説明

X線検査装置

【課題】X線を照射することによるIC等の被検査物の破損を確実に防止することのできるX線検査装置を提供する。
【解決手段】被検査物WへのX線の累積照射量を測定もしくは推定して記録するX線累積照射量記録手段を備えた構成とすることにより、例えば累積照射量があらかじめ設定している限界量に到達した時点で自動的にX線の照射を停止する等によって、検査自体による不良品の発生を防止し、良品に混入することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業製品等の被検査物にX線を照射して得られるX線透過情報を用いて、その被検査物のX線透視像を構築し、あるいは断層像を構築して、欠陥の有無等の検査を行うX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線検査装置は、被検査物にX線を照射して得られるX線透過情報を用いてX線透視像やX線CT画像を構築し、その画像に基づいて被検査物内部の欠陥等の有無を検査する。X線透視像を得る装置にあっては、通常、コーンビーム状のX線を発生するX線発生装置に対向して、2次元のX線検出器を配置し、これらの間に被検査物を搭載して3次元方向に移動可能な観察ステージを配置した構造を採る(例えば特許文献1参照)。また、X線CT画像を得る装置にあっては、同様に互いに対向配置したX線発生装置とX線検出器の間に、被検査物を搭載する観察ステージを配置し、この観察ステージを所定の回転軸の回りに回転させる構造を採る(例えば特許文献2参照)。
【0003】
このようなX線検査装置よる検査対象の一つとして、集積回路(IC)が挙げられる。ICの内部に不良や欠陥がないか否かの検査として、X線検査装置による非破壊検査は有効である。
【0004】
しかしながら、ICにX線を大量に照射すると、IC自体が破損する可能性があることが指摘されている(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
従来、X線の照射を抑える必要のある被検査物に対してX線検査を行う場合、一般に、図3に例示するように、互いに対向するX線発生装置31とX線検出器32の間に被検査物Wを搭載する観察ステージ33が設けられたX線検査装置において、被検査物WとX線発生装置31との間に金属板製のフィルタ40を介在させ、X線を減衰させてから被検査物Wに照射する構成が採られる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−037386号公報
【特許文献2】特開2004−132931号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「X−Ray Inspection−induced Latent Damage in DRAM」,Akram Ditali,et al.IEEE 06CH37728 44th ”Annual International Reliability Physics,San Jose,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ICをX線検査装置で検査するのは、不良品や欠陥品を排除して良品のみを選別することが目的であり、その検査自体によってICが破損してしまっては、検査により選別された良品の中に、X線の照射に起因する不良品が混入してしまうことになる。
【0009】
X線の累積照射量が大きくなるほど、X線照射によるIC破損の可能性が高くなるため、このような場合には被検査物へのX線の累積照射量を管理したいという要望がある。
【0010】
前記した金属板製のフィルタによりX線を減衰させる従来の対策では、X線の線量自体も低下するため、X線検出器まで十分なX線が届かず、X線画像の画質が低下する傾向がある。また、フィルタを用いても、照射時間が長くなると被検査物へのX線の累積照射量は増加するため、ICの破損の危険性はなくならないという問題がある。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、X線を照射することによるIC等の被検査物の破損を確実に防止することのできるX線検査装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のX線検査装置は、X線発生装置からのX線を被検査物に照射し、その透過X線をX線検出器で検出して得られる透過X線データを用いて、被検査物の透視X線像を構築して表示するX線検査装置において、被検査物へのX線の累積照射量を測定もしくは推定して記録するX線累積照射量記録手段を備えていることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0013】
ここで、本発明においては、上記X線累積照射量記録手段により記録された被検査物へのX線の累積照射量が、あらかじめ設定されている限界量に達したときに、上記X線発生装置からのX線の照射を自動的に停止するX線照射制御手段を備えた構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0014】
また、本発明においては、上記X線累積照射量記録手段により記録された被検査物へのX線の累積照射量が、上記限界量よりも少ないあらかじめ設定された量に達した時点で警告を発生する警告発生手段を備えている構成(請求項3)を採用することもできる。
【0015】
本発明におけるX線累積照射量記録手段は、検査時における被検査物の配設位置での、あらかじめ求めておいた線量率を用いて、実際の検査時におけるX線条件、被検査物のX線発生装置からの距離、および照射時間から、被検査物へのX線の累積照射量を演算により推定する構成(請求項4)とすることができる。
【0016】
ここで、線量率をあらかじめ求める方法としては、例えば装置の組立調整時や定期点検時に、検査作業時に被検査物が置かれる位置の近傍でのX線線量率を測定しておく方法のほか、当該装置で用いるX線発生装置のメーカが公開している線量率のデータを用いる方法のいずれでもよい。
【0017】
また、本発明におけるX線累積照射量記録手段は、上記のほか、被検査物の近傍に配置されている線量計の出力に基づいて被検査物へのX線の累積照射量を記録する構成(請求項5)を採用してもよい。
【0018】
請求項5に係る発明における線量計は、X線発生装置からのX線の照射領域で、かつ、上記X線検出器の視野外に配置され、上記X線累積照射量記録手段は、あらかじめ記憶しているX線発生装置の線量分布により上記線量計の出力を補正して被検査物へのX線の累積照射量を記録する構成(請求項6)を採用することが好ましい。
【0019】
そして、本発明においては、上記X線累積照射量記録手段は、被検査物上の特定部位へのX線の累積照射量を記録する構成(請求項7)を採用することもできる。
【0020】
本発明は、被検査物の検査時におけるX線の累積照射量を逐次記録していくことにより課題を解決しようとするものであり、累積照射量は、請求項5に係る発明のように検査中に実測してもよいし、あるいは請求項4に係る発明のようにあらかじめ求めておいた被検査物の配設位置における線量率と、X線条件等から演算により推定してもよい。
【0021】
X線の累積照射量があらかじめ設定されている限界量(被検査物が破損しない限界の累積照射量)に達したときに、X線発生装置からのX線の照射を自動的に停止すること(請求項2)により、X線の累積照射量を確実に一定量以下に抑えることができ、ひいては被検査物のX線による破損を確実に防止することができる。
【0022】
また、X線の累積照射量が限界量に達する前のあらかじめ設定された量に達した時点で警告を発すること(請求項3)によって、オペレータは累積照射量が限界量に近いことを知ることができ、検査の作業性が向上する。
【0023】
また、例えば基板上にICが実装された被検査物等において、ICのみの累積照射量が問題となる場合には、請求項7に係る発明のように、特定部位への累積照射量、つまりICへの累積照射量を記録する構成の採用により、検査作業の自由度が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被検査物へのX線の累積照射量が記録されていくので、X線の過剰な照射による被検査物の破損を防止することができる。
また、記録された累積照射量があらかじめ設定されている限界量に達した時点で、自動的にX線の照射を停止するように構成すれば、X線の照射に起因する被検査物の破損を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の構成図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の構成図である。
【図3】X線の累積照射量を抑制する従来の対策の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図であり、機械的構成を表す模式図とシステム構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0027】
X線発生装置1はコーンビーム状のX線を鉛直上方に向けて発生し、このX線発生装置1の上方に対向するように2次元のX線検出器2が配置されている。そして、これらの間に、被検査物Wを搭載するための観察ステージ3が配置されている。この観察ステージ3は、移動機構4の駆動により3軸方向に移動する。
【0028】
X線発生装置1はX線コントローラ5の制御下に置かれており、このX線コントローラ5からの信号に基づいてX線発生装置1の管電流および管電圧が定まり、また、ON/OFFされる。
【0029】
X線検出器2の出力は画像データ取り込み回路6を介して制御部7に取り込まれる。この制御部7は、また、前記した移動機構4およびX線コントローラ5をも制御下に置いている。
【0030】
制御部7はコンピュータとその周辺機器を主体として構成され、被検査物のX線透視画像等を表示するための表示器8と、マウスやキーボードおよびジョイスティック等からなり、制御部7に対して各種指令を与えたり、後述するX線累積照射量の限界量等の設定などを行うための操作部9が接続されている。
【0031】
なお、X線発生装置1とX線検出器2、観察ステージ3等は、X線防護箱10内に収容され、X線が外部に漏洩することを防止している。
【0032】
さて、この実施の形態においては、例えば装置の組立時や調整時、あるいは定期点検時等の規定のタイミングのもとに、あらかじめ、基準となるX線条件、すなわち、X線発生装置1の管電圧・管電流、X線発生装置1の焦点から被検査物(観察テーブル3の表面)までの距離[SOD]をそれぞれ規定の設定状態として、例えば観察テーブル3上に線量計を配置して線量率を測定し、制御部7に記憶しておく。
【0033】
検査作業に先立ち、被検査物の種類等に応じてあらかじめ試験等において求められているX線累積照射量の限界量、すなわち、これから検査すべき被検査物がX線の照射により破損しないことを保証することのできる限界の累積照射量を操作部9から入力する。
【0034】
検査作業に際しては、観察テーブル3上に被検査物Wを搭載し、その観察テーブル3をX線発生装置1とX線検出器2の間に位置するように移動させ、X線発生装置1からのX線を被検査物Wに照射する。このX線照射により被検査物Wを透過したX線はX線検出器2によって検出され、その検出出力が画像データ取り込み回路6を介して制御部7に取り込まれる。制御部7では、その取り込んだデータを用いて被検査物WのX線透視像を構築して表示器8に表示する。
【0035】
被検査物WにX線が照射されると、そのときのX線条件、つまりX線発生装置1の管電圧、管電流と、SODを記録するとともに、時間を計測する。
【0036】
同時に、このX線条件での線量率を、あらかじめ記憶しておいた基準条件での線量率を基に算出する。すなわち、線量率は管電圧の2乗に比例するとともに、管電流に比例し、SODの2乗に反比例する。X線条件が変更されるまでの間、このようにして求めた線量率と当該条件が継続している間の時間との積から、照射線量を算出する。途中でX線条件が変更された場合には、同様にして変更後のX線条件下での線量率を算出し、その条件下でのX線照射時間を計測して照射線量を求めていく。同じ被検査物に対して照射された全ての条件下でのX線照射線量を加算していくことで、X線の照射開始からの累積照射量が計算される。
【0037】
このようにして刻々と求められるX線累積照射量は、前記した限界量と比較され、X線累積照射量が限界量に到達した時点で、自動的にX線発生装置1からのX線の発生を停止する。
【0038】
以上の実施の形態によれば、X線の過剰照射による被検査物Wの損傷を未然に防止することができ、検査自体によって不良品を発生することを確実に防止することができ、製品の信頼性が向上する。
【0039】
ここで、以上の実施の形態においては、X線累積照射量が限界量に達した時点で自動的にX線の照射を止めるように構成したが、その時点で表示器8にその旨の表示を行うように構成することもできる。
【0040】
また、X線累積照射量が限界量に達する前に、例えばその90%等の量に達した時点で警告表示を行うように構成してもよい。
【0041】
更に、以上の実施の形態においては、基準となるX線条件での線量率をあらかじめ実測して記憶しておき、その実測値を基に検査時におけるX線条件での線量率を計算により求めたが、想定される全てのX線条件での線量率をあらかじめ実測し、これをテーブルとして記憶しておき、検査時において用いられるX線条件に対応する線量率をそのテーブルから抽出して照射線量を求めてもよい。
【0042】
更にまた、基準となるX線条件での線量率を実測することなく、X線発生装置1のデータシートに線量率データの記載がある場合には、そのデータをそのまま採用してもよい。線量率データには、通常、そのデータを取得したX線条件が記載されているので、これを基準となるX線条件と、その線量率として記憶してもよい。
【0043】
また、X線発生装置からのX線の線量率をあらかじめ測定しておくのではなく、検査中に実測してもよい。図2にその構成例を示す。この図2の例では、先の例と同様にX線発生装置1とX線検出器2との間に観察ステージ3を配置したX線検査装置において、線量計11を観察ステージ3に装着している。X線発生装置1からのコーンビーム状のX線の照射領域は、通常、X線検出器2の視野よりも広く、この図2の例では、線量計11はX線発生装置1からのX線の照射領域で、かつ、X線検出器2の視野外に配置されている。
【0044】
そして、X線発生装置1からのX線の線量分布をあらかじめ求めておき、線量計11の配設位置と線量分布の最大値との比から、線量計11による線量の計測結果を補正し、補正後の線量率を被検査物Wに照射される線量率として、累積照射量を逐次計算する。
この構成により、線量計11はX線検出器2の視野を妨害することがなく、被検査物WのX線透視像を用いた検査作業に影響を与えることがなく、しかも正確に被検査物WへのX線累積照射量を測定することができる。
【0045】
ここで、以上の各実施の形態においては、被検査物の全体へのX線累積照射量を求める例を示したが、例えば比較的大きな基板上に一つもしくは複数のICが搭載されているような被検査物を、その一部領域のみにX線を照射して拡大透視して検査を行うような場合、特定領域であるICのみへのX線累積照射量を抑えるようにする場合、被検査物上のICの搭載位置をあらかじめ記憶しておき、観察ステージの位置から特定領域であるICにX線が照射されているか否かを刻々と判別し、X線が照射されている時間と線量率とから当該特定領域(IC)へのX線累積照射量を求めることもできる。
【0046】
なお、以上の各実施の形態では、X線透視像を構築するX線検査装置に本発明を適用したが、本発明は、X線CT装置にも等しく適用し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 X線発生装置
2 X線検出器
3 観察ステージ
4 移動機構
5 X線コントローラ
6 画像データ取り込み回路
7 制御部
8 表示器
9 操作部
10 X線防護箱
11 線量計
W 被検査物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線発生装置からのX線を被検査物に照射し、その透過X線をX線検出器で検出して得られる透過X線データを用いて、被検査物の透視X線像を構築して表示するX線検査装置において、
被検査物へのX線の累積照射量を測定もしくは推定して記録するX線累積照射量記録手段を備えていることを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
上記X線累積照射量記録手段により記録された被検査物へのX線の累積照射量が、あらかじめ設定されている限界量に達したときに、上記X線発生装置からのX線の照射を自動的に停止するX線照射制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
上記X線累積照射量記録手段により記録された被検査物へのX線の累積照射量が、上記限界量よりも少ないあらかじめ設定された量に達した時点で警告を発生する警告発生手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載のX線検査装置。
【請求項4】
上記X線累積照射量記録手段は、検査時における被検査物の配設位置でのあらかじめ求めておいた線量率を用いて、実際の検査時におけるX線条件、被検査物のX線発生装置からの距離、および照射時間から、被検査物へのX線の累積照射量を演算により推定することを特徴とする請求項1,2または3のいずれか1項に記載のX線検査装置。
【請求項5】
上記X線累積照射量記録手段は、被検査物の近傍に配置されている線量計の出力に基づいて被検査物へのX線の累積照射量を記録することを特徴とする請求項1、2または3のいずれか1項に記載のX線検査装置。
【請求項6】
上記線量計は、上記X線発生装置からのX線の照射領域で、かつ、上記X線検出器の視野外に配置され、上記X線累積照射量記録手段は、あらかじめ記憶しているX線発生装置の線量分布により上記線量計の出力を補正して被検査物へのX線の累積照射量を記録することを特徴とする請求項5に記載のX線検査装置。
【請求項7】
上記X線累積照射量記録手段は、被検査物上の特定部位へのX線の累積照射量を記録することを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6のいずれか1項に記載のX線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179936(P2011−179936A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43696(P2010−43696)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】