説明

bcl−2遺伝子発現の調節

【課題】本発明は、新規なアンチコードオリゴマーおよびこれを用いてbcl−2遺伝子を発現する癌細胞の成長を制御する方法を提供する。
【解決手段】(i)配列TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17、当該配列中の少なくとも1個のヌクレオシド間結合がフォスフォロチオエート結合である)を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドからなるアンチコードオリゴマー;(ii)1又は2以上の癌化学療法剤;および(iii)医薬として許容される担体、を含有することを特徴とする、bcl−2タンパクを高レベルで発現している癌治療用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願に記載された研究の一部は、合衆国国立衛生研究所の認可番号CA26380による援助を受けてなされたものである。合衆国政府は本発明に関する一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、癌の治療の分野に関するものであり、より詳細には癌のアンチコードオリゴマー治療に関する。
【0003】
本出願は、現在放棄されている1988年12月22日に出願された出願番号第07/288,692号の一部継続出願である1992年2月21日に出願された出願番号第07/840,716号の一部継続出願である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
癌治療に対する現行のアプローチは、特異性の欠如という問題を抱えている。これまで開発されてきた医薬の多くは、酵素経路をブロックするかあるいはDNAとランダムに相互作用する天然物質や誘導体である。多くの癌治療医薬は治療指数が低いため、毒性によって用量を制限しなければならないという深刻な問題を有している。癌を殺す医薬の投与によって癌細胞ばかりか癌性でない正常細胞も殺されてしまう。このような有害性があるために、癌性の細胞により特異的な治療が必要とされている。
【0005】
遺伝子の一分類である腫瘍遺伝子が癌状態の転換と維持において大きな役割を果たしているということ、およびこれらの遺伝子を避ける(turning off) かあるいはさもなければその作用を阻害することによって細胞を正常な表現型に戻すことができるということがすでに判明している。多くのヒト癌の疫学における腫瘍遺伝子の役割については、ビショップ(Bishop)の“細胞性腫瘍遺伝子とレトロウイルス”[サイエンス、235:305−311(1987)]において概説されている。リンパ腫および白血病を含む多くのタイプのヒト腫瘍においては、ヒトbcl−2遺伝子が過剰発現されており、腫瘍化性と関連している可能性がある(ツジモトら、“ヒト濾胞性リンパ腫におけるbcl−2遺伝子の関与”[サイエンス、228:1440−1443(1985)]。
【0006】
アンチセンス・オリゴデオキシヌクレオチドは、腫瘍遺伝子の機能を取り去る潜在能力を有する特異的治療ツールの一例である。これらの短い(通常約30塩基)一本鎖の合成DNAは標的mRNAに対する相補的塩基配列を有し、水素結合した塩基対形成によってハイブリッド二重構造(hybrid duplex)を形成する。このハイブリダイゼーションによって、標的mRNAのコードがそのタンパク産物中に発現することが防止され、その結果タンパク産物のその後の作用が阻害されると予想される。前記遺伝子によって発現されたmRNA配列がセンス配列と称されることから、その相補的配列はアンチセンス配列と称する。ある場合には、mRNAの阻害は酵素の活性部位の阻害よりもより効率的である。これは1つのmRNA分子が多数のタンパクコピーを生じるためである。
【0007】
インビトロでc−mycタンパクの生産を特異的に阻害しヒト白血病細胞の成長を阻止するために、c−myc腫瘍遺伝子の(アンチセンス)mRNAに相補的な合成オリゴデオキシヌクレオチドが用いられてきた[ホルト(Holt)ら、Mol.Cell Biol.8:963−973(1988年)およびウィックストローム(Wickstrom) ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:1028−1−32(1988年)]。ヒト免疫不全ウイルス(HIV−I)を含むレトロウイルスの特異的インヒビターとしてもまたオリゴデオキシヌクレオチドが用いられてきた[ザメクニック(Zamecnik)とステフェンソン(Stephenson)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、75:280−284(1978)、ザメクニックら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:4143−4146(1986年)]。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アンチコードオリゴマーおよび癌細胞の生育を阻害するための方法を提供する。リンパ球の型の一つであるリンパ腫細胞や白血病細胞の生育はアンチコードオリゴマーによってまた本発明方法によって阻害される。ヒトbcl−2遺伝子におけるmRNAセンス鎖の少なくとも有効部分に対して相補的なアンチコードオリゴマーが提供され、次いで細胞を、当該細胞の生育を阻害するのに十分な濃度でアンチコードオリゴマーと接触させる。本発明方法は、ヒトbcl−2遺伝子を発現し、かつt(14;18)染色体トランスロケーションを有するリンパ腫/白血病細胞の生育、並びにヒトbcl−2遺伝子を発現し、かつt(14;18)染色体転座を有しないリンパ腫/白血病細胞の生育を阻害するために好適である。
【0009】
好ましい態様によれば、アンチコードオリゴマーはプレ−mRNAセンス鎖中の戦略部位(ストラテジックサイト)と実質的に相補的であるかあるいはmRNAに実質的に相補的である。好ましい戦略部位はプレ−mRNAコード化鎖(coding strand) の翻訳開始部位である。あるいは別の戦略部位としては、スプライシング、輸送、または分解のための部位が挙げられる。本発明のアンチコードオリゴマーは、“生の(native)”未変性形態即ちオリゴヌクレオチドであれ誘導体形態であれ、標的であるリンパ腫あるいは白血病細胞と接触するようにされる。インビボでの治療用途では、“生の”オリゴヌクレオチドの誘導体(フォスフォロチオエート形態等)が好ましい。その理由は、ある種のアナログ(フォスフォロチオエート・アナログ等)に対する応答時間がオリゴヌクレオチドの“生の”形態のものに比較して幾分遅いことが判明しているとはいえ、この形態がより分解抵抗性であると信じられているからである。
【0010】
好ましいアンチコードオリゴマーは本明細書でTI−AS(翻訳開始アンチコードオリゴマー,translation initiation anticode oligomer)と称するものであり、ヒトbcl−2遺伝子のmRNAコード化鎖の翻訳開始部位に跨がるとともにこの領域に相補的なオリゴデオキシヌクレオチドである。より好ましくはこのヌクレオチドは、bcl−2遺伝子のコード化鎖のATG開始配列に相補的なTAC部を含有する。また好ましくは、この他にさらに前記開始配列と隣り合う(flanking)bcl−2遺伝子コード化鎖の各部に相補的な2〜約100の塩基の:より好ましくは約5〜約20の塩基のフランキング部を含有する。このTI−ASヌクレオチドは血清の存在下においても無血清の場合においても共に標的細胞の生育を効果的に阻害することが見いだされている。
【0011】
また、アンチコードオリゴマーは、ヒトbcl−2遺伝子のプレ−mRNAコード化鎖のスプライス供与体部位中の少なくとも一有効部位に相補的なアンチセンスヌクレオチドを含有する。より好ましくはこのヌクレオチドは、bcl−2のGTスプライス供与体に相補的なCA部を含有し、またさらに前記スプライス供与体と隣り合うbcl−2遺伝子コード化鎖の各部に相補的な2〜約100の塩基の、より好ましくは約5〜約20の塩基のフランキング部を含有する。
【0012】
さらに他の態様においては、アンチコードオリゴマーはヒトbcl−2遺伝子のプレ−mRNAコード化鎖のスプライス受容体領域中の少なくとも一有効部位に相補的である。このオリゴマーは、bcl−2遺伝子のAGスプライス受容体に相補的な少なくとも1つのTC部を含有し、またさらに前記受容体と隣り合うbcl−2遺伝子コード化鎖の各部に相補的な2〜約100の塩基の、より好ましくは約5〜約20の塩基のフランキング部を含有する。
【0013】
本発明のオリゴマーは、bcl−2遺伝子のタンパク産物である26kDaのタンパク(bcl−2−α)あるいは22kDaのタンパク(bcl−2−β)のコード化部位(coding site) とオーバーラップするように選択することもできる。オリゴマーの選択は、他の遺伝子配列のプレ−mRNAコード化鎖もしくはmRNAコード化鎖のアンチコードオリゴマーとの相同性を最小にするように行うのが好ましい。
【0014】
従って、本発明の主要な目的は、癌細胞の成長を阻害するのに有用な新規アンチコードオリゴマーを提供することである。本発明はまた、腫瘍細胞の成長を阻害するための組成物をも包含し、この組成物は、本発明のアンチコードオリゴマーと医薬として許容される担体とを含有する。
【0015】
本発明のさらなる目的は、前記のアンチコードオリゴマーを用いて癌細胞の成長を阻害する方法を提供することである。次の発見が本発明の一特徴を構成する。即ち、bcl−2タンパクの相対レベルが平均30〜40%低減すると、リンパ腫細胞特にt(14;18)含有リンパ腫細胞株の、癌化学療法剤(従来の抗ガン薬を含む)に対する感受性が顕著に向上するという発見である。この低減は、腫瘍細胞内にbcl−2遺伝子から発現されたプレ−mRNAもしくはmRNAのいずれかに結合するアンチコードオリゴマーを導入することによって達成された。本発明においては、2つの方法によって腫瘍細胞に前記アンチコードオリゴマーを導入している。その1つの方法においては、腫瘍細胞をアンチコードオリゴマーを含有する組成物と接触させる。他の方法においては、腫瘍細胞にアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするベクターを形質移入することである。アンチコードオリゴマーを腫瘍細胞に導入することによってbcl−2発現を低減させることができるとともに、癌化学療法剤あるいは抗ガン薬に対する新生細胞の化学的感受性を増大させることができる。
【0016】
従って、本発明は、腫瘍細胞が癌化学療法剤と接触する前に、bcl−2遺伝子発現を低減させるか若しくはBcl−2タンパクの機能を損なうアンチコードオリゴマーを腫瘍細胞に導入することによって、腫瘍細胞を殺す方法を達成した。このようにすると癌化学療法剤は生存可能な悪性細胞の数を減少させ、殺された腫瘍細胞の量は、当該細胞にアンチコードオリゴマーオリゴデオキシヌクレオチドを導入しなかった場合に同量の薬剤によって殺されたであろう腫瘍細胞の量よりも多かった。
本発明の上記目的およびその他の目的は、以下の詳細な説明から明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明によれば、癌細胞の成長を阻害するため、あるいは癌細胞の癌化学療法剤に対する感受性を増加させるため、あるいはまた一以上の癌化学療法剤と組み合わせるか若しくは組み合わせることなく単独で癌細胞を死滅させるためのアンチコードオリゴマーが提供される。
【0018】
定義
本明細書においては、“アンチコードオリゴマー”とはアンチコードオリゴヌクレオチドおよびそのアナログを意味し、標的配列のヌクレオチド塩基と水素結合の相互作用を介してポリヌクレオチド標的配列を認識する化学種群を含む。この標的配列は一本鎖若しくは二本鎖RNAまたは一本鎖若しくは二本鎖DNAであることができる。
【0019】
前記アンチコードオリゴヌクレオチドおよびそのアナログは、RNA若しくはDNA、またはRNA若しくはDNAのアナログであることができ、これらをアンチセンスオリゴマーまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドと称する。このようなRNAあるいはDNAアナログの例としては、2’−O−アルキル糖修飾物、メチルフォスフォネート、フォスフォロチオエート、フォスフォロジチオエート、フォルムアセタール、3'−チオフォル
ムアセタール、スルフォン、スルファメート、およびニトロキサイド基本骨格修飾物、および塩基部が修飾されているアナログが挙げられるがこれらに限定されない。加えて、オリゴマーのアナログは次のようなポリマーであることもできる。即ち、糖部分が修飾されている、あるいはその他の適切な部分によって置換されてその結果モルフォリノアナログやペプチド核酸(PNA)(但しこれらに限定されない)を含むようにされたポリマーである[エグホルム(Egholm)ら、“ペプチド核酸(PNA)−アキラルのペプチド基本骨格を有するオリゴヌクレオチドアナログ”(1992年)]。アンチコードアナログは、オリゴヌクレオチドアナログの各種タイプの混合物、あるいは生DNAまたはRNAとの組合せであることができる。同時にオリゴヌクレオチドとそのアナログは単独で、あるいは一以上の追加のオリゴヌクレオチドまたはそのアナログとの組合せで用いることもできる。オリゴヌクレオチドは約10〜1000のヌクレオチド長であることができる。本発明においては10〜100ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドを用いることができるが、好ましいオリゴヌクレオチドは約15から約24の塩基長のものである。
【0020】
アンチコードオリゴヌクレオチドおよびそのアナログはまたオリゴヌクレオチドのコンジュゲートおよびそのアナログを包含する[ジョン・グッドチャイルド(John Goodchild)、「オリゴヌクレオチドのコンジュゲートおよび修飾オリゴヌクレオチド:その合成と性質のレビュー」“バイオコンジュゲート・ケミストリー”第1巻、第3号5月/6月(1990年)]。そのようなコンジュゲートは、取り込み、薬理動態、およびオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性を有し、あるいはオリゴヌクレオチドによる標的配列の架橋や開裂を高める能力を有する。
【0021】
本明細書においては、“細胞増殖”とは細胞の分裂速度/細胞サイクルをいう。また“成長”とは、より早い細胞分裂によって増加した細胞数およびより遅い細胞死によって増加した細胞数の双方を包含する。
本明細書においては、bcl−2遺伝子発現とはヒトbcl−2遺伝子からのbcl−2タンパク生産をいう:例えばbcl−2遺伝子発現の低下はbcl−2タンパクレベルの低下を意味する。本明細書においては、“戦略的部位(ストラテジックサイト)”とは、請求項に記載のアンチコード分子やそのアナログと結合した時にbcl−2遺伝子の発現を阻害する部位として定義される。本明細書においては、“配列部分”とは、RNAオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列の一部を指す。文脈によっては、“配列部分”がDNAオリゴヌクレオチドやDNAセグメントのヌクレオチド配列の一部を指すこともある。
【0022】
コントロールされない細胞増殖は癌性のあるいは異常な細胞型に対するマーカーである。正常で非癌性の細胞は、細胞型によって特徴付けられる頻度で規則的に分裂する。ある細胞が癌性の状態に転換すると、その細胞は制御不能に分裂・増殖する。増殖の阻害によって細胞の制御不能な分裂が調節される。細胞分裂の拘束は、しばしば非癌性状態への復帰に関連している。
【0023】
bcl−2(B細胞リンパ腫/白血病−2)と命名されたヒト遺伝子は幾つかの共通リンパ腫腫瘍の疫学に関連付けられている。クロース(Croce) らによる「ヒトBおよびT細胞新生物の分子的基礎」(“ウイルス腫瘍学の進歩”、7:35−51、G.クライン(Klein) 編、ニューヨーク:レイヴン・プレス、1987年を参照。ヒトbcl−2遺伝子の高レベルの発現は、最も濾胞性であるB細胞リンパ腫および多くの大細胞非ホジキンリンパ腫を含む、t(14;18)染色体トランスロケーションを有するすべてのリンパ腫において見いだされてきた。ヒトbcl−2遺伝子の高レベルの発現はまた、t(14;18)染色体トランスロケーションを有しないある種の白血病においても見いだされてきた。このような白血病には、慢性リンパ性白血病急性の殆どの症例、多くのプレ−B細胞型のリンパ性白血病、神経芽細胞腫、鼻咽頭カルチノーマ、および多くの前立腺、胸部、および大腸のアデノカルチノーマが含まれる[リード(Reed)ら、“神経芽細胞腫および神経起源のヒト腫瘍細胞株におけるbcl−2ガン原遺伝子の差別的な発現”、Cancer Res.51:6529(1991年);ユニス(Yunis) ら、“大細胞リンパ腫の予後におけるbcl−2およびその他のゲノム変更”、New England J.Med.、320:1047;カンポス(Campos)ら、“急性骨髄性白血病におけるbcl−2タンパクの高発現は化学療法に対する低応答に関連する”、Blood、81:3091〜3096(1993年);マクダネル(McDonnell) ら、ガン原遺伝子bcl−2の発現およびアンドロゲン独立性前立腺ガンの出現への関与” 、Cnacer Res.52:6940〜6944(1992年);ルー(Lu) Q−Lら、“エプステイン−バールウイルス関連性鼻咽頭カルチノーマにおけるbcl−2ガン原遺伝子の発現”、Int.J.Cancer、53:29−35(1993年);ボンナー(Bonner)ら、“提唱された形態学的および分子論的配列に関連させたbcl−2ガン原遺伝子と消化管粘膜上皮腫瘍悪化モデル”、Lab Invest.68:43A(1993年)]。
【0024】
次の説明に限定されるものではないが、本発明は正常な細胞死に関連する細胞メカニズムを利用するものである。細胞の多くのタイプは有限の寿命を有し死ぬことがプログラムされているため、細胞分裂速度の増加によるというよりむしろ正常細胞の死亡のメカニズムにおける欠陥によって細胞が制御不能に蓄積することもある。bcl−2遺伝子は、細胞分裂を加速するのではなく主として細胞の生存を延長することによってガンの病因に寄与している。
【0025】
本発明で好適に用いることができるアンチセンスオリゴマーは2〜200ヌクレオチド塩基長のヌクレオチドオリゴマーであって、より好ましくは10〜40の塩基長、さらに好ましくは20塩基長のものである。オリゴヌクレオチドは、翻訳開始部位、供与およびスプライシング部位、あるいは輸送や分解のための部位等、bcl−2のプレ−mRNAに沿った戦略部位に相補的なオリゴヌクレオチドから選択するのが好ましい。
【0026】
そのような戦略部位で翻訳をブロックすることが機能的なbcl−2遺伝子産物の形成を防ぐ。しかしながら、アンチコードオリゴマーのいかなる組合せも、またそのような組合せの一部分も(例えば細胞増殖を阻害するbcl−2プレ−mRNAあるいはmRNAに相補的なまたは実質的に相補的なオリゴヌクレオチド)、本発明においては好適に用いうるものであることが理解されるべきである。例えば、bcl−2 RNAに隣接したあるいは隣接しないストレッチの配列部分に相補的なオリゴヌクレオチドは細胞増殖を阻害し、よって本発明で好適に用いることができるであろう。
本発明において用いるアンチコードオリゴマーはまた、bcl−2 mRNAに沿う戦略的部位またはその他の部位の配列部分と相補的であるか実質的に相補的なオリゴヌクレオチドに隣接するオリゴヌクレオチドを包含してもよい点を理解するべきである。隣接する(フランキング)配列部分は好ましくは約2〜約100塩基、より好ましくは約5から約20塩基長である。アンチコードオリゴマーは、他の遺伝子からのプレ−mRNAあるいはmRNAコード化鎖に対するアンチコードオリゴマー同士の相同性を最小にするために、他の遺伝子のプレ−mRNAあるいはmRNAに共通に見いだされることのないプレ−mRNAあるいはmRNAの配列部分に相補的であることが好ましい。
好ましいアンチセンスの、あるいは相補的なオリゴデオキシヌクレオチドを表1に示す。
【0027】
(表1)
bcl−2 オリゴデオキシヌクレオチド
翻訳開始アンチセンス(TI-AS) 3′…CCCTTCCTACCGCGTGCGAC…5′
bcl−2 5′…CTTTTCCTCTGGGAAGGATGGCGCACGCTGGGAGA…3′
スプライス供与体アンチセンス(SD-AS) 3′…CCTCCGACCCATCCACGTAG…5′
bcl−2 5′…ACGGGGTAC…GGAGGCTGGGTAGGTGCATCTGGT…3′
スプライス受容体アンチセンス(SA-AS)3′…GTTGACGTCCTACGGAAACA…5′
bcl−2 5′…CCCCCAACTGCAGGATGCCTTTGTGGAACTGTACGG…3′
【0028】
本発明が属する分野における当業者であれば、多数のあるいは少数の置換ヌクレオチドを有するアンチコードオリゴマー、または好ましい態様以外の3'あるいは5'方向でbcl−2 mRNAに沿ってさらに延在するがやはり細胞増殖を阻害するアンチコードオリゴマーもまた本発明の範囲に含まれることがわかるだろう。
【0029】
本発明の実施にあたっては、“生の”あるいは未修飾のオリゴデオキシヌクレオチドよりむしろ、アンチコードオリゴマーの化学的修飾誘導体やそのアナログを用いるのが好ましい。“生の”オリゴデオキシヌクレオチドは、標準的なフォスフォラミダイト化学によってDNAシンセサイザーで容易に合成することができる。好ましい誘導体および誘導体の調製方法としては、以下のものが挙げられる:フォスフォロチオエート、スタイン(Stein) ら、Nucl.AcidsRes.、16:3209−3221(1988年);メチルフォスフォネート、ブレイク(Blake) ら、Biochemistry、24:6132−6138(1985年)、およびアルファデオキシヌクレオチド;モルヴァン(Morvan)ら、Nucl.Acids Res.、14:5019−5032(1986年);2'−O−メチル−リボヌクレオシド、[モニア (Monia)ら、“遺伝子発現のアンチセンスインヒビターとしての2'デオキシギャップを含有する2'−修飾オリゴヌクレオチドの評価”、J.Biol.Chem.、268:14514−14522(1933年)]およびアクリジン等の共有結合した誘導体、アセライン(Asseline)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:3297−3201(1984年);アルキル化物(例えばN−2−クロロセチラミン)、ノール (Knorre) ら、Biochemie、67:783−789(1985年)およびヴラソフ (Vlassov)ら、Nucl.Acids Res.14:4065−4076(1986年);フェナジン、ノール(Knorre)ら、上記書、およびヴラソフ (Vlassov)ら、上記書;5−メチル−N4−N4−エタノシトシン、ウェッブ(Webb)ら、Nucl.Acids.Res.、14:7661−7674(1986年);鉄−エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびアナログ類、ブトリン (Boutorin) ら、FEBS Letter's、172:43−46(1984年);5−グリシルアミド−1,10−o−フェナントロリン、チーホン(Chi-Hong)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、83:7147−7151(1986年);およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)誘導体、チュー (Chu)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.、82:963−967(1985年)。これらの刊行物を、あたかもその上掲箇所がここに完全に記載されていると同一の効果をもって、本明細書の一部として引用する。
【0030】
本発明のアンチコードオリゴマーは、医薬として許容される担体と組み合せして、対象に投与するかあるいは生体外投与することもできる。好適な医薬担体としては各種カチオン性脂質を用いることができ、具体的にはN−(1−2,3−ジオレイロキシ)プロピル)−n,n,n−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)およびジオレオイルフォスフォチジルエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。リポソームもまた本発明のアンチコードオリゴマーの担体として好ましく用いることができる。
【0031】
アンチコードオリゴマーは如何なるルートで患者に投与してもよい。例えば、静脈内、筋肉内、鞘内、鼻腔内、腹腔内、皮下の各注射、in situ注射、および経口投与を挙げることができる。経口投与の場合、本発明のアンチコード分子やそのアナログが消化管内で分解しないように腸溶コーティングが必要である。アンチコードオリゴマーは、生理的に許容される一定量の担体あるいは希釈剤(生理食塩水やその他の適切な液体)と混合してもよい。アンチコードオリゴマーは、リポソームやその他の担体手段と組み合せてアンチコード分子やそのアナログが標的に到達するまで保護したり、および/または、アンチコード分子やそのアナログが組織のバリアを通過するのを容易にすることができる。
【0032】
アンチコードオリゴマーは生体外での骨髄浄化にも有用である。通常、患者が受けることができる従来の癌化学療法剤ないし医薬および照射の量は、骨髄に対する毒性によって制限される。骨髄に対する毒性とは即ち貧血(疲労、心不全)血小板減少症(出血)、好中球減少症(感染)である。このように、腫瘍を完全に撲滅するために十分な濃度の薬剤を運搬あるいは照射すれば、医師は同時に患者の正常な骨髄細胞を破壊してしまい、患者の死亡を招くであろう。またあるいは、患者から多量の骨髄を外科的に採取してこれをインビトロで保存する一方、患者に攻撃的な従来法による処置を行うこともできる。この場合、患者に患者自身の骨髄細胞を再導入して救命できるが、これもその骨髄から残存悪性細胞が“追放・浄化”されている場合に限られる。本発明のアンチコードオリゴマーは、骨髄から残存悪性細胞を除去するために用いることができる。
【0033】
アンチコードオリゴマーは癌や新生物細胞の成長を阻害するのに有効な量投与される。投与される特定のアンチコードオリゴマーの実際の量は、癌の種類、体の他の細胞に対するそのアンチコードオリゴマーの毒性、癌細胞によって取り込まれる速さ、およびそのアンチコードオリゴマーが投与される個体の体重や年齢等、各種ファクターによって変わるであろう。ヒトの血清中に存在する阻害剤がアンチコードオリゴマーの活性と干渉する可能性から、各個人に対するアンチコードオリゴマーの有効量は変わるであろう。患者に対する有効量は従来の方法によって確認することができる。これは例えばアンチコードオリゴマーを細胞増殖の阻害に無効な量から有効な量まで段階的に増加させて行く方法である。細胞増殖を阻害するためには0.001マイクロモル〜100マイクロモルの濃度幅で癌細胞に提示すれば有効であろうと期待される。
【0034】
アンチコードオリゴマーは、癌細胞の増殖を阻害するのに十分な時間少なくとも一回患者に投与する。アンチコードオリゴマーは、癌細胞中または癌細胞の周囲でアンチコードオリゴマーが有効レベルを維持するのに十分な頻度で患者に投与するのが好ましい。有効レベルを維持するためには、アンチコードオリゴマーは一日数回、毎日またはこれより間隔を置いて投与することが必要となるかもしれない。アンチコードオリゴマーは、癌細胞がもはや検出されなくなるか、癌細胞の数が減少してそれ以上投与治療を続けてももはや顕著な数の減少がもたらされなくなるか、あるいはまた癌細胞が減少して、外科手術その他の処置で対応可能となる時点まで継続投与する。アンチコードオリゴマーが投与される時間の長さは、癌細胞が特定のオリゴデオキシヌクレオチドを取り込む速さや、細胞がオリゴデオキシヌクレオチドに応答するのに要する時間によって異なる。インビトロでは、“生の”未修飾アンチコードオリゴマーによる新生物細胞の生育の最大阻害は培養開始後2日で起こったが、フォスフォロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは4〜7日かかって最大阻害に到達した。インビボでは細胞増殖の最大阻害に必要な時間はより長い場合もより短い場合もあろう。
【0035】
本発明のアンチコードオリゴマーは、2以上のアンチコードオリゴマーオリゴデオキシヌクレオチド配列の組合せとして、あるいは一つの型の配列として患者に投与することができる。例えば、TI−ASおよびSD−ASを投与することもできるし、TI−AS単独で投与することもできる。
【0036】
本発明のアンチコードオリゴマーは自己免疫疾患の治療にも役立つことは確実である。自己免疫疾患とは、体の免疫系が正常に機能しない疾患である。本発明のアンチコードオリゴマーを自己免疫疾患を有するヒトに投与すればbcl−2過剰発現リンパ球の増殖を阻害するはずであり、これにより自己免疫疾患の症状が改善される。自己免疫疾患の治療用途に用いるには、本明細書の記載に従ってアンチコードオリゴマーを投与する。
【実施例】
【0037】
方法一般
実施例には次のプロトコールを用いた。
【0038】
A.細胞と細胞培養
本研究のために用いたヒト白血病細胞株はRS11846濾胞性リンパ腫細胞、697プレ−B細胞急性リンパ球性白血病細胞、およびJURAT T細胞急性リンパ球性白血病細胞であり、これらはツジモトらによってProc.Natl.Acad.Sci.USA、83:5214−5218(1986年)に、またワイス(Weiss) らによってProc.Natl.Acad.Sci.USA、138:2169−2174(1987年)に記載されている。ヒト末梢血リンパ球(PBL)を新鮮全血から、リードら、J.Immunol.、134:314−319(1985年)に記載のようにして単離した。全リンフォイド細胞を1mMのグルタミン、抗生物質、および次の何れかを含むRPMI培地中で5×105細胞/mLの濃度で培養した:5〜10%(v:v)のウシ胎児血清(FBS)、5〜10%(v:v)の子ウシ血清(CS)(両者ともハイクローンラボラトリーズ製)、あるいは無血清培養には1%(v:v)のHLI濃縮補充剤(ベントレックスラボラトリーズ)。マウス繊維芽細胞株を、グルタミン、抗生物質、および5〜10%(v:v)のFCSを含有するDMEM培地中に、103細胞/cm2添加した。繊維芽細胞株はNIH 3T3細胞、3T3−B−α−S細胞、および3T3−B−αーAS細胞であった。このうちの後の2つの細胞株は、発現ベクター構築物での安定した形質移入によって、センス配向、アンチセンス配向のいずれかでヒトbcl−2−α cDNAを高レベルに発現するNIH 3T3細胞である。
【0039】
B.細胞成長の測定
アンチコードオリゴマーの存在下あるいは不在下、培養細胞株の成長を次の二つの方法で測定した:血球計を用いた細胞カウント;およびリードら、J.Immunol.、134:314−319(1985年)に基本的に記載されている、[3H]−チミジン導入量をアッセイすることによるDNA合成。即ち、細胞を96穴の平底マイクロタイタープレート(ファルコン社)にウェルあたり0.2mL加えて培養した。適切な時間に細胞を再懸濁し、25μlを取り出し細胞数をカウントした。この25μl量は20UCi/Mlの[3H]−チミジン(特異活性=6.7Ci/mmole)(ニューイングランド・ニュークリアー)で置き換えた。次いでマイクロタイター培養物を37℃で95%空気:5%炭酸ガス雰囲気に8時間戻し、その後細胞とガラスフィルターを溶解し、シンチレーションカウンティングでDNAへの[3H]−チミジンの導入の相対レベルを決定した。細胞のカウントは、トリパンブルー染料の存在下、二重に用意したマイクロ培養物中の生存可能細胞の濃度を決定することにより行った。
【0040】
MTT[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−yl)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム・ブロマイド]]色素低減アッセイをタダらの方法(J.Immunol Methods、93、157(1986年))に従って行い、本明細書に記載の条件下においてアッセイの線形領域内にあることを確認した。ウェル当たりの生存可能細胞の数は、各アッセイにおける標準曲線から外挿した。標準曲線は、HL−1培地において指数的に成長するSU−DHL−4細胞の、106細胞/mL(0.2mi/ウェル)から始まる連続2倍希釈からなるものであった。サンプルは3重にアッセイし、培地/試薬のブランクに対するOD600nmを計算前に全ての値から差し引いた。
【0041】
C.RNAブロット分析
全細胞RNAを、チョムジンスキー(Chomczynski) らがAnalyt.Biochem.、162:156−139(1987年)に記載しているクゥォニジニウム・イソチオシアネート/フェノール手続によって単離した。ポリアデニル化された分画をオリゴデオキシチミジン−セルロースクロマトグラフィーによってアヴィブ(Aviv)らがProc.Natl.Acad.Sci.USA、69:1408−1412(1972年)に記載のようにして精製した。約5μg分割量のmRNAを0.8%アガロース/6%フォルムアルデヒドゲル中でサイズ分画し、ナイロン膜に移した。ブロットは、リードらがMol.CellBiol.、5:3361−3366(1985年)に記載した方法を正確に行って、まず予ハイブリダイズ、次いでハイブリダイズ後に洗浄した。これには、ツジモトがProc.Natl.Acad.Sci.USA、83:5214−5218(1986年)に記載したヒトbcl−2に対する32P−cDNAあるいはネグリニ(Negrini) らがCell、49:455−463(1987年)に記載したマウスbcl−2プローブであるpMBCL5.4を利用した。ブロットは、強調スクリーンと共に−70℃で1〜10日間コダック社のXARフィルムに露光した。32P−bcl−2プローブを膜から溶出させ、32Pプローブと共にマウスのβ−マイクログロブリンに関して再ハイブリダイズさせると、ブロット上の全サンプルについて略等量のmRNAが確認された。
【0042】
実施例1
アンチコードオリゴマーの調製
アプライド・バイオシステムズ社380B DNA合成器を使用して、ここに特に全文をレファレンスとして援用するスタインら,Nucl.AcidsRes.,16:3209−3221(1988)に記載の方法により、ノーマルおよびホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドを合成し、HPLC逆相クロマトグラフィ(PRP−1カラム)により精製した。いくつかのケースにおいては、非特異的な細胞毒性作用を除去するために、さらにオリゴデオキシヌクレオチドをカーンら,J.Clin.Invest.,81:237−244(1988)にすでに記述されているように、C18−Sep−PaKクロマトグラフィ(Waters Associates,Millipore,Inc.)により精製する必要があった。30%酢酸ニトリルに溶出したオリゴデオキシヌクレオチドを蒸発乾燥させ、滅菌したダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水またはハンクスの緩衝塩溶液(ともにGibco製)に1−2mM濃度に再懸濁させ、少量のアリコートに分けて−80℃で保存した。
合成したオリゴデオキシヌクレオチドおよびそれらのヒトbcl−2遺伝子のセンス−ストランドとの関係を表1に示した。ヒトbcl−2遺伝子のコードストランド配列部分を示しているが、これには翻訳開始部位(上)、スプライス供与部位(中央)およびスプライス受容部位(下)、ならびにbcl−2プレmRNAの5'非翻訳部分中の経験的に選択した部位が含まれている。ATG開始コドン、GTスプライス供与体、およびAGスプライス受容コンセンサス配列はボックスで囲んだ部分である。
これらの研究のために合成されたオリゴデオキシヌクレオチドの配列が示され、それらのヒトbcl−2 mRNAのセンス−ストランドとの関係が示されている。TI−ASオリゴデオキシヌクレオチドは翻訳開始部位のアンチセンスであり、TI−Sはその相補センス体である。SD−ASおよびSD−Sはそれぞれ、スプライス供与領域に対するアンチセンスおよびセンス配向を有するオリゴデオキシヌクレオチドである。
オリゴデオキシヌクレオチドTI−ASはbcl−2 mRNAの予測される翻訳開始部位にまたがり、この領域に対して相補的(アンチセンス)である。対照として、この20bpオリゴデオキシヌクレオチドのセンス配列TI−Sを合成した。
bcl−2 mRNAのスプライシングを特異的に遮断するために、20bpオリゴデオキシヌクレオチドのアンチセンス配列SD−ASを合成したが、これはbcl−2の一次転写産物のスプライス供与部位とオーバーラップする。さらに、表1に示されているように相補センスオリゴデオキシヌクレオチドSD−Sも調製した。ヒトbcl−2遺伝子は、ツジモトら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218(1986)にあるように、別のスプライス部位選択によりいくつかの転写産物をもたらす。これら転写産物の優位性はスプライシングに依存し、26KDaタンパクであるbcl−2−アルファをコードする。しかしながら、マイナーな1つの転写産物はスプライスされず、したがって22KDaタンパクのbcl−2−ベータをコードする。このようにSD−ASオリゴデオキシヌクレオチドは基本的に、すべてではないが殆どのbcl−2転写産物の完成を遮断することができる。
【0043】
実施例2
アンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドのIn Vitro研究のための血清の処理
ノーマルオリゴデオキシヌクレオチドは血清中に存在するヌクレアーゼによる劣化に敏感なため、56℃で30分間加熱(血清補体を不活性化するための通常の手順)した牛胎児血清(FBS)中におけるTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドの効果と、68℃で1時間加熱(多くのヌクレアーゼ類を非可逆的に不活性化するのに充分な温度)した牛胎児血清(FBS)中におけるTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドの効果を比較した。RS11846小胞リンパ腫細胞系統を使用した。RS11846細胞はbcl−2発現を自由にするt(14;18)染色体転座を含み、その結果bcl−2 mRNAを高レベルで蓄積する(ツジモトら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218(1986))。
RS11846小胞リンパ腫細胞を、予め56℃で0.5時間または68℃で1時間加熱した牛胎児血清5%(容量/容量)を含む培地で培養した。培養の開始時にTI−ASノーマルオリゴデオキシヌクレオチドを加え、2日後に生存細胞の密度を測定した。
TI−ASノーマルオリゴデオキシヌクレオチドは68℃処理血清の方がこれらリンパ腫細胞の培養の成長を効果的に抑制した。以下の実験ではすべて、培養に供する前に68℃で1時間加熱した血清を使用した。この処理は血清の成長支援能力を阻害するものではない。
【0044】
実施例3
アンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドによるリンパ細胞成長の特異的阻止
bcl−2の翻訳開始部位に対するアンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチド(TI−AS)およびスプライス供与部位に対するアンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチド(SD−AS)について、正常および新生物リンパ細胞の増殖抑制力を試験した。
RS11846小胞リンパ細胞、JUKRAT T細胞白血病細胞、および新鮮な単離抹消血液リンパ球を、予め68℃で1時間加熱した10%(容量/容量)FBSを含む培地で培養した。培養開始時に種々の濃度のTI−AS、TI−S、SD−AS、およびSD−Sなどのノーマルオリゴデオキシヌクレオチドを加えた。培養2−3日後に、[3H]−チミジン取り込み量を測定することにより、培養物中の相対DNA合成率を測定した。オリゴデオキシヌクレオチド処理培養物と等量のPBSまたはHBSSを含む対照培養物に対するパーセンテージを計算してデータを求め、複製培養の平均(±標準偏差)を求めた。
低温チミジン阻止を除いて、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドで処理した培養中のDNA合成抑制の1つの指標として、細胞数を計測し同様のデータを求めた。
図1および図2に示されているように、TI−ASおよびSD−ASオリゴデオキシヌクレオチドはともに、RS11846細胞の成長を濃度に依存して抑制した。SD−ASオリゴデオキシヌクレオチドはTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドにくらべて細胞成長を抑制する効果は少なかった。これらのアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドと対照的に、センスオリゴデオキシヌクレオチド(TI−SおよびSD−S)は濃度250μG/mLまで抑制効果は認められなかった。さらに非センスオリゴデオキシヌクレオチド(すなわち、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドと同じ塩基組成を有するが、スクランブル配列となっているもの)もまた、RS11846細胞の増殖を抑制しなかった。これらのデータはしたがって、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドがこれらの腫瘍性細胞の増殖を特異的に遮断することを示している。bcl−2遺伝子を発現するその他いくつかの白血性細胞種についても、TI−ASおよびSD−ASオリゴデオキシヌクレオチドによってそれらの増殖が抑制されるか試験した。JURKAT T細胞急性リンパ細胞白血性細胞の場合と同様、すべてのケースにおいてアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを含む培養中で、これらのヒト白血性細胞の成長は特異的かつ濃度依存性で減少するのが観察された。
健常なヒト抹消血液リンパ球(PBL)の増殖が刺激される時、これらの中でbcl−2の発現が一時的に誘発されることが示されており、これはこの遺伝子が正常なリンパ球の成長調節にある役割をはたしていることが示唆されている(リードら,Science236:1295−1297(1987))。よって、それらの増殖を刺激するモノクローナル抗体OKT3(ヴァン・デン・エルセンら,Nature312:413ー418(1984))をPBLとともに培養した場合、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドのPBLの成長抑制に対する能力を試験した。PBLは50μlの精製OKT3モノクローナル抗体で刺激した。図1および図2に示されているように、TI−ASオリゴデオキシヌクレオチドはPBLの増殖を濃度依存性で特異的に抑制した。このようにこれらのノーマルオリゴデオキシヌクレオチドは、bcl−2遺伝子を構成的に発現する白血病細胞の培養物中の成長ならびにbcl−2発現が誘発されるノーマルなリンパ球の培養中の増殖を抑制した。
【0045】
実施例4
アンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドによる阻止の時間的経過
アンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制の力学をRS11846小胞リンパ腫細胞および697プレ−B細胞急性リンパ細胞白血病細胞で検査した。これら両方の新生物B細胞種はbcl−2mRNAを高レベルで転写・蓄積した(ツジモトら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218(1986))。
RS11846小胞リンパ腫細胞および697プレ−B細胞急性リンパ細胞白血病細胞を、68℃で処理したFBSおよびノーマルオリゴデオキシヌクレオチドを10%(容量/容量)含む培地中で培養した。細胞は、50μg/mLのTI−AS、100μg/mLのSD−AS、50μg/mLのTI−S(RS11846細胞)または100μg/mLのSD−S(697細胞)、あるいは対照としてのPBSとともに培養した。培養開始後種々の時間でDNA合成(kcpm/105生存細胞数)および細胞密度(105生存細胞数/mL)を測定した。
アンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドはこれらの細胞培養物中で測定されるDNA合成を24時間以内に著しく抑制した。これらの培養物における細胞密度の低下は明らかに2日以内に起きている。このようにアンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドは白血病細胞のIn Vitro成長を急激に抑制した。センスオリゴデオキシヌクレオチドはこれら培養物中の増殖を阻害しなかったことから、アンチセンスオリゴデオヌクレオチドの作用は特異的なものである。細胞の生存はしばしば培養の後期に低下するが、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドと一緒の培養では細胞死の増加は最初の1−2日には認められず、これは非細胞毒性メカニズムであることを示唆している。
【0046】
実施例5
異なる血清調製品の比較
アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドによる白血病細胞の増殖抑制は培養に使用される血清のロットによって大幅に変わる。
増殖抑制に対する血清の効果を測定するために、200μMのTI−ASノーマルオリゴデオキシヌクレオチドの添加2日後の697プレ−B細胞白血病細胞培養物中の相対DNA合成を測定した。1%(容量:容量)HL1−コンセントレート(無血清状態)、5%(容量:容量)ウシ血清(CS1およびCS2)の異なる2ロット、または5%(容量:容量)牛胎児血清(FBS1およびFBS2)を添加した培地中で細胞を培養した。すべての血清は培養に使用する前に68℃で1時間加熱した。
ノーマルTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドはDNA合成(92%)ならびに697細胞の無血清培養物(HL1)における細胞増殖を著しく抑制した。このアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドは5%(容量:容量)牛胎児血清(FBS2)を含む培養物中でも同様に効果的(94%)であった。対照的に、その他の血清調製品(CS1、CS2、FBS1)を含む培養物中では抑制作用は顕著に低下した。一般的にはアンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドは牛胎児血清(FBS)を含むものよりもウシ血清(CS)を添加した培養物中での効果が少ないことが観察されている。
【0047】
実施例6
無血清培養におけるアンチセンスノーマルオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制の濃度依存性
1%(容量:容量)HL1−コンセントレート(無血清状態または5%(容量:容量)68℃処理FBS2)のいずれかを含む培地中で697プレ−B細胞白血病細胞を培養した。種々の濃度のノーマルTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドを含む培養物中で2日後のDNA合成および細胞密度の相対レベルを測定した。TI−ASオリゴデオキシヌクレオチドは、無血清培養に使用された場合、低濃度で抑制的であった。たとえば、100μMにおいては、FBS2を含む培養物中では細胞増殖の抑制は見られなかったのに対し、無血清培養物中では細胞数は約75%減少した。しかしながら、より高濃度のアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(200−250μM)の場合は、両方のタイプの培養物中の697細胞増殖の抑制は同程度であった。無血清培養物中のノーマルオリゴデオキシヌクレオチドの増進する効果は特異的なものであったが、これはセンスオリゴヌクレオチド(TI−S)が同一濃度では抑制的でないからである。
【0048】
実施例7
アンチセンスホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド:抑制の時間的経過
ヒト白血病細胞成長抑制に関するホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドの効果とノーマルホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドの効果を比較するために、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドを697プレ−B細胞白血病細胞とともに培養し、その抑制効果を測定した。697プレ−B細胞白血病細胞を無血清培地中で何回か培養し、DNA合成(kcpm)および細胞密度(106細胞数/mL)を測定した。
細胞は当初密度0.2×105細胞/mLまたは0.5×105細胞/mLのいずれかで接種した。培養条件は25μMTI−ASホスホロチオエート、25μM TI−Sホスホロチオエートとし、対照培養はHBSSで処理した。
血清ロットの差による実験変動を避けるために、697白血病細胞を無血清条件で培養した。当初接種密度0.5×106細胞/mLで培養した場合、697細胞は培養4−5日で最高のDNA合成および細胞密度を達成した。これらの培養開始時に25μMのセンスホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド(TI−S)を添加しても697細胞成長には効果がほとんど無かった。しかしながら、25μMのアンチセンスホスホロチオエート(TI−AS)を含む複製培養物中では、2日以内にDNA合成のある程度の減少が明白となり、4−5日で最高となった。細胞数計測で測定される697細胞成長の最大抑制は培養開始後6日後に見られた。
697細胞を当初0.2×106細胞/mLで接種した場合、アンチセンスホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド(TI−AS)は2日目にわずかな抑制を示し、これら培養物中でのDNA合成の最大抑制は7日目に達成された。ノーマルオリゴヌクレオチドの場合と同様に、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制は非細胞毒性メカニズムに仲介されるものと思われる。なぜならば細胞生存数は培養の後期にならないと低下しなかったからである。したがって、ノーマルアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドと比較した場合、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは作用開始時期が遅い。
【0049】
実施例8
アンチセンスbcl−2ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制の濃度依存性
無血清培地中での697細胞の培養におけるホスホロチオエートおよびノーマルTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制の濃度依存性を下記のようにして比較した。
697細胞を無血清培地中で、3日間(ノーマルオリゴデオキシヌクレオチド)または4日間(ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド)培養し、細胞密度およびDNA合成のレベルを測定した。培養物へのオリゴデオキシヌクレオチドの添加物には、TI−ASホスホロチオエート、TI−Sホスホロチオエート、TI−ASノーマルおよびTI−Sノーマルが含まれる。
図2に示されているように、TI−ASホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは25−50μMで697細胞の増殖を顕著に抑制した。対照的に、ノーマルTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドは同等の697細胞増殖抑制をするためには5倍から10倍高い濃度(約250μM)を必要とした。アンチセンスホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドTI−ASによる抑制は、この濃度範囲では特異的であったが、これはその相補センスオリゴデオキシヌクレオチド(TI−S)が複製培養において697細胞抑制をほとんどしなかったためである(図3参照)。
【0050】
実施例9
アンチセンスホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制に対する血清調製品の影響
ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドの抑制作用に関する血清調製品の効果をさらに明確にするために、培養物への添加の前に56℃で30分間もしくは68℃で1時間加熱した、または加熱しないFBSをRS11846リンパ腫細胞の培養物へ添加した。
RS11846細胞は、予め56℃で0.5時間もしくは68℃で1時間加熱した、または加熱をしていない1%(容量:容量)HL1−コンセントレートまたは5%(容量:容量)FBSを含む培地中で培養した。複製培養物の4日および5日目の細胞数を、等濃度のTI−Sホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドで処理した対照培養に対するパーセンテージとして計測し、平均パーセンテージを求めた(標準偏差はすべての値について10%以下であった)。TI−ASホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは25μMで完全にRS11846の成長を抑制し、半−最大抑制濃度は11μMと推定された。対照的に、このホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは5%(v:v)FBSを含む培養中では極端に効果が少なかった。さらに、培養液に添加する前にFBSを加熱しても、TI−ASホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドのRS11846リンパ腫細胞の成長を抑制する能力は顕著には改善されなかった。オリゴデオキシヌクレオチドの濃度が50μMの場合、RS11846細胞の増殖抑制は、加熱操作の有無にかかわらず、血清を含んだ培養中では48%を超えることはなかった。
【0051】
実施例10
ノーマルおよびホスホロチオエートアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制に対する血清の透析の影響
血清中の妨害物質の性質をさらに明らかにするために、68℃加熱血清を697白血病細胞の培養物に添加する前に、厳密に透析(遮断分子量=3500)して実験を行った。実験は12.5μMのTI−ASホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドおよび200μMのノーマル酸素ベースのTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドを使用して行った。
697細胞を、1%(容量:容量)HL1−コンセントレート(A)または68℃加熱処理の3ロットの5%(容量:容量)FBS(B、C、D)を含む培地中で培養した。各血清調製品は厳密な透析前(ND)および透析後(D)で対比した。TI−AS(+)およびTI−S(−)オリゴデオキシヌクレオチドは、ノーマル酸素ベースのオリゴデオキシヌクレオチドについては200μM(OXY)、およびホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド(PT)については12.5μMを、複製培養物に添加した。ノーマルおよびホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドそれぞれの培養2ないし4日目にDNA合成の相対レベル(kcpm)を測定した。
試験したFBSの3つの異なるロットの内、2つは透析後もノーマルまたはホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドのいずれかを含む培養物でほとんど変化を示さなかった。しかしながらFBSの1ロットは、透析後これらのアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの抑制作用に僅かの影響を与えた。
【0052】
実施例11
安定的に形質転換したNIH3T3細胞を使用した実験
ここで述べるアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドはbcl−2mRNA翻訳(TI−AS)およびスプライシング(SD−AS)を遮断するように設計されたものであるが、それらの作用の分子メカニズムはまだ解明されていない。細胞内でのオリゴデオキシヌクレオチド−RNAハイブリッドの形成の細胞成長抑制に対する効果を調べるために、ヌクレオチドの配列に関係なく、ヒトbcl−2 cDNA転写物を発現するように形質転換した細胞をノーマルオリゴデオキシヌクレオチドとともに培養した。
200μMのノーマルTI−ASおよびTI−Sオリゴデオキシヌクレオチドを、典型的なNIH 3T3細胞の培養物、ならびに通常のセンス(3T3−アルファ−S細胞)またはアンチセンス(3T3−アルファ−AS細胞)ストランドのいずれかのヒトbcl−2 cDNA転写物を高レベルで産生するような発現体として安定的に形質転換したこれらの細胞の培養物に、添加した。
RNAブロット分析を行うために、ノーマルNIH 3T3細胞、ならびにセンス(3T3−アルファ−S細胞)またはアンチセンス(3T3−アルファ−AS細胞)リコンビナントbcl−2−アルファmRNAを高レベルで産生するような発現体として安定的に形質転換した細胞から、ポリアデニル化mRNAを13の方法に基づいて精製した。約5μgのmRNAを、基本的に(16)に記載したように、ヒトまたはネズミbcl−2配列由来の32P−標識ハイブリダイゼーションプローブを使用したRNAブロット検定に供した。
ノーマル3T3細胞、3T3−アルファ−AS細胞、および3T3−アルファ−S細胞からのRNAを含むブロットに対する1日曝露によるオートラジオグラムでは、3T3−アルファ−ASおよび3T3−アルファ−S細胞に形質転換したbcl−2発現構築物から産生されたリコンビナント2.4および1.4kbp bcl−2転写産物が高い相対レベルを示した。
RNAを採取する時点で増殖中または鎮静状態のいずれかのノーマル3T3細胞からのRNAを含むブロットの10日間の曝露では、増殖中の3T3細胞中に低レベルではあるが検出可能なレベルのノーマル7.5および2.4kbpネズミbcl−2転写産物の存在が示された。
TI−ASオリゴデオキシヌクレオチドはノーマルNIH 3T3細胞の培養中のDNA合成および細胞複製を特異的に抑制したが、これは低レベルではあるが線維芽胞がbcl−2転写産物を含むという他者の発見とも符合するものである。ここで開示したこのTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドは、マウスbcl−2配列においてその20塩基中18が相補的であり(17)、ネズミNIH3T3細胞の成長を抑止する役割を果たしているものと思われる。
NIH 3T3細胞、3T3−アルファ−AS細胞、および3T3−アルファ−S細胞を、5%(容量:容量)の68℃処理血清、ならびにHBSS、200μM TI−Sノーマルオリゴデオキシヌクレオチド、または200μM TI−ASノーマルオリゴデオキシヌクレオチドのいずれかを含む培地中で培養した。3日目の培養物中のDNA合成の相対レベル(kcpm)を測定し、[3H]−チミジンの0.5μci/穴の16時間インキュベートと比較した。位相差顕微鏡による推定細胞密度は測定した培養物中のDNA合成と一致した。TI−ASオリゴデオキシヌクレオチドを含む培養物中のDNA合成の抑制パーセンテージは、HBSSを含む対照培養物との相対比較で求めた。
ノーマルNIH 3T3細胞の場合と同様に、TI−ASおよびTI−Sオリゴデオキシヌクレオチドとともに培養した3T3−アルファ−S細胞(ヒトbcl−2−アルファセンス転写物を産生)は特異的な抑制を示した。なぜならば、センスオリゴデオキシヌクレオチドTI−Sは抑制的でなかったからである。しかしながらアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドによる細胞増殖抑制のレベルは3T3−アルファ−S細胞ほど大きくはなかった。これは予想されるとおり、これらの細胞がより多くのbcl−2 mRNAを含んでいるからである。
3T3−アルファ−AS細胞培養物(アンチセンスbcl−2転写物を産生)に対するTI−Sオリゴデオキシヌクレオチドの添加は、オリゴデオキシヌクレオチド−RNAハイブリッド形成を含む非特異的なメカニズムを通して細胞成長の抑制を妨げた。TI−Sオリゴデオキシヌクレオチドは3T3−アルファーAS細胞増殖をほとんど抑制しなかったが、一方TI−ASオリゴデオキシヌクレオチドはこれら細胞に対して著しく抑制的であった。TI−ASおよびTI−Sホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドについても同様のデータが得られた。
【0053】
実施例12
ヒトリンパ腫細胞におけるbcl−2アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド介在プログラム細胞死の指標としてのDNA断片化の測定
表2に示す配列を有するオリゴヌクレオチドのヒトt(14:18)含有ヒトリンパ腫細胞種RS11486のプログラム細胞死(DNA断片化)を誘発する能力を調べるための試験を行った。これらのオリゴヌクレオチドはすべてホスホジエステルであり、bcl−2プレ−mRNAの翻訳開始部位または5'−キャップ領域を標的とするものである。
対照オリゴデオキシヌクレオチドは、TI−AS(配列番号:7)のbcl−2センス型(TI−S)、および同じ塩基組成を有するがヌクレオチド順序がバラバラのTI−ASのスクランブル型を含めた。
【0054】
(表2)
配列 配列番号
CGCGTGCGAC CCTCTTG(3′→5′) 8
TACCGCGTGC GACCCTC(3′→5′) 9
CCTTCCTACC GCGTGCG(3′→5′) 11
GACCCTTCCT ACCGCGT(3′→5′) 12
GGAGACCCTT CCTACCG(3′→5′) 13
GCGGCGGCAG CGCGG(3′→5′) 14
CGGCGGGGCG ACGGA(3′→5′) 15
CGGGAGCGCG GCGGGC(3′→5′) 16
【0055】
RS11846細胞を、1%FCSならびに125I−デオキシウリジンの添加により代謝的に標識したそれらのDNAとともに、HL1培地で3時間培養した。標識された細胞を次に完全に洗浄し、50AMの種々のオリゴヌクレオチドの存在下で2日間培養した。次いで遠心分離により200μlの培養液から細胞を回収し、10mM EDTAおよび14 Triton X100を含む低張性緩衝液中に溶離した。断片化されていないゲノムDNAをペレット化するために16,000×Gで遠心分離した後、断片化されたDNAを含む上澄み画分をフェノール/クロロフォルムで抽出し、エタノールで沈降させた。次にこのDNAを1.5%アガロースゲルのゲル電気泳動に供し、オートラジオグラフィにかけるためにナイロン膜に移した。
2つの実験の結果を図4および5に示す。bcl−2 mRNAの翻訳開始ATG部位近辺を標的とする6種類のbcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチドを試験した。「C−オリゴ−2」は4つの意図的なミスマッチを有するオリゴヌクレオチドを示す。「U」は無処理の対照細胞を示す。図5は図4に示したオリゴヌクレオチドの試験結果を示す。「Sc20」はTI−ASと同じ塩基組成を有するがスクランブル配列である20merを指す。図5(b)はbcl−2mRNAの5'−キャップを標的とする3つのオリゴヌクレオチドの試験結果を示す。数字はこれらのオリゴマーのATG−翻訳開始部位からの距離を示す。
DNA断片(単位サイズ約200bp)のラダー(はしご)の存在はプログラム細胞死を示唆している。50μMにおいて、TI−ASはほとんどDNAを断片化しなかったのに対し、配列番号9および配列番号10、ならびに5'−キャップオリゴヌクレオチドの一つ(配列番号14)は顕著なDNA断片化をもたらした。
【0056】
実施例13
無血清培養物中におけるアンチセンスホスホジエステルオリゴデオキシヌクレオチドによる抑制の濃度依存性
697プレ−B細胞白血病細胞を、1%(容量:容量)HL1−コンセントレート(無血清状態[0]または3%(容量:容量)68℃加熱処理血清(FBS2)[_]を含む培地中で培養した。図6参照。示されているのは、種々の濃度のホスホジエステルTI−ASオリゴデオキシヌクレオチドを含む培養液中の培養2日目における細胞密度である。これらのデータはセンスオリゴヌクレオチドで処理した対照培養に対する相対パーセンテージで示されており、複製サンプルの平均±標準偏差も表している。
【0057】
実施例14
オリゴデオキシヌクレオチド処理697細胞中のbcl−2タンパクレベルの免疫蛍光分析
オリゴデオキシヌクレオチドとの関係を検討するために、0.25×104(ホスホロチオエート)または0.5×105(ノーマルオリゴデオキシヌクレオチド)の697細胞を1mLのHL−1無血清培地で24穴培養皿(Linbro.Flow Lab,Inc.)で培養した。2日目(ノーマルの場合)または4日目(ホスホロチオエートの場合)に、細胞を培養液から回収し、[PBS、pH7.4(Gibco)−0.1%ウシ血清アルブミン−0.1%アジ化ナトリウム]中で1回洗浄し、1%パラホルムアルデヒド/PBS溶液中で5−10分間氷上固定した。次いで細胞をPBSで1回洗浄し、1mLの純粋メタノール中で20℃、10分間インキュベートした。PBS−A中で1回洗浄後、細胞を0.05%のTriton−X100を含むPBS中に氷上で3分間再懸濁させ、PBS−A中で洗浄し、PBS中4℃で30分間10%(v/v)加熱非活性化ヤギ血清で予備遮断した。
第1の抗体を添加するために、予備遮断した細胞を100μlのPBS−G(PBS−1%ヤギ血清−0.1%アジ化ナトリウム)に再懸濁させ、BCL−2抗体(ハルダーら,Nature(ロンドン),342:195−197(1989))またはアフィニティ精製したノーマルウサギ対照IgG(Cappel6012−0080)のいずれかを含有させた個別の試験管に50μlずつに分割し、氷上で1時間インキュベートした。これらの検討に使用したBCL2抗体は、BCL2タンパクのアミノ酸(98−114)に相当する合成ペプチドをウサギに使用し、プロテインA−セファロースクロマトグラフィによりアフィニティ精製し、約1mg/mLで使用した。細胞は次にPBS−A中で洗浄し、0.5−1.0mL PBS−A中で氷上15−20分間インキュベートし、非特異性の細胞会合抗体を分散させたあと、5μgのビオチニル化scat抗ウサギIgG(BAIOOO;Vector Labs)を含む100μlのPBS−G中に細胞を30分間再懸濁させた。PBS−Aで1回洗浄および15分間インキュベートした後、細胞を最終的に、2μgのFITC接合アビジン(VectorLabs A2011)を含む100μlのPBS−Aに20分間再懸濁させ、PBS−Aで3回洗浄した後、オルソ2150データ処理システムに連結されたオルソチトフルオログラフ50−Hで分析した。本法のBCL2タンパク検出特異性は免疫蛍光顕微鏡(細胞質ゾル着色ペプチド競合を示す)、ならびに遺伝子トランスファー操作により種々のレベルのBCL2 mRNAおよびタンパクを発現する細胞種を調べることにより確認した。
表面HLA−DR抗原発現を測定するために、間接免疫蛍光分析法(リードら,J.Immunol.134:1631−1639(1985))を使用したが、これは生存細胞をネズミ抗HLA−DRモノクローナル抗体(IgG2a)(Becton−Dickinson7360)または負の調節抗体 R3−367(IgG2a)、続いてFITC接合scat抗マウスIgG(Cappel 1711−0081)とともにインキュベートすることを含むものである。細胞はFACS分析に供する前に1%パラホルムアルデヒド/PBS中に固定した。
697細胞を種々のオリゴヌクレオチドとともに2日(PO)または4日間(PS)培養した図7および図8において、黒のカラムはセンスオリゴヌクレオチドの結果を、また斜線のカラムはアンチセンスオリゴヌクレオチドTI−ASの結果を示す。細胞は抗−bcl−2抗血清で標識し、FACSにより分析した。データは無処理697細胞により得られた平均蛍光度に対する相対パーセンテージで表した。
図9および図10は697細胞を100μlのPO bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理する前および処理した後の典型的なFACS結果を示している。A:抗−bcl−2抗血清(斜線部分)またはノーマルウサギ血清対照(白い部分)のいずれかで標識した無処理の697細胞;B:抗−HLA−DR抗体(斜線部分)または負の調節抗体(白い部分)のいずれかで標識した無処理の697細胞;C:ノーマルbcl−2 TI−AS(白い部分)またはTI−AS(斜線部分)オリゴデオキシヌクレオチドのいずれかとともに2日間培養し、抗−bcl−2抗体で標識した697細胞;D:TI−ASおよびTI−Sオリゴデオキシヌクレオチド(Cで示されている)とともに培養し、ただし抗−HLA−DR抗体で標識した697細胞。
図7および図8に示されているように、POおよびPS bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチドは、HLA−DR(図9および図10)およびその他の調節抗原の発現レベルを変えることなく、bcl−2タンパクのレベルを特異的な濃度依存性で減少させた。たとえば150μMにおいて、POアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドはbcl−2蛍光を約75−95%減少させ、一方対照センスオリゴデオキシヌクレオチドはbcl−2タンパクのレベルを10−20%だけ減少させた(図7)。同様に、PSアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド25μMとともに4日間培養した697細胞は、bcl−2蛍光が約70%減少した。これに対し、センスPSオリゴデオキシヌクレオチドTI−ASは、本検定における測定ではbcl−2タンパクレベルを約15%減少させただけであった(図8)。
重要性
ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドにおいては、各ヌクレオチド間のホスフェート結合中の非ブリッジ酸素原子のひとつはイオウ原子で置換することができる。この修飾によりホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドはヌクレアーゼによる開裂に対して極端に抵抗性が与えられる。スタインら,Nucl.Acids Res.,16:3209−3221(1988)。酸素原子をイオウ原子に置換しても、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは水溶液への良好な溶解性を維持し;RNA−オリゴデオキシヌクレオチド複合体の溶解温度がいくらか低下するものの良好にハイブリッド化し;また広く使用されているホスホロアミド類とのオリゴデオキシヌクレオチド自動合成法で簡便に合成することができる。
アンチセンスbcl−2ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチド類は、それらのノーマル酸素ベースのものに比べて白血病細胞成長のより有効な抑制剤であることが判明している。無血清状態で試験した場合、これらのオリゴデオキシヌクレオチド類は約15−23μMの濃度で細胞増殖を半減させるのに対し、ノーマルオリゴデオキシヌクレオチドは125−250μMで50%の抑制を達成する。この知見は、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドの細胞性ヌクレアーゼに対する感受性の低さ、またはその他のメカニズムに起因するものとして説明することができるであろう。たとえば、mRNAとホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドとのハイブリッド化はRNAアーゼH様活性に関わるメカニズムによって劣化が促進されることになろう。
抑制作用が増加するにもかかわらず、ホスホロチオエートアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドは配列特異性を維持した。試験した濃度(25μM以下)においては、これらのオリゴデオキシヌクレオチドのセンス型は白血病細胞の成長にほとんど効果が無かった。ノーマルおよびホスホロチオエートアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドはともに、当初非細胞毒性メカニズムにより白血病細胞の増殖を抑制したようである。培養の最初の数日間、細胞の複製は抑制されたが、細胞死の増加とは一致しなかった。しかしながら、培養の後期(ノーマルオリゴデオキシヌクレオチドについては4−5日目、ホスホロチオエートについては6−8日目)では細胞生存性は低下した。
ノーマルおよびホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドの抑制動態の比較において、後者の物質は作用の開始時点が遅いことが判明した。ノーマルアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドによる白血病細胞増殖の最大抑制は培養開始後2日目に起きたが、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドは最大抑制を達成するのに4−7日間必要とした。
本発明の実施例により、bcl−2遺伝子を発現するヒトリンパ腫/白血病細胞およびその他のタイプの癌細胞の抑制に対するアンチオリゴマー類の有用性が示された。ヒトbcl−2遺伝子のmRNAの少なくとも有効部分に相補的なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドは、RS11846ヒト小胞性リンパ腫細胞t(14;18)染色体転座および高いbcl−2発現、697ヒトプレB細胞白血病細胞(高いbcl−2発現)、JURKATヒト急性リンパ球白血病細胞(中度bcl−2発現)、ノーマルヒトリンパ球(中度bcl−2発現)ならびにネズミ線維芽胞(低bcl−2発現)の成長を抑制することが判明した。bcl−2アンチセンス薬剤は多くのタイプの細胞の成長を抑制することができるが、t(14:18)リンパ腫および白血病細胞は敏感であり、悪性細胞の特異的な抑制が可能となる。
以下の実施例に示されているように、本発明には各種のDNA相同体を使用することができる。たとえば、ホスホロチオエート類、メチルホスホネート類、ならびにホスホジエステル類およびホスホロチオエートまたはメチルホスホネートヌクレオシド類の組み合わせを含む混合オリゴマー類である。また本発明にはRNA相同体も使用することができるのは当然である。
【0058】
実施例15
メチルホスホネート(MP)/ホスホジエステル(PO)bcl−2アンチセンスオリゴマー類はDoHH2リンパ腫細胞の死を誘発する
本検討の目的はリンパ腫細胞の生存を抑制するアンチコードオリゴマー類の各種の相同体の効果を調べることにある。
DoHH2はbcl−2遺伝子を賦活するt(14:18)−転座を含むヒトリンパ腫細胞種である。DoHH2細胞を3日間オリゴマーを加えずに、または各種濃度のアンチセンス(As)およびスクランブル(Sc)メチルホスホネート(MP)/ホスホジエステル(PO)オリゴマーの存在下で3日間培養した。細胞の生存性はトリパンブルー色素排除法により評価し、データはオリゴマー無しで培養したDoHH2細胞に対する相対パーセンテージで示した。MP/POオリゴマーはbcl−2オープンリーディングフレームの最初の6つのコドンを標的とする18−merであり、オープンリーディングフレームの中の5つの内部結合はホスホジエステルであり、フランキングヌクレオシドはメチルホスホネートである。これらの結果は、
これらのアンチコードオリゴマー相同体はリンパ腫細胞生存に効果を有する特異的な抑制剤であるということを示している。
【0059】
実施例16
メチルホスホネート(MP)/ホスホジエステル(PO)キメラオリゴマー類はMCF−7ヒト乳癌細胞の成長を抑制する
本検討の目的は本願請求の範囲のアンチコードオリゴマー相同体がbcl−2を高度に発現する固体腫瘍細胞の生存を抑制する効果を調べることにある。
MCF−7は比較的高レベルのbcl−2タンパクを含むヒト胸(乳房)アデノカルチノーマ細胞種である。この細胞をMP/POオリゴマーの存在下または非存在下で96穴マイクロタイタープレートで、1穴当り4000個で培養した。次に、1穴当りの相対細胞数を、新しく接種した無処理のMCF−7細胞を使用して作成した標準曲線に基づいて、MTTアッセイにより推定した。アンチセンス(As)およびスクランブル(Sc)MP/POオリゴマーは実施例15に述べたものと同様である。データは判定のための平均+/−標準偏差を表す。
この結果は、本願請求の範囲のアンチコードオリゴマー相同体によるsolid腫瘍細胞の成長の配列特異的な抑制を示している。
【0060】
実施例17
アンチコードbcl−2オリゴマー配列の最適化
本検討の目的は、コンピュータで作成した配列の本願請求の範囲の各種のアンチコード分子を細胞に接触することによって細胞の生存を抑制する場合に、最適のmRNA標的部位または配列部分を調べることにある。
DoHH2リンパ腫細胞をbcl−2 mRNAの異なった部位を標的とする種々の濃度のオリゴマーで処理した。ATGオリゴマーは翻訳開始部位を標的とし、オープンリーディングフレームの最初の6つのコドンに相補性である。Dscore23(図22中のSc23)およびDscore72(図23中のSc72)オリゴマーはmRNAの5'非翻訳領域部位を標的とする。スクランブル(Sc)オリゴマーは同じ長さと塩基組成を有するがスクランブル型配列の負の対照である。すべてのオリゴマーはホスホジエステル(PO)/ホスホロチオエート(PS)キメラとして調製され、最後の(3')2つの内部ヌクレオシド結合だけがホスホロチオエートである。オリゴマーを直接培養液に添加し、3日後にMTTアッセイにより相対生存細胞数を推定した。データは平均+/−標準偏差を表す。
これらの結果は、5'非翻訳領域を標的とするDscore23オリゴマーは本実施例で試験したその他のアンチコードオリゴマー類に比べて、優れた細胞生存抑制作用を有することを示している。
【0061】
実施例18
bcl−2遺伝子発現のアンチセンス介在による低減の腫瘍細胞の化学療法抵抗性の逆転
以下の検討はbcl−2遺伝子の発現を指向したアンチコードオリゴマーが化学療法抵抗性を減少(逆転)させるものかどうか、すなわちアンチコードオリゴマーがbcl−2遺伝子を発現する癌腫瘍性細胞の癌化学療法剤に対する感受性を増加させるかどうかを検討するために行ったものである。
多様な癌化学療法剤、たとえば下記に限定されるわけではないが、Ara−C、MTX、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、アドリアマイシン、エトポシド、ミトザントロン、2−クロロデオキシアデノシン、デキサメタゾン(DEX)、およびアルキル化剤などの効能に対して、高レベルのbcl−2タンパクはリンパ腫細胞の相対的抵抗性を増加させるように思われる(ミヤシタ,Tおよびリード,J.C.,Cancer Res.52:5407,1992年10月1日)。これらの薬剤は多様な生化学的作用メカニズムを有するが、これらはすべて共通してアポプトシスを起こさせる内因性の細胞経路を賦活することによって最終的に癌細胞の死を引き起こさせる能力を有するものと考えられている(イーストマン,A.Cancer Cells 2:275(1990))。本願請求の範囲のアンチコード分子およびそれらの相同体はここで使用されているように、代謝拮抗物質、アルキル化剤、植物アルカロイド、および抗生物質などの癌化学療法剤、ただしこれらに限定されるものではないが、の感受性を増強させる目的に有効であると考えられている。
代謝拮抗物質としては、特に限定されないが、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、6−メルカプトプリン、シトシンアラビノシド、ヒドロキシ尿素、2−クロロデオキシアデノシンなどが含まれる。
アルキル化剤としては、特に限定されないが、シクロホスファミド、メルファラン、ブスルファン、シスプラチン、パラプラチン、クロルアンブシル、およびナイトロジェンマスタードなどが含まれる。
植物アルカロイドとしては、特に限定されないが、ビンクリスチン、ビンブラスチン、VP−16などが含まれる。
抗生物質としては、特に限定されないが、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシンなどが含まれる。その他の癌化学療法剤としては、DTIC(デカルバジン)、mAMSA、ヘキサメチルメラミン、ミトロキサントロン、タキソール、エトポシド、デキサメタゾンなどが含まれる。
本検討においては、3'−最内部ヌクレオシド結合だけがチオエート結合(PO/PS)であるヌクレアーゼ抵抗性ホスホロチオエート(PS)およびホスホジエステルを使用した。このPO/PSオリゴマーは3'エキソヌクレアーゼ(血清の基本的ヌクレアーゼ活性)に対して抵抗性があり、通常標的RNAとともにより安定な異種複合体を形成する。
細胞内コンパートメントへのオリゴマーの効果的な取り込みとその後の放出を改善するためにカチオン脂質を使用したが、これは本願請求の範囲のアンチコードオリゴマーの薬学的キャリヤの一例である。
本検討で使用したアンチセンス(AS)およびスクランブル(SC)18'merオリゴヌクレオチドを調製し、精製する方法は上記の一般的な方法およびキタダら(Antisense R&D,3:157(1993))に記述されている。ホスホジエステルオリゴヌクレオチドをホスホロアミデートの化学とヨウ素による酸化を利用して10−15マイクロモルスケールで合成し、次いでC18−逆相カラムを使用して精製した。ほとんどの場合、非特異的な細胞毒性活性を除去するためにオリゴマーをさらに5回エタノール沈降させ、次いで乾燥し、滅菌したHL−1培地(Ventrex Labs, Inc;Burlingame,CA)に1−10mMで再懸濁した。この溶液のpHは、培地中のフェノールレッド標示試薬が本来の色に回復するまで、1−10M NaOHを使用して
調節した。
使用した基本的オリゴマーは18−merで、以下のいずれかの配列を有するものである:
I.TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17)、これはヒトbcl−2オープンリーディングフレーム(配列番号19)の最初の6つのコドンのアンチセンスである;または
II.TGCACTCACGCTCGGCCT(配列番号18)、これは対照として使用したスクランブル型である。
bcl−2遺伝子またはbcl−2 mRNAに結合するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドいずれかを発現する腫瘍細胞を作るために標準形質転換法を使用した。ベクターもまたbcl−2プレ−mRNAに結合するアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドをコードすることができると考えられる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする特定のヌクレオチド配列は、腫瘍細胞中のbcl−2遺伝子発現を低減させるのに充分なアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを発現し、かつ癌化学療法剤に対する腫瘍細胞の感受性を増加させるか、または癌化学療法剤で処理した場合に腫瘍細胞を殺すのに充分な配列を選択する以外は重要ではない。ベクターにコードされたアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドが腫瘍細胞中のbcl−2遺伝子発現を低減させるのに充分な条件で発現されることだけが必要である。遺伝子をほ乳類細胞に転移させるためのベクターならびに、特に発現プラスミドを調製する方法は、分子生物学の分野における通常の手法による。本発明で使用する発現プラスミドを調製する一般的な方法を開示した基本的なテキストはMolecular Cloning,A Laboratory Manual,第2版,サンブルックら編,ColdSpring Harbor Laboratory Press,(1989)であり、特に培養ほ乳類細胞へのクローン化遺伝子の発現に関する第16章である。以下の実施例15C−Dは、本発明で使用した発現プラスミドを調製する特定の方法を記述したものである。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを転移するのに用いられる特定のベクターは決定的なものではなく、それらベクターとしてはラムダおよび関連ファージまたは糸状ファージ由来のベクターでよい。必要なことは、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードし転移されるヌクレオチド配列が、腫瘍細胞中でbcl−2遺伝子発現を低減させるのに充分な条件下で形質転換腫瘍細胞中に発現されることだけである。本発明は、リコンビナントレトロウイルスベクター(リードら,T細胞リンパ細胞種におけるbcl−2介在腫瘍化:C−MYCとの相乗効果およびbcl−2アンチセンスによる抑制,PNAS USA 87:3660(1990))のような他のベクターの介在によって、染色体外の位置(たとえば、発現プラスミドから)または宿主ゲノム自体、すなわち組み込まれた位置、のいずれかのアンチセンスオリゴヌクレオチドの発現を含むものである。
【0062】
A.リンパ腫細胞の18−mer合成bcl−2アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドによる処理
散在性、組織球腫、非ホジンスリンパ腫を使用して得られたリンパ腫細胞種SU−DHL−4(エプスタインら、B5ホルマリン固定、パラフィン埋め込み組織で反応性のある2つの新しいモノクローナル抗体(LN−1、LN−2)、小胞状センターとマントルゾーンを有するヒトBリンパ球および派生腫瘍.J.Immunol.133:1028(1984))およびt(14;18)転座を含むものを、bcl−2m RNAの最初の6つのコドンへの結合を標的とするために18−mer合成bcl−2−ASオリゴデオキシヌクレオチドで処理した。対照として、SU−DHL−4細胞を、ASオリゴマーと同じヌクレオシド組成を有するが塩基の配列はスクランブル型(SC)である18−merを含む各種の対照オリゴマーで処理した。
【0063】
1mM L−グルタミン、50ユニット/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンおよび5μgの精製オリゴヌクレオチドまたは30μgのリポフェクチン(LipofectinTM)[N−(1−2,3−ジオレイロキシ)プロピル]−n,n,n−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)およびジオレオイルホスホチジルエタノールアミン(DOPE)の1:1w/w混合物]]を添加した1.5mLのHL−1無血清培地(Ventrex Labs,Inc.)のアリコートを混合し、3mLのHL−1培地中に0.75×106 SU−DHL−4細胞に加えた。細胞は次に、5%CO2/95%空気の湿潤環境下、37℃で24穴プレート(2mL/穴)でイムノブロットおよびRT−PCRアッセイのために培養するか、またはMTTアッセイのために96穴平底マイクロタイタープレート(0.1mL/穴)で培養した。マイクロタイター培養の細胞の場合は、典型的には1日後に各種の化学療法剤を添加または添加せずに0.1mLの追加HL−1培地を加え、さらに細胞を2日間培養し、MTTアッセイを実施した。
【0064】
細胞をPBSで1回洗浄し、1%Triton X100を含む緩衝液中に溶解し、サ
ンプルのタンパク含有量を規定量(25μg)に調整し、SDS−PAGE(12%ゲル)によるタンパクのサイズ分画を行い、リードら,Cancer Res.51:6529(1991)に記載のイムノブロットアッセイを行うためにニトロセルロースフィルターに移した。予備実験において全タンパク量として25μgを含む溶液アリコートはアッセイの直線部分に入ることが確認された。ブロットは最初に、ヒトbcl−2タンパク(前記配列番号21)のアミノ酸(aa)41−54に相当する合成ペプチドに向けられた0.1%(v.v)のウサギ抗血清とインキュベートし、次いで2.8μg/mLのビオチニル化ヤギ抗ウサギIgG(Vector Labs, Inc.)とインキュベートした。次にp26−Bcl−2に対応するバンドをホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)−アビジン−ビオチン複合試薬(VectorLabs Inc.)および3,3'−ジアミノベンジジン(DAB)を使用して発色させ、可視化した。次に、着色したブロットをBcl−2タンパク(配列番号21)のaa61−76に向けられた第2の抗−Bcl−2抗体とインキュベートし、さらに0.25μCi/mLの*125I−タンパクAとインキュベートした。Bcl−2バンドをブロットから切り取り、ガンマ計測にかけた。
【0065】
Bcl−2タンパクのミトコンドリア位置にもかかわらず、p26−Bcl−2のレベル以外は同一の細胞においてミトコンドリア酵素によるMTT染色の低下には差が見られなかった。これらの比較は、1つはリコンビナントbcl−2レトロウイルスにより安定的に感作された種と、他方はbcl−2 cDNA挿入が欠質している親レトロウイルスベクターである点だけが異なる一対の指数増殖リンパ腫細胞種を使用して行われた(ミヤシタら,Cancer Res.52:5407(1992);Blood81:151(1993))。
【0066】
bcl−2 mRHAのアンチコード特異性の相対レベルの低下は、半定量的逆トランスクリプターゼ・ポリメラーゼ鎖反応(RT−PCR)アッセイにより1日以内に検出された図11(a)参照。
SU−DHL−4細胞を、無血清培地y(13,19)1mL当り5μgのカチオン脂質(リポフェクチン;BRL/Gibco,Inc.)を複合化した0.83μg/mLのオリゴマーとともに培養した。図8Aにおいて、RNA全量を1日後に細胞から単離し、bcl−2およびグリセルアルデヒド3'−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNAの相対レベルを、キタダら,AntisenseR&D 3:157(1993)に記載のRT−PCRアッセイで評価した。
【0067】
図11(b)において、SU−DHL−4細胞をPS(四角)またはPO/PS(丸)As−およびSc−オリゴマーのいずれかのペアとともに3日間培養した。次いで、Bcl−2タンパクの相対レベルを上記のように定量イムノブロットアッセイを使用して測定し、そのデータを対照Sc−オリゴマーで処理した細胞の場合に対するパーセンテージで表した。挿入図は、As−PO/PSオリゴマーがBcl−2タンパクレベルを相対的に41%低下させた場合の、p26−Bcl−2およびp75のクロス反応(CR)バンドのイムノブロット結果を示す。図12においては、SU−DHL−4細胞の培養物にPS(四角)またはPO/PS(丸)オリゴマーを添加した1日後に10-4MのAra−C、MTX、またはDEXを添加し、3日目にMTTアッセイを行ったものである。データはオリゴマーの非存在下で薬剤とともに培養された細胞の対照に対する相対パーセントで表されており、10個の連続実験のうちの9実験の結果を表している[1つの実験でMTTアッセイは失敗]。細胞生存性を評価するのにMTTアッセイではなく色素排除アッセイを使用した場合にも同様の結果が、得られた[図示なし]。
【0068】
データの平均値は横線で示されている。データの統計的分析はペアのT−試験(As対Sc)によるものである。As−およびSc−オリゴマー(150nM)の濃度は、配列特異性を維持しながらAsの効果を最大にするように調節した。
開始RNAの量の変動はGAPDH mRNAに特異的なプライマーを使用したRT−PCR分析によりコントロールした。
bcl−2タンパクの長い半減時間(約14時間)はbcl−2タンパクのAs介在による減少がbcl−2 mRNAの減少ほど劇的でないことを示すものであり、達成するのに長時間(約3日間)かかり、かつ変動が大きいようである。
【0069】
図11(b)は、ASまたはSCオリゴマーで処理したSU−DHL−4細胞中のbcl−2タンパクの相対レベルを比較した10実験をあわせた結果を示すものである。bcl−2タンパクレベルのAS介在による減少は66%と高いものから10%と低いものまでの範囲にあり、対照オリゴマーにより同様に処理したSU−DHL−4細胞の場合と比較している。F1−ベータ−ATPアーゼおよびチトクロムC、のような対照ミトコンドリアタンパクのレベルの違いはAS−オリゴマーによって影響を受けることはなく(図示なし)、bcl−2タンパクレベルのAS介在による減少は特異的なものであることを示している。たとえば 図11(b)の挿入部分は、イムノブロットアッセイに採用されているウサギ抗血清の1つと交差反応する78−kDaタンパクとp26−Bcl−2との比較を示しており、対照SC−オリゴマーを受け取った細胞との対比においてp26−bcl−2のレベルは低下し、p78のレベルは低下しないことを示している。
【0070】
B.SU−DHL−4細胞をbcl−2 ASオリゴマーで処理した場合の癌化学療法剤に対する細胞感受性の効果
本検討はSU−DHL−4細胞をbcl−2 AS−オリゴマーで処理した場合に、抗癌剤であるAra−C,MTX,およびDEXなどの癌化学療法剤による細胞死に対する相対的な感受性を増加させるものかどうかを調べるために行った。
以前の対照検討においてbcl−2ASオリゴマーはSU−DHL−4細胞成長および生存に、少なくとも培養の最初の3日間はわずか、またはまったく効果のないことが示されている(キタダら,Antisense R&D 3:157(1993))。これらのリンパ腫細胞ならびにその他の細胞におけるbcl−2タンパクレベルのAS介在による減少は、典型的には、培養中の細胞から血清成長ファクターが取り除かれないかぎり、細胞死滅速度を加速しない(リードら,Proc.Natl.Asad.Sci.USA87:3660(1990))。
【0071】
本検討においては、予備試験において高用量(10-4)のAra−C,MTX,またはDEXによる4日間の治療後にも90%以上のSU−DHL−4細胞が生存することが示されているが、これはおそらくそれらのbcl−2タンパクの高いレベルによるものと考えれる(図示なし)。しかしながら、これらの濃度においてはすべての薬剤は基本的にSU−DHL−4細胞増殖の完全な抑制を誘発し、bcl−2が薬剤を細胞毒性から細胞抑制性へ転換させるのと一致している。ASおよびSCオリゴマーの比較では、bcl−2AS処理はこれらのリンパ腫細胞のMTXおよびAra−Cに対する感受性を著しく増強し、またDEXに対しても多少の増強を示した(図12)。
【0072】
結果にいくらかのばらつきがあるが、平均的にはMTXまたはAra−Cで処理したSU−DHL−4細胞の培養物へのbcl−2ASオリゴマーの添加は、本発明のbcl−2ASオリゴマーを導入せずにそれらのいずれかの薬剤を単独で(AS対SCの場合P<0.002)使用した場合に比べて79−84%大きな抑制効果(生存細胞数の減少)をもたらした。DEX処理したSU−DHL−4細胞(P=0.01)において統計的に重要な結果が得られた。対照オリゴマー処理した細胞で生存細胞数の20−30%の減少が観察されたことは、配列の非特異性の程度を反映しているものと考えられるが、これは多分細胞へのオリゴマーの送出を容易にするためにカチオン脂質を使用したことに関係するものであろう。
【0073】
C.ヒトbcl−2タンパクをコードする発現プラスミドを有する形質移入細胞の化学療法剤に対する感受性に対する効果
化学療法抗ガン剤に対する感受性を高めるためのbcl−2ASオリゴマーの配列特異性を更に確認するため、ヒトbcl−2タンパクまたはbcl−2と22%しか相同性を有しないbcl−2のウイルスホモローグであるBHRF−1のいずれかをコードする発現プラスミドを安定的に移入させたインターロイキン−3(IL−3)依存のマウス造血細胞株32D.C13を用いた研究を行った。32D.C13細胞はペンシルバニア州フィラデルフィアのウィスター研究所のジョバンニ・ロベラ(Giovanni Rovera )博士から入手した。
【0074】
32D細胞のオリゴマー/カチオン脂質複合体による処理は、50単位/mLのマウスリコンビナートIL−3(rlL−3)をHL−1培地に含有させ、初期細胞濃度を105/mLとし、また、細胞をオリゴマーに暴露してから30分後に複製欠陥アデノウイルスdl312(MOI=200)を加え、DNAのエンドソームからの脱離を容易にしたことを除けば上記と同じであった[ヨシムラ Kら、J.Biol.Chem.268、2300、(1993)]。
【0075】
ヒトp26−Bcl−2またはEBV p−19−BHRF−1(タカヤマSらより提供)をコードする発現プラスミドを安定的に移入させた32D細胞を:IL−3とPO/PSオリゴマーを含む培地(105/mL)中で3日間培養し、ヒトBcl−2タンパクレベルを減少させた。その後、本細胞をオリゴマーのみ(C)で、または各種濃度のMTXと組み合わせて再処理し、2日後にMTTアッセイにより相対生存可能細胞数を調べた。データは三重決定をするための平均+/−標準偏差を表し、MTXを受け取らなかった細胞に対する相対%で表している。10-6〜10-4MのMTXについてのデータの統計解析は、変数の二方向解析法(フィニー(Finney)、D.J.「生物アッセイにおける統計手法」、p.72,1978(第3版、Charles Griffin&Co.,London)によって行った。比較結果を色素排除試験により得た[図示なし]。
【0076】
32D−BCL−2細胞内のヒトbcl−2構成体に由来するRNAが、bcl−2ASオリゴマーの標的であった。一方、BHRF−1発現プラスミドに由来するRNAは標的ではない。従って、BHRF−1を発現する32D.C13細胞の細胞毒性薬剤に対する化学的感受性は、AS処理の影響は受けていないはずである。
予備実験によれば、IL−3を32D.C13細胞から離脱させると、内因性マウスbcl−2タンパクのレベルが減少し、細胞は死枯した。bcl−2とBHRF−1は、IL−3が存在しない状態で32D.C13細胞の生存を同程度にサポートした。これらタンパクを高レベルで含む32D.C13細胞の増殖率は、IL−3の存在下においてはほぼ同じであった。従って、これらの変数を化学的感受性の差異を説明するものとして除外している。
【0077】
図13および図14は各種濃度のMTXに対する32D−BCL−2と32D−BHRF−1細胞の感受性を比較している。bcl−2 AS−オリゴマーによる処理の結果、濃度が10-6〜10-4M(AS対SCの場合P0.001)のMTXによる阻害に対する32D−BCL−2細胞の感受性について配列特異的な増加がみられた。これに対し、bcl−2 ASオリゴマーによる処理は、コントロールSC−オリゴマー(図13および図14)に比べ、32D−BHRF−1細胞のMTXに対する感受性については著しい差異はもたらさなかった。これらのデータは細胞毒性薬剤に対する化学的感受性へのbcl−2 ASオリゴマーの効果は配列特異的であることを示している。更に、bcl−2センス、ASと同じヌクレオシド組成を有するその他の混合配列(scrambled sequences)、および全く無関係な配列を有するオリゴマーを含むその他のいくつかの対照オリゴマーは、全て本細胞の化学感受性にはほとんど効果を有しなかった(図示なし)。
【0078】
上記の結果は、bcl−2 ASオリゴマーが配列特異的なbcl−2mRNAとbcl−2タンパクレベルの減少をもたらし、またこれらの結果は抗ガン剤などの化学療法剤に対する感受性の向上に関連していることを示したものである。化学療法剤により死滅させられた腫瘍細胞の量は、本発明のbcl−2ASオリゴマー不在下での同じ量の化学療法剤により死滅させられた腫瘍細胞の量よりも多かった。
【0079】
D.ヒトbcl−2タンパクをコードする発現プラスミドを有する形質移入細胞の化学療法剤に対するリンパ腫細胞の感受性に対する効果
別の方法を用いて、他のトランスローケーションt(14;18)含有リンパ腫株であるRS11846中の重金属応答性ヒトメタロイオネインIIAプロモーターを使用した誘発性bcl−2 AS発現プラスミドが、bcl−2遺伝子発現 をASの媒介によって減少させ得るかどうかを調べた。RS11846はカーロ・クロース(Carlo Croce )博士から入手した(ペンシルバニア州フィラデデルフィアのウィスター研究所(ツジモトとクロース、Proc.Natil.Acad.Sci.USA、83:5214(1986))。
【0080】
発現プラスミドの調製は、0.91kbpのbcl−2 cDNA(前記中に)を、プラスミドpMEP−4(Invitrogen, Inc.)中のヒトメタロイオネイン−IIAプロモーターの下流側のHindIII部位にアンチセンス(AS)またはセンス(S)配向でサブクローニングした。プラスミドpMEP−4は、コピーエピソームを高く維持するために、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、EBNA−1遺伝子、エプスタイン−バールウイルスからのDNA複製の源を含む。
【0081】
30μgのプラスミドDNAを含むダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水中のRS11846細胞(5×106)を、エクイビオ社(Equi Bio, Inc.)のセルジェクト・エレクトロ ポーレーション装置を用いて電気穿孔(1500μF、270v/cm)した。細胞は通常の培養培地(10%胎仔ウシ血清、1mML−グルタミン、50単位/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシン添加RPM I−L 1640)に1mLあたり2×105細胞数で戻し、2日間培養し、200μg/mLのハイグロマイシンを含む培地に1mLあたり2×105細胞数で細胞を播種した。3週間の培養後、得られた細胞株のバルクを、濃度が1mg/mLに到達するまで(およそ4週間)200μg/mLづつハイグロマイシンの濃度を連続的に増加させながら継代培養した。
【0082】
ハイグロマイシン抵抗性RS11846細胞を、0.5μMのCdCl2を含むRPMI/10%血清培地で培養し、3日後に25μgタンパク/レーンを用いて免疫ブロットアッセイを行った。基本的にはタナカ SらのJ.Biol.Chem.268、10920(1993年)およびリード(Reed)らのCancer Res.51:6529(1991年)に記載の方法に従った。
【0083】
図15〜図18に示すように、コントロール(“C”)およびbcl−2−As(“As”)プラスミドをRS11846細胞に導入し、各種時間かけて0.5μMのCdCl2または50μMのZnCl2のいずれかを用いて発現を誘発した。追加コントロールとして、bcl−2 cDNAをセンス(“S”)配向した誘発性 プラスミドを含むRS11846細胞についても分析した。RS11846細胞を3日かけて誘発し、タナカらによるJ.Biol.Chem.268:10920(1993)に記載の免疫ブロットアッセイにより、Bc1−2およびF1−β−ATPaseタンパクの相対レベルを評価した。図15において、RS11846細胞を105細胞/mLで0.5μMのCdCl2を含む培地で培養し、1日後に10-7MのAra−Cまたは同等容量の希釈液を加えた。相対生存可能細胞数を各種時点においてMTTアッセイにより評価し、三重のサンプルについて平均+/−S.D.を計算した。図16〜18においては、RS11846細胞は各種濃度のAra−C、MTX、またはDEXを加える以外は図15と同様に培養した。データは三重サンプルについての平均+/−S.D.を表す。変数の二方向解析により統計計算を行った。RS11846細胞はグルココルチコイド・レセプターを失っているので、ここではDEXは陰性コントロールとして働いた。
【0084】
予備実験の結果、RS11846細胞は0.5μMまでのCdCl2またはZnCl2が培養に添加されても1週間耐えることが示され。成長速度に多少の低下がみられたが、本質的には細胞生存率は減少しなかった(結果は略)。
【0085】
重金属誘発がない場合には、コントロールまたはbcl−2 ASプラスミドを含むRS11846細胞におけるbcl−2タンパクの相対レベルは似通っており、免疫ブロットアッセイ結果(結果は略)の示すとおりであった。0.5μMのCdCl2またはZnCl2を加えた場合、bcl−2タンパクの減少がAS−発現細胞において2日で明白となり、コントロールRS11846細胞に対して30−40%の最大抑制が3日〜4日で得られた。
【0086】
図15は0.5mMのCdCl2に暴露してから3日後のRS11846細胞に関する免疫ブロットデータの一例を示す。このデータによれば、対照プラスミドを有するRS11846細胞に比べ、AS−プラスミドを含む細胞におけるbcl−2タンパクのレベルは減少している。コントロールのミトコンドリア・タンパクF1−β−ATpaseの相対レベルは、全ての細胞株において類似し、bcl−2タンパクレベルの配列特異的変化と一致した。
コントロールまたはbcl−2−Asプラスミドのいずれかを含むRS11846細胞を、0.5μMのCdCl2または50μMのZnCl2内で各種時間培養した場合、これら2つの細胞株の成長速度には著しい差はみられなかった(図11(b))。従って、Bcl−2タンパクレベルのAS介在による減少は、それ自身ではRS11846細胞の増殖または生存を損なうことはなかった。
【0087】
コントロールRS11846細胞の培養物に低量のAra−C(10-7M)を加えた場合、正味生存可能細胞数に若干の減少がみられただけであった。これは、これらt(14;18)含有リンパ腫細胞中の高レベルBcl−2タンパクによるもとの思われる。これに対し、10-7M Ara−Cをbcl−2−AS発現RS11846細胞の培養物に加えると著しい抑制効果があった(図11(b))。しかし、Ara−Cは、対照プラスミドを含むRS11846細胞と同じ条件下で直接比較した場合(結果は略)、MTプロモーターの重金属誘発不在下では、bcl−2AS発現RS11846細胞に対する効果を示さなかった。図12は、bcl−2−AS発現RS11846細胞で観察されたAra−Cに対する高感受性が、広い範囲の薬剤濃度にわたって(P<0.001)いたことを示している。bcl−2−AS発現プラスミドの重金属誘発もまた、RS11846リンパ腫細胞のMTX(P<0.001)に対する相対感受性を著しく増加させたが、DEXに対する相対感受性を増加させることはなかった。グルココルチコイド・レセプター結合アッセイの結果、RS11846細胞はこれらステロイドホルモンのレセプターを失っており[結果は略]、このようにして、bcl−2タンパクレベルの、AS介在による減少だけではこれらリンパ腫細胞の成長あるいは生存を妨げるには不十分であることを示す特異性の制御を提供している。
【0088】
本発明は、bcl−2タンパクの相対レベルの平均30〜40%の減少が、リンパ腫細胞の感受性、特に従来の抗ガン剤などの化学療法剤に対するt(14;18)含有リンパ腫細胞株の感受性を著しく高めたことを、複数のアンチコード手法を用いて示した。これら実施例は請求の範囲に記載したアンチコードオリゴマーを腫瘍細胞に導入すると、bcl−2発現の減少をもたらし、新生物細胞の化学療法剤または抗ガン剤に対する化学的感受性を増大させることを示した。
【0089】
従って、本発明は抗ガン剤を含む化学療法剤と腫瘍細胞を接触させる前にbcl−2遺伝子発現を減少させる、またはBcl−2タンパク機能を損なわせるアンチコードオリゴマーを腫瘍細胞に導入することにより腫瘍細胞を死滅させる方法を達成した。従来の抗ガン剤は生存可能な悪性細胞数を減少させ、また死滅させた腫瘍細胞の量は、アンチコードオリゴマーを腫瘍細胞に導入しない状態で同量の薬剤により死滅させられたであろう量よりも多かった。以上、本発明の実施例を開示したが、本開示は説明のためのものであり、その他各種変更、改造等を本発明の範囲内で行ってもよいことは当業者には明白である。従って、本発明はここに説明した特定の実施例に限定されるものではなく、以下の請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】各種濃度のアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(TI−SおよびTI−AS:(a)、SD−SおよびSD−AS:(b))が細胞増殖阻害に及ばす影響を示すグラフである。
【図2】各種濃度のアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(TI−SおよびTI−AS:(a)、SD−SおよびSD−AS:(b))が細胞増殖阻害に及ばす影響を示すグラフである。
【図3】アンチセンス正常オリゴデオキシヌクレオチドおよびフォスフォロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドによる細胞増殖阻害の濃度依存性を示すグラフである。培養物に対するオリゴデオキシヌクレオチド添加は次の通りである:TI−ASフォスフォロチオエート(○および○;2つの別個の実験)、TI−Sフォスフォロチオエート(△)、TI−AS正常(□)、およびTI−S正常(△)。
【図4】bcl−2 mRNAの翻訳開始部位を標的とした6つのアンチセンスオリゴヌクレオチド(Oligo 1〜6は、配列番号8〜13に対応する)のゲル電気泳動像である。
【図5】RS11846細胞のオリゴヌクレオチド処置によってもたらされたDNAの断片化の程度を示す。(a)は翻訳開始部位を標的としたオリゴヌクレオチドの効果を示す。(b)はbcl−2 mRNAの5'−キャップ領域を標的としたオリゴヌクレオチドの効果を示す((b)中の数値は、用いたオリゴマーの翻訳開始コドンから非翻訳領域への距離(塩基数)を示す)。
【図6】bcl−2 mRNAの翻訳開始領域を標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチドによる阻害の濃度依存性を示すグラフである。
【図7】オリゴヌクレオチドで処理した細胞中のbcl−2タンパクレベルを免疫蛍光法で分析した結果を示すグラフである。
【図8】bcl−2 mRNAの翻訳開始領域を標的としたアンチセンスオリゴヌクレオチドによる阻害の濃度依存性を示すグラフである。
【図9】(a)および(b)は、bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチドでの処理の前後における、697細胞のFACS像である。
【図10】(a)および(b)は、bcl−2アンチセンスオリゴヌクレオチドでの処理の前後における、697細胞のFACS像である。
【図11】bcl−2 mRNAおよびbcl−2タンパクを配列特異的に減少させかつ癌化学療法剤に対するSU−DHL−4細胞の感受性を増大させるbcl−2アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを示す。
【図12】bcl−2 mRNAおよびbcl−2タンパクを配列特異的に減少させかつ癌化学療法剤に対するSU−DHL−4細胞の感受性を増大させるbcl−2アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドを示す。
【図13】bcl−2アンチセンスオリゴマーが32D−bcl−2細胞の化学的感受性に及ぼす効果の差異を示す。
【図14】bcl−2アンチセンスオリゴマーが32D−BHRF−1細胞の化学的感受性に及ぼす効果の差異を示す。
【図15】発現プラスミドから誘導可能なbcl−2アンチセンス発現によってもたらされたRS11846細胞の化学的抵抗性の低下を示す。
【図16】発現プラスミドから誘導可能なbcl−2アンチセンス発現によってもたらされたRS11846細胞の化学的抵抗性の低下を示す。
【図17】発現プラスミドから誘導可能なbcl−2アンチセンス発現によってもたらされたRS11846細胞の化学的抵抗性の低下を示す。
【図18】発現プラスミドから誘導可能なbcl−2アンチセンス発現によってもたらされたRS11846細胞の化学的抵抗性の低下を示す。
【図19】DOHH2リンパ腫細胞を死滅させるメチルフォスフォネート/リン酸ジエステルbcl−2アンチセンスオリゴマーを示す。
【図20】MCF−7ヒト乳癌細胞の成長を阻害するメチルフォスフォネート(MP)/リン酸ジエステル(PO)キメラオリゴマーを示す。
【図21】アンチセンスbcl−2オリゴマー配列の最適化を示す。
【図22】アンチセンスbcl−2オリゴマー配列の最適化を示す。
【図23】アンチセンスbcl−2オリゴマー配列の最適化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列TCTCCCAGCGTGCGCCAT(配列番号17、当該配列中の少なくとも1個のヌクレオシド間結合がフォスフォロチオエート結合である)を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドからなるアンチコードオリゴマー;(ii)1又は2以上の癌化学療法剤;および(iii)医薬として許容される担体、を含有することを特徴とする、bcl−2タンパクを高レベルで発現している癌治療用医薬組成物。
【請求項2】
各内部ヌクレオチドフォスフェート結合中の非ブリッジ酸素の一つがイオウ原子に置換しているものである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
アンチコードオリゴマーが、フォスフォジエステル/フォスフォロチオエートのキメラである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
フォスフォジエステル/フォスフォロチオエートのキメラが、少なくとも2個のフォスフォロチオエート結合を有するものである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
フォスフォジエステル/フォスフォロチオエートのキメラが、少なくとも3個のフォスフォロチオエート結合を有するものである請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
癌が、非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ性白血病、プレB−細胞型のリンパ性白血病、神経芽細胞腫、鼻咽頭カルチノーマ、前立腺アデノカルチノーマ、胸部アデノカルチノーマ、又は大腸アデノカルチノーマである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
癌がリンパ腫、又は白血病である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
癌が前立腺、胸部、消化管、または大腸のアデノカルチノーマである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
ヒト用である請求項1〜8のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
アンチコードオリゴマーが、全てのヌクレオシド間結合がフォスフォロチオエート結合であることで特徴づけられる、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
医薬として許容される担体がカチオン性脂質であることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項12】
アンチコードオリゴマーがリポソームに包まれていることを特徴とする、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項13】
癌化学療法剤がデカルバジン、パクリタキセル、エトポシド、2−クロロデオキシアデノシン、デキサメタゾン、mAMSA、ヘキサメチルメラミン及びミトロキサントロンから選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
癌化学療法剤が代謝拮抗物質、アルキル化剤、植物アルカロイド及び抗生物質から選択される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項15】
代謝拮抗物質がメトトレキサート、5−フルオロウラシル、6−メルカプトプリン、シトシンアラビノシド、ヒドロキシ尿素及び2−クロロデオキシアデノシンから選択される、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
アルキル化剤がシクロホスファミド、メルファラン、ブスルファン、シスプラチン、パラプラチン、クロルアンブシル及びナイトロジェンマスタードから選択される、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項17】
植物アルカロイドがビンクリスチン、ビンブラスチン及びVP−16から選択される、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項18】
抗生物質がドキソルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシンC及びブレオマイシンから選択される、請求項14記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−29812(P2009−29812A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194344(P2008−194344)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【分割の表示】特願2006−111545(P2006−111545)の分割
【原出願日】平成6年9月20日(1994.9.20)
【出願人】(502178687)
【Fターム(参考)】