説明

アコースティックエミッションセンサおよび動力伝達装置の異常検出装置

【課題】チェーンで動力の伝達を行う動力伝達装置であっても、動力伝達装置の破壊の予知を確実に行うことができるAEセンサおよび動力伝達装置の異常検出装置を提供することにある。
【解決手段】検出できる波の周波数帯域が互いに異なる三つの圧電素子72,73,74を一つのケース70内に配置すると共に、三つの圧電素子72,73,74の夫々の出力端子と、AEセンサ40の出力端子86とを、配線で電気接続して、AEセンサ40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティックエミッションセンサおよび動力伝達装置の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のV型プーリ式無段変速機(CVT)では、駆動プーリと従動プーリとの間に無端伝達部材(金属ベルトやチェーン)が掛け渡されており、この無端伝達部材の、各プーリへの巻き付け径を変化させることによって変速制御が行われる。無端伝達部材として金属ベルトを用いた場合には、これが摩耗すると、滑りを生じて変速制御が不能になることもある。そこで、各プーリの回転数を検出して、そこから変速比を求め、変速比が異常値となった回数が所定値に達すると警報を発する装置が提案されている(例えば、特許文献1。)。
【0003】
また、無端伝達部材として金属Vベルトを使用し、これを構成する金属ブロックに歪みゲージを貼り込んで、チェーンに作用する力を検知しようとする装置も提案されている(例えば、特許文献2。)。
【0004】
一方、無端伝達部材として、多数のリンクをピンで相互に連結してなるチェーンを用いた場合、リンクやピンの損耗による破断は直ちにチェーンの破断となるため、リンク等の破断予知が重要となる。しかしながら、チェーンの場合には、上述した滑りや、これに作用する力を監視していても、チェーン内部の疲労による劣化を的確に検知することができず、上述の方法では破断の予知ができないという問題がある。
【特許文献1】特開昭62−2059号公報
【特許文献2】特許第3126811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、チェーンで動力の伝達を行う動力伝達装置であっても、動力伝達装置の破壊の予知を確実に行うことができるアコースティックエミッションセンサおよび動力伝達装置の異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この発明のアコースティックエミッションセンサは、
一つのケースと、
そのケース内に配置された複数の圧電素子と、
上記ケースに設けられた一つの出力端子と
を備え、
上記一つの出力端子と、上記複数の圧電素子の夫々の出力端子とが、配線で接続されていることを特徴としている。
【0007】
上記「ケースに設けられた」という文言は、ケース内に設けられた場合と、ケースの外面に設けられた場合とを含むものとする。
【0008】
本発明のアコースティックエミッションセンサ(以下、AEセンサという)を、被破壊検出部材または被破壊検出部材に近接する部材に設置する。そして、本発明のAEセンサで、上記被破壊検出部材または上記被破壊検出部材に近接する部材からの波(アコースティックエミッション)を検出することによって、被破壊検出部材の破壊の有無を判定する。例えば、チェーン式V型プーリ無段変速機の動力伝達用チェーンの異常の有無を判定したい場合には、本発明のAEセンサを、動力伝達用チェーンが掛け渡されているプーリに設置する。このようにして、本発明のAEセンサで、動力伝達用チェーンで発生した波を、プーリを介して検出して、動力伝達用チェーンの破壊の有無を判定する。本発明のAEセンサを用いれば、歪みゲージや、上記変速比を利用できない、チェーン式V型プーリ無段変速機の動力伝達用チェーンの破壊の有無の判定であっても、破壊の予知を確実に行うことができる。
【0009】
また、本発明のAEセンサは、上記一つの出力端子と、上記複数の圧電素子の夫々の出力端子とが、配線で接続されている構造を有しているので、このAEセンサは、上記各圧電素子で検出できる波の周波数帯域を足した周波数帯域の波を検出できる。したがって、圧電素子を一つしか含まない従来のAEセンサと比して、AEセンサが検出できる波の周波数帯域を大きくできる。
【0010】
また、各圧電素子は、各圧電素子と検出波が共振する共振周波数帯域の波を、感度良く検出できる。したがって、本発明のAEセンサは、各圧電素子の共振周波数帯域を足した周波数帯域の波を感度良く検出できるので、広範囲な周波数帯域を有する一つの圧電素子のみを有する従来のAEセンサと比較して、感度を格段に向上させることができて、微弱なAE信号でも確実に検出できる。
【0011】
また、本発明のAEセンサを一つ使用する場合と、圧電素子を一つしか含まない従来のAEセンサを複数使用する場合とを比較した場合、本発明のAEセンサを使用した場合の方が、AEセンサのケース等の部品点数を低減できると共に、AEセンサの設定の労力を低減でき、かつ、設置スペースも格段に小さくなる。
【0012】
また、一実施形態のアコースティックエミッションセンサは、上記複数の圧電素子のうちのいずれの2つの圧電素子も、検出できる波の周波数帯域が重ならない。
【0013】
上記実施形態によれば、上記複数の圧電素子のうちのいずれの2つの圧電素子も、検出できる波の周波数帯域が重ならないので、検出できる波の周波数帯域を大きくすることができ、かつ、発する波の周波数帯域が互いに異なる被破壊検出部材の破壊の種類(例えば、亀裂、摩耗、クリープ等)を正確に検出できる。
【0014】
また、本発明の動力伝達装置の異常検出装置は、
動力伝達装置に設置されると共に、動力伝達装置で発生したアコースティックエミッションを検出する本発明のアコースティックエミッションセンサと、
上記アコースティックエミッションセンサからの信号を受けて、上記動力伝達装置の異常の有無を判定する異常判定部と
を備えることを特徴としている。
【0015】
本発明によれば、本発明のAEセンサを有するので、如何なる構造を有する動力伝達装置であっても、破壊の予知を確実かつ正確に行うことができる。
【0016】
また、一実施形態の動力伝達装置の異常検出装置は、上記動力伝達装置が、回転軸と、上記回転軸と同期回転する回転部材と、静止している静止部材とを有し、上記アコースティックエミッションセンサは、上記回転軸と上記回転部材のうちの一方に設置され、上記アコースティックエミッションセンサが設置された上記回転軸と上記回転部材のうちの一方と、上記静止部材との間で、上記アコースティックエミッションセンサからの信号を無線伝送する無線伝送部を備えている。
【0017】
上記実施形態によれば、AEセンサを、回転軸または回転部材のうちの一方に設置して、回転軸または回転部材のうちの一方からのAE信号を検出するようにしているので、回転軸または回転部材のうちの一方からのAE信号を、静止部材に設置されたAEセンサで検出する場合と比較して、回転軸または回転部材の破壊の前兆を確実かつ正確に検出できる。
【0018】
また、一実施形態の動力伝達装置の異常検出装置は、上記動力伝達装置が、入力軸および上記入力軸と略平行に配置された出力軸と、上記入力軸に固定された第1固定部と、上記入力軸上を軸方向に移動可能な第1可動部とを有し、上記第1固定部と上記第1可動部との間にV型溝が形成されている第1V型プーリと、上記出力軸に固定された第2固定部と、上記出力軸上を軸方向に移動可能な第2可動部とを有し、上記第2固定部と上記第2可動部との間にV型溝が形成されている第2V型プーリと、上記第1V型プーリの上記V型溝と上記第2V型プーリの上記V型溝に掛け渡されて上記第1V型プーリと上記第2V型プーリとの間でトルクを伝達すると共に、上記第1V型プーリおよび上記第2V型プーリの半径方向に摺動可能な無端伝達部材と、上記入力軸を回動自在に支持する第1転がり軸受および上記出力軸を回動自在に支持する第2転がり軸受とを備え、上記アコースティックエミッションセンサは、上記第1V型プーリ、上記第2V型プーリ、上記第1転がり軸受、および、上記第2転がり軸受のいずれか一つに設置され、上記異常判定部は、上記第1V型プーリ、上記第2V型プーリ、上記無端伝達部材、上記第1転がり軸受、および、上記第2転がり軸受のうちの少なくとも一つの異常の有無を判定する。
【0019】
尚、上記「入力軸に固定された第1固定部」という文言は、第1固定部が入力軸と一体である場合を含むものとし、上記「出力軸に固定された第2固定部」という文言は、第2固定部が出力軸と一体である場合を含むものとする。
【0020】
上記実施形態によれば、上記第1V型プーリ、上記第2V型プーリ、上記無端伝達部材、上記第1転がり軸受、および、上記第2転がり軸受のうちの少なくとも一つの異常の有無を確実かつ正確に判定できる。
【0021】
また、一実施形態の動力伝達装置の異常検出装置は、上記無端伝達部材が、動力伝達用チェーンである。
【0022】
上述のように、動力伝達用チェーンの破壊の前兆を予知することは、非常に難しいことが知られている。本発明によれば、上記無端伝達部材が、動力伝達用チェーンである場合においても、動力伝達用チェーンの破断の予知を、簡単安価、かつ、確実、かつ、正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のAEセンサによれば、如何なる構造を有する動力伝達装置であっても、破壊の予知を確実かつ正確に行うことができる。
【0024】
また、本発明のAEセンサによれば、上記一つの出力端子と、上記複数の圧電素子の夫々の出力端子とが、配線で接続されている構造を有しているので、上記各圧電素子で検出できる波の周波数帯域を足した周波数帯域の波を検出できて、検出できる波の周波数帯域を大きくできる。
【0025】
また、本発明のAEセンサによれば、それが有する各圧電素子の共振周波数帯域を足した周波数帯域の波を感度良く検出できて、広範囲な周波数帯域を有する一つの圧電素子のみを有する従来のAEセンサと比較して、感度を格段に向上させることができて、微弱なAE信号でも確実に検出できる。
【0026】
また、本発明のAEセンサを一つ使用する場合と、圧電素子を一つしか含まない従来のAEセンサを複数使用する場合とを比較した場合、本発明のAEセンサを使用した場合の方が、AEセンサのケース等の部品点数を低減できると共に、AEセンサの設定の労力を低減でき、かつ、設置スペースを格段に小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の動力伝達装置の異常検出装置の一実施形態であるチェーン式V型プーリ無段変速機の異常検出装置を示す断面図である。
【0029】
この異常検出装置は、チェーン式V型プーリ無段変速機に設置されている。上記チェーン式V型プーリ無段変速機は、動力を伝達する入力軸1と、入力軸1と略平行に配置されると共に、動力が伝達される出力軸2と、第1V型プーリ3と、第2V型プーリ4と、無端伝達部材の一例としての動力伝達用チェーン5と、入力軸1を回動自在に支持する第1転がり軸受の一例としての第1玉軸受7,8と、出力軸2を回転自在に支持する第2転がり軸受の一例としての第2玉軸受9とを備える。
【0030】
上記第1V型プーリ3は、入力軸1に固定された(正確には入力軸1と一体である)第1固定部10と、入力軸1上を軸方向に移動可能な第1可動部11とを有し、第1固定部10と第1可動部11との間にV型溝13を有している。第1固定部10は、車体側の支持部15,16により回転自在に支持されている。一方、第1可動部11は、第1固定部10に支持され、かつ、これに対して軸方向へ移動可能に支持されている。第1可動部11の背面側には、シリンダカバー18との間に油室19が形成されており、この油室19に対する油圧制御により第1可動部11が軸方向に移動するようになっている。
【0031】
上記第2V型プーリ4は、出力軸2に固定された(正確には出力軸2と一体である)第2固定部20と、出力軸2上を軸方向に移動可能な第2可動部21とを有し、第2固定部20と第2可動部21との間にV型溝23を有している。第2固定部20は、車体側の支持部15,16により回転自在に支持されている。第2可動部21は、第2固定部20に支持され、かつ、これに対して軸方向に移動可能に支持されている。第2可動部21の背面側には、シリンダカバー28との間に油室29が形成されており、この油室29に対する油圧制御により第2可動部21が軸方向に移動するようになっている。
【0032】
上記動力伝達用チェーン5は、第1V型プーリ3のV型溝13と第2V型プーリ4のV型溝23に掛け渡されて第1V型プーリ3と第2V型プーリ4との間でトルクを伝達している。上記動力伝達用チェーン5は、第1V型プーリ3および第2V型プーリ4の半径方向に摺動可能になっている。詳しくは、動力伝達用チェーン5は、複数のリングプレート30を、ロードピン31を介して無端状かつ屈曲自在に連結してなっている。上記ロードピン31の両端面は、各プーリ3,4の円錐面に接触し、この接触による摩擦力によって、動力伝達を行っている。上記油室19,29に対する油圧制御により、V型溝の幅を変えて、各V型プーリ3,4に対する動力伝達用チェーン5の巻き付け径を無段階に変化させ、変速比を無段階に変化させるようにしている。
【0033】
上記第1玉軸受7は、その内輪が、入力軸1の外周に外嵌されている一方、その外輪は、車体側の支持部16の内周面に内嵌されている。また、第1玉軸受8は、その内輪が、入力軸1の外周に外嵌されている一方、その外輪は、車体側の支持部15の内周面に内嵌されている。上記第1玉軸受7および8は、入力軸1を回動自在に支持している。一方、上記第2玉軸受9は、その内輪が、出力軸2に外嵌固定されている一方、その外輪は、車体側の支持部16の内周面に内嵌されている。上記第2玉軸受9は、出力軸2を回動自在に支持している。
【0034】
上記第1V型プーリ3の第1固定部10の軸方向のV型溝13側とは反対側の端面には、第1AEセンサ40が埋め込み固定されていると共に、第2V型プーリ4の第2固定部20の軸方向のV型溝23側とは反対側の端面には、第2AEセンサ50が埋め込み固定されている。
【0035】
上記第1AEセンサ40の出力端子は、第1固定部10に固定されている第1送信部42に配線で接続されており、第2AEセンサ50の出力端子は、第2固定部20に固定されている第2送信部52に配線で接続されている。
【0036】
上記第1送信部は、第1AEセンサ40から受けた信号を、電磁誘導によって、無線で車体側の支持部15に固定されている第1受信部43に送信するようになっている。上記第1受信部には、第1増幅器、第1判別器、警報器、車載CPUが、この順に電気接続されている。上記第1送信部と、上記第1受信部とは、第1無線伝送部を構成しており、第1増幅器と、第1判別器とは、第1異常判定部を構成している。
【0037】
また、第2送信部は、第2AEセンサ50から受けた信号を、電磁誘導によって、無線で車体側の支持部16に固定されている第2受信部53に送信するようになっている。上記第2受信部には、第2増幅器、第2判別器、警報器、車載CPUが、この順に電気接続されている。上記第2送信部と、上記第2受信部とは、第2無線伝送部を構成しており、第2増幅器と、第2判別器とは、第2異常判定部を構成している。
【0038】
上記第1無線伝送部と、第2無線伝送部とは、無線伝送部を構成し、第1異常判定部と、第2異常判定部とは、異常判定部を構成している。上記第1AEセンサ40、第2AEセンサ50、無線伝送部、および、異常判定部は、本発明の一実施形態の動力伝達装置の異常検出装置を構成している。
【0039】
図2は、上記動力伝達装置の異常検出装置の構成、警報器、および、車載CPUの配置関係を示すブロック図である。尚、図2において、41は、第1無線伝送部を示し、51は、第2無線伝送部を示している。また、47は、第1異常判定部を示し、57は、第2異常判定部を示している。
【0040】
上述のように、第1AEセンサ40および第1送信部42は、車体側の支持部15,16に対して回動する第1固定部10に固定され、第2AEセンサ50および第2送信部52は、車体側の支持部15,16に対して回動する第2固定部20に固定されている。一方、動力伝達装置の異常検出装置のそれ以外の部分、警報器、および、車載CPUは、車体側の支持部15,16に対して静止している位置に固定されている。
【0041】
上記第1判別器45は、マイクロコンピュータを有している。上記第1判別器45は、第1増幅器44から受けた信号に基づいて、第1V型プーリ3と動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方に破壊の前兆があるか否かを判別するようになっている。また、上記第2判別器55は、マイクロコンピュータを有している。上記第2判別器55は、第2増幅器54から受けた信号に基づいて、第2V型プーリ4と動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方に破壊の前兆があるか否かを判別するようになっている。
【0042】
上記警報器60は、第1判別器45からの信号と、第2判別器55からの信号とを受けるようになっている。上記警報器60は、第1判別器45が、第1V型プーリ3と動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方に破壊の前兆があると判別した場合に警報を発するようになっており、また、第2判別器55が、第2V型プーリ4と動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方に破壊の前兆があると判別した場合に警報を発するようになっている。また、上記車載CPU15は、警報器60の信号を取り込むようになっている。
【0043】
この実施形態では、第1および第2AEセンサ40,50を、被破壊検出部材である第1および第2V型プーリ3,4、および、動力伝達用チェーン5から離れた車体側の支持部15,16、または、車体側の支持部15,16に対して静止している部分に固定するのではなくて、車体側の支持部15,16に対して回動している被破壊検出部材である第1および第2V型プーリ3,4に直接固定しているので、第1および第2V型プーリ3,4、および、動力伝達用チェーン5の破壊の前兆を正確に検出できる。
【0044】
図3は、上記第1無線伝送部41の構造を示す軸方向の模式断面図である。尚、第2無線伝送部51は、第1無線伝送部41と同一の構造を有している。第2無線伝送部51の構造については説明を省略する。図3において、42は、第1送信部であり、43は、第1受信部である。
【0045】
図3に示すように、上記第1送信部42は、中空の環状部材である鉄製の本体部81を有し、本体部81は、軸方向の半断面図において、断面略コ字状の形状をしている。上記本体部81は、その中心軸84が、図1に10で示す第1固定部(図3には図示せず)の中心軸と略一致するように、第1固定部10の軸方向の端面に固定されている。
【0046】
上記第1受信部43は、中空の環状部材であると共に、本体部81と略同一である鉄製の本体部92を有している。上記本体部92は、軸方向の半断面図において、断面略コ字状の形状をしている。上記本体部92は、その中心軸94が、中心軸84と略一致するように、車体側の支持部15の軸方向の端面に固定されている。上記本体部81および本体部92は、夫々の上記コ字形状の部分の開口が図3に矢印Aで示す軸方向に対向するように、軸方向に僅かな隙間dを介して軸方向に対向配置されている。
【0047】
上記本体部81のコ字形状の凹部には、コイル82が収容されている。上記コイル82の中心軸は、本体部81の中心軸84と略一致している。また、上記本体部91のコ字形状の凹部には、コイル92が収容されている。上記コイル92の中心軸は、本体部91の中心軸94と略一致している。
【0048】
第1AEセンサ40が、第1V型プーリ3の破壊の前兆または動力伝達用チェーン5の破壊の前兆を検出して約100マイクロ秒位の幅を有する略パルス状の電流信号を出力すると、第1送信部42のコイル82に電流が流れて、コイル82を流れる電流の変化によって、本体部81の内部に断面コ字状の磁力線(磁場)が発生するようになっている。すると、上記第1受信部43の本体部91の内部に、断面コ字状の磁力線が発生して、本体部91の内部の磁力線の大きさの変化によって、コイル92に電流が流れるようになっている。このように電磁誘導の法則によって、第1送信部42から第1受信部43に信号を伝達するようになっている。尚、第1AEセンサ40と、第1無線送信部41との間に、電子回路部を接続して、この電子回路部で、第1AEセンサ40からの信号に含まれる低周波の機械ノイズをカットしたり、第1AEセンサ40からの信号を、波形成形したりしても良い。
【0049】
図4は、第1AEセンサ40の断面図であり、図5は、第1AEセンサ40を上からみたときの平面図である。以下に、図4および図5を用いて、第1AEセンサ40の詳細な説明を行う。尚、上記第2AEセンサ50は、第1センサ40と同一の構造を有している。第2センサ50については、説明を省略する。
【0050】
図4および図5に示すように、上記第1AEセンサ40は、一つのケース70と、そのケース70内に配置された第1圧電素子72、第2圧電素子73および第3圧電素子74と、ケース70に設けられた一つの出力端子86とを備える。
【0051】
上記第1圧電素子72、第2圧電素子73および第3圧電素子74は、略円筒状のケース70の略円形状の底面77に配置されている。尚、この実施形態では、上記底面77の直径は、3mmであるが、底面の直径が3mm以外の寸法であっても良く、三つの圧電素子72,73,74を収容しているケース70は、本実施形態のように円筒形状でなくて、例えば、立方体形状や直方体形状等、円筒形状以外の形状であっても良い。
【0052】
上記第1圧電素子72は、周波数が1kHz〜100kHzの範囲の波を検出し、この波の領域内に共振特性を有している。上記第1圧電素子72は、第1V型プーリ3または動力伝達用チェーン5の振動に起因する波を検出するようになっている。また、上記第2圧電素子73は、周波数が200kHz〜400kHzの範囲の波を検出し、この波の領域内に共振特性を有している。上記第2圧電素子73は、第1V型プーリ3または動力伝達用チェーン5の亀裂に起因する波を検出するようになっている。また、上記第3圧電素子74は、周波数が500kHz〜700kHzの範囲の波を検出し、この波の範囲内に共振特性を有している。上記第3圧電素子は、第1V型プーリ3または動力伝達用チェーン5の摩耗に起因する波を検出するようになっている。このように、上記三つの圧電素子72,73,74のうちのいずれの2つの圧電素子も、検出できる波の周波数帯域が重ならないようになっている。
【0053】
上記第1圧電素子72の出力端子は、第1AEセンサ40の出力端子86に配線で電気接続され、第2圧電素子73の出力端子は、出力端子86に配線で電気接続され、第3圧電素子74の出力端子は、出力端子86に配線で電気接続されている。このように、第1AEセンサ40の出力端子86と、3つの圧電素子72,73,74の夫々の出力端子とが、配線で接続されている。尚、図4において、78、79および80は、アースのための配線である。
【0054】
上記構成において、圧電素子72,73,74のうちの少なくとも一つが、第1V型プーリ3および動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方から、周期を有する力学的な力を受けて変形して、信号(電流信号)を出力すると、その電流信号が、第1無線伝送部41を介して、車体側(静止側)に伝送されて、第1増幅器44で増幅されて、第1判別器45に入力されるようになっている。上記第1判別器45は、第1増幅器44からの信号を周波数分解して、その周波数分解の結果に基づいて、第1V型プーリ3および動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方が、振動しているか、亀裂をおこしているか、または、摩耗しているかを判断するようになっている。また、上記警報機60は、第1判別器45が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つを、判断すると、警報を発するようになっている。また、上記警報機60は、図示しない表示部を有しており、その表示部には、第1判別器45が判断した破壊の種類、すなわち、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つが表示されるようになっている。これは、例えば、上記表示部が、第1判別器−振動と示されたランプ、第1判別器−亀裂と示されたランプ、および、第1判別器−摩耗と示されたランプを有し、各ランプが点灯することによって、破壊の種類を示すようになっている。
【0055】
また、同様に、上記第2AEセンサ50が有する三つの圧電素子のうちの少なくとも一方が、第2V型プーリ4および動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方から、周期を有する力学的な力を受けて変形して、信号(電流信号)を出力すると、その電流信号が、第2無線伝送部51を介して、車体側(静止側)に伝送されて、第2増幅器54で増幅されて、第2判別器55に入力されるようになっている。上記第2判別器55は、第2増幅器54からの信号を周波数分解して、その周波数分解の結果に基づいて、第2V型プーリ4および動力伝達用チェーン5のうちの少なくとも一方が、振動しているか、亀裂をおこしているか、または、摩耗しているかを判断するようになっている。また、上記警報機60は、第2判別器55が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つを、判断すると、警報を発するようになっている。また、上記警報機60の上記表示部には、第2判別器55が判断した破壊の種類、すなわち、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つが表示されるようになっている。これは、例えば、上記表示部が、第2判別器−振動と示されたランプ、第2判別器−亀裂と示されたランプ、および、第2判別器−摩耗と示されたランプを有し、各ランプが点灯することによって、破壊の種類を示すようになっている。尚、第1判別器45が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つが起こっていることを判定し、第2判別器55が、振動、亀裂および摩耗のいずれも起こっていないと判定した場合、第1V型プーリ3が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つを起こしていると判断でき、また、第1判別器45が、振動、亀裂および摩耗のいずれも起こっていないと判定し、第2判別器55が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つが起こっていることを判定した場合、第2V型プーリ4が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つを起こしていると判断できる。また、第1判別器45および第2判別器55のいずれも、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つが起こっていることを判定した場合、動力伝達用チェーン5が、振動、亀裂および摩耗の少なくとも一つを起こしていると判断できる。
【0056】
上記実施形態のAEセンサ40,50(第1AEセンサ40、第2AEセンサ50)によれば、三つの圧電素子72,73,74と、一つの出力端子86とを有し、一つの出力端子86と、三つの圧電素子72,73,74の夫々の出力端子とが、配線で接続されている構造を有しているので、このAEセンサ40,50は、各圧電素子72,73,74で検出できる波の周波数帯域を足した周波数帯域の波を検出できる。したがって、上記実施形態のAEセンサ40,50は、圧電素子を一つしか含まない従来のAEセンサと比して、検出できる波の周波数帯域を大きくできる。
【0057】
また、各圧電素子72,73,74は、各圧電素子72,73,74と、検出波とが共振する共振周波数帯域の波を、感度良く検出できる。したがって、上記実施形態のAEセンサ40,50は、各圧電素子72,73,74の共振周波数帯域を足した周波数帯域の波を感度良く検出できるので、広範囲な周波数帯域を有する一つの圧電素子のみを有する従来のAEセンサと比較して、感度を格段に向上させることができて、微弱な信号(AE信号)でも確実に検出できる。
【0058】
また、上記実施形態のAEセンサ40,50を一つ使用する場合と、圧電素子を一つしか含まない従来のAEセンサを複数使用する場合とを比較した場合、上記実施形態のAEセンサ40,50を使用した場合の方が、AEセンサ40,50のケース70等の部品点数を低減できると共に、AEセンサ40,50の設定の労力を低減でき、かつ、設置スペースも格段に小さくなる。
【0059】
また、上記実施形態のAEセンサ40,50によれば、三つの圧電素子72,73,74のうちのいずれの2つの圧電素子も、検出できる波の周波数帯域が重ならないので、検出できる波の周波数帯域を大きくすることができ、かつ、被破壊検出部材の破壊の種類(例えば、亀裂、摩耗、振動(クリープ等))を正確に検出できる。
【0060】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置によれば、上記実施形態のAEセンサ40,50を有するので、上記実施形態のように、無端伝達部材として、多数のリングプレート30をロードピン31で相互に連結してなる動力伝達用チェーン5が採用されている場合等、如何なる構造を有する動力伝達装置であっても、破壊の予知を確実かつ正確に行うことができる。
【0061】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置によれば、上記実施形態のAEセンサ40,50を、回転体であるV型プーリ3,4に設置しているので、AEセンサを、静止部材(上記実施形態では、車体側の支持部15,16等)に設定している場合と比較して、V型プーリ3,4と、V型プーリ3,4と協働する動力伝達用チェーン5とのうちの少なくとも一方が発する破壊の前兆を表す信号(AE信号)を、確実かつ正確に検出できる。このことから、無端伝達部材が、破壊の前兆を予知することは、非常に難しい動力伝達用チェーンであっても、動力伝達用チェーンの破断の予知を、簡単安価、かつ、確実、かつ、正確に行うことができる。
【0062】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置によれば、第1V型プーリ3、第2V型プーリ4、および、動力伝達用チェーン5の異常の有無を確実かつ正確に判定できる。
【0063】
尚、上記実施形態のAEセンサ40,50では、三つの圧電素子72,73,74を一つのケース70内に配置すると共に、三つの圧電素子72,73,74の夫々の出力端子を、互いに配線で接続していたが、この発明では、AEセンサが、二つの圧電素子を有し、その二つの圧電素子を、一つのケース内に配置すると共に、二つの圧電素子の夫々の出力端子を、互いに配線で接続しても良い。また、AEセンサが、四つ以上の圧電素子を有し、その四つ以上の圧電素子を、一つのケース内に配置すると共に、四つ以上の圧電素子の夫々の出力端子を、互いに配線で接続しても良い。
【0064】
また、上記実施形態のAEセンサ40,50では、三つの圧電素子72,73,74のうちのいずれの2つの圧電素子も、検出できる波の周波数帯域が重ならないようになっていたが、この発明では、複数の圧電素子のうちのいずれか2つの圧電素子の検出できる波の周波数帯域が一部重なっていても良い。
【0065】
また、上記実施形態では、本発明のAEセンサ40,50を、無段変速機のV型プーリ3,4に固定したが、本発明のAEセンサを、例えば、軸受の回転輪やプーリや発電機のタービンや回転軸等の回転体に固定して、これら回転体の破壊の予知を行うようにしても良い。
【0066】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置では、AEセンサ40,50を、回転体に設置したが、この発明では、AEセンサを、静止体(例えば、上記実施形態では、車体側の支持部15,16等)に設置して、AEセンサからの信号を無線伝送でなくて有線伝送しても良い。
【0067】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置では、回転体(V型プーリ3,4から静止体(車体側の支持部15,16)へ信号の伝送を、電磁誘導の法則を使用して無線で行ったが、この発明では、回転体から静止体への信号の送受信を、アンテナを使用して無線で行っても良い。
【0068】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置は、本発明のAEセンサ40,50を、2つ有していたが、この発明では、本発明のAEセンサを、一つまたは3つ以上有していても良い。
【0069】
また、上記実施形態の動力伝達装置の異常検出装置では、AEセンサ40,50を、V型プーリ3,4に設置して、V型プーリ3,4および動力伝達用チェーン5の破壊の予知を行うようにしたが、この発明では、本発明のAEセンサを、無段変速機の入力軸または出力軸を回動自在に支持している軸受に設置して、軸受の破壊の予知を行うようにしても良い。
【0070】
また、上記実施形態では、異常を検出される動力伝達装置が、無段変速機であったが、異常を検出される動力伝達装置は、例えば、回転軸の一端部に形成された歯車等によって歯車に噛合する部材に動力を伝達する動力伝達装置等であっても良い。
【0071】
また、上記実施形態では、無段変速機の無端伝達部材が、動力伝達用チェーン5であったが、無段変速機の無端伝達部材は、金属ベルトや、ゴム製のベルト等チェーン以外の無端伝達部材であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の動力伝達装置の異常検出装置の一実施形態であるチェーン式V型プーリ無段変速機の異常検出装置を示す断面図である。
【図2】図1に示した動力伝達装置の異常検出装置の構成、警報器、および、車載CPUの接続関係を示すブロック図である。
【図3】図1に示した動力伝達装置の異常検出装置が有する第1無線伝送部の構造を示す軸方向の模式断面図である。
【図4】本発明の一実施形態のAEセンサの断面図である。
【図5】図4に示したAEセンサを上からみたときの平面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 入力軸
2 出力軸
3 第1V型プーリ
4 第2V型プーリ
5 動力伝達チェーン
7,8 第1玉軸受
9 第2玉軸受
13,23 V型溝
40 第1AEセンサ
41 第1無線伝送部
47 第1異常判定部
50 第2AEセンサ
51 第2無線伝送部
57 第2異常判定部
72 第1圧電素子
73 第2圧電素子
74 第3圧電素子
86 第1AEセンサの出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのケースと、
そのケース内に配置された複数の圧電素子と、
上記ケースに設けられた一つの出力端子と
を備え、
上記一つの出力端子と、上記複数の圧電素子の夫々の出力端子とが、配線で接続されていることを特徴とするアコースティックエミッションセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のアコースティックエミッションセンサにおいて、
上記複数の圧電素子のうちのいずれの2つの圧電素子も、検出できる波の周波数帯域が重ならないことを特徴とするアコースティックエミッションセンサ。
【請求項3】
動力伝達装置に設置されると共に、動力伝達装置で発生したアコースティックエミッションを検出する請求項1または2に記載のアコースティックエミッションセンサと、
上記アコースティックエミッションセンサからの信号を受けて、上記動力伝達装置の異常の有無を判定する異常判定部と
を備えることを特徴とする動力伝達装置の異常検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達装置の異常検出装置において、
上記動力伝達装置は、回転軸と、上記回転軸と同期回転する回転部材と、静止している静止部材とを有し、
上記アコースティックエミッションセンサは、上記回転軸と上記回転部材のうちの一方に設置され、
上記アコースティックエミッションセンサが設置された上記回転軸と上記回転部材のうちの一方と、上記静止部材との間で、上記アコースティックエミッションセンサからの信号を無線伝送する無線伝送部を備えることを特徴とする動力伝達装置の異常検出装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の動力伝達装置の異常検出装置において、
上記動力伝達装置は、
入力軸および上記入力軸と略平行に配置された出力軸と、
上記入力軸に固定された第1固定部と、上記入力軸上を軸方向に移動可能な第1可動部とを有し、上記第1固定部と上記第1可動部との間にV型溝が形成されている第1V型プーリと、
上記出力軸に固定された第2固定部と、上記出力軸上を軸方向に移動可能な第2可動部とを有し、上記第2固定部と上記第2可動部との間にV型溝が形成されている第2V型プーリと、
上記第1V型プーリの上記V型溝と上記第2V型プーリの上記V型溝に掛け渡されて上記第1V型プーリと上記第2V型プーリとの間でトルクを伝達すると共に、上記第1V型プーリおよび上記第2V型プーリの半径方向に摺動可能な無端伝達部材と、
上記入力軸を回動自在に支持する第1転がり軸受および上記出力軸を回動自在に支持する第2転がり軸受と
を備え、
上記アコースティックエミッションセンサは、上記第1V型プーリ、上記第2V型プーリ、上記第1転がり軸受、および、上記第2転がり軸受のいずれか一つに設置され、
上記異常判定部は、上記第1V型プーリ、上記第2V型プーリ、上記無端伝達部材、上記第1転がり軸受、および、上記第2転がり軸受のうちの少なくとも一つの異常の有無を判定することを特徴とする動力伝達装置の異常検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の動力伝達装置の異常検出装置において、
上記無端伝達部材は、動力伝達用チェーンであることを特徴とする動力伝達装置の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−212226(P2007−212226A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31014(P2006−31014)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】