説明

VGSタイプターボチャージャにおける可変機構並びにこれを組み込んだ排気ガイドアッセンブリ

【課題】 VGSタイプターボチャージャに関し、外部アクチュエータからのシフト駆動を可変翼に伝達する際に、従来は必須と考えられていたドライブリングを排除できるようにした新規な可変機構と排気ガイドアッセンブリを提供する。
【解決手段】 本発明の可変機構3は、可変翼1の軸部12と固定された伝達体31を構成部材とし、外部に設けられたアクチュエータACからのシフト駆動を伝達体31に入力し、隣接する伝達体31どうしの間で順次ダイレクトに駆動を伝達して行き、複数の可変翼1を一挙に回動させるようにしたことを特徴とする。具体的には、伝達体31の外縁を互いに接するように形成し、隣接する伝達体31の間で、駆動を起こす原動側の伝達体31の回動に伴い、外縁どうしの接点を徐々にずらして行く回転すべり接触によって、駆動を受ける従動側の伝達体31をほぼ同程度回動させる手法が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等に用いられるVGSタイプターボチャージャ〔VGSはVariable Geometry Systemの略〕において、可変翼を回動させ、タービンに送り込む排気ガスの流量を適宜調整する可変機構に関するものであって、特に外部アクチュエータからのシフト駆動を可変翼に伝達する際に、従来は必然と考えられていたドライブリングを排除できるようにした新規な可変機構と、これを組み込んだ排気ガイドアッセンブリに係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用エンジンの高出力化、高性能化を図るために、過給機としてターボチャージャが知られており、このものはエンジンの排気エネルギによってタービンを駆動し、このタービンの出力によってコンプレッサを回転させ、エンジンに自然吸気以上の過給状態をもたらす装置である。このターボチャージャは、エンジンが低速回転しているときには、排気流量の低下により排気タービンがほとんど働かず、従って高回転域まで回るエンジンにあってはタービンが効率的に回るまでのもたつき感と、その後の一挙に吹き上がるまでの所要時間いわゆるターボラグ等が生ずることを免れないものであった。また、もともとエンジンの回転数が低いディーゼルエンジンでは、ターボ効果を得にくいという欠点があった。
【0003】
このため低回転域からでも効率的に作動するVGSタイプのターボチャージャ(VGSユニット)が開発されてきている。このものは、少ない排気流量を可変翼(羽)で適宜絞り込み、排気の速度を増し、排気タービンの仕事量を大きくすることで、低速回転時でも高出力を発揮できるようにしたものである。このためVGSユニットにあっては、別途可変翼の可変機構等を必要とし、周辺の構成部品も従来のものに比べて形状等をより複雑化させなければならなかった。
このようなことから本出願人も、VGSタイプのターボチャージャに関し、鋭意研究や開発を重ね、多くの特許出願に至っている(例えば特許文献1〜8参照)。
【0004】
ところで、従来、排気タービンTの周囲に等配される複数の可変翼1′を一斉に且つほぼ均等に開閉させるにあたっては、例えば図7に示すように、まず外部アクチュエータACからのシフト駆動をドライブリングDRで受け、このドライブリングDRの回動によって、一つひとつの可変翼1′を回動させるものであった。
すなわち、図7(a)は、タービンフレーム2′に回動自在に保持された可変翼1′に対し、その軸部12′(先端)を伝達体31′に嵌め、カシメ等により固定するものであり、また伝達体31′の他端側は予め略U字状に形成しておくものである。一方、ドライブリングDRには可変翼1′と同数且つ同じピッチで四角片状の部材が回転自在に取り付けられており(この部材をREとする)、可変翼1′をセットしたタービンフレーム2′と、ドライブリングDRとを組み付ける際には、図示するように上記伝達体31′の略U字状の内側部位に四角片状部材REを嵌め込むように組み付けるものである。これにより、外部アクチュエータACからのシフト駆動をドライブリングDR、四角片状部材RE、伝達体31′を順次経て可変翼1′まで伝達し、これを回動させるものであった。
【0005】
これに対し図7(b)は、上記四角片状部材REをあたかもドライブリングDRと一体もくしは固定状態に形成した改変例である。すなわち、ここでは図示したようにドライブリングDRに略長円形状の突起EL(上記四角片状部材REに相当)が形成され、伝達体31′は、上記図7(a)とほぼ同様に略U字状に形成される。そして、組み付け時には、このU字状の内側に、ドライブリングDRの突起ELを嵌め込むものである。つまり、ここでは、略長円形状の突起ELは、ドライブリングDRと一体もしくは固定されているため、ドライブリングDRが回動した際には、略長円形状の突起ELの外側と、U字状伝達体31の内側とが互いにすべり合って、ドライブリングDRの回動を伝達体31′に伝え、可変翼1′を開閉させるものである。
【0006】
また、図7(c)は、可変翼1′に固定される伝達体31′を細長状(リンク状)に形成した例であり、ドライブリングDRには、この細長状の伝達体31′の他端側を受け入れる切り欠きLAが(上記突起ELに相当)形成されている。
この場合も、ドライブリングDRの切り欠きLAと、ここに嵌め込まれた伝達体31′の端部外周が互いにすべり合って、ドライブリングDRの回動を伝達体31′を介して可変翼1′に伝えるものである。つまり、端的には図7(b)のドライブリングDR及び伝達体31′の嵌め込み構造を逆にしたものが図7(c)と言える。
このように、従来の可変機構3′においては、その構造をシンプルなものにしようという試みはあったものの、VGSにおいてはドライブリングDRが必須の構成部材と考えられていた。
【0007】
ところで、自動車業界は、細部に渡る細かい部品の一つひとつにまで厳しいコストダウンや軽量化が常に追求されており、価格競争が極めて熾烈な業界である。このような状況下、本出願人は、VGSにおいて不可欠と考えられていたドライブリングに敢えて着眼し、この部材の完全レス化を目指し、本発明の開発に至ったものである。
因みにVGSと言えば、上述したようにドライブリングDRによって可変翼1′の開閉をコントロールすることが既成概念となっていたため、VGSにおいてドライブリングDRを廃止するという思想や、このような開発の着眼自体が、極めて新規な思想である。すなわち、上記図7からも理解されるように、従来の可変機構3′においては、伝達構造をシンプルなものにするという思想(着眼)はあったが、開発の方向は専らドライブリングを前提としたものであり、これを完全に廃止しながら可変翼1′の開閉を制御するという思想は到底なく、このような発想自体、極めて新規な技術思想である。
【特許文献1】特開2003−49655号公報
【特許文献2】特開2003−49663号公報
【特許文献3】特開2003−49656号公報
【特許文献4】特開2003−49657号公報
【特許文献5】特開2003−49658号公報
【特許文献6】特開2003−49659号公報
【特許文献7】特開2003−48033号公報
【特許文献8】特開2003−49660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、VGSと言えばドライブリングを用いてアクチュエータからのシフト駆動を可変翼に伝達する機構が技術常識と考えられていた中で、敢えてドライブリングを要せずに、可変翼の開閉量を制御できるようにした極めて新規な可変機構と、これを組み込んだ排気ガイドアッセンブリの開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち請求項1記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構は、排気タービンの外周位置に配置された複数の可変翼を回動させ、エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギで排気タービンを回し、排気タービンに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリに組み込まれる可変機構において、前記可変機構は、可変翼の軸部と固定された伝達体を構成部材として含み、複数の可変翼を一斉に且つほぼ均一に回動させるにあたっては、外部に設けられたアクチュエータからのシフト駆動を伝達体に入力し、隣接する伝達体どうしの間で順次ダイレクトに駆動を伝達して行き、複数の可変翼を一挙に回動させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項2記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構は、前記請求項1記載の要件に加え、前記隣接する伝達体は、互いの外縁が接するように形成され、隣接する伝達体の間で回動を伝達するにあたっては、駆動を起こす原動側の伝達体の回動に伴い、前記外縁の接点を徐々にずらして行く回転すべり接触によって、駆動を受ける従動側の伝達体をほぼ同程度回動させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項3記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構は、前記請求項2記載の要件に加え、前記伝達体は、回転すべり接触面となる外縁形状が左右対称に形成されることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項4記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構は、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記アクチュエータからのシフト駆動を、伝達体に入力するにあたっては、複数の伝達体に同時に入力するようにしたことをことを特徴として成るものである。
【0013】
また請求項5記載のVGSタイプターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリは、排気タービンの外周位置に、複数の可変翼を回動自在に設け、エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギで排気タービンを回し、排気タービンに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて、前記請求項1、2、3または4記載の可変機構を組み込んで成ることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0014】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
すなわち請求項1記載の発明によれば、外部アクチュエータからのシフト駆動は、駆動が入力された伝達体から、これと隣り合う伝達体へと順次、駆動(回動)が伝達されて行くため、従来のVGSでは必須であったドライブリングを完全に廃止しながら可変翼を一斉に且つ均一に回動させることができる。このため、ドライブリング(図7(c)におけるDR)はもちろん、これを回動自在に保持していた保持部材(図7(c)におけるHL)や、この保持部材を本体(可変翼を回動自在に保持するタービンフレーム)に取り付けていた固定部材(図7(c)におけるFX)等を全て廃止できる等、部品点数の大幅な削減が実現できる。もちろん、このことは組付工数の低減化や、VGSユニットの計量化・低コスト化等につながるものである。
【0015】
また請求項2記載の発明によれば、隣接する伝達体の外縁どうしを回転すべり接触させて、原動側の伝達体から従動側の伝達体に駆動(回動)を順次伝達して行くため、例えば伝達体をプレート状に形成でき、またその形状(外縁)も比較的シンプルに形成できる。従って、ドライブリングを要せずに伝達体どうしの間で回動を順次伝えて行く可変機構を実現し易い。
【0016】
また請求項3記載の発明によれば、伝達体は、外縁形状が左右対称(線対称)に形成されるため、伝達体(可変機構)が構成し易い。すなわち、回転すべり接触によって全ての伝達体に駆動を伝達する構造が比較的採り易く、各伝達体における駆動の授受も安定して行い得る。また、伝達体の外縁形状を線対称にすることによって、伝達体の回動軸回りのモーメントバランスが図られ、可変翼の開放または閉鎖において、どちらが行い易いということがなく、安定した流量制御が行える。更に、外縁を線対称形状にすることにより、作動時に伝達体の各部に作用し得る応力集中が回避し易く、伝達体の強度としても安定したものが得やすい。
【0017】
また請求項4記載の発明によれば、外部アクチュエータからのシフト駆動を複数の伝達体に入力するため、外部アクチュエータから最初に駆動が入力されて回動する可変翼と、最後に回動する可変翼との作動時間差(いわゆるタイムラグ)が生じても、これを極力抑制することができる。
【0018】
また請求項5記載の発明によれば、可変翼の軸部と固定される伝達体を根本的に見直し、隣り合う伝達体どうしの間で直接駆動を伝達するようにしたため、従来、VGSタイプターボチャージャにおいて必須と考えられていたドライブリングを完全に廃止することができる。このため、上記ドライブリングに付随していた諸々の部材、例えばドライブリングを回動自在に保持していた保持部材や、この保持部材を本体(タービンフレーム)に取り付けていた固定部材等も全て廃止できる等、大幅な部品点数の削減化が図れ、ひいては組立ての簡略化、計量化、低コスト化等も達成し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
なお、説明にあたっては、本発明の可変機構3を組み込んだVGSタイプのターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリASについて概略的に説明しながら、可変機構3について併せて説明する。
【実施例】
【0020】
排気ガイドアッセンブリASは、特にエンジンの低速回転時において排気ガスGを適宜絞り込んで排気流量を調節するものであり、一例として図1に示すように、排気タービンTの外周に設けられ実質的に排気流量を設定する複数の可変翼1と、可変翼1を回動自在に保持するタービンフレーム2と、排気ガスGの流量を適宜設定すべく可変翼1を一定角度回動させる可変機構3とを具えて成るものである。以下、各構成部について更に説明する。
【0021】
まず可変翼1について説明する。このものは一例として図1に示すように、排気タービンTの外周に沿って円弧状に複数(一基の排気ガイドアッセンブリASに対して概ね10〜15個程度)配設され、そのそれぞれが、ほぼ一斉に且つ均等に回動して排気流量を調節するものである。また可変翼1は、翼部11と、軸部12とを具えて成り、以下、これらについて説明する。
まず翼部11は、主に排気タービンTの幅寸法に応じて一定幅を有するように形成されるものであり、その幅方向における断面が翼形に形成され、排気ガスGが効果的に排気タービンTに向かうように構成される。ここで図1に併せて示すように、翼部11の幅寸法を便宜上、翼幅hとする。また図に示すように、翼部11の翼形断面において肉厚となる端縁を前縁11a、肉薄となる端縁を後縁11bとし、前縁11aから後縁11bまでの長さを翼弦長Lとする。
更にまた、翼部11には、軸部12との境界部(接続部)に、軸部12より幾分大径の鍔部13が形成される。なお鍔部13の底面(座面)は、翼部11の端面と、ほぼ同一平面上に形成され、この平面が可変翼1をタービンフレーム2に挿入した際の座面となり、排気タービンTにおける幅方向(翼幅hの方向)の位置規制を図る作用を担っている。
【0022】
一方、軸部12は、翼部11と一体的に連続形成されるものであり、翼部11を動かす際の回動軸となる。そして、この軸部12の先端には、可変翼1の取付状態の基準となる基準面15が形成される。なお、この基準面15は、後述する可変機構3(伝達体31)に対しカシメ等によって固定される部位であり、一例として図1に示すように、軸部12を対向的に切り欠いた二平面として形成される。
【0023】
因みに、上記図1では、翼部11の両側に軸部12が形成された、いわゆる両軸タイプもしくは両持ちタイプの可変翼1を示しており、双方の軸部12を区別して示す場合には、互いの軸長に因み、便宜上、長軸部12a、短軸部12bとして区別する。もちろん、可変翼1としては、必ずしも両軸タイプのものに限らず、翼部11の一方のみに軸部12が形成された、いわゆる片持ちタイプの可変翼1を適用しても構わない。なお、両軸タイプの可変翼1は、片持ちタイプのものに比べ、可変翼1の作動安定性(回動安定性)や強度等を向上させ得る点で有効である。
【0024】
次に、タービンフレーム2について説明する。このものは、複数の可変翼1を回動自在に保持するフレーム部材として構成されるものであって、一例として図1に示すように、フレームセグメント21と保持部材22とによって可変翼1(翼部11)を挟み込むように構成される。
フレームセグメント21は、中央部分が開口状態に形成され、その周縁部分に可変翼1の軸部12(長軸部12a)を受け入れる軸受部25が等配されて成るものである。
【0025】
また保持部材22は、一例として図1に示すように中央部分を開口した円板状に形成されて成るものである。なお、可変翼1が両軸タイプである場合には、図1に示すように、保持部材22にも軸受部25が等配され、ここに可変翼1の短軸部12bが回動自在に挿入される。ここで、双方の軸受部25を区別して示す場合には、長軸部12aを保持する軸受部を25a、短軸部12bを保持する軸受部を25bとする。
【0026】
そして、これらフレームセグメント21と保持部材22とによって挟み込まれた可変翼1を、常に円滑に回動させ得るように、両部材間の寸法が、ほぼ一定(概ね可変翼1の翼幅h程度)に維持されるものであり、一例として軸受部25の外周部分に、四カ所設けられたカシメピン26によって両部材間の寸法が維持される。ここで、このカシメピン26を受け入れるためにフレームセグメント21及び保持部材22に開口される孔をピン孔27とする。
【0027】
次に、本発明の可変機構3について説明する。可変機構3は、排気流量を調節するために可変翼1を適宜回動させるものであり、一例として図1に示すように、アクチュエータACからのシフト駆動を、可変翼1に伝達する伝達体31を主な構成部材として成り、従来、必須と考えられていたドライブリングを要しないことが本発明の大きな特徴である。
伝達体31は、上述したように可変翼1の軸部12(基準面15)が挿入、固定されるため、可変翼1と同数、且つ同ピッチで排気タービンTの外周に設けられる。ここで、伝達体31において軸部12が挿入・固定される部位を軸部取付部32とするものであり、この部位は軸部12(基準面15)を受け入れ得るように、例えば太鼓状の孔として形成される。
【0028】
また、排気タービンTの周りに設けられた複数の伝達体31のうち、幾つかのものには、アクチュエータACからのシフト駆動(回動)が直に入力されるものであり、ここを入力部33とする。なお、図1、2に示す実施例では入力部33を円孔で示し、一カ所のみ設けているが、図3に示す実施例では入力部33を二カ所として図示している。そして、アクチュエータACからのシフト駆動が入力された伝達体31が、順次隣接する伝達体31へとダイレクトに(ドライブリング等の他部材を介さずに)駆動を伝達して行き、全体的にほぼ均一に可変翼1を回動させるものである。ここで、駆動の授受が成される一組の伝達体31(隣接する伝達体31)に着眼した場合、伝達方向の前段に位置し駆動を起こす方の伝達体31を原動側とする一方、伝達方向の後段に位置し駆動を受け取る方の伝達体31を従動側とする。
【0029】
なお、このような伝達機構上、アクチュエータACからのシフト駆動が直接入力された伝達体31と、順次伝達が行われ、最後に駆動が伝達された伝達体31とでは、回動作動において多少のズレ(いわゆるタイムラグ)が生じ得るものであるが、実際には、このズレは極僅かであり、排気ガスGを制御するのに支障をきたすほどではない。しかしながら、このようなタイムラグは、作動上においては極力生じさせないことが望ましいため、例えばアクチュエータACから駆動を取り込む伝達体31の数(入力部33)を複数カ所にすること等によって、このズレを抑えることができる。このようなことから、現実の機構においては、タイムラグは、ほとんど無視でき、ドライブリングによる回動時とほぼ同じ程度で、可変翼1を一斉に回動させ得るものである。
【0030】
ここで図1〜3に示す実施例にあっては、隣接する伝達体31どうしの外縁(外周)が互いに接し合うように形成され、原動側の伝達体31の回動に伴い、その接点(接触点)を次第にずらして行くことで、従動側の伝達体31を同程度回動させる構造となっている。言い換えれば、図1〜3に示す伝達体31は、その外縁を互いに回転滑り接触させることにより、原動側の伝達体31から従動側の伝達体31に順次駆動(回動)を伝達するように構成されている。
【0031】
また図1〜3の伝達体31は、複数の可変翼1の中心(排気タービンTの中心)と、回動軸となる軸部取付部32とを結ぶ線を対称軸として、回転すべり接触面となる外縁形状が左右対称(線対称)に形成されている。より詳細には、図1及び2の伝達体31は、外縁形状がほぼ等脚台形状に形成されており、図3の伝達体31は、外縁形状が略Y字状に形成されている。
【0032】
なお、伝達体31の外縁を線対称形状に形成することにより、同じパターンの繰り返しによって、回転すべり接触による回動伝達が実現し易いため、その構成が比較的採り易く、各伝達体31における駆動の授受も安定化させ得る利点が挙げられる。また、伝達体31の外縁を線対称に形成することによって、軸部取付部32まわりのモーメントが安定化し、可変翼1の開放や閉鎖において、どちらが作動し易いという偏りがなく、可変翼1の開閉制御が安定して行えるものである。また、伝達体31の外縁を線対称に形成することにより、高温且つ排気ガス下に晒される作動時において生じ得る応力集中が回避し易く、伝達体31の強度としても安定したものが得やすいという利点も挙げられる。
【0033】
もちろん、伝達体31の外縁形状は、必ずしも線対称である必要はなく、非線対称な形状でも構わない。例えば図4(a)(b)に示す伝達体31は、外縁形状を略L字状に形成した例であり、図4(c)に示す伝達体31は、外縁形状を略三角形状に形成した例である。なお、図4(a)では、隣接する伝達体31の接触が、比較的大きなR面と、比較的小さなR面とのすべり接触(すべり対偶)で構成される一方、図4(b)(c)では、隣接する伝達体31の接触が、平面(直線)と、R面(比較的小さなR面)とのすべり接触(すべり対偶)で構成され得る。
【0034】
また隣接する伝達体31の間で順次駆動を伝達して行く手法としては、必ずしも伝達体31の外縁を利用した回転すべり接触だけでなく、各伝達体31をリンク状に連結することによって回動を伝達することも可能である。例えば図5に示す実施例は、隣り合う伝達体31どうしをリンク状に嵌め合うように連結したものであり、特に、ここでは全ての伝達体31を同じ形状にすべく、個々の伝達体31を段差状に形成している。ここで、伝達体31に形成される嵌め合い用の孔を連結孔34aとし、また、ここに嵌め込まれる突起を連結突起34bとする。
【0035】
なお、伝達体31に形成された長孔状の連結孔34aは、隣接した伝達体31の回動の差を吸収するための構造である。すなわち、隣接する伝達体31どうしを単に滑節状態に連結しただけでは、原動側の伝達体31と従動側の伝達体31との回動中心が異なるため、連結状態にあった連結孔34aと連結突起34bとが回動によって互いに離反してしまい、連結状態を維持することができなくなってしまう。このため、隣接する伝達体31どうしを連結しながら順次回動を伝達して行くためには、連結孔34aを長孔状に形成して、上記離反(隣接する伝達体31の回動中心の差異)を、この長孔で吸収しながら回動を順次円滑に伝達して行くものである。
【0036】
言い換えれば、全ての伝達体31が、あたかもチェーンのように複数の可変翼1の設置中心(排気タービンTの回転中心)を中心として回動する場合には、単に隣接する伝達体31どうしを滑節状態に連結しただけでも、回動を順次伝達し得るものであるが、ここでは隣接する伝達体31の回動中心が異なるため、これを吸収・補正する構成が必要となる。ここで、図5(a)は、可変翼1が開放状態にある伝達体31の状態を示し、図5(b)は、可変翼1が閉鎖状態にある伝達体31の状態を示すものであり、開放時と閉鎖時とでは、長孔状の連結孔34aにおける連結突起34bの位置が大きく移動しており、この連結孔34aによって隣接する伝達体31の回動差が吸収されていることが分かる。因みに、伝達体31に形成される段差も、回動伝達時に隣接する伝達体31の互いの干渉を避けるための構成である。また、このような構成つまり隣接する伝達体31を相互に連結する構造によっても、上述した可変翼1の回動作動のズレ(タイムラグ)を抑える効果が期待できるものである。
【0037】
更に図6も、隣接する伝達体31を連結しながら回動を伝達する場合の実施例であるが、上記図5と大きく異なる点は、伝達体31をフラット状ないしはプレート状に形成した点である。そのため、伝達体31としては、長孔状の連結孔34aを具えた部材と(これを伝達体31Aとする)、連結突起34bを具えた略T字状部材(これを伝達体31Bとする)との二種類が必要となる。なお、伝達体31として二種のものが必要となっても伝達体31をフラット状(プレート状)に形成できる本実施例の利点は、伝達体31を製作するにあたり、例えばファインブランキングなどの打抜工程、しかも一回の打抜工程で伝達体31A、31Bを製造でき、極めて能率的に製造が行い得るという点である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の可変機構を組み込んだ排気ガイドアッセンブリの一例を示す分解斜視図(a)、並びにVGSタイプターボチャージャの一例を示す斜視図(b)である。
【図2】伝達体の外縁形状をほぼ等脚台形状に形成した可変機構において、可変翼の開放状態を示す説明図(a)と、可変翼の閉鎖状態を示す説明図(b)である。
【図3】伝達体の外縁形状をほぼY字状に形成した可変機構において、可変翼の開放状態を示す説明図(a)と、可変翼の閉鎖状態を示す説明図(b)である。
【図4】伝達体の外縁形状を非線対称に形成した場合の数種の実施例を示す説明図である。
【図5】隣接する伝達体を互いに連結した場合の可変機構の一例を示す説明図である。
【図6】隣接する伝達体を互いに連結した場合の可変機構の他の実施例を示す説明図である。
【図7】従来の可変機構、すなわち外部アクチュエータからのシフト駆動をドライブリングを介して可変翼に伝達していた従来手法を示す数種の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 可変翼
2 タービンフレーム
3 可変機構
11 翼部
11a 前縁
11b 後縁
12 軸部
12a 長軸部
12b 短軸部
13 鍔部
15 基準面
21 フレームセグメント
22 保持部材
25 軸受部
25a 軸受部(長軸部側)
25b 軸受部(短軸部側)
26 カシメピン
27 ピン孔
31 伝達体
31A 伝達体(連結孔側)
31B 伝達体(連結突起側)
32 軸部取付部
33 入力部
34a 連結孔
34b 連結突起
AC アクチュエータ
AS 排気ガイドアッセンブリ
DR ドライブリング
EL 略長円形状の突起(固定)
FX 固定部材
G 排気ガス
HL 保持部材
h 翼幅
L 翼弦長
LA 切り欠き
RE 四角片状の部材(回転自在)
T 排気タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気タービンの外周位置に配置された複数の可変翼を回動させ、
エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギで排気タービンを回し、排気タービンに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリに組み込まれる可変機構において、
前記可変機構は、可変翼の軸部と固定された伝達体を構成部材として含み、複数の可変翼を一斉に且つほぼ均一に回動させるにあたっては、外部に設けられたアクチュエータからのシフト駆動を伝達体に入力し、隣接する伝達体どうしの間で順次ダイレクトに駆動を伝達して行き、複数の可変翼を一挙に回動させるようにしたことを特徴とするVGSタイプターボチャージャにおける可変機構。
【請求項2】
前記隣接する伝達体は、互いの外縁が接するように形成され、
隣接する伝達体の間で回動を伝達するにあたっては、駆動を起こす原動側の伝達体の回動に伴い、前記外縁の接点を徐々にずらして行く回転すべり接触によって、駆動を受ける従動側の伝達体をほぼ同程度回動させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構。
【請求項3】
前記伝達体は、回転すべり接触面となる外縁形状が左右対称に形成されることを特徴とする請求項2記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構。
【請求項4】
前記アクチュエータからのシフト駆動を、伝達体に入力するにあたっては、複数の伝達体に同時に入力するようにしたことをことを特徴とする請求項1、2または3記載のVGSタイプターボチャージャにおける可変機構。
【請求項5】
排気タービンの外周位置に、複数の可変翼を回動自在に設け、
エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギで排気タービンを回し、排気タービンに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリにおいて、
前記請求項1、2、3または4記載の可変機構を組み込んで成ることを特徴とするVGSタイプターボチャージャにおける排気ガイドアッセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−74376(P2009−74376A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242034(P2007−242034)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(593146110)株式会社アキタファインブランキング (15)
【Fターム(参考)】