説明

X線高電圧装置

【課題】 高電圧スイッチを構成する半導体スイッチを駆動する駆動回路を小形化して、X線管のアノ−ドとカソ−ド間の管電圧を高速に降下させる機能を備えたX線高電圧装置の小型、低価格化を図る。
【解決手段】 交流電圧源の交流電圧を高電圧変圧器で昇圧し,この昇圧された交流電圧を高電圧整流器で直流高電圧に変換し、この変換され直流高電圧を高電圧コンデンサで平滑してX線管に印加する。このX線管からのX線の放射を停止する期間に前記高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーを放電させる半導体式高電圧スイッチは、制御用電源回路23の直流電圧を前記X線管からのX線の放射期間に第1のスイッチ3b1,3b2を閉じて第1のコンデンサ1bに充電しておき、前記X線放射の停止時から前記高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーの放電期間に第2のスイッチ3g1〜3g4を閉じて前記第1のコンデンサの電圧を第2のコンデンサ1c1,1c2に充電し、この充電された電圧を前記高電圧スイッチの半導体の導通制御部に印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用または工業用のX線高電圧装置に係わり、特にX線管からのX線の放射を停止する期間に前記X線管のアノ−ドとカソ−ド間に流れる電流(以下、管電流と記す)の大小に係わらず常に前記X線管のアノ−ドとカソ−ド間の電圧(以下、管電圧と記す)を高速に降下させるための高電圧スイッチを駆動する回路を簡単な構成とするX線高電圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線高電圧装置の管電圧を高速に制御する装置が開発されてきた。これらX 線高電圧装置では、通常、高電圧変圧器の交流高電圧出力を高電圧整流器で整流し、これを高電圧側に付加したコンデンサや高電圧ケーブルの有している浮遊容量などのコンデンサで平滑して直流高電圧をX線管に供給している。
この場合、高電圧整流器があるために、前記コンデンサに蓄えられた電荷の放電はX線管を経由するルートしかなく、管電圧を高速に立ち上げることは比較的容易であるが、管電圧を高速に降下させることは困難であるという技術的な課題がある。
【0003】
このため、血管内の血流を動画とする撮影や、血管内でカテーテルを操作するときの高画質なリアルタイム画像を得るためのパルス透視など、高速なパルス状管電圧が要求されるX線高電圧装置では、管電圧の下降時の波形(以下、波尾と呼ぶ)が問題になる。
【0004】
すなわち、この波尾は画像表示手段に形成されるX線画像にはほとんど効果がなく、そのうえ、被検者に対する有害な被曝になりやすい低エネルギーX線がX線管から多量に放射されることになる。
これは、特に、インターベンショナルラジオロジーに代表される高画質透視下での医療行為に対して、無効被曝となり、さらに、前記管電圧の波尾の期間は、X線管で前記コンデンサに蓄えられた電力を消費することになるので、それだけX線管の内部温度を上昇させ、その寿命を早めたり、パルスX線出力後の許容X線条件を制約するなどの問題が生じる。
【0005】
このような問題を解決する方法として、X線管のアノードとカソード間に電流制限用インピーダンスと高電圧スイッチとの直列接続体を接続し、高電圧側のコンデンサに蓄積された電荷を高速に放電させる装置(以下、これを管電圧波尾短縮装置と呼び、これに用いる回路を波尾短縮回路と呼ぶことにする)が特許文献1,2に開示されている。
【0006】
これら特許文献1,2に開示されているX線高電圧装置は、複数個の電力用半導体スイッチング素子(以下、半導体スイッチと呼ぶ)を直列接続し、これらの半導体スイッチを順次スイッチングさせる高電圧スイッチと電流制限インピーダンスとの直列接続体を前記コンデンサと並列に接続し、X線の放射停止時に前記高電圧スイッチをスイッチングさせて前記コンデンサに蓄積された電荷を急激に放電させ管電圧を高速に降下させるものである。
【特許文献1】特開平8-212948号公報
【特許文献2】特開2001-230098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記波尾短縮回路は、直列接続された複数個の半導体スイッチによる高電圧スイッチと電流制限インピーダンスとの直列接続体及び前記半導体スイッチをスイッチング駆動する駆動回路とで構成されている。
【0008】
前記半導体スイッチには、耐電圧の高いMOSFET(Metal OXid Silicon Field Effect Transistor)が用いられ、これらのMOSFETは、該MOSFETをスイッチング駆動する駆動回路を備えている。
【0009】
この駆動回路は、該駆動回路に駆動信号を与える駆動制御回路を前記高電圧スイッチと絶縁する必要があるために、上記特許文献1及び特許文献2に開示されている種々の駆動回路を採用していた。
【0010】
すなわち、特許文献1による90kV以上の絶縁耐圧を有するパルストランスを用いた駆動回路、光ファイバによる光学的絶縁手段を用いた駆動回路と、特許文献2による光ファイバによる光学的絶縁手段を用いた駆動回路である。
【0011】
このように、前記高電圧スイッチを構成する半導体スイッチを駆動する駆動回路とこの駆動回路の動作信号を発生させる駆動信号制御回路との絶縁は、パルストランスによる絶縁手段又は光ファイバによる光学的絶縁手段を用いていた。
【0012】
前記パルストランスによる絶縁手段は、90kV以上の絶縁耐圧を有するパルストランスと、このパルストランスを駆動するFET(Field Effect Transistor)と、高周波パルス列を発生するパルス発生回路と、直流電源及びその他の多くの電気部品で構成され、また、光ファイバによる光学的絶縁手段は、発光ダイオード、光ファイバ、トランジスタ、直流電源及びその他の多くの電気部品で構成されており、さらに前記直流電源は絶縁変圧器で絶縁して直流電源を構成しなければならないので整流器、平滑コンデンサ等の電気部品も必要となる。
【0013】
このように、従来の駆動回路は、高耐電圧のパルストランス、光ファイバ、直流電源用絶縁変圧器及びその他の多くの電気部品が必要であるために、大型で高価なものとなり、小形化が要求されるX線高電圧装置においては、この要求に呼応するために、さらなる小形化、低価格化が望まれていた。
【0014】
本発明の目的は、上記事情に鑑みて成されたものであって、高電圧スイッチを構成する半導体スイッチを駆動する駆動回路を小形化して、X線管のアノ−ドとカソ−ド間の管電圧を高速に降下させる機能を備えたX線高電圧装置の小型、低価格化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、交流電圧源と、この交流電圧源に一次巻線が接続され、その電圧を昇圧する高電圧変圧器と、この高電圧変圧器の二次巻線に接続され昇圧された交流電圧を直流高電圧に変換する高電圧整流器と、この高電圧整流器に接続され前記直流高電圧を平滑する高電圧コンデンサと、この高電圧コンデンサに接続されたX線管と、このX線管からのX線の放射を停止する期間に前記高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーを放電させる半導体式高電圧スイッチと、この高電圧スイッチの半導体スイッチング素子をスイッチング駆動するスイッチング駆動手段とを備えたX線高電圧装置であって、前記スイッチング駆動手段は、直流電源と、前記X線管からのX線の放射期間に閉路する第1のスイッチと、この第1のスイッチの閉路により前記直流電源からの電圧を充電する第1のコンデンサと、前記X線管からのX線放射の停止時から前記高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーの放電期間に閉路する第2のスイッチと、この第2のスイッチの閉路により前記第1のコンデンサの電圧を充電する第2のコンデンサと、この第2のコンデンサに充電された電圧を前記半導体スイッチング素子の導通制御部に印加して前記半導体式高電圧スイッチを導通制御する高電圧スイッチ導通制御手段とを備えることによって達成される。
【0016】
このように構成されたX線高電圧装置は、X線管からのX線の放射期間に第1のスイッチを閉じて直流電源からの電圧を第1のコンデンサに充電しておき、前記X線管からのX線放射の停止時から高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーの放電期間に前記第1のスイッチを開き、第2のスイッチを閉じて、前記第1のコンデンサの電圧を第2のコンデンサに充電して、この第2のコンデンサに充電された電圧を前記高電圧スイッチの半導体の導通制御部に印加するようにしたので、前記第1のスイッチと第2のスイッチによりX線高電圧装置の制御回路と高電圧スイッチとを絶縁することができ、従来のように高価で大型の絶縁変圧器や多くの電気部品を用いることなく半導体式高電圧スイッチのスイッチング駆動手段を構成できるので、X線高電圧装置を小型で安価なものとすることができる。
【0017】
また、上記目的は、さらに前記第1のコンデンサに充電された電圧を倍電圧に昇圧する手段を備え、前記高電圧スイッチ導通制御手段は、前記昇圧手段で昇圧された電圧を前記高電圧スイッチの半導体の導通制御部に印加することによって達成される。
【0018】
このように構成されたX線高電圧装置は、半導体式高電圧スイッチの駆動電圧を前記直流電源の電圧を倍電圧に昇圧するようにしたので、X線高電圧装置の制御回路の直流電源電圧を低電圧化しても前記半導体式高電圧スイッチを駆動するのに充分な電圧とすることができる。
これによって、X線高電圧装置の制御回路の小形化を図ることができるので、波尾短縮機能を備えたX線高電圧装置の小型、低コスト化に寄与するものとなる。
【0019】
さらにまた、前記交流電圧源は、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換し、この変換した直流電圧を前記交流電源周波数よりも高い周波数の交流電圧に変換するインバータ回路を備えた交流電圧源であって、前記インバータ回路を制御する制御手段を備え、このインバータ制御手段の直流電源と前記スイッチング駆動手段の直流電源とを共用するものである。
【0020】
このように、直流電源を共用化することによって、従来のように絶縁変圧器で絶縁された二つの直流電源を備える必要がないので、さらにX線高電圧装置の小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、機械式スイッチでX線高電圧装置の制御回路と高電圧スイッチとを絶縁するようにしたので、従来のように高価で大型の絶縁変圧器や多くの電気部品を用いることなく半導体式高電圧スイッチのスイッチング駆動手段を構成することができ、これによってX線管のアノ−ドとカソ−ド間の管電圧を高速に降下させる機能を備えたX線高電圧装置を小型で安価なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明のX線高電圧装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態による半導体式高電圧スイッチ駆動回路を適用したインバータ式X線高電圧装置の構成を示す図である。
図1において、本発明の第1の実施形態によるX線高電圧装置は、単相交流電源10と、この単相交流電源10に接続され該交流電源の交流電圧を直流に変換する整流器11と、この整流器11で整流された直流電圧を平滑する第1のコンデンサ12と、この第1のコンデンサ12で平滑された直流電圧を前記交流電源10の周波数よりも高い周波数(以下、高周波と略記)の交流電圧に変換する半導体スイッチング素子13a,13b,13c,13dでフルブリッジ構成されたインバータ回路13と、このインバータ回路13で高周波の交流電圧に変換された電圧を昇圧する高電圧変圧器14と、この高電圧変圧器14の二次側に接続され昇圧された交流電圧を整流する高電圧整流器15と、この高電圧整流器15に接続されその出力電圧を平滑する後述のX線管17のアノードとアース間のコンデンサ161及びアースとカソード間のコンデンサ162とから成る第2のコンデンサ(高電圧コンデンサ)16と、この第2の平滑コンデンサ16に接続されこのコンデンサで平滑された直流の高電圧が印加されてX線を放射するX線管17と、このX線管17から放射されるX線放射の停止時に前記第2の平滑コンデンサ16に充電されている電圧を放電させて前記X線管17のアノードとカソード間の電圧、すなわち管電圧の波尾を短縮するための前記X線管17及び前記第2の平滑コンデンサ16と並列に接続された放電抵抗181と高電圧スイッチ182の直列接続体及び放電抵抗183と高電圧スイッチ184の直列接続体とから成る波尾短縮回路18と、前記インバータ回路13の半導体スイッチング素子13a,13b,13c,13dを導通制御するインバータ制御信号及び前記波尾短縮回路18の高電圧スイッチ182,184の開閉信号(以下、オン、オフ信号と記す)である波尾短縮制御信号を生成する制御信号生成回路19と、前記インバータ制御信号を増幅して前記半導体スイッチング素子13a〜13dをスイッチング駆動するインバータ駆動回路20と、前記波尾短縮制御信号を増幅して前記高電圧スイッチ182,184をオン、オフ駆動する高電圧スイッチ駆動回路21と、前記単相交流電源10の交流電圧を変圧器22で絶縁し該変圧器22の出力交流電圧を整流、平滑して前記制御信号生成回路19と前記高電圧スイッチ駆動回路21の直流電源とする制御用電源回路23とを備えて構成される。
【0024】
なお、26はX線撮影条件(管電圧、管電流、撮影時間)を設定し、本発明によるインバータ式X線高電圧装置を用いてX線撮影を行うX線撮影システム全体を操作制御する操作卓である。
また、24はX線管17のアノードとカソード間に印加される電圧(管電圧)を検出する管電圧検出器、25はX線管17のアノードとカソード間に流れる電流(管電流)を検出する管電流検出器で、これらの検出器により検出した管電圧、管電流と前記操作卓26で設定した管電圧、管電流とが一致するように前記制御信号生成回路19でインバータ制御信号を生成してインバータ回路13の半導体スイッチング素子13a〜13dを導通制御するものである。
【0025】
前記第2の平滑コンデンサ16は、前記高電圧整流器15と前記X線管17とを接続する高電圧ケーブルの浮遊静電容量と、必要に応じて追加された平滑用高電圧コンデンサで構成されている。
【0026】
前記波尾短縮回路18は、前記X線管17のアノードとアース間に接続される放電抵抗181と高電圧スイッチ182の直列接続体及び前記X線管17のカソードとアース間に接続される放電抵抗183と高電圧スイッチ184の直列接続体とから成り、前記高電圧スイッチ182と高電圧スイッチ184は、電力用半導体スイッチング素子の直列接続体で構成され、図2に前記高電圧スイッチ182の一例を示す。
【0027】
図2において、前記高電圧スイッチ182は、電力用半導体スイッチング素子にMOSFET(Metal OXid Silicon Field Effect Transistor)を用い、これをQ211からQ21nまでを直列に接続して所定の電圧に耐えるようにしている。
【0028】
各MOSFETには、これらのMOSFETのターンオン、ターンオフ時の過渡電圧のアンバランスを小さくするための過渡特性改善用の抵抗 R1〜RnとコンデンサC1〜Cnの直列接続体を並列に接続し、MOSFETのターンオフ時の前記コンデンサC1〜Cnへの充電を速くするために前記抵抗R1〜Rnと並列にダイオードD1〜Dnを接続し、さらに各MOSFETのゲートとソース間には過電圧が印加されないようにするためにツェナーダイオードZD1〜ZDnが並列に接続されている。
なお、MOSF ETの非導通時の電圧分担のバランスを図るための各MOSFETと並列に接続する抵抗は省略している。
【0029】
この図2のMOSFETの直列接続体の最前列のMOSFET Q211のゲートG1とソ―スS1間に図1の高電圧スイッチング駆動回路21からの駆動電圧を印加するとQ211は導通し、コンデンサC1に充電されている電圧は抵抗R1を介して次段のQ212のゲートとソース間に充電され、これが所定の電圧になると前記Q212は導通し、以降順次MOSFETが導通して最後尾のMOSFET Q21nが導通して、分割した直列接続体182のスイッチングが完了する。
【0030】
この直列接続体182の直列接続数は、実用的な電圧のアンバランスの範囲を定め、この範囲から分割した直列接続体のスイッチング時間遅れの許容値が求まり、これから最適な直列接続数が決定される。
【0031】
上記高電圧スイッチ184も前記高電圧スイッチ182と同様の構成とし、上記のように、電力用半導体スイッチング素子の直列接続体をX線管17のアノードとアース間及びカソードとアース間の耐電圧に対応した数だけ設けて高電圧スイッチ182と184を構成する。
【0032】
前記MOSFETを駆動する該MOSFETのゲートとソース間に印加する電圧は、インバータ回路13の動作停止時から管電圧の波尾が所定値以下に降下するまで発生させる必要がある。
このため、前記MOSFETを駆動する制御信号を前記制御信号生成回路19で生成し、これを前記高電圧スイッチ駆動回路21で前記MOSFETを駆動できる電圧に変換し、この変換された電圧を高電圧スイッチ182と184の初段のMOSFETのゲートに印加して該MOSFETのスイッチング動作を行う。
【0033】
図3は、本発明による高電圧スイッチ駆動回路21の基本原理を示す図である。
図3において、3b1,3b2と3g1,3g2は後述する継電器3bと3gの接点で、これらの接点による機械式スイッチ(以下、スイッチと記す)のオン、オフにより高電圧スイッチ182,184と制御信号生成回路19とを絶縁するものである。
【0034】
すなわち、インバータ回路13が動作してX線管17からX線を放射している期間は前記スイッチ3b1,3b2をオンさせて、制御用電源回路23の出力電圧(直流電源電圧)をリアクトル2bを介してコンデンサ1bに充電しておく。
前記インバータ回路13が停止してX線管17からのX線放射の停止時に前記スイッチ3b1,3b2をオフし、スイッチ3g1,3g2をオンさせて前記コンデンサ1bの充電電圧をリアクトル2cを介してコンデンサ1cに充電し、この充電した電圧を、例えば前記図2のMOSFET Q211のゲートG1とソースS1間に印加して高電圧スイッチ182を導通させる。
【0035】
このように、本発明によるX線高電圧装置は、該装置の高電圧スイッチと制御信号生成回路19とを機械式スイッチで絶縁するものである。
【0036】
図4は、上記スイッチ3b1と3b2の継電器3b及びスイッチ3g1,3g2の継電器3gの励磁回路、図5は図4の各部の動作タイミングを示す図である。
【0037】
図4及び図5において、aは操作卓26により操作されるインバータ式X線高電圧装置が動作している期間に発生するX線高電圧装置の動作信号、bは前記インバータ回路13が動作してX線を放射している期間に発生するインバータ回路動作信号で、前記X線高電圧装置の動作信号aは前記波尾短縮回路18の動作期間だけインバータ回路動作信号bよりも長く設定している。
これらのX線高電圧装置の動作信号a及びインバータ回路動作信号bは、操作卓26からの操作信号に基づいて制御信号生成回路19で生成する。
【0038】
前記継電器3bは、インバータ回路13が動作している期間だけ励磁されて該継電器3bのスイッチ3b1,3b2をオンさせるもので、前記インバータ回路の動作信号bでトランジスタ3btを導通させて継電器3bを励磁する。
【0039】
また、前記継電器3gは、前記インバータ回路13が停止してX線管17からのX線放射の停止時に該継電器3gのスイッチ3g1,3g2をオンさせるもので、インバータ回路の動作信号bを反転回路3cで反転させた信号cとX線高電圧装置の動作信号aとを論理積回路3dで論理積をとり、この論理積信号dを遅延回路3eで遅延させた信号eと前記X線高電圧装置の動作信号aとを論理積回路3fで論理積をとって、この論理積信号fでトランジスタ3gtを導通させて継電器3gを励磁する。
なお、前記トランジスタ3bt,3gtと逆並列に接続されたダイオード3bdと3gdは、前記トランジスタ3bt,3gtが導通から非導通時の動作時に前記継電器3b,3gの励磁コイルに流れていた電流を遮断することによって発生する過電圧を抑制するためのものである。
【0040】
このように、継電器3bと3gとを励磁することによって、インバータ回路13の動作期間は前記トランジスタ3btは導通し、継電器3bが励磁されてそのスイッチ3b1,3b2はオンして図3に示すコンデンサ1bに高電圧スイッチを構成するMOSFETを駆動するのに充分な電圧を充電し、インバータ回路13の動作が停止してX線放射停止時になると、前記トランジスタ3btは非導通となって前記継電器3bに流れる励磁電流が遮断されそのスイッチ3b1,3b2はオフとなる。
【0041】
そして、前記インバータ回路13の動作が停止してから所定の時間後に所定の時間だけ前記トランジスタ3gtは導通し、前記継電器3gが励磁されてそのスイッチ3g1,3g2はオンして、前記コンデンサ1bに充電されていた電圧は図3に示すコンデンサ1cに充電され、この充電された電圧を高電圧スイッチの半導体スイッチング素子MOSFETのゲートとソース間に印加して前記高電圧スイッチを導通させると管電圧は急激に降下するので、該管電圧の波尾は短縮し、この短縮後の前記X線高電圧装置の動作信号aのオフと共にトランジスタ3gtが非導通となって継電器3gに流れる励磁電流が遮断されそのスイッチ3g1,3g2はオフとなる。
【0042】
なお、前記トランジスタ3btの非導通から前記トランジスタ3gtが導通するまでの間に遅延回路3eによる遅延時間を設けたのは、前記継電器3bと3gとの動作のばらつきにより、これらの継電器のスイッチにチャタリング等が生じて3b1、3b2,3g1,3g2が同時にオンすることを防ぐために設けたものであるが、本発明はこれに限定するものではなく、前記スイッチ3b1,3b2,3g1,3g2が同時にオンすることがない回路構成の場合は必ずしも必要とするものではない。
【0043】
図6は、前記図3の基本原理図を用いて前記高電圧スイッチ182,184(図1及び図2参照のこと)をスイッチング駆動する回路図である。
【0044】
このスイッチング駆動回路において、スイッチ3b1と3b2は図4に示した継電器3bの機械式接点であり、スイッチ3g1,3g2,3g3,3g4は継電器3gの機械式接点で、該継電器3gは前記四つの接点を備えている。
これらの継電器3b及び3gは、前記図4及び図5に示した回路とタイミングで動作して前記高電圧スイッチ182,184をスイッチング駆動する。
【0045】
すなわち、インバータ回路13の動作期間は図4に示すトランジスタ3btは導通し、継電器3bが励磁されてそのスイッチ3b1,3b2はオンして図6に示すコンデンサ1bに高電圧スイッチを構成するMOSFETを駆動するに充分な電圧をリアクトル2bを介して充電しておき、インバータ回路13の動作が停止してX線放射停止時になると、前記トランジスタ3btは非導通となって前記継電器3bに流れる励磁電流が遮断されそのスイッチ3b1,3b2はオフとなる。
【0046】
そして、前記インバータ回路13の動作が停止してから所定の時間後に所定の時間だけ図4に示すトランジスタ3gtは導通し、前記継電器3gが励磁されてそのスイッチ3g1,3g2,3g3,3g4,はオンして、前記コンデンサ1bに充電されていた電圧は図6に示すコンデンサ1c1及び1c2にそれぞれリアクトル2c1,2c2を介して充電され、この充電された前記コンデンサ1c1の電圧をX線管17のアノードとアース間側の高電圧スイッチ182の半導体スイッチング素子MOSFETのゲートとソース間に印加し、前記コンデンサ1c2の電圧をX線管17のアースとカソード間側の高電圧スイッチ184の半導体スイッチング素子MOSFETのゲートとソース間に印加して、前記高電圧スイッチ182及び184を導通させて管電圧の波尾短縮を行う。
【0047】
前記コンデンサ1c1及び1c2は、波尾短縮回路18の動作期間、すなわち図5に示す高電圧スイッチ動作期間に該高電圧スイッチの半導体スイッチング素子MOSFETを導通させるのに必要な該MOSFETのゲートとソース間電圧を維持できる静電容量を有することが必要である。
【0048】
このように、本発明の第1の実施形態によれば、波尾短縮機能を備えたX線高電圧装置の高電圧スイッチと制御信号生成回路とを機械式スイッチで絶縁するようにしたので、従来のように高価で大型の絶縁変圧器や多くの電気部品を用いることなく高電圧スイッチ駆動回路を構成できるので、これによってX線高電圧装置を小型で安価なものとすることができる。
【0049】
図7は、本発明によるX線高電圧装置の第2の実施形態による半導体式高電圧スイッチ駆動回路である。
この図7の駆動回路の3b1,3b2は図4の継電器3bの励磁によってオンするスイッチ、3g1,3g2,3g3,3g4,3g5,3g6,3g7,3g8は継電器3gの励磁によってオンするスイッチで、該継電器3gが前記八つのスイッチを有している以外は前記継電器3bと継電器3gの励磁回路及びその動作タイミングは前記図4,図5と同じである。
【0050】
上記図7の第2の実施形態による半導体式高電圧スイッチ駆動回路は、インバータ回路13の動作期間に制御用電源回路23の出力電圧(直流電源電圧)をリアクトル2bを介してコンデンサ1bに充電しておく回路と、この充電された電圧を倍電圧に昇圧するX線管17のアノードとアース間側の高電圧スイッチ182のMOSFETのゲートとソース間に印加する電圧を生成する回路4a1と、前記X線管17のアースとカソード間側の高電圧スイッチ184のMOSFETのゲートとソース間に印加する電圧を生成する回路4a2とで構成される。
【0051】
前記倍電圧に昇圧する回路4a1は、制御用電源回路23の出力電圧(直流電源電圧)をコンデンサ1bに充電し、この充電した電圧をリアクトル2c1及びスイッチ3g1,3g2を介してコンデンサ1c1に充電すると共にリアクトル2c2及びスイッチ3g3,3g4を介してコンデンサ1c2に充電し、これらのコンデンサ1c1及び1c2に充電された電圧をコンデンサ1c3に充電してこれを高電圧スイッチ182のMOSFET Q211のゲートG1とソースS1間に印加する。
【0052】
同様に、前記倍電圧に昇圧する回路4a2は、制御用電源回路23の出力電圧(直流電源電圧)をコンデンサ1bに充電し、この充電した電圧をリアクトル2c3及びスイッチ3g5,3g6を介してコンデンサ1c4に充電すると共にリアクトル2c4及びスイッチ3g7,3g8を介してコンデンサ1c5に充電し、これらのコンデンサ1c4及び1c5に充電された電圧をコンデンサ1c6に充電してこれを高電圧スイッチ184の図示省略のMOSFETのゲートとソース間に印加する。
【0053】
次に、以上のように構成された第2の実施形態による半導体式高電圧スイッチ駆動回路の動作について説明する。
【0054】
図7において、インバータ回路13の動作期間は、図4に示すトランジスタ3btは導通し、継電器3bが励磁されてそのスイッチ3b1,3b2はオンして図7に示すコンデンサ1bに制御用電源回路23の出力電圧(直流電源電圧)が充電される。
インバータ回路13の動作が停止してX線放射停止時になると、前記トランジスタ3btは非導通となって前記継電器3bに流れる励磁電流が遮断されそのスイッチ3b1,3b2はオフとなる。
【0055】
前記インバータ回路13の動作が停止してから所定の時間後に所定の時間だけ図4に示すトランジスタ3gtは導通し、前記継電器3gが励磁されてそのスイッチ3g1,3g2,3g3,3g4,3g5,3g6,3g7,3g8はオンして、前記コンデンサ1bに充電されていた電圧は、図7に示すコンデンサ1c1,1c2及び1c4,1c5に充電され、さらに前記コンデンサ1c1と1c2の電圧はコンデンサ1c3に、コンデンサ1c4と1c5の電圧はコンデンサ1c6に充電される。
【0056】
この充電された前記コンデンサ1c3の電圧をX線管17のアノードとアース間側の高電圧スイッチ182の半導体スイッチング素子MOSFET Q211のゲートG1とソースS1間に印加し、前記コンデンサ1c6の電圧をX線管17のアースとカソード間側の高電圧スイッチ184の図示省略の半導体スイッチング素子MOSFETのゲートとソース間に印加して、前記高電圧スイッチ182及び184を導通させて管電圧の波尾短縮を行う。
【0057】
前記コンデンサ1c1〜1c6は、波尾短縮回路18の動作期間、すなわち図5に示す高電圧スイッチ動作期間に該高電圧スイッチの半導体スイッチング素子MOSFETを導通させるのに必要な該MOSFETのゲートとソース間電圧を維持できる静電容量を有することが必要である。
【0058】
なお、前記図7の第2の実施形態では、制御用電源回路23の出力電圧(直流電源電圧)を2倍に昇圧する例について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、2倍以上の電圧に昇圧する場合は上記と同様の方法により必要な電圧に昇圧すれば良い。
【0059】
このように、本発明の第2の実施形態によれば、半導体式高電圧スイッチの駆動電圧を制御信号生成回路19の直流電圧を倍電圧に昇圧するようにしたので、制御信号生成回路19の直流電圧を低電圧化しても前記半導体式高電圧スイッチを駆動するのに充分な電圧とすることができる。
これによって、制御用直流電源回路の小形化を図ることができるので、波尾切断機能を備えたX線高電圧装置の小型、低コスト化に寄与するものとなる。
【0060】
以上、インバータ式X線高電圧装置に半導体式高電圧スイッチによる波尾短縮回路を適用した例について説明したが、本発明は他のX線高電圧装置に半導体式高電圧スイッチによる波尾短縮回路を適用しても同様の効果を得ることができる。
また、X線高電圧装置の電源に単相交流電源を用いた例について説明したが、これは三相交流電源でも、バッテリィを用いた直流電源でも良く、いかなる電源にも対応できるものであり、使用する電源に対応して適宜、回路を構成すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態による半導体式高電圧スイッチ駆動回路を適用したインバータ式X線高電圧装置の構成を示す図。
【図2】半導体式高電圧スイッチの一例を示す図。
【図3】本発明による半導体式高電圧スイッチ駆動回路の基本原理を示す図。
【図4】継電器3b及び継電器3gの励磁回路を示す図。
【図5】図4の各部の動作タイミングを示す図。
【図6】本発明の第1の実施形態によるX線高電圧装置の半導体式高電圧スイッチ駆動回路を示す図。
【図7】本発明の第2の実施形態によるX線高電圧装置の半導体式高電圧スイッチ駆動回路を示す図。
【符号の説明】
【0062】
1b,1c1〜1c6 コンデンサ、2b,2c1〜2c4 リアクトル、3b,3g 継電器、3b1,3b2 継電器3bの接点、3g1〜3g8 継電器3gの接点、10 単相交流電源、13 インバータ回路、14 高電圧変圧器、15 高電圧整流器、16 第2の平滑コンデンサ(高電圧コンデンサ)、17 X線管、18 波尾短縮回路、182 X線管17のアノードとアース間側の半導体式高電圧スイッチ、184 X線管17のカソードとアース間側の半導体式高電圧スイッチ、19 制御信号生成回路、21 高電圧スイッチ駆動回路、23 制御用電源回路、26 操作卓、Q211 MOSFET

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧源と、この交流電圧源に一次巻線が接続され、その電圧を昇圧する高電圧変圧器と、この高電圧変圧器の二次巻線に接続され昇圧された交流電圧を直流高電圧に変換する高電圧整流器と、この高電圧整流器に接続され前記直流高電圧を平滑する高電圧コンデンサと、この高電圧コンデンサに接続されたX線管と、このX線管からのX線の放射を停止する期間に前記高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーを放電させる半導体式高電圧スイッチと、この高電圧スイッチの半導体スイッチング素子をスイッチング駆動するスイッチング駆動手段とを備えたX線高電圧装置であって、前記スイッチング駆動手段は、直流電源と、前記X線管からのX線の放射期間に閉路する第1のスイッチと、この第1のスイッチの閉路により前記直流電源からの電圧を充電する第1のコンデンサと、前記X線管からのX線放射の停止時から前記高電圧コンデンサに蓄積された電荷のエネルギーの放電期間に閉路する第2のスイッチと、この第2のスイッチの閉路により前記第1のコンデンサの電圧を充電する第2のコンデンサと、この第2のコンデンサに充電された電圧を前記半導体スイッチング素子の導通制御部に印加して前記半導体式高電圧スイッチを導通制御する高電圧スイッチ導通制御手段とを備えて成るX線高電圧装置。
【請求項2】
さらに前記第1のコンデンサに充電された電圧を倍電圧に昇圧する手段を備え、前記高電圧スイッチ導通制御手段は、前記昇圧手段で昇圧された電圧を前記高電圧スイッチの半導体の導通制御部に印加することを特徴とする請求項1に記載のX線高電圧装置。
【請求項3】
前記交流電圧源は、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換し、この変換した直流電圧を前記交流電源周波数よりも高い周波数の交流電圧に変換するインバータ回路を備えた交流電圧源であって、前記インバータ回路を制御する制御手段を備え、このインバータ制御手段の直流電源と前記スイッチング駆動手段の直流電源とを共用することを特徴とする請求項1又は2に記載のX線高電圧装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−234497(P2007−234497A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57296(P2006−57296)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】