説明

XYステージ装置

【目的】レーザー干渉計による位置測長部位がXY方向に運動するXYステージにおいて、空気揺らぎと気圧、温度、湿度を含めた環境の変化による測長誤差を補正できるXYステージ装置を提供する。
【構成】XY方向に移動するステージと、このステージの位置を測長するためのレーザー干渉計と、このステージとレーザー干渉計間の測長光路の少なくとも一部を覆う測長光路筒機構と、測長光路筒機構内に設けられた波長トラッカーと、を有することを特徴とするXYステージ装置。そして、測長光路筒機構が、レーザー干渉計に固定される固定筒と、ステージの移動と連動して運動する可動筒とを備えることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー干渉計による位置測長機能を有するXYステージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に大気中で運用されるレーザー干渉計測長器は気圧、温度、湿度あるいは空気揺らぎなどの環境の変化で測長誤差を生ずることが知られている。気圧、温度、湿度のような長期的かつ緩やかな環境変化にはEDLENの公式を用いた補償方法があるが、空気揺らぎのような比較的速い環境変化の補償性に欠ける。特に運動中においても高精度な位置測長が要求されるXYステージなどはこの空気揺らぎの影響が無視できない。
【0003】
この問題を解決する技術として、ステージ位置を測長するレーザー干渉計と固定位置を測長する参照用レーザー干渉計を設け、各レーザー干渉計における空気揺らぎなど環境変化が同一であるものとみなし、参照用レーザー干渉計の測長値を基にステージ位置の測長誤差を補正する方式が提案されている(特許文献1)。また、特許文献1ではレーザー干渉計の測長光路を筒状の治具で保護し、空気揺らぎによる測長誤差を低減する方法も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−100704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
もっとも、この特許文献1の技術では参照用レーザー干渉計を設けるため複雑な光学系を要する。また、複数のレーザー干渉計の測長光路を理想的に隣接させる構造は難しく、同一測長環境とは必ずしも言えないため測長誤差補正の安定性に欠ける。また、レーザー干渉計の測長光路を筒状の治具で保護する提案は、干渉計側の固定筒で測長光路の一部を保護する方法に留まるもので空気揺らぎによる測長誤差の低減は必ずしも十分ではない。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、レーザー干渉計による位置測長部位がXY方向に運動するXYステージにおいて、空気揺らぎと気圧、温度、湿度を含めた環境の変化による測長誤差を補正できるXYステージ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のXYステージ装置は、XY方向に移動するステージと、前記ステージの位置を測長するためのレーザー干渉計と、前記ステージと前記レーザー干渉計間の測長光路の少なくとも一部を覆う測長光路筒機構と、前記測長光路筒機構内に設けられた波長トラッカーと、を有することを特徴とする。
【0008】
上記態様のXYステージ装置において、前記測長光路筒機構が、前記測長光路の前記レーザー干渉計側に設けられ、前記レーザー干渉計に固定される固定筒と、前記測長光路の前記ステージ側に設けられ、前記ステージの移動と連動して運動する可動筒とを備え、前記固定筒または前記可動筒の一方の端部が他方の端部に挿入され、前記波長トラッカーが前記固定筒内に設けられていることが望ましい。
【0009】
上記態様のXYステージ装置において、前記固定筒または前記可動筒の一方の端部が他方の端部に挿入された挿入部の前記固定筒および前記可動筒の筒外径が、前記波長トラッカーが設けられた部分の前記固定筒の外径よりも小さいことが望ましい。
【0010】
上記態様のXYステージ装置において、前記固定筒と前記可動筒により前記測長光路の略全域が覆われていることが望ましい。
【0011】
上記態様のXYステージ装置において、前記一方の端部と前記他方の端部が互いに非接触で挿入されることが望ましい。
【0012】
上記態様のXYステージ装置において、前記測長光路筒機構が、前記測長光路と垂直方向の前記ステージの移動を許容する第1スライダ機構と、前記測長光路と平行方向の前記ステージの移動を許容する第2スライダ機構と、を備え、前記可動筒が前記第1スライダ機構と前記第2スライダ機構の双方で保持されることが望ましい。
【0013】
上記態様のXYステージ装置において、前記ステージが、前記測長光路と垂直方向に移動する第1のステージと、前記測長光路と平行方向に移動する第2のステージとのスタック構造を有し、前記第1スライダ機構が前記第2のステージに固定され、前記可動筒が前記測長光路と平行方向には前記第2のステージと一体で運動可能であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザー干渉計による位置測長部位がXY方向に運動するXYステージにおいて、空気揺らぎと気圧、温度、湿度を含めた環境の変化による測長誤差を補正できるXYステージ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態のXYステージ装置の上面図である。
【図2】実施の形態のX測長光路筒機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本発明の実施の形態のXYステージ装置は、XY方向に移動するステージと、ステージの位置を測長するためのレーザー干渉計と、ステージとレーザー干渉計間の測長光路の少なくとも一部を覆う測長光路筒機構と、測長光路筒機構内に設けられた波長トラッカーと、を有する。
【0018】
測長光路筒機構は、測長光路のステージ側に設けられ、ステージの移動と連動して運動する可動筒と、測長光路のレーザー干渉計側に設けられ、レーザー干渉計に固定される固定筒により構成されている。そして、固定筒内に、レーザー波長の変動を検知する検知器として波長トラッカーが、測長光路と一体で覆われて設置されている。
【0019】
この測長光路筒機構は、固定筒または可動筒の一方の端部が他方の端部に非接触で挿入されるテレスコピックな構造となっている。また、固定筒と可動筒の挿入部の筒外径は、反射鏡面の外形寸法を超えない範囲で固定筒の波長トラッカーを覆う部分の固定筒の筒外径より小さい形状の固定筒と可動筒を備えている。
【0020】
図1は、本実施の形態のXYステージ装置の上面図である。本実施の形態のXYステージ装置10は、ステージ定盤面12にYステージ14、Yステージ14上にXステージ(またはXYステージ)16を搭載したスタック構造のXYステージを供えている。
【0021】
Yステージ14は、ステージ定盤面12に固定されるYエアガイド18に沿ってY方向に運動する。また、Xステージ16は、Yステージ14に固定されるXエアガイド20に沿ってX方向に移動する。これらの機構によりXステージ16上のワーク部22は、ステージ定盤面12に対しXY方向に移動することが可能となる。
【0022】
移動するワーク部22のXおよびY方向の位置の測長は、レーザー干渉計とワーク部22近傍に固定される反射鏡を用いて行われる。X方向の測長は、Xレーザー干渉計24から発射されるレーザー光がX反射鏡26によって反射され、発射光と反射光の干渉波を観測することにより、X測長光路28の光路長を測長する。Y方向の測長も同様に、Yレーザー干渉計30から発射されるレーザー光がY反射鏡32によって反射され、発射光と反射光の干渉波を観測することにより、Y測長光路34の光路長を測長する。
【0023】
このようなレーザー干渉計24、30による位置測長機能を有するXYステージ装置10には、X測長光路28、Y測長光路34それぞれの略全域を機械的限界まで覆うX測長光路筒機構36とY測長光路筒機構38がそれぞれ設けられている。空気揺らぎの影響を最大限に抑制するためには、このように測長光路の略全域を測長光路筒機構で覆うことが望ましい。
【0024】
X測長光路筒機構36は、Xステージ16とレーザー干渉計24間のX測長光路28を覆い、X測長光路28のレーザー干渉計24側に設けられ、レーザー干渉計24に対し、相対的に固定されるX固定筒40を有する。
【0025】
ここで、X固定筒40内には、X測長光路28の光軸方向とX波長トラッカー測長光路62の光軸方向とを合わせて、X測長光路28の上部にX波長トラッカー60が備えられている。そして、X測長光路28とX波長トラッカー60とを一体で覆う構造としている。
【0026】
また、X測長光路28を覆い、X測長光路28のXステージ16側、すなわち、Xステージ16のワーク部22近傍に固定したX反射鏡26側に設けられるX可動筒42を備える。また、X測長光路筒機構36は、Xステージ16に固定される第1スライダ機構44とステージ定盤12に固定される第2スライダ機構46を備えている。
【0027】
第1スライダ機構44は、X固定筒40またはX可動筒42が存在しても、Xステージ16がX測長光路28と垂直方向に移動することを許容する。また、第2スライダ機構46は、Xステージ16がX測長光路28と平行方向に移動することを許容する。
【0028】
ここで、X固定筒40の端部が、X可動筒42の端部に非接触に挿入されている。そして、X可動筒42が第1スライダ機構44と第2スライダ機構46の双方で保持される。より具体的には、第1スライダ機構44のYスライダ部48と、第2スライダ機構46のXスライダ部50の2箇所に固定され保持される。
【0029】
このように、X固定筒40の端部が、X可動筒42の端部に非接触に挿入されていることが、筒の相対運動をスムーズに実現できるため望ましい。また、ステージへ不要な振動を与えることを抑制できることからも望ましい。
【0030】
Xステージ16の運動時、すなわちワーク部22がX測長光路方向に平行方向であるX方向に動く場合、X可動筒42は第1スライダ機構44のスライド方向と垂直方向の力の伝達によってXステージ16と一体で運動する。そして、その運動方向を許容する第2スライダ機構46によって、X固定筒40に対する動作を安定に支えている。
【0031】
Yステージ14の運動時、すなわちワーク部22がY方向に動く場合、第1スライダ機構44によって、X可動筒42に干渉することなくその運動方向が許容される。このスライダ機構44、46を設けた構造によりX可動筒42の端面をX反射鏡26の近傍にまで配置することができる。そして、X固定筒40をXレーザー干渉計カバー52と一体で固定することとによって測長範囲のX測長光路28のほぼ全域を機械的限界まで覆うことを実現している。ここでの機械的限界まで覆うとは、X可動筒42の端面とX反射鏡26の距離を、互いが相対移動する際に接触しないぎりぎりの距離にすることである。
【0032】
一方、Y測長光路筒機構38はX測長光路筒機構36と同様にYレーザー干渉計30側に配置するY固定筒54と、ワーク部22付近に固定したY反射鏡32側に配置するY可動筒56をそなえる。ここで、Y固定筒54は、X固定筒40と同様にY測長光路34の光軸方向とY波長トラッカー測長光路66の光軸方向とを合わせて、Y測長光路34の上部にY波長トラッカー64を備え、Y測長光路34とY波長トラッカー64とを一体で覆う構造としている。そして、Yステージ14に固定したY可動筒保持具58によりY可動筒56を固定しY固定筒54をYレーザー干渉計カバー59と一体で固定することによって、X測長光路筒機構36のようなスライダ機構を設けることなく比較的容易にY測長光路34のほぼ全域を機械的限界まで覆うことを実現している。
【0033】
本実施の形態のXYステージ装置によれば、XY独立に、波長トラッカーと、測長光路のほぼ全域を機械的限界まで測長光路筒で覆う。これにより、測長光路と波長トラッカーとをほぼ同一大気環境にすることができる。このため、XYステージの運動中においてもレーザー干渉計の空気揺らぎと気圧、温度、湿度を含めた環境の変化による測長誤差を適正に補正できる。したがって、位置測長の信頼性を向上させたXYステージ装置を提供することができる。
【0034】
図2は、実施の形態のX測長光路筒機構の断面図である。上述したように、X固定筒40内には、X測長光路28の光軸方向とX波長トラッカー測長光路62の光軸方向とを合わせて、X測長光路28の上部にX波長トラッカー60が備えられている。そして、X測長光路28とX波長トラッカー60とを一体で覆う構造としている。Y測長光路筒機構38も同様の構造を有する。
【0035】
X固定筒40またはX可動筒42の一方の端部が他方の端部に挿入された挿入部のX固定筒40およびX可動筒42の筒外径が、X反射鏡26面の外形寸法を超えない範囲でX波長トラッカー60が設けられた部分のX固定筒40の外径よりも小さいことが望ましい。すなわち、図2において、R<R、R<Rの関係が成立することが望ましい。
【0036】
このように、挿入部の筒外径が絞られていることによって、システムの小型化と筒内の環境の変化を一層抑制することが可能だからである。この筒外径の関係については、Y測長光路筒機構38についても同様の議論が成り立つ。
【0037】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0038】
例えば、実施の形態では、スタック構造のXYステージを例に説明したが、スタック構造のXYステージに限定することなく定盤滑走型XYステージ等にも応用できる。
【0039】
また、X測長光路筒機構は、図1のように2つのスライダ機構を用いたものでなくとも、測長光路を覆るのであれば、例えば、第2スライダ機構46にかえて蛇腹式の筒を設ける形態であっても構わない。
【0040】
また、測長光路の上部に波長トラッカーを設ける構成を例に実施の形態では説明したが、波長トラッカーの位置は、測長光路とほぼ同一の環境におかれるのであれば、必ずしも測長光路の上部以外の場所に設けられても構わない。
【0041】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのXYステージ装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0042】
10 XYステージ装置
12 ステージ定盤面
14 Yステージ
16 Xステージ
18 Yエアガイド
20 Xエアガイド
22 ワーク部
24 Xレーザー干渉計
26 X反射鏡
28 X測長光路
30 Yレーザー干渉計
32 Y反射鏡
34 Y測長光路
36 X測長光路筒機構
38 Y測長光路筒機構
40 X固定筒
42 X可動筒
44 第1スライダ機構
46 第2スライダ機構
48 Yスライダ部
50 Xスライダ部
52 Xレーザー干渉計カバー
54 Y固定筒
56 Y可動筒
58 Y可動筒保持具
59 Yレーザー干渉計カバー
60 X波長トラッカー
62 X波長トラッカー測長光路
64 Y波長トラッカー
66 Y波長トラッカー測長光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XY方向に移動するステージと、
前記ステージの位置を測長するためのレーザー干渉計と、
前記ステージと前記レーザー干渉計間の測長光路の少なくとも一部を覆う測長光路筒機構と、
前記測長光路筒機構内に設けられた波長トラッカーと、
を有することを特徴とするXYステージ装置。
【請求項2】
前記測長光路筒機構が、前記測長光路の前記レーザー干渉計側に設けられ、前記レーザー干渉計に固定される固定筒と、前記測長光路の前記ステージ側に設けられ、前記ステージの移動と連動して運動する可動筒とを備え、
前記固定筒または前記可動筒の一方の端部が他方の端部に挿入され、
前記波長トラッカーが前記固定筒内に設けられていることを特徴とする請求項1記載のXYステージ装置。
【請求項3】
前記固定筒または前記可動筒の一方の端部が他方の端部に挿入された挿入部の前記固定筒および前記可動筒の筒外径が、前記波長トラッカーが設けられた部分の前記固定筒の外径よりも小さいこと特徴とする請求項2記載のXYステージ装置。
【請求項4】
前記固定筒と前記可動筒により前記測長光路の略全域が覆われていることを特徴とする請求項2または請求項3記載のXYステージ装置。
【請求項5】
前記一方の端部と前記他方の端部が互いに非接触で挿入されることを特徴とする請求項2ないし請求項4いずれか一項に記載のXYステージ装置。
【請求項6】
前記測長光路筒機構が、
前記測長光路と垂直方向の前記ステージの移動を許容する第1スライダ機構と、
前記測長光路と平行方向の前記ステージの移動を許容する第2スライダ機構と、
を備え、前記可動筒が前記第1スライダ機構と前記第2スライダ機構の双方で保持されることを特徴とする請求項2ないし請求項5いずれか一項に記載のXYステージ装置。
【請求項7】
前記ステージが、前記測長光路と垂直方向に移動する第1のステージと、前記測長光路と平行方向に移動する第2のステージとのスタック構造を有し、
前記第1スライダ機構が前記第2のステージに固定され、前記可動筒が前記測長光路と平行方向には前記第2のステージと一体で運動可能であることを特徴とする請求項6記載のXYステージ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−238933(P2010−238933A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85648(P2009−85648)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(305008983)アドバンスド・マスク・インスペクション・テクノロジー株式会社 (105)
【Fターム(参考)】