型10に押し込んだ。
【0043】
その後、炉2全体の温度が200℃付近になってから、TiAl合金1000を下型10、上型11、及びガイド12とともに炉2の内部から取り出し、TiAl合金1000の下型10及び上型11からの離型を試みた。TiAl合金1000は容易に下型10及び上型11から離型して、図3に示すような成型品1000を得た。離型後の成型品1000を目視により確認したが、成型品1000の表面には下型10及び上型11との間に起きた反応による接合を引き離したために起こるような損傷は見られなかった。こうして得られた成型品1000は、β相、γ相、及び、α2相の3相が共存した組織を有しているので、成型品1000は、高強度と高靱性を備えている。
【0044】
本発明の実施形態は上述の形態に限らず、本発明の技術的思想の範囲内において種々に変更することができる。例えば、上述の実施形態では、TiAl合金1000のホットプレス装置1によるホットプレスを行う前に、大気酸化処理を行ってTiAl合金1000の表面に離型剤としての酸化被膜を形成することとした。しかし、他の方法によって離型効果が確保できる場合、酸化被膜は必ずしも形成する必要はなく、TiAl合金1000をそのままホットプレスしてもよい。
【0045】
また、図3に示した成型品1000は一例にすぎず、本発明のTiAl金属間化合物基合金の成型方法によって成型する成型品は、ホットプレス装置1を用いて成型することのできる凹型の形状であればどのような形状であってもよいことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ホットプレス装置を利用して大型かつ厚肉のTiAl金属間化合物基合金を成型する方法、及び、当該成型方法によって成型する成型物に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のTiAl合金の成型方法により成型される成型品の例を示す説明図である。
【図2】ホットプレス装置1によるホットプレスの様子を示す説明図である。
【図3】ホットプレス装置1を用いて本発明のTiAl合金の成型方法により成型された成型品の一例を示す説明図である。
【図4】TiAl合金1000をTZM合金製のピン300で下型10に固定した様子を示す説明図である。
【図5】従来のホットプレス装置100によるホットプレスの様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ホットプレス装置
2 炉
3 ヒータ
4 ラム
10 下型(カーボン製の型)
11 上型(カーボン製の型)
12 ガイド
300 ピン
1000 TiAl合金(成型品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiAl金属間化合物基合金の成型方法であって、
Mn又はVを含有する板状のTiAl金属間化合物基合金を真空又は不活性雰囲気下にて1150℃以上1250℃以下に0.5時間以上保持した状態でホットプレス装置によりカーボン製の型材を用いてホットプレスして凹状に成型することを特徴とするTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項2】
成型前の前記TiAl金属間化合物基合金は、サイズが500×500×t30mm以上1300×1300×t80mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項3】
前記ホットプレス装置によるホットプレスにおけるプレスのストロークは50mm以上800mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項4】
前記ホットプレス装置によるホットプレスでは、5mm/min以上10mm/min以下の速度でプレスすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項5】
前記ホットプレス装置によるホットプレスにより前記TiAl金属間化合物基合金を最も薄い部分で厚さが10mm以上60mm以下となるようにプレスすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項6】
前記型材は、凹形状を有するカーボン製の下型と前記下型の凹形状に対応する凸形状を有するカーボン製の上型とからなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項7】
前記カーボン製の下型のサイズは最大で1500×1500×1000mm程度であることを特徴とする請求項6に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項8】
前記TiAl金属間化合物基合金の成型後に成型品を構成せず取り除かれる部分に設けられた貫通孔を介して、前記下型の前記TiAl金属間化合物基合金の前記貫通孔に対応する部分に設けられた窪み状の孔に棒状のピンを差し込むことによって、前記TiAl金属間化合物基合金を前記下型に固定して前記ホットプレス装置によってホットプレスを行うことを特徴とする請求項6又は7に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項9】
前記ピンはTZM(チタン、ジルコニウムを添加したモリブデン合金)合金製であることを特徴とする請求項8に記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項10】
成型前の前記TiAl金属間化合物基合金を900℃以上1050℃未満で0.5時間以上5.0時間未満の間だけ大気中で酸化処理して酸化被膜を前記TiAl金属間化合物基合金の表面に形成した後に、カーボン製の前記型材を用いて前記ホットプレス装置によりホットプレスして成型することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載のTiAl金属間化合物基合金の成型方法により成型されたことを特徴とするTiAl金属間化合物基合金の成型物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95857(P2009−95857A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269689(P2007−269689)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(593006434)精密工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】