説明

ろう材およびこれを用いた回路基板ならびに電子装置

【課題】 接合部における不要なはみ出しを少なくできるとともに、活性金属の酸化による接合強度低下の少ないろう材を提供する。また、このろう材を用いることにより、隣り合う回路部材の間隔が狭くなっても短絡のおそれが少なく、高集積化に対応することができ、回路部材および放熱部材と支持基板との接合強度の高い回路基板を提供する。さらに、この回路基板における回路部材上に電子部品を搭載した電子装置を提供する
【解決手段】 主成分として銀および銅を含むとともに、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物と、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含むろう材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基板の一方の主面に回路部材を、他方の主面に放熱部材を接合する際に用いられるろう材に関するものである。また、セラミックス基板に、このろう材からなる接合層を介して回路部材および放熱部材が接合された回路基板およびこの回路基板の回路部材上に電子部品が搭載された電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT)素子,インテリジェント・パワー・モジュール(IPM)素子,金属酸化膜形電界効果トランジスタ(MOSFET)素子,発光ダイオード(LED)素子,フリーホイーリングダイオード(FWD)素子,ジャイアント・トランジスター(GTR)素子等の半導体素子,昇華型サーマルプリンターヘッド素子,サーマルインクジェットプリンターヘッド素子等の各種電子部品が回路基板の回路部材上に搭載された電子装置が用いられている。
【0003】
そして、電子部品を搭載する回路部材を設けてなる回路基板としては、セラミックス基板の一方の主面に回路部材として銅板を接合し、他方の主面に放熱性の良好な放熱部材として銅板を接合してなる回路基板が用いられており、セラミックス基板と、回路部材および放熱部材との接合にはろう材が用いられている。
【0004】
そのため、セラミックス基板に回路部材および放熱部材を接合する際に用いられるろう材には高い接合強度が求められ、このろう材を用いて回路部材および放熱部材が接合された回路基板には、放熱特性に優れ長期間の使用に耐え得る高い信頼性が求められている。
【0005】
このような回路基板として、例えば特許文献1には、カーボン粉末と、Ti,Zr,HfおよびNbから選択される少なくとも1種の活性金属とを含有する銀−銅系ろう材層を介して、セラミックス基板に金属回路板を接合して成るセラミックス回路基板が提案されている。また、銀−銅系ろう材層は、さらにIn,Zn,CdおよびSnから選択される少なくとも1種の元素を含有することにより、ろう材の融点を低下させて金属回路板の接合温度を低下させられることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、流動性がよく、接合強度も高い上に、耐食性が良好なろう材として、Zn20〜40wt%,Ag10〜15wt%,P0.005〜0.07wt%,Sn0.1〜1wt%,Al0.1〜1wt%,さらに副成分として、Fe,Pb,Cr,Co,Ni,Ti,Z
r,Hf,Sb,Bi,In,B,Mo,Si,Mg,Beのうち1種または2種以上含み、残部が銅および不可避的不純物からなる銅基ろう接合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−283656号公報
【特許文献2】特開昭63−93496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、高集積化の進展によって、セラミックス基板上に配置する複数の回路部材の間隔は狭くなってきている。そのため、セラミックス基板上に配置する複数の回路部材の接合に用いられるろう材には、複数の回路部材のそれぞれの接合部からはみ出しにくく、はみ出したろう材同士が接することによって短絡するおそれが少ないことが求められている。
【0009】
また、ろう材に含まれる活性金属は、酸化されやすいものであるため、酸化によって接合強度が低下するおそれを少なくしなければならないという課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決すべく案出されたものであり、接合部における不要なはみ出しを少なくできるとともに、活性金属の酸化による接合強度低下の少ないろう材を提供することを目的とするものである。また、このろう材を用いることにより、隣り合う回路部材の間隔が狭くなっても短絡のおそれが少なく、高集積化に対応することができ、回路部材および放熱部材と支持基板との接合強度の高い回路基板を提供することを目的とするものである。さらに、この回路基板における回路部材上に電子部品を搭載した電子装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のろう材は、主成分として銀および銅を含むとともに、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物と、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含むことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の回路基板は、絶縁性の支持基板の第1主面側に銅を含む回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなる回路基板であって、前記回路部材は、前記支持基板の前記第1主面上に複数個並べて配置されて、上記構成のろう材からなる接合層を介して前記支持基板と接合されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の電子装置は、上記構成の回路基板における前記回路部材上に電子部品を搭載したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のろう材によれば、主成分として銀および銅を含むとともに、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物と、モリブデン,オスミウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含むことにより、ろう材の流れ性が良好であるとともに被接合部材との濡れ性が良好であることから、被接合部材間に生じる空隙を減少させることができるので、高い接合強度を得ることができる。また、元素Bが水素化合物からなることにより、元素Bの金属粉末よりも酸化しにくいので、酸化によって接合強度が低下するおそれを少なくすることができる。さらに、融点が高く粘性が低くなり過ぎるのを抑えることのできる元素Cを含むことにより、接合部における不要なはみ出しを少なくできるので、はみ出したろう材が接することによる短絡のおそれを少なくできる。
【0015】
また、本発明の回路基板によれば、絶縁性の支持基板の第1主面側に銅を含む回路部材を、第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなる回路基板であって、回路部材は支持基板の第1主面上に複数個並べて配置されて、本発明のろう材からなる接合層を介して支持基板と接合されていることにより、接合部における不要なはみ出しが少なく、隣り合う回路部材間の短絡のおそれを少なくできるので、高集積化に対応可能な回路基板とすることができる。また、支持基板と回路部材および放熱部材との間に生じる空隙が少なく高い接合強度を有しているので、信頼性の高い回路基板とすることができる。
【0016】
また、本発明の電子装置によれば、本発明の回路基板における回路部材上に電子部品を
搭載したことにより、隣り合う回路部材間の短絡がほとんど発生しなくなるので、信頼性の高い電子装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の回路基板の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【図2】本実施形態の回路基板の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のB−B’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【図3】本実施形態の回路基板のさらに他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のC−C’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【図4】本実施形態の回路基板のさらに他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のD−D’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態のろう材およびこれを用いた回路基板ならびに電子装置の例について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の回路基板の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面図であり、(c)は底面図である。
【0020】
図1に示す例の回路基板10は、絶縁性の支持基板21の第1主面21aに銅を含む回路部材41(41a,41b)を、第2主面21bに放熱部材42をそれぞれ設けてなる回路基板10であって、回路基板10にそれぞれ設けてなる回路部材41および放熱部材42は、ろう材からなる接合層31a,31b,32を介して支持基板21と接合されている。
【0021】
そして、本実施形態において、支持基板21と回路部材41および放熱部材42との接合に用いられるろう材が、主成分として銀および銅を含むとともに、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物と、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含んでなる。
【0022】
また、接合層31a,31b,32となるろう材における主成分は、銀および銅からなり、ここで主成分とは、ろう材を構成する全成分100質量%のうち、合算で50質量%以上を占め
る成分をいう。
【0023】
そして、ろう材に含まれる、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種である元素Aは、融点が低く溶融しやすいため、ろう材の流れ性が良好となることから、ろう材からなるそれぞれの接合層31a,31b,32と支持基板21,回路部材41または放熱部材42との間に生じる空隙(ろう材が追従できずに残る隙間)を少なくできる。この空隙については、その有無を超音波探傷法により確認することができる。
【0024】
また、ろう材に含まれる、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種である元素Bの水素化合物は、支持基板21,回路部材41および放熱部材42との濡れ性が良好であり、元素Aを含むことによる、流れ性が良好であり空隙を少なくできる効果と相まって、支持基板21と回路部材41および放熱部材42との接合強度を高くすることができる。そして、元素Bの水素化合物は、元素Bの金属粉末よりも酸化しにくいという特徴を有しているので、酸化によって接合強度が低下するおそれを少なくすることができる。この接合強度については、JIS C 6481−1996に準拠して引きはがし強さを測定することにより確認することができる。元素Bの水素化合物は、例えば、組成式がそれぞれTiH,ZrH,HfH,NbHとして示される水素化チタン,水素
化ジルコニウム,水素化ハフニウム,水素化ニオブである。
【0025】
また、ろう材に含まれる、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種である元素Cは、融点が高く溶融しにくいため、ろう材の粘性が低くなり過ぎるのを抑えて接合部における接合層31a,31bの不要なはみ出しを少なくできる。なお、本実施形態において、回路部材41a,41bの各側面より接合層31a,31bが0.2mmを超えてはみ出していることを、不要なはみ出しという。この接合層31a,31
bのはみ出している長さについては、光学顕微鏡で測定することができる。
【0026】
そして、このろう材は、主成分として銀および銅を含むとともに、上述の特徴を有する元素A,BおよびCを含むことにより、ろう材の流れ性が良好であるとともに、支持基板21と回路部材41および放熱部材42との濡れ性が良好であることから、支持基板21と回路部材41および放熱部材42との間に生じる空隙を減少させることができるので、高い接合強度を得ることができる。また、元素Bが水素化合物からなることにより、元素Bの金属粉末よりも酸化しにくいので、支持基板21と回路部材41および放熱部材42との接合強度が酸化によって低下するおそれを少なくすることができる。さらに、融点が高く粘性が低くなり過ぎるのを抑えることのできる元素Cを含むことにより、接合部における不要なはみ出しを少なくできるので、はみ出したろう材が接することによる短絡のおそれを少なくできる。
【0027】
また、上述の特徴を得ることのできる元素A,BおよびCの好ましい含有量としては、ろう材を構成する全成分100質量%のうち、元素Aの含有量が2質量%以上22質量%以下
であり、元素Bの含有量が1質量%以上8質量%以下であり、元素Cの含有量が1質量%以下8質量%以下であることが好適である。そして、残部が主成分である銀および銅となる。
【0028】
また、ろう材における銅の含有量は、35質量%以上50質量%以下であることが好適である。銅の含有量が上記範囲であることにより、ろう材の流れ性を良好にすることができるとともに、銀および銅をそれぞれ単独で用いる場合よりも低い温度で支持基板21と回路部材41および放熱部材42とを空隙の少ない状態で良好に接合することができる。なお、ろう材を構成する各元素の同定および含有量については、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により求めればよい。
【0029】
そして、図1に示す例の回路基板10は、絶縁性の支持基板21の第1主面21aに銅を含む回路部材41a,41bを、第1主面21aに対向する第2主面21bに放熱部材42をそれぞれ設けてなる回路基板10であって、回路部材41a,41bは、支持基板21の第1主面21aに複数個並べて配置されて、上記いずれかの構成の本実施形態のろう材からなるそれぞれの接合層31a,31bを介して支持基板21と接合されていることを特徴とするものである。
【0030】
この回路基板10は、回路部材41a,41bが本実施形態のろう材からなる接合層31a,31bを介して支持基板21と接合されていることにより、接合部における不要なはみ出しが少なく、隣り合う回路部材41a,41b間の短絡のおそれを少なくできるので、高集積化に対応可能な回路基板10とすることができる。また、支持基板21と回路部材41a,41bとの間に生じる空隙が少なく高い接合強度を有しているので、信頼性の高い回路基板10とすることができる。
【0031】
また、接合層31,32における元素Cの平均結晶粒径が3μm以上10μm以下であることが好適である。接合層31,32における元素Cは、平均結晶粒径が3μm以上10μm以下であるときには、接合部における不要なはみ出しをさらに少なくできるので、隣り合う回路部材41間の短絡のおそれをさらに少なくできる。また、支持基板21と回路部材41との間に
生じる空隙が十分抑制されるので、さらに高い接合強度を得ることができる。
【0032】
なお、接合層31,32における元素Cの平均結晶粒径は、以下のようにして求めればよい。それぞれ50質量%の過酸化水素水および希硫酸が混合された溶液の温度を40℃とし、この溶液に接合層31,32を1分間浸漬して、エッチングした後、電子針微小部分析装置(Electron Probe Micro Analysis)を用いて元素Cを同定し、JIS H 0501−1986(I
SO 2624−1973)に記載されている切断法に準拠して元素Cの平均結晶粒径を求めればよい。そして、接合層31,32における元素Cの平均結晶粒径が3μm以上10μm以下とすうには、ろう材における元素Cの平均粒径を3μm以上10μm以下とすればよい。
【0033】
また、接合層31,32を構成する全成分100質量%のうち、酸素の含有量が2質量%以下
であることが好適である。酸素の含有量が上記範囲であることにより、ろう材を構成する各元素の酸化が抑制されているので、回路部材41および放熱部材42と支持基板21との接合強度が低下するおそれを少なくできる。なお、接合層31,32に含まれる酸素の含有量は、赤外線吸収法により求めればよい。そして、接合層31,32を構成する全成分100質量%の
うち、酸素の含有量を2質量%以下とするには、接合層31,32となるろう材を構成する元素Bが水素化合物からなることによるろう材の酸化抑制と、接合時の熱処理の雰囲気を真空雰囲気とすればよい。
【0034】
また、接合層31,32を構成する全成分100質量%のうち、炭素の含有量が0.05質量%以
下であることが好適である。接合層31,32の炭素の含有量が0.05質量%以下であるときには、元素Bと炭素と化合して生じる、クラックの起点となりやすい炭化物の含有量が制限されるので、接合層31,32にクラックが発生しにくくなる。なお、接合層31,32に含まれる炭素の含有量は、赤外線吸収法により求めればよい。そして、接合層31,32を構成する全成分100質量%のうち、炭素の含有量を0.05質量%以下とするには、接合時の熱処理を
、真空雰囲気中において、800℃以上900℃以下の範囲で加熱する前に、窒素雰囲気中において、350℃以上500℃以下の範囲で加熱すればよい。
【0035】
次に、回路基板10を構成する支持基板21は、回路部材41a,41bや放熱部材42を接合可能な大きさを有するものであり、厚みは用途によって異なるが、熱抵抗を抑制し、耐久性を維持するには、厚みは0.13mm以上0.64mm以下とすることが好適である。
【0036】
また、支持基板21の第1主面21aおよび第2主面21bには直径が0.15mm以上のピンホール状の欠陥がないことが好適である。直径が0.15mm以上のピンホール状の欠陥がなければ、支持基板21の第1主面21aおよび第2主面21bに水分が吸着しにくいので、回路基板10を湿度の高い環境で用いることができる。
【0037】
また、支持基板21は、窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなることが好適である。このセラミックスは焼結体または単結晶のいずれでもよい。
【0038】
なお、ここでいう主成分とは、セラミックスを構成する全成分100質量%のうち、50質
量%以上を占める成分をいう。この主成分の同定については、X線回折法を用い、主成分の含有量については蛍光X線分析法またはICP発光分光分析法により求めればよい。具体的な主成分の含有量の求め方については、支持基板21の主成分が窒化珪素であるときには、蛍光X線分析法またはICP発光分光分析法で珪素の含有量を求め、窒化物に換算すれば窒化珪素の含有量を求めることができる。また、支持基板21の主成分が窒化アルミニウムであるときには、上記と同様の方法でアルミニウムの含有量を求め、窒化物に換算すれば窒化アルミニウムの含有量を求めることができる。
【0039】
そして、支持基板21が窒化珪素を主成分とするセラミックスからなるときには、40W/
(m・K)以上の熱伝導率を有しているとともに、3点曲げ強度が500MPa以上、動的弾性率が300GPa以上、ビッカース硬度(Hv)が13GPa以上、さらに破壊靱性(K
)が5MPam1/2以上の優れた機械的特性を有しているため、回路基板10を構成した際、特に耐クリープ性やヒートサイクルに対する耐久性が向上し、信頼性に優れているので長期間にわたって使用することができる回路基板10となる。
【0040】
ここで、機械的特性については、回路基板10にエッチング等の処理を施し、回路部材41,放熱部材42および接合層31,32を取り除いた支持基板21を用いて行なう。まず、3点曲げ強度については、JIS R 1601−2008(ISO 14704:2000(MOD))に準拠して測定すればよい。なお、支持基板21の厚みが薄く、支持基板21から切り出した試験片の厚みを3mmとすることができないときには、支持基板21の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価するものとし、その結果が上記数値を満足することが好ましい。
【0041】
また、動的弾性率については、JIS R 1602−1995で規定される超音波パルス法に準拠して測定すればよい。なお、支持基板21の厚みが薄く、支持基板21から切り出した試験片の厚みを4mmとすることができないときには、支持基板21の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価するものとし、その結果が上記数値を満足することが好ましい。
【0042】
ビッカース硬度(Hv)および破壊靱性(K1C)については、それぞれJIS R 1610−2003(ISO 14705:2000(MOD)),JIS R 1607−1995で規定される
圧子圧入法(IF法)に準拠して測定すればよい。なお、支持基板21の厚みが薄く、支持基板21から切り出した試験片の厚みをそれぞれJIS R 1610−2003(ISO 14705
:2000(MOD)),JIS R 1607−1995 圧子圧入法(IF法)で規定する0.5m
m,3mmとすることができないときには、支持基板21の厚みをそのまま試験片の厚みとして評価して、その結果が上記数値を満足することが好ましい。
【0043】
ただし、そのままの厚みで評価して上記数値を満足することができないほどに支持基板21の厚みが薄いときには、試験片寸法や得られた測定値から計算式により各機械的特性値を求めればよい。
【0044】
なお、上記機械的特性を得るには、主成分である窒化珪素を少なくとも80質量%以上含有していることが好適で、その他の添加成分として、酸化エルビウム,酸化マグネシウム,酸化珪素,酸化モリブデンおよび酸化アルミニウム等が含まれていてもよい。
【0045】
また、支持基板21が窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなるときには、熱伝導率が150W/(m・K)以上であるため、回路基板10の放熱特性を高くすることが
できる。
【0046】
また、支持基板21の電気的特性は、体積固有抵抗が常温で1012Ω・m以上かつ300℃
で1010Ω・m以上であることが好ましい。支持基板21がこれらの電気的特性を有していることにより、支持基板21の第1主面21aに設けられる回路部材41上に搭載される電子部品の動作時に回路部材41側から放熱部材42側への電流のリークを抑制することができるため、電力損失を発生させないとともに、電子装置の誤動作を低減することができる。
【0047】
また、回路基板10は、元素Bが支持基板21の第1主面21a近傍の金属元素と化学結合していることが好適であり、元素Bと支持基板21の第1主面21a近傍の金属元素との化学結合は高い共有結合性を有するので、回路部材41と支持基板21との接合強度を高くすることができる。
【0048】
ここで、支持基板21の第1主面21a近傍とは、支持基板21の主面21aの表面から20μm
までの深さの範囲をいう。そして、例えば元素Bがチタンであって、支持基板21が窒化珪素を主成分とするセラミックスからなるときには、化学結合した化合物は、TiSi(但し、xは1以上3以下である。)およびTiSi等である。この元素Bが支持基板21の第1主面21a近傍の金属元素と化学結合している状態については、X線回折法を用いて同定することができる。
【0049】
また、回路基板10を構成する回路部材41a,41bは、回路基板10における回路部材41a
,41b上に搭載される電子部品(図示しない)の形状等によって回路部材41a,41bの形状が決められ、電子部品の発熱量や回路部材41a,41bを流れる電流の大きさ等に対応できることが要求される。この要求に応えられる厚みとしては、例えば、0.2mm以上0.6mm以下である。
【0050】
また、回路基板10を構成する放熱部材42は、発熱した電子部品からの熱を逃がすという機能を有するものであり、支持基板21の厚みが0.13mm以上0.64mm以下であり、回路部材41a,41bの厚みが0.2mm以上0.6mm以下であるとき、放熱部材42の厚みは、例えば、0.2mm以上0.6mm以下である。また、接合層31a,31b,32の厚みは、例えば10μm以上20μm以下である。
【0051】
また、回路基板10を構成する回路部材41および放熱部材42は、熱伝導性の高い金属である銅を主成分とすることが好適である。なお、ここでいう主成分とは、それぞれ回路部材41および放熱部材42を構成する全成分100質量%のうち、50質量%以上を占める成分であ
り、80質量%以上を占めるのが好ましい。
【0052】
回路部材41を主成分とする銅としては、電気抵抗が低く、熱伝導率が高いため、回路特性(電子部品の発熱を抑制し、電力損失を少なくする特性)や放熱特性に優れた銅の含有量の多い、無酸素銅,タフピッチ銅およびりん脱酸銅から選ばれる1種以上であることが好適である。特に、無酸素銅のうち、銅の含有量が99.995質量%以上である線形結晶無
酸素銅,単結晶状高純度無酸素銅および真空溶解銅のいずれかを用いることが好適である。
【0053】
このように銅の含有量の多い回路部材41を設けた回路基板10は、降伏応力が低く、高温下で塑性変形しやすくなるため、支持基板21から回路部材41が剥がれることが少なく、より信頼性の高い回路基板10となる。また、銅の含有量が多い放熱部材42を設けた回路基板10は、放熱特性のさらに高いものとなる。なお、回路部材41および放熱部材42を構成する各成分の含有量は、蛍光X線分析法またはICP発光分光分析法により求めることができる。
【0054】
また、回路部材41および放熱部材42の各体積固有抵抗は、5×10−8Ω・m以下、特に3×10−8Ω・m以下であることが望ましい。
【0055】
図2〜図4は、本実施形態の回路基板の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)はそれぞれの図2〜図4(a)のB−B’線,C−C’線およびD−D’線での断面図であり、(c)は底面図である。なお、図2〜図4において、図1と同様の部材には同じ符号を用いて示す。
【0056】
図2に示す例の回路基板10は、支持基板21の第1主面21aに複数個並べて配置される回路部材41aおよび回路部材41bを平面視したときの大きさが同等であり、第2主面21bに設けられる放熱部材42の構成は図1に示す例の回路基板10と同じである。図2に示す例のように、支持基板21の第1主面21aに大きさが同等の回路部材41aおよび回路部材41bが配置されているときには、図1に示す例の回路基板10と比較して、回路基板10の製造工程
で発生する支持基板21の反りを抑制することができる。
【0057】
また、図3に示す例の回路基板10は、支持基板21の第1主面21aに複数の回路部材41が複数行,複数列に配置されており、第2主面21bに設けられる放熱部材42は図1に示す例の回路基板10と同じである。図3に示す例のように、支持基板21の第1主面21aに大きさの等しい複数の回路部材41が複数行,複数列に配置されているときには、図1に示す例の回路基板10と比較して、回路基板10の製造工程で発生する支持基板21の反りを抑制することができる。
【0058】
さらに、図4に示す例の回路基板10は、支持基板21の第1主面21aに複数の回路部材41が複数行,複数列に配置されており、第2主面21bに複数の放熱部材42が複数行,複数列に配置されている回路基板10である。図4に示す例のように、第1主面21aおよび第2主面21bにそれぞれ大きさの等しい回路部材41および放熱部材42が複数行,複数列に配置されているときには、回路基板10の製造工程で発生する支持基板21の反りを抑制することができるとともに、支持基板21を境界とする上下の対称性がよくなるので、図3に示す例の回路基板10と比較して、それぞれの回路部材41に搭載する電子部品の発熱にばらつきが生じても、それぞれの放熱部材42で放熱することができるので、放熱部材42の剥がれにくい信頼性の高い回路基板10とすることができる。
【0059】
次に、本実施形態のろう材の製造方法の一例について説明する。
【0060】
ろう材は、主成分となる銀および銅の粉末と、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aからなる粉末と、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物からなる粉末と、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cからなる粉末とを用意する。そして、所定量秤量して混合した後、樹脂および有機溶媒を添加し、順次混練して脱気することによってペースト状のろう材を得ることができる。
【0061】
ここで、樹脂としては、例えば、アクリル樹脂,メチルセルロース,エチルセルロース,ニトロセルロース,ポリレート,ポリメタレート等を用いることができ、有機溶媒としては、例えば、テルピネオール等のアルコール,アセトン,トルエン,キシレン,ジエチレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
【0062】
あるいは、ろう材を構成する混合粉末に、無機化合物フラックスおよび有機溶媒を添加し、順次混練して脱気することによっても、ペースト状のろう材を得ることができる。このとき、無機化合物フラックスに用いる無機化合物としては、例えば、ホウ酸(HBO),ホウフッ化水素酸(HBF)等の酸、塩化リチウム(LiCl),塩化マグネシウム(MgCl)等の塩化物、フッ化ナトリウム(NaF)等のフッ化物、臭化カリウム(KBr)等の臭化物、4ホウ酸カリウム5水和物(K・5HO)等を用いることができる。
【0063】
特に、ろう材における元素A,元素Bの水素化合物および元素Cの各含有量は、元素Aの含有量が2質量%以上22質量%以下であり、元素Bの水素化合物の含有量が1質量%以上8質量%以下であり、元素Cの含有量が1質量%以下8質量%以下であることが好適であり、上記範囲の含有量とするには、本実施形態のろう材を構成する粉末100質量%のう
ち、元素Aからなる粉末,元素Bの水素化合物からなる粉末,元素Cからなる粉末の各含有量をそれぞれ2質量%以上22質量%以下、1質量%以上8質量%以下および1質量%以下8質量%以下とすればよい。
【0064】
また、ろう材における銅の含有量を35質量%以上50質量%以下とするには、ろう材を構
成する粉末100質量%のうち、銅の粉末の含有量を35質量%以上50質量%以下とすればよ
い。
【0065】
また、接合層31,32における元素Cの平均結晶粒径を3μm以上10μm以下とするには、平均粒径が3μm以上10μm以下である、元素Cからなる粉末を用いればよい。
【0066】
以上のような製造方法で得られたろう材は、流れ性が良好であるとともに、支持基板21,回路部材41および放熱部材42とろう材との濡れ性が良好であることから、支持基板21と回路部材41および放熱部材42との間に生じる空隙を減少させることができるので、高い接合強度を得ることができる。また、元素Bが水素化合物からなることにより、元素Bの金属粉末よりも酸化しにくいので、酸化によって支持基板21と回路部材41および放熱部材42との接合強度が低下するおそれを少なくすることができる。さらに、融点が高く粘性が低くなり過ぎるのを抑えることのできる元素Cを含むことにより、接合部における不要なはみ出しを少なくできるので、はみ出したろう材が接することによる短絡のおそれを少なくできる。
【0067】
次に、本実施形態の回路基板の製造方法として、図1に示す回路基板10の例について説明する。
【0068】
まず、長さが30mm以上250mm以下,幅が10mm以上200mm以下,厚みが0.13mm以上0.64mm以下の窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなる支持基板21を作製し、支持基板21を800℃以上900℃以下で熱処理することで、支持基板21の表面に付着した有機物や残留炭素を除去する。
【0069】
次に、熱処理した支持基板21の第1主面21aおよび第2主面21bに、ペースト状の本実施形態のろう材を回路部材41および放熱部材42の配置に合わせて、スクリーン印刷法,加圧印刷法および刷毛塗り法等のいずれかの方法で塗布した後、120℃以上150℃以下で乾燥させる。
【0070】
そして、支持基板21の第1主面21aに塗布して乾燥させた本実施形態のろう材の上に、銅を含む複数の回路部材41a,41bを、第2主面21bに塗布して乾燥させた本実施形態のろう材の上に、放熱部材42を配置し、真空雰囲気中において、800℃以上900℃以下の範囲で加熱することにより、回路部材41a,41bおよび放熱部材42を本実施形態のろう材からなるそれぞれの接合層31a,31b,32を介して支持基板21に接合した回路基板10を得ることができる。なお、上記熱処理を真空雰囲気で行なうことにより、接合層31a,31b,32の酸素の含有量を2質量%以下とすることができる。また、元素Bが支持基板21の第1主面21a近傍の金属元素と化学結合している回路基板10を得るには、上記温度を840℃以上900℃以下にすればよい。
【0071】
また、接合層31a,31b,32における炭素の含有量がそれぞれ0.05質量%以下である回路基板10を得るには、接合時の熱処理を、窒素雰囲気中において、350℃以上500℃以下の範囲で加熱した後、真空雰囲気中において、800℃以上900℃以下の範囲で加熱すればよい。
【0072】
また、回路部材41として、複数配置される回路部材41を覆う大きさの銅を含む金属箔を支持基板21の主面21aに本実施形態のろう材を介して接合した後に、例えば、1行2列,2行4列,3行2列,3行3列等の行列状等の区分配置に合わせて、接合された金属箔の表面にレジストを印刷し、120℃以上150℃以下でレジストを乾燥させて、硝弗硫酸,弗硝酸、塩酸または塩化第2鉄水溶液等を接合体に吹き付けることにより、金属箔の表面にレジストが印刷されていない部分を除去し、さらに水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウ
ム水溶液等のアルカリ水溶液を用いてレジストを除去することで、本実施形態の回路基板10を構成する回路部材41としてもよい。
【0073】
また、銅を含む回路部材41の酸化を抑制するため、回路部材41の表面をパラジウムを介してニッケルまたは金で被覆してもよい。さらに、放熱部材42についても、放熱部材42の表面をパラジウムを介してニッケルまたは金で被覆してもよい。
【0074】
あるいは、回路部材41および放熱部材42の各表面を化学研磨した後、2−アミノピリジン,2−アミノキノリン,2−アミノピリミジン,6−アミノピリミジン,2−アミノピラジン,2−アミノキナゾリン,4−アミノキナゾリン,2−アミノキノキサリン,8−アミノプリン,2−アミノベンゾイミダゾール,アミノトリアジン,アミノトリアゾールおよびこれらの置換誘導体のうちの少なくとも1種を含む水溶液に浸漬処理することにより、酸化を抑制してもよい。
【0075】
以上のような製造方法で得られた回路基板10は、支持基板21の第1主面21a側に銅を含む回路部材41を、第1主面21aに対向する第2主面21b側に放熱部材42をそれぞれ設けてなり、回路部材41が支持基板21の第1主面21a上に複数個並べて配置されて、本実施形態のろう材からなる接合層31を介して接合されていることにより、接合部における不要なはみ出しが少なく、隣り合う回路部材41a,41b間の短絡のおそれが少ないので、高集積化に対応可能な回路基板10とすることができる。また、支持基板21と回路部材41との間に生じる空隙が少なく高い接合強度を有しているので信頼性の高い回路基板10とすることができる。さらに、回路基板10を構成する回路部材41として、含有量が99.995質量%以上の銅を用いれば、回路部材41上に電子部品を搭載したときに、電子部品から発生した熱を長期間にわたって効率よく放熱することができる。
【0076】
また、上述した特性を有する本実施形態の回路基板10における回路部材41上に、絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT)素子,インテリジェント・パワー・モジュール(IPM)素子,金属酸化膜形電界効果トランジスタ(MOSFET)素子,発光ダイオード(LED)素子,フリーホイーリングダイオード(FWD)素子,ジャイアント・トランジスター(GTR)素子等の半導体素子,昇華型サーマルプリンターヘッド素子,サーマルインクジェットプリンターヘッド素子等の各種電子部品を搭載した電子装置は、短絡のおそれが少ないので高い信頼性を得ることができる。
【0077】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0078】
まず、表1〜表3に示す含有量となるように、各種粉末を所定量秤量して混合した後、メチルセルロースおよびテルピネオールを添加し、順次混練して脱気することによって、ペースト状のろう材を得た。なお、表1〜表3では、元素A,元素Bの水素化合物および元素Cが1種である場合は、それぞれA1,B1およびC1の各欄にそれらの元素記号を、元素A,元素Bの水素化合物および元素Cが2種の場合は、それぞれA1およびA2,B1およびB2,C1およびC2の各欄にそれらの元素記号を記した。
【0079】
次に、窒化珪素を主成分とするセラミックスからなり、長さが60mm,幅が30mm,厚みが0.32mmである支持基板21を準備し、支持基板21を840℃で熱処理することによって
、支持基板21の表面に付着した有機物や残留炭素を除去した。その後、熱処理した支持基板21の第1主面21aおよび第2主面21bに、図2に示す回路部材41a,41bおよび放熱部材42の配置に対応する部分にペースト状のろう材をスクリーン印刷で塗布した後、135℃
で乾燥させることによって、接合層31a,31b,32を形成した。
【0080】
そして、支持基板21の第1主面21aに無酸素銅からなる回路部材41a,41bを、第1主面21aに対向する第2主面21bに無酸素銅からなる放熱部材42をそれぞれ接合層31a,31b,32に接するように配置して、真空雰囲気中において、840℃で加熱することにより、
回路部材41a,41bおよび放熱部材42がそれぞれの接合層31a,31b,32を介して支持基板21に接合された回路基板を得た。
【0081】
なお、支持基板21の第1主面21aに無酸素銅からなる金属箔を接合した後に、回路部材41a,41bが図2に示す形状および配置となるように、この金属箔の表面の一部にレジストを印刷して、135℃でレジストを乾燥させて、塩化第2鉄水溶液等を接合体に吹き付け
ることにより、金属箔の表面にレジストが印刷されていない部分を除去し、さらに水酸化ナトリウム水溶液を用いてレジストを除去することによっても、回路部材41a,41bとすることができる。
【0082】
この回路部材41a,41bは、それぞれ一辺が24mmの正方形状であり、厚みが0.3mm
であり、回路部材41aと回路部材41bとの間隔を2mmとした。また、放熱部材42は、長さが58mmであり、幅が26mmであり、厚みを0.3mmとした。さらに、接合層31a,31
b,32は、回路部材41a,41bおよび放熱部材42に合わせた形状とし、厚みを0.02mmとした。
【0083】
そして、回路部材41a,41bの側面と支持基板21の側面とを垂直に結ぶ線上における、回路部材41aおよび回路部材41bの各側面からはみ出している接合層31aおよび接合層31bの最大長さを、光学顕微鏡により倍率を50倍で測定し、この最大長さをはみ出し長さとした。なお、本実施例において、このはみ出し長さが0.2mmを超えているときには、不
要なはみ出しを生じているものとする。
【0084】
また、超音波探傷法により支持基板21と接合層31a,31bとの間に生じている空隙を平面視した面積Sを測定し、空隙が全くない状態の面積、すなわち回路部材41a,41bの主面の面積Sとし、面積Sに対する面積Sの比率(=S/S×100)を求め、
この値を空隙率とした。ここで、超音波探傷法の測定条件は、探傷周波数を50MHz,ゲインを30dB,スキャンピッチを100μmとした。
【0085】
また、回路部材41aの引きはがし強さをJIS C 6481−1996に準拠して測定することにより、回路部材41aと支持基板21との接合強度を評価した。なお、回路部材41aの幅をエッチングにより24mmから10mmに狭くした後に引きはがし強さを測定した。
【0086】
また、各ろう材を構成する各元素の同定および含有量については、蛍光X線分析法により求めた。これら測定値および計算値を表1〜表3に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
表1〜表3に示す通り、試料No.2,3,5〜7,9〜92は、銀および銅を主成分とし、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物と、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含むろう材からなる接合層31a,31bを介して回路部材41a,41bが支持
基板21と接合されていることから、ろう材の流れ性が良好であるとともに、支持基板21と回路部材41a,41bとの濡れ性が良好であることから、支持基板21と回路部材41a,41bとの間に生じる空隙が少ないので高い接合強度が得られるとともに、0.2mmを超える不
要なはみ出しがないので、短絡のおそれの少ない回路基板とすることができることがわかった。
【0091】
また、元素A,元素Bの水素化合物および元素Cがそれぞれインジウム,水素化チタンおよびモリブデンであり、元素A,元素Bの水素化合物の含有量が同じで、元素Cの含有量が異なる試料No.9〜18を比べると、試料No,10〜17は元素Cのが1質量%以上8質量%以下であることから、接合層31aおよび接合層31bのはみ出しがなく、支持基板21と接合層31との間の空隙も少ないことがわかった。
【0092】
また、元素A,元素Bの水素化合物および元素Cがそれぞれインジウム,水素化チタンおよびモリブデンであり、元素A,元素Cの含有量が同じで、元素Bの水素化合物の含有量が異なる試料No.5〜7,43〜45を比べると、試料No.6,7,43,44は元素Bの水素化合物が1質量%以上8質量%以下であることから、引きはがし強さが30kN/m以上であり、回路部材41aと支持基板21との接合強度が高いことがわかった。
【0093】
また、元素A,元素Bの水素化合物および元素Cがそれぞれインジウム,チタンおよびモリブデンであり、元素Bの水素化合物,元素Cの含有量が同じで、元素Aの含有量が異なる試料No.2,3,7,12〜15,70〜72を比べると、試料No.3,7,12〜15,70,71は、元素Aが2質量%以上22質量%以下であることから、支持基板21と接合層31との間の空隙率がゼロであり、接合強度が高く、はみ出し長さも短いことがわかった。
【0094】
また、元素A,元素Bの水素化合物および元素Cの種類および各含有量が同じである試料No.11〜15を比べると、試料No.12,13,14は、銅の含有量が35質量%以上50質量%以下であることから、空隙がない上、接合強度が十分確保され、はみ出していないこと
がわかった。
【実施例2】
【0095】
まず、銀が51.5質量%,銅が40質量%であり、元素Aとして錫、元素Bの水素化合物として水素化チタン、元素Cとしてモリブデンの各含有量がそれぞれ3質量%,2.5質量%
および3質量%となるように秤量した各種粉末を混合した後、メチルセルロースおよびテルピネオールを添加し、順次混練して脱気することによって、ペースト状のろう材を得た。なお、モリブデンの粉末は、表4に示す平均粒径の粉末を用いた。
【0096】
次に、窒化珪素を主成分とするセラミックスからなり、長さが60mm,幅が30mm,厚みが0.32mmである支持基板21を準備した後、回路部材41a,41bおよび放熱部材42を支持基板21に加熱して接合する温度を840℃から900℃に変更する以外は、実施例1に示した方法と同じ方法により回路基板を得た。
【0097】
そして、実施例1に示した方法と同様の方法ではみ出し長さ,空隙率および引きはがし強さを求め、それぞれ表4に示した。
【0098】
また、接合層31におけるモリブデンの平均結晶粒径は、それぞれ50質量%の過酸化水素水および希硫酸が混合された溶液の温度を40℃とし、この溶液に接合層31を1分間浸漬して、エッチングした後、電子針微小部分析装置(Electron Probe Micro Analysis)を用
いてモリブデンを同定し、JIS H 0501−1986(ISO 2624−1973)に記載されている切断法に準拠して求めた。
【0099】
【表4】

【0100】
表4に示す通り、接合層31における元素Cの平均結晶粒径が3μm以上10μm以下である試料No.94〜97は、接合部における不要なはみ出しが抑制されるとともに、支持基板21と回路部材41との間に生じる空隙が十分抑制されているので、高い接合強度が得られていることがわかった。
【実施例3】
【0101】
まず、銀が51.5質量%,銅が40質量%であり、元素Aとして錫、元素Bの水素化合物として水素化チタン、元素Cとしてモリブデンの各含有量がそれぞれ3質量%,2.5質量%
および3質量%となるように秤量した各種粉末を混合した後、メチルセルロースおよびテルピネオールを添加し、表5に示す雰囲気で順次混練して脱気することによって、ペースト状のろう材を得た。なお、上記雰囲気が真空雰囲気である場合については、その到達真空度を、また、得られたろう材に含まれる酸素の含有量を赤外線吸収法によって測定し、その値をそれぞれ表5に示した。
【0102】
次に、窒化珪素を主成分とするセラミックスからなり、長さが60mm,幅が30mm,厚みが0.32mmである支持基板21を準備した後、実施例1に示した方法と同じ方法により回路基板を得た。
【0103】
そして、実施例1と同様に回路部材41aの引きはがし強さをJIS C 6481−1996に準拠して測定し、その値を表5に示した。
【0104】
【表5】

【0105】
表5に示す通り、酸素の含有量が2質量%以下であるろう材を用いた試料No.100,101は、酸素の含有量が2質量%を超えるろう材を用いた試料No.99よりも引きはがし強さが高く、高い接合強度を得られていることがわかった。
【実施例4】
【0106】
まず、銀が51.5質量%,銅が40質量%であり、元素Aとして錫、元素Bの水素化合物として水素化チタン、元素Cとしてモリブデンの各含有量がそれぞれ3質量%,2.5質量%
および3質量%となるように秤量した各種粉末を混合した後、メチルセルロースおよびテルピネオールを添加し、順次混練して脱気することにより、ペースト状のろう材を得た。
【0107】
次に、窒化珪素を主成分とするセラミックスからなり、長さが60mm,幅が30mm,厚みが0.32mmである支持基板21を準備し、支持基板21を800℃以上900℃以下で熱処理することによって、支持基板21の表面に付着した有機物や残留炭素を除去した。その後、熱処理した支持基板21の第1主面21aおよび第2主面21bに、図2に示す回路部材41a,41bおよび放熱部材42の配置に対応する部分にペースト状のろう材をスクリーン印刷で塗布した後、135℃で乾燥させることによって、接合層31a,31b,32を形成した。
【0108】
そして、支持基板21の第1主面21aに無酸素銅からなる回路部材41a,41bを、第1主面21aに対向する第2主面21bに無酸素銅からなる放熱部材42をそれぞれ接合層31a,31b,32に接するように配置して、窒素雰囲気中において、表6に示す温度で加熱した後、真空雰囲気中において、850℃で加熱することにより、回路部材41a,41bおよび放熱部
材42がそれぞれの接合層31a,31b,32を介して支持基板21に接合された回路基板を得た。
【0109】
そして、接合層31a,31b,32に含まれる炭素の含有量を赤外線吸収法により求めた。また、回路基板のヒートサイクル試験を行ない、3000サイクル以降100サイクル経過する
毎に、光学顕微鏡を用いて500倍の倍率で接合層31a,31b,32に生じるクラックの有無を確認した。なお、1サイクルは、室温から−45℃に降温して15分保持してから、昇温して125℃で15分保持した後、室温まで降温するというサイクルとした。クラックが接合層31
a,31b,32のいずれかに確認されたサイクル数を表6に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
表6に示す通り、接合層31a,31b,32における炭素の含有量がそれぞれ0.05質量%以
下である試料No.103,104は、元素Bであるチタンと化合して、クラックの起点となり
やすい炭化物の含有量が制限されているので、接合層31a,31b,32にクラックが発生し
にくくなっていることがわかった。
【実施例5】
【0112】
窒化アルミニウムおよび窒化珪素を主成分とするセラミックスからなる支持基板21を準備し、無酸素銅およびSUS304からなる回路部材41および放熱部材42を実施例1と同様
の本実施形態のろう材からなる接合層31,32を介して接合した回路基板を作製した。そして、このような材質および構成の回路基板の回路部材41の主面に単位面積当たり40W/mの熱量を与えたものとみなしたシミュレーションを行ない、回路基板の熱抵抗を推定した。その推定値を表7に示す。
【0113】
【表7】

【0114】
表7に示す通り、回路部材41および放熱部材42がSUS304からなる試料No.106,108,110に対し、回路部材41および放熱部材42が無酸素銅からなる試料No.105,107,109は、同じ材質の支持基板21を用いた試料と比較して、シミュレーション結果の熱抵抗値
が小さかった。この結果より、銅は鉄より熱伝導率が高いので、放熱特性を高められることがわかった。
【実施例6】
【0115】
まず、銀が51.5質量%,銅が40質量%であり、元素Aとしてインジウム、元素Bの水素化合物として水素化チタン、元素Cとしてモリブデンの各含有量がそれぞれ3質量%,2.5質量%および3質量%となるように秤量した各種粉末を混合した後、メチルセルロース
およびテルピネオールを添加し、順次混練して脱気することにより、ペースト状のろう材を得た。このろう材を用いて、表8に示す接合の熱処理温度とした以外は実施例1と同様の方法で回路基板を得た。
【0116】
そして、X線回折法を用いて同定することにより、チタンが支持基板21の第1主面近傍にある珪素と化学結合している状態を確認し、珪化チタンの有無を表8に記入した。また、実施例1と同様に回路部材41aの引きはがし強さをJIS C 6481−1996に準拠して測定し、その値を表8に示した。
【0117】
【表8】

【0118】
表8に示す通り、試料No.111,112は、珪化チタンが同定されており、珪化チタンが同定されなかった試料No.113よりも引きはがし強さの値が高くなった。従って、接合
時に840℃以上900℃以下の温度で熱処理することによって、窒化珪素を主成分とする支持基板21の第1主面21a近傍の珪素と元素Bであるチタンとが化学結合し、チタンと珪素と
の結合が高い共有結合性を有するので、接合強度を高められることがわかった。
【0119】
また、このように優れた本実施形態の回路基板の回路部材上に電子部品を搭載したところ、短絡のおそれの少ない信頼性の高い電子装置とすることができた。
【符号の説明】
【0120】
10:回路基板
21:支持基板
31,32:接合層
41:回路部材
42:放熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として銀および銅を含むとともに、インジウム,亜鉛および錫から選択される少なくとも1種の元素Aと、チタン,ジルコニウム,ハフニウムおよびニオブから選択される少なくとも1種の元素Bの水素化合物と、モリブデン,オスミウム,レニウムおよびタングステンから選択される少なくとも1種の元素Cとを含むことを特徴とするろう材。
【請求項2】
前記ろう材を構成する全成分100質量%のうち、前記元素Aの含有量が2質量%以上22質量%以下であり、前記元素Bの含有量が1質量%以上8質量%以下であり、前記元素Cの含有量が1質量%以下8質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のろう材。
【請求項3】
前記ろう材を構成する全成分100質量%のうち、前記銅の含有量が35質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のろう材。
【請求項4】
絶縁性の支持基板の第1主面側に銅を含む回路部材を、前記第1主面に対向する第2主面側に放熱部材をそれぞれ設けてなる回路基板であって、前記回路部材は、前記支持基板の前記第1主面上に複数個並べて配置されて、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のろう材からなるそれぞれの接合層を介して前記支持基板と接合されていることを特徴とする回路基板。
【請求項5】
前記接合層における前記元素Cの平均結晶粒径が3μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の回路基板。
【請求項6】
前記接合層を構成する全成分100質量%のうち、酸素の含有量が2質量%以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のろう材。
【請求項7】
前記接合層を構成する全成分100質量%のうち、炭素の含有量が0.05質量%以下であることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれかに記載の回路基板。
【請求項8】
前記支持基板は、窒化珪素または窒化アルミニウムを主成分とするセラミックスからなることを特徴とする請求項4に記載の回路基板。
【請求項9】
前記元素Bが前記支持基板の前記第1主面近傍の金属元素と化学結合していることを特徴とする請求項8に記載の回路基板。
【請求項10】
請求項4乃至請求項9のいずれかに記載の回路基板における前記回路部材上に電子部品を搭載したことを特徴とする電子装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−115846(P2012−115846A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265353(P2010−265353)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】