説明

XY位置決め装置の駆動制御装置

【課題】複数のモータ軸を用いて1つの負荷を駆動する際に、モータ軸同士の干渉を抑えながら、最適な位置決め制御を可能とする。
【解決手段】複数のモータ軸を用いて1つの負荷Lを駆動するXY位置決め装置において、各モータ軸の制御系内に設けられた外乱オブザーバ68L、68Rと、該外乱オブザーバの出力部分に設けられた、位置偏差を監視し、位置偏差の量に応じて外乱オブザーバの出力を制限するオブザーバ出力調整部70L、70R、70と、を備え、位置偏差の量が多い場合には外乱オブザーバの出力を多く戻して積極的に補償を行ない、位置偏差の量が少ない場合には外乱オブザーバの出力を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、XY位置決め装置の駆動制御装置に係り、特に、電子部品搭載装置(マウンタと称する)や接着剤塗布装置(ディスペンサと称する)等に用いるのに好適な、複数のモータ軸を用いて1つの負荷を駆動するXY位置決め装置の駆動制御装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を部品供給装置から吸着して基板に搭載するためのマウンタや、部品仮止め用の接着剤を基板上に塗布するためのディスペンサにおいては、搭載ヘッドや塗布ヘッド(以下、単にヘッドと称する)を位置決めするためのガントリ型XY位置決め装置が用いられている。
【0003】
このガントリ型XY位置決め装置は、図1に例示する如く、ヘッド10のXY方向への位置決めを行なうのに、Y方向への移動に左右一対のY軸駆動部20、30を持ち、その上に掛け渡されたX軸駆動部40でX方向への移動を行なう構成を採るのが一般的である。図において、50は基板搬送部である。
【0004】
位置決め駆動を行なうモータは、軸の一方のみに設けられる片持ちの場合もあるが、より高速の位置決めを行なう際には、図2に詳細に示すように、軸の両側にそれぞれ1つずつのモータ22、32、42、44を設けて、それぞれ2つずつのモータ(22、32)、(42、44)を用いて1つの負荷(Y軸、X軸)を駆動する場合がある。Y軸、X軸の駆動には、図に例示したような回転型モータ22、32、42、44とタイミングベルト24、34、46又はボールねじの組合せや、リニアモータ等が使用される。図において、26、36は軸受部である。
【0005】
このようなガントリ型XY位置決め装置には、位置決めの際に、外部から力や振動等を受けると、位置決めの精度や整定時間が悪化するという問題点を有していた。このような外乱の問題点を除去するために、出願人は特許文献1で、外乱オブザーバの使用を提案している。
【0006】
即ち、図3に示す外乱オブザーバを、図4のようにモータ制御系内に設けることにより、図5に示すような加速度制御系を構成することが可能となり、外乱による影響を除去することができる。
【0007】
図3において、Iarefは電流参照値、Icmpは、外乱トルクを補償しロバスト性を確保するための補償電流、Fmはパラメータ変動によりモータに印加される外乱トルク、Dmは粘性摩擦トルク、Treacは軸ねじれ反力、θmはモータ位置、Tdismは推定外乱トルク、Jmはモータ慣性、Jmnは、そのノミナル値、Gdisは外乱オブザーバのゲイン、Ktはトルク定数である。
【0008】
図4において、位置指令部(図示省略)から出力された位置指令信号に従って、モータ軸の位置決め制御が行なわれる。具体的には、モータ端に取り付けたエンコーダEから出力される位置フィードバック値と位置指令値を比較して、位置偏差を演算する。そして、この位置偏差を基に、位置偏差制御演算部60で速度指令値を演算する。更に、この速度指令値と、エンコーダEの出力値から速度演算部66で演算した速度フィードバック値との偏差を基に、速度偏差制御演算部62で電流(トルク)指令値を演算する。演算した電流指令値はサーボ用の電流アンプ64に出力され、モータMにモータ電流を与えて、軸を駆動する。
【0009】
上記制御を行なう際に、モータ軸が受ける外乱トルクの推定値を外乱オブザーバ68で演算し、その値をフィードバックして、外乱の影響を抑えるための補償を行なう。
【0010】
図4において、Lは負荷、Bはタイミングベルト、Aは軸受部である。
【0011】
図4は片側モータの制御系の例であるが、図6に、左右のモータML、MRに制御系を設けた例を示す。左側用の制御系は・・・L、右側用の制御系は・・・Rで示す。
【0012】
【特許文献1】特開2007−43884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、外乱オブザーバ68は、モータM自身が外部から受ける力は全て外乱として除去しようと働く。そのため、図2に示したように、それぞれ2つのモータを用いて1つの負荷を駆動する場合には、他方のモータから受ける力をオブザーバでは外乱として判断して除去しようとすることにより、両方のモータが引張り合いを起こして、互いの制御に干渉を生じる恐れがあった。
【0014】
制御の干渉は、位置決めの精度や速度に悪影響を及ぼし、更には発生したトルクが大きい場合には、軸部の破損も発生する場合があった。
【0015】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、モータ軸同士の干渉を抑えて、最適な位置決め制御を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、複数のモータ軸を用いて1つの負荷を駆動するXY位置決め装置において、各モータ軸の制御系内に設けられた外乱オブザーバと、該外乱オブザーバの出力部分に設けられた、位置偏差を監視し、位置偏差の量に応じて外乱オブザーバの出力を制限するオブザーバ出力調整部と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0017】
ここで、前記オブザーバ出力調整部を、複数のモータ軸で共通とし、位置偏差の量が少ない方の外乱オブザーバの出力を強く制限することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、オブザーバ出力調整部の働きにより、位置偏差の量が多い場合には、外乱オブザーバの出力を多く戻して積極的に補償を行ない、位置偏差の量が少なく補償が不要な場合には、外乱オブザーバの出力を制限することにより、モータ軸同士の干渉を抑えることができ、最適な位置決め制御が可能となる。
【0019】
又、外乱オブザーバを備えたモータ制御装置であるため、外力や振動、摩擦等の外乱の影響を補償したロバスト制御が可能である。
【0020】
更に、外乱オブザーバやオブザーバ出力調整部は、演算用のソフト処理にて実現可能なため、ハードウェアの追加等が不要であり、コストアップしない。又、外乱オブザーバやオブザーバ出力調整部は、状態フィードバック制御やH∞制御に比べて制御系が簡単で、演算量も少ないため、高価なCPU等を使用する必要が無く、設計や調整も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の第1実施形態は、図6と同様の構成において、図7に示す如く、モータ軸同士の干渉を抑えるために、左右の制御系の外乱オブザーバ68L、68Rの出力側に、それぞれオブザーバ出力調整部70L、70Rを設けたものである。
【0023】
前記オブザーバ出力調整部70L、70Rでは、図8に示す如く、位置偏差の量を監視し、位置偏差の量が設定値(例えば数パルス)よりも大きい場合には、外乱オブザーバの出力をそのまま素通しする。一方、位置偏差の量が設定値よりも小さい場合には、外乱オブザーバの出力を停止(0倍)して、フィードバック量を制限する。
【0024】
このようにして、位置偏差の量に応じて、外乱オブザーバ68L、68Rの出力を調整することにより、モータML、MRが高速移動中の位置偏差量が大きな時には積極的に補償を行なって位置偏差の収束を促す一方、モータML、MRが位置決め整定を行なっている際の位置偏差量が小さな時には補償を制限することで、モータ軸同士の干渉を抑えることができ、最適な位置決め制御を行なうことが可能となる。
【0025】
なお、第1実施形態では、偏差の量が設定値よりも小さな場合には外乱オブザーバの出力を停止(0倍)してフィードバック量を制限したが、図9に示す第2実施形態のように、外乱オブザーバの出力を係数α倍(α=0〜1)して、フィードバック量を制限することも可能である。
【0026】
この第2実施形態によれば、係数αを調整することにより、第1実施形態より、きめ細かな制御を行なうことができる。
【0027】
更に、オブザーバ出力調整部の設定値と係数αを1つの設定だけではなく、テーブルで持たせることにより、更に細かく数段階に切替えて、位置決め精度や負荷の状態に応じた各場合において、最適なフィードバック量の制限を行なうことも可能である。
【0028】
なお、前記第1及び第2実施形態においては、左モータMLと右モータMRの外乱オブザーバの制限が独立とされていたが、図10に示す第3実施形態のように、左モータMLと右モータMRの両方の偏差XL、XRに応じて、それぞれの外乱オブザーバ68L、68Rの出力を制限する共通のオブザーバ出力調整部70を設けて、位置偏差の量が少ない方を強く制限するようにすることも可能である。
【0029】
前記オブザーバ出力調整部70は、例えば図11に示す如く構成され、位置偏差が大きい方の外乱オブザーバはそのまま(1倍)とし、位置偏差が小さい方の外乱オブザーバを停止(0倍)するようにされている。なお、オブザーバ出力調整部70内に、第2実施形態と同様のゲイン可変アンプやテーブルを設けることも可能である。
【0030】
この第3実施形態によれば、左右の軸のバランスに応じた出力制限を行なうことができる。
【0031】
なお、前記実施形態においては、いずれも、回転型のモータが使用されていたが、モータの種類はこれに限定されず、リニアモータであってもよい。又、モータ数も2に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ガントリ型XY位置決め装置の一例の全体構成を示す斜視図
【図2】同じくX軸駆動部とY軸駆動部の詳細を示す平面図
【図3】特許文献1で提案した外乱オブザーバの構成例を示すブロック図
【図4】同じく外乱オブザーバを用いた制御系の構成例を示すブロック図
【図5】同じく加速度制御系の構成を示すブロック図
【図6】同じくモータ数が2個の場合の制御系の構成例を示すブロック図
【図7】本発明の第1実施形態の制御系を示すブロック図
【図8】同じくオブザーバ出力調整部の構成を示すブロック図
【図9】本発明の第2実施形態におけるオブザーバ出力調整部の構成を示すブロック図
【図10】同じく第3実施形態の制御系を示すブロック図
【図11】同じくオブザーバ出力調整部の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0033】
10…ヘッド
20、30…Y軸駆動部
40…X軸駆動部
M、ML、MR…モータ
L…負荷
E、EL、ER…エンコーダ
60L、60R…位置偏差制御演算部
62L、62R…速度偏差制御演算部
64L、64R…電流アンプ
66L、66R…速度演算部
68L、68R…外乱オブザーバ
70L、70R、70…オブザーバ出力調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のモータ軸を用いて1つの負荷を駆動するXY位置決め装置において、
各モータ軸の制御系内に設けられた外乱オブザーバと、
該外乱オブザーバの出力部分に設けられた、位置偏差を監視し、位置偏差の量に応じて外乱オブザーバの出力を制限するオブザーバ出力調整部と、
を備えたことを特徴とするXY位置決め装置の駆動制御装置。
【請求項2】
前記オブザーバ出力調整部が、複数のモータ軸で共通とされ、位置偏差の量が少ない方の外乱オブザーバの出力を強く制限するようにされていることを特徴とする請求項1に記載のXY位置決め装置の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−77591(P2009−77591A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246048(P2007−246048)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】